説明

恒温型圧電発振器及びその製造方法

【課題】恒温型圧電発振器の調整工数を低減するため、恒温槽の設定温度を一定とし、圧
電振動子の頂点温度との温度差による周波数温度特性の周波数偏差を補償する手段を得る

【解決手段】恒温型圧電発振器1は、圧電振動子Y1と、発振回路10と、周波数電圧制
御回路7と、温度制御部8と、演算回路6と、を備えた恒温型圧電発振器である。温度制
御回部8は、圧電振動子Y1の近傍の温度を制御し、演算回路6は、圧電振動子Y1の零
温度係数温度Tpと、温度制御部8の設定温度Tovとの温度差による周波数温度特性の
周波数偏差を、別に求めた周波数温度特性補償量近似式に基づいて、周波数電圧制御回路
7に周波数偏差量を補償させるように機能する恒温型圧電発振器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、恒温槽の設定温度を一定とし、設定温度と圧電振動子の頂点温度との温度差
を補償する周波数電圧制御回路を備えた恒温型圧電発振器とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体通信機器や伝送通信機器に用いる周波数制御デバイスである水晶発振器として、
外部の温度変化に影響されることなく高安定な周波数を出力する恒温槽型圧電発振器が、
従来から知られている。近年、各種機器用に小型、軽量、低消費電力の恒温槽型圧電発振
器が市場から求められている。
特許文献1には、消費電力を低減した恒温槽型圧電発振器が開示されており、図12は
そのブロック図である。恒温槽型圧電発振器は、恒温槽61内で電圧制御圧電発振器63
を加熱する発熱体62と、恒温槽61内に設けられた槽内感温素子64と、恒温槽外で外
気温を検知する槽外感温素子65とを備えている。さらに、槽外感温素子65の温度情報
に基づき電圧制御圧電発振器63の電圧を制御しその周波数を可変する制御電圧発生回路
67と、槽外感温素子65と槽内感温素子64との温度差の温度情報により発熱体62の
温度を制御する温度制御回路66と、を備えている。
図12の高温槽型圧電発振器では、恒温槽内温度が多少変動することから、恒温槽61
内に収納する圧電発振器に、感温素子からの温度情報に基づき制御電圧発生回路67で生
成する電圧を供給し、周波数を制御できるよう電圧制御圧電発振器63を用いている。
【0003】
また、特許文献2には、外気温度の変化を検知して温度制御する恒温型の水晶発振器が
開示されている。図13は、シングルオーブン構造の発振器内に設ける回路基板の温度補
償回路のブロック図である。温度補償回路は、温度センサー71、増幅器72、加算器7
3、目標温度設定入力端子74、増幅器75、積分器76、加算器77、増幅調整用抵抗
78、ヒータ用電源端子79、ヒータ80、トランジスタ81、加算器82、周波数補正
入力端子83、増幅器84、抵抗器85、可変容量ダイオード86、水晶振動子87、周
波数出力端子88から構成されている。温度センサー71とヒータ80は回路基板上に設
け、両者は水晶振動子87の近くに配置するのが望ましい。
温度センサー71が検出した増幅器72の電圧出力と、目標温度入力電圧74との差を
、加算器73により検出して第1差信号を出力する。温度変動による第1差信号の変化を
抽出し、抽出信号と第1差信号を入力とした加算器7の出力は、外気温度が下がれば温度
を上昇させるように、トランジスタ11のコレクタ電圧を下げてヒータ10の電流を増加
させる。逆に、外気温度が上がればヒータ10の電流を減少させる。水晶振動子の周波数
を補正するために、予め補正用の電圧値(周波数補正信号)を設定して加算器82に入力
する。そして、上記抽出信号との差を検出して第2差信号とし、第2差信号に基づいて水
晶振動子の振動周波数を制御すると開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−303645号公報
【特許文献2】特開2007−251366公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された恒温槽型圧電発振器は、恒温槽の内部と外部に
それぞれ感温素子を設け、外部の温度情報、又は内部の温度情報の少なくとも何れか一方
に基づいて、制御電圧発生回路と温度制御回路とを制御する圧電発振器であり、恒温槽内
を加熱する発熱体の消費電力は少なくできるものの、恒温槽型圧電発振器の周波数安定度
は不十分であるという問題があった。
また、特許文献2に開示された水晶発振器は、外気温度の変化を検知して温度制御を行
うことで、恒温型の水晶発振器の周波数安定度向上を試みたものであるが、従来の恒温型
水晶発振器と同様に水晶振動子の頂点温度にオーブン温度を調整することを前提としてお
り、この調整に多大の工数を要するという問題があった。
これらばかりでなく、この高安定な圧電発振器を得るには、一方で頂点温度の精度の高
い圧電振動素子の作りこみも益々厳しく要求されており、この為、生産性の低下や生産コ
ストの増加を招いていた。
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、圧電振動子の加工精度が従来通り
でありながら、調整工数を大幅に削減した高安定な恒温型圧電発振器を提供することを課
題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の
形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]本発明に係る恒温型圧電発振器は、圧電振動子と、前記圧電振動子を励振
する発振回路と、発振周波数を電圧により制御する周波数電圧制御回路と、前記圧電振動
子の温度を一定に保持する温度制御部と、入力される情報を処理し前記周波数電圧制御回
路に信号を供給する演算回路と、を備えた恒温型圧電発振器であって、前記温度制御部は
、温度を感知する感温素子と、前記圧電振動子を加熱する発熱体と、前記感温素子の温度
信号に基づき前記発熱体の温度を制御する温度制御回路と、を有し、前記周波数電圧制御
回路は、電圧により容量値が可変する電圧可変容量回路と、補償電圧発生回路と、を有し
、前記演算回路は、前記圧電振動子の零温度係数温度Tpと前記温度制御部の設定温度T
ovとの温度差による周波数偏差を補償する周波数温度特性補償量近似式に基づいて、前
記補償電圧発生回路に前記周波数偏差を補償する電圧を生成させ、該電圧を前記電圧可変
容量回路に印加し周波数を補償することを特徴とする恒温型圧電発振器である。
【0008】
温度制御部の設定温度Tovを、圧電振動子の零温度係数温度(頂点温度)Tpの平均
値である一定温度に設定する。頂点温度Tpと設定温度Tovとの温度差による恒温型圧
電発振器の周波数温度特性の周波数偏差を求める。この周波数偏差を、多くの恒温型圧電
発振器の周波数温度特性データから得られた周波数温度特性補償量近似式に基づき補償す
る。つまり、周波数電圧制御回路に周波数補償用の容量を生成させ、この容量値で前記周
波数偏差を補償するように機能する恒温型圧電発振器を構成した。温度制御部の設定温度
Tovを一定値に設定し、圧電振動子の頂点温度Tpと設定温度Tovと入力するだけで
、温度差(Tp−Tov)による周波数温度特性の周波数偏差を、演算回路が補償電圧発
生回路に補償電極電圧を発生させ、この電圧で周波数補償用の容量を生成させて周波数偏
差を補償するので、調整工程を自動化できて、個々の温度制御部の調整を省け、大幅な工
数削減となるという効果がある。
【0009】
[適用例2]また恒温型圧電発振器は、前記圧電振動子が水晶振動子であることを特徴
とする適用例1に記載の恒温型圧電発振器である。
【0010】
圧電振動子に水晶振動子を用いることにより、製造する際のマウント時のストレス(歪
)のバラツキ、温度変化による歪、経年変化による歪の変化等が生じた場合に、周波数変
化が少ないカット角の水晶振動子を用いることができる。
【0011】
[適用例3]また恒温型圧電発振器は、前記周波数温度特性補償量近似式が、前記温度
差(Tp−Tov)に関する一次式多項式で近似されることを特徴とする適用例1又は2
に記載の恒温型圧電発振器である。
【0012】
周波数温度特性補償量近似式を一次式多項式で近似することにより、恒温型圧電発振器
の周波数温度特性を満たしつつ、補償電圧発生回路の構成が簡素化でき、且つ温度制御部
の調整工数が大幅に削減できるという効果がある。
【0013】
[適用例4]また恒温型圧電発振器は、前記周波数温度特性補償量近似式が、前記温度
差(Tp−Tov)に関する三次多項式で近似されることを特徴とする適用例1又は2に
記載の恒温型圧電発振器である。
【0014】
周波数温度特性補償量近似式を三次式多項式で近似することにより、補償電圧発生回路
の構成が一次式多項式を用いた場合より複雑になるが、恒温型圧電発振器の周波数温度特
性がより改善でき、且つ温度制御部の調整工数が大幅に削減できるという効果がある。
【0015】
[適用例5]また恒温型圧電発振器は、前記周波数温度特性補償量近似式が、前記温度
差(Tp−Tov)に関する五次多項式で近似されることを特徴とする適用例1又は2に
記載の恒温型圧電発振器である。
【0016】
周波数温度特性補償量近似式を五次式多項式で近似することにより、補償電圧発生回路
の構成は複雑になるが、恒温型圧電発振器の周波数温度特性が大幅に改善でき、且つ温度
制御部の調整工数が大幅に削減できるという効果がある。
【0017】
[適用例6]恒温型圧電発振器の製造方法は、適用例1乃至5の何れかに記載の恒温型
圧電発振器の製造方法であって、前記圧電振動子の頂点温度Tpを測定する圧電振動子測
定工程と、前記温度制御部の設定温度Tovを設定する温度制御部調整工程と、前記周波
数温度特性補償量近似式に基づいて作成される逆温度特性補償量近似式の各係数を求める
工程と、該各係数をインターフェース回路を介して前記演算回路に入力する工程と、前記
演算回路からの信号により前記補償電圧発生回路に周波数温度特性補償電圧を生成させる
工程と、前記恒温型圧電発振器の周波数を調整する工程と、を有すること特徴とする恒温
型圧電発振器の製造方法である。
【0018】
予め、温度制御部の設定温度を一定にした多数の恒温型圧電発振器の周波数温度特性デ
ータを測定して、高温Thにおける周波数偏差dF/F|Thと低温Tlにおける周波数
偏差dF/F|Tlとの差(dF/F|Th−dF/F|Tl)と、(Tp−Tov)と
の関係式、即ち周波数温度特性補償量近似式を求め、この関係式の逆特性の逆温度特性補
償量近似式を求めておく。
圧電振動子の頂点温度Tpを測定し、温度制御部の設定温度Tovを設定し、このデー
タTp、Tovを入力して、逆温度特性補償量近似式の各係数を求め、この各係数を演算
回路のメモリに格納する。演算回路はメモリに格納された各係数に基づき、周波数電圧制
御回路の補償電圧を発生させ、この電圧により周波数を補償する容量を生成する。このよ
うに、周波数温度特性補償量近似式を求めておけば、TpとTovの入力だけで恒温型圧
電発振器の調整が完了するので、調整工数を大幅に削減できる製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る恒温型圧電発振器1と補償方法の構成を示す概略ブロック図。
【図2】SCカットの一例の切断角度を示す模式図。
【図3】SCカット水晶振動子の周波数−リアクタンス曲線。
【図4】周囲温度の時間変化と、そのときの恒温型圧電発振器の周波数温度特性を示す図。
【図5】周囲温度の時間変化と、そのときの恒温槽の内部温度の変化を示す図。
【図6】SCカット水晶振動子の周波数温度特性と、恒温槽の設定温度範囲。
【図7】頂点温度Tpと恒温槽の設定温度Tovとの差により、恒温槽の温度変動による周波数偏差の変化傾向を示す図。
【図8】頂点温度Tpと設定温度Tovとの温度差と、70℃及び−10℃における各周波数偏差の差と、の分布図を一次関数で近似した場合の図。
【図9】頂点温度Tpと設定温度Tovとの温度差と、70℃及び−10℃における各周波数偏差の差と、の分布図を三次関数で近似した場合の図。
【図10】頂点温度Tpと設定温度Tovとの温度差と、70℃及び−10℃における各周波数偏差の差と、の分布図を五次関数で近似した場合の図。
【図11】周波数温度特性補償量近似式から逆特性の逆温度特性補償量近似式を求めた場合の、一次関数式、三次関数式、五次関数式の各式と係数。
【図12】従来の恒温槽型圧電発振器の構成を示すブロック図。
【図13】従来の温度補償回路のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明の一実施
形態に係る恒温型圧電発振器1の構成を示す概略ブロック図である。
恒温型圧電発振器1は、圧電振動子Y1と、圧電振動子Y1を励振するための発振回路
10と、圧電振動子Y1と発振回路10とからなる圧電発振器の発振周波数を電圧により
制御する周波数電圧制御回路7と、圧電振動子Y1の温度を一定に保持する温度制御部8
と、入力される情報を処理し周波数電圧制御回路に信号を供給する演算回路6と、を備え
た恒温型圧電発振器である。
温度制御部8は、圧電振動子Y1の近傍の温度を感知する感温素子8aと、圧電振動子
Y1を加熱する発熱体8bと、感温素子8aの温度信号に基づき発熱体8cの温度を所定
の温度に制御する温度制御回路8cと、を有している。
周波数電圧制御回路7は、電圧により容量値が可変する複数の容量素子を含む電圧可変
容量回路7bと、演算回路6からの情報により電圧可変容量回路7bに印加する電圧を生
成する補償電圧発生回路と、を有している。
演算回路6は、圧電振動子Y1の零温度係数温度(頂点温度)Tpと温度制御部8の設
定温度Tovとの温度差によって生じる恒温型圧電発振器1の周波数温度特性における周
波数偏差を、周波数温度特性補償量近似式3の逆特性を有する逆温度特性補償量近似式4
に基づいて、補償電圧発生回路7aに前記周波数偏差を補償する電圧を生成させ、該電圧
を電圧可変容量回路7bに印加して出力周波数を補償するように構成された恒温型圧電発
振器である。
なお、恒温型圧電発振器1は、周波数可変入力端子12に外部から与える電圧Vfによ
り、中心周波数を僅かに変化させる容量素子を電圧可変容量回路7bに有しており、周波
数は出力周波数端子14から出力される。
【0021】
従来、恒温型圧電発振器(恒温槽型高安定圧電発振器)には、図2に一例を示すような
二回回転カット水晶基板を用いた水晶振動子が使用されている。SCカット水晶振動子を
一例として説明する。SCカット(Stress Compensated Cut)水晶振動子は、図2に示す
ように、X軸の回りにθ(約34度)回転し、更にZ’軸の回りにφ(約22度)回転し
て切り出した水晶基板を所定の厚さに研磨し、その両主表面に励振電極を付着して形成し
た振動子である。SCカット水晶振動子には、図3に示すようにCモード、Bモード、A
モードの3つの振動モードが励振され、この3つのモードの中でCモードを用いて水晶発
振器を構成する。Cモードの変曲点の一例は、ATカット水晶振動子の変曲点の一例が約
27.5度であるのに対し、約95度と高温側にあり、恒温槽を用いて構成する高安定水
晶発振器に適している。なお、変曲点は切断角φの大きく依存している。
SCカット水晶振動子の極大値であり、且つ零温度係数の頂点温度Tpをバラツキの少
ないように、高精度で製作する必要がある。さらに、SCカット水晶振動子を収容する恒
温槽の設定温度を頂点温度Tpに高精度で調整する必要がある。頂点温度TpはSCカッ
ト水晶振動子毎に僅かに異なるため、SCカット水晶振動子の頂点温度Tp毎に恒温槽の
温度を調整するのは工数の掛かる作業であった。
【0022】
そこで、設定温度を一定にした恒温槽に、頂点温度Tpを選別していないSCカット水
晶振動子を収容した恒温型圧電発振器の周波数温度特性の測定を試みた。図4は、横軸を
経過時間(h)とし、縦軸の一方(図中左側)を周波数偏差dF/F(=(F−F/F
)でFは中心周波数)とし、縦軸の他方(図中右側)を周囲温度Ta(℃)とした。
恒温槽の周囲温度Taを常温に保持した後、常温から−10℃まで低下させて所定の時間
保持した後、周囲温度Taを70℃まで時間をかけて上昇させ、70℃に所定の時間保持
した後、常温に戻した。曲線C1はその時の経過時間と恒温槽の周囲温度Taとの関係を
示す曲線である。
曲線群C2は、個々の恒温型圧電発振器の周囲温度Taに対する周波数偏差dF/F(
×10−9)を示している。
【0023】
図5は恒温槽の周囲温度Taと内部温度Tovとの関係を示す図である。横軸を経過時
間(h)とし、縦軸の一方(図中左側)を恒温槽の設定温度と内部温度Tovとの温度差
とし、縦軸の他方(図中右側)を周囲温度Ta(℃)とした。恒温槽の周囲温度Taを常
温に保持した後、常温から−10℃まで低下させて所定の時間保持した後、周囲温度Ta
を70℃まで上昇させ、70℃に所定の時間保持した後、常温に戻した。曲線C1はその
時の経過時間と恒温槽の周囲温度Taとの関係を示す曲線である。
曲線C3は周囲温度Taの変化に対する恒温槽の設定温度と内部温度Tovとの温度差
の変化を示す図である。常温では恒温槽の設定温度と内部温度Tovとの温度差は零であ
るが、周囲温度Taが−10℃では、温度差はマイナス側に0.5℃程度変動し、周囲温
度Taが70℃では、温度差はプラス側に1℃程度変動している。つまり、恒温槽の内部
温度Tovは、周囲温度Taの変化により僅かに変動し、周囲温度Taが低温では、内部
温度Tovは設定温度より僅かに低く、周囲温度Taが高温では、内部温度Tovは設定
温度より僅かに高くなる。
【0024】
図6はSCカット水晶振動子の周波数温度特性曲線を示す図であり、変曲点の近傍の周
波数温度特性を示している。SCカット水晶振動子の周波数温度特性曲線の極大値の温度
、即ち零温度係数温度(頂点温度Tp)に、恒温槽の温度Tovを設定するのが望ましい
。つまり、図6の周波数温度特性曲線の領域Aに設定することが望ましい。しかし、設定
温度Tovを頂点温度Tpより低温度側の領域Bに設定する場合と、頂点温度Tpより高
温度側の領域Cに設定する場合とでは、恒温槽の内部温度Tovが、周囲温度Taの変化
により図5に示すように僅かに変動した場合に、恒温型圧電発振器の周波数変化の様子が
異なる。
図6は、横軸を周囲温度Tとし、縦軸をSCカット水晶振動子の周波数偏差としたとき
、周囲温度Tの僅かの変化に対するSCカット水晶振動子の周波数変化を示す図である。
恒温槽の内部温度TovをSCカット水晶振動子の頂点温度Tp、図6の領域Aに設定し
た場合は、内部温度Tovが僅かに変動しても恒温型圧電発振器の周波数偏差dF/Fは
、図7の曲線Cのように変化しない。恒温槽の内部温度Tovを頂点温度Tpより低温
側、図6の領域Bに設定した場合は、内部温度Tovが僅かに上昇すると、恒温型圧電発
振器の周波数偏差dF/Fは、図7の曲線Cのように内部温度Tovと共に増加なる。
また、内部温度Tovを頂点温度Tpより高温側、図6の領域Cに設定した場合は、内部
温度Tovが僅かに上昇すると周波数偏差dF/Fは、図7の曲線Cのように内部温度
Tovが僅かに上昇すると、逆に減少する。
逆に、設定温度Tovを一定にした高温槽に、頂点温度TpがばらつくSCカット水晶
振動子を収容して構成した恒温型圧電発振器の周波数偏差の変化は、上記のと同様である

【0025】
図4に示した恒温型圧電発振器の周波数温度特性を検討し直してみた。SCカット水晶
振動子の頂点温度Tpと、恒温槽の設定温度(内部温度)Tovとの温度差(Tp−To
v)を横軸とし、70℃における恒温型圧電発振器の周波数偏差dF/F_70℃と、−
10℃における周波数偏差周波数偏差dF/F_−10℃と、の差(dF/F_70℃−d
F/F_−10℃)を縦軸として、図4に示した周波数温度特性のデータをプロットし直
した図が、図8である。図8より温度差(Tp−Tov)と、周波数偏差の差(dF/F
_70℃−dF/F_−10℃)との間には強い相関があることを見出した。図8は、この
相関を一次関数で近似した例である。図8から周波数偏差の差(dF/F_70℃−dF
/F_−10℃)を補償すれば、恒温槽の設定温度Tovを、SCカット水晶振動子の頂
点温度Tpに合わせ込まなくとも、恒温型圧電発振器の周波数温度特性を所望の安定度内
に調整できることを想致した。
多数のSCカット水晶振動子の頂点温度Tpを測定し、その頂点温度の平均値の温度に
恒温槽の温度Tovを設定する。SCカット水晶振動子個々の頂点温度Tpを測定し、温
度差(Tp−Tov)を求める。温度差(Tp−Tov)を図8の横軸に当てはめると、
横軸より恒温型圧電発振器に生じる周波数偏差の差(dF/F_70℃−dF/F_−10
℃)が推定される。恒温型圧電発振器の周波数温度特性を所望の安定度内に収めるには、
推定された(dF/F_70℃−dF/F_−10℃)を零にすればよい。つまり、恒温型
圧電発振器の発振周波数を−(dF/F_70℃−dF/F_−10℃)だけ補償してやれ
ばよい。
そこで、図8の周波数温度特性補償近似曲線K1の逆特性の逆温度特性補償量近似式を
求め、この逆温度特性補償量近似式に頂点温度Tpと設定内部温度Tovとを入れて周波
数補償量を求め、恒温型圧電発振器の発振周波数に加算してやればよい。
【0026】
図9は、温度差(Tp−Tov)と周波数偏差の差(dF/F_70℃−dF/F_−1
0℃)との関係を三次関数K3で近似した場合であり、図10は五次関数K5で近似した
場合である。関数の次数を上げるほど近似の精度の度合いが上がり、恒温型圧電発振器の
周波数偏差を零に近づけることができるが、回路で関数を実現する際に回路が複雑になる

図1に示した周波数温度特性補償量近似式3を、図8〜10に示した一次関数近似式K
1、三次関数近似式K3、五次関数近似式K5の何れかを使って求め、求めた式の逆特性
を逆温度特性補償量近似式4とする。ここで逆特性とは、例えば図8の一次関数近似式K
1がY=αX+β(ここで、X=(Tp−Tov)、Y=dF/F_70℃−dF/F_−
10℃)で表わせるとしたとき、Yを−yに、Xをxに置き換えた式をいう。つまり、y
=−(αX+β)(ここで、x=(Tp−Tov)、y=dF/F_70℃−dF/F_−
10℃)を、Yの逆特性という。三次関数近似式、五次関数近似式についても同様である

【0027】
逆温度特性補償量近似式4を多項式で表わしたときの各係数、例えば五次式の場合は、
五次の係数をf、四次の係数をe、三次の係数をd、二次の係数をc、一次の係
数をb、定数項をaとして、各係数f、e、d、c、b、aをPC(パ
ーソナルコンピューター)等から、恒温型圧電発振器1のインターフェース回路5に出力
し、演算回路6のメモリに各係数f、e、d、c、b、aを格納する。周波
数電圧制御回路7の補償電圧発生回路7aはメモリに格納された係数f、e、d
、b、aに基づいて五次関数の電圧を発生させ、この電圧を電圧可変容量回路7
bに印加する。電圧可変容量回路7bは印加された電圧に応じた容量値を呈し、この容量
値が圧電振動子Y1と直列に接続されているので、圧電振動子Y1と発振回路10とから
なる圧電振動子の発振器周波数を可変する。この周波数可変量は、例えば図10の温度差
(Tp−Tov)に対応する周波数偏差の差(dF/F_70℃−dF/F_−10℃)に
対し負号を付けた周波数変化量であり、温度差(Tp−Tov)により生じる周波数偏差
を零に補償するように動作する。
【0028】
温度制御部の設定温度Tovを、圧電振動子の頂点温度Tpの平均値である一定温度に
設定する。頂点温度Tpと設定温度Tovとの温度差による恒温型圧電発振器の周波数温
度特性の周波数偏差を求める。この周波数偏差を、多くの恒温型圧電発振器の周波数温度
特性データから得られた周波数温度特性補償量近似式3に基づき補償する。つまり、周波
数電圧制御回路7に周波数補償用の容量を生成させ、この容量値で前記の周波数偏差を補
償するように機能する恒温型圧電発振器を構成する。
温度制御部の設定温度Tovを一定値に設定し、圧電振動子の頂点温度Tpと設定温度
Tovと入力するだけで、温度差(Tp−Tov)による周波数温度特性の周波数偏差を
、演算回路6が補償電圧発生回路7aに補償電極電圧を発生させ、この電圧で周波数補償
用の容量を生成させて周波数偏差を補償するので、調整工程を自動化でき、個々の温度制
御部の調整を省け、大幅な工数削減となるという効果がある。
また、圧電振動子Y1にSCカット水晶振動子を用いることにより、製造する際のマウ
ント時のストレス(歪)のバラツキ、温度変化による歪、経年変化による歪の変化等が生
じた場合に、他のカットの水晶振動子に比べて周波数変化が少ないという効果がある。
【0029】
図11は、逆温度特性補償量近似式4を表わす一次関数、三次関数、五次関数を示した
式である。但しxはSCカット水晶振動子の頂点温度Tpと高温槽の設定温度Tovの温
度差を表わし、yは周波数温度特性の周波数偏差補償量を表わしている。
周波数温度特性補償量近似式3を一次式多項式で近似することにより、恒温型圧電発振
器の周波数温度特性を満たしつつ、補償電圧発生回路の構成が簡素化でき、且つ温度制御
部の調整工数が大幅に削減できるという効果がある。
また、周波数温度特性補償量近似式3を三次式多項式で近似することにより、補償電圧発
生回路の構成が一次式多項式を用いた場合より複雑になるが、恒温型圧電発振器の周波数
温度特性がより改善でき、且つ温度制御部の調整工数が大幅に削減できるという効果があ
る。
また、周波数温度特性補償量近似式を五次式多項式で近似することにより、補償電圧発
生回路の構成は複雑になるが、恒温型圧電発振器の周波数温度特性が大幅に改善でき、且
つ温度制御部の調整工数が大幅に削減できるという効果がある。
【0030】
本発明に係る製造方法は、上記の恒温型圧電発振器の製造方法であって、圧電振動子Y
1の頂点温度Tpを測定する圧電振動子測定工程と、温度制御部8の設定温度Tovを設
定する温度制御部調整工程と、周波数温度特性補償量近似式3に基づいて作成される逆温
度特性補償量近似式4の各係数を求める工程と、この各係数をインターフェース回路5を
介して演算回路6に入力する工程と、演算回路6からの信号により補償電圧発生回路7a
に補償電圧を生成させる工程と、この電圧により電圧可変容量回路7bに容量を生成する
工程と、この容量の容量値により、恒温型圧電発振器の周波数を調整する工程と、を有す
る恒温型圧電発振器の製造方法である。
予め、温度制御部8の設定温度Tovを一定にした多数の恒温型圧電発振器1の周波数
温度特性データを測定して、高温Thにおける周波数偏差dF/F|Thと低温Tlにお
ける周波数偏差dF/F|Tlとの差(dF/F|Th−dF/F|Tl)と、(Tp−
Tov)との関係式、即ち周波数温度特性補償量近似式3を求め、この関係式の逆特性の
逆温度特性補償量近似式4を求めておく。
圧電振動子Y1の頂点温度Tpを測定し、温度制御部8の設定温度Tovを設定し、こ
のデータTp、Tovを入力して、逆温度特性補償量近似式4の各係数を求め、この各係
数を演算回路のメモリに格納する。演算回路8はメモリに格納された各係数に基づき、周
波数電圧制御回路7に補償電圧を発生させ、この電圧により周波数を補償する容量を生成
する。このように、周波数温度特性補償量近似式3を求めておけば、TpとTovの入力
だけで恒温型圧電発振器の調整が完了するので、調整工数を大幅に削減できる製造方法で
ある。
なお、SCカット水晶振動子を例示して説明したが、本願発明は他のカット角を有する
水晶振動子でも実施可能である。
【符号の説明】
【0031】
1…恒温型圧電発振器、3…周波数温度特性補償量近似式、4…逆温度特性補償量近似式
、Y1…圧電振動子、5…IF回路、6…演算回路、7…周波数電圧制御回路、7a…補
償電圧発生回路、7b…電圧可変容量回路、8…温度制御部、8a…感温素子、8b…発
熱体、8c…温度制御回路、10…発振回路、12…周波数可変入力端子、14…出力周
波数端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電振動子と、前記圧電振動子を励振する発振回路と、発振周波数を電圧により制御す
る周波数電圧制御回路と、前記圧電振動子の温度を一定に保持する温度制御部と、入力さ
れる情報を処理し前記周波数電圧制御回路に信号を供給する演算回路と、を備えた恒温型
圧電発振器であって、
前記温度制御部は、温度を感知する感温素子と、前記圧電振動子を加熱する発熱体と、
前記感温素子の温度信号に基づき前記発熱体の温度を制御する温度制御回路と、を有し、
前記周波数電圧制御回路は、電圧により容量値が可変する電圧可変容量回路と、補償電
圧発生回路と、を有し、
前記演算回路は、前記圧電振動子の零温度係数温度Tpと前記温度制御部の設定温度T
ovとの温度差による周波数偏差を補償する周波数温度特性補償量近似式に基づいて、前
記補償電圧発生回路に前記周波数偏差を補償する電圧を生成させ、該電圧を前記電圧可変
容量回路に印加し周波数を補償することを特徴とする恒温型圧電発振器。
【請求項2】
前記圧電振動子が水晶振動子であることを特徴とする請求項1に記載の恒温型圧電発振
器。
【請求項3】
前記周波数温度特性補償量近似式は、前記温度差(Tp−Tov)に関する一次多項式
で近似されることを特徴とする請求項1又は2に記載の恒温型圧電発振器。
【請求項4】
前記周波数温度特性補償量近似式は、前記温度差(Tp−Tov)に関する三次多項式
で近似されることを特徴とする請求項1又は2に記載の恒温型圧電発振器。
【請求項5】
前記周波数温度特性補償量近似式は、前記温度差(Tp−Tov)に関する五次多項式
で近似されることを特徴とする請求項1又は2に記載の恒温型圧電発振器。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載の恒温型圧電発振器の製造方法であって、
前記圧電振動子の頂点温度Tpを測定する圧電振動子測定工程と、
前記温度制御部の設定温度Tovを設定する温度制御部調整工程と、
前記周波数温度特性補償量近似式に基づいて作成される逆温度特性補償量近似式の各係
数を求める工程と、
該各係数をインターフェース回路を介して前記演算回路に入力する工程と、
前記演算回路からの信号により前記補償電圧発生回路に補償電圧を生成させる工程と、
前記恒温型圧電発振器の周波数を調整する工程と、
を有すること特徴とする恒温型圧電発振器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−205166(P2011−205166A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67497(P2010−67497)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】