説明

微生物含有組成物

【課題】 流通過程などの保存状態において微生物が安定して保存され、施用時に十分な効果がある微生物資材およびその施用方法を提供する。
【解決手段】 土壌病害性微生物に対し拮抗作用を示すバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)の培養液を好ましくは粉末状または粒状の有機物のキャリアと混合し、乾燥工程を経ずに水分含量を30質量%以下とした、土壌病害防除能を有する微生物含有組成物、その製造方法、その微生物含有組成物を含有する農園芸用資材。本微生物含有組成物を堆肥に代表される有機肥料の製造工程中に添加して有機肥料に混和した形で土壌に施用することにより、土壌病害が発生することなく農作物の収量が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌病害防除能を有する微生物含有組成物、その製造方法、微生物含有組成物を含む農園芸用資材、土壌改良用資材および肥料、堆肥の製造方法ならびに農作物栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土壌病害は土壌中に存在する植物病原菌による土壌伝染性の病害であり、特に連作障害の主要な原因となっている。現在、土壌病害の発生を抑制するために、臭化メチルやクロルピクリン等の化学農薬が多く利用されている。しかしながら、これによって土壌中の有益な微生物も死滅するため、土壌の肥沃さが失われる等の弊害が生じている。
【0003】
これらの化学農薬に替わり、微生物の拮抗作用を利用した土壌改良剤や微生物資材等が提案されている。例えば、特開平6−135810号公報(特許文献1)には土壌病原菌に対して拮抗作用のある微生物の培養液を基材にスプレー噴霧する微生物資材の製造法が開示されている。また、特開平3−77803号公報(特許文献2)には飢餓状態とした抗生物質生産菌をキャリアと混合して土壌に施用する土壌病害防止法が開示されている。
【0004】
しかしながら、これまでの微生物資材では水分含量について十分に考慮されていないことが多く、流通過程において、または保存状態において菌数が減少したり、水分含量が高いためにカビ等の常在微生物に汚染される等、安定性に欠け、実際に土壌に施用した際に十分に有効と認められるだけの効果が得られないことがあった。
また、使用する際にも高濃度の菌体を含む薬剤を土壌に均一に施用するのが困難であること、十分量の菌数を土壌に施用しても定着性が悪く十分に有効な効果を示さないことといった課題があった。
さらに、堆肥を利用することにより土壌中の微生物相を改善し、土壌の肥沃さを向上することが行われている。
【0005】
しかしながらこのような方法のみで、あるいはこれらの方法の組み合わせでも十分な効果は得られないことがあり、このような状況から、安定性が良好で、十分な効果がある微生物資材およびその施用方法が望まれていた。
【0006】
【特許文献1】特開平6−135810号公報
【特許文献2】特開平3−77803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、安定性が良好で、十分な効果がある微生物資材の提供およびその施用方法の提供を課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、バチルス・ズブチリスの培養液を有機物のキャリアと混合し、水分含量を30質量%以下とすることにより、安定性が向上し、これを堆肥に代表される有機肥料の製造工程中に添加し、有機肥料に混和した形で土壌に施用することにより、土壌病害が発生することなく農作物の収量が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は以下の微生物含有組成物、微生物含有組成物の製造方法、微生物含有組成物を含む農園芸用資材、土壌改良用資材、肥料、堆肥の製造方法及び農作物栽培方法に関する。
【0010】
1.土壌病害性微生物に対し拮抗作用を示すバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)の培養液を有機物のキャリアと混合し、乾燥工程を経ずに水分含量を30質量%以下とした土壌病害防除能を有する微生物含有組成物。
2.粉末状または粒状である前記1に記載の微生物含有組成物。
3.バチルス・ズブチリスがバチルス・ズブチリス SD142(FERM BP−8427)である前記1に記載の微生物含有組成物。
4.有機物のキャリアが乾燥醗酵粕、籾殻、米糠または麦糠である前記1に記載の微生物含有組成物。
5.混合後の水分含量が20質量%以下である前記1乃至4のいずれか1項に記載の微生物含有組成物。
6.バチルス・ズブチリスの培養液を粉末状または粒状の有機物のキャリアと混合し、乾燥工程を経ずに水分含量が30質量%以下の粉末状、または粒状にする微生物含有組成物の製造法。
7.バチルス・ズブチリスの培養液を有機物のキャリアと混合し、乾燥工程を経ずに水分含量を30質量%以下とし、混合後、粉末状、または粒状とすることを特徴とする微生物含有組成物の製造法。
8.前記1乃至5のいずれか1項に記載の微生物含有組成物を含む農園芸用資材。
9.前記1乃至5のいずれか1項に記載の微生物含有組成物を含む土壌改良用資材。
10.前記1乃至5のいずれか1項に記載の微生物含有組成物および有機肥料を含む肥料。
11.有機肥料が堆肥である前記10に記載の肥料。
12.有機肥料が液肥である前記10に記載の肥料。
13.前記1乃至5のいずれか1項に記載の微生物含有組成物を堆肥製造工程中に添加することを特徴とする堆肥の製造方法。
14.前記10乃至12のいずれか1項に記載の肥料を土壌に施用する農作物栽培方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に用いられるバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)は、土壌病害性微生物に対し拮抗作用を示すものであればいかなるものでもよいが、イツリンを産生するものが好ましく、中でも特願2003−330623に記載のバチルス・ズブチリス SD142(FERM BP−8427)が特に好ましく用いられる。バチルス・ズブチリス SD142は、2002年9月24日に茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566)の独立行政法人産業技術総合研究所に寄託され(受託番号 FERM P−19032)、2003年7月10日に国際寄託に移管されている(国際受託番号 FERM BP−8427)。イツリンは特開昭59−212416、特許1471843に記載されてように土壌病害性微生物に対し抗菌効果がある物質として知られている。
【0012】
バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)を培養する方法は公知の方法を用いることができる。すなわち、ペプトン、肉エキス、大豆粉などの窒素源、グルコース、水飴、デキストリンなどの炭素源、無機塩類、酵母エキス、等の一般的な原料を用いた培地で培養することができる。なかでも窒素源として大豆粉、炭素源としてグルコースまたは水飴が好ましく用いられる。
【0013】
このようにして得られるバチルス・ズブチリスの培養液をキャリアと混合する。キャリアとしては、ゼオライトや珪藻土等の多孔質の無機物を用いると堆肥等の有機肥料に添加した際に分解されず、菌が吸着されたままとなり、土壌中で有効に作用しないため、有機物のキャリアであることが必要である。有機物のキャリアは堆肥の製造過程で分解されるため、菌が堆肥中に均一に分布し、土壌に施用した際に有効に作用する。
有機物のキャリアは堆肥の製造過程で分解されるため、菌が堆肥中に均一に分布し、土壌に施用した際に有効に作用する。
【0014】
バチルス・ズブチリスの培養液と混合する有機物のキャリアとしては、稲ワラ、モミガラ、ピートモス、米糠、麦糠、畜糞、鶏糞、おが屑、落ち葉、菜種粕、バガス、おから、フスマ粕、乾燥ビール粕、乾燥清酒粕、乾燥焼酎粕等が挙げられる。堆肥中で分解されやすい乾燥ビール粕、乾燥清酒粕、乾燥焼酎粕等の乾燥醗酵粕、米糠、麦糠が好ましく使用できる。
【0015】
また、本発明の微生物含有組成物は粉末状または粒状のものが施用に好都合であるため有機物のキャリアとしては予め粉末状または粒状としたものを使用することが好ましいが、粉末状または粒状でないキャリアを使用し、混合物とした後に粉末あるいは粒状にしても良い。
【0016】
この際、培養液とキャリアを、仕上がった微生物含有組成物の水分含量が30質量%以下になるように混合することが好ましく、20質量%以下になるように混合することがより好ましい。
【0017】
水分含量が高いときは、キャリアとして乾いた材料好ましくは乾いた有機材料、より好ましくは乾いたモミガラ、おが屑等を必要量使用して混合することにより、仕上がった微生物含有組成物の水分含量を好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下になるように容易に調整することができる。
【0018】
上記のようにして得られる培養液とキャリアの混合物は乾燥工程を経ないため、乾燥工程による菌の死滅がなく菌の生存率を高く維持することができ、保存安定性に優れており、高い性能を有する微生物含有組成物とすることができる。
【0019】
このようにして得られる本発明の微生物含有組成物は、これ自体で農園芸用資材または土壌改良用資材として使用することも可能であるが、これを添加した有機肥料を製造した上で使用すると土壌に容易に均一に施用できるため、極めて効果的である。
【0020】
有機肥料が堆肥の場合、堆肥製造工程中、例えば一次堆積槽で本発明の微生物含有組成物を添加する方法、あるいは二次撹拌槽で添加する方法のいずれも可能であるが、二次撹拌槽で添加することが好ましい。本発明の微生物含有組成物の添加量は、堆肥原料当たり質量比で1/10000〜1/100程度が好ましい。このようにして得られる肥料を土壌1m2に対して通常0.1〜10kg施用する。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0022】
実施例1
バチルス・ズブチリスSD142を下記組成AのL培地に2%寒天を加えたL平板培地に画線し、35℃で一晩生育させた。そこからL培地3Lを添加した5L容培養槽に植菌し、35℃、600rpmで6時間培養した。さらにL培地150Lを添加した200L容培養槽に植菌し、35℃、400rpmで6時間培養した。次に下記組成Bの培地3000kgを添加した5000L容培養槽に植菌し、30℃、180rpmで70時間培養を行い、バチルス・ズブチリスSD142の培養液を得た。
【0023】
組成A(L培地) (質量%)
ペプトン 1
酵母エキス 0.5
塩化ナトリウム 0.5
水 残部
【0024】
組成B (質量%)
大豆粉 9
2HPO4 0.5
MgSO4・7H2O 0.05
FeSO4・7H2O 0.0025
MnSO4・5H2O 0.0025
CaCl2 0.1
マルトース 17
水 残部
【0025】
得られた培養液(水分含量90%)に対し、乾燥ビール粕(水分含量13%)を1:10の質量比で添加し、スクリューミキサーで撹拌混合し、水分含量20%の微生物含有組成物を得た。
【0026】
実施例2
実施例1のうち、乾燥ビール粕の替わりに麦糠(水分含量13%)を用いて同様に行い、水分含量20%の微生物含有組成物を得た。
【0027】
比較例1
培養液(水分含量90%)に対し、乾燥ビール粕(水分含量13%)と水を1:4:2の質量比で添加し、スクリューミキサーで撹拌混合し、減圧乾燥機にて150℃で2時間乾燥し、水分含量4%の微生物含有組成物を得た。
【0028】
比較例2
培養液(水分含量90%)に対し、乾燥ビール粕(水分含量13%)と水を1:4:2の質量比で添加し、スクリューミキサーで撹拌混合し、水分含量49%の微生物含有組成物を得た。
【0029】
実施例1、2および比較例1、2の組成物を室温で保存し、経時的に組成物中の生菌数を測定し、菌体の生存率を算出した。生菌数の測定は、組成物を滅菌水で適宜希釈したものをL平版培地に塗布し、35℃で一晩培養して生育したコロニー数を計測することにより求めた。結果を表1に示す。生存率は実施例1の0日の生菌数を100%としたときの相対値で示した。
【0030】
【表1】

【0031】
実施例1、2および比較例1、2の組成物を各々堆肥製造工程の二次醗酵槽の入口に原料とともに添加して製造した堆肥を得た(実施例3、4、比較例3、4)。組成物の添加量は堆肥に対し質量比で3/100とした。また、組成物を添加せずに製造した堆肥を得た(比較例5)。
【0032】
実施例3、4および比較例3〜5の堆肥を室温で保存し、経時的に堆肥中の組成物由来の生菌数を測定し、菌体の生存率を算出した。組成物由来の生菌数の測定は、組成物を滅菌水で適宜希釈した後80℃で30分加熱したものを、2%羊血液を添加したL平版培地に塗布し、35℃で一晩培養して生育したコロニーの周囲にクリアゾーンを形成するコロニー数を計測することにより求めた。結果を表2に示す。生存率は実施例3の0日の生菌数を100%としたときの相対値で示した。
【0033】
【表2】

【0034】
実施例3および比較例5の堆肥を土壌1m2当たり4kg施用して各種農作物の収量を調べた。収量は比較例5(微生物含有組成物を添加しない堆肥)の収量を100としたときの相対値で示した。また、それぞれの栽培における病害発生の有無を示した。結果を表3に示す。
【0035】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌病害性微生物に対し拮抗作用を示すバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)の培養液を有機物のキャリアと混合し、乾燥工程を経ずに水分含量を30質量%以下とした土壌病害防除能を有する微生物含有組成物。
【請求項2】
粉末状または粒状である請求項1に記載の微生物含有組成物。
【請求項3】
バチルス・ズブチリスがバチルス・ズブチリス SD142(FERM BP−8427)である請求項1に記載の微生物含有組成物。
【請求項4】
有機物のキャリアが乾燥醗酵粕、籾殻、米糠または麦糠である請求項1に記載の微生物含有組成物。
【請求項5】
混合後の水分含量が20質量%以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の微生物含有組成物。
【請求項6】
バチルス・ズブチリスの培養液を粉末状または粒状の有機物のキャリアと混合し、乾燥工程を経ずに水分含量が30質量%以下の粉末状、または粒状にする微生物含有組成物の製造法。
【請求項7】
バチルス・ズブチリスの培養液を有機物のキャリアと混合し、乾燥工程を経ずに水分含量を30質量%以下とし、混合後、粉末状、または粒状とすることを特徴とする微生物含有組成物の製造法。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の微生物含有組成物を含む農園芸用資材。
【請求項9】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の微生物含有組成物を含む土壌改良用資材。
【請求項10】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の微生物含有組成物および有機肥料を含む肥料。
【請求項11】
有機肥料が堆肥である請求項10に記載の肥料。
【請求項12】
有機肥料が液肥である請求項10に記載の肥料。
【請求項13】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の微生物含有組成物を堆肥製造工程中に添加することを特徴とする堆肥の製造方法。
【請求項14】
請求項10乃至12のいずれか1項に記載の肥料を土壌に施用する農作物栽培方法。

【公開番号】特開2006−16386(P2006−16386A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−159669(P2005−159669)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】