説明

微小タグ及びその製造方法と情報認識方法

【課題】 簡素に製造可能でありながらも、小型、高精細、高情報密度、化学的に長期間安定で低環境負荷であり、不可視の微小サイズのタグと、そのタグを製造する方法、並びに、そのタグに埋め込まれた情報を認識する方法を提供すること。
【解決手段】 原子或いは分子の種類及び分布を情報とするコードを有するタグであって、タグ基板の微小領域に、所定の原子或いは分子が配置され得る情報点を備え、所定の情報点には、単数或いは複数種類の原子或いは分子が多重分布可能に配置され、各情報点において配置され得る原子或いは分子の有無または種類を基にして、全情報点における原子或いは分子の分布を情報とするコードを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子や分子の種類及び分布を情報とするコードを有するタグと、その製造方法、並びに、情報認識方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タグに関する諸技術は、情報セキュリティや物資トレーサなど、近年さらに利用分野の拡大と重要性が増している。
タグとしてのQRコードやバーコードに、蛍光材を用いる技術が提案されている。
例えば、特許文献1では、蛍光材として有機分子が多用されている。そのため、読み取り時の紫外線照射に対する経時劣化が避け難い。
【0003】
【特許文献1】特許第2024442号「紫外線発色性インキ」
【0004】
特許文献2〜4も蛍光材を用いた技術に関するものである。
しかし、一般に、蛍光材は長期の安定性が確保されず、また環境に対する安定性が乏しい。
【0005】
【特許文献2】特許第3032873号「スキンマーク用紫外線発色性インキ組成物」
【特許文献3】特開2002−188027「紫外線発色性インキ組成物」
【特許文献4】特表2005−521798「多重応答物理的着色剤を含む不正防止物品」
【0006】
他に、特許文献5〜7のように、偏光素子や半導体などを用いたタグに関連する開示もある。
【0007】
【特許文献5】特表2001−525080「光学素子」
【特許文献6】特表2004−535066「ナノスケールワイヤ及び関連デバイス」
【特許文献7】特表2008−504116「不可視マークの形成方法および検出方法、当該方法に従ってマークされた物品」
【0008】
しかしながら、製造の利便や情報密度などの点で、十分実用に耐える微小のタグは従来技術はなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、簡素に製造可能でありながらも、小型、高精細、高情報密度、化学的に長期間安定で低環境負荷であり、不可視の微小サイズのタグと、そのタグを製造する方法、並びに、そのタグに埋め込まれた情報を認識する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の微小タグは、次の構成を備える。
すなわち、原子或いは分子の種類及び分布を情報とするコードを有するタグであって、タグ基板の微小領域に、所定の原子或いは分子が配置され得る情報点を備え、所定の情報点には、単数或いは複数種類の原子或いは分子が多重分布可能に配置され、各情報点において配置され得る原子或いは分子の有無または種類を基にして、全情報点における原子或いは分子の分布を情報とするコードを具備することを特徴とする。
なお厳密には、同一の原子種であっても、同位体の種類によって別種類として扱うこともでき、同一の分子種であっても、光学活性の差異などによって別種類として扱うこともできる。
【0011】
ここで、情報点に配置され得る原子或いは分子を、少なくとも2種類以上にして、コードを、それぞれの種類の原子或いは分子毎に独立に生成され多重化したコードとして、情報の高密度化に寄与させてもよい。
【0012】
情報点の配備を、タグ基板の微小領域において、線または面または立体的に配列されたマトリックス状にして、高精細化等にに寄与させてもよい。
【0013】
情報点に配置され得る原子或いは分子としては、重原子が観測等の点で有用である。
【0014】
情報点に配置され得る重原子として、希土類原子を用いてもよい。
【0015】
情報点に配置され得る原子或いは分子として、それを含有する液滴生成物として固定されているものを用いてもよい。
【0016】
本発明の微小タグの製造方法は、次の構成を備える。
すなわち、原子或いは分子の種類及び分布を情報とするコードを有するタグの製造方法であって、原子或いは分子が配置され得るタグ基板の微小領域における所定の情報点に、所定の単数或いは複数種類の原子或いは分子を多重分布可能に配置し、各情報点において配置され得る原子或いは分子の有無または種類を基にして、全情報点における原子或いは分子の分布を情報とするコードを生成することを特徴とする。
【0017】
ここで、情報点に配置され得る原子或いは分子を、少なくとも2種類以上用い、コードを、それぞれの種類の原子或いは分子毎に独立に生成され、多重化したコードを生成して、情報の高密度化に寄与させてもよい。
【0018】
情報点に配置され得る単数或いは複数種類の原子或いは分子を、コート溶液にドープし、その液滴を、所定の情報点に滴下して配置し、それを焼結して固定する操作を、各コート溶液に毎に行って、製造の簡素化に寄与させてもよい。
【0019】
情報点に配置され得る原子或いは分子に、複数種類の希土類原子を用い、ある単数種類の希土類原子をドープしたコート溶液と、複数種類の希土類原子をドープしたコート溶液とを併用して、情報の高密度化を容易にしてもよい。
【0020】
本発明の微小タグの情報認識方法は、次の構成を備える。
すなわち、原子或いは分子の種類及び分布を情報とするコードを有するタグに対して、そのコードを読み取って情報を認識する方法であって、原子或いは分子が配置され得るタグ基板の微小領域における所定の情報点に、所定の単数或いは複数種類の原子或いは分子が多重分布可能に配置されたタグに対し、特性X線スペクトル、蛍光X線スペクトル、蛍光スペクトル、光透過スペクトル、光吸収スペクトルのいずれかの観測を行い、各情報点において配置され得る原子或いは分子の有無または種類に関する観測結果を基にして、全情報点における原子或いは分子の分布を情報とするコードを読み取ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、タグ基板の微小領域における所定の情報点に、単数或いは複数種類の原子或いは分子が多重分布可能に配置されるので、各情報点において配置され得る原子或いは分子の有無または種類の分布を情報とするコードが生成される。特に、情報点に配置され得る原子或いは分子を2種類以上にして、コードを多重化できる。
そして、原子或いは分子をコード生成に用いるため、小型、高精細、高情報密度、長期間安定なコードを有する微小サイズのタグが容易に得られる。そのコードは、特性X線などによって、非接触、高分解能、高SN比で読み取り可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、図面を基に本発明の実施形態を説明する。本実施例では、希土類原子を塗布法によって用い、コード生成した実験結果を示した。
なお、コード生成に使用する原子或いは分子としては、他の重原子や金属、半導体、それらの化合物なども適宜利用可能である。
例えば、YやCeをはじめ希土類やアルカリ土類などの蛍光を示す材料、ナノ粒子、量子ドットの量子サイズ効果による蛍光を示す材料、ステンドグラス材料、ガラス中金属、ガラス中ナノ粒子のようなプラズモン効果による発色を伴う材料、放射性物質などが利用できる。
なお、原子種としては全ての原子種が利用可能であり、同一原子種であっても、例えば炭素14と炭素12など、同位体の種類により別種類として扱うこともできる。同様に、同一の化学量論比であっても、分子の右手系、左手系、構造の相違により別種類として扱うこともでき、偏向を情報のコードとすることも可能である。
また、タグ基板に、所定の原子或いは分子を配置させる手段としては、吸着など、従来公知の印刷技術や半導体技術による手段が適宜利用可能であり、利用環境下で原子或いは分子が気体もしくは液体の状態である場合には、封止等により位置を固定して配置させることもできる。
【0023】
本実施例では、希土類原子Erを含むコート溶液を用い、スピンコート法と大気中での550℃熱処理によって、希土類原子Erドープガラスを作製した。この方法は、溶液中に溶けたEr原子を含む酸化シリコンが焼結によりガラス化する現象を用いたものであり、原子ドープ素材を作製する有用な手法である。
【0024】
図1は、原子ドープガラスの発光特性を示すグラフである。
作製した希土類原子Er ドープガラスを、波長532nmのグリーンレーザで励起したときの蛍光スペクトルが示されている。これにより、希土類原子Er ドープガラスが光励起下でC-Band(波長1.55μm帯)赤外発光を生じることがわかり、赤外発光ガラス材料として用いることができることが確認された。
【0025】
図2は、原子ドープガラスをタグ基板上に配置する様態を示す説明図である。
図2(イ)のように、ガラスやシリコンなどのタグ基板(10)の微小領域における所定の情報点(A)の上に、針(20)を位置させる。図示のように、針(20)の先端に、希土類原子Erを含む溶液(30)を付着させておいてもよいし、針の内部から溶液(30)を供給してもよい。
【0026】
図2(ロ)のように、針(20)を基板(10)に押し当てるか、滴下することで、溶液(30)を基板(10)上の情報点(A)に配置する。同様に、他の針(21)を用いて、他の希土類原子Prを含む溶液(31)を、他の情報点(B)に配置する。これらを繰り返して、基板(10)上の所望の情報点に、所定の希土類原子を含む溶液を配置する。
なお、図示の例では、情報点は、等間隔の2x3行列のマトリックス状に設定されている。情報点の配備は、1次元または3次元のマトリックス状でもよい。積層すれば3次元のマトリックス状に配備可能である。
また、複数種類の希土類原子を含む溶液を用いてもよい。
【0027】
図2(ハ)のように、各溶液(30)(31)を乾燥及び焼結させることで希土類原子ドープガラス(30‘)(31’)を、タグ基板(10)の所望の情報点に固定することができる。
【0028】
図3は、希土類原子ドープガラスを有する基板の顕微鏡画像である。
希土類原子Er原子ドープガラス(30‘)、希土類原子Pr原子ドープガラス(31’)、希土類原子Er 及びPrを同量ドープしたガラス(32‘)の3種類を、それぞれ、約5mm角のシリコン基板(10)の情報点(A)(B)(C)等に配置した。
図示の例では、情報点を3x3行列のマトリックス状に配備した。
焼結時の応力によるクラック発生が見られることもあるが、ガラス材料を基板面内の任意の位置に配置できることが確認された。
【0029】
図4は、希土類原子ドープガラスを有する基板の各情報点における特性X線スペクトルを示すグラフである。
およそ800 Channelと500
Channelに、希土類原子Er 及びPrにそれぞれ対応する特性X線のピークが現れている。
情報点(A)では、希土類原子Erのみのピークが観測され、情報点(B)では、希土類原子Prのみのピークが観測され、情報点(C)では、希土類原子ErとPrの両方のピークが観測され、それぞれ、希土類原子Er ドープガラス(30‘)、希土類原子Prドープしたガラス(31‘)、希土類原子Er 及びPrを同量ドープしたガラス(32‘)の配置が確認された。
【0030】
図5は、原子ドープガラスの配置によるコード生成を示す説明図である。図5(イ)(ロ)(ハ)は、それぞれ希土類原子Er及びPrの分布を示す電子顕微鏡画像、希土類原子Erの分布画像、 希土類原子Prの分布画像であり、図5(ニ)(ホ)(ヘ)は、それぞれ情報点付きの希土類原子Er及びPrの分布を示す電子顕微鏡画像、情報点付きの希土類原子Erの分布画像、情報点付きの 希土類原子Prの分布画像であり、図5(ト)(チ)(リ)は、それぞれ希土類原子Er及びPrの分布に基づくコード、希土類原子Erの分布に基づくコード、希土類原子Prの分布に基づくコードである。
希土類原子の有無に対応して符号1または0を付与すると、図5(ト)(チ)(リ)のように、3x3行列のマトリックスコードが得られる。
【0031】
図5(ホ)(チ)のように、希土類原子Erの分布に基づいて生成されたマトリックスコードは、図5(ヘ)(リ)のように、希土類原子Prの分布に基づいて生成されたマトリックスコードとは異なる。このことは、ドープする原子の種類によりコードの多重化が可能であることを示している。
また、情報点(C)のように、希土類原子ErとPrの両方を配置することで、同一情報点に、原子の種類による情報の多重化を行うことができることも確認された。
【0032】
以上のように、希土類酸化物ガラスの光ファイバ通信波長帯での発光特性の観測を行い、またそれら希土類原子ドープガラスをタグ基板の任意の位置に配置し、その原子の種類を基にして、原子の分布をコードとする素子の作製に成功した。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明による微小タグは、光ファイバ通信波長帯で動作する環境低負荷なタグをはじめ、印刷物や、小型工業部品、薬品、アクセサリなどの識別用のマイクロタグや、染料や塗料としての利用もでき、産業上利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】原子ドープガラスの発光特性を示すグラフ
【図2】(イ)(ロ)(ハ)原子ドープガラスをタグ基板上に配置する様態の流れを示す説明図
【図3】希土類原子ドープガラスを有する基板の顕微鏡画像
【図4】希土類原子ドープガラスを有する基板の各情報点における特性X線スペクトルを示すグラフ
【図5】(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(チ)(リ)原子ドープガラスの配置によるコード生成を示す説明図
【符号の説明】
【0035】
10 タグ基板
20、21 針
30、31 希土類原子含有液
30‘、31’、32‘ 希土類原子ドープガラス
A、B、C 情報点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子或いは分子の種類及び分布を情報とするコードを有するタグであって、
タグ基板の微小領域に、所定の原子或いは分子が配置され得る情報点を備え、
所定の情報点には、単数或いは複数種類の原子或いは分子が多重分布可能に配置され、
各情報点において配置され得る原子或いは分子の有無または種類を基にして、全情報点における原子或いは分子の分布を情報とするコードを具備する
ことを特徴とする微小タグ。
【請求項2】
情報点に配置され得る原子或いは分子が、少なくとも2種類以上であり、
コードが、それぞれの種類の原子或いは分子毎に独立に生成され、多重化したコードを具備する
請求項1に記載の微小タグ。
【請求項3】
情報点の配備が、タグ基板の微小領域において、線または面または立体的に配列されたマトリックス状である
請求項1または2に記載の微小タグ。
【請求項4】
情報点に配置され得る原子或いは分子が、重原子である
請求項1ないし3に記載の微小タグ。
【請求項5】
情報点に配置され得る重原子が、希土類原子である
請求項4に記載の微小タグ。
【請求項6】
情報点に配置され得る原子或いは分子が、それを含有する液滴生成物として固定されている
請求項1ないし5に記載の微小タグ。
【請求項7】
原子或いは分子の種類及び分布を情報とするコードを有するタグの製造方法であって、
原子或いは分子が配置され得るタグ基板の微小領域における所定の情報点に、所定の単数或いは複数種類の原子或いは分子を多重分布可能に配置し、
各情報点において配置され得る原子或いは分子の有無または種類を基にして、全情報点における原子或いは分子の分布を情報とするコードを生成する
ことを特徴とする微小タグの製造方法。
【請求項8】
情報点に配置され得る原子或いは分子を、少なくとも2種類以上用い、
コードを、それぞれの種類の原子或いは分子毎に独立に生成され、多重化したコードを生成する
請求項7に記載の微小タグの製造方法。
【請求項9】
情報点に配置され得る単数或いは複数種類の原子或いは分子を、コート溶液にドープし、
その液滴を、所定の情報点に滴下して配置し、それを焼結して固定する操作を、
各コート溶液に毎に行う
請求項7または8に記載の微小タグの製造方法。
【請求項10】
情報点に配置され得る原子或いは分子に、複数種類の希土類原子を用い、
ある単数種類の希土類原子をドープしたコート溶液と、複数種類の希土類原子をドープしたコート溶液とを併用する
請求項9に記載の微小タグの製造方法。
【請求項11】
原子或いは分子の種類及び分布を情報とするコードを有するタグに対して、そのコードを読み取って情報を認識する方法であって、
原子或いは分子が配置され得るタグ基板の微小領域における所定の情報点に、所定の単数或いは複数種類の原子或いは分子が多重分布可能に配置されたタグに対し、
特性X線スペクトル、蛍光X線スペクトル、蛍光スペクトル、光透過スペクトル、光吸収スペクトルのいずれかの観測を行い、
各情報点において配置され得る原子或いは分子の有無または種類に関する観測結果を基にして、全情報点における原子或いは分子の分布を情報とするコードを読み取る
ことを特徴とする微小タグの情報認識方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−97571(P2010−97571A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270338(P2008−270338)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.QRコード
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】