説明

心身状態判定システム

被計測者の心身状態を、被計測者に意識させることなく予測又は判断することを目的とした心身状態判定システム1であって、被計測者の荷重値又は重心位置の時系列信号からリアプノフ指数等の心身状態指数を算出するデータ処理手段20と、データ処理手段20に於いて算出された心身状態指数と、心身状態に対応した既知の心身状態指数の時間的傾向及び/又は数値を格納しているデータベース内の心身状態指数とを比較し、被計測者の心身状態を予測又は判断する評価手段22とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、人間の荷重値又は重心位置の時系列信号を被計測者に意識させることなく計測し、カオス理論に基づいて被計測者の覚醒や非覚醒等の心身状態を予測又は判断する心身状態判定システムに関する。
【背景技術】
従来、自動車、鉄道車両の運転手や、航空機のパイロットや、航空管制機の操縦者の居眠り等による事故を防止する為に、運転者の頭の傾き方やまばたきの回数等から居眠り状態を判定する装置があった(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。
又、何ら操縦操作を行わない時間が規定の時間を超えた場合や計器盤上の特定の場所に設置されるセンサーを規定の時間間隔で触らなかった場合に、居眠りしているものとみなして警報を出力したり、自動的にブレーキを掛ける装置があった。
【特許文献1】 特開平11−161798号公報(第2〜3頁第7段落〜第12段落、第5頁第36段落〜第37段落)
【特許文献2】 特開平9−109723号公報(第5頁第50段落)
特許文献1や特許文献2に開示されている装置は、判断対象となる頭の傾き方やまばたきの回数に個人差がある為、居眠りしているかどうかは主観的判断に委ねられることが多く、正確な判断が困難であり、居眠りする前の状態と十分に覚醒している状態とを見分けることが出来ず、事故の未然防止に完全に対応出来ないという問題があった。
更には、運転者の身体や近傍にセンサーやカメラ等を取り付けなければならないので装置の着脱に大変手間が掛かり、設置した装置が運転、操縦する者の邪魔になり、気が散る等の欠点があった。
規定の時間内に何らかの操作をしなかった場合に警報を出力したり、ブレーキを掛ける装置は、偶然的に操作しない時間が長い場合には、例え居眠りしていなくても「居眠りしている」と誤検出されてしまうので、被計測者は何らかの操作を行わなければならないことを常に意識して運転する必要があり、かえって事故になりやすいという問題があった。
又、居眠り検出の為の時間間隔の設定は結局主観的判断により行われることが多いので、正確な心身状態判断が出来るとは言い難かった。
【発明の開示】
本発明者は上記問題点に鑑み、カオス的な挙動を示す人間の荷重値や重心位置の時系列信号からリアプノフ指数等の心身状態指数を算出し、既知の心身状態指数と比較することにより、被計測者に負担を掛けることなく無意識のうちに、且つ主観的判断によらず、被計測者の心身状態を予測又は判断し、居眠り等に陥る前に事故を未然に且つ確実に防止することが出来る心身状態判定システムを発明した。
尚、本発明に於ける「心身状態」とは、身体の健康状態及び、心理状態を指す。例えば、健康状態には、「起きている」覚醒状態や、「眠っている」非覚醒状態が含まれ、更に、非覚醒状態は浅い眠り(レム睡眠)から深い眠り(ノンレム睡眠)までの各段階に分けられる。又、心理状態には、疲労、緊張、不安等で表現されるような状態が含まれる。身体の健康状態と、心理状態とは、いずれも脳の働きに起因するものであり、密接に関わりがある為、これらをまとめて「心身状態」としている。又、心身状態は脳の働きに起因して発生するものであることから、本発明に於いて「心身状態」は「脳機能状態」と同義である。
「カオス理論」とは「The essence of chaos(E.N.Lorenz)」等の代表的な公知文献に記載されているように、「非線形システムに生じる確率的振動現象等から初期条件に関する依存性等を見出す理論」を指し、「リアプノフ指数等の心身状態指数」とはそのカオス理論に於いて、カオスであるかどうかを定量的に判定する為の数値を指す。
又、人間の荷重値には、荷重値に換算可能な値又は、荷重値に対応して得られる値(加速度値等)も含まれるものとする。
請求の範囲1の発明は、
人間の覚醒状態や非覚醒状態等の心身状態を予測する心身状態判定システムであって、被計測者の荷重値又は重心位置の時系列信号からリアプノフ指数等の心身状態指数を算出するデータ処理手段と、前記データ処理手段に於いて算出された心身状態指数の時間的傾向と、心身状態に対応した既知の心身状態指数の時間的傾向とを比較し、前記被計測者の心身状態を予測する評価手段とを有する心身状態判定システムである。
請求の範囲2の発明は、
人間の覚醒状態や非覚醒状態等の心身状態を判断する心身状態判定システムであって、被計測者の荷重値又は重心位置の時系列信号からリアプノフ指数等の心身状態指数を算出するデータ処理手段と、前記データ処理手段に於いて算出された心身状態指数の数値と、心身状態に対応した既知の心身状態指数の数値とを比較し、前記被計測者の心身状態を判断する評価手段とを有する心身状態判定システムである。
請求の範囲1、請求の範囲2の発明により、被計測者に意識させることなく、且つ主観的判断によらず被計測者の心身状態を予測又は判断することが出来る。
請求の範囲3の発明は、
前記被計測者の荷重値を出力するセンサーを有する心身状態判定システムである。
請求の範囲3の発明により、荷重値を出力するセンサーを用いることにより、被計測者に意識させることなく、心身状態を予測又は判断することが出来る。
請求の範囲4の発明は、
前記センサーは1個である心身状態判定システムである。
請求の範囲4の発明により、複数センサー間相互の同期取りや、センサー間で相互に発生する出力遅延による個体差を考慮する必要がなく、又、部品コストを低減することが出来る。
請求の範囲5の発明は、
前記センサーは、ピエゾ素子、感圧抵抗体素子、ポテンションメーター等の圧力センサー、又は加速度センサーのいずれかである心身状態判定システムである。
上記のような荷重値を出力するセンサーは小型、高耐圧、入手性容易であり、椅子やベッドに内蔵して心身状態判定に利用しやすい。
請求の範囲6の発明は、
前記センサーは、前記被計測者の荷重がかかる椅子又はベッドに取り付けられる心身状態判定システムである。
請求の範囲6の発明により、椅子やベッドにセンサーを取り付けて、被計測者が椅子に座った状態で、又、ベッドに横たわった状態で、心身状態の予測又は判断を行うことが出来る。
請求の範囲7の発明は、
前記椅子又はベッドは、内部にスプリング等の弾性材料を有する心身状態判定システムである。
請求の範囲7の発明により、被計測者にとって違和感の少ない椅子やベッドになるし、直接、内部にセンサーを入れ込むことが出来、床下等にセンサーを設ける必要がない。
請求の範囲8の発明は、
前記被計測者の荷重値又は重心位置の時系列信号に含まれる不要な周波数成分を除去するノイズ除去手段を有する心身状態判定システムである。
請求の範囲8の発明により、荷重値又は重心位置の時系列信号から不要な周波数成分を除去し、心身状態の予測又は判断の精度が向上する。
請求の範囲9の発明は、
前記被計測者の荷重値又は重心位置の時系列信号を、10Hzから100Hzの周波数でサンプリングする心身状態判定システムである。
請求の範囲9の発明により、カオス解析に必要な周波数の時系列信号を取り出すことが出来、少ないサンプル数でも連続的に心身状態を監視しているのと同じ効果がある。又、周期性のある時系列信号に限定することで高速に信号処理や心身状態指数の算出を行うことが可能となる。
請求の範囲10の発明は、
前記被計測者の荷重値又は重心位置の時系列信号を増幅する増幅手段を有する心身状態判定システムである。
請求の範囲10の発明により、荷重値や重心位置の時系列信号が微小である場合に増幅して、データ処理をしやすくすることが出来る。
請求の範囲11の発明は、
複数の前記センサーから出力されるそれぞれの荷重値から前記被計測者の重心位置を算出する計算手段を有する心身状態判定システムである。
請求の範囲11の発明により、2個以上のセンサーから重心位置を算出することが出来る。
請求の範囲12の発明は、
予測又は判断された前記被計測者の心身状態に基づいて、前記被計測者に対して表示装置及び/又はスピーカーを用いて警告を発する、又は、前記被計測者の管理を行っている管理局に伝達する警告手段を有する心身状態判定システムである。
請求の範囲12の発明により、被計測者の心身状態の予測又は判断結果を被計測者の管理統括を行っている場所又は被計測者本人に伝達し、事故を未然に且つ確実に防ぐことが出来る。
請求の範囲13の発明は、
前記被計測者の動作状態や運転状態を時系列的に検出する動作検出手段を有し、前記評価手段は、前記動作検出手段に於いて検出される状態と心身状態とに対応した既知の心身状態指数の時間的傾向及び/又は数値と、前記算出された心身状態指数の時間的傾向及び/又は数値とを比較して、前記被計測者の前記状態毎に心身状態を予測又は判断する心身状態判定システムである。
請求の範囲13の発明により、被計測者の置かれた状態によって心身状態指数は異なる為、その状態に応じて逐次心身状態の予測又は判断を行うことが出来る。
請求の範囲14の発明は、
前記被計測者に対して身体刺激、視聴覚刺激等の刺激を与える刺激出力手段を有し、前記評価手段は、前記刺激出力手段から前記刺激が出力された時の既知の心身状態指数の時間的傾向及び/又は数値と、前記算出された心身状態指数の時間的傾向及び/又は数値とを比較して、前記被計測者の心身状態を予測又は判断する心身状態判定システムである。
請求の範囲14の発明により、意図的に被計測者に刺激を与えることによっても、その時の被計測者の心身状態を予測又は判断することが出来る。
請求の範囲15の発明は、
前記刺激出力手段は、予測又は判断された前記被計測者の心身状態に基づいて、異常な心身状態になるのを防ぐ効果がある前記刺激を前記刺激出力手段から出力することにより、前記被計測者の行動の変化を促す心身状態判定システムである。
請求の範囲15の発明により、意図的に被計測者に刺激を与えて、被計測者が異常な心身状態になることを防いだり、被計測者の行動の変化を促すことが出来る。
【符号の説明】
1:心身状態判定システム 2:心身状態評価手段 20:データ処理手段 22:評価手段 24:指数データベース 3:センサー 32:差動増幅手段 34:アナログデジタル変換手段 4:ノイズ除去手段 5:警告手段 6:被計測者 7:椅子 8:弾性材料 9:管理局 10:スピーカー 11:表示装置 12:動作検出手段 13:刺激出力手段 15:刺激データベース
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の心身状態判定システムのシステム構成の一例を示す図である。第2図は、本発明の心身状態判定システムのシステム構成の他の一例を示す図である。第3図は、本発明の心身状態判定システムのシステム構成の他の一例を示す図である。第4図は、センサーを取り付けた椅子の一例を示す図である。第5図は、センサーを取り付けた椅子の他の一例を示す図である。第6図は、センサーを取り付けた椅子の他の一例を示す図である。第7図は、椅子に取り付けた加速度センサーの出力信号の時間変化を示すグラフである。第8図は、椅子に取り付けた加速度センサーの出力信号の時間変化を示す他のグラフである。第9図は、心身状態指数の時間変化を示すグラフである。第10図は、アトラクタの再構成の一実施例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の実施態様の一例を図面を用いて詳細に説明する。第1図は本発明の心身状態判定システム1のシステム構成の一例である。心身状態判定システム1は、心身状態評価手段2、センサー3、ノイズ除去手段4、警告手段5とを有する。
心身状態評価手段2は、被計測者6の荷重値又は重心位置の時系列信号から被計測者6の心身状態を予測又は判断する手段である。
荷重値や重心位置の時間的な変化は、脳による情報処理の結果生じる身体の動きによるものであることが知られている。ある時点に於ける人間の荷重値や重心位置は、脳から心臓、手又は足等の部位への伝達命令信号にそれぞれの命令の遅延分を加えたものが組み合わされた結果であり、本発明者らは、これら荷重値や重心位置の時間的な変化をカオス理論的に解析することにより人間の心身状態を判断、更には予測出来ることに着眼した。
例えば、十分な覚醒状態にある人間の脳は外界からの無数の情報を効率的に処理しており、その場合の重心の動きはカオス理論的に安定な軌跡を描く。
尚、その軌跡をひきつける性質を持つ安定な解の総称、すなわち、当該軌跡が漸近する集合のことをアトラクタといい、カオスを示すアトラクタは、幾何学的にも複雑な構造を持っていることから一般にストレンジアトラクタと呼ばれる。
反対に、疲労し居眠り等の状態に陥っている場合は、脳は外界からの情報を受け付け難くなっており、その場合の重心の動きは機械的なものとなる。この機械的な動きは、先の覚醒状態に於けるストレンジアトラクタと比較して単純な軌跡を有するアトラクタを描くが、外部からのじょう乱に対してこのアトラクタは、不安定な挙動を示す。
心身状態評価手段2に於いて必要とされる被計測者6の荷重値には、圧力センサー等に掛かる荷重値又は、荷重値に換算可能な値又は、荷重値に対応して得られる値(加速度値等)が含まれ、データは1次元であってもよいし、多次元であってもよい。同様に重心位置についても次元数は問わない。
心身状態評価手段2は、データ処理手段20、評価手段22、指数データベース24を有する。
データ処理手段20は、被計測者6の荷重値又は重心位置の時系列信号から心身状態指数を算出する手段である。
心身状態指数は、心身状態の予測又は判断の根拠となる数値である。具体的には、カオス指標に用いられるリアプノフ指数等であって、カオス理論に於いてカオスであるかを定量的に判定することが出来る数値又はその数値の時間平均値を指す。この心身状態指数は、血液や唾液中のステロイドのように数百パーセント以上の個人差を有する指標とは異なり、脈拍数や、血圧のように個人差が少なく心身状態毎に算出される指数である。
更に、心身状態指数は、従来のリアプノフ指数に限らず、詳細は後述するような脳機能指数でもよい。
脳機能指数は、従来のリアプノフ指数同様、カオス性を評価する指標であるが、算出対象を、被計測者6の荷重値又は重心位置の時系列信号や、連続発話音声の時系列信号のような、強い周期性ないしは周期的特徴(周波数分析により周波数軸上に明確なピークが現われるスペクトルが生成されること)を有する時系列信号に特定の上、算出される値である。
更に、脳機能指数は、その算出過程において、予め時系列信号の周期性に基づいて処理単位の切り出しを行ない近傍点集合を生成するので、従来のリアプノフ指数よりも安定且つ高速に算出されることが可能な心身状態指数である。従って、より即時的で精度のよい心身状態の予測又は判断が行え、特に、居眠り等によるヒューマンエラーを確実に防止しなければならないような場面に於いて効果的である。
評価手段22は、データ処理手段20に於いて算出された心身状態指数と指数データベース24に格納されている既知の心身状態指数とを比較した結果に基づき、被計測者6の心身状態を予測又は判断する手段である。
指数データベース24には、ある心身状態に対応して心身状態指数の時間的傾向及び/又は数値を格納している。例えば、立っている人間の覚醒時の心身状態指数の数値、傾向や、座っている人間の疲労時の心身状態指数の数値、傾向というように格納されている。時間的傾向は、心身状態指数の時間変化(勾配)でもあり、数値、正負の記号、割合等で表すことが出来る。心身状態指数は被計測者6の荷重値又は重心位置の時系列信号から算出されるので、被計測者6に意識させることがなく無意識のうちに、しかも主観的判断によらず被計測者6の心身状態を予測又は判断することが出来る。尚、前述したように心身状態指数には個人差が少ないので、予め個々の被計測者毎に実験、測定を行う等して個々に心身状態指数を格納しておく必要はない。
ここで、立って静止している被計測者6の地面への荷重値の時系列信号を計測して心身状態の予測又は判断を行う場合を例にとると、この被計測者6が疲労している場合は、眠くなって身体の揺れが大きくなり、荷重値の時系列信号はランダムで不安定となり、この時の心身状態指数は覚醒状態である場合と比較して増大する。
この増大しているという時間的傾向から、被計測者6が眠りそうだということを主観的ではなく客観的に予測し、ある数値に落ち着いた時には眠ったということを主観的ではなく客観的に判断することが出来る。
センサー3は、被計測者6の荷重値又は、荷重値に換算可能な値又は、荷重値に対応して得られる値を出力するセンサーであればよい。例えば、体重計のような重さを計るセンサー、感圧抵抗体素子等により圧力の大きさに比例して抵抗値が変化するポテンションメーター、コイルと磁石の組み合わせにより起電力を発生させるセンサー、ピエゾ素子等のように圧力の大きさに比例した電気信号を出力するセンサー、静電容量式のセンサー、加速度値を出力する加速度センサー等の各種センサーがセンサー3に含まれる。つまり、圧力センサー、ひずみセンサー、変位センサー、加速度センサー等のセンサーであればよい。
センサー3の具体例としては、インターリンクエレクトロニクス社製のFSRシリーズ感圧抵抗体素子等が挙げられる。
重心位置を計測する場合には、2個以上の圧力センサー等のセンサー3の出力値同士を比較することにより重心位置が特定されればよい。
又、これらの出力される信号のレベルを調整する為のトリムやボリュームを備えている場合もある。
これら形態のセンサー3は小型であり、耐圧も向上し、入手性容易であるので、椅子の座面や背もたれ、ベッド等に容易に内蔵することが出来、被計測者6に意識させることなく荷重値や重心位置を計測することが可能である。
被計測者6の心身状態を予測又は判断する為には、センサー3から得られる信号は前述のように1次元でもよく、つまり荷重値の時系列信号から心身状態を予測又は判断する場合であれば1個のセンサーがあればよい。
センサーは1個であれば、2個以上のセンサーから重心位置等を計測する際の複数センサー間相互の同期取りや、センサー間で相互に発生する出力遅延による個体差を考慮する必要がなくなるし、部品点数が少なくてよいという利点がある。
センサーを椅子に取り付け、椅子にかかる被計測者の荷重値から心身状態の予測又は判断を行う場合の具体例を第4図から第6図に示す。第4図は、足元にセンサー3aとして圧力センサーを計4個取り付けた椅子7aの正面図(a)と側面図(b)であり、センサー3aは床面Aの下に隠されている。各センサー3aの出力値の時系列信号をカオス解析することによっても、又計4個のセンサー3aの出力値から被計測者の重心位置を算出し、この重心位置の時系列信号をカオス解析することによっても、被計測者の心身状態を予測又は判断することが可能である。
第5図、第6図は、椅子7の座面下にスプリング等の弾性材料8を挟み、弾性材料8の伸縮、歪みによる抵抗変化を、ポテンションメーター等のセンサー3で測定するものの一例である。
第5図に於いては、椅子7bの荷重面Bと設置面Cとの間には、弾性材料8bと、センサー3bが挟み込まれ、又、センサー3bの駆動用電源21が配置され、電源線を含む信号線22が外部の心身状態評価手段2へ配線される。
第6図(b)の椅子7cを上部から見た第6図(a)からは、椅子7cの四隅に弾性材料8cが挟み込まれ、センサー3cが椅子7cの中央部に配置されていることが分かる。
弾性材料8を使用することによって、被計測者が座った時に違和感の少ない椅子7になるし、直接、椅子7の内部にセンサー3を入れ込むことが出来、床下や椅子7の足等にセンサー3を設ける必要がない。弾性材料8は、荷重の大きさに応じて変形するものであれば、金属、ゴム、シリコーン、ポリウレタン等の素材は問わない。又、形状も問わない。
尚、第4図から第6図は椅子の例を示したが、ベッドや床や椅子の背もたれ等、被計測者の荷重がかかるものにセンサー3を取り付けても、同様にカオス解析が可能である。これにより、被計測者が椅子に座った状態で、又、ベッドに横たわった状態で、或は立った状態で、例えば、病院での診療患者や、自動車や航空機等の乗り物を運転している者の心身状態の予測又は判断を、被計測者の無意識のうちに行うことが出来る。
荷重値又は重心位置の時系列信号をカオス解析するに際し、必要とされるデータのサンプリング周波数はおよそ10Hzから100Hz程度が好適である。荷重値又は重心位置のカオスの揺らぎは、10Hzから100Hz程度の低周波であり、それ以上の周波数成分はノイズとみなせるからである。
従って、連続的に心身状態を監視する場合であっても、比較的少ないサンプル数で済み、データ容量が膨大になることはない。但し、カオス理論は、ある時点のデータを初期値として、次の時点でサンプルしたデータ、その次の時点でサンプルしたデータの挙動を観測し依存性を見出す理論であり、データに重畳したノイズ量によっては、カオスの予測そのものが大きく変わってしまうので、必要とされる荷重値又は重心位置のデータの分解能は、8ビットから16ビット程度、又はそれ以上が好適である。
ノイズ除去手段4は、被計測者6の荷重値又は重心位置の信号について、前述のデータ処理手段20に於いて心身状態指数を算出するに際し不要となるノイズ成分を除去する手段である。
ノイズ除去手段4に於いては、通常、アナログやデジタルのローパスフィルタやハイパスフィルタ等を用いて不要な周波数成分を除去する。カオス理論解析に於いてありえない周波数帯域や、被計測者6がくしゃみ等をして生じたノイズ成分や電源に重畳したノイズ成分等を除去することにより、データ処理や心身状態の予測又は判断の精度を向上させることが出来る。
警告手段5は、被計測者6が覚醒状態と非覚醒状態の狭間にある場合や、異常な心身状態である場合等に、被計測者6又は被計測者6を管理している管理局9等に報知や警告を行う手段である。
警告手段5を通じて、表示装置11に警告内容を表示したり、スピーカー10から警告音や威嚇音を流すことにより、被計測者6に警告することが可能である。
又、被計測者6を管理統括している管理局9に被計測者6の心身状態を報告し、管理局9で被計測者6の管理が出来るだけでなく、管理局9から直接無線等で被計測者6に警告や指令を出すことも出来る。警告手段5により、被計測者6の居眠り等のヒューマンエラーによる事故を未然に且つ確実に防ぐことが出来る。
【実施例1】
第1図のシステム構成を用いて、心身状態判定システム1の動作を説明する。尚、本実施例に於いては、第6図のようなセンサー3を内蔵した椅子7に座っている被計測者6の心身状態を予測又は判断する場合について説明する。尚、本実施例に於いて、センサー3は加速度センサーである。
まず、センサー3は椅子7に座っている被計測者6から得られる加速度を出力し、この出力値をデータ処理手段20に於いて時系列的に早いものから順番に取り込む。ある時間範囲に於ける加速度センサーの出力値の時系列データを第7図、第8図に示す。尚、第8図は、第7図のある時間範囲の時間軸を拡大したものである。
次に、この時系列データから、データ処理手段20に於いて心身状態指数を算出する。算出された心身状態指数対時間データを第9図に示す。尚、第9図に示した心身状態指数は脳機能指数であり、詳細な算出方法については後述する。
評価手段22に於いて、算出された心身状態指数と指数データベース24に格納されている心身状態指数とを比較する。
ここで、心身状態指数はどの状態に於いても疲労しているからといって前述のように増大する訳ではない。本実施例のように椅子7に座って静止している被計測者6を考えると、航空管制室でレーダスコープの前に座っている場合や、プラント監視室に於いて計器盤の前の椅子に座っている場合に、疲労状態になると、重心の動きが固まり、機械的になるので荷重値の時系列信号から算出される心身状態指数は覚醒状態にある場合と比較して徐々に低下し、そして完全に眠ってしまうと一定の低い数値に落ち着く。
このように、本実施例に於ける指数データベース24には、被計測者6が椅子7に座っている場合に於いて、心身状態指数が高い方から低い方に徐々に移行するという時間的傾向を示した場合には居眠りを予測し、ある数値を示した場合には居眠りと判断するというように、心身状態と心身状態指数の時間的傾向及び/又は数値を対応させて格納している。
ここで、第9図の、算出された心身状態指数について見ると、図中(1)の期間に於いては初め心身状態指数が高く、被計測者6は覚醒状態でディスプレイを見る監視作業を行っていたが、次第に心身状態指数が下がってきたことから被計測者6は眠る前の半覚醒状態であることを予測することが出来る。
この時点ではまだ完全な非覚醒状態ではないので、被計測者6に、警告手段5によって警告を発して完全な覚醒状態に戻すことにより、事故を未然に且つ確実に防止することが出来る。
第9図の(2)の期間に於いては、全般的に心身状態指数が(1)の覚醒時よりも低い数値で安定していることから、被計測者6が居眠りをしている非覚醒状態であると判断される。
第9図の(4)の期間は、(2)の非覚醒状態にありながらも、瞬間的に心身状態指数が僅かながら増加していることから、被計測者6が居眠りしている横で、話声や警告音や携帯電話の着信音等の騒音を発生させたことにより、被計測者6が居眠りしながらもその騒音を耳で気にしている状態であることが分かる。
騒音レベルが大きかったり、被計測者6に関係のある言葉を発した時であれば、心身状態指数は更に上昇して覚醒状態に戻るはずであるが、第9図に於いては、騒音レベルが小さく、被計測者6に僅かな影響しか与えなかった為、心身状態指数は再度低い数値に落ち着き、被計測者6が完全な非覚醒状態に戻ったと判断される。
第9図の(3)の期間に於いては、心身状態指数が徐々に高くなり、(1)と同レベルの数値に戻ったことから、被計測者6の前にあるディスプレイ上の表示内容を変化させて被計測者6に視覚的な刺激を与えたことにより、被計測者6が覚醒状態に戻ることが予測され、最終的には覚醒状態に戻ったと判断される。
本実施例に於いては、1個の加速度センサーの出力値から心身状態の予測又は判断を行ったが、荷重値又は重心位置を出力するセンサー3であれば、何個使用しても、心身状態の予測又は判断は変わらず、一様な結果が得られる。このように、本実施例によれば、被計測者6に意識させることなく、且つ主観的判断によらず被計測者の心身状態を予測又は判断することが出来ることが分かる。
ここで、脳機能指数の算出方法について、従来のリアプノフ指数の算出方法と対比しながら説明する。
従来のリアプノフ指数の算出は、システム(系、本実施例では、被計測者6の心身状態に基づいて得られる荷重値又は重心位置の時系列信号を測定する系)のダイナミクス(時間軸に沿った状態の変動、動特性)が安定であることを前提としており、予め定めた処理単位(例えば1秒毎)中の全てのサンプル点から、予め定めた近傍条件を満足する近傍点集合(値又は多次元空間上の距離が極めて近い点の集合)を探索し、その近傍点集合に対して収束計算を行うことを主な流れとしている。収束計算とは、最初は相互に極めて近い位置にあるはずの近傍点集合内の点が、その後それぞれどのように発展していくかの挙動を追跡すること、すなわち、アトラクタの観測をすることであり、カオス性を判断する為に必要な計算である。
しかし、被計測者の荷重値又は重心位置の時系列信号のように、複数のダイナミクスが一時に重なっている場合や、予め定めた処理単位中でダイナミクスが変化してしまう場合には、ダイナミクスが安定であるという前提に反し、算出されたリアプノフ指数は必ずしも信頼性があるとは言えない。
更に、荷重値又は重心位置の時系列信号は、あるダイナミクスの継続時間や繰り返し時間が短い為、仮にダイナミクス毎に従来のリアプノフ指数が算出されたとしても、収束計算の回数が限られ、必ずしも妥当な数値であるとは言えず、5分程度の間に得られた数値を平均化処理することによって、その妥当性を高めている。
又、従来のリアプノフ指数の算出は、周期性のある時系列信号のみならず、非周期的な時系列信号をも含む一般的な時系列信号を想定している為、処理単位を長く設定すると、処理単位中での近傍点探索に時間がかかり、逆に処理単位を短く設定すると、収束計算が不安定となりがちであった。又、収束計算の精度向上の為に、単純にサンプル数を多くしたのでは近傍点探索に時間がかかる、というように、処理単位や近傍条件等のパラメータの最適化が難しく、結果として、従来のリアプノフ指数の算出は時間がかかるものであった。
上記問題点に鑑みて、脳機能指数の算出方法は発明されたものである。即ち、予め決められた一定間隔の処理単位の中から近傍点を探索するのではなく、時系列信号の周期が安定な範囲を処理単位として、近傍点の候補となりうる点の集合を生成することによって、処理単位や近傍条件を特に定めなくても、最初から収束性の高い近傍点集合が生成される。従って、処理が高速化されるだけでなく、ダイナミクスの継続時間の短い時系列信号であっても、局所的な心身状態指数を安定且つ即時に算出することが出来る。
尚、アトラクタを観測するための一般的な手法としては、従来のリアプノフ指数や、詳細は後述する脳機能指数の算出においてもそうであるように、元の時系列信号から時間遅れベクトルを作成し、再構成状態空間にプロットする、という過程がとられている。これは、アトラクタの再構成とも呼ばれる。このようにアトラクタを観測することにより、時系列を生み出した元のシステムと等価な情報を観測することが出来る。ここで、脳機能指数の算出方法について説明する前段階として、アトラクタの再構成の簡単な例を第10図を参照しながら説明する。
まず、元となる時系列信号を{x(1),x(2),x(3),....}とすると、この時系列信号xの構成要素から任意の信号を抽出し、時間遅れτ、次元mによる時間遅れベクトルv(t)={x(t),x(t+τ),...,x(t+(m−1)τ)}を作成する。この時間遅れベクトルv(t){i=1,2,...}を、m次元空間にプロットすることによって再構成アトラクタが得られる。第10図は、時間遅れτ=2、次元m=3とした時のアトラクタの再構成を表しており、同図中、左図の(a)は時系列信号を時間遅れベクトルへ変換する様子を示し、右図の(b)は時間遅れベクトルを時間遅れ座標系へプロットしてアトラクタを再構成している様子を示したものである。この次元mが、元の時系列信号が得られたシステムの情報を正しく表すことが出来る次元である時、mは埋め込み次元と呼ばれる。アトラクタが正しい埋め込み次元によって再構成されていれば、そのシステムのカオス性の評価を行うことが可能となる。尚、時間遅れ座標を用いた再構成状態空間への変換が埋め込みになる条件は、Takensの埋め込み定理によって証明されており、公知である。
以上の一般的説明も参照の上、以下、脳機能指数の算出方法について説明する。まず、脳機能指数を計算する基となる時系列信号s=s(t)を、s(t)={s|t=0,1,・・・}とする。s(t)は、センサー3の出力信号が一定のサンプリング周波数f(Hz)でサンプリングされた時系列信号である。尚、隣り合う時系列信号(例えば、s(1)とs(2))の時間間隔は、サンプリング周期(1/f)(s)に基づくものである。
カオス理論に於けるパラメータとして、埋め込み次元D、埋め込み遅延時間τ、発展遅延時間τ、近傍点集合の大きさNを定義する。これらのパラメータは、従来のリアプノフ指数を算出する場合であっても同様に定義が必要である。
ここで、近傍点集合の大きさNは、埋め込み次元数D+1以上であることが必要であり、時系列信号の性質に応じて設定する。尚、零割等を起こさずに、後述の計算を安定に行う為には、D+2、D+3以上と設定することが望ましいが、D+1であっても、サンプリングされた時系列信号にディザ処理を施すことによって、零割の発生を防ぐことは可能である。尚、ディザ処理とは、意図的に信号にノイズを付加することであり、音声信号のディジタル処理に於いては一般的である。ディザ処理を行うことによって、ディジタル信号を元のアナログ信号に復元する精度が高くなる場合がある。
又、ダイナミクスが連続的に変化する場合には、近傍点集合、或は近傍点の候補となる点の集合内にダイナミクスが異なる点が紛れ込むのを防ぐため、近傍点集合の大きさNは安定な計算が可能である限り、出来るだけ小さく設定することが好適である。例えば、埋め込み次元が4であれば、近傍点集合の大きさNは6、7程度がよい。
埋め込み遅延時間τと、発展遅延時間τは、時系列信号がサンプルされた点からしか構成し得ないことから、サンプリング周期の整数倍の値が選択されることになる。
更に、時系列信号の有する最短周期Tと最長周期Tを定義する。そこで、先の時系列信号s(t)から、T≦T≦Tを満足する周期Tを有する時系列信号の集合x=x(i)を脳機能指数算出の処理単位として切り出す。


周期Tは、当然のことながら切り出される処理単位によって異なるものとなる場合がある。尚、周期Tの予測と、処理単位x(i)が周期Tを満足する集合かどうかの確認は、離散フーリエ変換(DFT)や線形予測分析(LPC)、ウェーブレット解析等の周波数分析手法を用いて行う。又、処理単位の切り出しには、周期Tを有するかどうかの周期性条件のみならず、サンプルされた信号のレベル(振幅)の大小に応じた条件を加えてもよい。例えば、信号のダイナミックレンジが一定値以上のものであることを処理単位の切り出し条件として加えてもよい。
以上の定義に基づいて、確定した処理単位x(i)の中から次式に示す近傍点集合P={P,P,...,P(N−1)}が生成される。

数2に示される近傍点集合P={P,P,...,P(N−1)}は、x(i)の構成要素を順次P,P,...,P(N−1)の各先頭要素とし、各先頭要素に時間τだけ順次遅らせた要素の集合で構成され、近傍点の候補となる点の集合とも言える。
尚、従来のリアプノフ指数の算出の場合は、時系列信号の周期性を前提としていない為、当然のことながら上記のような周期Tの定義がなされず、例えば10ms毎、というように、予め定められた固定の時間単位に順次、処理単位の切り出しが行われる。従って、従来のリアプノフ指数の算出の場合には、この時点ではまだ近傍点集合の生成がされず、予め定めた処理単位の全てのサンプリングされた時系列信号の中から、予め定めた近傍条件を満足するような近傍点集合を探索することになるので、処理に時間がかかる。
次に、上記近傍点集合Pを内包する超球の半径を近傍距離εとし、次式で与える。

この近傍距離εは、従来のリアプノフ指数算出に於いては、近傍点集合の探索時の近傍条件として不可欠なパラメータであるが、脳機能指数の場合は、この時点で既に近傍点集合ないしは近傍点の候補となる点の集合が生成されている為、必ずしも近傍条件として用いる必要はない。
尚、本実施例に於いては更なる処理高速化の為、近傍距離εを、切り出された処理単位のふるい分けの意味としての近傍条件に用い、更には後述する収束計算を継続するか否かの条件(収束計算継続条件)に用いることとする。切り出された処理単位中には、本来の周期性を有していないはずの白色雑音等が強く含まれることがあり、この場合、白色雑音を1要素として含む処理単位に対して計算される近傍距離εは何らかのカオス性を有していないので、当然のことながら最大値をとる。尚、このような白色雑音を除去する為に、近傍条件を適用する他、前述したように、信号のダイナミックレンジが一定値以上のものを白色雑音でないものとみなして、処理単位の切り出しを行ってもよい。
ここでは、近傍条件をε<εとして、上記近傍点集合Pの近傍距離εがこの条件を満足しない場合には、このPは近傍点集合ではないものとみなして処理単位x(i)を棄却する。そして、処理単位x(i)よりも時系列的に後の点を起点とした処理単位x(i’)を新たに生成し、このx(i’)から生成された近傍点集合P’が近傍条件を満足するかどうか判断する。但し、処理単位のふるい分けを行わない場合には、この過程を飛ばして、時系列信号s(t)の中の全サンプル点又は任意のサンプル点をそれぞれ起点とする処理単位を生成し、各処理単位毎に近傍点集合を生成し、以下の計算を行ってもよい。
次に、上記近傍点集合Pが近傍条件を満足した場合、発展遅延時間τを適用して、近傍点集合Pの発展点集合Sを次式のように生成する。尚、SはPに対する発展点である。

数4に示される発展点集合S={S,S,...,S(N−1)}は、近傍点集合Pの各構成要素に時間τだけ順次遅らせた要素の集合で構成される。
上記近傍点集合Pについて、基準となる近傍点Pと、その他の近傍点P間の変位を次式のように定義する。更に、発展点集合Sについても、同様に変位を定義する。

上記近傍点集合Pと発展点集合Sの各変位の関係で、次式を満足する推定ヤコビアン行列Aを得ることが出来れば、脳機能指数の基となるセレブラルスペクトルが算出される。

尚、セレブラルスペクトルの算出は、従来のリアプノフ指数に於けるリアプノフスペクトルの推定に相当する。
行列Aの計算は、次式を満足するように行う。

尚、行列AがD次元である場合、行列Aの計算を行うためには、比例関係にない独立した微小変位ベクトルyと発展変位ベクトルzの組合わせがD組以上必要である。微小変位ベクトルyと発展変位ベクトルzの組合わせがD組以上与えられた場合に、数7におけるSは行列Aを与えた場合の、微小変位ベクトルyと発展変位ベクトルzの関係における誤差の平方和を与えるものである。従って、数7におけるSに対する偏微分は、微小変位ベクトルyと発展変位ベクトルzの関係における誤差の平方和を最小とすることを意味する。すなわち、数7は、行列Aが最小二乗法により推定されることを記述したものである。
これより行列Aは、次式で与えられる。

これより与えられた行列AをQR分解することが出来れば(A=Q)、行列Rの対角成分の最大値を、近傍点集合Pを構成する時系列信号のうち、時系列的に最も早い点xの時刻に対応する脳機能指数とする。更に、この行列Rの対角成分を大きい順に並べれば、埋め込み次元数だけの要素を有するセレブラルスペクトルが得られる。
尚、従来のリアプノフ指数は、Xの時刻に対応して算出されたものであったとしても、そもそも処理単位や近傍条件や基準点の定め方次第で、異なるリアプノフ指数が算出される場合もあることから、局所的なxとその数値との相関性が低く、処理単位内の全てのリアプノフ指数を平均化する等によって、その信頼性を高めるほかない。
これに対して脳機能指数は、時系列信号の周期性と同期して近傍点集合が生成されるので、局所的なxとその数値との相関性が高いものとなる。
更に、脳機能指数の時間局所的な信頼性向上の為、以下のような収束計算を行う。尚、従来のリアプノフ指数に於ける収束計算は、先に探索された近傍点集合とその発展点集合の相関関係の妥当性を確認する手段として必須であるが、脳機能指数の場合は、近傍点集合とその発展点集合の妥当性が極めて高い為、従来のリアプノフ指数における収束計算とは計算の趣旨が異なる。
収束計算に際しては、まず、先の発展点集合Sを構成する時系列信号のうち、時系列的に最も早い点(つまりSの最初の点x0+τe)を起点とした周期Tを有する新たな処理単位x(i)を切り出す。x(i)の構成要素の数は、先のx()同様、(n+1)個である。そしてこの処理単位x(i)が周期性条件(周期Tを有すること)を満足するかどうかを確認する。例えば、X(n)が周期Tに含まれない信号であれば、この時点で処理単位x(i)に対する収束計算は終了する。
処理単位x(i)が周期性条件を満足している場合には、このx(i)から先と同様に近傍点集合P(1)を生成し、先の近傍点集合P同様、近傍条件及び/又は収束計算継続条件を満足すれば、P(1)から発展点集合S(1)を生成する。尚、周期性条件及び/又は近傍条件を満足しなかった場合には、この時点でダイナミクスが変化したことを意味し、収束計算が終了される。収束計算を終了するということは、ダイナミクス毎に脳機能指数が算出されるということである。これにより、複数の異なるダイナミクスが一時に重なっていたとしても、脳機能指数は、ダイナミクス毎に、すなわち、ダイナミクスの数だけ算出される。
このように、第n回目の収束計算に於いては、第(n−1)回目の発展点集合S(n−1)を構成する時系列信号のうち、時系列的に最も早い点を起点とした処理単位x(i)を生成し、この処理単位が周期性条件を満たせば、近傍点集合P(n)を生成し、近傍点集合P(n)が先の近傍条件を満足する場合に限り、発展点集合S(n)を生成する、つまり、収束計算を継続するものとする。
先の近傍点集合Pと発展点集合Sに対してAを求めた手続と同様にして、近傍点集合P(n)と発展点集合S(n)との相関関係を表す行列Aを求める。従って、Aは、次式で表される。

尚、収束計算回数は、切り出された処理単位及び生成された近傍点集合に応じて柔軟に変化することになるので、従来のリアプノフ指数に於ける一定回数の収束計算のように、その計算に意義があるかどうか分からないままに回数を重ねることがなく、この点に於いても脳機能指数の算出は処理の高速化に寄与する。尚、近傍条件や収束計算継続条件は一律である必要はなく、収束回数に応じて変更するようにしてもよい。例えば、n回目の収束計算時の近傍条件は、計算された近傍距離εが、第(n−1)回目の収束計算に於ける近傍点集合P(n−1)の近傍距離ε×(n−1)以下であるか、或いは、ε×(n−1)×a(aは定数であり、例えばa≦1.1とする。)以下であるようにしてもよい。
収束計算がn回まで行われた時、xを起点とした処理単位x(i)に対するセレブラルスペクトルc={c|s=1,2,...D}は、時間発展行列をMとして次式で表される。尚、本実施例に於ける脳機能指数は、セレブラルスペクトルcのうち最も大きい数値を指す。つまり、xに対応する脳機能指数は、cとなる。

尚、Rは、行列Rの対角成分の中で数値が大きい順に数えてs番目のものを指す。従来のリアプノフ指数λは、cに相当するが、λに於けるRは、行列Rのm番目対角要素を指す。
処理単位x(i)の中の起点xに対応する収束計算及びセレブラルスペクトル・脳機能指数の算出が終われば、次に、別の処理単位x(i’)を切り出し、その中の起点x0’に対応する収束計算及びセレブラルスペクトル・脳機能指数の算出を上記同様に行う。理論的には、全てのサンプル点について、そのサンプル点を起点としてある周期性条件を満足する処理単位が切り出せれば、そのサンプル点に対するセレブラルスペクトルが求められるが、処理高速化の為、必ずしも全てのサンプル点について計算を行う必要はない。
ここで、被計測者が椅子に座って静止している等、基本的に同じ動作が続く場合であって、その計測において、従来のリアプノフ指数による場合に比較して特に高い時間的な分解能を必要としない場合には、従来のリアプノフ指数の場合と同様に、時間的な移動平均値を取ること等の処理により、その結果を時系列的にグラフ化することで心身状態の変化を視覚的に把握することが出来る。
次に、脳機能指数を、従来のリアプノフ指数による場合に比較して高い時間分解能においてより高い精度で算出し、より詳細な心身状態の変化を視覚的に把握しやすくする為に、ダイナミクス毎に脳機能指数を処理する方法について、以下説明する。
即ち、ここまででの処理に於いて時系列信号s(t)から切り出された処理単位毎に算出された脳機能指数等を、その処理単位の起点となった時間tに対応させて、関数CEm(t)={(c(t),ε(t),T(t))|t=0,1,・・・}とする。
ここで、c(t)は時間t(切り出された処理単位の起点となった時間)に於ける脳機能指数、ε(t)はその脳機能指数を与えた近傍距離、T(t)は処理単位切り出し時に周波数解析によって求められた周期である。tは、当然のことながらサンプリング周期に基づく時間である。
このCEm(t)の中から、t≦t≦tのものを抽出し、これをCEm(t|t≦t≦t)とする。このt〜tの期間は、ある一定の動作が継続している期間、即ちダイナミクスがほぼ一定である期間である。例えば、後述する実施例2に於いてまっすぐな道路を一定の加速度で運転している期間や、ベッドの上で同じ姿勢で寝ている期間等が一定の動作継続期間に相当する。発話音声信号でいうところの、ある母音からなる音韻の継続時間である。日本語の場合は、母音毎に周期に特徴があるからである。
先のCEm(t|t≦t≦t)内の要素をε(t)の大きさにより小さい順にソートして並び替えたものを、CEm(i|1≦i≦n)とする。
このCEm(i|1≦i≦n)から、その動作状態毎の脳機能指数Cは次式で与えられる。

ここで、pは100分率の割合を示す数値で、C(iε(p))は、n×p番目の要素を表す。例えばp=10%であれば、CEm(i|1≦i≦n)のうちの最初の10%(εが小さい順から全要素数の10%に至るまで)の要素を抽出し、これら抽出された要素c(i)の平均値が、その動作状態毎に対応する脳機能指数Cとなる。ここで求められた脳機能指数Cに時間的な移動平均処理を施し、グラフ化したものが先の実施例で用いられた第9図となる。
但し、t≦t≦tの期間、つまり、一定の動作期間が、本実施例に於けるように長期間である場合には、ダイナミクスはあまり変化しなくてもその期間内にも心身状態は変化しており、かえって即時的な心身状態予測又は判断を阻害することになる為、t≦t≦tの期間を心身状態の変化を追跡出来る程度まで細分化して、その分割された期間(千単位程度のサンプル数)毎に脳機能指数Cを算出すればよい。もっとも、心身状態が変化した時には、時系列信号の周期性が変化するか、近傍条件を満足しなくなる為、その時点でそれまで行われていた収束計算が打ち切られることになるので、心身状態の変化時期又はダイナミクスの変化時期がCEm(t|t≦t≦t)の抽出タイミングとなる。
尚、pは、センサー3から得られた時系列信号の計測精度や、アナログの時系列信号をデジタル信号に変換する際の変換性能に応じて可変させるとよい。ノイズ除去手段4によってカオスと無関係なノイズが十分に除去された信号や、センサー3及びAD(アナログ−デジタル)変換器の性能が高くダイナミックレンジが大きい信号に対しては、pを10〜20%程度にするのがよい。一方、センサー3又はAD変換器のいずれかの性能が悪く、この性能に起因するノイズレベルが大きい信号に対してはpを30%以上とするのがよい。
脳機能指数Cを本発明の心身状態判定システムで用いるに際し、その時間的傾向について、比較的に時間軸上の高分解能を要さない場合、即ち高精度でなくてもよい場合には、以下の通りに脳機能指数Cを算出することも可能である。まず、CEm(t|t≦t≦t)を構成する要素(c(t)、ε(t),T(t))を、εの大きさを基準として次式を得る。

CEm(t|t≦t≦t)に対する脳機能指数C(t|t≦t≦t)は、シセカ近傍距離ε(t)の大きさに対して、次式により与えられる。

ここでrは、埋め込み空間に構成されるストレンジアトラクタの径に対するシセカ近傍距離εの100分率を表し、Nはc∈C(t|t≦t≦t)のうち、εが、cを与えた時刻におけるストレンジアトラクタの径の10%以下であることを満足するcの要素数である。
例えば、C10(t|t≦t≦t)は、CEm(t|t≦t≦t)内の要素から、εが、C与えた時刻におけるストレンジアトラクタの径の10%以下であるような要素を抽出し、これら抽出された要素cの平均値として与えられる。尚、先に述べたCと異なり、Cは、εがストレンジアトラクタの径の10%以下であるcの平均値として求められるので、抽出要素数はrによって決まるのではなく、Cを求める時刻によって異なる。
は、機械的には0%<r≦100%の任意のrについて計算可能であるが、処理される時系列信号が、荷重値や重心位置や発話音声の時系列信号のように強いカオス性を有する場合には、r>10%では変化の割合が急速に小さくなるため、心身状態をより正しく判断又は予測する為には、r≦10%に設定される必要がある。
また、pを用いてCを算出する場合と同様に、rを用いて算出されるCはcの平均値として与えられるため、数11においてはiε(p)が小さくなれば、数13においてはNが小さくなれば、Cの精度が低下する。従って、rについては2%から3%以上に設定される必要がある。
以上説明した脳機能指数の算出方法に基づき、脳機能指数の算出に必要な変数、数式、値を格納し、これら変数、数式、値を加減乗除、微積分、関数、配列、ポインタ、分岐処理、反復処理、再帰処理等の演算処理に用いるための命令文を更に格納した記憶媒体は、脳機能指数算出プログラムを構成する。又、当該脳機能指数算出プログラムは、メモリ、プロセッサ、記憶手段等のハードウェアから構成される一般的なコンピュータによって実行され、データ処理手段20の構成要素となりうる。
【実施例2】
本実施例に於いては、乗り物の椅子の座面又は背もたれにセンサーを2個以上取り付け、乗り物に乗っている被計測者(即ち、被計測者自身が動いている)の心身状態を予測又は判断する心身状態判定システムである場合を説明する。この場合の心身状態判定システムの構成の一例を第2図に示す。
心身状態判定システム1aは、心身状態評価手段2、センサー3、差動増幅手段32、アナログデジタル変換手段34、ノイズ除去手段4、警告手段5、動作検出手段12を有する。心身状態評価手段2、センサー3、警告手段5については、先に説明した通りであるので、説明を省略する。
ノイズ除去手段4は、実施例1に於いて説明したのと同様、不要となるノイズ成分を除去する手段であるが、本実施例のように被計測者6が乗り物に乗っている場合は、舗装されていない道路等を走行したりエンジンを掛けることにより一時的に生じる乗り物の振動成分等がノイズとしてセンサー3から得られる信号のデータに重畳する為、これらの振動等によるノイズを除去することは必須である。
センサー3に於いて得られた信号は、サンプリングすれば、少なくともサンプリング周波数以上の周波数成分はカットされるが、道路の凹凸により生じるノイズ成分は比較的低い周波数の為、バンドエリミネーションフィルタ等で特定帯域を除去又は減衰させたり、或いは被計測者6の生体信号を計測するセンサー3とは別のセンサーを用意しそれより得られる純ノイズ成分を後段の差動増幅手段32等で差し引くことによりノイズ成分を除去することが可能である。
差動増幅手段32は、センサー3の出力信号を増幅する手段である。例えばセンサー3として感圧抵抗体素子を用いた場合は差動増幅手段32の入力段に感圧抵抗体素子の出力抵抗を挿入することにより圧力の大きさに応じた電気信号を得ることが出来る。これにより、荷重値や重心位置の時系列信号が微小である場合にも、増幅して、データ処理をしやすくすることが出来る。
又、第4図のようなセンサー3を複数備えた椅子7の場合に於いて、差動増幅手段32は計測された各センサー3の信号出力である荷重値から重心位置を特定する手段でもある。
例えば、センサー3の出力が電気信号である場合、重心位置は、差動増幅手段32に於いて、同時間に於ける各センサー3から出力される電気信号の電位差を算出し、どこが最も電位が高い場所かを比較することで得られる。
尚、重心位置を得る為のセンサー3の位置及び個数には特に決まりがない。センサー3の位置や個数によらず、算出された重心位置の時系列信号はカオス的挙動を示すものであるので、必ずしもセンサー3をマトリクス状に多数個並べて配置する必要はなく、重心位置を算出する為にはセンサー3は少なくとも2個あればよい。センサー3をマトリクス状に配置する必要がないことにより、心身状態判定システム1の装置導入が容易となり、コストメリットがある。逆に、センサー3の数が多いと、各センサー3に固有の出力遅延が異なる為、この遅延がセンサー3相互間で一定ではない限り、カオス解析に大きく影響してしまうので、センサーの数は少ない方が好適である。
アナログデジタル変換手段34は、差動増幅手段32に於いて増幅された信号がアナログ信号である場合に、データ処理手段20で処理する為にデジタル信号に変換し、時系列信号を得る手段である。アナログ信号をデジタル信号に変換する場合は、このアナログデジタル変換手段34に於いて前述のサンプリング、量子化が行われるようにしてもよい。
動作検出手段12は、被計測者6の動作状態や運転状態を時系列的に検出する手段である。例えば、椅子に座って静止している状態か、立って静止している状態か、乗り物を運転している状態か等の動作状態により、荷重値や重心位置は各々異なるので、例え同じ心身状態であっても心身状態指数の時間的傾向や数値は異なるものとなる。
更に、乗り物を運転している場合は乗り物が停止している場合と走行している場合とに分けられ、走行している場合はカーブや右折左折等の方向転換や加速に応じて、加速度状態や重心位置状態が変化するので、アクセル等の加速度センサーやブレーキやハンドルの操作状況を動作検出手段12に於いて検出し運転状態を把握する必要がある。
特に乗り物を運転している被計測者6の心身状態を予測又は判断する場合は、前述の通り、寸分の時間のずれがカオスの予測に大きく影響する為、動作検出手段12に於いて得られる状態の時系列データとセンサー3から得られる重心位置の時系列データとは相互に同期を取り、遅延がないようにすることが望ましい。
次に第2図の心身状態判定システム1aのシステム構成図を用いて、本実施例の動作の一例を説明する。
まず、心身状態判定システム1aはセンサー3に於いて受ける被計測者6の荷重状態を示す圧力信号が電気信号に変換されたものを、ノイズ除去手段4に於いて不要な周波数成分を除去し、差動増幅手段32に於いて処理することにより被計測者6の重心位置を算出し、アナログデジタル変換手段34に於いて前記重心位置の時系列信号をデジタルの時系列信号に変換し、データ処理手段20に於いて心身状態指数の算出を行う。
指数データベース24には、被計測者6の動作状態や運転状態毎に心身状態に対応する既知の心身状態指数の時間的傾向及び/又は数値を格納しており、動作検出手段12に於いて検出された被計測者6の状態に於ける既知の心身状態指数と先に算出された心身状態指数とを評価手段22に於いて比較する。これにより、被計測者6の置かれた状態に応じて逐次心身状態の予測又は判断を行うことが出来る。
例えば、乗り物の運転者が十分な覚醒状態にある場合は、外界からの様々な情報を目や耳で受け、椅子から路面状況の情報を体感として受けているので、計器盤や景色に視線を配り、その結果身体の重心位置の軌跡も必要な姿勢の変化に対応したものであり、加速度が働くような場合に於いても予め視界情報から加速度の発生を予見出来るので、無駄の少ない安定な重心移動により対応することが出来る。
従って覚醒状態にある運転者の場合、加速度や道路の状況に応じた重心位置の変化は安定しており、心身状態指数の数値は低下する。
一方、運転者が疲労している場合は、脳が外界からの情報を受け付けなくなっており、まっすぐな道路を走る等の平坦な走行に於いては重心の軌跡が単純なものとなる為、心身状態指数の数値は低下するが、逆に、加速度が働く場合やカーブを曲がる場合は身体の対応が遅れるようになるので無駄な動きが増え、重心位置が不安定となる為、心身状態指数の数値は増大する。
このように、同じ心身状態であっても被計測者6の動作状態や運転状態により心身状態指数の時間的傾向や数値は異なる為、特に乗り物に乗っている運転者の心身状態を予測又は判断する場合には、動作検出手段12に於いて検出される状態毎にデータベースを用意し、算出された心身状態指数と、その時の動作状態や運転状態毎に既知の心身状態指数とを比較することにより、心身状態の予測又は判断を行う。
心身状態指数として脳機能指数を求める場合には、動作状態や運転状態が変化すれば、当然のことながら周期性も変化する為、処理単位の切り出しや収束計算は、周期性が変化した時点で打ち切られることになり、動作状態即ちダイナミクス毎の脳機能指数を求めることが可能である。しかも、処理単位の切り出しは時系列信号の周期性に基づいて行われるため、複数の異なるダイナミクスが一時に重なっていたとしても、脳機能指数は、ダイナミクス毎に、すなわち、ダイナミクスの数だけ算出される。
脳機能指数の算出方法については、実施例1に記載した通りであるが、先に得られたCEm(t)の中から、t≦t≦tのものを抽出し、これをCEm(t|t≦t≦t)とする。
本実施例に於いては、このt〜tの期間は、動作検出手段12に於いて検出された一定の動作が継続している期間であり、例えば、まっすぐな道路を加速度一定で走行している期間、停止している期間、カーブを曲がっている期間等の期間毎に分けられる。
但し、t≦t≦tの期間、つまり、一定の動作期間が、実施例1に於けるように長期間である場合には、当然、その期間内にも心身状態は変化しており、かえって即時的な心身状態予測又は判断を阻害することになる為、t≦t≦tの期間を心身状態の変化を追跡出来る程度まで細分化して、その分割された期間毎に脳機能指数Cを算出すればよい。
【実施例3】
本実施例に於いては、被計測者に意図的に刺激を与えることにより被計測者の心身状態を予測又は判断する心身状態判定システムである場合を説明する。この場合の心身状態判定システムのシステム構成を第3図に示す。
第3図の心身状態判定システム1bは、第2図に示した心身状態判定システム1aのシステム構成の他に、刺激出力手段13、刺激データベース15を有する。
刺激出力手段13は、被計測者6に対して刺激を与える手段である。例えば、センサー3を具備する椅子やベッド等に対して振動を発生させたり、視聴覚に訴えるような刺激を与える。
刺激出力手段13の具体例として、ピエゾ素子等の圧力センサーが挙げられる。この圧力センサーは、圧力を電気信号に変換するだけでなく、電気信号を圧力、即ち振動や揺らぎに変換することも出来るので、設置したセンサー3の近傍に別のセンサーを設置し、意図的に決められた振動を与えることが可能である。
刺激出力手段13は、ピエゾ素子以外でも振動をコンピュータ等で制御し出力することが出来る手段であればよい。聴覚的刺激の場合はスピーカー10から音楽や音声を流し、視覚的刺激の場合は表示装置11に静止画や動画を表示する。
刺激データベース15は、刺激出力手段13に於いて出力する上記振動や音声や画像等を格納しているデータベースである。
次に第3図の心身状態判定システム1bのシステム構成図を用いて、本実施例の動作の一例を説明する。
指数データベース24には、例えば刺激データベース15に格納されているAという振動を、非覚醒状態の被計測者に対して与えた場合にはBという心身状態指数の時間的傾向や数値を示し、覚醒状態の被計測者に対して与えた場合にはCという心身状態指数の時間的傾向や数値を示すという予め知られたデータが格納されている。振動だけでなく、音楽や画像についてもその刺激の種類毎に、心身状態指数と心身状態との対応を予め明確にしておく。
例えば、被計測者6に一定の微振動を与えた場合、覚醒状態にある被計測者6の脳は、微振動に対応出来るだけの情報処理能力があるので、微振動に殆ど遅れることなく追従して重心位置の変化を見せるが、疲労状態にある被計測者6は、微振動に対する反応が鈍くなる為重心位置の変化は微振動に対して遅延する。更に疲労していると対応が更に遅くなり、更には微振動に対して過剰な反応を示すようになり重心位置が不安定となる。
又、リズム感溢れたノリのよい音楽を被計測者6に聴かせた場合は気分がよい時であれば、リズムに反応して身体を揺り動かすが、気が乗らない時にはリズムに反応しないので、その差が心身状態指数の数値や時間的傾向の差として現れる。
このように、意図的に被計測者6に刺激を与え、心身状態指数を算出し、既知の心身状態指数の時間的傾向や数値と比較することにより、被計測者6の心身状態を予測又は判断することが出来るのである。
次に、被計測者が居眠り等の異常な心身状態であると予測又は判断された時に、異常な心身状態から通常の心身状態に回復するような身体刺激や視聴覚刺激を与える心身状態判定システムである場合を第3図を用いて説明する。
例えば、居眠りしている又は居眠りしそうな被計測者に対してある特定の音楽や画像や振動による刺激を与えると心身状態指数が覚醒状態の数値に戻ることが予め分かっていれば、評価手段22に於いて予測又は判断された被計測者6の心身状態に基づいて、その音楽や画像や振動を刺激出力手段13から、被計測者6が居眠りする前の状態を予測した時点で出力することが出来るので、被計測者6が異常な心身状態になるのを防いだり、被計測者6の行動の変化を促すのに寄与する。
これらの刺激を被計測者6に対して与えたということは動作検出手段12に於いても検出され、更にその状態(ある刺激を与えたという状態)に於ける心身状態の変化を観測しつづけることも可能である。それでも尚居眠りしそうな状態から立ち直らない場合には更に大きな刺激を与える等して対処する。
このように、意図的に被計測者6の身体に刺激を与えることによっても、心身状態を予測又は判断出来、しかも、被計測者6が異常な心身状態になることを防いだり、被計測者6の行動の変化を促すことが可能であることから、本実施例の心身状態判定システムは、被計測者6に対する警告や威嚇を避けたい時や、被計測者6に対して心理テストを行うにも好適である。
本発明に於ける各手段、データベースは、その機能が論理的に区別されているのみであって、物理上或いは事実上は同一の領域を為していてもよい。又データベースの代わりにデータファイルであってもよいことは言うまでもなく、データベースとの記載にはデータファイルをも含んでいる。
尚、本発明を実施するにあたり本実施態様の機能を実現するソフトウェアのプログラムを記録した記憶媒体をシステムに供給し、そのシステムのコンピュータが記憶媒体に格納されたプログラムを読み出し実行することによっても実現される。
この場合、記憶媒体から読み出されたプログラム自体が前記した実施態様の機能を実現することとなり、そのプログラムを記憶した記憶媒体は本発明を構成する。
プログラムを供給する為の記憶媒体としては、例えば磁気ディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、磁気テープ、不揮発性のメモリカード等を使用することが出来る。
又、コンピュータが読み出したプログラムを実行することにより、上述した実施態様の機能が実現されるだけではなく、そのプログラムの指示に基づき、コンピュータ上で稼働しているオペレーティングシステムなどが実際の処理の一部又は全部を行い、その処理により前記した実施態様の機能が実現される場合も含まれる。
【産業上の利用可能性】
本発明により、被計測者に負担を掛けず、意識させることなく、且つ、主観的判断によらず、被計測者の心身状態を予測又は判断することが出来、「眠ってしまった」ことを判断するだけでなく、「眠りそう」であることを予測し、眠ってしまう前に警告することが出来るので、ヒューマンエラーによる事故を未然に且つ確実に防ぐことが可能である。
椅子の座面や背もたれ等に実装可能なセンサーを少なくとも1個用いることにより、病院での診療患者や自動車や航空機等を運転している者の心身状態の予測又は判断を無意識のうちに行うことが可能である。センサーは1個でもよいので、複数のセンサーから重心位置等を計測する時のようにセンサー間相互の同期取りや、センサー間で相互に発生する出力遅延による個体差を考慮する必要がなく、部品点数が少なくてすむ。
又、重心位置を計測する場合であっても、センサーは少なくとも2個あればよく、必ずしもセンサーを多数個マトリクス状に配置する必要はないので、装置の導入が容易で、コストメリットがある。
意図的に被計測者の身体に直接刺激を与えたり、視聴覚に訴える刺激を与えることにより、その時の被計測者の心身状態を予測又は判断したり、逆に異常な心身状態になることを防いだり、被計測者の行動の変化を促すことも可能であり、不必要な警告や威嚇を避けたい時や、心理テストを行う時等に効果的である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
人間の覚醒状態や非覚醒状態等の心身状態を予測する心身状態判定システムであって、
被計測者の荷重値又は重心位置の時系列信号からリアプノフ指数等の心身状態指数を算出するデータ処理手段と、
前記データ処理手段に於いて算出された心身状態指数の時間的傾向と、心身状態に対応した既知の心身状態指数の時間的傾向とを比較し、前記被計測者の心身状態を予測する評価手段とを、
有することを特徴とする心身状態判定システム。
【請求項2】
人間の覚醒状態や非覚醒状態等の心身状態を判断する心身状態判定システムであって、
被計測者の荷重値又は重心位置の時系列信号からリアプノフ指数等の心身状態指数を算出するデータ処理手段と、
前記データ処理手段に於いて算出された心身状態指数の数値と、心身状態に対応した既知の心身状態指数の数値とを比較し、前記被計測者の心身状態を判断する評価手段とを、
有することを特徴とする心身状態判定システム。
【請求項3】
前記被計測者の荷重値を出力するセンサーを有する
ことを特徴とする請求の範囲1又は請求の範囲2に記載の心身状態判定システム。
【請求項4】
前記センサーは1個である
ことを特徴とする請求の範囲3に記載の心身状態判定システム。
【請求項5】
前記センサーは、
ピエゾ素子、感圧抵抗体素子、ポテンションメーター等の圧力センサー、又は加速度センサーのいずれかである
ことを特徴とする請求の範囲3又は請求の範囲4に記載の心身状態判定システム。
【請求項6】
前記センサーは、
前記被計測者の荷重がかかる椅子又はベッドに取り付けられる
ことを特徴とする請求の範囲3から請求の範囲5のいずれかに記載の心身状態判定システム。
【請求項7】
前記椅子又はベッドは、
内部にスプリング等の弾性材料を
有することを特徴とする請求の範囲6に記載の心身状態判定システム。
【請求項8】
前記被計測者の荷重値又は重心位置の時系列信号に含まれる不要な周波数成分を除去するノイズ除去手段を
有することを特徴とする請求の範囲1から請求の範囲7のいずれかに記載の心身状態判定システム。
【請求項9】
前記被計測者の荷重値又は重心位置の時系列信号を、10Hzから100Hzの周波数でサンプリングすることを
特徴とする請求の範囲1から請求の範囲8のいずれかに記載の心身状態判定システム。
【請求項10】
前記被計測者の荷重値又は重心位置の時系列信号を増幅する増幅手段を
有することを特徴とする請求の範囲1から請求の範囲9のいずれかに記載の心身状態判定システム。
【請求項11】
複数の前記センサーから出力されるそれぞれの荷重値から前記被計測者の重心位置を算出する計算手段を
有することを特徴とする請求の範囲1から請求の範囲10のいずれかに記載の心身状態判定システム。
【請求項12】
予測又は判断された前記被計測者の心身状態に基づいて、前記被計測者に対して表示装置及び/又はスピーカーを用いて警告を発する、又は、前記被計測者の管理を行っている管理局に伝達する警告手段を
有することを特徴とする請求の範囲1から請求の範囲11のいずれかに記載の心身状態判定システム。
【請求項13】
前記被計測者の動作状態や運転状態を時系列的に検出する動作検出手段を有し、
前記評価手段は、
前記動作検出手段に於いて検出される状態と心身状態とに対応した既知の心身状態指数の時間的傾向及び/又は数値と、前記算出された心身状態指数の時間的傾向及び/又は数値とを比較して、前記被計測者の前記状態毎に心身状態を予測又は判断する
ことを特徴とする請求の範囲1から請求の範囲12のいずれかに記載の心身状態判定システム。
【請求項14】
前記被計測者に対して身体刺激、視聴覚刺激等の刺激を与える刺激出力手段を有し、
前記評価手段は、
前記刺激出力手段から前記刺激が出力された時の既知の心身状態指数の時間的傾向及び/又は数値と、前記算出された心身状態指数の時間的傾向及び/又は数値とを比較して、前記被計測者の心身状態を予測又は判断する
ことを特徴とする請求の範囲1から請求の範囲13のいずれかに記載の心身状態判定システム。
【請求項15】
前記刺激出力手段は、
予測又は判断された前記被計測者の心身状態に基づいて、異常な心身状態になるのを防ぐ効果がある前記刺激を前記刺激出力手段から出力することにより、前記被計測者の行動の変化を促す
ことを特徴とする請求の範囲14に記載の心身状態判定システム。

【国際公開番号】WO2004/082479
【国際公開日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【発行日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503639(P2005−503639)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002054
【国際出願日】平成16年2月23日(2004.2.23)
【出願人】(501363051)
【出願人】(501152352)独立行政法人電子航法研究所 (44)
【Fターム(参考)】