説明

微小移動検出装置

【課題】簡素かつ高精度の微小移動検出装置。
【解決手段】測距基準点Pに設置され該測距基準点Pから測距対象Tへ送信したマイクロ波の波長を有する投射波Xに対し該投射波Xが測距対象Tに反射して戻った反射波Yの遅延によって生ずる位相ずれを検出することにより測距対象Tの移動距離を測定する主局10と、前記測距対象T上に配設される反射手段として前記投射波Xを受信し増幅後に前記主局10へ送り返す中継局20と、を備えた。また、その微小移動検出装置Eにおける主局10は連続動作または間欠動作により前記位相ずれを観測するようにタイミング制御が可能な制御手段と、前記制御手段に制御されることにより前記位相ずれの観測結果を連続記録または間欠記録することが可能な記憶手段と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波を用いて測距対象物の微小移動を検出する微小移動検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微小移動検出装置の基礎となっている電磁測距儀には、用途別に光測距儀と電波測距儀が知られている。光測距儀は、主に高精度な近距離用途。電波測距儀は主に遠距離用途であり、動作原理は類似している。また、波長が短く光に近い性質のマイクロ波を用いる電波測距儀は光測距儀に似た動作であり、高精度を得ることが比較的容易である。
【0003】
一方、下記特許文献1には、地滑り危険点に電波反射体としてのルーネベルグレンズを設置し、安全な場所に設置した送受信機より電波反射体に電波を放射し、その反射波と投射波を合成し、合成レベル変化を検出する技術が開示されている。なお、電波反射体として用いるルーネベルグレンズは相当に高価であるのが欠点であった。
【0004】
下記特許文献2には、マイクロ波出力の変動、気象条件による誤差要因に影響されない移動距離検出装置が開示されている。すなわち、電波の送受信方向に一定距離を周期的に往復移動可能に設置されたモニタ手段と、モニタ手段より所定距離を隔てた移動検出対象となる電波反射手段とよりなり、モニタ手段は電波反射手段に向かって電波を送信する送信手段と、電波反射手段からの反射波を受信する受信手段と、受信手段において送信波と受信波とを合成するミキサ手段と、電波反射手段の変位をミキサ手段の合成波出力の変化として検出するレベル検出手段と、モニタ手段の各往復移動周期内で合成波出力のピークが得られるタイミングにおけるモニタ手段の位置情報を保持する手段と、を有し、各往復移動周期における位置情報の保持値に基づき上記移動検出対象の移動距離を検出するというものである。
【特許文献1】特開平11−316140号公報
【特許文献2】特開2000−46934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、下記特許文献1のものでは、電波反射体として用いるルーネベルグレンズが相当に高価であるという欠点があった。また、振幅変化値だけで判断しているため、4分の1波長(以下、「λ/4」という)を超える変位は計測不能となる問題点があった。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、電波反射体に高価なルーネベルグレンズを用いることなく、小電力、遠距離間での計測が可能である微小移動検出装置を提供することを目的とするものである。
さらに、λ/4を超える変位も計測可能であり、測距対象が遠ざかったか近づいたかの何れの移動状態であるのかをより鮮明に判定するために、主局を機械的に移動させる必要がない微小移動検出装置を提供することも目的としている。
そして、複数の観測対象をほぼ同時に効率良く観測できる地滑りセンサに好適な微小移動検出装置を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明に係る微小移動検出装置は、測距基準点に設置され該測距基準点から測距対象へ送信したマイクロ波の波長を有する投射波に対し該投射波が測距対象に反射して戻った反射波の遅延によって生ずる位相ずれを検出することにより測距対象の移動距離を測定する主局と、前記測距対象上に配設される反射手段として受信した前記投射波を増幅した後に前記主局へ送り返す中継局と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る微小移動検出装置によれば、測距基準点に設置された主局から測距対象へ送信した投射波と、その投射波が測距対象に反射して戻ってきた反射波には、主局から中継局までの距離を1往復する所要時間に相当する遅延時間が生じている。
この遅延時間の検出を容易にするため、投射波には波長の短いマイクロ波を用い、その投射波と反射波との位相ずれを観測することにより遅延時間を検出可能となる。このようにして検出された遅延時間に電磁波の伝播速度(光速)を乗算すれば前記1往復した距離が算出されるので、その半分である片道分の距離も確定する。
ここで、反射手段として中継局を採用することにより、その中継局で受信された投射波を増幅して中継するので、より簡素な送信手段による微弱な小出力の投射波であっても安定確実に距離を測定することが可能となる。また、同一出力の投射波を用いるならば、より遠距離での観測が可能となる。
【0009】
また、本発明に係る微小移動検出装置は、前記主局は連続動作または間欠動作により前記位相ずれを観測するようにタイミング制御が可能な制御手段と、前記制御手段に制御されることにより前記位相ずれの観測結果を連続記録または間欠記録することが可能な記憶手段と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る微小移動検出装置によれば、制御手段が観測タイミングを制御することにより、主局を連続動作または間欠動作させる。そして、主局は位相ずれの観測結果を記憶手段に連続記録または間欠記録する。そうすることにより、距離の経時変化を観測することが可能になる。特に、測距対象が微小移動する経時変化をリアルタイムに観測し、その経時変化の程度を報知する地滑りセンサに用いて好適である。
【0011】
また、本発明に係る微小移動検出装置において、前記主局には、前記投射波を発生する高周波発振器と、前記投射波を前記中継局まで投射し前記反射波を捕らえる送受信アンテナと、周波数変換用の局部発振信号を発生する局部発振器と、前記局部発振信号を用いて前記投射波と同一の送信信号を低周波送信信号に周波数変換するミキサと、前記局部発振信号を用いて前記反射波と同一の受信信号を低周波受信信号に周波数変換するミキサと、前記低周波送信信号と前記低周波受信信号との位相差を検出する位相検出器と、該位相検出器の検出信号に基づいて前記測距対象の移動状態を判定する判定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る微小移動検出装置によれば、まず、主局において、高周波発振器が投射波を発生して中継局まで投射する。中継局では投射波を受信し増幅後に主局へ送り返す。そうすると、主局の送受信アンテナが反射波を捕らえる。
【0013】
ついで、投射波と同一の送信信号をミキサで局部発振信号と混合することにより低周波送信信号に周波数変換する。また、反射波と同一の受信信号をミキサで局部発振信号と混合することにより低周波受信信号に周波数変換する。
【0014】
これら低周波送信信号と低周波受信信号との位相差を位相検出器で検出する。そして、その位相検出器の検出した位相差信号に基づいて、判定手段が測距対象の移動状態を判定する。このように、マイクロ波を低周波に周波数変換して波長を広げることにより、位相差もクローズアップされるので、より高精度な測距結果が得られる。
【0015】
また、本発明に係る微小移動検出装置は、前記判定手段の判定結果に基づく制御信号により低周波送信信号あるいは低周波受信信号のいずれか一方を所定の位相差分だけ切換える位相切換器をさらに備え、前記判定手段は、前記位相検出器の検出信号が所定範囲を超えた時、特定の制御信号を用いて前記位相切換器を制御することにより前記低周波送信信号あるいは低周波受信信号のいずれか一方を所定の位相差分だけ切換えさせ、当該位相差を加味して測距対象の移動状態を判定することを特徴とする。
【0016】
本発明に係る微小移動検出装置によれば、主局において、判定手段の判定結果に基づく特定の制御信号を受けた位相切換器が、低周波送信信号あるいは低周波受信信号のいずれか一方を所定の位相差分だけ切換える。ここで、判定手段は、位相検出器の検出信号が所定範囲を超えた時に特定の制御信号で位相切換器を制御する。そうすると、位相切換器は、低周波送信信号あるいは低周波受信信号のいずれか一方を所定の位相差分だけ切換える。このようにして位相差を加減してみれば、測距対象が遠ざかったか近づいたかの何れの移動状態であるのかを、より鮮明に判定することが可能となる。すなわち、λ/4を超える変位も計測可能にすることができる。
【0017】
また、本発明に係る微小移動検出装置は、前記中継局として、複数の中継局のON時間を相互にずらすことを特徴とする。この微小移動検出装置によれば、1台の主局で、異なる複数の観測対象を観測することが可能である。
【0018】
また、本発明に係る微小移動検出装置は、前記複数の中継局別にON時間を相互にずらす手段として前記投射波の周波数を各中継局別に異なる設定し、設定された周波数の前記投射波を受信した中継局のみが起動することを特徴とする。
【0019】
本発明に係る微小移動検出装置によれば、さらに効率的実用性を高めることが可能である。詳しくは、中継局のON時間には数10Wの電力消費があり、しかも、必ずしも連続動作させる必要はないのであるから、例えば地滑り監視用ならば、観測対象となる危険地域別にそれぞれ1台ずつの中継局が5分おきに数秒間だけ間欠動作するように、相互にずらしたON時間の設定があれば実用的かつ効率的である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、電波反射体として高価なルーネベルグレンズを用いることなく、電波反射体として中継局を用いることで、主局の送受信効率を向上させるので、小電力、遠距離間での計測が可能となる。
また、λ/4を超える変位も計測可能できる。
さらに、位相切換器により、電気的に位相変化を発生させることができるので、測距対象Tが遠ざかったか近づいたかの何れの移動状態であるのかをより鮮明に判定することが可能となる。すなわち、λ/4を超える変位もより高精度で計測可能にすることができる。したがって、従来のように、主局を機械的に移動させる必要がなくなる。
そして、複数の観測対象をほぼ同時に効率良く観測できる地滑りセンサに用いて好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の最良の実施形態について、構成と動作を適宜織り交ぜて説明する。なお、各図に示す微小移動検出装置を測距儀と読み替えても構わない。
【0022】
図1は、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という)に係る測距儀D、または、その測距儀Dを用いた微小移動検出装置(以下、「本装置」という)Eの利用状況の説明図である。図1に示すように、本装置Eは安全地帯である測距基準点Pに固設して観測する主局(以下、「センサ」という)10と、地滑り等のため観測対象となる危険地域に設置される従局(以下、「中継局」または「レピータ」という)20の組み合わせにより構成されている。
【0023】
より詳しくは、10.525GHzの周波数を有する投射波Xが、センサ10の送受信アンテナ14から測距対象Tに照射され、この投射波Xが測距対象Tで実質上反射して発生した反射波Y(投射波Xと同様に10.525GHzの周波数を有する)が送受信アンテナ14で捕らえられる。投射波Xの送信タイミングを基準とした反射波Yの受信タイミングは、投射波Xが送受信アンテナ14から測距対象Tに伝播する時間に反射波Yが測距対象Tから送受信アンテナ14に伝搬する時間を加算したものとなる。
【0024】
センサ10から送信された投射波Xが、レピータ20で中継されると共に、実質上反射されて戻る反射波Yの遅延時間および/またはその経時変化を観測することにより、両者間の距離Zおよび/またはその経時変化を監視し、記録する等によりレピータ20の設置箇所である測距対象Tが微小移動することを検出するものである。以下、微小移動観測対象のことも含めて測距対象Tと称する。
【0025】
このように、本装置Eは、測距基準点Pに設置され該測距基準点Pから測距対象Tへ送信したマイクロ波の波長を有する投射波Xに対し該投射波Xが測距対象Tに反射して戻った反射波Yの遅延または位相ずれを検出することにより測距対象Tとの距離Zを測定するセンサ10と、測距対象T上に配設される反射手段として投射波Xを受信し、アンプ22(図2)で増幅した後にセンサ10へ送り返すレピータ20と、を備えている。なお、上述しているマイクロ波として、例えば、10.525GHz(波長λ=28.5mm)を採用することにより、1mm以下の微小移動から7mm(λ/4)を超える大幅な変位まで計測可能であるという好結果を得ている。
【0026】
動作を簡単に説明すると、本装置Eにおける測距基準点Pに設置されたセンサ10から測距対象Tへ送信した投射波Xと、その投射波Xが測距対象Tに反射して戻ってきた反射波Yには、センサ10からレピータ20までの距離Zを1往復する所要時間に相当する遅延時間が生じている。この遅延時間の検出を精密かつ容易にするため、投射波Xとして波長の短いマイクロ波を用い、その投射波Xと反射波Yとの位相ずれを観測すれば遅延時間を検出することが可能となる。
【0027】
このようにして検出された遅延時間に電磁波の伝播速度(光速)を乗算すれば前記1往復した距離2Zが算出されるので、その片道分の距離Zも確定すね。あるいは、波長λに対するずれが何倍(何分の1)かを観測することにより距離Zが算出できる。例えば、波長λ=28.5mmの場合、λ/4のずれは7.1mmに相当する。このような計算は、図2に沿って後述するマイクロコンピュータ(以下、「マイコン」という)3の計算プログラムを実行することにより実現する。ただし、説明の便宜上、図示せぬオシロスコープ等を人が用いて目視計測した位相ずれの値から換算しても構わないものとする。
【0028】
ここで、反射手段としてレピータ20を採用し、そのレピータ20で受信された投射波Xを増幅して中継することにより、より簡素な送信手段による微弱な小出力の投射波Xであっても、増幅後の強力な反射波Yが得られるので安定確実に距離Zを測定することが可能となる。また、同一出力の投射波Xを用いた場合も、強力な反射波Yは、電波の一般的性質から、より遠距離に到達するので遠距離の観測も可能となる。
【0029】
図2は本実施形態に係る微小移動検出装置Eの構成を示すブロック図である。なお、S符号で示す各種の信号名に関しては、説明の便宜上、適宜に略称する。図1、図2に示すように、微小移動検出装置Eは、センサ10とレピータ20により構成されている。
【0030】
センサ10は、投射波Xを発生する高周波発振器11と、投射波Xをレピータ20まで投射し反射波Yを捕らえる送受信アンテナ14と、周波数変換用の局部発振信号S2を発生する局部発振器15と、局部発振信号S2を用いて投射波Xと同一の送信信号S1′を低周波送信信号S5に周波数変換するミキサ1と、局部発振S2を用いて反射波Yと同一の受信信号S3を低周波受信信号S4に周波数変換するミキサ2と、低周波送信信号S5と低周波受信信号S4との位相差S7を検出する位相検出器17と、その位相検出器17の検出信号に基づいて測距対象Tの移動状態を判定する判定手段としてのマイコン3と、を備えて構成されている。
【0031】
また、マイコン3の詳細な構成に関する図解説明は省略するが、マイコン3には一般的な入出力機能、表示機能、計算機能、各種のプログラム等、周知の基本機能を備えているものとする。すなわち、このマイコン3は、上述した検出信号(アナログ信号)S7を量子化するA/D変換器、所定の判定処理プログラムを記憶する記憶部、A/D変換器から出力されたデジタル信号としての検出データに前記判定処理プログラムに基づく判定処理を施すCPU(Central Processing Unit)、およびそのCPUによる判定処理結果を外部に出力する出力部等から構成されている。
【0032】
このようなハードウェア構成によるマイコン3は、所定のソフトウェアを実行することにより機能する制御手段4、記憶手段5および演算手段6を含んで機能する。これら制御手段4、記憶手段5および演算手段6は説明の便宜上の呼称に過ぎず、これらの機能を総合利用することにより、本装置Eを例えば地滑りセンサとして機能させる。その場合、本装置Eは、位相検出器17の検出信号に基づいて測距対象T(微小移動監視対象)の移動状態である移動距離△Zを演算し所定値を超えたことを判定し、その判定結果を地滑り警報として外部に出力する。を発報することもできる。
【0033】
センサ10の動作を簡単に説明する。センサ10において、高周波発振器(以下、「RF発振器」という)11から出力されたRF発振信号S1は、方向性結合器12および電力分配器(詳しくは「ウィルキンソンパワーデバイタ」、以下「WPD」という)13aを通過し、送受信アンテナ14からマイクロ波を搬送波とする投射波Xが放射される。センサ10から放射された投射波Xは、レピータ20の受信アンテナ21で受信され、アンプ22で増幅された後に送信アンテナ23からセンサ10へ向けて放射される。
【0034】
レピータ20からの反射波Yはセンサ10の送受信アンテナ14で受信され、WPD13aで分岐した受信信号S3がミキサ1に入力される。一方、局部発振器(以下、「LO発振器」という)15の出力したLO発振信号S2がWPD13bで分岐してミキサ1へ入力される。このミキサ1により反射信号S3と混合される。ミキサ1ではRF発振周波数fとLO発振周波数fとの差の周波数fの低周波受信信号S4を出力する。
【0035】
一方、RF発振信号S1の一部である信号S1′が、方向性結合器12によりミキサ2へ入力され、LO発振信号S2との混合により、ミキサ1と同様に差の周波数fの低周波送信信号S5となって出力される。ミキサ2の出力は、位相切換器16を通り位相検出器17の基準信号S6となる。位相検出器17では、この基準信号S6とレピータ20からの低周波受信信号S4との位相比較を行い、位相差に応じた電圧である位相差(出力)信号S7を出力する。
【0036】
なお、低周波受信信号S4と低周波送信信号S5とは、同一のLO発振信号S2によって周波数変換されたものであり、その周波数変換後の位相差角度は、周波数変換前の送信信号S1と受信信号S3との位相差角度と同一である。したがって、微小時間による位相差角度を、同一の位相差角度として時間を広げて認識できるので計測が正確かつ容易になる。
【0037】
図3は本実施形態に係る微小移動検出装置Eの動作原理を示す模式図である。図3では省略した本装置Eによれば、まず、図3の左方に隠れたセンサ10において、RF発振器11により発生した投射波Xを、レピータ20(図3の壁面上に配設されたものとする)まで投射する。レピータ20では投射波Xを受信して増幅した後に、センサ10へ実質上の反射波Yとして送り返す。そうすると、センサ10の送受信アンテナ14が反射波Yを捕らえる(図1、図2参照)。
【0038】
図3に示すように、投射波Xと反射波Yとの位相差は、周波数10.525GHzの搬送波を有するマイクロ波(投射波Xおよび反射波Y)がセンサ10と測距対象Tとの距離に応じた位相差S7(図2)の変化として本装置Eに認識される。図3に示すように、岩盤の壁面(測距対象T)が位置Aにある場合の反射波Yαと岩盤の壁面が位置Bにある場合の反射波Yβとは投射波Xに対する位相差θ,θが異なっている。
【0039】
このような投射波Xと反射波Yとの位相差S7は、本装置Eと測距対象Tとの距離に応じた値であり、また送信信号S1′と受信信号S3との位相差S7と同義である(図2参照)。したがって、本装置Eが位置不変の測距基準点Pに固定設置されている場合、送信信号S1′と受信信号S3との位相差S7を検出することによって測距対象Tの移動状態を判定することが可能である。
【0040】
一方、マイコン3に組み込まれた判定処理プログラム(図示せず)には、投射波X(反射波Y)の周波数情報つまり「10.525GHz」がデータとして取り込まれている。このマイコン3は、判定処理プログラムに基づいて位相検出器17から入力される検出信号S7、つまり低周波送信信号S5,S6と低周波受信信号S4との位相差S7を認識する。そしてマイコン3は認識した位相差S7と投射波X(反射波Y)の周波数に基づいて測距対象Tの移動距離を演算し、この演算結果が所定のしきい値を越えた場合には警報信号を外部に出力する。
【0041】
さらに詳しくは、本装置Eにおける判定手段としてマイコン3の判定結果に基づいた制御信号S8により低周波送信信号S4あるいは低周波受信信号S3のいずれか一方を、所定の位相差として、例えば90°,180°,270°だけ切換え可能な位相切換器16をさらに備えている。
【0042】
マイコン3は、位相検出器17の検出信号S7が所定範囲を超えた時、特定の制御信号である位相切換信号S8を用いて位相切換器16を制御することにより、低周波送信信号S5あるいは低周波受信信号S4のいずれか一方を所定の位相差分だけ切換えさせる。このとき、切換えた位相差を加味して測距対象Tの移動状態を判定することが可能となる。
【0043】
このようにマイコン3が位相差S7を加減してみることは、センサ10を測距対象Tに対して前後に移動させて位相差の増減変化の関係を確認することに相当する。したがって、マイコン3が位相切換信号S8により位相差S7を加減してみることにより、測距対象Tが遠ざかったか近づいたか何れの移動状態であるのかを、より確実に判定することが可能となる。すなわち、λ/4を超える変位も計測可能にすることができる(図5参照)。
【0044】
図4は本実施形態に係る微小移動検出装置Eにおける位相差に対する位相検出器17の出力を示す特性図である。図1、図4に示すように、本装置Eにおける測距対象Tに対するセンサ10の位置は、初期的には位相差が0〜180°(直線増加領域)の中間位置つまり90°となるように設定される。この状態において、測距対象Tがセンサ10に対して近づく方向あるいは遠ざかる方向に微小移動すると、位相差は90°から増大あるいは減少し、検出信号の値は位相検出特性に沿って直線的に増大あるいは減少することになる。
【0045】
例えば、測距対象Tが近づく方向に微小移動することにより位相差が大きくなって90°→135°に変化すると、マイコン3は、位相切換器17に対して位相切換信号S8を出力して低周波受信信号S4の位相を90°だけ切換させる。この結果、低周波送信信号S6の位相は切換えないので、低周波送信信号S6と低周波受信信号S4との位相差は135°→45°に変化する。このような位相切換器17による低周波受信信号S4の位相切換を行った場合、位相切換器17における45°の位相差は、低周波受信信号S4の位相切換によって135°から遷移したものなので、マイコン3は、位相切換器14における45°の位相差を135°(=実位相差)と認識する。
【0046】
このような低周波受信信号S4の位相切換は、前記切換後において測距対象Tが近づく方向にさらに微小移動して位相差が再び135°に到達した場合にも繰り返され、この場合に、マイコン3は、2回目の位相切換なので、切換後の位相差を135°+90°=225°と認識する。すなわち、マイコン3は、位相切換器17の検出信号S9が示す位相差に位相切換の回数に90°を乗算した位相差を加味した位相差を実位相差として認識する。このことは、測距対象Tが遠ざかる方向に微小移動して位相差が小さくなる場合も同様である。
【0047】
図4に示したように、位相検出器17の位相差特性は、直線増加範囲(0°〜180°)と直線減少範囲(180°〜360°)とから形成されているので、180°を中心として対称な関係にある位相差。例えば90°と250°では検出信号S7の値が同一であり、よって検出信号S7の値から両位相差を識別することができない。したがって、直線増加範囲と直線減少範囲とを跨って位相差を検出することはできず、直線増加範囲あるいは直線減少範囲の何れかのみを用いざるを得ない、つまり位相差の検出範囲は0〜180°あるいは180°〜360°に限定される。
【0048】
しかしながら、本装置Eによれば、上述したように位相切換器17による低周波受信信号S4の位相切換およびマイコン3における当該位相切換に応じた実位相差の認識を行うことによって位相差の検出範囲を原理的に無制限とすることができる。したがってλ/4を超えて移動する移動距離△Zであっても確実に計測できる。
【0049】
図5は本実施形態に係る微小移動検出装置Eにおける移動距離△Zに対する位相検出器17の出力S7を示す特性図である。本装置Eにおいて、センサ10に対するレピータ20の位置が前後に移動した時、センサ10へ入力する反射波Yの位相が変化することになり、移動距離△Zに対する位相検出器17の出力S7は、図5に示すように、山と谷が繰り返し連続するように変化する。この出力S7から微小な移動距離△Zを求めることは、図5に示す特性図の直線的な傾斜をトレースできることからも容易である。また、[nλ/4]をはるかに超えて大きく移動する移動距離△Zであっても、ほぼ継続的に観測結果を記録することにより、図5に示す山と谷を含む折れ線をトレースすれば正確に計測できる。
【0050】
また、本装置Eにおけるセンサ10は、連続動作または間欠動作により位相ずれを観測するようにタイミング制御が可能な制御手段4と、その制御手段4に制御されることにより位相ずれの観測結果を連続記録または間欠記録することが可能な記憶手段5と、マイコン3の機能として備えている。これらの制御手段4および記憶手段5を駆使することにより、図5に示す山と谷を、マイコン3内部の数値演算としてトレースすることが可能である。
【0051】
すなわち、制御手段4が観測タイミングを制御することにより、センサ10を連続動作または間欠動作させる。そして、センサ10は位相ずれの観測結果を記憶手段5に連続記録または間欠記録する。そうすることにより、前記距離Zの経時変化を観測することが可能になる。特に、測距対象Tが微小移動する経時変化をほぼリアルタイムに観測し、その経時変化を報知する地滑りセンサに好適である。
【0052】
図6は本実施形態に係る微小移動検出装置Eにおける複数のレピータ20,20,20を時分割運用するタイムチャートである。図6のタイムチャートに示すように、複数のレピータ20,20,20のON時間を、相互にずらすことにより、1台のセンサ10で異なる複数の観測対象を観測することが可能である。
【0053】
なお、複数のレピータ20,20,20に対し、各別のON時間を相互にずらす手段として、投射波Xの搬送波の周波数fを各レピータ20,20,20別に異なる割り当てを設定する。そして、割り当てられた周波数fの投射波Xを受信したレピータのみが起動するものとする。このとき、投射波Xの周波数を僅かずつずらして投射することにより、複数のレピータ20,20,20を効率良く時分割運用する。
【0054】
このように本装置Eを運用すれば、効率的にしてさらなる実用性を高めることが可能である。詳しくは、レピータ20,20,20のON時間には数10Wの電力消費があり、しかも、必ずしも連続動作させる必要はないのである。例えば本装置Eを地滑り監視用に用いるのであれば、広範囲な観測対象となる危険地帯のうち、局所的な危険箇所別にそれぞれ1台ずつのレピータ20,20,20が5分おきに数秒間だけ間欠動作するように、相互にずらしたON時間の設定があれば実用的かつ効率的である。
【0055】
本装置Eによれば、電波反射体として高価なルーネベルグレンズを用いることなく、λ/4を超える変位も計測可能にすることができる。
また、電波反射体としてレピータを用いることで、センサの送受信効率を向上させるので、小電力、遠距離間での計測が可能となる。
さらに、位相切換器により、電気的に位相変化を発生させることができるので、センサを機械的に移動させる必要がなくなる。
【0056】
なお、本発明に係る微小移動検出装置Eを、建設現場等において測距儀Dとして用いた場合にも効果的であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施形態(本実施形態)に係る測距儀またはその測距儀を用いた微小移動検出装置の利用状況の説明図である。
【図2】本実施形態に係る微小移動検出装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本実施形態に係る微小移動検出装置の動作原理を示す模式図である。
【図4】本実施形態に係る微小移動検出装置における位相差に対する位相検出器の出力を示す特性図である。
【図5】本実施形態に係る微小移動検出装置における移動距離に対する位相検出器の出力を示す特性図である。
【図6】本実施形態に係る微小移動検出装置におけるレピータを複数で時分割運用するタイムチャートである。
【符号の説明】
【0058】
1,2…ミキサ
3…マイコン(マイクロコンピュータ)
4…制御手段
5…記憶手段
10…主局
11…高周波発振器
14…送受信アンテナ
15…局部発振器
16…位相切換器
17…位相検出器
20,20,20,20…中継局
D…測距儀
E…微小移動検出装置
P…測距基準点
S1,S1′…送信信号 S2…局部発振信号
S4…低周波送信信号
S3…受信信号
S4…低周波受信信号
S5,S6…低周波送信信号
S7…位相差(出力)信号
S8…制御信号
T…測距対象
X…投射波
Y…反射波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測距基準点に設置され該測距基準点から測距対象へ送信したマイクロ波の波長を有する投射波に対し該投射波が測距対象に反射して戻った反射波の遅延によって生ずる位相ずれを検出することにより測距対象の移動距離を測定する主局と、
前記測距対象上に配設される反射手段として受信した前記投射波を増幅した後に前記主局へ送り返す中継局と、を備えたことを特徴とする微小移動検出装置。
【請求項2】
前記主局は連続動作または間欠動作により前記位相ずれを観測するようにタイミング制御が可能な制御手段と、
前記制御手段に制御されることにより前記位相ずれの観測結果を連続記録または間欠記録することが可能な記憶手段と、を備えたことを特徴とする請求項1に記載の微小移動検出装置。
【請求項3】
前記主局には、
前記投射波を発生する高周波発振器と、
前記投射波を前記中継局まで投射し前記反射波を捕らえる送受信アンテナと、
周波数変換用の局部発振信号を発生する局部発振器と、
前記局部発振信号を用いて前記投射波と同一の送信信号を低周波送信信号に周波数変換するミキサと、
前記局部発振信号を用いて前記反射波と同一の受信信号を低周波受信信号に周波数変換するミキサと、
前記低周波送信信号と前記低周波受信信号との位相差を検出する位相検出器と、
該位相検出器の検出信号に基づいて前記測距対象の移動状態を判定する判定手段と、を備えたことを特徴とする請求項2に記載の微小移動検出装置。
【請求項4】
前記判定手段の判定結果に基づく制御信号により低周波送信信号あるいは低周波受信信号のいずれか一方を所定の位相差分だけ切換える位相切換器をさらに備え、
前記判定手段は、前記位相検出器の検出信号が所定範囲を超えた時、特定の制御信号を用いて前記位相切換器を制御することにより前記低周波送信信号あるいは低周波受信信号のいずれか一方を所定の位相差分だけ切換えさせ、当該位相差を加味して測距対象の移動状態を判定することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の微小移動検出装置。
【請求項5】
前記中継局として、複数の中継局のON時間を相互にずらすことを特徴とする請求項2ないし請求項4の何れか1項に記載の微小移動検出装置。
【請求項6】
前記複数の中継局別にON時間を相互にずらす手段として前記投射波の周波数を各中継局別に異なる設定し、設定された周波数の前記投射波を受信した中継局のみが起動することを特徴とする請求項5に記載の微小移動検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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