説明

情報伝送装置及び列車制御装置

【課題】安全性が要求される列車制御装置などにおいても安全性を維持して誤り訂正符号を導入して情報を伝送する。
【解決手段】送信器2は送信データに誤り訂正用の冗長な符号を付け加えて符号付き情報を送信信号として通信路に出力する。受信器4は入力した受信信号に対する誤り訂正復号処理の過程で求めたシンドロームや誤り位置多項式の情報から受信信号に含まれていた誤りの数又は誤りの程度に関する情報を示す訂正状況データと送信信号の符号語のハミング距離の最小値から設定された誤り訂正能力の最大値を超えない大きさに設定した誤り訂正基準値とを比較し、訂正状況データが誤り訂正基準値を超えている場合、誤り訂正復号処理した受信データを出力しないで、誤り訂正能力に対して実際に誤り訂正を行う数を制限して誤り検出にとどめて通信の安全性と信頼性を高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、安全性と信頼性が求められる通信システム、例えば列車に制限速度や先行列車までの距離等の情報を地上から伝達する鉄道信号システムなどの情報伝送装置及び列車制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば安全性が要求される鉄道信号システムで安全性を確保する手段としては、装置に用いられる素子の故障モードがある特定の状態に限定できる場合と、素子の故障モードが限定できない場合では異なるアプローチがとられている。前者の場合は、システムに動作状態と停止状態がある場合、故障時の状態を安全側に割り当てて、故障時には自然に安全に遷移させる方法が用いられている。例えば信号リレーが故障した場合のモードは、接点をオンできない事象と、接点溶着と復旧不能により接点をオフできない事象の2つに大別できる。動作に必要なエネルギーを考慮して前者は安全側の故障、後者は危険側の故障と定義する。信号リレーは設計上の考慮により危険側故障率を極力小さくしているが、零ではなく、実際の信号リレーにおいて危険側故障率λDはほぼ10−10、安全側故障率λSはほぼ10−7程度とされ、非対称故障率特性を持つ。また、半導体素子など素子の故障モードを特定できない場合には、2つのものが同時に故障する確率は低いという想定で、論理回路を2重に構成して、その出力を比較することにより故障検出を行っている。
【0003】
また、鉄道信号システムにおいては伝送の安全性を確保する手段としてCRC(Cyclic Redundancy Check)符号(シンドロームによる誤り検出)により誤り検出が用いられている。そしてシステムの危険側故障率は10−9(1/h)を目安として設計されている。
【0004】
一般にデジタル信号の情報を伝送する場合、通信路でノイズ等が原因になって伝送する情報に誤りが加わり受信側で正常な情報が得られない場合がある。この通信路中で生じた誤りを訂正するため誤り訂正符号が使用されている。例えば特許文献1や特許文献2に示すように、送信器に誤り訂正符号器を設け、送信すべき情報を符号化して送信語を生成して通信路に送信する。受信器の誤り訂正復号器はパリティ検査行列を基に受信語のシンドロームを生成し、生成されたシンドロームを基に受信語の誤りを訂正して誤ったデータを使わないようにしている。
【0005】
しかしながら、安全性が要求される列車制御装置などの鉄道信号システムでレールを通信路として地上と列車間で情報を伝送する場合、誤り訂正符号の導入には慎重な立場がとられていた。これは地上と列車間の情報伝送は劣悪な通信路を使用しているため、誤り訂正を行った結果、危険側の制御を行うのではないかという懸念を払拭できないためである。このため現在では誤り検出を行い再送要求する方法や、同じ電文を例えば3連送して多数決を取る方法が用いられている。また、特許文献3に示すように、地上の多重系計算機で全系の処理計算結果と共に全系の健全性判定結果を車上装置に送信し、車上装置は全系の健全性判定結果を多数決処理して処理計算結果の使用可否を判定している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この列車制御装置などで劣悪な通信路により情報を伝送する場合にも誤り訂正符号が導入できるとシステムの稼働率は向上することができる。
【0007】
そこで、この発明は、例えば安全性が要求される列車制御装置など鉄道信号システムにおいても安全性を維持して誤り訂正符号を導入して情報を伝送することができる情報伝送装置及び列車制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の情報伝送装置は、送信器と通信路と受信器を有し、前記送信器は、外部の制御装置などの情報源から送信データに誤り訂正が行われるよう冗長な符号を付け加えて符号付き情報と、該符号付き情報を前記通信路に適した形式に変換して送信信号として前記通信路に出力し、前記通信路は電線やレールや空間などの媒体で構成され、入力した送信信号を前記受信器に伝送し、前記受信器は、信号入力部と誤り訂正復号器と訂正状況判定器及びデータ出力部を有し、前記信号入力部は、前記通信路を通して伝送された送信信号を入力し、入力した送信信号を前記誤り訂正復号器に適した形式に変換して受信信号として前記誤り訂正復号器に出力し、前記誤り訂正復号器は、入力した受信信号に対して誤り訂正復号処理を行って受信信号に含まれる誤りを除いた受信データを得て前記データ出力部に出力するとともに、誤り訂正復号処理の過程で求めたシンドロームや誤り位置多項式の情報から受信信号に含まれていた誤りの数又は誤りの程度に関する情報を訂正状況データとして前記訂正状況判定器に出力し、前記訂正状況判定器は、入力した訂正状況データと送信信号の符号語のハミング距離の最小値から設定された誤り訂正能力の最大値を超えない大きさに設定した誤り訂正基準値とを比較し、訂正状況データが誤り訂正基準値を超えているか否かを示す判定データを前記データ出力部に出力し、前記データ出力部は、入力した判定データで訂正状況データが誤り訂正基準値を超えていないことを示している場合に限り、前記誤り訂正復号器から入力した受信データを外部装置に適した形式に変換して出力し、訂正状況データが誤り訂正基準値を超えている場合には警報を出力して信頼性と安全性を確保することを特徴とする。
【0009】
前記訂正状況判定器は、誤り訂正能力の最大値t0を送信信号の符号語のハミング距離の最小値dminとして誤り訂正能力の最大値t0=[(dmin−1)/2]を超えない値を誤り訂正基準値とすることを特徴とする。
【0010】
前記データ出力部は、入力した判定データで訂正状況データが誤り訂正基準値を超えている場合には警報を出力することを特徴とする。
【0011】
また、前記受信器は、誤りの発生状況を記録するデータ記憶部を有し、前記訂正状況判定器は前記データ記憶部に記録した誤りの発生状況から誤りの発生頻度を評価することを特徴とする。
【0012】
さらに、前記データ記憶部に受信データ数を記録し、前記訂正状況判定器は、前記データ記憶部に記録した誤りの発生数と受信データ数から前記通信路の品質を評価することを特徴とする。
【0013】
この発明の列車制御装置は、前記情報伝送装置を有し、前記情報伝送装置の前記通信路はレールで構成され、前記情報伝送装置の前記送信器と前記受信器は、列車制御情報生成部を有する地上装置と、列車に搭載され車上制御装置を有する車上装置とに設けられ、前記地上装置の前記列車制御情報生成部は、列車制御情報をデジタル信号の送信データとして生成し、生成した列車制御情報の送信データを前記地上装置の前記送信器に出力し、前記地上装置の前記送信器は、入力した列車制御情報の送信データを処理して前記レールに送信し、前記車上装置の前記受信器は、前記地上装置から前記レールに送信されている列車制御情報の送信データをアンテナコイルを介して受信して処理して前記車上制御装置に出力し、前記車上制御装置は入力した列車制御情報に基づいて列車の速度を制御することを特徴とする。
【0014】
前記列車制御装置における前記車上装置の前記車上制御装置は、列車位置と列車速度と制限速度などの列車状態情報をデジタル信号の送信データとして生成し、生成した列車状態情報の送信データを前記車上装置の前記送信器に出力し、前記車上装置の前記送信器は、入力した列車状態情報の送信データを処理してアンテナコイルを介して前記レールに送信し、前記地上装置の前記受信器は、前記車上装置から前記レールに送信されている列車状態情報の送信データを受信して処理して前記列車制御情報生成部に出力し、前記列車制御情報生成部は、入力した列車状態情報に基づいて列車制御情報を生成することを特徴とする。
【0015】
この発明の他の列車制御装置は、前記情報伝送装置を有し、前記通信路は無線で構成され、前記情報伝送装置の前記送信器と前記受信器は、列車制御情報生成部を有する地上装置と、列車に搭載され車上制御装置を有する車上装置とに設けられ、前記地上装置の前記列車制御情報生成部は、列車制御情報をデジタル信号の送信データとして生成し、生成した列車制御情報の送信データを前記地上装置の前記送信器に出力し、前記地上装置の前記送信器は入力した列車制御情報の送信データを処理してアンテナコイルを介して送信し、前記車上装置の前記受信器は、前記地上装置から送信されている列車制御情報の送信データをアンテナコイルを介して受信して処理して前記車上制御装置に出力し、前記車上制御装置は入力した列車制御情報に基づいて列車の速度を制御することを特徴とする。
【0016】
前記他の列車制御装置における前記車上装置の前記車上制御装置は、列車位置と列車速度と制限速度などの列車状態情報をデジタル信号の送信データとして生成し、生成した列車状態情報の送信データを前記車上装置の前記送信器に出力し、前記車上装置の前記送信器は、入力した列車状態情報の送信データを処理してアンテナコイルを介して送信し、前記地上装置の前記受信器は、前記車上装置から送信されている列車状態情報の送信データをアンテナコイルを介して受信して処理して前記列車制御情報生成部に出力し、前記列車制御情報生成部は入力した列車状態情報に基づいて列車制御情報を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
この発明は、入力した受信信号に対する誤り訂正復号処理の過程で求めたシンドロームや誤り位置多項式の情報から受信信号に含まれていた誤りの数又は誤りの程度に関する情報を示す訂正状況データと送信信号の符号語のハミング距離の最小値から設定された誤り訂正能力の最大値を超えない大きさに設定した誤り訂正基準値とを比較し、訂正状況データが誤り訂正基準値を超えている場合、誤り訂正復号処理した受信データを出力しないようにして、誤り訂正能力に対して、実際に誤り訂正を行う数を制限して誤り検出にとどめることにより、通信の安全性と信頼性を高めることができる。
【0018】
また、安全性が要求される鉄道保安システムなどにおいても安全性を維持して誤り訂正符号を導入して情報を伝送することができ、システムの稼働率は向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の情報伝送装置の構成を示すブロック図である。
【図2】ハミング距離の最小距離と誤り訂正能力を示す模式図である。
【図3】最小距離に対する誤り検出能力の最大値を示す模式図である。
【図4】この発明の列車制御装置の構成を示すブロック図である。
【図5】(15,5,7)BCH符号の最小距離に対する誤り検出能力の最大値を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、この発明の情報伝送装置の構成を示すブロック図である。図に示すように、情報伝送装置1は送信器2と通信路3及び受信器4を有する。
【0021】
送信器2はデータ入力部21と誤り訂正符号化器22及び信号出力部23を有する。データ入力部21は外部の制御装置などの情報源からデータを入力し、入力した情報を誤り訂正符号化器22に適した形式に変換して誤り訂正符号化器22に情報として出力する。誤り訂正符号化器22はデータ入力部21から入力した情報をもとに誤り訂正が行われるように冗長な符号を付け加えて符号付き情報として信号出力部23に出力する。信号出力部23は誤り訂正符号化器22から入力した符号付き情報を通信路3に適した形式に変換して送信信号として通信路3に送信する。通信路3は電線やレールや空間などの媒体で構成され、送信器2から送信された送信信号を受信器4に伝送する。
【0022】
受信器4は信号入力部41と誤り訂正復号器42と訂正状況判定器43とデータ記憶部44及びデータ出力部45を有する。信号入力部41は通信路を通して伝送された送信信号を入力し、入力した送信信号を誤り訂正復号器42に適した形式に変換して受信信号として誤り訂正復号器42に出力する。誤り訂正復号器42は信号入力部41から入力した受信信号に対してパリティ検査行列からシンドロームを計算し、計算したシンドロームを用いて誤り訂正復号処理を行って受信信号に含まれる誤りを除いた受信データを得てデータ出力部45に出力するとともに、誤り訂正復号処理の過程で求めたシンドロームや誤り位置多項式の情報から受信信号に含まれていた誤りの数又は誤りの程度に関する情報を訂正状況データとして訂正状況判定器43に出力する。訂正状況判定器43は誤り訂正復号器42から入力した訂正状況データとあらかじめ設定されている誤り訂正基準値とを比較し、訂正状況データが誤り訂正基準値を超えているか否かを示す判定データをデータ出力部45に出力するとともに訂正状況データと判定データ及び受信データ数をデータ記憶部44に記録する。また、訂正状況判定器43はデータ記憶部44に記録した誤りの発生状況から誤りの発生頻度を評価して通信路3の品質を評価する。データ出力部45は訂正状況判定器43から入力した判定データで訂正状況データが誤り訂正基準値を超えていないことを示している場合に、誤り訂正復号器42から入力した受信データを外部装置に適した形式に変換して外部装置に出力し、入力した判定データで訂正状況データが誤り訂正基準値を超えている場合には受信データを出力しないで外部装置に警報を出力する。
【0023】
この受信器4に設けた訂正状況判定器43で誤り訂正復号器42から入力した訂正状況データが誤り訂正基準値を超えているか否かを示す判定処理について説明する。
【0024】
符号理論では一般的に効率を向上させるため誤り訂正能力の高いものが良いとされるが、安全を重視するためには誤訂正のないことが強く求められる。誤訂正の確率を下げるためには誤り検出能力を高めることに関係する。誤り訂正能力や誤り検出能力を考える上で、2つのビット列の対応する位置のビットが異なっている個所の数であるハミング距離が利用できる。
【0025】
送信器2から送信された送信信号の符号語をniビットとし、誤り訂正をt1ビットまで行うとき、符号語ni(i=1〜3)以下のビット列の集合を、図2に示すように、niを中心とする半径t1の球で表す。誤り訂正能力の最大値t0はハミング距離の最小値dminよりt0=[(dmin−1)/2]であれば、各符号語niを中心とする半径t0の球は共通部分を持たない。実際の誤り訂正をt1(≦t0)ビットまで行うとき、誤り検出可能なビット数ndは下記式で与えられる。
t2=(dmin−2t1)
(t1+1)≦nd<(t1+t2)
以上のことからt2を大きくとることにより誤り訂正符号の利用において安全性を高めることができる。
【0026】
そこで受信器4の訂正状況判定器43にはあらかじめ送信器2から送信される送信信号符号語の設計距離をハミング距離の最小値dminとして誤り訂正能力の最大値t0=[(dmin−1)/2]を超えない大きさに設定したt1ビットを誤り訂正基準値として設定しておき、誤り訂正復号器42から入力した訂正状況データと誤り訂正基準値とを比較し、訂正状況データが誤り訂正基準値を超えているか否かを判定する。
【0027】
例えば符号長が「15」、情報ビット数が「5」、設計距離が「7」の2元BCH符号の場合、設計距離をハミング距離の最小値dminとして取り扱うと、誤り訂正基準値である誤り訂正能力の最大値t0=[(dmin−1)/2]=3となる。このとき、図3(a)に示すように、誤り訂正ビットを「3」まで行うとすると、4ビット以上の誤りは誤訂正となる。また、図3(b)に示すように、誤り訂正を2ビットまで行うとすると、誤り検出能力を2ビット持たせることができる。
【0028】
次に、誤り訂正符号を利用した場合の危険側誤り率と安全側誤り率を求める処理を説明する。
【0029】
符号語をniビットとすると、誤りは最大niビット生じる。この場合において、誤り訂正可能なビット数をnc、誤り検出可能なビット数をndとすると、誤訂正あるいは検出できないとなる可能性のあるビット数は(ni−nd)となる。誤りの発生をランダムとし、1ビット誤りの発生確率をPeとすると、nビット誤りの発生確率はPeとなる。誤り検出する誤りビットの範囲は(nc+1)からndであるから、安全側の誤りの確率PSは、1符号語あたり下記式のようになる。
【0030】
【数1】

【0031】
同様に、誤り検出できない誤りビットの範囲は(nd+1)からniであるから、危険側の誤りの確率PDは、1符号語あたり下記式のようになる。
【0032】
【数2】

【0033】
1ビット誤りの発生確率PeはPe≪1であるからPS≫PDが成り立つような誤り訂正可能なビット数ncと誤り検出可能なビット数をndが存在する。また、安全側の誤りの確率PSと危険側の誤りの確率PDの非対称度はPS/PDで計算できる。
【0034】
次に、情報伝送装置1を情報伝送用の通信路としてレールを用いる列車制御装置に適用した場合について説明する。
【0035】
図4に示すように、列車制御装置は地上装置5と列車6に搭載された車上装置7を有し、レールを通信路3として地上装置5と車上装置7で情報を授受する。地上装置5は列車制御情報生成部8と送信器2aと受信器4aを有する。車上装置7は受信器4bと送信器2bと車上制御装置9を有する。地上装置5の列車制御情報生成部8は列車6の速度を制限速度に制御するデジタル信号の送信データを生成し、生成した送信データを送信器2aに出力する。送信器2aはデータ入力部21と誤り訂正符号化器22及び信号出力部23を有し、入力した送信データを処理して列車制御情報をレール3に送信する。受信器4aは信号入力部41と誤り訂正復号器42と訂正状況判定器43とデータ記憶部44及びデータ出力部45を有し、車上装置7からレール3を介して送信される列車状態情報を受信して処理し列車制御情報生成部8に出力する。
【0036】
車上装置7の受信器4bは信号入力部41と誤り訂正復号器42と訂正状況判定器43とデータ記憶部44及びデータ出力部45を有し、アンテナコイル10を介してレール3に送信されている列車制御情報を受信して処理し車上制御装置9に出力する。車上制御装置9は入力した列車制御情報に基づいて列車6の速度を制御するとともに列車位置や列車速度、制限速度などの列車状態情報を送信器2bに出力する。送信器2bはデータ入力部21と誤り訂正符号化器22及び信号出力部23を有し、車上制御装置9から入力する列車状態情報を処理してアンテナコイル10を介してレール3に送信する。
【0037】
このようにレール3を情報伝送の通信路として用いる場合、雑音が大きく電話などの通信回線ほど品質を確保できないため、要求する符号誤り率を10−5程度として設計されている。例えば1ビット誤りの発生確率Pe=1×10−5として、例えば符号長が「15」、情報ビット数が「5」、設計距離が「7」の(15,5,7)BCH符号において受信器4の訂正状況判定部43で誤り訂正基準値である誤り訂正能力の最大値t0=[(dmin−1)/2]=3で誤り訂正復号器42から入力した訂正状況データを判定して1〜3ビット誤り訂正を行った場合の安全側誤り率と危険側誤り率及び非対称度を下記表に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表に示すように、安全性に関する非対称度は、誤り検出の程度と通信路の信頼性に強く依存することが判る。なお、図3では最小距離の7ビットまでの誤りを示したが、符号長を「15」としているので、図5に示すように最大15ビットの誤りが生じ得る。
【0040】
訂正状況判定部43は、この判定データをデータ出力部45に出力するとともに訂正状況データと判定データ及び受信データ数をデータ記憶部44に記録する。データ出力部45は訂正状況判定器43から入力した判定データで訂正状況データが誤り訂正基準値を超えていないことを示している場合に、誤り訂正復号器42から入力した受信データを車上制御装置9に適した形式に変換して車上制御装置9に出力し、入力した判定データで訂正状況データが誤り訂正基準値を超えている場合には車上制御装置9に警報を出力する。
【0041】
このように誤り検出の領域を設けることにより安全性に関する非対称性を持たせた上で誤り訂正符号を適用することにより安全性を損なうことなく情報伝送の信頼性の向上を図ることができる。
【0042】
また、訂正状況判定部43はデータ記憶部44に記憶した訂正状況データに含まれる受信データ数に対する誤りの発生数から誤りの発生頻度を評価するとともに訂正状況データに含まれる誤りの発生数と受信データ数から通信路であるレール3の品質を評価してデータ記憶部44に記録する。このようにして地上装置5と車上装置7で情報を授受しながらレール3の状態や品質を把握することができる。
【0043】
前記説明ではレール3を通信路として用いた場合について説明したが、無線を通信路として用いる場合も同様に情報伝送装置1を列車制御装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1;情報伝送装置、2;送信器、3;通信路(レール)、4;受信器、5;地上装置、
6;列車、7;車上装置、8;制御情報生成部、9;車上制御装置、
10;受信コイル、21;データ入力部、22;誤り訂正符号化器、
23;信号出力部、41;信号入力部、42;誤り訂正復号器、
43;訂正状況判定器、44;データ記憶部、45;データ出力部。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0045】
【特許文献1】特開2002−261653号公報
【特許文献2】特開2006−244259号公報
【特許文献3】特開2008−254556号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信器と通信路と受信器を有し、
前記送信器は、外部の制御装置などの情報源から送信データに誤り訂正が行われるよう冗長な符号を付け加えて符号付き情報とし、該符号付き情報を前記通信路に適した形式に変換して送信信号として前記通信路に出力し、
前記通信路は電線やレールや空間などの媒体で構成され、入力した送信信号を前記受信器に伝送し、
前記受信器は、信号入力部と誤り訂正復号器と訂正状況判定器及びデータ出力部を有し、
前記信号入力部は、前記通信路を通して伝送された送信信号を入力し、入力した送信信号を前記誤り訂正復号器に適した形式に変換して受信信号として前記誤り訂正復号器に出力し、
前記誤り訂正復号器は、入力した受信信号に対して誤り訂正復号処理を行って受信信号に含まれる誤りを除いた受信データを得て前記データ出力部に出力するとともに、誤り訂正復号処理の過程で求めたシンドロームや誤り位置多項式の情報から受信信号に含まれていた誤りの数又は誤りの程度と訂正可否に関する情報を訂正状況データとして前記訂正状況判定器に出力し、
前記訂正状況判定器は、入力した訂正状況データと送信信号の全ての符号語間におけるハミング距離の最小値から設定された誤り訂正能力の最大値を超えない大きさに設定した誤り訂正基準値とを比較し、訂正状況データが誤り訂正基準値を超えているか否かを示す判定データを前記データ出力部に出力し、
前記データ出力部は、入力した判定データで訂正状況データが誤り訂正基準値を超えていないことを示している場合に限り、前記誤り訂正復号器から入力した受信データを外部装置に適した形式に変換して出力し、訂正状況データが誤り訂正基準値を超えている場合には警報を出力して信頼性と安全性を確保することを特徴とする情報伝送装置。
【請求項2】
前記訂正状況判定器は、誤り訂正能力の最大値t0を送信信号の符号語のハミング距離の最小値dminとして誤り訂正能力の最大値t0=[(dmin−1)/2]を超えない値を誤り訂正基準値とすることを特徴とする請求項1に記載の情報伝送装置。
【請求項3】
前記データ出力部は、入力した判定データで訂正状況データが誤り訂正基準値を超えている場合には警報を出力することを特徴とする請求項1又は2に記載の情報伝送装置。
【請求項4】
前記受信器は、誤りの発生状況を記録するデータ記憶部を有し、前記訂正状況判定器は前記データ記憶部に記録した誤りの発生状況から誤りの発生頻度を評価することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の情報伝送装置。
【請求項5】
前記データ記憶部に受信データ数を記録し、前記訂正状況判定器は、前記データ記憶部に記録した誤りの発生数と受信データ数から前記通信路の品質を評価することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の情報伝送装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載した情報伝送装置を有し、
前記情報伝送装置の前記通信路はレールで構成され、前記情報伝送装置の前記送信器と前記受信器は、列車制御情報生成部を有する地上装置と、列車に搭載され車上制御装置を有する車上装置とに設けられ、
前記地上装置の前記列車制御情報生成部は、列車制御情報をデジタル信号の送信データとして生成し、生成した列車制御情報の送信データを前記地上装置の前記送信器に出力し、前記地上装置の前記送信器は、入力した列車制御情報の送信データを処理して前記レールに送信し、
前記車上装置の前記受信器は、前記地上装置から前記レールに送信されている列車制御情報の送信データをアンテナコイルを介して受信して処理して前記車上制御装置に出力し、前記車上制御装置は入力した列車制御情報に基づいて列車の速度を制御することを特徴とする列車制御装置。
【請求項7】
請求項6記載の列車制御装置であって、
前記車上装置の前記車上制御装置は、列車位置と列車速度と制限速度などの列車状態情報をデジタル信号の送信データとして生成し、生成した列車状態情報の送信データを前記車上装置の前記送信器に出力し、
前記車上装置の前記送信器は、入力した列車状態情報の送信データを処理してアンテナコイルを介して前記レールに送信し、
前記地上装置の前記受信器は、前記車上装置から前記レールに送信されている列車状態情報の送信データを受信して処理して前記列車制御情報生成部に出力し、前記列車制御情報生成部は、入力した列車状態情報に基づいて列車制御情報を生成することを特徴とする列車制御装置。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれかに記載した情報伝送装置を有し、
前記通信路は無線で構成され、前記情報伝送装置の前記送信器と前記受信器は、列車制御情報生成部を有する地上装置と、列車に搭載され車上制御装置を有する車上装置とに設けられ、
前記地上装置の前記列車制御情報生成部は、列車制御情報をデジタル信号の送信データとして生成し、生成した列車制御情報の送信データを前記地上装置の前記送信器に出力し、前記地上装置の前記送信器は入力した列車制御情報の送信データを処理してアンテナコイルを介して送信し、
前記車上装置の前記受信器は、前記地上装置から送信されている列車制御情報の送信データをアンテナコイルを介して受信して処理して前記車上制御装置に出力し、前記車上制御装置は入力した列車制御情報に基づいて列車の速度を制御することを特徴とする列車制御装置。
【請求項9】
請求項8記載の列車制御装置であって、
前記車上装置の前記車上制御装置は、列車位置と列車速度と制限速度などの列車状態情報をデジタル信号の送信データとして生成し、生成した列車状態情報の送信データを前記車上装置の前記送信器に出力し、
前記車上装置の前記送信器は、入力した列車状態情報の送信データを処理してアンテナコイルを介して送信し、
前記地上装置の前記受信器は、前記車上装置から送信されている列車状態情報の送信データをアンテナコイルを介して受信して処理して前記列車制御情報生成部に出力し、前記列車制御情報生成部は入力した列車状態情報に基づいて列車制御情報を生成することを特徴とする列車制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−138867(P2012−138867A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291605(P2010−291605)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年7月16日 社団法人電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会技術研究報告」に発表
【出願人】(000001292)株式会社京三製作所 (324)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】