説明

微生物細胞検出方法

【課題】インターカレーションする構造をもつ核酸染色色素において、インターカレーションによる発色と、混在する夾雑物への非特異的は反応による発色とを区別するために、新たに標識を導入し、2つの発色を比較することにより識別することを目的とする。
【解決手段】核酸にインターカレーションにより発色をもたらす構造を有する化学物質A1に、インターカレーションによる発色とは異なる発色をもたらす発色団B2を、リンカー3を介して化学結合した核酸染色試薬4を用いて、微生物細胞の標識を行い、2つの発色の差から、インターカレーションによる蛍光増感を効率的に検出することにより、微生物細胞を効率良く検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に食品、化成品、飲料水、製造用水、環境試料、その他試料の微生物細胞の検出、測定方法に関するものである。本発明は、詳しくは、微生物細胞を核酸染色により検出する迅速検査法において、核酸染色試薬に別の発色団を付加し、二つの発色を比較することによって、目的の微生物細胞を検出することを特徴とする微生物細胞の検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、微生物細胞の検出には、平板寒天培地や、液体培地を用いて培養することにより検出する手法が知られている。しかしながら、培養による手法は検出するまでに1から数日間の時間を要し、衛生管理リスクの低減化、在庫管理の効率化を図るために、迅速検査法が開発され、様々な手法が取り入れられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
以下、その迅速検査法について、図7および図8を参照しながら説明する。
【0004】
図に示すように、蛍光顕微鏡部101は、光源部102と検出部103、励起光選択ユニット108、対物レンズ109からなり、XYステージスキャナー104を備えることにより、ステージ上に該微生物試料を標識化し、捕集したメンブレンフィルター110を連続的に観察することで、計数することができる。
【0005】
また、迅速検査法について、メンブレンフィルター上で、細胞内活性物質量を可視化することにより、より活性の高い微生物を検出、計数する手法が用いられている。
【0006】
図9に示されるように、メンブレンフィルター111を用いて微生物細胞を捕集し、平板培地112上にて、短時間培養される。これにより、細胞内活性物質の量を増加させる。更に図10において、メンブレンフィルター111の上部より、該活性物質と反応する試薬113をミスト状に添加し、それによる発光を、透過膜114を介して、フィルム115上に感光し、その発光点を計数するというものである。
【特許文献1】特許第2735636号公報
【特許文献2】特開2003−180395号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの迅速検査法では、標識化した微生物細胞を計数する上で、自動化、高速化を図ることが可能である。しかしながら、一般的に使用されている核酸結合型染色色素では、選択性が十分でなく、混在する夾雑物への非特異的な反応により、測定誤差を生じるという課題があり、インターカレーションの発色を選択的に検出する手法の開発が要求されている。
【0008】
また、このような発色において、微生物細胞のような大きさの粒子を、比較的簡便な検出器で検出するためには、蛍光発光のような十分なシグナル強度が得られる発色であることが要求される。また、このとき別の標識においても、十分なシグナル強度を得るために、蛍光発光を利用することが必要とされる。
【0009】
一方、非特異的な吸着に対して、より簡便な検出系とするために、非特異的な反応による発色を大幅に強度を低下させ、微生物細胞のシグナルの検出を容易にすることが要求される。
【0010】
これらの微生物細胞検出方法において、全ての微生物細胞種、また生細胞、死細胞にかかわらず、安定して標識するためには、標識に用いる核酸染色試薬の細胞膜浸透性が高いものを使用することが必要である。なお、このとき細胞を検出した結果は、陰陽性のみならず、細胞数として記録されることが要求されている。
【0011】
また、微生物細胞検査において、より高度な衛生管理体制とするために、総細胞数のみならず、生細胞、更には死細胞の検出が求められる。そのためには、死細胞を検出する核酸染色試薬を用いることが必要である。なお、このとき細胞を検出した結果は、陰陽性のみならず、細胞数として記録されることが要求されている。
【0012】
また、微生物細胞検査では生細胞数を求めることが必要であるが、単独の核酸染色試薬では、直接生細胞数を得ることができない。そのため膜透過性の異なる核酸染色試薬を複数併用して、生細胞を検出し、計数することが要求される。
【0013】
また、ある単一細胞に対して、細胞の生死を識別、検出する場合には、膜透過性の異なる核酸染色試薬を同一サンプルに対して作用させる必要があり、これらの核酸染色試薬が異なる波長の発色を示し、検出系においてそれぞれ別々に検出されることが要求される。
【0014】
一方、このような微生物細胞検査において、細胞の産生する酵素の活性を指標とした検出を行うことが要求されているが、核酸染色試薬を併用することで、より確実に微生物細胞を検出することが必要である。
【0015】
一方、微生物細胞を検出し、計数する上で、試料溶液から微生物細胞を単一状態に分離し、検出器によって計数しやすい状態にサンプリングし、簡便に標識化を行えることが必要である。メンブレンフィルターなどにより、微生物細胞を2次元平面状に捕捉することで、操作しやすくすることが要求される。
【0016】
また、微生物細胞を溶液の状態で検出することで、消耗部品を減らし、コストを削減することが要求されている。
【0017】
また、微生物細胞検出において、試料中に存在する微生物細胞の総数を求める一般生菌管理と、特定の種類の微生物細胞を検出する管理とが必要である。このような特定の微生物細胞を検出するために、その微生物を標識することのできる、標識抗体、特定塩基配列、また、微生物の産生する特定の酵素を検出する蛍光指示薬を併用し、特定の微生物細胞をより確実に検出することが必要とされる。
【0018】
また、細胞内活性物質であるATPを化学発光によって検出することで、夾雑物による影響を軽減させる手法があるが、これは短時間の培養を必要とし、菌種ごとに培養条件の最適化が必要となるため、環境試料のような未知試料においては測定精度が低下するという課題があり、十分な精度を得るためには、培養時間を長く取り、高感度な光学機器を用いて極微弱光を検出することが必要となる。
【0019】
インターカレーターと呼ばれる核酸染色試薬は、微生物細胞の検出のための標識試薬として、主に蛍光発光するものが知られている。これらは、高密度に集積された会合体を形成することにより、蛍光増感を示すことが知られている。しかしながら、これらの核酸染色試薬は、核酸以外の夾雑物に対しても、吸着し、時には蛍光増感を示すことがあり、混在する夾雑物が多いと、微生物細胞を検出する上で測定精度が低下するという課題がある。
【0020】
本発明は、このような従来の課題を解決するものであり、混在する夾雑物への非特異的反応による発色の中から、微生物細胞による発色を効率的に識別することができ、また、2つの色素を1分子にすることにより、標識化する操作を簡便に行うことができ、また短時間で行うことを可能とする、迅速な微生物細胞検出方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の微生物細胞検出方法は、上記目的を達成するために、核酸染色色素に対して異なる発色を示す発色団を付加し、核酸染色色素による発色と、付加した発色団による発色とを比較することによって、核酸染色色素による増感と、非特異的な反応による発光とを標識量によって識別したものである。これにより核酸染色試薬の発色の中から、インターカレーションによる発色を選択的に検出することができるものである。
【0022】
また、このような発色において、微生物細胞のような大きさの粒子を、比較的簡便な検出器で検出するために、蛍光標識により、高感度での検出が可能となる。また、このとき別の標識においても、蛍光発光を利用することで高感度化できる。
【0023】
一方、非特異的な吸着に対して、より簡便な検出系とするために、非特異的な反応による発色を大幅に強度を低下させるために、インターカレーションする構造を有する化学物質に対して、リンカーを介して消光剤を結合し、非特異的な反応による発色を低下させ、微生物細胞のシグナルを容易に検出することができる。
【0024】
また、これらの微生物細胞検出方法において、細胞膜浸透性の高い核酸染色試薬を用いることで、全ての微生物細胞種、また生細胞、死細胞にかかわらず、安定して標識することができ、このとき適当な検出器を用いて、陰陽性のみならず、細胞数として記録することができる。
【0025】
また、細胞膜透過性の低い核酸染色試薬を使用することで、死細胞を検出することができ、このとき適当な検出器を用いて、陰陽性のみならず、細胞数として記録することができる。
【0026】
また、微生物細胞検査では生細胞数を求めることが必要であるため、膜透過性の高い核酸染色試薬で総細胞数を求め、膜透過性の低い核酸染色試薬で死細胞数を求め、差し引くことで、生細胞数を求めることができる。
【0027】
また、ある単一細胞に対して、細胞の生死を識別、検出する場合には、膜透過性の異なる核酸染色試薬を同一サンプルに対して作用させる必要があり、異なる波長の発色を示す核酸染色試薬を用いて、異なるカラーチャンネルで検出して、目的の細胞の生死を判別することができる。
【0028】
一方、細胞の産生する酵素の活性に対する蛍光指示薬を併用することで、活性の高い微生物細胞を、夾雑物の影響による測定誤差を軽減して検出することができる。
【0029】
一方、微生物細胞を検出し、計数する上で、試料溶液から微生物細胞を単一状態に分離し、検出器によって計数しやすい状態にサンプリングし、簡便に標識化を行ために、メンブレンフィルターを使用して、微生物細胞を2次元平面状に捕捉し、標識化し、適当な検出器を使用して細胞の計数を行うことができる。
【0030】
また、微生物細胞を溶液の状態で検出するために、フローセルにより検出、計数を行うことで消耗部品を減らし、ランニングコストを削減することができる。
【0031】
また、微生物細胞検出において、試料中に存在する微生物細胞の総数を求める一般生菌管理と、特定の種類の微生物細胞を検出する管理とが必要である。このような特定の微生物細胞を検出するために、その微生物を標識することのできる、標識抗体、特定塩基配列、また、微生物の産生する特定の酵素を検出する蛍光指示薬を併用することで、夾雑物の影響を軽減し、特定の微生物細胞を検出することができる。
【0032】
この手段により、非特異的な反応を含めた核酸染色色素による発色の中から、微生物細胞に由来するものを効率的に検出することができる。また2つの色素を化学結合により1分子とすることで、簡便に、また短時間で標識化可能な微生物細胞検出方法とすることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、混在する夾雑物の中から微生物細胞を検出するために、高度な分離精製操作や、電子顕微鏡などの装置による非検査物中の粒子形状の検証を要せず、測定誤差を軽減させ、選択的に微生物細胞を特定できるという効果があり、これを用いた迅速微生物検査装置を、簡易的な光学系で提供することができる。
【0034】
また衛生管理以外でも、微生物を扱う発酵工程や、廃水処理などの工程管理においても微生物細胞の検出を効率的に行うことができるという効果のある、微生物細胞評価方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明の請求項1記載の発明は、核酸にインターカレーションする構造を有する化学物質に、インターカレーションによる発色とは異なる発色をもたらす発色団を、リンカーを介して化学結合した核酸染色試薬を、微生物細胞に接触させたとき、発色団による発色に対して、核酸染色試薬の発色が強く起こった対象を微生物細胞と判断することを特徴とする微生物細胞検出方法である。核酸にインターカレーションすることによる発色と併せて、もう一つの発色団による発色を検出することにより、夾雑物に対する非特異的な反応の中から微生物細胞の発色を効率的に検出するという作用を有する。
【0036】
また、化学物質が蛍光発光を示すことにより、400倍程度の比較的低倍率でも高感度に微生物細胞を検出できるという作用を有する。
【0037】
また、同様に発色団が蛍光発光を示すことで、400倍程度の比較的低倍率でも高感度に微生物細胞を検出できるという作用を有する。
【0038】
一方、インターカレーションする構造を有する化学物質に、消光剤を結合させることにより、非特異的な反応による発色を減少させることができ、光学系をより簡略化することができるという作用を有する。
【0039】
また、これらの核酸染色試薬が、細胞膜透過性を有することを特徴とすると、生細胞、死細胞に関わらず、細胞内に核酸染色試薬を浸透させることができ、全ての細胞を検出することができるという作用を有する。
【0040】
そのため、これにより検出された微生物細胞の陰陽性を判別できるだけでなく、総細胞数として計数することを特徴とするという作用をもつ。
【0041】
一方、核酸染色試薬が、細胞膜不透過性を有することを特徴とすると、生細胞への浸透は行われず、イオン透過性の上昇した死細胞のみが染色されるため、全ての細胞の中から死細胞を検出することができるという作用を有する。
【0042】
そのとき、この核酸染色試薬により、死細胞の陰陽性の判断だけでなく、検出された微生物細胞を、死細胞数として計数することを特徴とするという作用をもつ。
【0043】
また、請求項5から8記載の、このような膜透過性の異なる2種類の核酸染色試薬を用い、総細胞数から死細胞数を差し引いて生細胞数とすることを特徴とすることにより、生細胞数と死細胞数を計数することができるという作用を有する。
【0044】
また、2種類の核酸染色試薬を構成する化学物質と、発色団の示す波長がそれぞれ異なり、かつ化学物質の示す発色が、2種類の核酸染色試薬において異なることを特徴とすることで、一つのサンプル内でそれぞれの発色を識別でき、同時に生細胞数と死細胞数を計数することができるという作用を有する。
【0045】
また、核酸染色試薬と異なる発色をもつ少なくとも1種類以上の細胞内活性指示薬を併用し、計数を行うことで、核酸の有無、細胞膜透過性以外にも、細胞内活性を同時にモニタリングすることができ、被検査物中の微生物細胞の状態を更に詳細に計測することができるという作用を有する。
【0046】
また、これらをメンブレンフィルター上で微生物細胞の捕集および染色を行うことで、非検査物からの微生物細胞の分離と、染色を安定化することができ、高精度化することができるという作用を有する。
【0047】
また、フローセル内で計数することで、短時間でかつ安価に計測することができるようになり、同時に、発色の異なるものごとに分離するセルソーターへと接続することも可能になり、分離したサンプルを別の実験系に適用することができるという作用を有する。
【0048】
一方、異なる発色を示す標識を付加した、特定の種類の微生物に反応する抗体を併用すると、全ての細胞の中から、特定の抗原を持つ細胞数を計数することができるという作用を有する。
【0049】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0050】
(実施の形態1)
図1に示すように、核酸染色試薬は、核酸にインターカレーションする構造を有する化学物質Aがリンカーを介して発色団Bと化学結合された構造をとる。
【0051】
化学物質Aは、核酸にインターカレーションする構造を有する蛍光色素であるが、好ましくは蛍光増感の大きい化合物であることがよく、このような化合物は、エチジウムブロマイドや、オキサゾールイエロー、チアゾールオレンジなどのシアニン系色素を基本骨格に持つものが知られている。またこれらを結合した2量体である、エチジウムダイマーや、YOYO、TOTOなども同様に知られている。
【0052】
一方、発色団Bは、化学物質と異なる発色を示す化合物であるが、インターカレーションとは独立して蛍光発光を行うことが望ましい。また、細胞膜透過性、不透過性を調節する機能も発色団に付与することが有効である。細胞膜透過性を持たせる場合には、テキサスレッド、テトラメチルローダミン、BODIPY、BODIPY FL、BODIPY TRなどの化合物があるが、これに限定されるものではない。一方、細胞膜不透過性を持たせる場合には、フルオレセイン、NBD、オレゴングリーンなどが知られているが、これに限定されるものではない。
【0053】
これらの化学物質A、発色団Bの発色部位とは関係しない部位の側鎖に、あらかじめアミン基、チオール基、水酸基、ハロゲンなどの反応性置換基、またその反応性置換基を認識する官能基として、スクシンイミジルエステル基、マレイミド基などを導入したものを合成し、それらを反応させて使用することができる。
【0054】
なお、核酸にインターカレーションする構造を有する化学物質に標識するものとして、消光剤であるが、これは、ダブシル基、BHQなどが知られているが、これに限定されるものではない。
【0055】
なお、化学物質Aと発色団Bを結合するリンカーであるが、直鎖低級アルカンのほかに、不飽和結合を有するアルケン、アルキン、芳香環などが使用できる。化学物質と発色団との共役状態を持たないよう、立体障害を与えるために、不飽和結合、芳香環を有する方が好ましい。これらは細胞膜への浸透性の妨げにならないよう、低分子で、かつ極性の低いものが好ましい。
【0056】
これらの核酸染色試薬を用いた標識方法を図4に示すが、メンブレンフィルター(5)上に捕捉した微生物細胞に対して、試薬(10)の溶液を滴下し、反応させて染色する。過剰な試薬は、メンブレンフィルターの下部より、マニホールド(11)を介して吸引除去する。
【0057】
標識化した微生物細胞の蛍光発光を検出するための励起光源ユニット(12)の光源として、水銀ランプ、ハロゲンランプ、LED、固体、ガスなどの各種レーザーなどがあるが、これに限定されるものではない。また、これにより励起された微生物細胞の蛍光を、バンドパスフィルター(13)、適当な倍率に拡大、補正するための対物レンズ(14)を介して、検出器(15)に取り込む。
【0058】
検出器として、2次元状に存在する微生物細胞をCCD、C−MOSなどの光・電流変換素子によって、空間情報を損なわないよう、適当な露光時間において画像を取得すると、微生物細胞が発光点となる画像が得られる。この発光点の強度、面積を、適当な画像処理ソフトによって解析し、発光点数を求め、測定面積、処理量から算出することにより、試料中に含まれていた微生物数を得ることができる。
【0059】
また、このとき、総細胞数だけでなく、異なる波長、膜透過性をもつ核酸染色試薬を用いて、二重染色を行い、異なる波長の励起光、バンドパスフィルターを使用することで、死細胞数を得ることができる。総細胞数から、死細胞数を差し引いて算出することにより、生細胞数を求めることができる。
【0060】
(実施の形態2)
実施の形態1で示されたような、核酸染色試薬のうち、同じ蛍光波長を持ち、異なる膜透過性をもつ2種類の試薬を用いて、微生物細胞を含む液体試料の測定を行う(図6)。液体試料を等量ずつ均一に二つに分取するような分岐ユニット(16)によって分け、それぞれ膜透過性の異なる核酸染色試薬1種類ずつ、試薬染色部(17)において混合され、染色反応が行われる。反応後の液をバルブ(18)を切り替えながら、それぞれの試料をフローセル(19)内に導入し、光源(20)で励起させながら、蛍光と散乱光をそれぞれ検出する(21、22)。核酸染色試薬の蛍光を同一にすることで、励起光は単一で行うことができ、測定器を簡略化することができる。
【0061】
また受光側は、インターカレーションによる蛍光発光の波長と発色団による蛍光発光の波長の、2種類の波長の蛍光を検出できることが好ましい。また、側方散乱光、前方散乱光のチャンネルを持つことで、散乱光によるものと、発色団による蛍光発光との2重の検出により、夾雑物の影響を排除しやすくなる。
【0062】
膜透過性の高い核酸染色試薬で染色し、計数された値を総細胞数の半分の値、また膜透過性の低い核酸染色試薬で染色し、計数された値を死細胞数の半分の値として、もとの試料に含まれる生細胞数、死細胞数を算出し、求めることができる。
【0063】
(実施の形態3)
実施の形態1に記載されているような、核酸染色試薬のうち、膜透過性の高い試薬を用い、同時に細胞活性指示薬を用いることで、夾雑物の影響を軽減しつつ、総細胞数の中から、活性の高い微生物細胞数を求めることができる。
【0064】
例えば、細胞内活性を示す指標として、エステラーゼ活性が知られている。これを測定する蛍光指示薬として、5(6)-CFDA、カルセインAM、BCECF−AM、CMFDA、オレゴングリーンAM(インビトロジェン社製)などが知られているが、これに限定されるものではない。一方、その他に細胞内活性を示す指標として呼吸活性が知られている。これを測定する蛍光試薬として、細胞内酸化還元によって蛍光テトラゾリウム塩を生成するCTCなどが知られている。
【0065】
これらのいずれかの活性指示薬をDMSOなどの適当な溶媒に希釈してストック液とし、これを、微生物細胞を含む液体試料に添加する。もしくは、適当な緩衝液に希釈して、メンブレンフィルター上の捕捉された微生物細胞に滴下、もしくは下部から浸漬し、一定時間反応させ、微生物細胞を染色する。反応後、メンブレンフィルター上にて吸引ろ過し、ここに更に活性指示薬とは異なる蛍光波長をもつ核酸染色試薬を用いて染色し、実施の形態1で示されているような検出装置を用いて、夾雑物の影響を軽減しつつ、総細胞数の中の高い細胞活性を維持する細胞数を求めることができる。
【0066】
(実施の形態4)
実施の形態1に記載されているような、核酸染色試薬のうち、膜透過性の高い試薬を用い、同時に、特定の種類の微生物細胞種を検出できるような試薬を用いて、夾雑物の影響を軽減しつつ、総細胞数の中から、目的の種類の微生物細胞を検出することができる。
【0067】
例えば、蛍光抗体を用いた手法として、E.coli O157株を検出するための抗体として、マウス由来抗O157:H7モノクローナル抗体などが知られている。また、2次抗体としてIgGを抗原としたモノクローナル抗体やポリクローナル抗体に、蛍光標識である、テキサスレッド、TMR、FITC、RITC、Cy2、Cy3、Cy5、ローダミンなどを標識した抗体が使用できる。(例えば、テキサスレッド標識ヤギ由来抗マウスIgG:H+L抗体)が知られている。これらの2次抗体の蛍光標識は、核酸染色試薬による蛍光発光の波長とは異なることが望ましい。メンブレンフィルター上に捕捉した微生物細胞に対して、緩衝液によって適当な濃度に調製したカゼイン、BSAなどにより、適当な条件下でブロッキング処理、洗浄処理を行い、1次抗体、2次抗体を標識する。その後、核酸染色試薬で染色し、実施の形態1で示されたような検出装置を用いて、核酸染色試薬による蛍光発光を示す細胞と、蛍光抗体により標識された目的の微生物細胞をそれぞれ検出、計数することができる。
【0068】
なお、目的の種類の微生物細胞を検出する手法として、核酸染色試薬と異なる蛍光発光の波長を示す蛍光発光団により標識された、特定の塩基配列をもつオリゴヌクレオチドを用いることができる。
【0069】
FISH法と呼ばれるこの手法は、例えば、目的の微生物細胞種のもつ特定の配列のプローブとなるよう設計されたオリゴヌクレオチドに、TRITC、FITC、TMR、Cy3、ローダミンなどの蛍光標識を作製し、メンブレンフィルター上に捕捉された微生物細胞に対して、ホルムアルデヒド、SDSなどの界面活性剤、プロテアーゼなどの変性剤を用いて細胞膜透過性を上昇させ、メンブレンフィルター下部より吸引除去する。洗浄後、ここに適当な緩衝液で調製された上記蛍光プローブ溶液を滴下し、適当な条件下でハイブリダイゼーションを行う。反応後、洗浄、吸引除去などを行い、蛍光プローブの蛍光波長とは異なる波長をもつ核酸染色試薬によって、染色を行い、実施の形態1で示されているような検出装置を用いて、夾雑物の影響を軽減しつつ、総細胞数に含まれる、特定の微生物細胞数を得ることができる。
【0070】
なお、特定の塩基配列をもつオリゴヌクレオチドを用いた手法として、in si tuPCRや、in situ LAMPなどの遺伝子増幅法も有効であ る。
【0071】
なお、特定の酵素を産生する微生物細胞を検出する手段として、該酵素により反応して、細胞内、表面に、蛍光色素が蓄積されるという指示薬を用いた手法がある。大腸菌群と呼ばれる微生物種の一群は、細胞内にβガラクトシダーゼを産生することが知られており、ガラクトピラノシドに蛍光色素を結合させた指示薬を用いて、蛍光色素が遊離して蛍光発光を示すようになった試料を、大腸菌群陽性として、検出するものである。このような指示薬として、4−MUG、CMFDG、PFB−FDGなどの試薬が知られている。
【0072】
このうち、PFB−FDGは、蛍光色素が遊離後、細胞膜表面に吸着する指示薬である。メンブレンフィルター上に捕捉した微生物細胞に対して、誘導剤であるIPTGを適当な条件下で作用させ、メンブレンフィルター下部より吸引除去する。その後、適当な溶媒に希釈したPFB−FDG溶液を、適当な条件下で反応させる。この後、緑色蛍光以外の、例えば赤色蛍光を示す、実施の形態1で示されたような核酸染色試薬を用いて染色反応を行い、それぞれの蛍光発光の波長を検出することで、夾雑物の影響を軽減して、総細胞数の中から、大腸菌群数を求めることができる。
【実施例】
【0073】
図1の核酸染色試薬を実現するために、これら化学物質及び発色団を、リンカーを介して化学結合するためには、蛍光色素分子の構造のうち、発色団とは直接関与しない部位に、反応性置換基をもっている必要があり、この条件を満たすものとして、例えば化学物質にはSYBR 101 SE、SYBR 102 SE、SYBR103 SE、発色団には、BODIPY TR cadaverine、Cascade Blue cadaverine、Alexa Flour cadaverineなどの化合物がある。これらは、化学物質には、アミン基で置換反応を行うスクシンイミジルエステル基を持ち、また発色団に、リンカーとして炭素数5の低級アルキルが既に結合されているため、これらを混合することで容易に化学結合を形成させ、核酸染色試薬を得ることができる。
【0074】
なお、化学物質として知られるSYBR101などの化合物は、全て緑色蛍光を示すことから、発色団には緑色以外の赤色蛍光などの化合物が好ましい。
【0075】
化学物質Aとして、SYBR101 SE、発色団Bおよびリンカーとして、BODIPY TR cadaverineを用いた。これらはともに細胞膜透過性を有するため、反応後の核酸染色試薬は総菌数の計数が行えると考えられた。これらをpH8.5のホウ酸緩衝液中で、A、Bの終濃度が数百マイクロモル/Lとなるように混合し、25℃で3時間反応させた後、反応液を100倍希釈になるように、E.coli K−12株と、夾雑物として球状シリカゲル粒子の懸濁液(PBS)に希釈し、10分間染色した。検出装置について図2に示すが、ポアサイズが0.4マイクロメートルのメンブレンフィルター(5)にろ過し、キセノン水銀ランプを励起光源(6)として、目的の励起波長をダイクロイックミラー(7)を介して、対物レンズ(8)により照射、表面を蛍光顕微鏡で観察し、画像を冷却CCDカメラ(9)にて画像を撮像した。図3は、蛍光画像を画像処理ソフトウェアにて2値化後、エッジを検出して発光物を抽出したものである。チャンネルAはB夾帯域励起(図3、a)、チャンネルBは夾帯域G励起(図3、b)、チャンネルCは広帯域U励起の蛍光画像(図3、c)の処理後画像を示す。チャンネルAに見られる発光点は、チャンネルBでは殆ど見ることができない。一方、チャンネルBで見られる発光物は、チャンネルAでは殆ど検出されない。チャンネルAで強く蛍光を示している発光物は主にE.coliであることが認められ、緑色蛍光が優先して発光しており、微生物細胞のシグナルが、非特異的な夾雑物の中から、選択的に検出されていることが示された。また、参考としてチャンネルBではシリカゲルの赤色蛍光像の処理後画像、チャンネルCでは両方すなわち、E.coliとシリカゲルの蛍光像の処理後画像を示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0076】
核酸にインターカレーションする構造を有する化学物質に新たに付加した発色団の発色をインターカレーションによる発色とを比較することにより、微生物細胞を容易に標識化することができ、混在する夾雑物の中から、定性的に微生物細胞を特定することができる。同じくインターカレーションする化合物を用いて蛍光発光で核酸の検出を行うDNAマイクロアレイや、遺伝子増幅技術の検出用試薬として、非特異的な反応に由来するバックグラウンドノイズを軽減でき、高感度な装置の開発などの用途にも適用できる可能性をもつ。
【0077】
また、微生物細胞以外にも、動物細胞、植物細胞などの細胞の計測技術においても、夾雑物の混在により計測誤差をもつ可能性がある場合には、適用できる可能性をもつ。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の実施例1の微生物細胞検出方法の核酸染色試薬構造を示す模式図
【図2】同検出方法のシステムを示す模式図
【図3】(a)同検出システムにおける微生物細胞の蛍光(B励起)を示すチャンネルAの処理後画像を示す図(b)同検出システムにおける夾雑物の蛍光(G励起)を示すチャンネルBの処理後画像を示す図(c)同検出システムにおける微生物細胞と夾雑物の蛍光(U励起)を示すチャンネルCの処理後画像を示す図
【図4】本発明の実施の形態1の微生物細胞検出方法における染色の模式図
【図5】同検出システムを示す模式図
【図6】本発明の実施の形態2のフローセルによる測定システムの模式図
【図7】従来の微生物検出装置のシステムを示す模式図
【図8】同システムの蛍光顕微鏡部周辺を示す拡大詳細図
【図9】従来の微生物検出方法における標識化工程を示す模式図
【図10】同検出方法の検出部を示す模式図
【符号の説明】
【0079】
1 化学物質A(インターカレーター)
2 発色団B
3 リンカー
4 核酸染色試薬
5 メンブレンフィルター
6 励起光源
7 ダイクロイックミラー
8 対物レンズ
9 CCDカメラ
10 試薬
11 マニホールド
12 励起光源ユニット
13 バンドパスフィルター
14 対物レンズ
15 検出器
16 分岐ユニット
17 試薬染色部
18 バルブ
19 フローセル
20 光源
21 蛍光検出部
22 散乱光検出部
101 蛍光顕微鏡部
102 光源部
103 検出部
104 XYステージスキャナー
105 ドライバ
106 フィルタユニット
107 PC
108 励起光選択ユニット
109 対物レンズ
110 メンブレンフィルター
111 メンブレンフィルター
112 平板培地
113 試薬
114 透過膜
115 フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸にインターカレーションにより発色をもたらす構造を有する化学物質Aに、インターカレーションによる発色とは異なる発色をもたらす発色団Bを、リンカーを介して化学結合した核酸染色試薬を、微生物細胞に接触させたとき、発色団Bによる発色に比べて、化学物質Aによる発色が強い対象を、微生物細胞と判断することを特徴とする微生物細胞検出方法。
【請求項2】
化学物質Aの発色が蛍光発光であることを特徴とする請求項1記載の微生物細胞検出方法。
【請求項3】
発色団Bの発色が蛍光発光であることを特徴とする請求項1または2記載の微生物細胞検出方法。
【請求項4】
核酸にインターカレーションにより発色をもたらす構造を有する化学物質Aに、消光剤を、リンカーを介して化学結合した核酸染色試薬を、微生物細胞に接触させ、化学物質Aによる発色が強く起こった対象を、微生物細胞と判断することを特徴とする微生物細胞検出方法。
【請求項5】
核酸染色試薬が、細胞膜透過性を有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の微生物細胞検出方法。
【請求項6】
検出した微生物細胞を、総細胞数として計数することを特徴とする、請求項5記載の微生物細胞検出方法。
【請求項7】
核酸染色試薬が、細胞膜不透過性を有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の微生物細胞検出方法。
【請求項8】
検出した微生物細胞を、死細胞数として計数することを特徴とする請求項7記載の微生物細胞検出方法。
【請求項9】
前記微生物細胞検出方法のうち、膜透過性の異なる2種類の、請求項5から8いずれかに記載の核酸染色試薬を用い、総細胞数から死細胞数を差し引いて生細胞数とすることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の微生物細胞検出方法。
【請求項10】
前記微生物細胞検出方法のうち、膜透過性が異なり、波長の異なる2種類以上の核酸染色試薬を用い、総細胞数、死細胞数を別のカラーチャンネルにて検出、計数することを特徴とする、請求項1から9のいずれかに記載の微生物細胞検出方法。
【請求項11】
前記微生物細胞検出方法において、核酸染色試薬と異なる発色をもつ少なくとも1種類以上の細胞内活性指示薬を併用し、計数を行うことを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載の微生物細胞検出方法。
【請求項12】
メンブレンフィルター上に捕捉した微生物細胞に前記核酸染色試薬を接触させることにより微生物細胞の染色を行うことを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載の微生物細胞検出方法。
【請求項13】
前記微生物細胞検出方法において、フローセル内で計数することを特徴とする、請求項1から11のいずれかに記載の微生物細胞検出方法。
【請求項14】
前記核酸染色試薬とは異なる発色を示す標識を付加した特定の種類の微生物に反応する抗体を併用し、総細胞数の中から特定の種類の微生物細胞を計数することを特徴とする、請求項1から13のいずれかに記載の微生物細胞検出方法。
【請求項15】
前記核酸染色試薬とは異なる発色を示す標識を付加した特定の塩基配列をもつオリゴヌクレオチドを併用して、総細胞数の中から特定の種類の微生物細胞を計数することを特徴とする、請求項1から13のいずれかに記載の微生物細胞検出方法。
【請求項16】
前記核酸染色試薬とは異なる発色を示す特定の微生物が産生する酵素に反応する指示薬を併用し、総細胞数の中から特定の微生物細胞を計数することを特徴とする、請求項1から13のいずれかに記載の微生物細胞検出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−42677(P2006−42677A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−227947(P2004−227947)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】