説明

応力および歪み検出装置

【課題】岩盤から受ける応力および岩盤の歪みを長期間に渡り連続して直接的に検出可能な応力および歪み検出装置を提供する。
【解決手段】岩盤に埋設・設置される柱状のケースと、前記岩盤から受ける応力および前記岩盤の歪みを検出するための2個の受圧面を有し、その2個の受圧面が前記ケースの軸方向に直交する同一軸上に配置されて前記ケースの外周壁から露出され、前記ケースに対して機械的に結合されていない受圧部材と、前記2個の受圧面間の変位量に基づいて前記岩盤から受ける応力および前記岩盤の歪みを検出する変位検出センサとを備えた応力および歪み検出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は応力および歪み検出装置に係り、詳しくは、岩盤に埋設・設置されて岩盤から受ける応力および岩盤の歪みを検出する応力および歪み検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
将来発生すると考えられている東海・東南海地震および南海大地震を想定して、現在、ボアホール型の歪み計が日本国内の多く(30ヵ所以上)の観測点に埋設・設置されており、本出願人を含む複数の研究機関や官庁により、地震予知研究に利用されている。
ボアホール型の歪み計は、地面に掘削されたボアホール(ボーリング孔)内に歪み計をセットしてグラウトで固めることにより歪み計を地中の岩盤に埋設・設置し、岩盤の歪み(岩盤の伸び縮み)の変動を長期間に渡り連続して検出するものである。
【0003】
特許文献1および非特許文献1には、歪みをテコの原理を応用して連続的に拡大する歪み拡大機構を備え、その歪み拡大機構で拡大された前記テコの最終端の変位量を変位検出センサで検出する歪み拡大検出センサが開示されており、その歪み拡大検出センサを円筒形のケースに内蔵一体化してボアホール型の歪み計として用いることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、円筒形のケース内部に液体(シリコンオイル)を充填し、その液体の移動量からケースの変形を検出するボアホール型の歪み計が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−87563号公報(特許2101064)
【特許文献2】特開昭57−165710号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ishii,H., T.Yamauchi, S.Matsumoto, Y.Hirata and S.Nakao, Development of multi-component borehole instrument for earthquake prediction study, some observed example of precursory and co-seismic phenomena relating to earthquake swarms and application of the instrument for rock mechanics, 365-377, Seismogenic Process Monitoring,2002,Balkema.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術(特許文献1および非特許文献1または特許文献2の技術)は、円筒形のケースの変形を検出し、そのケースの変形に基づいて岩盤の歪みを検出するものであるため、ケース全体の変形が相互に関係し、ケースに対して所定方向から印加される岩盤の歪みを独立して正確に検出することが困難である。
【0008】
ところで、地震予知研究のために岩盤の弾塑性変形を観測する際に、最も重要な測定成分は、岩盤の歪みではなく、地震発生に直接関係している応力である。
しかし、従来技術は岩盤の歪みを検出するものであるため、岩盤の弾性定数を別途測定し、検出した岩盤の歪みに基づく複雑な計算処理の結果として岩盤から受ける応力を求めるしか方法が無い。つまり、従来技術では、岩盤から受ける応力を間接的にしか求め得なかった。
現在のところ、岩盤から受ける応力および岩盤の歪みを長期間に渡り連続して直接的に検出可能な装置は存在していない。
【0009】
本発明の目的は、岩盤から受ける応力および岩盤の歪みを長期間に渡り連続して直接的に検出可能な応力および歪み検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、下記のように本発明の各局面に想到した。
【0011】
<本発明の第1の局面>
第1の局面は、岩盤に埋設・設置される柱状のケースと、
岩盤から受ける応力および岩盤の歪みを検出するための2個の受圧面を有し、その2個の受圧面がケースの軸方向に直交する同一軸上に配置されてケースの外周壁から露出され、ケースに対して機械的に結合されていない受圧部材と、
2個の受圧面間の変位量に基づいて岩盤から受ける応力および岩盤の歪みを検出する変位検出センサとを備えた応力および歪み検出装置である。
【0012】
岩盤の歪みの検出レベルは岩盤の性質によって異なるが、岩盤から受ける応力は岩盤の性質にほぼ無関係であるため、応力および歪み検出装置は岩盤の性質に関係なく岩盤から受ける応力を検出できる。
また、岩盤から受ける応力および岩盤の歪みによりケースが変形するが、受圧部材はケースに対して機械的に結合されていないため、受圧面間の変位量がケースの変形の影響を受けることはなく、岩盤から受ける応力および岩盤の歪みを正確に検出できる。
尚、受圧部材がケースに対して機械的に結合されていないとは、ケースが変形したとしてもその変形が少なくとも受圧部材の軸方向への変位に何ら影響を与えないことをいう。
そして、2個の受圧面がケースの中心軸の方向に直交する同一の軸上に配置されているため、2個の受圧面が配置された軸の方向の岩盤から受ける応力およびその方向の岩盤の歪みを確実に検出できる。
その結果、岩盤から受ける応力の絶対値を長期間に渡り連続して直接的に検出可能な従来は存在していなかった装置を実現できる。
【0013】
<本発明の第2の局面>
第2の局面は、第1の局面において、2個の受圧面に接続され、2個の受圧面が応力を受けると弾性変形する略リング状の接続部材を備える。
受圧面が受ける応力に対応して接続部材は元の形状に戻り、2個の受圧面間の変位量も岩盤から受ける応力に対応して変位するため、変位検出センサの検出結果を出力することができる。
また、接続部材は略リング状であるため、接続部材の弾性変形に伴う不要な応力が変位検出センサに印加されることがなく、接続部材の弾性変形が変位検出センサの検出結果に悪影響を与えるおそれがない。
【0014】
<本発明の第3の局面>
第3の局面は、第1または第2の局面において、受圧部材がケースに複数個設けられ、個々の受圧部材における受圧面の軸方向が異なる。
そのため、個々の受圧部材は、受圧面の軸方向から受ける岩盤からの応力およびその方向の岩盤の歪みを独立して検出可能であり、複数方向の観測から応力および歪みのテンソル成分を求めることができる。これにより、地震予知研究に貢献する地震に関連した微小なレベルの応力および歪みのテンソル成分の観測に利用できる。
【0015】
<本発明の第4の局面>
第4の局面は、第1〜第3の局面において、2個の受圧面が岩盤から受けた応力をテコの原理を応用して連続的に拡大する応力拡大機構を備え、その応力拡大機構で拡大されたテコの最終端の変位量を変位検出センサで検出する。
その結果、2個の受圧面間の変位量が小さい場合でも、その変位量が応力拡大機構によって拡大されるため、受圧面が岩盤から受ける応力および岩盤の歪みが低レベルであっても確実に検出できる。
また、2個の受圧面間の変位量が非常に大きくなった場合には、応力拡大機構に備えてあるメカニカルなリセットシステムにより、変位検出センサの測定範囲内にメカニカルに戻すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1(A)は、本発明を具体化した一実施形態の応力および歪み検出装置10の全体概略構成を示す斜視図。図1(B)は、応力および歪み検出装置10の埋設・設置状態を説明するための説明図。
【図2】応力水平成分検出ユニット30a〜30cの取付状態を説明するための応力および歪み検出装置10の横断面図であり、図1(A)におけるX−X矢線断面図。
【図3】応力水平成分検出ユニット30a〜30cの概略構成を説明するための外観図であり、図3(A)は上面図、図3(B)は正面図、図3(C)は図3(A)における右側面図(左側面図)。
【図4】応力垂直成分検出ユニット40の取付状態を説明するための応力および歪み検出装置10の縦断面図であり、図1(A)におけるY−Y矢線断面図。
【図5】応力垂直成分検出ユニット40の概略構成を説明するための外観図であり、図5(A)は正面図、図5(B)は側面図、図5(C)は下面図。
【図6】応力水平成分検出ユニット30a〜30cの受圧面31,32が配置されている軸α〜γを説明するための説明図。
【図7】応力および歪み検出装置10を用いて検出された応力の計測記録を示す計測図。
【図8】応力および歪み検出装置10を用いて検出された歪みの計測記録を示す計測図。
【図9】グアム島付近で発生した地震について、応力および歪み検出装置10を用いて検出した応力地震波形の計測記録を示す計測図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した一実施形態の応力および歪み検出装置(応力・歪み計)10について図面を参照しながら説明する。尚、応力および歪み検出装置10において、同一の構成部材については符号を等しくしてある。
【0018】
図1(A)に示すように、応力および歪み検出装置10は、ケース20、応力水平成分検出ユニット(受圧部材)30a〜30c、応力垂直成分検出ユニット40、通信ケーブル50から構成されている。
円柱状のケース20の上端からは通信ケーブル50が延出されている。
ケース20には、応力水平成分検出ユニット30a〜30cおよび応力垂直成分検出ユニット40が取り付けられており、ケース20は液密状態になっている。
尚、ケース20の外径寸法は約10cm前後である
【0019】
図1(B)に示すように、応力および歪み検出装置10は地面に対して鉛直に掘削されたボアホール(ボーリング孔)60内の底近傍にセットされ、応力および歪み検出装置10の周囲が膨張性のグラウト61で固められることにより、応力および歪み検出装置10のケース20は地中の岩盤に対して鉛直に埋設・設置されて岩盤と一体にされている。
そして、応力および歪み検出装置10の通信ケーブル50は地上に引き出されている。
尚、応力および歪み検出装置10を岩盤に埋設・設置するには、まず、ボアホール60内にグラウト61を注入し、次に、グラウト61の中に応力および歪み検出装置10を沈下させればよい。
【0020】
応力水平成分検出ユニット(感受ピストン)30a〜30cは、2個の受圧面31,32を有する。
受圧面31,32は、ケース20の中心軸(垂直軸)Pの方向に直交する同一の軸(水平軸)α〜γ上に配置されてケース20の外周壁から露出されている。そして、受圧面31,32は軸α〜γに直交する平面である。
応力垂直成分検出ユニット40は1個の受圧面41を有し、受圧面41はケース20の中心軸P上に配置されてケース20の底部から露出されている。
そのため、各受圧面31,32,41は岩盤からの応力を受ける。
【0021】
図2は、図1(A)におけるX−X矢線断面図である。
図3(A)〜(C)はそれぞれ、応力水平成分検出ユニット30a〜30cの上面図,正面図,右側面図(左側面図)である。
ケース20は一定肉厚の円筒状であり、ケース20の内部に応力水平成分検出ユニット30a〜30cが取り付けられている。
3個の応力水平成分検出ユニット30a〜30cは同一構成であり、基盤部33,34、Oリング35、フレーム部(接続部材)36、応力拡大装置(応力拡大機構)37、変位検出センサ38から構成されている。
【0022】
同一構成の基盤部33,34はそれぞれ、本体部33a,34aおよび取付部33b,34bを備える。
円柱状の本体部33a,34aの頂面に当たる部分がそれぞれ受圧面31,32である。
受圧面31,32は略平坦に形成されているが、応力水平成分検出ユニット30a〜30cをケース20に取り付ける際に用いる工具を固定する穴(図示略)などが受圧面31,32に穿設されていてもよい。
【0023】
本体部33a,34aは、ケース20の外周壁に貫通形成された円形の取付孔20a,20bに挿通されている。
本体部33a,34aの外径は取付孔20a,20bの内径と略同一に形成され、本体部33a,34aの長さはケース20の肉厚と略同一に形成されている。
本体部33a,34aの外周壁には、その周方向に複数個(図示例では2個)のOリング35が間隔を設けて巻回固定されている。
そのため、本体部33a,34aは、ケース20の取付孔20a,20bに対して液密状態で水平方向(軸α〜γの方向)に摺動可能である。
【0024】
本体部33a,34aにおける受圧面31,32の反対側の頂面には、円柱状の取付部33b,34bが設けられている。
略リング状(略円筒状)のフレーム部36は取付部33b,34bに挟設されており、フレーム部36と基盤部33,34は一体化されている。
尚、ケース20、基盤部33,34、フレーム部36は、剛性が高く耐蝕性に優れた金属材料(例えば、ステンレス鋼など)によって形成されている。
【0025】
応力拡大装置37は、特許文献1(特開平5−87563号公報)に開示されている歪み拡大機構と同一構成であり、基板37a、応力作用部37b、固定部37cを備える。
基板37aの両端部には応力作用部37bおよび固定部37cが設けられ、基板37aには変位検出センサ38が取り付けられている。
応力作用部37bは、フレーム部36を介して基盤部33に接続固定されている。
固定部37cは、フレーム部36を介して基盤部34に接続固定されている。
【0026】
尚、基板37aは特許文献1の「基板1」と同じであり、応力作用部37bは特許文献1の「歪み作用部2」と同じであり、固定部37cは特許文献1の「固定部3」と同じであり、変位検出センサ38は特許文献1の「変位検出センサ9」と同じである。
また、基板37aには、特許文献1の「溝彫り部4」および「テコ5〜7」と同一部材が形成されているが、図示を省略する。
【0027】
図4は、図1(A)におけるY−Y矢線断面図である。
図5(A)〜(C)はそれぞれ、応力垂直成分検出ユニット40の正面図,側面図,下面図である。
応力垂直成分検出ユニット40において、応力水平成分検出ユニット30a〜30cと異なるのは、以下の点である。
【0028】
[ア]基盤部33の本体部33aの頂面に当たる部分が受圧面41である。
[イ]本体部33aの外径はケース20の内径と略同一に形成されている。本体部33aは、ケース20の底部に挿通され、ケース20に対して液密状態で鉛直方向(中心軸Pの方向)に摺動可能である。
[ウ]基盤部34の本体部34aにはOリングが設けられておらず、本体部34aはケース20に取付固定されている。
【0029】
<実施形態の作用・効果>
本実施形態の応力および歪み検出装置10によれば、以下の作用・効果が得られる。
【0030】
[1]応力および歪み検出装置10は、岩盤から受ける応力および岩盤の歪みの水平成分および垂直成分の変動を長期間に渡り連続して検出する。すなわち、応力および歪み検出装置10は、岩盤に作用する応力および岩盤の歪みの水平成分を応力水平成分検出ユニット30a〜30cを用いて検出し、岩盤に作用する応力および岩盤の歪みの垂直成分を応力垂直成分検出ユニット40を用いて検出する。
このとき、岩盤の歪みの検出レベルは岩盤の性質によって異なるが、岩盤から受ける応力は岩盤の性質にほぼ無関係であるため、応力および歪み検出装置10は岩盤の性質に関係なく岩盤から受ける応力を検出できる。
その結果、応力および歪み検出装置10によれば、岩盤から受ける応力の絶対値を長期間に渡り連続して直接的に検出可能な従来は存在していなかった装置を実現できる。
【0031】
各検出ユニット30a〜30c,40の変位検出センサ38は、岩盤から受ける応力および岩盤の歪みの検出結果を電気信号または光信号に変換し、その信号を通信ケーブル50を介して地上に設置されたデータロガー(図示略)へ送信する。
尚、変位検出センサ38の検出結果を、応力および歪み検出装置10に内蔵しておいた半導体メモリなどの記憶装置(図示略)に記憶保存させてもよい。
【0032】
[2]応力水平成分検出ユニット30a〜30cは、岩盤から受ける応力が受圧面31,32に印加されると、基盤部33,34の本体部33a,34aがケース20の取付孔20a,20bに対して摺動し、基盤部33,34が軸α〜γに沿った線上を応力拡大装置37における応力作用部37bと固定部37cの間の距離が変化する。
尚、岩盤から受ける応力が増大すると基盤部33,34はケース20の中心軸Pの方向へ移動し、岩盤から受ける応力が減少すると基盤部33,34はケース20の中心軸Pとは反対方向へ移動する。
応力拡大装置37の基板37aに取り付けられている変位検出センサ38は、応力作用部37bと固定部37cの間の変位量を検出することにより、受圧面31,32間の変位量を検出し、その変位量に基づいて岩盤に作用する応力および岩盤の歪みの水平成分を検出する。
尚、受圧面31,32間の変位量は数μm以内である
【0033】
ここで、応力水平成分検出ユニット30a〜30cの構成部材(基盤部33,34、Oリング35、フレーム部36、応力拡大機構37、変位検出センサ38)はケース20に対して固定されておらず、これら構成部材の動きはケース20から何ら影響を受けない。
つまり、応力水平成分検出ユニット30a〜30cは、ケース20に対して機械的(力学的)に結合されていない。
換言すれば、応力水平成分検出ユニット30a〜30cがケース20に対して機械的に結合されていないとは、ケース20が変形したとしてもその変形が少なくとも応力水平成分検出ユニット30a〜30cの軸α〜γの方向への変位に何ら影響を与えないことをいう。
【0034】
そのため、岩盤から受ける応力および岩盤の歪みによりケース20が変形したとき、応力水平成分検出ユニット30a〜30cはケース20に対して機械的に結合されていないため、受圧面31,32間の変位量がケース20の変形の影響を受けることはない。
従って、応力水平成分検出ユニット30a〜30cによれば、受圧面31,32間の変位量に基づいて、受圧面31,32が岩盤から受ける応力および岩盤の歪みを正確に検出できる。
【0035】
また、2個の受圧面31,32が、ケース20の中心軸Pの方向に直交する同一の軸(水平軸)α〜γ上に配置されてケース20の外周壁から露出されているため、応力および歪み検出装置10が軸α〜γの方向の岩盤から受ける応力およびその方向の岩盤の歪みを確実に検出できる。
【0036】
[3]応力水平成分検出ユニット30a〜30cのフレーム部36は、基盤部33,34を介して受圧面31,32に接続され、受圧面31,32が岩盤から更なる応力を受けると弾性変形し、受圧面31,32が受ける応力が解除されると元の形状に戻る。
そのため、フレーム部36が元の形状に戻ると、受圧面31,32間の変位量も、受圧面31,32が岩盤から更なる応力を受ける以前の状態の変位量に戻る。
ここで、応力および歪み検出装置10の周囲は膨張性のグラウト61で固められて岩盤と一体にされているため(図1(B)参照)、応力および歪み検出装置10の埋設・設置状態において、応力水平成分検出ユニット30a〜30cのフレーム部36には既に弾性変形が生じており、変位検出センサ38から出力される信号レベルはゼロではなく初期応力を反映している。
【0037】
また、フレーム部36は略リング状であるため、フレーム部36の弾性変形に伴う不要な応力が変位検出センサ38に印加されることがなく、フレーム部36の弾性変形が変位検出センサ38の検出結果に悪影響を与えるおそれがない。
そして、フレーム部36と基盤部33,34が一体化されているため、応力水平成分検出ユニット30a〜30c全体の強度を高めることができる。
【0038】
[4]ケース20には3個の応力水平成分検出ユニット30a〜30cが設けられ、応力水平成分検出ユニット30a〜30cにおける受圧面31,32の軸α〜γの方向が異なっている。
すなわち、図1および図6に示すように、方向の異なる軸(水平軸)α〜γはケース20の中心で交差し、軸α〜γはそれぞれ120゜ずつズラされている。
そのため、応力水平成分検出ユニット30a〜30cはそれぞれ、軸α〜γの方向から岩盤が受ける応力およびそれらの方向の岩盤の歪みを独立して検出可能であり、複数方向の観測から応力および歪みのテンソル成分を求めることができる。これにより、地震予知研究に貢献する地震に関連した微小なレベルの応力および歪みのテンソル成分観測に利用できる。
【0039】
[5]応力水平成分検出ユニット30a〜30cの応力拡大装置37は、受圧面31,32が岩盤から受けた応力をテコの原理を応用して連続的に拡大する。尚、応力拡大装置37の動作については特許文献1に詳述されているので説明を省略する。
変位検出センサ38は、応力拡大装置37で拡大された前記テコの最終端の変位量を検出することにより、受圧面31,32間の変位量を検出し、その変位量に基づいて岩盤から受ける応力および岩盤の歪みを検出する。
その結果、受圧面31,32間の変位量が小さい場合でも、その変位量が応力拡大装置37によって拡大されるため、受圧面31,32が岩盤から受ける応力および岩盤の歪みが低レベルであっても確実に検出できる。
また、受圧面31,32間の変位量が非常に大きくなった場合には、応力拡大装置37に備えてあるメカニカルなリセットシステムにより、変位検出センサ38の測定範囲内にメカニカルに戻すことができる。
【0040】
[6]応力垂直成分検出ユニット40は、岩盤から受ける応力が受圧面41に印加されると、基盤部33の本体部33aがケース20の内周壁に対して摺動し、基盤部33がケース20の中心軸Pに沿って移動し、応力拡大装置37における応力作用部37bと固定部37cの間の距離が変化する。
応力拡大装置37の基板37aに取り付けられている変位検出センサ38は、応力作用部37bと固定部37cの間の変位量を検出することにより、受圧面41と本体部34aの間の変位量を検出し、その変位量に基づいて岩盤に作用する応力および岩盤の歪みの垂直成分を検出する。
【0041】
ここで、応力垂直成分検出ユニット40の本体部34aはケース20に固定されているが、本体部34aは十分な厚さと固さを有しており剛性が高い。
そのため、岩盤から受ける応力および岩盤の歪みによりケース20が変形したとき、本体部34aの剛性が高いことにより、ケース20の変形は受圧面41と本体部34aの間の変位量にほとんど影響を与えない。
従って、垂直成分検出ユニット40によれば、受圧面41と本体部34aの間の変位量に基づいて、受圧面41が岩盤から受ける応力および岩盤の歪みを正確に検出できる。
【0042】
[7]垂直成分検出ユニット40のフレーム部36は、基盤部33を介して受圧面41に接続されると共に、取付部34bを介して本体部34aに接続され、受圧面41が岩盤から更なる応力を受けると弾性変形し、受圧面41が受ける応力が解除されると元の形状に戻る。
そのため、フレーム部36が元の形状に戻ると、受圧面41と本体部34aの間の変位量も、受圧面41が岩盤から更なる応力を受ける以前の状態の変位量に戻る。
ここで、応力および歪み検出装置10の周囲は膨張性のグラウト61で固められて岩盤と一体にされているため(図1(B)参照)、応力および歪み検出装置10の埋設・設置状態において、応力垂直成分検出ユニット40のフレーム部36には既に弾性変形が生じており、変位検出センサ38から出力される信号レベルはゼロではなく初期応力を反映している。
【0043】
[8]応力垂直成分検出ユニット40の応力拡大装置37は、受圧面41が岩盤から受けた応力をテコの原理を応用して連続的に拡大する。
変位検出センサ38は、応力拡大装置37で拡大された前記テコの最終端の変位量を検出することにより、受圧面41と本体部34aの間の変位量を検出し、その変位量に基づいて岩盤から受ける応力および岩盤の歪みを検出する。
その結果、受圧面41と本体部34aの間の変位量が小さい場合でも、その変位量が応力拡大装置37によって拡大されるため、受圧面41が岩盤から受ける応力および岩盤の歪みが低レベルであっても確実に検出できる。
また、受圧面41と本体部34aの間の変位量が非常に大きくなった場合には、応力拡大装置37に備えてあるメカニカルなリセットシステムにより、変位検出センサ38の測定範囲内にメカニカルに戻すことができる。
【0044】
[9]図7は、応力および歪み検出装置10を用いて検出された応力の計測記録を示す計測図である。
図8は、応力および歪み検出装置10を用いて検出された歪みの計測記録を示す計測図である。
図9は、グアム島付近で発生した地震について、応力および歪み検出装置10を用いて検出した応力地震波形の計測記録を示す計測図である。
【0045】
図7〜図9に示す計測例では、応力および歪み検出装置10が瑞浪市の地下200mの岩盤に埋設・設置されている。
図7〜図9の「N220E」「N100E」「N340E」はそれぞれ、応力水平成分検出ユニット30a〜30cの方向を示し、北から時計回りに「220゜」「100゜」「340゜」の方向の水平成分を表す。
図7〜図9の「Vertical」は、応力垂直成分検出ユニット40の検出結果である。
図7,図8の「Temp」は、応力および歪み検出装置10に内蔵された温度計(図示略)の検出結果である。
図7,図8の「Atmo. Press.」は、大気圧の検出結果である。
図7,図8の「Water. Press.」は、応力および歪み検出装置10が埋設・設置されているのと同じボアホール60内に設置されている水圧計(図示略)の検出結果である。
【0046】
図7,図8によれば、月や太陽の引力により発生する地球潮汐および海洋潮汐による地殻応力および地殻歪みの日変化が明瞭に計測されており、この計測記録から応力および歪み検出装置10が岩盤から受ける応力および岩盤の歪みを高感度に検出可能なことがわかる。
また、図7では岩盤から受ける応力により、図8では岩盤の歪みにより、それぞれ東海道南方沖地震と駿河湾の地震とによる変化が見られる。
しかし、図7,図8では時間軸が圧縮されているため、地震波の波形は見えない。
それに対して、図9では時間軸を引き延ばしているため、応力地震波形だけではあるが明瞭に見られる。
このように、図7〜図9によれば、遠い地震により岩盤から受ける応力および岩盤の歪みの変化についても検出可能なことがわかる。
【0047】
図9およびここには示されていないが、多くの観測結果により、世界のどの場所で起こった地震でもマグニチュード6.5以上であれば、応力および歪み検出装置10が十分に検出可能な感度を有していることが明らかである。
【0048】
[10]各検出ユニット30a〜30c,40の変位検出センサ38は、岩盤から受ける応力および岩盤の歪みの検出結果を電気信号または光信号に変換する。
そのため、以下の検定方法により、岩盤から受ける応力および岩盤の歪みの変化に対する変位検出センサ38の電気信号または光信号の信号レベルの変化特性を予め求めておくことにより、信号レベルと応力の正確な特性を得ると共に、信号レベルと歪みの正確な特性を得ることができる。
そして、以下の検定方法により、応力および歪み検出装置10が埋設・設置された地点の応力と歪みの絶対値を連続的に検知することができる。
【0049】
[a]圧力検定:水圧を可変することが可能な容器内に応力および歪み検出装置10をセットし、容器内の水圧の変化に対する変位検出センサ38の信号ベルの変化特性を計測する検定方法。
[b]荷重検定:受圧面31,32,41に荷重検出器から荷重を付加し、その荷重の変化に対する変位検出センサ38の信号ベルの変化特性を計測する検定方法。
[c]歪み検定:受圧面31,32,41に作用させる変位を変化させ、その変位の変化に対する変位検出センサ38の信号ベルの変化特性を計測する検定方法。
【0050】
<別の実施形態>
本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、以下のように具体化してもよく、その場合でも、前記実施形態と同等もしくはそれ以上の作用・効果を得ることができる。
【0051】
[1]ケース20は円柱状に限らず、柱状であればどのような形状でもよい。
【0052】
[2]応力水平成分検出ユニット30a〜30cは、3個に限らず2個以下または4個以上設けてもよく、個々の応力水平成分検出ユニットにおける受圧面31,32の軸方向は適宜設定すればよい。
また、応力水平成分検出ユニット30a〜30cと同様の構成のユニットを、中心軸Pの方向に対して斜め方向に設けることにより、岩盤から受ける応力および岩盤の歪みの斜め成分を検出することができる。
そして、水平、垂直および斜めの成分を検出することにより、応力および歪みの3次元テンソル成分を求めることができる。
【0053】
[3]応力拡大装置37が十分な強度を有している場合には、フレーム部36を省いてもよい。
【0054】
[4]応力および歪み検出装置10を岩盤から受ける応力および岩盤の歪みの変動が大きな場所に埋設・設置する場合には、応力拡大装置37を省いてもよい。
【0055】
[5]前記実施形態では、地面に対して鉛直に掘削されたボアホール60内に応力および歪み検出装置10をセットしている。
しかし、地面に対して斜め方向に掘削されたボアホール60内に応力および歪み検出装置10をセットし、応力および歪み検出装置10のケース20を地中の岩盤に掘削されたボアホール60に沿って埋設・設置して岩盤と一体にしてもよい。
【0056】
[6]地下深部における建設工事、トンネル工事、鉱山の作業などにおいては、山はねや落盤など人命に関わる被害の発生があり、その被害の発生を予測し、被害を軽減することが求められている。
そこで、応力および歪み検出装置10は、地震予知研究に利用するだけでなく、前記の工事や作業における安全確認や異常変動の予測に利用することもできる。
【0057】
本発明は、前記各局面および前記実施形態の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様も本発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【符号の説明】
【0058】
10…応力および歪み検出装置
20…ケース
31,32,41…受圧面
30a〜30c…応力水平成分検出ユニット(受圧部材)
40…応力垂直成分検出ユニット
38…変位検出センサ
36…フレーム部(接続部材)
37…応力拡大装置(応力拡大機構)
60…ボアホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
岩盤に埋設・設置される柱状のケースと、
前記岩盤から受ける応力および前記岩盤の歪みを検出するための2個の受圧面を有し、その2個の受圧面が前記ケースの軸方向に直交する同一軸上に配置されて前記ケースの外周壁から露出され、前記ケースに対して機械的に結合されていない受圧部材と、
前記2個の受圧面間の変位量に基づいて前記岩盤から受ける応力および前記岩盤の歪みを検出する変位検出センサと
を備えた応力および歪み検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の応力および歪み検出装置において、
前記2個の受圧面に接続され、前記2個の受圧面が応力を受けると弾性変形する略リング状の接続部材を備えた応力および歪み検出装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の応力および歪み検出装置において、
前記受圧部材が前記ケースに複数個設けられ、個々の受圧部材における受圧面の軸方向が異なる応力および歪み検出装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の応力および歪み検出装置において、
前記2個の受圧面が岩盤から受けた応力をテコの原理を応用して連続的に拡大する応力拡大機構を備え、
その応力拡大機構で拡大された前記テコの最終端の変位量を前記変位検出センサで検出する応力および歪み検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−78233(P2012−78233A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224588(P2010−224588)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(598026987)財団法人 地震予知総合研究振興会 (2)
【出願人】(591227398)有限会社テクノ菅谷 (1)
【Fターム(参考)】