説明

急結性セメントコンクリートの覆工方法

【課題】 型枠からの漏れが少なく、充填性を大きくすることが可能となる急結性セメントコンクリートの覆工方法を提供すること。
【解決手段】 カルシウムアルミネート類、石膏、及び凝結遅延剤を含有する粉体急結剤を空気圧送する粉体急結剤供給管1に、水を添加する圧縮空気供給管3を接続してなり、粉体急結剤の圧送圧より少なくとも0.1MPa高く、1〜5m3/minの圧縮空気が流れる圧縮空気供給管3に、水供給管2から水を圧入し、次いで粉体急結剤と連続混合してスラリー化して急結剤スラリーとし、この急結剤スラリーを、スランプフロー30〜70cmのセメントコンクリートに混合管6で添加混合して急結性セメントコンクリートとし、この急結性コンクリートを、第二輸送管7を経由して、曲がり角度が20〜150度の湾曲管ノズル8から、型枠に充填して覆工する覆工方法を構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル掘削工事における地山の補強や、掘削面の安定化のために用いる急結性セメントコンクリートの覆工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル掘削工事における一次覆工の一つとして、掘削直後の地山に型枠を用いて急硬性コンクリートを充填する方法で覆工する工法(以下、NTL工法という)が提案されている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
NTL工法とは、地山を一定距離掘削後、吹付けは行わず、地山表面に型枠をあてがい、地山と型枠との間にできた空間に急硬性コンクリートを充填し、硬化後、型枠を脱型していく操作を繰り返し行い、推進する工法である。
【0004】
NTL工法で用いる急硬性コンクリートは、カルシウムアルミネートと石膏を主成分とする粉体急硬材に、遅延剤を溶解した水を加えて、バッチで練混ぜてスラリー化し、急硬材スラリーとし、ポンプで圧送してベースコンクリートに添加し、装置の先端の機械式ミキサーで混合したもので、NTL工法として、この急硬性コンクリートを型枠に充填して覆工する工法が提案されている(非特許文献1参照)。
しかしながら、この急硬材スラリーは、施工毎に作業員が計量して、バッチ練りしていたため、そのつど粉体急硬材、水、及び遅延剤を計量して練混ぜる必要があった(特許文献3、特許文献4参照)。
非特許文献1、特許文献3、及び特許文献4には、機械で連続してスラリー化することについては全く記載がない。
【0005】
通常、急硬性コンクリートのスランプは大きく、流動性を高めることで型枠への充填性を向上し、地山との接着性が高められるが、流動性の高い急硬性コンクリートは、硬化前に型枠内で材料分離したり、支保工と地山の隙間から漏れたりするため、ベースコンクリートのスランプを12〜15cm程度に管理し、急硬材スラリーを添加混合した急硬性コンクリートのスランプを20〜22cm程度に管理する必要があった。それでも、支保工と地山との隙間にチューブなどを入れて急硬性コンクリートの漏れを防いでいた。
【0006】
また、急結性湿式吹付けセメントコンクリートを地山に吹付ける際に、ポンプ圧送性を低下せず、吹付け後のダレを防止するためにセメントコンクリートのスランプフローを350〜750mmとすることが提案されている(特許文献5参照)。
しかしながら、特許文献5には、粉体急硬材に、水と遅延剤水溶液を混合して急硬材スラリーを調製することについては全く記載がない。
【0007】
また、練混ぜた急硬材スラリーは、施工予定数量以上練混ぜるため、施工終了時には、急硬材スラリーがホッパー内に残ることになり、その残ったスラリーを廃棄したり、覆工後にポンプやホースに残ったスラリーを洗浄して廃棄したりするため、材料のロスが多かった。そのため、急硬材スラリーの可使時間を1時間以上に長くする必要があった(特許文献6参照)。
【0008】
急硬性コンクリートは、ベースコンクリートと急硬材スラリーを、装置の先端に取付けた機械式ミキサーで攪拌混合するために、システムが重く、複雑で、しかもミキサーが流れの抵抗となるため、コンクリートの吐出量が制約され、施工性に課題があった。
【0009】
一方、空気圧送された粉体急結剤と、粉体急結剤の供給管と急結剤スラリーの吐出管との間隙の円周方向から圧入される水とを混合して、急結剤スラリーを連続的に製造する急結剤スラリーの連続製造装置や、粉体急結剤に高圧霧を混合して急結剤スラリーを製造する急結剤スラリーの連続製造装置が提案されている(特許文献7、特許文献8、特許文献9参照)。
【0010】
しかし、これらの方法は、スラリーの連続製造装置で、圧縮空気と水で霧状にして粉体急結剤と混合して急結剤スラリーを連続製造し、圧縮空気でほぐされたコンクリートに添加混合する方法であるため、コンクリートと急結剤スラリーとの混合性は良い。しかし、吹付け空気量が多いため、型枠内にコンクリートを吹き込むと、粗骨材が分離して、強度にバラッキが出たり、コンクリートの表面がジャンカになりやすかったり、粉塵も発生したりするなど、施工性に課題があった。
【0011】
NTL工法は、粉塵の発生が少なく、リバウンドのロスがない工法であるため、作業環境の向上や施工コスト低減の点で優れた工法であったが、上記のような多くの課題があるため、現状のNATMに置き換わる工法にならず、改良が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平8−135389号公報
【特許文献2】特開平07−034793号公報
【特許文献3】特開昭50−016717号公報
【特許文献4】特開平06−048794号公報
【特許文献5】特開2004−067474号公報
【特許文献6】特開2001−253752号公報
【特許文献7】特開平10−317671号公報
【特許文献8】特開2009−270282号公報
【特許文献9】特開2002−332798号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】NTL工法 、ハイウエー技術、P64〜70、日本道路公団試験研究所、1995/10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
即ち、本発明の目的は、型枠への充填性を大きくし、NTL工法の施工性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)本発明は、空気圧送された、カルシウムアルミネート類、石膏、及び凝結遅延剤を含有する粉体急結剤を供給する粉体急結剤供給管1と、前記粉体急結剤供給管1に、水を添加する圧縮空気供給管3と、前記粉体急結剤供給管1と間隙を介して対峙する吐出管4とを備えてなる急結剤スラリー化装置で連続混合した急結剤スラリーと、別途圧送してなるセメントコンクリートとを混合管6で混合して製造した急結性セメントコンクリートを使用して覆工する方法であって、前記粉体急結剤の圧送圧より少なくとも0.1MPa高い圧送圧、1〜5m3/minの流量の圧縮空気が流れる前記圧縮空気供給管3に、水供給管2から水を圧入し、次いで粉体急結剤と連続混合してスラリー化して急結剤スラリーとし、この急結剤スラリーを、前記吐出管4の前方に連なる混合管6にて、第一輸送管5内に圧送されたスランプフロー30〜70cmのセメントコンクリートに添加混合して急結性セメントコンクリートとし、この急結性セメントコンクリートを、第二輸送管7を経由して、曲がり角度が20〜150度の湾曲管ノズル8から型枠へ充填することを特徴とする急結性セメントコンクリートの覆工方法である。
(2)前記急結剤スラリー中の水の量が、前記粉体急結剤100部に対して、50〜200部であることを特徴とする前記(1)の急結性セメントコンクリートの覆工方法である。
(3)前記混合管6の先端が、前記湾曲管ノズル8の先端から後方0.1〜1mで、前記混合管6が、前記吐出管4と、前記第一輸送管5と接続していることを特徴とする前記(1)又は(2)の急結性セメントコンクリートの覆工方法である。
(4)前記混合管6の形状が、Y字管であることを特徴とする前記(1)〜(3)のうちのいずれか1項の急結性セメントコンクリートの覆工方法である。
(5)前記湾曲管ノズル8の曲がり角度が、45〜135度であることを特徴とする前記(1)〜(4)のうちのいずれか1項の急結性セメントコンクリートの覆工方法である。
(6)前記粉体急結剤が、アルカリ金属アルミン酸塩を含有してなることを特徴とする前記(1)〜(5)のうちのいずれか1項の急結性セメントコンクリートの覆工方法である。
(7)前記セメントコンクリートが、減水剤を混合してなることを特徴とする前記(1)〜(6)のうちのいずれか1項の急結性セメントコンクリートの覆工方法である。
(8)前記急結性セメントコンクリートを、型枠に吹き込むことにより充填して覆工することを特徴とする前記(1)〜(7)のうちのいずれか1項の急結性セメントコンクリートの覆工方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、型枠からの漏れが少なく、充填性を大きくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】急結剤スラリー化装置の部分拡大図である。
【図2】急結性セメントコンクリートの吹き込み方法の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
本明細書でいう管径は、内径をいう。
また、本発明のセメントコンクリートは、セメントペースト、モルタル、コンクリートを総称する。
なお、本発明における部や%は、特に断わらない限り質量基準で示す。
【0019】
図1、2は、本発明で用いる急結剤スラリーの製造装置と急結性セメントコンクリートの充填装置の一構成例を示したものである。
【0020】
本発明で、セメントコンクリートは、市販のミキサー(図示せず)により水と練り混ぜられた後、ピストンポンプ(図示せず)に供給され、急結剤スラリーを添加するために、第一輸送管5を経由して混合管6まで圧送され、急結剤スラリーを添加して急結性セメントコンクリートを調製し、第二輸送管7を経由して湾曲管ノズル8から排出される。
本発明は、流動性の良いコンクリートを短時間(30秒〜3分の硬化時間)で硬化させて型枠からの漏れを少なくすることを特徴とする。
【0021】
別途、急結剤スラリー化装置で製造された急結剤スラリーは、混合管6でセメントコンクリートに添加され、急結性セメントコンクリートとして、さらに第二輸送管7を通り、湾曲管ノズル8から排出され、型枠へ充填される。
【0022】
充填方法としては、吹き込む方法、注入する方法、吹込み圧着方法、流込み方法、流込み圧着方法、及び塗付け方式等があり、特に限定されるものではないが、本発明では、施工性の点で、吹き込む方法が好ましい。
【0023】
本発明で使用するセメントコンクリートは、通常のセメントコンクリートが使用可能であり、特に限定されるものではない。また、フライアッシュ、石灰石微粉末、又はシリカフュームをセメントに配合した混合セメントもセメントコンクリート調製時に使用可能である。鋼繊維や有機繊維を含有したセメントコンクリートも使用可能である。
【0024】
あらかじめ水を混練したセメントコンクリート中のセメント量は、特に限定されるものではないが、通常、セメント単位量で300〜500kg/m3が好ましく、350〜450kg/m3がより好ましい。
【0025】
セメントコンクリート中の水/セメント比は40〜65%が好ましく、42〜60%がより好ましい。
【0026】
本発明で使用するセメントコンクリートの細骨材率は、50〜80%が好ましく、55〜70%がより好ましい。細骨材率が小さいと型枠への充填性が低下する場合があり、細骨材率が大きいと急結性セメントコンクリートの圧送性が低下し、急結剤スラリーとの混合性が低下する場合がある。
【0027】
セメントコンクリートのスランプは、スランプフローで30〜70cmが好ましく、40〜60cmがより好ましい。スランプフローが小さいと急結剤スラリーとの混合性が悪いため、硬化時間がバラつき、型枠への充填性が悪く、初期強度が低下する場合があり、スランプフローが大きいと硬化時間が長くなるので材料分離し、型枠と地山の隙間からの漏れが多くなる場合がある。
【0028】
本発明では、急結剤スラリーとセメントコンクリートとを混合して急結性セメントコンクリートを調製する方法としては、混合管としてY字管を使用して、急結剤スラリーとセメントコンクリートとを混合する方法、二重管の内管にコンクリートを、内管と外管との間隙部に急結剤スラリーを流し込み、二重管の先端部もしくは二重管から流れ出た空中部で合流させる二重管を使用した方法、さらには、急結剤スラリーを、シャワー状にセメントコンクリートと合流混合させるインレットピースを使用し、その後の管中にスパイラル状のミキサーをセットし、油圧で回転させて混合する方法等も可能である。
本発明では、閉塞しにくく、小型で施工性がよい点で、混合管としてY字管を使用する方法が好ましい。
【0029】
混合管6は、セメントコンクリートと別途調製された急結剤スラリーとを混合するもので、混合管6の位置は、混合管6の先端が、湾曲管ノズル8の先端から後方0.1〜1mが好ましく、0.3〜0.5mがより好ましい。1mを超えると急結性セメントコンクリートが第二輸送管7内で滞留しやすくなるため、閉塞する場合がある。
【0030】
混合管6の形状は、閉塞しにくく、小型で施工性がよい点で、Y字管が好ましい。混合管としては、圧送されるセメントコンクリートの全周の数箇所から急結剤が添加できるシャワリング管も使用できる。
【0031】
Y字管の枝管の角度は20〜60度が好ましく、30〜50度がより好ましい。角度が小さいと混合性が低下する場合があり、角度が大きいと急結性セメントコンクリートが排出されにくいため、湾曲管ノズル8や急結剤スラリー化装置で急結性セメントコンクリートが閉塞する場合がある。
【0032】
湾曲管ノズル8の形状は、セメントコンクリートと急結剤スラリーとの混合性を上げるために、曲がり角度(c)が20〜150度である湾曲管が好ましく、45〜135度である湾曲管がより好ましい。曲がり角度が小さいと急結剤スラリーがセメントコンクリートと混合しない場合があり、曲がり角度が大きいと圧送圧が上がり、閉塞する場合がある。
【0033】
急結剤スラリー化装置について説明する。
急結剤スラリー化装置は、水を添加する圧縮空気供給管3と、前記粉体急結剤供給管1と間隙を介して対峙する吐出管4とを備えてなるものである。さらに、具体的には、粉体急結剤供給管1、粉体急結剤供給管1と間隙を介して対峙する吐出管4、水供給管2、及び圧縮空気供給管3からなり、水供給管2から供給される水を、粉体急結剤が圧送される粉体急結剤供給管1に、圧入して急結剤スラリーを調製するもので、調製した急結剤スラリーは、吐出管4を経由して、混合管6で、別途圧送されるセメントコンクリートに混合される。
【0034】
粉体急結剤をスラリー化するために使用する水は、粉体急結剤のスラリー化を容易にするためにミストにすることが好ましく、水を供給する位置は、粉体急結剤との混合地点の後方1〜20mが好ましく、5〜15m後方がより好ましい。圧縮空気供給管3を流れる圧縮空気に圧入してミスト化し、ホースなどで粉体急結剤供給管1まで圧送する。水を供給する位置が、粉体急結剤との混合地点の後方1m未満では安定したミストになりにくく、粉体急結剤やミストが滞留し、安定してスラリー化できない場合があり、20mを超えると空気量が多くなり、ホース内に水が滞留しやすくなる場合がある。
【0035】
本発明において、粉体急結剤との混合地点まで水を空気輸送する圧縮空気供給管3の圧縮空気の総量は、大気圧換算で1〜5m3/minが好ましく、2〜4m3/minがより好ましい。圧縮空気の総量が少ないとセメントコンクリートとの混合性が悪くなり、型枠への充填性が低下し、初期強度発現性が低下する場合があり、圧縮空気の総量が多いと粉塵が多くなる場合がある。
【0036】
圧縮空気供給管3の圧縮空気の空気圧(圧送圧)は、セメントコンクリートとの混合性を向上し、急結性セメントコンクリートを閉塞しない点で、粉体急結剤の圧送圧より少なくとも0.1MPa高いことが好ましく、0.2〜0.3MPa高いことがより好ましい。
粉体急結剤の圧送圧は、セメントコンクリートとの混合性を向上し、急結性セメントコンクリートを閉塞しない点で、0.1〜0.6MPaが好ましく、0.2〜0.5MPaがより好ましい。
【0037】
本発明では、粉体急結剤供給管1は間隙を介して吐出管4と対峙するものであり、(粉体急結剤供給管1の内径)/(吐出管4の内径)で算出される内径比(d/D)は、0.3〜0.95が好ましく、0.5〜0.8がより好ましい。内径比(d/D)が小さいと粉体急結剤供給管1と吐出管4の間隙に急結剤が滞留し、固化し、閉塞する場合があり、内径比(d/D)が大きいとミストが安定して供給されにくいため、粉体急結剤を安定してスラリー化することができず、固化し、閉塞する場合がある。
【0038】
圧縮空気に水を添加し、ミスト化し、圧送する圧縮空気供給管3としては、3/4B又は1Bのホースなどが挙げられる。粉体急結剤を輸送する粉体急結剤供給管1としては、口径が3/4B又は1Bのホースなどが挙げられる。
【0039】
本発明で使用する粉体急結剤は、カルシウムアルミネート類、石膏、及び遅延剤を含有するもので、カルシウムアルミネート類100部、石膏20〜150部、及びアルカリ金属アルミン酸塩0〜20部を含有することが好ましい。
【0040】
本発明で使用するカルシウムアルミネート類は、カルシア原料とアルミナ原料等を混合して、キルンでの焼成或いは電気炉での溶融等の熱処理をして得られるCaOとAl2O3とを主成分とする水和活性を有する物質の総称である。CaOをC、Al2O3をAと略記すると、C3A、C12A7、C11A7・CaF2、C11A7・CaCl2、C2A・SiO2、CA、及びC2Aなどが挙げられ、さらにCaOやAl2O3の一部が、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化鉄、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、アルカリ金属硫酸塩、及びアルカリ土類金属硫酸塩等と置換した化合物、或いは、CaOとAl2O3とを主成分とするものに、これらが少量固溶した化合物も使用できる。
【0041】
カルシウムアルミネート類の形態は、結晶質、非晶質のいずれも使用可能である。これらの中では、反応活性の点で、非晶質のカルシウムアルミネート類が好ましく、C12A7組成に対応する熱処理物を急冷した非晶質のカルシウムアルミネートがより好ましい。
【0042】
カルシウムアルミネート類の粒度は、急結性や初期強度発現性の点で、ブレーン比表面積値(以下、ブレーン値という)3,000cm2/g以上が好ましく、5,000cm2/g以上がより好ましい。ブレーン値が小さいと、急結性コンクリートの急結性や初期強度発現性が低下する場合がある。
【0043】
本発明で使用する石膏としては、無水石膏、半水石膏、及び二水石膏が使用可能である。これらの中では、凝結性や強度発現性の点で、無水石膏が好ましい。
【0044】
石膏の粒度は、通常、セメントなどに使用される程度で良いが、急結性セメントコンクリートの急結性や初期強度発現性の点で、ブレーン値3,000cm2/g以上が好ましい。ブレーン値が小さいと、急結性セメントコンクリートの凝結性や強度発現性が低下する場合がある。
【0045】
石膏の使用量は、カルシウムアルミネート類100部に対して、20〜150部が好ましく、50〜120部がより好ましい。石膏の使用量が少ないと、急結性セメントコンクリートの凝結性が低下し、長期強度発現性を促進しにくい場合があり、石膏の使用量が多いと、初期凝結が遅れ、初期強度発現性が低下する場合がある。
【0046】
本発明では、アルカリ金属アルミン酸塩(以下、アルミン酸塩という)を使用することは、急結剤の添加量を低減する点から好ましい。アルミン酸塩は水酸化アルミニウムとアルカリ金属水酸化物を混合溶解し、乾燥し、粉末状として得られるものである。
【0047】
アルミン酸塩としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、及びアルミン酸リチウムなどが挙げられ、これらの一種又は二種以上を使用することが可能である。これらの中では、急結性セメントコンクリートの凝結性や初期強度発現性の点で、アルミン酸ナトリウムが好ましい。
【0048】
アルミン酸塩の使用量は、カルシウムアルミネート類100部に対して、0〜20部が好ましく、2〜8部がより好ましい。アルミン酸塩の使用量が多いと硬化時間を早すぎて混合性や充填性が低下する場合がある。
【0049】
本発明で使用する遅延剤としては、炭酸アルカリとオキシカルボン酸類等が挙げられる。炭酸アルカリとしては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸水素カリウムなどが挙げられる。これらの中では、初期凝結促進の点で、炭酸カリウムが好ましい。
【0050】
オキシカルボン酸類としては、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、リンゴ酸、これらの塩類が挙げられ、これらの一種又は二種類以上が使用可能である。これらの中では、硬化時間の調整と初期強度発現性の点で、クエン酸、グルコン酸、又はこれらの塩の一種又は二種以上を使用することが好ましい。
【0051】
炭酸アルカリとオキシカルボン酸類を併用した場合の各材料割合は、炭酸アルカリ100部に対して、オキシカルボン酸5〜50部が好ましく、オキシカルボン酸類10〜40部がより好ましい。オキシカルボン酸類の割合が少ないと硬化時間の調整ができない場合があり、オキシカルボン酸類の割合が多いと初期強度発現性が低下する場合がある。
【0052】
遅延剤の使用量は、カルシウムアルミネート類と石膏の合計100部に対して、固形分換算で0.5〜5部が好ましく、1〜3部がより好ましい。遅延剤の使用量が少ないと硬化時間が短いため混合管6の先で閉塞し、型枠への充填性が悪くなる場合があり、遅延剤の使用量が多いと硬化時間が長くなるため、セメントコンクリートが分離しやすくなり、初期強度発現性が低下する場合がある。
【0053】
急結性セメントコンクリートの硬化時間は、遅延剤で調整するが、型枠への充填性を上げるためには30秒〜3分が好ましい。
【0054】
本発明では、セメントコンクリートの流動性を上げて施工性を向上させるといった効果の点から、減水剤を使用する。
【0055】
減水剤としては、ポリカルボン酸系高性能減水剤、リグニンスルホン酸系高性能減水剤、及びメラミン系高性能減水剤等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を使用することが可能である。これらの中では、減水性とスランプ保持性の点で、ポリカルボン酸系高性能減水剤の使用が好ましい。
【0056】
減水剤の使用量は、セメントコンクリート中のセメント100部に対して、0.1〜3部が好ましく、0.5〜2部がより好ましい。減水剤が少ないと水セメント比が上がり、強度発現性が低下する場合があり、減水剤の使用量が多いと材料分離しやすくなり、強度発現性が低下する場合がある。
【0057】
粉体急結剤の使用量は、セメントコンクリート中のセメント100部に対して、5〜15部が好ましく、7〜10部がより好ましい。粉体急結剤の使用量が範囲外では目的とする充填効果や吹付け効果が得られない場合がある。
【0058】
本発明で使用する急結剤スラリー中の水量は、粉体急結剤100部に対して、50〜200部が好ましく、60〜180部がより好ましく、120〜150部が最も好ましい。水量が少ないと急結剤スラリーとセメントコンクリートとの混合性が悪くなり、型枠への充填性が悪くなる場合があり、水量が多いと強度発現性が低下し、セメントコンクリートの水セメント比をさらに下げる必要があるため、コンクリートの粘性が上がり、ポンプ圧送性が低下する場合がある。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【0060】
実験例1
図1、2に本発明の急結性コンクリートの吹込み方法の一例を示す。
急結剤圧送装置「ナトムクリート」に配管口径1Bのホースからなる粉体急結剤供給管1を取付けた。混合管6に急結剤スラリー化装置を取り付けた。粉体急結剤を急結剤スラリー化装置まで0.4MPaの圧力で空気輸送した。表1に示す空気圧と空気量を有する圧縮空気を管径25mmの圧縮空気供給管3内に空気輸送した。枝管角度30度のY字の混合管6から10m後方で、圧縮空気供給管3に、水供給管2から、粉体急結剤100部に対して、120部の水を圧入し、ミスト化し、圧送した。
急結剤スラリー化装置の粉体急結剤供給管1の内径/吐出管4の内径比(d/D)は0.7とし、混合管6から湾曲管ノズル8までの第二輸送管7の長さは0.4mとした。湾曲管ノズル8の曲がり角度(c)は90度とした。粉体急結剤供給管1の内径は20mm、吐出管4の内径は28mmとした。
コンクリートとしては、セメント400kg/m3、水200kg/m3、細骨材1,146kg/m3、粗骨材627kg/m3、及び細骨材率65%のコンクリートに、セメント100部に対して、減水剤1.5部を添加したコンクリートを、コンクリートポンプで圧送した。コンクリートのスランプフロー値は60cmであった。
【0061】
粉体急結剤は、粉体急結剤Aと粉体急結剤Bの二種類を使用した。粉体急結剤Aは、セメント100部に対して、10部使用した。粉体急結剤Bは、セメント100部に対して、8部使用した。
スラリー化に使用する水は、粉体急結剤100部に対して、120部の量でスラリー化してコンクリートに添加し、高さ1m、幅1m、厚さ20cmの木製型枠に、30cmの高さから、吹き込み、粉塵量、圧縮強度を測定し、混合性と型枠への充填性の評価を行った。結果を表1に示した。
【0062】
<使用材料>
セメント :普通ポルトランドセメント、ブレーン値3,200cm2/g、比重3.15
細骨材 :新潟県姫川産川砂、表面水率5.2%、比重2.62
粗骨材 :新潟県姫川産川砂利、表乾状態、比重2.67、最大寸法13mm
カルシウムアルミネート類:C12A7組成に対応するもの、非晶質、ブレーン値6,300cm2/g
石膏 :市販無水石膏粉砕品、ブレーン値6,000cm2/g
アルミン酸塩:アルミン酸ナトリウム、市販品、強熱減量1.8%、90%粒子径0.2mm
粉体急結剤A:カルシウムアルミネート類100部、石膏100部、遅延剤2部
粉体急結剤B:カルシウムアルミネート類100部、石膏60部、アルミン酸塩5部、遅延剤2部
遅延剤 :炭酸カリウム(市販品)100部とクエン酸(市販品)30部からなる混合品
減水剤 :ポリカルボン酸系高性能減水剤、市販品
【0063】
<評価方法>
粉塵量:型枠への吹込み開始から3分後に、型枠より5mの定位置で、デジタル粉塵計(P−5L)で測定した。
硬化時間:型枠への吹込み開始から、急結性コンクリートの流動性がなくなり、コンクリート温度が硬化前の温度より2℃上昇した時間を測定した。
圧縮強度 :材齢1時間と1日の圧縮強度は、幅25cm×長さ25cmのプルアウト型枠に設置したピンを、プルアウト型枠表面から急結性コンクリートで被覆し、型枠の裏面よりピンを引き抜き、そのときの引き抜き強度を求め、圧縮強度=(引き抜き強度)×4/(供試体接触面積)の式から算出した。材齢28日の圧縮強度は、幅50cm×長さ50cm×厚さ20cmの型枠に急結性コンクリートを吹付け、採取した直径5cm×長さ10cmの供試体を20トン耐圧機で測定した。
混合性 :急結性コンクリートの材齢1時間の強度を三回測定し、最大と最小の差を測定した。最大と最小の差が小さい場合は混合性が良く、大きい場合は混合性が悪いとした。
充填性 :型枠に充填したコンクリートの質量と体積から密度を求め、低い場合は充填性が悪く、高い場合は充填性が良いとした。
スランプフロー:JIS A 1150に準じてスランプフローを測定した。
【0064】
【表1】

【0065】
表1によれば、本発明により、圧縮空気の圧送圧と流量を適正化して、連続スラリー化した急結剤スラリーをコンクリートに添加することで、混合性が向上し、低粉塵を示す急結性コンクリートを型枠へ吹き込んで充填することができ、混合性の向上で、初期強度、長期強度が増進することが分かった。
【0066】
実験例2
粉体急結剤A100部に対して、120部の水を使用し、圧縮空気供給管3内を空気輸送する圧縮空気の総量(空気量)を大気圧換算で3m3/minとし、粉体急結剤の圧送圧を0.4MPaとし、圧縮空気の空気圧を0.6MPaとした。表2に示すスランプフローのコンクリートに急結剤スラリーを添加し、吹込み試験を行った。スランプフローはセメントコンクリート中の水/セメント比を変更することにより、調製した。上記以外は、実験例1と同様に行った。別の型枠で、横方向に幅1cmのスリットを開けた型枠に急結性コンクリートを吹き込み、漏れの有無を測定した。結果を表2に示した。
【0067】
<評価方法>
漏れの有無:急結性コンクリートが漏れた時間を測定した。急結性コンクリートが漏れてから、漏れなくなるまでの時間を測定した。急結性コンクリートが漏れた時間が短くなる程、漏れにくいとした。
【0068】
【表2】

【0069】
表2によれば、本発明により、適度の粘性を与えた高スランプフローのコンクリートにすることで、急結剤スラリーとの混合性が向上し、型枠への充填性が良くなり、初期強度発現性と長期強度発現性が向上することが分かった。
【0070】
実験例3
粉体急結剤A100部に対して、120部の水を使用し、圧縮空気供給管3内を空気輸送する圧縮空気の総量(空気量)を大気圧換算で3m3/minとし、粉体急結剤の圧送圧を0.4MPaとし、圧縮空気の空気圧を0.6MPaとした。湾曲管ノズル8の曲がり角度(c)を変え、吹込み試験を行った。上記以外は、実験例1と同様に行った。結果を表3に示した。
【0071】
<評価方法>
圧送性 :コンクリートポンプの圧送圧を測定した。圧送圧が高い場合は圧送性が悪いとした。
【0072】
【表3】

【0073】
表3によれば、本発明により、湾曲管ノズル8の曲がり角度を適正化することで、急結剤スラリーとの混合性が向上し、型枠への充填性が良くなり、初期強度が向上することが分かった。
【0074】
実験例4
粉体急結剤A100部に対して、120部の水を使用し、圧縮空気供給管3内を空気輸送する圧縮空気の総量(空気量)を大気圧換算で3m3/minとし、粉体急結剤の圧送圧を0.4MPaとし、圧縮空気の空気圧を0.6MPaとした。混合管6の位置は、湾曲管ノズル8から後方の表4に示す距離にし、吹込み試験を行った。上記以外は、実験例1と同様に行った。結果を表4に示した。
【0075】
【表4】

【0076】
表4によれば、本発明により、湾曲管ノズル8から混合管6までの長さを適正化することで、急結性コンクリートの混合性が向上し、型枠への充填性が良くなり、初期強度が向上することが分かった。
【0077】
実験例5
粉体急結剤A100部に対して、表5に示す量の水を圧入し、圧縮空気供給管3内を空気輸送する圧縮空気の総量(空気量)を大気圧換算で3m3/minとし、粉体急結剤の圧送圧を0.4MPaとし、圧縮空気の空気圧を0.6MPaとし、吹込み試験を行った。上記以外は、実験例1と同様に行った。結果を表5に示した。
【0078】
【表5】

【0079】
表5によれば、本発明により、水の量を適正化することで、急結性コンクリートの混合性が向上し、型枠への充填性が良くなり、強度が向上することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、NTL工法で使用する急結剤スラリーを連続して製造し、適正な空気量でセメントコンクリートに添加混合して急結性セメントコンクリートを調製する。本発明の急結性セメントコンクリートを型枠に充填すると、型枠への充填性が大きくなり、施工性が向上する。本発明によれば、安定して急結剤スラリーを製造してコンクリートと混合し、移動式型枠に吹き込んで充填することで、型枠からの漏れもなく、粉塵を低減することが可能となる。
【符号の説明】
【0081】
1 粉体急結材供給管
2 水供給管
3 圧縮空気供給管
4 吐出管
5 第一輸送管
6 混合管
7 第二輸送管
8 湾曲管ノズル
c 曲がり角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気圧送された、カルシウムアルミネート類、石膏、及び凝結遅延剤を含有する粉体急結剤を供給する粉体急結剤供給管1と、前記粉体急結剤供給管1に、水を添加する圧縮空気供給管3と、前記粉体急結剤供給管1と間隙を介して対峙する吐出管4とを備えてなる急結剤スラリー化装置で連続混合した急結剤スラリーと、別途圧送してなるセメントコンクリートとを混合管6で混合して製造した急結性セメントコンクリートを使用して覆工する方法であって、前記粉体急結剤の圧送圧より少なくとも0.1MPa高い圧送圧、1〜5m3/minの流量の圧縮空気が流れる前記圧縮空気供給管3に、水供給管2から水を圧入し、次いで粉体急結剤と連続混合してスラリー化して急結剤スラリーとし、この急結剤スラリーを、前記吐出管4の前方に連なる混合管6にて、第一輸送管5内に圧送されたスランプフロー30〜70cmのセメントコンクリートに添加混合して急結性セメントコンクリートとし、この急結性セメントコンクリートを、第二輸送管7を経由して、曲がり角度が20〜150度の湾曲管ノズル8から型枠へ充填することを特徴とする急結性セメントコンクリートの覆工方法。
【請求項2】
前記急結剤スラリー中の水の量が、前記粉体急結剤100部に対して、50〜200部であることを特徴とする請求項1記載の急結性セメントコンクリートの覆工方法。
【請求項3】
前記混合管6の先端が、前記湾曲管ノズル8の先端から後方0.1〜1mで、前記混合管6が、前記吐出管4と、前記第一輸送管5と接続していることを特徴とする請求項1又は2記載の急結性セメントコンクリートの覆工方法。
【請求項4】
前記混合管6の形状が、Y字管であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか1項記載の急結性セメントコンクリートの覆工方法。
【請求項5】
前記湾曲管ノズル8の曲がり角度が、45〜135度であることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか1項記載の急結性セメントコンクリートの覆工方法。
【請求項6】
前記粉体急結剤が、アルカリ金属アルミン酸塩を含有してなることを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか1項記載の急結性セメントコンクリートの覆工方法。
【請求項7】
前記セメントコンクリートが、減水剤を混合してなることを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか1項記載の急結性セメントコンクリートの覆工方法。
【請求項8】
前記急結性セメントコンクリートを、型枠に吹き込むことにより充填して覆工することを特徴とする請求項1〜7のうちのいずれか1項記載の急結性セメントコンクリートの覆工方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−97497(P2012−97497A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247140(P2010−247140)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【出願人】(000195971)西松建設株式会社 (329)
【Fターム(参考)】