説明

微生物センサーおよびその製造方法

【課題】感度よく、複数種の微生物の存在を同時的に検出できる微生物センサー及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】微生物センサー100は、被検体中の微生物152の存在を検出する微生物センサー100であって、電極121と、抗生物質41とを有し、抗生物質41は、電極121の表面に自己組織化単分子膜2を介して固定化されている。
微生物センサー100の製造方法は、抗生物質41を含む複合機能分子4を用意する第1の工程と、複合機能分子4を電極121の一方の面側に供給して複合機能分子4を電極121表面に固定化する第2の工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物センサーおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
飲食品、医薬品、化粧品等においては、微生物汚染の有無の判定を目的として微生物の菌種同定及び菌数測定が行われている。
従来、検体中の菌数、例えば、火落ち菌数を定量する方法としては、主に寒天培地に菌含有溶液を散布して数日間培養した後、発現するコロニー数を目視あるいは検出器でカウントする。その結果から逆算することにより求める方法が行われている。
また、菌種を同定する方法としては、主に寒天培地に特定菌がコロニーを形成すると特定の色を発色するような添加物を培地に添加して、その発色により同定する方法等が一般に行われている。
【0003】
しかしながら、従来の寒天培地で培養する方法においては、約24〜120時間と長時間の培養を必要とする。また、培地の作製、菌液の調整、菌液の培地への散布、培養条件検討及びコロニーカウント等その実施には熟練を要する。そのため、より迅速かつ簡便な測定法が望まれている。
また、最近では、電気化学反応、遺伝子を利用した検出方法、免疫反応、ATPの発光等を用いる方法が考案されている。
【0004】
しかしながら、電気化学反応、遺伝子を利用した検出方法、免疫反応、ATPの発光等を用いる方法においては、いずれも前培養や操作に熟練を必要とする。また、検出感度の問題や装置の価格等の問題等があり、前述の寒天培地を用いた培養法に置き換わっていない。
このように、菌を簡単にかつ高感度に検出できる測定手法および原理の開発が、酒類のより高い品質管理の点から強く望まれている。
【0005】
一方で、電極表面への微生物の結合で生じる周波数の変化により当該微生物を測定する方法において、電極表面に抗微生物抗体を固定化した水晶振動子を用いる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法は、測定感度が低く、実用化されるに至っていない。
また、測定感度を高める目的で電極表面にプロテインA又はプロテインGを介して抗微生物抗体を固定化した水晶振動子微生物センサーが提案されている(例えば、特許文献2参照)。このセンサーは、複数種の微生物を同時的に測定したいという目的に際しては適当ではない。
さらに、試料に存在する目的微生物を特異的に捕捉する物質を結合した基板材を備え、該基板材上に捕捉された目的微生物を光学的に検出する装置からなる微生物の迅速検出装置が提案されている(例えば、特許文献3参照)。この方法も、複数種の微生物を同時的に測定したいという目的に際しては適当ではない。
【0006】
【特許文献1】特開昭62−64934号
【特許文献2】特開2002−340766号
【特許文献3】特開2005−172680号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、感度よく、複数種の微生物の存在を同時的に検出できる微生物センサーおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の微生物センサーは、被検体中の微生物の存在を検出する微生物センサーであって、
電極と、抗生物質とを有し、前記抗生物質は、前記電極の表面に自己組織化単分子膜を介して固定化されていることを特徴とする。
これにより、微生物が抗生物質に結合するので、複数種の微生物を高感度に検出することができる。
【0009】
本発明の微生物センサーでは、前記自己組織化単分子膜は、前記電極の表面に結合し得るスルフィド基、ジスルフィド基またはメルカプト基を含み、当該自己組織化単分子膜において前記電極の表面に結合していることが好ましい。
これにより、電極表面に自己組織化単分子膜が効率的に形成するので、抗生物質を自己組織化単分子膜を介して電極表面に容易に固定化することができる。
本発明の微生物センサーでは、前記自己組織化単分子膜は、ストレプトアビジンと結合するビオチンを有するものであることが好ましい。
これにより、抗生物質を自己組織化単分子膜を介して電極表面に効率的に固定化することできる。
【0010】
本発明の微生物センサーでは、前記抗生物質を含む複合機能分子を有し、
当該複合機能分子は、前記抗生物質に結合するカルボキシル基、アミド基、エーテル基、エステル基またはチオエステル基を有することが好ましい。
これにより、抗生物質が確実に結合した複合機能分子を得ることができる。
本発明の微生物センサーでは、前記複合機能分子は、重合性基を含むものであることが好ましい。
これにより、重合性基に機能性分子などを結合することができるので、より高感度に微生物の存在を検出することができる。
【0011】
本発明の微生物センサーでは、前記複合機能分子は、ストレプトアビジンと結合するビオチンを含むものであることが好ましい。
これにより、ストレプトアビジンに2つの複合機能分子が結合するので、より高感度に微生物の存在を検出することができる。
本発明の微生物センサーでは、前記抗生物質は、抗菌剤または抗ウイルス剤で構成されるものであることが好ましい。
これにより、高感度に細菌またはウイルスの存在を検出することができる。
【0012】
本発明の微生物センサーでは、前記抗菌剤は、β−ラクタム系抗生物質で構成されるものであることが好ましい。
これにより、抗生物質が細菌と効率的に結合するので、感度よく、複数種の細菌の存在を検出することができる。
本発明の微生物センサーでは、前記β−ラクタム系抗生物質は、ペニシリンで構成されるものであることが好ましい。
これにより、抗生物質が細菌とより効率的に結合するので、より感度よく、複数種の細菌の存在を検出することができる。
【0013】
本発明の微生物センサーでは、前記抗生物質と前記微生物との結合で生じる周波数の変化により前記微生物の存在を検出するものであることが好ましい。
これにより、簡易、迅速かつ高感度に複数種の微生物の存在を検出することができる。
本発明の微生物センサーでは、前記抗生物質と前記微生物との結合で生じるインピーダンスの変化により前記微生物の存在を検出するものであることが好ましい。
これにより、簡易、迅速かつ高感度に複数種の微生物の存在を検出することができる。
【0014】
本発明の微生物センサーの製造方法は、抗生物質を含む複合機能分子を用意する第1の工程と、
前記複合機能分子を電極の一方の面側に供給して前記複合機能分子を前記電極表面に固定化する第2の工程とを有することを特徴とする。
これにより、複合機能分子と電極の一方の面側とを接触するだけでセンサーが得られるので、簡易かつ迅速に微生物センサーを得ることができる。
【0015】
本発明の微生物センサーの製造方法では、前記複合機能分子は、前記抗生物質と反対側の末端にビオチンを有することが好ましい。
これにより、ストレプトアビジンを用いた場合に、該ストレプトアビジンにビオチンを強固に結合することができる。
本発明の微生物センサーの製造方法では、前記第2の工程において、前記複合機能分子を固定化する前に、ビオチンを含む自己組織化単分子膜を形成した後、当該自己組織化単分子膜をストレプトアビジンで処理することが好ましい。
これにより、自己組織化単分子膜上のストレプトアビジンと複合機能分子のビオチンとが強固に結合するので、安定な微生物センサーを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の微生物センサーおよび微生物センサーの製造方法について、図を用いて詳細に説明する。
<第1実施形態>
1.微生物センサー
図1は、本実施形態の微生物センサーを測定装置に装着した状態を示す模式図(斜視図)、図2は、図1に示す微生物センサーを模式的に示す平面図、図3は、図2に示す微生物センサーのA−A線断面図、図4は、図3に示すA−A線断面図の部分拡大図である。
なお、以下の説明では、図2中の紙面手前側を「上」、紙面奥側を「下」と言う。また、図3および図4中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0017】
図1に示す測定装置(電子機器)101は、微生物センサー100と、微生物センサー100で得られた電流値(インピーダンス)を解析する処理回路200を備えた演算装置102と、微生物センサー100を装着するコネクタ131と、処理回路200とコネクタ131とを接続する配線132とを有する。
微生物センサー100は、図2に示すように、基板120上に、作用電極121、対向電極122および参照電極123を備える検出部110を有している。
【0018】
これらの各電極121、122、123は、それぞれ独立して、配線130、コネクタ131および配線132を介して、処理回路200と電気的に接続されている。また、微生物センサー100は、コネクタ131において着脱可能となっている。
また、検出部110以外の基板120上の範囲は、図3に示すように、絶縁膜160で覆われている。すなわち、基板120上に絶縁膜160が設けられ、検出部110は、絶縁膜160の一部に設けられた開口部165から露出している。
【0019】
このような微生物センサー100は、図3に示すように、基板120と絶縁膜160とで画成される試料供給空間150に、液体試料151を供給することにより、作用電極121上に設けられた後述する反応層1と液体試料151とが接触する。そして、図4に示すように、液体試料151中の微生物152と反応層1とが反応することにより、電流値が変化する。これにより、この電流値と電圧とからインピーダンスの変化に基づいて、液体試料151中の微生物152の量を測定することができる。
【0020】
ここで、液体試料(被検体)151としては、例えば、血液、尿、汗、リンパ液、髄液、胆汁、唾液等の体液や、これらの体液に各種処理を施した処理済み液、清涼飲料水やお酒などの飲食品、医薬品、化粧品等が挙げられる。
また、液体試料151中に含まれる微生物152は、その細胞表面5で後述する抗生物質41と反応することにより、抗生物質41と結合するものである。
このような微生物152としては、例えば、乳酸菌、火落ち菌、ブドウ球菌のような細菌、インフルエンザウイルス、ノロウイルスなどのようなウイルス、酵母やカビなどのような真菌類などが挙げられる。
【0021】
基板120は、微生物センサー100を構成する各部を支持するとともに、前述した各電極121、122、123および配線130を、互いに絶縁するものである。
基板120の構成材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PES)、ポリイミド(PI)等の各種樹脂材料、石英ガラスのような各種ガラス材料、アルミナ、ジルコニアのような各種セラミックス材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
作用電極121の構成材料としては、例えば、金、銀、銅、白金またはこれらを含む合金のような金属材料、ITO(インジウム−酸化スズ)のような金属酸化物系材料、グラファイトのような炭素系材料等が挙げられる。これらのうち、金属材料であることが好ましく、金または銀であることがより好ましい。作用電極121の構成材料が金または銀であることにより、後述する自己組織化単分子膜2を構成する有機分子21と接触するだけで自己組織化単分子膜2を形成できるので、より簡単に微生物センサー100を製造することができる。
【0023】
作用電極121の上側には、反応層1が設けられている。
図3に示すように、反応層1の一部は、試料供給空間150に露出している。そして、試料供給空間150に液体試料151を供給することにより、液体試料151を反応層1に接触させることができる。
対向電極122は、作用電極121との間に電圧を印加する電極である。試料供給空間150に液体試料151を供給した状態で、作用電極121と対向電極122との間に、作用電極121側が高電位となるように電圧を印加すると、微生物152と抗生物質41との結合により、電流値の変化を確実に捉えることができる。
【0024】
対向電極122の構成材料としては、前述の作用電極121の構成材料と同様の材料が挙げられる。
また、対向電極122の面積は、作用電極121の2倍以上であるのが好ましく、10倍以上であるのがより好ましい。これにより、より高い精度で電流値を測定することができる。
【0025】
参照電極123は、対向電極122との間に電圧を印加する電極である。試料供給空間150に液体試料151を供給した状態で、参照電極123と対向電極122との間に電圧を印加する。そして、これらの電極間に流れる電流値と、前述の作用電極121と対向電極122との間に流れる電流値とを比較することにより、微生物152と抗生物質41との反応により生じた電流値を、より高い精度で測定することができる。
参照電極123の構成材料としては、例えば、銀−塩化銀、水銀−塩化水銀等が挙げられる。
【0026】
また、前述の作用電極121、対向電極122、参照電極123、および配線130は、導電性材料粉末の集合体で構成されていてもよい。これにより、これらの電極121、122、123および配線130を、各種印刷法を用いて容易に形成することができる。その結果、微生物センサー100の製造工程を大幅に簡素化することができ、微生物センサー100の低コスト化を図ることができる。
作用電極121、対向電極122、参照電極123の平均厚さは、特に限定されないが、10〜500nmであることが好ましく、50〜300nmであることがより好ましい。
【0027】
絶縁膜160は、前述したように、検出部110付近に開口する開口部165を有し、この開口部165により試料供給空間150を形成している。
このような絶縁膜160は、絶縁性の材料で構成されている。絶縁膜160の種類は特に限定されず、有機材料や無機材料のいずれも用いることができる。
有機材料としては、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルフェノール、ポリイミド、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテートなどの高分子化合物が挙げられる。これらは、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0028】
無機材料としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化コバルトなどの金属酸化物、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ジルコニウム、窒化セリウム、窒化亜鉛、窒化コバルト、窒化チタン、窒化タンタルなどの金属窒化物、チタン酸バリウムストロンチウム、ジルコニウムチタン酸鉛などの金属複合酸化物が挙げられる。これらは、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
このような絶縁膜160の平均厚さは、特に限定されないが、10〜5000nm程度であるのが好ましく、50〜1000nm程度であるのがより好ましい。絶縁膜160の厚さを前記範囲とすることにより、各電極121、122、123同士および配線130同士を、確実に絶縁することができる。
【0029】
さて、本実施形態の微生物センサー100は、作用電極121表面側に微生物152が結合することにより微生物152の存在の有無を検出するセンサーである。この微生物センサー100では、作用電極121に抗生物質41が自己組織化単分子膜2を介して固定化され、反応層1を形成している。
すなわち、図4に示す反応層1は、作用電極121表面に自己組織化単分子膜2が形成されている。この自己組織化単分子膜2(ビオチン22)上には、ストレプトアビジン3が吸着(結合)している。そして、このストレプトアビジン3に複合機能分子4のビオチン42が結合している。以下、各部の構成について説明する。
【0030】
自己組織化単分子膜2は、作用電極121を保護し、抗生物質41を作用電極121に固定化(固相化)するためのものである。
この自己組織化単分子膜2は、作用電極121の上面と結合する結合基を有する有機分子21で構成されている。
この結合基は、本実施形態では、スルフィド基で構成されるものであるが、ジスルフィド基またはメルカプト基などであってもよい。
このような有機分子21としては、例えば、次のような化合物(I)〜(IV)に示す化合物が挙げられる。
【0031】
【化1】

(式中、nは1〜15を示す。)
【0032】
【化2】

(式中、nは1〜15を示す。)
【0033】
【化3】

(式中、nは1〜15を示す。)
【0034】
【化4】

(式中、nは1〜15を示す。)
【0035】
これらの化合物のうち、有機分子21は化合物(I)および(II)であることが好ましい。
このように分子の一端にメルカプト基を有することにより、メルカプト基が作用電極121と容易に反応し、スルフィド結合(金属−チオール結合)を形成するので、簡単かつ迅速に作用電極121上に有機分子21を結合することができる。
【0036】
また、他端にビオチン22を有することにより、該ビオチン22を後述するストレプトアビジン3で処理すれば、2つのビオチン22がストレプトアビジン3と結合できる。このため、図4に示すように、ストレプトアビジン3に複合機能分子4のビオチン42を2つ結合させることができる。その結果、1つのストレプトアビジン3からビオチン42を介して2つの抗生物質41を結合させることができ、微生物センサー100としての感度を向上させることができる。
【0037】
また、化合物(III)および(VI)は、カルボキシル基またはスクシンイミドなどの活性基を有するので、抗生物質を41を有機分子21(自己組織化単分子膜2)に直接結合することができる。
以上のような有機分子21が作用電極122に結合することにより、図4に示すように、自己組織化単分子膜2が形成される。なお、図4中のBは、上記化合物(II)のビオチン22を意味する。
【0038】
自己組織化単分子膜2の上端部に位置するビオチン22には、ストレプトアビジン3が結合(吸着)している。ストレプトアビジン3は、一般に4つのアビジンと結合する。本実施形態では、ストレプトアビジン3は、その下端で自己組織化単分子膜2の2つのビオチン22と、上端で複合機能分子の2つのビオチン42と結合する。
ストレプトアビジン3の上端側には、複合機能分子4が結合している。この複合機能分子4は、抗生物質41とビオチン42とを有している。そして、複合機能分子4は、ストレプトアビジン3に結合することで、微生物152を検出する機能を有する。
【0039】
抗生物質41は、前述したように、液体試料151中の微生物152の細胞表面5と結合する。微生物152が抗生物質41に結合すると、例えば、微生物152の表面電気等に基づいて、反応層1における荷電量が変化する。これにより、反応層1のインピーダンスが変化する。
このような抗生物質41としては、微生物152の種類によって異なるが、測定対象である微生物152の細胞表面5に作用するものであればよい。
【0040】
微生物152が細菌である場合には、例えば、抗菌剤が用いられる。該抗菌剤としては、例えば、β−ラクタム系、グリコペプチド系などの抗菌剤が挙げられる。これらのうち、特にβ−ラクタム系の抗菌剤が好ましい。
細菌の細胞壁のペプチドグリカン生合成においては、トランスペプチダーゼおよびカルボキシペプチダーゼが直鎖状ペプチドグリカンに作用し、末端のD−アラニンが離脱するとともにペプチドによる架橋が形成される。このとき、β−ラクタム系の抗菌剤は、これらの酵素に作用し、架橋形成を阻止する。
【0041】
すなわち、直鎖状ペプチドグリカンのペプチド末端のD−アラニルアラニンの立体構造とβ−ラクタム系の抗菌剤の立体構造とが類似しているため、β−ラクタム系の抗菌剤はトランスペプチダーゼと結合し、その活性中心をアシル化することによって不活性化する。
したがって、抗生物質41がβ−ラクタム系の抗菌剤であることにより、抗生物質41が細菌の細胞壁と効率的に結合する。そのため、液体試料151に含まれる細胞壁を有する種々の細菌(微生物152)の存在を検出することができる。
【0042】
β−ラクタム系の抗菌剤としては、例えば、ベンジルペニシリン(ペニシリンG)、フェノキシメチルペニシリン(ペニシリンV)、ペニシリンN、ペニシリンO、メチシリン、クロキサシリン、アンピシリン、アモキシシリン、ピペラシリン、オキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、フェネチシリン、プロピシリン、バカンピシリン、タランピシリン、テモシリン、アパラシリン、ヘタシリン、シクラシリン、カルベニシリン、チカルシリン、メズロシリン、スルタミシリン、アゾシリン、ビブメシリナムまたはスルベニシリンなどのペニシリン系、セファロジン、セファピリン、セファロリジン、セファゾリン、セファレキシン、セファラジ、セファドロキシル、セフマンドール、セフォニシド、セフォラニド、セファクロル、セフィキシム、セフプロジル、セフトリアキソン、セフタジシム、セホキシチン、セフォタテン、セフメタゾール、セフロキシム、セフチゾキシム、セフォタキシム、セフブペラゾン、セフミノクス、セフスロジン、セフォペラゾン、セフチブテン、セフィキシム、セフェタメット、セフェピム、セフピロム、セフェム系、メシリナム、キサラクタム、ノカルジシン、スルファゼシンなどが挙げられる。
【0043】
これらのうち、ペニシリン系であることが好ましく、フェノキシメチルペニシリン(ペニシリンV)であることがより好ましい。
ペニシリン系の抗菌剤、特にペニシリンVは、前述したトランスペプチダーゼおよびカルボキシペプチダーゼの活性をより強く阻害する。そのため、ペニシリン系の抗菌剤は、各種細菌と容易かつ強固に結合することができる。
【0044】
また、微生物152がウイルスである場合は、例えば、抗ウイルス剤が用いられる。該抗ウイルス剤としては、例えば、ノイラミターゼ阻害剤、オセルタミビル、リン酸オセルタミビル、ザナミビル、アマンタジン、リマンタジンなどが挙げられる。
このような抗生物質41を含む複合機能分子4は、例えば、次に示すような化合物(V)、(VI)が挙げられる。
【0045】
【化5】

(式中、nは1〜15を示す。)
【0046】
【化6】

(式中、nは1〜15を示す。)
【0047】
これらの複合機能分子4は、その末端に抗生物質(ペニシリン)41がアミド結合で結合しているので、脱水反応により容易に複合機能分子4を得ることができる。
また、抗生物質41の反対側の端部にビオチン42を有するので、当該ビオチン42がストレプトアビジン3に共有結合に匹敵する強さで強固に結合することができる。その結果、ストレプトアビジン3、自己組織化単分子膜2を介して抗生物質41を有する複合機能分子4を作用電極121に確実に固定化することができる。
【0048】
また、図4に示すように、ストレプトアビジン3は2つのビオチン42と結合できるので、ストレプトアビジン3に2つの複合機能分子4を結合することができる。その結果、微生物152に対する検出感度を向上することができる。
特に、化合物(V)は、抗生物質41とビオチン42との間にポリエチレングリコール(PEG)鎖を有する。そのため、抗生物質41が、作用電極121から所定距離離間し、微生物152の検出感度を高めることができる。
複合機能分子4の他の構成例として、例えば、下記に示す化合物(VII)であってもよい。
【0049】
【化7】

(式中、nは1〜15を示す。)
【0050】
化合物(VII)は、自己組織化単分子膜2に前記化合物(III)または(IV)で表される有機分子21を用いた場合に、化合物(VII)のアミノ基と化合物(III)のカルボキシル基または化合物(IV)のスクシンイミドとで容易に反応することができる。そのため、複合機能分子4を自己組織化単分子膜2を介して作用電極121に容易に固定化することができる。
なお、複合機能分子4中の抗生物質41に結合する基としては、アミド基に限らず、カルボキシル基、エーテル基、エステル基またはチオエステル基などであってもよく、結合する抗生物質41の種類によって適宜選択される。
【0051】
複合機能分子4には、アクリル基、メタクリル基などの重合性基を含んでいてもよい。これにより、重合性基に別途フェロセンなどの機能性物質など種々の化合物を結合することができる。このため、微生物センサー100に目的に応じた種々の機能を持たせることができる。
例えば、この重合性基に抗生物質41とは異なる抗生物質を結合すれば、抗生物質41以外に、複数の抗生物質が結合するので、微生物152に対する検出感度が向上する。
【0052】
以上説明したように、反応層1が図4のように構成されることにより、前述した効果を有する。また、抗生物質41が、例えば、抗菌剤であるペニシリンVで構成されている場合、ペニシリンVが細菌の細胞壁に結合し、種々の細菌を同時に検出することができる。その結果、微生物センサー100の感度が向上する。
また、本実施形態の反応層1には、図4に示すように、前記化合物(I)がスルフィド結合で作用電極121に結合している。これにより、自己組織化単分子膜2において、ビオチン22同士の間に適度の間隔が生じる。したがって、ストレプトアビジン3に複合機能分子4が2つ結合しても、複合機能分子4同士の立体障害を防止または低減できる。その結果、各抗生物質41が確実に機能し、微生物152を補足することができる。
なお、反応層1には、電子を後述する作用電極121に媒介するメディエータ(媒介体)を含むのが好ましい。メディエータを電子移動の媒介とすることにより、反応層1から電子を効率よく移動させ、検出部110から、より高い感度で電流を取り出すことができる。
【0053】
このメディエータとしては、例えば、フェリシアン化カリウム、フェロセンまたはフェロセン誘導体、ニッケロセンまたはニッケロセン誘導体、ピリジンまたはピリジン誘導体、キノンまたはキノン誘導体(例えばp−ベンゾキノン、ピロロキノリンキノン等)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)のようなフラビン誘導体、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)のようなニコチンアミド誘導体、フェナジンメトサルファート、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール、ヘキサシアノ鉄(III)酸塩、オクタシアノタングステンイオン、ポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
2.微生物センサーの製造方法
次に、図3に示す微生物センサーの製造方法について説明する。
図5および図6は、それぞれ、図3に示す微生物センサーの製造方法を説明するための図(縦断面図)である。
なお、以下の説明では、図5および図6中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
本実施形態の微生物センサー100の製造方法は、[1]複合機能分子4を合成するの工程と、[2]基板120上に電極121、122、123を形成する工程と、[3]検出部110の領域以外に絶縁膜160を形成する工程と、[4]作用電極121上に反応層1を形成する工程とを有している。以下、これらの各工程について、順次説明する。
【0055】
[1]複合機能分子合成工程
<1>まず、抗生物質41とビオチン含有化合物とを用意する。
抗生物質41の濃度としては、0.1〜10mol/Lであることが好ましく、0.5〜5mol/Lであることがより好ましい。
また、ビオチン含有化合物の濃度としては、0.1〜10mol/Lあることが好ましく、0.5〜5mol/Lであることがより好ましい。
抗生物質41およびビオチン含有化合物の濃度が前記範囲であることにより、抗生物質41とビオチン含有化合物とが過不足なく反応するので、複合機能分子4を効率的に得ることができる。
【0056】
<2>次に、抗生物質41とビオチン含有化合物とを反応させて複合機能分子4を合成する。
抗生物質41とビオチン含有化合物とを反応する時間は、0.1〜10時間であることが好ましく、0.5〜3時間であることがより好ましい。
抗生物質41とビオチン含有化合物とを反応する温度は、0〜80℃であることが好ましく、20〜60℃であることがより好ましい。
【0057】
抗生物質41とビオチン含有化合物とを反応する時間、温度が前記範囲であることにより、抗生物質41とビオチン含有化合物とが過不足なく反応するので、複合機能分子4を収率よく得ることができる。
本実施形態では、例えば、下記式に示すような反応により、複合機能分子(ビオチン−ペニシリン複合機能分子)4を得ることができる。
【0058】
(式1)

(式中、nは1〜15を示す。)
【0059】
このような複合機能分子4を得ることにより、ストレプトアビジン3と複合機能分子4中のビオチン42とが簡単に結合するので、作用電極121に自己組織化単分子膜2を介して抗生物質41を容易に固定化することができる。
また、抗生物質41が少なくともビオチン42−PEG鎖を介して作用電極121に結合することができるので、抗生物質41は、作用電極121と離間し、より感度よく液体試料151中の微生物152を検出することができる。
本工程の他の構成例として、下記式に示すような反応により、複合機能分子4を得ることもできる。
【0060】
(式2)

(式中、nは1〜15を示す。)
【0061】
このような反応では、ビオチン含有化合物を使用していないので、使用する原料を簡単に得ることができ、結果として、複合機能分子4を容易に得ることができる。
また、本工程の他の構成例として、下記式に示すような反応により、複合機能分子4を得ることもできる。
【0062】
(式3)

(式中、nは1〜15を示す。)
(Xは、臭素、塩素、ヨウ素などのハロゲン、catは塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化銅などの触媒を示す。)
【0063】
このような反応により、抗生物質41であるペニシリンVにメルカプト基が直接結合しているので、複合機能分子4をより一層簡単に得ることができる。
【0064】
[2]電極形成工程
<1>まず、基板120を用意する。
そして、図5(a)に示すように、基板120上に金属膜(金属層)9を形成する。
これは、例えば、プラズマCVD、熱CVD、レーザーCVDのような化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング(低温スパッタリング)、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、溶射法、ゾル・ゲル法、MOD法、金属箔の接合等により形成することができる。
【0065】
<2>この金属膜9上に、フォトリソグラフィー法により、作用電極121、対向電極122、参照電極123および配線130の形状に対応する形状のレジスト層を形成する。このレジスト層をマスクとして用いて、金属膜9の不要部分を除去する。
この金属膜9の除去には、例えば、プラズマエッチング、リアクティブイオンエッチング、ビームエッチング、光アシストエッチング等の物理的エッチング法、ウェットエッチング等の化学的エッチング法等のうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0066】
<3>その後、レジスト層を除去することにより、図5(b)に示すように、基板120上に、作用電極121、対向電極122、参照電極123および配線130(図示せず)が得られる。
なお、これらの作用電極121、対向電極122、参照電極123および配線130(図示せず)は、それぞれ、例えば、導電性粒子を含有するコロイド液(分散液)、導電性ポリマーを含有する液体(溶液または分散液)等の液状材料を基板120上に供給して被膜を形成した後、必要に応じて、この被膜に対して後処理(例えば加熱、赤外線の照射、超音波の付与等)を施すことにより形成することもできる。
【0067】
前記液状材料を基板120上に供給する方法としては、例えば、ディッピング法、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット法、マイクロコンタクトプリンティング法等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、特に、インクジェット法(液滴吐出法)を用いるのが好ましい。インクジェット法(液滴吐出法)によれば、作用電極121、対向電極122、参照電極123および配線130を、容易かつ寸法精度よく形成することができる。
【0068】
[3]絶縁膜形成工程
<1>図5(e)に示すように、検出部110の領域に対応した開口部165を有する絶縁膜160を形成する。
まず、所定の絶縁性材料を含む液状材料を調製する。そして、この液状材料を、前記工程[2]で各電極121、122、123および配線130が形成された基板120上に供給する。これにより、図5(c)に示すような絶縁膜160を得る。
【0069】
絶縁膜160を無機材料で構成する場合、絶縁膜160は、例えば、熱酸化法、CVD法、SOG法により形成することができる。また、原材料にポリシラザンを用いることにより、絶縁膜160として、シリカ膜、窒化珪素膜を湿式プロセスで成膜することが可能となる。
絶縁膜160を有機材料で構成する場合、絶縁膜160は、有機材料またはその前駆体を含む液体材料を、基板120上を覆うように塗布した後、必要に応じて、この塗膜に対して後処理(例えば加熱、赤外線の照射、超音波の付与等)を施すことにより形成することができる。有機材料またはその前駆体を含む液体材料を、基板120上へ塗布する方法としては、スピンコート法やディップコート法のような塗布法、インクジェット法やスクリーン法などの印刷法等を用いることができる。
なお、本工程において調製する液状材料には、前述の絶縁性材料の他に、必要に応じて、バインダ等の添加剤を添加することができる。
【0070】
<2>次に、図5(d)に示すように、検出部110を形成すべき領域にマスク170を設置して、絶縁膜160に向けて光を照射する。これにより、絶縁膜160をパターニングする。これにより、図5(e)に示すような絶縁膜160を得る。
なお、絶縁膜160に向けて光を照射した後、必要に応じて、絶縁膜160を洗浄液等で洗浄してもよい。これにより、マスク170の遮光部に対応する領域に存在する絶縁膜160を効率よく除去することができる。
【0071】
[4]反応層形成工程
図5(f)に示すように、作用電極121上に反応層1を形成する。
本工程は、[4−1]作用電極121表面にビオチン22を含む自己組織化単分子膜2を形成する工程と、[4−2]自己組織化単分子膜2をストレプトアビジン3で処理する工程と、[4−3]複合機能分子4をストレプトアビジン3に接触して複合機能分子4をストレプトアビジン3に固定化する工程とを有する。
【0072】
以下、各工程について説明する。
[4−1]自己組織化単分子膜形成工程
本工程では、図4に示すような反応層1の場合を例に、その形成方法を拡大図を用いて説明する。
図6は、作用電極121に反応層1の一部を構成する自己組織化単分子膜2を形成する方法を模式的に示す図である。
【0073】
まず、有機分子21、例えば、前記化合物(I)および(II)を混合した液状材料を調製し、これを作用電極121上に供給する。
この場合、化合物(I)と化合物(II)とは、9.5:0.5〜5.5:4.5の比で用いることが好ましい。このような比で化合物(I)を用いることにより、化合物(II)と化合物(I)とが作用電極121表面に結合したとき、化合物(I)で表される化合物の方が作用電極121上に多く結合する。このため、後述するストレプトアビジン3処理により、ストレプトアビジン3に2つの複合機能分子4が結合しても立体障害を生じることを防止または低減することができる。その結果、複合機能分子4をストレプトアビジン3を介して自己組織化単分子膜2に効率的に結合することができる。
なお、液状材料中には、必要に応じて、架橋剤などを添加してもよい。
化合物(II)の濃度(使用量)は、0.1〜10mol/Lとなるように設定する。
【0074】
化合物(II)の作用電極121表面への供給方法は、前記[2]<3>の液状材料を基板120上に供給する方法と同様の方法で行うことができる。
そして、化合物(II)を含有する液状材料を作用電極121表面へ供給した後、一定時間放置し、洗浄、乾燥することにより、図6(a)に示すように、ビオチン22を含む自己組織化単分子膜2を形成することができる。
【0075】
[4−2]ストレプトアビジン処理工程
ストレプトアビジン3溶液を調製し、これを用いて[4−1]の工程で得られた自己組織化単分子膜2を処理する。すなわち、自己組織化単分子膜2のビオチン22にストレプトアビジン3を吸着させる。
ストレプトアビジン3溶液は、ストレプトアビジン3を緩衝液に溶解して調製する。この緩衝液としては、例えば、Tris緩衝液、Hepes緩衝液、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液などの緩衝液などが挙げられる。
【0076】
ストレプトアビジン3溶液中のストレプトアビジン3の濃度は、0.05〜10mg/mlであることが好ましく、0.1〜5mg/mlであることがより好ましい。
ストレプトアビジン3溶液の自己組織化単分子膜2への供給方法は、前記[2]<3>の液状材料を基板120上に供給する方法と同様の方法で行うことができる。
そして、ストレプトアビジン3溶液を自己組織化単分子膜2へ供給した後、一定時間放置し、洗浄、乾燥することにより、図6の(b)に示すように、自己組織化単分子膜2が処理され、自己組織化単分子膜2のビオチン22にストレプトアビジン3が吸着する。
このように自己組織化単分子膜2をストレプトアビジン3で処理することにより、自己組織化単分子膜2のビオチン22とストレプトアビジン3が共有結合に匹敵する強さで結合する。そのため、ストレプトアビジン3の一端に自己組織化単分子膜2のビオチン22を強固に結合することができる。
【0077】
また、自己組織化単分子膜2をストレプトアビジン3で処理することにより、ストレプトアビジン3は、4つのビオチンと結合することができるので、ストレプトアビジン3の上端に複合機能分子4のビオチン42を2つ結合することができる。
すなわち、図4に示すように、ストレプトアビジン3は、その下端で2つのビオチン22と、上端で2つのビオチン42と結合するので、1つのストレプトアビジン3を介して複合機能分子4を2つ結合することができる。その結果、微生物152の検出感度を一層向上することができる。
【0078】
[4−3]複合機能分子固定化工程
前記第1の工程で得られた複合機能分子4を前記[4−2]でストレプトアビジン3処理された自己組織化単分子膜2(作用電極121の一方の面側)に供給する。
複合機能分子4の供給方法は、前記[2]<3>の液状材料を基板120上に供給する方法と同様の方法で行うことができる。
【0079】
供給する複合機能分子4の濃度は、0.1〜10mol/Lであることが好ましく、0.5〜8mol/Lであることがより好ましい。
そして、一定時間放置した後、洗浄、乾燥する。
これにより、図4に示すように、作用電極121に自己組織化単分子膜2、ストレプトアビジン3を介して抗生物質41が固定化される。
【0080】
本工程の他の構成例として、第1の工程の式2で得られた複合機能分子4を、作用電極121表面に直接供給して該複合機能分子4を作用電極121上に固定化することもできる。この場合、複合機能分子4がSH基を有するので、複合機能分子4を作用電極121上に直接結合することができ、簡単かつ迅速に抗生物質41を作用電極121に固定化することができる。
【0081】
また、本工程の他の構成例として、第1の工程の式3で得られた複合機能分子4を、作用電極121表面に直接供給して該複合機能分子4を作用電極121上に固定化することもできる。この場合、該複合機能分子4のペニシリンVは、ペニシリンV(抗生物質41)のベンゼン環の4位に結合した硫黄原子を介して作用電極121上に固定化される。そのため、ペニシリンVが作用電極121表面に配向性よく固定化され、高感度に微生物152の存在を検出することができる。
以上の工程により、図4に示す微生物センサー100を得ることができる。この微生物センサー100は、医療分野、食品分野、医薬分野、化粧品分野など微生物152を検出し得る種々の分野で用いることができる。
【0082】
3.微生物センサーの動作方法
次に、図1に示す微生物センサー100の動作方法について説明する。
まず、図4に示すように、本発明の微生物センサー100の試料供給空間150に微生物152を含む液体試料151を供給する。
試料供給空間150に液体試料151を供給すると、反応層1と液体試料151とが接触する。反応層1と液体試料151とが接触すると、反応層1の最表面に存在する抗生物質41が液体試料151中に含まれる微生物152の細胞壁のペプチドグリカン生合成に関与する酵素に作用する。そして、抗生物質41は、ペプチドグリカンの架橋形成を阻止する。すなわち、抗生物質41は、細胞壁(細胞表面5)と反応し、結合する。
【0083】
このとき、作用電極121と対向電極122との間に、作用電極121側が高電位となるように電圧を印加しておくと、抗生物質41と微生物152との結合により、電流値が変化し、その変化を処理回路200が検出する。そして、処理回路200は当該検出結果に基づいて所定の処理を行い、インピーダンスを算出する。
以上のような動作により、抗生物質41に微生物152が結合した場合と結合していない場合とで電流値が変化するので、インピーダンスも変化し、液体試料151中の微生物152の量を検出することができる。
【0084】
液体試料151中の微生物152の濃度を測定する場合は、予め濃度既知の微生物152含有液体試料151を段階的に複数調製する。そして、本発明の微生物センサー100を用いて、各濃度の液体試料151中の微生物152を測定する。測定により得られた各液体試料151中の微生物152のインピーダンスを縦軸に、微生物152の濃度を横軸として検量線を作成する。次に、微生物152の濃度未知の液体試料151を前述したように微生物センサー100に供給し、該液体試料151中の微生物152を測定する。そして、測定により得られたインピーダンスと前記検量線とから液体試料151中に存在する微生物152の濃度を定量することができる。
以上のような方法により、微生物152の存在を検出することができ、微生物152の濃度を定量することもできる。
【0085】
<第2実施形態>
図7は、図1に示す微生物センサーの第2実施形態を模式的に示す平面図、図8は、図7に示す微生物センサーのB−B線断面図である。
なお、以下の説明では、図7中の紙面手前側を「上」、紙面奥側を「下」と言う。また、図8中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
以下、第2実施形態の微生物センサーおよびその製造方法について説明するが、それぞれ、前記第1実施形態の微生物センサーおよびその製造方法との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0086】
1.微生物センサー
図7に示す微生物センサー100は、図7、図8に示すように、基板120上に設けられた水晶振動子180と、水晶振動子180を保護する外枠190とを有している。この水晶振動子180は、水晶で構成された圧電体層181と、該圧電体層181の両側の面に設けられた一対の電極182、183とで構成されている。各電極182、183は、配線130、132を介して処理回路200と電気的に接続されている。
【0087】
なお、処理回路200は、発振回路として機能し、周波数をカウントする機能を有する。
また、水晶振動子180は、図8に示すように、外枠190で覆われている。外枠190は、開口部191を有しており、該開口部191において電極182が露出している。この電極182の露出部分の表面に反応層1が形成され、検出部110を構成している。
水晶振動子180は、周波数3〜30MHzのものであることが好ましく、9〜27MHzのものであることがより好ましい。
【0088】
2.微生物センサーの製造方法
本実施形態の微生物センサーの製造方法は、まず、図5(a)、(b)に示す第1実施形態の[2]電極形成工程と同様の方法により、基板120の所定の位置に電極183と配線130とを形成する。
次に、電極183上に水晶板(圧電体層181)を設置し、第1実施形態の[2]電極形成工程と同様の方法により、該水晶板上に電極182を形成する。これにより、水晶振動子180を得ることができる。
次に、水晶振動子180、配線130を保護するように、外枠190を覆う。
そして、開口部191に露出する電極182に第1実施形態と同様の方法により、反応層1を形成する。これにより、図7、図8に示す微生物センサー100を得ることができる。
【0089】
3.微生物センサーの動作方法
このような微生物センサー100は、図7、図8に示すように、基板120と外枠190とで画成される試料供給空間150に、液体試料151を供給することにより、電極181上に設けられた反応層1と液体試料151とが接触する。
反応層1と液体試料151とが接触すると、反応層1の最表面に存在する抗生物質41が液体試料151中に含まれる微生物152の細胞壁のペプチドグリカン生合成に関与する酵素に作用する。そして、抗生物質41は、ペプチドグリカンの架橋形成を阻止する。すなわち、抗生物質41は、細胞壁と反応し、結合する。
【0090】
このとき、電極182、183との間に電圧を印加しておくと、微生物152と抗生物質41との結合により、水晶振動子180が発振する振動周波数が変化し、その変化を処理回路200が検出する。そして、処理回路200は、その検出結果に基づいて所定の処理を行い、周波数を算出する。
このように、微生物152が抗生物質41に結合することによる重量変化を振動周波数の変化に基づいて、液体試料151中の微生物152の存在を検出することができる。
以上のように、液体試料151中の微生物152を測定するのに、水晶振動子180を用いることにより、前述した自己組織化単分子膜形成工程などの工程を不要とし、簡単かつ迅速に微生物センサー100を得ることができる。
【0091】
以上、本発明の微生物センサーについて、図示の各実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。微生物センサーを構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
また、本発明の微生物センサーは、前記各実施形態を組み合わせたものであってもよい。
以下、本発明の微生物センサーの具体的実施例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0092】
〔実施例1〕
1.微生物センサーの製造
<1>まず、ペニシリンVのベンゼン環の4位にアミノ基が導入された化合物とBiotin PEG acid(Polypure社製;37141−1195)とをそれぞれ1mmol用意する。
これらの化合物と、DCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)および無水DMFの混合液20mLとを容器に入れた。そして、下記式に示すように、攪拌しながら50℃で10時間反応した。その後、沈殿物をろ過し、DMFで洗浄した後、真空乾燥した。これにより、ビオチン−ペニシリン複合機能分子を得た。
【0093】
(式4)

(式中、nは11を示す。)
【0094】
<2>次に、樹脂製基板を用意した。そして、この樹脂製基板に金を真空蒸着法により形成した。次に、フォトリソグラフィー法により、作用電極、対向電極、参照電極および配線の形状に対応する形状のレジスト層を形成した。このレジスト層をマスクとして、プラズマエッチング法により、金膜の不要部分を除去した。そして、このレジスト層を除去することにより作用電極、対向電極、参照電極および配線を得た。
【0095】
<3>次に、厚さ400nmの二酸化ケイ素を積層し、絶縁膜を形成した。これに、検出部を形成すべき領域にマスクを設置して、絶縁膜に向けて光を照射した。これにより、絶縁膜を得た。
<4>下記化合物(I)(Polypure社製;11156−0695)と下記化合物(II)で表される化合物(Polypure社製;41151−0895)とを9:1のモル比で1mmol/Lの無水エタノール中に溶かして、1mmol/L混合液を作成した。
【0096】
【化8】

(式中、nは6を示す。)
【0097】
【化9】


(式中、nは8を示す。)
【0098】
そして、該混合液を作用電極の金表面に接触させた。その後、無水エタノールにて洗浄し、窒素乾燥した。これにより、ビオチンもつ自己組織化単分子膜を得た。
<5>次に、この自己組織化単分子膜に30μLのTris緩衝溶液(50mmol/L)を供給し、さらに1mg/mLのストレプトアビジン溶液(Tris緩衝溶液50mmol/L)を10μL(0.25mg/mL)添加し、1時間放置した。放置後、無水エタノールにて洗浄、窒素乾燥した。
これにより、ストレプトアビジン処理された自己組織化単分子膜を得た。
<6><1>で得られたビオチン−ペニシリン複合機能分子を<5>で得られた自己組織化単分子膜を有する作用電極に供給した。1時間放置した後、洗浄、乾燥し、ペニシリンVが固定化された微生物センサーを得た。
【0099】
〔実施例2〕
実施例1において、Biotin PEG acidの代わりに、PEG thiol acid(Polypure社製;37156−0795)を用い、作用電極の金に直接供給した以外は実施例1と同様に行い、微生物センサーを得た。
〔実施例3〕
実施例1において、ビオチン−ペニシリン複合機能分子の代わりに、ペニシリンVチオールを用い、作用電極の金に直接供給した以外は実施例1と同様に行い、微生物センサーを得た。
【0100】
2.評価
<1>乳酸菌の試験菌株を0.01−1.0CFU/mlとなるように希釈して液体試料を調製した。また、乳酸菌を含まないブランク試料も調製した。
<2>この液体試料と実施例1〜3で得られた微生物センサーとを接触した。微生物の検出については、インピーダンスの変化により評価した。
その結果、いずれの微生物センサーにおいても、インピーダンス値がブランク試料のインピーダンス値から20%程度変化し、抗菌剤に各細菌が結合していることが分かった。
したがって、本発明の微生物センサーは、微生物を簡便かつ迅速に、しかも高感度で検出することができるので、関連産業に寄与するところ大である。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の微生物センサーの第1実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示す微生物センサーを模式的に示す平面図である。
【図3】図2に示す微生物センサーのA−A線断面図である
【図4】図3に示すA−A線断面図の部分拡大図である。
【図5】図2に示す微生物センサーの製造方法を説明するための図(縦断面図)である。
【図6】図2に示す微生物センサーの製造方法を説明するための図(縦断面図)である。
【図7】本発明の微生物センサーの第2実施形態を模式的に示す平面図である。
【図8】図7に示す微生物センサーのB−B線断面図である。
【符号の説明】
【0102】
1……反応層 2……自己組織化単分子膜 21……有機分子 22……ビオチン 3……ストレプトアビジン 4……複合機能分子 41……抗生物質 42……ビオチン 5……細胞表面 9……金属膜 100……微生物センサー 101……測定装置 102……演算装置 110……検出部 120……基板 121……作用電極 122……対向電極 123……参照電極 130……配線 131……コネクタ 132……配線 150……試料供給空間 151……液体試料 152……微生物 160……絶縁膜 165……開口部 170……マスク 180……水晶振動子 181……圧電体層 182……電極 183……電極 190……外枠 191……開口部 200……処理回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体中の微生物の存在を検出する微生物センサーであって、
電極と、抗生物質とを有し、前記抗生物質は、前記電極の表面に自己組織化単分子膜を介して固定化されていることを特徴とする微生物センサー。
【請求項2】
前記自己組織化単分子膜は、前記電極の表面に結合し得るスルフィド基、ジスルフィド基またはメルカプト基を含み、当該自己組織化単分子膜において前記電極の表面に結合している請求項1に記載の微生物センサー。
【請求項3】
前記自己組織化単分子膜は、ストレプトアビジンと結合するビオチンを有するものである請求項1または2に記載の微生物センサー。
【請求項4】
前記抗生物質を含む複合機能分子を有し、
当該複合機能分子は、前記抗生物質に結合するカルボキシル基、アミド基、エーテル基、エステル基またはチオエステル基を有する請求項1ないし3のいずれかに記載の微生物センサー。
【請求項5】
前記複合機能分子は、重合性基を含むものである請求項4に記載の微生物センサー。
【請求項6】
前記複合機能分子は、ストレプトアビジンと結合するビオチンを含むものである請求項4または5に記載の微生物センサー。
【請求項7】
前記抗生物質は、抗菌剤または抗ウイルス剤で構成されるものである請求項1ないし6のいずれかに記載の微生物センサー。
【請求項8】
前記抗菌剤は、β−ラクタム系抗生物質で構成されるものである請求項7に記載の微生物センサー。
【請求項9】
前記β−ラクタム系抗生物質は、ペニシリンで構成されるものである請求項8に記載の微生物センサー。
【請求項10】
前記抗生物質と前記微生物との結合で生じる周波数の変化により前記微生物の存在を検出するものである請求項1ないし9のいずれかに記載の微生物センサー。
【請求項11】
前記抗生物質と前記微生物との結合で生じるインピーダンスの変化により前記微生物の存在を検出するものである請求項1ないし9のいずれかに記載の微生物センサー。
【請求項12】
抗生物質を含む複合機能分子を用意する第1の工程と、
前記複合機能分子を電極の一方の面側に供給して前記複合機能分子を前記電極表面に固定化する第2の工程とを有することを特徴とする微生物センサーの製造方法。
【請求項13】
前記複合機能分子は、前記抗生物質と反対側の末端にビオチンを有する請求項12に記載の微生物センサーの製造方法。
【請求項14】
前記第2の工程において、前記複合機能分子を固定化する前に、ビオチンを含む自己組織化単分子膜を形成した後、当該自己組織化単分子膜をストレプトアビジンで処理する請求項13に記載の微生物センサーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−286763(P2008−286763A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134688(P2007−134688)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(591118775)白鶴酒造株式会社 (16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】