説明

微細構造素子製造装置及び微細構造素子生産方法

【課題】選択領域の方位、位置合わせの精度、再現性が確保し易く、特性を変えた量子ドットを近接領域に交互に配列させるなどの特異な構造をモノリシックに作ることができる微細構造素子製造装置及び微細構造素子生産方法を提供すること。
【解決手段】基板30が搭載され、回転方向の角度を規定することのできる回転規制手段44を有する試料ホルダ40と、基板30に選択的に結晶32を成長させるための少なくとも1つ以上の開口を有するマスク10と、マスク10が搭載され、かつ回転規制手段44に接合して回転方向と半径方向との試料ホルダ40との相対位置が決まる位置固定手段29を有するマスクホルダ20と、を備える微細構造素子製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細構造素子製造装置及び微細構造素子生産方法に関し、さらに詳しくは微細構造の領域選択成長技術を適用した、微細構造素子製造装置及び微細構造素子生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日では、情報通信ネットワークは社会にとってなくてはならない存在である。さらに、通信需要は急速に拡大しており、従来より使用されているデジタル信号処理を担う電気素子では、処理速度に限界があり、さらに高速化に伴い消費電力が肥大化する等の問題がある。
【0003】
そこで、光の超高速デジタルスイッチング素子が大変期待されている。これらの全光スイッチング素子の例としては、現時点では、以下に示すような対称マッハ・ツェンダー型全光スイッチと光フリップ・フロップとが提案されている(非特許文献1、非特許文献2等参照)。
【0004】
〔対称マッハ・ツェンダー型全光スイッチ〕
対称マッハ・ツェンダー型全光スイッチ(Photonic Crystal Symmetrical Mach−Zehnder:PC−SMZ)は、図11に示すように、フォトニック結晶導波路(Photonic Crystal Wave Guide:PC−WG)と、導波路中に埋め込まれた量子ドット(Quantum Dot:QD)を基本構成要素とする。フォトニック結晶導波路を対称マッハ・ツェンダー型に配置し、2本の光非線形アーム内部(斜線部)に量子ドットを埋め込んだ構造を有する。非線形アーム部には、それぞれQD励起用の制御光(Control Pulse)を導入する導波路が設けられる。この素子においてQDは、光非線形媒体として用いられ、信号光(Signal Pulse)の位相を変調させる役割を果たす。
【0005】
具体的なスイッチ動作を図12に模式的に示す。信号光は、図12の左側上から2番目のポートから入射され、初めの方向性結合器(DC1)により二分割される。分割された信号光はDC2において再び出会い、制御光が導入されない状態においては、両者の位相差は0であるから、図右側の下のポートから出射される。次に、スイッチON用の制御光を図左側最上部のポートから入射すると、非線形アーム(1)内のQDが励起され、QD内の伝導帯準位をキャリアが満たすことにより、準位間での吸収飽和(光非線形現象)を起こす。
【0006】
これにより、アーム(1)部の実効的な屈折率が変化するため、アーム(1)を伝播する信号光の位相がシフトする。位相シフト量が180度の場合、位相シフトしたアーム(1)伝播光と、位相シフトしていないアーム(2)伝播光がDC2で再び干渉すると、出力ポートが上側に切り替わり、スイッチングが起こる。次に、スイッチOFF用の制御光を図左側最下部のポートから入射すると、非線形アーム(2)内のQDが励起され、同様にアーム(2)伝播光も位相がシフトされるため、両アームの伝播光の位相差が無くなり、再び下側のポートから信号光が出射する。
【0007】
このようにして全光スイッチ動作が実現されるが、この素子作製にもっとも重要となるのが、非線形アーム部領域にのみ位置選択的に量子ドットを形成することである。また、この素子を一枚の基板に大量に集積化して作製するためには、この選択領域の位置精度を確保することも必要となる。
【0008】
〔光フリップ・フロップ〕
光フリップ・フロップ(Photonic Crystal Flip Flop:PC−FF)は、光デジタル信号処理素子であり、図13のように、前述のPC−SMZを2個集積した構造を有する。詳細な動作原理の説明は割愛するが、本素子は異なる2波長の光(λ1、λ2:図中実線と点線)を用いて動作する。すなわち、PC−SMZ1とPC−SMZ2とはそれぞれ異なる吸収波長のQDを非線形アーム部に埋め込んだ構造となっている。そのため、PC−FF実現のためには2種類の異なる吸収波長を有するQDを、一枚の基板上にモノリシック(monolithic)に形成する必要がある。
【0009】
関連する従来の技術としては、半導体装置等その他においてマスクにより基板に蒸着物質のパターニングを行う際、温度変化に伴うマスクと基板の相対ずれを防止する基板とマスクの保持構造に関する提案がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
また、基板上に厚さ並びに種類の異なる層を交互に周期的に積層し、あるいは種類の異なる層を数層積層させることによりヘテロ構造を形成して、マイクロ波素子、あるいは発光・受光素子として使用する単結晶薄膜構造を作製するための分子線エピタキシャル成長方法に関する提案もある(例えば、特許文献2参照)。
【0011】
さらに、特定の選択領域にのみ半導体薄膜などの微細構造を作製する技術として、通常の蒸着型結晶成長技術法などに加え、金属製などのマスクを試料上に配置する手法は多数報告がある。中でも、MBE法による結晶成長時に、試料ホルダ上にメタルマスクホルダを装着し、基板とマスクとの距離を一定に保つよう工夫したマスクを用いて、選択領域にのみ量子ドットを作製する方法を発明者の一人である大河内らが提案している(非特許文献3等参照)。
【0012】
また、3次元フォトニック結晶構造及びその製造方法については、別個に製作したウエハを貼り合わせ、選択エッチングによるものが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特許公報昭62−41416号公報
【特許文献2】特開平1−235233号公報
【特許文献3】特開2005−331812号公報
【非特許文献1】Kiyoshi Asakawa,“Photonic crystal and quantum dot technologies for all−optical switch and logic device”New Journal of Physics Vol.8(2006)208p
【非特許文献2】浅川 潔他「超高速信号処理ナノフォトニック・デバイスおよび光集積技術に関する研究」TARA NEWS No.33 2006年9月 10p 筑波大学先端学際領域研究センター発行
【非特許文献3】Shunsuke Ohkouchi et al.,“In situ mask designed for selective growth of InAs quantum dots in narrow regions developed for molecular beam epitaxy system”REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENT VOL.78,073908(2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、大河内らの方法で選択領域への量子ドット成長は可能であるが、背景技術で述べたPC−SMZやPC−FFを作製する場合、以下に述べるような問題点がある。
(1)選択領域の方位、位置合わせの精度、再現性が確保しにくい。
(2)特性を変えた量子ドットを近接領域に交互に配列させるなどの特異な構造をモノリシックに作ることができない。
【0014】
本発明は、以上のような問題点を解決して、選択領域の方位、位置合わせの精度、再現性が確保し易く、特性を変えた量子ドットを近接領域に交互に配列させるなどの特異な構造をモノリシックに作ることができる微細構造素子製造装置及び微細構造素子生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、数百度℃の高温下で使用するマスクと基板の相対的な方位、位置合わせの精度、再現性を確保する構造と、マスクパターンを回転非対称とすることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
(1) 基板が搭載され、回転方向の角度を規定することのできる回転規制手段を有する試料ホルダと、前記基板に選択的に結晶を成長させるための少なくとも1つ以上の開口を有するマスクと、前記マスクが搭載され、かつ前記回転規制手段に接合して回転方向と半径方向との前記試料ホルダとの相対位置が決まる位置固定手段を有するマスクホルダと、を備える微細構造素子製造装置。
【0017】
(1)の記載による微細構造素子製造装置によれば、回転方向の角度を規定することのできる回転規制手段を有する試料ホルダと、回転規制手段に接合して回転方向と半径方向との試料ホルダとの相対位置が決まる位置固定手段を有するマスクホルダと、を備えるので、選択領域の方位、位置合わせの精度、再現性が確保し易くなる。
【0018】
基板は、微細構造素子を作製するための基板である。素材は半導体であってもよいし、金属でもよいし、磁性体または強誘電体であってもよい。
【0019】
回転規制手段は試料ホルダに固定された回転規制ピンによることが望ましく、位置固定手段はマスクホルダに固定された位置固定用突起によることが望ましい。なお、これらを相互に入れ替えて、回転規制手段は試料ホルダに固定された回転規制突起であり、位置固定手段はマスクホルダに固定された位置固定用ピンであってもよい。さらに、回転規制手段と位置固定手段とは回転規制ピンと半円状の接合部を有するバネでもよいし、ピンの代わりに半円柱上のものと突起の組み合わせであってもよい。
【0020】
(2) 前記基板と前記マスクとをあらかじめ定められた距離に近接して位置決めするために前記試料ホルダと前記マスクホルダとが互いに軸方向に離反するように設けられた弾性体をさらに備える(1)に記載の微細構造素子製造装置。
【0021】
(2)に記載の微細構造素子製造装置は、基板とマスクとをあらかじめ定められた距離に近接して位置決めするために前記試料ホルダと前記マスクホルダとが互いに軸方向に離反するように設けられた弾性体をさらに備えるので、摂氏数百度の高温下で選択結晶成長中においても基板とマスクに位置関係が温度変化などによって変動することを抑えることができる。
【0022】
(3) 前記マスクは、複数の回転非対称な開口部を有し、前記マスクホルダを前記試料ホルダに対し、あらかじめ定められた角度回転し、前記基板上で角度回転前に結晶を成長させた部分と異なる領域に結晶を成長させる(1)又は(2)に記載の微細構造素子製造装置。
【0023】
(3)の記載による微細構造素子製造装置によれば、マスクのマスクパターンは、複数の開口部を有し、回転非対称である。したがって、製造工程においてマスクパターンをある位置に設定して結晶成長させた後に、当該マスクパターンをあらかじめ定められた角度回転させ、例えば、結晶成長時間を変えたり、素材の蒸発温度を変えることにより、特性を変えた量子ドットを近接領域に交互に配列させるなどの特異な構造をモノリシックに作ることができる。
【0024】
(4) 異なる素材を蒸発させる複数の蒸発源をさらに備え、前記マスクホルダをあらかじめ定められた角度回転した場合に、異なる素材を蒸発させる(2)に記載の微細構造素子製造装置。
【0025】
(4)の記載による微細構造素子製造装置によれば、異なる素材を蒸発させる複数の蒸発源をさらに備えるので、製造工程においてマスクパターンをある位置に設定して結晶成長させた後に、当該マスクパターンをあらかじめ定められた角度回転させ、異なる素材を蒸発させることにより、特性を変えた量子ドットを近接領域に交互に配列させるなどの特異な構造をモノリシックに作ることができる。
【0026】
(5) 基板が、回転方向の角度を規定することのできる回転規制手段を有する試料ホルダに搭載される工程と、少なくとも1つ以上の開口を有するマスクを、前記回転規制手段に接合して回転方向と半径方向との前記試料ホルダとの相対位置が決まる位置固定手段を有するマスクホルダに搭載する工程と、前記試料ホルダと前記マスクホルダとを弾性体を用いて軸方向に位置決めをする位置決め工程と、前記基板に素材を蒸発させて当該基板上に結晶を成長させる結晶成長工程と、を有する微細構造素子生産方法。
【0027】
(5)に記載の発明は微細構造素子生産方法に関するものである。(1)に記載の微細構造素子製造装置を用いて選択領域の方位、位置合わせの精度を確保し、再現性の良い微細構造素子生産方法を実現することができる。
【0028】
(6) 前記マスクは、複数の回転非対称な開口部を有し、前記マスクホルダを前記試料ホルダに対し、あらかじめ定められた角度回転し、前記基板上で角度回転前に結晶を成長させた部分と異なる領域に結晶を成長させる中間結晶成長工程をさらに有する(5)に記載の微細構造素子生産方法。
【0029】
(7) 異なる素材を蒸発させる複数の蒸発源をさらに備えた微細構造素子製造装置において、前記マスクホルダをあらかじめ定められた角度回転した場合に、異なる素材を蒸着させる(6)に記載の微細構造素子生産方法。
【0030】
(6)と(7)に記載の発明は微細構造素子生産方法に関するものであり、(3)又は(4)に記載の微細構造素子製造装置を用いて、特性を変えた量子ドットを近接領域に交互に配列させるなどの特異な構造をモノリシックに作ることができる。
【0031】
(8) 3次元的に埋め込んだ微細構造素子を生産するために前記結晶成長工程を複数回繰り返す工程をさらに有する、(6)又は(7)に記載の微細構造素子生産方法。
【0032】
(9) 3次元的に埋め込んだ微細構造素子を生産するためにさらに前記固定工程を複数回繰り返す工程をさらに有する、(7)に記載の微細構造素子生産方法。
【0033】
(8)と(9)に記載の発明は微細構造素子生産方法に関するものであり、(3)又は(4)に記載の微細構造素子製造装置を用いて、3次元で特性を変えた量子ドットを近接領域に交互に配列させるなどの特異な構造をモノリシックに作ることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、選択領域の方位、位置合わせの精度、再現性が確保し易く、特性を変えた量子ドットを近接領域に交互に配列させるなどの特異な構造をモノリシックに作ることができる微細構造素子製造装置及び微細構造素子生産方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、これはあくまでも一例であって、本発明の技術的範囲はこれに限られるものではない。
【0036】
<実施例1>
図1は、本発明の微細構造素子製造装置を用いた結晶成長装置を説明する図であり、
図2は、本発明の微細構造素子製造装置の構成を示す図であり、図3は、本発明の微細構造素子製造装置のマスクホルダの詳細を示す図である。図4は、本発明の微細構造素子製造装置のマスクの1例を示す図である。図5は、マスクパターンの使用状態を説明する図であり、図6は、本発明の微細構造素子生産方法の工程を表した図である。図7は、本発明により、(a)は、作製した試料基板からのPL強度を2次元マッピングしたものである。(b)は、(a)のPL発光領域からのPLスペクトルをしめす図である。以下、これらの図を参照して説明をする。
【0037】
本発明の微細構造素子製造装置1は、図1(a)に示すように、基板30が搭載され、回転方向の角度を規定することのできる回転規制手段44を有する試料ホルダ40と、基板30に選択的に結晶を成長させるための少なくとも1つ以上の開口を有するマスク10と、回転規制手段44に接合して回転方向と半径方向との試料ホルダ40との相対位置が決まる位置固定手段29を有するマスクホルダ20と、基板30とマスク10とをあらかじめ定められた距離に近接して位置決めするために試料ホルダ40とマスクホルダ20とが互いに軸方向に離反するように設けられた弾性体であるバネ28と、がある。また、図1(b)は基板30とマスク10と選択結晶成長層32を示す拡大図であり、図1(c)は図1(a)のB−Bより見た図であり、位置固定手段29と回転規制手段44との位置関係を示す図である。
【0038】
結晶成長を行う際、微細構造素子製造装置1は、結晶成長装置の大気と隔離した成長室内に配置される。結晶成長装置には、基板30に原料を照射するための複数の蒸発源60(60A、60B、60C)が設けられている。また、蒸発源60については全体を成長室内に設けている必要はなく、原料の照射口が成長室内にあればよい。また、蒸発源60の数は3つの場合に限られない。なお、結晶成長装置には、成長室を減圧するための排気ポンプや排気ポンプと成長室を接続するための配管などがあるが、それらの構成は従来と同様であるので、説明を省略する。より詳細には、中嶋一雄責任編集「エピタキシャル成長のメカニズム」共立出版株式会社出版、2005年5月20日、p.78−79参照。
【0039】
対称マッハ・ツェンダー型全光スイッチの場合は、分子線エピタキシー(Molecular Beam Epitaxy:MBE)法により、GaAs基板上に薄膜やQDを結晶成長させる。真空容器中で、当該半導体を構成する各元素を供給源(ソース)から供給し、適当な温度に加熱した基板上で結晶として成長させる。各構成元素は、Ga、In、Al、Asなどで、これらの構成元素の供給源としては元素単体ないし化合物のソースを用いる。
【0040】
微細構造素子製造装置1の相互の関係について、図2と図3を参照して説明をする。試料ホルダ40には、基板30を特定の方位で取付けできるように、基板30のオリエンテーションフラット(オリフラ)面に沿うようなピン2本(オリフラ基準ピン)42を設けている。これにより、基板30と試料ホルダ40の角度相対関係は常に一定に保たれる。基板30は、図2に示すように試料ホルダ40の下側から挿入し、試料ホルダ40の上部の肩と、背面から挿入した固定用Cリング42によって取り付ける(図1参照)。この機構により、試料ホルダ40最上面と基板30の表面との距離は常に一定に保たれる。
【0041】
一方、マスクホルダ20は、図3に示すように、大きく分けて、メタルマスク10を保持する本体22と、マスクホルダ本体22とバネ28を介して取り付けられた固定板24と、マスクホルダ外輪26により構成される。マスクホルダ外輪26には、マスクホルダ20を真空チャンバー内で保持するためのチャッキング用ピン27(3本)と、試料ホルダ40との合体に必要な位置固定手段である位置固定用突起29(4箇所)が設けられている。
【0042】
マスクホルダ20と試料ホルダ40との合体時にこの位置固定用突起29が試料ホルダ40に設けられたはめ込み穴を介してはめ込み溝に収まる。さらに、図3に示すように位置固定用突起29には楔形の切れ込みが設けてあり、はめ込み溝に沿って右回転させると、試料ホルダ40の回転規制手段である回転規制ピン44を挟みこんで固定される。この機構により、マスクホルダ20と試料ホルダ40との合体時の両者の水平方向の位置ずれを無くし、位置精度10μm以内で、一意の位置関係に固定でき、素子作製において許容される範囲内にある。
【0043】
また、マスクホルダ20と弾性体であるバネ28を介して取り付けられた固定板24が、試料ホルダ40を押し付けることにより、マスクホルダ20を上方向に押し上げ、図1のように、位置固定用突起29の上面と試料ホルダ40が接する高さで固定される。この機構により、マスクホルダ20と試料ホルダ40との上下方向の位置再現性が確保される。同時に、固定板24及び位置固定用突起29と試料ホルダ40との接触面で摩擦抵抗力を持たせ、マスクホルダ20の逆方向への回転を防止している。
【0044】
以上の機構によって、マスクホルダ20と試料ホルダ40の合体時に、マスク10と基板30の表面との位置及び方位関係が再現性良く一意に決定し、マスクパターンと基板30との方位関係を含めた位置精度の良い選択成長が可能となる。
【0045】
また、先述の通り位置固定用突起29は90度配向4箇所であり、90度ずつ回転して取り付けることができる。マスクパターンを回転非対称のパターンにすることで、一枚の基板上に2種以上の組成や厚みをもった微細構造を作製することが可能となる。
【0046】
具体的なマスクパターンを図4に示す。マスク10は素材がタンタル(Ta)の直径35mmの円板で、厚さは0.1mmである。中央に設けられた開口部12は、結晶成長中の基板温度をモニタするために設けられたものである。結晶成長中に基板表面温度を測定するためには、分子線エピタキシー法の場合、赤外線放射温度計を用いる手法や反射高エネルギー電子線回折(RHEED:Reflection High Energy Electron Diffraction)法を用いる手法が一般的である。赤外線放射温度計は、基板表面から放射された赤外線を測定し、基板温度を確定するものである。RHEEDは、電子線を極低角度で基板に照射し、反射した回折電子線を対向した蛍光板上に結像させ、表面の構造を解析することで表面の構造の変移点を測定し、基板温度を確定するものである。詳細は、非特許文献3を参照。
【0047】
図4に示すように、開口部ブロック13、14、15、16が設けられている。開口部ブロック13と16には長さ4mmで幅0.5mmの長方形の開口部と0.5mmの正方形の開口部が設けられている。そして、マスク10を180度回転したときに中間に丁度2点鎖線の部分が来るように設計されている。また、開口部ブロック14と15には長さ4mmで幅0.3mmの長方形の開口部と0.3mmの正方形の開口部が設けられている。そして、マスク10を180度回転したときに中間に丁度2点鎖線の部分が来るように設計されている。
【0048】
つまり、概念的には図5に示すように、マスクパターンを回転非対称のパターンにすることで、1枚の基板上に2種以上の組成や厚みをもった微細構造を作製することが可能となる。
【0049】
図6は、本発明の微細構造素子生産方法の工程を表した図である。基板30が、回転方向の角度を規定することのできる回転規制手段44を有する試料ホルダ40に搭載される(S110)。そして、少なくとも1つ以上の開口を有するマスク10をマスクホルダ20に搭載する(S120)。さらに、試料ホルダ40とマスクホルダ20とを弾性体であるバネ28を用いて軸方向に位置決めをする(S130)。位置決め後、基板30に素材を蒸発源60で蒸発させて基板30上に選択結晶成長層32(図1参照)を選択的に結晶成長させる(S140)。
【0050】
マスクホルダ20を試料ホルダ40に対し、あらかじめ定められた角度回転する(S150)。そして、基板30上で角度回転前に結晶を成長させた部分に異なる素材を蒸着させて別の結晶を成長させる(S160)。
【0051】
具体的には、発明者らは、上記微細構造素子製造装置1とMBE装置を用いてGaAs基板にInとAsを選択領域に照射することにより、歪誘起による自己組織化InAs量子ドットを成長させた。マスク10を0度配置でInAs量子ドット(QD1)を成長後、マスク10を180度回転させ、0度配置と同様にInAs量子ドット(QD2)を選択領域に成長後、歪緩和層としてIn0.2Ga0.8Asの薄膜を膜厚約3nm積層させた。この歪緩和層により、QD2のバンドギャップを縮小させることが可能となる。この後、メタルマスク10を外し、基板30全体にGaAsおよびAlGaAs層を成長させてQDを埋め込み、作製試料とした。
【0052】
作製試料の評価法として、He-Neレーザー(λ=633nm)励起によるフォトルミネッセンス(PL)の測定を室温において行った。基板上の任意の位置においてPLスペクトルを測定できるよう、試料ステージはステッピングモーターによる高分解能駆動ステージを用いた。また、基板面内での各座標位置においてPL強度をマッピングすることにより、発光位置すなわちQDの成長領域を判別した。
【0053】
図7(a)は、作製した試料基板からのPL強度を2次元マッピングしたものであり、マスクパターンに対応した数百μmのPL発光領域が確認された。また、図7(a)のPL発光領域からのPLスペクトルをそれぞれ図7(b)に示す。QD1領域からは中心波長1250nm、QD2領域からは中心波長1300nmの発光スペクトルが得られた。以上の結果から、2種類の発光波長を持った量子ドット(QD1とQD2)が、一枚の基板上の選択領域にモノリシックに作製されていることが確認された。
【0054】
また、図7(a)に示すように、形成されたQD1とQD2の位置関係は誤差で設計値の10%以内であり、実用上問題無い位置関係を保っている事が判明した。
【0055】
以上のようにして、選択領域の方位、位置合わせの精度、再現性が確保し易く、特性を変えた量子ドットを近接領域に交互に配列させるなどの特異な構造をモノリシックに作ることができる微細構造素子製造装置及び微細構造素子生産方法を提供することができる。
【0056】
<実施例2>
実施例2は、本発明の微細構造素子製造装置を応用して、3次元フォトニック結晶構造を生産するものである。図8は、3回繰り返して3次元のフォトニック結晶構造を作成した場合の図であり、図9は、位置決め工程を8回繰り返して3次元で4層積層のフォトニック結晶構造を作成した場合の図である。
【0057】
図8に示したように、3次元的に埋め込んだ微細構造素子を生産するために前記結晶成長工程を複数回繰り返す。それぞれで組成の異なる斜線部と白の部分の構造物を作り、それを上方向に交互に入れ替わるように成長させると、3次元の周期構造ができる。
【0058】
斜線部と白の部分の屈折率を変えてやれば、フォトニック結晶のようなものを作ることができる。なお、実施例1のマスクのサイズでは大きいため、マイクロ波やミリ波領域のものになるので、光の波長領域にするには相当する微小サイズの開口を有するマスクを製作する必要がある。そのためには、例えば、集光イオンビーム法によりこの加工を実現することができる。また、3次元的に埋め込んだ微細構造素子を生産するためにさらに前記位置決め工程を複数回繰り返す工程をおりこんでもよい。
【0059】
図9に示すように、位置決め工程を8回繰り返して3次元で4層積層のフォトニック結晶構造を作成することもできる。3次元的に埋め込んだ微細構造素子を生産するためにさらに位置決め工程を複数回繰り返してもよい。
【0060】
以上のようにして、3次元のフォトニック結晶構造を作成することができる。別個に製作したウエハを貼り合わせ、選択エッチングによる方法よりも生産性が高い生産方法を提供することができる。
【0061】
なお、図10は、回転規制手段と位置固定手段の他の具体例を示したものである。図10(a)に示すように回転規制手段と位置固定手段とは回転規制ピンと半円状の接合部を有するバネとしてもよいし、図10(b)に示すように、ピンの代わりに半円柱上のものと突起の組み合わせであってもよい。
【0062】
以上、本発明の実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることができる。そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。例えば、微細構造素子については具体例としてGaAs基板にInとAsを選択領域に照射することにより、歪誘起による自己組織化InAs量子ドットについて説明をしたが、GaAs基板のみならずその他の基板にも同様に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の微細構造素子製造装置を用いた結晶成長装置を説明する図である。
【図2】本発明の微細構造素子製造装置の構成を示す図である。
【図3】本発明の微細構造素子製造装置のマスクホルダの詳細を示す図である。
【図4】本発明の微細構造素子製造装置のマスクの1例を示す図である。
【図5】マスクパターンの使用状態を説明する図である。
【図6】本発明の微細構造素子生産方法の工程を表した図である。
【図7】本発明により、(a)は、作製した試料基板からのPL強度を2次元マッピングしたものである。(b)は、(a)のPL発光領域からのPLスペクトルを示す図である。
【図8】3回繰り返して3次元のフォトニック結晶構造を作成した場合の図である。
【図9】8回繰り返して3次元で4層積層のフォトニック結晶構造を作成した場合の図である。
【図10】回転規制手段と位置固定手段の他の具体例。
【図11】対称マッハ・ツェンダー型全光スイッチを説明する図である。
【図12】対称マッハ・ツェンダー型全光スイッチの動作を説明する図である。
【図13】PC−SMZを2個集積した光フリップ・フロップ・光デジタル信号処理素子を説明する図である。
【符号の説明】
【0064】
1 微細構造素子製造装置
10 マスク
12 開口部
13 開口部ブロック
14 開口部ブロック
15 開口部ブロック
16 開口部ブロック
20 マスクホルダ
22 マスクホルダ本体
24 固定板
26 マスクホルダ外輪
27 チャッキング用ピン
28 バネ
29 位置固定手段
30 基板
32 選択結晶成長層
40 試料ホルダ
42 固定用Cリング
44 回転規制手段
60 蒸発源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板が搭載され、回転方向の角度を規定することのできる回転規制手段を有する試料ホルダと、
前記基板に選択的に結晶を成長させるための少なくとも1つ以上の開口を有するマスクと、
前記マスクが搭載され、かつ前記回転規制手段に接合して回転方向と半径方向との前記試料ホルダとの相対位置が決まる位置固定手段を有するマスクホルダと、
を備える微細構造素子製造装置。
【請求項2】
前記基板と前記マスクとをあらかじめ定められた距離に近接して位置決めするために前記試料ホルダと前記マスクホルダとが互いに軸方向に離反するように設けられた弾性体をさらに備える請求項1に記載の微細構造素子製造装置。
【請求項3】
前記マスクは、複数の回転非対称な開口部を有し、
前記マスクホルダを前記試料ホルダに対し、あらかじめ定められた角度回転し、前記基板上で角度回転前に結晶を成長させた部分と異なる領域に結晶を成長させる請求項1又は2に記載の微細構造素子製造装置。
【請求項4】
異なる素材を蒸発させる複数の蒸発源をさらに備え、
前記マスクホルダをあらかじめ定められた角度回転した場合に、異なる素材を蒸発させる請求項3に記載の微細構造素子製造装置。
【請求項5】
基板が、回転方向の角度を規定することのできる回転規制手段を有する試料ホルダに搭載される工程と、
少なくとも1つ以上の開口を有するマスクを、前記回転規制手段に接合して回転方向と半径方向との前記試料ホルダとの相対位置が決まる位置固定手段を有するマスクホルダに搭載する工程と、
前記試料ホルダと前記マスクホルダとを弾性体を用いて軸方向に位置決めをする位置決め工程と、
前記基板に素材を蒸発させて当該基板上に結晶を成長させる結晶成長工程と、
を有する微細構造素子生産方法。
【請求項6】
前記マスクは、複数の回転非対称な開口部を有し、
前記マスクホルダを前記試料ホルダに対し、あらかじめ定められた角度回転し、前記基板上で角度回転前に結晶を成長させた部分と異なる領域に結晶を成長させる中間結晶成長工程をさらに有する請求項5に記載の微細構造素子生産方法。
【請求項7】
異なる素材を蒸発させる複数の蒸発源をさらに備えた微細構造素子製造装置において、
前記マスクホルダをあらかじめ定められた角度回転した場合に、異なる素材を蒸着させる請求項6に記載の微細構造素子生産方法。
【請求項8】
3次元的に埋め込んだ微細構造素子を生産するために前記結晶成長工程を複数回繰り返す工程をさらに有する、請求項6又は7に記載の微細構造素子生産方法。
【請求項9】
3次元的に埋め込んだ微細構造素子を生産するためにさらに前記位置決め工程を複数回繰り返す工程をさらに有する、請求項8に記載の微細構造素子生産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−59973(P2009−59973A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227281(P2007−227281)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)【国等の委託研究の成果に係る記載事項】 平成18年度、経済産業省、「エネルギー使用合理化技術戦略的開発/エネルギー有効利用基盤技術先導研究開発/超低エネルギー超高速光蓄積デバイス技術の研究開発」委託事業、産業技術力強化法19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】