説明

心肥大および心不全の処置としてのTRPチャネル阻害方法

本発明は、心肥大および心不全を治療および予防する方法を提供する。MEF-2、NF-AT3、カルシニューリン、MCIP、およびクラスII HDACは、心肥大および心臓病に大きな役割を有することが示されており、これらの因子またはこれらの因子によって媒介される経路の阻害は、有益な抗肥大作用を有することが示されている。本発明は、これらの因子と、TRPチャネルと呼ばれる電位非依存性チャネルのファミリーを介してそれらの因子が媒介する経路との連鎖を提供する。本発明は、TRPチャネルの阻害剤が心不全および心肥大を阻害または処置できることをさらに実証する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1. 技術分野
本発明は、一般に発生生物学および分子生物学の分野に関するものである。本発明は、さらに詳細には心筋細胞における遺伝子調節および細胞生理に関する。本発明は、具体的には細胞への電位非依存性のカルシウム流入を遮断するための一過性受容体電位(TRP)チャネル阻害剤の使用に関する。本発明は、心肥大および心不全を処置するためのTRPチャネル阻害剤の使用、ならびに心臓TRPチャネルの阻害剤を見出すためのスクリーニング方法にも関する。
【0002】
2. 関連技術の説明
心肥大は、高血圧症、機械的負荷異常、心筋梗塞、弁機能障害、ある種の心臓不整脈、内分泌障害および心臓収縮タンパク質遺伝子の遺伝子突然変異を含めた多数の形の心臓病に対する心臓の適応反応である。肥大反応は初期には心機能を高める代償メカニズムであると考えられているが、持続性の肥大は適応不全であり、心室拡大と心不全の臨床症候群とに至ることが多い。したがって、心肥大は心罹患および心死亡に関する独立したリスク因子として立証された(Levy et al., 1990)。
【0003】
過剰な圧負荷またはアドレナリン作動薬のような多様な肥大刺激は、心房性ナトリウム利尿因子、骨格筋型αアクチンおよびβミオシンH鎖のような胎児遺伝子の再発現を含めた心臓の遺伝子発現に定型パターンの変化を誘導する(Chein et al., 1993; Sadoshima et al., 1997)。細胞内カルシウムの濃度増加は、刺激にかかわらず心肥大遺伝子発現の開始に共通する近位のシグナルとして機能すると考えられる。(Olson and Williams, 2000a; Olson and Williams, 2000b)このシグナルの主要な下流の一エフェクターは、心肥大の促進に決定的な役割を演じるカルシウム依存性ホスファターゼであるカルシニューリンである。活性化したカルシニューリンは転写因子NFATを脱リン酸して、それは次に核に入り、肥大遺伝子の発現を促進する(Molkenti et al., 1998)。このコアシグナル伝達モジュール(カルシウム→カルシニューリン→NFAT)は、様々な種類の脊椎動物細胞で機能する(Crabtree and Olson, 2002)。
【0004】
細胞内コンパートメントは、細胞外環境(1mM)や内部(筋小胞体)の貯蔵に比べて低濃度(100nM)のカルシウムを通常は維持する。細胞内カルシウム濃度の一過性の増加(心臓の興奮収縮周期に関連した増加)はカルシニューリンを活性化するには不十分であり、むしろカルシニューリンは細胞内カルシウムの持続的上昇に反応する。肥大心筋細胞は、慢性的に上昇した細胞内カルシウムレベルを明らかに有するが、この持続性のカルシウムシグナルの原因となる特異的メカニズムは分かりにくいままである。潜在的なメカニズムには、細胞外カルシウムの流入増加、内部貯蔵からのカルシウム放出増加またはSERCAポンプを介したカルシウムの再取り込み障害がありうる。細胞外カルシウムの流入は、主に心臓L型電位依存性チャネルによって、またより少ない程度には様々な電位非依存性カルシウムチャネルによって調節される。リアノジン受容体は、興奮収縮周期の間に筋小胞体から放出されるカルシウムの大部分を媒介し、もう一つのカルシウム放出チャネルであるIP3受容体よりも心臓に50〜100倍豊富に存在する。IP3受容体は、その存在量が低いにもかかわらず心臓カルシニューリン-NFAT経路の促進に欠かせない役割を果たしうると最近の事実は示唆している(Jayaraman and Marks, 2000)。さらに、心不全を有するヒト患者でIP3受容体の発現増加が観察された(Go et al., 1995)。
【0005】
可能性のある肥大カルシウムシグナルの起源への追加的な洞察は、免疫系におけるカルシニューリン-NFAT経路の研究から生じた(Crabtree and Olson, 2002)。リンパ球が活性化する間に、T細胞受容体に結合するリガンドはPLCの活性化およびIP3の産生を刺激し、IP3は、IP3受容体(リンパ球での主なカルシウム放出チャネルである)を介して細胞内貯蔵からのカルシウムの一過性放出を誘導する。しかし、このカルシウムの一過性放出は、カルシニューリンおよびその後のNFAT依存性反応を活性化するには不十分である。むしろ細胞内貯蔵からの初発のカルシウム放出は、専門のカルシウム放出活性化カルシウム(CRAC)チャネルを介した細胞外カルシウムの二次的内向き流入を誘発する。カルシニューリン経路を活性化可能な持続性カルシウムシグナルを発生するのは、細胞外カルシウムのこの内向きの流入である。様々な種類の細胞でカルシニューリン-NFATシグナル伝達モジュールが利用される程度を考えると、類似したメカニズム(例えば心臓CRACチャネル)が心臓でのこの肥大前経路の活性化の原因でありうると予測するのが妥当である。
【0006】
心臓CRACチャネルの電気生理学的性質が広く研究されてきたが、これらのチャネルをコードする特異的遺伝子はまだ完全に同定されていない。このように、心臓CRACチャネルの性質の原因となる遺伝子(類)は肥大に至るカスケードの出発点となり、心不全および肥大の両方についての潜在的な治療標的であるが、それらの遺伝的同一性ははっきりしないままである。
【0007】
本出願は、参照により明示的に組み入れられる、2003年11月13日に出願の米国仮特許出願第60/519980号の優先権を主張する。
【発明の開示】
【0008】
このように、本発明により心肥大または心不全を処置する方法が提供され、その方法は、(a)心肥大または心不全を有する患者を同定する段階、および(b)その患者にTRPチャネルの阻害剤を投与する段階を含む。多様な態様では、TRPチャネルは、TRPCファミリーチャネルの場合があり、さらなる態様では、TRPチャネルは、TRPC1、TRPC3、TRPC4、TRPC5またはTRPC6チャネルでありうる。
【0009】
本発明のある態様では、抗体、RNAi分子、リボザイム、ペプチド、低分子、アンチセンス分子、2-ABP、D-myo-I-INS(1,4,5)P3、ガドリニウム、抗G(q/11)抗体、U-73122、La3+、フルフェナム酸(flufanemate)、PPI、ランタンまたは濃縮した皮層Fアクチンからなる群より阻害剤を選択できる。さらなる態様では、選択される抗体は、モノクローナル、ポリクローナル、ヒト化、一本鎖またはFabフラグメントでありうる。
【0010】
投与は、静脈内、経口、経皮、徐放、坐剤または舌下投与を含みうる。その方法は、ベータ遮断剤、変力物質(inotrope)、利尿薬、ACE-I、AII拮抗薬、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤またはCa(++)遮断剤のような第二の治療レジメンを施す段階をさらに含みうる。その第二の治療レジメンを、その阻害剤と同時に、またはその阻害剤の前もしくは後のいずれかに投与できる。
【0011】
処置は、増加した運動能力、増加した血液駆出量、左室拡張末期圧、肺毛細血管楔入圧、心拍出量、心係数、肺動脈圧、左室収縮末期径および左心室拡張終末期径、左心室および右心室の壁応力、壁張力および壁厚、生活の質、疾患に関連する罹患率および死亡率、進行性のリモデリングの逆転、心室拡張の改善、心拍出量の増加、ポンプ性能障害の軽減、不整脈の改善、線維症、壊死、エネルギー枯渇またはアポトーシスを提供することのように、心肥大または心不全の一つまたは複数の症状を改善しうる。
【0012】
本発明の別の態様では、心肥大または心不全を予防する方法が提供され、その方法は、(a)心肥大または心不全の危険性がある患者を同定する段階、および(b)該患者にTRPチャネルの阻害剤を投与する段階を含む。TRPチャネルはTRPCチャネルでありえ、さらに詳細には、TRPC1、TRPC3、TRPC4、TRPC5またはTRPC6チャネルであろう。
【0013】
投与は、静脈内、経口、経皮、徐放、坐剤または舌下投与を含みうる。患者は、長年のコントロール不良の高血圧症、矯正されていない弁膜症、慢性アンギナのうち一つもしくは複数を表すか、または最近に心筋梗塞を経験したおそれがある。
【0014】
本発明のある態様では、抗体、RNAi分子、リボザイム、ペプチド、低分子、アンチセンス分子、2-ABP、D-myo-I-INS(1,4,5)P3、ガドリニウム、抗G(q/11)抗体、U-73122、La3+、フルフェナム酸、PPI、ランタンまたは濃縮した皮層Fアクチンからなる群より阻害剤を選択できる。さらなる態様では、選択された抗体は、モノクローナル、ポリクローナル、ヒト化、一本鎖またはFabフラグメントでありうる。
【0015】
本発明のなお別の態様では、心臓細胞でのTRPCチャネルの阻害剤を同定するための方法が提供され、その方法は、(a)心筋細胞を提供する段階、(b)該心筋細胞を阻害剤の候補物質と接触させる段階、および(c)該心筋細胞上のTRPCチャネルによって媒介される活性を測定する段階を含み、ここで、未処理細胞で測定されたTRPCチャネル活性に比べた心筋細胞TRPCチャネル活性の減少で、その候補物質を心臓TRPCチャネル活性の阻害剤として同定するものである。本発明の特定の態様では、測定されるTRPCチャネルによって媒介される活性は、電位非依存性のカルシウムの流入、カルシニューリンの酵素活性、MCIPのタンパク質レベル、MCIPのRNAレベルまたはNF-AT3介在性遺伝子発現を含む。
【0016】
本発明のある態様では、TRPCチャネルは、内因性にか、または誘導された過剰発現によるかのいずれかで無傷細胞に局在するであろう。心筋細胞は、新生ラット心室筋細胞でありうる。心筋細胞は、無傷心臓にさらに局在する場合があり、その心臓はヒト心臓でありうる。
【0017】
本発明のなお別の態様では、心不全または肥大の阻害剤を同定するための方法を提供し、その方法は、(a)TRPチャネル阻害剤を提供する段階、(b)筋細胞をそのTRPチャネル阻害剤で処理する段階、および(c)一つまたは複数の心肥大または心不全パラメータの発現を測定する段階を含み、ここで、未処置筋細胞での一つまたは複数の心肥大または心不全パラメータに比べた該一つまたは複数の心肥大または心不全パラメータの変化から、該TRPチャネル阻害剤を心不全または心肥大の阻害剤として同定するものである。さらに、導入遺伝子の発現または化学物質を用いた処理のように、一つまたは複数の心肥大パラメータに肥大反応を誘発する刺激を、その筋細胞に供することもできる。
【0018】
一つまたは複数の心肥大パラメータは、筋細胞における一つまたは複数の標的遺伝子の発現レベルを含む場合があり、ここで、その一つまたは複数の標的遺伝子の発現レベルは心肥大の指標となる。その一つまたは複数の標的遺伝子は、ANF、α-MyHC、β-MyHC、骨格筋α-アクチン、SERCA、チトクロームオキシダーゼサブユニットVIII、マウスT複合タンパク質、インスリン成長因子結合タンパク質、タウ微小管関連タンパク質、ユビキチンカルボキシル末端ヒドロラーゼ、Thy-1細胞表面糖タンパク質またはMyHCクラスI抗原からなる群より選択されうる。ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼまたは緑色蛍光タンパク質のような、標的遺伝子プロモータに作動可能に連鎖しているレポータータンパク質のコード領域を使用して発現レベルを測定できる。標的mRNAまたは増幅した核酸産物に対する核酸プローブのハイブリダイゼーションを使用して発現レベルを測定できる。
【0019】
一つまたは複数の心肥大パラメータは、サルコメアの集合、細胞のサイズまたは細胞の収縮性のような、細胞形態の一つまたは複数の局面も含みうる。筋細胞は、単離された筋細胞であるか、または単離された無傷組織に含まれうる。筋細胞は、心筋細胞の場合もあり、一つまたは複数の心肥大パラメータに心不全または肥大反応を誘発する刺激を供された機能している無傷心筋のように、機能している無傷心筋にインビボで局在しうる。心筋細胞は新生ラット心室筋細胞(NRVM)でありうる。刺激は、大動脈バンディング、迅速心臓ペーシング、誘導性心筋梗塞、浸透圧ミニポンプ、PTU処置、誘導性糖尿病または導入遺伝子の発現でありうる。一つまたは複数の心肥大パラメータは、右心室駆出率、左心室駆出率、心室壁厚、心重量/体重比または心重量の標準化測定を含む。一つまたは複数の心肥大パラメータは、総タンパク質合成も含みうる。
【0020】
本明細書に使用するように「a」または「an」は、一つまたは複数を意味しうる。「含む」という語と共に使用する場合、本請求項に使用するように「a」または「an」という語は一つまたは一つを超えた数を意味しうる。本明細書に使用するように「別の」は、少なくとも二番目以上を意味しうる。
【0021】
本発明の他の目的、特性および利点は、下記の詳細な説明から明らかになるであろう。しかし、詳細な説明および特定の実施例は、本発明の好ましい態様を示すものの、本発明の精神および範囲内の多様な変形および変更がこの詳細な説明から当業者には明らかとなるであろうことから、例示としてのみ与えられることは言うまでもない。
【0022】
例示的な態様の説明
心不全は、世界中の罹患率および死亡率の主要原因の1つである。米国単独では、現在300万人の人が心筋症を患っており、それに加えて400,000人の人が毎年心筋症と診断されていることが推定から示される。拡張型心筋症(DCM)はまた「うっ血性心筋症」とも称され、心筋症の最も頻繁に見られる形態であり、罹患率は100,000人の当たりおよそ40人と推定される(Durand et al., 1995)。DCMには他の原因も存在するが、家族性拡張型心筋症は「特発性」DCMの約20%に相当することが示されている。DCM症例の約半数が特発性であり、残りは既知の疾患過程と関連している。例えば、癌化学療法に使用される特定の薬剤(例えば、ドキソルビシンおよびダウノルビシン)、または、慢性アルコール依存症に起因して重篤な心筋損傷が生じ得る。周産期心筋症は感染性続発症と関連する疾患であり、DCMの別の特発性形態である。要するに、DCMを含む心筋症は重要な公衆衛生問題である。
【0023】
冠動脈疾患、心筋梗塞、うっ血性心不全、および心肥大を含む心疾患およびその症状発現は、今日の米国における主要な健康上のリスクを明らかに示す。これらの疾患を患う患者を診断、処置、および支持するコストは数十億ドルに達する。心疾患の特に重篤な2つの症状発現は心筋梗塞および心肥大である。心筋梗塞に関しては、典型的にアテローム性動脈硬化の結果として冠動脈内で急性血栓性冠動脈閉塞が起こり、それが心筋細胞の死滅をもたらす。心筋細胞(cardiomyocyte、heart muscle cell)は最終分化しており、一般に細胞分化することができないため、急性心筋梗塞の過程において死滅した場合には一般に瘢痕組織に置き換えられる。瘢痕組織に収縮性はなく、心機能に寄与することができず、そのため心収縮において膨張することにより、または心室の大きさおよび有効半径を増大させることにより、例えば肥大性となることにより、心機能における有害な役割を果たす場合が多い。
【0024】
心肥大に関しては、一説ではこれを異常な発生と類似した疾患と見なし、そのため心臓における発生シグナルが肥大性疾患に寄与し得るかどうかという問題が提起される。心肥大は、高血圧、機械的負荷、心筋梗塞、心不整脈、内分泌障害、および心臓収縮タンパク質遺伝子における遺伝子変異から生じる疾患を含む心疾患の実質的にすべての形態に対する心臓の適応応答である。肥大応答は最初は心拍出量を増大させる補償機構であるものの、持続的な肥大はDCM、心不全、および突然死を引き起こし得る。米国では、約50万人の人が毎年心不全であると診断され、死亡率は50%に近づきつつある。
【0025】
心肥大の原因および影響は十分に実証されているが、根本的な分子機構は解明されていない。これらの機構の解明は心疾患の予防および処置における主要な問題であり、心肥大および心不全を特異的に標的する新規薬剤の設計における治療様式として重要になる。病的心肥大は典型的に、心臓障害が心不全をもたらすに十分なほど重篤になるまでいずれの症状も現さないため、心筋症の症状は心不全に伴って起こる症状である。これらの症状には、息切れ、労作に伴う疲労、呼吸困難を起こすために臥位になることができないこと(起座呼吸)、発作性夜間呼吸困難、心臓容積の拡大、および/または下肢の腫脹が含まれる。患者はまた、血圧の上昇、心音の増大、心雑音、肺および全身性の塞栓、胸痛、肺うっ血、ならびに動悸を示す場合が多い。さらに、DCMは駆出率(すなわち、内因性の収縮機能およびリモデリングの尺度)の低下を引き起こす。この疾患はさらに、心室拡張、および心筋収縮性の低下に起因した収縮機能の著しい障害を特徴とし、これは多くの患者に拡張型心不全を招く。罹患した心臓はまた、筋細胞/心筋機能障害の結果として細胞/心室リモデリングを起こし、これは「DCM表現型」に寄与する。疾患が進行するにつれ、症状も同様に進行する。DCM患者ではまた、心室頻拍および心筋細動を含む、生命にかかわる不整脈の発症率が著しく増加する。これらの患者では、失神(めまい)の発症が突然死の前兆とみなされる。
【0026】
拡張型心筋症の診断は、典型的に心腔の拡大、特に心室の拡大の実証に依存する。拡大は一般に胸部X線において観察可能であるが、心エコー図を用いることによってより正確に評価される。DCMは、急性心筋炎、心臓弁膜症、冠動脈疾患、および高血圧性心疾患との識別が困難である場合が多い。拡張型心筋症の診断がなされたならば、改善できる可能性のある原因を同定および処置し、さらなる心臓障害を妨げるためにあらゆる努力がなされる。例えば、冠動脈疾患および心臓弁膜症が阻止されなければならない。貧血、異常頻拍、栄養障害、アルコール依存症、甲状腺疾患、および/または他の問題に取り組み、管理する必要がある。
【0027】
上記のように、薬理学的薬剤による処置は、やはり心不全の症状発現を低減または排除するための主要な機構を表す。利尿薬は軽度から中程度の心不全の一次治療を形成する。残念なことに、一般的に使用される利尿薬(例えばチアジド)の多くは数々の副作用を有する。例えば、ある種の利尿薬は血清コレステロールおよびトリグリセリドを増加し得る。さらに、利尿薬は、重篤な心不全に罹患した患者に対しては一般的に効果がない。
【0028】
利尿薬が効果的でない場合には、血管拡張薬が使用され得る;アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤(例えば、エナラプリルおよびリシノプリル)は、症状軽減を提供するだけでなく、これらによって死亡率が減少することも報告されている(Young et al., 1989)。しかしながら、ACE阻害剤もまた、特定の病状(例えば腎動脈狭窄)を有する患者には禁忌である副作用を伴う。同様に、強心薬治療(すなわち、心筋収縮力を強化することによって心拍出量を改善する薬剤)も、胃腸障害および中枢神経系の機能障害を含む数々の有害反応を伴う。
【0029】
従って、現在使用される薬理学的薬剤は、特定の患者集団において重篤な欠点を有する。新規、安全、かつ有効な薬剤を利用できることは、現在利用できる薬理学的様式を使用し得ないかまたはそれらの様式では十分に緩和されない患者にとって間違いなく有益である。DCM患者の予後は変動しやすく、またこれは心室機能障害の程度に依存し、その大半が診断の5年以内に死亡する。
【0030】
現行の治療法の制限に照らして、本発明者らは不全心臓、肥大心臓および肥大組織で実質的に上方制御されている新規なセットのタンパク質を見出した。遺伝子チップ解析を使用して、本発明者らは前肥大性刺激に反応して上方制御された遺伝子としてTRPC3およびTRPC1を同定した。不全心臓組織の分析および本明細書に記載したさらなるインビトロ実験は、TRPファミリーのチャネルが優れた治療標的であることを示した。これらの電位非依存性Ca(++)チャネルは、肥大への細胞カスケードに重要であることがすでに分かっている多数の重要なシグナル伝達経路の出発点である。このように本発明により、本発明者らはTRPチャネルの機能を阻害することによって心肥大および心不全を処置するための新規な治療法を本明細書に記載する。
【0031】
1. TRPチャネル
予め述べたように、CRACチャネルの電気生理学的性質は広く研究されてきたが、これらのチャネルをコードする特異的遺伝子はまだ同定されていない。しかし、チャネルタンパク質CaT1がCRACチャネルの予想された電気生理学的特性を有することが最近になって実証された(Yue et al., 2001)。CaT1は、総じて一過性受容体電位(TRP)ファミリーとして知られている大きな群(遺伝子約20個)の電位非依存性原形質膜陽イオンチャネルのメンバーである(Venneken et al., 2002)。配列相同性に基づいてTRPファミリーを三つのサブファミリー、すなわちTRPC(カノニカル)サブファミリー、TRPV(バニロイド)サブファミリーおよびTRPM(メラスタチン)サブファミリーに分けることができる。TRPファミリーのメンバーは、様々な組織でカルシウム内向き流入チャネルとして明らかに機能するが、この新興のイオンチャネルファミリーの特異的な生理学的役割および調節モードについては現在のところ比較的わずかしか分かっていない。
【0032】
TRPCサブファミリーのメンバーは、Gタンパク質共役受容体の公知のエフェクターであり、ジアシルグリセロールによって直接活性化し、GPCR依存性PLC活性化の結果としてIP3が生成する。TRPCサブファミリーのメンバーは、CRACチャネルとしても機能する。それらは細胞内カルシウムの貯蔵の枯渇に反応して活性化する。貯蔵の枯渇をカルシウムの内向き流入と共役させる特異的メカニズムは未知であるが、TRPC3の場合ではチャネルはIP3受容体と直接相互作用すると考えられる。TRPC3チャネルの発現レベルは、興味深いことにそのチャネルがいかに調節されるかに影響することが示されている。高レベルのチャネル発現ではPLCの活性化が主要な調節様式であり、一方で低い発現レベルは貯蔵の枯渇に好都合である(Vasquez et al., 2003)。決定的には、TRPCチャネルは筋肉の病的カルシウムシグナル伝達に寄与することが最近になって実証された(Vandebrouck et al., 2002)。デュシェーヌ筋ジストロフィーを患う患者からの骨格筋線維は、カルシウムの異常に増加した内向きの流入を示し、それはカルシウム依存性プロテアーゼの活性化を介してジストロフィー表現型に寄与する。アンチセンスによるジストロフィー筋線維でのTRPC発現の抑制は、異常なカルシウムの内向きの流入を減少させた。これは、疾患過程に果たすこのチャネルの役割を確認している。
【0033】
他のTRPサブファミリーのメンバーはあまり十分には研究されていないが、種々の刺激に反応すると考えられる。貯蔵の枯渇による調節に加え、TRPVチャネルは機械的伸長、熱およびトウガラシ化合物であるカプサイシンによっても活性化する。対照的に、TRPMチャネルは低温およびメントールのような化合物によって活性化する。これらのチャネルは筋肉に発現するが、これらのチャネルが果たしうる機能的役割はまだ記述されていない。表1に、公知のTRPチャネルについてのアクセッション番号のリストを提供する。
【0034】
(表1)

【0035】
II. 心不全および肥大
冠状動脈疾患、心筋梗塞、うっ血性心不全および心肥大を含めた心臓病およびその症状発現は、今日の米国における主要な健康リスクをはっきりと表している。これらの疾患を患う患者を診断、処置および援助するコストは、数十億ドルに十分達する。心疾患の特に重い症状発現の一つは心肥大である。ある理論は、肥大に関して異所性発生に類似する疾患としてこれをみなし、そのこと自体は心臓での発生シグナルが肥大性疾患に寄与できるかという問題を提起している。心肥大は、高血圧症、機械的負荷、心筋梗塞、心臓不整脈、内分泌障害、および心臓の収縮タンパク質遺伝子の遺伝子突然変異から生じるものを含めた事実上全ての形の心疾患に対する心臓の適応反応である。肥大反応は初期には心臓拍出量を増大させる代償メカニズムであるが、持続性の肥大はDCM、心不全、および突然死に至りうる。米国では毎年約50万人の個体が心不全を有すると診断され、死亡率は50%に近づいている。
【0036】
心肥大の原因および作用が広く記録されているが、その原因となる分子メカニズムは完全には解明されていない。これらのメカニズムを理解することは心疾患の予防および治療における主要な関心事であり、心肥大および心不全を特異的に標的とする新薬の設計において治療様式として決定的であろう。心肥大の症状は、最初は心不全の症状によく似るが、息切れ、労作に伴う疲労、横になると息切れ(起座呼吸)、発作性夜間呼吸困難、心臓径の拡大、および/または下肢の腫脹がありうる。患者は血圧の増加、過剰心音、心雑音、肺および全身性塞栓、胸痛、肺うっ血、ならびに動悸を伴って現れることも多い。さらに、DCMは駆出率(すなわち内因性収縮機能とリモデリングとの両方の尺度)の減少を引き起こす。この疾患は、心筋の収縮性の減少が原因の心室拡張および収縮機能の著しい損傷をさらに特徴とし、それにより多くの患者では拡張性心不全がもたらされる。冒された心臓は、筋細胞/心筋の機能障害の結果として細胞/腔のリモデリングも受け、それが「DCM表現型」に寄与している。疾患が進行するにつれ症状も進行する。DCMを有する患者では、心室性頻脈および心室細動を含めた致命的な不整脈の発生率も大きく増加している。これらの患者では、失神(めまい)のエピソードは突然死の前兆とみなされる。
【0037】
肥大の診断は、拡大した心腔、特に拡大した心室の実証に概して依存する。拡大は、胸部X線で一般に観察可能であるが、心エコーを使用するとさらに正確に評価される。DCMは、急性心筋炎、弁膜性心疾患、冠状動脈疾患、および高血圧性心疾患と区別するのがしばしば困難である。いったん拡張型心筋症の診断がなされると、潜在的に改善可能な原因を同定および処置してさらなる心臓の損傷を予防するためにあらゆる努力がなされる。例えば冠状動脈疾患および弁膜性心疾患を除外しなければならない。貧血、異常頻脈、栄養欠乏、アルコール中毒、甲状腺疾患および/または他の問題に取り組み防除する必要がある。
【0038】
上に言及したとおり、医薬を用いた処置は心不全の症状発現を低減または排除するための主なメカニズムを依然として代表する。利尿薬は、軽症から中程度の心不全の第一線の処置を構成している。不幸にも通例使用されている利尿薬(例えばチアジド類)の多くは、多数の有害作用を有する。例えば、ある種の利尿薬は血清コレステロールおよびトリグリセリドを増加させる場合がある。さらに、利尿薬は重症心不全を患う患者には一般に無効である。
【0039】
利尿薬が無効ならば血管拡張剤を使用できる。アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤(例えばエナロプリル(enalopril)およびリジノプリル)は症状の軽減を提供するだけでなく死亡率も低下すると報告された(Young et al., 1989)。しかし、ACE阻害剤も有害作用に関連し、その結果として、ある種の疾病状態(例えば腎動脈狭窄)を有する患者に禁忌となっている。同様に強心薬(すなわち心筋の収縮力を増加することにより心拍出量を改善する薬物)による療法は、胃腸障害および中枢神経系の機能障害を含めた有害反応の数々と関連している。
【0040】
このように、今日使用されている薬理学的作用物質は特定の患者集団に大きな欠点を有する。新しく安全で有効な薬剤が入手できることは、現在利用可能な薬学的様式を利用できないか、またはそれらの様式から十分な軽減を受けられないかのいずれかである患者に確実に有益であろう。DCMを有する患者の予後は多様であり、心室機能障害の程度に依存し、大多数の死亡は診断の5年以内に起こる。
【0041】
MEF-2、MCIP、カルシニューリン、NF-AT3およびヒストンデアセチラーゼ(HDAC)は全て、心臓病、心不全、および肥大の発生および進行に密接に関与していると最近みなされているタンパク質および遺伝子である。任意または全てのこれらの遺伝子および/またはタンパク質の操作、調整および/または阻害は、心不全および肥大の処置に大いに有望である。これらの遺伝子は、心不全および肥大の両方に結局は至る様々なカスケードに全て関与している。それとして、カスケードの頂点でこれらの遺伝子を阻害してまず第一にこれらの遺伝子の活性化をおそらく防止する方法があるならば、その方法は心疾患の処置にかなりの躍進となるであろう。TRPチャネルはそのような潜在的標的である。なぜならば、TRPチャネルが心不全および肥大に関連した転写翻訳経路を阻害するための治療上のボトルネックである出発点としてこれらのカスケードの全てと関連しているからである。
【0042】
III. 心不全または心肥大のための転写経路
Ca(++)の活性化は多様な形の心不全および心疾患に関与していることが公知である。細胞でのCa(++)貯蔵の枯渇または細胞質Ca(++)レベルの上昇は、心肥大に関するカルシニューリン依存性経路を刺激することが示されている。本発明者らは、TRPチャネルがこれらの細胞内Ca(++)レベルの上昇の原因と考えられるチャネルであり、それは次に細胞における多数の異なる経路を活性化することを示している。心肥大に関係するときのこれらの経路の個別の構成要素を、本明細書の下記にさらに詳細に論じる。
【0043】
A. カルシニューリン
カルシニューリンは、59kDのカルモジュリン結合性触媒Aサブユニットと19kDのCa(++)結合性調節Bサブユニットからなるヘテロダイマーとして存在し、遍在性に発現するセリン/トレオニンホスファターゼである(Stemmer and Klee, 1994; Su et al., 1995)。カルシニューリンは、Ca(++)のシグナル伝達に対する心筋細胞の長期肥大反応を媒介するのに独自に適合している。なぜならこの酵素は、持続性のCa(++)プラトーによって活性化され、心筋細胞の収縮に反応して起こるような一過性Ca(++)流入に非感受性であるからである(Dolmetsch et al., 1997)。
【0044】
カルシニューリンの活性化は、Ca(++)およびカルモジュリンがそれぞれ調節サブユニットおよび触媒サブユニットに結合することによって媒介される。以前の研究は、心臓におけるカルモジュリンの過剰発現も心肥大をもたらすことを示したが、それに関与するメカニズムは決定されなかった(Gruver et al., 1993)。カルモジュリンはカルシニューリン経路を介して作用して肥大反応を誘導することが今や明らかとなっている。カルシニューリンは、本発明者らによってNF-AT3をリン酸化することが以前に示され、NF-AT3はその後に転写因子MEF-2に作用する(Olson and Williams, 2000)。このイベントが一旦起こると、MEF-2は胎児遺伝子として知られる様々な遺伝子を活性化し、その活性化は必然的に肥大をもたらす。
【0045】
CsAおよびFK-506は、イムノフィリンであるシクロフィリンおよびFK-506結合タンパク質(FKBP12)のそれぞれと結合してカルシニューリンの触媒サブユニットと結合する複合体を形成してその活性を阻害する。CsAおよびFK-506は、培養心筋細胞がAngIIおよびPEに反応して肥大を受ける能力を遮断する。これら両方の肥大性作動薬は細胞内Ca(++)を上昇させ、その結果PKCおよびMAPキナーゼシグナル伝達経路の活性化が生じることによって作用することが示された(Sadoshima et al., 1993; Sadoshima and Izumo, 1993; Kudoh et al., 1997; Yamazaki et al., 1997, Zou et al., 1996)。CsAは、PIのターンオーバー、Ca(++)の動員またはPKCの活性化のような細胞膜での初期のシグナル伝達イベントを妨害しない(Emmel et al., 1989)。このように、CsAがAngIIおよびPEの肥大性反応を阻止する能力は、カルシニューリンの活性化がAngIIおよびPEのシグナル伝達経路での必須の段階であることを示唆している。
【0046】
B. NF-AT3
NF-AT3は、四つのメンバー、NF-ATc、NF-ATp、NF-AT3、およびNF-AT4を含む多重遺伝子族のメンバーである(McCaffery et al., 1993; Northrup et al., 1994; Hoey et al., 1995; Masuda et al., 1995; Park et al., 1996; Ho et al., 1995)。これらの因子は、Rel相同ドメイン(RHD)にわたるモノマーまたはダイマーとしてコンセンサスDNA配列GGAAAATと結合する(Rooney et al., 1994; Hoey et al., 1995)。NF-AT遺伝子のうち三つはT細胞および骨格筋にその発現が限定されるが、一方NF-AT3は心臓を含めた様々な組織に発現する(Hoey et al., 1995)。NF-ATタンパク質に関する追加の開示について、当業者は参照として本明細書に具体的に組み込まれている米国特許第5,708,158号を参照のこと。
【0047】
NF-AT3は、核への移行を媒介する調節ドメインをアミノ末端に有し、DNAとの結合を媒介するRel相同ドメインをカルボキシル末端近くに有する902個のアミノ酸である。NF-ATタンパク質の活性化に関与する三つの異なる段階、すなわち脱リン酸、核局在およびDNAに対する親和性の増加がある。休止細胞ではNFATタンパク質はリン酸化されており、細胞質に位置する。これらの細胞質NF-ATタンパク質はDNA親和性をほとんどまたは全く示さない。カルシウムの動員を誘発する刺激は、NF-ATタンパク質の迅速な脱リン酸および核へのそれらの移行をもたらす。脱リン酸したNF-ATタンパク質は、DNAに対する親和性の増加を示す。活性化経路の各段階をCsAまたはFK506によって遮断できる。これは、カルシニューリンがNF-ATの活性化の原因となるタンパク質であることを暗示し、本発明者らの以前の研究はそのことを示している。
【0048】
このように、T細胞では、カルシニューリン活性化に反応した遺伝子発現の変化の多くは、NF-ATファミリーの転写因子のメンバーによって媒介され、それらのメンバーはカルシニューリンによる脱リン酸の後に核に移行する。NF-ATもカルシニューリンの活性化に反応した心肥大の重要な伝達物質であるという結論が、多くの観察によって支持されている。NF-AT活性は、AngIIおよびPEで心筋細胞を処置することによって誘導される。この誘導はCsAおよびFK-506によって遮断され、これはカルシニューリン依存性であることを示している。NF-AT3はGATA4と相乗的に心筋細胞での心臓特異的BNPプロモータを活性化する。また、心臓での活性化NF-AT3の発現は、肥大性シグナル伝達経路での全ての上流のエレメントをバイパスして肥大性反応を誘発するのに十分である。
【0049】
本発明者らの以前の研究は、NF-AT3のRel-相同ドメインのC末端部分がGATA4の第二ジンクフィンガーならびに同じく心臓に発現するGATA5およびGATA6と相互作用することを実証している。NF-ATcのDNA結合領域の結晶構造は、Rel相同ドメインのC末端部分がDNA結合部位から突出して、免疫細胞でのAP-1との相互作用も媒介することを明らかにした(Wolfe et al., 1997)。
【0050】
本発明者らによって以前に提案されたモデルによれば、AngIIおよびPEのように細胞内Ca(++)の上昇に至る肥大刺激は、カルシニューリンの活性化をもたらす。細胞質内部のNF-AT3はカルシニューリンによって脱リン酸されて、核への移行が可能となり、核ではNF-AT3はGATA4と相互作用でき、それから通常は抑制されている転写因子ファミリーである転写因子MEF-2を、クラスII HDACと密接に関連することによって活性化する。
【0051】
本発明者らによる以前の研究結果は、カルシニューリンによるNF-AT3の活性化が様々な病的刺激に反応して肥大を調節することを示し、サルコメアの機能の改変に関する感知メカニズムを示唆している。注目すべきことに、収縮タンパク質の遺伝子の突然変異によって引き起こされるいくつかの家族性肥大型心筋症(FHC)があり、その突然変異はサルコメアの微結晶様構造のわずかな解体をもたらす(Watkins et al., 1995; Vikstrom and Leinwand, 1996)。どのようにサルコメアの解体が心筋細胞によって感知されるかは未知であるが、これがCa(++)の運用の改変に至ることが明らかである(Palmiter and Solaro, 1997; Botinelli et al., 1997; Lin et al., 1996)。上に論じたように、カルシニューリンはFHCに関連するCa(++)の運用の改変と心肥大および心不全とを結びつける感知分子の一つである。
【0052】
C. MEF2
上記のように、カルシニューリンによるNF-AT3の活性化は、別のファミリーの転写因子である単球エンハンサー因子2ファミリー(MEF2)を活性化させる。MEF2は、骨格筋細胞、心筋細胞、および平滑筋細胞の形態形成および筋形成に重大な役割を果たすことが知られている(Olson et al, 1995)。MEF2因子は全ての種類の発生中の筋細胞に発現し、大多数の筋特異的遺伝子の制御領域にある保存されたDNA配列と結合する。四つの哺乳類MEF2遺伝子のうち、かなりの機能的な差異を有する三つ(MEF2A、MEF2BおよびMEF2C)が選択的スプライシングを受けることができる(Brand, 1997; Olson et al., 1995)。これらの転写因子は、N末端MADSボックスおよびMEF2ドメインとして知られている隣接モチーフに相同性を共有している。総合すると、MEF2のこれらの領域は、DNAの結合、ホモおよびヘテロダイマー化、ならびに骨格筋での筋形成性bHLHタンパク質のような様々な補因子との相互作用を媒介する。さらに、脊椎動物および非脊椎動物での生化学研究および遺伝研究より、MEF2因子が他の転写因子との組み合わせの相互作用を介して筋形成を調節することが実証されている。
【0053】
機能喪失研究から、MEF2因子が胚形成時の筋遺伝子の発現の活性化に必須であることが示された。MEF2タンパク質の発現および機能は、MEF2因子が参加する多様な転写回路を微調整するように働いている多数の形の正の調節および負の調節の対象である。健康な心臓では、MEF-2は不活性型となってクラスII HDACS(上記参照)によって結合され、MEF-2が活性化するとHDACから放出され、心臓に非常に有害である胎児遺伝子プログラムを活性化する。
【0054】
D. ヒストンデアセチラーゼ
クロマチンの折り畳みの一次的足場であるヌクレオソームは、溶液状態のクロマチンのコンホメーションに影響する動的高分子構造である(Workman and Kingston, 1998)。ヌクレオソームのコアはヒストンタンパク質である、H2A、HB、H3およびH4で構成されている。ヒストンのアセチル化によってヌクレオソームおよびヌクレオソームの配列は改変した生物物理学的特性を伴って挙動する。ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)とヒストンデアセチラーゼ(HDAC)との間の活性のバランスがヒストンのアセチル化レベルを決定している。アセチル化されたヒストンはクロマチンの弛緩および遺伝子転写の活性化を引き起こし、一方で脱アセチル化されたクロマチンは一般に転写的に不活性である。
【0055】
異なる11個のHDACが脊椎動物からクローニングされている。同定された初めの三つのヒトHDACは、HDAC1、HDAC2およびHDAC3(クラスIヒトHDACと命名)であり、HDAC8(Van den Wyngaert et al., 2000)がこのリストに加わった。最近クラスIIヒトHDACである、HDAC4、HDAC5、HDAC6、HDAC7、HDAC9、およびHDAC10(Kao et al., 2000)がクローニングされ同定された(Grozinger et al., 1999; Zhou et al. 2001; Tong et al., 2002)。さらにHDAC11が同定されたがクラスIまたはクラスIIのいずれであるか、まだ分類されていない(Gao et al., 2002)。全ては触媒領域に相同性を共有する。しかし、HDAC4、HDAC5、HDAC7、HDAC9およびHDAC10は他のHDACにみられない独特なアミノ末端伸長部を有する。このアミノ末端領域はMEF2結合ドメインを有する。HDAC4、HDAC5およびHDAC7は心臓遺伝子の発現調節に関与し、特定の態様ではMEF2の転写活性を抑制することが示された。クラスII HDACがMEF2活性を抑制する正確なメカニズムは完全には理解されていない。一つの可能性は、MEF2とのHDACの結合が、競合的にまたは天然の転写活性型MEF2のコンホメーションを不安定化することによるいずれかで、MEF2の転写活性を阻害することである。クラスII HDACがMEF2とダイマーとなって脱アセチル化が進行するためにヒストン近辺にHDACを局在または配置する必要がある可能性もある。
【0056】
ヒストンデアセチラーゼに対する多様な阻害剤が同定された。提案された用途は広範囲であるが、主に癌療法に主眼をおいている(Saunders et al., 1999; Jung et al., 1997; Jung et al, 1999; Vigushin et al., 1999; Kim et al., 1999; Kitazomo et al, 2001; Vigusin et al, 2001; Hoffmann et al., 2001; Kramer et al., 2001; Massa et al., 2001; Komatsu et al., 2001; Han et al., 2001)。そのような療法は、固形腫瘍および血液腫瘍に関する臨床治験を後援しているNIHの対象である。HDACは導入遺伝子の転写も増加させ、したがって遺伝子療法に対する可能性のある補助剤を構成している。(Yamano et al., 2000; Su et al., 2000)
【0057】
多様な異なるメカニズム、すなわちタンパク質、ペプチド、および(アンチセンス、RNAi分子、およびリボザイムを含めた)核酸によってHDACを阻害できる。ウイルスおよび非ウイルスベクターならびにリポソームを含む、遺伝子構築体のクローニング、導入および発現のための方法は、当業者に広く公知である。ウイルスベクターにはアデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、ワクシニアウイルスおよびヘルペスウイルスがある。
【0058】
低分子阻害剤も考えられている。HDACの機能の最も広く公知である低分子阻害剤は、おそらくヒドロキサム酸であるトリコスタチンAである。この阻害剤は、過アセチル化を誘導してras形質転換細胞の正常形態への復帰を引き起こし(Taunton et al., 1996)、マウスモデルにおいて免疫抑制を誘導する(Takahashi et al., 1996)ことが示された。この阻害剤は、BIOMOL Research Labs, Inc., Plymouth Meeting, PAを含めた様々な供給源から市販されている。
【0059】
参考として本明細書に組み込まれている以下の参照は、全て本発明に用途を見出しうるHDAC阻害剤を記載している:AU 9,013,101; AU 9,013,201; AU 9,013,401; AU 6,794,700; EP 1,233,958; EP 1,208,086; EP 1,174,438; EP 1,173,562; EP 1,170,008; EP 1,123,111; JP 2001/348340; U.S. 2002/256221; U.S. 2002/103192; U.S. 2002/65282; U.S. 2002/61860; WO 02/51842; WO 02/50285; WO 02/46144; WO 02/46129; WO 02/30879; WO 02/26703; WO 02/26696; WO 01/70675; WO 01/42437; WO 01/38322; WO 01/18045; WO 01/14581; Furumai et al., 2002; Hinnebusch et al., 2002; Mai et al., 2002; Vigushin et al., 2002; Gottlicher et al., 2001; Jung, 2001; Komatsu et al, 2001; Su et al., 2000。
【0060】
E. MCIP
カルシニューリンとの緊密な関連およびそれによる調節を主な原因とする心不全および肥大に関連する別の遺伝子は、21番染色体の重大な領域に存在する50〜100個の遺伝子の一つであるMCIP1をコードするヒト遺伝子(DSCR1)であり(Fuentes et al., 1997; Fuentes et al., 1995)、その三染色体性は、際だった特徴として心臓異常および骨格筋緊張低下を含むダウン症候群の複合発育異常を生じる(Epstein, 1995)。ZAKI-4は、甲状腺ホルモンに反応して転写活性化する遺伝子に関するスクリーニングの際に、ヒト線維芽細胞系から同定された(Miyazaki et al., 1996)。
【0061】
MCIP1は、カルシニューリンと直接結合してそれを阻害して、カルシニューリン活性の内因性フィードバック阻害剤として機能する。トランスジェニック動物の心臓でのMCIP1の過剰発現は抗肥大性であり、インビボモデルのMCIP1はカルシニューリン依存性肥大(Rothermel et al., 2001)および過剰な圧負荷が誘導する肥大(Hill et al., 2002)の両方を減弱する。MCIP1は、MAPKおよびGSK-3ならびにカルシニューリンのホスファターゼ活性によるリン酸化に対する基質としても作用する。MCIP1の残基81〜177はカルシニューリン阻害活性を保持する。
【0062】
カルシニューリンに対するMCIP1の結合は、カルモジュリンを必要とせず、MCIPはカルシニューリンに対するカルモジュリンの結合も妨害しない。これは、MCIP1が結合するカルシニューリンの表面がカルモジュリン結合ドメインを含まないことを示唆している。対照的に、MCIP1とカルシニューリンとの相互作用はFK506:FKBPまたはシクロスポリン:シクロフィリンによって妨げられ、これはMCIP1が結合するカルシニューリンの表面が免疫抑制剤の活性に必要とされる表面と重複することを示す。
【0063】
MCIPおよび上記の遺伝子の全ては、それぞれそれ自体が心不全および肥大に対する魅惑的な治療標的となっている。TRPチャネルへの本発明者らの興味の主な理由は、これらのチャネルがこれらの遺伝子を必要とするか動員する経路およびメカニズムに関係していると潜在的にみなされるからである。それとして、TRPチャネルを阻害することによる心不全または肥大の処置は、これらの疾患を患う患者を処置するために利用できる現行の方法を大きく躍進するものとなるであろう。
【0064】
IV. 心不全および心肥大の治療方法
A. 心不全および肥大の治療レジメン
いくつかの形の心不全は治癒可能の場合があり、これらは貧血または甲状腺中毒症のような原疾患を処置することによって対処される。心臓弁欠損のような解剖学的問題に引き起こされる形も治癒可能である。これらの欠損を外科的に修正できる。しかし、損傷した心筋が原因である大部分のよくみられる形の心不全には、公知の治癒法は存在しない。これらの疾患の症状の処置は助けになり、その疾患の一部の処置は成功している。その処置は、患者の生活の質および生存期間を生活様式の変化および薬物療法によって改善することを試みている。患者は、心臓病に対するリスク因子を制御することによって心不全の作用を最小にすることができるが、生活様式の変化を伴っても、大部分の心不全の患者は投薬を受けねばならず、その多くが二つ以上の薬物を投与されている。
【0065】
数種の薬物が心不全の処置に有用であることが証明された。利尿薬は、体液量を減らすのを助け、体液貯留および高血圧症を有する患者に有用である。ジギタリスは心臓の収縮力を増加させて循環の改善を助けるために使用されうる。最近の研究結果は、ACE阻害剤の使用にさらに重点を置いている(Manoria and Manoria, 2003)。いくつかの大規模研究は、ACE阻害剤が心不全患者の生存を改善し、心臓のポンプ活動の喪失を遅らせ、またおそらく予防さえできることを示した(De Feo et al., 2003; DiBianco, 2003を参照すること)。
【0066】
ACE阻害剤を投与できない患者には、それぞれ血管の緊張緩和を助けて血流を改善する硝酸エステルおよび/またはヒドララジンと呼ばれる薬物を与えることができる(Ahmed, 2003)。
【0067】
心不全はほぼ常に致命的である。薬物療法および生活様式の変化がその症状を制御できないとき、心移植が唯一の治療上の選択肢でありうる。しかし、移植志願者は適切なドナー心臓が見つかるまで数か月または数年さえも待たなければならないことが多い。最近の研究は、一部の移植志願者が薬物治療および他の療法によってこの待機期間中に改善し、その志願者を移植リストからはずせることを示している(Conte et al., 1998)。
【0068】
改善しない移植志願者は、心臓に取り付ける機械ポンプを時に必要とする。左心補助装置(LVAD)と呼ばれ、この機械は心臓の血液ポンプ活動の一部または事実上全てを引き受ける。しかし、現行のLVADは心不全の永続的な解決ではなく、移植へのつなぎとみなされている。
【0069】
最終的な選択肢として、心筋形成術と呼ばれる重症心不全に対して利用できる実験的外科手順がある(Dumcius et al., 2003)。この手順は、背筋の一端を分離すること、それで心臓を包むこと、および次にその筋肉を心臓に縫合することを伴う。埋込んだ電気刺激装置が背筋を収縮させ、心臓から血液を送り出す。現在のところこれらの処置のどれも心不全を治癒することが示されていないが、これらの治療はこの疾患を患う者に関する生活の質を少なくとも改善して寿命を延長できる。
【0070】
心不全と同様に、肥大に公知の治癒法はない。心臓血管障害の状況での心肥大の現行の医学的管理は、少なくとも2種類の薬物、すなわちレニン-アンギオテンシン系の阻害剤およびβアドレナリン遮断剤の使用を含む(Bristow, 1999)。心不全の状況での病的肥大を処置する治療薬には、アンギオテンシンII変換酵素(ACE)阻害剤およびβアドレナリン受容体遮断剤がある(Eichhorn and Bristow, 1996)。心肥大の処置に開示されている他の医薬には、アンギオテンシンII受容体拮抗薬(米国特許第5,604,251号)および神経ペプチドY拮抗薬(国際公開公報第98/33791号)がある。
【0071】
非薬理学的治療は、薬理学的治療の補助として主に使用される。非薬理学的治療の一手段は、食物中のナトリウムを減らすことを伴う。さらに、非薬理学的治療は負の変力作用をもつ薬剤(例えばある種のカルシウムチャネル遮断剤およびジソピラミドのような抗不整脈薬)、心臓毒(例えば アンフェタミン)、および血漿増量剤(例えば非ステロイド系抗炎症剤および糖質コルチコイド)を含めたある種の増悪薬の除去も必要とする。
【0072】
上記の論考から分かるように、心不全および肥大に対して成功する治療アプローチへの大きな必要性がある。本発明の一態様では、TRPチャネルの阻害剤を利用した、心肥大または心不全の処置のための方法が提供される。本出願の目的ために処置は、運動能力の減少、血液駆出量の減少、左室拡張末期圧の増加、肺毛細血管楔入圧の増加、心拍出量の減少、心係数、肺動脈圧の増加、左室収縮末期径および拡張末期径の増加、ならびに左心室および右心室の壁応力、壁張力および壁厚の増加のような、心不全または心肥大の一つまたは複数の症状を低減することを含む。さらに、TRPチャネルの阻害剤の使用は心肥大およびそれに関連する症状が発生するのを予防できる。
【0073】
B. 薬学的阻害剤
TRPチャネルは、かなり最近の研究の焦点であり、それとしてこれらのチャネルの少数の阻害剤だけがキャラクタリゼーションされている。しかし、これらのチャネルへの関心が高まるにつれて、モジュールTRPC活性に使用できる化合物の数が増加するであろう。化合物2-アミノエトキシジフェニルボラン(2-ABP)は、電位非依存性チャネルの非特異的であるが強力な阻害剤であることが示され、TRPおよびTRPCチャネルを阻害可能である(Schindle et al., 2002; Mai et al., 2002)。Gysemberghら(1999)は、心筋梗塞によって引き起こされる損傷を治療するために、そしておそらく心筋梗塞による心臓に対する損傷を予防するためにも、2-ABPおよびD-myo-INS(1,4,5)P3の両方を使用できることを示した。カルシウムチャネル阻害剤であるSKF96365(Bennett et al.,2001)と同様に、ガドリニウムは、DT40ニワトリ細胞(Vazquez et al., 2003)およびHEK293細胞(Trebak et al., 2002)におけるチャネル形成を阻害することが示された。抗G(q/11)抗体、PLC阻害剤U-73122、La3+およびフルフェナム酸(共に非特異的陽イオンチャネル阻害剤)は、胃のTRPチャネルを阻害することが示された(Lee et al., 2003)。Srcファミリーチロシンキナーゼ阻害剤であるPPIは、腎臓細胞におけるTRPMチャネル活性を調整することが示された(Xu et al., 2003)。Ca2+透過チャネル阻害剤であるランタンは、TRPチャネルにより媒介されるカルシウムチャネルの内向きの流入を遮断することがMachatyら(2002)によって示された。また、濃縮した皮層FアクチンがHEK293細胞ではTRPCチャネルの活性化を阻害できることが示された(Ma et al., 2000)。
【0074】
C. アンチセンス構築物
TRPCを阻害する代わりのアプローチは、アンチセンスである。アンチセンス方法論は、核酸が「相補的な」配列と対形成する傾向があるという事実を利用する。相補的とは、ポリヌクレオチドが標準的なワトソン-クリック相補性規則に従って塩基対形成し得るポリヌクレオチドであることを意味する。すなわち、大きなプリンは小さなピリミジンと塩基対を形成し、シトシンと対形成したグアニン(G:C)およびDNAの場合にはチミンと対形成したアデニン(A:T)またはRNAの場合にはウラシルと対形成したアデニン(A:U)の組み合わせを形成する。ハイブリダイズする配列中にイノシン、5-メチルシトシン、6-メチルアデニン、ヒポキサンチン等のあまり一般的でない塩基を含めても、対形成を妨げられない。
【0075】
ポリヌクレオチドで二本鎖(ds)DNAを標的とすることにより三重らせん形成が起こり;RNAを標的することにより二重らせん形成が起こる。アンチセンスポリヌクレオチドは、標的細胞に導入した場合、それらの標的ポリヌクレオチドに特異的に結合し、転写、RNAプロセシング、輸送、翻訳および/または安定性を妨げる。アンチセンスRNA構築物、またはそのようなアンチセンスRNAをコードするDNAは、ヒト被検者を含む宿主動物のような宿主細胞において、インビトロまたはインビボで遺伝子の転写もしくは翻訳またはそれら両方を抑制するために使用され得る。
【0076】
アンチセンス構築物は、遺伝子のプロモーターおよび他の調節領域、エキソン、イントロン、またはさらにエキソン-イントロン境界に結合するように設計し得る。最も効果的なアンチセンス構築物は、イントロン/エキソンスプライス接合部に相補的な領域を含むことが意図される。したがって、好ましい態様は、イントロン-エキソンスプライス接合部の50〜200塩基内の領域に相補的なアンチセンス構築物を含むことが提案される。標的選択性に著しい影響を及ぼさずに、構築物中にいくつかのエキソン配列を含め得ることが認められている。含まれるエキソン物質の量は、使用する特定のエキソおよびイントロンの配列によって変わることになる。過剰のエキソンDNAが含まれているかどうかは、その構築物をインビトロで簡単に試験して、正常な細胞機能が影響を受けるかどうか、または相補的配列を有する関連遺伝子の発現が影響を受けるかどうかを決定することによって容易に試験することができる。
【0077】
上記のように、「相補的な」または「アンチセンス」とは、それらの全長にわたって実質的に相補的であり、わずかな塩基ミスマッチをほとんど含まないポリヌクレオチド配列を意味する。例えば、15塩基長の配列は、13または14の位置で相補的ヌクレオチドを有する場合に相補的であると称され得る。当然、完全に相補的な配列とは、全長にわたって完全に相補的であり、かつ塩基ミスマッチのない配列である。より低い程度の相同性を有する他の配列もまた意図される。例えば、高い相同性の限られた領域を有し、非相同領域も含むアンチセンス構築物(例えばリボザイム;以下を参照のこと)を設計することができる。これらの分子は、50%未満の相同性を有するが、適切な条件下で標的配列に結合する。
【0078】
特定の構築物を作製するために、ゲノムDNAの一部をcDNAまたは合成配列と組み合わせることが好都合である場合がある。例えば、最終構築物にイントロンが所望される場合、ゲノムクローンを用いことが必要になる。cDNAまたは合成ポリヌクレオチドは構築物の残りの部分により便利な制限部位を提供し得り、そのため、配列の残りの部分に用いられる。
【0079】
D. リボザイム
阻害剤のもう一つの一般的な種類は、リボザイムである。核酸の触媒反応には伝統的にタンパク質が用いられきたが、別の種類の高分子がこの試みにおいて有用なものとして出現した。リボザイムは核酸を部位特異的に切断するRNA-タンパク質複合体である。リボザイムは、エンドヌクレアーゼ活性を有する特定の触媒ドメインを有する(Kim and Cook, 1987;Gerlach et al., 1987;Forster and Symons, 1987)。例えば、多くのリボザイムは、高度の特異性でリン酸エステル転移反応を促進し、オリゴヌクレオチド基質内のいくつかのリン酸エステルのうちただ1つのみを切断する場合が多い(Cook et al., 1981:Michel and Westhof, 1990;Reinhold-Hurek and Shub, 1992)。この特異性は、化学反応の前に、基質が特定の塩基対形成相互作用を介してリボザイムの内部ガイド配列(「IGS」)に結合するという必要条件に起因している。
【0080】
リボザイムの触媒作用はそもそも、核酸を伴う配列特異的切断/連結反応の一部として認められた(Joyce, 1989;Cook et al., 1981)。例えば米国特許第5,354,855号は、ある種のリボザイムが、既知のリボヌクレアーゼの配列特異性よりも高く、またDNA制限酵素の配列特異性に近い配列特異性を有するエンドヌクレアーゼとして作用し得ることを報告している。したがって、遺伝子発現の配列特異的リボザイム媒介性抑制は、治療適用に特に適している可能性がある(Scanlon et al., 1991;Sarver et al., 1990)。リボザイムが、それを適用したいくつかの細胞系において遺伝子変化を誘発できることも報告されている;変化した遺伝子には、癌遺伝子H-ras、c-fos、およびHIVの遺伝子が含まれた。この研究の大部分には、特定のリボザイムによって切断される特定の変異コドンに基づく標的mRNAの改変が関与した。
【0081】
E. RNAi
RNA干渉(「RNA媒介性干渉」またはRNAiとも称される)とは、TRPC発現が低減され得るかまたは排除され得るもう一つの機構である。二本鎖RNA(dsRNA)はこの低減を媒介することが認められており、これは複数段階の過程である。dsDNAは転写後の遺伝子発現監視機構を活性化するが、これはウイルス感染およびトランスポゾン活性から細胞を防御するために機能すると考えられる(Fire et al., 1998;Grishok et al., 2000;Ketting et al., 1999;Lin et al., 1999;Montgomery et al., 1998;Sharp et al, 2000;Tabara et al., 1999)。これらの機構の活性化により、dsRNAに相補的な成熟mRNAが破壊の標的とされる。RNAiにより、遺伝子機能の研究の重要な実験的利点が提供される。これらの利点には、非常に高い特異性、細胞膜の移動が容易であること、および標的遺伝子の下方制御の持続が含まれる(Fire et al., 1998;Grishok et al., 2000;Ketting et al., 1999;Lin et al., 1999;Montgomery et al., 1998;Sharp, 1999;Sharp et al., 2000;Tabara et al., 1999)。さらに、dsRNAは、植物、原生動物、菌類、線虫(C. elegans)、トリパノソーマ(Trypanasoma)、ショウジョウバエ(Drosophila)、および哺乳動物を含む広範な系において遺伝子をサイレントにすることが示された(Grishok et al., 2000;Sharp, 1999;Sharp et al., 2000;Elbashir et al., 2001)。RNAiは転写後に作用し、RNA転写産物を分解の標的にすることが一般に認められている。核RNAおよび細胞質RNAの両方が標的となり得ると考えられる(Bosher et al., 2000)。
【0082】
siRNAは、関心対象の遺伝子の発現抑制において特異的かつ効率的であるように設計しなくてなならない。標的配列、すなわちsiRNAが分解機構を導くことになる関心対象の1つまたは複数の遺伝子内に存在する配列を選択する方法は、1つまたは複数の遺伝子に特異的な配列を含むもののsiRNAのガイド機能を妨げ得る配列を回避するように行われる。典型的に、約21〜23ヌクレオチド長のsiRNA標的配列が最も効率的である。この長さは、上記したようにより長いRNAのプロセシングによって生じた切断産物の長さを反映している(Montgomery et al., 1998)。
【0083】
siRNAの作製は主に、直接的な化学合成を介して;ショウジョウバエ胚溶解物に曝露することによってより長い二本鎖RNAをプロセシングすることにより;またはS2細胞に由来するインビトロ系を介して行われている。細胞溶解物またはインビトロプロセシングを使用するには、その後、溶解物から短い21〜23ヌクレオチドsiRNAを単離する段階等をさらに含み得るため、その過程は幾分厄介でありかつ費用を要する。化学合成は、2本の一本鎖RNAオリゴマーを作製し、その後この2本の一本鎖オリゴマーをアニーリングして二本鎖RNAにすることによって進行する。化学合成法は多様である。参照により本明細書に明確に組み入れられる米国特許第5,889,136号、米国特許第4,415,723号、および米国特許第4,458,066号、ならびにWincott et al. (1995)に非限定的な例が提供される。
【0084】
安定性を改変するためまたは有効性を改善するために、siRNA配列に対していくつかのさらなる修飾が提案されている。ジヌクレオチド突出部を有する合成による相補的21-mer RNA(すなわち、相補的な19ヌクレオチド+3'非相補的二量体)により、最も高い抑制レベルが提供され得ることが示されている。これらの手順では、主として2つの(2'-デオキシ)チミジンヌクレオチドの配列をジヌクレオチド突出部として用いる。これらのジヌクレオチド突出部は、RNAに取り込まれる典型的なヌクレオチドと区別するためにdTdTと記載される場合が多い。文献により、dT突出部の使用は、主に化学合成RNAのコストを下げる必要性によって誘導されることが示された。dTdT突出部の方がUU突出部よりも安定であることもまた示唆されたが、得られるデータからは、UU突出部を有するsiRNAと比較した場合、dTdT突出部の改善はほんのわずか(<20%)であることが示されている。
【0085】
化学合成siRNAは、細胞培養液中で25〜100 nMの濃度である場合に最適に機能することが認められている。哺乳動物細胞では約100 nMの濃度で効果的な抑制が達成されたことは、Elbashir等によって立証されている。。siRNAは、哺乳動物細胞培養液においては約100 nMで最も効果的である。しかし、場合によっては、より低濃度の化学合成siRNAが用いられている(Caplen, et al., 2000;Elbashir et al., 2001)。
【0086】
WO 99/32619およびWO 01/68836により、siRNAに使用するRNAは化学合成され得るかまたは酵素により合成され得ることが示された。これらの文章はいずれも、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。これらの参考文献において意図される酵素合成は、当技術分野において周知であるような発現構築物の使用および作製を介しての細胞RNAポリメラーゼまたはバクテリオファージRNAポリメラーゼ(例えば、T3、T7、SP6)によるものである。例えば、米国特許第5,795,715号を参照されたい。意図される構築物により、標的遺伝子の一部と同一のヌクレオチド配列を含むRNAを産生する鋳型が提供される。これらの参考文献によって提供される同一配列の長さは少なくとも25塩基であり、400塩基長またはそれ以上であってもよい。この参考文献の重要な局面は、長いdsRNAをsiRNAに変換する内因性のヌクレアーゼ複合体により、長いdsRNAを21〜25-merの長さにインビボで切断することをその発明者らが意図する点である。その発明者らは、インビトロで転写された21〜25-mer dsRNAの合成および使用に関するデータを記載も提示もしていない。RNA干渉における使用で予想される化学合成dsRNAと酵素合成dsRNAとの特性の間に相違はない。
【0087】
同様に、参照により本明細書に組み入れられるWO 00/44914では、一本鎖RNAが酵素合成によりまたは部分的/全体的有機合成によって作製され得ることを示している。一本鎖RNAはDNA鋳型、好ましくはクローニングされたcDNA鋳型のPCR(商標))産物から酵素により合成され、RNA産物は数百個のヌクレオチドを含み得るcDNAの完全な転写産物であることが好ましい。参照により本明細書に組み入れられるWO 01/36646では、siRNAを合成する方法に制限を課さず、RNAは手動手順および/または自動化手順によりインビトロまたはインビボで合成され得ると定めている。この参考文献はまた、インビトロ合成は化学的であっても、もしくは例えば内因性DNA(またはcDNA)鋳型を転写するためにクローニングされたRNAポリメラーゼ(例えば、T3、T7、Sp6)を用いるなど酵素的であってもよく、またはそれらの組み合わせであってもよいと定めている。この場合も同様に、化学合性siRNAと酵素合成siRNAとでは、RNA干渉で使用するための所望の特性に相違はない。
【0088】
米国特許第5,795,715号は、単一の混合液中で2本の相補DNA配列鎖を同時転写することを報告しており、この場合2つの転写産物は即座にハイブリダイズする。用いられる鋳型は好ましくは40〜100塩基対であり、各末端にはプロモーター配列を備えている。鋳型は固相表面に付着していることが好ましい。RNAポリメラーゼを用いて転写したのち、得られたdsRNA断片を用いて、核酸標的配列を検出および/またはアッセイすることができる。
【0089】
治療レジメンは、臨床的症状に応じて変動するであろう。しかし、長期の維持が大部分の状況で適切と考えられよう。疾患の進行する間の短い時間枠内のようなTRPチャネルの阻害剤を断続的に用いて肥大を処置することも理想的でありうる。
【0090】
F. 抗体
本発明のある局面では、抗体は阻害剤またはTRPCとしての用途を見出しうる。本明細書で使用する用語「抗体」は、IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEのような任意の適切な免疫結合作用因子を広く指すことを意図する。生理学的状況で最も通常の抗体であり、実験室の環境で最も容易に作製されることから、一般にIgGおよび/またはIgMが好ましい。
【0091】
用語「抗体」は、抗原結合部を有する任意の抗体様分子も指し、Fab'、Fab、F(ab')2、単一ドメイン抗体(DAB)、Fv、scFv(一本鎖Fv)などのような抗体フラグメントを含む。様々な抗体に基づく構築体およびフラグメントを調製および使用するための技法は当技術分野で周知である。
【0092】
モノクローナル抗体(MAb)は、ある利点、例えば再現性および大規模生産性を有すると認識されており、それらの使用が一般に好ましい。このように本発明はヒト、マウス、サル、ラット、ハムスター、ウサギおよびニワトリ起源でさえあるモノクローナル抗体を提供する。試薬の調製が容易であることおよび入手しやすさが原因で、マウスモノクローナル抗体が好ましいことが多いであろう。
【0093】
一本鎖抗体は、それぞれ参照として本明細書により組み込まれている米国特許第4,946,778号および第5,888,773号に記載されている。
【0094】
ヒト定常部および/または可変部ドメインを保有するマウス、ラット、または他の種からのキメラ抗体、二特異性抗体、組換え抗体および操作された抗体ならびにそれらのフラグメントのように「ヒト化」抗体も考慮している。患者の歯科疾患に対する「特注の」抗体の開発のための方法は同じく公知であり、そのような特注の抗体も考慮している。
【0095】
G. 併用療法
別の態様では、他の治療様式と組み合わせてTRPチャネル阻害剤を使用することが想定される。したがって、上記の治療に加えて、患者により「標準的な」薬学的心臓治療を提供してもよい。他の治療には、いわゆる「β遮断剤」、抗高血圧薬、強心剤、抗血栓薬、血管拡張薬、ホルモン拮抗薬、変力物質、利尿薬、エンドセリン拮抗薬、カルシウムチャネル遮断剤、ホスホジエステラーゼ阻害剤、ACE阻害剤、2型アンギオテンシン拮抗薬、およびサイトカイン遮断剤/阻害剤、ならびにHDAC阻害剤が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0096】
組み合わせは、心臓細胞を両方の薬剤を含む単一の組成物または薬理学的製剤と接触させることによるか、または心臓細胞を2つの別個の組成物または製剤と同時に接触させることによって達成し得り、後者の場合、一方の組成物は発現構築物を含み、他方は薬剤を含む。または、TRPチャネル阻害剤を用いる治療は、数分から数週間の範囲の間隔で他の薬剤の投与に先行しても、またはその後に行ってもよい。他の薬剤および発現構築物を細胞に別々に適用する態様では、一般に、薬剤および発現構築物が細胞に対してなお有利に組み合わせ効果を発揮し得るように、それぞれの送達時の間に大幅な時間が経過しないことを確実にする。このような例においては、典型的に、互いに約12〜24時間以内の間隔で、より好ましくは互いに約6〜12時間の間隔で細胞を両方の様式と接触させることが意図され、約12時間のみの遅延時間が最も好ましい。状況によっては、処置時間を顕著に延長することが所望される場合もあるが、この場合、各投与の間に数日(2、3、4、5、6、または7)〜数週間(1、2、3、4、5、6、7、または8)が経過する。
【0097】
TRPC阻害剤または他の薬剤の2回以上の投与が所望されることもまた考えられ得る。これに関しては、種々の組み合わせを利用することができる。例として、TRPチャネル阻害剤が「A」であり他の薬剤が「B」である場合、3回および4回の総投与に基づいた以下の順列が例示される。

他の組み合わせも同様に意図される。
【0098】
H. 併用療法の補助的治療薬
薬理学的治療薬および投与方法、用量等は当業者に周知であり(例えば、「Physicians Desk Reference」、GoodmanおよびGilmanの「The Pharmacological Basis of Therapeutics」、「Remington's Pharmaceutical Sciences」、および「The Merck Index, Thirteenth Edition」(関連部分は参照により本明細書に組み入れられる)を参照のこと)、本明細書の開示に照らしてこれらを本発明と組み合わせることができる。処置する被検者の状態に応じて、用量のいくらかの変動は必然的に生じることになる。いずれにせよ、投与責任者が個々の被検者に対して適切な用量を決定することになり、そのような個別の決定は当業者の技術の範囲内である。
【0099】
本発明において使用し得る薬理学的治療薬の非限定的な例には、抗高リポタンパク血症薬、抗動脈硬化薬、抗血栓/線維素溶解薬、血液凝固薬、抗不整脈薬、抗高血圧薬、血管収縮薬、うっ血性心不全の治療薬、抗狭心症薬、抗菌薬、またはこれらの組み合わせが含まれる。
【0100】
さらに、本実施例においてβ遮断剤を用いたように(以下を参照のこと)、以下のいずれかを用いて心臓治療標的遺伝子の新たなセットを開発することができることに留意されたい。これらの遺伝子の多くは重複することが予想されるが、新たな遺伝子標的を開発できる可能性が高い。
【0101】
1. 抗高リポタンパク血症薬
特定の態様においては、特にアテローム性動脈硬化症および血管組織の肥厚または閉塞の処置において、本明細書において「抗高リポタンパク血症薬」として周知である、血中脂質および/またはリポタンパク質の1つまたは複数の濃度を低減する薬剤の投与を本発明による循環器治療と組み合わせることができる。特定の局面では、抗高リポタンパク血症薬は、アリールオキシアルカン酸/フィブリン酸誘導体、樹脂酸/胆汁酸抑制薬、HMG CoA還元酵素阻害剤、ニコチン酸誘導体、甲状腺ホルモンもしくは甲状腺ホルモン類似体、その他の薬剤、またはこれらの組合せを含み得る。
【0102】
a. アリールオキシアルカン酸/フィブリン酸誘導体
アリールオキシアルカン酸/フィブリン酸誘導体の非限定的な例には、ベクロブラート、エンザフィブラート、ビニフィブラート、シプロフィブラート、クリノフィブラート、クロフィブラート(atromide-S)、クロフィブリン酸、エトフィブラート、フェノフィブラート、ゲンフィブロジル(lobid)、ニコフィブラート、ピリフィブラート、ロニフィブラート、シンフィブラート、およびテオフィブラートが含まれる。
【0103】
b. 樹脂酸/胆汁酸抑制薬
樹脂酸/胆汁酸抑制薬の非限定的な例には、コレスチラミン(cholybar、questran)、コレスチポール(colestid)、およびポリデキシドが含まれる。
【0104】
c. HMG CoA還元酵素阻害剤
HMG CoA還元酵素阻害剤の非限定的な例には、ロバスタチン(mevacor)、プラバスタチン(pravochol)、またはシンバスタチン(zocor)が含まれる。
【0105】
d. ニコチン酸誘導体
ニコチン酸誘導体の非限定的な例には、ニコチネート、アセピモックス(acepimox)、ニセリトロール、ニコクロナート、ニコモール、およびオキシニアク酸が含まれる。
【0106】
e. 甲状腺ホルモンおよびその類似体
甲状腺ホルモンおよびその類似体の非限定的な例には、エトロキサート(etoroxate)、チロプロプ酸、およびチロキシンが含まれる。
【0107】
f. その他の抗高リポタンパク血症薬
その他の抗高リポタンパク血症薬の非限定的な例には、アシフラン、アザコステロール、ベンフルオレクス、β-ベンザルブチルアミド、カルニチン、コンドロイチン硫酸、クロメストロン(clomestrone)、デタクストラン(detaxtran)、デキストラン硫酸ナトリウム、5,8, 11, 14, 17-エイコサペンタエン酸、エリタデニン、フラザボール、メグルトール、メリナミド、ミタトリエンジオール(mytatrienediol)、オルニチン、γ-オリザノール、パンテチン、ペンタエリスリトールテトラアセテート、α-フェニルブチルアミド、ピロザジル、プロブコール(lorelco)、β-シトステロール、スルトシル酸-ピペラジン塩、チアデノール、トリパラノール、およびキセンブシンが含まれる。
【0108】
2. 抗動脈硬化薬
抗動脈硬化薬の非限定的な例にはピリジノールカルバメートが含まれる。
【0109】
3. 抗血栓/線維素溶解薬
特定の態様においては、特にアテローム性動脈硬化症および脈管構造(例えば動脈)の閉塞の処置において、血栓の除去または予防を補助する薬剤の投与をモジュレーターの投与と組み合わせることができる。抗血栓/線維素溶解薬の非限定的な例には、抗凝血薬、抗凝血薬拮抗薬、抗血小板薬、血栓溶解薬、血栓溶解薬拮抗薬、またはこれらの組み合わせが含まれる。
【0110】
特定の局面においては、経口投与できる、アスピリンおよびワーファリン(coumadin)等の抗血栓薬が好ましい。
【0111】
a. 抗凝血薬
抗凝血薬の非限定的な例には、アセノクマロール、アンクロッド、アニシンジオン、ブロミンジオン、クロリンジオン、クメタロール、シクロクマロール、デキストラン硫酸ナトリウム、ジクマロール、ジフェナジオン、ビスクマセタートエチル、エチリデンジクマロール、フルインジオン、ヘパリン、ヒルジン、リアポレートナトリウム(lyapolate sodium)、オキサジジオン、ペントサンポリサルフェート、フェニンジオン、フェンプロクモン、ホスビチン、ピコタミド、チオクロマロール、およびワーファリンが含まれる。
【0112】
b. 抗血小板薬
抗血小板薬の非限定的な例には、アスピリン、デキストラン、ジピリダモール(persantin)、ヘパリン、スルフィンピラゾン(anturane)、およびチクロピジン(ticlid)が含まれる。
【0113】
c. 血栓溶解薬
血栓溶解薬の非限定的な例には、組織プラスミノーゲンアクチベーター(activase)、プラスミン、プロウロキナーゼ、ウロキナーゼ(abbokinase)、ストレプトキナーゼ(streptase)、およびアニストレプラーゼ/APSAC(eminase)が含まれる。
【0114】
4. 血液凝固薬
患者が出血を起こしているかまたは出血が増加する可能性がある特定の態様においては、血液凝固を増強する薬剤を使用することができる。血液凝固促進薬の非限定的な例には、血栓溶解薬拮抗薬および抗凝血薬拮抗薬が含まれる。
【0115】
a. 抗凝血薬拮抗薬
抗凝血薬拮抗薬の非限定的な例には、プロタミンおよびビタミンK1が含まれる。
【0116】
b. 血栓溶解薬拮抗薬および抗血栓薬
血栓溶解薬拮抗薬の非限定的な例には、アミノカプロン酸(amicar)およびトランセキサム酸(amstat)が含まれる。抗血栓薬の非限定的な例には、アナグレリド、アルガトロバン、シルスタゾール、ダルトロバン、ディフィブロタイド、エノキサパリン、フラキシパリン、インドブフェン、ラモパラン(lamoparan)、オザグレル、ピコタミド、プラフィブリド、テデルパリン(tedelparin)、チクロピジン、およびトリフルサールが含まれる。
【0117】
5. 抗不整脈薬
抗不整脈薬の非限定的な例には、クラスI抗不整脈薬(ナトリウムチャンネル遮断剤)、クラスII抗不整脈薬(βアドレナリン遮断剤)、クラスII抗不整脈薬(脱分極持続薬)、クラスIV抗不整脈薬(カルシウムチャネル遮断剤)、およびその他の抗不整脈薬(以下を参照)が含まれる。
【0118】
a. ナトリウムチャンネル遮断剤
ナトリウムチャンネル遮断剤の非限定的な例には、クラスIA、クラスIB、およびクラスIC抗不整脈薬が含まれる。クラスIA抗不整脈薬の非限定的な例には、ジソピラミド(norpace)、プロカインアミド(pronestyl)、およびキニジン(quinidex)が含まれる。クラスIB抗不整脈薬の非限定的な例には、リドカイン(xylocaine)、トカイニド(tonocard)、およびメキシレチン(mexitil)が含まれる。クラスIC抗不整脈薬の非限定的な例には、エンカイニド(enkaid)およびフレカイニド(tambocor)が含まれる。
【0119】
b. β遮断剤
β遮断剤は別名βアドレナリン遮断剤、βアドレナリン拮抗薬、またはクラスII抗不整脈薬としても知られており、その非限定的な例には、アセブトロール(sectral)、アルプレノロール、アモスラロール、アロチノロール、アテノロール、べフノロール、ベタキソロール、ベバントロール、ビソプロロール、ボピンドロール、ブクモロール、ブフェトロール、ブフラロール、ブニトロロール、ブプラノロール、塩酸ブチドリン、ブトフィロロール、カラゾロール、カルテオロール、カルベジロール、セリプロロール、セタモロール、クロラノロール、ジレバロール、エパノロール、エスモロール(brevibloc)、インデノロール、ラベタロール、レボブノロール、メピンドロール、メチプラノロール、メトプロロール、モプロロール、ナドロール、ナドキソロール、ニフェナロール、ニプラジロール、オクスプレノロール、ペンブトロール、ピンドロール、プラクトロール、プロネタロール、プロパノロール(inderal)、ソタロール(betapace)、スルフィナロール、タリノロール、テルタトロール、チモロール、トリプロロール、およびキシベノロールが含まれる。特定の局面において、β遮断剤はアリールオキシプロパノールアミン誘導体を含む。アリールオキシプロパノールアミン誘導体の非限定的な例には、アセブトロール、アルプレノロール、アロチノロール、アテノロール、ベタキソロール、ベバントロール、ビソプロロール、ボピンドロール、ブニトロロール、ブトフィロロール、カラゾロール、カルテオロール、カルベジロール、セリプロロール、セタモロール、エパノロール、インデノロール、メピンドロール、メチプラノロール、メトプロロール、モプロロール、ナドロール、ニプラジロール、オクスプレノロール、ペンブトロール、ピンドロール、プロパノロール、タリノロール、テルタトロール、チモロール、およびトリプロロールが含まれる。
【0120】
c. 脱分極持続薬
脱分極を持続させる薬剤はクラスIII抗不整脈薬としても知られるが、その非限定的な例には、アミオダロン(cordarone)およびソタロール(betapace)が含まれる。
【0121】
d. カルシウムチャネル遮断剤/拮抗薬
カルシウムチャネル遮断剤は別名クラスIV抗不整脈薬としても知られており、その非限定的な例には、アリールアルキルアミン(例えば、ベプリジル、ジルチアゼム、フェンジリン、ガロパミル、プレニルアミン、テロジリン、ベラパミル)、ジヒドロピリジン誘導体(フェロジピン、イスラジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニモジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン)、ピペラジン誘導体(例えば、シンナリジン、フルナリジン、リドフラジン)、またはベンシクラン、エタフェノン、マグネシウム、ミベフラジル、もしくはペルヘキシリン等の他のカルシウムチャネル遮断剤が含まれる。特定の態様において、カルシウムチャネル遮断剤は持続性ジヒドロピリジン(アムロジピン)カルシウム拮抗薬を含む。
【0122】
e. その他の抗不整脈薬
その他の抗不整脈薬の非限定的な例には、アデノシン(adenocard)、ジゴキシン(lanoxin)、アセカイニド、アジュマリン、アモプロキサン、アプリンジン、トシル酸ブレチリウム、ブナフチン、ブトベンジン、カポベン酸、シフェンリン、ジソピラミド、ヒドロキニジン、インデカイニド、臭化イプラトロピウム、リドカイン、ロルアジミン(lorajmine)、ロルカイニド、メオベンチン、モリシジン、ピルメノール、プルアジマリン(prajmaline)、プロパフェノン、ピリノリン、ポリガラクツロ酸キニジン、硫酸キニジン、およびビキジル(viquidil)が含まれる。
【0123】
6. 抗高血圧薬
抗高血圧薬の非限定的な例には、交感神経遮断剤、α/β遮断剤、α遮断剤、抗アンギオテンシンII薬、β遮断剤、カルシウムチャネル遮断剤、血管拡張薬、およびその他の抗高血圧薬が含まれる。
【0124】
a. α遮断剤
α遮断剤は別名αアドレナリン遮断剤またはαアドレナリン拮抗薬としても知られており、その非限定的な例には、アモスラロール、アロチノロール、ダピプラゾール、ドキサゾシン、エルゴロイド・メシレイト、フェンスピリド、インドラミン、ラベタロール、ニセルゴリン、プラゾシン、テラゾシン、トラゾリン、トリマゾシン、およびヨヒンビンが含まれる。特定の態様において、α遮断剤はキナゾリン誘導体を含み得る。キナゾリン誘導体の非限定的な例には、アルフゾシン、ブナゾシン、ドキサゾシン、プラゾシン、テラゾシン、およびトリマゾシンが含まれる。
【0125】
b. α/β遮断剤
特定の態様において、抗高血圧薬はαおよびβアドレナリン拮抗薬の両方である。α/β遮断剤の非限定的な例はラベタロール(normodyne、trandate)を含む。
【0126】
c. 抗アンギオテンシンII薬
抗アンギオテンシンII薬の非限定的な例には、アンギオテンシン変換酵素阻害剤およびアンギオテンシンII受容体拮抗薬が含まれる。アンギオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)の非限定的な例には、アラセプリル、エナラプリル(vasotec)、カプトプリル、シラザプリル、デラプリル、エナラプリラート、フォシノプリル、リシノプリル、モベルチプリル、ペリンドプリル、キナプリル、およびラミプリルが含まれる。アンギオテンシンII受容体遮断剤はアンギオテンシンII受容体拮抗薬、ANG受容体遮断剤、または1型ANG-II受容体遮断剤(ARBS)としても知られるが、その非限定的な例には、アンギオカンデサルタン、エプロサルタン、イルベサルタン、ロサルタン、およびバルサルタンが含まれる。
【0127】
d. 交感神経遮断剤
交感神経遮断剤の非限定的な例には、中枢性交感神経遮断剤または末梢性交感神経遮断剤が含まれる。中枢性交感神経遮断剤は中枢神経(CNS)交感神経遮断剤としても知られるが、その非限定的な例には、クロニジン(catapres)、グアナベンズ(wytensin)、グアンファシン(tenex)、およびメチルドーパ(aldomet)が含まれる。末梢性交感神経遮断剤の非限定的な例にはには、ガングリオン遮断剤、アドレナリン作動性ニューロン遮断剤、βアドレナリン遮断剤、またはα1アドレナリン遮断剤が含まれる。ガングリオン遮断剤の非限定的な例には、メカミラミン(inversine)およびトリメタファン(arfonad)が含まれる。アドレナリン作動性ニューロン遮断剤の非限定的な例には、グアネチジン(ismelin)およびレゼルピン(serpasil)が含まれる。βアドレナリン遮断剤の非限定的な例には、アセニトロール(acenitolol)(sectral)、アテノロール(tenormin)、ベタキソロール(kerlone)、カルテオロール(cartrol)、ラベタロール(normodyne、trandate)、メトプロロール(lopressor)、ナダノール(nadanol)(corgard)、ペンブトロール(levatol)、ピンドロール(visken)、プロプラノロール(inderal)、およびチモロール(blocadren)が含まれる。α1アドレナリン遮断剤の非限定的なな例には、プラゾシン(minipress)、ドキサゾシン(cardura)、およびテラゾシン(hytrin)が含まれる。
【0128】
e. 血管拡張薬
特定の態様おいて、循環器治療薬は血管拡張薬(例えば、脳血管拡張薬、冠動脈拡張薬、または末梢血管拡張薬)を含み得る。特定の好ましい態様において、血管拡張薬は冠動脈拡張薬を含む。冠動脈拡張薬の非限定的な例には、アモトリフェン(amotriphene)、ベンダゾール、ベンフロジルヘミスクシナート、ベンジオダロン、クロラシジン、クロモナール、クロベンフロール、クロニトラート、ジラゼップ、ジピリダモール、ドロプレニラミン、エフロキサート、四酢酸エリスリチル、エタフェノン、フェンジリン、フロレジル、ガングレフェン、ヘキセストロールビス(β-ジエチルアミノエチルエーテル)、ヘキソベンジン、トシル酸イトラミン、ケリン、リドフラジン、六硝酸マンニトール、メジバジン、ニコルグリセリン(nicorglycerin)、四硝酸ペンタエリスリトール、ペントリニトロール、ペルヘキシリン、ピメフィリン(pimefylline)、トラピジル、トリクロミル(tricromyl)、トリメタジジン、リン酸トロールニトレート、およびビスナジンが含まれる。
【0129】
特定の局面において、血管拡張薬は長期治療用血管拡張薬または高血圧性緊急症用血管拡張薬を含み得る。長期治療用血管拡張薬の非限定的な例には、ヒドララジン(apresoline)およびミノキシジル(loniten)が含まれる。高血圧性緊急症用血管拡張薬の非限定的な例には、ニトロプルシド(nipride)、ジアゾキシド(hyperstat IV)、ヒドララジン(apresoline)、ミノキシジル(loniten)、およびベラパミルが含まれる。
【0130】
f. その他の抗高血圧薬
その他の抗高血圧薬の非限定的な例には、アジマリン、γ-アミノ酪酸、ブフェニオド、シクレタニン、シクロシドミン、タンニン酸クリプテナミン(cryptenamine tannate)、フェノールドパム、フロセキナン、ケタンセリン、メブタメート、メカミラミン、メチルドーパ、メチル4-ピリジルケトンチオセミカルバゾン、ムゾリミン、パルギリン、ペンピジン、ピナシジル、ピペロキサン、プリマペロン、プロトベラトリン、ラウバシン、レシメトール、リルメニジン、サララシン、ニトロプルシドナトリウム、チクリナフェン、トリメタファン、カンシラート、チロシナーゼ、およびウラピジルが含まれる。
【0131】
特定の局面において、抗高血圧薬は、アリールエタノールアミン誘導体、ベンゾチアジアジン誘導体、N-カルボキシアルキル(ペプチド/ラクタム)誘導体、ジヒドロピリジン誘導体、グアニジン誘導体、ヒドラジン/フタラジン、イミダゾール誘導体、4級アンモニウム化合物、レゼルピン誘導体、またはスルホンアミド誘導体を含み得る。
【0132】
アリールエタノールアミン誘導体
アリールエタノールアミン誘導体の非限定的な例には、アモスラロール、ブフラロール、ジレバロール、ラベタロール、プロネタロール、ソタロール、およびスルフィナロールが含まれる。
【0133】
ベンゾチアジアジン誘導体
ベンゾチアジアジン誘導体の非限定的な例には、アルチジド(althizide)、ベンドロフルメチアジド、ベンズチアジド、ベンジルヒドロクロロチアジド、ブチアジド(buthiazide)、クロロチアジド、クロルタリドン、シクロペンチアジド、シクロチアジド、ジアゾキシド、エピチアジド、エチアジド、フェンキゾン、ヒドロクロロチアジド、ヒドロフルメチアヂド、メチクロチアジド、メチクラン、メトラゾン、パラフルチジド、ポリチアジド、テトラクロルメチアジド、およびトリクロロメチアジドが含まれる。
【0134】
N-カルボキシアルキル(ペプチド/ラクタム)誘導体
N-カルボキシアルキル(ペプチド/ラクタム)誘導体の非限定的な例には、アラセプリル、カプトプリル、シラザプリル、デラプリル、エナラプリル、エナラプリラート、フォシノプリル、リシノプリル、モベルチプリル、ペリンドプリル、キナプリル、およびラミプリルが含まれる。
【0135】
ジヒドロピリジン誘導体
ジヒドロピリジン誘導体の非限定的な例には、アムロジピン、フェロジピン、イスラジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニルバジピン、ニゾルジピン、およびニトレンジピンが含まれる。
【0136】
グアニジン誘導体
グアニジン誘導体の非限定的な例には、ベタニジン、デブリソキン、グアナベンズ、グアナクリン、グアナドレル、グアナゾジン、グアネチジン、グアンファシン、グアノクロル、グアノキサベンズ、およびグアノキサンが含まれる。
【0137】
ヒドラジン/フタラジン
ヒドラジン/フタラジンの非限定的な例には、ブドララジン、カドララジン、ジヒドララジン、エンドララジン、ヒドラカルバジン、ヒドララジン、フェニプラジン、ピルドララジン、およびトドララジンが含まれる。
【0138】
イミダゾール誘導体
イミダゾール誘導体の非限定的な例には、クロニジン、ロフェキシジン、フェントラミン、チアメニジン、およびトロニジンが含まれる。
【0139】
4級アンモニウム化合物
4級アンモニウム化合物の非限定的な例には、臭化アゼメトニウム、塩化クロルイソンダミン、ヘキサメトニウム、ペンタシニウムビス(メチル硫酸)、臭化ペンタメトニウム、酒石酸ペントリニウム、塩化フェナクトロピニウム(phenactropinium chloride)、およびトリメチジニウムメトサルファイトが含まれる。
【0140】
レゼルピン誘導体
レゼルピン誘導体の非限定的な例には、ビエタセルピン、デセルピジン、レシナミン、レゼルピン、およびシロシンゴピンが含まれる。
【0141】
スルホンアミド誘導体
スルホンアミド誘導体の非限定的な例には、アンブシド、クロパミド、フロセミド、インダパミド、キネタゾン、トリパミド、およびキシパミドが含まれる。
【0142】
7. 血管収縮薬
血管収縮薬は一般に、手術の際に起こり得るショックにおいて血圧を上昇させるために使用される。血管収縮薬は抗低血圧薬としても知られており、その非限定的な例には、メチル硫酸アメジニウム、アンギオテンシンアミド、ジメトフリン、ドーパミン、エチフェルミン、エチレフリン、ゲペフリン、メタラミノール、ミドドリン、ノルエピネフリン、フォレドリン、およびシネフリンが含まれる。
【0143】
8. うっ血性心不全の治療薬
うっ血性心不全の治療薬の非限定な例には、抗アンギオテンシンII薬、後負荷-前負荷軽減処置、利尿薬、および強心薬が含まれる。
【0144】
a. 後負荷-前負軽減処置
特定の態様において、アンギオテンシン拮抗薬を許容し得ない動物患者は、併用療法によって処置することができる。そのような療法は、ヒドララジン(apresoline)の投与と硝酸イソソルビド(isordil、sorbitrate)の投与を組み合わせるものであってよい。
【0145】
b. 利尿薬
利尿薬の非限定的な例には、チアジドまたはベンゾチアジアジン誘導体(例えば、アルチアジド(althiazide)、ベンドロフルメチアジド、ベンズチアジド、ベンジルヒドロクロロチアジド、ブチアジド、クロロチアジド、クロロチアジド、クロルタリドン、シクロペンチアジド、エピチアジド、エチアジド、エチアジド、フェンキゾン、ヒドロクロロチアジド、ヒドロフルメチアジド、メチクロチアジド、メチクラン、メトラゾン、パラフルチジド、ポリチアジド、テトラクロロメチアジド、トリクロロメチアジド)、有機水銀化合物(例えば、クロルメロドリン、メラルリド、メルカムファミド(mercamphamide)、メルカプトメリンナトリウム、マーキュマリル酸(mercumallylic acid)、マーキュマチリンナトリウム、塩化第1水銀、メルサリル)、プテリジン(例えば、フルテレン(furterene)、トリアムテレン)、プリン(例えば、アセフィリン(acefylline)、7-モルフォリノメチルテオフィリン、パモブロム(pamobrom)、プロテオブロミン、テオブロミン)、アルドステロン拮抗薬を含むステロイド(例えば、カンレノン、オレアンドリン、スピロノラクトン)、スルホンアミド誘導体(例えば、アセタゾールアミド、アンブシド、アゾセミド、ブメタニド、ブタゾールアミド(butazolamide)、クロラミノフェナミド(chloraminophenamide)、クロフェナミド、クロパミド、クロレキソロン、ジフェニルメタン-4,4'-ジスルホンアミド、ジスルファミド、エトキシゾールアミド、フロセミド、インダパミド、メフルシド、メタゾールアミド、ピレタニド、キネタゾン、トラセミド、トリパミド、キシパミド)、ウラシル(例えば、アミノメトラジン、アミソメトラジン)、カリウム保持性拮抗薬(例えば、アミロリド、トリアムテレン)、またはアミノジン、アルブチン、クロラザニル、エタクリン酸、エトゾリン、ヒドラカルバジン、イソソルビド、マンニトール、メトカルコン、ムゾリミン、ペルヘキシリン、チクルナフェン(ticrnafen)、および尿素等のその他の利尿薬が含まれる。
【0146】
c. 強心薬
正の強心薬(inotropic agent)は強心剤(cardiotonic)としても知られているが、その非限定的な例には、アセフィリン、アセチルジギトキシン、2-アミノ-4-ピコリン、アムリノン、ベンフロジルヘミスクシナート、ブクラデシン、セルベロシン(cerberosine)、カンフォタミド、コンバラトキシン、シマリン、デノパミン、デスラノシド、ジギタリン、ジギタリス、ジギトキシン、ジゴキシン、ドブタミン、ドーパミン、ドペキサミン、エノキシモン、エリスロフレイン(erythrophleine)、フェナルコミン、ギタリン、ギトキシン、グリコシアミン、ヘプタミノール、ヒドラスチニン、イボパミン、ラナトシド、メタミバム(metamivam)、ミルリノン、ネリフォリン、オレアンドリン、ウアバイン、オキシフェドリン、プレナルテロール、プロシラリジン、レジブフォゲニン、シラレン、シラレニン、ストロファンチン、スルマゾール、テオブロミン、およびキサモテロールが含まれる。
【0147】
特定の局面において、強心薬は強心配糖体、βアドレナリン拮抗薬、またはホフホジエステラーゼ阻害剤である。強心配糖体の非限定的な例には、ジゴキシン(lanoxin)およびジギトキシン(crystodigin)が含まれる。βアドレナリン拮抗薬の非限定的な例には、アルブテロール、バンブテロール、ビトルテロール、カルブテロール、クレンブテロール、クロルプレナリン、デノパミン、ジオキセテドリン、ドブタミン(dobutrex)、ドーパミン(intropin)、ドペキサミン、エフェドリン、エタフェドリン、エチルノルエピネフリン、フェノテロール、フォルモテロール、ヘキソプレナリン、イボパミン、イソエタリン、イソプロテレノール、マブテロール、メタプロテレノール、メトキシフェナミン、オキシフェドリン、ピルブテロール、プロカテロール、プロトキロール、レプロテロール、リミテロール、リトドリン、ソテレノール、テルブタリン、トレトキノール、ツロブテロール、およびキサモテロールが含まれる。ホスホジエステラーゼ阻害剤質の非限定的な例にはアムリノン(inocor)が含まれる。
【0148】
d. 抗狭心症薬
抗狭心症薬は、有機硝酸薬、カルシウムチャネル遮断剤、β遮断剤、およびそれらの組み合わせを含み得る。有機硝酸薬はニトロ血管拡張薬としても知られており、その非限定的な例には、ニトログリセリン(nitro-bid、nitrostat)、硝酸イソソルビド(isordil、sorbitrate)、および硝酸アミル(aspirol、vaporole)が含まれる。
【0149】
I. 外科的治療薬
特定の局面において、第二の治療薬は、例えば予防、診断または病期分類、治療、および緩和を目的とした手術を含むある種の手術を含み得る。手術、特に治療目的の手術を、本発明および1つまたは複数の他の薬剤等の他の療法と併せて用いることができる。
【0150】
血管および循環器の疾患および障害のそのような外科的治療薬は当技術分野において周知であり、これらに限定されるわけではないが、生物に対する手術の施行、機械的人工心血管の提供、血管形成術、冠動脈再灌流、カテーテルアブレーション、被検者への植え込み型除細動器の提供、機械的循環補助、またはこれらの組み合わせを含み得る。本発明において使用し得る機械的循環補助の非限定的な例には、大動脈内バルーンカウンターパルセイション、左心室補助装置、またはこれらの組み合わせが含まれる。
【0151】
J. 製剤および患者への投与経路
当然のことながら、製剤及び治療方法の考察において、任意の化合物の関連には、医薬品組成物同様、薬学的に許容される塩も含むと意図されている。
臨床適用を意図する場合、薬学的組成物は対象とする用途に適した形態で調製することになる。一般に、これは、発熱物質およびヒトまたは動物に有害となり得る他の不純物を実質的に含まない組成物を調製する段階を伴うことになる。
【0152】
一般に、送達ベクターを安定にし、標的細胞による取り込みを可能にする適切な塩および緩衝液を使用することが所望されると考えられる。緩衝液はまた、組換え細胞が患者に導入される場合に使用されることになる。本発明の水溶性組成物は、薬学的に許容される担体または水性媒体中に溶解または分散された有効量のベクターまたは細胞を含む。「薬学的に許容されるまたは薬理学的に許容される」という語句は、動物またはヒトに投与した場合に、有害反応、アレルギー反応、または他の不利な反応を生じない分子的実体および組成物を指す。本明細書において使用する「薬学的に許容される担体」には、調合薬(ヒトへの投与に適した調合薬等)の製剤化における使用に許容される溶媒、緩衝液、溶液、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤等が含まれる。薬学的活性物質へのこのような媒体および薬剤の使用は、当技術分野において周知である。任意の従来の媒体または薬剤が本発明の有効成分と不適合である場合を除き、治療組成物におけるその使用が意図される。補助的な有効成分が組成物のベクターまたは細胞を不活化しないならば、これらもまた組成物に取り込まれ得る。
【0153】
本発明の特定の態様では、迅速放出による送達のために薬学的製剤が処方されるであろう。考えられる他の態様には、持続放出、遅延放出、および徐放があるが、それらに限定されるわけではない。製剤は、固形または液状のいずれかの経口懸濁剤でありうる。さらなる態様では、製剤を非経口送達を介した送達用に調製できるか、坐剤として使用できるか、または皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、舌下、経皮、もしくは鼻咽腔送達用に処方できることが考慮されている。
【0154】
有効成分を含有する医薬組成物は、例えば錠剤、トローチ剤、口中錠剤、水性もしくは油性懸濁剤、分散可能な散剤もしくは顆粒剤、乳剤、硬カプセル剤もしくは軟カプセル剤、またはシロップ剤もしくはエリキシル剤として経口使用に適した形でありうる。経口使用を意図した組成物を、医薬組成物の製造のための当業界で公知の任意の方法により調製でき、そのような組成物は、薬学的に洗練された口当たりがいい調製物を提供するために甘味料、着香料、着色料および保存料からなる群より選択される一つまたは複数の薬剤を含有しうる。錠剤は、錠剤の製造に適した無毒の薬学的に許容可能な賦形剤と混合された有効成分を含有する。これらの賦形剤は、例えば炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、乳糖、リン酸カルシウムまたはリン酸ナトリウムのような不活性希釈剤;造粒剤および崩壊剤、例えばトウモロコシデンプンまたはアルギン酸;結合剤、例えばデンプン、ゼラチンまたはアラビアゴム;および滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸またはタルクでありうる。錠剤はコーティングされていない場合があり、また消化管での崩壊および吸収を遅らせることによって長時間にわたり持続作用を提供するための公知の技法によってコーティングされうる。例えばグリセリルモノステアレートまたはグリセリルジステアレートのような時間遅れ物質を採用できる。米国特許第4,256,108号;4,166,452号;および4,265,874号に記載されている技法によってそれらをコーティングして制御放出用の浸透性治療錠剤(osmotic therapeutic tablet)を形成させることもできる(以下に参照として組み込まれる)。
【0155】
経口使用のための製剤を、有効成分が不活性の固体希釈剤、例えば炭酸カルシウム、リン酸カルシウムもしくはカオリンと混合されている硬ゼラチンカプセル剤、あるいは有効成分が水または油性媒質、例えばラッカセイ油、流動パラフィン、もしくはオリーブ油と混合されている軟ゼラチンカプセル剤としても提示することができる。
【0156】
水性懸濁剤は、水性懸濁剤の製造に適した賦形剤と混合された有効成分を含有する。そのような賦形剤は、懸濁化剤、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴムおよびアラビアゴムであり、分散剤または湿潤剤は天然ホスファチド、例えばレシチン、またはアルキレンオキシドと脂肪酸との縮合産物、例えばポリオキシエチレンステアレート、またはエチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合産物、例えばヘプタデカエチレンオキシセタノール、またはポリオキシエチレンソルビトールモノオレエートのようなエチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトールから得られた部分エステルとの縮合産物、またはエチレンオキシドと脂肪酸および無水ヘキシトールから得られた部分エステルとの縮合産物、例えばポリエチレンソルビタンモノオレエートでありうる。水性懸濁剤は、一つまたは複数の保存料、例えばp-ヒドロキシ安息香酸エチルまたはp-ヒドロキシ安息香酸n-プロピル、一つまたは複数の着色料、一つまたは複数の着香料、およびショ糖、サッカリンまたはアスパルテームのような一つまたは複数の甘味料も含有しうる。
【0157】
油性懸濁剤を、植物油、例えばラッカセイ油、オリーブ油、ゴマ油もしくはヤシ油、または流動パラフィンのような鉱物油の中に有効成分を懸濁することによって処方できる。油性懸濁物は、粘稠化剤、例えばミツロウ、硬パラフィンまたはセチルアルコールを含有しうる。上に示したような甘味料および着香量を添加して口に合う経口調製物を提供できる。アスコルビン酸のような抗酸化剤を添加することによってこれらの組成物を保存できる。
【0158】
水の添加によって水性懸濁剤を調製するために適した分散可能な粉末および顆粒は、分散剤または湿潤剤、懸濁化剤および一つまたは複数の保存料と混合した有効成分を提供する。適切な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤はすでに上記に言及したものに例示される。追加の賦形剤、例えば甘味料、着香料および着色料も存在しうる。
【0159】
医薬組成物は、水中油型乳剤の形でもありうる。油相は植物油、例えばオリーブ油もしくはラッカセイ油、または鉱物油、例えば流動パラフィン、またはこれらの混合物でありうる。適切な乳化剤は天然ホスファチド、例えばダイズ、レシチンならびに脂肪酸および無水ヘキシトールから得られたエステルまたは部分エステル、例えばソルビタンモノオレエート、ならびに該部分エステルとエチレンオキシドとの縮合産物、例えばポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートでありうる。乳剤は甘味料および着香料も含有しうる。
【0160】
シロップ剤およびエリキシル剤を、甘味料、例えばグリセロール、プロピレングリコール、ソルビトールまたはスクロースを用いて処方できる。そのような製剤は、粘滑薬、保存料、着香料、および着色料も含有しうる。医薬組成物は、水性または油脂性の注射可能な滅菌懸濁剤の形でありうる。それらの適切な分散剤または湿潤剤と上記で述べてきた懸濁化剤とを使用して公知の技術により懸濁剤を処方できる。注射可能な滅菌調製物は、無毒の非経口的に許容可能な希釈剤または溶媒に入れた注射可能な滅菌液剤または懸濁剤、例えば1,3-ブタンジオール溶液としてでもありうる。許容可能なビヒクルおよび溶媒の中で採用できるのは水、リンゲル液および等張塩化ナトリウム溶液である。さらに、滅菌固定油が溶媒または懸濁化媒質として慣例的に採用される。このために、合成モノグリセリドもしくはジグリセリドを含めた任意の無刺激性の固定油を採用できる。さらに、オレイン酸のような脂肪酸は注射可能剤の調製に用途を見出す。
【0161】
薬物の直腸投与のための坐剤の形でも化合物を投与できる。治療薬を、常温では固体であるが直腸温では液体であり、したがって直腸内で融解して薬物を放出する適切な無刺激の賦形剤と混合することによって、これらの組成物を調製できる。そのような物質はカカオ脂およびポリエチレングレコールである。
【0162】
局所使用のために、治療化合物を含有するクリーム剤、軟膏剤、ゼリー剤、上皮用液剤または懸濁剤などを採用する。この適用のために、局所適用に洗口剤および含嗽剤を含めるものとする。
【0163】
ナノ粒子、リポソーム、顆粒剤、吸入薬、鼻用液剤、または静脈用混合剤としても製剤を投与できる。
【0164】
先に言及した製剤全てを、心不全または肥大を患う患者を処置するために考慮している。特定の処置および投与様式に依存するであろう投薬形式を作るために、任意の製剤中の有効成分の量は変動しうる。患者に特異的な用量設定は、年齢、体重、全身の健康状態、性別、食事、投与時間、投与経路、排泄速度、薬物併用および治療法を受けている特定の疾患の重症度を含めた様々な因子に依存するであろうことはさらに言うまでもない。
【0165】
V. スクリーニング法
本発明は、心肥大または心不全の予防または治療または逆転に有用な、心臓細胞でのTRPチャネル活性の阻害剤を同定するための方法をさらに含む。これらのアッセイは、候補物質の大きなライブラリーのランダムなスクリーニングを含みうるか、またはこれらのアッセイは、TRPチャネルの機能を阻害する公算をより高くすると考えられる構造の属性を狙って選択された特定クラスの化合物に焦点を当てるために使用されうる。
【0166】
TRPチャネルの阻害剤を同定するために、候補物質の存在下および非存在下でTRPチャネルの機能が一般に決定されるであろう。例えば、方法は一般に、
(a)心筋細胞を提供する段階;
(b)該心筋細胞を阻害剤候補物質と接触させる段階;および
(c)該心筋細胞上のTRPCチャネルによって媒介される活性を測定する段階
を含み、ここで、未処理細胞のTRPCチャネル活性に比べた心筋細胞TRPCチャネル活性の減少から、候補物質を心臓TRPCチャネル活性の阻害剤として同定するものである。
【0167】
単離された細胞、器官、または生物においてもアッセイを実施できる。
【0168】
当然のことながら、本発明のスクリーニング法はすべて、有効な候補が見出されないかもしれないという事実にかかわらず、それ自体有用であることが理解されると考えられる。本発明は、このような候補を見出す方法のみならず、それらをスクリーニングする方法も提供する。
【0169】
A. モジュレーター
本明細書において使用する「候補物質」という用語は、TRPチャネルの活性または細胞機能を潜在的に阻害し得る任意の分子を指す。候補物質は、タンパク質もしくはその断片、小分子、またはさらには核酸であってよい。最も有用な薬理学的化合物が、本明細書中のいずれかに列挙される2-ABPに構造的に関連した化合物であることが判明する場合があり得る。改良型化合物の開発を助けるためにリード化合物を使用することは「合理的薬物設計」として周知であり、これは既知の阻害剤および活性化因子との比較だけでなく、標的分子の構造に関する予測を含む。
【0170】
合理的薬物設計の目的は、生物活性のあるポリペプチドまたは標的化合物の構造類似体を生成することである。そのような類似体を作製することによって、天然分子よりもより活性を有するかもしくは安定性のある薬剤、変更に対して異なる感受性を有する薬剤、または種々の他の分子の機能に影響を及ぼし得る薬剤を作製することが可能である。1つのアプローチにおいては、標的分子またはその断片の三次元構造を作製する。これは、X線結晶学、コンピューターモデリング、または両方のアプローチの組み合わせによって達成され得る。
【0171】
標的化合物、活性化因子、または阻害剤の構造を確認するために抗体を使用することもまた可能である。原理上、このアプローチにより、その後の薬物設計の基本となり得るファーマコアが得られる。機能的な薬理学的に活性のある抗体に対する抗イディオタイプ抗体を作製することによって、タンパク質結晶学を完全に迂回することが可能である。抗イディオタイプの結合部位は鏡像の鏡像として、本来の抗原の類似体であることが予想される。次いで、抗イディオタイプを用いて、化学的または生物学的に作製されたペプチドのバンクからペプチドを同定および単離することができると考えられる。選択されたペプチドはファーマコアとして機能する。抗イディオタイプは、抗原として抗体を使用し、抗体の産生について本明細書中に記載する方法により作製し得る。
【0172】
一方、有用な化合物の同定を「力づくで行なう」ために、有用な薬物の基本的基準を満たすと考えらる小分子ライブラリーを種々の商業的供給源から簡単に獲得することができる。組み合わせによって作製されたライブラリー(例えば、ペプチドライブラリー)を含むこのようなライブラリーのスクリーニングは、関連のある(および非関連の)多数の化合物を活性に関してスクリーニングするための迅速かつ効率的な方法である。組み合わせアプローチはまた、活性を有するが他の点で望ましくない化合物をモデルとした第2、第3、および第4世代の化合物を作製することにより、潜在的な薬物の迅速な進化に役立つ。
【0173】
候補化合物は天然に存在する化合物の断片または一部を含み得るか、またはさもなければ不活性である既知化合物の活性のある組み合わせとして見出され得る。動物、細菌、真菌、植物(葉および樹皮を含む)供給源、および海洋試料等の天然源から単離される化合物が、潜在的に有用な薬学的薬剤の存在についての候補としてアッセイされ得ることが提案される。スクリーニングする薬学的薬剤はまた、化学的組成物または人工化合物から誘導また合成され得ることが理解されると考えられる。従って、本発明によって同定される候補物質は、ペプチド、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、小分子阻害剤、または既知の阻害剤もしくは促進因子から開始する合理的薬物設計を介して設計され得る任意の他の化合物であり得ることが理解される。
【0174】
他の適切なモジュレーターにはアンチセンス分子、リボザイム、および抗体(一本鎖抗体を含む)が含まれ、これらはそれぞれ標的分子に特異的である。そのような化合物については、本明細書の他所において詳述する。例えば、翻訳もしくは転写開始部位、またはスプライス接合部に結合するアンチセンス分子は、理想的な候補阻害剤である。
【0175】
最初に同定された調節化合物に加えて、本発明者らはまた、他の立体的に類似した化合物が、モジュレーターの構造の重要な部分を模倣するように製剤化され得ることを意図する。ペプチドモジュレーターのペプチド模倣体を含み得るそのような化合物は、最初のモジュレーターと同じ様式で使用することができる
【0176】
B. インビトロアッセイ
実行するのに速く、安価で、かつ容易なアッセイはインビトロアッセイである。このようなアッセイは一般に単離された分子を使用し、迅速にかつ多数で実行することができ、よって短期間で得られる情報の量が増加する。試験管、プレート、ディッシュ、およびディップスティックまたはビーズ等の他の表面を含む種々の容器を用いてアッセイを行うことができる。
【0177】
化合物のハイスループットスクリーニングに関する技法は、WO 84/03564に記載されている。多数の小ペプチド試験化合物が、プラスチックピンまたは他の何らかの表面のような固相担体上で合成される。このようなペプチドは、TRPチャネルと結合するおよび阻害する能力について迅速にスクリーニングされ得る。
【0178】
C. インサイト(in cyto)アッセイ
本発明はまた、TRPチャネル活性を調節する能力についての、細胞における化合物のスクリーニングを意図する。この目的のために特に操作された細胞を含む種々の細胞株を、このようなスクリーニングアッセイに利用することができる。
【0179】
D. インビボアッセイ
インビボアッセイは、特定の欠損を有するように、または候補物質が生物体内の異なる細胞に到達し影響する能力を測定するために用いられ得るマーカーを有するように操作されたトランスジェニック動物を含む、種々の心疾患動物モデルの使用を含む。大きさ、取り扱いの容易さ、ならびに生理機能および遺伝子構成に関する情報の理由から、マウスは特にトランスジェニック関して好ましい態様である。しかし、ラット、ウサギ、ハムスター、モルモット、スナネズミ、マーモット、ネコ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、およびサル(チンパンジー、テナガザル、およびヒヒを含む)を含む他の動物も同様に適している。阻害剤に関するアッセイは、これらの種のいずれかに由来する動物モデルを使用して行なわれ得る。
【0180】
試験化合物による動物の処置は、動物への適切な形態での化合物の投与を含むことになる。投与は、臨床目的のために利用され得る任意の経路によることになる。インビボにおける化合物の有効性の決定は、種々の異なる基準を含み得る。また、毒性および用量反応の測定も、インビトロアッセイまたはインサイトアッセイよりもより意味のある様式で動物において行なわれ得る。
【0181】
VI. クローニング、遺伝子導入、および発現のためのベクター
特定の態様においては、発現ベクターを使用してTRPチャネル、アンチセンス分子、リボザイムまたは干渉RNAsを含む、さまざまな産物を発現させる。発現は適切なシグナルがベクター内に提供されることを必要とし、このシグナルには、宿主細胞において関心対象の遺伝子の発現を駆動するウイルスおよび哺乳動物供給源由来のエンハンサー/プロモーター等の種々の調節成分が含まれる。宿主細胞におけるメッセンジャーRNAの安定性および翻訳能を最適化するために設計されるエレメントもまた規定される。産物を発現する永続的な安定した細胞クローンを樹立するための多くの主要な薬剤選択マーカーの使用条件が、薬物選択マーカーの発現をポリペプチドの発現に結びつけるエレメントであるようにまた提供される。
【0182】
A. 制御エレメント
本出願を通して、「発現構築物」という用語は、遺伝子産物をコードする核酸を含み、核酸コード配列の一部またはすべてが転写され得る任意の種類の遺伝子構築物を含むことを意味する。転写産物はタンパク質に翻訳されてもよいが、そうである必要はない。特定の態様において、発現は遺伝子の転写およびmRNAの遺伝子産物への翻訳の両方を含む。他の態様において、発現は関心対象の遺伝子をコードする核酸の転写のみを含む。
【0183】
特定の態様において、遺伝子産物をコードする核酸はプロモーターの転写調節下にある。「プロモーター」とは、遺伝子の特異的転写を開始するために必要とされる、細胞の合成機構または導入された合成機構によって認識されるDNA配列を指す。「転写調節下」という語句は、プロモーターが核酸に関して正確な位置および方向にあって、RNAポリメラーゼの開始および遺伝子の発現を調節することを意味する。
【0184】
プロモーターという用語は、RNAポリメラーゼIIの開始部位の周囲に密集する転写調節モジュールの群を指すために本明細書において用いられる。プロモーターがいかにして組織化されるかについての見解の多くは、HSVチミジンキナーゼ(tk)およびSV40初期転写単位のプロモーターを含むいくつかのウイルスプロモーターの分析に由来する。より最近の研究によって増大したこれらの研究から、それぞれ約7〜20 bpのDNAからなり、転写活性化因子タンパク質または転写リプレッサータンパク質の1つまたは複数の認識部位を含む別々の機能モジュールからプロモーターが構成されることが示された。
【0185】
各プロモーターにおける少なくとも1つのモジュールが、RNA合成の開始部位を定めるように機能する。この最もよく知られた例はTATAボックスであるが、哺乳動物のターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ遺伝子のプロモーターおよびSV40後期遺伝子のプロモーターのようにTATAボックスを欠くいくつかのプロモーターでは、開始部位自体に重なる別のエレメントが開始の場所の固定を助ける。
【0186】
さらなるプロモーターエレメントが転写開始の頻度を制御する。典型的には、これらは開始部位の30〜110 bp上流の領域に位置するが、多くのプロモーターは同様に開始部位の下流にも機能的エレメントを含むことが最近になって示された。プロモーターエレメント間の間隔は順応性がある場合が多く、その結果、エレメントを逆にするかまたは相互に対して動かす場合にもプロモーター機能は保持される。tkプロモーターにおいて、プロモーターエレメント間の間隔は50 bp離れるまで増すことができ、その後活性は減少し始める。プロモーターに応じて、個々のエレメントは転写を活性化するために協同でまたは独立して機能できるようである。
【0187】
特定の態様においては、対応するTRPチャネル遺伝子、異種TRPチャネル遺伝子、スクリーニング可能なもしくは選択可能なマーカー遺伝子、または関心対象の任意の他の遺伝子のいずれかの発現を駆動するために、天然のTRPチャネルプロモーターを用いることになる。
【0188】
他の態様において、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)前初期遺伝子プロモーター、SV40初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルス末端反復配列、ラットインスリンプロモーター、およびグリセルアルデヒド三リン酸脱水素酵素を用いて、関心対象のコード配列の高レベルの発現を得ることができる。発現レベルが所与の目的に十分であるならば、関心対象のコーディング配列の発現を達成するために当技術分野において周知である他のウイルスプロモーターまたは哺乳動物細胞性プロモーターまたは細菌ファージプロモーターの使用が同様に意図される。
【0189】
周知の特性を有するプロモーターを用いることにより、トランスフェクションまたは形質転換後の関心対象のタンパク質の発現のレベルおよびパターンを最適化することができる。さらに、特定の生理的シグナルに応答して制御されるプロモーターを選択することにより、遺伝子産物の誘導性発現が可能になる。表1および表2に、関心対象の遺伝子の発現を制御するために、本発明に関連して用いることができるいくつかの制御エレメントを挙げる。この一覧表は、遺伝子発現の促進に関与するすべての可能なエレメントの包括であることは意図しておらず、単にその例示であることを意図している。
【0190】
エンハンサーとは、DNAの同じ分子上の離れた位置に位置するプロモーターからの転写を増大させる遺伝子エレメントである。エンハンサーは、プロモーターのように組織化される。すなわち、エンハンサーは多くの個々のエレメントから構成され、これらはそれぞれ1つまたは複数の転写タンパク質に結合する。
【0191】
エンハンサーとプロモーターの基本的な差異は動作である。エンハンサー領域は全体として離れた地点で転写を促進できなければならず;これはプロモーター領域またはその成分エレメントに当てはまる必要はない。一方、プロモーターは特定の位置かつ特定の方向でRNA合成の開始を導く1つまたは複数のエレメントを有さなければならず、一方、エンハンサーはこれらの特異性を欠いている。プロモーターおよびエンハンサーは重複および連続する場合が多く、頻繁に非常に類似したモジュール編成を有するようである。
【0192】
以下は、発現構築物において関心対象の遺伝子をコードする核酸と組み合わせて用いることができるウイルスプロモーター、細胞性プロモーター/エンハンサーおよび誘導性プロモーター/エンハンサーの一覧表である(表2および表3)。さらに、(真核生物プロモーターデータベースEPDBによる)任意のプロモーター/エンハンサーの組み合わせを用いて、遺伝子の発現を駆動することも可能である。送達複合体の一部またはさらなる遺伝子発現構築物として適切な細菌ポリメラーゼが提供される場合、真核細胞は特定の細菌プロモーターからの細胞質転写を支持し得る。
【0193】
(表2)プロモーターおよび/またはエンハンサー



【0194】
(表3)誘導性エレメント

【0195】
特に関心があるのは筋特異的プロモーター、より詳細には心臓特異的プロモーターである。これらには、ミオシン軽鎖-2プロモーター(Franz et al., 1994;Kelly et al., 1995)、αアクチンプロモーター(Moss et al., 1996)、トロポニン1プロモーター(Bhavsar et al., 1996);Na+/Ca2+交換体プロモーター(Barnes et al., 1997)、ジストロフィンプロモーター(Kimura et al., 1997)、α7インテグリンプロモーター(Ziober and Kramer, 1996)、脳性ナトリウム利尿ペプチドプロモーター(LaPointe et al., 1995)、およびαB-クリスタリン/低分子量熱ショックタンパク質プロモーター(Gopal, 1995)、αミオシン重鎖プロモーター(Yamauchi-Takihara et al., 1989)、およびANFプロモーター(LaPointe et al., 1988)が含まれる。
【0196】
cDNA挿入物を用いる場合、典型的に、遺伝子転写産物の適切なポリアデニル化をもたらすためにポリアデニル化シグナルを含めることが所望されるであろう。ポリアデニル化シグナルの性質は本発明の実施の成否に重要であるとは考えられず、ヒト成長ホルモンおよびSV40ポリアデニル化シグナルのような任意のそのような配列を用いることができる。また、発現カセットのエレメントとしてターミネーターが意図される。これらのエレメントは、メッセージレベルを増大させるためおよびカセットから他の配列への読み過ごしを最小限に抑えるために役立ち得る。
【0197】
B. 選択マーカー
本発明の特定の態様においては、細胞は本発明の核酸構築物を含み、発現構築物中にマーカーを含めることによって細胞をインビトロまたはインビボで同定することができる。そのようなマーカーは細胞に同定可能な変化を寄与し、発現構築物を含む細胞の容易な同定を可能にする。通常、薬剤選択マーカーの含有はクローニングおよび形質転換体の選択に役立ち、例えば、ネオマイシ、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、DHFR、GPT、ゼオシン、およびヒスチジノールに対する耐性を付与する遺伝子が有用な選択マーカーである。または、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(tk)またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)のような酵素を用いてもよい。また、免疫学的マーカーを用いることもできる。用いられる選択マーカーは、遺伝子産物をコードする核酸と同時に発現され得る限りは、重要であると考えられない。選択マーカーのさらなる例は当業者に周知である。
【0198】
C. 多重遺伝子構築物およびIRES
本発明の特定の態様においては、内部リボソーム結合部位(IRES)エレメントを使用して、多重遺伝子または多シストロン性メッセージを作製する。IRESエレメントは5'メチル化Cap依存性翻訳のリボソームスキャンモデルを回避し、内部部位で翻訳を開始することができる(Pelletier and Sonenberg, 1988)。ピカノウイルス(picanovirus)ファミリーの2つのメンバー(ポリオおよび脳心筋炎)のIRESエレメントおよび哺乳動物メッセージのIRESが記載されている(Macejak and Sarnow, 1991)。IRESエレメントを異種オープンリーディングフレームに連結することができる。それぞれIRESによって分離された複数のオープンリーディングフレームが共に転写され、多シストロン性メッセージが生じ得る。IRESエレメントにより、各オープンリーディングフレームは効率よい翻訳のためにリボソームを利用できる。複数の遺伝子が、単一のメッセージを転写するための単一のプロモーター/エンハンサーを用いて効率よく発現され得る。
【0199】
任意の異種オープンリーディングフレームをIRESエレメントに連結することができる。これには、分泌タンパク質、別個の遺伝子によってコードされる多サブユニットタンパク質、細胞内タンパク質または膜結合タンパク質、および選択マーカーの遺伝子が含まれる。このようにして、いくつかのタンパク質の発現が、単一の構築物および単一の選択マーカーを用いて細胞中に同時に操作され得る。
【0200】
D. 発現ベクターの送達
発現ベクターを細胞内に導入し得る多数の方法が存在する。本発明の特定の態様において、発現構築物はウイルスまたはウイルスゲノムに由来する操作された構築物を含む。ある種のウイルスは、受容体媒介性エンドサイトーシスにより細胞に侵入し、宿主細胞ゲノム中に組み込まれ、ウイルス遺伝子を安定にかつ効率的に発現する能力によって、哺乳動物細胞中に外来遺伝子を導入するための魅力的な候補となった(Ridgeway, 1988;Nicolas and Rubenstein, 1988;Baichwal and Sugden. 1986;Temin, 1986)。遺伝子ベクターとして用いられた最初のウイルスは、パポーバウイルス(シミアンウイルス40、ウシパピローマウイルス、およびポリオーマ)(Ridgeway, 1988; Baichwal and Sugden. 1986)およびアデノウイルス(Ridgeway, 1988; Baichwal and Sugden. 1986)を含むDNAウイルスであった。これらは外来DNA配列の比較的低い受容能力を有し、限られた宿主範囲を有する。さらに、許容細胞におけるそれらの発癌能および細胞変性作用により、安全性の懸念が生じる。これらは8 kbまでしか外来遺伝物質を受け入れることができないが、種々の細胞株および実験動物に容易に導入することができる(Nicolas and Rubenstein, 1988;Temin, 1986)。
【0201】
インビボ送達の好ましい方法の1つは、アデノウイルス発現ベクターの使用を含む。「アデノウイルス発現ベクター」は、(a) 構築物のパッケージングを支持するため、および(b) その中にクローン化されているアンチセンスポリヌクレオチドを発現させるために十分なアデノウイルス配列を含む構築物を含むことを意味する。この関連においては、発現は遺伝子産物が合成されることを必要としない。
【0202】
発現ベクターはアデノウイルスの遺伝子操作された形態を含む。36 kbの線状二本鎖DNAウイルスであるアデノウイルスの遺伝子構成の知見から、7 kbまでの外来配列でアデノウイルスDNAの大きい断片を置換することができる(Grunhaus and Horwitz, 1992)。レトロウイルスとは対照的に、アデノウイルスDNAは潜在的遺伝毒性なしにエピソーム様式で複製し得るため、宿主細胞のアデノウイルス感染は染色体の組み込みを生じない。また、アデノウイルスは構造的に安定であり、多くの増幅後にもゲノム再編成は検出されていない。アデノウイルスは、細胞周期の段階にかかわらず実質的にすべての上皮細胞に感染し得る。これまでのところ、アデノウイルス感染はヒトの急性呼吸器疾患のような軽い疾患にのみ関連するようである。
【0203】
アデノウイルスは、その中間の大きさのゲノム、操作の容易さ、高力価、広い標的細胞範囲、および高い感染力に起因して、遺伝子導入ベクターとして使用するために特に適している。ウイルスゲノムの両末端は100〜200塩基対の逆方向反復(ITR)を含むが、これらはウイルスDNAの複およびパッケージングに必要なシスエレメントである。ゲノムの初期(E)および後期(L)領域は、ウイルスDNAの複製の開始によって分割される異なる転写単位を含む。E1領域(E1AおよびE1B)は、ウイルスゲノムおよび2、3の細胞遺伝子の転写制御に関与するタンパク質をコードする。E2領域(E2AおよびE2B)の発現により、ウイルスDNAの複製のためのタンパク質合成が生じる。これらのタンパク質はDNA複製、後期遺伝子発現、および宿主細胞の停止に関与する(Renan, 1990)。ウイルスキャプシドタンパク質の大部分を含む後期遺伝子の産物は、主要後期プロモーター(MLP)により生じる単一の一次転写産物の著しいプロセシング後にのみ発現される。MLP(16.8 m.u.に位置する)は感染の後期において特に効率的であり、このプロモーターから生じるmRNAはすべて5'-三分節リーダー(TPL)配列を有し、これによってmRNAは翻訳に好ましいmRNAとなる。
【0204】
現在の系では、組み換えアデノウイルスはシャトルベクターとプロウイルスベクター間の相同組み換えにより作製される。2つのプロウイルスベクター間での組み換えの可能性に起因して、この過程により野生型アデノウイルスが作製される可能性がある。したがって、個々のプラークからウイルスの単一クローンを単離し、そのゲノム構造を調べることが重要である。
【0205】
複製能力を欠く現在のアデノウイルスベクターの作製および増殖は、293と称される特有のヘルパー細胞株に依存し、293はAd5 DNA断片によりヒト胚性腎臓細胞から形質転換されたもので、E1タンパク質を構成的に発現する(Graham et al., 1977)。E3領域はアデノウイルスゲノムに必要ではないため(Jones and Shenk, 1978)、293細胞の助けを伴う現在のアデノウイルスベクターはE1、D3、またはその両方の領域中に外来DNAを保有する(Graham and prevec, 1991)。現実には、アデノウイルスは野生型ゲノムの約105%をパッケージングすることができ(Ghosh-Choudhury et al., 1987)、約2 kb余分のDNAの受容能力を提供する。E1およびE3領域において置換可能な約5.5 kbのDNAと合わせると、現在のアデノウイルスベクターの最大受容能力は7.5 kb未満またはベクターの全長の約15%である。アデノウイルスウイルスゲノムの80%を超えるゲノムがベクター骨格中に残存し、これはベクターが媒介する細胞毒性の源である。また、E1欠失ウイルスの複製欠損も不完全である。
【0206】
ヘルパー細胞株は、ヒトの胚性腎臓細胞、筋肉細胞、造血細胞、または他のヒトの胚性間葉細胞もしくは上皮細胞のようなヒト細胞に由来し得る。または、ヘルパー細胞は、ヒトアデノウイルスに対して許容性である他の哺乳動物種の細胞に由来し得る。そのような細胞には、例えば、Vero細胞または他のサル胚性間葉細胞もしくは上皮細胞が含まれる。上記の通り、好ましいヘルパー細胞株は293である。
【0207】
Racherら(1995)は、293細胞を培養しアデノウイルスを増殖させるための改良方法を開示した。1つの形式では、培地100〜200 mlを含む1リットルのシリコナイズ処理したスピナーフラスコ(Techne、英国、ケンブリッジ)中に個々の細胞を接種することにより、天然の細胞凝集物を増殖させる。40 rpmで撹拌した後、細胞生存度をトリパンブルーで概算する。別の形式では、Fibra-Celマイクロキャリア(Bibby Sterlin、英国、ストーン)(5 g/l)を以下のように用いる。培地5 ml中に再懸濁した細胞接種材料を250 ml三角フラスコ中のキャリア(50 ml)に添加し、時折撹拌しながら1〜4時間静置する。次いで、培地を新しい培地50 mlと置換し、振盪を開始する。ウイルス産生させるには、細胞を約80%コンフルエントまで増殖させ、その後培地を(最終容量の25%に)置換し、アデノウイルスをMOI 0.05で添加する。培養物を一晩静置し、その後容量を100%まで増やし、さらに72時間の振盪を開始する。
【0208】
アデノウイルスベクターが複製欠損であるかまたは少なくとも条件的に欠損であるという必要条件以外に、アデノウイルスベクターの性質は本発明の実施の成否に重要であるとは考えられていない。アデノウイルスは、42の異なる既知の血清型または亜群A〜Fのいずれかであってよい。亜群Cの5型アデノウイルスは、本発明において使用するための条件的複製欠損アデノウイルスベクターを得るための好ましい出発材料である。これは、5型アデノウイルスが多くの生化学的および遺伝的情報が周知であるヒトアデノウイルスであり、ベクターとしてアデノウイルスを用いる大部分の構築物に歴史的に使用されてきたためである。
【0209】
上記のように、本発明による典型的なベクターは複製欠損であり、アデノウイルスE1領域を有さない。したがって、E1コード配列が除去された位置に、関心対象の遺伝子をコードするポリヌクレオチドを導入することが最も簡便である。しかし、アデノウイルス配列内の構築物の挿入位置は本発明にとって重要ではない。関心対象の遺伝子をコードするポリヌクレオチドはまた、、Karlssonら(1986)によって記載されたように、E3置換ベクターにおいて欠失されたE3領域の代わりに挿入してもよいし、またはヘルパー細胞株もしくはヘルパーウイルスがE4欠失を補う場合にはE4領域に挿入してもよい。
【0210】
アデノウイルスは増殖および操作が容易であり、インビトロおよびインビボで広い宿主範囲を示す。この群のウイルスは高力価、例えば109〜1012プラーク形成単位/mlで得ることができ、また感染性が高い。アデノウイルスの生活環は、宿主細胞ゲノムへの組み込みを必要としない。アデノウイルスベクターによって送達された外来遺伝子はエピソーム性であり、そのため宿主細胞に対する遺伝毒性が低い。野生型アデノウイルスによるワクチン接種の研究においてはいかなる副作用も報告されておらず(Couch et al., 1963;Top et al., 1971)、これによりインビボ遺伝子導入ベクターとしてのこれらの安全性および治療可能性が実証される。
【0211】
アデノウイルスベクターは、真核生物遺伝子発現(Levrero et al., 1991;Gomez-Foix et al., 1992)およびワクチン開発(Grunhaus and Horwitz, 1992;Graham and Prevec, 1991)に使用されている。最近、動物研究から、組み換えアデノウイルスを遺伝子治療に使用できることが示唆された(Stratford-Perricaudet and Perricaudet, 1991;Stratford-Perricaudet et al., 1990;Rich et al., 1993)。種々の組織に対して組み換えアデノウイルスを投与する実験には、気管点滴注入(Rosenfeld et al., 1991;Rosenfeld et al., 1992)、筋肉注射(Ragot et al., 1993)、末梢静脈内注射(Herz and Gerard, 1993)、および脳への定位的接種(Le Gal La Salle et al., 1993)が含まれる。
【0212】
レトロウイルスは、逆転写過程により感染細胞においてそれらのRNAを二本鎖DNAに変換する能力を特徴とする一本鎖RNAウイルスである(Coffin, 1990)。次いで、生じたDNAはプロウイルスとして細胞の染色体に安定に組み込まれ、ウイルスタンパク質の合成を導く。組み込みにより、受容体細胞およびその子孫においてウイルス遺伝子配列の保持が生じる。レトロウイルスゲノムは3つの遺伝子、gag、pol、およびenvを含み、これらはそれぞれキャプシドタンパク質、ポリメラーゼ酵素、およびエンベロープ成分をコードする。gag遺伝子の上流に見出される配列は、ビリオンへのゲノムのパッケージングのためのシグナルを含む。2つの長い末端反復(LTR)配列が、ウイルスゲノムの5'末端および3'末端に存在する。これらは強力なプロモーター配列およびエンハンサー配列を含み、宿主細胞ゲノムへの組み込みにもまた必要である(Coffin, 1990)。
【0213】
レトロウイルスベクターを構築するためには、関心対象の遺伝子をコードする核酸を特定のウイルス配列の代わりにウイルスゲノムに挿入して、複製能力がないウイルスを生成する。ビリオンを産生するためには、gag、pol、およびenv遺伝子を含むがLTRおよびパッケージング成分を含まないパッケージング細胞株を構築する(Mann et al., 1983)。cDNAを含む組み換えプラスミドをレトロウイルスLTRおよびパッケージング配列と共に(例えば、リン酸カルシウム沈殿により)この細胞株に導入すると、パッケージング配列により組み換えプラスミドのRNA転写産物がウイルス粒子内にパッケージングされ、次いでこのウイルス粒子が培地中に分泌される(Nicolas and Rubenstein, 1988;Temin, 1986;Mann et al., 1983)。次に、組み換えレトロウイルスを含む培地を回収し、任意で濃縮し、遺伝子導入に用いる。レトロウイルスベクターは多種多様な細胞種に感染すし得る。しかしながら、組み込みおよび安定な発現には宿主細胞の分裂を必要とする(Paskind et al, 1975)。
【0214】
レトロウイルスベクターの特異的標的化を可能にするように設計された新規なアプローチが、ウイルスエンベロープへのラクトース残基の化学的付加によるレトロウイルスの化学的改変に基づいて最近開発された。この改変により、シアロ糖タンパク質受容体を介した肝細胞の特異的感染が可能になった。
【0215】
レトロウイルスエンベロープタンパク質に対するビオチン化抗体および特異的細胞受容体に対するビオチン化抗体を使用した、組み換えレトロウイルスの標的化のための種々のアプローチが設計された。抗体は、ストレプトアビジンを使用してビオチン成分を介して結合された(Roux et al., 1989)。主要組織適合遺伝子複合体クラスIおよびクラスII抗原に対する抗体を使用して、これらの表面抗原を保有する種々のヒト細胞の同種指向性ウイルスによるインビトロでの感染が実証された(Roux et al., 1989)。
【0216】
本発明のすべての局面において、レトロウイルスの使用に対して特定の制限が存在する。例えば、レトロウイルスベクターは通常、細胞ゲノムの任意の部位に組み込まれる。これは、宿主遺伝子の妨害によるかまたは隣接遺伝子の機能を妨害し得るウイルス制御配列の挿入により、挿入変異誘発をもたらす可能性がある(Varmus et al., 1981)。欠陥レトロウイルスベクターの使用に伴う別の懸念は、パッケージング細胞における野生型の複製能力のあるウイルスの出現の可能性である。これは、組み換えウイルス由来の無傷の配列が、宿主細胞ゲノムに組み込まれたgag、pol、env配列の上流に挿入する組み換え事象から生じ得る。しかし、新しいパッケージング細胞株が現在利用可能であり、組み換えの可能性はかなり減少するはずである(Markowitz et al., 1988;Hersdorffer et al., 1990)。
【0217】
他のウイルスベクターを本発明の発現構築物として用いることも可能である。ワクシニアウイルス(Ridgeway, 1988;Baichwal and Sugden, 1986;Coupar et al., 1988)、アデノ随伴ウイルス(AAV)(Ridgeway, 1988;Baichwal and Sugden, 1986;Hermonat and Muzycska, 1984)、およびヘルペスウイルス等のウイルスに由来するベクターを用いることができる。これらは、種々の哺乳動物細胞にいくつかの魅力的な特徴を付与する(Friedmann, 1989;Ridgeway, 1988;Baichwal and Sugden, 1986;Coupar et al., 1988;Horwich et al., 1990)。
【0218】
欠陥B型肝炎ウイルスの最近の認識から、種々のウイルス配列の構造-機能の関係に新しい洞察が得られた。インビトロ研究から、ウイルスがそのゲノムの80%までの欠失にもかかわらず、ヘルパー依存性パッケージングおよび逆転写の能力を保持し得ることが示された(Horwich et al., 1990)。これにより、ゲノムの大部分が外来遺伝物質で置換され得ることが示唆された。肝臓指向性および持続性(組み込み)は、肝臓を標的とした遺伝子導入の特に魅力的な特性であった。Changらは、ポリメラーゼ、表面、および前表面(pre-surface)コード配列の代わりに、アヒルB型肝炎ウイルスゲノム中にクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子を導入した。これは、野生型ウイルスと共にニワトリ肝癌細胞株に同時トランスフェクトされた。高力価の組み換えウイルスを含む培地を用いて、初代仔カモ肝細胞が感染された。安定なCAT遺伝子発現は、トランスフェクション後少なくとも24日間検出された(Chang et al., 1991)。
【0219】
センスまたはアンチセンス遺伝子構築物の発現をもたらすためには、発現構築物を細胞中に送達しなければならない。この送達は、細胞株を形質転換するための研究室手順などの場合にはインビトロで、または特定の病態の処置などの場合にはインビボもしくはエキソビボで達成され得る。送達の1つの機構はウイルス感染を介し、この場合、発現構築物は感染性ウイルス粒子内にキャプシド形成される。
【0220】
また、培養哺乳動物細胞中に発現構築物を導入するためのいくつかの非ウイルス方法も本発明により意図される。これらには、リン酸カルシウム沈殿(Graham and Van Der Eb, 1973;Chen and Okayama, 1987;Rippe et al., 1990)、DEAE-デキストラン(Gopal, 1985)、エレクトロポレーション(Tur-Kaspa et al., 1986;Potter et al., 1984)、直接的マイクロインジェクション(Harland and Weintraub, 1985)、DNA装填リポソーム(Nicolau and Sene, 1982;Fraley et al., 1979)およびリポフェクタミン-DNA複合体、細胞超音波処理(Fechheimer et al., 1987)、高速微粒子(microprojectile)を使用する遺伝子照射(Yang et al., 1990)、ならびに受容体媒介性トランスフェクション(Wu and Wu, 1987;Wu and Wu, 1988)が含まれる。これらの技法のいくつかは、インビボまたはエクスビボ用途のためにうまく適合化することができる。
【0221】
発現構築物が細胞中に送達されたならば、関心対象の遺伝子をコードする核酸が種々の部位に配置され発現され得る。特定の態様においては、遺伝子をコードする核酸は細胞のゲノム中に安定に組み込まれ得る。この組み込みは相同組み換えにより同族の位置および方向であり場合もあれば(遺伝子置換)、またはランダムな非特異的な位置で組み込まれる場合もある(遺伝子強化)。さらなる態様では、核酸はDNAの別のエピソーム部分として細胞において安定に維持され得る。そのような核酸部分または「エピソーム」は、宿主細胞周期と独立したまたは同調した維持および複製を可能にするのに十分な配列をコードする。発現構築物がいかにして細胞に送達されるかおよび核酸が細胞のどこに留まるかは、用いる発現構築物の種類にに依存する。
【0222】
本発明のさらに別の態様においては、発現構築物は単に裸の組み換えDNAまたはプラスミドから構成され得る。構築物の導入は、細胞膜を物理的または化学的に透過させる上記の方法のいずれかによって行われ得る。これはインビトロでの導入に特に適用できるが、インビボでの用途にも同様に適用することが可能である。Dubenskyら(1984)は、成体および新生マウスの肝臓および脾臓にリン酸カルシウム沈殿物の形態のポリオーマウイルスDNAを注入することに成功し、活発なウイルス複製および急性感染を実証した。また、BenvenistyおよびNeshif(1986)もまた、リン酸カルシウム沈殿させたプラスミドの直接腹腔内注入により、トランスフェクションした遺伝子の発現が起こることを実証した。関心対象の遺伝子をコードするDNAをインビボで同様の様式で導入し、遺伝子産物を発現させることができることが予想される。
【0223】
裸のDNA発現構築物の細胞への導入に関する本発明のさらに別の態様は、粒子照射を含み得る。この方法は、DNAで被覆した微粒子を高速に加速して、細胞膜を貫通させ、細胞を死滅させることなく細胞に侵入させる能力に依存する(Klein et al., 1987)。小粒子を加速するためのいくつかの装置か開発されている。そのような1つの装置は高圧放電により電流を生成するものであり、この電流が次に推進力を提供する(yang et al., 1990)。使用する微粒子は、タングステンまたは金ビーズのような生物学的に不活性な物質から構成されている
【0224】
ラットおよびマウスの肝臓、皮膚、および筋肉組織を含む選択された器官が、インビボで照射された(Yang et al., 1990;Zelenin et al., 1991)。これは、銃と標的器官の間のあらゆる介在組織を除去するために、組織または細胞の外科的露出、すなわちエクスビボ処置を必要とする場合がある。この場合も同様に、特定の遺伝子をコードするDNAをこの方法によって送達することができ、やはり本発明により組み入れられる。
【0225】
本発明のさらなる態様において、発現構築物はリポソーム中に捕捉され得る。リポソームは、リン脂質二重層膜および内部水性媒体を特徴とする小胞構造である。多重膜リポソームは、水性媒体よって分離された複数の脂質層を有する。これは、過剰の水溶液中にリン脂質を懸濁した場合に自発的に形成される。脂質成分は閉鎖構造の形成前に自己再構成して、脂質二重層の間に水および溶解した溶質を捕捉する(Ghosh and Bachhawat, 1991)。リポフェクタミン-DNA複合体もまた意図される。
【0226】
インビトロでのリポソーム媒介性核酸送達および外来DNAの発現は、大成功を収めている。Wongら(1980)は、培養したニワトリ胚、HeLa細胞、および肝臓癌細胞において、リポソーム媒介性送達および外来DNAの発現の実現可能性を実証した。Nicolauら(1987)は、静脈内注射後のラットにおいてリポソーム媒介性遺伝子移入の成功を果たした。
【0227】
本発明の特定の態様において、リポソームはセンダイウイルス(HVJ)と複合体形成され得る。これは、細胞膜との融合を容易にし、リポソームにカプセル化されたDNAの細胞侵入を促進することが示されている(Kaneda et al., 1989)。他の態において、リポソームは核の非ヒストン染色体タンパク質(HMG-1)と複合体形成され得るかまたはそれらと共に使用され得る(Kato et al., 1991)。さらなる態様において、リポソームはHVJおよびHMG-1の両方と複合体形成され得るかまたはそれらと共に使用され得る。このような発現構築物はインビトロおよびインビボで核酸の導入および発現に良好に用いられているので、これらは本発明に適用可能である。細菌プロモーターがDNA構築物中に用いられる場合には、リポソーム内に適切な細菌ポリメラーゼを含めることも望ましいと考えられる。
【0228】
細胞中に特定の遺伝子をコードする核酸を送達するために使用し得る他の発現構築物は、受容体媒介性送達媒体である。これらは、ほとんどすべての真核細胞に見られる受容体媒介性エンドサイトーシスによる高分子の選択的取り込みを利用する。種々の受容体の細胞種特異的分布に起因して、送達は非常に特異的となり得る(Wu and Wu, 1993)。
【0229】
受容体媒介性遺伝子ターゲティング媒体は一般に、2つの成分:細胞受容体特異的リガンドおよびDNA結合剤からなる。いくつかのリガンドが、受容体媒介性遺伝子導入に用いられている。最も広範に特徴づけられているリガンドは、アシアロオロソムコイド(ASOR)(Wu and Wu, 1987)およびトランスフェリン(Wanger et al., 1990)である。近年、ASORと同じ受容体を認識する合成ネオ糖タンパク質が遺伝子送達媒体として用いられており(Ferkol et al., 1993;Perales et al., 1994)、上皮増殖因子(EGF)もまた扁平上皮癌細胞に遺伝子を送達するために用いられている(Myers, EPO 0273085)。
【0230】
他の態様において、送達媒体はリガンドおよびリポソームを含み得る。例えば、Nicolauら(1987)は、リポソーム中に取り込んだラクトシル-セラミド、ガラクトース末端アシアルガングリオシドを使用し、肝細胞によるインスリン遺伝子の取り込みの増加を認めた。したがって、特定の遺伝子をコードする核酸はまた、リポソームを用いてまたは用いずに、多数の受容体-リガンド系により1つの細胞種に特異的に送達することが可能である。例えば、上皮増殖因子(EGF)は、EGF受容体の上方制御を示す細胞への核酸の送達を媒介するための受容体として使用され得る。マンノースは、肝臓細胞上のマンノース受容体を標的化するために使用され得る。また、CD5(CLL)、CD22(リンパ腫)、CD25(T細胞白血病)、およびMAA(黒色腫)に対する抗体も、標的化部分として同様に使用される。
【0231】
特定の態様において、遺伝子導入はエキソビボ条件下でより容易に実施され得る。エクスビボ遺伝子治療とは、動物から細胞を単離し、インビトロでそれらの細胞に核酸を送達し、次いで改変した細胞を動物に戻すことを指す。これは、動物からの組織/器官の外科的切除または細胞および組織の初代培養を含み得る。
【0232】
VII. TRPチャネルと反応または阻害する抗体の準備
さらに別の局面において、本発明は本発明のまたはその任意の部分のTRPチャネルに免疫反応または阻害する抗体を意図する。抗体はポリクローナル抗体であってもまたはモノクローナル抗体であってもよく、ヒト化され、一本鎖またはFabフラグメントであってさえもよい。好ましい態様において、抗体はモノクローナル抗体である。抗体を調製する方法および特徴づける方法は、当術分野において周知である(例えば、Harlow and Lane, 1988を参照されたい)。
【0233】
簡潔に説明すると、ポリクローナル抗体は、本発明のポリペプチドを含む免疫原で動物を免疫し、その免疫した動物から抗血清を回収することによって調製する。抗血清を産生させるには、多種多様な動物種を用いることができる。典型的には、抗-抗血清を産生させるに用いられる動物は、ウサギ、マウス、ラット、ハムスター、ブタ、またはウマを含む非ヒト動物である。血液量が比較的多いことから、ポリクローナル抗体の産生にはウサギを選択することが好ましい。
【0234】
当業者に一般に周知であるように、通常の免疫技法を用いて、抗原のアイソフォームに特異的なポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を調製し得る。本発明の化合物の抗原性エピトープを含む組成物を用いて、ウサギまたはマウス等の1匹または複数匹の実験動物を免疫することができ、その後これらの動物は本発明の化合物に対する特異的な抗体を産生することになる。抗体産生のための時間をおいた後、単に動物から採血し、全血から血清試料を調製することにより、ポリクローナル抗血清を得ることができる。
【0235】
本発明のモノクローナル抗体は、ELISA法およびウェスタンブロット法のような標準的な免疫化学的手順、および組織染色のような免疫組織化学的手順、ならびにTRPチャネル関連抗原エピトープに特異的な抗体を利用し得る他の手順において有用な用途を見出すことが提案される。
【0236】
一般に、TRPチャネルに対するポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、および一本鎖抗体を種々の態様において用いることができる。そのような抗体の特に有用な用途は、例えば抗体アフィニティーカラムを用いて、天然または組み換えTRPチャネルを精製することにおいてである。一般的に認められた免疫学的技法すべての操作は、本開示を考慮に入れて当業者に理解されると考えられる。
【0237】
抗体を調製し特徴づける手段は、当技術分野において周知である(例えば、Harlow and Lane, 1988(参照により本明細書に組み入れられる)を参照されたい)。モノクローナル抗体調製のより詳細な例は、以下の実施例に提供する。
【0238】
当技術分野において周知であるように、所与の組成物はその免疫原性が異なり得る。したがって、宿主の免疫系を促進することが必要である場合が多く、これは担体タンパク質にペプチドまたはポリペプチドを結合することによって達成し得る。例示的かつ好ましい担体は、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびウシ血清アルブミン(BSA)である。また、オボアルブミン、マウス血清アルブミン、またはウサギ血清アルブミン等の他のアルブミンも担体として用いることができる。担体タンパク質にポリペプチドを結合する手段は当技術分野において周知であり、これには、グルタルアルデヒド、m-マレイミドベンコイル-N-ヒドロキシスクシニミドエステル(m-maleimidobencoyl-N-hydroxysuccinimide ester)、カルボジイミド、およびビス-ビアゾ化ベンジジン(bis-biazotized benzidine)が含まれる。
【0239】
同様に当技術分野において周知であるように、アジュバントとして知られている免疫応答の非特異的促進剤の使用により、特定の免疫原組成物の免疫原性を増強することができる。例示的かつ好ましいアジュバントには、完全フロイントアジュバント(死滅した結核菌(Mycobacterium tuberculosis)を含む免疫応答の非特異的促進剤)、不完全フロイントアジュバント、および水酸化アルミニウムアジュバントが含まれる。
【0240】
ポリクローナル抗体の産生において用いられる免疫原組成物の量は、免疫原の性質および免疫に用いる動物によって変わる。免疫原を投与するには、様々な経路を用いることができる(皮下、筋肉内、皮内、静脈内、および腹腔内)。免疫後の様々な時点で免疫動物の血液を試料採取することにより、ポリクローナル抗体の産生をモニターすることができる。また、2回目の追加免疫注射を与えてもよい。適切な力価が得られるまで、追加免疫および力価測定を繰り返す。所望のレベルの免疫原性が得られたならば、免疫動物から採血し、血清を単離および保存することができ、および/またはその動物を用いてmAbを作製することができる。
【0241】
参照より本明細書に組み入れられる米国特許第4,196,265号中に例示される技法のような周知の技法を使用することにより、mAbを容易に調製することができる。典型的には、この技法は、選択された免疫原組成物、例えば精製されたまたは部分精製されたTRPチャネル、ポリペプチド、もしくはペプチド、または高レベルのTRPチャネルを発現する細胞で適切な動物を免疫する段階を含む。抗体産生細胞を刺激するのに有効な様式で、免疫する組成物を投与する。マウスおよびラット等の齧歯類が好ましい動物であるが、ウサギ、ヒツジ、カエル細胞の使用もまた可能である。ラットの使用は特定の利点を提供し得るが(Goding, 1986)、マウスが好ましく、BALB/cマウスは最も日常的に用いられ、一般により高いパーセンテージの安定な融合物を与えるのでこれが最も好ましい。
【0242】
免疫後、mAb作製手順において使用するために、抗体を生産する能力を有する体細胞、特にBリンパ球(B細胞)を選択する。生検採取した脾臓、扁桃腺、もしくはリンパ節から、または抹末梢血試料からこれらの細胞を得ることができる。脾臓細胞および末梢血細胞が好ましく、前者はそれらが分裂形質芽球期にある抗体産生細胞の豊富な源であるからであり、後者は末梢血が容易に入手できるからである。一連の動物を免疫し、最も高い抗体価を有する動物の脾臓を摘出し、脾臓をシリンジでホモジナイズすることによって脾臓のリンパ球を得る場合が多い。典型的に、免疫したマウスの脾臓は、約5 x 107〜2 x 108個のリンパ球を含む。
【0243】
次に、免疫動物からの抗体産生Bリンパ球を、一般に免疫した動物と同種のものの不死化骨髄腫細胞の細胞と融合させる。ハイブリドーマを作製する融合手順における使用に適した骨髄腫細胞株は好ましくは抗体を産生せず、高い融合効率、および所望する融合細胞(ハイブリドーマ)のみの生育を支持する特定の選択培地において増殖し得なくする酵素欠失を有する。
【0244】
当業者に周知であるように、多くの骨髄腫細胞のいずれかを用いることができる(Goding, 1986;Campbell, 1984)。例えば、免疫動物がマウスである場合には、P3-X63/Ag8、P3-X63-Ag8.653、NS1/1.Ag 4 1、Sp210-Ag14、FO、NSO/U、MPC-11、MPC-11-X45-GTG 1.7、およびS194/5XX0 Bulを用いることができ;ラットの場合には、R210.RCY3、Y3-Ag 1.2.3、IR983F、および4B210を用いることができ;U-266、GM1500-GRG2、LICR-LON-HMy2、およびUC729-6はすべて細胞融合に関連して有用である。
【0245】
抗体を産生する脾臓またはリンパ節細胞と骨髄腫細胞の雑種の作製方法は通常、細胞膜の融合を促進する1つまたは複数の薬剤(化学的または電気的)の存在下で、体細胞と骨髄腫細胞を2:1の比率(比率はそれぞれ約20:1から約1:1まで変動し得る)で混合する段階を含む。センダイウイルスを用いる融合方法が記載されており(Kohler and Milstein, 1975;1976));37%(v/v)PEG等のポリエチレングリコール(PEG)を用いる融合方法がGefterら(1977)により記載されている。また、電気的誘導融合法の使用もまた適している(Goding, 1986)。
【0246】
融合手順により、通常は約1 x 10-6〜1 x 10-8の低い頻度で生存雑種が生じる。しかし、選択培地で培養することにより生存融合雑種は親の非融合細胞(特に、通常無限に分裂し続ける融合していない骨髄腫細胞)から区別されるため、これは問題ではない。選択培地は一般に、組織培養培地中にヌクレオチドの新規合成を妨げる薬剤を含む培地である。例示的かつ好ましい薬剤は、アミノプテリン、メトトレキセート、およびアザセリンである。アミノプテリンおよびメトトレキセートはプリンおよびピリミジンの両方の新規合成を妨げ、アザセリンはプリン合成のみを妨げる。アミノプテリンまたはメトトレキセートを用いる場合には、ヌクレオチドの供給源として培地にヒポキサンチンおよびチミジンを補充する(HAT培地)。アザセリンを用いる場合には、培地にヒポキサンチンを補充する。
【0247】
好ましい選択培地はHATである。ヌクレオチドサルベージ経路を作動し得る細胞のみが、HAT培地において生存できる。骨髄腫細胞はサルベージ経路の重要な酵素、例えばヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)を欠いており、そのため生存することができない。B細胞はこの経路を作動し得るが、培養において限られた寿命を有し、一般に約2週間以内に死滅する。したがって、選択培地で生存し得る唯一の細胞は、骨髄腫およびB細胞から形成される雑種である。
【0248】
この培養によりハイブリドーマの集団が提供され、これらから特定のハイブリドーマが選択される。典型的には、ハイブリドーマの選択は、マイクロタイタープレートにおける単一クローン希釈により細胞を培養し、次に(約2〜3週後に)個々のクローンの上清を所望の反応性に関して試験することにより行う。ラジオイムノアッセイ、酵素免疫アッセイ、細胞毒性アッセイ、プラークアッセイ、ドット免疫結合アッセイ等のようなアッセイは高感度、単純、かつ迅速であるべきである。
【0249】
次に、選択したハイブリドーマを段階希釈し、個々の抗体産生細胞株になるようにクローニングし、次いでクローンを無限に増殖させてmAbを提供することができる。細胞株は、2つの基本的な方法でmAb産生のために利用し得る。最初の融合のために体細胞および骨髄腫細胞を提供するのに用いた種類の組織適合性動物に(腹腔中である場合が多い)、ハイブリドーマの試料を注入し得る。注入された動物は、融合細胞雑種により生産される特定のモノクローナル抗体を分泌する腫瘍を生じる。次いで、血清または腹水等の動物の体液を採取し、高濃度のmAbを提供することができる。また、個々の細胞株をインビトロで培養することもでき、その場合mAbは培地中に自然に分泌され、培地からmAbを容易に高濃度で得ることができる。必要に応じて、濾過、遠心分離、およびHPLCまたはアフィニティークロマトグラフィーのような種々のクロマトグラフィー方法を使用し、いずれかの手段によって産生されたmAbをさらに精製してもよい。
【0250】
VIII. 定義
本明細書において用いる「心不全」という用語は、心臓が血液を拍出する能力を減少させる任意の状態を意味するために広範に使用される。結果として、組織においてうっ血および浮腫が起こる。心不全は、冠血流の減少による心筋収縮性の低下よって起こる頻度が最も高い;しかし、心臓弁の損傷、ビタミン不足、および原発性心筋疾患を含む多くの他の因子も心不全を生じ得る。心不全の正確な生理学的機構は完全に理解されていないが、心不全は一般に、交感神経、副交感神経、および圧受容体応答を含むいくつかの心臓自律神経特性における障害が関与すると考えられている。「心不全の症状発現」という語句は、心不全に伴う検査知見を含む、息切れ、圧痕浮腫、圧痛のある肝臓の拡大、頸静脈怒張、肺ラ音等の心不全に伴う続発症をすべて包含するために広範に使用される。
【0251】
「処置」という用語または文法上の等価物は、心不全の症状(すなわち、心臓が血液を拍出する能力)の改善および/または好転を含む。心臓の「生理機能の改善」は、本明細書において記載する測定(例えば、駆出率、短縮率、左心内径、心拍数の測定)のいずれか、および動物の生存に及ぼす任意の効果を使用して評価し得る。動物モデルの使用においては、処置したトランスジェニック動物および未処置のトランスジェニック動物の応答を、本明細書中に記載するアッセイ法のいずれかを用いて比較する(さらに、対照として、処置および未処置の非トランスジェニック動物も含め得る)。その結果、本発明のスクリーニング方法において使用される心不全に関連した任意のパラメーターの改善をもたらす化合物が、治療化合物として同定され得る。
【0252】
「化合物」という用語は、身体機能の疾患、疾病、病気、または障害を処置または予防するために使用し得る任意の化学物質、調合薬、薬剤等を指す。化合物および化学物質は、既知治療化合物および潜在的治療化合物の両方を含む。化合物および化学物質は、本発明のスクリーニング方法を使用するスクリーニングによって、治療薬であると決定され得る。「既知治療化合物」とは、このような処置において効果的であることが示されている(例えば、動物試験または過去のヒトへの投与経験を介して)治療化合物を指す。言い換えると、既知治療化合物は心不全の処置において有効な化合物に限定されない。
【0253】
本明細書において使用する「心肥大」という用語は、成体心筋細胞が肥大増殖を介するストレスに応答する過程を指す。このような増殖は、細胞分裂を伴わない細胞サイズの増加、力の発生を最大限にするための細胞内におけるさらなるサルコメアの構築、および胎児性心臓遺伝子プログラムの活性化によって特徴づけられる。心肥大は罹患率および死亡率の危険性の増大と関連する頻度が高く、したがって、心肥大の分子機構の理解を目的とする研究は、ヒトの健康に対する影響が大きいと考えられる。
【0254】
本明細書において使用する「拮抗薬」および「阻害剤」という用語は、心不全または心肥大に関連し得る細胞性因子の作用を阻害する分子、化合物、または核酸を指す。拮抗薬は、これらの天然化合物と高次構造、電荷、または他の特徴に関して類似しているかもしれないし、類似していないかもしれない。したがって、拮抗薬は、作用薬によって認識される受容体と同じまたは異なる受容体によって認識され得る。拮抗薬は、作用薬の作用を妨げるアロステリック効果を有し得る。または、拮抗薬は作用薬の機能を防げ得る。作用薬とは対照的に、拮抗化合物は細胞において、細胞が細胞性因子が存在するかのように同じ様式で拮抗薬の存在に反応するような病理的および/または生化学的変化を生じない。拮抗薬および阻害剤には、タンパク質、核酸、炭水化物、または関心対象の受容体、分子、および/もしくは経路と結合するもしくは相互作用する任意の他の分子が含まれ得る。
【0255】
本明細書において使用する「調節する」という用語は、生物学的活性の変化または変更を指す。調節は、タンパク質活性の増加もしくは減少、キナーゼ活性の変化、結合特性の変化、または関心対象のタンパク質もしくは他の構造の活性に関連した生物学的、機能的、もしくは免疫学的特性における任意の他の変化であってよい。「モジュレーター」という用語は、上記のように生物活性を変化または変更し得る任意の分子または化合物を指す。
【0256】
IX. 実施例
本発明の様々な局面をさらに例示するために下記の実施例を含める。下記の実施例に開示される技法は、本発明の実施にうまく機能することが本発明者によって見出された技法および/または組成物を表し、したがってその実施のための好ましい様式を構成するとみなせることが当業者によって認識されるべきである。しかし、当業者は本開示に照らして開示された特定の態様に多くの変更を行って、本発明の精神および範囲から逸脱することなく同様または類似の結果をなお得られることを認識すべきである。
【0257】
実施例1 材料と方法
NRVMの培養。新生ラット心室筋細胞(NRVM)の調製のために、新生(1〜2日齢)Sprague-Dawleyラット10〜20匹から心臓を取り出した。単離した心室をプールし、細かく切って、II型コラゲナーゼ(65U/ml、Worthington)およびパンクレアチン(0.6mg/ml、GibcoBRL)を含有するAds緩衝液(116mM NaCl、20mM HEPES、10mM NaH2PO4、5.5mM グルコース、5mM KCl、0.8mM MgSO4、pH7.4)中で37℃で20分間のインキュベーションを3回行って分散させた。40.5v/v%および58.5v/v%パーコール(Amersham Biosciences)の不連続勾配を分散した細胞に適用して遠心分離し、界面層から筋細胞を収集した。10v/v%ウシ胎仔血清(FBS, HyClone)、4mM L-グルタミンおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシンを補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM, Cellgro)に筋細胞調製物を入れて37℃で1時間、前培養して線維芽細胞の混入を減らし、次に0.2w/v%ゼラチン溶液でコートした6ウェル組織培養平板でウェル1個あたり細胞2.5×105個の密度(または96ウェル組織培養平板で細胞10,000個/ウェル)で平板培養した。
【0258】
培養24時間後に筋細胞調製物を無血清維持培地(0.1v/v%ニュートリドーマ(Roche)、L-グルタミンおよびペニシリン/ストレプトマイシンを補充したDMEM)に移した。カルシニューリンアデノウイルスを感染させるために、分析前にNRVMに感染多重度(MOI)25のアデノウイルスを48時間曝露した。表示があるならば、NRVMをフェニレフリン(20mM、Sigma)、FBS(10%)、または2-APB(Cayman Chemical)で48時間処理した。
【0259】
Gene-Chipによるスクリーニング。未刺激NRVMおよびフェニレフリン(Trizol Reagent、GibcoBRL)を曝露した肥大NRVMからRNAを抽出した。RNA試料をビオチン標識cRNAに変換し、ラット発現アレイ(Affymetrix GeneChip)とハイブリダイズさせた。次にアレイを洗浄し、スキャンして製造業者の使用説明書のとおり定量した。
【0260】
ウエスタンブロット。タンパク質試料の調製のために、プロテアーゼ阻害剤(1mM AEBSF、10mg/mlアプロチニン、0.1mMロイペプチン、2mM EDTA)を補充した抽出緩衝液(50mM トリス、pH7.5、150mM NaCl、1%トリトン X-100、0.5%デオキシコール酸、0.1% SDS)に入れて細胞を溶解させた。左心室試料を液体窒素で粉砕し、プロテアーゼ阻害剤を含有する抽出緩衝液に溶解した。ホモジネートを16,000gで4℃で10分間遠心分離して上清を回収した。ウシ血清アルブミンを標準としてビシンコニン酸法(BCA Protein Assay、Pierce)でタンパク質濃度を決定した。等量のタンパク質試料(10mg/レーン)をLaemmli緩衝液中で変性させ、トリス-グリシンSDS-PAGEゲル(4〜20%アクリルアミド勾配、Invitrogen)で分割した。分割後のタンパク質をニトロセルロース膜に移動させ、5%脱脂粉乳でブロッキングし、5%脱脂粉乳を補充したウサギポリクローナル一次抗体(TBST中で希釈;50mM トリス、pH7.5、150mM NaCl、0.1% Tween-20)で探査した。使用した一時抗体には、抗TRPC1およびTRPC3(Alomone Labs)、ならびに抗MCIP1(Myogen, Inc)がある。膜を洗浄し、ヤギ抗ウサギホースラディッシュペルオキシダーゼ複合二次抗体(Southern Biotechnology Associates)で探査し、増感化学ルミネセンス(SuperSignal試薬、Pierce)用に加工した。等しいタンパク質の負荷を立証するために、次に膜をハウスキーピング遺伝子であるIP90-カルネキシンに対するウサギポリクローナル抗体で再探査した。免疫反応性バンド像のデンシトメトリー分析をChemiImager(Alpha Innotech)を使用して行った。
【0261】
肥大および毒性のアッセイ。NRVMについての一次肥大の終点は、ANF分泌、細胞総タンパク質および細胞体積の定量を含んだ。培地上清中のANFを、モノクローナル抗ANF抗体(Biodesign)およびビオチン化ANFペプチド(Phoenix Peptide)を使用した競合ELISAによって定量した。細胞総タンパク質を標準的なクマシー色素結合アッセイによって定量した。細胞をタンパク質アッセイ試薬(BioRad)中で溶解させ、A595での吸光度を1時間後に測定した。細胞体積の測定のために6ウェルの皿に培養したNRVMをトリプシン(Cellgro)で処理して採取した。遠心分離で回収した後で、細胞のペレットをPBSに入れて洗浄し、IsoFlow電解質溶液(Beckman-Coulter)10mlに再懸濁してZ2 Coulter粒子計数器およびサイズ分析器(Beckman-Coulter)で分析した。培養NRVMから培地へのアデニル酸キナーゼ(AK)の放出を測定することによって細胞毒性を定量した(ToxiLight kit, Cambrex)。
【0262】
実施例2 インビボモデル
経胸大動脈バンディング(TAB)。長時間左開胸および大動脈結紮するために雄性Sprague-Dawleyラット(Harlan, Indianapolis, Ind;8〜9週齢、200〜225g)を5%イソフルラン(v/v100% 02)で麻酔して、挿管し、陽圧換気で2.0%イソフルランに維持した。第3肋間を介して左開胸術を施行し、大動脈と奇静脈との交点に対して3〜4mm頭側の胸部下行大動脈を単離した。次に、単離した大動脈周囲に5-0絹縫合糸の部分を配置して結紮糸として機能させた。先端を鈍くした皮下注射針(体重によりゲージを決定)を大動脈と結紮糸との間に配置して縫合糸を結んだときに大動脈が完全に閉塞するのを予防した。結び終わったときに、針を大動脈と結紮糸との間から抜き、血流を再確立した。次に、胸郭を閉じ、胸の空気を抜いた。7日間回復させた後で、動物を屠殺して、上記のように左心室組織をウエスタンブロット分析用に加工した。体重に対する心臓重量の比の平均は、疑似手術ラットに対する結紮ラットで1週間目に22%増加した(データは示さず)。
【0263】
イソプロテレノール注入。インビボで肥大を薬理学的に誘導するために、9から10週齢の雄性Sprague-Dawleyラットを、2.0%イソフルランの受動吸入によって麻酔した。外科麻酔のレベルに達したとき、ビヒクル(0.9% NaCl中アルコルビン酸0.1%)またはイソプロテレノール(4.8mg/kg/d)のいずれかを含有する浸透圧ミニポンプ(Alzet model 2001, Alza Corp., Palo Alto, CA)を、肩甲骨の間の背部皮下に埋込んでから、3-0絹縫合糸で閉じた。4日間回復させた後に動物を屠殺して、上記のように左心室組織をウエスタンブロット分析用に加工した。体重に対する心臓重量の比の平均は、ビヒクル注入ラットに対するイソプロテレノールラットで48%増加した(データは示さず)。
【0264】
SHHFモデル。SHHF-Mcc-facpラット(SHHF)は、自然発症高血圧および心不全について選択的に育種された遺伝モデルである。非肥満雄性SHHFラットを本研究に使用し、コロラド大学ボルダー校のコロニーから入手した。呼吸困難、立毛、チアノーゼ、腹水貯留、胸水、冷たい尾および四肢の発生、ならびに心臓および肺の検死検査によってCHFの開始を決定した。
【0265】
実施例3 結果
肥大心筋細胞のトランスクリプトーム分析(transcriptomic analysis)。本発明者らは非肥大新生ラット心室筋細胞(NRVM)とアドレナリン作動薬フェニレフリン(PE)で肥大を被るように刺激された筋細胞とで異なって発現した遺伝子のトランスクリプトーム調査を行った。NRVMから単離されたRNAを標識して、Affymetrix GeneChipラット発現アレイとハイブリダイズさせ、スキャンして定量した。フェニレフリン依存性肥大の間に誘導されることが観察された一部の遺伝子の要約を表4に挙げる。
【0266】
(表4)

【0267】
示したように、フェニレフリンによって胎児性ミオシンH鎖、脳および心房ナトリウム利尿ペプチド、骨格筋αアクチン、およびカルシニューリン誘導遺伝子MCIP1を含めた公知の肥大マーカーの発現が誘導された。さらに、本発明者らは電位非依存性陽イオンチャネルTRPC3のmRNA発現が肥大心筋細胞で19倍増加したことを観察した。このチャネルの発現増加は、心筋細胞肥大に関連して以前に記載されたことはない。
【0268】
肥大心筋細胞でのTRPチャネルの発現。肥大心筋細胞でTRPC3タンパク質の発現が誘導されたことを独立して確認するために、フェニレフリン、ウシ胎仔血清または活性化カルシニューリンという三つの異なる肥大刺激を曝露した培養NRVMからのタンパク質抽出物についてTRPC3抗体を用いたウエスタンブロット分析を行った(図1)。三つの肥大刺激全ては心筋細胞でのTRPC3チャネルタンパク質の発現を有意に増加させた。
【0269】
心肥大および心不全のインビボモデルにおけるTRPチャネルの発現。次に本発明者らは、胸部大動脈バンディング(生理学的モデル)によって誘導される過剰な圧負荷、イソプロテレノール長期注入(薬理学的モデル)、および自然発症高血圧心不全ラット(遺伝学的モデル)という心肥大および心不全の三つの異なるインビボげっ歯類モデルでTRPチャネルタンパク質の発現を検討した。図2に示すように、胸部大動脈バンディングに供された動物の左心室で約2倍のTRPC3タンパク質の発現が誘導された。同じく、イソプロテレノール長期注入は約3倍の心室TRPC3タンパク質の発現を誘導した(図3)。本発明者らは、最後に拡張型心筋症の遺伝モデルである自然発症高血圧心不全ラット(SHHF)でのTRPC3およびTRPC1チャネルの発現を検討した。10〜12週齢からSHHFラットは収縮期圧が145〜210mmHgの範囲の高血圧である。16〜22月齢までに非肥満の雄は心室肥大を発生して、それは拡張型心筋症に進行する。図4に示すように2月齢の高血圧前のSHHFラットは比較的低レベルの心室TRPC3およびTRPC1タンパク質を発現した。対照的に心不全状態の19月齢のSHHFラットからの心室は、有意に多量のTRPC3およびTRPC1タンパク質(それぞれ約3倍および2倍)を発現した。
【0270】
心筋細胞におけるTRPチャネルの拮抗作用。心肥大の発生にTRPチャネルが果たしうる機能的役割を評価するために、本発明者らは、TRPチャネル作動薬2-アミノ-エトキシジフェニルボラン(2-APB)が、心房ナトリウム利尿因子の発現、細胞総タンパク質、細胞体積およびMCIP1の発現(カルシニューリン活性の内因性指標)によって測定されるようなフェニレフリン誘導性心筋細胞肥大を軽減できるかどうかを検討した。 CRACチャネル活性の公知の薬理学的阻害剤である2-APBは、IP3受容体とTRPチャネルとの間のシグナル伝達を遮断することによって作用すると考えられる(Shindl et al., 2002)。しかし、チャンネルの拮抗作用は直接でも起こりうるという証拠がいくつかある(Gregory et al., 2001)。リアノジン受容体(Maruyama et al., 1997)、電位依存性カルシウムチャネル(Maruyama et al., 1997)、アラキドン酸活性化カルシウムチャネル(Luo et al., 2001)、S-ニトロシル化活性化カルシウムチャネル(Van Rossum et al., 2000)、カルシウム活性化塩化物チャネル(Chorna-Ornan et al., 2001)、またはP2Xプリン受容体カルシウムチャネルを含めた他のカルシウムチャネルは、2-APBによって阻害されない。
【0271】
培養心筋細胞での2-APBの潜在的細胞毒性を評価するために、0.3〜30μMの濃度範囲の2-APBと共にNRVMを48時間インキュベートした。図5に示すようにどの濃度の2-APBでも、アデニル酸キナーゼの放出(細胞毒性決定するための標準法)によって測定される有意な毒性は観察されなかった。他の種類の(非筋細胞である)細胞に2-APBをインビトロで使用するための公表された濃度は、30〜75μM範囲である。
【0272】
2-APBが心肥大の様々な指数を軽減可能かどうか決定するために、漸増する濃度の2-APBと一緒にフェニレフリンとNRVMを48時間刺激した。心房ナトリウム利尿因子の分泌は、心筋細胞肥大の最も高感度の指標の一つである。図6に示すように、2-APBはPEに依存するANFの分泌を濃度依存的に効果的に弱めた。カルシニューリンは、様々な肥大刺激に反応して活性化し、それは次には28kDaのカルシニューリン相互作用タンパク質MCIP1の発現を刺激する(Yang et al., 2000)。フェニレフリンは、カルシニューリンの活性化に一致して28kDaのMCIP1タンパク質の発現を強く誘導した(図7)。2-APBを用いた処理は、カルシニューリンのシグナル伝達の阻害に一致して28kDaのMCIP1タンパク質の誘導を弱めた。より高分子量38kDaカルシニューリン非依存性MCIP1アイソフォームの発現(Bush、未公表の観察)は、PEと2-APBとのどちらにも影響されなかった。やや高用量の2-APB(10〜30マイクロモル濃度)も、細胞総タンパク質(図8)および細胞体積(図9)におけるPE依存性増加の阻害に有効であった。
【0273】
心肥大の三つのげっ歯類モデルでのTRPチャネルの分別発現。本発明者らは次にウエスタンブロットを行って、心肥大および心不全の三つの異なるインビボげっ歯類モデル、すなわちイソプロテレノール長期注入(薬理学的モデル)、胸部大動脈バンディングにより誘導される過剰な圧負荷(生理学的モデル)、および自然発症高血圧心不全ラット(遺伝学的モデル)でのTRPC3、TRPC1、TRPC4、TRPC5およびTRPC6タンパク質の発現を測定した。様々なモデルでのTRPCアイソフォームの発現のデンシトメトリー分析をまとめた表5を下記に表示する。TRPC3の発現増加は三つのモデルの全てで共通の特性であった。対照的に、SHHF、TABおよびイソプロテレノールモデルではそれぞれTRPC1、TRPC4およびTRPC5の発現増加が特異的に観察された。これらの観察は、別個の肥大刺激が異なるパターンのTRPチャネル発現を誘発することを示している。三つのげっ歯類モデルのどれでもTRPC6の発現は増加していなかった。
【0274】
(表5)

【0275】
不全ヒト心臓におけるTRPC5チャネルの発現増加。本発明者らは、次に非不全および不全(突発性拡張型心筋症)ヒト心臓から単離した左心室組織でのTRPチャネルタンパク質の発現の発現を検討した。図10に示すように、不全ヒト心臓ではTRPC5の発現は約2倍増加した。
【0276】
本明細書において開示および請求された全ての組成物および方法を、本開示に照らして過度の実験なしに作成および実行できる。本発明の組成物および方法が好ましい態様に関して記載されているが、本発明の概念、精神および範囲から逸脱することなしに、本明細書に記載された組成物および方法に対して、ならびにそれらの方法の段階または一連の段階に、変形を適用できることは当業者に明白であろう。さらに具体的には、化学的および生理学的の両方で関係するある種の薬剤を本明細書に記載した薬剤の代わりに用いても、同様または類似の結果に達しうるであろうことが明白であろう。当業者に明白なそのような類似の代用および修正は、添付の特許請求の範囲に定義される本発明の精神、範囲および概念の範囲内であると考えられる。
【0277】
X. 参照
下記の参照は、本明細書に記載された詳細を補足する例示的な手順などの詳細を提供する程度に、参照として本明細書に具体的に組み込まれている。
米国特許第4,166,452号
米国特許第4,256,108号
米国特許第4,265,874号
米国特許第4,415,732号
米国特許第4,458,066号
米国特許第5,354,855号
米国特許第5,604,251号
米国特許第5,708,158号
米国特許第5,795,715号
米国特許第5,889,136号
米国特許第6,372,957号
米国特許出願第2002/256221号
米国特許出願第2002/103192号
米国特許出願第2002/65282号
米国特許出願第2002/61860号

オーストラリア特許第6,794,700号
オーストラリア特許第9,013,101号
オーストラリア特許第9,013,201号
オーストラリア特許第9,013,401号



欧州特許出願第0273085号
欧州特許第1,170,008号。
欧州特許第1,123,111号。
欧州特許第1,173,562号。
欧州特許第1,174,438号。
欧州特許第1,208,086号。
欧州特許第1,233,958号。







PCT出願WO00/44914
PCT出願WO01/14581
PCT出願WO01/18045
PCT出願WO01/36646
PCT出願WO01/38322
PCT出願WO01/42437
PCT出願WO01/68836
PCT出願WO01/70675
PCT出願WO02/26696
PCT出願WO02/26703
PCT出願WO02/30879
PCT出願WO02/46129
PCT出願WO02/46144
PCT出願WO02/50285
PCT出願WO02/51842
PCT出願WO84/03564
PCT出願WO98/33791
PCT出願WO99/32619





【図面の簡単な説明】
【0278】
下記の図面は本明細書の一部を形成し、本発明のある局面をさらに実証するために含まれる。本明細書に表示された具体的な態様の詳細な記載と組み合わせて一つまたは複数のこれらの図面を参照することによって、本発明をより十分に理解できる。
【図1】培養心筋細胞において多様な肥大刺激はTRPC3タンパク質の発現を増加させる。未刺激のNRVMおよびフェニレフリン(20mM)、ウシ胎仔血清(10%)または活性カルシニューリンを構成的にコードするアデノウイルス(感染多重度=25)で刺激したNRVMから単離されたタンパク質に対する抗TRPC3一次抗体を用いたウエスタンブロット分析。
【図2A−B】過剰な圧負荷による肥大のインビボモデルにおいて心臓TRPC3タンパク質の発現は増加している。(図2A)疑似手術した動物および胸部大動脈バンディングに供した動物から単離された左心室タンパク質に対する抗TRPC3一次抗体を用いたウエスタンブロット分析。IP90ハウスキーピング遺伝子に対する一次抗体を用いた連続ウエスタンブロットによって立証された負荷の同等性。(図2B)デンシトメトリーによるTRPC3シグナルの定量。
【図3A−B】肥大の薬理学的モデルにおいて心臓TRPC3の発現はインビボで増加している。(図3A)生理食塩水(コントロール)またはイソプロテレノールを長期注入した動物から単離した左心室タンパク質に対する抗TRPC3一次抗体を用いたウエスタンブロット分析。IP90ハウスキーピング遺伝子に対する一次抗体を用いた連続ウエスタンブロットによって立証された負荷量の同等性。(図3B)デンシトメトリーによるTRPC3シグナルの定量。
【図4A−B】肥大および心不全の遺伝モデルにおいて心臓TRPC3およびTRPC1タンパク質の発現は増加している。(図4A)2月齢、8〜9月齢および19月齢のSHHFラットから単離された左心室タンパク質に対する抗TRPC3および抗TRPC1一次抗体を用いたウエスタンブロット分析。(図4B)デンシトメトリーによるTRPC3およびTRPC1シグナルの定量。
【図5】培養心筋細胞において化合物2-APBは有意な細胞毒性を生じない。漸増する濃度の2-APBと共に48時間培養したNRVMでのアデニル酸キナーゼ(AK)の放出による細胞毒性の定量。NRVMを0.1%Triton X-100で処理することによって提供された細胞毒性に関する正の制御(点線、約6倍の増加)。未刺激の無2-APBコントロールに対するAK放出の変化倍率としてプロットしたデータ(±SE)。
【図6】化合物2-APBはPEに依存するANFの分泌誘導を減弱する。漸増する濃度の2-APBを48時間曝露した、未刺激およびPEで刺激したNRVMにおけるANF分泌の定量。ng/mlのANF(±S.E.)としてプロットしたデータ。
【図7】化合物2-APBはカルシニューリンによって調節される28kDaのMCIP1タンパク質のPE依存性誘導を減弱する。漸増する濃度の2-APBの存在下での未刺激NRVM(左欄)およびPEで刺激したNRVM(右欄)から単離したタンパク質に対する抗MCP1一次抗体を用いたウエスタンブロット分析。
【図8】化合物2-APBはPEに依存する細胞総タンパク質の増加を減弱する。漸増する濃度の2-APBを48時間曝露した未刺激のNRVMおよびPEで刺激したNRVMにおける細胞総タンパク質の定量。A595での総タンパク質の吸光度としてプロットしたデータ(±S.E.)。
【図9】化合物2-APBはPEに依存する心筋細胞の体積増加を減弱する。漸増する濃度の2-APBを48時間曝露した未刺激のNRVMおよびPEで刺激したNRVMの細胞体積の測定。フェムトリットル単位の細胞体積としてプロットしたデータ(±S.E.)。
【図10】不全ヒト心臓において心臓TRPC5の発現は増加している。図10A-非不全ヒト心臓および不全ヒト心臓から単離された左心室タンパク質に対する、抗TRPC5一次抗体を用いたウエスタンブロット分析。IP90/カルネキシンハウスキーピング遺伝子に対する一次抗体を用いた連続ウエスタンブロットによって立証した負荷の同等性。図10BデンシトメトリーによるTRPC5シグナルの定量。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、心肥大または心不全を処置する方法:
(a)心肥大または心不全を有する患者を同定する段階;および
(b)該患者にTRPチャネルの阻害剤を投与する段階。
【請求項2】
阻害剤が、TRPCチャネルを阻害する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
阻害剤が、TRPC1、TRPC3、TRPC4、TRPC5またはTRPC6のうち一つまたは複数を阻害する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
阻害剤が、抗体、RNAi、リボザイム、ペプチド、低分子、アンチセンス分子、2-ABP、D-myoI-INS(1,4,5)P3、ガドリニウム、抗G(q/11)抗体、U-73122、La3+、フルフェナム酸、PPI、ランタンまたは濃縮した皮層Fアクチンからなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
抗体が、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト化抗体、Fabフラグメントまたは一本鎖抗体である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
投与が、阻害剤の静脈内投与を含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
投与が、阻害剤の経口、経皮、徐放、坐剤または舌下投与を含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
患者に第二の治療レジメンを施すことをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
第二の治療レジメンが、β遮断剤、変力物質、利尿薬、ACE-I、AII拮抗薬、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤およびCa(++)遮断剤からなる群より選択される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
第二の治療レジメンが、阻害剤と同時に施される、請求項8記載の方法。
【請求項11】
第二の治療レジメンが、阻害剤の前または後のいずれかに施される、請求項8記載の方法。
【請求項12】
処置が、心肥大の一つまたは複数の症状を改善する段階を含む、請求項1記載の方法。
【請求項13】
一つまたは複数の症状が、増加した運動能力、増加した血液駆出量、左室拡張末期圧、肺毛細血管楔入圧、心拍出量、心係数、肺動脈圧、左室収縮末期径および拡張末期径、左心室および右心室の壁応力または壁張力、生活の質、疾患関連罹患率ならびに死亡率を含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
処置が、心不全の一つまたは複数の症状を改善する段階を含む、請求項1記載の方法。
【請求項15】
一つまたは複数の症状が、進行性のリモデリング、心室拡大、減少した心拍出量、ポンプ性能障害、不整脈、線維症、壊死、エネルギー枯渇、およびアポトーシスを含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
以下の段階を含む、心肥大または心不全を予防する方法:
(a)心肥大または心不全の危険性のある患者を同定する段階;
(b)該患者にTRPチャネルの阻害剤を投与する段階。
【請求項17】
TRPチャネルが、TRPCチャネルである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
TRPCチャネルが、TRPC1、TRPC3、TRPC4、TRPC5またはTRPC6のうち一つまたは複数である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
投与が、TRPチャネル阻害剤の静脈内投与を含む、請求項16記載の方法。
【請求項20】
投与が、経口、経皮、徐放、坐剤または舌下投与を含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
危険性のある患者が、長年のコントロール不良の高血圧症、矯正されていない弁膜症、慢性アンギナおよび/または最近の心筋梗塞のうちの一つまたは複数を表しうる、請求項16記載の方法。
【請求項22】
TRPチャネル阻害剤が、抗体、RNAi、リボザイム、ペプチド、低分子、アンチセンス分子、2-ABP、D-myoI-INS(1,4,5)P3、ガドリニウム、抗G(q/11)抗体、U-73122、La3+、フルフェナム酸、PPI、ランタンまたは濃縮した皮層Fアクチンからなる、請求項16記載の方法。
【請求項23】
抗体が、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト化抗体、Fabフラグメントまたは一本鎖抗体である、請求項4記載の方法。
【請求項24】
以下の段階を含む、心臓TRPCチャネル活性の阻害剤を同定する方法であって、未処理細胞のTRPCチャネル活性に比べた心筋細胞TRPCチャネル活性の減少から、候補物質を心臓TRPCチャネル活性の阻害剤として同定する方法:
(a)心筋細胞を提供する段階;
(b)該心筋細胞を阻害剤の候補物質と接触させる段階;および
(c)該心筋細胞上のTRPCチャネルによって媒介される活性を測定する段階。
【請求項25】
TRPCチャネルによって媒介される活性が、カルシウム流入、カルシニューリン活性、MCIPのタンパク質レベル、MCIPのRNAレベルまたはNF-AT3介在性遺伝子発現を含む、請求項23記載の方法。
【請求項26】
TRPCチャネルが、内因性にか、または誘導された過剰発現によるかのいずれかで、無傷細胞に局在する、請求項24記載の方法。
【請求項27】
心筋細胞が、新生ラット心室筋細胞である、請求項24記載の方法。
【請求項28】
心筋細胞が、無傷心臓に局在する、請求項24記載の方法。
【請求項29】
心臓が、ヒト心臓である、請求項28記載の方法。
【請求項30】
以下の段階を含む、心不全または肥大の阻害剤を同定する方法であって、TRPチャネル阻害剤で処理されていない筋細胞での一つまたは複数の心肥大パラメータに比べた該一つまたは複数の心肥大または心不全パラメータの変化が、該TRPチャネル阻害剤を心不全または心肥大の阻害剤として同定する方法
(a)TRPチャネル阻害剤を提供する段階;
(b)筋細胞を該TRPチャネル阻害剤で処理する段階;および
(c)一つまたは複数の心肥大または心不全パラメータの発現を測定する段階。
【請求項31】
一つまたは複数の心肥大パラメータの肥大反応を誘発する刺激を筋細胞に供する、請求項30記載の方法。
【請求項32】
刺激が、導入遺伝子の発現である、請求項31記載の方法。
【請求項33】
刺激が、化学物質を用いた処置である、請求項31記載の方法。
【請求項34】
もう一つの心肥大パラメータが筋細胞での一つまたは複数の標的遺伝子の発現レベルを含み、該一つまたは複数の標的遺伝子の発現レベルが心肥大を示す、請求項33記載の方法。
【請求項35】
一つまたは複数の標的遺伝子が、ANF、α-MyHC、β-MyHC、骨格筋αアクチン、SERCA、チトクロームオキシダーゼサブユニットVIII、マウスT複合タンパク質、インスリン成長因子結合タンパク質、タウ微小管関連タンパク質、ユビキチンカルボキシル末端ヒドロラーゼ、Thy-1細胞表面糖タンパク質またはMyHCクラスI抗原からなる群より選択される、請求項34記載の方法。
【請求項36】
発現レベルが、標的遺伝子プロモータに作動可能に連鎖したレポータータンパク質コード領域を使用して測定される、請求項30記載の方法。
【請求項37】
レポータータンパク質が、ルシフェラーゼ、β-galまたは緑色蛍光タンパク質である、請求項36記載の方法。
【請求項38】
発現レベルが、標的mRNAまたは増幅した核酸産物に対する核酸プローブのハイブリダイゼーションを使用して測定される、請求項30記載の方法。
【請求項39】
一つまたは複数の心肥大パラメータが、細胞形態の一つまたは複数の局面を含む、請求項30記載の方法。
【請求項40】
細胞形態の一つまたは複数の局面が、サルコメアの集合、細胞サイズ、細胞融合または細胞収縮性を含む、請求項39記載の方法。
【請求項41】
筋細胞が、単離された筋細胞である、請求項30記載の方法。
【請求項42】
筋細胞が、単離された無傷組織に含まれる、請求項30記載の方法。
【請求項43】
筋細胞が、心筋細胞である、請求項30記載の方法。
【請求項44】
心筋細胞が、新生ラット心室筋細胞である、請求項43記載の方法。
【請求項45】
心筋細胞が、機能している無傷心筋にインビボで局在する、請求項44記載の方法。
【請求項46】
一つまたは複数の心肥大パラメータの心不全または肥大反応を誘発する刺激を機能している無傷心筋に供する、請求項45記載の方法。
【請求項47】
刺激が、大動脈バンディング、迅速心臓ペーシング、誘導性心筋梗塞、浸透圧ミニポンプまたは導入遺伝子の発現である、請求項46記載の方法。
【請求項48】
一つまたは複数の心肥大パラメータが、右心室駆出率、左心室駆出率、心室壁厚、心重量/体重比または心重量の標準化測定を含む、請求項47記載の方法。
【請求項49】
一つまたは複数の心肥大パラメータが、総タンパク質合成を含む、請求項30記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2007−511528(P2007−511528A)
【公表日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−539912(P2006−539912)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【国際出願番号】PCT/US2004/037858
【国際公開番号】WO2005/049084
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(500039463)ボード・オブ・リージエンツ,ザ・ユニバーシテイ・オブ・テキサス・システム (115)
【出願人】(506163526)ミオゲン インコーポレイティッド (5)
【Fターム(参考)】