説明

微小熱分析用プローブおよび微小熱分析装置ならびに微小熱分析方法

【課題】 ナノグラムオーダーの微量な試料を高速かつ高分解能で熱分析できる微小熱分析用プローブおよび微小熱分析装置ならびに微小熱分析方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 基板と、前記基板上に微細加工法によって形成された熱分析部を備える微小熱分析用プローブであって、前記熱分析部は、前記基板上に形成された試料加熱部と、前記試料加熱部に近接して形成された薄膜状発熱体からなる主加熱ヒータ部と、前記試料加熱部と主加熱ヒータ部との間に介設された薄膜状熱電対からなる温度測定部と、を含むことを特徴とする微小熱分析用プローブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小熱分析用プローブおよび微小熱分析装置ならびに微小熱分析方法に関し、特に、μg以下の微量試料を高速で熱分析する微小熱分析用プローブおよび微小熱分析装置ならびに微小熱分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノテクノロジーやバイオテクノロジーの進展、また、半導体素子の微細化、新規物質の開発に伴って、微量物質の同定や性質を解明するため、微小または微量の物質の熱特性を迅速に測定することが求められるようになってきた。例えば、有機超伝導体や高温超電伝導体では10μgの単結晶試料でさえ入手が困難であるため、得られた微量の試料のみだけで熱分析せざるを得ない。また、同位体効果を利用した新材料の研究では、同位体試料が非常に高価であるため、微量の試料の熱分析が必要となる。さらに、タンパク質結晶などの大量合成が難しい物質では、微量に得られた試料を熱分析せざるを得ない。また、微量の試料を高速かつ高分解能で熱分析できれば、従来捉えられなかった新たな知見を得ることも期待される。例えば、ナノグラム程度の微量の試料について高速かつ高分解能で熱分析すれば、ミクロ・ナノスケールで秒単位、さらにはミリ秒で生じる現象を捉えることが可能となり、核生成や相転移現象等の解析に有効である。また、従来、マクロな挙動としてのみ測定されていた熱挙動においても、微量の試料を高速かつ高分解能で熱分析できれば、新しい知見が得られる可能性がある。例えば、低融点合金の熱分析では、連続した熱分析の繰返しにおいて、発生温度が確定的に生じる発熱ピークと確率的に生じる発熱ピークが観察されており、カイネティクス研究に有効なことが知られている。
【0003】
一方、従来の熱分析装置は、微量な試料を高速かつ高分解能で熱分析する場合に適用できない。例えば、示差熱分析(differential thermal analysis, DTA)装置は,試料と基準物質を同一の熱的条件で加熱または冷却し,両者の間に生ずる温度差を温度に対して記録し、試料の比熱や相転移熱を調べる装置であるが、従来の装置では,1mg程度の試料量が必要であり、熱量の検出限界(分解能)が0.2mJ程度,時間分解能(時定数)は2秒程度であり、微量な試料の熱分析、また、高速な現象の熱分析が実施できない問題があった。
【0004】
そこで、1mJのエネルギー分解能で5〜20mgの酸化物試料の溶解熱を測定できるカルベ型熱量計(フランスSetaram社製HT1000型)、50plの水の融解,蒸発の様子を100℃/secの加熱速度で検出するマイクロエアブリッジ構造の熱分析デバイス(非特許文献1)、原子間力顕微鏡(AFM)用のカンチレバーのバイメタル効果を利用したマイクロメカニカルカロリメトリ(非特許文献2)、その他各種の熱分析装置が開発または提案されている(非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5等参照)。
【0005】
しかし、これらの開発または提案されている装置は、未だ不充分なものであり、ナノグラムオーダーの微量の試料の熱分析は困難であった。
【非特許文献1】「マイクロエアブリッジヒータを用いた超小型熱分析デバイスとその新しい加熱速度曲線の導出法」,早坂淳一,澤井千香子,木村光輝,電気学会論文集E,119巻3号,pp.119-124,1999年
【非特許文献2】「ナノカロリメトリ」,中川善嗣,Netsu Sokutei,27-1,pp.30-38,2000年
【非特許文献3】K.. Kaji, K.. Tochigi, Y. Misawa, and T. Suzuki, J. Chem. Thermodyn. 25, 699 (1993)
【非特許文献4】清林,崎山,山本,熱測定,24(2)69(1997)
【非特許文献5】F. Fominaya, T. Fournier, P. Gandit, and J.Chaussy, Rev. Sci. Instrum. 68, 4191(1997)
【非特許文献6】S. L. Lai, G. Ramanath, L. H. Allen, P. Ingante, Appl. Phys. Lett., 70, (1997) 43
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、ナノグラムオーダーの微量な試料を高速かつ高分解能で熱分析できる微小熱分析用プローブおよび微小熱分析装置ならびに微小熱分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、基板と、前記基板上に微細加工法によって形成された熱分析部を備える微小熱分析用プローブであって、前記熱分析部は、前記基板上に形成された試料加熱部と、前記試料加熱部に近接して形成された薄膜状発熱体からなる主加熱ヒータ部と、前記試料加熱部と加熱部との間に介設された薄膜状熱電対からなる温度測定部と、を含むことを特徴とする微小熱分析用プローブを提供する。
【0008】
この微小熱分析用プローブでは、基板上に、試料加熱部と、前記試料加熱部に近接して形成された薄膜状熱電対からなる温度測定部と,前記試料加熱部と温度測定部を加熱する薄膜状発熱体からなる主加熱ヒータ部とを微細加工法によって形成した熱分析部を備えるため、試料加熱部に載置された微量の試料を高速かつ高分解能で熱分析できる。
【0009】
また、本発明の微小熱分析用プローブは、前記熱分析部が、前記基板に穿設された測定用空間内に突設されたカンチレバー部に設けられ、前記カンチレバー部の先端から根元に向かって前記試料加熱部、前記温度測定部および前記主加熱ヒータ部の順に配設されて形成されていることが好ましい。
【0010】
この微小熱分析用プローブでは、前記熱分析部が、前記基板に穿設された測定用空間内に突設されたカンチレバー部に設けられ、前記カンチレバー部の先端から根元に向かって前記試料加熱部、前記温度測定部および前記主加熱ヒータ部の順に配設されて形成されていることによって、試料加熱部に載置された試料の加熱および温度変化を高速かつ高分解能で測定することができる。
【0011】
さらに、本発明の微小熱分析用プローブは、前記測定用空間内に、前記熱分析部と所定距離を挟んで対向してカンチレバー状に突設された参照部を備え、前記参照部は、前記熱測定部の前記試料加熱部、前記温度測定部および前記主加熱ヒータ部と対称に、先端から根元に向かって参照側試料加熱部、薄膜状熱電対からなる温度測定部と、薄膜状発熱体からなる主加熱ヒータ部と、を備えることが好ましい。
【0012】
この微小熱分析用プローブでは、前記測定用空間内に、熱分析部と、前記熱分析部と対称に構成される参照部と、を備えることによって、試料加熱部における試料の温度変化等に対応して、参照部の温度変化等を測定し、両者を対比することによって、試料の熱特性を高速かつ高分解能で分析することができる。
【0013】
また、前記微小熱分析用プローブにおいて、前記主加熱ヒータ部と、前記温度測定部との間に、サーモパイルからなる熱流計測部を配設することが好ましい。
【0014】
この微小熱分析用プローブでは、前記主加熱ヒータ部と、前記温度測定部との間に、熱流計測部を配設することによって、試料の熱容量や温度変化に伴う吸発熱を定量的に計測することができる。
【0015】
また、前記微小熱分析用プローブにおいて、前記主加熱ヒータ部と、前記温度測定部との間に、副加熱ヒータ部とサーモパイルからなる熱流計測部を配設することが好ましい。
【0016】
この微小熱分析用プローブでは、前記主加熱ヒータ部と、前記温度測定部との間に、副加熱ヒータ部と熱流計測部を配設し、熱流に比例した発熱を副加熱ヒータで生じさせることによって,試料の熱容量や温度変化に伴う吸発熱を高精度で定量的に計測することができる。
【0017】
さらにまた、本発明は、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の微量熱分析用プローブを備える微小熱分析装置。
【0018】
この微小熱分析装置では、前記の微小熱分析用プローブを備えるため、高速かつ高分解能で、微量の試料の熱特性を測定できる。
【0019】
さらに、本発明は、前記の微量熱分析用プローブを備える微小熱分析装置を用いて微量試料の熱分析を行う微小熱分析方法を提供する。
【0020】
この微小熱分析方法では、熱容量、相転移温度、潜熱等の吸熱、発熱現象等の各種熱特性を調べる時間差示差熱分析、示差熱分析(DTA)、時間差示差走査熱量測定,示差走査熱量測定(DSC),熱重量測定(TG)等の熱分析を、高速かつ高分解能で行なうことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の微小熱分析用プローブは、熱分析の能力が格段に向上し、最大温度変化速度は10000K/sec以上、熱量の計測分解能は1μJ以下に、分析可能な質量は1μg以下となる。そのため、高速かつ高分解能で熱分析を行うことが可能となる。
【0022】
また、前記微小熱分析用プローブを備える本発明の微小熱分析装置は、前記微小熱分析用プローブを備えるため、非常に安定した信号が得られ、高い繰返し再現性を持つ。さらに、微量の試料を高速かつ高分解能で熱分析することができるため、平衡論的な特性に加えて速度論的な特性をも分析できる。そのため、熱分析の測定可能範囲が、従来の装置に比べて格段に広くなる。
【0023】
本発明の熱分析方法は、高い繰返し再現性で、微量の試料を高速かつ高分解能で熱分析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して本発明の微小熱分析用プローブおよび微小熱分析装置ならびに微小熱分析方法について詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る微小熱分析用プローブの概略構成を示す図、図2(a)は、その微小熱分析用プローブの平面図、図2(b)はその微小熱分析用プローブの正面断面図である。
図1に示す微小熱分析用プローブ1は、基板2と、基板2に穿設された測定用空間3の内部に突設されたカンチレバー状のカンチレバー部4とを備え、カンチレバー部4には、前記カンチレバー部4の先端から根元に向かって、試料加熱部5、温度測定部6および主加熱ヒータ部7の順に配設されている。
【0026】
基板2は、熱伝導率の低い材料で形成され、例えば、SiO2、SiNX、ガラス,樹脂等で形成される。これらの中でも、SiO2は、熱伝導率が低いため、基板を通しての熱移動量が小さく、熱分析の精度が高くなり、また、微細加工法によって測定用空間3、試料加熱部5、温度測定部6および主加熱ヒータ部7を容易に形成できるため、好ましい。
【0027】
試料加熱部5は、カンチレバー部4の突端に設けられ、試料を載置して、主加熱ヒータ部7から伝達される熱によって、試料を加熱するものである。この試料加熱部5の形態は、例えば、載置される試料の形状、大きさ等に応じて、幅200μm×長さ20μmの長方形、長径100μm×短径20μmの楕円形等の各種の形態に形成される。この試料加熱部5は、主加熱ヒータ部7から伝達される熱を試料内で速やかに行き渡らせるため、熱伝導性の高い材料で形成することが好ましく、例えば、銅、金、白金、ニッケル等の金属薄膜、シリコン、ダイヤモンド等の薄膜などで形成することが好ましい。また、試料加熱部5は、基板2自体を利用してもよい。
【0028】
カンチレバー部の幅は、試料の大きさ程度にしておくことが好ましい。カンチレバー部の熱抵抗を高め、熱容量を小さくできるため、高速、高感度な熱分析ができるため.
【0029】
温度測定部6は、カンチレバー部4の根元から先端の試料加熱部5に近接した内側を通り、カンチレバー部4の根元に戻る略コ字状のパターンを有する薄膜で形成されている。この温度測定部6は、試料加熱部5に載置された試料の熱挙動に応じて、試料の温度変化を測定するものであり、例えば、ニッケル・クロム、銅・コンスタンタン、アルメル・クロメル等の熱電対、あるいは白金測温抵抗体やサーミスタ等で構成することができる。図1に示す温度測定部6は、カンチレバー部4の根元(図1および図2(a))から先端に向けて略L字状に形成されたニッケルからなる薄膜パターン6bと、カンチレバー部4の根元(図1および図2(a))から先端に向けて略L字状に形成されたクロムからなる薄膜パターン6cとが、カンチレバー部4の軸線上の試料加熱部5に近接した位置で結合して、熱電対を形成している。
【0030】
主加熱ヒータ部7は、カンチレバー部4の根元から先端の試料加熱部5に向けて、前記温度測定部6の内側を通って、再びカンチレバー部4の根元に戻る略コ字状の回路パターンを有する薄膜で形成されている。この主加熱ヒータ部7は、試料加熱部5に載置される試料を加熱するために、電源(図示せず)から供給される電流によって発熱するものであり、例えば、クロム,ニッケル,金,白金,シリコン等の電気発熱体で形成される。
【0031】
また、試料加熱部5、温度測定部6および主加熱ヒータ部7、さらに測定用空間3、カンチレバー部4の形状は、前記第1の実施形態に示す形態に限定されず、試料の形状、大きさ,測定する熱特性、試料と試料加熱部5の濡れ性等に応じて、適宜選択できる。特に,1次元的な温度分布が得られる矩形状の薄板カンチレバー状のカンチレバー部4は、先端の試料加熱部5から根元部分までの熱抵抗を大きくでき,内部の温度差の計測・解析が容易となることから、望ましい。
【0032】
第1の実施形態に係る微小熱分析用プローブ1において、測定用空間3の穿設、カンチレバー部4の形成、試料加熱部5、温度測定部6および主加熱ヒータ部7の形成は、公知の半導体微細加工技術、例えば、フォトリソグラフィ法と、蒸着法、リフトオフ法、ウエットエッチング等によって行うことができる。
【0033】
次に、図3に本発明の第2の実施形態に係る微小熱分析用プローブ31および微小熱分析装置の構成を示す。
この微小熱分析用プローブ31は、基板2に穿設された測定用空間3内に、測定用空間の一側端から突設された試料側カンチレバー部4aと、他側端から参照側カンチレバー部4bとが、所定の間隙Aを挟んで対向して構成されているものである。
【0034】
試料側カンチレバー部4aには、その先端から根元に向かって、試料加熱部5、試料側温度測定部6aおよび試料側主加熱ヒータ部7がこの順に配設され、一方、参照側カンチレバー部4bには、その先端から根元に向かって、参照側試料加熱部5aと参照側温度測定部6aおよび参照側主加熱ヒータ部7aがこの順に配設されて、この試料側カンチレバー部4aと参照側カンチレバー部4bとが熱分析部の主要部分を構成する。試料側カンチレバー部4aに設けられる試料加熱部5、試料側温度測定部6および試料側主加熱ヒータ部7は、前記第1実施形態に係る微小熱分析用プローブのカンチレバー部4に設けられた温度測定部6および主加熱ヒータ部7とそれぞれ同様の構成を有するため、その詳細な説明は省略する。そして、参照側カンチレバー部4bにおける参照側試料加熱部5aと参照側温度測定部6aおよび参照側主加熱ヒータ部7aは、前記試料側カンチレバー部4aに設けられた試料加熱部5、温度測定部6および主加熱ヒータ部7と同一の形態を有するものである。これによって、試料側カンチレバー部4aと参照側カンチレバー部4bとは、左右対称の構成を有する。
【0035】
この微小熱分析用プローブ31を備える微小熱分析装置は、図3に示すとおり、微小熱分析用プローブ31の試料側主加熱ヒータ部7aと、参照側主加熱ヒータ部7bとが、それぞれ温度制御部8に接続され、また、試料側温度測定部6aと、参照側温度測定部6bとは、それぞれ測定・記録部9に接続されている。測定・記録部9は、試料側温度測定部6aで測定された試料の温度Tsと、参照側温度測定部6bで測定された参照温度Trとの差Ts−Trをそれぞれ測定・記録する。
【0036】
そして、温度制御部8は、予め設定された昇温・降温スケジュールによって、試料側主加熱ヒータ部7aおよび参照側主加熱ヒータ部7aによる加熱温度、昇温速度等をコントロールするものである。
【0037】
(定量DTA)
次に、図4は、本発明の第3実施形態に係る微小熱分析用プローブ41および微小熱分析装置の構成を示す概略図である。
第3実施形態に係る微小熱分析用プローブ41は、基板2に穿設された測定用空間3内に、測定用空間3の一側端から突設された試料側カンチレバー部44aと、他側端から参照側カンチレバー部44bとが、所定の間隙Aを挟んで対向して構成されているものである。ここで、時間差熱分析法では試料側プローブ41のみを用いて、試料の搭載前と搭載後の2回の計測を行い、示差熱分析では、試料側および参照側のプローブを用いた同時作動計測を行う。
【0038】
試料側カンチレバー部4aには、その先端から根元に向かって、試料加熱部5、試料側温度測定部6、試料側副加熱ヒータ部10、試料側熱流計測部11および試料側主加熱ヒータ部7の順に配設され、一方、参照側カンチレバー部4bには、その先端から根元に向かって、参照側試料加熱部5a、参照側温度測定部6a、参照側副加熱ヒータ部10a、参照側熱流計測部11aおよび参照側主加熱ヒータ部7aの順に配設されて、この試料側カンチレバー部4aと参照側カンチレバー部4bとが熱分析部の主要部分を構成する。
【0039】
試料側カンチレバー部4aに設けられる試料加熱部5、試料側温度測定部6および試料側主加熱ヒータ部7は、前記第1実施形態に係る微小熱分析用プローブ1のカンチレバー部4に設けられた試料加熱部5、温度測定部6および主加熱ヒータ部7とそれぞれ同様の構成を有するため、その詳細な説明は省略する。そして、参照側カンチレバー部4bにおける参照側試料加熱部5a、参照側温度測定部6aおよび参照側主加熱ヒータ部7aは、前記試料側カンチレバー部4aに設けられた試料加熱部5、温度測定部6および主加熱ヒータ部7と同一の形態を有するものである。また、試料側副加熱ヒータ部10および試料側熱流計測部11と、参照側副加熱ヒータ部10aおよび参照側熱流計測部11aとは、それぞれ同一の形態を有するものである。これによって、試料側カンチレバー部4aと参照側カンチレバー部4bとは、左右対称の構成を有する。
【0040】
試料側副加熱ヒータ部10は、カンチレバー部4aの根元から、熱電対(温度測定部)6の内側を通って、再びカンチレバー部4の根元に戻る略コ字状の回路パターンを有する薄膜で形成されている。この試料側副加熱ヒータ部10は、校正用電源12から供給される電流により既知の発熱を生じさせ,このときの試料側熱流計測部11の出力から熱量計感度を校正するものである。また、参照側副加熱ヒータ部10aは、試料側副加熱ヒータ部10と同一の構成を有し、参照側熱流計測部の校正を行うものである。
【0041】
また、試料側熱流計測部11aは、複数の熱電対を直列に接続した構成を有するものであり、カンチレバー部4a,4bを伝導する熱流量を測定する役割を有するものである。
【0042】
この微小熱分析用プローブ41を備える微小熱分析装置は、図4に示すとおり、微小熱分析用プローブ41の試料側主加熱ヒータ部7と、参照側主加熱ヒータ部7aとが、それぞれ温度制御部8に接続され、また、試料側温度測定部6と、参照側温度測定部6a、さらに試料側熱流計測部11と参照側熱流計測部11aとは、それぞれ測定・記録部9に接続されている。
【0043】
そして、温度制御部8は、予め設定された加熱または昇温スケジュールによって、試料側主加熱ヒータ部7および参照側主加熱ヒータ部7aによる加熱温度、昇温速度等をコントロールするものである。
【0044】
次に、図5は、本発明の第4実施形態に係る微小熱分析用プローブ41および微小熱分析装置の構成を示す概略図である。この微小熱分析用プローブ41は、前記第3実施形態で用いたものと同じものを用いることができる。
第4実施形態に係る微小熱分析用プローブ41は、基板2に穿設された測定用空間3内に、測定用空間3の一側端から突設された試料側カンチレバー部44aと、他側端から参照側カンチレバー部44bとが、所定の間隙Aを挟んで対向して構成されているものである。ここで、時間差DSC法では試料側カンチレバー部44aのみを用いて、試料の搭載前と搭載後の2回の計測を行い、DSC法では、試料側カンチレバー部44aおよび参照側カンチレバー部44bを用いた同時作動計測を行う。
【0045】
試料側カンチレバー部44aには、その先端から根元に向かって、試料加熱部5、試料側温度測定部6a、試料側副加熱ヒータ部10、試料側熱流計測部11および試料側主加熱ヒータ部7aの順に配設され、一方、参照側カンチレバー部4bには、その先端から根元に向かって、参照側試料加熱部5b、参照側温度測定部6b、参照側副加熱ヒータ部10b、参照側熱流計測部11bおよび参照側主加熱ヒータ部7bの順に配設されて、この試料側カンチレバー部4aと参照側カンチレバー部4bとが熱分析部の主要部分を構成する。
【0046】
試料側カンチレバー部44aに設けられる試料加熱部5、試料側温度測定部6aおよび試料側主加熱ヒータ部7aは、前記第1実施形態に係る微小熱分析用プローブ1のカンチレバー部4に設けられた試料加熱部5、温度測定部6および主加熱ヒータ部7とそれぞれ同様の構成を有するため、その詳細な説明は省略する。そして、参照側カンチレバー部4bにおける参照側試料加熱部5b、参照側温度測定部6bおよび参照側主加熱ヒータ部7bは、前記試料側カンチレバー部4aに設けられた温度測定部6aおよび主加熱ヒータ部7aと同一の形態を有するものである。また、試料側副加熱ヒータ部10および試料側熱流計測部11と、参照側副加熱ヒータ部10bおよび参照側熱流計測部11bとは、それぞれ同一の形態を有するものである。これによって、試料側カンチレバー部4aと参照側カンチレバー部4bとは、左右対称の構成を有する。
【0047】
試料側副加熱ヒータ部10は、カンチレバー部4aの根元から、熱電対(温度測定部)6の内側を通って、再びカンチレバー部4の根元に戻る略コ字状の回路パターンを有する薄膜で形成されている。参照側副加熱ヒータ部10bは試料側と同一な形態を有するものである。
【0048】
また、試料側熱流計測部11は、複数の熱電対を直列に接続した構成を有するものであり、カンチレバーを伝導する熱流量を測定する役割を有するものである。参照側熱流計測部11bは、試料側熱流計測部11と同一の形態を有するものである。
【0049】
試料側副加熱ヒータ部10は、熱流設定値と試料側熱流計測部11の計測値の差に比例する電力を供給するフィードバック部12aに接続されており、試料の吸発熱による試料加熱部5の温度変動をうち消す作用をするものである。参照側では、参照側熱流計測部11b、参照側フィードバック部12b、参照側副加熱ヒータ部10bにより、試料側と同じ熱流設定値に対して同様なフィードバック操作が行われる。
【0050】
この微小熱分析用プローブ41を備える微小熱分析装置は、図5に示すとおり、微小熱分析用プローブ41の試料側主加熱ヒータ部7aと、参照側主加熱ヒータ部7bとが、それぞれ温度制御部8に接続され、また、試料側温度測定部6aと、参照側温度測定部6b、さらに試料側副加熱ヒータ部10と参照側副加熱ヒータ部10bとは、それぞれ測定・記録部9に接続されている。
【0051】
そして、温度制御部8は、予め設定された加熱または昇温スケジュールによって、試料側主加熱ヒータ部7aおよび参照側主加熱ヒータ部7bによる加熱温度、昇温速度等をコントロールするものである。
【0052】
本発明において、前記熱分析部(カンチレバー部4、試料側カンチレバー部4a、参照側カンチレバー部4b)は、保護膜で被覆されていることが、試料による配線の短絡防止、配線の劣化防止の観点から好ましい。保護膜は、例えば、SiO2,SiNx等で形成することができる。
【0053】
これらの微小熱分析用プローブ1,31,41を備える微小熱分析装置によって微量試料の熱分析を行う方法は、試料加熱部5に載置した試料を、主加熱ヒータ部7(試料側主加熱ヒータ部7a)によって一定の速度で昇温または降温させ、試料の熱容量、相変化温度、潜熱等の吸熱、発熱現象による温度変化を測定して、温度変化中の吸発熱の様子をより明確に観測するため、時間差計測法と差動計測法が有効である。
【0054】
時間差計測法では、1つのカンチレバー部の昇降温特性を予めリファレンスとして記録しておき、試料を試料加熱部5に載置して測定される昇降温特性との差から、試料の熱容量、相変化温度、潜熱等の吸発熱を求めることができる。このとき、試料の搭載でカンチレバー(カンチレバー部4,4a)から周囲への熱伝達特性が変化するため、試料搭載後の加熱量を調整し、温度走査速度が一致するように最大到達温度がリファレンスのものと一致させておくことが、熱伝達特性の変化の影響を低減しベースラインの平坦性を確保するために有効である。
【0055】
差動計測法では、カンチレバー部を2つ対向して配置し、片側の試料側に試料を載置し、試料を載置していない参照側のカンチレバー部との加熱・冷却時の昇降温特性の差を同時に計測する。この差動計測により、ノイズが低減し、分析能力が向上する。このとき、隣接する2つのカンチレバー部の熱特性に差がある場合、最大到達温度が一致するようにヒーター発熱量を調整することがベースラインの線形補正として有効である。
【0056】
以下、本発明の微小熱分析方法について、より具体的に説明する。
まず、前記の第1実施形態に係る微小熱分析用プローブ1を備える微小熱分析装置は、下記の方法で、試料の熱分析を行うことができる。
(1)単純熱分析
試料加熱部5に試料を載置して、主加熱ヒータ部7から予め設定したスケジュールで加熱を行い、一定の速度で試料を昇温または降温させる。このとき、試料の熱容量、相転移による吸熱または発熱によって、温度測定部6で測定される温度は、主加熱ヒータ部7で予め設定した昇温特性とは、異なる変化を示す。そこで、この温度測定部6で測定される温度変化を、主加熱ヒータ部7による予定昇温速度と比較すれば、試料の相転移温度、相転移に伴う吸発熱の熱挙動を測定することができる。
(2)時間差熱分析(時間差DTA)
まず、試料加熱部5に試料を乗せない空の状態で、主加熱ヒータ部7にプログラムされた電圧を印加し、一定の速度で温度の上昇および下降を行い、主加熱ヒータ部7の発熱量、熱電対(温度測定)6から出力される温度のデータを時間の関数として記録する(参照データの記録)。この操作は連続して数周期分のデータを記録することが好ましい。次に、試料加熱部5に試料を載置して、参照時と同様に主加熱ヒータ部7にプログラムされた電圧を印加し、一定の速度で温度の上昇および下降を行い、発熱量、温度のデータを記録する。ここで、試料の搭載により、周囲への熱の放散状況が変化する場合があり、この場合、温度走査速度を一致させるため、ヒーター発熱量を、参照データの最大温度と試料データの最大温度が一致するように、一定の割合で調整し、放熱状態の差を打ち消しておくことが好ましい。また、試料データも連続して数周期分を記録することが望ましい。最後に、試料側と参照側の温度変動の位相を一致させて両者の温度データの差を計算する。時間・温度差データ、または温度・温度差データは一般的なDTA分析方法と同様に解析することができる。
【0057】
また、前記図3に示す第2実施形態に係る微小熱分析用プローブ31を備える微小熱分析装置は、下記の方法で、試料の熱分析を行うことができる。
(3)同時計測示差熱分析(DTA)
試料側カンチレバー部4aと、参照側カンチレバー部4bの2つの同型のカンチレバー部が測定用空間3内に対向して配置された微小熱分析用プローブ31を用いて、同時に温度走査を実施し両者の差を実時間で測定する。すなわち、試料側カンチレバー部4aの試料加熱部5に試料を載置し、参照側カンチレバー部4bには試料を載置しないで、参照側とする。両者のヒータへプログラムされた同じ電圧を印加し、一定の速度で温度の上昇,下降を行う。試料の搭載により、周囲への放熱条件が両者で変わっている場合、温度走査速度を一致させるため、両者の最大温度が一致するようにヒーターへの印加電圧を調整する。この操作は,準平衡状態となる十分遅い温度変化速度で行う。準平衡状態での最大到達温度が一致した後、両カンチレバー部の温度測定部(熱電対)の差動温度、および試料温度データを時間の関数として記録する。時間・温度差データ,または温度・温度差データは一般的なDTA分析方法に沿って解析される。
【0058】
(4)時間差定量DTA
前記図4に示す第3実施形態に係る微小熱分析用プローブにおいて、試料側カンチレバー部4aのみを使用して熱分析を行う。
まず、試料側熱流検出部11の感度(熱量計感度=電圧出力/熱流量)を決定しておく。即ち、試料側副加熱ヒータ部10に電源より既知の発熱を生じさせ、熱流検出部11の出力を計測・記録部9で測定し、熱量計感度を決定しておく。次に、試料加熱部5に試料を乗せない空の状態で、主加熱ヒータ部7にプログラムされた電圧を印加し、一定の速度で温度の上昇および下降を行い、主加熱ヒータ部7の発熱量、熱電対(温度測定部)6から出力される温度データ、熱流検出部11の熱流量データを時間の関数として記録する(参照データの記録)。この操作は連続して数周期分のデータを記録することが好ましい。次に、試料加熱部5に試料を載置して、参照時と同様に主加熱ヒータ部7にプログラムされた電圧を印加し、一定の速度で温度の上昇および下降を行い、試料搭載時の発熱量、温度、熱流量のデータを記録する。ここで、試料の搭載により、周囲への熱の放散状況が変化する場合、温度走査速度を一致させるため、ヒーター発熱量を、参照データの最大温度と試料データの最大温度が一致するように、一定の割合で調整し、放熱状態の差を打ち消しておくことが好ましい。また、試料データも連続して数周期分を記録することが望ましい。最後に、試料側と参照側の温度変動の位相を一致させて両者の熱流データの差を計算する。時間・熱流差データ、または温度・熱流差データは一般的な定量DTA分析方法と同様に解析され、試料の熱容量、相転移温度に加え、相転移に伴う吸発熱量を定量的に測定することができる。
【0059】
(5)定量DTA
また、前記図4に示す第3実施形態に係る微小熱分析用プローブを備える微小熱分析装置は、下記の方法で、試料の熱分析を行うことができる。
試料側カンチレバー部4aと、参照側カンチレバー部4bの2つの同型のカンチレバー部が測定用空間3内に対向して配置された微小熱分析用プローブを用いて、同時に温度走査を実施し両者の差を実時間で測定する。これにより、同位相のノイズを除去した高感度な熱測定が可能となる。まず、両熱流検出部の感度(熱量計感度=電圧出力/熱流量)を電源から既知の発熱を両副加熱ヒータ部で生じさせ、これに伴う熱流検出部の出力を計測することで決定しておく。次に、試料側カンチレバー部4aの試料加熱部5に試料を載置し、参照側カンチレバー部4bには試料を載置しないで、参照側とする。両者の主加熱ヒータ部7、7aのヒータへプログラムされた同じ電圧を印加し、一定の速度で温度の上昇、下降を行う。試料の搭載により、周囲への放熱条件が両者で変わっている場合、温度走査速度を一致させるため、両者の最大温度が一致するようにヒーターへの印加電圧を調整する。この操作は、準平衡状態となる十分遅い温度変化速度で行う。準平衡状態での最大到達温度が一致した後、両カンチレバーの熱流検出部出力の差(熱流量差)、および試料側温度データ、を時間の関数として記録する。時間・熱流差データ、または温度・熱流差データは一般的な定量DTA分析方法に沿って解析され、試料の熱容量、相転移温度、相転移に伴う吸発熱量を定量的に測定することができる。
【0060】
(6)時間差入力補償DSC
前記図5に示す第4実施形態に係る微小熱分析用プローブを備える微小熱分析装置において、試料側カンチレバー部4aのみを使用し時間差による示差走査熱量計測(DSC)を行う。
試料側副加熱ヒータ部10aでは、補償加熱用フィードバック部12aにより、所定の熱流設定値と試料側熱流計測部11aの計測値の差に比例した発熱を常に生じさせておく。熱流設置値は、試料の発熱量を補償加熱の減少で十分打ち消せる程度の値に設定することが望ましい。このフィードバック制御により、試料の吸・発熱は副加熱ヒータの発熱により補償され、試料温度は設定した速度で走査されることになる。まず、試料加熱部5に試料を乗せない空の状態で、試料側主加熱ヒータ部7aにプログラムされた電圧を印加し、一定の速度で温度の上昇および下降を行い、試料側主加熱ヒータ部7aの発熱量、温度測定部(熱電対)6aから出力される温度データ、試料側副加熱ヒータ部10aのヒータへ供給される熱量を時間の関数として記録する(参照データの記録)。この操作は連続して数周期分のデータを記録することが好ましい。次に、試料加熱部5に試料を載置して、参照時と同様に主加熱ヒータ部7にプログラムされた電圧を印加し、一定の速度で温度の上昇および下降を行い、試料搭載時の主加熱ヒータ部7aの発熱量、試料温度、補償熱量のデータを記録する。試料データも連続して数周期分を記録することが望ましい。最後に、試料側と参照側の温度変動の位相を一致させて両者の補償熱量データの差を計算する。時間・補償熱量差データ、または温度・補償熱量差データは一般的なDSC分析方法と同様に解析され、試料の熱容量、相転移温度に加え、相転移に伴う吸発熱量を定量的に精度良く測定することができる。ここで、試料搭載による周囲への熱伝達特性が変化する場合には、試料の熱容量が見掛け温度上昇に比例して増加するように現れるが、昇温時と降温時のデータの平均より、正味の熱容量が得られ、同データの差より熱伝達特性の変化状況を特定することが出来る。
【0061】
(7)入力補償DSC
また、前記図5に示す第4実施形態に係る微小熱分析用プローブを備える微小熱分析装置は、下記の方法で、試料の示差走査熱量計測(DSC)を行うことができる。
試料、参照量側の副加熱ヒータ部10a,10bでは、補償加熱用フィードバック部12a,12bにより、所定の熱流設定値と試料側熱流計測部11a,11bの計測値の差に比例した発熱を常に生じさせておく。熱流設置値は、試料の発熱量を補償加熱の減少で十分打ち消せる程度であることが望ましく、両側で同じ値に設定しておく。このフィードバック制御により、試料の吸・発熱は副加熱ヒータの発熱により補償され、試料温度は設定した速度で走査されることになる。
試料側カンチレバー部4aの試料加熱部5に試料を載置し、参照側カンチレバー部4bには試料を載置しないで、参照側とする。両者の主加熱ヒータ部7a,7bのヒータへプログラムされた同じ電圧を印加し、同時に一定の速度で温度の上昇、下降を行う。両カンチレバー4a,4bの補償加熱量の同時刻での差(熱量差)、および試料側温度データを時間の関数として記録する。これにより、同位相のノイズを除去した高感度な熱量測定が可能となる。時間・熱量差データ、または温度・熱量差データは一般的なDSC分析方法に沿って解析され、試料の熱容量、相転移温度、相転移に伴う吸発熱量を定量的に精度良く測定することができる。ここで、試料搭載による周囲への熱伝達特性が変化する場合には、試料の熱容量が見掛け温度上昇に比例して増加するように現れるが、昇温時と降温時のデータの平均より、正味の熱容量が得られ、同データの差より熱伝達特性の変化状況を決定することができる。
【0062】
また、本発明の微小熱分析用プローブは、図5に示すとおり、カンチレバー部4に、試料加熱部5、主加熱ヒータ部7、熱電対(温度測定部)6およびサーモパイル(熱流計測部)11を配設して構成される熱分析部において、試料加熱部5に載置した試料の質量変化を、カンチレバー部4の固有振動数を計測することによって、測定することができる。なお、15は、サーモパイル(熱流検出部)の抵抗変化を検出するためのブリッジ回路であり、その出力をFFT解析装置(図示せず)で解析することでカンチレバー部の固有振動数を求めるものである。したがって、この微小熱分析用プローブを用いて、試料の昇温および降温を行って熱分析する間に、カンチレバー部4の振動を検出することで、質量の変化を同時に測定できる。これによって、温度変化に伴う吸発熱挙動と同時に、質量変化挙動を計測することができる。例えば、昇華、蒸発、分解,脱離等の質量変化を伴う挙動を捉えることができる。
【0063】
振動の検出方法としては、(1)カンチレバー部4にレーザーを照射し、反射光の変位を2分割フォトダイオードで検出する方法(光てこ法)、(2)サーモパイル信号を周波数解析してカンチレバー部4の振動に伴う抵抗変化で生じた信号を捕らえる方法、(3)カンチレバー部4上に別途設置した電気抵抗の変化をブリッジ回路等で求める方法(ひずみゲージ)などの各種の方法が利用できる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明の実施例によって、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
微細加工技術を利用して、SiO2基板を加工して、図3と類似の構造の微小熱分析用プローブ41を製作した。この微小熱分析用プローブは、長さ約230μm、幅約270μm、厚さ約3μmのカンチレバー状の形状であり、温度計測部6としてニッケル−クロム熱電対、熱流計測部としてニッケル−クロムのサーモパイル、主加熱ヒータ部をニッケルで、それぞれ厚さ約0.2μmの薄膜状で形成して構成されている。
【0065】
この微小熱分析用プローブの性能を評価したところ、この微小熱分析用プローブは、試料を載せない状態で、熱時間分解能34msec、耐熱温度400℃、最大温度変化速度14000K/sec、熱容量分解能3.2nJ/K、エネルギー分解能730nJの性能を発揮することが分かった。したがって、この微小熱分析用プローブは、既存の熱分析装置と比べて、温度変化速度は1600倍以上、質量1/1000以下の微量試料の熱分析が可能であることが分かる。
【0066】
次に、この微小熱分析用プローブを用いて、大気雰囲気中で、時間差熱分析を行った。
図7は、インジウム7.2μgを試料として用いて、主加熱ヒータ部の電力とカンチレバー(カンチレバー部)上での熱電対の出力を測定した。測定は、加熱→冷却のサイクルを1Hzの繰返し周波数で6周期行ったときのデータを示す。この図7において、曲線Bは、試料を試料加熱部に載置しない状態での熱電対の出力を示し、曲線Cは試料を試料加熱部に載置して加熱した場合の熱電対の出力の変化を示す。この曲線Cから、試料インジウムの熱容量が反映され、加熱―冷却の往復時の温度差が大きく、融解および凝固によるピークを示している。
【0067】
また、曲線Bと曲線Cから、リファレンス温度(曲線Bの温度)Tr、サンプル温度(曲線Cの温度)Tsの時間差ΔT(Ts−Tr)を時間に対してプロットすると、図10に示すグラフが得られる。この図8に示すグラフから、融解および凝固に対応するピーク面積を、昇温・降温過程でのベースラインを設定して、融解熱、凝固熱および熱容量を求めた。その結果、融解熱480μJ、凝固熱590μJ、熱容量5.6μJ/Kが求められた。
【0068】
次に、同じインジウム試料を用いて、融解、凝固の温度走査速度依存性を、加熱−冷却の走査周波数0.05Hz〜5Hzで繰返して熱分析した。このとき、融解、および凝固の開始温度を走査周波数に対してプロットした結果を図9に示す。図9に示す結果から、融解温度がほぼ一定であるのに対して、過冷却を示している凝固温度は、冷却速度の増加とともに低下する傾向が示されている。
【0069】
低融点合金セロシール(In50%、Sn50%)4.7μgを試料として用いて、走査周波数0.5Hzで45周期で繰返して熱分析を行った。その結果を図10に示す。図10に示す結果から、120℃付近の吸熱ピークおよび発熱ピークは、発生温度およびピーク面積が非常に高い再現性を示すのに対して、80℃付近の発熱ピークは、ピーク面積はほぼ一定であるが、発生温度がランダムである特徴を示している。このように、微量の試料を高速で熱分析することによって、特異な熱挙動を捉えることができる。
【0070】
(実施例2)
本発明の微小熱分析用プローブを用いる時間差示差走査熱量測定(DSC)について、1次元非定常熱伝導モデルによるシミュレーションを行った。
シミュレーションは、下記の条件で行った。
モデル:
図11に示す1次元非定常熱伝導モデル
このモデルにおいて、上下面は周囲との熱伝達を考慮し、側面は断熱とする。プローブは、長さ300μm、厚さ3.2μm、幅200μのSiO2(2μm)・Ni(0.2μm)・SiO2(1μm)の3層構造の矩形カンチレバーを等価な熱物性(熱伝導率:6.97W/mK)を持つ一様なカンチレバーの形状を有するものとする。
主加熱ヒータ部:(カンチレバー根元からの位置)x=90〜100μm、
サーモパイル部(熱流計測部):x=130〜230μm、
副加熱ヒータ部:x=250〜260μm、
熱電対(温度測定部):x=270μm、
試料(インジウム):x=280〜300μm、
体積:1.28×10-143
質量:93.6ng
熱容量:21.8nJ/K
融解熱:2.69J
融点:50K+周囲温度
サーモパイルの温度差に対する補償加熱の増幅率:1010W/K
サーモパイル設定温度差(熱流量設定):4K(89.2μW)
温度走査周期:1秒
上下面から周囲への熱伝達率:100W/m2
ベース温度、周囲温度:常温
【0071】
このシミュレーションの結果を図12に示す。この結果から、補償加熱量に温度上昇過程での融点における吸熱ピーク、温度下降過程での発熱ピークが観察される。なお、補償熱量が高温時ほど高いのは周囲への放熱のためと考えられる。また,温度変化速度は,融解,凝固過程においてもほぼ一定であり,補償加熱が十分機能していることが示されている。さらに,温度変化や補償加熱量は実際に十分に計測できる大きさの値であり,シミュレーション結果は,実際の挙動を模擬していると考えられる。
【0072】
また、図13は、シミュレーション結果を試料搭載時の熱電対出力と試料搭載時と搭載していない参照時との補償加熱量差を示したグラフ(DSC曲線)である。このDSC曲線において、縦軸は熱容量と温度走査速度の積を、横軸は試料とベース部の温度差を示す。DSC曲線の平坦な部分から熱容量は21.1nJ/K,ピーク面積からは融解潜熱として2.58μJの値が読み取られ,モデルで仮定した試料の熱容量,潜熱に非常に近い値が求められることが示された。また,このDSC曲線において、吸発熱ピーク位置の差は、熱電対と試料の配置差からくる温度差のため、と考えられる。
【0073】
これらのシミュレーションの結果から、考案した微小熱分析装置,手法により94ngのインジウム試料に対して熱容量(22nJ)、融解熱(2.7μJ)が求められることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の第1実施形態に係る微小熱分析用プローブの概略を示す斜視図である。
【図2】(a)は図1に示す微小熱分析用プローブの概略構成を示す図、(b)は微小熱分析用プローブの模式断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る微小熱分析用プローブおよび微小熱分析装置の概略を示す図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る微小熱分析用プローブおよび微小熱分析装置の一例を示す概略図である。
【図5】本発明の第4実施形態に係る微小熱分析用プローブおよび微小熱分析装置の一例を示す概略図である。
【図6】本発明の微小熱分析装置による質量計測法を示す概略図である。
【図7】実施例1における主加熱ヒータ部の電力とカンチレバー(カンチレバー部)上での熱電対の出力の関係を示すグラフである。
【図8】実施例1の熱分析におけるリファレンス温度Tr、サンプル温度Tsの時間差ΔT(Ts−Tr)を時間に対してプロットして示すグラフである
【図9】実施例1で求められたインジウム試料の融解、凝固の温度走査速度依存性を示すグラフである。
【図10】実施例1において、低融点合金セロシールを繰返して高速熱分析を行った結果を示すグラフである。
【図11】本発明の微小熱分析用プローブの1次元非定常熱伝導モデルを示す図である。
【図12】1次元非定常熱伝導モデルによる時間差DSCシミュレーションの結果を示す図である。
【図13】シミュレーション結果を示すDSC曲線の図である。
【符号の説明】
【0075】
1 微小熱分析用プローブ
2 基板
3 測定用空間
4 カンチレバー部
4a 試料側カンチレバー部
4b 参照側カンチレバー部
5 試料加熱部
5b 参照側試料加熱部
6 温度測定部
6a 試料側温度測定部
6a 薄膜パターン
6b 参照側温度測定部
7,7a 主加熱ヒータ部、試料側主加熱ヒータ部
7b 参照側主加熱ヒータ部
8 温度制御部
9 計測記録部
10 試料側副加熱ヒータ部
10a,10b 参照側副加熱ヒータ部
11 試料側熱流計測部
11a,11b 参照側熱流計測部
31 微小熱分析用プローブ
41 微小熱分析用プローブ
44a 試料側カンチレバー部
44b 参照側カンチレバー部
12 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に微細加工法によって形成された熱分析部を備える微小熱分析用プローブであって、
前記熱分析部は、
前記基板上に形成された試料加熱部と、
前記試料加熱部に近接して形成された薄膜状発熱体からなる主加熱ヒータ部と、
前記試料加熱部と主加熱加熱ヒータ部との間に介設された薄膜状熱電対からなる温度測定部と、
を含むことを特徴とする微小熱分析用プローブ。
【請求項2】
前記熱分析部は、前記基板に穿設された測定用空間内に突設されたカンチレバー部に設けられ、前記カンチレバー部の先端から根元に向かって前記試料加熱部、前記温度測定部および前記主加熱ヒータ部の順に配設されて形成されていることを特徴とする請求項1に記載の微小熱分析用プローブ。
【請求項3】
前記主加熱ヒータ部と、前記温度測定部との間に、副加熱ヒータ部と熱流測定部を配設したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の微小熱分析用プローブ。
【請求項4】
前記熱分析部が、保護膜で被覆されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の微小熱分析用プローブ。
【請求項5】
前記測定用空間内に、前記熱分析部と所定距離を挟んで対向して半島状に突設された参照部を備え、前記参照部は、前記熱測定部の前記試料加熱部、前記温度測定部および前記主加熱ヒータ部と対称に、先端から根元に向かって試料参照部、薄膜状熱電対からなる温度測定部と、薄膜状発熱体からなる主加熱ヒータ部と、を備えることを特徴とする請求項2に記載の微小熱分析用プローブ。
【請求項6】
前記主加熱ヒータ部と、前記温度測定部との間に、副加熱ヒータ部と熱流測定部を配設したことを特徴とする請求項5に記載の微小熱分析用プローブ。
【請求項7】
前記熱分析部および前記参照部が、保護膜で被覆されていることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の微小熱分析用プローブ。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の微量熱分析用プローブを備える微小熱分析装置。
【請求項9】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の微量熱分析用プローブを備える微小熱分析装置を用いて熱分析を行う微小熱分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−105935(P2006−105935A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−296994(P2004−296994)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年10月1日に日本熱測定学会により発行された第40回記念熱測定討論会講演要旨集にて発表 平成16年10月13日に日本熱測定学会が開催した第40回記念熱測定討論会にて発表
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】