微細試料ハンドリング装置
【課題】ミクロンサイズの試料を確実に、素早く、熟練を要さず簡単にハンドリングでき、製造も容易な微細試料ハンドリング装置を提供する。
【解決手段】基部11から所定の距離をおいて略平行に延びる一対のアーム12a,12b、及び一対のアームのそれぞれから互いに接近する方向に延びる一対のアーム先端部13a,13bを有する本体部材、形状記憶合金ワイヤを敷設する溝と固定する導電性膜を半導体プロセスによって作製し、形状記憶合金線に通電することにより収縮させて、アーム先端部13a,13bを閉じる。
【解決手段】基部11から所定の距離をおいて略平行に延びる一対のアーム12a,12b、及び一対のアームのそれぞれから互いに接近する方向に延びる一対のアーム先端部13a,13bを有する本体部材、形状記憶合金ワイヤを敷設する溝と固定する導電性膜を半導体プロセスによって作製し、形状記憶合金線に通電することにより収縮させて、アーム先端部13a,13bを閉じる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡用の微細な試料を掴んで搬送するために用いられる微細試料ハンドリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の欠陥検査において、半導体ウエハ等から集束イオンビーム(FIB)によって欠陥部分を切り出し、切り出したミクロンサイズの微細な試料を試料台に搬送・固定して、透過型電子顕微鏡で観察する手法が行われている。このミクロンサイズの試料の搬送に当たっては、従来、針状のプローブが用いられていた。すなわち、最初、プローブの先端を微細試料に接触させた状態でデポジションガスを用いてプローブの先端に微細試料を接着させ、プローブを移動して微細試料を所望位置に搬送した後、FIBビームでプローブの先端を切断し、プローブから微細試料を分離するという方法である。
【0003】
微小試料の取り扱いに関し、特開2006−120391号公報には、対向配置された2本の針状体を静電アクチュエータによって離反駆動させる、半導体シリコン技術により作製した常閉型微小サンプルホルダが記載されている。また、特開2004−283946号公報には、通電による発熱で縮む形状記憶合金製ワイヤによって離反駆動をさせるマイクログリッパが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−120391号公報
【特許文献2】特開2004−283946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の微細試料にプローブを接着させて搬送する方法では、デポジション用の設備が必要であり、また、使用前にプローブの先端を尖らせる作業が必要である。1回の搬送に要する時間も10分程度必要である。したがって、設備や時間、作業性などの点で問題がある。
【0006】
特開2006−120391号公報に記載の方法は、静電力を利用するものであるため、大きな保持力を得ることができない。静電力を効果的に発生させるためには対向する面同士に電極を形成する必要があるが、半導体シリコンプロセスでは基板の上下ではなく側面に電極を形成する工程は困難を伴い、製造プロセス上の問題がある。更に、静電力ではストロークを大きくできない。また、試料は先開きの状態になった2本の針状体で挟まれることになるため、試料が滑って逃げる可能性が高くなる。
【0007】
特開2004−283946号公報に記載の方法は、形状記憶合金製ワイヤを用いて保持力とストロークを確保しているが、アームに形状記憶合金製ワイヤを固定する方法に配慮されておらず、ミクロンサイズの試料を掴むために1ミリ以下にまで小型化したアームに太さ0.1mm程度の形状記憶合金製ワイヤを固定することが難しい。また、通電による発熱で縮み、電流遮断による温度下降で伸びる形状記憶合金製ワイヤでアーム先端の開閉を行うが、真空中で使用する場合について考慮されておらず、真空中では電流遮断してから温度が下降しアーム先端が開くまでに時間を要する問題がある。
【0008】
本発明は、ミクロンサイズの微細試料を確実に、素早く、熟練を要さず簡単にハンドリングでき、真空中でも使用できる製造も容易な微細試料ハンドリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、ミクロンサイズの微細試料を取り扱う微細試料ハンドリング装置を、試料寸法に合わせて小型化し、シリコンなどを材料として半導体プロセス等によりマイクロ加工で製作する。微細試料ハンドリング装置の試料把持部の開閉駆動力を発生するアクチュエータには形状記憶合金製ワイヤを用い、形状記憶合金製ワイヤへの通電により試料把持部を開閉させる。アームに半導体プロセスにより溝を加工し、形状記憶合金製ワイヤを敷設する。敷設した形状記憶合金金製ワイヤは、導電性で放熱効果がある金属膜を蒸着することによりアームに固定する。また、試料把持部が対象物に接触したことや対象物を掴んだことを自動的に認識する機能や、マイクロサイズの微細試料において発生しやすい吸着を防止するための機能を持たせることもできる。
【0010】
本発明の一態様の微細試料ハンドリング装置は、基部、相互に所定の距離をおいて基部から延びる一対のアーム、及び一対のアームのそれぞれから互いに接近する方向に延びる一対のアーム先端部を有し半導体プロセスによって作製された一体構造の本体部材と、一対のアームに渡して両端を固定された形状記憶合金部材と、形状記憶合金線に通電する手段とを有する。アーム先端部はアームから斜め前方に延びているのが好ましい。
【0011】
この微細試料ハンドリング装置に、試料把持部を構成するアーム先端部が対象物に接触したことを検知する機能を持たせることができる。この機能は、アームをその共振周波数で振動させる手段と、アームの振動状態の変化を検知する手段とから構成することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、微細な試料を掴む・放すといった動作を確実性を持って行うことができる。また、真空中でもアーム先端の開閉が短時間にできる。これら操作性が向上する。さらに、形状記憶合金製ワイヤを容易に固定することができ、製造が容易になる。さらに、デポジション加工用の設備が不要になり、省スペース且つ低コストになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
図1は、本発明による微細試料ハンドリング装置の一例を示す模式図である。図1(a)は正面図であり、図1(b)は側面図である。この微細試料ハンドリング装置は、基部11から所定の間隔をあけて同じ方向に、典型的には平行に延びる一対のアーム12a,12bを有する。一対のアーム先端部13a,13bは斜め前方に延びて互いに接近し、一定の距離dを空けて対向している。対向配置されたアーム先端部13a,13bは試料把持部を構成する。アーム12a,12bに状記憶合金製ワイヤ15を渡して導電性材である金属膜14で固定している。形状記憶合金製ワイヤ15の端末は、基部11の端面から突出している。これら基部11、アーム12a,12b、形状記憶合金製ワイヤ15などから構成される部分をアーム部と呼び、このアーム部をホルダ16に挿入する。ホルダ16は、コネクタ17を備え、基部11の端面から突出している形状記憶合金製ワイヤ15の端末と接触ピン18が電気的に接続される。コネクタ17は導線を介して電源20とスイッチ21に接続されている。アーム先端部13a,13bは先鋭化しており、試料を掴むことにより磨耗するが、本構造であればアーム部を容易に交換することができる。ここでは、半導体プロセスにより導電性材の金属膜14を蒸着して固定しているが、固定金具と導電性接着剤による固定なども考えられる。また、アーム部全体を導電性材で覆うのではなく、アーム部の両端の形状記憶合金製ワイヤ15に導電性材を接触させて、その間は導線で接続することも考えられる。
【0015】
図2は、本発明による微細試料ハンドリング装置の一例を示す模式図である。図2(a)は正面図であり、図2(b)は側面図である。図1の例との違いは、アーム12a,12b上には半導体プロセスによって加工された溝に形状記憶合金製ワイヤ15が敷設され、その上に半導体プロセスによって金属膜14を蒸着して固定している。ここでは半導体プロセスによって溝を加工しているが、機械加工であってもよい。また、溝ではなく土手などの突起を形成することで形状記憶合金製ワイヤ15を施設する位置を限定してもよい。
【0016】
図3は、アーム部をホルダ16に挿入し、スイッチ21を閉じて、形状記憶合金製ワイヤ15に通電した状態を示す模式図である。金属膜14の抵抗値は、形状記憶合金製ワイヤ15よりも小さいので、金属膜14を蒸着している部分は、金属膜14に電流が流れ形状記憶合金製ワイヤ15には、ほとんど電流が流れない。そのため自己発熱がなく形状の変化はない。一方、蒸着膜14を蒸着していない部分の形状記憶合金製ワイヤ15には、電流が流れて自己発熱し、記憶している縮む方向に形状が変化する。それによってアーム先端部13aと13bが近づき微細な試料を掴むことができる。
【0017】
スイッチ21を開いて形状記憶合金製ワイヤ15への通電を遮断すると温度が下降し、伸びる方向に形状が変化する。大気中では、形状記憶合金製ワイヤ15に接触している空気に熱が伝わり温度がすぐに下降するが、真空中では熱が伝わりにくく温度の下降に時間を要する。しかし、金属膜14を蒸着していることで、形状記憶合金製ワイヤ15の熱は熱伝導で金属膜14に移り、そこからの熱放射により温度の下降を早める。これによって、電流を遮断してから形状記憶合金製ワイヤ15が伸びて、微細な試料を放すまでの時間を短縮することができる。
【0018】
基部11、アーム12a,12b及びアーム先端部13a,13bからなる微細試料ハンドリング装置のアーム部はシリコン製であり、図4に示す半導体プロセスのフローによって製造した。
【0019】
まず、図5に示すようにシリコンウエハ31上にフォトリソグラフィ工程とエッチング工程によってワイヤ溝19を形成し(S11)、図6に示すようにワイヤ溝19に形状記憶合金製ワイヤ15を敷設した(S12)。ワイヤ溝19があることによって、0.1mm程度の細い形状記憶合金製ワイヤ15であっても正確な位置に施設することができる。次に、フォトリソグラフィ工程とCVD(Chemical Vapor Deposition)やスパッタ工程によってアームに金属膜14を蒸着して形状記憶合金製ワイヤ15を固定した(S13)。次に、図7に示すようにウエハを反転して裏面にフォトリソグラフィ工程とエッチング工程によって、外形32とアーム先端を先鋭加工し(S14)、最後に接続部分を割断してアーム部をウエハ31から分離した(S15)。
【0020】
一例として、アーム先端部13a,13bの間隔dを100μm、アーム12a,12bの厚さ及び幅を200μm、金属膜14を蒸着していない部分の形状記憶合金製ワイヤ15の長さを1mm、基部11から金属膜14を蒸着していない部分の形状記憶合金製ワイヤ15までの距離を2mm、基部11から突出した部分の形状記憶合金製ワイヤ15の長さを1mmとした。形状記憶合金製ワイヤ15としては、直径0.1mmのバイオメタル・ファイバー(登録商標)を用いた。なお、これらの寸法は単なる例示であり、これより寸法の小さな微細試料ハンドリング装置を作製することは極めて容易である。
【0021】
電源20として10Vの直流電源を用い、スイッチ21を閉じて形状記憶合金に通電したとき、形状記憶合金製ワイヤ15は、電流を流すことにより自己発熱し、金属膜14を蒸着していない部分の形状記憶合金製ワイヤ15の長さの約5%だけ収縮する。それによって微細試料ハンドリング装置のアーム先端部13a,13bの間隔dは通電前の100μmから0μmに狭まった。すなわち、試料把持部を構成するアーム先端部13a,13bのストロークとして100μmが得られ、このとき発生する力は80gfであった。このため、FIBによってシリコンウエハから切り出した、一辺の寸法が10μmから100μm程度の断面形状が四角形の微細試料を、試料把持部を構成するアーム先端部13a,13bの間に挟んで確実に保持することができた。
【0022】
このように、本発明では試料把持部の開閉方法として、形状記憶合金に通電して行う方法を用いた。アームへの形状記憶合金製ワイヤの取り付け加工は容易であり、試料把持部の開閉も通電によって行うため特別な操作を必要としない。また、開閉に要する時間も非常に短く、保持力も大きいので搬送中に試料を落下させる危険性が少ない。
【0023】
試料の大きさ等によって試料把持部に必要なストロークが決まれば、それに合わせてアーム12a,12bの太さや形状記憶合金製ワイヤ15の固定位置を設計すればよい。例えば大きなストロークが必要な場合には、形状記憶合金製ワイヤ15は、アーム先端部13a,13bに近い位置に固定するよりも基部11に近い位置に固定する方が有利である。
【0024】
図8は、本発明による微細試料ハンドリング装置の他の実施例を示す模式図である。図8(a)は正面図であり、図8(b)は側面図である。本実施例では、放熱器34を用いて電流を遮断した際の温度の下降を早める。
【0025】
図9は、本発明による微細試料ハンドリング装置の他の実施例を示す平面模式図である。本実施例では、試料把持部を開閉するためのアクチュエータである形状記憶合金製ワイヤを2個用いた。図9(a)は通電していない状態で、第1の形状記憶合金製ワイヤ45bは、アーム表面のアーム先端部43a,43bに近い位置に固定し、第2の形状記憶合金製ワイヤ45aは、アーム裏面の基部11に近い位置に固定した。形状記憶合金としてはバイオメタル・ファイバー(登録商標)を採用した。なお、形状記憶合金製ワイヤ45a,45bは、アーム42a,42bに加工された溝に施設し、金属膜44の蒸着により固定している。図9(b)に示すように基部11に近い位置の形状記憶合金製ワイヤ45aに通電し収縮させると、てこの原理により、アーム先端部43a,43bに近い位置の形状記憶合金製ワイヤ45bを収縮させた場合よりも、アーム先端部43a,43bのストロークを大きくすることができる。
【0026】
本実施例によると、試料把持部の対向するアーム先端部43a,43bの間隔を比較的広く設定しておき、寸法の大きな試料を保持するときは小さなストロークでよいため第1の形状記憶合金製ワイヤ45bに通電し、寸法の小さな試料を保持するときは第2の形状記憶合金製ワイヤ45aに通電して大きなストロークを発生させるというような使い方が可能になる。なお、バイオメタル・ファイバー(登録商標)は通電していない状態のときは柔軟で自由に曲げることができるため、通電していない方の形状記憶合金製ワイヤによってアームの動きが妨害されることはない。
【0027】
図10は、本発明による微細試料ハンドリング装置の別の実施例を示す平面模式図である。これまで説明した実施例では、アクチュエータを駆動しないときには試料把持部が開いていて、アクチュエータを駆動すると試料把持部が閉じる方式であった。本実施例は、図10(a)に示すようにそれとは逆に、アクチュエータを駆動しない状態では試料把持部が閉じており、図10(b)に示すようにアクチュエータを駆動すると試料把持部が開く。
【0028】
本実施例の微細試料ハンドリング装置は、基部51から所定の間隔をあけて同じ方向に、典型的には平行に一対のアーム52a,52bが延び、一対のアームの先端部53a,53bはそれぞれアーム52a,52bから斜め前方に延びて互いに接近し、一定の距離を空けて対向して試料把持部を構成している。アーム先端部53a,53bは、ほぼ閉じた形状に作製されている。基部51から支持梁56a,56bがアーム52a,52bの側面に対向するように突出しており、アーム52a,52bとその突出部の間に形状記憶合金製ワイヤ55が金属膜54によって固定されている。この場合も支持梁56a,56bとアーム52a,52bには、形状記憶合金製ワイヤ55を施設する溝が加工されている。形状記憶合金製ワイヤ55が通電によって発熱して収縮し、アームの先端部53a,53bが開く。従って、微細試料を掴もうとするとき、あるいは掴んだ微細試料を離そうとするときだけ、形状記憶合金製ワイヤ55に通電してアーム先端部53a,53bを開けばよい。試料把持部への微細試料の保持は、微細試料を間に挟んで変形したアームの復元力によって行われる。また、図10(c)に示すように形状記憶合金製ワイヤは一方のアームと支持梁の間にだけ設置してもよい。さらに、形状記憶合金製ワイヤの固定場所として、必ずしも支持梁を形成する必要はない。
【0029】
図11は、試料把持部を構成するアーム先端部の形状の例を示した説明図である。図11(a)に示した試料把持部のアーム先端部61,62は、先細になりながら斜めに前方に延びている。アーム先端部61,62の試料に接する面は互いに平行になっている。図11(b)に示した試料把持部のアーム先端部63,64は、試料に接する面が図11(a)の場合より大きくなっており、より大きな試料を保持するのに適する。図11(c)に示した試料把持部のアーム先端部65,66は、それぞれのアームから垂直に延びている。
【0030】
このようにアームから相互に接近する方向に延びるアーム先端部によって試料把持部を構成することにより、アーム先端部の試料接触面で試料を確実に保持することができる。半導体ウエハの一部をFIBで加工してできた微細な試料を半導体ウエハから掴み出し、透過電子顕微鏡の試料台まで搬送して試料台に固定する用途に対しては、先端のサイズが小さい図11(b)あるいは図11(c)に示したような形状を有する試料把持部が有効である。
【0031】
形状記憶合金製ワイヤを収縮させてアーム先端部で試料を挟むと、アームあるいはアーム先端部が撓んで変形するが、特に図11(a)や図11(b)のようにアーム先端部がアームから斜めに延びている形状の場合には、その変形に伴う弾力も試料の確実な保持に寄与する。図11(d)は、比較例として試料把持部を平行な2本のアームによって構成した場合を示している。平行な2本のアーム67,68の先端部で微細試料69を挟み、力を加えると、図示するようにアーム67,68の先端が撓んで先が開いた状態になり、微細試料69を矢印方向に押し出す力が生じる。その結果、試料が試料把持部から逃げてしまい、試料を安定かつ確実に保持することができない。
【0032】
図12は、試料把持部の試料接触面の形状例を示す図である。図12(a)は、アーム先端部71,72の試料接触面に筋状の溝を多数設けた例を示している。試料接触面をこのようなギザギザの面にすることにより微細試料が滑りにくくなり、保持しやすくなる。図12(b)は、アーム先端部73,74の試料接触面に断面が三角形の溝をそれぞれ1本設けた例を示している。この場合には、例えば直方体の形状をした微細試料を保持するとき、試料の角部がこの溝に入るようにして保持することにより保持の安定性が増す。図12(c)は、アーム先端部75,76の試料接触面に、保持すべき試料の寸法に合わせた溝を設けた例を示している。図には、小さな寸法の試料用の溝77と大きな寸法の試料用の溝78の2種類の溝を設けた例を示した。図12(d)は、アーム先端部の一方の形状が受け型、他方が押し型のように非対称になった例を示す。
【0033】
アーム先端部に試料が吸着するのを防止するために、アームの少なくとも先端部に吸着防止材を被覆してもよい。吸着防止材として、例えば、フッ素や二硫化モリブデンなどをスパッタリングあるいは塗布などの方法によってアーム先端部分に被覆すると、試料把持部への微細試料の吸着を防ぐことができる。試料の吸着を防止する方法としては、基部やアームの電気抵抗を小さくしておき、接地する方法も有効である。基部やアームの電気抵抗を小さくするには、低抵抗シリコンで形成したり、あるいはシリコンにBやPを打ち込み、例えば、抵抗率0.02[Ω・cm]以下となるようにすればよい。本実施例によると、アーム先端部が試料に接触したとき、試料の静電気を逃がすことができて、吸着を防止することができる。
【0034】
また、微細試料ハンドリング装置に試料把持力を計測するための手段を設けてもよい。例えば、微細試料を掴む部分よりもアームの根元側で、形状記憶合金部材に通電したとき、あるいは通電を止めたとき変形が大きい部分にひずみゲージを形成しておく。ひずみゲージの形成は、Si製アームの所望領域に、PやBを打ち込んでピエゾ抵抗効果によるひずみゲージを形成することで行うことができる。ホイートストンブリッジ回路等の計測回路により、このひずみゲージの抵抗変化を計測することによって、微細試料ハンドリング装置の把持力を計測できる。把持力をモニタしながら微細試料をハンドリングすることにより、試料にダメージを与えることを回避でき、また、微細試料ハンドリング装置自体が損傷することを予防できる。
【0035】
図13は、本発明による微細試料ハンドリング装置の他の実施例を示す平面模式図である。本実施例では、装置が微細試料に接触したことを検出する機能を持たせた。本実施例の微細試料ハンドリング装置は、装置本体に圧電素子86を取り付け、コントローラ87により圧電素子86をアームの共振周波数で駆動し、アームを微小振動させる。同時に、コントローラ87は、圧電素子から得られる信号からアームの振動状態をモニタする。アームを共振周波数で振動させながら、装置を把持すべき微細試料に近づけていったとき、試料把持部の試料接触面が微細試料と接触するとアームの振動状態が変化する。コントローラ87はアームの振動状態変化、例えば振動数変化から試料把持部が微細試料に接触したことを検知したら、圧電素子86への出力を遮断してアームの振動を停止させる。その後、スイッチ89を閉じて形状記憶合金製ワイヤ85に通電し、アーム先端部83a,83bを閉じて試料保持動作に移る。
【0036】
FIB装置で作製した微細試料を掴むとき、FIB装置の試料画像を見ただけでは、微細試料ハンドリング装置のアーム先端部と把持すべき微細試料との位置関係が明瞭に判断できない場合がある。そのようなときに試料画像だけを頼りに微細試料ハンドリング装置を操作すると、試料をうまく掴めないことがある。本実施例によると、試料把持部の試料接触面が微細試料に接触したことを確認してから把持動作に移ることができるため、微細試料を確実に掴むことができる。また、FIB装置で作製した微細な試料は、その一部を半導体ウエハとつながった状態にしておき、微細試料ハンドリング装置で掴んだ後に、半導体ウエハから切り離すため、微小振動しているアームを微細試料と接触させても問題はない。
【0037】
なお、図10に示した微細試料ハンドリング装置にも、同様な原理の接触検出機能を持たせることができる。ただし、その場合、形状記憶合金製ワイヤ55に通電してアーム先端部53a,53bを開いた状態で、圧電素子をアームの共振周波数で駆動し、アームを微小振動させる。そして、装置を把持すべき微細試料に近づけていきながらアームの振動状態をモニタする。アームの振動状態変化から試料把持部が微細試料に接触したことを検知したら、圧電素子への出力を遮断してアームの振動を停止させる。その後、形状記憶合金製ワイヤ55への通電を止め、アーム先端部53a,53bを閉じて、微細試料を掴む。
【0038】
本発明の微細試料ハンドリング装置は、電子顕微鏡や集束イオンビーム装置などにおいて必要とされる、微細な試料の搬送手段として用いることができる。また、マイクロマシンなどの製作において、マイクロ部品の取り付けや組み立てなどにも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明による微細試料ハンドリング装置の一実施例を示す模式図。
【図2】本発明の他の実施例を示す模式図。
【図3】形状記憶合金に通電したときの状態を示す図。
【図4】アーム部の製造フロー。
【図5】ウエハに溝加工した状態を示す模式図。
【図6】ウエハに金属膜を蒸着した状態を示す模式図。
【図7】ウエハに外形加工した状態を示す模式図。
【図8】本発明の他の実施例を示す模式図。
【図9】本発明の他の実施例を示す模式図。
【図10】本発明の他の実施例を示す模式図。
【図11】本発明の他の実施例を示す模式図。
【図12】本発明の他の実施例を示す模式図。
【図13】本発明の他の実施例を示す模式図。
【符号の説明】
【0040】
11:基部
12a,12b:アーム
13a,13b:アーム先端部
14:金属膜
15:形状記憶合金製ワイヤ
16:ホルダ
17:コネクタ
18:接触バネ
19:溝
20:電源
21:スイッチ
31:ウエハ
32:外形溝
34:放熱器
41:基部
42a,42b:アーム
43a,43b:アーム先端部
44:金属膜
45a,45b:形状記憶合金製ワイヤ
51:基部
52a,52b:アーム
53a,53b:アーム先端部
54:金属膜
55:形状記憶合金製ワイヤ
56a,56b:支持梁
61,62,63,64,65,66,67,68:アーム先端部
69:微細試料
71,72:アーム先端部
82a,82b:アーム
85:形状記憶合金製ワイヤ
86:圧電素子
87:コントローラ
88:電源
89:スイッチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡用の微細な試料を掴んで搬送するために用いられる微細試料ハンドリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の欠陥検査において、半導体ウエハ等から集束イオンビーム(FIB)によって欠陥部分を切り出し、切り出したミクロンサイズの微細な試料を試料台に搬送・固定して、透過型電子顕微鏡で観察する手法が行われている。このミクロンサイズの試料の搬送に当たっては、従来、針状のプローブが用いられていた。すなわち、最初、プローブの先端を微細試料に接触させた状態でデポジションガスを用いてプローブの先端に微細試料を接着させ、プローブを移動して微細試料を所望位置に搬送した後、FIBビームでプローブの先端を切断し、プローブから微細試料を分離するという方法である。
【0003】
微小試料の取り扱いに関し、特開2006−120391号公報には、対向配置された2本の針状体を静電アクチュエータによって離反駆動させる、半導体シリコン技術により作製した常閉型微小サンプルホルダが記載されている。また、特開2004−283946号公報には、通電による発熱で縮む形状記憶合金製ワイヤによって離反駆動をさせるマイクログリッパが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−120391号公報
【特許文献2】特開2004−283946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の微細試料にプローブを接着させて搬送する方法では、デポジション用の設備が必要であり、また、使用前にプローブの先端を尖らせる作業が必要である。1回の搬送に要する時間も10分程度必要である。したがって、設備や時間、作業性などの点で問題がある。
【0006】
特開2006−120391号公報に記載の方法は、静電力を利用するものであるため、大きな保持力を得ることができない。静電力を効果的に発生させるためには対向する面同士に電極を形成する必要があるが、半導体シリコンプロセスでは基板の上下ではなく側面に電極を形成する工程は困難を伴い、製造プロセス上の問題がある。更に、静電力ではストロークを大きくできない。また、試料は先開きの状態になった2本の針状体で挟まれることになるため、試料が滑って逃げる可能性が高くなる。
【0007】
特開2004−283946号公報に記載の方法は、形状記憶合金製ワイヤを用いて保持力とストロークを確保しているが、アームに形状記憶合金製ワイヤを固定する方法に配慮されておらず、ミクロンサイズの試料を掴むために1ミリ以下にまで小型化したアームに太さ0.1mm程度の形状記憶合金製ワイヤを固定することが難しい。また、通電による発熱で縮み、電流遮断による温度下降で伸びる形状記憶合金製ワイヤでアーム先端の開閉を行うが、真空中で使用する場合について考慮されておらず、真空中では電流遮断してから温度が下降しアーム先端が開くまでに時間を要する問題がある。
【0008】
本発明は、ミクロンサイズの微細試料を確実に、素早く、熟練を要さず簡単にハンドリングでき、真空中でも使用できる製造も容易な微細試料ハンドリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、ミクロンサイズの微細試料を取り扱う微細試料ハンドリング装置を、試料寸法に合わせて小型化し、シリコンなどを材料として半導体プロセス等によりマイクロ加工で製作する。微細試料ハンドリング装置の試料把持部の開閉駆動力を発生するアクチュエータには形状記憶合金製ワイヤを用い、形状記憶合金製ワイヤへの通電により試料把持部を開閉させる。アームに半導体プロセスにより溝を加工し、形状記憶合金製ワイヤを敷設する。敷設した形状記憶合金金製ワイヤは、導電性で放熱効果がある金属膜を蒸着することによりアームに固定する。また、試料把持部が対象物に接触したことや対象物を掴んだことを自動的に認識する機能や、マイクロサイズの微細試料において発生しやすい吸着を防止するための機能を持たせることもできる。
【0010】
本発明の一態様の微細試料ハンドリング装置は、基部、相互に所定の距離をおいて基部から延びる一対のアーム、及び一対のアームのそれぞれから互いに接近する方向に延びる一対のアーム先端部を有し半導体プロセスによって作製された一体構造の本体部材と、一対のアームに渡して両端を固定された形状記憶合金部材と、形状記憶合金線に通電する手段とを有する。アーム先端部はアームから斜め前方に延びているのが好ましい。
【0011】
この微細試料ハンドリング装置に、試料把持部を構成するアーム先端部が対象物に接触したことを検知する機能を持たせることができる。この機能は、アームをその共振周波数で振動させる手段と、アームの振動状態の変化を検知する手段とから構成することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、微細な試料を掴む・放すといった動作を確実性を持って行うことができる。また、真空中でもアーム先端の開閉が短時間にできる。これら操作性が向上する。さらに、形状記憶合金製ワイヤを容易に固定することができ、製造が容易になる。さらに、デポジション加工用の設備が不要になり、省スペース且つ低コストになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
図1は、本発明による微細試料ハンドリング装置の一例を示す模式図である。図1(a)は正面図であり、図1(b)は側面図である。この微細試料ハンドリング装置は、基部11から所定の間隔をあけて同じ方向に、典型的には平行に延びる一対のアーム12a,12bを有する。一対のアーム先端部13a,13bは斜め前方に延びて互いに接近し、一定の距離dを空けて対向している。対向配置されたアーム先端部13a,13bは試料把持部を構成する。アーム12a,12bに状記憶合金製ワイヤ15を渡して導電性材である金属膜14で固定している。形状記憶合金製ワイヤ15の端末は、基部11の端面から突出している。これら基部11、アーム12a,12b、形状記憶合金製ワイヤ15などから構成される部分をアーム部と呼び、このアーム部をホルダ16に挿入する。ホルダ16は、コネクタ17を備え、基部11の端面から突出している形状記憶合金製ワイヤ15の端末と接触ピン18が電気的に接続される。コネクタ17は導線を介して電源20とスイッチ21に接続されている。アーム先端部13a,13bは先鋭化しており、試料を掴むことにより磨耗するが、本構造であればアーム部を容易に交換することができる。ここでは、半導体プロセスにより導電性材の金属膜14を蒸着して固定しているが、固定金具と導電性接着剤による固定なども考えられる。また、アーム部全体を導電性材で覆うのではなく、アーム部の両端の形状記憶合金製ワイヤ15に導電性材を接触させて、その間は導線で接続することも考えられる。
【0015】
図2は、本発明による微細試料ハンドリング装置の一例を示す模式図である。図2(a)は正面図であり、図2(b)は側面図である。図1の例との違いは、アーム12a,12b上には半導体プロセスによって加工された溝に形状記憶合金製ワイヤ15が敷設され、その上に半導体プロセスによって金属膜14を蒸着して固定している。ここでは半導体プロセスによって溝を加工しているが、機械加工であってもよい。また、溝ではなく土手などの突起を形成することで形状記憶合金製ワイヤ15を施設する位置を限定してもよい。
【0016】
図3は、アーム部をホルダ16に挿入し、スイッチ21を閉じて、形状記憶合金製ワイヤ15に通電した状態を示す模式図である。金属膜14の抵抗値は、形状記憶合金製ワイヤ15よりも小さいので、金属膜14を蒸着している部分は、金属膜14に電流が流れ形状記憶合金製ワイヤ15には、ほとんど電流が流れない。そのため自己発熱がなく形状の変化はない。一方、蒸着膜14を蒸着していない部分の形状記憶合金製ワイヤ15には、電流が流れて自己発熱し、記憶している縮む方向に形状が変化する。それによってアーム先端部13aと13bが近づき微細な試料を掴むことができる。
【0017】
スイッチ21を開いて形状記憶合金製ワイヤ15への通電を遮断すると温度が下降し、伸びる方向に形状が変化する。大気中では、形状記憶合金製ワイヤ15に接触している空気に熱が伝わり温度がすぐに下降するが、真空中では熱が伝わりにくく温度の下降に時間を要する。しかし、金属膜14を蒸着していることで、形状記憶合金製ワイヤ15の熱は熱伝導で金属膜14に移り、そこからの熱放射により温度の下降を早める。これによって、電流を遮断してから形状記憶合金製ワイヤ15が伸びて、微細な試料を放すまでの時間を短縮することができる。
【0018】
基部11、アーム12a,12b及びアーム先端部13a,13bからなる微細試料ハンドリング装置のアーム部はシリコン製であり、図4に示す半導体プロセスのフローによって製造した。
【0019】
まず、図5に示すようにシリコンウエハ31上にフォトリソグラフィ工程とエッチング工程によってワイヤ溝19を形成し(S11)、図6に示すようにワイヤ溝19に形状記憶合金製ワイヤ15を敷設した(S12)。ワイヤ溝19があることによって、0.1mm程度の細い形状記憶合金製ワイヤ15であっても正確な位置に施設することができる。次に、フォトリソグラフィ工程とCVD(Chemical Vapor Deposition)やスパッタ工程によってアームに金属膜14を蒸着して形状記憶合金製ワイヤ15を固定した(S13)。次に、図7に示すようにウエハを反転して裏面にフォトリソグラフィ工程とエッチング工程によって、外形32とアーム先端を先鋭加工し(S14)、最後に接続部分を割断してアーム部をウエハ31から分離した(S15)。
【0020】
一例として、アーム先端部13a,13bの間隔dを100μm、アーム12a,12bの厚さ及び幅を200μm、金属膜14を蒸着していない部分の形状記憶合金製ワイヤ15の長さを1mm、基部11から金属膜14を蒸着していない部分の形状記憶合金製ワイヤ15までの距離を2mm、基部11から突出した部分の形状記憶合金製ワイヤ15の長さを1mmとした。形状記憶合金製ワイヤ15としては、直径0.1mmのバイオメタル・ファイバー(登録商標)を用いた。なお、これらの寸法は単なる例示であり、これより寸法の小さな微細試料ハンドリング装置を作製することは極めて容易である。
【0021】
電源20として10Vの直流電源を用い、スイッチ21を閉じて形状記憶合金に通電したとき、形状記憶合金製ワイヤ15は、電流を流すことにより自己発熱し、金属膜14を蒸着していない部分の形状記憶合金製ワイヤ15の長さの約5%だけ収縮する。それによって微細試料ハンドリング装置のアーム先端部13a,13bの間隔dは通電前の100μmから0μmに狭まった。すなわち、試料把持部を構成するアーム先端部13a,13bのストロークとして100μmが得られ、このとき発生する力は80gfであった。このため、FIBによってシリコンウエハから切り出した、一辺の寸法が10μmから100μm程度の断面形状が四角形の微細試料を、試料把持部を構成するアーム先端部13a,13bの間に挟んで確実に保持することができた。
【0022】
このように、本発明では試料把持部の開閉方法として、形状記憶合金に通電して行う方法を用いた。アームへの形状記憶合金製ワイヤの取り付け加工は容易であり、試料把持部の開閉も通電によって行うため特別な操作を必要としない。また、開閉に要する時間も非常に短く、保持力も大きいので搬送中に試料を落下させる危険性が少ない。
【0023】
試料の大きさ等によって試料把持部に必要なストロークが決まれば、それに合わせてアーム12a,12bの太さや形状記憶合金製ワイヤ15の固定位置を設計すればよい。例えば大きなストロークが必要な場合には、形状記憶合金製ワイヤ15は、アーム先端部13a,13bに近い位置に固定するよりも基部11に近い位置に固定する方が有利である。
【0024】
図8は、本発明による微細試料ハンドリング装置の他の実施例を示す模式図である。図8(a)は正面図であり、図8(b)は側面図である。本実施例では、放熱器34を用いて電流を遮断した際の温度の下降を早める。
【0025】
図9は、本発明による微細試料ハンドリング装置の他の実施例を示す平面模式図である。本実施例では、試料把持部を開閉するためのアクチュエータである形状記憶合金製ワイヤを2個用いた。図9(a)は通電していない状態で、第1の形状記憶合金製ワイヤ45bは、アーム表面のアーム先端部43a,43bに近い位置に固定し、第2の形状記憶合金製ワイヤ45aは、アーム裏面の基部11に近い位置に固定した。形状記憶合金としてはバイオメタル・ファイバー(登録商標)を採用した。なお、形状記憶合金製ワイヤ45a,45bは、アーム42a,42bに加工された溝に施設し、金属膜44の蒸着により固定している。図9(b)に示すように基部11に近い位置の形状記憶合金製ワイヤ45aに通電し収縮させると、てこの原理により、アーム先端部43a,43bに近い位置の形状記憶合金製ワイヤ45bを収縮させた場合よりも、アーム先端部43a,43bのストロークを大きくすることができる。
【0026】
本実施例によると、試料把持部の対向するアーム先端部43a,43bの間隔を比較的広く設定しておき、寸法の大きな試料を保持するときは小さなストロークでよいため第1の形状記憶合金製ワイヤ45bに通電し、寸法の小さな試料を保持するときは第2の形状記憶合金製ワイヤ45aに通電して大きなストロークを発生させるというような使い方が可能になる。なお、バイオメタル・ファイバー(登録商標)は通電していない状態のときは柔軟で自由に曲げることができるため、通電していない方の形状記憶合金製ワイヤによってアームの動きが妨害されることはない。
【0027】
図10は、本発明による微細試料ハンドリング装置の別の実施例を示す平面模式図である。これまで説明した実施例では、アクチュエータを駆動しないときには試料把持部が開いていて、アクチュエータを駆動すると試料把持部が閉じる方式であった。本実施例は、図10(a)に示すようにそれとは逆に、アクチュエータを駆動しない状態では試料把持部が閉じており、図10(b)に示すようにアクチュエータを駆動すると試料把持部が開く。
【0028】
本実施例の微細試料ハンドリング装置は、基部51から所定の間隔をあけて同じ方向に、典型的には平行に一対のアーム52a,52bが延び、一対のアームの先端部53a,53bはそれぞれアーム52a,52bから斜め前方に延びて互いに接近し、一定の距離を空けて対向して試料把持部を構成している。アーム先端部53a,53bは、ほぼ閉じた形状に作製されている。基部51から支持梁56a,56bがアーム52a,52bの側面に対向するように突出しており、アーム52a,52bとその突出部の間に形状記憶合金製ワイヤ55が金属膜54によって固定されている。この場合も支持梁56a,56bとアーム52a,52bには、形状記憶合金製ワイヤ55を施設する溝が加工されている。形状記憶合金製ワイヤ55が通電によって発熱して収縮し、アームの先端部53a,53bが開く。従って、微細試料を掴もうとするとき、あるいは掴んだ微細試料を離そうとするときだけ、形状記憶合金製ワイヤ55に通電してアーム先端部53a,53bを開けばよい。試料把持部への微細試料の保持は、微細試料を間に挟んで変形したアームの復元力によって行われる。また、図10(c)に示すように形状記憶合金製ワイヤは一方のアームと支持梁の間にだけ設置してもよい。さらに、形状記憶合金製ワイヤの固定場所として、必ずしも支持梁を形成する必要はない。
【0029】
図11は、試料把持部を構成するアーム先端部の形状の例を示した説明図である。図11(a)に示した試料把持部のアーム先端部61,62は、先細になりながら斜めに前方に延びている。アーム先端部61,62の試料に接する面は互いに平行になっている。図11(b)に示した試料把持部のアーム先端部63,64は、試料に接する面が図11(a)の場合より大きくなっており、より大きな試料を保持するのに適する。図11(c)に示した試料把持部のアーム先端部65,66は、それぞれのアームから垂直に延びている。
【0030】
このようにアームから相互に接近する方向に延びるアーム先端部によって試料把持部を構成することにより、アーム先端部の試料接触面で試料を確実に保持することができる。半導体ウエハの一部をFIBで加工してできた微細な試料を半導体ウエハから掴み出し、透過電子顕微鏡の試料台まで搬送して試料台に固定する用途に対しては、先端のサイズが小さい図11(b)あるいは図11(c)に示したような形状を有する試料把持部が有効である。
【0031】
形状記憶合金製ワイヤを収縮させてアーム先端部で試料を挟むと、アームあるいはアーム先端部が撓んで変形するが、特に図11(a)や図11(b)のようにアーム先端部がアームから斜めに延びている形状の場合には、その変形に伴う弾力も試料の確実な保持に寄与する。図11(d)は、比較例として試料把持部を平行な2本のアームによって構成した場合を示している。平行な2本のアーム67,68の先端部で微細試料69を挟み、力を加えると、図示するようにアーム67,68の先端が撓んで先が開いた状態になり、微細試料69を矢印方向に押し出す力が生じる。その結果、試料が試料把持部から逃げてしまい、試料を安定かつ確実に保持することができない。
【0032】
図12は、試料把持部の試料接触面の形状例を示す図である。図12(a)は、アーム先端部71,72の試料接触面に筋状の溝を多数設けた例を示している。試料接触面をこのようなギザギザの面にすることにより微細試料が滑りにくくなり、保持しやすくなる。図12(b)は、アーム先端部73,74の試料接触面に断面が三角形の溝をそれぞれ1本設けた例を示している。この場合には、例えば直方体の形状をした微細試料を保持するとき、試料の角部がこの溝に入るようにして保持することにより保持の安定性が増す。図12(c)は、アーム先端部75,76の試料接触面に、保持すべき試料の寸法に合わせた溝を設けた例を示している。図には、小さな寸法の試料用の溝77と大きな寸法の試料用の溝78の2種類の溝を設けた例を示した。図12(d)は、アーム先端部の一方の形状が受け型、他方が押し型のように非対称になった例を示す。
【0033】
アーム先端部に試料が吸着するのを防止するために、アームの少なくとも先端部に吸着防止材を被覆してもよい。吸着防止材として、例えば、フッ素や二硫化モリブデンなどをスパッタリングあるいは塗布などの方法によってアーム先端部分に被覆すると、試料把持部への微細試料の吸着を防ぐことができる。試料の吸着を防止する方法としては、基部やアームの電気抵抗を小さくしておき、接地する方法も有効である。基部やアームの電気抵抗を小さくするには、低抵抗シリコンで形成したり、あるいはシリコンにBやPを打ち込み、例えば、抵抗率0.02[Ω・cm]以下となるようにすればよい。本実施例によると、アーム先端部が試料に接触したとき、試料の静電気を逃がすことができて、吸着を防止することができる。
【0034】
また、微細試料ハンドリング装置に試料把持力を計測するための手段を設けてもよい。例えば、微細試料を掴む部分よりもアームの根元側で、形状記憶合金部材に通電したとき、あるいは通電を止めたとき変形が大きい部分にひずみゲージを形成しておく。ひずみゲージの形成は、Si製アームの所望領域に、PやBを打ち込んでピエゾ抵抗効果によるひずみゲージを形成することで行うことができる。ホイートストンブリッジ回路等の計測回路により、このひずみゲージの抵抗変化を計測することによって、微細試料ハンドリング装置の把持力を計測できる。把持力をモニタしながら微細試料をハンドリングすることにより、試料にダメージを与えることを回避でき、また、微細試料ハンドリング装置自体が損傷することを予防できる。
【0035】
図13は、本発明による微細試料ハンドリング装置の他の実施例を示す平面模式図である。本実施例では、装置が微細試料に接触したことを検出する機能を持たせた。本実施例の微細試料ハンドリング装置は、装置本体に圧電素子86を取り付け、コントローラ87により圧電素子86をアームの共振周波数で駆動し、アームを微小振動させる。同時に、コントローラ87は、圧電素子から得られる信号からアームの振動状態をモニタする。アームを共振周波数で振動させながら、装置を把持すべき微細試料に近づけていったとき、試料把持部の試料接触面が微細試料と接触するとアームの振動状態が変化する。コントローラ87はアームの振動状態変化、例えば振動数変化から試料把持部が微細試料に接触したことを検知したら、圧電素子86への出力を遮断してアームの振動を停止させる。その後、スイッチ89を閉じて形状記憶合金製ワイヤ85に通電し、アーム先端部83a,83bを閉じて試料保持動作に移る。
【0036】
FIB装置で作製した微細試料を掴むとき、FIB装置の試料画像を見ただけでは、微細試料ハンドリング装置のアーム先端部と把持すべき微細試料との位置関係が明瞭に判断できない場合がある。そのようなときに試料画像だけを頼りに微細試料ハンドリング装置を操作すると、試料をうまく掴めないことがある。本実施例によると、試料把持部の試料接触面が微細試料に接触したことを確認してから把持動作に移ることができるため、微細試料を確実に掴むことができる。また、FIB装置で作製した微細な試料は、その一部を半導体ウエハとつながった状態にしておき、微細試料ハンドリング装置で掴んだ後に、半導体ウエハから切り離すため、微小振動しているアームを微細試料と接触させても問題はない。
【0037】
なお、図10に示した微細試料ハンドリング装置にも、同様な原理の接触検出機能を持たせることができる。ただし、その場合、形状記憶合金製ワイヤ55に通電してアーム先端部53a,53bを開いた状態で、圧電素子をアームの共振周波数で駆動し、アームを微小振動させる。そして、装置を把持すべき微細試料に近づけていきながらアームの振動状態をモニタする。アームの振動状態変化から試料把持部が微細試料に接触したことを検知したら、圧電素子への出力を遮断してアームの振動を停止させる。その後、形状記憶合金製ワイヤ55への通電を止め、アーム先端部53a,53bを閉じて、微細試料を掴む。
【0038】
本発明の微細試料ハンドリング装置は、電子顕微鏡や集束イオンビーム装置などにおいて必要とされる、微細な試料の搬送手段として用いることができる。また、マイクロマシンなどの製作において、マイクロ部品の取り付けや組み立てなどにも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明による微細試料ハンドリング装置の一実施例を示す模式図。
【図2】本発明の他の実施例を示す模式図。
【図3】形状記憶合金に通電したときの状態を示す図。
【図4】アーム部の製造フロー。
【図5】ウエハに溝加工した状態を示す模式図。
【図6】ウエハに金属膜を蒸着した状態を示す模式図。
【図7】ウエハに外形加工した状態を示す模式図。
【図8】本発明の他の実施例を示す模式図。
【図9】本発明の他の実施例を示す模式図。
【図10】本発明の他の実施例を示す模式図。
【図11】本発明の他の実施例を示す模式図。
【図12】本発明の他の実施例を示す模式図。
【図13】本発明の他の実施例を示す模式図。
【符号の説明】
【0040】
11:基部
12a,12b:アーム
13a,13b:アーム先端部
14:金属膜
15:形状記憶合金製ワイヤ
16:ホルダ
17:コネクタ
18:接触バネ
19:溝
20:電源
21:スイッチ
31:ウエハ
32:外形溝
34:放熱器
41:基部
42a,42b:アーム
43a,43b:アーム先端部
44:金属膜
45a,45b:形状記憶合金製ワイヤ
51:基部
52a,52b:アーム
53a,53b:アーム先端部
54:金属膜
55:形状記憶合金製ワイヤ
56a,56b:支持梁
61,62,63,64,65,66,67,68:アーム先端部
69:微細試料
71,72:アーム先端部
82a,82b:アーム
85:形状記憶合金製ワイヤ
86:圧電素子
87:コントローラ
88:電源
89:スイッチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と、
前記基部から所定の距離をおいて延びる一対のアームと、
前記一対のアームに渡した形状記憶合金材と、
前記形状記憶合金材に通電する手段とを有し、
前記アームに敷設した形状記憶合金材に導電性材を接触させたことを特徴とする微細試料ハンドリング装置。
【請求項2】
基部と、
前記基部から所定の距離をおいて延びる一対のアームと、
前記一対のアームに渡した形状記憶合金材と、
前記形状記憶合金材に通電する手段とを有し、
前記形状記憶合金材は形状記憶合金ワイヤであり、前記アームに前記形状記憶合金ワイヤを敷設するための溝、または、突起を作製したことを特徴とする微細試料ハンドリング装置。
【請求項3】
請求項1記載の微細試料ハンドリング装置において、前記導電性材は放熱効果があることを特徴とする微細試料ハンドリング装置。
【請求項4】
請求項1記載の微細試料ハンドリング装置において、前記形状記憶合金材に熱接続する放熱片を備えたことを特長とする微細試料ハンドリング装置。
【請求項5】
請求項2記載の微細試料ハンドリング装置において、前記アームに敷設した前記形状記憶合金ワイヤを導電性膜で固定したことを特徴とする微細試料ハンドリング装置。
【請求項6】
請求項1記載の微細試料ハンドリング装置において、前記形状記憶合金材は形状記憶合金ワイヤであり、前記形状記憶合金ワイヤの先端は、前記基部の端面よりも突出していることを特徴とする微細試料ハンドリング装置。
【請求項7】
請求項6記載の微細試料ハンドリング装置において、前記基部の端面よりも突出している形状記憶合金ワイヤと電気的な接続が可能なコネクタを備え、前記基部から前記アームまでの先端部分が脱着可能なことを特長とする微細試料ハンドリング装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の微細試料ハンドリング装置において、前記アームを振動させる手段と、前記アームの振動状態の変化から前記アーム先端部が対象物に接触したことを検知する手段とを有することを特徴とする微細試料ハンドリング装置。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項記載の微細試料ハンドリング装置において、前記一対のアーム先端部には吸着防止材が被覆されていることを特徴とする微細試料ハンドリング装置。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項記載の微細試料ハンドリング装置において、前記本体部材を低抵抗化すると共に、前記本体部材を接地したことを特徴とする微細試料ハンドリング装置。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか1項記載の微細試料ハンドリング装置において、前記一対のアーム先端部の微細試料に接触する面はハンドリングすべき微細試料に応じた形状を有することを特徴とする微細試料ハンドリング装置。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項記載の微細試料ハンドリング装置において、前記本体部分のうち前記形状記憶合金部材に通電したとき、あるいは通電を止めたとき変形が大きい部分にひずみゲージを形成したことを特徴とする微細試料ハンドリング装置。
【請求項1】
基部と、
前記基部から所定の距離をおいて延びる一対のアームと、
前記一対のアームに渡した形状記憶合金材と、
前記形状記憶合金材に通電する手段とを有し、
前記アームに敷設した形状記憶合金材に導電性材を接触させたことを特徴とする微細試料ハンドリング装置。
【請求項2】
基部と、
前記基部から所定の距離をおいて延びる一対のアームと、
前記一対のアームに渡した形状記憶合金材と、
前記形状記憶合金材に通電する手段とを有し、
前記形状記憶合金材は形状記憶合金ワイヤであり、前記アームに前記形状記憶合金ワイヤを敷設するための溝、または、突起を作製したことを特徴とする微細試料ハンドリング装置。
【請求項3】
請求項1記載の微細試料ハンドリング装置において、前記導電性材は放熱効果があることを特徴とする微細試料ハンドリング装置。
【請求項4】
請求項1記載の微細試料ハンドリング装置において、前記形状記憶合金材に熱接続する放熱片を備えたことを特長とする微細試料ハンドリング装置。
【請求項5】
請求項2記載の微細試料ハンドリング装置において、前記アームに敷設した前記形状記憶合金ワイヤを導電性膜で固定したことを特徴とする微細試料ハンドリング装置。
【請求項6】
請求項1記載の微細試料ハンドリング装置において、前記形状記憶合金材は形状記憶合金ワイヤであり、前記形状記憶合金ワイヤの先端は、前記基部の端面よりも突出していることを特徴とする微細試料ハンドリング装置。
【請求項7】
請求項6記載の微細試料ハンドリング装置において、前記基部の端面よりも突出している形状記憶合金ワイヤと電気的な接続が可能なコネクタを備え、前記基部から前記アームまでの先端部分が脱着可能なことを特長とする微細試料ハンドリング装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の微細試料ハンドリング装置において、前記アームを振動させる手段と、前記アームの振動状態の変化から前記アーム先端部が対象物に接触したことを検知する手段とを有することを特徴とする微細試料ハンドリング装置。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項記載の微細試料ハンドリング装置において、前記一対のアーム先端部には吸着防止材が被覆されていることを特徴とする微細試料ハンドリング装置。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項記載の微細試料ハンドリング装置において、前記本体部材を低抵抗化すると共に、前記本体部材を接地したことを特徴とする微細試料ハンドリング装置。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか1項記載の微細試料ハンドリング装置において、前記一対のアーム先端部の微細試料に接触する面はハンドリングすべき微細試料に応じた形状を有することを特徴とする微細試料ハンドリング装置。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項記載の微細試料ハンドリング装置において、前記本体部分のうち前記形状記憶合金部材に通電したとき、あるいは通電を止めたとき変形が大きい部分にひずみゲージを形成したことを特徴とする微細試料ハンドリング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−210330(P2009−210330A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−52154(P2008−52154)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]