説明

心臓細胞におけるホスファターゼ活性の調節

心臓細胞におけるホスファターゼ阻害剤の発現は、心疾患、例えば心不全、を治療するために使用できる。ホスファターゼ活性を低下させることは、βアドレナリン反応を改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願/特許及び参照による援用)
本出願は、2004年9月9日に出願された米国特許出願第60/608,214号、に係る優先権を主張するものであり、この出願の内容を参照して本明細書に取り込む。
本明細書において引用する特許出願及び特許の各々、並びに特許出願及び特許の各々において引用される各々の資料又は参考文献(各々の発行済み特許の出願・審査期間を含む;「特許出願引用資料」)、及びこれらの特許出願及び特許のいずれかに対応する及び/又はその優先権を主張するPCT及び国外出願の各々、及び特許出願引用資料の各々において引用される又は参照される試料の各々は、参照により明白に本明細書中に組み込まれ、本発明の実施において使用され得る。より一般的には、資料又は参考文献は、特許請求の範囲に先立つ「参考文献リスト」又は本文自体のいずれかにおいて、本文中で引用され、これらの資料又は参考文献の各々(「ここで引用される参考文献」)、並びにここで引用される参考文献の各々の中で引用される各々の資料又は参考文献(製造者の仕様書、指示書等を含む)は、参照により明白に本明細書中に組み込まれる。
【0002】
(政府が保有する利益に関する記載)
米国政府は、アメリカ国立衛生研究所からの助成番号HL64018、HL52318、HL57623、HL26057、DK36569及びHL07382−27によって本発明における一定の権利を有するものである。
【背景技術】
【0003】
可逆性タンパク質リン酸化は、外部エフェクター分子と細胞内事象の間の微細なクロストークを媒介する、鍵となるシグナル伝達経路の組込みのための細胞の機序である。心臓では、Ca2+循環及び収縮性は、様々なセカンドメッセンジャーのシグナルに応答して、プロテインキナーゼとホスファターゼ活性の微妙なバランスによって制御される。
【0004】
闘争−逃走状況の間の、心臓ポンプ作用への需要は、ヒトの心拍出量をほぼ5倍上昇させることができ、これはcamp依存性プロテインキナーゼ(PKA)のβアドレナリン作動性活性化に結びつく。PKAは、次に、興奮−収縮連関サイクルを制御する、鍵となる調節性のカルシウム(Ca2+)ハンドリングタンパク質のセット、例えばホスホランバン、リアノジン受容体、L型Ca2+チャネル及びトロポニンI(Bers, D.M., 2002 Nature;415:198-205)をリン酸化する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
心臓ポンプ作用の上昇の基礎となる、プロテインキナーゼ及びそれらのホスホプロテイン基質は十分に特徴づけられているが、心臓収縮性上昇を逆転させるプロテインホスファターゼに関する同様の研究はそれほど進んではいない。共通の遺伝子ファミリーから生じる、主要なSer/Thrホスファターゼ(1型、2A型及び2B型(カルシニューリン))は、心臓の収縮性と肥大の制御において決定的な役割を果たす高度に相同なタンパク質(40−50%)である(Cohen, P., 1990 Phosphoprotein Res;24:230-5) 。プロテインホスファターゼ2Aの触媒サブユニットの過剰発現は、心機能を低下させ、病的心肥大へと導くことが示された(Brewis, N. et al., 2000 Am J Physiol Heart Circ Physiol;279:H1307-18;Gergs, U. et al., 2004 J Biol Chem.)。さらに、カルシウム依存性ホスファターゼ、カルシニューリンは、そのNFAT転写因子活性の調節によって肥大を誘導する。興味深いことに、このホスファターゼの阻害はインビボ及びインビトロで心肥大をブロックする (Brewis, N. et al., 2000;Molkentin, J.D., 1998 Cell;93 :215-28)。
【0006】
ヒト及び実験的心不全において、筋小胞体(SR)に関連する1型ホスファターゼの活性は有意に高く、これが機能抑制、拡張型心筋症及び早期死亡に寄与する因子であり得ることを示唆する(Huang, B. et al., 1999 Circ Res;85:848-55;Sande, J.B., et al., 2002 Cardiovasc Res;53:382-91;Boknik, P. et al., 2000 Naunyn Schmiedebergs Arch Pharmacol;362:222-31;Gupta, R.C. et al., 1997 Circulation;96 (Suppl 1):I-361;Neumann, J. 1997 J Mol Cell Cardiol;29:265-72;Carr, A.N. et al., 2002, Mol Cell Biol;22:4124-35)。しかしながら、βアドレナリン応答性におけるホスファターゼ阻害の役割はこれまで不明であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
今や、中でも特に、心臓細胞におけるホスファターゼ阻害剤の発現は心疾患、例えば心不全を治療するために使用できることが発見された。ホスファターゼ活性の低下は、βアドレナリン応答性を改善することができる。
【0008】
したがって、一態様では、本開示は、細胞においてホスファターゼ活性、例えば1型ホスファターゼ活性、を調節する作用物質を心臓細胞、例えば心筋細胞に、投与することを含む方法を特徴とするものである。心臓細胞はインビトロ又はインビボであってよい。例えば、心臓細胞は対象の心臓内に存在していてもよい。本発明の本方法は、対象、例えば、心不全のような心疾患を有する対象を治療するために使用できる。通常、対象は哺乳動物、例えばヒト又は非ヒト哺乳動物である。
【0009】
1型ホスファターゼは、PP1cα、PP1cβ、PP1cδ及びPP1cγを含むが、これらに限定されるものではない。
【0010】
一態様において、作用物質は、ホスファターゼ活性、例えば1型ホスファターゼ活性を阻害するタンパク質をコードする配列を含む核酸である。作用物質は、治療細胞においてホスファターゼ活性を低下させるため及び/又はβアドレナリン応答性を上昇させるために有効な量で投与することができる。
【0011】
別の態様において、作用物質は、ホスファターゼ活性を阻害するタンパク質をコードする内在性核酸の発現を上昇させる核酸である。例えば、核酸は、転写因子、例えばキメラジンクフィンガータンパク質のような操作された転写因子をコードする配列を含んでいてもよい。さらにもう1つの例では、核酸は、ホスファターゼ活性を阻害するタンパク質をコードする内在性核酸の中又はその近く、例えばホスファターゼ阻害剤1(「I−1」)をコードする遺伝子の中又はその近くに組み込まれる調節配列である。
【0012】
さらに別の態様では、作用物質は、遺伝子発現の核酸調節剤を提供することができる核酸である。例えば核酸は、そのような核酸調節剤、例えばdsRNA(例えばsiRNA)、アンチセンスRNA又はリボザイムを発現することができる核酸であってよい。
【0013】
作用物質は、ウイルス粒子、例えばウイルス又はウイルス様粒子を用いて送達することができる。ウイルス粒子は、アデノ随伴ウイルス、アデノウイルス又はレンチウイルスから送達されてもよい。
【0014】
一態様では、ウイルス粒子は注入により、例えば心臓への直接注入、例えば左心室表面への直接注入により導入される。別の態様では、ウイルス粒子は循環系の内腔に、例えば対象の心臓の心室若しくは内腔又は心臓の血管に導入される。例えば、心膜を開き、例えば注射器及びカテーテルを使用して、化合物を心臓に注射することができる。化合物は、大動脈の内腔、例えば大動脈基部の内腔に導入する、冠状血管口に導入する又は心臓の内腔に導入することができる。ウイルス粒子は冠状動脈に導入することができる。また、例えば順行性又は逆行性ブロッケードを使用して、血管内、例えば冠状動脈内の停留時間を上昇させるために血流を制限することも可能である。
【0015】
一態様では、ウイルス粒子は皮下注射によって、例えば冠状動脈に逆行して大腿動脈から逆行的に導入される。さらに別の態様では、ウイルス粒子は、例えばステントを用いて導入される。例えばウイルス粒子をステント上に被覆し、ステントを冠状動脈、末梢血管又は脳血管のような血管内に挿入する。
【0016】
一態様では、ウイルス粒子を導入することは、冠状血管の血流を、例えば部分的に又は完全に、制限すること、ウイルス送達システムを冠状動脈の内腔に導入すること、及び冠状静脈の血液流出を制限している間も心臓がポンプの役割を果たすのを可能にすることを含む。冠状血管の血流を制限することは、例えば少なくとも1、2又は3個の血管形成バルーンの拡張によって実施できる。冠状血管の血流の制限は、例えば少なくとも1、2、3又は4分間持続させることができる。冠状動脈へのウイルス粒子の導入は、例えば血管形成バルーンの内腔を通しての順行性注入によって実施できる。制限される冠状血管は、左冠動脈前下行枝(LAD)、左冠動脈回旋枝(LCX)、大冠状静脈(GCV)、中心静脈(MCV)又は前室間静脈(AIV)であってよい。ウイルスの導入は、例えば少なくとも1、2又は3個の血管形成バルーンを拡張させることによって血流を制限することによる、冠状血管の虚血プレコンディショニングの後に実施することができる。冠状血管の虚血プレコンディショニングは、少なくとも1、2、3又は4分間持続させることができる。
【0017】
一態様では、ウイルス粒子を導入することは、心臓からの大動脈血流を、例えば部分的に又は完全に制限すること、ウイルス送達システムを循環系の内腔に導入すること、及び大動脈血液流出を制限している間も、例えば閉鎖系に対して(等容性に)心臓がポンプの役割を果たすのを可能にすることを含む。心臓からの大動脈血流を制限することは、血流を再び冠状動脈に、例えば肺動脈に向かわせることによって実施できる。大動脈血流を制限することは、クランピング、例えば肺動脈をクランプすることによって達成できる。ウイルス粒子の導入は、例えばカテーテルを使用して又は例えば直接注入によって実施できる。ウイルス粒子の導入は、大動脈基部内への送達によって実施できる。
【0018】
一態様では、投与されるウイルス粒子の数は、例えば少なくとも1×10、1×1010、1×1011、1×1012、1×1013、1×1014、1×1015又は1×1016単位(例えば、ゲノム又はプラーク形成単位)であるか、又は例えば1×10−1×1018又は1×1011−1×1016の間である。
【0019】
作用物質はまた、ウイルス粒子以外の手段、例えばリポソーム又は他の非ウイルス送達媒体を用いて送達することができる。
【0020】
他の態様では、本開示は、細胞に入り込むことができるウイルス粒子を示すものである。ウイルス粒子は、非ウイルス性タンパク質、例えばホスファターゼ活性を低下させるタンパク質又は心臓活動を調節するタンパク質をコードする核酸を含む。ウイルス粒子は、ウイルス又はウイルス様粒子であってよい。一態様では、ウイルス粒子はアデノ随伴ウイルスに由来する。アデノ随伴ウイルスは、血清型1型(AAV1)、血清型2型(AAV2)、血清型3型(AAV3)、血清型4型(AAV4)、血清型5型(AAV5)、血清型6型(AAV6)、血清型7型(AAV7)、血清型8型(AAV8)又は血清型9型(AAV9)であってよい。例えばウイルス粒子は、例えば細胞に感染することができる、例えば筋細胞、例えば心筋細胞に感染することができる、修飾アデノ随伴ウイルス又は再構成されたウイルス又はウイルス様粒子である。
【0021】
別の態様では、ウイルス粒子はレンチウイルス又はアデノウイルスに由来する。
【0022】
心臓活動を調節するタンパク質の例は、ホスファターゼ活性を調節するタンパク質(例えばホスファターゼ1型阻害剤、例えばI−1)又は筋小胞体Ca2+ATPアーゼ(SERCA)、例えばSERCA1(例えば1a又は1b)、SERCA2(例えば2a又は2b)又はSERCA3を含む。
【0023】
本開示はまた、本明細書に記載するウイルス送達システムの1又はそれ以上の用量を含む製剤を特徴とするものである。用量は、例えば少なくとも1×10、1×1010、1×1011、1×1012、1×1013、1×1014、1×1015又は1×1016単位(例えば、ゲノム又はプラーク形成単位)のウイルス送達システムを含むことができる。1つの実施形態では、最大限1×1019単位のウイルス送達システムが1用量中に存在する。製剤は、無細胞製剤、例えば医薬製剤、例えば対象への導入に適切なものであってよい。製剤はまた、10、5、1、0.1又は0.001%pfu以下の野生型ウイルス(すなわち複製することができ、非ウイルス性核酸配列を含まないウイルス)を含むことができる。一態様では、製剤は野生型ウイルスを含まない。
【0024】
本開示はまた、例えば心筋細胞において、ホスファターゼ活性を低下させる作用物質を含むステントを特徴とするものである。例えば、作用物質をステント上に被覆することができる。例えば、作用物質はウイルス粒子内に存在することができ、そのウイルス粒子をステントの1又はそれ以上の表面、例えば血管に接触する表面に被覆する。「ステント」は、管腔の閉鎖を予防又は阻止するように体腔内に移植するために構成された医療装置である。ステントは、例えば動脈などの血管、又は他の体腔、開口部若しくは尿道などの管に移植するように構成することができる。ステントは、通常、生体適合性の金属又はプラスチックで作られる。本明細書で使用するように、ステントが「作用物質で被覆された又は作用物質を含む」とは、ステントからの作用物質の放出を可能にし、従ってステント付近の組織への作用物質の送達を可能にするように、作用物質がその表面に添付されている又はその中に含まれているステントを意味する。
【0025】
対象の罹患血管内にステントを移植することにより対象を治療することができる。血管は、例えば冠状動脈であり、また例えば末梢動脈又は脳動脈であってよい。
【0026】
「治療すること」という用語は、統計的に有意な程度に又は当業者に検出可能な程度に、疾患に関連する状態、症状又はパラメータを改善するため又は疾患の進行を予防するために有効な量、方法及び/又は様式で作用物質を投与することを意味する。有効な量、方法又は様式は対象によって異なり、対象に合わせてもよい。例えば、投与様式は、ウイルス又はウイルス様粒子による送達を含んでもよい。疾患の進行を予防することにより、罹患した若しくは診断された対象又は疾患を有していると疑われる対象において、治療は疾患の悪化を予防することができるが、また、疾患にかかる危険性の高い又は疾患を有していると疑われる対象において、治療は疾患の発症又は疾患の症状を予防することができる。
【0027】
本明細書では、「心疾患」という用語は、心臓の正常な機能を損なう、心臓の構造的又は機能的異常を意味する。例えば、心疾患は、心不全、虚血、心筋梗塞、うっ血性心不全、不整脈、移植片拒絶反応等であってよい。この用語は、収縮の異常、Ca2+代謝の異常を特徴とする疾患、及び不整脈を特徴とする疾患を含む。
【0028】
「心不全」という用語は、心臓が身体の需要を満たすように十分にポンプするその能力に欠陥を有する多くの疾患のいずれかを意味する。多くの場合、心不全は、心臓細胞の興奮−収縮連関の様々な工程における1又はそれ以上の細胞レベルでの異常の結果である。そのような異常の一つは、SR機能の欠陥である。
【0029】
本明細書では、「心臓細胞」という用語は、(a)対象の体内に存在する心臓の部分、(b)インビトロで維持される心臓の部分、(c)心臓組織の部分又は(d)対象の心臓から単離された細胞、であってよい細胞を意味する。例えば、細胞は心筋細胞であってよい。
【0030】
本明細書では、「心臓」という用語は、対象の体内に存在する心臓又は対象の体外で維持される心臓を意味する。
【0031】
本明細書では、「心組織」という用語は、対象の心臓に由来する組織を意味する。
【0032】
本明細書では、「体細胞遺伝子導入」という用語は、生殖系への遺伝子の導入に対して、体細胞への遺伝子の導入を意味する。
【0033】
本明細書では、「化合物」という用語は、本発明の方法を用いて対象の心臓に有効に送達されることができる化合物を意味する。そのような化合物は、例えば遺伝子、薬剤、抗生物質、酵素、化合物、化合物の混合物又は生物学的高分子を含むことができる。
【0034】
本明細書では、「血流を制限すること」という用語は、血管を通る血流、例えば末梢大動脈及びその分枝への血流、を実質的にブロックすることを意味する。例えば、心臓からの血流の少なくとも50%が制限される、好ましくは75%、より好ましくは80、90又は100%の血液が心臓からの流出を制限される。血流は、例えばクランプで、大動脈及び肺動脈を閉塞させることによって制限できる。
【0035】
「ウイルス送達システム」は、非ウイルス性配列を含む核酸を哺乳動物細胞に導入することができるウイルス粒子、例えばウイルス又はウイルス様粒子を意味する。ウイルス送達システム自体は、ウイルス複製に関してコンピテントであってもよく又はコンピテントでなくてもよい。
【0036】
本発明のこれら及び他の目的を、本発明の詳細な説明に関連してさらに詳しく記載する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
ホスファターゼ活性は心不全において上昇する。心筋細胞におけるホスファターゼ活性(例えば、ホスファターゼ1活性)を低下させることは、心不全に関連する1又はそれ以上の症状を軽減することができる。ホスファターゼ活性の低下はβ−アドレナリン応答性の減衰に結びつく。
【0038】
一態様では、1型ホスファターゼを阻害することによってホスファターゼ活性を低下させることができる。1型ホスファターゼは、PP1cα、PP1cβ、PP1cδ及びPP1cγを含むが、これらに限定されるものではない。内容が参照により組み込まれる、「Sasaki et al. (1990) Jpn J Cancer Res. 81:1272-1280」を参照されたい。ホスファターゼ阻害剤1(又は「I−1」)タンパク質は1型ホスファターゼの内在性の阻害剤である。I−1レベル又は活性の上昇は、ヒト不全心筋細胞においてβ−アドレナリン応答性を回復することができる。
【0039】
特定の態様では、構成的に活性なI−1タンパク質を投与することができる。本明細書で例示するそのような1つの構築物(I−1T35D)は、最初の65のアミノ酸をコードするI−1 cDNAのトランケーション及びPKAリン酸化部位(GGT:Thr35)をアスパラギン酸(GTC:Asp35)で置換するヌクレオチド変化の導入を含み、構成的に活性な阻害剤を生じる。構成的に活性な阻害剤を作製するためのもう1つの方法は、第35位のトレオニンをアスパラギン酸ではなくグルタミン酸で置換することである。これらの置換はまた、完全長阻害剤分子においても実施できる。I−1T35Dを発現するヒト不全心筋細胞は、基礎条件下で正常な収縮機能を示し、それらのβアドレナリン機能は正常に回復される。従って、阻害剤1の送達は、既存の心不全の背景において機能を完全に回復させ、リモデリングを改善させる。
【0040】
他のホスファターゼ阻害剤及びI−1の他の変異体も使用できる。そのような他の阻害剤の例は、ホスファターゼ阻害剤2;オカダ酸又はカリクリン;及びプロテインホスファターゼ1の内在性核内阻害剤であるnipp1を含む。一態様では、ホスファターゼ阻害剤はプロテインホスファターゼ1に対して特異的である。
【0041】
ホスファターゼ活性を低下させるための他の方法は、ホスファターゼ阻害剤、例えばI−1の活性を増強する低分子を投与すること、1型ホスファターゼの活性を低下させる低分子を投与すること、1型ホスファターゼの活性又は発現を低下させる核酸を投与すること、又はホスファターゼ阻害剤の活性又は発現を上昇させる核酸を投与することを含む。
【0042】
心不全におけるホスファターゼ活性
心拍間隔(beat−to−beat)に基づく心筋機能は、身体の交感神経緊張を通しての高度に調節されたプロセスである。心臓は、数秒で、末梢、代謝組織の需要を支えるために心拍出量を上昇させることによって作業負荷の上昇に応答することができる。心臓の変力状態を高める適応メカニズムは、主として心筋のβ受容体のカテコールアミン依存性の活性化によって制御される。受容体は、刺激又は活性化されたときに収縮の強さを増強する心臓細胞上に認められる。細胞レベルでは、β受容体の刺激は(Koch, W. J. et al., 2000 Annu Rev Physiol;62:237-60)、cAMPレベルの上昇、cAMP依存性プロテインキナーゼ(PKA)の活性化並びにエネルギー代謝に関与する酵素及び収縮性を調節し、一回拍出量を上昇させるように集積される、鍵となる調節タンパク質のリン酸化を生じさせる。主要な調節ホスホプロテインは、ホスホランバン(PLB)、リアノジン受容体、L型Ca2+チャネル、トロポニンI及びCタンパク質を含む。
【0043】
PLBは、基礎心筋収縮能の主要調節剤であり、哺乳動物の心臓においてβ受容体に結合して心臓細胞の収縮の強度を上昇させるβアゴニストの変力及び変弛緩作用の鍵となるメディエーターである(Brittsan, A.G. et al., 2003 Circ Res;92:769-76)。PLBのリン酸化は、筋小胞体(SR)内に再分離されるサイトゾルカルシウムの速度と量を大きく刺激し、心筋弛緩を高める、SERCAの阻害を軽減する。このカルシウムサイクリングプロフィールの上昇は、その後の収縮の間の定量的(quantal)カルシウム放出を上昇させるSRカルシウム含量の増加に結びつく。全体として、これらの事象は収縮及び拡張機能の増強をもたらす。
【0044】
タンパク質リン酸化の増加及び心機能の増強は、効率的で高度に調節されたプロセスにおいてプロテインホスファターゼによって逆転される。ホスファターゼ1型及び2型と称される、セリン/トレオニンホスファターゼの2つの主要クラスは、心筋の収縮の性能を調節する(Neumann, J. et al., 1997 J MoI Cell Cardiol;29(1): 265-72)。プロテインホスファターゼ1(「PP1」)は、心臓の酵素活性のかなりの量を占め、調節性ホスファターゼ酵素の鍵となるクラスに関与するとみなされてきた。PP1は主として膜分画並びにグリコーゲン粒子と結合し、グリコーゲン分解及びグリコーゲン合成において重要である。PP1は、基質利用性及び特異性を高める働きをする、大きな非触媒的な標的サブユニットによってこれらの局所に固定される。さらに、この酵素は、2つの熱及び酸安定性のタンパク質、阻害剤1及び2によって調節される。ホスファターゼ阻害剤1(「I−1」)は主要な生理的調節剤であり、第35位のトレオニン上でPKAによりリン酸化された場合に有効な阻害剤である(Endo, S. et al., 1996 Biochemistry;35(16): 5220-8)。PP1の阻害は、PKAタンパク質リン酸化の作用に対するその反作用(opposition)を除去し、心臓におけるβアゴニスト応答の増幅を導く (Ahmad, Z. J. 1989 Biol Chem;264:3859-63;Gupta, R. C. et al., 1996 Circulation;(Suppl 1):I-361)。
【0045】
プロテインホスファターゼ1のレベル及び活性が上昇する一方で、β受容体の脱感作によるcAMPの低下(Koch, Lefkowitz et al. 2000)はPKAの不活性化を導くと予想されるので、プロテインキナーゼ及びホスファターゼによる心臓調節タンパク質リン酸化の微妙に調整される調節は、心不全においてはさらに一層重要となる。
【0046】
体細胞遺伝子導入に適切なウイルスベクター
治療用核酸、例えばホスファターゼ活性を低下させる核酸又は、例えば本明細書に記載されているような、発現の核酸調節剤を提供する核酸(例えば、dsRNA、アンチセンスRNA又はリボザイム)は、遺伝子導入プロトコールの一部として使用される遺伝子構築物に組み込むことができる。手段には、ウイルスベクター、例えばレトロウイルス(例えば、複製欠損レトロウイルス)、アデノウイルス(例えば、複製欠損、第一世代若しくはgutted、第二世代、アデノウイルス)、アデノ随伴ウイルス(例えば、1−6型のいずれか)、レンチウイルス、及び単純ヘルペスウイルス−1に由来する組換えベクター若しくは組換え細菌又は真核生物プラスミド内への対象遺伝子の挿入を含む。ウイルスベクターはまた、細胞を直接トランスフェクトするためにも使用できる。治療用核酸を送達するウイルス粒子は、改変ウイルスから作製することができる。改変ウイルスは、少なくとも1つのウイルス配列の変化、例えば、1又はそれ以上のウイルス遺伝子の置換、欠失又は不活性化を含んでいてもよい。
【0047】
アデノウイルスベクターの例は、ラウス肉腫ウイルスプロモーター及びlacZレポーター遺伝子を含む(Ad.RSV.lacZ)、並びにサイトメガロウイルスプロモーターとlacZレポーター遺伝子を含む(Ad.CMV.lacZ)を含む。例えば米国特許出願第10/914,829号参照。lacZ配列は、タンパク質又は発現の核酸調節剤をコードする配列で置換することができる。ウイルスベクターの作製及び使用のための方法は、例えば国際公開第WO96/13597号、同第WO96/33281号、同第WO97/15679号、「Miyamoto et al. (2000) Proc Natl Acad Sci USA 97(2):793-8」及び「Trapnell et al., Curr. Opin. Biotechnol 5(6):617-625, 1994.」に記載されている。
【0048】
アデノ随伴ウイルスは、染色体19番に部位特異的に組み込むことができる、非病原性ヒトパルボウイルスである。Fisher et al., Nature Medicine 3(3):306-312, 1997。ウイルスの複製は、しかしながら、アデノウイルスなどのヘルパーウイルスを必要とする。Fisher et al., Nature Medicine 3(3):306-312, 1997。AAVコード領域は、非ウイルス遺伝子で置換することができ、改変ウイルスは分裂及び非分裂細胞の両方に感染させるために使用できる。Xiao et al., J. Virol. 70(11): 8098-8108, 1996;Kaplitt et al., Ann. Thorac. Surg. 62: 1669-1676, 1996。AAVの作製及び使用のための方法の例は、「Fisher et al., Nature Medicine 3(3):306-312, 1997;Xiao et al., J. Virol 70(11): 8098-8108, 1996;Kaplitt et al, Ann. Thorac. Surg. 62:1669-1676, 1996」に記載されている。
【0049】
AAV6は特異的であり、心臓における迅速な発現を与える。例えば、米国特許出願第10/914,829号は、大型動物の心臓におけるAAV6での遺伝子導入が効率的であり、長期間持続する遺伝子発現をもたらすことができる。
【0050】
改変AAV粒子を産生するための方法が開発されている。例えば、細胞を培地で増殖させて、改変AAV粒子を産生させる。粒子を細胞から収集し、精製する。AAV粒子を産生する方法の例は、産生細胞への3つのエレメントの送達を含む:1)AAV ITR配列によって隣接される目的の遺伝子(例えば、ホスファターゼ活性を調節する配列)、2)AAV rep及びcap遺伝子、並びにヘルパーウイルスタンパク質(「ヘルパー機能」)。最初の2つを送達するための従来のプロトコールは、適切な組換え遺伝子カセットを含むプラスミドDNAでの細胞のトランスフェクションによるものである。ヘルパー機能は、伝統的に、細胞をアデノウイルス(Ad)などのヘルパーウイルスに感染させることによって供給されてきた(Samulski et al., 1998;Hauswirth et al., 2000)。
【0051】
レンチウイルスは、非分裂細胞に感染することができるレトロウイルスのサブグループである。L.Naldiniらは、異種遺伝子配列を非増殖性HeLa細胞及びラット線維芽細胞、並びにヒト一次マクロファージ及び終末分化ニューロンに形質導入することができる、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に基づくレンチウイルスベクターシステムを報告する。Science 272, 263-267 (1996)。米国特許第6,521,457号は、ウマ伝染性貧血ウイルスに基づくレンチウイルスベクターを記載している。さらに、米国特許第6,428,953号は、レンチウイルスベクター及びレンチウイルス粒子を産生するための方法を記載している。
【0052】
レンチウイルス粒子及び他のウイルス粒子を産生するために、目的の作用物質(例えば、ホスファターゼ活性を低下させる作用物質)をコードする核酸をパッケージングシグナルに作動可能に結合する。核酸は、ウイルス構造タンパク質を発現する細胞にパッケージングされる。例えば、細胞はウイルス構造タンパク質をコードするが、パッケージングシグナルを欠く核酸を含んでいてもよい。
【0053】
非ウイルス法も使用可能である。例えば、陽イオン性リポソーム(リポフェクチン)又は誘導体化(例えば抗体複合体)ポリリシン複合体、グラミシジンS、人工ウイルスエンベロープ又は他のそのような細胞内担体、並びにインビボで実施される遺伝子構築物の直接注入又はCaPO沈降法を用いて、プラスミドDNAを送達することができる。
【0054】
心臓血管組織への遺伝子導入は、サイトメガロウイルス(CMV)又はラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーターによって駆動される強力で非組織特異的な遺伝子発現カセットを有するアデノウイルス(Ad)ベクターを用いて成功を収めた。血管新成因子、例えば血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)及び肝細胞増殖因子(HGF)を送達するためのウイルスベクターによる心臓細胞の形質導入を含む臨床試験が進行中である。ウイルスの大動脈内又は冠状血管内注入が、動物モデルにおいてインビボで使用されてきた。一試験では、ラットにおけるAd−SERCA2aウイルスベクターの心臓内注入は、カルシウムハンドリングの生理的改善を誘導するのに十分であった。「Miyamoto et al., 2000, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97:793-98」を参照されたい。アデノウイルスベクターはまた、β2アドレナリン受容体(β−AR)を発現するためにインビボで使用された(「Maurice et al. 1999, J. Clin. Invest. 104:21-9」及び「Shah et al., 2001, Circulation. 103:1311」を参照されたい)。嚢胞性線維症に関する試験から公知であるように、改善された機能のために、組織内の全ての細胞の形質導入は必要でない。例えば、機能的なナトリウムチャネルを欠く上皮シート内のわずか6〜10%の細胞における野生型ナトリウムチャネルの発現が、正常なナトリウムイオン輸送には十分である(Johnson et al, 1992, Nat. Genet 2:21-5)。これはバイスタンダー効果として知られる。
【0055】
プロモーターは、例えば平滑筋αアクチンプロモーター、SM22aプロモーターのような平滑筋特異的プロモーター;心臓ミオシンプロモーターのような心臓特異的プロモーター(例えば、心臓ミオシン軽鎖2vプロモーター)、トロポニンTプロモーター、又はBNPプロモーターであってよい。プロモーターはまた、例えばCMVプロモーターのようなウイルスプロモーターであってよい。組織特異的プロモーターが心筋遺伝子発現の特異性を高めるために使用されてきた(Rothmann et al., 1996, Gene Ther. 3:919-26)。
【0056】
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターによる心筋細胞遺伝子送達の効率は、培養ラット新生仔細胞を用いてインビトロ、並びにラット乳頭筋液浸法を用いてエクスビボ系で実証された(Maeda et al., 1998, J. MoI Cell. Cardiol. 30:1341-8)。エクスビボでのAAVベクター導入とそれに続く同系心臓移植は、高効率のマーカー遺伝子発現を達成することが報告された(Svensson et al., 1999, Circulation. 99:201-5)。
【0057】
インビボでの高レベルの心臓向性遺伝子導入を高い一貫性で(平均で心筋細胞の60〜70%)達成する方法は、例えば米国特許出願公開第2002−0032167号に記載されている。ウイルスベクターの作製及び使用のための他の方法は、国際公開第WO96/13597号、同第WO96/33281号、同第WO97/15679号、及び 「Trapnell et al., 1994, Curr. Opin. Biotechnol. 5(6):617-625」;「Ardehali et al., 1995, J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 109:716-720」;「Dalesandro et al., 1996, J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 111 :416-422」;「Sawa et al., 1995, Circ 92, II479-11482」;「Lee et al., 1996, J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 1 l l, 246-252」;「Yap et al., 19996, Circ. 94, 1-53」;及び「Pellegrini et al., 1998, Transpl. Int. 11, 373-377」に記載されている。
【0058】
対象ポリヌクレオチドはまた、非ウイルス性送達媒体を用いて投与することができる。本明細書で使用する「非ウイルス性送達媒体」(本明細書では「非ウイルスベクター」とも称する)は、裸の又は凝縮ポリヌクレオチドを含む化学製剤(例えば、ポリヌクレオチド及び陽イオン性化合物(例えば硫酸デキストラン)の製剤)、及びウイルス粒子などのアジュバントと混合された裸の又は凝縮ポリヌクレオチド(すなわち目的のポリヌクレオチドはウイルス粒子内に含まれておらず、トランスフォーミング製剤が裸のポリヌクレオチドとウイルス粒子(例えばアデノウイルス粒子)の両方から成る)を含むことを意味する(例えば、「Curiel et al. 1992 Am. J. Respir. Cell Mol. Biol. 6:247-52」を参照のこと)。したがって、「非ウイルス性送達媒体」は、ウイルス粒子が目的のポリヌクレオチドを含まない、ポリヌクレオチドプラスウイルス粒子から成るベクターを含んでいてもよい。「非ウイルス性送達媒体」の例は、送達するポリヌクレオチドがキャプシド形成されていない又はウイルス粒子内に含まれていない、細菌プラスミド、ウイルスゲノム又はその部分、及びウイルスゲノムの部分と細菌プラスミドの部分を含む構築物及び/又はバクテリオファージを含む。この用語はまた、天然及び合成ポリマー並びにコポリマーを包含する。さらに、この用語は脂質ベースの媒体を包含する。
【0059】
脂質ベースの媒体は、Felgnerらによる(米国特許第5,264,618号及び同第5,459,127号;PNAS 84:7413-7417, 1987;Annals N.Y. Acad. Sci. 772:126-139, 1995)によって開示されているような陽イオン性リポソームを含む;それらはまた、Schreierらによる(米国特許第5,252,348号及び同第5,766,625号)によって開示されている人工ウイルスエンベロープを含む、中性又は負に荷電したリン脂質又はそれらの混合物で構成されていてもよい。
【0060】
非ウイルス性送達媒体は、ポリマーベースの担体を含む。ポリマーベースの担体は、天然及び合成ポリマー並びにコポリマーを含んでいてもよい。例えば、ポリマーは、生分解性であるか又は対象から容易に排泄されることができる。天然に存在するポリマーは、ポリペプチド及び多糖類を含む。合成ポリマーは、ポリリシン、及び縮合剤としても使用できるポリエチレンイミン(PEI;Boussif et al., PNAS 92:7297-7301, 1995)を含むが、これらに限定されるものではない。これらの担体は、分散液、例えば水、エタノール、塩類溶液及びそれらの混合物中に溶解、分散又は懸濁することができる。多種多様な合成ポリマーが当該技術分野において公知であり、使用できる。
【0061】
遺伝子治療構築物の医薬製剤は、遺伝子送達システム及び許容される希釈剤を含む、又は遺伝子送達媒体が包埋されている徐放性マトリックスを含むことができる。又は、完全な遺伝子送達システムが組換え細胞、例えばレトロウイルスベクターから無傷で産生できる場合は、医薬製剤は、遺伝子送達システムを産生する1又はそれ以上の細胞を含むことができる。しかしながら、通常は製剤は無細胞である。製剤は一般に、ウイルス粒子が細胞内に核酸を送達する能力を妨げない物質を含む。
【0062】
送達される核酸はまた、DNA−又はRNA−リポソーム複合体製剤として製造されることができる。そのような複合体は、陽イオン電荷(静電的相互作用)によって遺伝物質(DNA又はRNA)に結合する脂質の混合物を含む。本発明において使用できる陽イオン性リポソームは、3θ−[N−(N’ ,N’ −ジメチルアミノエタン)−カルバモイル]−コレステロール(DC−Chol)、1,2−ビス(オレオイルオキシ−3−トリメチルアンモニオ−プロパン(DOTAP)(例えば、国際公開第WO98/07408号参照)、リシニルホスファチジルエタノールアミン(L−PE)、リポポリアミン、例えばリポスペルミン、N−(2−ヒドロキシエチル)−N,N−ジメチル−2,3−ビス(ドデシルオキシ)−l−プロパンアミニウムブロミド、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、N(1,2,3−ジオレイルオキシ)プロピル−N,N,N−トリエチルアンモニウム(DOTMA)、DOSPA、DMRIE、GL−67、GL−89、リポフェクチン及びリポフェクタミンを含む(Thiery et al. (1997) Gene Ther. 4:226-237;Felgner et al., Annals N. Y. Acad. Sci. 772:126-139, 1995;Eastman et al., Hum. Gene Ther. 8:765-7.73, 1997)。米国特許第5,858,784号に記載されているポリヌクレオチド/脂質製剤も、本明細書に記載する方法において使用できる。これらの脂質の多くは市販されており、例えばBoehringer−Mannheim及びAvanti Polar Lipids(Birmingham,Ala.)から入手できる。米国特許第5,264,618号、同第5,223,263号及び同第5,459,127号において見出された陽イオン性リン脂質も包含される。使用できる他の適切なリン脂質は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、ホスファチジルイノシトール等を含む。コレステロールも含むことができる。
【0063】
(ウイルス送達)
ウイルス送達システムの単位を含む製剤は、様々な方法のいずれかによって対象の心臓細胞に送達することができる。
【0064】
例えばウイルス送達システムの医薬製剤は、全身的に、例えば静脈内注射によって導入することができ、標的細胞内のタンパク質の特異的形質導入は、主として遺伝子送達媒体によって提供されるトランスフェクションの特異性、受容体遺伝子の発現を制御する転写調節配列による細胞型又は組織型発現、又はそれらの組合せから起こる。他の態様では、組換え遺伝子の初期送達は、動物の体内への極めて局在化された導入によってより限定される。例えば、遺伝子送達媒体は、カテーテルによって(米国特許第5,328,470号参照)又は定位的注入によって(例、Chen et al. (1994) PNAS 91: 3054-3057)導入することができる。
【0065】
実施の一例においては、製剤を心臓組織に直接注入する。米国特許第10/914,829号は、直接注入のためのプロトコールを記載する。心筋内への直接注入又はウイルスベクターの適用は、導入される遺伝子の発現を心臓に限定することができる(Gutzman et al., 1993, Cric. Res. 73 : 1202-7;French et al., 1994, Circulation. 90:2414-24)。
【0066】
実施のもう1つの例においては、製剤を1又はそれ以上の冠状動脈の内腔に導入する。冠状動脈から出て行く血液の流れを制限することができる。製剤を順行的に送達し、1〜5分間、例えば1〜3分間、動脈内に存在することを可能する。
【0067】
非ウイルス性媒体も同様の方法によって送達できる。
【0068】
(ステントの例)
ステントは、ホスファターゼ活性を低下させる作用物質、例えば本明細書において記載する作用物質で被覆する又は前記作用物質を含むことができる。治療薬を送達するためのステント(生分解性及び非生分解性)を作製するための方法は周知である(例えば、米国特許第5,163,952号、同第5,304,121号、同第6,391,052号、同第6,387,124号、同第6,379,382号、及び同第6,358,556号、同第6,605,110号、同第6,605,114号、同第6,572,645号、同第6,569,194号、同第6,545,748号、同第6,541,116号、同第6,527,801号、同第6,506,437号参照)。一態様では、ステントは、当該技術分野において公知の手法を用いて、治療薬、例えば本明細書に記載する作用物質、例えばホスファターゼ活性を低下させる核酸で被覆する。
【0069】
一態様では、ステントは、ステンレス鋼ステント又はニチノールメッシュ様装置である。例えば、ステントは、PCI手技(経皮的冠状動脈形成術)の間にカテーテルで冠状動脈内に送達することができる。ステントは、バルーンによる拡張によって又は自己拡張型送達デザインによって配置することができる。市販のステントの例は、Gianturco−Roubinステント(例えば、クック・カーディオロジー(Cook Cardiology)より)、 Multilink、Duet、Tetra、Penta、Zetaステント(例えば、ガイダント(Guidant)より);Nir、Wallステント、Taxus(例えば、サイメッド/ボストン・サイエンティフィック(SCIMED/Boston Scientific)より)、GFX/Sシリーズのステント(例えば、メドトロニック/AVE(Medtronic/AVE)より)、velocity及びCypherステント(例えば、ジョンソン・エンド・ジョンソン/コーディス(Johnson & Johnson/Cordis)より)を含む。
【0070】
例えばステントは、例えば米国特許第6,596,699号に記載されているような核酸凝縮又はコンパクションを媒介することができる高分子陽イオンで被覆することができる。直鎖状ポリカチオン、例えばポリ−L−リシン、ポリオルニチン、ポリアルギニン等が使用できる。ポリマーは、ホモポリマー、例えばポリリシン、ポリオルニチン若しくはポリアルギニンであってよい、又はリシン、オルニチン、アルギニン等で形成されるランダムポリマーを含むヘテロポリマーであってよい。より複雑な分子、例えば分枝又は直鎖状ポリエチレンイミン等もポリカチオンとして使用できる。様々な天然に存在する核酸結合剤のいずれも、例えばスペルミン又はスペルミジンも使用でき、ポリカチオンの定義に包含される。同様にプロタミンも、様々なヒストンと同じく使用できる。末端アミノ基が静電的手段によって核酸に結合して、正に荷電した凝縮物を生じる、ポリアミドアミンデンドリマーも同様に使用できる。ポリカチオンは、所望凝縮物を形成するための最適特徴を与えるように特異的に修飾できる。例えば、18残基の反復リシン鎖とそれに続くトリプトファン及びアルキル化システイン残基が、少なくともポリリシンに等しい性質を有する凝縮物を形成することが報告されている(McKenzie et al., J. Peptide Res. 54:311-318 (1999)。一般に、ポリカチオンは正に荷電しており、約pH6で約8までの正味正電荷を有するか又は約5以上の正に荷電した残基を有する。ポリカチオンは、負電荷の数に比べてより高い数の正電荷を有する。ポリカチオンは、天然核酸結合タンパク質及び組換え核酸結合タンパク質、例えばアミノ酸のホモ若しくはヘテロポリマー、又は天然若しくは組換え核酸分子内に認められる1若しくはそれ以上の核酸配列に結合する合成化合物を含み、核酸凝縮を生じさせる。
【0071】
治療薬、例えば核酸を医療装置、例えばステントに被覆する付加的な方法は、例えば米国特許第5,674,192号又は同第6,409,716号に記載されているように膨潤性ヒドロゲルポリマーで医療装置を被覆することを含む。ヒドロゲル被覆は、実質的な量の核酸を、通常は水溶液形態で、組み込むことができることを特徴とし、例えば膨張又はステントの拡張によって、圧が適用されたとき水溶液が被覆物から有効に搾り出されるように膨潤性である。このような方法での薬剤の投与は、高濃度の放出を罹患組織への直接適用に限定できるように、薬剤が部位特異的であることを可能にする。ステントはまた、核酸を含むウイルス粒子で被覆できる。
【0072】
治療薬、例えば核酸をステント又は他の医療装置と結合する他の方法は当該技術分野において公知である、例えば米国特許第6,024,918号、米国特許第6,506,408号、米国特許第5,932,299号を参照されたい。
【0073】
一部の態様では、本明細書に記載するステントは、ホスファターゼ活性を低下させる作用物質で被覆する又は前記作用物質を含むことに加えて、第二治療薬で被覆することもできる。例えばステントは:ラパマイシン、タキソール及びアクチノマイシン−D、トロンビン阻害剤、抗トロンボゲン形成剤、血栓溶解剤、線維素溶解剤、血管痙攣抑制剤、カルシウムチャネル遮断薬、血管拡張薬、抗高血圧薬、抗菌薬、抗生物質、表面糖タンパク質受容体の阻害剤、抗血小板薬、抗有糸分裂薬、微小管阻害剤、抗分泌薬、アクチン阻害剤、リモデリング阻害剤、アンチセンスヌクレオチド、代謝拮抗物質、抗増殖剤、抗癌化学療法剤、抗炎症性ステロイド又は非ステロイド系抗炎症薬、免疫抑制剤、成長ホルモン拮抗物質、増殖因子、ドーパミンアゴニスト、放射線治療薬、ペプチド、タンパク質、酵素、細胞外マトリックス成分、遊離基捕捉剤、キレート化剤、抗酸化物質、抗ポリメラーゼ、抗ウイルス薬、光力学療法剤、及び遺伝子治療薬、の1又はそれ以上を含むことができる。
【0074】
(治療の評価)
治療は、心機能又は心臓細胞機能、例えば収縮性に関連するパラメータに関して治療の効果を判断することによって評価できる。例えば上述した方法を用いて、SR Ca2+ATPアーゼ活性又は細胞内Ca2+濃度を測定することができる。さらに、「Strauss et al., Am. J. Physiol., 262:1437-45, 1992」に記載されている方法を用いて心臓又は心臓組織による力の生成を測定することができる。
【0075】
治療はまた、例えば治療分野の当業者が特定の治療に関連すると認識するパラメータに従って、対象へのその効果によって評価することができる。例えば、心不全を治療する場合、例示的パラメータは、心臓及び/又は肺機能に関連していることもある。心臓パラメータは、脈拍、EKGシグナル、内腔損失、心拍数、心臓収縮性、心室機能、例えば左室拡張末期圧(LVEDP)、左室収縮期圧(LVSP)、Ca2+代謝、例えば細胞内Ca2+濃度若しくはピーク若しくは安静時Ca2+、力の生成、心臓の弛緩及び圧、力−収縮頻度関係、心臓細胞生存率若しくはアポトーシス、又はイオンチャネル活性、例えばナトリウム・カルシウム交換、ナトリウムチャネル活性、カルシウムチャネル活性、ナトリウム・カリウムATPアーゼポンプ活性、ミオシン重鎖の活性、トロポニンI、トロポニンC、トロポニンT、トロポミオシン、アクチン、ミオシン軽鎖キナーゼ、ミオシン軽鎖1、ミオシン軽鎖2又はミオシン軽鎖3、IGF−1受容体、PI3キナーゼ、AKTキナーゼ、ナトリウム−カルシウム交換輸送体、カルシウムチャネル(L及びT)、カルセケストリン又はカルレティキュリンを含む。評価は、例えば治療の前、後又は治療期間中に、血管造影法(例えば定量的血管造影法)及び/又は血管内超音波法(IVUS)を実施することを含むことができる。
【0076】
(心臓細胞の増殖)
心臓細胞が心臓組織の断片から移動して適切な基質(例えば細胞皿)に付着することを可能にすることによって、又は例えば機械的に若しくは酵素的に、組織を解離して心臓細胞の懸濁液を生成することによって心臓細胞培養を得ることができる。例えば、トリプシン、コラゲナーゼ、エラスターゼ、ヒアルロニダーゼ、DNアーゼ、プロナーゼ、ディスパーゼ酵素、又はそれらの様々な組合せが使用できる。トリプシン及びプロナーゼは最も完全に解離させることができるが、細胞を損傷することがある。コラゲナーゼ及びディスパーゼによる解離はそれほど完全ではないが、より害が少ない。組織(例えば心臓組織)を単離するための方法及び細胞(例えば心臓細胞)を得るための組織の解離は、「Freshney R. I., Culture of Animal Cells, A Manual of Basic Technique, Third Edition, 1994」に記載されている。
【0077】
(核酸阻害剤)
ホスファターゼ活性の調節剤は、ホスファターゼ、例えば1型ホスファターゼの発現を低下させることができる核酸、例えばsiRNA、アンチセンスRNA、三重らせん形成核酸又はリボザイムであってよい。
【0078】
例えば、遺伝子発現は二本鎖RNAを用いた遺伝子サイレンシングによって調節することができる(Sharp (1999) Genes and Development 13: 139-141)。二本鎖RNA干渉(dsRNAi)又は低分子干渉RNA(siRNA)としても知られる、RNAiは、哺乳動物、線虫C.elegansを含む多くの生物において広範に実証されている(Fire, A., et al., Nature, 391, 806-811, 1998)。
【0079】
dsRNAは、細胞又は生物に送達されてホスファターゼに拮抗することができる。例えば、ホスファターゼコード核酸に相補的なdsRNAは、ホスファターゼ、例えば1型ホスファターゼのタンパク質発現をサイレンスすることができる。dsRNAは、ホスファターゼのコード領域に相補的な領域、例えば5’コード領域、ホスファターゼコアドメインをコードする領域、3’コード領域、又は非コード領域、例えば5’若しくは3’非翻訳領域を含むことができる。dsRNAは、例えばカセットを両方向に転写することによって(インビトロ又はインビボで)、例えばカセットのどちらかの側にT7プロモーターを含めることによって、作製できる。カセット内の挿入物は、ホスファターゼコード核酸に相補的な配列を含むように選択される。配列は完全長である必要はなく、例えばエクソン又は19〜50ヌクレオチド又は50〜200ヌクレオチドであってよい。配列は、転写産物の5’側の半分から、例えばATGの1000、600、400又は300ヌクレオチド以内であり得る。HISCRIBE(商標)RNAi転写キット(New England Biolabs,MA)及び「Fire, A. (1999) Trends Genet. 15, 358-363」を参照のこと。dsRNAはより小さなフラグメントに消化することができる。例えば米国特許出願第2002−0086356号及び同第2003−0084471を参照されたい。
【0080】
一態様では、siRNAを使用する。siRNAは、場合により突出末端を含む低分子二本鎖RNA(dsRNAs)である。例えば、二本鎖領域は約18〜25ヌクレオチドの長さ、例えば約19、20、21、22、23又は24ヌクレオチドの長さである。通常は、siRNA配列は標的mRNAに厳密に相補的である。
【0081】
「リボザイム」は、RNAにおいて特定部位で切断するRNA酵素分子である。ホスファターゼ、例えば1型ホスファターゼをコードする又はその発現のために必要な核酸を特異的に切断することができるリボザイムは、周知の方法に従って設計することができる。
【0082】
(人工転写因子)
ホスファターゼ阻害剤又はホスファターゼをコードする遺伝子内又はその近くの配列、例えば遺伝子のプロモーター又はエンハンサー内の部位、例えばmRNA開始部位の1000、700、500若しくは200ヌクレオチド以内、又は遺伝子内のクロマチンアクセス可能部位の50、20、10ヌクレオチド以内の配列と相互作用するために、人工転写因子、例えばキメラジンクフィンガータンパク質を設計(engineered)することができる。例えば、米国特許第6,785,613号を参照のこと。人工転写因子は、遺伝子がホスファターゼ阻害剤(例えばI−1)をコードする場合は遺伝子の発現を活性化するように、又は例えば遺伝子がホスファターゼをコードする場合は、遺伝子の発現を抑制するように設計(designed)できる。
【0083】
人工転写因子はライブラリーから設計又は選択することができる。例えば、人工転写因子は、インビトロ(例えばファージディスプレイを用いて、米国特許第6,534,261号)若しくはインビボでの選択によって、又は認識コードに基づく設計によって(例えば国際公開第WO00/42219号及び米国特許第6,511,808号参照)作製できる。中でも特に、様々なジンクフィンガードメインのライブラリーを作成するための方法に関しては、例えば「Rebar et al. (1996) Methods Enzymol 267:129」;「Greisman and Pabo (1997) Science 275:657」;「Isalan et al. (2001) Nat. Biotechnol 19:656」;及び「Wu et al. (1995) Proc. Nat. Acad. Sci. USA 92:344」を参照のこと。
【0084】
場合により、ジンクフィンガータンパク質を転写調節ドメイン、例えば転写を活性化する活性化ドメイン又は転写を抑制する抑制ドメインに融合することができる。ジンクフィンガータンパク質は、それ自体が細胞に送達される異種核酸によってコードされる、又はタンパク質自体が細胞に送達されることができる(例えば米国特許第6,534,261号参照)。ジンクフィンガータンパク質をコードする配列を含む異種核酸は、例えば細胞内のジンクフィンガータンパク質のレベルの微細な調節を可能にするために、誘導性プロモーターに作動可能に結合することができる。
【0085】
(投与)
ホスファターゼ活性を調節する作用物質、例えば本明細書に記載する作用物質は、標準的な方法によって対象に投与することができる。例えば、作用物質は、静脈内、皮内、皮下、経口(例えば吸入又は経口摂取)、経皮(局所)及び経粘膜を含む多くの異なる経路のいずれかによって投与できる。一態様では、作用物質は注入によって、例えば動脈内、筋肉内又は静脈内投与される。
【0086】
作用物質、例えばホスファターゼ阻害剤をコードする核酸分子、ポリペプチド、フラグメント又は類似体、調節剤(例えば有機化合物及び抗体(本明細書では「活性化合物」とも称する)は、対象、例えばヒトへの投与に適切な医薬組成物中に組み込むことができる。そのような組成物は、通常、ポリペプチド、核酸分子、調節剤又は抗体及び薬学上許容される担体を含む。本明細書で使用する、「薬学上許容される担体」という用語は、薬剤投与と適合する、ありとあらゆる溶媒、分散媒質、被覆物、抗菌及び抗真菌薬、等張剤及び吸収遅延剤等を含むことが意図されている。医薬活性物質のためのそのような媒質及び作用物質の使用は公知である。従来の媒体又は作用物質が活性化合物と不適合性である場合を除き、そのような媒体は本発明の組成物において使用できる。補助的な活性化合物も組成物に組み込むことができる。
【0087】
医薬組成物は、目的の投与経路と適合するように製造できる。非経口、皮内又は皮下適用のために使用される溶液又は懸濁液は、以下の成分を含むことができる:無菌希釈剤、例えば注射用蒸留水、塩類溶液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又は他の合成溶媒;抗菌剤、例えばベンジルアルコール又はメチルパラベン;抗酸化剤、例えばアスコルビン酸又は重亜硫酸ナトリウム;キレート剤、例えばエチレンジアミン四酢酸;緩衝剤、例えば酢酸塩、クエン酸塩又はリン酸塩、及び張度の調節のための物質、例えば塩化ナトリウム又はデキストロース。pHは、酸又は塩基、例えば塩酸又は水酸化ナトリウムで調整することができる。非経口製剤は、ガラス又はプラスチックで作られたアンプル、使い捨て注射器又は多回投与バイアルに封入することができる。
【0088】
注射用に適する医薬組成物は、滅菌水溶液(水溶性の場合)又は分散液、及び無菌注射用溶液又は分散液の即時調製のための滅菌粉末を含む。静脈投与に関しては、適切な担体は、生理食塩水、静菌水、クレモフォール(Cremophor EL)(商標)(BASF, Parsippany, NJ)又はリン酸緩衝食塩水(PBS)を含む。全ての場合に、組成物は無菌でなければならず、容易に注射できる程度に流動性であるべきである。製造及び保存条件下で安定でなければならず、また微生物、例えば細菌及び真菌の汚染作用に対して保護されていなければならない。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール及び液体ポリエチレングリコール等)を含む、溶媒又は分散媒質、及びそれらの適切な混合物であってよい。適切な流動性は、例えばレシチンなどの被覆物の使用によって、分散の場合は必要な粒径の維持によって及び界面活性剤の使用によって維持できる。微生物の作用の予防は、様々な抗菌及び抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等によって達成できる。多くの場合、等張剤、例えば糖類、多価アルコール、例えばマンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウムを組成物中に含めることが好ましい。吸収を遅延させる物質、例えばモノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを組成物中に含めることによって、注射用組成物の持続的吸収を生じさせることができる。
【0089】
無菌注射用溶液は、必要量の活性化合物(例えば本明細書に記載する作用物質)を、必要に応じて上記で列挙した成分の1つ又はそれらの組合せと共に、適切な溶媒に加え、続いてろ過滅菌することによって調製できる。一般に、分散液は、活性化合物を、基本分散媒質及び上記で列挙したものの中から必要な他の成分を含む滅菌媒体に加えることによって調製される。無菌注射用溶液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、真空乾燥及び、あらかじめその滅菌ろ過溶液から有効成分プラスさらに所望する成分の粉末を生じる凍結乾燥である。
【0090】
経口組成物は一般に、不活性希釈剤又は可食担体を含む。それらをゼラチンカプセルに封入するか又は錠剤に圧縮することができる。経口治療投与のためには、活性化合物を賦形剤と共に加え、錠剤、トローチまたはカプセルの形態で使用することができる。経口組成物はまた、うがい薬としての使用のために液体担体を用いて調製でき、液体担体中の化合物は、経口的に適用され、クチュクチュゆすいで、吐き出されるか又は飲み込まれる。製薬上適合性の結合剤及び/又はアジュバント材料を組成物の一部として含むことができる。錠剤、丸剤、カプセル、トローチ等は、以下の成分のいずれか又は同様の性質の化合物を含むことができる:結合剤、例えば微結晶セルロース、トラガカントゴム又はゼラチン;賦形剤、例えばデンプン又はラクトース;崩壊剤、例えばアルギン酸、プリモゲル(Primogel)又はトウモロコシデンプン;潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウム又はステロテックス(Sterotes);流動促進剤、例えばコロイド状二酸化ケイ素;甘味料、例えばスクロース又はサッカリン;又は香味料、例えばペパーミント、サリチル酸メチル又はオレンジ香味料。
【0091】
さらに、全身投与は、経粘膜又は経皮的手段によっても実施できる。経粘膜又は経皮投与のためには、透過すべき障壁に適切な浸透剤を製剤中で使用する。そのような浸透剤は一般に公知であり、例えば経粘膜投与用には、界面活性剤、胆汁酸塩及びフシジン酸誘導体を含む。経粘膜投与は、鼻内噴霧又は坐薬の使用を通して実施できる。経皮投与用には、当該技術分野において一般的に公知であるように、活性化合物を軟膏(ointments、salves)、ゲル又はクリームに製剤する。
【0092】
一態様では、活性化合物は、体内からの迅速な排泄に対して化合物を保護する担体と共に、例えば移植片及びマイクロカプセル送達システムを含む制御放出製剤として調製される。生分解性、生体適合性ポリマー、例えばエチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル及びポリ乳酸が使用できる。そのような製剤の製造のための方法は、当業者には明白である。材料もまた、アルザ社(Alza Corporation)及びノバ製薬株式会社(Nova Pharmaceuticals,Inc.)から市販のものを入手できる。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体で感染細胞を標的するリポソームを含む)も、薬学上許容される担体として使用できる。これらは当業者に公知の方法に従って、例えば米国特許第4,522,811号に記載されているように調製できる。
【0093】
医薬組成物は、投与のための指示書と共に容器、パック又はディスペンサーに共に含まれることができる。
【0094】
好ましい態様では、医薬組成物は、罹患血管、例えば動脈、又は器官、例えば心臓に注入される。
【0095】
(低分子物質)
ホスファターゼ活性を調節する、例えばホスファターゼ活性を阻害する、低分子作用物質は、低分子スクリーニングによって特定することができる。1又はそれ以上の候補分子をホスファターゼに接触させ、候補分子がホスファターゼと相互作用する又はホスファターゼの酵素活性を調節するかどうかを評価して判定することができる。接触はインビトロで又はインビボで実施することができる。例えばインビトロアッセイは、例えばホスファターゼ活性を有する組換えタンパク質、例えば少なくともヒトホスファターゼの触媒フラグメントを用いて、高度精製成分を使用することができる。ホスファターゼの酵素活性はインビトロで評価することができる。
【0096】
例えば、プロテインホスファターゼ1活性は、50mMのトリスHCl(pH7.4)、1mMのDTT、0.5mMのMnCl、10μMの[32P]ホスホリラーゼa、及び0.5μg/mlのPP1を含む反応混合物30μl中で、記載されているように(Endo, S., et al. (1996) Biochemistry 35, 5220-5228)検定することができる。1μlのPP1を、残りのアッセイ成分を含むアッセイ混合物20μlに添加して反応を開始させる。30℃で20分後、アッセイ混合物に10μlの50%トリクロロ酢酸を添加して反応を終了させる。次にアッセイ混合物を氷上で冷却して、遠心分離する。上清からの20μlアリコートをろ紙にスポットし、放出された[32P]Piの量を測定するためにシンチレーション計数器に入れた。PP1アッセイのために使用した[32P]ホスホリラーゼは、上述したように30℃で30分間調製した。[32P]ホスホリラーゼを50mMのトリスHCl、pH7.4、1mMのEDTA、1mMのDTT中で透析し、使用時まで−80℃で凍結保存した(Huang et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2000 May 23;97(11):5824-9も参照のこと)。
【0097】
治療化合物及び天然抽出物のライブラリーを試験する多くの薬剤スクリーニングプログラムでは、所与の期間に検討する試験化合物の数を最大化するために高処理アッセイが望ましい。
【0098】
試験化合物の効果は、様々な濃度の試験化合物を用いて得られるデータから用量反応曲線を作成することによって評価できる。さらに、比較のためのベースラインを提供するために対照アッセイを実施することもできる。対照アッセイでは、心臓細胞を試験化合物の非存在下でインキュベートする。
【0099】
「化合物」又は「試験化合物」は、いかなる化合物であってもよく、例えば高分子(例えばポリペプチド、タンパク質複合体又は核酸)又は低分子(例えばアミノ酸、ヌクレオチド、有機又は無機化合物)であってよい。試験化合物は、約10,000g/mol以下、5,000g/mol以下、1,000g/mol以下又は約500g/mol以下の式量を有することができる。試験化合物は、天然に存在するか(例えば草本又は自然生成物)、合成物質又はその両方であってよい。高分子の例は、タンパク質、タンパク質複合体及び糖タンパク質、核酸、例えばDNA、RNA及びPNA(ペプチド核酸)である。低分子の例は、ペプチド、ペプチドミメティック(例えばペプトイド)、アミノ酸、アミノ酸類似体、ポリヌクレオチド、ポリヌクレオチド類似体、ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体、有機又は無機化合物、例えばヘテロ有機又は有機金属化合物である。試験化合物は、本明細書に記載する方法によって検定される唯一の物質であってよい。または、試験化合物の集合を連続的に又は同時に検定することができる。
【0100】
試験化合物は、例えば上述したように(例えば、アゴニストについての情報に基づいて)又は数多くのコンビナトリアルライブラリー法のいずれかを用いて入手できる。一部の例示的なライブラリーは以下を含む:生物学的ライブラリー;ペプトイドライブラリー(ペプチドの機能性を有するが、新規で非ペプチド性の骨格を備え、酵素分解に対して抵抗性であるが、それにもかかわらず生物活性なままである分子のライブラリー(例えば、Zuckermann, R.N. et al. (1994) J. Med. Chem. 37:2678-85参照);空間的にアドレス可能な並列固相又は液相ライブラリー;デコンボルーションを必要とする合成ライブラリー法;「1ビーズ1化合物」ライブラリー法;及びアフィニティークロマトグラフィー選択を用いる合成ライブラリー法。これらのアプローチは、例えば化合物のペプチド、非ペプチドオリゴマー又は低分子ライブラリーを作製するために使用できる(例えば、Lam (1997) Anticancer Drug Des. 12:145参照)。
【0101】
コンビナトリアルケミカルライブラリーの作製及びスクリーニングは当業者に周知である。そのようなコンビナトリアルケミカルライブラリーは、ペプチドライブラリー(例えば「米国特許第5,010,175号、Furka, Int. J. Pept. Prot. Res. 37:487-493 (1991)」及び「Houghton et al, Nature 354:84-88 (1991)」参照)を含むが、これらに限定されるものではない。化学的多様性のあるライブラリーを作製するための他の化学も使用できる。そのような化学は、ペプトイド(例えば、PCT公開第WO91/19735号)、コードされるペプチド(例えば、PCT公開第WO93/20242号)、ランダムバイオオリゴマー(例えば、PCT公開第WO92/00091号)、ベンゾジアゼピン(例えば、米国特許第5,288,514号)、ダイバーソマー(diversomers)、例えばヒダントイン、ベンゾジアゼピン及びジペプチド(Hobbs et al., Proc. Nat. Acad. Sci. USA 90:6909-6913 (1993))、ビニローグポリペプチド(Hagihara et al., J. Amer. Chem. Soc. 114:6568 (1992))、グルコース骨格を有する非ペプチド性のペプチドミメティック (Hirschmann et al., J. Amer. Chem. Soc. 114:9217-9218 (1992))、低分子化合物ライブラリーの類似の有機合成 (Chen et al., J. Amer. Chem. Soc. 116:2661 (1994))、オリゴカルバメート(Cho et al., Science 261 :1303 (1993))、及び/又はホスホン酸ペプチジル(Campbell et al., J. Org. Chem. 59:658 (1994))、核酸ライブラリー(Ausubel, Berger and Sambrook参照、全て前出)、ペプチド核酸ライブラリー(例えば、米国特許第5,539,083号参照)、抗体ライブラリー(例えば、Vaughn et al., Nature Biotechnology, 14(3):309-314 (1996)及びPCT/US96/10287号参照)、炭水化物ライブラリー(例えば、Liang et al., Science, 274:1520-1522 (1996)及び米国特許第5,593,853号参照)、有機低分子ライブラリー(例えば、ベンゾジアゼピン、Baum C&EN, Jan 18, page 33 (1993);イソプレノイド、米国特許第5,569,588号;チアゾリジノン及びメタチアザノン、米国特許第5,549,974号;ピロリジン、米国特許第5,525,735及び同第5,519,134号;モルホリノ化合物、米国特許第5,506,337号;ベンゾジアゼピン、米国特許第5,288,514号等)を含むが、これらに限定されるものではない。さらに、分子ライブラリーの合成のための方法の例は、当該技術分野において、例えば:DeWitt et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci U.S.A. 90:6909;Erb et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci USA 91 :11422;Zuckermann et al. (1994). J. Med. Chem. 37:2678;Cho et al. (1993) Science 261:1303;Carrell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2059;Carell et al (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2061;及びGallop et al. (1994) J. Med. Chem. 37:1233において認められる。
【0102】
生物学的ライブラリーは、核酸によってコードできるポリマーを含むことができる。そのようなコードされるポリマーは、ポリペプチド及び機能性核酸(例えば、核酸アプタマー(DNA、RNA)、二本鎖RNA(例えばRNAi)、リボザイム等)を含む。生物学的ライブラリー及び非生物学的ライブラリーは、ペプチドライブラリーを作製するために使用できる。生物学的ライブラリーの別の例は、dsRNA(例えばsiRNA)又はその前駆体のライブラリーである。二本鎖RNA(例えば、siRNA)を生成するように処理又は転写することができる核酸のライブラリーによっても特徴づけられる。
【0103】
分子ライブラリーの合成のための方法の例は、当該技術分野において、例えば:DeWitt et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci U.S.A. 90:6909;Erb et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91 :11422;Zuckermann et al. (1994). J. Med. Chem. 37:2678;Cho et al. (1993) Science 261:1303;Carrell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2059;Carell et al (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2061;及びGallop et al. (1994) J. Med. Chem. 37:1233において認められる。
【0104】
化合物のライブラリーは、溶液中(例えば、Houghten (1992) Biotechniques 13:412-421)、又はビーズ(Lam (1991) Nature 354:82-84)、チップ(Fodor (1993) Nature 364:555-556)、細菌(Ladner,米国特許第5,223,409号)、胞子(Ladner,米国特許第5,223,409号)、プラスミド(Cull et al. (1992) Proc Natl Acad Sci USA 89:1865-1869)又はファージ(Scott and Smith (1990) Science 249:386-390;Devlin (1990) Science 249:404-406;Cwirla et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci 87:6378-6382;Felici (1991) J. MoI Biol. 222:301-310;Ladner 前出)上に提示されることもある。多くの場合、試験化合物のライブラリーに対する高処理スクリーニングアプローチは、1又はそれ以上のアッセイ、例えばアッセイの組合せを含む。各々のアッセイからの情報を、例えば最適化又は改善された化合物のためのリード化合物として使用できる候補化合物を特定するため及びSARを特定するために、データベースに保存することができる。
【0105】
以下の実施例は、本発明のさらなる説明として及び本発明を例示するために提供するものであり、本発明を限定するものではない。
(実施例)
【実施例1】
【0106】
心不全のヒト心臓におけるI−1及びそのリン酸化
心不全のヒト心臓におけるI−1のレベルとリン酸化状態を調べるために、I−1のレベルを、一次診断が拡張型心筋症(IDC)であった9例の非心不全のヒト心臓及び10例の心不全のヒト心臓からの生検において比較した。タンパク質の負荷を等しく管理するために、データをカルセケストリンタンパク質(CSQ)レベルに基準化した。このSRタンパク質のレベルは心不全の試料と非心不全の試料の間で同じレベルであったからである(図1A)。総I−1タンパク質レベルは、ドナーと心不全の心臓の間で差がなかったが、そのリン酸化の程度は心不全の心臓において有意に低く(〜60%)(図1B)、心不全のヒト心臓ではI−1は主として不活性であり、それ故PP1活性を阻害できないことを示唆した。低いI−1リン酸化レベルは、ドナー心臓(10.9±1.3pmol/mg、n=10、p<0.05)に比べて心不全の心臓(5.8±0.7pmol/mg、n=9)での低いcAMPレベルによるβアドレナリンシグナル伝達障害及び低いPKA活性化を反映すると考えられる。
【実施例2】
【0107】
構成的に活性なI−1によるPP1阻害の心不全のヒト心筋細胞におけるβアゴニストに対する収縮応答の増強
I−1欠損マウス心臓は、低い収縮パラメータを示す。さらに、ヒト心不全の場合は、PP1活性が上昇する。この上昇は、少なくとも一部には、機能低下を導くI−1の不活性化又は脱リン酸化によるものであると考えられる。従って、I−1活性を上昇させることは、心不全のヒト心筋細胞において減衰したβアドレナリン応答性を回復するのに有益であり得る。
【0108】
構成的に活性なI−1タンパク質(I−1T35D)のアデノウイルス媒介の発現を、心不全のヒト心臓から単離した筋細胞において使用した(del Monte F, et al., Circulation. 1999;100:2308-11)。I−1T35D構築物の設計は、最初の65のアミノ酸をコードするようにI−1 cDNAを切断すること及びPKAリン酸化部位(GGT:Thr35)をアスパラギン酸(GTC:D)で置換するヌクレオチド変化を導入することを必要とし、構成的に活性な阻害剤を生じる(Endo, S. et al., Biochemistry. 1996;35:5220-8)。平行検討では、心筋細胞を、対照として使用するためにβ−ガラクトシダーゼをコードするアデノウイルスに感染させた。どちらの構築物も、トランスフェクションのマーカーとして使用したグリーン蛍光タンパク質(GFP)をコードする配列を含んでいた(図2B及びD)。
【0109】
β−gal又はI−1T35D構築物の何れかで感染させた心不全のヒト心筋細胞は、基礎条件下で同様の収縮機能を示した。しかしながら、イソプロテレノール(100nM)に応答して、I−1T35Dに感染させた心筋細胞は、対照と比較して、有意に高い筋細胞短縮(図2E及びF)、細胞短縮速度(図2G)及び再伸長(図2H)、及び弛緩についてのより低い時間定数、タウ(τ)を示した(I−1T35D:0.16±0.05、n=8に対して、GFP:0.37±0.09、n=10、p<0.05)。加えて、カルシウムシグナルの50%減衰までの時間(I−1T35D:0.33±0.06、n=8に対して、GFP:0.52±0.06、秒、n=10、p<0.05)及びカルシウムシグナル減衰についてのτ(I−1T35D:0.36±0.10、n=8に対して、GFP:0.70±0.09、n=10、p<0.05)が、対照と比較してI−1トランスフェクト細胞において加速された。
【0110】
従って、ホスファターゼを阻害するタンパク質の発現は、ヒト心不全において上昇すると報告されている活性、PP1活性を低下させるために有効である。加えて、これらの結果は、I−1T35DによるPP1活性の阻害が、心不全のヒト心臓におけるβアドレナリン応答性を有意に改善することを示唆する。
【実施例3】
【0111】
心臓組織への遺伝子送達での同時冠状静脈遮断(CVB)を伴う経皮的順行性冠動脈内遺伝子導入の活用
種々の血清型のAAVを、外因性遺伝子を心臓に送達する能力に関してテストした。AAV6は、その他のAAVに比べていくつかの驚くべき意外な性質を有することが認められた。AAV6は、心臓において最も迅速な遺伝子発現並びに最も特異的で効率的な発現をもたらした(データは示していない)。その他のAAVは、しかしながら、他の適用、例えば心臓組織において異なる発現経過が望ましい適用のために有用であり得る。
【0112】
同時冠状静脈遮断(CVB)を伴う経皮的順行性冠動脈内遺伝子導入をヒツジ及びブタモデルの両方で実施した。左冠動脈前下行枝(LAD)又は左冠動脈回旋枝(LCX)にカニューレを挿入し、標準血管形成バルーンで閉塞した。ウイルスの停留時間を上昇させるためにLAD及びLCX分布の両方で1分間の虚血プレコンディショニング(LAD及びLCXの遮断による)を実施した。プレコンディショニングプロトコール後、大冠状静脈(GCV)又はその分枝の1つにカニューレを挿入し、標準ウエッジバルーン(wedge balloon)カテーテルで一時的に閉塞した。CVBを、GCV近位部の閉塞を含み、それ故LAD及びLCX分布の両方で静脈ドレナージを閉塞するように包括的に、又はLAD送達の前室間静脈(AIV)が閉塞され、同様にLCX送達の中心静脈(MCV)の口が閉塞されるように選択的に実施した。動脈及び静脈バルーンの両方を膨張させて、膨張した血管形成バルーンの中心管腔を通してβ−ガラクトシダーゼを担持するアデノ随伴ウイルス(AAV6.β−gal)を注入することにより、経皮的順行性冠動脈内遺伝子導入を実施した(n=5)。
【0113】
AAV6.CMV.β−galによる遺伝子導入の12週間後、10μmの心筋切片を中隔、前室、左室側心室、後心室及び右心室壁から得た。これらの切片を、0.5%グルタルアルデヒドを含むリン酸緩衝液(PBS)で30分間、次に30%スクロースを含むPBSで30分間固定した。その後切片を、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−α−D−ガラクトピラノシド(X−gal)を含む溶液中で一晩インキュベートした。結果は、心筋全体へのβ−ガラクトシダーゼの広汎な導入を示唆した(データは示していない)。従って、包括的CVBを伴う5×1014ゲノム/mlの濃度のAAV6.CMV.β−galの順行性形質導入は、標的心筋において有意の遺伝子発現を生じさせ、大型動物モデルにおける実現可能性と安全性を明らかにした。
【0114】
冠状静脈閉塞を用いた遺伝子導入をさらに確認した。簡単に述べると、レポーター遺伝子及びSERC2Aをコードする遺伝子は、AAV6.CMV構築物に基づき、ブタにおいて成功裏に導入された(データは示していない)。
【実施例4】
【0115】
インビボでの活性阻害剤1の発現の心機能の増強
プロテインホスファターゼ1活性低下の長期的なインビボ作用を調べるため、構成的に活性なトランケート型阻害剤1(I−T35D;AA1−65)を心筋細胞限定的に発現させた。この形態の阻害剤1は、天然リン酸化阻害剤よりも高い濃度であるが、プロテインホスファターゼ1を特異的に阻害し(Endo, S., et al., Biochemistry. 1996;35:5220-8)、及びより顕著に、βアドレナリン受容体シグナル伝達軸が下方調節される心不全において活性なままであることから(Bristow, M.R., et al., N Engl J. Med. 1982;307:205-ll)、選択した。
【0116】
a−MHCプロモーター、次いでマウスI−T35D(AA1−65)cDNA及びシミアンウイルス40ポリアデニル化部位から成る5.6kbの導入遺伝子を構築し、制限して、ゲル精製し、その後一細胞近交系FVB/N胚の前核に微量注入した。TGマウスは、シンシナティ大学の「研究機関における動物の管理及び使用に関する委員会(Institutional Animal Care and Use Committees)」によって承認されたプロトコールに従って取り扱った。
【0117】
3つのトランスジェニック系統が同様のレベルのI−T35D発現(WTsと比較して約25倍)で得られた。インビボでの心機能を、先に記述されている(Hoit, B.D., et al., Circ. Res. 1995;77:632-7)ように、非侵襲的心エコー検査によって評価した。各々の実験について、トランスジェニック及び野生型マウスをアベルチン2.5%(10μl/(g・体重))で麻酔し、盲検条件下で心機能を評価した。グループ間の統計的な差異を判定するためにスチューデントt検定及びANOVA、次いでNeuman−Keulsのt検定を用いた。データは、平均値±標準誤差で表わした。各々の実験について、P値<0.05で統計的有意性を確立した。統計分析は、Prism3.0で実施した。
【0118】
3つの系統を、年齢及び性別が適合する野生型(WT)と共に、M形式及びドップラー超音波検査によって調べた。3ヶ月齢で、野生型(n=5)と比較して活性阻害剤1トランスジェニック心臓(n=14)では、左室円周方向心筋線維短縮速度(Vcf)の上昇が認められ(TG:7.91±0.31に対して、WT:6.28±0.54、circ/sec;P<0.05)、駆出時間が短縮された(TG:56.77±1.81に対して、WT:64.0±2.07、msec;P<0.05)。さらに、6ヶ月齢で心機能が同様に上昇し、寿命検討(19匹のWT及び19匹のTG)では突然死の証拠を示唆せず、カプラン−マイヤー生存率分析(2年齢まで)は、死亡率において有意差を示さなかった。その後の検討は、トランスジェニック系統の1つ(C系統)に関して実施した。心臓プロテインホスファターゼ1活性の有意な低下(15%)が存在し(図3A)、WTsと比較して全体的PP1触媒サブユニットタンパク質レベル又はPP2A活性に代償性変化は見られなかった(データは示していない)。
【0119】
2A型ホスファターゼを選択的に阻害する濃度の4nMのオカダ酸、及び2B型ホスファターゼの阻害剤であるEDTA(0.5mM)の存在下で、32P標識グリコーゲンホスホリラーゼを基質として使用してPP1活性を調べた(Carr, A.N., et al., Mol Cell Biol. 2002;22:4124-35;Suzuki, Y., et al., Mol. Cell Biol. 2001 ;21 :2683-94)。反応の線形性を確実にするために基質の15%未満だけが利用される条件下でアッセイを実施した。
【0120】
インビトロでの心機能を、先に記述されている(Sato, Y., et al., J. Biol Chem. 1998;273:28470-7)ようなランゲンドルフ灌流システムを用いて検査した。心拍数及び心室内圧の最大一次導関数(±dP/dt)を連続的に算定した。細胞機能に関しては、カルシウム耐性心筋細胞を単離し、サブセットにFura−2−AM(Zhao, W., et al., Cardiovasc Res. 2003;57:71-81)を負荷した。基礎及びイソプロテレノール刺激した収縮性パラメータ及びCa2+濃度変化を、ビデオエッジ検出システムを用いて測定した。細胞を0.5Hzで律動させた。データは、Felixコンピュータソフトウエア(Photon Technology International, Lawrenceville, New Jersey, USA)によって解析した。
【0121】
神経ホルモン又は血流力学的影響を受けない系である、ランゲンドルフ灌流の心臓も、内因性心臓収縮力の増強を示唆した。活性阻害剤1発現の心臓では、最大左心室圧が上昇し(23%)、+dP/dt及び−dP/dtが野生型コホートに比べてそれぞれ39%及び36%上昇した(図3B)。さらに、単離したカルシウム耐性心筋細胞は、左室内径短縮率の上昇(56%)を示した(図3C)。基礎条件下で、+dL/dt及び−dL/dt並びに左室内径短縮率の程度(%FS)が活性阻害剤1発現の心筋細胞において上昇した。またイソプロテレノール刺激(ISO)下で、+dL/dt及び−dL/dtが上昇した。筋細胞短縮(−dL/dt)及び再伸長(+dL/dt)の速度も、活性阻害剤1の発現によって2倍以上上昇した(図3C)。50%ピーク及び50%弛緩までの時間も有意に低下した。さらに、心筋細胞がイソプロテレノール(100nM)によって最大刺激されたとき、筋細胞短縮(−dL/dt)及び再伸長(+dL/dt)の速度は上昇し続けた(図3C)。
【0122】
機械的パラメータの変化は、カルシウム循環における同様の上昇を反映した。基礎条件下で、カルシウム濃度変化の程度及び50%減衰までの時間(T50値)の両方が活性阻害剤1心筋細胞において上昇した。イソプロテレノール(100nM)刺激下で、T50値も短縮された。実際に、カルシウム濃度変化の程度は、SRカルシウム取込み及びSRカルシウム負荷の上昇を反映して、71%上昇し、Ca2+シグナルの50%減衰までの時間(T50値)は37%低下して(図3D)、SERCA2機能の増強を示唆した。
【0123】
注目すべきは、イソプロテレノール刺激下でも、活性阻害剤1心筋細胞は引き続きT50値の短縮を示したが、カルシウム濃度変化の程度は、機械的パラメータと一致して、野生型心筋細胞と差がなかった。基礎収縮性の増強及びβアドレナリン応答性上昇に関するこれらの所見は、分子変力剤としての阻害剤1の役割を裏付ける。本実施例は、それ故、活性阻害剤1(I−1)の心臓特異的発現を有するマウスが、心臓1型ホスファターゼ活性の低下及び心臓収縮性の上昇を示すことを明らかにする。
【実施例5】
【0124】
Ca2+ハンドリングタンパク質及びグリコーゲン代謝への活性阻害剤1の作用
上記のように、鍵となる調節ホスホプロテイン、例えばホスホランバン、リアノジン受容体、トロポニンI及びL型カルシウムチャネルの、βアドレナリン受容体依存性タンパク質リン酸化は、Ca2+循環及び心臓収縮性を支配する、決定的に重要な調節機構を構成する。従って、これらの鍵となる基質の発現(図4A)及びリン酸化レベル(図4B)を、ここで述べるトランスジェニックモデルにおいて検討した。
【0125】
先に記述されているように11、18、心臓ホモジネートに関して定量的免疫ブロット法を実施した。プロテインGダイナビーズ(Dynal Bioctechnology Incorporated, Lake Success, NY)を使用して免疫沈降実験を実施した。簡単に述べると、PP1a抗体(Santa Cruz Biotechnology, sc-6104)の50μlを、製造者により記載されるように0.2Mのトリエタノールアミン及び20mMのジメチルピメジレートを使用して、磁気プロテインGビーズに複合した。心臓ホモジネートの500μlを、絶えず回転運動させながら、ビーズと共に一晩インキュベートした。ビーズをPBSプラス0.1%のTween20で5回洗浄した。最後に、0.1Mのクエン酸(pH2.8)を用いてPP1抗体に結合したタンパク質を溶出し、その後SDS−PAGEで分離して、上記のようにブロットし、プローブした。
【0126】
最初に、125I−ヨードシアノピンドロールによる放射性リガンド結合試験において、βアドレナリン受容体密度には差がないことが測定された(データは示していない)。放射性リガンド結合試験は、先に記述されているように(McGraw, DW and Liggett, SB, J. Biol. Chem. 1997;272:7338-44)実施した。簡単に述べると、マウス心臓を、5mMのトリス、2mMのEDTA(pH7.4)、ベンズアミジン(5μg/ml)及びダイズトリプシン阻害因子(5μg/ml)を含む緩衝液中で均質化した。ホモジネートを4℃、40,000×gで10分間遠心分離した。生じたペレットを10容積の均質化緩衝液に再懸濁し、再び遠心分離した。ペレットをアッセイ緩衝液(75mMのトリス、12.5mMのMgCl、2mMのEDTA、pH7.4)に再懸濁し、次にアリコートを、約400pMの125I標識ヨードシアノピンドロールと共に室温で2時間、総容量250μl中でインキュベートした。1μMのプロプラノロールの存在下で非特異的結合を測定した。反応を停止するために、低温洗浄緩衝液(10mMのトリス、pH7.4)を添加し、WhatmanGF/Cガラス繊維フィルターを通して真空ろ過を実施した。
【0127】
しかし、野生型心臓と比較して、そのcAMP依存性(Ser16)及びCa2+カルモジュリン依存性(Thr17)プロテインキナーゼ部位の両方でホスホランバンのリン酸化レベルに著しい上昇(約1.8倍)があった(図4B)。興味深いことに、心臓リアノジン受容体タンパク質レベルは、約30%低下したが(図4A)、このチャネルの相対的(mol・Pi/mol・RyR2)リン酸化には差がなかった(図4B)。プロテインホスファターゼ1及びプロテインホスファターゼ2Aの両方が、リアノジン受容体高分子複合体と共免疫沈降することが示されているので(Marx SO, et al., Cell. 2000;101:365-76)、リアノジン受容体リン酸化に関するこの所見は意外であった。
【0128】
トロポニンIのタンパク質又はリン酸化レベルの試験では、活性阻害剤1発現の心臓において変化を示さなかった(図4B)。さらに、L型Ca2+チャネルタンパク質レベルには変化がなかった。カルシウム耐性心筋細胞を単離し、明らかな横紋を有する、自発収縮を伴わない細胞をL型Ca2+電流の測定のために使用した。定電圧で電流記録を得て、細胞キャパシタンス及びCa2+チャネル不活性化を測定した(Bodi, I., et al., J. Am. Coll. Cardiol. 2003;41:1611-22)。平均ピークCa2+電流(ICa)及び電流−電圧関係の定常状態不活性化(I−V)は、活性阻害剤1発現筋細胞及び野生型筋細胞の間で同様であった。しかし、ICaの不活性化は、ホスホランバンノックアウトマウスでの先の所見(Masak, H., et al., Am. J. Physiol. 1997;272:H606-12)と同様に、野生型細胞よりも活性阻害剤1トランスジェニック細胞においてより迅速であった(図4C)。
【0129】
重要なことに、グリコーゲン代謝を検討し、活性阻害剤1発現心臓と野生型心臓の間でグリコーゲンシンターゼ及びグリコーゲンホスホリラーゼ活性に有意差を認めなかった。さらに、これらの心臓における全体的グリコーゲン蓄積には差がなかった。従って、心筋における活性阻害剤1の発現は、阻害剤1除去が骨格筋におけるグリコーゲン代謝を変化させなかったという先の所見(Scrimgeour, AG, et al., J. Biol Chem. 1999;274:20949-52)と一致して、グリコーゲン代謝に有意の効果を及ぼさない。
【実施例6】
【0130】
活性阻害剤1の圧過負荷における機能低下及び代償不全の心肥大の遅延
Ca2+循環の上昇に結びつく、活性阻害剤1発現が、血流力学的ストレスによって誘導される心臓リモデリングに対して保護し得るという仮説を検討するため、本発明者らは、トランスジェニックマウス及び同系野生型コホートを横行大動脈の絞扼に供し、絞扼後6週間目と12週間目に連続的心エコー検査評価を実施した(Kiriazis, H., et al., Cardiovasc Res. 2002;53:372-81)。マウスでの横行大動脈狭窄は、先に記述されている(Kiriazis H., et al., Cardiovasc Res. 2002;53:372-81)ように実施した。簡単に述べると、10週齢のFVBN雄性野生型及びトランスジェニックマウスに、27ゲージ針を使用して横行大動脈絞扼を行った。心エコー検査は、絞扼の前及び絞扼後様々な時点で実施した。終了時に、トランス大動脈圧較差(trans-aortic gradients)、並びに肺、肝臓、心臓及び体重を測定し、その後の組織病理学的分析及び生化学試験のために心臓組織を保存した。
【0131】
トランス大動脈圧較差は、2つのグループの間で同様であったが(WT:47.4±2.50;TG;46.25±2.69、mmHg)、活性阻害剤1マウスは、ラプラースの法則によって測定したとき、Vcfcの低下を示さず、h/r(壁の厚さ/径)比の上昇を示し(図5A)、機能の維持及び壁−圧又はストレスの低下を示唆した。これに対しWTは、Vcfcの約30%の低下及び左心室拡張末期及び収縮末期径の有意の上昇(P<0.05)を経験し、心拡張への進行を示した(図5A)。
【0132】
圧測定を先に記述されているように実施した(del Monte F., et al., Circulation. 2001;104:1424-9)。等容性弛緩の経時変化(τ)を、式:P=P−tτ+P(式中、Pは左心室等容性圧であり、PはピークdP/dt時点での圧であり、Pは残圧である)を用いて算定した。ペーシング試験のために、刺激装置(Grass Instruments, MA)に接続した心耳に心外膜誘導を設置した。動物のサブセットにおいて、多数の0.7mm圧電性結晶(Sonometrics Co., Canada)を、結晶間距離を測定するために僧帽弁のレベルで心室の短軸に沿って左心室の表面上に配置した。下大静脈をクランプすることによって種々の負荷条件下で左心室圧−径ループを生成した。負荷条件の範囲にわたって一連の圧径ループを作製し、最大勾配を生成するように個々の圧−径ループの左上隅を連結することによって収縮末期圧−径関係を得た。
【0133】
試験(12週間)終了時に、心臓対体重比は、疑似手術対照と比較して、野生型では78%、活性阻害剤1マウスでは52%上昇した(図5B)。肺うっ血の頻度も、活性阻害剤1絞扼マウス(20%)に比べて野生型マウス(80%)でははるかに高かった。肺うっ血は、疑似手術対照よりも2標準偏差大きい肺重量と定義した。
【0134】
顕微鏡レベルでの心臓の更なる検査は、絞扼WT心臓において間質性及び血管周囲線維症の上昇を明らかにし(図5C)、野生型マウスでは中等度から重度の多病巣性血管周囲線維症であり、活性阻害剤1の心臓では中等度から軽度の線維症であった。従って、実施例6は、活性阻害剤1の発現が、大動脈絞扼に供したマウスを心機能低下及び形態悪化から保護することを示す。心筋細胞断面積についてのH&E、トリクローム、PAS及びTRITC標識コムギ胚芽凝集素(Sigma Chemical Co., St. Louis, Missouri, USA)による組織病理学的試験を、先に記述されている(Cohen, P., Adv. Second Messenger Phosphoprotein Res. 1990;24:230-5)ように実施した。特に、細胞壁のコムギ胚芽凝集素標識のために、40又はそれ以上の細胞断面積(多数の切片から)を各々の心臓について測定した(n=3(グループ当りの心臓数))。コムギ胚芽凝集素染色は、絞扼WTにおける心筋細胞断面積が、絞扼阻害剤1の心臓に比べて実質的に高いことを示した(n>120(グループ当り3匹のマウスからの筋細胞数))(図6A)。阻害剤1の抗肥大作用を考慮して、PKC、カルシニューリン、CREB及びMAPキナーゼの肥大経路を調べた。WTコホートと比較して、絞扼TGではp38及びERK1/2活性化の有意の低下が存在した(図6B)。
【0135】
阻害剤1の保護作用は、ホスホランバン、SERCA及びカルセケストリンのレベルの変化とは関連しなかったが、Ser16でのホスホランバンのリン酸化では著しく上昇した(図6C)。注目すべき点として、Thr17でのホスホランバンリン酸化又はリアノジン受容体のSer2809リン酸化では、全く差異が観察されなかった。従って、本実施例も同様に、活性阻害剤1の発現が、大動脈絞扼に供したマウスを細胞レベルでの心肥大から保護し、MAPキナーゼ経路の活性化を減衰させ、ホスホランバンリン酸化に有益な作用を及ぼすことを示す。
【実施例7】
【0136】
活性阻害剤1の発現による心不全への過渡期にある圧過負荷性肥大のラットモデルの救済
アデノウイルス遺伝子導入による活性阻害剤1の短期発現が、既存心不全の背景下で血流力学パラメータを改善できるかどうかを調べるため、絞扼後22週目までに左心室拡張期径の上昇及び内径短縮率の低下を示す、圧過負荷誘導性心筋症のラットモデルを使用した(del Monte F., et al., Circulation. 2001;104:1424-9)。4週齢のウイスターラット(70〜80g)をCharles River Laboratories(Wilmington, MA)より入手し、大動脈狭窄を先に記述されている(del Monte, F., et al., Circulation. 2001;104:1424-9)ように実施した。動物を最初に2つのグループ:大動脈絞扼した30匹の動物の第1グループと擬似手術した32匹の動物の第2グループに無作為に割り付けた。全ての動物が最初の処置期間終了時まで生存した。
【0137】
左室内径短縮率の25%以上の低下が認められたとき、遺伝子導入を実施した。大動脈絞扼した30匹の動物のグループを、Ad.I−1T35D又はAd.GFPの何れかを摂取する各々15匹ずつの2つのグループに細分した。24匹の擬似手術動物のグループは遺伝子導入を受けず、年齢適合するように試験した。I−1T35Dグループの1匹の動物とGFPグループの1匹の動物が、遺伝子導入手術の間に死亡した。アデノウイルス送達システムは以前に記述されている(Beeri R., et al., Circulation. 2002;106:1756-9)。擬似手術ラットでは、遺伝子送達を実施しなかった。以前の検討では、Ad.GFPを注入した擬似手術ラットが、非感染擬似手術ラットと同様に行動することを示した。カテーテルに基づくアプローチによる活性阻害剤1又はレポーター遺伝子GFPのアデノウイルス遺伝子送達は、心不全及び非心不全の心臓において心室全体にわたる肉眼的に均一な発現パターンを誘導した(Del Monte, F., et al., Physiol Genomics. 2002;9:49-56)。
【0138】
アデノウイルス・ベクターを作製し(Del Monte, F., et al., Circulation. 1999;100:2308-11)、ラット心不全モデル(Beeri R., et al. Circulation. 2002;106:1756-9;Del Monte, et al., Circulation. 2001;104:1424-9)において送達した(Beeri R., et al. Circulation. 2002;106:1756-9)。圧測定及び生化学アッセイを、先に記述されている(Beeri R., et al. Circulation. 2002;106:1756-9;Del Monte, et al., Circulation. 2001;104:1424-9)ように実施した。
【0139】
免疫ブロット試験はまた、活性阻害剤1の発現を確認し、Ad.I−1による感染時にプロテインホスファターゼ1活性が有意に低下した(60%)(データは示していない)。心不全対照グループでは左心室機能が低下したが(図7A)、活性阻害剤1の遺伝子導入では、圧上昇(+dP/dt)の割合を有意に上昇させた(図7A)。拡張期パラメータも、左心室収縮期圧の低下の最大速度の回復(−dP/dt)並びに等容性弛緩定数、τによって測定した圧降下の経時変化によって実証されたように、活性阻害剤1発現によって正常化した(図7B)。
【0140】
心室機能を負荷に関係しない様式で更に定義するために、圧−径分析を動物のサブセットにおいて実施した(図7C)。圧測定を先に記述されている(Del Monte, F., et al., Circulation. 2001;104:1424-9)ように実施した。等容性弛緩の経時変化(τ)を、式:P=P−tτ+P(式中、Pは左心室等容性圧であり、PはピークdP/dt時点での圧であり、Pは残圧である)を用いて算定した。ペーシング試験のために、刺激装置(Grass Instruments, MA)に接続した心耳に心外膜誘導を設置した。動物のサブセットにおいて、多数の0.7mm圧電性結晶(Sonometrics Co., Canada)を、結晶間距離を測定するために僧帽弁のレベルで心室の短軸に沿って左心室の表面上に配置した。下大静脈をクランプすることによって種々の負荷条件下で左心室圧−径ループを生成した。負荷条件の範囲にわたって一連の圧−径ループを作製し、最大勾配を生成するように個々の圧−径ループの左上隅を連結することによって収縮末期圧−径関係を得た。
【0141】
負荷条件を変えるために、開胸動物において下大静脈をクランプし、それによって心室容積を低下させた。これは、種々の前負荷条件下での一連の測定を用いて、収縮末期圧−径関係の算定を可能にした(図7C)。収縮末期圧−径関係の最大勾配(Emax又は最大エラスタンス)は、非心不全の心臓に比べて、対照ウイルス(Ad.GFP)に感染させた対照の心不全の心臓においてより低く、内因性心筋収縮力及び収縮予備力の低い状態を示唆した。活性阻害剤1の発現は、収縮末期圧−径関係の勾配を非心不全レベルまで完全に回復させ(図7D)、高い前負荷に直面したとき収縮性を上昇させる心臓の能力が回復されたことを示唆した。従って、活性阻害剤1の急性アデノウイルス発現は、上述した結果の通りに、圧過負荷誘導性心不全のラットモデルにおいて心機能不全及び代償不全の進行を停止させる。
【0142】
ホスファターゼ活性の付加的な測定を、先に記述されている(Margolis, S.S., Embo J. 2003;22:5734-45)ように、P標識ミエリン塩基性タンパク質(NEBカタログ番号P0780S)を用いて、PP1とPP2A活性を識別するためにオカダ酸を使用して実施した(Schwinger, R.H., Circulation. 1995;92:3220-8)。グリコーゲンシンターゼ(GS)及びグリコーゲンホスホリラーゼ(GP)活性を、心筋ホモジネートにおいて測定した(Suzuki, Y., et al., MoI. Cell Biol. 2001;21:2683-94)。GS活性は、グリコーゲンシンターゼ活性のアロステリックエフェクターである、7.2mMのグルコース−6−ホスフェートの存在下又は非存在下で、UDP[14C]グルコースからグリコーゲンへの[14C]グルコースの転移によって測定した。グリコーゲンホスホリラーゼ活性は、グリコーゲンホスホリラーゼのアロステリックアクチベーターである、2mMのAMPの非存在下又は存在下で[14C]グルコース−1−ホスフェートからグリコーゲンへの[14C]グルコースの組込みを測定することによって定量した。
【0143】
生化学的特性決定は、先の報告(Del Monte, F., et al., Circulation. 2001;104:1424-9)と一致して、心不全心臓ではSERCA2aレベルが有意に低下することを明らかにし、これらのレベルは対照(Ad.GFP)又は活性阻害剤1遺伝子導入時も低いままであった。ホスホランバン又はリアノジン受容体のレベルは差がなかった(図8A)。cAMP依存性部位である第16位のセリンでのホスホランバンのリン酸化は、心不全心臓において有意に低かったが、活性阻害剤1のアデノウイルス遺伝子導入は第16位のセリンのリン酸化の実質的な上昇に結びついた(図8B)。興味深いことに、対照又は活性阻害剤1ウイルスに感染させた心不全グループはどちらも、ホスホランバンのThr−17リン酸化の上昇を示した(図8B)。
【0144】
更なる検討では、これらの心臓においてCAMキナーゼ活性が有意に高いことを明らかにした(図10及び以下に示す表1)。
【0145】
【表1】

【0146】
表1:疑似手術又は大動脈絞扼後の心エコー検査測定
PW:心臓拡張期の後部壁厚、LVDD:心臓拡張期の左心室径、LVSD:心臓収縮期の左心室収縮径、FS:短縮率、p<0.05(同様な期間の疑似手術と比較して)、†p<0.05(12週間での値と比較して)
【0147】
CaMキナーゼの活性は、非心不全(NF)対照グループと比較して、心不全(F)ラット心臓及びAd.I−1又はAd.GFPに感染させた心不全ラット心臓において高い。興味深いことに、リアノジン受容体の第2809位のセリンのリン酸化レベルは全ての心不全グループで高かった。活性阻害剤1による感染は、リアノジン受容体リン酸化に効果を及ぼさなかった(図8B)。
MAPキナーゼ活性化への活性阻害剤1遺伝子導入の効果の検討は、ERK又はJNKの活性化の変化を伴わない、活性化p38−MAPキナーゼの実質的低下を示した(図8C)。
【実施例8】
【0148】
心臓における阻害剤1作用のメカニズム
上記所見は、阻害剤1の発現がホスホランバンリン酸化上昇に結びつくことを示唆した。従って、阻害剤1は、インビボでプロテインホスファターゼ1基質に選択的に作用することができる。この所見をさらに実証するため、プロテインホスファターゼ1(aアイソフォーム)触媒サブユニットに対する抗体を用いて免疫沈降反応実験を実施した。阻害剤1競合結合アッセイのために、先に述べたように免疫沈降反応を実施した。非結合心臓ホモジネートの除去後、ビーズを洗浄し(PBSプラス0.1%のTween20で、5回)、次に500μlの様々な最終濃度(10nM〜1000nM)の精製リン酸化阻害剤1と共にインキュベートした。その後ビーズを洗浄し(3回)、結合タンパク質を0.1Mのクエン酸(pH2.8)で溶出した。注目すべき点として、阻害剤1、プロテインホスファターゼ1のSR/グリコーゲン標的サブユニット(RGL)(Tang, P.M., et al., J. Biol Chem 1991;266:15782-9)及びホスホランバンは、プロテインホスファターゼ1と共免疫沈降した(図9A)。濃度を変化させた精製リン酸化阻害剤1(10nM〜1000nM)とこの複合体とのインキュベーションでは、用量依存的にホスホランバンの結合が低下することを明らかにした(図9B)。
【0149】
その他の実施形態は以下の特許請求の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0150】
以下の詳細な説明は、例として示すものであり、本発明を特定の態様の記述に限定することを意図することではなく、参照により本明細書に組み込まれる付属の図面と連結して理解される。本発明の様々な好ましい特徴及び態様を、ここでは、非限定的な例として及び添付の図面を参照しながら説明する。
【図1】図1A及び1Bは、ホスファターゼ阻害剤1(「I−1」)のリン酸化が心不全のヒト心臓では有意に低いことを示唆する結果を示す:(図1A)9名の非心不全ドナー(D)と10名の心不全者(F)の心臓ホモジネートにおけるI−1のタンパク質レベル(上段)及びリン酸化(中段)の代表的免疫ブロット法。カルセケストリンレベル(CSQ、下段)を同じブロット法において評価し、内部対照として使用した。(図1B)ヒト心臓におけるI−1タンパク質レベルの定量では、変化は示されなかった。しかし、I−1リン酸化は心不全のヒト心臓において有意に低かった。「」は、非心不全ドナーの心臓に対して、P<0.05を表わす。
【図2】図2A、2B、2C、2D、2E、2F、2G及び2Hは、心不全のヒト心臓からの心筋細胞において、構成的に活性なI−1タンパク質を発現するという結果を示す:(図2A〜D)(上段)β−ガラクトシダーゼ−GFP(対照)又は(下段)I−1T35D−GFPの何れかを発現する単離した心不全のヒト筋細胞を、直接光(左側パネル)又は蛍光(右側パネル)で視覚化した。感染した細胞は、成功裏に緑色に見える(右側パネル)。(図2E〜H)最大濃度のイソプロテレノールに応答したAd.GFP(図2E)及びAd.I−1T35D(図2F)感染細胞における心筋細胞収縮の代表的トレースを示す。100nMのイソプロテレノール下でのAd.GFP及びAd.I−1T35D感染細胞における細胞収縮(図2G)及び再伸長の速度(図2H)の定量を示す。「」は、P<0.05を表わす。数値は、3〜5ヒト心臓からの少なくとも8〜12細胞の平均値である。
【図3】図3Aは、活性阻害剤1タンパク質が、内在性阻害剤1よりも約25倍高いレベルで発現し、1型ホスファターゼ活性の15%の低下となることを描画した免疫ブロット法を示す。P<0.05、n=6(グループ当り)。図3Bは、棒グラフの形態で、3ヶ月齢のI−1及び野生型(WT)における心臓収縮性のランゲンドルフ・エキソビボ評価の圧測定を示し、阻害剤1の心臓が、圧発生の有意に高い速度(±dP/dt)を示すことを表わす。図3Cは、棒グラフの形態で、筋細胞短縮速度の測定を示す。図3Dは、棒グラフの形態で、カルシウム濃度変化の大きさの測定を示す。WTに対して、P<0.05、及びWT+ISOに対して、P<0.05、n>30(グループ当り6〜8心臓からの心筋細胞数)。
【図4】図4Aは、SERCA2、ホスホランバン(PLN)、カルセケストリン(CSQ)、ジヒドロピリジン受容体(DHPR)、トロポニンI(TnI)及びリアノジン受容体(RYR2)のレベルを描画した免疫ブロット法(及びその棒グラフによる数量化)を示す。P<0.05、n=少なくとも5(WT及びTGについての各々の心臓数)。図4Bは、活性阻害剤1心臓におけるSer16及びThr17の両方でのホスホランバンのリン酸化、並びにリアノジン受容体及びトロポニンIのリン酸化(molPi/molRyR)を描画した免疫ブロット法(及びその棒グラフによる数量化)を示す。P<0.05、n=少なくとも5(WT及びTGについての各々の心臓数)。図4Cは、上側のパネルで、WT対活性阻害剤1心筋細胞の電流−電圧関係をグラフで示す。図4Cは、下側のパネルで、I−1OE心筋細胞におけるL型Ca2+チャネルのカルシウム依存性の不活性化の動態(野生型に対して)をグラフで表わす。P<0.05、n=5(グループ当りの心臓数)及びn=少なくとも25(グループ当りの心筋細胞数)。
【図5】図5Aは、棒グラフの形態で、大動脈絞扼後6週間目の野生型対トランスジェニックマウスの心エコー検査評価の結果を示す(Vcfc、左心室収縮末期及び拡張末期径、及びh/r比)。P<0.05、n=5(グループ当りのマウス数)。図5Bは、棒グラフの形態で、野生型対トランスジェニックマウスの重量分析の結果を示す。擬似手術グループに対して、P<0.05、WT絞扼とI−1絞扼心臓の間で、†P<0.05;n=4〜5(グループ当り)。図5Cは、顕微鏡レベルでの野生型対トランスジェニックマウスの心臓を示すヒストグラムを示す。
【図6】図6Aは、左側パネルで、WT絞扼及びI−1絞扼心臓からの心臓横断面の代表的画像を示す(100倍及び40倍)。図6Aは、右側パネルでは棒グラフの形態で、絞扼WT及びI−1心筋細胞の横断面面積を示す。擬似手術グループに対して、P<0.001、WT絞扼とI−1絞扼心臓の間で、†P<0.05;n>120(グループ当りの心筋細胞数)。図6Bは、棒グラフの形態で、MAPキナーゼタンパク質の定量的免疫ブロット法の結果を示す。P<0.05、n=4(グループ当りのマウス数)。図6Cは、棒グラフの形態で、筋小胞体タンパク質(SERCA、カルセケストリン(CSQ)及びホスホランバン(PLN))のレベル並びにホスホランバン及びリアノジン受容体のリン酸化のレベルを描画した定量的免疫ブロット法の結果を示す。P<0.05、n=4(グループ当りのマウス数)。
【図7】図7Aは、棒グラフの形態で、擬似手術の非心不全心臓、GFPに感染させた心不全心臓(Ad.GFP)、及び活性阻害剤1に感染させた心不全心臓(Ad.I−1)グループにおける心室内圧の測定を示す。非心不全の擬似手術グループに対して、P<0.05、n=7〜9(グループ当りのラット数)。図7Bは、棒グラフの形態で、等容性弛緩係数(τ)の測定を示す。非心不全グループに対して、gP<0.10、n=7〜9(グループ当りのラット数)。図7Cは、非心不全心臓、心不全+GFP心臓、及び心不全+活性阻害剤1心臓において圧電性結晶によって測定した、左心室圧対左心室径ループ(P−Vループ)を示す。n=7〜9(グループ当りのラット数)。図7Dは、棒グラフの形態で、収縮末期圧−径の関係から誘導した、最大エラスタンス(Emax)を示す。P<0.05、n=7〜9(グループ当りのラット数)。
【図8】図8Aは、棒グラフの形態で、心不全対非心不全の心臓グループにおけるSERCA2、ホスホランバン(PLN)及び心臓リアノジン受容体(RYR2)のレベルについての定量的免疫ブロット法の結果を示す。図8Bは、棒グラフの形態で、心不全対非心不全の心臓グループにおけるSer16及びThr17でのホスホランバン及びSer2809でのリアノジン受容体のリン酸化のレベルを示す。図8Cは、棒グラフの形態で、心不全対非心不全の心臓グループにおけるMAPキナーゼ活性化(p38、ERK及びJNK)のレベルを示す。NFに対して、P<0.05、及びF+GFPに対して、P<0.05;n=4(グループ当りの心臓数)。
【図9】図9Aは、阻害剤1、ホスホランバン及びRGLのPP1共免疫沈降反応の結果を表わすブロットを示す。図9Bは、タンパク質ホスファターゼ1からのホスホランバンの解離に関して測定した、PP1免疫沈降複合体に外因性PKAリン酸化阻害剤1(10nM〜1000nM)を添加した結果を表わすブロットを示す(n=3)。
【図10】図10は、棒グラフの形態で、心不全対非心不全の心臓グループにおけるCaMキナーゼ活性を示す。
【図11−1】図11A及び11Bは、ホスファターゼ阻害剤1(「I−1」)タンパク質(配列番号2)、Genbank受託番号NP_006732.2をコードする、核酸配列(配列番号1)、Genbank受託番号NM_006741を示す。
【図11−2】図11A及び11Bは、ホスファターゼ阻害剤1(「I−1」)タンパク質(配列番号2)、Genbank受託番号NP_006732.2をコードする、核酸配列(配列番号1)、Genbank受託番号NM_006741を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の心臓細胞に、ホスファターゼ活性を阻害するホスファターゼ阻害剤タンパク質をコードする配列を含む核酸を、ホスファターゼ活性を低下させ、それによりβアドレナリン応答性を高めるのに有効な量で導入することを含む、心不全を有する対象を治療する方法。
【請求項2】
前記ホスファターゼ阻害剤タンパク質が1型ホスファターゼを阻害する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ホスファターゼ阻害剤タンパク質が完全長タンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ホスファターゼ阻害剤タンパク質が構成的に活性なフラグメントである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ホスファターゼ阻害剤タンパク質がホスファターゼ阻害剤1又はそのフラグメントである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ホスファターゼ阻害剤タンパク質が、ホスファターゼ阻害剤1の構成的に活性なフラグメントである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ホスファターゼ阻害剤1タンパク質が第35位にトレオニンを有する、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記ホスファターゼ阻害剤1タンパク質が第35位にアスパラギン酸(T35D)を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記ホスファターゼ阻害剤タンパク質が、第35位にアスパラギン酸(T35D)を有するホスファターゼ阻害剤1の第1位〜第65位のアミノ酸を含み、第171位、第90位、第70位、第67位、第66位、第65位、第61位又は第54位のアミノ酸で又はその前で切断されている、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記核酸が、さらにコード配列に作動可能に結合したプロモーターを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
前記プロモーターが構成的プロモーターである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記プロモーターが、少なくともその1つが心筋組織である、組織のサブセットにおいて発現している、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記プロモーターが、サイトメガロウイルス(CMV)又は心特異的な心筋トロポニンT、ミオシン重鎖若しくはミオシン軽鎖の調節配列を含むものである、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記核酸がウイルス粒子を用いて導入される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記核酸がレンチウイルス粒子を用いて導入される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記核酸がアデノ随伴ウイルス粒子を用いて導入される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記AAV粒子が血清型AAV6である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記核酸が、筋細胞収縮を生じさせ、弛緩のための時間定数、タウ(τ)を低下させ、カルシウムシグナルの減衰を促すのに有効な量で導入される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記核酸が、ホスホランバンの16位のセリンのリン酸化を上昇させるのに有効な量で導入される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記核酸が、収縮末期圧−径関係を改善するために有効な量で導入される、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記対象が、虚血、不整脈、心筋梗塞、心収縮異常又はCa2+代謝異常を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記対象がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
冠状血管の血流を制限し、ウイルス送達システムを冠状動脈の内腔に導入する、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
冠状静脈流出量を制限している間も心臓がポンプの役割を果たすことを可能にする、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
冠状血管の血流を完全に制限する、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
血流が制限される冠状血管が、左冠動脈前下行枝(LAD)、左冠動脈回旋枝(LCX)、大冠状静脈(GCV)、中心静脈(MCV)、又は前室間静脈(AIV)を含むものである、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
冠状血管の虚血プレコンディショニングの後に、ウイルス送達システムを導入する、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
心臓からの大動脈血流を制限しながらベクターを注入して心臓に流入させることにより、ベクターを心臓に送達する、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
血流が再び冠状動脈へと向かうように、心臓からの大動脈血流を制限する;
ベクターが冠状動脈に流入するように、ベクターを心臓の内腔、大動脈口又は冠状動脈口に注入する;
大動脈流出量を制限している間も心臓がポンプの役割を果たすことを可能にすること;及び
血流を再確立する工程を含む方法によってベクターを心臓に注入する、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
前記ベクターをカテーテルで心臓に注入する、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
前記ベクターを心筋に直接注入する、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
さらに、前記対象において心機能のパラメータを評価することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
前記心機能のパラメータが:心拍数、心臓代謝、心収縮力、心室機能、Ca2+代謝又は筋小胞体Ca2+ATPアーゼ活性のうちの1つ又はそれ以上である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
ホスファターゼ活性を阻害するタンパク質をコードする配列を有する核酸を含んでなる、非ウイルス性核酸配列を心筋細胞に導入するために有効な、ウイルス送達システム。
【請求項35】
前記タンパク質が、I−1の構成的に活性なフラグメントである、請求項34に記載のシステム。
【請求項36】
前記ウイルス送達システムが、アデノ随伴ウイルス、アデノウイルス又はレンチウイルス由来のものである、請求項34に記載のシステム。
【請求項37】
ウイルスパッケージングシグナルに作動可能に結合した核酸を含む宿主細胞を、粒子形成に必要なウイルス遺伝子産物を供給することができる成分を提供する1つ又はそれ以上の試薬と接触させること、及び
宿主細胞を取巻く媒体から、核酸をパッケージするが複製可能なウイルスを含まないウイルス粒子を回収することを含む、ホスファターゼ活性を調節する核酸を含むウイルス粒子を提供する方法。
【請求項38】
1つ又はそれ以上の前記試薬がヘルパーウイルスを含むものである、請求項37に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11−1】
image rotate

【図11−2】
image rotate

【図9】
image rotate


【公表番号】特表2008−512484(P2008−512484A)
【公表日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−531364(P2007−531364)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【国際出願番号】PCT/US2005/032162
【国際公開番号】WO2006/029319
【国際公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(505164025)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレーション (20)
【出願人】(507078887)ザ・ユニバーシティ・オブ・シンシナティ (1)
【Fターム(参考)】