説明

微多孔性フィルム及び電池用セパレータ

【課題】電池セパレータとして用いた場合に耐久性が大幅に向上する微多孔性フィルムを提供することを課題とする。
【解決手段】熱可塑性樹脂を含む微多孔性フィルムであって、圧縮変形応力が10〜40MPa、圧縮変形回復率が35〜90%、気孔率が30〜60%である、微多孔性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微多孔性フィルム及び電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
微多孔性フィルム、特にポリオレフィン系微多孔性フィルムは、精密濾過膜、電池用セパレータ、コンデンサー用セパレータ、燃料電池用材料等に使用されており、特にリチウムイオン二次電池用セパレータとして好適に使用されている。近年、リチウムイオン二次電池は、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ等の小型電子機器用途として使用されている一方で、ハイブリッド電気自動車等への車載用途への応用も図られている。
車載用途では、特にリチウムイオン二次電池に求められる特性として耐久性を挙げることができる。耐久性とは、例えば長期間に渡って電池を使用した場合、どれだけ初期の電気容量を維持できるかといった電池性能で、一般的には充放電サイクルを繰り返すサイクル特性として評価されることが多い。
リチウムイオン二次電池は、種々の要因によって、充放電サイクルを繰り返すと電気容量が低下するため、いかにこの電気容量低下を防ぐかが電池耐久性を向上させる上での重要な課題である。
電気容量が低下する要因の一つとして、充放電による電極の膨張収縮による電池セパレータの変形や電解液枯れが指摘されているが、従来の電池セパレータは、車載用に求められる、より長期な使用条件では、特に電気容量低下が著しく、問題となっていた。
特許文献1には、電池セパレータの圧縮変形率に着目した、電池のサイクル特性改善の技術例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−212322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された微多孔性フィルムは、一定値以上の圧縮変形率を有するが、圧縮変形率のみでは、電極の膨張及び収縮挙動の両方に対応できずに、より長期な使用条件での耐久性を満足できないという問題がある。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、電池セパレータとして利用した場合に電池の耐久性を大幅に向上させることのできる微多孔性フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の圧縮特性と気孔率を有する微多孔性フィルムを、電池用セパレータとして利用した場合に、電池のサイクル特性が飛躍的に改良されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は以下の通りである。
[1]
熱可塑性樹脂を含む微多孔性フィルムであって、圧縮変形応力が10〜40MPa、圧縮変形回復率が35〜90%、気孔率が30〜60%である、微多孔性フィルム。
[2]
前記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物である、上記[1]記載の微多孔性フィルム。
[3]
前記熱可塑性樹脂組成物は、(a)ポリプロピレン樹脂100質量部に対して、(b)ポリフェニレンエーテル樹脂5〜90質量部を含有する、上記[2]記載の微多孔性フィルム。
[4]
少なくとも2つ以上の異なる微多孔性フィルム層を含む積層構造を有する、上記[1]〜[3]のいずれか記載の微多孔性フィルム。
[5]
上記[1]〜[4]のいずれか記載の微多孔性フィルムを含む電池用セパレータ。
【発明の効果】
【0007】
本発明の微多孔性フィルムは、電池用セパレータとして利用した場合に、電池のサイクル特性を飛躍的に改良することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変更して実施することができる。
本実施の形態の微多孔性フィルムは、熱可塑性樹脂を含む微多孔性フィルムであって、圧縮変形応力が10〜40MPa、圧縮変形回復率が35〜90%、気孔率が30〜60%に調整されている。
【0009】
[熱可塑性樹脂]
本実施の形態の微多孔性フィルムは熱可塑性樹脂を含む。熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、エチレン、プロピレン、1−ブテン、ペンテン、1−ヘキセン、ヘプテン、オクテン、4−メチル−1−ペンテン等のオレフィン系モノマーの単独重合体、共重合体、又はブレンド物であるオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/1−ブテン共重合体、プロピレン/1−ブテン共重合体等)等を用いることができる。
熱可塑性樹脂としては、電池使用時の安定性の観点から、ポリオレフィン樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物であることが好ましい。
【0010】
さらに、本実施の形態における熱可塑性樹脂組成物は、(a)ポリプロピレン樹脂100質量部に対して、(b)ポリフェニレンエーテル樹脂を、好ましくは5〜90質量部含有し、より好ましくは10〜80質量部、さらに好ましくは20〜65質量部含有する熱可塑性樹脂組成物であることが好ましい。ポリフェニレンエーテル樹脂の含有割合を上記範囲に設定することは、得られる微多孔性フィルムの延伸性の観点から好適である。
【0011】
(a)ポリプロピレン樹脂(以下、「PP」と略す場合がある。)としては、ホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマーが挙げられるが、得られる微多孔性フィルムの物性や用途の観点から、ホモポリマーであることが好ましい。
また、ポリプロピレン樹脂を得る際に用いられる重合触媒としても特に制限はなく、例えば、チーグラー・ナッタ系の触媒やメタロセン系の触媒等が挙げられる。また、ポリプロピレン樹脂の立体規則性としても特に制限はなく、アイソタクチック又はシンジオタクチックのポリプロピレン樹脂が用いられる。
ポリプロピレン樹脂は、1種類を単独で又は2種類以上を混合して用いられる。ポリプロピレン樹脂は、いかなる結晶性や融点を有するものであってもよく、得られる微多孔性フィルムの物性や用途に応じて、異なる性質を有する2種のポリプロピレン樹脂を特定の配合比率で配合したものであってもよい。
【0012】
本実施の形態におけるポリプロピレン樹脂のメルトフローレート(以下、「MFR」とも言う。)(ASTM D1238に準拠し、230℃、2.16kgの荷重下で測定。以下同様。)は、好ましくは0.1〜100g/10分、より好ましくは0.1〜80g/10分である。ポリプロピレン樹脂のMFRが0.1g/10分以上であると、微多孔性フィルムの加工が容易となる傾向にあり、100g/10分以下であると、微多孔性フィルムの強度が向上する傾向にある。
【0013】
本実施の形態におけるポリプロピレン樹脂は、上述のポリプロピレン樹脂の他に、特開昭44−15422号公報、特開昭52−30545号公報、特開平6−313078号公報、特開2006−83294号公報に記載されているような公知の変性ポリプロピレン樹脂であってもよい。さらに、本実施の形態におけるポリプロピレン樹脂は、上述のポリプロピレン樹脂と上述の変性ポリプロピレン樹脂との任意の割合の混合物であってもよい。
【0014】
(b)ポリフェニレンエーテル樹脂(以下、「PPE」と略す場合がある。)としては、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するものが挙げられる。
【0015】
【化1】

【0016】
ここで、式(1)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜7の低級アルキル基、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基、及び、少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てているハロ炭化水素オキシ基、からなる群より選ばれる基を示す。
【0017】
PPEの具体例としては、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)が挙げられる。さらに、PPEとして、例えば、2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類(例えば、2,3,6−トリメチルフェノール及び2−メチル−6−ブチルフェノール)との共重合体のようなポリフェニレンエーテル共重合体も挙げられる。これらの中では、ポリオレフィン樹脂との混和性の観点から、特に、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、及び、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体が好ましく、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)がより好ましい。
【0018】
また、PPEの製造方法に関しては、特に限定されるものではなく、公知の製造方法で得られるPPEであれば、本実施の形態で用いることができる。
【0019】
本実施の形態におけるPPEとしては、上述のPPEとスチレン系モノマー及び/又はα,β−不飽和カルボン酸若しくはその誘導体(例えば、エステル化合物、酸無水物化合物)とを、ラジカル発生剤の存在下又は非存在下、溶融状態、溶液状態又はスラリー状態で80〜350℃の温度で反応させることによって得られる公知の変性PPEを用いることも可能である。さらに、上述のPPEと上述の変性PPEとの任意の割合の混合物であってもよい。
【0020】
本実施の形態におけるPPEの還元粘度としては、0.15〜2.50が好ましく、0.30〜2.00がより好ましい。PPEの還元粘度が上記範囲であると、オレフィン樹脂との混和性が良好となる傾向にある。
【0021】
本実施の形態におけるPPEとしては、上述のPPEの他に、PPEに対してポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン及び/又はゴム補強したシンジオタクチックポリスチレン等を加えたものも好適に用いられる。
【0022】
また、熱可塑性樹脂組成物には、ポリプロピレン樹脂と、ポリフェニレンエーテル樹脂に加えて、混和剤をさらに含有することが好ましい。混和剤としては、特に限定されないが、水添ブロック共重合体が好ましい。この水添ブロック共重合体は、ビニル芳香族化合物の構造単位を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックと共役ジエン化合物の構造単位を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックとからなるブロック共重合体を水素添加反応して得られるブロック共重合体である。例えば、スチレン−ブタジエンブロック共重合体の水素添加物等が挙げられる。混和剤の含有量は、熱可塑性樹脂組成物全体に対して、好ましくは1〜20質量%、より好ましくは1〜15質量%である。
上記スチレン−ブタジエンブロック共重合体等の混和剤は公知の方法により製造するこができ、また、結合スチレン量、(数)平均分子量、1,2−ビニル結合量、3,4−ビニル結合量等の物性は適宜調整することができる。
【0023】
また、本実施の形態における原料としての熱可塑性樹脂組成物には、上記各成分の他に、本発明により奏される効果を損なわない範囲で、必要に応じて付加的成分、例えば、充填材(炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、酸化チタン、タルク等の無機粒子)、オレフィン系エラストマー、酸化防止剤、金属不活性化剤、熱安定剤、難燃剤(有機リン酸エステル系化合物、ポリリン酸アンモニウム系化合物、芳香族ハロゲン系難燃剤、シリコーン系難燃剤等)、フッ素系ポリマー、可塑剤(低分子量ポリエチレン、エポキシ化大豆油、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)、三酸化アンチモン等の難燃助剤、耐候(光)性改良剤、スリップ剤、無機又は有機充填材及び強化材(ポリアクリロニトリル繊維、カーボンブラック、炭酸カルシウム、導電性金属繊維、導電性カーボンブラック等)、各種着色剤、離型剤等が添加されてもよい。上記付加的成分の含有量は、熱可塑性樹脂組成物全体に対して、好ましくは0.01〜5質量%、より好ましくは0.01〜1質量%である。
【0024】
[微多孔性フィルムの製造方法]
本実施の形態の微多孔性フィルムの製造方法としては特に限定されないが、例えば、以下の(A)〜(D)の各工程を含む方法により製造することができる。
(A)溶融状態の熱可塑性樹脂組成物を、ドロー比10〜300で引き取りフィルムを得る工程、
(B)前記工程(A)で得られたフィルムを100℃〜160℃で熱処理する工程、
(C)前記工程(B)で得られたフィルムを−20℃以上100℃未満の温度で延伸する冷延伸工程、
(D)前記工程(C)で得られたフィルムを100℃以上150℃未満の温度で延伸する熱延伸工程。
以下、それぞれ(A)シート成形工程、(B)熱処理工程、(C)冷延伸工程、(D)熱延伸工程と言う。
【0025】
(A)シート成形工程において熱可塑性樹脂組成物をシート状(フィルム状)に成形する方法としては、Tダイ押出し成形、インフレーション成形、カレンダー成形、スカイフ法等のシート成形方法を採用し得る。これらの中でも、本実施の形態で得られる微多孔性フィルムに要求される物性や用途の観点から、Tダイ押出し成形が好ましい。
一方、(C)冷延伸工程、(D)熱延伸工程においては、ロール、テンター、オートグラフ等により、1段階又は2段階以上で、一軸方向及び/又は二軸方向に延伸、緩和する方法を採用し得る。これらの中でも、本実施の形態で得られる微多孔性フィルムに要求される物性や用途の観点から、ロールによる2段階以上の一軸延伸が好ましい。
以下に、本実施の形態の微多孔性フィルムの製造方法について一例を挙げて説明するが、本実施の形態はこの例に限定されるものではない。
[(A)シート成形工程]
[工程(A)]
工程(A)は、溶融状態の熱可塑性樹脂組成物を、ドロー比10〜300で引き取りフィルムを得る工程である。
シート成形工程では、上述の(a)ポリプロピレン樹脂と(b)ポリフェニレンエーテル樹脂と、必要に応じて(c)混和剤とを含む熱可塑性樹脂組成物を押出機に供給し、200℃〜350℃、好ましくは260℃〜320℃の温度で溶融混練する。これにより得られた混練物をペレット化することで、ポリプロピレン樹脂中にポリフェニレンエーテル樹脂が分散した熱可塑性樹脂組成物のペレットを得る。次いで、得られたペレットを押出機に供給し、200℃〜350℃、好ましくは260℃〜320℃の温度でT型ダイよりフィルム状に押し出し、得られたフィルムを20〜150℃、好ましくは50℃〜120℃のロールにキャストして冷却固化する。
あるいは、上述の(a)ポリプロピレン樹脂と(b)ポリフェニレンエーテル樹脂と、必要に応じて(c)混和剤とを含む樹脂組成物を押出機に供給し、200℃〜350℃、好ましくは260℃〜320℃の温度で溶融混練する。これにより、ポリプロピレン樹脂中にポリフェニレンエーテル樹脂が分散した混練物を得る。この混練物を一旦ペレット状に成形することなく、直接T型ダイよりフィルム状に押し出し、得られたフィルムをロール上にキャストして冷却固化する。本実施の形態においては、特に、このロール温度を100〜150℃とすることが好ましく、120〜150℃とすることがより好ましい。
【0026】
シート成形工程においては、溶融状態の熱可塑性樹脂組成物をT型ダイより吐出させることによりシート状溶融物とし、このシート状溶融物をドロー比10〜300、好ましくは50〜250、より好ましくは130〜200で引き取ることによりフィルム状成形体に成形する。ドロー比を上記範囲とすることは、後述する延伸工程において、海部/島部界面の剥離による微細孔とマトリックス領域である海部中に形成される微細孔の異なる2種類の微細孔を形成させる観点から好ましい。ドロー比を10以上にすることで、海部中に微細孔が形成され易くなり、またドロー比を300以下にすることで安定したフィルム状成形体の成形が可能となる傾向にある。
【0027】
[(B)熱処理工程]
工程(B)は、前記工程(A)で得られたフィルムを100℃〜160℃で熱処理する工程である。
(B)熱処理工程においては、工程(A)で得られたフィルム状成形体を100℃〜160℃の温度で一定時間保持する。フィルム状成形体に対する熱処理の方法としては特に限定されるものではなく、例えば、フィルムを加熱ロール上に接触させる方法、ロールに巻き取る前に加熱気相中に曝す方法、フィルムを芯体上に巻き取り加熱気相又は加熱液相中に曝す方法、並びにこれらを組み合わせて行う方法が挙げられる。また、熱処理の温度を上記範囲に調整することは、後述する延伸工程において、マトリックス領域である海部中に微細孔が形成し易くなることから好ましい。熱処理温度を100℃以上とすることで、ポリプロピレン樹脂のラメラ結晶が成長し易くなる傾向にあり、また160℃以下とすることで、ポリプロピレン樹脂のラメラ結晶が溶融せず安定に存在できる傾向にある。
【0028】
[(C)冷延伸工程]
工程(C)は、(C)前記工程(B)で得られたフィルムを−20℃以上100℃未満の温度で延伸する冷延伸工程である。
(C)冷延伸工程においては、上記(B)熱処理工程で得られたフィルムに対して、−20℃以上100℃未満、好ましくは0℃以上50℃未満の温度で、押し出し方向(以下、「MD方向」と表記する。)に好ましくは1.1倍以上2.0倍未満、幅方向(以下、「TD方向」と表記する。)に好ましくは1.0倍〜2.0倍、それぞれ第1の延伸を施す。これにより、第1の延伸フィルムが得られる。この第1の延伸における温度及び延伸倍率は、より好ましくは、0℃以上50℃未満の温度でMD方向に1.1倍〜2.0倍であり、一軸延伸が好ましい。−20℃以上で延伸した場合はフィルムが破断するリスクが低減する傾向にあり、また、100℃未満で延伸した場合は、得られる微多孔性フィルムの気孔率が高く、透気度が低くなる傾向にある。
【0029】
[(D)熱延伸工程]
工程(D)は、前記工程(C)で得られたフィルムを100℃以上150℃未満の温度で延伸する熱延伸工程である。
(D)熱延伸工程においては、上記(C)冷延伸工程で得られた第1の延伸フィルムに対して、100℃以上150℃未満、好ましくは110℃以上140℃未満の温度で、MD方向に好ましくは1.1倍以上5.0倍未満、TD方向に好ましくは1.0倍〜5.0倍、それぞれ第2の延伸を施す。100℃以上で延伸した場合はフィルムが破断するリスクが低減する傾向にあり、また、150℃未満で延伸した場合は、得られる微多孔性フィルムの気孔率が高く、透気度が低くなる傾向にある。
【0030】
本実施の形態の微多孔性フィルムに要求される物性や用途の観点からは、上述したような条件で2段階以上延伸することが好ましい。延伸工程を1段階とすると、得られる延伸フィルムが、要求された物性を満たさない場合がある。
【0031】
[(E)熱固定工程]
本実施の形態の微多孔性フィルムの製造方法は、上述した工程(A)〜(D)に加えて、(E)前記工程(D)で得られた延伸フィルムに対して熱処理を施す工程(熱固定工程)を有していてもよい。
この熱固定の方法としては、熱固定後の微多孔性フィルムの長さが、熱固定前の微多孔性フィルムの長さに対して3〜50%減少する程度熱収縮させる方法(以下、この方法を「緩和」とも言う。)、延伸方向の寸法が変化しないように熱固定する方法等が挙げられる。この熱固定によって寸法安定性のより一層良好な、即ち熱収縮率の小さい微多孔性フィルムとすることができる。
熱固定工程は、残留応力によって微多孔性フィルムの延伸方向への収縮を防ぐために、熱処理を施す工程であり、好ましくは130℃以上200℃未満の温度で前記工程(D)の延伸フィルムに対して熱処理を施す。
熱固定の温度は130℃以上200℃未満の温度であり、好ましくは150〜180℃である。熱固定の温度が130℃以上であると熱収縮率が小さくなる傾向にあり、200℃未満であると透気度が低くなる傾向にある。また、微多孔性フィルムの透過性と熱収縮とのバランスをさらに改善する観点から、熱固定工程においては、上記熱延伸工程における最終段階の温度で熱固定を施すことが好ましい。
【0032】
[微多孔性フィルムの物性]
【0033】
本実施の形態における微多孔性フィルムの圧縮変形応力は、電池作成時の適正や、電極への影響の観点から、10〜40MPaであり、15〜38MPaがより好ましい。圧縮変形応力を40MPa以下とすることは、電池の充放電サイクル時の電極の膨張に対する電池セパレータの抗力を抑制し、電極の構造、例えば電極活物質とバインダーの接合構造が崩壊することを回避する傾向となり、電池の容量低下を抑制する傾向となる。また、圧縮変形応力を10MPa以上とすることは、電池を作成する際や充放電サイクル時に、電池セパレータが押しつぶされることを回避する傾向となり、電池セパレータの抵抗が増大することを抑制する傾向となる。この場合も電池の容量低下を抑制する傾向となる。
【0034】
圧縮変形応力を上記範囲に調整する手段としては、上記工程(A)におけるドロー比と冷却過程を制御すること等が挙げられる。具体的には、圧縮変形応力を大きくするには、ドロー比を大きくするか、冷却ロールの温度を高くすること等が挙げられ、小さくするには、ドロー比を小さくするか、冷却ロール温度を低くすること等が挙げられる。
【0035】
本実施の形態における微多孔性フィルムの圧縮変形回復率は、電池セパレータ特性及び電池特性の観点から、35〜90%であり、45〜90%以下がより好ましい。圧縮変形回復率を90%以下とすることは、長期使用時のフィルム特性の変化を抑制し、圧縮変形回復率を35%以上とすることは、充放電時の電極の膨張収縮に追従できずに電池セパレータの電解液枯れが生じてしまうことによって電池容量が低下する現象を抑制する傾向となる。
【0036】
圧縮変形回復率を上記範囲に調整する手段としては、上記工程(E)における熱固定条件を調整すること等が挙げられる。具体的には、圧縮変形回復率を大きくするには、緩和量(緩和率)を大きくすること等が挙げられ、小さくするには緩和量(緩和率)を小さくすること等が挙げられる。
【0037】
本実施の形態における微多孔性フィルムの気孔率は、30〜60%であり、好ましくは35%〜60%、より好ましくは45%〜60%である。微多孔性フィルムの気孔率を30%以上に設定することにより、微多孔性フィルムを電池用途に用いた場合に十分なイオン透過性を確保し得る。一方、気孔率を60%以下に設定することにより、微多孔性フィルムが十分な機械強度を確保し得る。
微多孔性フィルムの気孔率は、熱可塑性樹脂組成物の組成、延伸温度、延伸倍率等を適宜設定することにより、上記範囲内に調整することができる。より具体的には、気孔率を大きくするには、延伸倍率を大きくすること等が挙げられ、気孔率を小さくするには、延伸倍率を小さくすること等が挙げられる。
【0038】
本実施の形態における微多孔性フィルムの平均孔径は、好ましくは0.01〜0.50μmであり、より好ましくは0.05〜0.50μmである。ここで、微多孔性フィルムの平均孔径としては、水銀ポロシメータによる測定で得られるモード径を採用する。微多孔性フィルムの平均孔径を上記範囲とすることで、電池セパレータとしての電気抵抗値とフィルム強度のバランスに優れた微多孔性フィルムが得られる傾向にある。
微多孔性フィルムの平均孔径は、延伸倍率、延伸温度等を制御することにより、上記範囲内に調整することができる。
【0039】
本実施の形態における微多孔性フィルムの膜厚は、5〜40μmが好ましく、10〜30μmがより好ましい。微多孔性フィルムの膜厚が5μm以上であると、十分な機械強度が得られる傾向にあり、膜厚が40μm以下であると、電池セパレータとしての抵抗が減少するため十分な電池性能が得られる傾向にある。
【0040】
本実施形態における微多孔性フィルムの透気度は、好ましくは10〜5000秒/100cc、より好ましくは50〜1000秒/100cc、さらに好ましくは100〜500秒/100ccである。微多孔性フィルムの透気度を5000秒/100cc以下とすることは、微多孔性フィルムが十分なイオン透過性を確保することに寄与し得る。一方、透気度を10秒/100cc以上とすることは、欠陥のない、より均質な微多孔性フィルムを得る観点から好適である。
微多孔性フィルムの透気度は、熱可塑性樹脂組成物の組成、延伸温度、延伸倍率等を適宜設定することにより、上記範囲内に調整することができる。
【0041】
[積層構造]
次に、本実施の形態における、少なくとも2つ以上の異なる微多孔性フィルム層を含む積層構造を有する微多孔性フィルムについて説明する。本実施の形態においては、微多孔性フィルムは少なくとも2つ以上の異なる微多孔性フィルム層からなる積層構造をとることも可能である。積層方法は、シート成形工程での共押出法等で積層する方法、シート成形後にラミネートする方法、又は多孔化後にラミネートする方法等を挙げることができる。層構成は本実施の形態における膜特性を満たすものであれば、自由に選択することができる。一つ一つの層が本実施の形態の膜特性を満たしていなくても、積層構造全体で満たしていればよい。
【0042】
驚くべきことに、本実施形態の微多孔性フィルムを電池セパレータとして用いると、耐久性の指標であるサイクル特性が飛躍的に改善されることがわかった。
その理由は定かではないが、電池セパレータが適度な圧縮変形応力と、圧縮変形回復率を有することによって、充放電サイクルを繰り返すときの電極の膨張収縮時に、バインダーの剥離等、電極の劣化を伴うことなく、電池セパレータが厚さ方向に形状を維持することができ、かつ電解液の保液能力も維持できるため、電気容量を維持できることが要因として考えられる。
本実施の形態の微多孔性フィルムは、膜物性のバランスが良好であり、電池用セパレータ、より具体的にはリチウムイオン二次電池用セパレータとして好適に利用できる。その他、各種分離膜としても用いられる。
【0043】
なお、本明細書中の各物性は、特に明記しない限り、以下の実施例に記載された方法に準じて測定することができる。
【実施例】
【0044】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、用いた原材料及び各種特性の評価方法は下記の通りである。
【0045】
[原材料]
(1)(a)成分のポリプロピレン樹脂
JIS K−7120(温度230℃)で測定したメルトフローレートが0.4g/10分のものを用いた。
(2)(b)成分のポリフェニレンエーテル樹脂
2,6−キシレノールを酸化重合して得た還元粘度0.54のものを用いた。
(3)(c)成分の混和剤
ポリスチレン(i)−水素添加されたポリブタジエン−ポリスチレン(ii)の構造を有し、結合スチレン量43%、数平均分子量95,000、水素添加前のポリブタジエンの1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量の合計量80%、ポリスチレン(i)の数平均分子量30,000、ポリスチレン(ii)の数平均分子量10,000、ポリブタジエン部水素添加率99.9%のスチレン−ブタジエンブロック共重合体の水素添加物を用いた。
【0046】
[評価方法]
(1)圧縮特性
圧縮特性は、ダイナミック超微小硬度計(島津製作所:DUH−211S)を用いて、押し込み深さ設定負荷−除荷試験モードを使用し、以下の条件で測定した。
微多孔性フィルムサンプルを1cm角に切り出し、試料台上に接着剤(水のり)で固定し、直径50μmの平面圧子(ダイヤモンド製)を速度4.4413mN/secで、微多孔性フィルムの表面より3μmの深さまで押し込んだ後、(ホールド時間なし)、速度4.4413mN/secで初期の微多孔性フィルム表面の位置まで引き戻した。この測定時の平面圧子に掛かる荷重を計測した。
(1−1)圧縮変形応力(MPa)
次式によって計算した。
圧縮変形応力(MPa)=押し込み時の最大荷重(N)/平面圧子の断面積(mm
(1−2)圧縮変形回復率(%)
次式によって計算した。
圧縮変形回復率(%)=(引き戻し時の荷重ゼロとなった深さ(μm)/押し込み深さ
(3μm))×100
【0047】
(2)膜厚(μm)
ダイヤルゲージ(尾崎製作所:「PEACOCK No.25」(商標))にて測定した。
【0048】
(3)気孔率(%)
10cm角のサンプルをとり、その体積と質量から次式を用いて計算した。
気孔率(%)=(体積(cm)−質量(g)/ポリマー組成物の密度)/体積(cm)×100
【0049】
(4)透気度(sec/100cc)
JIS P−8117準拠したガーレー式透気度計にて測定した。
【0050】
(5)電池サイクル試験(容量維持率(%))
(5−1)非水電解液の調製
混合溶媒としてエチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)に、溶質としてLiPF6を濃度1.0mol/リットルとなるように溶解させて調製した。
(5−2)正極の作製
正極活物質としてLi(Co1/3Ni1/3Mn1/3)Oを90質量部、導電剤としてアセチレンブラックを4質量部、グラファイトを2質量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)4質量部を、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に分散して正極スラリーを調製した。この正極スラリーを正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の両面にコーターで塗布し、80℃及び120℃でそれぞれ7分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。このとき、正極の塗布量は116g/m、嵩密度は2.58g/cmになるようにした。これを電池幅に合わせて切断して帯状にした。この帯状正極には未塗布部が形成されており、この未塗布部の集電体端部に、アルミニウム製リードを接続した。
(5−3)負極の作製
負極活物質として天然黒鉛を97質量部、増粘剤としてカルボキシルメチルセルロースを1質量部、結着剤としてスチレン・ブタジエン共重合体ラテックス2質量部を、精製水中に分散して負極スラリーを調製した。この負極スラリーを負極集電体となる厚さ18μmの銅箔の両面にコーターで塗布し、80℃及び100℃でそれぞれ5分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。このとき、負極の塗布量は51g/m、嵩密度は1.30g/cmになるようにした。これを電池幅に合わせて切断して帯状にした。この帯状負極には未塗布部が形成されており、この未塗布部の集電体端部に、ニッケル製リードを接続した。
(5−4)電池の作製
微多孔性フィルムを電池セパレータとし、帯状正極及び帯状負極を、帯状負極、電池セパレータ、帯状正極、電池セパレータの順に重ねて渦巻状に複数回捲回することで円筒型積層体を作製した。この円筒型積層体を、両端部それぞれにリング状絶縁体を挟み、ステンレス金属製容器に収納し、負極集電体から導出したニッケル製リードを容器底に接続し、正極集電体から導出したアルミニウム製リードを容器蓋端子部に接続した。さらに、この容器内に前記の非水電解液を注入し、封口した。
上記のようにして作製されるリチウムイオン二次電池は、直径18mm,高さ65mmの大きさ(18650サイズ円筒型電池)で、公称放電容量が1500mAhとなるよう設計した。
(5−5)サイクル試験
上記の電池を、温度50℃の条件の下で、1C(1500mA)の定電流で4.2Vまで充電した後、終止電圧4.2Vとして定電圧で、合計3時間充電を行い、1Cの定電流で終止電圧3.0Vまで放電を行った。この充放電を1サイクルとしてサイクルを繰り返し、初期放電容量に対する300サイクル後の放電容量の割合を容量維持率として表した。
【0051】
[実施例1]
(a)ポリプロピレン樹脂100質量部、(b)ポリフェニレンエーテル樹脂11質量部、(c)混和剤3質量部を、温度260〜320℃、スクリュー回転数300rpmに設定した、第一原料供給口及び第二原料供給口(押出機のほぼ中央に位置する)を有する二軸押出機を用い、押出機の第一原料供給口からポリフェニレンエーテル樹脂を、また第二原料供給口からポリプロピレン樹脂と混和剤を押出機に供給して溶融混練し、熱可塑性樹脂組成物をペレットとして得た。
上記のようにして得た熱可塑性樹脂組成物のペレットを、口径20mm、L/D=30、260℃に設定した単軸押出機にフィーダーを介して投入し、押出機先端に設置したリップ厚5mmのTダイから押出した後、直ちに溶融した樹脂に25℃の冷風をあて110℃に冷却したキャストロールでドロー比200で引き取り、前駆体フィルムを成形した。
この前駆体フィルムを150℃で3時間熱処理し、25℃の温度でMD方向に1.2倍に一軸延伸した後、この延伸フィルムをさらに、130℃の温度でMD方向に2.5倍に一軸延伸して、さらに155℃でMD方向に0.9倍に緩和させて熱固定を行い、微多孔性フィルムを得た。得られた微多孔性フィルムに対して、膜厚、気孔率、透気度、圧縮変形応力、圧縮変形回復率を測定し、その結果を表1に示した。また、得られた微多孔性フィルムを電池セパレータとして用いたときの電池評価結果を表1に示した。
【0052】
[実施例2]
Tダイのリップ厚を3mm、ドロー比を100としたこと以外は実施例1と同様の方法により微多孔性フィルムを得た。得られた微多孔性フィルムに対して、膜厚、気孔率、透気度、圧縮変形応力、圧縮変形回復率を測定し、その結果を表1に示した。また、得られた微多孔性フィルムを電池セパレータとして用いたときの電池評価結果を表1に示した。
【0053】
[実施例3]
Tダイのリップ厚を3mm、ドロー比を150としたこと、キャストロール温度を130℃としたこと以外は実施例1と同様の方法により微多孔性フィルムを得た。得られた微多孔性フィルムに対して、膜厚、気孔率、透気度、圧縮変形応力、圧縮変形回復率を測定し、その結果を表1に示した。また、得られた微多孔性フィルムを電池セパレータとして用いたときの電池評価結果を表1に示した。
【0054】
[実施例4]
(a)ポリプロピレン樹脂100質量部、(b)ポリフェニレンエーテル樹脂11質量部、(c)混和剤3質量部を、温度260〜320℃、スクリュー回転数300rpmに設定した、第一原料供給口及び第二原料供給口(押出機のほぼ中央に位置する)を有する二軸押出機を用い、押出機の第一原料供給口からポリフェニレンエーテル樹脂を、また第二原料供給口からポリプロピレン樹脂と混和剤を押出機に供給して溶融混練し、熱可塑性樹脂組成物をペレットとして得た。
上記のようにして得た熱可塑性樹脂組成物のペレットを、口径20mm、L/D=30、260℃に設定した単軸押出機にフィーダーを介して投入し、押出機先端に設置したリップ厚1.2mmのTダイから押出した後、直ちに溶融した樹脂に25℃の冷風をあて130℃に冷却したキャストロールでドロー比110で引き取り、前駆体フィルムAを成形した。
また、高密度ポリエチレン(密度0.960、メルトインデックス1.0)を口径20mm、L/D=30、180℃に設定した単軸押出機にフィーダーを介して投入し、押出機先端に設置したリップ厚3mmのTダイから押出した後、直ちに溶融した樹脂に25℃の冷風をあて130℃に冷却したキャストロールでドロー比280で引き取り、前駆体フィルムBを成形した。
前駆体フィルムAと前駆体フィルムBとを、A/B/Aとなる構成で、それぞれ巻き出し速度4.0m/分で巻き出し、加熱ロ−ルに導き、そこで熱圧着温度130℃、線圧2.0kg/cmで熱圧着し、その後、同速度で25℃の冷却ロ−ルに導いて巻き取って積層フィルムを得た。この積層フィルムに対して130℃に加熱された熱風循環オ−ブン中で1時間アニールを施した。
次に、アニール後の積層フィルムを25℃の温度でMD方向に1.3倍に一軸延伸して、次いで、延伸積層フィルムを125℃の温度でMD方向に2.5倍に一軸延伸して積層微多孔性フィルムを得た。そして、積層微多孔性フィルムに対して、125℃の温度で0.8倍に緩和させて熱固定を施した。得られた積層微多孔性フィルムについて、膜厚、気孔率、透気度、圧縮変形応力、圧縮変形回復率を測定し、その結果を表1に示した。また、得られた積層微多孔性フィルムを電池セパレータとして用いたときの電池評価結果を表1に示した。
【0055】
[実施例5]
熱固定時の緩和率を0.8倍としたこと以外は実施例1と同様の方法により微多孔性フィルムを得た。得られた微多孔性フィルムに対して、膜厚、気孔率、透気度、圧縮変形応力、圧縮変形回復率を測定し、その結果を表1に示した。また、得られた微多孔性フィルムを電池セパレータとして用いたときの電池評価結果を表1に示した。
【0056】
[実施例6]
熱固定時の緩和率を0.95倍としたこと以外は実施例1と同様の方法により微多孔性フィルムを得た。得られた微多孔性フィルムに対して、膜厚、気孔率、透気度、圧縮変形応力、圧縮変形回復率を測定し、その結果を表1に示した。また、得られた微多孔性フィルムを電池セパレータとして用いたときの電池評価結果を表1に示した。
【0057】
[比較例1]
超高分子量ポリエチレン(粘度平均分子量2,000,000)7質量部、高密度ポリエチレン(粘度平均分子量280,000)28質量部、及び酸化防止剤をこの組成物に対して0.3質量部混合し、二軸押出機にフィーダーを介して投入した。さらに流動パラフィン(37.78℃における動粘度75.9cSt)65質量部をサイドフィードで押し出し機に注入して混練し、押出機先端に設置したTダイから押出した後、直ちに25℃に冷却したキャストロールで冷却固化させ、厚さ1.5mmの前駆体フィルムを成形した。
この前駆体フィルムを120℃にて同時二軸延伸機でMD方向、TD方向にそれぞれ7倍に延伸した後、この延伸フィルムをメチルエチルケトンに浸漬し、流動パラフィンを抽出除去後、乾燥して微多孔性フィルムを得た。さらに、これを125℃で熱固定して微多孔性フィルムを得た。得られた微多孔性フィルムに対して、膜厚、気孔率、透気度、圧縮変形応力、圧縮変形回復率を測定し、その結果を表1に示した。また、得られた微多孔性フィルムを電池セパレータとして用いたときの電池評価結果を表1に示した。
【0058】
[比較例2]
ポリプロピレン(密度0.910、メルトインデックス1.0)を口径20mm、L/D=30、200℃に設定した単軸押出機にフィーダーを介して投入し、押出機先端に設置したリップ厚5mmのTダイから押出した後、直ちに溶融した樹脂に25℃の冷風をあて130℃に冷却したキャストロールでドロー比200で引き取り、前駆体フィルムを成形した。
この前駆体フィルムを150℃で3時間熱処理し、25℃の温度でMD方向に1.2倍に一軸延伸した後、この延伸フィルムをさらに、60℃の温度でMD方向に2.5倍に一軸延伸して、さらに155℃で0.9倍に緩和させて熱固定を行い、微多孔性フィルムを得た。得られた微多孔性フィルムに対して、膜厚、気孔率、透気度、圧縮変形応力、圧縮変形回復率を測定し、その結果を表1に示した。また、得られた微多孔性フィルムを電池セパレータとして用いたときの電池評価結果を表1に示した。
【0059】
[比較例3]
平均分子量2000,000の超高分子量ポリエチレン12質量部、平均分子量280,000の高密度ポリエチレン12質量部、平均分子量150,000の直鎖状低密度ポリエチレン16質量部、フタル酸ジオクチル(DOP)42.4質量部、微粉シリカ17.6質量部を混合造粒した後、T−ダイを装着した二軸押出機にて混練・押出し厚さ90μmの前駆体フィルムを成形した。
この前駆体フィルムからDOPと微粉シリカを塩化メチレン及び苛性ソーダ水溶液で抽出し微多孔性フィルムとした。この微多孔性フィルムを2枚重ねて118℃に加熱のもと、MD方向に5.3倍延伸した後、TD方向に1.8倍延伸し微多孔性フィルムを得た。得られた微多孔性フィルムに対して、膜厚、気孔率、透気度、圧縮変形応力、圧縮変形回復率を測定し、その結果を表1に示した。また、得られた微多孔性フィルムを電池セパレータとして用いたときの電池評価結果を表1に示した。
【0060】
【表1】

【0061】
表1の結果から、本実施形態の微多孔性フィルム(実施例1〜6)は、電池用セパレータとして利用した場合に、電池のサイクル特性を飛躍的に改良することが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の微多孔性フィルムは、電池用セパレータ、より具体的には、リチウムイオン二次電池用セパレータとしての産業上利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含む微多孔性フィルムであって、圧縮変形応力が10〜40MPa、圧縮変形回復率が35〜90%、気孔率が30〜60%である、微多孔性フィルム。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物である、請求項1記載の微多孔性フィルム。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂組成物は、(a)ポリプロピレン樹脂100質量部に対して、(b)ポリフェニレンエーテル樹脂5〜90質量部を含有する、請求項2記載の微多孔性フィルム。
【請求項4】
少なくとも2つ以上の異なる微多孔性フィルム層を含む積層構造を有する、請求項1〜3のいずれか1項記載の微多孔性フィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の微多孔性フィルムを含む電池用セパレータ。

【公開番号】特開2012−38655(P2012−38655A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179545(P2010−179545)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】