説明

微細領域撮像装置及び微細領域撮像方法

【課題】半導体ウェハなど撮像対象物の表面状態をより正確に認識可能な微細領域撮像装置提供する。
【解決手段】半導体ウェハ10に電子ビームXを断続的に照射する電子ビーム照射部102と、電子ビームXの照射によって半導体ウェハ10に流れる基板電流iを、電子ビームXの照射タイミングと連動して検出する電流検出部110と、電流検出部110の出力outに基づいて、半導体ウェハ10の表面状態を示すデータを生成する画像データ生成部120とを備える。これにより、基板電流iに含まれる複数の成分が時間的に分離されることから、半導体ウェハ10の現在の照射位置における表面状態を正しく表す情報のみを選択的に取り出すことができ、その結果、半導体ウェハ10の表面状態をより正確に認識することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微細領域撮像装置及び微細領域撮像方法に関し、特に、電子ビームを半導体ウェハなどの撮像対象物に照射することによって、その表面状態を示す画像データなどを生成するための微細領域撮像装置及び微細領域撮像方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子ビームの照射によって撮像対象物の微細な表面を認識する装置としては、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)などが知られており、中でも走査型電子顕微鏡は、半導体ウェハの評価装置として広く用いられている。例えば、基板上の層間絶縁膜にビアホールを形成した後、走査型電子顕微鏡を用いて半導体ウェハの表面を撮影すれば、ビアホールが正しく形成されているか否かを画像によって評価することが可能となる。
【0003】
しかしながら、走査型電子顕微鏡による半導体ウェハの評価では、アスペクト比の大きなビアホールの底部構造を正しく観察することが難しく、このため、このようなビアホールの底部に残存するエッチング残渣などの異物を発見することは困難であった。この問題を解決するため、近年、半導体ウェハに電子ビームを照射し、これにより半導体ウェハに流れる基板電流を検出することによってビアホールなどの評価を行う技術が提案されている(特許文献1〜3参照)。
【0004】
図10は、基板電流を検出する従来の微細領域撮像装置による撮像原理を説明するための図であり、(a)は撮像対象となる半導体ウェハの略部分断面図、(b)は得られる基板電流iの波形図、(c)は基板電流iを微分することによって得られる微分出力dの波形図である。
【0005】
図10(a)に示す半導体ウェハ10は、素子分離領域11及びゲート電極12を有しており、これらの上に層間絶縁膜13が形成された構造を有している。層間絶縁膜13にはスルーホール13aが形成されており、このスルーホール13aを介して素子分離領域11の一部及びゲート電極12の一部が露出した状態となっている。
【0006】
このような構造を有する半導体ウェハ10に電子ビームXを照射し、これにより半導体ウェハ10に流れる基板電流iを検出すると、図10(b)に示すように、半導体ウェハ10の表面状態に応じて基板電流iが変化する様子が観察される。つまり、層間絶縁膜13に覆われた領域においては、電子ビームが層間絶縁膜13によって遮られることから、基板電流iは微量のトンネル電流が観察される程度であるが、スルーホール13aによって露出した領域においては、電子ビームXが基板内に達し、その量に応じた基板電流iが観察されることになる。このとき、スルーホール13aによって露出した領域のうち、ゲート電極12が形成されている領域においては、電子ビームXが効率よく基板に達することから、大きな基板電流iが得られることになるが、電子ビームXのパワーをある程度強めに設定しておけば、図10(b)に示すように、素子分離領域11に相当する位置においても、ある程度の大きさを有する基板電流iが観察されることになる。
【0007】
そして、得られた基板電流iの値を微分すれば、図10(c)に示すように、基板電流iが変化した部分において、その変化量及び変化の方向に応じた微分出力dが得られることになる。したがって、この微分出力dの波形を参照すれば、半導体ウェハ10の表面における各種境界部分を認識することが可能となり、これを解析することによって、例えばスルーホール13aの径(図10(a)に示す範囲Aに相当)や、スルーホール13aとゲート電極12とのオフセット量(図10(a)に示す範囲Bに相当)を特定することが可能となる。
【特許文献1】特開2002−83849号公報
【特許文献2】特開2004−235464号公報
【特許文献3】特開2005−64128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の微細領域撮像装置では、電子ビームを連続的に照射していることから、得られる基板電流iには、目的とする情報以外の多くの情報が重畳している可能性があった。このため、従来の微細領域撮像装置では、半導体ウェハなど撮像対象物の表面状態を必ずしも正確に認識することはできなかった。
【0009】
本発明は、このような問題を解決すべくなされたものであって、半導体ウェハなど撮像対象物の表面状態をより正確に認識可能な微細領域撮像装置及び微細領域撮像方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
微細領域撮像装置を改良すべく、本発明者が鋭意研究を重ねた結果、電子ビームの照射により生じる基板電流は、複数の電流成分が合成されたものであることが判明した。つまり、基板電流には、静電誘導による電荷、電子ビームにより直接注入された電子、電離衝突によって発生した電子及び正孔などによる電流が合成されていることが分かった。
【0011】
このうち、静電誘導による電荷は光速で移動するため、電子ビームの照射後最も早く現れるが、その値には、半導体のバリアハイト、キャリア濃度、導電型(p型/n型)、界面準位などの情報が含まれ、撮像対象物の表面状態とは直接関係のない情報が多く混在している。このため、撮像対象物の表面を撮像するためには、不必要な電流成分であると言える。これに対し、電子ビームにより直接注入された電子や、電離衝突によって発生した電子及び正孔は、撮像対象物中の絶縁膜厚や移動度などによって決まるため、撮像対象物の表面状態に関する情報をほぼ正確に有している。
【0012】
しかしながら、正孔の移動度は電子の移動度と比べて著しく遅いことから、電子ビームを連続的に照射しながらスキャンすると、異なる照射位置にて発生した電子と正孔が混在して観察されることになる。この問題を解決するためには、電子の移動による電流と、正孔の移動による電流を時間的に分離すればよい。
【0013】
本発明は、このような技術的知見に基づきなされたものであって、本発明による微細領域撮像装置は、撮像対象物に電子ビームを断続的に照射する照射手段と、前記電子ビームの照射によって前記撮像対象物に流れる電流を、前記電子ビームの照射タイミングと連動して検出する検出手段と、前記検出手段の出力に基づいて、前記撮像対象物の表面状態を示すデータを生成するデータ生成手段とを備えることを特徴とする。また、本発明による微細領域撮像方法は、撮像対象物に電子ビームを断続的に照射し、これにより前記撮像対象物に流れる電流を前記電子ビームの照射タイミングと連動して検出し、これに基づいて、前記撮像対象物の表面状態を示すデータを生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
このように、本発明によれば、基板電流に含まれる複数の成分が時間的に分離されることから、例えば、静電誘導による電荷や、電離衝突によって発生した正孔の影響を大幅に排除し、電子ビームにより直接注入された電子及び電離衝突によって発生した電子による電流を選択的に検出することができる。つまり、撮像対象物の現在の照射位置における表面状態を正しく表す情報のみを選択的に取り出すことができ、その結果、半導体ウェハなど撮像対象物の表面状態をより正確に認識することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の好ましい実施形態による微細領域撮像装置100の構成を示す模式図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態による微細領域撮像装置100は、撮像対象物である半導体ウェハ10の表面状態を観察するための装置であり、半導体ウェハ10を載置する移動ステージ101と、半導体ウェハ10の主面10aに電子ビームXを照射する電子ビーム照射部102と、電子ビームXの照射位置を制御するための制御部103と、電子ビームXの照射位置を検出するための位置検出部104と、制御パルスpulse1,pulse2を生成する発振回路105と、基板電流iを検出する電流検出部110と、位置検出部104の出力である位置情報p及び電流検出部110の出力である検出値outに基づいて、半導体ウェハ10の表面状態を示す画像データdataを生成する画像データ生成部120と、画像データ生成部120によって生成された画像データdataを表示する表示部121によって構成されている。
【0018】
半導体ウェハ10は、配線層や層間絶縁膜、スルーホールなどが形成された主面10aが電子ビーム照射部102側を向くよう、移動ステージ101上に載置される。半導体ウェハ10の裏面10bはシリコンが露出していても構わないし、絶縁膜が形成されていても構わない。
【0019】
半導体ウェハ10が載置される移動ステージ101は、制御部103による制御によって水平方向に移動可能に構成されており、また、電子ビーム照射部102も、制御部103による制御によって、電子ビームXの照射位置を移動可能に構成されている。移動ステージ101の移動は機械的に行うことができ、電子ビーム照射部102による電子ビームXの照射位置の移動は、図示しない偏向電極へ電圧を印加し、これによって電子ビームに与える電界を変化させることによって行うことができる。これにより、電子ビームXは、半導体ウェハ10の主面10aの所望の位置に照射することができる。また、電子ビームXの照射エネルギーや照射電流量についても、制御部103が電子ビーム照射部102を制御することによって調整される。半導体ウェハ10上における電子ビームXの実際の照射位置は、位置検出部104によって検出され、これにより得られた位置情報pは、画像データ生成部120に供給される。尚、高い解像度を得るためには、半導体ウェハ10上における電子ビームXの径をできるだけ小さく絞り込むことが好ましく、具体的には、0.2nm程度に絞ることが好ましい。
【0020】
また、電子ビームXの照射タイミングは、発振回路105から電子ビーム照射部102に供給される制御パルスpulse1によって制御される。つまり、電子ビーム照射部102は、半導体ウェハ10に電子ビームXを連続的に照射するのではなく、制御パルスpulse1に連動して断続的に照射する。具体的には、制御パルスpulse1がアクティブ(例えばハイレベル)であれば、電子ビーム照射部102は電子ビームXの照射を行い、制御パルスpulse1が非アクティブ(例えばローレベル)であれば電子ビームXの照射を中断する。
【0021】
一方、基板電流iを検出する電流検出部110は、図1に示すように、オペアンプOPを用いた電流検出ヘッド111と、電流検出ヘッド111の出力を受ける同期検出回路112によって構成されている。
【0022】
電流検出ヘッド111は、オペアンプOPと、オペアンプOPの出力端と反転入力端子との間に接続された抵抗Rによって構成され、オペアンプOPの反転入力端子に供給される電流量を検出する電流計として機能する。図1に示すように、電流検出ヘッド111の入力端(オペアンプOPの反転入力端子)は、半導体ウェハ10の裏面10bに接続されており、これにより、電子ビームXの照射によって生じる基板電流iを検出し、これを増幅することができる。
【0023】
同期検出回路112は、電流検出ヘッド111の出力をさらに増幅するとともに、基板電流iを同期検出するために用いられる。つまり、同期検出回路112には、電流検出ヘッド111の出力が連続的に供給されるのであるが、同期検出回路112は、これを増幅した検出値outを連続的に出力するのではなく、断続的に出力する。同期検出回路112による検出値outの出力タイミングは、発振回路105から同期検出回路112に供給される制御パルスpulse2によって制御される。本実施形態においては、制御パルスpulse1と制御パルスpulse2は同一信号である。したがって、同期検出回路112は、電子ビームXが照射されている期間だけ、検出値outを出力する。このように、電流検出部110は、電子ビームXの照射タイミングと同期して基板電流i検出する。
【0024】
画像データ生成部120は、同期検出回路112の検出値outと、位置検出部104によって検出された電子ビームXの照射位置を示す位置情報pを受け、これらに基づいて半導体ウェハ10の表面状態を示す画像データdataを生成する。生成された画像データdataは表示部121に表示され、これによって、半導体ウェハ10の表面状態を確認することができる。
【0025】
以上が、本実施形態による微細領域撮像装置100の構成である。次に、電子ビームXを照射した場合に半導体ウェハ10に流れる基板電流iの各種成分について説明する。
【0026】
図2は、半導体ウェハ10に流れる基板電流iの各種成分を説明するための模式図である。図2に示すモデルは、半導体ウェハ10がシリコン基板21と絶縁膜(シリコン酸化膜など)12によって構成されている状態を想定している。シリコン基板21と絶縁膜22との間には、電子ビームXの照射によって生じた空乏層23が広がっている。
【0027】
図2に示すように、半導体ウェハ10の絶縁膜22に電子ビームXを照射すると、発生のタイミングが異なる3種類の電流成分を観察することができる。最初に観察されるのは静電誘導による電荷eである。静電誘導による電荷eは光速で移動するため、これによる基板電流iは電子ビームXを照射した瞬間に観察されるが、その後の照射期間中は観察されない。
【0028】
次に観察されるのは、電子ビームXにより直接注入された電子e及び電離衝突によって発生した電子eである。電子ビームXにより直接注入された電子eは、FN(Fowler-Nordheim)トンネル電流又は直接トンネル電流による成分であり、FNトンネル電流は、半導体ウェハ10に形成された絶縁膜22が比較的厚い場合に発生し、直接トンネル電流は、絶縁膜22が比較的薄い場合に発生する。これら電子eが絶縁膜22を通過する時間は、絶縁膜22の膜厚、電子の移動度及び電界強度によって決まる。ここで、絶縁膜22がシリコン酸化膜であるとすると、シリコン酸化膜中における電子の移動度は2.5×10−3/(V・s)であるから、一例として、絶縁膜22の膜厚が20nm、電界強度が5.65V/cmであるとすると、電子eが絶縁膜22を通過する時間は、約0.14psとなる。したがって、この場合、半導体ウェハ10の絶縁膜22に電子ビームXを照射すると、約0.14ps後に電子eによる基板電流iが観察されることになる。そして、電子ビームXの照射停止によって電界が消失すると、電子eによる基板電流iはほとんど観察されなくなる。
【0029】
その次に観察されるのは、電離衝突によって発生した正孔eである。電離衝突による正孔eは、FNトンネル現象により注入された電子eが電離衝突を起こした際に発生する。このように正孔eが絶縁膜22を通過する時間は、絶縁膜22の膜厚、正孔の移動度及び電界強度によって決まる。ここで、絶縁膜22がシリコン酸化膜であるとすると、シリコン酸化膜中における正孔の移動度は2×10−9/(V・s)であるから、上記の通り、絶縁膜22の膜厚が20nm、電界強度が5.65V/cmであるとすると、正孔eが絶縁膜22を通過する時間は、約0.36μsとなる。したがって、この場合、半導体ウェハ10の絶縁膜22に電子ビームXを照射すると、約0.36μs後に正孔eによる基板電流iが観察されることになる。一方、電子ビームXの照射停止によって電界が消失すると、正孔eによる基板電流iは大幅に減少する。
【0030】
但し、絶縁膜22に残留した正孔eは、拡散により裏面10b側へと移動することから、電子ビームXの照射停止後も、正孔eによる基板電流iは僅かに観察される。したがって、電子ビームXの照射停止後、少なくとも電子ビームXの照射中における正孔eの通過時間(上記の例では0.36μs)と同等の期間は、正孔eの拡散による基板電流iが実質的に観察されるものと考えられる。
【0031】
このように、半導体ウェハ10に流れる基板電流i(=i+i+i)は、静電誘導による電荷e、電子ビームXにより直接注入された電子e及び電離衝突によって発生した電子e、並びに、電離衝突によって発生した正孔eの3種類の成分に分けることができる。そして、これら3つの電流成分は、互いに異なるタイミングで観察されることから、基板電流iを時間的に分離すれば、各成分を抽出できるものと考えられる。本実施形態による微細領域撮像装置100は、このような観点に基づき、電子ビームXにより直接注入された電子e及び電離衝突によって発生した電子eの抽出を行う。これは、静電誘導による電荷eには、半導体ウェハ10の表面状態とは直接関係のない情報が多く混在しているからであり、電離衝突による正孔eは、長時間かけてゆっくりと流れるため、情報として利用しにくいからである。
【0032】
次に、本実施形態による微細領域撮像装置100の動作について説明する。
【0033】
図3は、本実施形態による微細領域撮像装置100の動作を説明するための図であり、(a)は制御パルスpulse1,pulse2の波形図、(b)は電子ビームXの照射波形図、(c)は得られる基板電流iの波形図、(d)は電流検出部110の出力である検出値outの波形図である。
【0034】
図3(a)に示すように、制御パルスpulse1はアクティブ状態(ハイレベル)と非アクティブ状態(ローレベル)とが交互に現れるパルス波形を有している。このため、図3(b)に示すように、電子ビームXの波形も、照射期間T1と非照射期間T2とが交互に現れるパルス波形となる。照射期間T1の長さについては、電子ビームXの照射によって絶縁膜22中に生じた正孔eが絶縁膜22を通過する時間(上記の例では0.36μs)未満に設定することが好ましい。これは、正孔eの通過時間以上の期間に亘って電子ビームXを照射すると、基板電流iに正孔eによる電流成分が多く重畳してしまうからである。
【0035】
一方、非照射期間T2の長さは、電子ビームXの照射によって絶縁膜22中に生じた正孔eが絶縁膜22を通過する時間(上記の例では0.36μs)以上に設定することが好ましい。これは、非照射期間T2を正孔eの通過時間未満に設定すると、次の照射期間T1中に観察される基板電流iに、前の照射期間中に発生した正孔eによる電流成分が多く重畳してしまうからである。
【0036】
このようなパルス状の電子ビームXを半導体ウェハ10に照射すると、図3(c)に示すように、基板電流iの波形は、電子ビームXの照射期間T1においてほぼ一定となり、電子ビームXの非照射期間T2において漸減する波形となる。このうち、電子ビームXの照射期間T1において観察されるのは、主に電子ビームXにより直接注入された電子e及び電離衝突によって発生した電子eによる電流成分iであり、非照射期間T2において観察されるのは、主に電離衝突によって発生した正孔eによる電流成分iである。尚、静電誘導による電荷eの移動は瞬間的であることから、図3(c)では、これによる電流成分iは無視してある。
【0037】
このような波形を有する基板電流iは、図1に示す電流検出部110に供給され、電流検出部110に含まれる電流検出ヘッド111によって増幅される。そして、電流検出ヘッド111の出力は同期検出回路112に供給され、同期検出回路112は、これを断続的に増幅出力する。上述の通り、このような同期検出回路112の動作制御は、制御パルスpulse2によって行われる。
【0038】
具体的には、図3(d)に示すように、同期検出回路112は、制御パルスpulse2に同期して検出値outを出力する。上述の通り、本実施形態では、制御パルスpulse1と制御パルスpulse2は同一信号であることから、同期検出回路112は、電子ビームXの照射タイミングと同期して検出値outを出力することになる。つまり、検出値outの出力期間は、照射期間T1と実質的に一致することになる。これにより、基板電流iに含まれる電流成分のうち、電子ビームXにより直接注入された電子e及び電離衝突によって発生した電子eによる電流成分iが抽出され、電離衝突によって発生した正孔eによる電流成分iの多くは除去される。尚、電荷eの移動による電流成分iは、非照射期間T2から照射期間T1への切り替え時に瞬間的に発生するため、電子ビームXの照射タイミングに同期して検出値outを出力するよう制御しても、装置100の性能限界などにより、ほとんど観察されない。
【0039】
このようにして電流成分iが抽出された検出値outは、図1に示す通り、位置検出部104の出力である位置情報pとともに画像データ生成部120へ供給され、これらに基づいて、画像データが生成される。
【0040】
つまり制御部103は、図4に示すように、照射期間T1においては電子ビームXの照射位置を所定のエリア30に固定し、この状態で電流検出部110に検出値outを生成させる。そして、非照射期間T2において半導体ウェハ10と電子ビームXとの相対的な位置関係を変化させ、電子ビームXの照射位置を次のエリア31に移動させる。つまり、制御部103は、電子ビームXを照射するたびに照射位置をエリア30,31,32,33・・・へと変化させる。これによって、半導体ウェハ10上の表面状態を表示部121に表示することが可能となる。
【0041】
但し、電子ビームXを1回照射するたびに照射位置をエリア30,31,32,33・・・へと変化させることは必須でなく、1つのエリアに対して電子ビームXを複数回照射し、その後、照射位置を次のエリアに移動させても構わない。この場合、1つのエリアに対する照射回数を例えば100回とし、その平均値を当該照射位置における検出値outとして採用すればよい。これによれば、より高い解像度を得ることが可能となる。
【0042】
図5は、本実施形態による微細領域撮像装置100を用いてスルーホールを撮像する場合に得られる各種信号波形を説明するための図であり、(a)は撮像対象となる半導体ウェハ10の一部分を拡大して示す略部分断面図、(b)は電流検出部110より得られる検出値outの波形図、(c)は画像データ生成部120の出力である画像データdataの波形図である。
【0043】
図5(a)に示すように、本例による半導体ウェハ10は、層間絶縁膜24及び金属配線25を有しており、これらの上に層間絶縁膜26が形成された構造を有している。層間絶縁膜26にはスルーホール26aが形成されており、このスルーホール26aを介して金属配線25の一部が露出した状態となっている。金属配線25は図示しない他のスルーホールによって下層のシリコン基板に接続されている。また、層間絶縁膜26に設けられたスルーホール26aは、側壁27がテーパー状となっている。これは、RIE(反応性イオンエッチング)などのドライエッチングにおいては、エッチング対象物(ここでは層間絶縁膜26)を完全に垂直エッチングすることは困難であり、多少の角度を持ってエッチングされるためである。したがって、スルーホール26aの開口部の径D1よりも、スルーホール26aの底部の径D2の方がやや小さくなる。
【0044】
このような形状を有する半導体ウェハ10に対し、断続的に電子ビームXを照射しながら、その照射位置を変化させると、図5(b)に示すような検出値outの波形が得られる。つまり、本実施形態では、電子ビーム照射部102によって照射される電子ビームXがパルス状であり、且つ、電流検出部110は電子ビームXのパルス波形に同期して検出値outを生成することから、得られる検出値outもパルス状の波形となる。ここで、パルス状である検出値outの各値は、それぞれ半導体ウェハ10の表面形状に応じた値となる。
【0045】
つまり、検出値outの絶対値は、図5(b)に示すように、層間絶縁膜26に覆われた領域においては低くなり、スルーホール26aによって露出した領域においては高くなる。これは、層間絶縁膜26に覆われた領域と、スルーホール26aによって露出した領域とでは、電子ビームXによって誘起される基板電流iの量が大きく異なるからである。尚、金属配線25としては、ゲート電極に接続される配線のように、シリコン基板とは接続されていない配線もあるが、ゲート酸化膜は非常に薄いことから(例えば数nm)、電子ビームXによって誘起された電子はトンネル電流としてゲート酸化膜に流れ込み、シリコン基板に到達する。
【0046】
このようなパルス状の検出値outは、図1に示す画像データ生成部120に供給され、位置検出部104の出力である位置情報pとの関連づけが行われることにより、スルーホール26aの形状を示す画像データdataが生成される。
【0047】
このように、本実施形態による微細領域撮像装置100は、基板電流iに含まれる複数の電流成分を時間的に分離し、主に電子ビームXにより直接注入された電子e及び電離衝突によって発生した電子eによる電流成分iのみを抽出して検出値outを生成している。つまり、時間的に遅れて現れる電流成分iの影響を排除することができることから、電子ビームXの現在の照射位置における表面状態を正しく認識することが可能となる。
【0048】
したがって、1つのエリアに対して電子ビームXを複数回照射などの方法によって解像度を高めれば、スルーホール26aの底部に残存する残渣などを認識することも可能となる。残渣は、例えば金属配線25の材料としてアルミニウム(Al)を用いた場合、その両表面(上面及び下面)にバリアメタルとして窒化チタン(TiN)などが形成されることがあり、このチタンの酸化物などが残渣となることがある。
【0049】
つまり、図6(a)に示すように、スルーホール26aの底部に残渣28が残存している場合、残渣28に相当する部分において基板電流iのピーク値が低下する結果、電流検出部110より得られる検出値号outの波形にもこれが反映される。このため、図6(b)に示すように、画像データ生成部120によって生成される画像データdataにも残渣28に対応したレベル低下28aが生じることから、残渣28を画像化することが可能となる。
【0050】
尚、このような残渣28の画像化は、従来の微細領域撮像装置によっても原理的には可能であるが、従来の微細領域撮像装置では、互いに異なる照射位置の情報をもった電流成分iと電流成分iとが混在した状態で検出を行っていることから、微細な領域を正確に撮像することは難しく、したがって、複雑な形状を持った微細な残渣28を正しく画像化することは極めて困難である。これに対し、本実施形態による微細領域撮像装置100では、電流成分iと電流成分iを分離していることから解像度が極めて高く、このような残渣28の画像化を実現することが可能となる。
【0051】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0052】
例えば、上記実施形態では、電子ビームXの照射タイミングと基板電流iの検出タイミングを一致させているが(図3参照)、両者が連動している限り、これらを完全に一致させることは必須でない。したがって、図7に示すように、電子ビームXの照射タイミングを決める制御パルスpulse1よりも、基板電流iの検出タイミングを決める制御パルスpulse2のパルス幅を細くしても構わない。これによれば、電荷eの移動による電流成分を完全に除去することができるとともに、正孔eによる電流成分iをより確実に除去することができる。
【0053】
一方、電荷eの移動による電流成分iを検出する必要がある場合には、図8に示すように、電子ビームXの照射タイミングを決める制御パルスpulse1よりも、基板電流iの検出タイミングを決める制御パルスpulse2の位相を僅かに早めればよい。これによれば、電荷eの移動による電流成分iを検出値outに混在させることができることから、バリアハイト、キャリア濃度、導電型(p型/n型)、界面準位など、電荷eの移動による電流成分iに含まれる情報を得ることが可能となる。
【0054】
さらには、電子ビームXの照射タイミングを決める制御パルスpulse1が1回活性するたびに、基板電流iの検出タイミングを決める制御パルスpulse2を複数回活性化させ、これにより、各電流成分をそれぞれ検出することも可能である。例えば、図9に示すように、制御パルスpulse1が立ち上がる前に活性化する第1パルス41、制御パルスpulse1が立ち上がった後、立ち下がる前に活性化する第2パルス42、並びに、制御パルスpulse1が立ち上がった後活性化する第3パルス43によって1セットの制御パルスpulse2を構成する方法が考えられる。これによれば、第1パルス41によって電荷eの移動による電流成分iを取得し、第2パルス42によって電子eの移動による電流成分iを取得し、第3パルス43によって正孔eの移動による電流成分iを取得することが可能となる。
【0055】
尚、本発明の撮像対象としては、半導体ウェハに限定されるものではなく、電子ビームXの照射によって撮像対象物に流れる電流を検出可能である限り、半導体ウェハ以外のものを撮像対象物とすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の好ましい実施形態による微細領域撮像装置100の構成を示す模式図である。
【図2】半導体ウェハ10に流れる基板電流iの各種成分を説明するための模式図である。
【図3】微細領域撮像装置100の動作を説明するための図であり、(a)は制御パルスpulse1,pulse2の波形図、(b)は電子ビームXの照射波形図、(c)は得られる基板電流iの波形図、(d)は電流検出部110の出力である検出値outの波形図である。
【図4】電子ビームXの照射エリアが移動する様子を説明するための図である。
【図5】微細領域撮像装置100を用いてスルーホールを撮像する場合に得られる各種信号波形を説明するための図であり、(a)は撮像対象となる半導体ウェハ10の一部分を拡大して示す略部分断面図、(b)は電流検出部110より得られる検出値outの波形図、(c)は画像データ生成部120の出力である画像データdataの波形図である。
【図6】(a)はスルーホール23aの底部に残渣28が残存している半導体ウェハ10の略部分断面図であり、(b)は画像データdataの波形図である。
【図7】電子ビームXの照射タイミングと基板電流iの検出タイミングの他の例を示す図であり、(a)は制御パルスpulse1の波形図、(b)は制御パルスpulse2の波形図である。
【図8】電子ビームXの照射タイミングと基板電流iの検出タイミングのさらに他の例を示す図であり、(a)は制御パルスpulse1の波形図、(b)は制御パルスpulse2の波形図である。
【図9】電子ビームXの照射タイミングと基板電流iの検出タイミングのさらに他の例を示す図であり、(a)は制御パルスpulse1の波形図、(b)は制御パルスpulse2の波形図である。
【図10】基板電流を検出する従来の微細領域撮像装置による撮像原理を説明するための図であり、(a)は撮像対象となる半導体ウェハの略部分断面図、(b)は得られる基板電流iの波形図、(c)は基板電流iを微分することによって得られる微分出力dの波形図である。
【符号の説明】
【0057】
10 半導体ウェハ
10a 半導体ウェハの主面
10b 半導体ウェハの裏面
11 素子分離領域
12 ゲート電極
13,24,26 層間絶縁膜
13a,26a スルーホール
21 シリコン基板
22 絶縁膜
23 空乏層
23a スルーホール
25 金属配線
27 側壁
28 残渣
28a 残渣によるレベル低下
30〜33 照射エリア
41 第1パルス
42 第2パルス
43 第3パルス
100 微細領域撮像装置
101 移動ステージ
102 電子ビーム照射部
103 制御部
104 位置検出部
105 発振回路
110 電流検出部
111 電流検出ヘッド
112 同期検出回路
120 画像データ生成部
121 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像対象物に電子ビームを断続的に照射する照射手段と、前記電子ビームの照射によって前記撮像対象物に流れる電流を、前記電子ビームの照射タイミングと連動して検出する検出手段と、前記検出手段の出力に基づいて、前記撮像対象物の表面状態を示すデータを生成するデータ生成手段とを備えることを特徴とする微細領域撮像装置。
【請求項2】
前記撮像対象物と前記電子ビームとの相対的な位置関係を変化させる制御部をさらに備え、前記制御部は、少なくとも前記電子ビームの照射期間においては、前記電子ビームの照射位置を固定させることを特徴とする請求項1に記載の微細領域撮像装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記電子ビームの非照射期間において、前記電子ビームの照射位置を変化させることを特徴とする請求項1又は2に記載の微細領域撮像装置。
【請求項4】
前記撮像対象物は、主面の少なくとも一部に絶縁膜が形成された半導体ウェハであり、前記検出手段は前記絶縁膜を介して前記半導体ウェハを流れる基板電流を検出することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の微細領域撮像装置。
【請求項5】
前記電子ビームの照射期間は、前記電子ビームの照射によって前記絶縁膜中に生じた正孔が前記絶縁膜を通過する時間未満に設定されていることを特徴とする請求項4に記載の微細領域撮像装置。
【請求項6】
前記電子ビームの非照射期間は、前記電子ビームの照射によって前記絶縁膜中に生じた正孔が前記絶縁膜を通過する時間以上に設定されていることを特徴とする請求項4又は5に記載の微細領域撮像装置。
【請求項7】
撮像対象物に電子ビームを断続的に照射し、これにより前記撮像対象物に流れる電流を、前記電子ビームの照射タイミングと連動して検出し、これに基づいて前記撮像対象物の表面状態を示すデータを生成することを特徴とする微細領域撮像方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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