説明

患者用椅子及び該患者用椅子を備える歯科ユニット

【課題】構造が簡易で、動作の信頼性が高く、自動にレッグレストに対して延長する方向、及びその逆方向に移動させることができるフットレストを備える患者用椅子を提供する。
【解決手段】上下動可能に設けられた着座部(12)と、着座部に対して回動して傾倒起立可能である背もたれ(13)と、着座部に対して回動可能であるレッグレスト(15)と、レッグレストを延長する方向及びその逆方向に移動可能とされるフットレスト(30)と、を備え、フットレストの移動方向のうち、いずれか一方向にフットレストを付勢して該フットレストを一方向に移動可能とする付勢手段(55)と、レッグレストの回動に連動し、付勢手段の付勢力によるフットレストの移動を規制する移動規制機構(60)と、を備えるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科において患者が着座する患者用椅子、及び該患者用椅子を備えた歯科ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
歯科ユニットに備えられる患者用椅子は、着座部、背もたれ、ヘッドレスト、及びレッグレストを具備している。当該患者用椅子は治療の利便のため、患者を仰向けの姿勢にする目的で、着座部は昇降自在に、背もたれは傾倒、起立できるように構成されている。そして、患者の姿勢の変更に追随するように、レッグレストも略鉛直の姿勢から水平の姿勢に連続的に傾斜を変更する(回動する)ことが可能とされている。
【0003】
上記のレッグレストは、患者の膝より下の脚部分をサポートするように備えられているので、患者の着座の姿勢では、概ね鉛直の姿勢である。しかしレッグレストでは、患者を仰向けの姿勢にするに際し、かかと部分を含む足先を支えることができないことがある。
【0004】
これに対して、例えば特許文献1には前垂れ(レッグレスト)を水平にしたときに前垂れから伸縮前垂れが伸長する発明が開示されている。これによれば、患者を仰向けの姿勢したときに、自動に伸縮前垂れが伸長して患者の足先をサポートすることができ、着座の姿勢に変更するに従って伸縮前垂れも、自動に短くすることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−122385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の患者用椅子の伸縮前垂れでは、伸縮の量をセンサで検出し、検出信号を演算する等して制御しており、その構成が複雑で、各種制御回路が必要であった。
【0007】
これに対して本発明は、このような従来技術に鑑み、構造が簡易で、動作の信頼性が高く、自動にレッグレストに対してこれを延長する方向、及びその逆方向に移動させることができるフットレストを備える患者用椅子、及び該患者用椅子を有する歯科ユニットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0009】
請求項1に記載の発明は、上下動可能に設けられた着座部(12)と、着座部に対して回動して傾倒起立可能である背もたれ(13)と、着座部に対して回動可能であるレッグレスト(15)と、レッグレストを延長する方向及びその逆方向に移動可能とされるフットレスト(30)と、を備え、フットレストの移動方向のうち、いずれか一方向にフットレストを付勢して該フットレストを一方向に移動可能とする付勢手段(55)と、レッグレストの回動に連動し、付勢手段の付勢力によるフットレストの移動を規制する移動規制機構(60)と、を備える患者用椅子(10)を提供することにより前記課題を解決する。
【0010】
請求項2に記載の発明は、上下動可能に設けられた着座部(12)と、着座部に対して回動して傾倒起立可能である背もたれ(13)と、着座部に対して回動可能であるレッグレスト(15)と、レッグレストを延長する方向及びその逆方向に移動可能とされるフットレスト(30)と、を備え、フットレストの移動方向のうち、いずれか一方向にフットレストを付勢して該フットレストを一方向に移動可能とする付勢手段(55)と、レッグレストの回動に連動し、付勢手段の付勢力によるフットレストの移動を規制する移動規制機構(60)と、を具備し、移動規制機構は、一端側がレッグレストに、他端側がフットレストに固定されるワイヤ(W1)と、レッグレストの回動に連動してワイヤの巻上げ及び巻き戻しを可能とするワイヤ巻上げ機構(61、63、70)と、を有し、ワイヤの巻上げのときには、ワイヤ巻上げ機構の巻上げ力によりフットレストを一方向とは反対の方向に移動させ、ワイヤの巻き戻しのときには、ワイヤ巻上げ機構がフットレストの移動を抑制しつつも該フットレストが付勢手段の付勢力により一方向に移動する、患者用椅子(10)を提供することにより前記課題を解決する。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の患者用椅子(10)において、移動規制機構(60)のワイヤ巻上げ機構(61、63、70)が、レッグレスト(15)の回動に連動するカム部材(70)と、カム部材に設けられた動滑車(61)と、レッグレストに固定された滑車(63)と、を有し、ワイヤ(W1)の一端側が動滑車又は滑車に固定されるとともに、該動滑車と滑車とに掛け渡され、ワイヤの他端側はフットレストに固定され、動滑車と滑車との距離が離隔することによりワイヤの巻上げがなされ、動滑車と滑車との距離が近づくことによりワイヤの巻き戻しがなされることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は3に記載の患者用椅子(10)において、フットレスト(30)に固定されるワイヤ(W1)の他端側と、ワイヤ巻上げ機構(61、63、70)との間に、ワイヤが掛けられるさらなる他の滑車(69)が設けられ、他の滑車は、フットレストの移動方向とは異なる方向に移動可能であるとともに、異なる方向にワイヤを引っ張ることが可能であるように付勢されていることを特徴とする。
【0013】
これによれば、フットレストの移動が完了した後に、さらにレッグレストの回動が継続されてワイヤが巻き戻されても、他の滑車が付勢力により移動し、ワイヤが緩むことを防止することができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の患者用椅子(10)において、フットレスト(30)は、レッグレスト(15)の回動の完了より前に、その延長する方向への移動を完了し、当該フットレストの移動の完了後のさらなるレッグレストの回動において巻き戻されるワイヤ(W1)は、他の滑車(69)の移動により引っ張られることを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の患者用椅子(10)と、歯科用照明(2)と、ドクターユニット(6)とを備える歯科ユニット(1)を提供することにより前記課題を解決する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の患者用椅子、及びこれを備える歯科ユニットによれば、構造が簡易で、動作の信頼性が高く、自動にレッグレストに対してこれを延長する方向、及びその逆方向に移動させることができるフットレストを備えるものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】1つの実施形態に係る患者用椅子を備える歯科ユニットの側面図である。
【図2】図1に示した患者用椅子の変形の様子を表した図である。
【図3】図2(c)にIIIで示した矢印方向から見た図である。
【図4】図3にIVで囲んだ部分を拡大して示した図である。
【図5】図4を紙面右側から見た図である。
【図6】移動機構の動作を説明するための図で、図2(a)に示した患者用椅子の姿勢におけるレッグレスト、フットレスト、及び移動機構を表した図である。
【図7】図6を紙面右側からみた図(図7(a))、及びその一部を拡大して示した図である(図7(b))である。
【図8】移動機構の動作を説明するための図で、図2(b)に示した患者用椅子の姿勢におけるレッグレスト、フットレスト、及び移動機構を表した図である。
【図9】図8を紙面右側からみた図(図9(a))、及びその一部を拡大して示した図である(図9(b))である。
【図10】移動機構の動作を説明するための図で、図2(c)に示した患者用椅子の姿勢におけるレッグレスト、フットレスト、及び移動機構を表した図である。
【図11】図10を紙面右側からみた図(図11(a))、及びその一部を拡大して示した図である(図11(b))である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の上記した作用及び利得は、次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。以下、本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。ただし本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。
【0019】
図1は、1つの実施形態に係る患者用椅子10を備える歯科ユニット1を側面から見た図である。
歯科ユニット1は、患者用椅子10を有し、その上方には、歯科用照明2が設けられている。さらに、患者用椅子10の脇には、スピットン4、ドクターユニット6、及びアシスタントユニット9がそれぞれ配置されている。
【0020】
患者用椅子10は、基台11、着座部12、背もたれ13、ヘッドレスト14、レッグレスト15、及びフットレスト30を備えている。
【0021】
基台11は着座部12の下方に配置されており、筐体により外郭が形成されるとともに、該筐体内に各種制御機器が内包されている。ここに含まれる機器は特に限定されるものではないが、例えば着座部12を昇降、背もたれ13を傾倒起立させる等を目的とした油圧回路、該油圧回路を制御する制御手段等を挙げることができる。
【0022】
着座部12は、基台11の上方に該基台11に昇降可能に取り付けられている。着座部12の昇降は、基台11内に収められた油圧回路により行われる。具体的には、図1に符号11aで示したスイッチ11aを施術者が操作し、その操作指令を受けた制御回路が、上記油圧回路に組み込まれた油圧シリンダを適切に作動させることで当該着座部12の昇降が行われる。そして上記背もたれ13、ヘッドレスト14、レッグレスト15、及びフットレスト30は着座部12と一体に昇降させることができる。
【0023】
背もたれ13は、着座部12の一端側を軸に回動可能に設けられている部材で、患者の胴部をサポートするものである。背もたれ13は、患者が着座の姿勢、仰向けの姿勢になることができるように傾倒、起立が可能とされている。背もたれ13の傾倒起立は、基台11内から連結される油圧回路により行われる。具体的には、図1に符号11aで示したスイッチ11aを施術者が操作し、その操作指令を受けた制御回路が、上記油圧回路に組み込まれた油圧シリンダを適切に作動させることで当該背もたれ13の傾倒起立が行われる。
【0024】
ヘッドレスト14は、背もたれ13の端部のうち、着座部12が配置される側とは反対側の端部に配置される部材で、患者の頭部をサポートする部材である。ヘッドレスト14は、患者の頭部位置を施術に都合がよい姿勢になるように、図1に矢印A、Bで示した方向に移動、回動可能に形成されている。ヘッドレスト14のこのような動作は基台11内から連結される油圧回路により行われる。具体的には、図1に符号11aで示したスイッチ11aを施術者が操作し、その操作指令を受けた制御回路が、上記油圧回路に組み込まれた油圧シリンダを適切に作動させることでヘッドレスト14が作動する。
【0025】
レッグレスト15は、着座部12の端部のうち、上記背もたれ13が配置される側に対向する端部側を軸に回動可能に設けられている部材で、患者の脚部をサポートするものである。レッグレスト15は、背もたれ13の傾倒、起立の姿勢に合わせて鉛直、水平の姿勢となることができるように回動可能である。このようなレッグレスト15の回動は、基台11内から連結される油圧回路により行われる。具体的には、図1に符号11aで示したスイッチ11aを施術者が操作し、その操作指令を受けた制御回路が、上記油圧回路に組み込まれた油圧シリンダを適切に作動させることでレッグレスト15が回動する。
【0026】
フットレスト30は、レッグレスト15から該レッグレスト15を延長する方向、及びその逆方向に移動可能に設けられている部材で、患者の仰向けの姿勢において該患者の足先をサポートするものである。図2に当該フットレスト30が移動する場面を模式的に表した。図2(a)が着座の姿勢、図2(c)が患者の仰向けの姿勢への変更が完了した場面である。図2(a)に示した着座の状態では、フットレスト30はレッグレスト15に重なっており、レッグレスト15から突出していない姿勢をとる。図2(a)に示した姿勢から背もたれ13を傾倒させ、レッグレスト15を水平に近い状態に回動させると、フットレスト30がこれに合わせてレッグレスト15を延長するように移動する。ここで、図2(b)に示したように、背もたれ13、レッグレスト15の回動が完了する前にフットレスト30の移動は終了する。そして、当該フットレスト30は、その姿勢を維持したまま、背もたれ13とレッグレスト15の回動が進行して図2(c)に示した姿勢に至って変形が完了する。
【0027】
このように、フットレスト30はレッグレスト15を延長する方向に移動する。一方、背もたれ13を起立させると、上記を遡るようにフットレスト30がレッグレスト15に重なる方向に移動する。これにより患者が着座の姿勢では不要であり、患者の仰向けの姿勢にすることで必要となるフットレスト30を適切に突出させたり、収納させたりすることができる。
【0028】
フットレスト30の上記の動作は、油圧回路等、センサ、制御回路を必要とすることなく、かつ、自動に行われる。どのような機構によりフットレスト30が移動するかについては後で詳しく説明する。
【0029】
図1に戻り、歯科ユニット1に備えられる他の部材について説明する。歯科用照明2は、治療を行うときに的確に患者の口腔内を照明することができるように、自在継ぎ手等により自由度高く移動回動可能なアーム3を介して取り付けられている。従って、歯科用照明2は、その位置、角度を調整することにより施術者は患者の口腔内を適切に観察することができる。
【0030】
スピットン4は、患者用椅子10の一方の側面側に配置され、治療中や治療後に患者がうがいをして、口腔内を洗浄するときに使用するものである。従って、スピットン4は、うがい水を供給する不図示のうがい水供給部と、うがいした後の口腔内の水を吐き捨てるための鉢部5とを有している。そして鉢部5に排出された唾液や水は、ウオーターユニット中の排水トラップを介して排出される。
【0031】
ドクターユニット6は、患者用椅子10の側面側のうち、スピットン4が配置される側とは反対側に設けられ、前後方向(図1の紙面左右方向)に移動可能に取り付けられている。ドクターユニット6の上面には、映像表示装置7が備えられている。ここには、施術者、及び患者が必要とする各種データやレントゲン等の画像、映像を表示することができる。また、ドクターユニット6の側面には操作パネルが具備されており、これらを操作することにより、歯科用照明2の点灯、消灯、モードの切り替え、各種設定等が可能とされている。
【0032】
さらに、ドクターユニット6には、施術者が使用する各種ハンドピース8、及びこれを収納するホルダーが設けられている。ハンドピース8としては、例えば、エアタービン、マイクロエンジ、スケーラ、シリンジ等を挙げることができる。ほとんど全てのハンドピースは、チューブ類を介して、電気回路、水回路、エア回路等と連結されている。
【0033】
アシスタントが使用する器具が設けられたアシスタントユニット9は、スピットン4と同じ側に設けられ、ドクターユニット6と同様に前後方向に移動可能に取り付けられている。アシスタントユニット9には、助手が使用するバキューム、排唾管、シリンジ等のハンドピースと、それらを収納するホルダーを有している。バキュームや排唾管は、吸引管を介してバキュームユニットに接続されている。
【0034】
次にフットレスト30の移動機構50について説明する。図3に移動機構50を説明する模式図を示した。図3は、図2に矢印IIIで示した方向からレッグレスト15及びフットレスト30を見た図である。すなわち移動機構50は、レッグレスト15及びフットレスト30の面のうち、患者の脚、足先がサポートされる面側とは反対側の面に配置されている。図3では、図3の紙面下が図2(c)の紙面右側、図3の紙面上が図2(c)の紙面左側、図3の紙面右が図2(c)の紙面手前側、図3の紙面左が図2(c)の紙面奥行き側となる向きである。
【0035】
ここで、図3からわかるように、レッグレスト15には、軸16a、16aを有する軸部材16、16が設けられ、ここが着座部12に軸着されて回動可能とされている。また、レッグレスト15の面のうち、移動機構50が配置される側の面には、レッグレスト15の当該面から所定の間隙を有して配置されるガイド板18、19が設けられている。当該レッグレスト15の面とガイド板18、19との間にフットレスト30の両端部を差し込むように配置し、フットレスト30が該間隙内を移動することができるように構成されている。
【0036】
移動機構50は、図3に表れるように、ガイド装置51、付勢手段55、及び移動規制機構としての滑車機構60を有している。以下、それぞれについて説明する。
ガイド装置51は、取り付け部材52と、軸状部材53と、軸受54と、を備えている。取り付け部材52はレッグレスト15の面に取り付けられ、該取り付け部材52からフットレストの移動方向に棒軸状の軸状部材53が延在している。軸受54はフットレスト30の面に固定され、軸状部材53が貫通できる孔が設けられている。これによりフットレスト30の移動に伴い、軸状部材53に沿って軸受54が移動し、フットレスト30の移動をガイドし、より安定性の高い移動が可能となる。
【0037】
付勢手段55は、レッグレスト側取り付け部材57と、フットレスト側取り付け部材58と、付勢装置56と、を備えている。本実施形態では付勢装置56は、ガススプリング56であり、シリンダ56a内に封入されたガスにより軸56bが付勢される。レッグレスト15に固定されたレッグレスト側取り付け部材57と、フットレスト30に固定されたフットレスト側取り付け部材58とを渡すようにガススプリング56が取り付けられる。従って、フットレスト30が突出した姿勢で、ガススプリング56の軸56bが突出した姿勢となり、付勢力は弱くなっている。そして後述するようにフットレスト30がレッグレスト15に重なるように収められた姿勢で、軸56bがシリンダ56a内に押し込まれ、強い付勢力を与えている。
【0038】
従って、本実施形態における付勢手段55は、フットレスト30の移動方向のうち、該フットレスト30をレッグレスト15に対して突出させる方向に付勢され、この付勢力によりフットレスト30をこの方向に移動させることが可能である。
ここでは、付勢装置としてガススプリングを例に挙げたがこれに限定されるものではなく、付勢力を与えることができる部材であればよい。これには例えばバネ等の弾性部材を挙げることができる。
【0039】
滑車機構60は、移動規制機構として機能する、カム板17、アーム70、レール73、動滑車61、第一滑車63、第二滑車65、第三滑車67、第四滑車69、スライド部材75、レール80、付勢滑車85、及び第一ワイヤW1、第二ワイヤW2を備えて形成されている。図4には、図3にIVで囲んだ部分の拡大図、図5には図4の紙面右側から見た側面図を示した。図3〜図5を参照しつつ滑車機構60について説明する。
【0040】
カム板17は、ワイヤ巻上げ機構の1つとされるカム部材であり、図5からわかるようにその一端は、着座部12の一部材に固定されている。また、カム板17には、レッグレスト15の軸16aが通されるとともに、アーム70の軸70aが回動自在に軸着されている。具体的な動作は後で詳しく説明する。
【0041】
アーム70は、ワイヤ巻上げ機構の1つとされる棒状のカム部材で、長手方向に直交する方向の軸線を具備する軸70aを有している。そして当該軸70aは上記したように、カム板17に回動自在に軸着されている。またアーム70は、その長手方向一端にローラ71が設けられている。該ローラ71は上記軸70aと平行な方向を軸線として回動自在に備えられており、アーム70の移動を円滑にしている。
【0042】
レール73は、ワイヤ巻上げ機構の1つとしてレッグレスト15に固定されたレールで、フットレスト30の移動方向を長手方向としている。この上をアーム70のローラ71が転動する。レール73にはその途中になだらかな凸部73aが形成されている。これは背もたれ13の回動速度に合わせて、レッグレスト15を回動させるためのものである。
【0043】
動滑車61は、ワイヤ巻上げ機構の1つとしての滑車列であり、同軸に並列された2つの滑車61a、61bを具備し、その軸62はアーム70に固定されている。従って、動滑車61はアーム70の移動に追随して移動する。
ここで軸62の軸線方向は、レッグレスト15の軸16a、16aと同じである。
【0044】
第一滑車63もワイヤ巻上げ機構の1つとしての滑車列であり、同軸に並列された3つの滑車63a、63b、63cを具備し、レッグレスト15に固定されている。第一滑車63の軸線は動滑車61の軸線と平行である。
【0045】
第二滑車65、第三滑車67は、レッグレスト15に固定され、ここに掛けられるワイヤW1をフットレスト30側に導くために設けられた滑車である。その軸線はレッグレスト15の面の法線方向である。
【0046】
一方、フットレスト30には、該フットレスト30の移動方向に直交する方向にレール80、及び該レール80に沿って移動するスライド部材75が設けられている。さらにスライド部材75には第四滑車69が配置されている。第四滑車69の軸線は第二滑車65、第三滑車67と同様レッグレスト15、フットレスト30の面の法線方向である。
【0047】
また、フットレスト30には、付勢滑車85が取り付けられている。これは、ゼンマイ等の回転による付勢手段を備えている滑車である。付勢滑車85には第二ワイヤW2が巻きつけてあり、第二ワイヤW2の端部は上記スライド部材75に固定されている。そして付勢滑車85は、レール80の長手方向端部のうち、上記アーム70が備えられる側とは反対側の端部に配置されている。従って、スライド部材75がアーム70側に配置されているときには、第二ワイヤW2は巻き出され、スライド部材75を付勢滑車85側に引き寄せようとする方向に付勢されている状態となる。
【0048】
第一ワイヤW1は、その一端が第一滑車63に固定され、これを介してレッグレスト15に取り付けられている。この第一ワイヤW1は、動滑車61と第一滑車63との間で、同軸に備えられた滑車の数に応じた回数だけ掛け渡される。ここで動滑車61及び第一滑車63をこのように複数の滑車で構成し、その回数だけ第一ワイヤW1を掛け渡すこととしたのは、後述するように動滑車61に移動量に対して、フットレスト30の移動量が決まるからである。すなわち、動滑車、及び第一滑車の同軸の滑車の数は本実施形態に限定されるものではなく、動滑車の移動量、及びこれに対する必要なフットレストの移動量を考慮して適宜設定することができる。
【0049】
さらに第一ワイヤW1は第二滑車65、第三滑車67、及び第四滑車69に掛けられて、フットレスト30の面に固定される。
【0050】
このような移動機構50により、付加的な動力源を要せず、構造が簡易で、動作の信頼性が高く、自動にレッグレストに対してこれを延長する方向、及びその逆方向に移動させることができるフットレストを備える患者用椅子10、歯科ユニット1とすることができる。
【0051】
次に、移動機構50がどのように作動し、これによりフットレスト30が移動するかについて説明する。
図6、図7は、患者用椅子10が図2(a)の姿勢であるときのレッグレスト15、フットレスト30、及び移動機構50の姿勢を表した図である。図6は、移動機構50を正面に見た図で、紙面下方が図2(a)の床面方向である。図7は、移動機構50を図6の紙面右側から見た側面図である。ここで、図7(a)は全体図、図7(b)はアーム70の周辺を拡大して示した図である。図7では紙面下が床面方向である。
図8、図9は、患者用椅子10が図2(b)の姿勢であるとき、すなわち、フットレスト30の伸長が完了した時点における、レッグレスト15、フットレスト30、及び移動機構50の姿勢を表した図である。図8は、移動機構50を正面に見た図である。図9は、移動機構50を図8の紙面右側から見た側面図である。ここで、図9(a)は全体図、図9(b)はアーム70の周辺を拡大して示した図である。図9では紙面下が床面方向である。
図10、図11は、患者用椅子10が図2(c)の姿勢であるとき、すなわち、レッグレスト15、及び背もたれ13もその回動が完了した時点における、レッグレスト15、フットレスト30、及び移動機構50の姿勢を表した図である。図10は、移動機構50を正面に見た図である。図11は、移動機構50を図10の紙面右側から見た側面図である。ここで、図11(a)は全体図、図11(b)はアーム70の周辺を拡大して示した図である。図11では紙面下が床面方向である。
以下、患者用椅子10を図2(a)に示した着座姿勢から、図2(c)の仰向け姿勢に変形させる場合の一例について説明する。
【0052】
図2(a)に示した患者の着座姿勢では、レッグレスト15、フットレスト30、及び移動機構50は図6、図7に示した姿勢にある。すなわち、レッグレスト15は着座部12に対して略垂直となっており、フットレスト30はレッグレスト15に重なるように配置されている。
この姿勢では、図7(a)、図7(b)からよくわかるように、アーム70もその長手方向が略鉛直の姿勢をとっており、アーム70のローラ71がレール73の端部のうち第一滑車63から遠い側の端部に位置している。すなわち、動滑車61と第一滑車63との距離が大きくなっているため、第一ワイヤW1の全長のうち、ここに渡されるワイヤW1が長くなる。そしてその分、図6にVIで示した部分、すなわち第三滑車67と第四滑車69との間に配置される第一ワイヤW1が短くなり、その結果、フットレスト30が第三滑車67の方に引き寄せられている。
ここで、ガススプリング56は、その軸56bがシリンダ56a内に押し込まれているので、フットレスト30をレッグレスト15から突出させようとする方向(図6の紙面下方)に付勢している。また、スライド部材75は、レール80の端部のうち付勢滑車85とは反対側に位置される。従って付勢滑車85はスライド部材75を引き寄せようとする方向(図6の左方向)に付勢している。
【0053】
このような図2、図6、図7の姿勢から背もたれ13を傾倒し始め、レッグレスト15を水平に近づけるように回転させると、レッグレスト15、フットレスト30、及びアーム70は、図7にCで示した方向に回動する。このとき、レッグレスト15及びフットレスト30は軸16aを中心に、アーム70は軸70aを中心に回動する。すると、この回動に伴ってアーム70の先端(ロール71)はレール73上を図6、図7にDで示した方向に移動する。アーム70の先端がこのように移動すると、動滑車61と第一滑車63との距離が近づく。これにより第一ワイヤW1がここから巻き戻される。ここで、フットレスト30は、ガススプリング56によって付勢されているので、当該第一ワイヤW1が巻き戻された分、ガススプリング56の付勢力によりフットレスト30が図6にEで示した方向に移動、すなわち突出し始めることができる。ただし、この移動量は、第一ワイヤW1が巻き戻された分のみであり、当該滑車機構60(移動規制機構)は依然としてフットレスト30の移動を規制している。
【0054】
このような回動、移動により患者用椅子10は、図2(b)、図8、図9に示した姿勢に達する。これは、背もたれ13、レッグレスト15の回動はまだ完了していないが、フットレスト30の突出は完了したという姿勢である。このようにフットレスト30の突出の完了を、背もたれ13、レッグレスト15の回動の完了よりも少し早くすることにより、患者のかかとを早い段階でサポートすることが可能である。
【0055】
患者用椅子10の図2(b)に示した姿勢では、図8、図9からわかるように、動滑車61と第一滑車63との距離は、上記した図6で示した姿勢よりも近づき、これに対応して第一ワイヤW1が巻き戻された分、フットレスト30が突出して第三滑車67と第四滑車69との距離が離隔している。そして、ガイド装置51の軸受54がガイド板19に引っ掛かるように接触し、フットレスト30のこれ以上の突出する移動が禁止される。
このような姿勢から背もたれ13の傾倒を続け、レッグレスト15をさらに水平に近づけるように回動させると、レッグレスト15、フットレスト30、及びアーム70は、図9に矢印Fで示した方向に回動する。ここで、レッグレスト15及びフットレスト30は軸16aを中心に、アーム70は軸70aを中心に回動する。すると、この回動に伴ってアーム70の先端(ロール71)は、レール73上をさらに図8、図9に矢印Gで示した方向に移動する。アームの先端70がこのように移動すると、動滑車61と第一滑車63との距離がさらに近づく。これによりさらに第一ワイヤW1が巻き戻される。ところが、この場合、フットレスト30の移動は既に完了し、これ以上の移動が禁止されているので、フットレスト30は移動しない。従って、このままでは第一ワイヤW1に緩みが生じてしまう。しかしながら、第一ワイヤW1は第四滑車69に掛けられるとともに、該第四滑車69は、付勢滑車85により付勢されているので、当該第一ワイヤW1の緩みに応答するように第四滑車69はスライド部材75とともに、レール80に沿って図8に矢印Hに示した方向に移動する。これにより、当該移動により必要となった長さとして、巻き戻された第一ワイヤW1の分が割り当てられ、第一ワイヤW1の緩みが適切に防止される。
【0056】
このような回動、移動により患者用椅子10は、図2(c)、図10、図11に示した姿勢に達する。これにより、背もたれ13、レッグレスト15の回動も完了する。患者用椅子10の図2(c)に示した姿勢では、動滑車61と第一滑車63との距離は、上記した図8で示した姿勢よりもさらに近づいており、スライド部材75が付勢滑車85側に引き寄せられている。これにより、図8の姿勢における第三滑車67と第四滑車69との距離よりも図10に示した当該距離の方が大きくなり、動滑車61と第一滑車63との距離が近づいた分の第一ワイヤW1をここに割り当てている。
【0057】
以上、患者用椅子10を着座の姿勢から仰向けの姿勢に変形させる場面を説明したが、図2(c)に示した仰向けの姿勢から図2(a)に示した着座の姿勢に変形させるときには、上記説明を遡るように作動する。すなわち、移動規制機構としての滑車機構60が第一ワイヤW1を巻き上げることにより、フットレスト30が図2(a)の姿勢になるように引き寄せられる。
【0058】
このように、本発明により、動力源を追加することなしに、構造が簡易で、動作の信頼性が高く、自動にレッグレストに対してこれを延長する方向、及びその逆方向に移動させることができるフットレストを備える患者用椅子10、歯科ユニット1となる。
【0059】
本実施形態では、第四滑車69をスライド部材75により、フットレスト80の移動方向に略直交する方向に移動させているが、当該移動方向はこれに限定されるものではなく特に限定されるものではない。
また、当該第四滑車69をフットレスト30に設けたが、これに限定されるものではなく、スペースが許容する限りレッグレストに設けてもよい。
【0060】
また、本実施形態では、移動規制機構として滑車機構を例に説明したが、これに限定されるものではなく、レッグレストの回動に連動し、付勢手段の付勢力によるフットレストの移動を規制するものであれば移動規制機構とすることができる。これには例えば、ワイヤを用いることなくリンク機構により構成したもの、歯車列によるもの、又はこれらを組み合わせたものを挙げることができる。
【0061】
また、本実施形態における付勢手段は、フットレストをレッグレストに対して突出させる方向に付勢するものを説明した。しかしながらこれに限定されることはなく、例えば逆にフットレストをレッグレストに重ねる方向に付勢するように付勢手段を設け、この付勢力に対して移動規制機構を設けてもよい。
【0062】
以上、現時点において実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨、又は思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う患者用椅子、及び該患者用椅子を備える歯科ユニットもまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【符号の説明】
【0063】
1 歯科ユニット
2 歯科用照明
6 ドクターユニット
9 アシスタントユニット
10 患者用椅子
11 基台
12 着座部
13 背もたれ
14 ヘッドレスト
15 レッグレスト
16 軸部材
17 カム板(カム部材)
18 ガイド板
19 ガイド板
30 フットレスト
50 移動機構
51 ガイド装置
55 付勢手段
60 滑車機構(移動規制機構)
61 動滑車(ワイヤ巻上げ機構)
63 第一滑車(滑車・ワイヤ巻上げ機構)
65 第二滑車
67 第三滑車
69 第四滑車(他の滑車)
70 アーム(カム部材・ワイヤ巻上げ機構)
75 スライド部材(ワイヤ巻上げ機構)
80 レール(ワイヤ巻上げ機構)
85 付勢滑車
W1 第一ワイヤ
W2 第二ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下動可能に設けられた着座部と、
前記着座部に対して回動して傾倒起立可能である背もたれと、
前記着座部に対して回動可能であるレッグレストと、
前記レッグレストを延長する方向及びその逆方向に移動可能とされるフットレストと、を備え、
前記フットレストの移動方向のうち、いずれか一方向に前記フットレストを付勢して該フットレストを前記一方向に移動可能とする付勢手段と、
前記レッグレストの前記回動に連動し、前記付勢手段の付勢力による前記フットレストの移動を規制する移動規制機構と、を備える患者用椅子。
【請求項2】
上下動可能に設けられた着座部と、
前記着座部に対して回動して傾倒起立可能である背もたれと、
前記着座部に対して回動可能であるレッグレストと、
前記レッグレストを延長する方向及びその逆方向に移動可能とされるフットレストと、を備え、
前記フットレストの前記移動方向のうち、いずれか一方向に前記フットレストを付勢して該フットレストを前記一方向に移動可能とする付勢手段と、
前記レッグレストの前記回動に連動し、前記付勢手段の付勢力による前記フットレストの移動を規制する移動規制機構と、を具備し、
前記移動規制機構は、
一端側が前記レッグレストに、他端側が前記フットレストに固定されるワイヤと、
前記レッグレストの前記回動に連動して前記ワイヤの巻上げ及び巻き戻しを可能とするワイヤ巻上げ機構と、を有し、
前記ワイヤの巻上げのときには、前記ワイヤ巻上げ機構の巻上げ力により前記フットレストを前記一方向とは反対の方向に移動させ、
前記ワイヤの巻き戻しのときには、前記ワイヤ巻上げ機構が前記フットレストの移動を抑制しつつも該フットレストが前記付勢手段の付勢力により前記一方向に移動する、患者用椅子。
【請求項3】
前記移動規制機構の前記ワイヤ巻上げ機構が、
前記レッグレストの回動に連動するカム部材と、
前記カム部材に設けられた動滑車と、
前記レッグレストに固定された滑車と、を有し
前記ワイヤの一端側が前記動滑車又は前記滑車に固定されるとともに、該動滑車と前記滑車とに掛け渡され、前記ワイヤの他端側は前記フットレストに固定され、
前記動滑車と前記滑車との距離が離隔することにより前記ワイヤの巻上げがなされ、前記動滑車と前記滑車との距離が近づくことにより前記ワイヤの巻き戻しがなされる、請求項2に記載の患者用椅子。
【請求項4】
前記フットレストに固定される前記ワイヤの他端側と、前記ワイヤ巻上げ機構との間に、前記ワイヤが掛けられるさらなる他の滑車が設けられ、
前記他の滑車は、前記フットレストの前記移動方向とは異なる方向に移動可能であるとともに、前記異なる方向に前記ワイヤを引っ張ることが可能であるように付勢されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の患者用椅子。
【請求項5】
前記フットレストは、前記レッグレストの回動の完了より前に、その前記延長する方向への移動を完了し、
当該フットレストの移動の完了後のさらなる前記レッグレストの回動において巻き戻される前記ワイヤは、前記他の滑車の移動により引っ張られることを特徴とする請求項4に記載の患者用椅子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の患者用椅子と、歯科用照明と、ドクターユニットとを備える歯科ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−19753(P2011−19753A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167825(P2009−167825)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】