微細炭素繊維糸の製造方法、該製造方法に用いる微細炭素繊維形成基板、及び、前記製造方法によって製造された微細炭素繊維糸
【課題】 物性の不均一性を解消し得る微細炭素繊維糸の製造方法、該製造方法に用いる微細炭素繊維形成基板、及び微細炭素繊維糸を提供する。
【解決手段】 基板上に触媒層を形成し、該触媒層を形成した基板に、微細炭素繊維の集合体を化学気相成長させて、前記微細炭素繊維の集合体から、該微細炭素繊維を連続的に引き出して微細炭素繊維糸を形成する、微細炭素繊維の製造方法であって、前記微細炭素繊維の集合体から微細炭素繊維を引き出すための領域を所定のパターンに画定するように、前記微細炭素繊維が引き出し不能な引出不能部位を形成することとした。
【解決手段】 基板上に触媒層を形成し、該触媒層を形成した基板に、微細炭素繊維の集合体を化学気相成長させて、前記微細炭素繊維の集合体から、該微細炭素繊維を連続的に引き出して微細炭素繊維糸を形成する、微細炭素繊維の製造方法であって、前記微細炭素繊維の集合体から微細炭素繊維を引き出すための領域を所定のパターンに画定するように、前記微細炭素繊維が引き出し不能な引出不能部位を形成することとした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学気相成長によって得られる微細炭素繊維の集合体から微細炭素繊維を連続的に引き出して微細炭素繊維糸を製造する方法、該製造方法に用いる微細炭素繊維形成基板、及び、前記製造方法によって製造された微細炭素繊維糸に関する。
【背景技術】
【0002】
微細炭素繊維は、電気特性、力学特性等に優れており、電解放出型ディスプレイ、導電性フィラー等をはじめ、様々な産業への利用および応用が期待されている。
【0003】
近年、カーボンナノチューブからなる微細炭素繊維糸およびそれを用いたカーボンナノチューブシートが提案されている(特許文献1及び非特許文献1、2)。
【0004】
非特許文献1においては、化学気相成長法で基板上に高密度・高配向に成長させた微細炭素繊維の集合体から微細炭素繊維糸を形成する方法が開示されている。
【0005】
特許文献1,非特許文献2においては、化学気相成長法で基板上に高密度・高配向に成長させた微細炭素繊維の集合体から微細炭素繊維シートや微細炭素繊維ロープを形成し得ることが開示されている。
【0006】
前記の微細炭素繊維糸およびシートは、その既存にない形態から、新たな用途への使用が予想され、種々の産業への応用が期待されている。
【特許文献1】国際公開WO2005/102924号パンフレット
【非特許文献1】チャン等、「従来技術を小型化することによる多機能カーボンナノチューブ繊維」、サイエンス誌、米国、米国科学振興協会発行、2004年11月19日、第306巻、1358〜1361頁(Zhang et al., ,Science, AAAS, “Multifunctional Carbon Nanotube Yarns by Downsizing an Ancient Technology”,VOL 306,1358-1361, 19 November 2004)
【非特許文献2】チャン等、「強靱で透明な多機能カーボンナノチューブシート」、サイエンス誌、米国、米国科学振興協会発行、2005年8月19日、第309巻、1215〜1219頁(Zhang et al.,Science, AAAS, “Strong, Trasnsparent, Multifunctional, Carbon Nanotube sheets”, 309,1215-1219, 19 August 2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図39は、基板上に形成された微細炭素繊維の集合体から微細炭素繊維が連続的に引き出されて微細炭素繊維糸が製作されている状態を撮影した顕微鏡写真(140倍)、図40は、基板上から微細炭素繊維が引き出された後の状態を撮影した顕微鏡写真(50倍)の顕微鏡写真である。
【0008】
図40に示すように、微細炭素繊維は、引き出し開始端(写真の左端)から無秩序に引き出され、終端部(写真の右端)で途切れる。図40の写真で、明部は、微細炭素繊維が引き出された部分であり、暗部は、残った微細炭素繊維の集合体である。図40に示すように無秩序に引き出されるため、引き出された微細炭素繊維糸は、糸径が不均一となることによって、物性が不均一になるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明は、上記問題を解決するため、物性の不均一性を解消し得る微細炭素繊維糸の製造方法、該製造方法に用いる微細炭素繊維形成基板、及び、該製造方法により製造された微細炭素繊維糸を提供することを主たる目的とする。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る微細炭素繊維の製造方法は、基板上に触媒層を形成し、該触媒層を形成した基板に、微細炭素繊維の集合体を化学気相成長させて、前記微細炭素繊維の集合体から、該微細炭素繊維を連続的に引き出して微細炭素繊維糸を形成する、微細炭素繊維の製造方法であって、前記微細炭素繊維の集合体から微細炭素繊維を引き出すための領域を所定のパターンに画定するように、前記微細炭素繊維が引き出し不能な引出不能部位を形成することを特徴とする。
【0011】
前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維が引き出される領域が一定幅となるように形成されることが好ましい。
【0012】
前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維の集合体を化学気相成長させた後に、前記微細炭素繊維の集合体構造を部分的に破壊する加工、前記集合体構造を部分的に除去する加工、及び、前記集合体の微細炭素繊維を部分的に変質させる加工、の少なくとも何れかの加工を施すことにより形成することができる。
【0013】
前記微細炭素繊維の集合体構造を部分的に破壊する加工は、前記微細炭素繊維の集合体上に微小液滴を滴下する処理を含み得る。
【0014】
前記微細炭素繊維の集合体構造を部分的に破壊する加工は、前記微細炭素繊維の集合体に刃状具を押し付ける処理、及び、前記微細炭素繊維の集合体を刃状具によって引っ掻く処理、の少なくとも何れかの処理を含み得る。
【0015】
前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維の集合体を化学気相成長させた後に、該集合体に対して、レーザ加工、イオンビーム加工、電子ビーム加工、及びプラズマ加工の少なくとも何れかの加工を施すことにより形成しても良い。
【0016】
前記レーザ加工は、レーザ光を制御された出力及び掃引速度で前記微細炭素繊維の集合体上を掃引させることにより、前記微細炭素繊維の集合体に線状又は帯状の引出不能部位を形成することが好ましい。
【0017】
前記レーザ光の出力及び掃引速度を制御することにより、レーザ光の照射によって前記微細炭素繊維の集合体に形成される白色化帯域の幅を制御することが好ましい。
【0018】
前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維の集合体を化学気相成長させる前に、前記微細炭素繊維が化学気相成長する領域が前記所定のパターンとなるように、前記触媒層をパターニングすることによって形成しても良い。
【0019】
前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維が引き出される領域を区画するための少なくとも1つの仕切プレートを、前記微細炭素繊維の集合体に押し付けることにより形成しても良い。
【0020】
また、上記目的を達成するため、本発明に係る微細炭素繊維形成基板は、基板と、該基板上に触媒層を形成し、該触媒層が形成された基板上に化学気相成長させた微細炭素繊維の集合体と、前記微細炭素繊維の集合体から微細炭素繊維を引き出すため領域を所定のパターンに画定するように形成され、微細炭素繊維の引き出しが不能な引出不能部位と、を有することを特徴とする。
【0021】
前記微細炭素繊維形成基板は、前記微細炭素繊維を引き出すための領域が一定幅であることが好ましい。
【0022】
前記微細炭素繊維形成基板の前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維の集合体構造を部分的に破壊した部位、前記微細炭素繊維の集合体から微細炭素繊維を部分的に除去した部位、及び、前記集合体の微細炭素繊維を部分的に変質させた部位、の少なくとも何れかの部位を含み得る。
【0023】
前記微細炭素繊維形成基板における前記微細炭素繊維の集合体構造を部分的に破壊した部位は、前記微細炭素繊維の集合体上に微小液滴を滴下することにより形成されていても良い。
【0024】
前記微細炭素繊維形成基板の前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維の集合体に、レーザ加工、イオンビーム加工、電子ビーム加工、及びプラズマ加工の少なくとも1つの加工を施すことによって形成されていても良い。
【0025】
前記微細炭素繊維形成基板は、前記微細炭素繊維の集合体に、レーザ光の照射による白色化帯域が形成されていることが好ましい。
【0026】
前記微細炭素繊維形成基板の前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維が化学気相成長する領域が前記所定のパターンとなるように、前記触媒層をパターニングすることによって形成されていても良い。
【0027】
前記微細炭素繊維形成基板の前記引出不能部位は、一形態において、渦巻き線状に形成される。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、微細炭素繊維の集合体からの微細炭素繊維の引き出し領域を所定パターンの領域として画定するために、微細炭素繊維の引出不能部位を形成することにより、微細炭素繊維の無秩序な引き出しに制限をかけることが可能となり、微細炭素繊維撚糸の物性均一化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明を実施するための最良の形態について、以下、図1〜38を参照しつつ説明する。なお、全図、及び全実施形態を通じ、同様の構成部分に同符号を付した。
【0030】
本発明は、基板上に化学気相成長させた微細炭素繊維の集合体から、微細炭素繊維糸を連続的に製造する方法及び装置に関する。
【0031】
基板上に形成される微細炭素繊維の集合体について、以下に詳細に説明する。
【0032】
基板は、限定的でなく、公知又は市販のものを使用することができる。例えば、プラスチック基板、ガラス基板、シリコン基板、鉄、銅等の金属又はこれらの合金を含む金属基板等を用いることができる。これらの基板の表面には二酸化ケイ素膜が積層されていてもよい。本発明では、特に、シリコン基板に、熱酸化あるいは蒸着による二酸化ケイ素膜を形成し、該二酸化ケイ素膜上に、触媒層を積層した基板を用いることが好ましい。触媒層は、好ましくは、鉄を蒸着又はスパッタリング等することにより形成され得る。これにより、微細炭素繊維が高密度かつ高配向で形成された集合体を製造できる。
【0033】
基板上に化学気相成長させる微細炭素繊維は、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等の繊維状の形態を持つ気相成長炭素繊維である。
【0034】
これら微細炭素繊維の形態は特に限定されるものではないが、微細炭素繊維糸を容易に形成しやすいことなどの理由から、好ましくは、基板上に高密度かつ高配向で形成された集合体であることが望ましい。
【0035】
高密度とは、基板上のカーボンナノチューブの嵩密度が1〜1000mg/cm3、好ましくは10〜500mg/cm3、さらに好ましくは10〜100mg/cm3である。この範囲より嵩密度が小さいと隣接するカーボンナノチューブの分子間の相互作用が弱くなり、引き出し特性が悪くなるおそれがある。高配向とは、微細炭素繊維同士が隣接しながら基板平面に対して垂直状に林立していることを意味する。
【0036】
このように化学気相成長によって高密度で垂直配向させた微細炭素繊維の集合体は、カーボンナノチューブフォレスト(carbon nanotube forest)、或いは、カーボンナノチューブの垂直配向構造体等と呼ばれる。化学気相成長によって形成される微細炭素繊維の長さは、平均で0.02mm以上であることが好ましく、より好ましくは、0.03mm以上、更に好ましくは、0.05mm以上である。微細炭素繊維材料の平均直径は限定的でなく、通常0.5〜100nm、好ましくは1nm〜100nm程度、より好ましくは5〜50nm程度である。
【0037】
化学気相成長時の温度はいずれの温度で行ってもよいが、特に高温で行うことが好ましく、例えば600〜1000℃程度で行うことが好ましい。気相成長時の圧力は限定的でないが、通常、大気圧で行えばよい。気相成長に用いるガスは、炭素を含んでいればよいが、通常はアセチレン等の炭化水素を使用すればよい。なお、ヘリウム等の希ガスをキャリアガスとして用いてもよい。反応時間は、製造条件に応じて適宜設定できるが、例えば、3分〜12時間程度とすればよい。
【0038】
上記のようにして基板上に形成された微細炭素繊維であるカーボンナノチューブの集合体を側面から写した顕微鏡写真を図1に示す。図1は、倍率500倍のSEM写真であり、基板1上に微細炭素繊維2が高密度で垂直配向している様子が写されている。
【0039】
基板上に高密度・高配向で成長したカーボンナノチューブの集合体の一部、即ち複数本の微細炭素繊維をピンセット等で把持又は細い針状の物の先に接続する等してカーボンナノチューブの集合体から引き離すことにより、カーボンナノチューブは基板上から、隣接するカーボンナノチューブどうしが相互に連鎖的に繋がって連続した糸状体となって引き出される現象を生じる。このような現象が生じるメカニズムは必ずしも明らかではないが、好ましくは、こうして引き出されて糸状に繋がったカーボンナノチューブに適切に撚りをかけながら引き出す。撚りをかけることで、糸切れを少なくすることができる。
【0040】
本発明では、微細炭素繊維の集合体に、微細炭素繊維の引き出し領域を所定のパターンに画定するように、微細炭素繊維を引き出すことができない引出不能部位を形成する。
【0041】
該引出不能部位は、微細炭素繊維の集合体構造を部分的に破壊することによって形成することができる。
【0042】
微細炭素繊維の集合体構造を部分的に破壊する方法には種々の方法があるが、例えば、基板上に形成された微細炭素繊維の集合体に、カミソリ刃のように薄い刃状具を押し込む操作や、該刃状具を用いて前記集合体を筋状に引っ掻く操作によって破壊することができる。刃状具は、微細炭素繊維の集合体に筋状の押し込み痕又は引っ掻き痕による凹部を形成できるものであれば良く、微小加工等に用いられるマイクロナイフを好適な例として挙げることができる。
【0043】
斯かる微細加工は、マイクロスコープで拡大観察しつつ、マイクロマニピュレーターを用いてマイクロナイフを制御することにより行うことができる。なお、マイクロマニピュレーターも、微細加工に用いられている公知のものを使用することができる。具体的には、マイクロナイフの刃先を、微細炭素繊維の集合体の上方から下降させて該集合体に少し押し込むか、或いは、押し込んだ状態でマイクロナイフをその刃面と平行に水平移動することにより、筋状の押し込み痕又は引っ掻き痕を形成する。
【0044】
上記のようにして複数本の筋状の押し込み痕又は引っ掻き痕を形成した、微細炭素繊維集合体の上面及び縦断面を写した顕微鏡写真を図2、図3に示す。図3の写真から分かるように、押し込み痕又は引っ掻き痕3は、基板に迄達していなくても良く、微細炭素繊維集合体2の少なくとも表層付近の垂直配向構造が破壊されていれば良い。また、図3の写真から分かるように、引っ掻き痕3は、微細炭素繊維の集合体を構成している微細炭素繊維の垂直配向構造を上方から押し潰すようにして、該垂直配向構造を破壊した形態を有している。微細炭素繊維の集合体は、マイクロナイフで上から少し押さえただけでひしゃげてしまうので、微細炭素繊維の垂直配向構造は、容易に壊され得る。
【0045】
このようにして微細炭素繊維の集合体に形成された複数本の筋状の押し込み痕又は引っ掻き痕の部位は、微細炭素繊維集合体の垂直配向構造が破壊されているため、微細炭素繊維が引き出されない。その結果、微細炭素繊維を引き出す領域を画定するための引出不能部位を形成する。
【0046】
隣り合う平行な2本の筋状の押し込み痕又は引っ掻き痕によって区画される領域が、前記集合体から微細炭素繊維が引き出される領域を一定幅に画定する。図4は、2本の筋状の押し込み痕又は引っ掻き痕の間にある微細炭素繊維の集合体から微細炭素繊維が撚りを掛けられながら引き出され、微細炭素繊維糸5が製作されている状態を示す顕微鏡写真である。図4では、写真外のマイクロドリルに、微細炭素繊維の集合体から引き出された複数本の微細炭素繊維が付着させられ、該マイクロドリルを回転させつつ、マイクロドリルを該集合体から離反させることによって、微細炭素繊維が連鎖的に繋がった状態で、引き出されながら撚りが掛けられている。なお、該マイクロドリルの先端を微細炭素繊維の集合体にその側面から突き刺すだけで、前記針先に複数本の微細炭素繊維を付着させることができるが、マイクロドリルの先端に接着剤等を塗布しておいても良い。
【0047】
微細炭素繊維の集合体構造を部分的に破壊する他の方法として、該集合体上に微小液滴を滴下する方法を挙げることができる。例えば、マイクロディスペンサーによってエタノール水溶液等の微小液滴を滴下し、微細炭素繊維の集合体の所望領域を液滴の落下衝撃によって押し潰す。マイクロディスペンサーは、マイクロリットル以下の分注が可能なディスペンサーであり、公知のマイクロディスペンサーを使用することができる。微小液滴に使用する液は、微細炭素繊維に滴下することによって微細炭素繊維の垂直配向構造を壊すことができる液であれば特に限定されない。
【0048】
図5は、微細炭素繊維の集合体上に、マイクロディスペンサーを用いて微小液滴を滴下した状態を上から撮影した顕微鏡写真であり、図6は縦断面を撮影した顕微鏡写真である。図5から分かるように、微小液滴は、平面視においてラインパターンの引出不能部位6を形成するように、直線上を連続して滴下されている。このように微小液滴が列をなすように滴下するには、例えば、微細炭素繊維の集合体が形成されている基板を載せたXYテーブルを一定速度で一定方向に移動させつつ、マイクロディスペンサーから一定の時間間隔で微小液滴を滴下させることによって為し得る。
【0049】
微小液滴を滴下する方法として、マイクロディスペンサーに代えて、インクジェットプリンターに使用されるインクジェットノズルを用いることもできる。図7、8は、インクジェットノズルによって、微細炭素繊維の集合体に微小液滴を滴下した状態の上面写真及び断面写真である。図7から分かるように、微小液滴によってライン状の引出不能部位7が形成されているが、ライン状に滴下された微小液滴は必ずしも繋がっていなくてもよく、隣り合う液滴どうしが、ある程度(例えば微小液滴の半径以下程度)の距離までは離れていても良い。
【0050】
図9(a)〜(e)は、インクジェットノズルから吐出された液滴が滴下された状態を撮影した顕微鏡写真である。図9(a)に現れているように、液滴は基板1まで到達していない。図9(e)の部分では、微細炭素繊維の集合体構造は破壊されておらず、図9(d)の部分で構造に変化が生じ、図9(c)の部分では、微細炭素繊維集合体の垂直配向構造が完全に破壊されていることが分かる。
【0051】
また、微細炭素繊維の引出不能部位は、微細炭素繊維の集合体を部分的に除去、或いは変質させることによって形成することもできる。上記のような刃状体や微小液滴を用いる方法以外に、エネルギー照射によって、微細炭素繊維の集合体構造を部分的に破壊又は除去し、或いは、該集合体を部分的に変質させる方法を利用することもできる。エネルギー照射による方法には、レーザ加工、イオンビーム加工、電子ビーム加工、或いはプラズマ加工といった公知の加工技術による微細加工方法を用いることができる。これらの微細加工方法を用いて、微細炭素繊維の集合体の所望部位を破壊又は除去、若しくは、変質させることにより、微細炭素繊維の引き出し領域を画定する引出不能部位を形成することができる。
【0052】
図10、11は、炭酸ガスレーザマーカーを用いて引出不能部位8を形成した顕微鏡写真であり、図10は上面、図11は断面である。図12、13は、炭酸ガスレーザのエネルギー出力を図10,11の場合より低くして、引出不能部位8を形成した顕微鏡写真である。
【0053】
レーザマーカーは、レーザスポットを3次元制御可能であることが望ましい。そのようなレーザマーカーとして、例えば、株式会社キーエンスから販売されている3次元制御レーザマーカーを使用できる。このようなレーザマーカーを用いて、レーザ光のエネルギー出力及び/又は掃引速度を調整することによって、微細炭素繊維集合体の表層部分だけを消失させて引出不能部位を形成しても良いし、基板に達するまで消失させて引出不能部位を形成してもよい。
【0054】
レーザ加工による線状又は帯状の引出不能部位を、複数本、所望ピッチで形成することにより、微細炭素繊維が引き出される領域を一定幅に形成することができる。
【0055】
線状又は帯状のレーザ痕の長さ方向に沿う縁部に、光学顕微鏡で観察すると、微細炭素繊維が変質して白く見える部分(以下、「白色化帯域)と言う。)が形成される。この白色化帯域については、後の実施例で説明するが、レーザ光の出力及び掃引速度を制御することにより、レーザ光の照射によって前記微細炭素繊維の集合体に形成される白色化帯域の幅を制御することができる。そして、この白色化帯域は、後に説明するように、微細炭素繊維が引き出される領域を画定する上で、重要な役割を果たす。
【0056】
レーザ加工の他、イオンビーム加工、電子ビーム加工もレーザ加工と同様に引出不能部位を形成し得る。ただし、イオンビーム加工や電子ビーム加工は、真空チャンバ内で加工が施される。また、プラズマ加工によっても引出不能部位を形成し得る。プラズマ加工は、レーザ加工に比較して装置が大型化するが、孔版(メタルマスク)を用いることで、所望の引出不能部位を瞬時に形成することができるメリットがある。
【0057】
また、微細炭素繊維の引き出し領域を画定する引出不能部位は、触媒層をパターンニングすることによっても形成することができる。斯かる触媒層のパターンニングには、集積回路の微細加工技術として用いられるパターンニング技術を利用することができる。
【0058】
そのようなパターンニングには、リソグラフィを利用できる。例えば、まず、触媒層が形成される前の基板に、ポジティブタイプのレジスト膜を塗布する。次に、微細炭素繊維を引き出す領域(引出領域)に合致するマスクパターンを備えるマスク(レチクル)を用いてレジスト膜を露光し、前記マスクパターンをレジスト膜に転写する。次いで、現像及びリンスにより、引出不能部位に合致するレジストパターンを残す。前記レジストパターンが形成された基板に触媒層を蒸着した後、公知の手法によってレジストパターンを取り除くことにより、引出不能部位に合致する部分だけが触媒層を形成されていない基板を製作することができる。このようにパターニングされた触媒層を備える基板は、所定のパターンの領域(触媒層が形成されている領域)にのみ微細炭素繊維の集合体が化学気相成長する。
【0059】
触媒層をパターニングする他の方法として、触媒層を基板上の全面に形成した後、レーザ加工装置を用いて、微細炭素繊維が化学気相成長する領域が所定のパターンとなるように、触媒層をエッチングする方法も採用し得る。なお、触媒層をエッチングする方法としては、レーザによるエッチングに限らず、その他の公知のドライエッチング又はウェットエッチングを採用することができる。
【0060】
触媒層をパターニングする更に他の方法として、触媒層積層シリコン基板の触媒層上に所望パターン形状のマスキングを施しておいて、微細炭素繊維が化学気相成長しない領域を形成することにより、前記引出不能部位を形成することもできる。
【0061】
微細炭素繊維の引き出し領域を画定する引出不能部位は、種々の形状とすることができ、並列若しくは平行に延びる複数の線状としたり、等間隔で相互に噛み合う櫛歯形の線状(図14)としたり、或いは、等間隔で渦を巻く渦を巻き線状(図15)、並列する蛇行線状等とすることができる。なお、前記引出不能部位の形状は、線状又は帯状に限らないが、微細炭素繊維の有効利用の観点からは、前記引出不能部位の面積が小さい方が望ましい。
【0062】
さらに、引出不能部位を形成する他の方法として、図16に示すような押圧具10を用いて形成することができる。引出不能部位を形成するための押圧具10は、少なくとも1つの仕切プレート11を備えている。仕切プレート11を微細炭素繊維の集合体2に押し付けることにより、集合体2から微細炭素繊維が引き出される領域を、仕切りプレート11によって仕切り、所定のパターンに画定することができる。
【0063】
図17は、押圧具の他の形態を示す。図17に示す押圧具10aは、仕切プレート11aを、図15の渦巻き線状の引出不能部位を形成するための渦巻き板状としている。仕切りプレートは、図16に示すような平板状、或いは、図17に示すような渦巻き線状とする他、必要な引出領域のパターンに合わせた所望の形状とすることができる。
【0064】
上記のような方法を用いて、前記集合体から微細炭素繊維を引き出せない引出不能部位を形成することにより、微細炭素繊維の集合体から微細炭素繊維が引き出される領域が画定される。従って、前記引出不能部位を適切に制御すれば、微細炭素繊維が無秩序に引き出されることを防止でき、それによって糸に使用できずに無駄になってしまう微細炭素繊維を減少させることができる。
【0065】
前記引出不能部位は、微細炭素繊維の集合体における引き出し領域が一定幅となるように形成することが好ましい。微細炭素繊維の引き出し領域を一定幅とすることによって、該引き出し領域のみから引き出されて製作される糸は、糸径のバラツキが抑えられる。但し、微細炭素繊維の引き出し領域の幅は、好ましくは、5mm以下であり、より好ましくは2mm以下である。引き出し領域の幅が5mmを越えると、糸径のバラツキを生じ易くなるからである。
【0066】
以下に実施例を用いて本発明を詳細に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0067】
実施例
シリコン基板(市販品、1cm2)に鉄をスパッタリングすることにより、厚さ4nmの鉄皮膜からなる触媒層が積層されたシリコン基板を製造した。
【0068】
この基板を熱CVD装置内に設置し、熱CVD法を行うことにより基板上にカーボンナノチューブ集合体を形成させた。熱CVD装置内に供給するガスは、アセチレンガス及びヘリウムガスの混合ガス(アセチレンガス5.77vol%)とした。熱CVD条件としては、温度:700℃、圧力:大気圧下、初期段階におけるアセチレンガス濃度の上昇速度:0.10vol%/秒、反応時間:10分とした。
【0069】
成長させたカーボンナノチューブの平均長さは190μm、太さは15.3nm程度であり、基板上のカーボンナノチューブ集合体は、嵩密度40mg/cm2の高密度かつ高配向で形成されていた。
【0070】
上記のようにして得られたカーボンナノチューブ集合体に、レーザ加工、インクジェット、マイクロナイフ、マイクロディスペンサーを用いて、カーボンナノチューブの引出不能部位を複数の平行な線状に形成した試料(実施例1〜14)を作成し、微細炭素繊維糸を引き出した。
【0071】
レーザ加工による実施例
レーザ加工には、炭酸ガスレーザマーカーを用いた。使用した炭酸ガスレーザマーカーは、株式会社キーエンス製3−Axis CO2レーザマーカー、ヘッド:ML−Z9550C、コントローラ:ML−Z9500C、波長:10.6μm、平均出力:30W、マーキングスペース:50×50×4mm、印字分解能:1μm、レーザ照射幅:40μmである。
【0072】
CO2レーザマーカーには、レーザ照射パラメータとして、出力(30Wに対する%)と、レーザスポットを移動させる速度、即ち、掃引速度(mm/秒)とがあり、これらの組み合わせにより照射強度が決まる。
【0073】
カーボンナノチューブ集合体へのレーザ加工によるパターニングを行うための照射条件を決定するにあたり、まず、CO2レーザ照射によるカーボンナノチューブへの影響に関して検討を行った。照射強度として、出力25〜75%、掃引速度100〜1000mm/秒の範囲内でCO2レーザを照射した後、カーボンナノチューブ基板上面と断面を、100〜250倍に拡大して光学顕微鏡(株式会社ニコン製システム実体顕微鏡SMZ−1500)で撮影した写真を図10〜13に示す。
【0074】
図10及び図11は、レーザマーカーを出力75%、掃引速度100mm/秒で処理した結果であり、図12及び図13は出力25%、レーザマーカーを掃引速度1000mm/秒で処理した結果である。照射強度及び掃引速度の相違により、CO2レーザを照射した領域のカーボンナノチューブが除去される幅や深さに違いはあるが、カーボンナノチューブが引き出される領域(引出領域)を等幅にパターニングできることがわかった。
【0075】
そこで、前記レーザマーカーを、出力25%、掃引速度1000mm/秒に設定するとともに、前記レーザマーカーの制御ソフトを用いて、レーザポイントが、カーボンナノチューブ集合体上を、所定ラインピッチのラインに沿って掃引するように設定した。そのラインピッチと、該ラインピッチによって形成されるカーボンナノチューブ集合体の引出領域の幅(パターン幅)との関係を試験した結果を図18に示す。ラインピッチとパターン幅とは、図18に示すように、非常によい相関関係にあることから、CO2レーザマーカーは、カーボンナノチューブ集合体から微細炭素繊維が引き出される領域に関し、所望均一幅の微細パターンを画定可能な方法であることが明らかとなった。
【0076】
また、CO2レーザを照射した時に照射痕のエッジ(カーボンナノチューブ引出領域のエッジでもある。)に沿って生成する白色化帯域からの製糸を試みた。しかしながら、該白色化帯域からカーボンナノチューブを引き出すことは不可能であった。該白色化帯域は、図10に示すように、照射強度が強い時に幅広く生成する。この白色化帯域は、レーザ照射によりカーボンナノチューブが変質して太くなり(図31参照)、連鎖的な引き出し可能性を失っている部位であると考えられる。
【0077】
一方で、照射強度を小さくして、白色化帯域がほとんど生成しない条件で引出不能部位を線状の所定パターンで形成した基板を用いて、カーボンナノチューブ集合体からカーボンナノチューブを引き出して製糸を試みた。その結果、CO2レーザ照射部分からもカーボンナノチューブが引き出され、引き出し幅が拡大する現象が見られた。すなわち、レーザ照射部分が、引出不能部位として機能していない箇所があった。
【0078】
上記の事象を併せ考えると、白色化帯域は、引出不能部位であるため、製糸効率という点では無駄な領域である。しかし、引き出し幅を制御する上で、引き出し幅の拡大を抑制する「分離帯」として、極めて重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
【0079】
そこでこの「分離帯」を最小幅で、かつ確実に生成させる、CO2レーザ照射条件の最適化を図った。照射強度として、出力10〜30%、掃引速度500〜1500mm/秒の範囲内でCO2レーザを照射し、照射強度と分離帯の幅との関係を示す結果を図19のグラフに示し、照射強度とレーザ照射により消失した部分の最大溝深さとの関係を示す結果を図20のグラフに示す。図19及び図20から、カーボンナノチューブに与えるダメージを最小限に抑えて、引出不能部位である分離帯を形成するには、出力20%以下、掃引速度1000mm/秒以上で処理を行うことが望ましいことがわかった。
【0080】
しかしながら、出力20%、掃引速度1500mm/秒の条件と、出力10%、掃引速度1000mm/秒の条件でレーザ照射を行った基板を光学顕微鏡で観察したところ、引出領域のエッジ部分が乱れて直線性に欠けており、引き出し幅の制御が不十分となることがわかった(図21、図22)。図19〜図22の結果から、この実施例において使用したレーザマーカーでは、引出不能部位を形成する際のCO2レーザの照射条件として、出力20%、掃引速度1000mm/秒が好適であることが分かった。
【0081】
従って、レーザ光の出力および掃引速度を適切に制御することで、分離帯を確実に且つ出来るだけ狭い幅で形成することができる。
【0082】
次に、CO2レーザマーカーによって引出不能部位が形成されたカーボンナノチューブ集合体からの製糸実験を行った。カーボンナノチューブ集合体からの製糸には、パターン幅が数100μmのオーダーであるため、直径30μmのマイクロドリル(マイクロツール社製1−254:ドリル先端部直径0.03mm)を装着したマイクロマニピュレーターを使用した。作製条件は、40000T/m(ターン毎メートル)とした。
【0083】
カーボンナノチューブ集合体の引出領域の側面に、マイクロドリルの先端部を所定深さ突き刺し(図23参照)、その突き刺したマイクロドリルの先にカーボンナノチューブを絡め付け、該マイクロドリルをモータ駆動により軸線回りに回転させて、カーボンナノチューブを撚り掛けながら引き出すことにより(図24参照)、カーボンナノチューブを連鎖的に連続して引き出してカーボンナノチューブ糸を製作した。
【0084】
ラインピッチ幅200μm(カーボンナノチューブのパターン幅は100μm)の基板からカーボンナノチューブ糸を作製する際の光学顕微鏡写真を図25、26に、作製した糸のSEM写真(10000倍)を図27に示す。
【0085】
また、図26の一部を拡大したSEM写真(800倍)を図28に示す。さらに、図28の引出可能領域A,白色化帯域(分離帯)B,C,レーザ照射部Dを、それぞれ拡大したSEM写真を図29〜図32に示す。
【0086】
図25に示すように、レーザマーカーを用いた微細加工によって、カーボンナノチューブ集合体からカーボンナノチューブが引き出される領域を、一定幅にパターン形成することに成功した。カーボンナノチューブが引き出される領域の一定幅化は、カーボンナノチューブ糸の均斉化に繋がる。作製した糸は直径1μm以下であり(図27)、超極細カーボンナノチューブ糸の作製に成功した。
【0087】
マイクロナイフによる実施例
駿河精機製M401マイクロマニピュレーターに、マイクロナイフとしてフェザー剃刀製マイクロサージカルブレードK−715を装着し、遠隔制御した。
【0088】
カーボンナノチューブ集合体をマイクロスコープで拡大観察しつつ、マイクロマニピュレーターの制御下で、マイクロナイフを、カーボンナノチューブ集合体に押し込み、或いは、マイクロナイフを押し込んだ状態で引きずるようにして水平移動させた後、マイクロナイフをカーボンナノチューブ集合体から離反させる操作を繰り返すことにより、カーボンナノチューブ集合体に、複数本の平行な線状の押し込み痕又は引っ掻き痕を形成した。
【0089】
前記押し込み痕又は引っ掻き痕を顕微鏡観察したところ、カーボンナノチューブ集合体の垂直配向構造を部分的に押し潰すようにして破壊されていた(図3参照)。
【0090】
平行に延びる線状の押し込み痕又は引っ掻き痕により、微細炭素繊維の引き出し領域は畝状に形成され、畝状をしたカーボンナノチューブ集合体の側面に、マイクロドリルの先端部を所定深さ突き刺し、その突き刺した先端部にカーボンナノチューブを絡め付け、マイクロドリルをモータ駆動により軸線回りに回転させて、カーボンナノチューブを撚り掛けながら引き出すことにより、カーボンナノチューブを連鎖的に連続して引き出してカーボンナノチューブ糸を製作した(図4参照)。
【0091】
引っ掻き痕の部分からは、カーボンナノチューブは引き出されず、引出不能部位として機能することが確認された。
【0092】
マイクロディスペンサーによる実施例
カーボンナノチューブの集合体に、マイクロディスペンサーにて微小液滴を、所定の直線軌道に沿って、微小液滴痕が列をなすように滴下し、微細炭素繊維の引出不能部位を形成した(図5,6参照)。
【0093】
なお、マイクロディスペンサーとして、武藤エンジニアリング株式会社製非接触ジェットディスペンサーJETMASTER2を、同社製高速処理・高精度卓上ロボットSHOTMASTER300に搭載したものを、下記の条件で使用した。
【0094】
基本条件: CONTINUE MODE(ON 3m秒、OFF 3m秒)
加圧条件: 10kPa、ノズル:32ゲージ、5mm長、ストローク:0.03mm
ヘッド常圧: 500kPa、ワーククリアランス:10mm
ヘッド移動速度: 60mm/秒
吐出液体: エタノール25%水溶液
平行に延びる筋状の液滴痕により、微細炭素繊維の引き出し領域は畝状に形成され、畝状をしたカーボンナノチューブ集合体の側面に、マイクロドリルの先端部を所定深さ突き刺し、その突き刺した先端部にカーボンナノチューブを絡め付け、マイクロドリルをモータ駆動により軸線回りに回転させて、カーボンナノチューブを撚り掛けながら引き出すことにより、カーボンナノチューブを連鎖的に連続して引き出してカーボンナノチューブ糸を製作した。
【0095】
液滴痕の部分からは、カーボンナノチューブは引き出されず、引出不能部位として作用することが確認された。
【0096】
インクジェットプリンターによる実施例
カーボンナノチューブの集合体に、インクジェットプリンターにて微小液滴を、所定の直線軌道に沿って微小液滴痕が列をなすように滴下し、滴下した微小液滴痕の列により、微細炭素繊維の引出不能部位を形成した(図7,8参照)。
【0097】
インクジェットプリンターとして、株式会社キーエンス製MK−9100(ノズル径:34μm、理論インク液滴径:80μm、最高印字速度:1018文字/秒)を用いた。
【0098】
微小液滴痕の列間にあるカーボンナノチューブ集合体の側面に、マイクロドリルを所定深さ突き刺し、その突き刺したマイクロドリルにカーボンナノチューブを絡め付け、マイクロドリルをモータ駆動により回転させて、カーボンナノチューブを撚り掛けながら引き出すことにより、カーボンナノチューブを連鎖的に連続して引き出してカーボンナノチューブ糸を製作した。
【0099】
微小液滴痕の部分からは、カーボンナノチューブは引き出されず、引出不能部位として作用することが確認された。また、1列上に並ぶ液滴同士が多少途切れて離れていても、引き出されるカーボンナノチューブは、微小液滴痕の列からはみ出して引き出されることはなかった。従って、微小液滴の列によって、カーボンナノチューブが引き出される領域を画定することができた。
【0100】
試験例
上記実施例による引出不能部位を形成することによって、カーボンナノチューブが集合体から引き出される領域を、一定幅に形成し、該一定幅の引き出し領域から引き出されたカーボンナノチューブ糸の直径と、該引き出し領域の幅との関係について調べた。カーボンナノチューブ糸の直径は、長さ方向に1mm間隔で10箇所測定し、平均値を求めるとともに、標準偏差を算出した。
【0101】
また、引き出されたカーボンナノチューブ糸の直径と引っ張り強度との関係を調べた。
【0102】
比較例として、引出不能部位を形成していないカーボンナノチューブ集合体から引き出したカーボンナノチューブ糸を用いた。
【0103】
試験結果を表1に示す。
【0104】
【表1】
表1の結果から作成したグラフを図33、34に示す。
【0105】
表1の標準偏差値を参照すれば、引き出し領域の幅を一定にした実施例は、比較例に比べて、得られるカーボンナノチューブ糸の直径変動が少ないことが分かる。
【0106】
また、図33のグラフから、引き出し領域の幅と、得られるカーボンナノチューブ糸の直径とが比例関係にあることが分かる。従って、引き出し領域の幅を制御することによって、カーボンナノチューブ糸の直径を制御することが可能であることが確認された。
【0107】
さらに、図34のグラフから、カーボンナノチューブ糸の直径が小さいほど、引っ張り強度が大きくなっていることが分かる。このことから、直径にバラツキがなく出来るだけ細いカーボンナノチューブ糸を製造することが産業上極めて重要であることが理解される。以上の説明から明らかなように、本発明方法によれば、カーボンナノチューブ糸の直径を制御し、必要な細さで均斉のとれたカーボンナノチューブ糸を製造することが可能となる。
【0108】
触媒層のエッチングによる実施例
鉄皮膜からなる触媒層が積層されたシリコン基板を用意し、熱CVDによりカーボンナノチューブを気相成長させる前に、触媒層をエッチングした。エッチングには、株式会社キーエンス製3−Axis YVO4レーザマーカー(ヘッド・コントローラ:MD−V9900(標準タイプ)、波長:1064nm、出力13W)を用いた。レーザ光照射条件は、出力60%、掃引速度500mm/秒とし、Qスイッチ周波数を40kHz〜80kHzの間で変化させて照射強度を調節した。Qスイッチ周波数を40kHz及び80kHzの場合のYVO4レーザを照射したシリコン基板上面を光学顕微鏡(100倍)で観察した結果を図35、図36に示す。図35は40kHzの場合、図36は80kHzの場合である。図35に示すように照射強度が強い(Qスイッチ周波数が小さい)ときは、YVO4レーザによる触媒層のパターン(エッチング跡)が容易に観察されるが、照射強度が小さいときは、YVO4レーザの照射部分の確認が困難であった。
【0109】
次に、YVO4レーザによる触媒層のパターンエッチング後、熱CVD装置で合成したカーボンナノチューブ集合体の上面を光学顕微鏡で観察した結果を図37、図38に示す。図37が40kHzの場合、図38が80kHzの場合である。図37に示すように、照射強度が強い(Qスイッチ周波数が小さい)サンプルは、カーボンナノチューブ集合体の畝状引出領域はエッジ部分が乱れており、製糸に使用できる状態ではなかった。一方、図38に示すように、照射強度が弱いサンプルは、触媒層のパターンが光学顕微鏡で確認できないにもかかわらず、合成したカーボンナノチューブ集合体の引出領域にエッジの乱れのないパターンが形成され、所定パターンの引出領域を作製できることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】基板上に気相成長させた微細炭素繊維の集合体の側面を写した顕微鏡写真である。
【図2】本発明に係る微細炭素繊維糸の製造方法を説明するための写真であって、マイクロナイフによる引出不能部位を上方から撮影した顕微鏡写真である。
【図3】図2の被写体の縦断面を写した顕微鏡写真である。
【図4】図2に示す引出不能部位からカーボンナノチューブを引き出して、カーボンナノチューブ糸を形成している状態を示す顕微鏡写真である。
【図5】本発明に係る微細炭素繊維糸の製造方法を説明するための写真であって、マイクロディスペンサーによる引出不能部位を上方から撮影した顕微鏡写真である。
【図6】図5の被写体の縦断面を写した顕微鏡写真である。
【図7】本発明に係る微細炭素繊維糸の製造方法を説明するための写真であって、インクジェットノズルによる引出不能部位を上方から撮影した顕微鏡写真である。
【図8】図7の被写体の縦断面を写した顕微鏡写真である。
【図9】図8の被写体の縦断面を部分的に拡大して示す顕微鏡写真である。
【図10】本発明に係る微細炭素繊維糸の製造方法を説明するための写真であって、レーザよる引出不能部位の例を上方から撮影した顕微鏡写真である。
【図11】図10の被写体の縦断面を示す顕微鏡写真である。
【図12】本発明に係る微細炭素繊維糸の製造方法を説明するための写真であって、レーザよる引出不能部位の他の例を上方から撮影した顕微鏡写真である。
【図13】図12の被写体の縦断面を示す顕微鏡写真である。
【図14】本発明に係る微細炭素繊維糸の製造方法を説明するための引出不能部位の一例を示す平面図である。
【図15】本発明に係る微細炭素繊維糸の製造方法を説明するための引出不能部位の他の一例を示す平面図である。
【図16】本発明に係る微細炭素繊維糸の製造方法に適用する仕切りプレートの使用状態を示す斜視図である。
【図17】他の形態の仕切プレートの使用状態を示す斜視図である。
【図18】レーザマーカーによるレーザ光のラインピッチと、レーザ照射によって画定された微細炭素繊維が引き出される領域の幅(パターン幅)との相関を示すグラフである。
【図19】レーザ光の照射強度と白色化帯域(分離帯)の幅との関係を示すグラフである。
【図20】レーザ光の照射強度と、照射領域の最大溝深さとの関係を示すグラフである。
【図21】レーザマーカーを出力20%、掃引速度1500mm/秒としてレーザ加工した引出不能部位を上方から見た光学顕微鏡写真である。
【図22】レーザマーカーを出力10%、掃引速度1000mm/秒としてレーザ加工した引出不能部位を上方から見た光学顕微鏡写真である。
【図23】図10の微細炭素繊維の集合体にマイクロドリルを突き刺す状態を説明するための顕微鏡写真である。
【図24】図23の状態に続いて、マイクロドリルを離反させながら回転させて、微細炭素繊維糸を製造している状態を示す顕微鏡写真である。
【図25】図24の状態に続いて、マイクロドリルを離反させながら回転させて、微細炭素繊維糸を製造している状態を示す顕微鏡写真である。
【図26】図25において微細炭素繊維が引き出された後の状態を拡大して示す光学顕微鏡写真である。
【図27】図25に示されている微細炭素繊維糸を拡大して示すSEM写真である。
【図28】図26の囲み部分を拡大して示す800倍のSEM写真である。
【図29】図28の引出可能領域Aを拡大して示すSEM写真であり、図29(a)は上面の5000倍、図29(b)は上面の50000倍、図29(c)は断面の5000倍、図29(d)は断面の50000倍である。
【図30】図28の白色化帯域Bを拡大して示すSEM写真であり、図30(a)は上面の5000倍、図30(b)は上面の50000倍、図30(c)は断面の5000倍、図30(d)は断面の50000倍である。
【図31】図28の白色化帯域Cを拡大して示すSEM写真であり、図31(a)は上面の5000倍、図31(b)は上面の50000倍、図31(c)は断面の5000倍、図31(d)は断面の50000倍である。
【図32】図28のレーザ照射部Dを拡大して示すSEM写真であり、図32(a)は上面の5000倍、図32(b)は上面の50000倍、図32(c)は断面の5000倍、図32(d)は断面の50000倍である。
【図33】本発明実施例において、微細炭素繊維が引き出される領域の幅と微細炭素繊維糸の平均直径との関係を示すグラフである。
【図34】本発明実施例において、微細炭素繊維糸の平均直径と引張強度との関係を示すグラフである。
【図35】鉄蒸着膜による触媒層を積層したシリコン基板に、Qスイッチ周波数40kHzYVO4レーザを照射して触媒層をエッチングした状態を示す光学顕微鏡写真である。
【図36】鉄蒸着膜による触媒層を積層したシリコン基板に、Qスイッチ周波数80kHzのYVO4レーザを照射して触媒層をエッチングした状態を示す光学顕微鏡写真である。
【図37】図35の基板に気相成長させたカーボンナノチューブの集合体を撮影した光学顕微鏡写真である。
【図38】図36の基板に気相成長させたカーボンナノチューブの集合体を撮影した光学顕微鏡写真である。
【図39】従来法を説明するための、微細炭素繊維の集合体から微細炭素繊維を引き出して糸を作成している状態を示す顕微鏡写真である。
【図40】従来法により、基板上から微細炭素繊維が引き出された後の状態を撮影した顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0111】
1 基板
2 微細炭素繊維の集合体
3、6、7、8 引出不能部位
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学気相成長によって得られる微細炭素繊維の集合体から微細炭素繊維を連続的に引き出して微細炭素繊維糸を製造する方法、該製造方法に用いる微細炭素繊維形成基板、及び、前記製造方法によって製造された微細炭素繊維糸に関する。
【背景技術】
【0002】
微細炭素繊維は、電気特性、力学特性等に優れており、電解放出型ディスプレイ、導電性フィラー等をはじめ、様々な産業への利用および応用が期待されている。
【0003】
近年、カーボンナノチューブからなる微細炭素繊維糸およびそれを用いたカーボンナノチューブシートが提案されている(特許文献1及び非特許文献1、2)。
【0004】
非特許文献1においては、化学気相成長法で基板上に高密度・高配向に成長させた微細炭素繊維の集合体から微細炭素繊維糸を形成する方法が開示されている。
【0005】
特許文献1,非特許文献2においては、化学気相成長法で基板上に高密度・高配向に成長させた微細炭素繊維の集合体から微細炭素繊維シートや微細炭素繊維ロープを形成し得ることが開示されている。
【0006】
前記の微細炭素繊維糸およびシートは、その既存にない形態から、新たな用途への使用が予想され、種々の産業への応用が期待されている。
【特許文献1】国際公開WO2005/102924号パンフレット
【非特許文献1】チャン等、「従来技術を小型化することによる多機能カーボンナノチューブ繊維」、サイエンス誌、米国、米国科学振興協会発行、2004年11月19日、第306巻、1358〜1361頁(Zhang et al., ,Science, AAAS, “Multifunctional Carbon Nanotube Yarns by Downsizing an Ancient Technology”,VOL 306,1358-1361, 19 November 2004)
【非特許文献2】チャン等、「強靱で透明な多機能カーボンナノチューブシート」、サイエンス誌、米国、米国科学振興協会発行、2005年8月19日、第309巻、1215〜1219頁(Zhang et al.,Science, AAAS, “Strong, Trasnsparent, Multifunctional, Carbon Nanotube sheets”, 309,1215-1219, 19 August 2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図39は、基板上に形成された微細炭素繊維の集合体から微細炭素繊維が連続的に引き出されて微細炭素繊維糸が製作されている状態を撮影した顕微鏡写真(140倍)、図40は、基板上から微細炭素繊維が引き出された後の状態を撮影した顕微鏡写真(50倍)の顕微鏡写真である。
【0008】
図40に示すように、微細炭素繊維は、引き出し開始端(写真の左端)から無秩序に引き出され、終端部(写真の右端)で途切れる。図40の写真で、明部は、微細炭素繊維が引き出された部分であり、暗部は、残った微細炭素繊維の集合体である。図40に示すように無秩序に引き出されるため、引き出された微細炭素繊維糸は、糸径が不均一となることによって、物性が不均一になるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明は、上記問題を解決するため、物性の不均一性を解消し得る微細炭素繊維糸の製造方法、該製造方法に用いる微細炭素繊維形成基板、及び、該製造方法により製造された微細炭素繊維糸を提供することを主たる目的とする。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る微細炭素繊維の製造方法は、基板上に触媒層を形成し、該触媒層を形成した基板に、微細炭素繊維の集合体を化学気相成長させて、前記微細炭素繊維の集合体から、該微細炭素繊維を連続的に引き出して微細炭素繊維糸を形成する、微細炭素繊維の製造方法であって、前記微細炭素繊維の集合体から微細炭素繊維を引き出すための領域を所定のパターンに画定するように、前記微細炭素繊維が引き出し不能な引出不能部位を形成することを特徴とする。
【0011】
前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維が引き出される領域が一定幅となるように形成されることが好ましい。
【0012】
前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維の集合体を化学気相成長させた後に、前記微細炭素繊維の集合体構造を部分的に破壊する加工、前記集合体構造を部分的に除去する加工、及び、前記集合体の微細炭素繊維を部分的に変質させる加工、の少なくとも何れかの加工を施すことにより形成することができる。
【0013】
前記微細炭素繊維の集合体構造を部分的に破壊する加工は、前記微細炭素繊維の集合体上に微小液滴を滴下する処理を含み得る。
【0014】
前記微細炭素繊維の集合体構造を部分的に破壊する加工は、前記微細炭素繊維の集合体に刃状具を押し付ける処理、及び、前記微細炭素繊維の集合体を刃状具によって引っ掻く処理、の少なくとも何れかの処理を含み得る。
【0015】
前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維の集合体を化学気相成長させた後に、該集合体に対して、レーザ加工、イオンビーム加工、電子ビーム加工、及びプラズマ加工の少なくとも何れかの加工を施すことにより形成しても良い。
【0016】
前記レーザ加工は、レーザ光を制御された出力及び掃引速度で前記微細炭素繊維の集合体上を掃引させることにより、前記微細炭素繊維の集合体に線状又は帯状の引出不能部位を形成することが好ましい。
【0017】
前記レーザ光の出力及び掃引速度を制御することにより、レーザ光の照射によって前記微細炭素繊維の集合体に形成される白色化帯域の幅を制御することが好ましい。
【0018】
前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維の集合体を化学気相成長させる前に、前記微細炭素繊維が化学気相成長する領域が前記所定のパターンとなるように、前記触媒層をパターニングすることによって形成しても良い。
【0019】
前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維が引き出される領域を区画するための少なくとも1つの仕切プレートを、前記微細炭素繊維の集合体に押し付けることにより形成しても良い。
【0020】
また、上記目的を達成するため、本発明に係る微細炭素繊維形成基板は、基板と、該基板上に触媒層を形成し、該触媒層が形成された基板上に化学気相成長させた微細炭素繊維の集合体と、前記微細炭素繊維の集合体から微細炭素繊維を引き出すため領域を所定のパターンに画定するように形成され、微細炭素繊維の引き出しが不能な引出不能部位と、を有することを特徴とする。
【0021】
前記微細炭素繊維形成基板は、前記微細炭素繊維を引き出すための領域が一定幅であることが好ましい。
【0022】
前記微細炭素繊維形成基板の前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維の集合体構造を部分的に破壊した部位、前記微細炭素繊維の集合体から微細炭素繊維を部分的に除去した部位、及び、前記集合体の微細炭素繊維を部分的に変質させた部位、の少なくとも何れかの部位を含み得る。
【0023】
前記微細炭素繊維形成基板における前記微細炭素繊維の集合体構造を部分的に破壊した部位は、前記微細炭素繊維の集合体上に微小液滴を滴下することにより形成されていても良い。
【0024】
前記微細炭素繊維形成基板の前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維の集合体に、レーザ加工、イオンビーム加工、電子ビーム加工、及びプラズマ加工の少なくとも1つの加工を施すことによって形成されていても良い。
【0025】
前記微細炭素繊維形成基板は、前記微細炭素繊維の集合体に、レーザ光の照射による白色化帯域が形成されていることが好ましい。
【0026】
前記微細炭素繊維形成基板の前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維が化学気相成長する領域が前記所定のパターンとなるように、前記触媒層をパターニングすることによって形成されていても良い。
【0027】
前記微細炭素繊維形成基板の前記引出不能部位は、一形態において、渦巻き線状に形成される。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、微細炭素繊維の集合体からの微細炭素繊維の引き出し領域を所定パターンの領域として画定するために、微細炭素繊維の引出不能部位を形成することにより、微細炭素繊維の無秩序な引き出しに制限をかけることが可能となり、微細炭素繊維撚糸の物性均一化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明を実施するための最良の形態について、以下、図1〜38を参照しつつ説明する。なお、全図、及び全実施形態を通じ、同様の構成部分に同符号を付した。
【0030】
本発明は、基板上に化学気相成長させた微細炭素繊維の集合体から、微細炭素繊維糸を連続的に製造する方法及び装置に関する。
【0031】
基板上に形成される微細炭素繊維の集合体について、以下に詳細に説明する。
【0032】
基板は、限定的でなく、公知又は市販のものを使用することができる。例えば、プラスチック基板、ガラス基板、シリコン基板、鉄、銅等の金属又はこれらの合金を含む金属基板等を用いることができる。これらの基板の表面には二酸化ケイ素膜が積層されていてもよい。本発明では、特に、シリコン基板に、熱酸化あるいは蒸着による二酸化ケイ素膜を形成し、該二酸化ケイ素膜上に、触媒層を積層した基板を用いることが好ましい。触媒層は、好ましくは、鉄を蒸着又はスパッタリング等することにより形成され得る。これにより、微細炭素繊維が高密度かつ高配向で形成された集合体を製造できる。
【0033】
基板上に化学気相成長させる微細炭素繊維は、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等の繊維状の形態を持つ気相成長炭素繊維である。
【0034】
これら微細炭素繊維の形態は特に限定されるものではないが、微細炭素繊維糸を容易に形成しやすいことなどの理由から、好ましくは、基板上に高密度かつ高配向で形成された集合体であることが望ましい。
【0035】
高密度とは、基板上のカーボンナノチューブの嵩密度が1〜1000mg/cm3、好ましくは10〜500mg/cm3、さらに好ましくは10〜100mg/cm3である。この範囲より嵩密度が小さいと隣接するカーボンナノチューブの分子間の相互作用が弱くなり、引き出し特性が悪くなるおそれがある。高配向とは、微細炭素繊維同士が隣接しながら基板平面に対して垂直状に林立していることを意味する。
【0036】
このように化学気相成長によって高密度で垂直配向させた微細炭素繊維の集合体は、カーボンナノチューブフォレスト(carbon nanotube forest)、或いは、カーボンナノチューブの垂直配向構造体等と呼ばれる。化学気相成長によって形成される微細炭素繊維の長さは、平均で0.02mm以上であることが好ましく、より好ましくは、0.03mm以上、更に好ましくは、0.05mm以上である。微細炭素繊維材料の平均直径は限定的でなく、通常0.5〜100nm、好ましくは1nm〜100nm程度、より好ましくは5〜50nm程度である。
【0037】
化学気相成長時の温度はいずれの温度で行ってもよいが、特に高温で行うことが好ましく、例えば600〜1000℃程度で行うことが好ましい。気相成長時の圧力は限定的でないが、通常、大気圧で行えばよい。気相成長に用いるガスは、炭素を含んでいればよいが、通常はアセチレン等の炭化水素を使用すればよい。なお、ヘリウム等の希ガスをキャリアガスとして用いてもよい。反応時間は、製造条件に応じて適宜設定できるが、例えば、3分〜12時間程度とすればよい。
【0038】
上記のようにして基板上に形成された微細炭素繊維であるカーボンナノチューブの集合体を側面から写した顕微鏡写真を図1に示す。図1は、倍率500倍のSEM写真であり、基板1上に微細炭素繊維2が高密度で垂直配向している様子が写されている。
【0039】
基板上に高密度・高配向で成長したカーボンナノチューブの集合体の一部、即ち複数本の微細炭素繊維をピンセット等で把持又は細い針状の物の先に接続する等してカーボンナノチューブの集合体から引き離すことにより、カーボンナノチューブは基板上から、隣接するカーボンナノチューブどうしが相互に連鎖的に繋がって連続した糸状体となって引き出される現象を生じる。このような現象が生じるメカニズムは必ずしも明らかではないが、好ましくは、こうして引き出されて糸状に繋がったカーボンナノチューブに適切に撚りをかけながら引き出す。撚りをかけることで、糸切れを少なくすることができる。
【0040】
本発明では、微細炭素繊維の集合体に、微細炭素繊維の引き出し領域を所定のパターンに画定するように、微細炭素繊維を引き出すことができない引出不能部位を形成する。
【0041】
該引出不能部位は、微細炭素繊維の集合体構造を部分的に破壊することによって形成することができる。
【0042】
微細炭素繊維の集合体構造を部分的に破壊する方法には種々の方法があるが、例えば、基板上に形成された微細炭素繊維の集合体に、カミソリ刃のように薄い刃状具を押し込む操作や、該刃状具を用いて前記集合体を筋状に引っ掻く操作によって破壊することができる。刃状具は、微細炭素繊維の集合体に筋状の押し込み痕又は引っ掻き痕による凹部を形成できるものであれば良く、微小加工等に用いられるマイクロナイフを好適な例として挙げることができる。
【0043】
斯かる微細加工は、マイクロスコープで拡大観察しつつ、マイクロマニピュレーターを用いてマイクロナイフを制御することにより行うことができる。なお、マイクロマニピュレーターも、微細加工に用いられている公知のものを使用することができる。具体的には、マイクロナイフの刃先を、微細炭素繊維の集合体の上方から下降させて該集合体に少し押し込むか、或いは、押し込んだ状態でマイクロナイフをその刃面と平行に水平移動することにより、筋状の押し込み痕又は引っ掻き痕を形成する。
【0044】
上記のようにして複数本の筋状の押し込み痕又は引っ掻き痕を形成した、微細炭素繊維集合体の上面及び縦断面を写した顕微鏡写真を図2、図3に示す。図3の写真から分かるように、押し込み痕又は引っ掻き痕3は、基板に迄達していなくても良く、微細炭素繊維集合体2の少なくとも表層付近の垂直配向構造が破壊されていれば良い。また、図3の写真から分かるように、引っ掻き痕3は、微細炭素繊維の集合体を構成している微細炭素繊維の垂直配向構造を上方から押し潰すようにして、該垂直配向構造を破壊した形態を有している。微細炭素繊維の集合体は、マイクロナイフで上から少し押さえただけでひしゃげてしまうので、微細炭素繊維の垂直配向構造は、容易に壊され得る。
【0045】
このようにして微細炭素繊維の集合体に形成された複数本の筋状の押し込み痕又は引っ掻き痕の部位は、微細炭素繊維集合体の垂直配向構造が破壊されているため、微細炭素繊維が引き出されない。その結果、微細炭素繊維を引き出す領域を画定するための引出不能部位を形成する。
【0046】
隣り合う平行な2本の筋状の押し込み痕又は引っ掻き痕によって区画される領域が、前記集合体から微細炭素繊維が引き出される領域を一定幅に画定する。図4は、2本の筋状の押し込み痕又は引っ掻き痕の間にある微細炭素繊維の集合体から微細炭素繊維が撚りを掛けられながら引き出され、微細炭素繊維糸5が製作されている状態を示す顕微鏡写真である。図4では、写真外のマイクロドリルに、微細炭素繊維の集合体から引き出された複数本の微細炭素繊維が付着させられ、該マイクロドリルを回転させつつ、マイクロドリルを該集合体から離反させることによって、微細炭素繊維が連鎖的に繋がった状態で、引き出されながら撚りが掛けられている。なお、該マイクロドリルの先端を微細炭素繊維の集合体にその側面から突き刺すだけで、前記針先に複数本の微細炭素繊維を付着させることができるが、マイクロドリルの先端に接着剤等を塗布しておいても良い。
【0047】
微細炭素繊維の集合体構造を部分的に破壊する他の方法として、該集合体上に微小液滴を滴下する方法を挙げることができる。例えば、マイクロディスペンサーによってエタノール水溶液等の微小液滴を滴下し、微細炭素繊維の集合体の所望領域を液滴の落下衝撃によって押し潰す。マイクロディスペンサーは、マイクロリットル以下の分注が可能なディスペンサーであり、公知のマイクロディスペンサーを使用することができる。微小液滴に使用する液は、微細炭素繊維に滴下することによって微細炭素繊維の垂直配向構造を壊すことができる液であれば特に限定されない。
【0048】
図5は、微細炭素繊維の集合体上に、マイクロディスペンサーを用いて微小液滴を滴下した状態を上から撮影した顕微鏡写真であり、図6は縦断面を撮影した顕微鏡写真である。図5から分かるように、微小液滴は、平面視においてラインパターンの引出不能部位6を形成するように、直線上を連続して滴下されている。このように微小液滴が列をなすように滴下するには、例えば、微細炭素繊維の集合体が形成されている基板を載せたXYテーブルを一定速度で一定方向に移動させつつ、マイクロディスペンサーから一定の時間間隔で微小液滴を滴下させることによって為し得る。
【0049】
微小液滴を滴下する方法として、マイクロディスペンサーに代えて、インクジェットプリンターに使用されるインクジェットノズルを用いることもできる。図7、8は、インクジェットノズルによって、微細炭素繊維の集合体に微小液滴を滴下した状態の上面写真及び断面写真である。図7から分かるように、微小液滴によってライン状の引出不能部位7が形成されているが、ライン状に滴下された微小液滴は必ずしも繋がっていなくてもよく、隣り合う液滴どうしが、ある程度(例えば微小液滴の半径以下程度)の距離までは離れていても良い。
【0050】
図9(a)〜(e)は、インクジェットノズルから吐出された液滴が滴下された状態を撮影した顕微鏡写真である。図9(a)に現れているように、液滴は基板1まで到達していない。図9(e)の部分では、微細炭素繊維の集合体構造は破壊されておらず、図9(d)の部分で構造に変化が生じ、図9(c)の部分では、微細炭素繊維集合体の垂直配向構造が完全に破壊されていることが分かる。
【0051】
また、微細炭素繊維の引出不能部位は、微細炭素繊維の集合体を部分的に除去、或いは変質させることによって形成することもできる。上記のような刃状体や微小液滴を用いる方法以外に、エネルギー照射によって、微細炭素繊維の集合体構造を部分的に破壊又は除去し、或いは、該集合体を部分的に変質させる方法を利用することもできる。エネルギー照射による方法には、レーザ加工、イオンビーム加工、電子ビーム加工、或いはプラズマ加工といった公知の加工技術による微細加工方法を用いることができる。これらの微細加工方法を用いて、微細炭素繊維の集合体の所望部位を破壊又は除去、若しくは、変質させることにより、微細炭素繊維の引き出し領域を画定する引出不能部位を形成することができる。
【0052】
図10、11は、炭酸ガスレーザマーカーを用いて引出不能部位8を形成した顕微鏡写真であり、図10は上面、図11は断面である。図12、13は、炭酸ガスレーザのエネルギー出力を図10,11の場合より低くして、引出不能部位8を形成した顕微鏡写真である。
【0053】
レーザマーカーは、レーザスポットを3次元制御可能であることが望ましい。そのようなレーザマーカーとして、例えば、株式会社キーエンスから販売されている3次元制御レーザマーカーを使用できる。このようなレーザマーカーを用いて、レーザ光のエネルギー出力及び/又は掃引速度を調整することによって、微細炭素繊維集合体の表層部分だけを消失させて引出不能部位を形成しても良いし、基板に達するまで消失させて引出不能部位を形成してもよい。
【0054】
レーザ加工による線状又は帯状の引出不能部位を、複数本、所望ピッチで形成することにより、微細炭素繊維が引き出される領域を一定幅に形成することができる。
【0055】
線状又は帯状のレーザ痕の長さ方向に沿う縁部に、光学顕微鏡で観察すると、微細炭素繊維が変質して白く見える部分(以下、「白色化帯域)と言う。)が形成される。この白色化帯域については、後の実施例で説明するが、レーザ光の出力及び掃引速度を制御することにより、レーザ光の照射によって前記微細炭素繊維の集合体に形成される白色化帯域の幅を制御することができる。そして、この白色化帯域は、後に説明するように、微細炭素繊維が引き出される領域を画定する上で、重要な役割を果たす。
【0056】
レーザ加工の他、イオンビーム加工、電子ビーム加工もレーザ加工と同様に引出不能部位を形成し得る。ただし、イオンビーム加工や電子ビーム加工は、真空チャンバ内で加工が施される。また、プラズマ加工によっても引出不能部位を形成し得る。プラズマ加工は、レーザ加工に比較して装置が大型化するが、孔版(メタルマスク)を用いることで、所望の引出不能部位を瞬時に形成することができるメリットがある。
【0057】
また、微細炭素繊維の引き出し領域を画定する引出不能部位は、触媒層をパターンニングすることによっても形成することができる。斯かる触媒層のパターンニングには、集積回路の微細加工技術として用いられるパターンニング技術を利用することができる。
【0058】
そのようなパターンニングには、リソグラフィを利用できる。例えば、まず、触媒層が形成される前の基板に、ポジティブタイプのレジスト膜を塗布する。次に、微細炭素繊維を引き出す領域(引出領域)に合致するマスクパターンを備えるマスク(レチクル)を用いてレジスト膜を露光し、前記マスクパターンをレジスト膜に転写する。次いで、現像及びリンスにより、引出不能部位に合致するレジストパターンを残す。前記レジストパターンが形成された基板に触媒層を蒸着した後、公知の手法によってレジストパターンを取り除くことにより、引出不能部位に合致する部分だけが触媒層を形成されていない基板を製作することができる。このようにパターニングされた触媒層を備える基板は、所定のパターンの領域(触媒層が形成されている領域)にのみ微細炭素繊維の集合体が化学気相成長する。
【0059】
触媒層をパターニングする他の方法として、触媒層を基板上の全面に形成した後、レーザ加工装置を用いて、微細炭素繊維が化学気相成長する領域が所定のパターンとなるように、触媒層をエッチングする方法も採用し得る。なお、触媒層をエッチングする方法としては、レーザによるエッチングに限らず、その他の公知のドライエッチング又はウェットエッチングを採用することができる。
【0060】
触媒層をパターニングする更に他の方法として、触媒層積層シリコン基板の触媒層上に所望パターン形状のマスキングを施しておいて、微細炭素繊維が化学気相成長しない領域を形成することにより、前記引出不能部位を形成することもできる。
【0061】
微細炭素繊維の引き出し領域を画定する引出不能部位は、種々の形状とすることができ、並列若しくは平行に延びる複数の線状としたり、等間隔で相互に噛み合う櫛歯形の線状(図14)としたり、或いは、等間隔で渦を巻く渦を巻き線状(図15)、並列する蛇行線状等とすることができる。なお、前記引出不能部位の形状は、線状又は帯状に限らないが、微細炭素繊維の有効利用の観点からは、前記引出不能部位の面積が小さい方が望ましい。
【0062】
さらに、引出不能部位を形成する他の方法として、図16に示すような押圧具10を用いて形成することができる。引出不能部位を形成するための押圧具10は、少なくとも1つの仕切プレート11を備えている。仕切プレート11を微細炭素繊維の集合体2に押し付けることにより、集合体2から微細炭素繊維が引き出される領域を、仕切りプレート11によって仕切り、所定のパターンに画定することができる。
【0063】
図17は、押圧具の他の形態を示す。図17に示す押圧具10aは、仕切プレート11aを、図15の渦巻き線状の引出不能部位を形成するための渦巻き板状としている。仕切りプレートは、図16に示すような平板状、或いは、図17に示すような渦巻き線状とする他、必要な引出領域のパターンに合わせた所望の形状とすることができる。
【0064】
上記のような方法を用いて、前記集合体から微細炭素繊維を引き出せない引出不能部位を形成することにより、微細炭素繊維の集合体から微細炭素繊維が引き出される領域が画定される。従って、前記引出不能部位を適切に制御すれば、微細炭素繊維が無秩序に引き出されることを防止でき、それによって糸に使用できずに無駄になってしまう微細炭素繊維を減少させることができる。
【0065】
前記引出不能部位は、微細炭素繊維の集合体における引き出し領域が一定幅となるように形成することが好ましい。微細炭素繊維の引き出し領域を一定幅とすることによって、該引き出し領域のみから引き出されて製作される糸は、糸径のバラツキが抑えられる。但し、微細炭素繊維の引き出し領域の幅は、好ましくは、5mm以下であり、より好ましくは2mm以下である。引き出し領域の幅が5mmを越えると、糸径のバラツキを生じ易くなるからである。
【0066】
以下に実施例を用いて本発明を詳細に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0067】
実施例
シリコン基板(市販品、1cm2)に鉄をスパッタリングすることにより、厚さ4nmの鉄皮膜からなる触媒層が積層されたシリコン基板を製造した。
【0068】
この基板を熱CVD装置内に設置し、熱CVD法を行うことにより基板上にカーボンナノチューブ集合体を形成させた。熱CVD装置内に供給するガスは、アセチレンガス及びヘリウムガスの混合ガス(アセチレンガス5.77vol%)とした。熱CVD条件としては、温度:700℃、圧力:大気圧下、初期段階におけるアセチレンガス濃度の上昇速度:0.10vol%/秒、反応時間:10分とした。
【0069】
成長させたカーボンナノチューブの平均長さは190μm、太さは15.3nm程度であり、基板上のカーボンナノチューブ集合体は、嵩密度40mg/cm2の高密度かつ高配向で形成されていた。
【0070】
上記のようにして得られたカーボンナノチューブ集合体に、レーザ加工、インクジェット、マイクロナイフ、マイクロディスペンサーを用いて、カーボンナノチューブの引出不能部位を複数の平行な線状に形成した試料(実施例1〜14)を作成し、微細炭素繊維糸を引き出した。
【0071】
レーザ加工による実施例
レーザ加工には、炭酸ガスレーザマーカーを用いた。使用した炭酸ガスレーザマーカーは、株式会社キーエンス製3−Axis CO2レーザマーカー、ヘッド:ML−Z9550C、コントローラ:ML−Z9500C、波長:10.6μm、平均出力:30W、マーキングスペース:50×50×4mm、印字分解能:1μm、レーザ照射幅:40μmである。
【0072】
CO2レーザマーカーには、レーザ照射パラメータとして、出力(30Wに対する%)と、レーザスポットを移動させる速度、即ち、掃引速度(mm/秒)とがあり、これらの組み合わせにより照射強度が決まる。
【0073】
カーボンナノチューブ集合体へのレーザ加工によるパターニングを行うための照射条件を決定するにあたり、まず、CO2レーザ照射によるカーボンナノチューブへの影響に関して検討を行った。照射強度として、出力25〜75%、掃引速度100〜1000mm/秒の範囲内でCO2レーザを照射した後、カーボンナノチューブ基板上面と断面を、100〜250倍に拡大して光学顕微鏡(株式会社ニコン製システム実体顕微鏡SMZ−1500)で撮影した写真を図10〜13に示す。
【0074】
図10及び図11は、レーザマーカーを出力75%、掃引速度100mm/秒で処理した結果であり、図12及び図13は出力25%、レーザマーカーを掃引速度1000mm/秒で処理した結果である。照射強度及び掃引速度の相違により、CO2レーザを照射した領域のカーボンナノチューブが除去される幅や深さに違いはあるが、カーボンナノチューブが引き出される領域(引出領域)を等幅にパターニングできることがわかった。
【0075】
そこで、前記レーザマーカーを、出力25%、掃引速度1000mm/秒に設定するとともに、前記レーザマーカーの制御ソフトを用いて、レーザポイントが、カーボンナノチューブ集合体上を、所定ラインピッチのラインに沿って掃引するように設定した。そのラインピッチと、該ラインピッチによって形成されるカーボンナノチューブ集合体の引出領域の幅(パターン幅)との関係を試験した結果を図18に示す。ラインピッチとパターン幅とは、図18に示すように、非常によい相関関係にあることから、CO2レーザマーカーは、カーボンナノチューブ集合体から微細炭素繊維が引き出される領域に関し、所望均一幅の微細パターンを画定可能な方法であることが明らかとなった。
【0076】
また、CO2レーザを照射した時に照射痕のエッジ(カーボンナノチューブ引出領域のエッジでもある。)に沿って生成する白色化帯域からの製糸を試みた。しかしながら、該白色化帯域からカーボンナノチューブを引き出すことは不可能であった。該白色化帯域は、図10に示すように、照射強度が強い時に幅広く生成する。この白色化帯域は、レーザ照射によりカーボンナノチューブが変質して太くなり(図31参照)、連鎖的な引き出し可能性を失っている部位であると考えられる。
【0077】
一方で、照射強度を小さくして、白色化帯域がほとんど生成しない条件で引出不能部位を線状の所定パターンで形成した基板を用いて、カーボンナノチューブ集合体からカーボンナノチューブを引き出して製糸を試みた。その結果、CO2レーザ照射部分からもカーボンナノチューブが引き出され、引き出し幅が拡大する現象が見られた。すなわち、レーザ照射部分が、引出不能部位として機能していない箇所があった。
【0078】
上記の事象を併せ考えると、白色化帯域は、引出不能部位であるため、製糸効率という点では無駄な領域である。しかし、引き出し幅を制御する上で、引き出し幅の拡大を抑制する「分離帯」として、極めて重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
【0079】
そこでこの「分離帯」を最小幅で、かつ確実に生成させる、CO2レーザ照射条件の最適化を図った。照射強度として、出力10〜30%、掃引速度500〜1500mm/秒の範囲内でCO2レーザを照射し、照射強度と分離帯の幅との関係を示す結果を図19のグラフに示し、照射強度とレーザ照射により消失した部分の最大溝深さとの関係を示す結果を図20のグラフに示す。図19及び図20から、カーボンナノチューブに与えるダメージを最小限に抑えて、引出不能部位である分離帯を形成するには、出力20%以下、掃引速度1000mm/秒以上で処理を行うことが望ましいことがわかった。
【0080】
しかしながら、出力20%、掃引速度1500mm/秒の条件と、出力10%、掃引速度1000mm/秒の条件でレーザ照射を行った基板を光学顕微鏡で観察したところ、引出領域のエッジ部分が乱れて直線性に欠けており、引き出し幅の制御が不十分となることがわかった(図21、図22)。図19〜図22の結果から、この実施例において使用したレーザマーカーでは、引出不能部位を形成する際のCO2レーザの照射条件として、出力20%、掃引速度1000mm/秒が好適であることが分かった。
【0081】
従って、レーザ光の出力および掃引速度を適切に制御することで、分離帯を確実に且つ出来るだけ狭い幅で形成することができる。
【0082】
次に、CO2レーザマーカーによって引出不能部位が形成されたカーボンナノチューブ集合体からの製糸実験を行った。カーボンナノチューブ集合体からの製糸には、パターン幅が数100μmのオーダーであるため、直径30μmのマイクロドリル(マイクロツール社製1−254:ドリル先端部直径0.03mm)を装着したマイクロマニピュレーターを使用した。作製条件は、40000T/m(ターン毎メートル)とした。
【0083】
カーボンナノチューブ集合体の引出領域の側面に、マイクロドリルの先端部を所定深さ突き刺し(図23参照)、その突き刺したマイクロドリルの先にカーボンナノチューブを絡め付け、該マイクロドリルをモータ駆動により軸線回りに回転させて、カーボンナノチューブを撚り掛けながら引き出すことにより(図24参照)、カーボンナノチューブを連鎖的に連続して引き出してカーボンナノチューブ糸を製作した。
【0084】
ラインピッチ幅200μm(カーボンナノチューブのパターン幅は100μm)の基板からカーボンナノチューブ糸を作製する際の光学顕微鏡写真を図25、26に、作製した糸のSEM写真(10000倍)を図27に示す。
【0085】
また、図26の一部を拡大したSEM写真(800倍)を図28に示す。さらに、図28の引出可能領域A,白色化帯域(分離帯)B,C,レーザ照射部Dを、それぞれ拡大したSEM写真を図29〜図32に示す。
【0086】
図25に示すように、レーザマーカーを用いた微細加工によって、カーボンナノチューブ集合体からカーボンナノチューブが引き出される領域を、一定幅にパターン形成することに成功した。カーボンナノチューブが引き出される領域の一定幅化は、カーボンナノチューブ糸の均斉化に繋がる。作製した糸は直径1μm以下であり(図27)、超極細カーボンナノチューブ糸の作製に成功した。
【0087】
マイクロナイフによる実施例
駿河精機製M401マイクロマニピュレーターに、マイクロナイフとしてフェザー剃刀製マイクロサージカルブレードK−715を装着し、遠隔制御した。
【0088】
カーボンナノチューブ集合体をマイクロスコープで拡大観察しつつ、マイクロマニピュレーターの制御下で、マイクロナイフを、カーボンナノチューブ集合体に押し込み、或いは、マイクロナイフを押し込んだ状態で引きずるようにして水平移動させた後、マイクロナイフをカーボンナノチューブ集合体から離反させる操作を繰り返すことにより、カーボンナノチューブ集合体に、複数本の平行な線状の押し込み痕又は引っ掻き痕を形成した。
【0089】
前記押し込み痕又は引っ掻き痕を顕微鏡観察したところ、カーボンナノチューブ集合体の垂直配向構造を部分的に押し潰すようにして破壊されていた(図3参照)。
【0090】
平行に延びる線状の押し込み痕又は引っ掻き痕により、微細炭素繊維の引き出し領域は畝状に形成され、畝状をしたカーボンナノチューブ集合体の側面に、マイクロドリルの先端部を所定深さ突き刺し、その突き刺した先端部にカーボンナノチューブを絡め付け、マイクロドリルをモータ駆動により軸線回りに回転させて、カーボンナノチューブを撚り掛けながら引き出すことにより、カーボンナノチューブを連鎖的に連続して引き出してカーボンナノチューブ糸を製作した(図4参照)。
【0091】
引っ掻き痕の部分からは、カーボンナノチューブは引き出されず、引出不能部位として機能することが確認された。
【0092】
マイクロディスペンサーによる実施例
カーボンナノチューブの集合体に、マイクロディスペンサーにて微小液滴を、所定の直線軌道に沿って、微小液滴痕が列をなすように滴下し、微細炭素繊維の引出不能部位を形成した(図5,6参照)。
【0093】
なお、マイクロディスペンサーとして、武藤エンジニアリング株式会社製非接触ジェットディスペンサーJETMASTER2を、同社製高速処理・高精度卓上ロボットSHOTMASTER300に搭載したものを、下記の条件で使用した。
【0094】
基本条件: CONTINUE MODE(ON 3m秒、OFF 3m秒)
加圧条件: 10kPa、ノズル:32ゲージ、5mm長、ストローク:0.03mm
ヘッド常圧: 500kPa、ワーククリアランス:10mm
ヘッド移動速度: 60mm/秒
吐出液体: エタノール25%水溶液
平行に延びる筋状の液滴痕により、微細炭素繊維の引き出し領域は畝状に形成され、畝状をしたカーボンナノチューブ集合体の側面に、マイクロドリルの先端部を所定深さ突き刺し、その突き刺した先端部にカーボンナノチューブを絡め付け、マイクロドリルをモータ駆動により軸線回りに回転させて、カーボンナノチューブを撚り掛けながら引き出すことにより、カーボンナノチューブを連鎖的に連続して引き出してカーボンナノチューブ糸を製作した。
【0095】
液滴痕の部分からは、カーボンナノチューブは引き出されず、引出不能部位として作用することが確認された。
【0096】
インクジェットプリンターによる実施例
カーボンナノチューブの集合体に、インクジェットプリンターにて微小液滴を、所定の直線軌道に沿って微小液滴痕が列をなすように滴下し、滴下した微小液滴痕の列により、微細炭素繊維の引出不能部位を形成した(図7,8参照)。
【0097】
インクジェットプリンターとして、株式会社キーエンス製MK−9100(ノズル径:34μm、理論インク液滴径:80μm、最高印字速度:1018文字/秒)を用いた。
【0098】
微小液滴痕の列間にあるカーボンナノチューブ集合体の側面に、マイクロドリルを所定深さ突き刺し、その突き刺したマイクロドリルにカーボンナノチューブを絡め付け、マイクロドリルをモータ駆動により回転させて、カーボンナノチューブを撚り掛けながら引き出すことにより、カーボンナノチューブを連鎖的に連続して引き出してカーボンナノチューブ糸を製作した。
【0099】
微小液滴痕の部分からは、カーボンナノチューブは引き出されず、引出不能部位として作用することが確認された。また、1列上に並ぶ液滴同士が多少途切れて離れていても、引き出されるカーボンナノチューブは、微小液滴痕の列からはみ出して引き出されることはなかった。従って、微小液滴の列によって、カーボンナノチューブが引き出される領域を画定することができた。
【0100】
試験例
上記実施例による引出不能部位を形成することによって、カーボンナノチューブが集合体から引き出される領域を、一定幅に形成し、該一定幅の引き出し領域から引き出されたカーボンナノチューブ糸の直径と、該引き出し領域の幅との関係について調べた。カーボンナノチューブ糸の直径は、長さ方向に1mm間隔で10箇所測定し、平均値を求めるとともに、標準偏差を算出した。
【0101】
また、引き出されたカーボンナノチューブ糸の直径と引っ張り強度との関係を調べた。
【0102】
比較例として、引出不能部位を形成していないカーボンナノチューブ集合体から引き出したカーボンナノチューブ糸を用いた。
【0103】
試験結果を表1に示す。
【0104】
【表1】
表1の結果から作成したグラフを図33、34に示す。
【0105】
表1の標準偏差値を参照すれば、引き出し領域の幅を一定にした実施例は、比較例に比べて、得られるカーボンナノチューブ糸の直径変動が少ないことが分かる。
【0106】
また、図33のグラフから、引き出し領域の幅と、得られるカーボンナノチューブ糸の直径とが比例関係にあることが分かる。従って、引き出し領域の幅を制御することによって、カーボンナノチューブ糸の直径を制御することが可能であることが確認された。
【0107】
さらに、図34のグラフから、カーボンナノチューブ糸の直径が小さいほど、引っ張り強度が大きくなっていることが分かる。このことから、直径にバラツキがなく出来るだけ細いカーボンナノチューブ糸を製造することが産業上極めて重要であることが理解される。以上の説明から明らかなように、本発明方法によれば、カーボンナノチューブ糸の直径を制御し、必要な細さで均斉のとれたカーボンナノチューブ糸を製造することが可能となる。
【0108】
触媒層のエッチングによる実施例
鉄皮膜からなる触媒層が積層されたシリコン基板を用意し、熱CVDによりカーボンナノチューブを気相成長させる前に、触媒層をエッチングした。エッチングには、株式会社キーエンス製3−Axis YVO4レーザマーカー(ヘッド・コントローラ:MD−V9900(標準タイプ)、波長:1064nm、出力13W)を用いた。レーザ光照射条件は、出力60%、掃引速度500mm/秒とし、Qスイッチ周波数を40kHz〜80kHzの間で変化させて照射強度を調節した。Qスイッチ周波数を40kHz及び80kHzの場合のYVO4レーザを照射したシリコン基板上面を光学顕微鏡(100倍)で観察した結果を図35、図36に示す。図35は40kHzの場合、図36は80kHzの場合である。図35に示すように照射強度が強い(Qスイッチ周波数が小さい)ときは、YVO4レーザによる触媒層のパターン(エッチング跡)が容易に観察されるが、照射強度が小さいときは、YVO4レーザの照射部分の確認が困難であった。
【0109】
次に、YVO4レーザによる触媒層のパターンエッチング後、熱CVD装置で合成したカーボンナノチューブ集合体の上面を光学顕微鏡で観察した結果を図37、図38に示す。図37が40kHzの場合、図38が80kHzの場合である。図37に示すように、照射強度が強い(Qスイッチ周波数が小さい)サンプルは、カーボンナノチューブ集合体の畝状引出領域はエッジ部分が乱れており、製糸に使用できる状態ではなかった。一方、図38に示すように、照射強度が弱いサンプルは、触媒層のパターンが光学顕微鏡で確認できないにもかかわらず、合成したカーボンナノチューブ集合体の引出領域にエッジの乱れのないパターンが形成され、所定パターンの引出領域を作製できることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】基板上に気相成長させた微細炭素繊維の集合体の側面を写した顕微鏡写真である。
【図2】本発明に係る微細炭素繊維糸の製造方法を説明するための写真であって、マイクロナイフによる引出不能部位を上方から撮影した顕微鏡写真である。
【図3】図2の被写体の縦断面を写した顕微鏡写真である。
【図4】図2に示す引出不能部位からカーボンナノチューブを引き出して、カーボンナノチューブ糸を形成している状態を示す顕微鏡写真である。
【図5】本発明に係る微細炭素繊維糸の製造方法を説明するための写真であって、マイクロディスペンサーによる引出不能部位を上方から撮影した顕微鏡写真である。
【図6】図5の被写体の縦断面を写した顕微鏡写真である。
【図7】本発明に係る微細炭素繊維糸の製造方法を説明するための写真であって、インクジェットノズルによる引出不能部位を上方から撮影した顕微鏡写真である。
【図8】図7の被写体の縦断面を写した顕微鏡写真である。
【図9】図8の被写体の縦断面を部分的に拡大して示す顕微鏡写真である。
【図10】本発明に係る微細炭素繊維糸の製造方法を説明するための写真であって、レーザよる引出不能部位の例を上方から撮影した顕微鏡写真である。
【図11】図10の被写体の縦断面を示す顕微鏡写真である。
【図12】本発明に係る微細炭素繊維糸の製造方法を説明するための写真であって、レーザよる引出不能部位の他の例を上方から撮影した顕微鏡写真である。
【図13】図12の被写体の縦断面を示す顕微鏡写真である。
【図14】本発明に係る微細炭素繊維糸の製造方法を説明するための引出不能部位の一例を示す平面図である。
【図15】本発明に係る微細炭素繊維糸の製造方法を説明するための引出不能部位の他の一例を示す平面図である。
【図16】本発明に係る微細炭素繊維糸の製造方法に適用する仕切りプレートの使用状態を示す斜視図である。
【図17】他の形態の仕切プレートの使用状態を示す斜視図である。
【図18】レーザマーカーによるレーザ光のラインピッチと、レーザ照射によって画定された微細炭素繊維が引き出される領域の幅(パターン幅)との相関を示すグラフである。
【図19】レーザ光の照射強度と白色化帯域(分離帯)の幅との関係を示すグラフである。
【図20】レーザ光の照射強度と、照射領域の最大溝深さとの関係を示すグラフである。
【図21】レーザマーカーを出力20%、掃引速度1500mm/秒としてレーザ加工した引出不能部位を上方から見た光学顕微鏡写真である。
【図22】レーザマーカーを出力10%、掃引速度1000mm/秒としてレーザ加工した引出不能部位を上方から見た光学顕微鏡写真である。
【図23】図10の微細炭素繊維の集合体にマイクロドリルを突き刺す状態を説明するための顕微鏡写真である。
【図24】図23の状態に続いて、マイクロドリルを離反させながら回転させて、微細炭素繊維糸を製造している状態を示す顕微鏡写真である。
【図25】図24の状態に続いて、マイクロドリルを離反させながら回転させて、微細炭素繊維糸を製造している状態を示す顕微鏡写真である。
【図26】図25において微細炭素繊維が引き出された後の状態を拡大して示す光学顕微鏡写真である。
【図27】図25に示されている微細炭素繊維糸を拡大して示すSEM写真である。
【図28】図26の囲み部分を拡大して示す800倍のSEM写真である。
【図29】図28の引出可能領域Aを拡大して示すSEM写真であり、図29(a)は上面の5000倍、図29(b)は上面の50000倍、図29(c)は断面の5000倍、図29(d)は断面の50000倍である。
【図30】図28の白色化帯域Bを拡大して示すSEM写真であり、図30(a)は上面の5000倍、図30(b)は上面の50000倍、図30(c)は断面の5000倍、図30(d)は断面の50000倍である。
【図31】図28の白色化帯域Cを拡大して示すSEM写真であり、図31(a)は上面の5000倍、図31(b)は上面の50000倍、図31(c)は断面の5000倍、図31(d)は断面の50000倍である。
【図32】図28のレーザ照射部Dを拡大して示すSEM写真であり、図32(a)は上面の5000倍、図32(b)は上面の50000倍、図32(c)は断面の5000倍、図32(d)は断面の50000倍である。
【図33】本発明実施例において、微細炭素繊維が引き出される領域の幅と微細炭素繊維糸の平均直径との関係を示すグラフである。
【図34】本発明実施例において、微細炭素繊維糸の平均直径と引張強度との関係を示すグラフである。
【図35】鉄蒸着膜による触媒層を積層したシリコン基板に、Qスイッチ周波数40kHzYVO4レーザを照射して触媒層をエッチングした状態を示す光学顕微鏡写真である。
【図36】鉄蒸着膜による触媒層を積層したシリコン基板に、Qスイッチ周波数80kHzのYVO4レーザを照射して触媒層をエッチングした状態を示す光学顕微鏡写真である。
【図37】図35の基板に気相成長させたカーボンナノチューブの集合体を撮影した光学顕微鏡写真である。
【図38】図36の基板に気相成長させたカーボンナノチューブの集合体を撮影した光学顕微鏡写真である。
【図39】従来法を説明するための、微細炭素繊維の集合体から微細炭素繊維を引き出して糸を作成している状態を示す顕微鏡写真である。
【図40】従来法により、基板上から微細炭素繊維が引き出された後の状態を撮影した顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0111】
1 基板
2 微細炭素繊維の集合体
3、6、7、8 引出不能部位
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に触媒層を形成し、該触媒層を形成した基板に、微細炭素繊維の集合体を化学気相成長させて、前記微細炭素繊維の集合体から、該微細炭素繊維を連続的に引き出して微細炭素繊維糸を形成する、微細炭素繊維の製造方法であって、
前記微細炭素繊維の集合体から微細炭素繊維を引き出すための領域を所定のパターンに画定するように、前記微細炭素繊維が引き出し不能な引出不能部位を形成することを特徴とする微細炭素繊維糸の製造方法。
【請求項2】
前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維が引き出される領域が一定幅となるように形成されることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維の集合体を化学気相成長させた後に、前記微細炭素繊維の集合体構造を部分的に破壊する加工、前記集合体構造を部分的に除去する加工、及び、前記集合体の微細炭素繊維を部分的に変質させる加工、の少なくとも何れかの加工を施すことにより形成されることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記微細炭素繊維の集合体構造を部分的に破壊する加工は、前記微細炭素繊維の集合体上に微小液滴を滴下する処理を含むことを特徴とする、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記微細炭素繊維の集合体構造を部分的に破壊する加工は、前記微細炭素繊維の集合体に刃状具を押し付ける処理、及び、前記微細炭素繊維の集合体を刃状具によって引っ掻く処理、の少なくとも何れかの処理を含むことを特徴とする、請求項3に記載の製造方法。
【請求項6】
前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維の集合体を化学気相成長させた後に、該集合体に対して、レーザ加工、イオンビーム加工、電子ビーム加工、及びプラズマ加工の少なくとも何れかの加工を施すことにより形成されることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記レーザ加工は、レーザ光を制御された出力及び掃引速度で前記微細炭素繊維の集合体上を掃引させることにより、前記微細炭素繊維の集合体に線状又は帯状の引出不能部位を形成することを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記レーザ光の出力及び掃引速度を制御することにより、レーザ光の照射によって前記微細炭素繊維の集合体に形成される白色化帯域の幅を制御することを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維の集合体を化学気相成長させる前に、前記微細炭素繊維が化学気相成長する領域が前記所定のパターンとなるように、前記触媒層をパターニングすることによって形成されることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維が引き出される領域を区画するための少なくとも1つの仕切プレートを、前記微細炭素繊維の集合体に押し付けることにより形成されることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項11】
基板と、
該基板上に触媒層を形成し、該触媒層が形成された基板上に化学気相成長させた微細炭素繊維の集合体と、
前記微細炭素繊維の集合体から微細炭素繊維を引き出すため領域を所定のパターンに画定するように形成され、微細炭素繊維の引き出しが不能な引出不能部位と、
を有することを特徴とする微細炭素繊維形成基板。
【請求項12】
前記微細炭素繊維を引き出すための領域が一定幅であることを特徴とする請求項11に記載の微細炭素繊維形成基板。
【請求項13】
前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維の集合体構造を部分的に破壊した部位、前記微細炭素繊維の集合体から微細炭素繊維を部分的に除去した部位、及び、前記集合体の微細炭素繊維を部分的に変質させた部位、の少なくとも何れかの部位を含むことを特徴とする、請求項11に記載の微細炭素繊維形成基板。
【請求項14】
前記微細炭素繊維の集合体構造を部分的に破壊した部位は、前記微細炭素繊維の集合体上に微小液滴を滴下することにより形成されていることを特徴とする、請求項13に記載の微細炭素繊維形成基板。
【請求項15】
前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維の集合体に、レーザ加工、イオンビーム加工、電子ビーム加工、及びプラズマ加工の少なくとも1つの加工を施すことによって形成されていることを特徴とする請求項11に記載の微細炭素繊維形成基板。
【請求項16】
前記微細炭素繊維の集合体に、レーザ光の照射による白色化帯域が形成されていることを特徴とする請求項15に記載の微細炭素繊維形成基板。
【請求項17】
前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維が化学気相成長する領域が前記所定のパターンとなるように、前記触媒層をパターニングすることによって形成されていることを特徴とする、請求項10に記載の微細炭素繊維形成基板。
【請求項18】
前記引出不能部位が、渦巻き線状に形成されていることを特徴とする請求項11〜17の何れかに記載の微細炭素繊維形成基板。
【請求項19】
請求項1〜10の何れかの製造方法によって製造された微細炭素繊維糸。
【請求項1】
基板上に触媒層を形成し、該触媒層を形成した基板に、微細炭素繊維の集合体を化学気相成長させて、前記微細炭素繊維の集合体から、該微細炭素繊維を連続的に引き出して微細炭素繊維糸を形成する、微細炭素繊維の製造方法であって、
前記微細炭素繊維の集合体から微細炭素繊維を引き出すための領域を所定のパターンに画定するように、前記微細炭素繊維が引き出し不能な引出不能部位を形成することを特徴とする微細炭素繊維糸の製造方法。
【請求項2】
前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維が引き出される領域が一定幅となるように形成されることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維の集合体を化学気相成長させた後に、前記微細炭素繊維の集合体構造を部分的に破壊する加工、前記集合体構造を部分的に除去する加工、及び、前記集合体の微細炭素繊維を部分的に変質させる加工、の少なくとも何れかの加工を施すことにより形成されることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記微細炭素繊維の集合体構造を部分的に破壊する加工は、前記微細炭素繊維の集合体上に微小液滴を滴下する処理を含むことを特徴とする、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記微細炭素繊維の集合体構造を部分的に破壊する加工は、前記微細炭素繊維の集合体に刃状具を押し付ける処理、及び、前記微細炭素繊維の集合体を刃状具によって引っ掻く処理、の少なくとも何れかの処理を含むことを特徴とする、請求項3に記載の製造方法。
【請求項6】
前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維の集合体を化学気相成長させた後に、該集合体に対して、レーザ加工、イオンビーム加工、電子ビーム加工、及びプラズマ加工の少なくとも何れかの加工を施すことにより形成されることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記レーザ加工は、レーザ光を制御された出力及び掃引速度で前記微細炭素繊維の集合体上を掃引させることにより、前記微細炭素繊維の集合体に線状又は帯状の引出不能部位を形成することを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記レーザ光の出力及び掃引速度を制御することにより、レーザ光の照射によって前記微細炭素繊維の集合体に形成される白色化帯域の幅を制御することを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維の集合体を化学気相成長させる前に、前記微細炭素繊維が化学気相成長する領域が前記所定のパターンとなるように、前記触媒層をパターニングすることによって形成されることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維が引き出される領域を区画するための少なくとも1つの仕切プレートを、前記微細炭素繊維の集合体に押し付けることにより形成されることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項11】
基板と、
該基板上に触媒層を形成し、該触媒層が形成された基板上に化学気相成長させた微細炭素繊維の集合体と、
前記微細炭素繊維の集合体から微細炭素繊維を引き出すため領域を所定のパターンに画定するように形成され、微細炭素繊維の引き出しが不能な引出不能部位と、
を有することを特徴とする微細炭素繊維形成基板。
【請求項12】
前記微細炭素繊維を引き出すための領域が一定幅であることを特徴とする請求項11に記載の微細炭素繊維形成基板。
【請求項13】
前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維の集合体構造を部分的に破壊した部位、前記微細炭素繊維の集合体から微細炭素繊維を部分的に除去した部位、及び、前記集合体の微細炭素繊維を部分的に変質させた部位、の少なくとも何れかの部位を含むことを特徴とする、請求項11に記載の微細炭素繊維形成基板。
【請求項14】
前記微細炭素繊維の集合体構造を部分的に破壊した部位は、前記微細炭素繊維の集合体上に微小液滴を滴下することにより形成されていることを特徴とする、請求項13に記載の微細炭素繊維形成基板。
【請求項15】
前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維の集合体に、レーザ加工、イオンビーム加工、電子ビーム加工、及びプラズマ加工の少なくとも1つの加工を施すことによって形成されていることを特徴とする請求項11に記載の微細炭素繊維形成基板。
【請求項16】
前記微細炭素繊維の集合体に、レーザ光の照射による白色化帯域が形成されていることを特徴とする請求項15に記載の微細炭素繊維形成基板。
【請求項17】
前記引出不能部位は、前記微細炭素繊維が化学気相成長する領域が前記所定のパターンとなるように、前記触媒層をパターニングすることによって形成されていることを特徴とする、請求項10に記載の微細炭素繊維形成基板。
【請求項18】
前記引出不能部位が、渦巻き線状に形成されていることを特徴とする請求項11〜17の何れかに記載の微細炭素繊維形成基板。
【請求項19】
請求項1〜10の何れかの製造方法によって製造された微細炭素繊維糸。
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図15】
【図16】
【図17】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【公開番号】特開2009−102763(P2009−102763A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−274613(P2007−274613)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人科学技術振興機構、大阪府地域結集型共同研究事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人科学技術振興機構、大阪府地域結集型共同研究事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000205627)大阪府 (238)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】
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