心電図データの異常心拍及びトレンドの除去方法、自律神経モニタ装置、及び敗血症発症警告装置
【課題】
心電図から得られる心拍間隔データ列から、異常心拍、トレンドを自動的に除去して、心拍変動の変化を、適切な診断に利用することができる心電図データ内の異常心拍及びトレンドの除去方法、及び自律神経モニタ装置並びに敗血症発症の診断に利用できる敗血症発症警告装置を提供する。
【解決手段】
自律神経モニタ装置のCPU32は、心電図データからRRI時系列xnを取得する。CPU32は、RRI時系列xnとRRI時系列のトレンド関数の残差系列のうちqnが正常を表すフラグが成立するものについての確率密度分布が最も正規分布に近くなるように、トレンド関数及び正常心拍を含むフラグ時系列Qを決定して、異常心拍とトレンドを除去して、HRV解析に用いられるRRI時系列データを取得する。CPU32は異常心拍とトレンドが除去されたRRI時系列データに基づいてHRV解析を行う。
心電図から得られる心拍間隔データ列から、異常心拍、トレンドを自動的に除去して、心拍変動の変化を、適切な診断に利用することができる心電図データ内の異常心拍及びトレンドの除去方法、及び自律神経モニタ装置並びに敗血症発症の診断に利用できる敗血症発症警告装置を提供する。
【解決手段】
自律神経モニタ装置のCPU32は、心電図データからRRI時系列xnを取得する。CPU32は、RRI時系列xnとRRI時系列のトレンド関数の残差系列のうちqnが正常を表すフラグが成立するものについての確率密度分布が最も正規分布に近くなるように、トレンド関数及び正常心拍を含むフラグ時系列Qを決定して、異常心拍とトレンドを除去して、HRV解析に用いられるRRI時系列データを取得する。CPU32は異常心拍とトレンドが除去されたRRI時系列データに基づいてHRV解析を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心電図データの異常心拍及びトレンドの除去方法、自律神経モニタ装置、及び敗血症発症警告装置に係り、詳しくは、心電図データ内の異常心拍とトレンドを自動的に除去できる心電図データ内の異常心拍及びトレンドの除去方法、自律神経モニタ装置及び敗血症発症警告装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に示すように、心拍数は、一定時間(通常、1分間)に心臓が拍動する回数を表し、患者の容態把握にはもっとも重要な尺度である。具体的には、心拍数は、拍と拍の間の間隔の平均値の逆数に一定時間単位を乗じたものとして定義される。心拍数が拍と拍の間の間隔(RR間隔;RRI)の平均から導かれるのに対し、拍と拍の間の間隔のばらつきをHRV(心拍変動)という。内外の刺激を受けて自律神経の働きにより心拍数が変化する。このため、HRV(心拍変動)が大きいほど、内外の刺激に対する反応が良い(すなわち、健康である)ことを意味する。HRV(心拍変動)は、運動能力を測る尺度としても利用されるなど、心拍数だけではわからない情報が得られるものと考えられている。
【0003】
従って、HRV(心拍変動)を解析することにより、自律神経活動をモニタすることができる。HRV解析法は、主に、時間領域解析法(非特許文献1)、周波数領域解析法(スペクトル解析)、非線形及びカオス・フラクタル解析法(非特許文献1)に分類される。
【0004】
時間領域解析法には、トーン・エントロピー法(非特許文献2)、非線形及びカオス・フラクタル解析法には、Detrended fluctuation analysis (DFA) 法(非特許文献3)などがある。
【0005】
周波数領域解析法には、FFT法(非特許文献4)、自己回帰モデル法(非特許文献5)、最大エントロピー法(非特許文献6)、Complex demodulation (CD) 法(非特許文献7)などがある。周波数領域解析では、0.14から0.4Hzまでの高周波帯域(High Frequency; HF),0.04から0.14Hzまでの低周波帯域(Low Frequency; LF)、0.003から0.04Hzまでの超長周期帯域VLF(Very Low Frequency)、0.003Hz以下のULF(Ultra Low Frequency)帯域が重要とされる。一般にLF成分は交感神経活動と副交感神経活動を表し、HF成分は副交感神経活動を表すとされる(非特許文献8)。さらに、VLF成分、ULF成分には、体温調整系などが影響するとされる(非特許文献10)。
【0006】
ところで、不整脈などの異常心拍は、心臓の異常が原因で生ずる。このため、自律神経活動とは無関係である。このため、HRV解析では異常心拍を除去する必要がある。なお、心電図から、異常心拍を除去しないと、HRV(心拍変動)を過剰に大きく見積る要因となる。
【0007】
異常心拍を検出するために、典型的なECG(心電図)波形と比較し、一定以上異なっているものを異常心拍と見なす方法がある(従来技術1という)。この方法は、商品化されている心電計などの多くの機器で採用されているが、ECG波形の変化が現れるほど大きな異常でないと適用できない。
【0008】
また、心拍間隔(RRI)が正規分布に従う時、99.6%の標本が平均±標準偏差に入る統計的性質(3σルール)を利用し、この範囲に入らないものを異常値と見なすという方法がある。又、3σルールではなく、心拍間隔(RRI)が正規分布に従う時、95.4%の標本が平均±標準偏差に入る統計的性質(2σルール)で行う方法もある(従来技術2という)。
【0009】
しかし、3σルール、或いは2σルールにより正常(あるいは異常)なRRIを特定するためには、正常値に対する平均・標準偏差が必要である。
しかし、その時点では正常データが特定されないため、一般的には、異常値を含めた平均・標準偏差で代用される。そのため、異常値が多くなると、異常値の存在も通常なこととなり、異常値は除去できなくなる。
【0010】
さらに、心電図データに長周期の成分、すなわち、トレンドがある場合は、異常値の判定原理が崩壊する。異常値を正確に除去しないと、その後のHRV解析(特に、周波数領域解析)の信頼性が低下する。そのため、従来は、目視により異常心拍を指定して除去するか、心電図を計測し直すことが一般的であった。
【0011】
特に、ICUに入院している患者(以下、ICU患者という)は、持病のある患者が多く、また障害によって不整脈などの異常心拍が極めて多い。このため、ICU患者の心電図は、通常のHRV解析では、使えないことが多い。
【0012】
ところで、敗血症の診断は、現在、医師が主観的観測などにより、患者の発症を疑ってから、血液検査を行っている。そして、前記血液検査によって細菌が検出された場合、細菌を特定することによって、用いる抗生剤が決定されて、治療が開始される。
【0013】
敗血症の治療では、敗血症を重症化させないために患者が敗血症を発症した後、1時間以内に抗生剤の投与が提唱されている。しかし、敗血症の診断は医師の主観によるところが大きいため、敗血症発症の発見が遅れがちになる問題がある。
【0014】
そこで、患者が敗血症を発症すると、自律神経に変調をきたし、HRV(心拍変動)が低下することが知られている(非特許文献9、非特許文献10)。しかし、現状では、リアルタイムに心電図からHRV(心拍変動)を特定できない問題が指摘されている。
【0015】
その理由としては、ICU患者においては、上記のように不整脈などの異常心拍が極めて多いため、異常心拍の除去が困難であるからと推測される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】早野順一郎,「循環器疾患と自律神経機能」,第2版,医学書院,2001,p.71-109,
【非特許文献2】イー.オイダ,ティー.モリタニ,ワイ.ヤモリ,「トーン・エントロピー アナリシス オン カーディアック リカバリ アフター ダイナミック エクササイズ」,ジェイ.エイ・ピー・ピー・エル.ピー・エチ・アイ・エス・アイ・オー・エル.Vol.82,1997,p. 1794-1801(E. Oida, T.Moritani, and Y.Yamori,” Tone-entropy analysis on cardiac recovery after dynamic exercise”, J. Appl. Physiol., Vol. 82, 1997, p.1794-1801)
【非特許文献3】シー.ケー.ペン,エス.ハルビン,エイチ.イー.スタンレイ,エイ.エル.ゴールドベルガー.「クウォンティフィケーション オブ スケーリング エクスポーネンツ アンド クロスオーバー フェノミナ イズ ノンステェイショナリ ハートビート タイム シリーズ」,シー・エイチ・エイ・オー・エス,Vol. 5, No. 1,1995,p.82-87」(C.K. Peng, S. Havlin, H.E. Stanley, A.L. Goldberger,”Quantification of scaling exponents and crossover phenomena is nonstationary heartbeat time series”, Chaos, Vol. 5, No. 1,1995,p.82-87)
【非特許文献4】ジェィ.ダブリュ.クーリー,アンド ジェイ,ターキー,「アン アルゴリズム フォー ザ マシン カリキュレーション オブ コンプレックス フーリエ シリーズ,マテマティクス オブ コンピュテーション」,Vol. 19,1965 ,p.297-301 (J.W. Cooley, and J.W. Turkey,”An Algorithm for the machine calculation of complex Fourier series, Mathematics of Computation, Vol. 19,1965 ,p.297-301 )
【非特許文献5】エッチ.アカイケ,「パワー スペクトラム エステイメーション スルー オートリグレシッブ モデル フィッテイング」.エー・エヌ・エヌ アイ・エヌ・エス・インスト エス・ティ・エー・ティ・アイ・エス・ティ マス」,Vol. 21,1969, p.407-419(H. Akaike,” Power spectrum estimation through autoregressive model fitting, Ann Inst Statist Math”, Vol. 21,1969, p.407-419)
【非特許文献6】エイ・マリアニ,エム.パガニ,エフ.ロムバルディ,アンド エス.セルッティ,「カーディオヴァスキュラ ニューラル レギュレーション エクスプロアード イン ザ フリークエンシー ドメイン」,サーキュレーション,Vol. 84, No. 2,1991, p.482-492(A. Malliani, M. Pagani, F. Lombardi, and S. Cerutti,” Cardiovascular Neural Regulation Explored in the Frequency Domain”, Circulation, Vol. 84, No. 2,1991, p.482-492)
【非特許文献7】ピー.ブルームフィールド,「フーリエ アナリシス オブ タイム シリーズ アン イントロダクション」,ジョン ワイリー アンド サンズ,1976,p.118-150(P. Bloomfield,”Fourier Analysis of Time Series,An Introduction”,John Wiley & Sons,1976,p.118-150)
【非特許文献8】エス.アクセルロッド,ディ.ゴードン,エフ.エー.ユーベル,ディ.シー.シャノン,エー.シー.バーガー,アンド アール.ジェイ.コーエン,「パワー スペクトラム アナリシス オブ ハート レート フラクチュエーション,ア クォンティタティブ プローブ オブ ビート・トゥー・ビート カーディオヴァスキュラ コントロール」,サイエンス, Vol. 213,1981, p.220-222(S. Akselrod, D. Gordon, F.A. Ubel, D.C. Shannon, A.C. Barger, and R.J. Cohen” Power Spectrum Analysis of Heart Rate Fluctuation: A Quantitative Probe of Beat-to-Beat Cardiovascular Control”, Science, Vol. 213,1981, p.220-222 )
【非特許文献9】森口武史,平澤博之,織田成人,立石義久,「Heart rate variability(HRV)解析によるseptic shock発症の予知に関する検討」,日本臨床,62巻,12号,2004,p.2285-2290
【非特許文献10】タスク フォース オブ ザ ヨーロピアン ソサイエティ オブ カルディオロジ ザ ノース アメリカン ソサイエティ オブ ペーシング エレクトロフィジオロジイ: ハート レート ヴァリィァビリィティ; スタンダーズ オブ メジャーメント、フィジオロジカル インタープリテェィション,アンド クリニカル ユース,サーキュレーション,Vol. 93, No. 5,1966,p1043-1065(Task Force of the European Society of Cardiology the North American Society of Pacing Electrophysiology: Heart Rate Variability, Standards of Measurement, Physiological Interpretation, and Clinical Use, Circulation, Vol. 93, 1966,No. 5, p1043-1065)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の第1の目的は、心電図から得られる心拍間隔データ列から、不整脈などの異常心拍、トレンドを自動的に除去して、HRV解析の結果として得られるHRV(心拍変動)の変化を、適切な診断に利用することができる心電図データ内の異常心拍及びトレンドの除去方法、及び自律神経モニタ装置を提供することにある。
【0018】
又、本発明の第2の目的は、心電図から得られる心拍間隔データ列から、不整脈などの異常心拍、トレンドを自動的に除去して、HRV解析の結果として得られるHRV(心拍変動)の変化を、敗血症発症の診断に利用できる敗血症発症警告装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、心電図データ内に含まれる拍と拍の間隔を表すRR間隔の時系列データから異常心拍とトレンドを除去する際、除去後の確率密度分布が正規分布に近くなるように異常心拍とトレンドを除去した後、HRV(心拍変動)データを算出することを特徴とする心電図データの異常心拍及びトレンドの除去方法を要旨としている。
【0020】
請求項2の発明は、心電図データから、拍と拍の間隔を表すRR間隔の時系列データ(以下、RRI時系列xnという)を取得する第1ステップと、f(tn;θ)を前記心電図データの長周期の成分を表すトレンド関数とし、前記tを時刻とし、前記θを前記トレンド関数fのパラメータとし、qnをRRI時系列xnの正常又は異常をあらわすフラグとし、Q=(q1,q2,q3,……qn)をフラグ時系列としたとき、残差系列xn−f(tn;θ),n=1,2,...のうち、qnが正常を表すフラグが成立するものについての確率密度分布が最も正規分布に近くなるように、前記トレンド関数f(tn;θ)及び正常心拍を含むフラグ時系列Qを決定することにより、異常心拍とトレンドを除去した後、HRV(心拍変動)データを算出する第2ステップを含むことを特徴とする心電図データの異常心拍及びトレンドの除去方法を要旨としている。
【0021】
請求項3の発明は、請求項2において、前記第2ステップは、フラグ時系列Qを固定して、残差系列の平均誤差が最小となるトレンド関数を決定して前記残差系列を求めるAステップと、Aステップで求めた残差系列が最も正規性をもつようにフラグ時系列Qを決定することにより、異常心拍を除去して、前記残差系列を更新するBステップを含むことを特徴とする。
【0022】
請求項4の発明は、請求項3において、前記第2ステップでは、前記Bステップにおいて決定したフラグ時系列Qが、前記Aステップで固定したフラグ時系列Qと異なって変化した場合には、Aステップに戻ってフラグ時系列Qを前記変化したフラグ時系列Qに更新してAステップの処理を行い、以後、Bステップにおいて決定するフラグ時系列Qが変化しない迄、前記AステップとBステップとを繰り返すことを特徴とする。
【0023】
請求項5の発明は、請求項4において、前記Bステップでは、前記Aステップで求めた残差系列が最も正規性をもつようにフラグ時系列Qを決定する際、残差系列に含まれる異常心拍に関して、異常心拍及び前記異常心拍に連続した心拍を含むように異常値らしさを算出し、前記異常値らしさによって異常値及び前記異常心拍に連続した心拍を除去することを特徴とする。
【0024】
請求項6の発明は、心電図データを取得する取得手段と、前記心電図データから拍と拍の間隔を表すRR間隔の時系列データ(以下、RRI時系列xnという)を取得するRRI時系列取得手段と、f(tn;θ)を前記心電図データの長周期の成分を表すトレンド関数とし、前記tを時刻とし、前記θを前記トレンド関数fのパラメータとし、qnをRRI時系列xnの正常又は異常をあらわすフラグとし、Q=(q1,q2,q3,……qn)をフラグ時系列としたとき、残差系列xn−f(tn;θ),n=1,2,...のうち、qnが正常を表すフラグが成立するものについての確率密度分布が最も正規分布に近くなるように、前記トレンド関数f(tn;θ)及び正常心拍を含むフラグ時系列Qを決定することにより、異常心拍とトレンドを除去して、HRV解析の解析に用いられるRRI時系列データを抽出する除去手段と、前記異常心拍とトレンドが除去されたRRI時系列データについてHRV(心拍変動)解析を行うHRV解析手段を含むことを特徴とする自律神経モニタ装置を要旨としている。
【0025】
請求項7の発明は、請求項6において、前記除去手段は、フラグ時系列Qを固定して、残差系列の平均誤差が最小となるトレンド関数を決定して前記残差系列を求める第1処理手段と、前記第1処理手段が求めた残差系列が最も正規性をもつようにフラグ時系列Qを決定することにより、異常心拍を除去して、前記残差系列を更新する第2処理手段を含むことを特徴とする。
【0026】
請求項8の発明は、請求項7において、前記除去手段は、前記第2処理手段が決定したフラグ時系列Qが、前記第1処理手段で固定したフラグ時系列Qと異なって変化した場合には、前記第1処理手段に戻してフラグ時系列Qを前記変化したフラグ時系列Qに更新して第1処理手段の処理を行い、以後、第2処理手段において決定するフラグ時系列Qが変化しない迄、前記第1処理手段の処理と第2処理手段の処理とを繰り返すことを特徴する。
【0027】
請求項9の発明は、請求項8において、前記第2処理手段では、前記第1処理手段が求めた残差系列が最も正規性をもつようにフラグ時系列Qを決定する際、残差系列に含まれる異常心拍に関して、異常心拍及び前記異常心拍に連続した心拍を含むように異常値らしさを算出し、前記異常値らしさによって異常値及び前記異常心拍に連続した心拍を除去することを特徴とする。
【0028】
請求項10の発明は、請求項6乃至請求項9のいずれか1項に記載の自律神経モニタ装置が、敗血症発症警告装置であって、前記HRV解析手段の解析結果により、HRV(心拍変動)データの時系列において、最小値の検出を行う検出手段と、前記検出手段が、前記HRV(心拍変動)データの時系列において、最小値を検出した場合、敗血症の発症の虞があることを警告する警告手段を備えたことを特徴とする敗血症発症警告装置を要旨としている。
【発明の効果】
【0029】
本発明の方法によれば、心電図から得られる心拍間隔データ列から、不整脈などの異常心拍、トレンドを自動的に除去して、HRV(心拍変動)の変化を、適切な診断に利用することができる。
【0030】
又、本発明の自律神経モニタ装置によれば、心電図から得られる心拍間隔データ列から、不整脈などの異常心拍、トレンドを自動的に除去して、HRV(心拍変動)の変化を、適切な診断に利用することができる自律神経モニタ装置を提供できる。
【0031】
又、本発明の敗血症発症警告装置によれば、心電図から得られる心拍間隔データ列から、不整脈などの異常心拍、トレンドを自動的に除去して、HRV(心拍変動)の変化を、敗血症の診断に利用できる敗血症発症警告装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】心拍変動の説明図。
【図2】(a)は、異常心拍を含む心拍変動の説明図、(b)は、トレンドと異常心拍が除去された心拍変動の説明図。
【図3】トレンド関数の説明図。
【図4】自律神経モニタ装置のブロック回路図。
【図5】心電図データから、心拍変動データを取り出す場合のフローチャート。
【図6】(a)は、心電図波形記録計により検出された心拍の時系列データの図、(b)は(a)を用いて本発明により正常心拍として得たRRI(RR間隔)の時系列データの図、(c)は(b)よりトレンドを除去したRRI(RR間隔)の時系列データの図、(d)は(c)をHRV解析したパワースペクトルの図。
【図7】(a)は、従来例の心電図波形記録計により検出された心拍の時系列データの図、(b)は(a)を用いた比較例のRRI(RR間隔)の時系列データの図、(c)は、MEAN±2σに入るものを正常心拍として得たRRI(RR間隔)の時系列データの図、(d)は(c)をHRV解析したパワースペクトルの図。
【図8】敗血症を発症した患者の敗血症性ショックが生じた事例1のHRV(心拍変動)の時間的変化を表す図。
【図9】敗血症を発症した患者の敗血症性ショックが生じた事例2のHRV(心拍変動)の時間的変化を表す図。
【図10】敗血症を発症した患者の敗血症性ショックが生じた事例3のHRV(心拍変動)の時間的変化を表す図。
【図11】敗血症を発症した患者の敗血症性ショックが生じた事例4のHRV(心拍変動)の時間的変化を表す図。
【図12】敗血症を発症した患者の敗血症性ショックが生じた事例5のHRV(心拍変動)の時間的変化を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を具体化した一実施形態の心電図データの異常心拍及びトレンドの除去方法、及び自律神経モニタ装置を図1〜図12を参照して説明する。
<構成>
図4は、自律神経モニタ装置の全体図を示している。
【0034】
自律神経モニタ装置10は、図4に示すように、心電図波形記録計20と、心電図波形解析装置30とを備えている。心電図波形記録計20は、被験者に対して装着された図示しない電極及び図示しないA/D変換回路を介して心電図波形信号を取得するとともに、心電図波形信号を連続的に心電図波形解析装置30に出力する。心電図波形記録計20は、取得手段に相当する。心電図波形解析装置30は、CPU32、ROM34、RAM36、記憶装置からなるデータベース38を備えている。ROM34には、異常心拍、トレンド除去及びHRV解析処理プログラムが格納されている。RAM36は、CPU32が各種の処理を行うときの作業用メモリである。
【0035】
CPU32は、RRI時系列取得手段、除去手段、HRV解析手段、第1処理手段、及び第2処理手段に相当する。
心電図波形解析装置30は、インターフェイス40を介して入力した前記心電図波形信号を前記異常心拍、トレンド除去及びHRV解析処理プログラムによる処理を行い、その処理結果をデータベース38に格納する。
【0036】
心電図波形解析装置30には、ディスプレイ42及び警告手段としての警告装置44が接続されている。ディスプレイ42は、液晶表示装置等からなる。警告装置44は、表示ランプ、又はブザーからなる。
【0037】
<作用>
次に、自律神経モニタ装置10の作用を、図5のフローチャートを参照して説明する。
心電図波形解析装置30のCPU32は、図5のS100において、異常心拍、トレンド除去及びHRV解析処理プログラムに従って心電図波形記録計20から所定時間毎に入力した心電図データ(ECG波形)から、波形のピーク検出を行い、Rポイントの検出及び心拍間隔(以下、RR間隔と略称する)を検出する。本実施形態では、前記所定時間は、1分間であるが、限定されるものではない。前記心電図データ(ECG波形)は心電図波形信号である。
【0038】
すなわち、CPU32は、図5のS100において、心電図波形信号のR波の発症した時刻tnを検出するとともに、RR間隔を算出することにより、拍と拍の間隔を表すRR間隔の時系列データ(RRI時系列xn)を得る。RRI時系列xnは、データベース38に格納される。このRRI時系列xnを得るステップは、第1ステップに相当する。
【0039】
<心電図データ内の異常心拍及びトレンドの除去の原理>
ここで、異常心拍及びトレンドの除去の原理について説明する。
RRI時系列xnは、時刻tnでのRR間隔をxnとする時系列である。本実施形態では、RRI時系列xnが正常ならばqn=1、異常ならばqn=0とおき、これらのフラグをまとめて、フラグ時系列Q=(q1,q2,q3,……qn)とおく。なお、qnがとる値は、RR間隔xnが正常か、異常を区別できれば、他の値でもよく、0及び1に限定されるものではない。
【0040】
又、心電図データの長周期の成分を表すトレンドを表す関数(以下、トレンド関数という)は、そのパラメータをθとし、f(t;θ)と表す(図3参照)。
一般的に、HRV解析では、約0.04Hz以上の周波数成分を対象とするため、それ以下の周波数をトレンドと考えればよい。例えば、1分間毎に解析する場合、周波数0.04Hzは極小値が5程度出現することを意味する。5個の極値を持つ最低の多項式次数は6であることから、6次程度の多項式を用いればよい。
【0041】
ここで、純粋な現象の揺らぎは、正規分布に従っているので、自律神経由来の純粋な心拍ゆらぎ、すなわち、HRV(心拍変動)も正規分布に従っている。
すなわち、トレンド関数f(tn;θ)と、正常心拍を表すフラグ時系列Qが正しければ、残差系列xn−f(tn;θ),n=1,2,...such that qn=1は、正規分布に従う。
【0042】
すなわち、残差系列xn−f(tn;θ),n=1,2,...such that qn=1の確率密度分布がもっとも正規分布に近くなるように、トレンド関数f(tn;θ)と正常心拍を表すフラグ時系列Qを決定する。
【0043】
図2(a)は、トレンド及び異常心拍を含むRRI時系列を示している。図2(b)は、トレンド及び異常心拍を除去したRRI時系列を示している。
これにより、得られる残差系列xn−f(tn;θ),n=1,2,...such that qn=1がトレンドや異常心拍を除去した自律神経由来のRR間隔列となる。トレンドや異常心拍を除去した自律神経由来のRR間隔列は、好適にHRV解析に利用できることになる。
【0044】
ここで、標本列x1,x2,...xNが正規分布に従っているらしさを表す正規性尺度の一例として、3,4次中心モーメントm3,m4を用いた下式(1)を使用する。なお、正規性尺度は、下記式(1)に限定するものではない。
【0045】
【数1】
これは、正規分布では、分散を1に規格化した際の3次中心モーメントm3は0、4次中心モーメントm4は3になり、それから離れるほど正規性が低いと判断されることを利用している。ここで、m3/σ3は、歪度であり、分布の非対称性の度合いを示す。又、m4/σ4は、尖度である。ただし、a3,a4はともに正の実数であり、3,4次中心モーメントm3,m4の重みを規定する。
【0046】
具体的には、Q=(0,0,0,...,0),(0,0,0,...,1),,...,(1,1,1,...,1)のすべてについて、xnとf(tn;θ),n=1,2,...such that qn=1にわたる平均誤差を最小にするようにθを決定し、残差系列xn−f(tn;θ)の正規性尺度g({xn−f(tn;θ)|n=1,...,N;qn=1})を最大にするフラグ時系列Qを選択すればよい。しかし、この方法は2N回の正規性評価が必要になるため、リアルタイムで解くことはできない。
【0047】
このため、代替方法として下記の順序で行う。
(1) そこで、まず、Aステップとして、フラグ時系列Qを固定して、前記平均誤差が最小になるようにトレンド関数f(tn;θ)を決定する。
【0048】
(2) 次に、Bステップとしてトレンド関数f(tn;θ)を固定して、残差系列が最も正規性をもつように、すなわち、正規性尺度gが最大になるようにQを決定する。以後、Qの変化がなくなるまで繰り返す。上記(1)、(2)の処理は第2ステップに相当する。
【0049】
<具体的処理>
本実施形態では、CPU32は、上記の原理に基づいて図5のS200では以下の処理を行う。
【0050】
(S200−1)
フラグ時系列Qの初期値としてQ=(1,1,1,...,1)を固定する。
(S200−2)
前記平均誤差が最小になるトレンド関数f(t;θ)を決定する。
【0051】
(S200−3)
次に、トレンドを除去したRRI時系列yk=xk−f(tk;θ)を求める。
RRI時系列ykがもっとも正規性を持つように、下記の方法によりフラグ時系列Qを決定し、更新する。
【0052】
<フラグ時系列Qの決定方法>
すべてのykを使って、異常値らしさzk
【0053】
【数2】
を求める。
【0054】
ただし、wは重みを示す。重みwは、ある心拍が異常だとすると、その後に続く、1拍目、及び2拍目も異常心拍である確率が高い。例えば、k番目の心拍の異常値らしさは、誤差|yk|が大きい場合は、もちろん、|yk−1|、|yk−2|が大きくても異常値らしさが高まる。その影響度は過去になるほど小さくなるので、過去nの重みをwnとして、式(2)とすればよい。
【0055】
本実施形態では、w0=1,w1=0.5,w2=0.2,w3=w4=...=0などとする。なお、w0は、異常心拍の重みの数値である。w1及びw2は、異常心拍に続く1拍目、2拍目の重みの数値である。このように異常心拍の重みを他の心拍よりも大きくするとともに、異常心拍に続く1拍目、2拍目の重みは、徐々に小さくなるように設定されている。なお、w0=1,w1=0.5,w2=0.2の値は例示であり、他の正の数値を使用してもよい。又、上記式(2)の代わりに、zkは、関数zk=h(yk,yk−1,yk−2,...)のように、さらに複雑な関数としてもよい。
【0056】
次に、zkの大きい順に異常値と見なしてゆき、この異常値を除去した残りの系列の正規性尺度gを評価してゆく。そして、正規性尺度gを最大にした標本の組をQとする。
(S200−4)
ここで、取得したQが、前記固定したQと異なる場合、すなわち、Qに変化があれば、S200−2へ戻る。前記Qの変化は、繰り返す前の処理で取得されたQと、今回の処理で得られたQとの比較により判断される。Qに変化がなければ、S200−4の処理を終了する。
【0057】
CPU32は上記のS200−1〜S200−4の処理を行うことにより、心電図波形記録計20から入力したRRI時系列からトレンド及び異常心拍を除去する。
次に、CPU32は、図5のS300に示すようにトレンド及び異常心拍を除去したRRI時系列に対してHRV解析を行う。HRV(心拍変動)の解析法は、非特許文献1乃至非特許文献7に記載している公知の方法で行う。
【0058】
実際に自律神経モニタ装置10により、異常心拍及びトレンドを除去した実例を図6に示す。図6(a)は、被験者の心電図と検出された心拍の時系列データの図である。図6(b)は、図6(a)の心電図データに基づいて、得られたRRI(RR間隔)の時系列データの図である。図6(b)において、実線の曲線はトレンドを表している。又、図6(b)において、黒丸は、正常心拍を表し、白丸は、異常心拍を表している。図6(c)は、図6(b)の時系列データから、トレンド及び異常心拍を除いた後のRRI(RR間隔)の時系列データの図である。図6(d)には、図6(c)に示すトレンド及び異常心拍を除いた後のRRI時系列に対して、HRV解析としてのスペクトル解析が行われて、得られたパワースペクトルが示されている。
【0059】
一方、図7(a)の心拍の時系列データを使用して、異常心拍及びトレンドを除去した比較例を図7(b)〜図7(d)に示す。なお、図7(a)は、図6(a)と同じ時系列データであり、比較のために同じ心電図を使用している。
【0060】
図7(b)は、図7(a)の時系列データを用いて背景技術の欄で説明した従来技術1の方法で推定されたRRI(RR間隔)の時系列データの図である。図7(c)は、従来技術2の方法、すなわち、2σルールにより異常心拍を特定し、異常心拍を除去したRRI(RR間隔)の時系列データの図である。図7(c)において、白丸は異常心拍として特定された心拍である。又、図7(c)において、黒丸は、正常心拍として特定された心拍である。比較例の図7(c)では、トレンドが除去されておらず、又、平均±2σ内にあるため、異常値と思われるものが除去されていない心拍が存在する。図7(d)には、図7(c)に示すトレンド及び異常心拍を除いた後のRRI時系列に対して、HRV解析としてのスペクトル解析が行われて、得られたパワースペクトルが示されている。
【0061】
図7(d)では、図6(d)の実施例と異なり、HRV(心拍変動)が過大に推定されているとともに、図6(d)では観測できたピークが確認できなかった。この結果、本方法、本装置によれば、HRV解析として、スペクトル解析が行われる場合、スペクトル解析の精度が向上できる。
【0062】
<敗血症発症警告装置の説明>
ここで、敗血症について説明する。敗血症は、血液に細菌が感染して引き起こされる全身性炎症反応症候群である。敗血症は重症化すると、臓器機能障害、臓器循環低下、血圧低下を引き起こす。さらに、重症化すると、敗血症性ショックを経て、肺、腎臓、心臓、肝臓などの重要臓器が機能不全となり、40〜60%は30日以内に死亡する。特に、集中治療室(Intesive Care Unit;ICU)では、点滴、レスピレータをはじめとする様々なドレイン、カテーテル、センサが患者の体内に挿入されているため、感染のリスクが高い。
【0063】
敗血症を発症すると、患者の血液中にサイトカインが増えることから、サイトカインを常時、又は定期的にモニタリングすることにより敗血症の発症を検知することが行われている。なお、サイトカインは、免疫システムの細胞から分泌されるタンパク質で、特に、免疫、炎症に関係したものが多い。しかし、サイトカインの常時モニタは、新たな感染源になりうるため、好ましくない。又、定期モニタは手間が掛かりすぎる問題がある。さらに、サイトカイン検出には、コストと時間がかかる問題がある。
【0064】
そこで、前記実施形態の自律神経モニタ装置10を使用して、ICU患者の心電図データを取得し、図5のS100〜S300の処理を実行して、HRV(心拍変動)の解析試験を行った。図8〜図12は、各患者の敗血症の発症例のHRV(心拍変動)のチャートである。
【0065】
なお、敗血症の発症例については、岐阜大学医学部附属病院高次救命治療センターに入院している患者の同意を得て行われた。又、岐阜大学大学院医学系研究科医学研究等倫理委員会の承認の下で行われた。ICU入院時から患者に装着される生体情報モニタ(フィリップス製MP70)から収集されるバイタルデータ(心電図データ)のうち,第2誘導で計測された心電図606日分を使用した。計測サンプリング周波数は、500Hzである。
【0066】
又、図5のS300で行われたHRV解析は、1分間のRRI時系列に対し、等間隔に再サンプリングした後、ARモデル(自己回帰モデル)によるパワースペクトルを推定し、LF成分とHF成分の範囲、つまり周波数0.04Hzから0.4Hzを積分したものをHRV(心拍変動)の推定値とした。
【0067】
図8に示す例は、患者イ(男性、65歳、病名:火傷)について、ICU入院時から9日後までのHRV(心拍変動)を解析した結果が示されている。同図において、横軸は、入院時からの経過日数(時間)、縦軸は、解析結果のHRV(心拍変動)である。患者イは、4日目の23時頃、極端に尿量が減少し、5日目14時頃血圧急上昇により敗血症発症が疑われ治療が開始された、しかし,HRV(心拍変動)は、先んじること4日目15時頃には減少し始め、5日目4時頃から上昇に転じる下に凸のパターン(以下、V字パターンという)が認められた。このV字パターンが現れる前には、最小値となるHRV(心拍変動)は観測されていない。なお、これらの時刻には、HRV(心拍変動)に影響を与えるような医療処置は行われていない。以下の例においても、V字パターンが認められる以前において、HRV(心拍変動)に影響を与えるような医療処置は行われていない。
【0068】
図9に示す例は、患者ロ(男性、67歳、病名:洞性徐脈)について、入院から死亡するまでのHRV推移を示している。この患者ロは、4日目18時頃に脈拍呼吸数の上昇が確認されている。5日目14時のX線検査から患者ロは、肺炎による敗血症性ショックと診断された。この例では、患者ロの栄養状態が悪く、入院当初から、衰弱していたこともあり、敗血症性ショック発症前のV字パターンだけでなく、死亡直前にも同様な特徴が現れた。前記敗血症性ショック発症前のV字パターンが現れる前には、最小値となるHRV(心拍変動)は観測されていない。
【0069】
図10に示す例は、患者ハ(男性、65歳、病名:動脈瘤破裂)について、ICU入院時から9日後までのHRV(心拍変動)を解析した結果が示されている。図10に示す例においても、敗血症発症前にHRV(心拍変動)の最小値を有するV字パターンが現れた。
【0070】
図11に示す例は、前記患者ハについて、ICU入院の20日目から29日目までのHRV(心拍変動)を解析した結果が示されている。図11においても、敗血症性ショックが現れた25日昼よりも以前の23日の午後にHRV(心拍変動)の最小値を有するV字パターンが現れた。
【0071】
図12に示す例は、患者ニ(男性、23歳、病名:火傷)について、ICU入院の8日目から18日目までのHRV(心拍変動)を解析した結果が示されている。図12においても、敗血症性ショックが現れた14日目の深夜よりも以前の13日目の午後にHRV(心拍変動)の最小値を有するV字パターンが現れた。
【0072】
上記のように、こうしたHRV(心拍変動)のV字パターンが敗血症性ショックに至るまでの一つの時間経過であると推測される。こうした敗血症性ショックに至る前において、HRV(心拍変動)にV字パターンが現れることは本試験により初めて観察されたものである。
【0073】
上記のように、前記生体情報モニタの心電図から、RRI時系列を推定し、S200により異常心拍とトレンドが除去されたRRI時系列が求められた。その後、HRV解析を行った。前述のように敗血症発症患者4名に適用した結果、4名の5例に敗血症性ショックを発症する直前にHRV(心拍変動)のV字パターンの特徴が示されたことが知見された。すなわち、HRV(心拍変動)が徐々に減少してゆき、HRV(心拍変動)がこれまでの最小値を達成した後、HRV(心拍変動)が上昇に転じた場合、最小値を観測後、1〜3日のオーダで、敗血症性ショックを引き起こすことが知見された。
【0074】
ここで、V字パターンのHRV(心拍変動)低下についての原因は、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が下垂体から十分に分泌されていないか、または、副腎皮質ホルモンが産出できないために、副腎皮質刺激ホルモンの伝達が正常に行われず、本来の役割を満たしていないことが考えられる。一方、HRV(心拍変動)低下から上昇へ転化した原因については現時点では明らかにできていない。
【0075】
<敗血症発症警告装置>
上記の自律神経モニタ装置10を敗血症発症警告装置として使用する場合を説明する。本実施形態は、上記の知見からなされたものである。
【0076】
この場合、敗血症発症警告プログラムがROM34に格納されている。敗血症発症警告プログラムは、前記異常心拍、トレンド除去及びHRV解析処理プログラムで説明した各種処理(S100〜S300)の後に、敗血症発症警告処理が行われる。
【0077】
本実施形態ではCPU32のHRV解析は、周波数軸でのHRV解析が行われる。また、時間軸でのHRV解析でも上記と同様の結果が得られている。なお、HRV解析は、周波数軸、若しくは時間軸でのHRV解析に限定されるものではなく、他のHRV解析で行っても良い。
【0078】
CPU32は、敗血症発症警告処理では、前記HRV解析で得られたその時々のHRV(心拍変動)の変化を検出する。具体的には、HRV(心拍変動)の1次微分がゼロで、かつ2次微分が正であるかを判定する。CPU32は、HRV(心拍変動)の1次微分がゼロで、かつ2次微分が正である場合には、当該HRV(心拍変動)が極小値であるとして、判定した時刻に関連づけて極小値として、データベース38に格納する。続いて、CPU32は、データベース38に格納された前記極小値が、以前の処理において格納されていた直近の極小値と比較する。ここで直近とは、経験値の値でよいが、数時間以内が好ましい。この比較で、今回の極小値が今までの極小値の最小値であると判定して、CPU32は、警告装置44を警告制御する。すなわち、警告装置44が表示ランプであれば、表示ランプを点灯、又は点滅させて、患者に敗血症性ショックの発症の虞があることを警告する。又、警告装置44がブザーであれば、鳴動させて、患者に敗血症性ショックの発症の虞があることを警告する。
【0079】
本実施形態では、CPU32は、RRI時系列取得手段、除去手段、HRV解析手段、第1処理手段、第2処理手段及び検出手段に相当する。
上記のように構成された敗血症発症警告装置は、先の図8〜図12の例に当てはめた場合、図8〜図12において、それぞれP1〜P13の時点で警告を発することができる。この場合、図8〜図12の各例において、P2,P5,P7,P10,P13の時点で、すなわち、敗血症性ショックが生ずる少なくとも半日前において、敗血症性ショックが生ずる事前警告を行うことができる。このため、敗血症性ショックが生ずる前に患者に敗血症に対する医療処置が行うことができる。
【0080】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1) 本実施形態の心電図データの異常心拍及びトレンドの除去方法では、心電図データ内に含まれる拍と拍の間隔を表すRR間隔の時系列データからトレンドを除去する際、除去後の確率密度分布が正規分布に近くなるように異常心拍とトレンドを除去した後、HRV(心拍変動)を算出する。この結果、心電図から得られる心拍間隔データ列から、不整脈などの異常心拍、トレンドを自動的に除去して、HRV解析の結果として得られる心拍変動の変化を、適切な診断に利用することができる。
【0081】
(2) 本実施形態の心電図データの異常心拍及びトレンドの除去方法では、第1ステップとして心電図データから、拍と拍の間隔を表すRR間隔の時系列データ(以下、RRI時系列xnという)を取得する。又、第2ステップとして、残差系列xn−f(tn;θ),n=1,2,...のうち、qnが正常を表すフラグが成立するものについての確率密度分布が最も正規分布に近くなるように、トレンド関数f(tn;θ)及び正常心拍を含むフラグ時系列Qを決定することにより、異常心拍とトレンドを除去した後、HRV(心拍変動)データを算出する。この結果、上記(1)の効果を容易に実現できる。
【0082】
(3) 本実施形態の自律神経モニタ装置は、心電図データを取得する心電図波形記録計20(取得手段)を備える。そして、心電図波形解析装置30のCPU32は、RRI時系列取得手段として、心電図データからRRI時系列xnを取得する。又、CPU32は、除去手段として、残差系列xn−f(tn;θ),n=1,2,...のうち、qnが正常を表すフラグが成立するものについての確率密度分布が最も正規分布に近くなるように、前記トレンド関数f(tn;θ)及び正常心拍を含むフラグ時系列Qを決定することにより、異常心拍とトレンドを除去した後、HRV(心拍変動)データを算出する。又、CPU32は、HRV解析手段として、異常心拍とトレンドが除去されたRRI時系列データのHRV解析を行う。
【0083】
この結果、心電図から得られる情報から、不整脈などの異常心拍、トレンドを自動的に除去して、HRV解析の結果として得られるHRV(心拍変動)の変化を、適切な診断に利用することができる自律神経モニタ装置を提供できる。
【0084】
(4) 本実施形態の敗血症発症警告装置は、CPU32は検出手段として、HRV解析結果により、HRV(心拍変動)データの時系列において、最小値の検出を行う。そして、敗血症発症警告装置は、警告装置44を警告手段として、CPU32が、HRV(心拍変動)データの時系列において、最小値を検出した場合、敗血症の発症の虞があることを警告する。この結果、心電図から得られる情報から、不整脈などの異常心拍、トレンドを自動的に除去して、HRV解析の結果として得られるHRV(心拍変動)の変化を、敗血症発症の診断に利用できる。
【0085】
なお、前記実施形態を次のように変更して構成することもできる。
・ 前記実施形態では、自律神経モニタ装置を敗血症発症警告装置として機能するように構成したが、敗血症発症警告装置としてではなく、単に自律神経モニタ装置として使用することもできる。この場合、前記実施形態において、CPU32がHRV解析の処理迄を行う構成とすることにより実現できる。
【0086】
・ 正規性尺度は前記実施形態では、式(1)を採用したが、最尤推定値に対する対数尤度
【0087】
【数3】
を使用してもよい、又、他の正規性尺度として、正規性の検定法を利用してもよい。
【0088】
・ 警告手段は、点灯ランプ、ブザーに限定するものではなく、警告発信機であってもよい。この場合、警告発信機がCPU32の制御により警告信号を無線又は有線を介して発信すると、ナースステーションに設けられた有線又は無線受信機、或いは、医師がもつ携帯無線受信機が受信する。この場合、前記警告信号を受信した受信機等は、前記警告信号に基づいて敗血症性ショックの発症の虞があることを報知する。
【符号の説明】
【0089】
10…自律神経モニタ装置、20…心電図波形記録計、
30…心電図波形解析装置、
32…CPU(RRI時系列取得手段、除去手段、HRV解析手段、第1処理手段、第2処理手段及び検出手段)、38…データベース、44…警告装置(警告手段)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、心電図データの異常心拍及びトレンドの除去方法、自律神経モニタ装置、及び敗血症発症警告装置に係り、詳しくは、心電図データ内の異常心拍とトレンドを自動的に除去できる心電図データ内の異常心拍及びトレンドの除去方法、自律神経モニタ装置及び敗血症発症警告装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に示すように、心拍数は、一定時間(通常、1分間)に心臓が拍動する回数を表し、患者の容態把握にはもっとも重要な尺度である。具体的には、心拍数は、拍と拍の間の間隔の平均値の逆数に一定時間単位を乗じたものとして定義される。心拍数が拍と拍の間の間隔(RR間隔;RRI)の平均から導かれるのに対し、拍と拍の間の間隔のばらつきをHRV(心拍変動)という。内外の刺激を受けて自律神経の働きにより心拍数が変化する。このため、HRV(心拍変動)が大きいほど、内外の刺激に対する反応が良い(すなわち、健康である)ことを意味する。HRV(心拍変動)は、運動能力を測る尺度としても利用されるなど、心拍数だけではわからない情報が得られるものと考えられている。
【0003】
従って、HRV(心拍変動)を解析することにより、自律神経活動をモニタすることができる。HRV解析法は、主に、時間領域解析法(非特許文献1)、周波数領域解析法(スペクトル解析)、非線形及びカオス・フラクタル解析法(非特許文献1)に分類される。
【0004】
時間領域解析法には、トーン・エントロピー法(非特許文献2)、非線形及びカオス・フラクタル解析法には、Detrended fluctuation analysis (DFA) 法(非特許文献3)などがある。
【0005】
周波数領域解析法には、FFT法(非特許文献4)、自己回帰モデル法(非特許文献5)、最大エントロピー法(非特許文献6)、Complex demodulation (CD) 法(非特許文献7)などがある。周波数領域解析では、0.14から0.4Hzまでの高周波帯域(High Frequency; HF),0.04から0.14Hzまでの低周波帯域(Low Frequency; LF)、0.003から0.04Hzまでの超長周期帯域VLF(Very Low Frequency)、0.003Hz以下のULF(Ultra Low Frequency)帯域が重要とされる。一般にLF成分は交感神経活動と副交感神経活動を表し、HF成分は副交感神経活動を表すとされる(非特許文献8)。さらに、VLF成分、ULF成分には、体温調整系などが影響するとされる(非特許文献10)。
【0006】
ところで、不整脈などの異常心拍は、心臓の異常が原因で生ずる。このため、自律神経活動とは無関係である。このため、HRV解析では異常心拍を除去する必要がある。なお、心電図から、異常心拍を除去しないと、HRV(心拍変動)を過剰に大きく見積る要因となる。
【0007】
異常心拍を検出するために、典型的なECG(心電図)波形と比較し、一定以上異なっているものを異常心拍と見なす方法がある(従来技術1という)。この方法は、商品化されている心電計などの多くの機器で採用されているが、ECG波形の変化が現れるほど大きな異常でないと適用できない。
【0008】
また、心拍間隔(RRI)が正規分布に従う時、99.6%の標本が平均±標準偏差に入る統計的性質(3σルール)を利用し、この範囲に入らないものを異常値と見なすという方法がある。又、3σルールではなく、心拍間隔(RRI)が正規分布に従う時、95.4%の標本が平均±標準偏差に入る統計的性質(2σルール)で行う方法もある(従来技術2という)。
【0009】
しかし、3σルール、或いは2σルールにより正常(あるいは異常)なRRIを特定するためには、正常値に対する平均・標準偏差が必要である。
しかし、その時点では正常データが特定されないため、一般的には、異常値を含めた平均・標準偏差で代用される。そのため、異常値が多くなると、異常値の存在も通常なこととなり、異常値は除去できなくなる。
【0010】
さらに、心電図データに長周期の成分、すなわち、トレンドがある場合は、異常値の判定原理が崩壊する。異常値を正確に除去しないと、その後のHRV解析(特に、周波数領域解析)の信頼性が低下する。そのため、従来は、目視により異常心拍を指定して除去するか、心電図を計測し直すことが一般的であった。
【0011】
特に、ICUに入院している患者(以下、ICU患者という)は、持病のある患者が多く、また障害によって不整脈などの異常心拍が極めて多い。このため、ICU患者の心電図は、通常のHRV解析では、使えないことが多い。
【0012】
ところで、敗血症の診断は、現在、医師が主観的観測などにより、患者の発症を疑ってから、血液検査を行っている。そして、前記血液検査によって細菌が検出された場合、細菌を特定することによって、用いる抗生剤が決定されて、治療が開始される。
【0013】
敗血症の治療では、敗血症を重症化させないために患者が敗血症を発症した後、1時間以内に抗生剤の投与が提唱されている。しかし、敗血症の診断は医師の主観によるところが大きいため、敗血症発症の発見が遅れがちになる問題がある。
【0014】
そこで、患者が敗血症を発症すると、自律神経に変調をきたし、HRV(心拍変動)が低下することが知られている(非特許文献9、非特許文献10)。しかし、現状では、リアルタイムに心電図からHRV(心拍変動)を特定できない問題が指摘されている。
【0015】
その理由としては、ICU患者においては、上記のように不整脈などの異常心拍が極めて多いため、異常心拍の除去が困難であるからと推測される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】早野順一郎,「循環器疾患と自律神経機能」,第2版,医学書院,2001,p.71-109,
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【非特許文献9】森口武史,平澤博之,織田成人,立石義久,「Heart rate variability(HRV)解析によるseptic shock発症の予知に関する検討」,日本臨床,62巻,12号,2004,p.2285-2290
【非特許文献10】タスク フォース オブ ザ ヨーロピアン ソサイエティ オブ カルディオロジ ザ ノース アメリカン ソサイエティ オブ ペーシング エレクトロフィジオロジイ: ハート レート ヴァリィァビリィティ; スタンダーズ オブ メジャーメント、フィジオロジカル インタープリテェィション,アンド クリニカル ユース,サーキュレーション,Vol. 93, No. 5,1966,p1043-1065(Task Force of the European Society of Cardiology the North American Society of Pacing Electrophysiology: Heart Rate Variability, Standards of Measurement, Physiological Interpretation, and Clinical Use, Circulation, Vol. 93, 1966,No. 5, p1043-1065)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の第1の目的は、心電図から得られる心拍間隔データ列から、不整脈などの異常心拍、トレンドを自動的に除去して、HRV解析の結果として得られるHRV(心拍変動)の変化を、適切な診断に利用することができる心電図データ内の異常心拍及びトレンドの除去方法、及び自律神経モニタ装置を提供することにある。
【0018】
又、本発明の第2の目的は、心電図から得られる心拍間隔データ列から、不整脈などの異常心拍、トレンドを自動的に除去して、HRV解析の結果として得られるHRV(心拍変動)の変化を、敗血症発症の診断に利用できる敗血症発症警告装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、心電図データ内に含まれる拍と拍の間隔を表すRR間隔の時系列データから異常心拍とトレンドを除去する際、除去後の確率密度分布が正規分布に近くなるように異常心拍とトレンドを除去した後、HRV(心拍変動)データを算出することを特徴とする心電図データの異常心拍及びトレンドの除去方法を要旨としている。
【0020】
請求項2の発明は、心電図データから、拍と拍の間隔を表すRR間隔の時系列データ(以下、RRI時系列xnという)を取得する第1ステップと、f(tn;θ)を前記心電図データの長周期の成分を表すトレンド関数とし、前記tを時刻とし、前記θを前記トレンド関数fのパラメータとし、qnをRRI時系列xnの正常又は異常をあらわすフラグとし、Q=(q1,q2,q3,……qn)をフラグ時系列としたとき、残差系列xn−f(tn;θ),n=1,2,...のうち、qnが正常を表すフラグが成立するものについての確率密度分布が最も正規分布に近くなるように、前記トレンド関数f(tn;θ)及び正常心拍を含むフラグ時系列Qを決定することにより、異常心拍とトレンドを除去した後、HRV(心拍変動)データを算出する第2ステップを含むことを特徴とする心電図データの異常心拍及びトレンドの除去方法を要旨としている。
【0021】
請求項3の発明は、請求項2において、前記第2ステップは、フラグ時系列Qを固定して、残差系列の平均誤差が最小となるトレンド関数を決定して前記残差系列を求めるAステップと、Aステップで求めた残差系列が最も正規性をもつようにフラグ時系列Qを決定することにより、異常心拍を除去して、前記残差系列を更新するBステップを含むことを特徴とする。
【0022】
請求項4の発明は、請求項3において、前記第2ステップでは、前記Bステップにおいて決定したフラグ時系列Qが、前記Aステップで固定したフラグ時系列Qと異なって変化した場合には、Aステップに戻ってフラグ時系列Qを前記変化したフラグ時系列Qに更新してAステップの処理を行い、以後、Bステップにおいて決定するフラグ時系列Qが変化しない迄、前記AステップとBステップとを繰り返すことを特徴とする。
【0023】
請求項5の発明は、請求項4において、前記Bステップでは、前記Aステップで求めた残差系列が最も正規性をもつようにフラグ時系列Qを決定する際、残差系列に含まれる異常心拍に関して、異常心拍及び前記異常心拍に連続した心拍を含むように異常値らしさを算出し、前記異常値らしさによって異常値及び前記異常心拍に連続した心拍を除去することを特徴とする。
【0024】
請求項6の発明は、心電図データを取得する取得手段と、前記心電図データから拍と拍の間隔を表すRR間隔の時系列データ(以下、RRI時系列xnという)を取得するRRI時系列取得手段と、f(tn;θ)を前記心電図データの長周期の成分を表すトレンド関数とし、前記tを時刻とし、前記θを前記トレンド関数fのパラメータとし、qnをRRI時系列xnの正常又は異常をあらわすフラグとし、Q=(q1,q2,q3,……qn)をフラグ時系列としたとき、残差系列xn−f(tn;θ),n=1,2,...のうち、qnが正常を表すフラグが成立するものについての確率密度分布が最も正規分布に近くなるように、前記トレンド関数f(tn;θ)及び正常心拍を含むフラグ時系列Qを決定することにより、異常心拍とトレンドを除去して、HRV解析の解析に用いられるRRI時系列データを抽出する除去手段と、前記異常心拍とトレンドが除去されたRRI時系列データについてHRV(心拍変動)解析を行うHRV解析手段を含むことを特徴とする自律神経モニタ装置を要旨としている。
【0025】
請求項7の発明は、請求項6において、前記除去手段は、フラグ時系列Qを固定して、残差系列の平均誤差が最小となるトレンド関数を決定して前記残差系列を求める第1処理手段と、前記第1処理手段が求めた残差系列が最も正規性をもつようにフラグ時系列Qを決定することにより、異常心拍を除去して、前記残差系列を更新する第2処理手段を含むことを特徴とする。
【0026】
請求項8の発明は、請求項7において、前記除去手段は、前記第2処理手段が決定したフラグ時系列Qが、前記第1処理手段で固定したフラグ時系列Qと異なって変化した場合には、前記第1処理手段に戻してフラグ時系列Qを前記変化したフラグ時系列Qに更新して第1処理手段の処理を行い、以後、第2処理手段において決定するフラグ時系列Qが変化しない迄、前記第1処理手段の処理と第2処理手段の処理とを繰り返すことを特徴する。
【0027】
請求項9の発明は、請求項8において、前記第2処理手段では、前記第1処理手段が求めた残差系列が最も正規性をもつようにフラグ時系列Qを決定する際、残差系列に含まれる異常心拍に関して、異常心拍及び前記異常心拍に連続した心拍を含むように異常値らしさを算出し、前記異常値らしさによって異常値及び前記異常心拍に連続した心拍を除去することを特徴とする。
【0028】
請求項10の発明は、請求項6乃至請求項9のいずれか1項に記載の自律神経モニタ装置が、敗血症発症警告装置であって、前記HRV解析手段の解析結果により、HRV(心拍変動)データの時系列において、最小値の検出を行う検出手段と、前記検出手段が、前記HRV(心拍変動)データの時系列において、最小値を検出した場合、敗血症の発症の虞があることを警告する警告手段を備えたことを特徴とする敗血症発症警告装置を要旨としている。
【発明の効果】
【0029】
本発明の方法によれば、心電図から得られる心拍間隔データ列から、不整脈などの異常心拍、トレンドを自動的に除去して、HRV(心拍変動)の変化を、適切な診断に利用することができる。
【0030】
又、本発明の自律神経モニタ装置によれば、心電図から得られる心拍間隔データ列から、不整脈などの異常心拍、トレンドを自動的に除去して、HRV(心拍変動)の変化を、適切な診断に利用することができる自律神経モニタ装置を提供できる。
【0031】
又、本発明の敗血症発症警告装置によれば、心電図から得られる心拍間隔データ列から、不整脈などの異常心拍、トレンドを自動的に除去して、HRV(心拍変動)の変化を、敗血症の診断に利用できる敗血症発症警告装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】心拍変動の説明図。
【図2】(a)は、異常心拍を含む心拍変動の説明図、(b)は、トレンドと異常心拍が除去された心拍変動の説明図。
【図3】トレンド関数の説明図。
【図4】自律神経モニタ装置のブロック回路図。
【図5】心電図データから、心拍変動データを取り出す場合のフローチャート。
【図6】(a)は、心電図波形記録計により検出された心拍の時系列データの図、(b)は(a)を用いて本発明により正常心拍として得たRRI(RR間隔)の時系列データの図、(c)は(b)よりトレンドを除去したRRI(RR間隔)の時系列データの図、(d)は(c)をHRV解析したパワースペクトルの図。
【図7】(a)は、従来例の心電図波形記録計により検出された心拍の時系列データの図、(b)は(a)を用いた比較例のRRI(RR間隔)の時系列データの図、(c)は、MEAN±2σに入るものを正常心拍として得たRRI(RR間隔)の時系列データの図、(d)は(c)をHRV解析したパワースペクトルの図。
【図8】敗血症を発症した患者の敗血症性ショックが生じた事例1のHRV(心拍変動)の時間的変化を表す図。
【図9】敗血症を発症した患者の敗血症性ショックが生じた事例2のHRV(心拍変動)の時間的変化を表す図。
【図10】敗血症を発症した患者の敗血症性ショックが生じた事例3のHRV(心拍変動)の時間的変化を表す図。
【図11】敗血症を発症した患者の敗血症性ショックが生じた事例4のHRV(心拍変動)の時間的変化を表す図。
【図12】敗血症を発症した患者の敗血症性ショックが生じた事例5のHRV(心拍変動)の時間的変化を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を具体化した一実施形態の心電図データの異常心拍及びトレンドの除去方法、及び自律神経モニタ装置を図1〜図12を参照して説明する。
<構成>
図4は、自律神経モニタ装置の全体図を示している。
【0034】
自律神経モニタ装置10は、図4に示すように、心電図波形記録計20と、心電図波形解析装置30とを備えている。心電図波形記録計20は、被験者に対して装着された図示しない電極及び図示しないA/D変換回路を介して心電図波形信号を取得するとともに、心電図波形信号を連続的に心電図波形解析装置30に出力する。心電図波形記録計20は、取得手段に相当する。心電図波形解析装置30は、CPU32、ROM34、RAM36、記憶装置からなるデータベース38を備えている。ROM34には、異常心拍、トレンド除去及びHRV解析処理プログラムが格納されている。RAM36は、CPU32が各種の処理を行うときの作業用メモリである。
【0035】
CPU32は、RRI時系列取得手段、除去手段、HRV解析手段、第1処理手段、及び第2処理手段に相当する。
心電図波形解析装置30は、インターフェイス40を介して入力した前記心電図波形信号を前記異常心拍、トレンド除去及びHRV解析処理プログラムによる処理を行い、その処理結果をデータベース38に格納する。
【0036】
心電図波形解析装置30には、ディスプレイ42及び警告手段としての警告装置44が接続されている。ディスプレイ42は、液晶表示装置等からなる。警告装置44は、表示ランプ、又はブザーからなる。
【0037】
<作用>
次に、自律神経モニタ装置10の作用を、図5のフローチャートを参照して説明する。
心電図波形解析装置30のCPU32は、図5のS100において、異常心拍、トレンド除去及びHRV解析処理プログラムに従って心電図波形記録計20から所定時間毎に入力した心電図データ(ECG波形)から、波形のピーク検出を行い、Rポイントの検出及び心拍間隔(以下、RR間隔と略称する)を検出する。本実施形態では、前記所定時間は、1分間であるが、限定されるものではない。前記心電図データ(ECG波形)は心電図波形信号である。
【0038】
すなわち、CPU32は、図5のS100において、心電図波形信号のR波の発症した時刻tnを検出するとともに、RR間隔を算出することにより、拍と拍の間隔を表すRR間隔の時系列データ(RRI時系列xn)を得る。RRI時系列xnは、データベース38に格納される。このRRI時系列xnを得るステップは、第1ステップに相当する。
【0039】
<心電図データ内の異常心拍及びトレンドの除去の原理>
ここで、異常心拍及びトレンドの除去の原理について説明する。
RRI時系列xnは、時刻tnでのRR間隔をxnとする時系列である。本実施形態では、RRI時系列xnが正常ならばqn=1、異常ならばqn=0とおき、これらのフラグをまとめて、フラグ時系列Q=(q1,q2,q3,……qn)とおく。なお、qnがとる値は、RR間隔xnが正常か、異常を区別できれば、他の値でもよく、0及び1に限定されるものではない。
【0040】
又、心電図データの長周期の成分を表すトレンドを表す関数(以下、トレンド関数という)は、そのパラメータをθとし、f(t;θ)と表す(図3参照)。
一般的に、HRV解析では、約0.04Hz以上の周波数成分を対象とするため、それ以下の周波数をトレンドと考えればよい。例えば、1分間毎に解析する場合、周波数0.04Hzは極小値が5程度出現することを意味する。5個の極値を持つ最低の多項式次数は6であることから、6次程度の多項式を用いればよい。
【0041】
ここで、純粋な現象の揺らぎは、正規分布に従っているので、自律神経由来の純粋な心拍ゆらぎ、すなわち、HRV(心拍変動)も正規分布に従っている。
すなわち、トレンド関数f(tn;θ)と、正常心拍を表すフラグ時系列Qが正しければ、残差系列xn−f(tn;θ),n=1,2,...such that qn=1は、正規分布に従う。
【0042】
すなわち、残差系列xn−f(tn;θ),n=1,2,...such that qn=1の確率密度分布がもっとも正規分布に近くなるように、トレンド関数f(tn;θ)と正常心拍を表すフラグ時系列Qを決定する。
【0043】
図2(a)は、トレンド及び異常心拍を含むRRI時系列を示している。図2(b)は、トレンド及び異常心拍を除去したRRI時系列を示している。
これにより、得られる残差系列xn−f(tn;θ),n=1,2,...such that qn=1がトレンドや異常心拍を除去した自律神経由来のRR間隔列となる。トレンドや異常心拍を除去した自律神経由来のRR間隔列は、好適にHRV解析に利用できることになる。
【0044】
ここで、標本列x1,x2,...xNが正規分布に従っているらしさを表す正規性尺度の一例として、3,4次中心モーメントm3,m4を用いた下式(1)を使用する。なお、正規性尺度は、下記式(1)に限定するものではない。
【0045】
【数1】
これは、正規分布では、分散を1に規格化した際の3次中心モーメントm3は0、4次中心モーメントm4は3になり、それから離れるほど正規性が低いと判断されることを利用している。ここで、m3/σ3は、歪度であり、分布の非対称性の度合いを示す。又、m4/σ4は、尖度である。ただし、a3,a4はともに正の実数であり、3,4次中心モーメントm3,m4の重みを規定する。
【0046】
具体的には、Q=(0,0,0,...,0),(0,0,0,...,1),,...,(1,1,1,...,1)のすべてについて、xnとf(tn;θ),n=1,2,...such that qn=1にわたる平均誤差を最小にするようにθを決定し、残差系列xn−f(tn;θ)の正規性尺度g({xn−f(tn;θ)|n=1,...,N;qn=1})を最大にするフラグ時系列Qを選択すればよい。しかし、この方法は2N回の正規性評価が必要になるため、リアルタイムで解くことはできない。
【0047】
このため、代替方法として下記の順序で行う。
(1) そこで、まず、Aステップとして、フラグ時系列Qを固定して、前記平均誤差が最小になるようにトレンド関数f(tn;θ)を決定する。
【0048】
(2) 次に、Bステップとしてトレンド関数f(tn;θ)を固定して、残差系列が最も正規性をもつように、すなわち、正規性尺度gが最大になるようにQを決定する。以後、Qの変化がなくなるまで繰り返す。上記(1)、(2)の処理は第2ステップに相当する。
【0049】
<具体的処理>
本実施形態では、CPU32は、上記の原理に基づいて図5のS200では以下の処理を行う。
【0050】
(S200−1)
フラグ時系列Qの初期値としてQ=(1,1,1,...,1)を固定する。
(S200−2)
前記平均誤差が最小になるトレンド関数f(t;θ)を決定する。
【0051】
(S200−3)
次に、トレンドを除去したRRI時系列yk=xk−f(tk;θ)を求める。
RRI時系列ykがもっとも正規性を持つように、下記の方法によりフラグ時系列Qを決定し、更新する。
【0052】
<フラグ時系列Qの決定方法>
すべてのykを使って、異常値らしさzk
【0053】
【数2】
を求める。
【0054】
ただし、wは重みを示す。重みwは、ある心拍が異常だとすると、その後に続く、1拍目、及び2拍目も異常心拍である確率が高い。例えば、k番目の心拍の異常値らしさは、誤差|yk|が大きい場合は、もちろん、|yk−1|、|yk−2|が大きくても異常値らしさが高まる。その影響度は過去になるほど小さくなるので、過去nの重みをwnとして、式(2)とすればよい。
【0055】
本実施形態では、w0=1,w1=0.5,w2=0.2,w3=w4=...=0などとする。なお、w0は、異常心拍の重みの数値である。w1及びw2は、異常心拍に続く1拍目、2拍目の重みの数値である。このように異常心拍の重みを他の心拍よりも大きくするとともに、異常心拍に続く1拍目、2拍目の重みは、徐々に小さくなるように設定されている。なお、w0=1,w1=0.5,w2=0.2の値は例示であり、他の正の数値を使用してもよい。又、上記式(2)の代わりに、zkは、関数zk=h(yk,yk−1,yk−2,...)のように、さらに複雑な関数としてもよい。
【0056】
次に、zkの大きい順に異常値と見なしてゆき、この異常値を除去した残りの系列の正規性尺度gを評価してゆく。そして、正規性尺度gを最大にした標本の組をQとする。
(S200−4)
ここで、取得したQが、前記固定したQと異なる場合、すなわち、Qに変化があれば、S200−2へ戻る。前記Qの変化は、繰り返す前の処理で取得されたQと、今回の処理で得られたQとの比較により判断される。Qに変化がなければ、S200−4の処理を終了する。
【0057】
CPU32は上記のS200−1〜S200−4の処理を行うことにより、心電図波形記録計20から入力したRRI時系列からトレンド及び異常心拍を除去する。
次に、CPU32は、図5のS300に示すようにトレンド及び異常心拍を除去したRRI時系列に対してHRV解析を行う。HRV(心拍変動)の解析法は、非特許文献1乃至非特許文献7に記載している公知の方法で行う。
【0058】
実際に自律神経モニタ装置10により、異常心拍及びトレンドを除去した実例を図6に示す。図6(a)は、被験者の心電図と検出された心拍の時系列データの図である。図6(b)は、図6(a)の心電図データに基づいて、得られたRRI(RR間隔)の時系列データの図である。図6(b)において、実線の曲線はトレンドを表している。又、図6(b)において、黒丸は、正常心拍を表し、白丸は、異常心拍を表している。図6(c)は、図6(b)の時系列データから、トレンド及び異常心拍を除いた後のRRI(RR間隔)の時系列データの図である。図6(d)には、図6(c)に示すトレンド及び異常心拍を除いた後のRRI時系列に対して、HRV解析としてのスペクトル解析が行われて、得られたパワースペクトルが示されている。
【0059】
一方、図7(a)の心拍の時系列データを使用して、異常心拍及びトレンドを除去した比較例を図7(b)〜図7(d)に示す。なお、図7(a)は、図6(a)と同じ時系列データであり、比較のために同じ心電図を使用している。
【0060】
図7(b)は、図7(a)の時系列データを用いて背景技術の欄で説明した従来技術1の方法で推定されたRRI(RR間隔)の時系列データの図である。図7(c)は、従来技術2の方法、すなわち、2σルールにより異常心拍を特定し、異常心拍を除去したRRI(RR間隔)の時系列データの図である。図7(c)において、白丸は異常心拍として特定された心拍である。又、図7(c)において、黒丸は、正常心拍として特定された心拍である。比較例の図7(c)では、トレンドが除去されておらず、又、平均±2σ内にあるため、異常値と思われるものが除去されていない心拍が存在する。図7(d)には、図7(c)に示すトレンド及び異常心拍を除いた後のRRI時系列に対して、HRV解析としてのスペクトル解析が行われて、得られたパワースペクトルが示されている。
【0061】
図7(d)では、図6(d)の実施例と異なり、HRV(心拍変動)が過大に推定されているとともに、図6(d)では観測できたピークが確認できなかった。この結果、本方法、本装置によれば、HRV解析として、スペクトル解析が行われる場合、スペクトル解析の精度が向上できる。
【0062】
<敗血症発症警告装置の説明>
ここで、敗血症について説明する。敗血症は、血液に細菌が感染して引き起こされる全身性炎症反応症候群である。敗血症は重症化すると、臓器機能障害、臓器循環低下、血圧低下を引き起こす。さらに、重症化すると、敗血症性ショックを経て、肺、腎臓、心臓、肝臓などの重要臓器が機能不全となり、40〜60%は30日以内に死亡する。特に、集中治療室(Intesive Care Unit;ICU)では、点滴、レスピレータをはじめとする様々なドレイン、カテーテル、センサが患者の体内に挿入されているため、感染のリスクが高い。
【0063】
敗血症を発症すると、患者の血液中にサイトカインが増えることから、サイトカインを常時、又は定期的にモニタリングすることにより敗血症の発症を検知することが行われている。なお、サイトカインは、免疫システムの細胞から分泌されるタンパク質で、特に、免疫、炎症に関係したものが多い。しかし、サイトカインの常時モニタは、新たな感染源になりうるため、好ましくない。又、定期モニタは手間が掛かりすぎる問題がある。さらに、サイトカイン検出には、コストと時間がかかる問題がある。
【0064】
そこで、前記実施形態の自律神経モニタ装置10を使用して、ICU患者の心電図データを取得し、図5のS100〜S300の処理を実行して、HRV(心拍変動)の解析試験を行った。図8〜図12は、各患者の敗血症の発症例のHRV(心拍変動)のチャートである。
【0065】
なお、敗血症の発症例については、岐阜大学医学部附属病院高次救命治療センターに入院している患者の同意を得て行われた。又、岐阜大学大学院医学系研究科医学研究等倫理委員会の承認の下で行われた。ICU入院時から患者に装着される生体情報モニタ(フィリップス製MP70)から収集されるバイタルデータ(心電図データ)のうち,第2誘導で計測された心電図606日分を使用した。計測サンプリング周波数は、500Hzである。
【0066】
又、図5のS300で行われたHRV解析は、1分間のRRI時系列に対し、等間隔に再サンプリングした後、ARモデル(自己回帰モデル)によるパワースペクトルを推定し、LF成分とHF成分の範囲、つまり周波数0.04Hzから0.4Hzを積分したものをHRV(心拍変動)の推定値とした。
【0067】
図8に示す例は、患者イ(男性、65歳、病名:火傷)について、ICU入院時から9日後までのHRV(心拍変動)を解析した結果が示されている。同図において、横軸は、入院時からの経過日数(時間)、縦軸は、解析結果のHRV(心拍変動)である。患者イは、4日目の23時頃、極端に尿量が減少し、5日目14時頃血圧急上昇により敗血症発症が疑われ治療が開始された、しかし,HRV(心拍変動)は、先んじること4日目15時頃には減少し始め、5日目4時頃から上昇に転じる下に凸のパターン(以下、V字パターンという)が認められた。このV字パターンが現れる前には、最小値となるHRV(心拍変動)は観測されていない。なお、これらの時刻には、HRV(心拍変動)に影響を与えるような医療処置は行われていない。以下の例においても、V字パターンが認められる以前において、HRV(心拍変動)に影響を与えるような医療処置は行われていない。
【0068】
図9に示す例は、患者ロ(男性、67歳、病名:洞性徐脈)について、入院から死亡するまでのHRV推移を示している。この患者ロは、4日目18時頃に脈拍呼吸数の上昇が確認されている。5日目14時のX線検査から患者ロは、肺炎による敗血症性ショックと診断された。この例では、患者ロの栄養状態が悪く、入院当初から、衰弱していたこともあり、敗血症性ショック発症前のV字パターンだけでなく、死亡直前にも同様な特徴が現れた。前記敗血症性ショック発症前のV字パターンが現れる前には、最小値となるHRV(心拍変動)は観測されていない。
【0069】
図10に示す例は、患者ハ(男性、65歳、病名:動脈瘤破裂)について、ICU入院時から9日後までのHRV(心拍変動)を解析した結果が示されている。図10に示す例においても、敗血症発症前にHRV(心拍変動)の最小値を有するV字パターンが現れた。
【0070】
図11に示す例は、前記患者ハについて、ICU入院の20日目から29日目までのHRV(心拍変動)を解析した結果が示されている。図11においても、敗血症性ショックが現れた25日昼よりも以前の23日の午後にHRV(心拍変動)の最小値を有するV字パターンが現れた。
【0071】
図12に示す例は、患者ニ(男性、23歳、病名:火傷)について、ICU入院の8日目から18日目までのHRV(心拍変動)を解析した結果が示されている。図12においても、敗血症性ショックが現れた14日目の深夜よりも以前の13日目の午後にHRV(心拍変動)の最小値を有するV字パターンが現れた。
【0072】
上記のように、こうしたHRV(心拍変動)のV字パターンが敗血症性ショックに至るまでの一つの時間経過であると推測される。こうした敗血症性ショックに至る前において、HRV(心拍変動)にV字パターンが現れることは本試験により初めて観察されたものである。
【0073】
上記のように、前記生体情報モニタの心電図から、RRI時系列を推定し、S200により異常心拍とトレンドが除去されたRRI時系列が求められた。その後、HRV解析を行った。前述のように敗血症発症患者4名に適用した結果、4名の5例に敗血症性ショックを発症する直前にHRV(心拍変動)のV字パターンの特徴が示されたことが知見された。すなわち、HRV(心拍変動)が徐々に減少してゆき、HRV(心拍変動)がこれまでの最小値を達成した後、HRV(心拍変動)が上昇に転じた場合、最小値を観測後、1〜3日のオーダで、敗血症性ショックを引き起こすことが知見された。
【0074】
ここで、V字パターンのHRV(心拍変動)低下についての原因は、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が下垂体から十分に分泌されていないか、または、副腎皮質ホルモンが産出できないために、副腎皮質刺激ホルモンの伝達が正常に行われず、本来の役割を満たしていないことが考えられる。一方、HRV(心拍変動)低下から上昇へ転化した原因については現時点では明らかにできていない。
【0075】
<敗血症発症警告装置>
上記の自律神経モニタ装置10を敗血症発症警告装置として使用する場合を説明する。本実施形態は、上記の知見からなされたものである。
【0076】
この場合、敗血症発症警告プログラムがROM34に格納されている。敗血症発症警告プログラムは、前記異常心拍、トレンド除去及びHRV解析処理プログラムで説明した各種処理(S100〜S300)の後に、敗血症発症警告処理が行われる。
【0077】
本実施形態ではCPU32のHRV解析は、周波数軸でのHRV解析が行われる。また、時間軸でのHRV解析でも上記と同様の結果が得られている。なお、HRV解析は、周波数軸、若しくは時間軸でのHRV解析に限定されるものではなく、他のHRV解析で行っても良い。
【0078】
CPU32は、敗血症発症警告処理では、前記HRV解析で得られたその時々のHRV(心拍変動)の変化を検出する。具体的には、HRV(心拍変動)の1次微分がゼロで、かつ2次微分が正であるかを判定する。CPU32は、HRV(心拍変動)の1次微分がゼロで、かつ2次微分が正である場合には、当該HRV(心拍変動)が極小値であるとして、判定した時刻に関連づけて極小値として、データベース38に格納する。続いて、CPU32は、データベース38に格納された前記極小値が、以前の処理において格納されていた直近の極小値と比較する。ここで直近とは、経験値の値でよいが、数時間以内が好ましい。この比較で、今回の極小値が今までの極小値の最小値であると判定して、CPU32は、警告装置44を警告制御する。すなわち、警告装置44が表示ランプであれば、表示ランプを点灯、又は点滅させて、患者に敗血症性ショックの発症の虞があることを警告する。又、警告装置44がブザーであれば、鳴動させて、患者に敗血症性ショックの発症の虞があることを警告する。
【0079】
本実施形態では、CPU32は、RRI時系列取得手段、除去手段、HRV解析手段、第1処理手段、第2処理手段及び検出手段に相当する。
上記のように構成された敗血症発症警告装置は、先の図8〜図12の例に当てはめた場合、図8〜図12において、それぞれP1〜P13の時点で警告を発することができる。この場合、図8〜図12の各例において、P2,P5,P7,P10,P13の時点で、すなわち、敗血症性ショックが生ずる少なくとも半日前において、敗血症性ショックが生ずる事前警告を行うことができる。このため、敗血症性ショックが生ずる前に患者に敗血症に対する医療処置が行うことができる。
【0080】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1) 本実施形態の心電図データの異常心拍及びトレンドの除去方法では、心電図データ内に含まれる拍と拍の間隔を表すRR間隔の時系列データからトレンドを除去する際、除去後の確率密度分布が正規分布に近くなるように異常心拍とトレンドを除去した後、HRV(心拍変動)を算出する。この結果、心電図から得られる心拍間隔データ列から、不整脈などの異常心拍、トレンドを自動的に除去して、HRV解析の結果として得られる心拍変動の変化を、適切な診断に利用することができる。
【0081】
(2) 本実施形態の心電図データの異常心拍及びトレンドの除去方法では、第1ステップとして心電図データから、拍と拍の間隔を表すRR間隔の時系列データ(以下、RRI時系列xnという)を取得する。又、第2ステップとして、残差系列xn−f(tn;θ),n=1,2,...のうち、qnが正常を表すフラグが成立するものについての確率密度分布が最も正規分布に近くなるように、トレンド関数f(tn;θ)及び正常心拍を含むフラグ時系列Qを決定することにより、異常心拍とトレンドを除去した後、HRV(心拍変動)データを算出する。この結果、上記(1)の効果を容易に実現できる。
【0082】
(3) 本実施形態の自律神経モニタ装置は、心電図データを取得する心電図波形記録計20(取得手段)を備える。そして、心電図波形解析装置30のCPU32は、RRI時系列取得手段として、心電図データからRRI時系列xnを取得する。又、CPU32は、除去手段として、残差系列xn−f(tn;θ),n=1,2,...のうち、qnが正常を表すフラグが成立するものについての確率密度分布が最も正規分布に近くなるように、前記トレンド関数f(tn;θ)及び正常心拍を含むフラグ時系列Qを決定することにより、異常心拍とトレンドを除去した後、HRV(心拍変動)データを算出する。又、CPU32は、HRV解析手段として、異常心拍とトレンドが除去されたRRI時系列データのHRV解析を行う。
【0083】
この結果、心電図から得られる情報から、不整脈などの異常心拍、トレンドを自動的に除去して、HRV解析の結果として得られるHRV(心拍変動)の変化を、適切な診断に利用することができる自律神経モニタ装置を提供できる。
【0084】
(4) 本実施形態の敗血症発症警告装置は、CPU32は検出手段として、HRV解析結果により、HRV(心拍変動)データの時系列において、最小値の検出を行う。そして、敗血症発症警告装置は、警告装置44を警告手段として、CPU32が、HRV(心拍変動)データの時系列において、最小値を検出した場合、敗血症の発症の虞があることを警告する。この結果、心電図から得られる情報から、不整脈などの異常心拍、トレンドを自動的に除去して、HRV解析の結果として得られるHRV(心拍変動)の変化を、敗血症発症の診断に利用できる。
【0085】
なお、前記実施形態を次のように変更して構成することもできる。
・ 前記実施形態では、自律神経モニタ装置を敗血症発症警告装置として機能するように構成したが、敗血症発症警告装置としてではなく、単に自律神経モニタ装置として使用することもできる。この場合、前記実施形態において、CPU32がHRV解析の処理迄を行う構成とすることにより実現できる。
【0086】
・ 正規性尺度は前記実施形態では、式(1)を採用したが、最尤推定値に対する対数尤度
【0087】
【数3】
を使用してもよい、又、他の正規性尺度として、正規性の検定法を利用してもよい。
【0088】
・ 警告手段は、点灯ランプ、ブザーに限定するものではなく、警告発信機であってもよい。この場合、警告発信機がCPU32の制御により警告信号を無線又は有線を介して発信すると、ナースステーションに設けられた有線又は無線受信機、或いは、医師がもつ携帯無線受信機が受信する。この場合、前記警告信号を受信した受信機等は、前記警告信号に基づいて敗血症性ショックの発症の虞があることを報知する。
【符号の説明】
【0089】
10…自律神経モニタ装置、20…心電図波形記録計、
30…心電図波形解析装置、
32…CPU(RRI時系列取得手段、除去手段、HRV解析手段、第1処理手段、第2処理手段及び検出手段)、38…データベース、44…警告装置(警告手段)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心電図データ内に含まれる拍と拍の間隔を表すRR間隔の時系列データから異常心拍とトレンドを除去する際、除去後の確率密度分布が正規分布に近くなるように異常心拍とトレンドを除去した後、HRV(心拍変動)データを算出することを特徴とする心電図データの異常心拍及びトレンドの除去方法。
【請求項2】
心電図データから、拍と拍の間隔を表すRR間隔の時系列データ(以下、RRI時系列xnという)を取得する第1ステップと、
f(tn;θ)を前記心電図データの長周期の成分を表すトレンド関数とし、前記tを時刻とし、前記θを前記トレンド関数fのパラメータとし、qnをRRI時系列xnの正常又は異常をあらわすフラグとし、Q=(q1,q2,q3,……qn)をフラグ時系列としたとき、残差系列xn−f(tn;θ),n=1,2,...のうち、qnが正常を表すフラグが成立するものについての確率密度分布が最も正規分布に近くなるように、前記トレンド関数f(tn;θ)及び正常心拍を含むフラグ時系列Qを決定することにより、異常心拍とトレンドを除去した後、HRV(心拍変動)データを算出する第2ステップを含むことを特徴とする心電図データの異常心拍及びトレンドの除去方法。
【請求項3】
前記第2ステップは、
フラグ時系列Qを固定して、残差系列の平均誤差が最小となるトレンド関数を決定して前記残差系列を求めるAステップと、
Aステップで求めた残差系列が最も正規性をもつようにフラグ時系列Qを決定することにより、異常心拍を除去して、前記残差系列を更新するBステップを含むことを特徴とする請求項2に記載の心電図データの異常心拍及びトレンドの除去方法。
【請求項4】
前記第2ステップでは、
前記Bステップにおいて決定したフラグ時系列Qが、前記Aステップで固定したフラグ時系列Qと異なって変化した場合には、Aステップに戻ってフラグ時系列Qを前記変化したフラグ時系列Qに更新してAステップの処理を行い、以後、Bステップにおいて決定するフラグ時系列Qが変化しない迄、前記AステップとBステップとを繰り返すことを特徴とする請求項3に記載の心電図データの異常心拍及びトレンドの除去方法。
【請求項5】
前記Bステップでは、前記Aステップで求めた残差系列が最も正規性をもつようにフラグ時系列Qを決定する際、残差系列に含まれる異常心拍に関して、異常心拍及び前記異常心拍に連続した心拍を含むように異常値らしさを算出し、前記異常値らしさによって異常値及び前記異常心拍に連続した心拍を除去することを特徴とする請求項4に記載の心電図データの異常心拍及びトレンドの除去方法。
【請求項6】
心電図データを取得する取得手段と、
前記心電図データから拍と拍の間隔を表すRR間隔の時系列データ(以下、RRI時系列xnという)を取得するRRI時系列取得手段と、
f(tn;θ)を前記心電図データの長周期の成分を表すトレンド関数とし、前記tを時刻とし、前記θを前記トレンド関数fのパラメータとし、qnをRRI時系列xnの正常又は異常をあらわすフラグとし、Q=(q1,q2,q3,……qn)をフラグ時系列としたとき、残差系列xn−f(tn;θ),n=1,2,...のうち、qnが正常を表すフラグが成立するものについての確率密度分布が最も正規分布に近くなるように、前記トレンド関数f(tn;θ)及び正常心拍を含むフラグ時系列Qを決定することにより、異常心拍とトレンドを除去した後、HRV解析に用いられるRRI時系列データを抽出する除去手段と、
前記異常心拍とトレンドが除去されたRRI時系列データについてHRV(心拍変動)解析を行うHRV解析手段を含むことを特徴とする自律神経モニタ装置。
【請求項7】
前記除去手段は、
フラグ時系列Qを固定して、残差系列の平均誤差が最小となるトレンド関数を決定して前記残差系列を求める第1処理手段と、
前記第1処理手段が求めた残差系列が最も正規性をもつようにフラグ時系列Qを決定することにより、異常心拍を除去して、前記残差系列を更新する第2処理手段を含むことを特徴とする請求項6に記載の自律神経モニタ装置。
【請求項8】
前記除去手段は、
前記第2処理手段が決定したフラグ時系列Qが、前記第1処理手段で固定したフラグ時系列Qと異なって変化した場合には、前記第1処理手段に戻してフラグ時系列Qを前記変化したフラグ時系列Qに更新して第1処理手段の処理を行い、以後、第2処理手段において決定するフラグ時系列Qが変化しない迄、前記第1処理手段の処理と第2処理手段の処理とを繰り返すことを特徴する請求項7に記載の自律神経モニタ装置。
【請求項9】
前記第2処理手段では、前記第1処理手段が求めた残差系列が最も正規性をもつようにフラグ時系列Qを決定する際、残差系列に含まれる異常心拍に関して、異常心拍及び前記異常心拍に連続した心拍を含むように異常値らしさを算出し、前記異常値らしさによって異常値及び前記異常心拍に連続した心拍を除去することを特徴とする請求項8に記載の自律神経モニタ装置。
【請求項10】
請求項6乃至請求項9のいずれか1項に記載の自律神経モニタ装置が、敗血症発症警告装置であって、
前記HRV解析手段の解析結果により、HRV(心拍変動)データの時系列において、最小値の検出を行う検出手段と、
前記検出手段が、前記HRV(心拍変動)データの時系列において、最小値を検出した場合、敗血症の発症の虞があることを警告する警告手段を備えたことを特徴とする敗血症発症警告装置。
【請求項1】
心電図データ内に含まれる拍と拍の間隔を表すRR間隔の時系列データから異常心拍とトレンドを除去する際、除去後の確率密度分布が正規分布に近くなるように異常心拍とトレンドを除去した後、HRV(心拍変動)データを算出することを特徴とする心電図データの異常心拍及びトレンドの除去方法。
【請求項2】
心電図データから、拍と拍の間隔を表すRR間隔の時系列データ(以下、RRI時系列xnという)を取得する第1ステップと、
f(tn;θ)を前記心電図データの長周期の成分を表すトレンド関数とし、前記tを時刻とし、前記θを前記トレンド関数fのパラメータとし、qnをRRI時系列xnの正常又は異常をあらわすフラグとし、Q=(q1,q2,q3,……qn)をフラグ時系列としたとき、残差系列xn−f(tn;θ),n=1,2,...のうち、qnが正常を表すフラグが成立するものについての確率密度分布が最も正規分布に近くなるように、前記トレンド関数f(tn;θ)及び正常心拍を含むフラグ時系列Qを決定することにより、異常心拍とトレンドを除去した後、HRV(心拍変動)データを算出する第2ステップを含むことを特徴とする心電図データの異常心拍及びトレンドの除去方法。
【請求項3】
前記第2ステップは、
フラグ時系列Qを固定して、残差系列の平均誤差が最小となるトレンド関数を決定して前記残差系列を求めるAステップと、
Aステップで求めた残差系列が最も正規性をもつようにフラグ時系列Qを決定することにより、異常心拍を除去して、前記残差系列を更新するBステップを含むことを特徴とする請求項2に記載の心電図データの異常心拍及びトレンドの除去方法。
【請求項4】
前記第2ステップでは、
前記Bステップにおいて決定したフラグ時系列Qが、前記Aステップで固定したフラグ時系列Qと異なって変化した場合には、Aステップに戻ってフラグ時系列Qを前記変化したフラグ時系列Qに更新してAステップの処理を行い、以後、Bステップにおいて決定するフラグ時系列Qが変化しない迄、前記AステップとBステップとを繰り返すことを特徴とする請求項3に記載の心電図データの異常心拍及びトレンドの除去方法。
【請求項5】
前記Bステップでは、前記Aステップで求めた残差系列が最も正規性をもつようにフラグ時系列Qを決定する際、残差系列に含まれる異常心拍に関して、異常心拍及び前記異常心拍に連続した心拍を含むように異常値らしさを算出し、前記異常値らしさによって異常値及び前記異常心拍に連続した心拍を除去することを特徴とする請求項4に記載の心電図データの異常心拍及びトレンドの除去方法。
【請求項6】
心電図データを取得する取得手段と、
前記心電図データから拍と拍の間隔を表すRR間隔の時系列データ(以下、RRI時系列xnという)を取得するRRI時系列取得手段と、
f(tn;θ)を前記心電図データの長周期の成分を表すトレンド関数とし、前記tを時刻とし、前記θを前記トレンド関数fのパラメータとし、qnをRRI時系列xnの正常又は異常をあらわすフラグとし、Q=(q1,q2,q3,……qn)をフラグ時系列としたとき、残差系列xn−f(tn;θ),n=1,2,...のうち、qnが正常を表すフラグが成立するものについての確率密度分布が最も正規分布に近くなるように、前記トレンド関数f(tn;θ)及び正常心拍を含むフラグ時系列Qを決定することにより、異常心拍とトレンドを除去した後、HRV解析に用いられるRRI時系列データを抽出する除去手段と、
前記異常心拍とトレンドが除去されたRRI時系列データについてHRV(心拍変動)解析を行うHRV解析手段を含むことを特徴とする自律神経モニタ装置。
【請求項7】
前記除去手段は、
フラグ時系列Qを固定して、残差系列の平均誤差が最小となるトレンド関数を決定して前記残差系列を求める第1処理手段と、
前記第1処理手段が求めた残差系列が最も正規性をもつようにフラグ時系列Qを決定することにより、異常心拍を除去して、前記残差系列を更新する第2処理手段を含むことを特徴とする請求項6に記載の自律神経モニタ装置。
【請求項8】
前記除去手段は、
前記第2処理手段が決定したフラグ時系列Qが、前記第1処理手段で固定したフラグ時系列Qと異なって変化した場合には、前記第1処理手段に戻してフラグ時系列Qを前記変化したフラグ時系列Qに更新して第1処理手段の処理を行い、以後、第2処理手段において決定するフラグ時系列Qが変化しない迄、前記第1処理手段の処理と第2処理手段の処理とを繰り返すことを特徴する請求項7に記載の自律神経モニタ装置。
【請求項9】
前記第2処理手段では、前記第1処理手段が求めた残差系列が最も正規性をもつようにフラグ時系列Qを決定する際、残差系列に含まれる異常心拍に関して、異常心拍及び前記異常心拍に連続した心拍を含むように異常値らしさを算出し、前記異常値らしさによって異常値及び前記異常心拍に連続した心拍を除去することを特徴とする請求項8に記載の自律神経モニタ装置。
【請求項10】
請求項6乃至請求項9のいずれか1項に記載の自律神経モニタ装置が、敗血症発症警告装置であって、
前記HRV解析手段の解析結果により、HRV(心拍変動)データの時系列において、最小値の検出を行う検出手段と、
前記検出手段が、前記HRV(心拍変動)データの時系列において、最小値を検出した場合、敗血症の発症の虞があることを警告する警告手段を備えたことを特徴とする敗血症発症警告装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−65713(P2012−65713A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−210953(P2010−210953)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、文部科学省、地域産学官連携科学技術振興施策、助成研究(地域イノベーションクラスタープログラム(都市エリア型)岐阜県南部エリア)、産業技術強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、文部科学省、地域産学官連携科学技術振興施策、助成研究(地域イノベーションクラスタープログラム(都市エリア型)岐阜県南部エリア)、産業技術強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【Fターム(参考)】
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