説明

循環式マルチカーエレベータ監視制御システム

【課題】循環式マルチカーエレベータを構成する各乗りかごの位置を、明確に表示することのできる循環式マルチカーエレベータ監視制御システムを提供する。
【解決手段】2本の昇降路6a,6bをその上端および下端で連結した循環式の昇降路と、該循環式の昇降路内にそれぞれが相互に連結されて配置された複数の乗りかご1〜5とを備えた少なくとも1つのマルチカーエレベータと、前記マルチカーエレベータを構成する各乗りかごの運行を制御する号機制御装置10〜16と、前記マルチカーエレベータの運行を制御するマルチカーエレベータ制御装置20,21と、前記マルチカーエレベータとの間で運行情報を送受信する運行情報処理部30と、前記送受信した運行情報を履歴として格納するデータ格納部40と、前記運行情報を表示する表示部50と、前記マルチカーエレベータ制御装置に対して運行を指令する信号を送信する運転指令制御部60を備え、前記表示部50は、前記相互に連結された乗りかごの階床位置を表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、循環式マルチカーエレベータ監視制御システムにかかり、特に、エレベータの運行状態を容易に把握することのできる循環式マルチカーエレベータの監視制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エレベータの運行状態を把握するため、あるいはエレベータに対して特定の運転指令を行うため、エレベータ監視システムに関して多くの開発が行われてきた。
【0003】
例えば、特許文献1には、エレベータ監視制御システムにおいて、要求される寿命が極端に異なるエレベータ監視制御設備とビル内の他の設備との連携を図る機能部分と信号伝送路とを分離し、監視制御装置により統合する構成とすることにより、ビル内の他の設備の更新工事期間あるいは故障発生時における機能欠落を部分的に限定し、これにより、管制運転指令あるいは故障監視などの基本機能を喪失することなく、安定に動作させることが示されている。
【0004】
特許文献2には、ループ構造をなす昇降路内に複数の乗りかごを設置する循環式マルチカーエレベータの制御において、昇降路内に設置され各乗りかごの通過情報を検出するセンサ、該センサからの通過情報を処理して各乗りかごの位置、速度、あるいは間隔に関する運行情報を求めて、異常の判定を行い運行を制御する中央監視手段を設け、これにより走行時の安全性を確保することが記載されている
特許文献3には、エレベータの通路内に、通路に沿ってケージ(乗りかご)の有無を検出する検出手段を複数配置し、該複数の検出手段の検出結果に基づいてケージの位置を判断することが示されている。
【特許文献1】特開2003−221173号公報
【特許文献2】特開平8−225268号公報
【特許文献3】特開平4−191274号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来技術は、ビル管理者、ビルテナントあるいは保守員などエレベータ設備の運用管理に携わる者(運用管理者)に対して、循環式マルチカーエレベータの運行状態を明確に提示することを意図するものではない。このため、運行管理者は、提示された情報をもとに、的確な運転指令を発することは困難である、特に異常発生時などの緊急時に各乗りかごの位置を迅速的確に把握して運転指令を発することは困難である。
【0006】
本発明は、これらの問題点に鑑みてなされたもので、循環式マルチカーエレベータを構成する各乗りかごの位置を、明確に表示することのできる循環式マルチカーエレベータ監視制御システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するため、次のような手段を採用した。
【0008】
2本の昇降路をその上端および下端で連結した循環式の昇降路と、該循環式の昇降路内にそれぞれが相互に連結されて配置された複数の乗りかごとを備えた少なくとも1つのマルチカーエレベータと、前記マルチカーエレベータを構成する各乗りかごの運行を制御する号機制御装置と、前記マルチカーエレベータの運行を制御するマルチカーエレベータ制御装置と、前記マルチカーエレベータとの間で運行情報を送受信する運行情報処理部と、前記送受信した運行情報を履歴として格納するデータ格納部と、前記運行情報を表示する表示部と、前記マルチカーエレベータ制御装置に対して運行を指令する信号を送信する運転指令制御装置を備え、前記表示部は、前記相互に連結された乗りかごの階床位置を表示する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、以上の構成を備えるため、循環式マルチカーエレベータを構成する各乗りかごの位置を、明確に表示することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、最良の実施形態を添付図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態にかかる循環式マルチカーエレベータ監視制御システムを説明する図である。
【0011】
循環式マルチカーエレベータは、例えば上昇専用および下降専用の昇降路の上端および下端をそれぞれ連結してリング状の昇降路を構成し、このリング状の昇降路の中に複数の乗りかご(マルチカー)を連結する循環ロープを設けて、複数の乗りかごを独立して運行できるようにする。これにより、釣り合いおもりを不要とすることができる。また、乗客の乗降による停止を減らし、単位面積あたりの輸送力を増大することができる。
【0012】
なお、前記リング状の昇降路の中に、乗りかごを連結する循環ロープを複数設けて、各循環ロープで連結された乗りかごの組を複数個設け、これら乗りかごの組を独立して運行できるようにすることもできる。これにより、乗客の乗降による停止を減らし、単位面積あたりの輸送力を増大することができる。
【0013】
図1に示すように、本実施形態にかかる循環式マルチカーエレベータ(バンクA)は、2本の昇降路6a、6bと、該昇降路6a、6bのそれぞれ上端同士および下端同士を連結する連結路6c、6dを有する循環式の昇降路を備える。また、前記循環式の昇降路内には、複数の乗りかご(A1号機ないしA5号機)がそれぞれが相互にロープなどにより連結されて配置されている。なお、前記ロープは昇降路内に配置したプーリ等を介して駆動され、これにより、前記乗りかごは前記昇降路内を循環式に駆動される。
【0014】
マルチカーエレベータの乗りかご1ないし5(A1号機ないしA5号機)の運行情報(例えば乗りかごの現在位置、積載荷重)は、各々の乗りかごに対応して配置された各号機制御装置10ないし14によって収集される。なお、図では各乗りかごに対して1つの号機制御装置を配置するように記載したが、例えば、同一循環路に含まれる全ての乗りかご(全号機に対して)に対して1つの制御装置を配置することもできる。
【0015】
各号機制御装置10ないし14は、それぞれ収集した各乗りかごの運行情報をマルチカー制御装置(バンクA)20を介して、監視装置の運行情報処理部30に伝送する。
【0016】
なお、前記監視装置70は、マルチカー制御装置20と同様の構成を有する複数のマルチカー制御装置21、22・・・を備え、各マルチカー制御装置21、22は、前記号機制御装置10ないし14と同様な号機制御装置15,16・・・を備えることができる。また、各マルチカー制御装置20,21に集約される号機制御装置の数は、各マルチカー制御装置毎に任意の数とすることができる。
【0017】
監視装置70の運行情報処理部30は、伝送ケーブルあるいは個別配線によってデータ格納部40に接続される。前記運行情報処理部30は、各エレベータからの運行情報を取得し、取得した運行情報に時刻を関連付けてデータ格納部40に運行履歴情報として格納する。
【0018】
また、監視装置70の運行状態表示部50は、データ格納部40に格納した運行履歴情報を必要に応じて読み出し、読み出した運行履歴情報を運行状態表示部50に表示する。運転指令制御部60は、管理者の操作指示にしたがって前記各エレベータに対して、管制運転など各種運転指令を発する。
【0019】
なお、前記データ格納部40は、前記履歴情報および監視装置70からエレベータに対する運転指令を一定期間分保管し、例えば前記運転指令制御部60からの要求に応じて前記運行状態表示部50に履歴として表示する。
【0020】
運行状態表示部には、マルチカー制御装置毎(バンク毎)に、バンクを構成する各号機のかご位置や運行状態を、例えば乗りかごの号機および階床を表すシンボルを用いてグラフィック表示することができる。また、かごの号機を表す記号および階床を表す記号を用いてデジタル表示することができる。
【0021】
図2は、運行状態表示部50に表示するかご位置表示の例を示す図である。図2では、昇降路内にあるかごを容易に判別できるように、昇降路内にある各号機をそれぞれグラフィック表示された前記昇降路上に丸印等のシンボルで表し、前記号機毎にその号機番号を前記シンボル中に表示することによりアナログ形式でグラフィック表示している。このように、シンボルを用いてグラフィック表示することにより、エレベータの昇降行程を視覚的に把握しやすく表示することができる。なお、表示に際して、号機毎に表示色を異ならせることにより識別性を向上することができる。また、複数のバンクを同時に表示する場合などにおいては、各バンクにおける代表号機(例えばA1号機、B1号機)のみを表示することができる。
【0022】
図3は、運行状態表示部50に表示するかご位置表示の他の例を示す図である。図3では、昇降路内にあるかごを容易に判別できるように、号機(A1)を表すデジタル表示(NO1)と、その号機(A1)の階床位置を表すデジタル表示(4F)とを並べて表示している。なお、表示に際して、号機毎に表示色を異ならせることにより識別性を向上することができる。また、複数のバンクを同時に表示する場合などにおいては、各バンクにおける代表号機(例えばA1号機、B1号機)のみを表示することができる。
【0023】
また、図2に示すアナログ形式の表示方法と、図3に示すデジタル形式の表示方法を組み合わせて表示することも可能である。
【0024】
以上説明したように、本実施形態によれば、循環式マルチカーエレベータシステムにおいて、前記エレベータを管理するビル管理者、ビルテナントあるいは保守員などに対して把握すべきエレベータの運行状態を的確に表示することができる。また、各エレベータあるいは各エレベータを構成する乗りかご対して管制運転などの各種運転指令を容易に発することを可能とする。また、循環式マルチカーエレベータ特有の循環する運行工程を考慮してアナログ形式あるいはデジタル形式で表示しているため、運行管理者は、提示された情報をもとに、的確な運転指令を発することが可能となる。特に異常発生時などの緊急時に各乗りかごの位置を迅速的確に把握して運転指令を発することができ、緊急時における作業性が向上する。また、複数台のエレベータを故障の有無に応じて区別して表示することにより異常が発生した号機を容易に判別することが可能となり、トラブル対応に迅速な処置を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施形態にかかる循環式マルチカーエレベータ監視制御システムを説明する図である。
【図2】運行状態表示部に表示するかご位置表示の例を示す図である。
【図3】運行状態表示部に表示するかご位置表示の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1〜5 エレベータ乗りかご
10〜14 号機制御装置
20,21 マルチカー制御装置
30 運行情報処理部
40 データ格納部
50 運行状態表示部
60 運転指令制御部
70 監視装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の昇降路をその上端および下端で連結した循環式の昇降路と、該循環式の昇降路内にそれぞれが相互に連結されて配置された複数の乗りかごとを備えた少なくとも1つのマルチカーエレベータと、
前記マルチカーエレベータを構成する各乗りかごの運行を制御する号機制御装置と、
前記マルチカーエレベータの運行を制御するマルチカーエレベータ制御装置と、
前記マルチカーエレベータとの間で運行情報を送受信する運行情報処理部と、
前記送受信した運行情報を履歴として格納するデータ格納部と、
前記運行情報を表示する表示部と、
前記マルチカーエレベータ制御装置に対して運行を指令する信号を送信する運転指令制御部を備え、
前記表示部は、前記相互に連結された乗りかごの階床位置を表示することを特徴とする循環式マルチカーエレベータ監視制御システム。
【請求項2】
請求項1記載の循環式マルチカーエレベータ監視制御システムにおいて、
前記表示部は、前記相互に連結された乗りかごのそれぞれの現在の階床位置を、相互に連結された乗りかごを表すシンボルを用いてグラフィック表示することを特徴とする循環式マルチカーエレベータ監視制御システム。
【請求項3】
請求項1記載の循環式マルチカーエレベータ監視制御システムにおいて、
前記表示部は、前記相互に連結された乗りかごを、それぞれ異なる表示色のシンボルを用いてグラフィック表示することを特徴とする循環式マルチカーエレベータ監視制御システム。
【請求項4】
請求項1記載の循環式マルチカーエレベータ監視制御システムにおいて、
前記表示部は、前記相互に連結された乗りかごのうち一つのみを所定のシンボルを用いてグラフィック表示することを特徴とする循環式マルチカーエレベータ監視制御システム。
【請求項5】
請求項1記載の循環式マルチカーエレベータ監視制御システムにおいて、
前記表示部は、前記相互に連結された乗りかごのうち一つのみを他の乗りかごとは異なる表示形態で差別化して表示することを特徴とする循環式マルチカーエレベータ監視制御システム。
【請求項6】
請求項1記載の循環式マルチカーエレベータ監視制御システムにおいて、
前記表示部は、前記相互に連結された乗りかごのそれぞれの現在の階床位置を、相互に連結された乗りかごの号機を表す記号および階床位置を表す記号を用いてデジタル表示することを特徴とする循環式マルチカーエレベータ監視制御システム。
【請求項7】
請求項6記載の循環式マルチカーエレベータ監視制御システムにおいて、
前記表示部は、前記相互に連結された乗りかごのそれぞれの現在の階床位置を、相互に連結された乗りかごの号機を表す記号および階床位置を表す記号を用いて一斉にデジタル表示することを特徴とする循環式マルチカーエレベータ監視制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−18912(P2009−18912A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−183303(P2007−183303)
【出願日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】