説明

情報処理用の結合方法およびアーキテクチャ

(i)第一の情報素子、(ii)第二の情報素子、(iii)第一の結合要素および(iv)第二の結合要素を含む構造を提供する。第一の情報素子は少なくとも、互いに電気的に導通する第一のローブおよび第二のローブを有している。第二の情報素子は少なくとも、互いに電気的に導通する第一のローブおよび第二のローブを有している。第一の結合要素は、第一の情報素子の第一のローブを第二の情報素子の第一のローブに誘導結合する。第二の結合要素は、第一の情報素子の第一のローブを第二の情報素子の第二のローブに誘導結合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2004年12月30日出願の米国仮特許出願第60/640,420号、および2005年10月10日出願の米国特許出願第11/247,857号の優先権を主張するものであり、その各々の全文を本明細書に援用している。
【0002】
本発明は、量子コンピューティング分野、および超伝導素子の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
1982年にリチャード・ファインマン(Richard Feynman)は、制御可能な量子系を用いて従来のコンピュータより効率的に他の量子系をシミュレートできることを提唱した。本明細書に全文を援用している「理論物理学国際ジャーナル21、pp.467〜488(ファインマン、1982年)」を参照されたい。この制御可能な量子系は今日一般に量子コンピュータと呼ばれ、量子系のシミュレーションまたは専用量子アルゴリズムを実行するために利用可能な汎用量子コンピュータの開発に努力がなされてきた。特に、量子系の挙動のモデルを解くには一般に、量子系のハミルトニアンに関する微分方程式を解くことが必要である。デビッド・ドイチュ(David Deutsch)は量子系を用いて時間の短縮、後に特定の計算で指数関数的な時間短縮が可能であることを示した。量子系のハミルトニアンを表わす方程式の形でモデル化された問題がある場合、系の挙動は方程式の解に関する情報を提供することができる。本明細書に全文を援用している「ロンドン王立協会会報A400、pp.97〜117(ドイチュ、1985年)」を参照されたい。
【0004】
量子コンピューティング技術における一つの制約は、量子計算に対応可能な系の識別である。量子計算を実行する基盤は、以下で情報素子(information device)と呼ぶユニットにある。情報素子は、多くの実施形態を有していてよいが、いくつかの必要条件を満たさなければならない。必要条件の一つは、情報素子が量子2準位系に可約(reducible)でなければならない点であり、これは計算に利用可能な2個の識別可能な量子状態が存在しなければならないことを意味する。情報素子はまた、後述する絡み合い(entanglement)および重ね合せ(superposition)等の量子効果を発揮できなければならない。一般に、情報素子に保存された量子情報は、コヒーレントであってよいが必須ではない。コヒーレント性を有する装置には、マイクロ秒以上のオーダーの長時間にわたり顕著な低下なしに持続する量子状態がある。情報素子の一つの非限定的な例としてキュービットがあり、量子ビットとも呼ばれる。キュービットは、古典的(デジタル)コンピュータのビットに類似しており、コヒーレンスを必要とする情報素子の一種である。コヒーレンスの喪失は本明細書においてデコヒーレンスと呼ばれる。
【0005】
量子コンピュータの計算能力は、その基本構成ブロックである情報素子が制御可能な仕方で互いに結合されて、1個の情報素子の量子状態が、自身に結合する各々の情報素子の量子状態に影響を及ぼすに従い増加する。このような結合の仕方を絡み合いと呼ぶ。量子コンピューティング技術における別の制約は、顕著なデコヒーレンスの発生源をもたらすことなく情報素子の状態を制御可能な仕方で絡み合わせるために利用可能な方法を識別することである。
【0006】
2.1 量子コンピューティングへのアプローチ
量子コンピュータの設計および運用にはいくつかの一般的アプローチがある。提案されている一つのアプローチとして、回路モデル量子コンピューティングがある。回路モデル量子コンピューティングは、長時間の量子コヒーレンスを要し、従ってそのようなアプローチに対応可能な量子コンピュータで用いる種類の情報素子がキュービットであり、これは定義により理想的にコヒーレンス時間が長い筈である。回路モデル量子コンピューティングは、キュービットがビットに極めてよく似た論理的ゲートにより動作可能であって、計算を実行するために量子論理を用いてプログラム可能であるという前提に基づいている。量子論理機能を実行すべくプログラム可能なキュービットを開発する研究がなされてきた。例えば、本明細書に全文を援用している、「arXiv.org:quant−ph/0005003(ショール(Shor)、2001年)」を参照されたい。しかし、キュービットに保存された情報が破壊される前に多くの計算が実行可能であるようにキュービットのデコヒーレンスを減らすことは、従来技術では依然として成功していない。
【0007】
最適化量子コンピューティングと呼ばれる量子コンピューティングへの別のアプローチには、量子系をシミュレートするための情報素子系の利用が含まれる。このアプローチでは、量子ゲートや回路を用いることは必須ではない。その代わり、量子効果を利用して、最終状態が問題の物理系のハミルトニアンを表わすよう、既知の初期ハミルトニアンから出発して相互作用する情報素子の系の状態を操作するものである。このプロセスでは量子コヒーレンスは必要条件ではないため、キュービットだけでなく汎用情報素子を計算用構築ブロックとして用いることができる。そのようなアプローチの例として、断熱量子コンピューティング(adiabatic quantum computing)およびシミュレーテッドアニーリングがあり、本明細書に全文を援用している「arXiv.org:quant−ph/0201031(ファーリ(Farhi)ら、2002年)」に記述されている。
【0008】
2.2 キュービット
上述のように、可能な情報素子一つが、量子ビットとしても知られるキュービットである。キュービットは、古典的コンピュータのデジタル・ビットと似ているが、デジタル・ビットよりはるかに高い計算能力を有している。デジタル・ビットで見られる「0」および「1」のような単に二つの離散的な状態のうち一つを符号化するのではなく、キュービットは「0」と「1」の重ね合せにも配置可能である。すなわち、キュービットは「0」および「1」の状態に同時に存在することができ、従ってそのように両方の状態に対して同時に量子計算を実行することができる。一般に、N個のキュービットは2状態の重ね合せ状態となることができる。量子アルゴリズムは、重ね合せ特性を利用して特定の計算を高速化する。
【0009】
標準的な記法において、キュービットの基底状態(basis state)は、|0>および|1>状態と呼ばれる。量子計算を行なう間、キュービットの状態は一般に、基底状態の重ね合せであるため、キュービットが|0>基底状態を占める非ゼロの確率と同時に|1>基底状態を占める非ゼロの確率を有している。数学的に、基底状態の重ね合せとは、|Ψ>と記されるキュービットの全状態が、|Ψ>=a|0>+b|1>の形式を有することを意味し、ここに、aとbは各々確率|a|、|b|に対応する係数である。係数a、bは各々実部と虚部を有し、それによりキュービットの位相を特徴付けることができる。キュービットの量子的性質は、基底状態のコヒーレントな重ね合せに存在し得る能力、および位相を有するキュービットの状態によるところが大きい。キュービットがデコヒーレンスの発生源から十分に分離されている場合、キュービットは基底状態のコヒーレントな重ね合せとして存在する能力を保持する。
【0010】
キュービットを用いて計算を完了するために、キュービットの状態が測定(例:読み出し)される。通常、キュービットの測定がなされた際に、キュービットの量子的性質は一時的に失われ、基底状態の重ね合せは|0>基底状態か|1>基底状態のいずれかに収縮して、従来のビットとの類似性を回復する。収縮後のキュービットの実際の状態は、読み出し動作直前の確率|a|、|b|に依存する。
【0011】
情報素子は、キュービットについて上で述べた物理特性を全て有することができる。すなわち、情報素子の量子状態は、基底状態の重ね合せであってよく、|Ψ>=a|0>+b|1>の形式で記述することができ、ここに、aとbは各々確率|a|、|b|に対応する係数である。情報素子の量子状態もまた測定された際に基底状態に収縮する。しかし、2.1節で述べたように、情報素子はキュービットとは対照的に、量子コヒーレンスを厳格な必要条件とはしていない。
【0012】
2.3 超伝導情報素子
量子コンピュータの開発に利用可能な多くの異なる技術がある。一つの実装方式では超伝導材料を用いる。超伝導情報素子を用いて開発された量子コンピュータにはスケーラビリティという利点がある。超伝導情報素子の組み立てに関係する技術や工程が、形成設備や技術的ノウハウが確立された基盤が既に存在する従来のコンピュータに用いるものと類似しているため、超伝導情報素子を用いて大規模な量子コンピュータを実現する可能性には見込みがある。そのような公知の形成技術(例:化学蒸着、プラズマ加速化学蒸着等)について、例えば、「マイクロチップ形成第4版、マグロウヒル、ニューヨーク(ヴァン・ザント(Van Zant)、2000年)」、「リソグラフィの原理、国際光工学会、ベリングハム、ワシントン(レビンソン(Levinson)、2001年)」、「微細加工の基礎第2版、CRCプレスLLC、ボカラトン、フロリダ(マドウ(Madou)、2002年)」、「マイクロリソグラフィ、微細加工および微細形成ハンドブック第1巻、マイクロリソグラフィ、国際光工学会、ベリングハム・ワシントン(チョーダリ(Choudhury)、1997年)」に述べられており、本明細書に各々その全文を援用している。そのようなコンピュータの実現へ向けて、本明細書に全文を援用している「物理学レビュー会報79、2371〜2374(シナーマン(Shnirman)ら、1997年)」において、必要な量子効果を生成すべくジョセフソン接合を含む超伝導情報素子を用いる超伝導量子コンピュータの実施形態を提案している。
【0013】
超伝導情報素子は、情報の符号化に用いる物理特性に応じていくつかのカテゴリに分類することができる。本明細書に全文を援用している「現代物理学レビュー73、pp.357〜401(マクリン(Makhlin)ら、2001年)」においてキュービットに関して議論されているように、情報素子の一般的な分類によればこれらは電荷素子と位相素子に分けられる。電荷素子は、情報を素子の電荷状態に保存および操作する。ここに、素電荷はクーパー対と呼ばれる一対の電子からなる。クーパー対は、2eの電荷を有し、フォノン相互作用により結合された2個の電子からなる。例えば、本明細書に全文を援用している「量子計算および量子情報、ケンブリッジ大学プレス、ケンブリッジ、pp.343〜345(ニールソン(Nielson)およびチュアン(Chuang)、2000年)」を参照されたい。一方、位相または磁束素子は、情報を素子の位相または磁束状態に保存する。最近では、電荷および位相自由度を情報の制御に用いるハイブリッド素子が開発されている。ハイブリッド素子のいくつかの例として、米国特許第6,838,694B2号明細書および米国特許出願第10/934,049号明細書(エスティヴ(Esteve)ら)に記述されており、本明細書に各々の全文を援用している。
【0014】
2.4 超伝導磁束素子
超伝導磁束素子の設計が、「応用半導体IEEE論文集7、p.3638(ボッコ(Bocko)ら、1997年)」、並びに「現代物理学レビュー73、p.357(マクリン(Makhlin)ら、2001年)」に記述されており、本明細書に各々の全文を援用している。永久電流キュービットを含む、他の多くの超伝導磁束素子の設計が記載されている。本明明細書に全文を援用している「サイエンス285、1036(ムーイジ(Mooij)ら、1999年)」、および「物理学レビューB60、15398(オーランド(Orlando)ら、1999年)」を参照されたい。永久電流キュービットは、3個のジョセフソン接合により絶縁された厚い超伝導材料のループからなる。1個のジョセフソン接合の臨界電流値が、同一または極めて近い臨界電流を有する場合が多い他の2個のジョセフソン接合の電流値を下回るように設計されている。永久電流キュービットは、超伝導材料のループが小さい面積(例:約1平方マイクロメートルの面積)を含むように構築することができる。
【0015】
永久電流キュービットは、10ナノ秒(ns)〜100nsの間のコヒーレンス時間を有している。例えば、本明細書に各々の全文を援用している「物理学レビューB60、15398(オーランドら、1999年)」、および「物理学レビュー会報91、097906(イリチェフ(Il’ichev)ら、2003年)」を参照されたい。他のいくつかの種類の磁束素子は、3個以上または以下のジョセフソン接合による超伝導ループの割り込みからなる。例えば、本明細書に各々の全文を援用している「物理学レビューB63、174511(ブラッター(Blatter)ら、2001年)」、および「ネイチャー406、43(フリードマン(Friedman)ら、2000年)」を参照されたい。
【0016】
グラジオメトリック磁束素子(gradiometric flux devices)は、均一な磁場には感応しない特殊な磁束素子である。すなわち、グラジオメトリック磁束素子の全体にわたり均一な磁場は素子の量子状態に影響を及ぼさない。グラジオメトリック素子の例が、米国特許第4,937,525号明細書(ダールマンス(Daalmans))に記述されており、その全文を本明細書に援用している。グラジオメトリック磁束素子について以下に更に詳しく述べる。
【0017】
2.5 情報素子結合
量子コンピュータを構築するためにどの種類の情報素子を用いるかに拘わらず、量子コンピュータの情報素子が制御可能な仕方で相互作用することが望ましい。量子コンピュータの情報素子の間のそのような相互作用を結合と呼ぶ。実装方式に応じて、異なる結合方法を用いることができる。更に、系のハミルトニアンを用いて、量子コンピュータの情報素子の状態並びに情報素子間の相互作用を記述することができる。
【0018】
2個の磁束に基づく超伝導情報素子を結合する際に、系のハミルトニアンの結合相互作用の符号は、2個の素子からなる系のエネルギーランドスケープを決定する。一般に、2個の磁束に基づく超伝導情報素子間の結合は、磁束素子が通常は自身の各々の磁気磁束を介して相互作用するため、強磁性または反強磁性である。すなわち、1個の情報素子における磁束の変化が、それに結合する他の情報素子の磁束に影響を及ぼす。強磁性結合では、第一の情報素子の磁束の変化が、第一の情報素子に結合する第二の情報素子の磁束と同様の変化を生じることがエネルギー的に有利である。例えば、第一の情報素子における磁束の増大により、強磁性的に結合されている場合の第二の情報素子の磁束の増大が生じる。反強磁性の場合、結合により、結合素子に対する逆の効果が生じる(例:第一の素子における磁束増大により第二の結合素子の磁束が減少する)が、これはその方がエネルギー的に有利であるからである。エネルギー的に有利とは、特定の立体配置にある方が他の配置よりもエネルギーが低いため、量子系は特定の立体配置にある方を好むことを意味する。
【0019】
柔軟な結合スキームは、情報素子間の結合の強度を変化させ、そのような素子間の結合を完全に遮断するか、および/または、そのような素子の間で結合の符号を切替える能力を提供する。結合の符号を切替えることは、2個の情報素子間の結合の種類を強磁性体から反強磁性的に、またはその逆に切替えることを意味する。回路モデル量子コンピューティングにおける結合の符号の切替えは、例えば、本明細書に全文を援用している「arXiv.org.quant−ph/0406049(プロールデ(Plourde)ら、2004年)」に記述されているCNOTゲート等の特定の論理ゲートの構築に有用である。最適化量子コンピューティングの結合符号を切替えることにより、量子コンピュータにより解決すべき問題を量子コンピュータの情報素子格子へマッピングする際の柔軟性が高まる。ここに、情報素子格子という用語は、集合内の各情報素子が当該集合内の少なくとも1個の他の情報素子に制御可能な仕方で結合している量子コンピュータの情報素子の集合を指す。
【0020】
互いに結合された2個の磁束情報素子のハミルトニアンの一表現において、
【数1】

は、結合の強度を示す前因子として変数Jを有する2個の素子間の「シグマz」結合を表わす。J>0の場合、結合は反強磁性であり、Jが大きいほど反強磁性結合が強いことを意味する。J<0の場合、結合は強磁性であり、Jが小さいほど強磁性結合が強いことを意味する。J=0の場合、結合は存在しない。このように、Jの符号を切替えることで結合の種類が切替わる。一般的な二準位系の場合、強磁性結合は平行な磁束がある方がエネルギー的に有利なことを意味し、反強磁性結合は反平行な磁束がある方がエネルギー的に有利なことを意味する。強磁性および反強磁性結合の例として、各々のループ内を電流が循環している2個の磁束素子間の結合がある。
【0021】
強磁性結合では、第一の情報素子内の時計回りの超伝導電流により、第一の素子と強磁性的に結合した第二の情報素子において、時計回りの超伝導電流の方が、逆時計回りの超伝導電流よりもエネルギー的に有利になる。逆に、強磁性結合では、第一の素子の反時計回りの超伝導電流により、第二の素子内において、反時計回りの超伝導電流の方が、時計回りの超伝導電流よりもエネルギー的に有利になる。一方、反強磁性結合では、第一の情報素子内の時計回りの超伝導電流により、第二の反強磁性的結合素子において、反時計回りの超伝導電流の方が、時計回りの超伝導電流よりもエネルギー的に有利になる。更に、反強磁性結合では、第二の素子において、第一の素子内の反時計回りの超伝導電流により、時計回りの超伝導電流の方が反時計回りの超伝導電流よりもエネルギー的に有利になる。
【0022】
超伝導情報素子は、直接的な仕方(例:介在素子は一切なし)で、誘導結合が可能であるが、この種の結合は通常は制御可能でない、すなわち、結合の強度を容易に変えられることができないことを意味する。磁束素子を結合する一つの方法として、超伝導量子干渉素子「SQUID」を用いることである。
【0023】
SQUIDは一種の高感度磁力計であり、磁束の僅かな変化を検出できることを意味する。例えば、本明細書に全文を援用している米国特許第6,627,916号明細書(アミン(Amin)ら)を参照されたい。SQUIDは、少なくとも1個のジョセフソン接合により遮断された超伝導ループからなる。SQUIDの超伝導ループを流れる電流は、いくつかの異なる方法でバイアスを掛けることができる。例えば、電流はSQUIDの近くに配置された誘導磁束によりバイアスを掛けることができる。別の例ではSQUIDに接続している導線からの、電流バイアスを用いて電流にバイアスを掛けることができる。バイアスを掛ける方法において異なるSQUIDの二つの例として、dc−SQUID(電流または磁束バイアス)およびrf−SQUID(磁束バイアス)がある。SQUIDはまた、制御可能な仕方で磁束を生成することができる。磁束素子は自身の磁束を介して相互作用するため、SQUID型素子を用いて、本明細書に全文を援用している「arXiv.org:cond−mat/0308192(メイジャー(Majer)ら、2003年)」に提案されているスキームのように結合を仲介することができる。
【0024】
本明細書に全文を援用している「サイエンス、285、1036(ムーイジら、1999年)」に、2個の磁束素子間の結合の種類を切替え可能な結合スキームの種類を提案する。しかし、ムーイジの方式には、切替えられるものが強磁性および反強磁性結合ではないという短所がある。むしろ、
【数2】

結合間のスイッチが実現される。更に、ムーイジの結合を完全に無効にする方法がない。
【0025】
別の結合素子として、誘導SQUIDすなわちINSQUIDが、本明細書に全文を援用している「Physica ScriptaT102、173(クラーク(Clarke)ら、2002年)」として提唱されている。INSQUID結合は、結合の種類を切替えることができるが、この場合も、強磁性と反強磁性結合の間ではない。INSQUID結合を無効にすることは可能であるが、これを実現するのは困難である。
【0026】
調整可能磁束変成器は、本明細書に全文を援用している「応用半導体IEEE会報13、1005(フィリポフ(Filippov)ら、2003年」に記述されている。フィリポフらによる調整可能磁束変成器は、採用されている素子のグラジオメーター特性に依存する。変成器自体もグラジオメーターであって、化合物接合と可変結合を一体化させることにより調整可能となる。このように、変成器にバイアスをかけて磁力計その他の装置に磁束素子を結合したり、結合を外すことができる。しかし、必要とされる大きなゲインは、変成器のグラジオメトリックループのバランスが不正確であるという問題を引き起こす。これにより、指定された結合強度の維持が不正確になる恐れがある。また、変成器はかなり大型(150μm×150μm)であるため、多数の素子を含む系では実装不可能である。最後に、変成器は双安定、すなわち2個のエネルギー最小値を有するが、これは結合磁束素子の相互結合には好ましくない。
【0027】
別の種類のグラジオメトリック磁束変成器が、本明細書に全文を援用している「arXiv.org:cond−mat/0403690(コスメリ(Cosmelli)ら、2004年)において検討された。コスメリらの文献では、グラジオメーターの各アームは、隣接する素子の一つに結合し、且つ調整可能素子は中央レッグの単一の化合物接合である。更に別のrf−SQUIDカプラが、本明細書に全文を援用している「物理学レビューB 70、140501(プロールデら、2004年)」に記述されている。プロールデらの文献では、結合は電流バイアスを掛けられたdc−SQUIDを介して仲介される。dc−SQUIDは、結合の符号を切替えるべく調整可能である。しかし、そのような系は、製造コストが高く、結合の強度や符号を調整する場合に柔軟性に欠ける。
【0028】
両方の磁束素子にグラバニック接続された(galvanically connected)ジョセフソン接合を用いて磁束素子を互いに結合する方式が、本明細書に各々全文を援用している「arXiv.org:cond−マット/0108266(レビトフ(Levitov)ら、2001年」および「Delft工業大学卒業論文(ブッチャー(Butcher)、2002年」に提案されている。両方の文献に、3個のジョセフソン接合磁束素子の鎖を互いに結合している単一の巨大なジョセフソン接合を示している。しかし、どちらの文献も、適切には結合の動作を可能にしない。また、これらの文献で提案された結合の種類は常に「オン」であって、切断することはできない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
2.6 当分野の現状
上述の説明で示すように、超伝導情報素子を結合する素子が存在する。しかし、費用効果的な量子コンピューティングを実現すべく当分野における改良が求められている。このように、超伝導情報素子間の結合に対するこれまで以上の制御を提供することが当分野で必要とされている。求められているものは、超伝導情報素子間の結合の強度または符号を自由に変更することが可能な結合と、必要に応じて結合を完全に切断できる能力である。
【0030】
同一参照番号は、複数の図面に跨って対応する部材を指す。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明の一態様は、第一と第二の磁束素子並びに第一と第二の結合要素を含む構造を提供する。第一の磁束素子は、互いに電気的に導通している少なくとも第一のローブおよび第二のローブを有している。第二の磁束素子は、互いに電気的に導通している少なくとも第一のローブおよび第二のローブを有している。第一の結合要素は、第一の磁束素子の第一のローブを、第二の磁束素子の第一のローブに誘導結合する。第二の結合要素は、第一の磁束素子の第一のローブを、第二の磁束素子の第二のローブに誘導結合する。第一と第二の結合要素は互いに電気的に導通していない。第一と第二の結合要素は各々、0.5〜2の範囲に無次元インダクタンス(dimensionless inductance)を有している。いくつかの実施形態において、第一の磁束素子および第二の磁束素子はグラジオメトリック磁束素子である。
【0032】
いくつかの実施形態において、第一の磁束素子の少なくとも第一と第二のローブ、並びに第二の磁束素子の少なくとも第一と第二のローブは、各々異なる循環電流構成を保持している。いくつかの実施形態において、第一の結合要素または第二の結合要素は、強磁性的または反強磁性的に第一の磁束素子を第二の磁束素子に結合する。一実施形態において、第一の結合要素は結合強度を有しておらず、第二の結合要素は有限の結合強度を有している。
【0033】
いくつかの実施形態において、本構造は、第一と第二の結合要素が結合強度を有しない状態を生成できるように、第一と第二の磁束素子に対して次元および構成が定められた(dimensioned and configured)スイッチを更に含んでいる。いくつかの実施形態において、本構造は、第一と第二の結合要素が有限結合強度を有する第一の状態と、第一と第二の結合要素が結合強度を有しない第二の状態との間をトグル切替えできるように、第一と第二の磁束素子に対して次元および構成が定められたスイッチを更に含んでいる。
【0034】
いくつかの実施形態において、第一の結合要素、第二の結合要素、あるいは第一の結合要素と第二の結合要素の両方がdc−SQUIDを含んでいる。いくつかの実施形態において、第一の結合要素、第二の結合要素、あるいは第一の結合要素と第二の結合要素の両方がrf−SQUIDを含んでいる。いくつかの実施形態において、本構造は更に、第一の結合要素、第二の結合要素、あるいは第一と第二の結合要素の両方を制御可能な仕方で調整する手段を含んでいる。いくつかの実施形態において、当該スイッチは、第一と第二の磁束素子が互いに誘導結合しないよう、第一と第二の結合要素を調整する手段を含んでいる。いくつかの実施形態において、第一と第二の磁束素子は超伝導である。いくつかの実施形態において、第一と第二の結合要素の無次元インダクタンスは、0.5〜1.5の間にある。他の実施形態において、第一と第二の結合要素の無次元インダクタンスはほぼ1である。
【0035】
いくつかの実施形態において、本構造は更に、複数の磁束素子を含んでいて、当該複数の磁束素子は第一と第二の磁束素子を含んでいる。そのような実施形態は更に、複数の結合素子を含んでいる。当該複数の結合素子の1個以上の結合素子の各々は、複数の結合要素を含んでいる。更に、当該複数の結合素子の第一の結合素子は、上述の第一と第二の結合要素を含んでいる。いくつかの実施形態において、本構造は更に、第三および第四の結合要素を含む第二の結合素子、並びに第一と第二のローブを含む第三の磁束素子を含んでいる。このような実施形態において、第三の結合要素は第一の磁束素子の第一のローブを第三の磁束素子の第一のローブに結合し、第四の結合要素は第一の磁束素子の第二のローブを第三の磁束素子の第一のローブに結合する。
【0036】
いくつかの実施形態において、当該複数の磁束素子内の1個以上の磁束素子は、当該複数の結合素子内の異なる結合素子を介して2、3、または4個の磁束素子に結合される。いくつかの実施形態において、解きたい問題のハミルトニアンを複数の磁束素子にマッピングすることができる。
【0037】
本発明の別の態様は、第一と第二の情報素子と、1個以上の結合要素を含む結合素子とを含む装置を提供する。結合素子は、第一と第二の情報素子を互いに誘導結合すべく構成されている。結合素子は更に、第一と第二の情報素子の誘導結合を、強磁性結合と反強磁性結合の間で制御可能な仕方で切替えるべく構成されている。結合素子内の各結合要素は、0.5〜2の範囲に無次元インダクタンスを有している。いくつかの実施形態において、1個以上の結合要素は、互いに電気的に絶縁された2個の結合要素を含んでいる。いくつかの実施形態において、結合素子は更に、第一と第二の情報素子の誘導結合を、強磁性結合で反強磁性結合の間で制御可能な仕方で切替えるスイッチを含んでいる。スイッチは、以下を同時に生起させる手段を含んでいる。(a)1個以上の結合要素内の第一の結合要素を(i)第一の結合要素が結合強度を有していない第一の状態から(ii)第一の結合要素が結合強度を有する第二の状態へ遷移させ、(b)1個以上の結合要素内の第二の結合要素を(i)第二の結合要素が結合強度を有する第三の状態から(ii)第二の結合要素が結合強度を有していない第四の状態へ遷移させる。
【0038】
いくつかの実施形態において、第一と第二の情報素子はグラジオメトリック磁束素子である。いくつかの実施形態において、1個以上の結合要素内の結合要素の全てまたは一部の結合要素それぞれがdc−SQUIDを含んでいる。いくつかの実施形態において、複数の結合要素内の結合要素の全てまたは一部の結合要素のそれぞれがrf−SQUIDを含んでいる。いくつかの実施形態において、結合素子は、第一と第二の情報素子間の誘導結合のオン・オフを調整する手段を含んでいる。いくつかの実施形態において、結合素子は、第一と第二の情報素子間の誘導結合の結合強度を調整する手段を含んでいる。
【0039】
本発明の更に別の態様は、2個の素子間の結合を切替える方法を提供する。そのような実施形態において、2個の情報素子は、結合要素を含む結合素子により互いに結合される。本方法において、結合素子内の第一の結合要素はオフにされる。第一の結合要素は、2個の情報素子のうち第一のものの第一のローブを、2個の情報素子のうち第二の素子の第一のローブに結合する。結合素子内の第二の結合要素はオフにされる。第二の結合要素は、2個の情報素子のうち第一のものの第一のローブを、第二の情報素子の第二のローブに結合する。第一の結合要素は初期状態でオンであり、第二の結合要素は初期状態でオフである。第一と第二の結合要素は互いに電気的に導通していない。両方の結合要素は、0.5〜2の範囲に無次元インダクタンスを有している。
【0040】
いくつかの実施形態において、第一の結合要素をオフにするステップは、第一と第二の情報素子間の第一の結合を解除する。更に、第二の結合要素をオンにするステップは、情報素子間に第二の結合を生成する。いくつかの実施形態において、第一の結合は強磁性であり、第二の結合は反強磁性的である。他の実施形態では、第一の結合が反強磁性的であり、第二の結合が強磁性である。
【0041】
本発明の更に別の態様は、第一と第二の情報素子間の結合を解除する方法を提供する。第一と第二の情報素子は、結合要素を含む結合素子により互いに結合されている。本方法では、結合素子内の第一の結合要素が調整される。第一の結合要素は、第一の情報素子の第一のローブを第二の情報素子の第一のローブに結合する。第二の結合要素が調整される。第二の結合要素は、第一の情報素子の第一のローブを第二の情報素子の第二のローブに結合する。第二の結合要素の調整により生じた結合は、第一の結合要素の調整により生じた結合を相殺する。第一と第二の結合要素は、互いに電気的に導通していない。両方の結合要素は、0.5〜2の範囲に無次元インダクタンスを有している。
【0042】
いくつかの実施形態において、第一の結合要素はdc−SQUIDであり、第一の結合の調整または第二の結合の調整は、電流バイアスまたは磁束バイアスの調整を含んでいる。いくつかの実施形態において、第一の結合要素はrf−SQUIDであり、第一の結合の調整または第二の結合の調整は、磁束バイアスの調整を含んでいる。いくつかの実施形態において、第二の結合要素はdc−SQUIDであり、第一の結合の調整または第二の結合の調整は、電流バイアスまたは磁束バイアスの調整を含んでいる。いくつかの実施形態において、第二の結合要素はrf−SQUIDであり、第一の結合の調整または第二の結合の調整は磁束バイアスの調整を含んでいる。いくつかの実施形態において、第一の結合要素は第一と第二の情報素子を互いに強磁性的に結合し、第二の結合要素は第一と第二の情報素子を互いに反強磁性的に結合する。
【0043】
本発明の更に別の態様は、第一と第二の磁束素子、並びに当該第一と第二の磁束素子に誘導結合された第一のSQUIDカプラを含む構造を提供する。第一のSQUIDカプラは、第一と第二の磁束素子間に強磁性または反強磁性結合を生成すべく構成されている。SQUIDカプラは、0.5〜2の範囲に無次元インダクタンスを有している。いくつかの実施形態において、第一の磁束素子は、第一のジョセフソン接合により遮断された超伝導材料の第一のループを含み、第二の磁束素子は第二のジョセフソン接合により遮断された超伝導材料の第二のループを含んでいる。いくつかの実施形態において、第一のSQUIDカプラはrf−SQUIDカプラである。いくつかの実施形態において、rf−SQUIDカプラは、0.7〜1の範囲に無次元インダクタンスを有している。いくつかの実施形態において、素子は更に、rf−SQUIDカプラに磁場を生じさせる磁気スイッチを含んでいる。磁場の強度は、第一と第二の磁束素子間の誘導結合が強磁性または反強磁性のいずれであるかを決定する。いくつかの実施形態において、磁場はゼロに近い磁束を有し、第一と第二の磁束素子間の誘導結合は反強磁性的である。いくつかの実施形態において、磁場はπに近い磁束を有し、第一と第二の磁束素子間の誘導結合は強磁性である。いくつかの実施形態において、rf−SQUIDカプラは単安定である。いくつかの実施形態において、本構造は更に、量子数に近い磁束を有するrf−SQUIDカプラにバイアスを掛けるべく構成されたバイアス・スイッチを含んでいる。
【0044】
いくつかの実施形態において、第一のSQUIDカプラはdc−SQUIDカプラである。dc−SQUIDカプラは、第一と第二の磁束素子間に強磁性または反強磁性結合を生成すべく構成されている。いくつかの実施形態において、dc−SQUIDカプラは対称形であり、磁束バイアス素子および電流バイアス素子により調整される。いくつかの実施形態において、dc−SQUIDカプラは非対称形であり、磁束バイアス素子により調整される。いくつかの実施形態において、本構造は更に複数の磁束素子を含み、当該複数の磁束素子は第一と第二の磁束素子並びに複数のSQUIDカプラを含んでいる。各々のSQUIDカプラは、当該複数の磁束素子内の異なる対の磁束素子に誘導結合されていて、当該複数のSQUIDカプラは上述の第一のSQUIDカプラを含んでいる。各SQUIDカプラは、0.5〜2の範囲に無次元インダクタンスを有している。いくつかの実施形態において、当該複数のSQUIDカプラ内の各SQUIDカプラは、各々の磁束素子対の間に強磁性または反強磁性結合を生成すべく構成されている。
【0045】
本発明の別の態様は、第一と第二の磁束素子と共に、各々の磁束素子にガルバニック結合された(galvanically coupled)第一のカプラを含む構造を提供する。第一のカプラは、複数のジョセフソン接合を含み、磁束素子間に強磁性または反強磁性結合を生成すべく構成されている。いくつかの実施形態において、第一と第二の磁束素子は各々3個のジョセフソン接合を超伝導ループ内に含んでいる。
【0046】
いくつかの実施形態において、第一のカプラは、超伝導ループ内に3個のジョセフソン接合、並びに当該超伝導ループを介して磁束を調整可能な外部磁束バイアスを含んでいる。いくつかの実施形態において、第一の磁束素子は第一のカプラの第一のジョセフソン接合に跨ってガルバニック接続されていて、第二の磁束素子は第一のカプラの第二のジョセフソン接合に跨ってガルバニック接続されている。外部磁束バイアスは、第一と第二の磁束素子間にゼロ結合を生成すべく調整可能であり、当該結合を強磁性体から反強磁性的へ、またはその逆向きに調整することができる。
【0047】
いくつかの実施形態において、第一のカプラは、第一の導線と第二の導線の間における第一の交差、第一の導線と第三の導線の間における第二の交差、第二の導線と第四の導線間における第三の交差、および前記導線と第四の導線の間における第四の交差を含んでいる。各々の導線はジョセフソン接合を含み、第二および第三の導線は電気的接触を形成することなく互いに交差している。各々の交差は更に、電流バイアスと電気的に導通している。いくつかの実施形態において、第二および第三の電流バイアスは、第一のおよび第四の電流バイアスにより生じる電流とは逆向きの電流を生じるべく調整されていて、第一と第二の磁束素子間の結合は強磁性である。他の実施形態において、第三のおよび第四の電流バイアスは、第一と第二の電流バイアスにより生じる電流とは逆向きの電流を生じるべく調整されていて、第一と第二の磁束素子間の結合は反強磁性的である。いくつかの実施形態において、各電流バイアスにより生じる電流の強さは同等である。
【0048】
いくつかの実施形態において、本構造は更に、複数の磁束素子を含んでいて、当該複数の磁束素子は第一と第二の磁束素子を含んでいる。本構造はまた、第一のカプラを含む複数のカプラを含んでいて、各々のカプラは当該複数の磁束素子内の異なる対の磁束素子にガルバニック結合されている。そのようなカプラの各々は、複数のジョセフソン接合を含んでいる。いくつかの実施形態において、当該複数のカプラの各々のカプラは、各々の磁束素子対の間に強磁性または反強磁性結合を生成すべく構成されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
本発明によれば、情報素子を結合するための結合素子が提供される。そのような結合素子は、情報素子の結合をオン(結合)状態とオフ(非結合)状態の間で調整することができる。結合状態は強磁性(陰)または反強磁性(陽)のいずれかであってよい。結合素子は、上述の識別された結合レジームが実現可能であるように、磁束発生源または電流供給源を介することを含む多くの方法の任意のものにより制御可能である。本発明によれば、多くの情報素子および結合素子を含む集積回路は、最適化問題の解または近似解を計算するのに有用である。例えば、本明細書に全文を援用している2004年12月23日出願の米国仮特許出願第60/638,600号明細書「量子素子を有するアナログプロセッサ」(ジョーディー・ローズ(Geordie Rose)、代理人整理番号706700−888200)を参照されたい。
【0050】
本発明によれば、情報素子は1個以上のジョセフソン接合により遮断された超伝導ループを含んでいる。情報素子は2値情報を保存することができる。本発明のいくつかの実施形態において、情報素子は2値量子情報の保存および処理が可能な磁束素子である。上述のように、磁束素子は当分野でよく知られている。本発明のいくつかの実施形態において、情報素子および磁束素子は同じ基本要素を含んでいる。
【0051】
本発明の実施形態による結合素子は、それらが結合する情報素子の性質から独立したオン・オフ状態で機能する。本発明のいくつかの実施形態による磁束素子は、磁束キュービットと同様に2値情報を保存するが、長期間並行して量子情報を保存する必要がない点で磁束キュービットとは異なる。長時間のコヒーレンスの必要が無いことで、素子の形成に対する制約が緩和されてチップの歩留まりが向上する。
【0052】
本発明によれば、結合素子はある範囲にわたる温度で動作する。コヒーレンス時間を最大化するために、超伝導素子はしばしば約5ミリケルヴィン(mK)〜約70mKの範囲の超低温環境において動作される。そのような低温は、環境からのノイズを減らし、従って量子情報のコヒーレントな保存および処理を容易にする。本発明のいくつかの実施形態において、複数の情報素子および結合素子(例:10個以上の情報素子および付随する結合素子、100個以上の情報素子および付随する結合素子、10〜10,000個の範囲の情報素子および付随する結合素子等)を含む1個以上の集積回路は、従来型の超伝導素子が正常動作する(約5mK〜約70mK)を超える温度で動作される。例えば、いくつかの実施形態において、1個以上の集積回路は、約5mK〜約4Kの範囲の環境において動作される。情報素子がこの温度範囲で動作される場合、非コヒーレントな量子トンネリング等、各種の量子効果が存在して計算に寄与する。当該1個以上の集積回路の動作温度は、当該集積回路の情報素子およびカプラを形成する超伝導金属の臨界温度より低い。例えば、そのような集積回路ではアルミニウムやニオブを用いることができる。これらの要素は、各々約1.2Kおよび9.3Kの臨界温度を有している。本発明のいくつかの実施形態において、1個以上の集積回路の情報素子および/またはカプラは、異なる超伝導材料で形成されていて、最高動作温度は、臨界温度が最も低い材料から作られた情報素子および/またはカプラにより設定される。
【0053】
本発明に基づく、超伝導磁束素子の制御可能な組み合わせのための新規な構造および方法について詳述する。本発明のいくつかの実施形態において、2個の超伝導量子干渉素子(SQUID)を用いて、結合の符号の切替えができる調整可能な仕方で2個の磁束素子が互いに結合する。結合の符号は、当該結合が強磁性または反強磁性のいずれであるかを示す。本発明の一態様において、複数の情報素子(例:10個以上の情報素子、20個以上の情報素子、30個以上の情報素子、100個以上の情報素子、300個以上の情報素子)を含む磁束素子配列を提示しており、それらの情報素子の全てまたは一部が、調整可能な結合素子により、当該複数の情報素子内の少なくとも1個の他の情報素子に結合している。本発明の一態様において、結合符号を切替え、あるいは必要に応じて完全に結合を解除すべくそれらの結合素子を動作させる方法を提示する。
【0054】
本発明の実施形態において、カプラSQUIDを用いて2個のrf−SQUIDを結合する。このような構成において、カプラSQUIDにより結合されたrf−SQUIDは情報素子として機能し、磁束素子rf−SQUIDSと呼ばれる。カプラSQUIDは、dc−SQUIDまたはrf−SQUIDのいずれかであってよい。本発明の実施形態において、カプラrf−SQUIDは、単安定rf−SQUIDまたは双安定rf−SQUIDである。本発明の実施形態において、カプラdc−SQUIDは、対称dc−SQUIDまたは非対称dc−SQUIDである。
【0055】
本発明の実施形態において、複数のジョセフソン接合を有する結合素子を用いて、2個の磁束素子をガルバニック結合する。当該結合素子は、磁束素子間に強磁性または反強磁性結合を生じさせ、更に磁束素子間の結合強度を決定するように構成されている。いくつかの実施形態において、結合素子は、外部磁束バイアスにより調整されていて、3個のジョセフソン接合により遮断された超伝導ループを含んでいる。いくつかの実施形態において、結合素子は、十字線設計に(in a cross-wire design)構成された4個のジョセフソン接合を含んでいて、4個の外部電流バイアスにより調整される。
【0056】
グラジオメトリック磁束素子は、素子の表面領域にわたって生じる均一な磁場には無感応な種類の情報素子である。グラジオメトリック磁束素子は、1個以上のジョセフソン接合により遮断された超伝導材料の少なくとも1個のループを含んでいる。グラジオメトリック磁束素子内の少なくとも1個のループの各々は、1個以上のローブを含んでいてよい。所与のループ内の各ローブは、当該ループ内の隣接するローブに関して反転されることにより、当該ループを流れる超伝導電流が1個のローブ内で一方向に、且つ他のローブ内で逆向きに循環する。グラジオメトリック磁束素子内の各ローブは他のローブと電気的に導通することができ、これは電流が1個のローブから別のローブへ流れることができることを意味する。超伝導ループをらせん状に進む磁場は、磁場の方向に依存する方向に流れる電流を誘導する。グラジオメトリック磁束素子の各ループが、ローブ対をなす丁度2個のローブを有し、且つこれらのローブ対の各々は互いに反転する場合、磁束素子全体にわたり均一な磁場が各ローブ対の両方のローブに作用して、各ローブ対の両方のローブ内で同一方向に循環電流を誘導する。その結果各ローブ対の各々のローブに生じる電流は、互いに逆向きであるため相殺し合うため、全循環電流は生じない。逆に、均一でない、すなわち非対称な磁場により、ローブ対の一方のローブにより強い電流を誘導するため、その結果生じる永久電流は相殺し合わず、正味全循環電流が生じる。グラジオメトリック磁束素子が偶数個のローブを有する場合、均一な磁場により生じた電流もまた上述のように互いに相殺し合う。奇数個のローブを有するグラジオメトリック磁束素子が均一な磁場に露出されている場合、全ての電流を相殺するために1個以上の外部磁場バイアスが必要である。本発明の実施形態において、偶数個のローブを有するグラジオメトリック磁束素子が情報素子として用いられる。
【0057】
本発明のいくつかの実施形態において、各情報素子は上述のグラジオメトリック構成を有している。グラジオメトリック構成は、情報素子間の結合を制御するため、および集積回路全体にわたりノイズ感度を下げるために有用である。本発明のいくつかの実施形態において、複数の情報素子内の各情報素子の各ローブは、超伝導チップの同一層に作られる。本発明のいくつかの実施形態において、各ローブは超伝導チップの同一層に作られるが、クロスオーバー(ローブが互いに反転し合う領域)が別の層に作られ、これはローブのインダクタンスのバランスを取るために有用である。本発明のいくつかの実施形態において、各情報素子から1個のローブが超伝導チップの一つの層に作られる一方、他のローブはチップの異なる層に作られるように、各ローブは別々の層に作られる。本発明の実施形態によれば、グラジオメトリック情報素子は、温度が約5mK〜約4Kの範囲にある環境で動作する。集積回路の動作温度は、集積回路を構成する超伝導体の臨界温度より低い。
【0058】
図1Aに、結合素子110を用いて2個の超伝導情報素子を結合する本発明の実施形態を示す。図1において、結合素子110は、互いに電気的に導通していない2個の結合要素110−1および110−2を含んでいる。図1、2のように2個の結合要素を含むこのような新しい種類の結合を、以下に二重結合スキームと呼ぶ。いくつかの実施形態において、情報素子101、102は磁束素子であって、同一の構造およびサイズを有していてよい。本発明のいくつかの実施形態において、情報素子101、102は同様の構造およびサイズを有するが、形成工程の誤差により同一ではない。本発明のいくつかの実施形態において、情報素子101、102はグラジオメトリック磁束素子である。本発明のいくつかの実施形態において、他の種類の情報素子101、102を用いてもよい。図1Aの情報素子101、102はグラジオメトリック磁束素子の一実施形態を示し、この場合、各素子は2個のローブ(情報素子101内のローブ101−1と101−2、および情報素子102内のローブ102−1と102−2)を含む1個のループを有している。図1において、ローブの角が出会う箇所で電気的に接続されていないため、情報素子101、102は1個のループだけを有している。図1に示すように、情報素子101内のループおよび情報素子102内のループは、Xで示すジョセフソン接合120により遮断されている。各ループ内のジョセフソン接合の位置は、単一のチップ上、およびチップ間で情報素子毎に異なっている場合がある。本発明のいくつかの実施形態において、情報素子は、複数のジョセフソン接合を含んでいる。
【0059】
情報素子101、102は、図1Aに示すように磁束素子101と102の間に斜めに配置された結合素子110により結合されている。結合素子110は、情報素子101と102の間に誘導結合を生じさせる。本発明のいくつかの実施形態において、結合素子110は、dc−SQUIDまたはrf−SQUID等、複数のSQUIDを含んでいる。結合素子110内の各要素(例:rf−SQUIDまたはdc−SQUID)は、他とは独立して動作可能である。
【0060】
要素110−1、110−2の両方を用いて、情報素子101、102を制御可能なように結合することができる。結合素子110がdc−SQUIDを含む場合、各々の結合要素(ここでは各々の結合dc−SQUID)にバイアス電流を流すことにより、または各々の結合要素ループ内の磁束を変化させることにより、制御可能な結合を得ることができる。結合素子110がrf−SQUIDを含む場合、各々の結合要素のSQUIDループ内の磁束を変化させることにより制御可能な結合が得られる。いくつかの実施形態において、結合素子110内の1個の結合要素はdc−SQUIDであり、一方、他の結合要素はrf−SQUIDである。そのような実施形態では、バイアス電流を流すかまたはdc−SQUIDの磁束を変化させることにより、およびrf−SQUIDのSQUIDループ内の磁束を変化させることにより制御可能な結合が得られる。
【0061】
本発明のいくつかの実施形態による例証的な結合要素110を図1B、1Cに示す。図1Bにおいて、例証的な結合要素110は、ジョセフソン接合110Bにより遮断された超伝導材料110Aのループを含むrf−SQUIDを含んでいる。図に示す実施形態において、rf−SQUIDを介して磁束を制御することにより制御可能な結合が得られる。図1Bの結合要素110は更に、ループ110Aを通って磁束をらせん状に進める磁束バイアス発生源110Cを含んでいる。いくつかの実施形態において、磁束バイアス発生源110Cは、誘導的に超伝導ループ110Aに結合されるように配置された金属のループを含んでいる。結合要素の結合状態は、磁束バイアス発生源110C内で電流を変化させることにより制御可能である。磁束バイアス発生源110Cに電流が流された場合、超伝導ループ110Aをらせん状に進む磁場が生じる。いくつかの実施形態において、磁束は図1Bの結合要素110の結合状態を制御するために有用である。本発明の実施形態において、磁束は−Φ〜+Φの範囲にあり、ここにΦは磁束量子である。いくつかの実施形態において、図1Bの制御結合要素110の制御に有用である磁束は、約−10Φ〜約+10Φの範囲にある。図1Bの結合要素110の制御に必要な磁束は、素子の特性、例えば超伝導ループ110Aのサイズおよびジョセフソン接合110Bの特性等に依存する。いくつかの実施形態において、超伝導ループ110Aのサイズは、約1平方ミクロン〜約10,000平方ミクロンの範囲にある。いくつかの実施形態において、ジョセフソン接合110Bのサイズは約0.1ミクロン〜約50ミクロンの範囲にある。いくつかの実施形態において、超伝導ループ110Aはニオブから作られている。いくつかの実施形態において、超伝導ループ110Aはアルミニウムから作られている。いくつかの実施形態において、超伝導ループ110Aは、シリコン基板上に加工された超伝導体で作られている。
【0062】
図1Cに、本発明による別の結合要素110を示す。図1Cの結合要素110は、2個のジョセフソン接合110−B1、110−B2により遮断された超伝導材料110Aのループを含むDC−SQUIDを含んでいる。図1Cの結合要素110は更に、結合要素110を介してバイアス電流を流すための2個のバイアス導線110−C1、110−C2を含んでいる。いくつかの実施形態において、図1Cの結合要素110の特性は、図1Bの結合要素110の特性と実質的に同一である。ジョセフソン接合110−B1、110−B2の寸法は、ジョセフソン接合110Bと同一であっても異なっていてもよい。図1Cの結合要素110は、導線110−C1と110−C2に跨ってバイアス電流を流すことにより、また、図1Bの110Cと同様の磁束バイアス(図示せず)により、制御可能である。
【0063】
本発明のいくつかの実施形態において、本発明のdc−SQUIDの結合を制御するのに有用なバイアス電流の強さは約1ピコアンペア(pA)〜約10ミリアンペア(mA)の範囲にある。ジョセフソン接合110−B1、110−B2の特徴の一つは、その臨界電流にある。ジョセフソン接合の臨界電流は、それを超えれば接合によるクーパー対の破壊が始まる電流の大きさである。ジョセフソン接合の臨界電流はまた、接合全体にわたり抵抗が生じる最小の電流としても定義され、また逆に、それを下回れば接合は超伝導であってゼロに近い抵抗を有している。本発明のいくつかの実施形態において、流されるバイアス電流は、ジョセフソン接合110−B1、110−B2の臨界電流より弱い。
【0064】
図1の各結合要素110は無次元インダクタンス、β=2πLI/Φを有し、ここにLは要素のインダクタンス、Iは要素の臨界電流、Φは磁束量子である。無次元インダクタンスはまた、β=L/Lとも書くことができ、ここに、L=Φ/2πIはジョセフソン・インダクタンスと呼ばれている。無次元インダクタンスの値により、結合要素110が単安定(β<1)または双安定(β>1)のいずれであるかが決定される。単安定性とは結合要素110の電位が1個の最小値しか有しないことを意味し、これに対し双安定とは電位が2個の最小値を有することを意味する。結合の目的には、本発明において結合要素110が双安定でないことが好適である。しかし、βが低いほど、結合強度が低いため、βが1より大幅に小さいのは好ましくない。本発明のいくつかの実施形態において、結合要素110の無次元インダクタンスは、0.5〜2の範囲にある。本発明のいくつかの実施形態において、結合要素110の無次元インダクタンスは、0.7〜1.5の間にある。本発明のいくつかの実施形態において、結合要素110のインダクタンスは、それらのジョセフソン・インダクタンスと同じオーダーであって、これは無次元インダクタンスがほぼ1であることを意味する。本発明の実施形態において、第一と第二の情報素子は、1を超える無次元インダクタンスを有している。
【0065】
図1Aを参照するに、本発明の一実施形態において、結合素子110はローブに結合すべく情報素子101のローブ101−2の十分近くに存在する。結合要素110−2は情報素子102のローブ102−2と近接している一方、結合要素110−1は情報素子102のローブ102−1のごく近傍にある。本明細書において、要素または素子(例:SQUIDまたはSQUIDのループ)間の距離が、2個の要素または素子間の結合強度が無視できない程度である場合、要素または素子は近接している状態にある。結合強度は、従来方式の測定素子を用いて測定可能なときに、無視できないとみなされる。図1Aにおいて結合素子110は、情報素子101の同一ローブに結合されているが、情報素子102の異なるローブに結合されている。本発明のいくつかの実施形態において、結合素子110と情報素子ローブの結合要素間の結合は全て反強磁性的である。しかし、そのような結合が全て反強磁性的でなければならなという必要条件はない。いくつかの実施形態において、情報素子101と102の間の結合は、強磁性または反強磁性のどちらであってもよい。
【0066】
上述のように、いくつかの実施形態において、情報素子101、102はグラジオメトリック磁束素子である。いくつかの実施形態において、図1Aに開示したような量子コンピューティング・アーキテクチャに利用可能なグラジオメトリック磁束素子は、各々のローブにおいて2個の構成(configuration)を有している。図1Aを参照するに、これらの構成は、各ローブの周囲を循環する時計回りの電流130および反時計回りの電流140に対応する。時計回りの電流130または反時計回りの電流140が存在する場合に流れる方向を、図1Aに示す情報素子の各ローブ内に表示している。しかし、このような電流の方向の描写は、そのような電流が常にこれらのローブ内に存在することを意味するものと解釈すべきではない。
【0067】
情報素子が超伝導材料の1個のループから構成されているため、図1Aの情報素子101、102は各ローブ内に異なる電流構成を有している。例えば、情報素子101内でローブ101−1が時計回りの循環電流130を有し、一方ローブ101−2は反時計回りの循環電流140を有することができ、また逆もしかりである。逆に、例えば、情報素子101内でローブ101−1が反時計回りの循環電流140を有し、一方ローブ101−2が時計回りの循環電流130を有していてよい。情報素子102も同様である。このように、結合要素110を用いて、情報素子101のローブ101−2を、同じまたは逆向きの循環電流を有する情報素子102のローブに結合することが可能である。結合電流の方向が同じか逆向きであるかに応じて、強磁性または反強磁性結合が得られる。例えば、ローブ101−2が時計回り130の循環電流構成を有する、従ってローブ101−1は反時計回り140の循環電流を有する場合を考慮されたい。更に、いくつかの実施形態において、ローブ102−1は時計回り130の循環電流を、ローブ102−2は反時計回り140の循環電流を有している。このように、結合要素110−2がオフのときに結合要素110−1がオンにされた場合、情報素子101は情報素子102と強磁性的に結合される。一方、結合要素110−1オフのときに結合要素110−2がオンである場合、磁束素子101は情報素子102と反強磁性的に結合される。このように、結合要素110−1および110−2のオン/オフ動作の状態を切替えることにより、情報素子101、102の結合の種類を反強磁性結合と強磁性結合の間で切替えることができ、その逆もまたしかりである。
【0068】
上の例において、結合素子110の結合要素はまた、結合要素110−1が反強磁性結合を生じ、結合要素110−2が強磁性結合を生じるようにバイアスを掛けることができる。本発明のいくつかの実施形態において、両方の要素共に強磁性または反強磁性結合のいずれかだけを提供するように、結合素子110にバイアスを掛けることができる。
【0069】
好適な実施形態において、結合要素110−1、110−2がオフの場合、情報素子101、102は互いに結合していない。情報素子101、102は自身のローブを介していくつかの磁束を共有することができるが、線1−1’、2−2’で示す図1内の情報素子の全体的な直交性によりそれらの間の結合が妨げられる。例えば、情報素子101のローブ101−2は、ローブ102−1、102−2と直接誘導結合することができる。この結合の強度は、r−2にほぼ比例しており、rはローブ間の距離である。ここで、2個のローブ間のローブ間距離は、2個のローブの中心間の距離として定義される。結合素子110の結合強度がゼロに設定されている場合、ローブ101−2は情報素子102の両方のローブと反強磁性的に結合している。しかし、これら2個の結合は強度が等しく、従って情報素子101、102の物理パラメータが同一であると仮定すれば互いに相殺し合って結果的にゼロの正味結合強度が得られる。しかし、情報素子101、102の物理パラメータの違い(例えば素子の形成工程における欠陥の結果生じたもの)に起因して、情報素子101−2と磁束素子102の一方のローブとの間の結合は、ローブ101−2と情報素子102のもう一方のローブとの間の結合より僅かに強い場合がある。その結果、素子101と102の間に相当の残余結合が存在する場合がある。この残余結合は、素子101、102を遠くに離してrを増やすことにより、小さくすることが可能である。
【0070】
結合要素110−1、110−2が両方共にオンである場合も、結合の相殺が可能である。この場合、結合素子110は強磁性および反強磁性結合を容易にする。これらの結合は、強度を等しく、従って相殺し合うことが可能なように調整することが可能である。結合の調整には、本発明のいくつかの実施形態ではSQUIDであってよい個々の結合要素の調整が含まれる。この調整はまた、磁束素子が必ずしも全く同一ではない(例えば形成工程における欠陥による)場合に機能することができる。結合が全く同一ではない場合、磁束素子間に小さい残余結合が存在し得る。本発明のいくつかの実施形態において、結合素子110には、系内の全ての残余結合を相殺して、それにより情報素子101、102を完全結合していない状態にするような仕方でバイアスが掛けられる。換言すれば、結合素子110の強度は、上述の残余結合を相殺すべく調整可能である。
【0071】
結合要素110−1、110−2はまた、結合の相殺以外の理由でオンであり得る。本発明のいくつかの実施形態において、両方の結合要素がオンである場合、一方の結合要素を情報素子101、102を結合するために用い、もう一方の結合要素を用いて情報素子の1個にバイアスを掛けるために利用可能なローカル磁場を誘導することができる。本発明のいくつかの実施形態において、結合素子110を用いて、それが結合される情報素子の状態を読み出すことも可能である。
【0072】
本発明のいくつかの実施形態において、情報素子101と102の間の結合強度は調整可能である。すなわち、結合要素110−1または110−2のいずれかに対するバイアス条件を変えることにより、情報素子101と102の間の強磁性または反強磁性結合の強度を調整することができる。系100のハミルトニアンにおいて、
【数3】

は情報素子101と102の間の「シグマz」結合を表わし、Jは情報素子101と102の間の相互作用の強度を示す前因子である。J>0の場合、情報素子101と102の間の結合は反強磁性的であって、Jが大きいほど反強磁性結合が強いことを意味する。J<0の場合、磁束素子101と102の間の結合は強磁性であって、Jが小さいほど強磁性結合が強いことを意味する。J=0の場合、結合素子110は情報素子101と102の間にそれ以上の結合はもたらさない。本発明のいくつかの実施形態において、結合素子の結合強度は、結合素子110を適切に調整することによりJ=1からJ=−1まで連続的またはほぼ連続的に変化し得る。
【0073】
結合要素110−1、110−2はまた、互いに誘導結合することができる。しかし、そのような結合は、系100の動作では無視できる。本発明のいくつかの実施形態において、結合要素110−1、110−2は、それらの間の誘導結合を最小化すべく生成される。
【0074】
図2に、本発明の別の実施形態を示す。図2によるいくつかの実施形態において、系200の情報素子201、202は磁束素子である。実際、図2において情報素子201、202はグラジオメトリック磁束素子として描かれており、図1の斜めのパターンではなく規則的な格子パターンに配置されている。情報素子201、202は共に、各々が循環電流構成および少なくとも1個のジョセフソン接合220を保持する2個のローブを有している。時計回り130または反時計回りの140の電流が存在する場合に流れる方向を、図2に描いた素子の各々のローブに示す。しかし、そのような電流の方向を描いたことで、これらのローブにそのような電流が常に存在するものと解釈すべきではない。
【0075】
情報素子201、202と図1の情報素子とは、情報素子201、202が1個の連続的なループで構成されていない点が異なる。その代わり、情報素子201、202では共に、少なくとも1個のジョセフソン接合220を含む中央レッグがループ上で2個の対向する位置を接続する。このように、情報素子201では、ローブ201−2に対するローブ201−1の電流の方向には何ら制約がない。同様に、情報素子202では、ローブ202−2に対する202−1の電流の方向には何ら制約がない。対照的に、情報素子101、102のローブ内では、電流はそれらの2個のローブ内で逆向きにしか流れることができない。本発明のいくつかの実施形態において、各情報素子(201および202)の中央レッグは、2個のジョセフソン接合を含むdc−SQUIDを含んでいる。
【0076】
図2による本発明の好適な実施形態において、情報素子201、202には、それらの各々のローブ内で逆向きに流れる電流がある。すなわち、各情報素子にはその2個のローブ内で逆向きの電流があり、これを用いて情報素子の固有状態すなわち量子状態を表わすことができる。系200の物理状態にはこの形の電流があるため、後述するように二重結合スキームをこの種の情報素子に適用することができる。
【0077】
結合要素110−1、110−2は、磁束素子201および202を互いに結合する。系200の動作は、図1に示す系の動作と同じである。すなわち、ローブ202−1、202−2が逆向きの電流構成を有する場合、ローブ201−2は磁束素子202と強磁性的にまたは反強磁性的に結合することができる。これは、図1において上で述べたように、結合要素110−1、110−2のオン/オフを切替えることにより行なわれる。
【0078】
磁束素子101または磁束素子201以外の磁束素子が上に示した二重結合スキームで利用できることを理解されたい。本発明の好適な実施形態において、二重結合スキームで用いられる情報素子の種類は、グラジオメトリック磁束素子である。本発明のいくつかの実施形態において、二重結合スキームで用いられる情報素子は別の種類の磁束素子である。また、結合要素110−1、110−2の形状が図1、2に示す形状に限定されない点も理解されたい。
【0079】
図3に、図1により上で示した二重結合スキームを用いて最近隣素子に結合している情報素子101、102の二次元(2D)配列300の模式的な集積回路を示す。配列300は図1の系100を拡張したものである。配列300内の情報素子101、102はグラジオメトリック磁束素子として描かれるが、他の磁束素子も同様に用いることができる。配列内の各素子は4個の近隣素子に結合されている。本発明によれば、異なる結合要素のオン/オフを切替えることにより、配列300内の素子を任意の近隣素子と強磁性的または反強磁性的に結合することができる。本発明のいくつかの実施形態において、解きたい問題ハミルトニアンを素子の配列にマッピングすることができる。配列300は従って、ハミルトニアンをシミュレーションして、問題に関する情報または解を提供することができる。本発明のいくつかの実施形態において、配列300はただ1個のハミルトニアンを解くように設計されている。
【0080】
図4は、図2を参照して上で述べた二重結合スキームを用いて互いに結合された情報素子の2D配列400を示す。配列400は、図2に示す系の拡張であって同様に動作する。配列400内の各素子は、それに最も近い4個の近隣素子の全てと強磁性的または反強磁性的に結合することができる。
【0081】
配列300、400は上述の二重結合スキームを用いる情報素子の2D配列の特定の実施形態であるが、他の種類の配列も可能である点を理解されたい。例えば、本発明の実施形態において、3個の最近隣素子と二重結合している情報素子の2D配列も可能である。本発明のいくつかの実施形態において、結合している近隣素子の個数は4より大きい。本発明のいくつかの実施形態において、配列は線形配列であり、各情報素子はそれに最も近い2個の近隣素子に結合している。いくつかの実施形態において、図3、4に示すような情報素子の2D配列は、10〜1万個の素子、50個を超える素子、100個を超える素子、または2000個未満の素子を含んでいる。
【0082】
調整可能な磁束変成器
本発明の一態様において、情報素子を強磁性的および反強磁性的に結合する結合素子は、結合要素を1個のみ含んでいる。特に、単安定rf−SQUIDまたはdc−SQUIDは、2個の隣接する情報素子間の誘導結合を仲介することができる。SQUIDの磁化率が外部磁束に相当程度依存することため、誘導された結合を反強磁性的から強磁性体へ連続的に調整することが可能である。特に、パラメータが適切な場合、誘導された強磁性結合は、情報素子間のあらゆる直接的な反強磁性誘導結合に打ち勝つ程度に十分大きい。本発明のいくつかの実施形態において、単一のrf−SQUIDまたは単一のdc−SQUIDを用いて、結合の種類を強磁性体から反強磁性的へ、またはその逆に切替え可能な仕方で2個の情報素子を互いに結合する。本発明のいくつかの実施形態において、情報素子は、rf−SQUIDまたは永久電流キュービット等の磁束素子である。
【0083】
図5に、3個のrf−SQUID、510a、510b、および510cを示す。各rf−SQUIDは、ジョセフソン接合(ループ内のXで示す)により遮断された超伝導材料のループで構成されている。これらのrf−SQUIDは便宜的に一列で表わしている。図5において、rf−SQUID510bは制御可能な結合スイッチであって、rf−SQUID510aとrf−SQUID510cの間に配置されている。本発明の実施形態において、rf−SQUID510bは、rf−SQUID510aと510cの間の結合相互作用を制御する汎用結合スイッチまたは結合素子で代替可能である。汎用結合スイッチの例として磁束変成器がある。rf−SQUIDは互いに誘導結合する。本発明のいくつかの実施形態において、rf−SQUID510a、510cは情報素子として用いられる。rf−SQUID510は、循環超伝導電流を有し、また、↓や↑のようにその向きによりラベル付け可能な磁束が付随している。
【0084】
本発明の実施形態において、rf−SQUID510bは単安定であり、これはrf−SQUIDの電位には最小値が1個しか存在しないことを意味する。これは、rf−SQUID510bのジョセフソン接合により定まる臨界値より小さい無次元インダクタンスの場合は量子の整数値に近い磁束でrf−SQUID510bにバイアスを掛けることにより、あるいは任意の磁束バイアスの場合はrf−SQUID510bを無次元インダクタンスが1前後または1未満であるようにすることにより、実現できる。無次元インダクタンスは、β=4e
【数4】

;SI単位系でβ=2πLI/Φ)で定義され、ここに、Lはインダクタンス、Eはrf−SQUID510bのジョセフソン・エネルギーである。無次元インダクタンスのこの値は、rf−SQUID510bのループの面積、従って誘導結合を感知可能な程度に保ちながら、Eを減らすことにより達成することができる。誘導結合が感知可能な程度とみなされるのは、それが結合している素子に対して測定可能な効果を発揮する場合である。本発明のいくつかの実施形態において、rf−SQUID510bのループの面積は、約1平方ミクロン〜約10,000平方ミクロンの範囲にある。Eを減らすことは、rf−SQUID51bの臨界電流を減らすことに対応する。例えば、臨界電流の減少は、形成工程の間にその臨界電流密度を減らすことにより、またはrf−SQUID内のジョセフソン接合の断面積を減らすことにより達成することができる。いくつかの実施形態において、rf−SQUIDの臨界電流は、約1pA〜約10mAの間である。必要に応じて、rf−SQUIDを磁束レジームに保つべく、rf−SQUID510bのジョセフソン接合を跨いで分流容量を配置することができる。
【0085】
本発明の実施形態において、rf−SQUID510bは単安定性および強い結合を保障すべく1より僅かに小さい無次元インダクタンスを有している。本発明の実施形態において、rf−SQUID510bは0.7〜1の範囲に無次元インダクタンスを有している。本発明の別の実施形態において、rf−SQUID510bは0.8〜1の範囲に無次元インダクタンスを有している。本発明の更に別の実施形態において、rf−SQUID510bは0.5〜2の範囲に無次元インダクタンスを有している。本発明の他の実施形態において、rf−SQUID510bは0.9〜1.1の範囲に無次元インダクタンスを有している。本発明の実施形態において、rf−SQUID510aおよび510cは1より大きいが2より小さい無次元インダクタンスを有している。
【0086】
図6に、rf−SQUID510b等のrf−SQUIDの全磁束と、掛けられた外部磁束の対比
【数5】

をモデル化したグラフ600を示す。以下、このようなグラフをS曲線と名付ける。図6の軸は、無次元位相単位φであり、掛けられた磁束に関してφ=2π(Φ/Φ)と表わされる。ここに、Φは図6の各々の軸に応じて掛けられた外部磁束または全磁束である。外部磁束はrf−SQUIDループに掛けられ、全磁束と外部磁束の差分はrf−SQUIDの電流で表わされる。例えば、曲線610はインダクタンスがゼロ(β=0)の場合に対応し、開ループについて期待される45度の線である。
【0087】
図6の曲線620は、rf−SQUID510bのインダクタンスが1を大幅に下回る(β<<1)がゼロではない場合を表わす。磁束素子510aが↑から↓へ反転した場合、SQUID510aと510bの間の相互インダクタンスにより、rf−SQUID510bの外部磁束を効果的に増やす。ゼロに近い外部磁束の場合、S曲線は1より小さい傾斜を有するため、この増加はrf−SQUID510bの↓向きの自己磁束により部分的に遮断される。従って、そのような状況において、rf−SQUID510bは磁束素子510cに対する↑向きバイアスとして作用する。従って、rf−SQUID510bはこの場合、rf−SQUID510aと510cの間に反強磁性結合を生成する。対照的に、rf−SQUID510bの外部磁束がΦ/2に近い場合、rf−SQUID510bの物理特性は逆向きに作用する。その場合、S曲線は1より大きい傾斜(図6の曲線620参照)を有するため、自己磁束は全く遮断せず、実際には外部磁束の増加に寄与する。このように、rf−SQUID510bの結合は符号を強磁性に変える。
【0088】
本発明の実施形態において、rf−SQUIDカプラは、rf−SQUIDカプラに外部磁場を掛けることにより強磁性または反強磁性結合を生成すべく構成されている。本発明の実施形態において、外部磁場はゼロに近い磁束を有し、結合は反強磁性的である。本発明の実施形態において、磁場はΦ/2に近い磁束を有し、結合は強磁性である。本発明の実施形態において、磁束バイアス素子はrf−SQUIDカプラに誘導結合され、磁束バイアス素子は上述の外部磁場を生成する。本発明のいくつかの実施形態において、約±0.1Φの精度で約−5Φ〜約+5Φの間の磁場が結合素子に掛けられる。ここに、Φは磁束量子であり、Φ=2.067×10−15ウェーバ(Wb)である。いくつかの実施形態において、精度は±0.2Φ以下である。
【0089】
図7に、dc−SQUID710bにより結合された2個の情報素子710aおよび710cを示す。図7に示す情報素子710a、710cはrf−SQUIDであるが、他の任意の磁束を用いる情報素子であってよい。dc−SQUID710bは、超伝導ループ内に2個のジョセフソン接合を含んでいて、接合の間に2個の端子711が配置されている。図5のrf−SQUIDカプラ510bは磁束バイアスだけが掛かっているが、図7のdc−SQUIDカプラ710bには磁束バイアスまたは電流バイアスが掛けられていてよい。電流バイアスは、端子711を介してdc−SQUID710bに電流を流すことにより生成することができる。磁束バイアスは、dc−SQUIDのループに近接する誘導電流ループにより掛けることができる。
【0090】
適切な電流および磁束バイアスの調整により、dc−SQUID710bにより生成された結合を仲介(mediate)することで、結合の強度を制御可能なように調整するか、結合をオフにするか、または結合の符号を切替えることができる。dc−SQUID710bに対する外部電流バイアスをI、外部磁束バイアスを
【数6】

と表記する場合を考える。更に、βは1よりはるかに小さいものとする(しかし、βがより大きい値にも拡張できる)。dc−SQUIDが対称、すなわち同一またはほぼ同一のジョセフソン接合を有する場合、
【数7】

ならば、dc−SQUIDは強磁性結合を生成することができる。ここにIはdc−SQUID710bにおけるジョセフソン接合の臨界電流である。磁束バイアスがゼロである場合、強磁性結合を生成する電流バイアスの値は存在しない。
【数8】

の場合、反強磁性結合が得られる。
【数9】

の場合、結合はゼロに等しい。このように、対称dc−SQUIDの場合、結合の符号を切替えるために電流バイアスと磁束バイアスの両方が必要である。
【0091】
図8に、βの制限が1よりはるかに小さい場合の、上の計算に対応する対称dc−SQUIDの不等式グラフを示す。横軸は外部磁束バイアス
【数10】

であり、縦軸は正規化された外部電流バイアスI/2Iである。曲線801は下限
【数11】

であり、曲線802は上限
【数12】

である。このように、グラフの曲線801の内側の領域は反強磁性結合を生成する磁束および電流バイアスの範囲を表し、原点に近い領域が最も強い反強磁性結合を有している。曲線801自体は、ゼロ結合を生成する磁束および電流バイアスの曲線を表わす。曲線801と802に囲まれた領域は、強磁性結合を生成する磁束および電流バイアスの範囲を表わす。磁束および電流バイアスが曲線801から曲線802へ向かって離れるに従い強磁性結合はより強くなる。しかし、バイアスが曲線802自体に到達したならば、ジョセフソン接合が電圧状態に切替わって強磁性結合は不安定になる。従って、dc−SQUIDカプラ上のバイアスは曲線802の外側へ出てはならない。図からわかるように、強磁性結合のために非ゼロの磁束バイアス
【数13】

が必要である。
【0092】
非対称dc−SQUIDの場合、磁束バイアス単独で結合の符号を切替えることができるため、電流バイアスにより結合の強度および符号を調整する必要がない。例えば、dc−SQUID内のジョセフソン接合の1個が短絡した(例:ジョセフソン・エネルギーが無限である)場合、dc−SQUIDは必然的にrf−SQUIDであり、既に示したように電流バイアスを用いずに結合の符号を切替える能力を有している。本発明のいくつかの実施形態において、dc−SQUIDカプラ710bは対称形であり、電流バイアスと磁束バイアスの両方を有している。本発明のいくつかの実施形態において、dc−SQUIDカプラ710bは非対称形であり、磁束バイアスだけを有している。本発明のいくつかの実施形態において、dc−SQUIDカプラ710bはまた、情報素子710aおよび710cのいずれかの状態を読み出すべく構成されている。
【0093】
本発明の実施形態において、dc−SQUID710bは、単安定性および強い結合を保障すべく、1よりわずかに小さい無次元インダクタンスを有している。本発明の実施形態において、dc−SQUID710bは、0.7〜1の範囲に無次元インダクタンスを有している。本発明の別の実施形態において、dc−SQUID710bは0.8〜1の範囲に無次元インダクタンスを有している。本発明の更に別の実施形態において、dc−SQUID710bは、0.5〜2の範囲に無次元インダクタンスを有している。本発明の別の実施形態において、dc−SQUID710bは0.9〜1.1の範囲に無次元インダクタンスを有している。本発明の実施形態において、rf−SQUID710a、710cは1より大きいが2より小さい無次元インダクタンスを有している。
【0094】
本発明のいくつかの実施形態において、図5または7のいずれかの結合素子(rf−SQUID510bまたはdc−SQUID710b)がオフにされた場合、情報素子の間(510aと510c、または710aと710c)に結合は存在しない。本発明のいくつかの実施形態において、結合素子がオフである場合に、情報素子間に依然として直接的な誘導結合が存在する。この場合、結合素子は、直接的な誘導結合をゼロに相殺すべく磁束バイアス素子または電流バイアス素子を用いて特定の値に調整することができる。
【0095】
本発明のいくつかの実施形態において、情報素子の配列は、rf−SQUID510bまたはdc−SQUID710b等の調整可能な磁束変成器を結合素子として用いる。本発明の実施形態において、情報素子の配列は二次元であり、配列内の各素子はrf−SQUIDまたはdc−SQUIDカプラを用いて、最も近い4個の隣接磁束素子に結合している。本発明の実施形態において、情報素子の配列は、各素子間にrf−SQUIDまたはdc−SQUIDカプラが配置された一次元の鎖である。情報素子の配列およびそれらの各々のカプラの他の構成も可能である点を理解されたい。
【0096】
直接ジョセフソン接合結合
本発明の一態様において、2個の情報素子にガルバニック結合された(例:誘導的結合または容量結合)1個以上のジョセフソン接合は、当該2個の情報素子を一緒に調整可能に結合することができる。この調整可能な結合は、結合の符号を強磁性体から反強磁性に、またはその逆に切替えることができる。本発明のいくつかの実施形態において、ガルバニック接続されたジョセフソン接合を用いて複数の情報素子が互いに結合されている。
【0097】
図9に、そのような直接ジョセフソン接合結合を用いる系900を示す。情報素子901、902は、超伝導ループ状に3個のジョセフソン接合を含む磁束素子であるが、必ずしもこのようなアーキテクチャに限定されない。結合素子910は、磁束素子910、902を一緒にガルバニック結合する、クロス・ループ設計により配置された4個のジョセフソン接合を含んでいる。結合素子910はまた、結合素子に電流バイアスを生成することができる4個の導線911を含んでいる。結合素子911内のジョセフソン接合は、磁束素子901、902のジョセフソン接合と比較してサイズが大きい。本発明の実施形態において、結合素子910内をらせん状に進む磁束は存在せず、これは結合素子910の十字線が、互いのほぼ真上に、但し異なる層に形成されることを意味する。
【0098】
導線911内の外部電流バイアスを、導線911−1、911−2、911−3および911−4について各々I、I、IおよびIとする。導線911の調整可能性は多岐にわたるが、4本の導線内の電流の和は、カプラ910が結合素子として動作する間、ゼロに等しくなければならない。電流は、結合素子の十字線を通って(911−1から911−4へまたはその逆、911−2から911−3へまたはその逆)、あるいは結合素子の水平導線を通って(911−1から911−2へまたはその逆、911−3から911−4へまたはその逆)流れることができる。導線がどのようにバイアスを掛けられているかに応じて、強磁性および反強磁性結合の両方を生成することができる。十字線を通って流れる電流が反強磁性結合を生成するのに対し、水平導線を通って流れる電流は強磁性結合を生成する。
【0099】
電流構成の二つの有用な組が生じる。第一の組は、I=−I=−I=I=Iであり、ここにIはゼロと、結合素子910内のジョセフソン接合の臨界電流との間の任意の電流値である。Iの大きさは結合の強度を決定する。このようにバイアスが掛けられた場合、電流は十字線を通って流れないが、水平導線を通って電流が流れる。この電流構成において、強磁性相互作用は反強磁性相互作用に打ち勝ち、従って、磁束素子901および902は強磁性的に結合される。第二の構成は、I=I=−I=−I=Iである。このシナリオにおいて、電流は十字線を通って流れるが、水平導線を通っては流れない。これにより、磁束素子901と902の間に正味反強磁性結合が生じる。このように、導線911の適切な電流バイアスにより、結合素子910は、磁束素子901と902の間の結合の符号の切替えを仲介することができる。
【0100】
本発明のいくつかの実施形態において、必ずしも導線911内の全ての電流バイアスが同じ大きさである必要はないが、正しい符号を維持しなければならない。電流バイアスの大きさが近いが等しくはない場合、電流は十字線と水平導線の両方を流れて、強磁性結合成分および反強磁性結合成分の両方を生成する。しかし、電流バイアスの符号は、結合素子が電流の一方の流れを優先させることを保障するため、通常は1種類の結合が強度において他のものより優勢である。本発明のいくつかの実施形態において、導線911の電流バイアスは、個々のバイアスを適切に調整することにより、結合強度を調整することができる。本発明のいくつかの実施形態において、導線911の電流バイアスは、2個の情報素子間にゼロ結合を生成すべく選択することができる。
【0101】
図10に、直接的なジョセフソン接合結合の別の実施形態を含む系1000を示す。図10において、箱1001、1002は情報素子を表わし、多くの異なるアーキテクチャを有していてよい。例えば、情報素子1001および/または10002の一実施形態が、図9に示す3個のジョセフソン接合磁束素子901(および902)である。
【0102】
結合素子1010は、両方の情報素子1001および1002にガルバニック接続されたた超伝導ループ内に3個のジョセフソン接合1010−1、1010−2、および1010−3を含んでいる。適切に調整を行なうことにより、結合素子1010は情報素子間に強磁性結合および反強磁性結合の両方を生成することができる。結合素子1010は、外部磁束バイアス
【数14】

により、自身の超伝導ループを介してバイアスを掛けられている。結合素子1010を用いた場合の情報素子間の相互作用のハミルトニアンは次式で与えられる。
【数15】

ここに、Eはジョセフソン接合1010−1(E)、1010−2(E)、または1010−3(E)のジョセフソン・エネルギー、Iは磁束素子1001の臨界電流、Iは磁束素子1002の臨界電流である。従って、外部磁束バイアスの値に応じて、相互作用の符合は、正から負またはその逆への切替えが可能である。これは、反強磁性的から強磁性またはその逆への切替えと同様である。また、結合相互作用の大きさは、外部磁束バイアスを調整することにより調整可能であり、特定の値のバイアスについてゼロにすることができる。結合強度は、
【数16】

のとき最大であり、これは
【数17】

がπの整数倍であることに対応している。結合強度は
【数18】

のときゼロであり、これは
【数19】

がπ/2または3π/2のいずれかに対応している。
【0103】
本発明のいくつかの実施形態において、複数の直接的なジョセフソン接合結合素子を用いて複数の情報素子が互いに結合されている。そのような素子の例として、図9の素子910および図10の素子1010がある。本発明のいくつかの実施形態において、結合素子910および1010の両方が同一回路で使われている。本発明のいくつかの実施形態において、当該複数の磁束素子は、直接的なジョセフソン接合結合素子を用いて自身に最も近い近隣素子に結合する磁束素子を有する二次元格子を含んでいる。他の実施形態において、当該複数の磁束素子は、直接的なジョセフソン接合結合素子を用いて自身に最も近い近隣素子に結合する磁束素子を有する一次元鎖を含んでいる。
【0104】
結合素子の形成における多様性
本発明の各種の実施形態を形成する多くの方法がある点を理解されたい。これらの形成方法は当分野で公知である。そのような技術の例は、本明細書の背景技術の段にて援用されている。
【0105】
本発明で採用可能な特定の製造実施形態は、2層を用いる結合素子形成のコンセプトである。通常、図5のrf−SQUID510bおよび図7のdc−SQUID710b等の結合素子の超伝導ループは、超伝導チップの単一の層に形成される。すなわち、超伝導ループは、回路の単一の層だけに含まれている。このように形成された超伝導ループは、他の導線や素子が一切配置できないチップ上の利用可能な表面領域(リアルエステート)の相当な量を占有するであろう。また、そのような設計は、超伝導ループと当該チップ周辺の要素との間に寄生容量が存在するため、とても優れている訳ではない。従って、周辺要素を超伝導ループから離して配置する必要があり、そのためチップ上のより多くの利用可能な表面領域(リアルエステート)を占有してしまう。これらの欠点に対処すべく、本発明のいくつかの実施形態において、結合素子の超伝導ループの区画をチップ上の別の層に形成する。例えば、rf−SQUID510bは、それがSQUID510aおよび510cに結合されたチップの第一層上の2個の小さい開ループを含むように形成される。これらの開ループは、2本のマイクロストリップ導線により互いに接続されており、1本が開ループと同一層に、もう1本がビア(via)により第一層に接続された第二層にある。従って、SQUID510aと5109cを互いに結合する1本の連続閉ループを構成する。ジョセフソン接合は、一方のストリップに存在する。いくつかの実施形態において、2枚のマイクロストリップは、一方が他方の直ぐ上に形成されている。いくつかの実施形態において、第二層はチップの接地面である。いくつかの実施形態において、複数の結合素子は、当該複数の結合素子において各々の結合素子からの1個の開ループが一つの層を占有し、各々の結合素子からの別の開ループが別の層を占有する状態で、形成される。
【0106】
結合素子をこのように形成する場合、結合素子の超伝導ループが効果的に垂直に立てられているため、結合素子が占有するチップ上の利用可能な水平方向の表面領域(リアルエステート)は減少する。したがって、より多くの素子を、チップに配置することができる。この形成方法は、結果として生じる結合素子が本発明に記載している方法で動作することを妨げない。また、この構成により、結合素子内の超伝導ループから生じる寄生容量の量を減らす。以下は、2個のrf−SQUID磁束素子間にdcSQUIDとrf−SQUIDが生成することができる結合の詳細な分析的な例である。
【実施例】
【0107】
実施例1 rf−SQUID変成器を介した磁束素子の調整可能な結合
図5に、結合の符号の調整可能性を含む、3個のrf−SQUID510a、510b、および510cのダイナミクスを、rf−SQUIDの古典的電位から始まる分析によりどのようにモデル化できるかを示す。この例では、a、b、c−SQUID、または、a、bおよびcは、各々rf−SQUID510a、510bおよび510cを表わす。以下、本例では、上付き添え字、下付き添え字、またはハイフンで値や項と結ばれたa、bおよびcは、rf−SQUID510a、510bおよび510−cに関する値を表わす。これらのrf−SQUIDに紐付けられた値や量は以下のものを含むがこれに限定されない。
L:rf−SQUIDインダクタンス
Β:無次元SQUIDインダクタンス(SI単位系で2πLI/Φに等しいと定義され、
【数20】

のとき4eLEとなる)
C:rf−SQUID静電容量
:rf−SQUIDの臨界電流
E:rf−SQUIDジョセフソン・エネルギー
【数21】

:rf−SQUID510jの電流、ここにj=a、bまたはc
Φ:rf−SQUID510jの磁束、ここにj=a、bまたはc
φ:無次元磁束、ここにj=a、bまたはc
【数22】

:rf−SQUID510jに掛けられた無次元外部磁束「X」、ここに、j=a、bまたはc
φtot:rf−SQUIDの全磁束
ij:相互インダクタンス、ここにi、j=a、bまたはc等
【0108】
図5に示すように、3個のrf−SQUID510a、510bおよび510cが考慮されている。rf−SQUID510aおよび510cは、縮退的にバイアスが掛けられた磁束素子であり、一方、510brf−SQUIDは外部磁束バイアス(図示せず)により調整可能な結合要素である。情報素子510aと510cの間に間接的な結合を得るために、以下の電位を考慮すれば十分である。
【数23】

および誘導マトリクス
【数24】

すなわち、直接的な反強磁性的誘導結合510a〜510−0cは小さいと仮定される。これは例えば、上述のグラジオメトリック情報素子を利用することで実現できる。しかし、Macが小さい限り、相互作用項Macを以下の最終結果(9)に加えることができる。既に述べたように、各種のループが果たす役割に応じて、いくつかの実施形態において磁束バイアスは以下のように選択される。
【数25】

ここに、
【数26】

は要素
【数27】

を有する列ベクトルである。このように、
【数28】

は、ループ510bがa−SQUIDおよびc−SQUIDに結合する遮断磁束を外部的に補償する。
【数29】

の定義については以下の式(6)を参照されたい。
【0109】
それ以上の自由度をもたらすことなくb−SQUIDが受動的なカプラとして機能する場合、b−SQUIDは双安定であってはならない。従って、カプラとして機能するrf−SQUIDが存在する本発明の実施形態において、rf−SQUIDは単安定であることが好ましい。単安定性は、整数個の量子
【数30】

に近い磁束でrf−SQUIDにバイアスを掛けることにより、あるいは任意の磁束バイアスの場合は無次元インダクタンスが1より小さくなるようにrf−SQUIDを形成することにより、実現することができる。すなわち、
【数31】

である。この無次元インダクタンス値は、bループのエリアを、従って誘導結合を維持しながら、Eを減らすことにより実現することができる。製造途中のジョセフソン接合の臨界電流密度、またはrf−SQUID内のジョセフソン接合の断面積を減らすことは、rf−SQUIDの臨界電流を減らすことに対応する。いくつかの実施形態において、b−SQUIDを磁束レジームに保つべく、rf−SQUID510b内のジョセフソン接合に跨って分流コンデンサが配置される。以下の計算はどちらの場合も正しく、それらの相対的な利点について以下に議論する。また、一意な電位最小値を有するSQUIDであってもプラズマ振動に対応する励起状態がある。これらは現在の準古典的解析の範囲外ではあるが、b−SQUIDを受動的なままにする場合、対応する励起エネルギーはaおよびc素子のいかなる遷移とも異なっている必要がある。
【0110】
Mの拡張による進行。M/Lのレジームが1よりはるかに小さい(例えば、遠距離ループ)ことが最も現実的であることを示唆しなくても、これは明快な結果に至り、一般的な場合の数値的研究の指針となり得る。bにより仲介されるa−c結合はΟ(M)と予想されるため、接合位相は次式で与えられ、
【数32】

平衡条件
【数33】

を解くことで決定することができる。リーディング・オーダーにおいて、これらは孤立rf−SQUIDの定常位相に過ぎない。
【数34】

ここに、
【数35】

はどちらの符号でもよい。逆インダクタンス行列が同じオーダーで必要である。
【数36】

(7)を用いることで一貫して下記のように重要な相殺に到る。
【0111】
Ο(M)において、(3)における
【数37】

の特殊な選択に起因してχa,c=0であることがわかるが、bループが隣接する素子の遮断磁束を拾い上げ、次式のように前因子がその磁化率を反映している。
【数38】

【0112】
ξをΟ(M)で計算する必要はない。Uの最小値周辺での拡張であるため、ξは関連するオーダーには寄与しない。
【0113】
あとは(1)のUに(3)−(8)を代入するだけでよい。例えば、
【数39】

は磁束素子の状態に依存しないため、次式が得られる。
【数40】

第一係数は、幾何学的に予想される相互インダクタンスの積を含んでいる。残りの2個の係数は∝I、あるいは量子コンピューティング表現では∝σσである。第二係数は次式で与えられる。
【数41】

従って、小さい
【数42】

の場合、結合は反強磁性であるが、
【数43】

となるにつれて強磁性に符号を変える。
【0114】
図6に、510b等のrf−SQUIDの全磁束と掛けられた外部磁束の対比(Φtot対Φ曲線)をモデル化したグラフ600(S曲線としても知られる)を示す。外部磁束はrf−SQUIDのループに掛けられ、全磁束と外部磁束の差はrf−SQUIDの電流により生成される。グラフ600の曲線610、620、630は、
【数44】

の観点からみた
【数45】

を用いて、式6をプロットして生成することができる。曲線610は、β=0の場合に対応し、45度の線が開ループとして予想される。
【0115】
式9、10、および一般的な結合機構によりモデル化される挙動は明快な解釈ができる。自由なb−SQUIDのS曲線
【数46】

の例としてβ<<1である曲線620を考慮する。a素子が↑から↓へ反転した場合、相互インダクタンスが−Mab<0であるため、
【数47】

が効果的に増大する。小さい
【数48】

、軸上でゼロに近い
【数49】

の場合、上述のS曲線は1より小さい(<1)傾斜を有するため、この増加はbループの↓向きの自己磁束により部分的に遮断される。次いで、後者は、−Mbc<0を通って、cループの↑向きバイアスとして作用し、そこで例えばa素子の状態とは逆の↑向き状態が有利になる。これはまた、最大反強磁性応答がβ→∞を完全に遮断しているため、(10)においてβ>>1である場合に例証された一体性の境界をも説明する。これは阻害されない超伝導ループに対応する。しかし、
【数50】

の近くでは、偏角は逆向きに作用する。そこではS曲線は1より大きい(>1)傾斜を有するため、特異的に(differentially)、自己磁束は全く遮断することなく、実質的に外部磁束の増大に寄与する。従って、結合は符号を強磁性体に変える。
【0116】
βが下方から1に近づくにつれて(β<1)、πにおけるS曲線の傾斜が境界(双安定の前兆)なしに増大するため、強磁性結合の増強が可能になる。これは、(10)の分母がゼロであることに対応する。これをグラフ600の曲線630として示す。一方、実際には、どのようなMであってもS曲線上の傾斜ではなく階差を扱うため、発散が起きることは絶対にない。遮断電流が外部磁束に関するエネルギーの導関数であり、結合強度はSQUID帯域構造の階差の二次導関数に比例する点に留意されたい。電位が大きい強磁性結合により、Macを介したあらゆる残余の直接的反強磁性結合に打ち勝つことが可能になる。式(10)は、βレジームが大きければ全く柔軟性を欠き、β<<1のとき結合強度が小さい遮断磁束により制限されることを示しているため、本発明のいくつかの実施形態において
【数51】

の場合が好適である。
【0117】
1を超えるβの場合rf−SQUIDは双安定である。これは、グラフ600の曲線640の場合に対応する。準安定状態は、掛けられた磁束が特定のレベルであって、且つrf−SQUID遷移状態において消失する。上述のように、双安定rf−SQUIDは本発明のいくつかの実施形態において磁束素子として用いられる。
【0118】
いくつかの実施形態において、aおよびc−SQUIDは、MabおよびMbcの符号を変える大きいbループ内に配置されているため、(9)は不変である。この設計変更により、bループの大部分が磁束変成器であって、ジョセフソン接合が調整可能性を提供していることがより明らかになる。更に、最終結果(9)はaおよびc素子の特性にごく僅かにしか依存せず、特にaおよびc素子がb−SQUIDに結合する磁束を介してのみ依存する。従って、他の種類の磁束素子への一般化は明らかな筈である。
【0119】
本発明の態様は、SQUID510bが外部回路とガルバニック結合されていることを必要条件としない。これは、デコヒーレンスを制限するための利点である。
【0120】
実施例2 dc−SQUID変成器を介した磁束素子の調整可能な結合
本例は、図7に示した設定、特に2個のrf−SQUID磁束素子710a、710cがdc−SQUID710bに結合されているものを解析する。本例では、a、b、c−SQUID、またはa、b、cは各々、rf−SQUID710a、dc−SQUID710b、およびrf−SQUID710cを表わす。以下、本例では上付き文字、添え字として、または値または項とハイフンで結ばれたa、b、cはSQUID710a、710bおよび710cに関する値を表わす。これらのSQUIDに紐付けられた値および量は下記を含んでいる。
L:SQUIDインダクタンス
β:無次元SQUIDインダクタンス(SI単位系で2πLI/Φに等しいと定義され
【数52】

のとき4eLEとなる)
C:SQUID静電容量
:SQUIDの臨界電流
E:SQUIDジョセフソン・エネルギー
【数53】

:SQUID710jの電流、ここにj=a、b、bまたはc
Φ:SQUID510jの磁束、ここにj=a、b、bまたはc
φ:無次元磁束
【数54】

:rf−SQUID710jに掛けられた無次元外部磁束「X」
φtot:SQUIDの全磁束、等
【0121】
図7において、dc−SQUID710bは、2本のアームを有し、その各々がジョセフソン接合を有している。dc−SQUIDの左右のアームを各々bおよびbで表わし、これらは固定バイアス電流Iを搬送する。
【0122】
a−SQUIDとc−SQUIDとの相互インダクタンスを無視すれば、系のコイル間インダクタンス・マトリクスは次式で与えられる。
【数55】

ここに、Lが個々のループのインダクタンスを表わし、Mijはループiとjの相互インダクタンスを表わす。しかし、Ib2=Ib1+Iであるため、ループに関連する3個のベクトルに関係する磁束−電流は次式で与えられる。
【数56】

ここに、
【数57】

一方、4個のジョセフソン接合位相は全て独立な動的変数である。
【0123】
系700を支配する回路方程式のうち4個がジョセフソン関係
【数58】

であり、ここにQは電荷、Cは静電容量、および
【数59】

はj=a、b、bおよびcについての位相導関数である。他の4個の方程式は電流保存
【数60】

を表わす。系700の全ハミルトニアンは従って、j=a、b、bおよびcについて次式で与えられる。
【数61】

Hは2本のdc−SQUIDアームにおいて実質的に対称形である。Hは接合位相と電荷だけの関数であり、ループ電流としてのIb1を非対称に選択したことは単に暫定的な都合に過ぎない。すなわち、式(19)の最後の2項を各々「磁気」および「バイアス」エネルギーとして示すことは任意である。
【数62】

を定数まで上げることにより、式(19)を以下のように書き直すことができる。
【数63】

ここに、Hは系のインダクタンスおよび位相の複素関数である。
【0124】
これ以降、本解析はrf−SQUIDの場合の一般化であり、再び位相を式(4)の形式で記述してHを同じオーダーまで拡張する。aおよびc素子が効果的に縮退している筈であり、これは、自身の外部磁束がIを補償しなければならないことを意味する。オーダーO(M)において、定常位相は、単離された素子に関する標準式に従う。
【数64】

ここに、βa(c)=4ea(c)a(c)は標準であるが、定義βbj=が4ebj(j=1,2)がb−SQUIDの個々のアームのインダクタンスではなく、全ループ・インダクタンスを含む点に注意されたい。
【0125】
rf−SQUID場合と同様に、UのM拡張においてξを未評価のままにしておくことが最適であり、電位の最小値周辺で拡張されるため、これらの寄与が相殺(このオーダーまで)することがわかる。更なる相殺を利用し、且つ磁束素子の状態に依存しない全ての項を落とすことで次式が得られる。
【数65】

ここに、全ての持続性は、式(22)および(23)で与えられた、
【数66】

への依存性に由来する。簡単なコヒーレント性検査として、I→0およびEb2→∞を取る。次いで、式(22)が
【数67】

まで減少し、式(24)の大きい分数が
【数68】

となる一方、式(23)から、
【数69】

であることがわかり、これはrf−SQUID結合の場合の結果そのものである。
【0126】
他の場合として、無視可能な遮断を有する対称dc−SQUIDがある。この場合、式(22)および(23)が
【数70】

まで減少する。この場合でも、
【数71】

の場合に強磁性結合が得られる。このように非ゼロ磁束バイアスが必要であるが、Iの持続性は結合の符号を変えるために十分である。
【0127】
この系には顕著な特徴がいくつかある。強磁性結合を実現するには、非ゼロの磁束および電流バイアス、(24)の分母が常に正であって、
【数72】

が決して同時に負にならないことが必要である。I=0のとき
【数73】

であり、任意の
【数74】

については
【数75】

となる静止状態が存在するため、電流バイアスが必要なことは、対称なdc−SQUIDの場合に明らかである。これは、非対称なdc−SQUIDは、特殊ケースとしてrf−SQUIDを含み、後者は一切の電流バイアスなしに強磁性結合を仲介することができるため、更に一般化することはできない。磁束バイアスが必要なことは、
【数76】

である任意の遮断を伴なう対称素子について、同様に証明が容易である。しかし、一般には式(22)および(23)は、2本のdc−SQUIDアーム間のインダクタンス不均衡が非ゼロ
【数77】

と同じ役割を果たし得ることを示す。
【0128】
最後に、上述の解析は、式(20)の電位部分が古典的な場合における調整可能な結合を許すことを示すだけである。すなわち、変成器が受動的なままである限り、例えばその最低エネルギー状態/帯域に拘束されている限り、正当な形状から外れていながら尚適切なカプラである素子が有り得る。本明細書に全文を援用している「物理学レビュー予稿集91、057003(アベリン(Averin)ら、2003年)」を参照されたい。量子解析を行なう場合、上で導かれた、バイアスを受けている相互作用ハミルトニアンを出発点として直ちに用いることができる。また、再びM拡張の方法により、バイアスを受けている未結合dc−SQUID向けに問題が簡約できる。
【0129】
実施例3 rf−SQUID形成の詳細
本発明のいくつかの実施形態において、インダクタを有する超伝導ループであって、当該インダクタとジョセフソン接合が図11に示すように平行であるように単一のジョセフソン接合により遮断された超伝導ループを含む、rf−SQUIDが使われる。所与の形成プロセスにおいて、ジョセフソン接合は、臨界電流I、すなわち一切の減衰なしに搬送できる電流の量、によりパラメータ化される。rf−SQUID設計は次いで、IL積によりパラメータ化される。ここに、Lはインダクタンスまたはその無次元インダクタンス2πLI/Φであり、Φは磁束量子である。
【0130】
rf−SQUIDの挙動を、SQUIDのインダクタに結合された、外部から掛けられた磁束に対する応答の観点から記述する。所与の掛けられた磁束に対して、SQUID内に当該SQUIDの特定の磁束状態に対応する循環電流が誘導される。1より大きい無次元インダクタンス値の場合、rf−SQUIDは多安定であってよい、すなわち外部から掛けられた特定の磁束の値に対してrf−SQUIDの安定磁束状態が複数あってよいことを意味する。
【0131】
多くの用途では、磁束が変成器を介してrf−SQUIDのインダクタに結合していることが必要である。この変成器がどの程度効率的に磁束に結合するかが設計上の制約であり、これによりSQUIDインダクタンスに通常何らかの制約が課される。通常、特定のアプリケーションはまた、SQUIDの許容される無次元インダクタンスを、多くの場合1以下に、制約する。これら二つの制約が接合臨界電流の許容範囲を決定する。
【0132】
dc(2接合)およびrf(1接合)SQUIDの最新の形成は通常、本明細書に全文を援用している「超伝導科学技術大2巻pp.880〜882(フリッチ(Fritzsch)ら、1999年)」に記述されているように、全面高融点金属多層集積回路プロセスで実行される。典型的な形成プロセスには、ジョセフソン接合用のNb/AlO/Nb三層、rfマグネトロンスパッタリングを用いてスパッタ堆積されたSiO等の材料から一つの誘電絶縁層、および配線用の追加的な金属化層を含んでいる。dcマグネトロンスパッタリングを用いて堆積された金属化層は通常Nbである。Nb/AlO/Nb三層はdcマグネトロンスパッタリングにより堆積することができ、その場合パラメータは無応力ニオブを得るように選ばれている。AlO層は、ベースNb層に堆積されたアルミニウムの薄い層(例えば厚さ70オングストローム)の酸化によりベースNb層上に成長させることができる。
【0133】
サンプル・レイアウトを図11に示す。本レイアウトにおいて、Xはジョセフソン接合1106を表わす。接合域の画定は、選択的なニオブ分離プロセス(SNIP)により行なうことができる。例えば、本明細書に全文を援用している「応用物理学予稿集41、1097(ショウジ(Shoji)ら、1982年)」を参照されたい。層1102は、下位配線層として用いられる三層接合のベース電極を表わす。層1110は、上位配線層を表わす。四角形1108は、三層で形成されていて上位配線層1110により接触されたジョセフソン接合が占有する領域を示す。領域1104はビア、すなわち層1102および1110の間の直接結合を表わす。SQUIDのインダクタンスは、下位1102および上位1110配線層上で接続された構造により形成されるループで構成されている。このインダクタンスは通常、解析的公式または三次元電磁モデリング・ソフトウェアのいずれかを用いて何らかの方法で計算する必要がある。接合の臨界電流は、その面積および特定の形成プロセスの臨界電流密度に比例する。
【0134】
結論および引例
本明細書に引用した全ての文献は包括的な目的でその全文を援用しているが、これは個々の出版物/特許/特許出願を包括的な目的のため各々個別にその全文を援用する場合と同程度である。
【0135】
当業者には明らかなように、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、多くの変更や変形を行なうことができる。本明細書に記述した特定の実施形態は単に例示目的で提供されており、本発明は添付の特許請求の範囲によってのみ規定されるものであって、そのような特許請求の範囲が包含するあらゆる範囲の等価物も同様である。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1A】本発明の実施形態による二重結合スキームにおける2個の情報素子を示す。
【図1B】本発明の実施形態による結合素子または結合要素を示す。
【図1C】本発明の実施形態による結合素子または結合要素を示す。
【図2】本発明の別の実施形態による二重結合スキームにおける2個の情報素子を示す。
【図3】本発明の実施形態による二重結合スキームを用いて互いに結合された情報素子の二次元配列を示す。
【図4】本発明の別の実施形態による二重結合スキームを用いて互いに結合された情報素子の二次元配列を示す。
【図5】本発明の実施形態によるrf−SQUIDを用いた磁束素子間の調整可能な結合を示す。
【図6】本発明の実施形態による、rf−SQUID全磁束対掛けられた外部磁束のグラフである。
【図7】本発明の実施形態によるdc−SQUIDを用いた磁束素子間の調整可能な別の結合を示す。
【図8】本発明の実施形態による、正規化された外部電流バイアス対dc−SQUIDに対する外部磁束バイアスのグラフである。
【図9】本発明の実施形態による直接ジョセフソン接合結合を用いた情報素子間の調整可能な結合を示す。
【図10】本発明の実施形態による直接ジョセフソン接合結合を用いた情報素子間の調整可能な別の結合を示す。
【図11】本発明の実施形態による製造方法を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の磁束素子と、
第二の磁束素子と、
第一の結合要素および第二の結合要素を含む第一の結合素子と
を含む構造であって、
前記第一の磁束素子が少なくとも、互いに電気的に導通する第一のローブおよび第二のローブを含み、
前記第二の磁束素子が少なくとも、互いに電気的に導通する第一のローブおよび第二のローブを含み、
前記第一の結合要素が、前記第一の磁束素子の前記第一のローブを前記第二の磁束素子の前記第一のローブに誘導結合し、
前記第二の結合要素が、前記第一の磁束素子の前記第一のローブを前記第二の磁束素子の前記第二のローブに誘導結合し、
前記第一と第二の結合要素が互いに電気的に導通しておらず、
前記第一と第二の結合要素が各々0.5より大きく2より小さい無次元インダクタンスを有する構造。
【請求項2】
前記第一の磁束素子および前記第二の磁束素子がグラジオメトリック磁束素子である、請求項1に記載の構造。
【請求項3】
前記第一の磁束素子の第一のローブが、前記第一の磁束素子の第二のローブ内に維持された超伝導電流の循環方向とは逆向きの循環方向を有する循環超伝導電流を維持し、
前記第二の磁束素子の第一のローブが、前記第二の磁束素子の第二のローブ内に維持された超伝導電流の循環方向とは逆向きの循環方向を有する循環超伝導電流を維持する、請求項1に記載の構造。
【請求項4】
前記第一の結合要素または前記第二の結合要素が、前記第一の磁束素子を前記第二の磁束素子に強磁性的または反強磁性的に結合する、請求項1に記載の構造。
【請求項5】
前記第一の結合要素が、前記第一の磁束素子と第二の磁束素子との間に結合強度を有しておらず、
前記第二の結合要素が、前記第一の磁束素子と第二の磁束素子との間に有限の結合強度を有する、請求項1に記載の構造。
【請求項6】
前記第一の結合素子が結合強度を有しない状態を生成できるように、前記第一の磁束素子および前記第二の磁束素子に対して次元および構成が定められた結合制御系を更に含む、請求項1に記載の構造。
【請求項7】
前記結合制御系が、磁束バイアス発生源、電流バイアス発生源、または磁束バイアス発生源と電流バイアス発生源の両方を含み、前記結合制御系が、前記第一と第二の結合要素の各々にバイアスを掛けるべく構成されている、請求項6に記載の構造。
【請求項8】
少なくとも、
前記第一の結合素子が有限の結合強度を有する第一の状態と、
前記第一の結合素子が結合強度を有しない第二の状態との間でトグル切替えするように、前記第一の磁束素子および前記第二の磁束素子に対して次元および構成が定められた結合制御系を更に含む、請求項1に記載の構造。
【請求項9】
前記結合制御系が、磁束バイアス発生源、電流バイアス発生源、または磁束バイアス発生源と電流バイアス発生源の両方を含み、前記磁束バイアス発生源が、前記第一と第二の結合要素の各々にバイアスを掛けるべく構成されている、請求項8に記載の構造。
【請求項10】
前記第一の結合要素、前記第二の結合要素、または前記第一の結合要素と前記第二の結合要素の両方がdc−SQUIDを含む、請求項1に記載の構造。
【請求項11】
前記第一の結合要素、前記第二の結合要素、または前記第一の結合要素と前記第二の結合要素の両方がrf−SQUIDを含む、請求項1に記載の構造。
【請求項12】
前記第一の結合要素、前記第二の結合要素、または前記第一の結合要素と前記第二の結合要素の両方を制御可能なように調整する結合制御系を更に含む、請求項1に記載の構造。
【請求項13】
前記結合制御系が、前記第一の結合要素および前記第二の結合要素を調整して、前記第一の磁束素子と前記第二の磁束素子が互いに誘導結合されないようにする手段を含む、請求項12に記載の構造。
【請求項14】
前記第一の磁束素子および第二の磁束素子が超伝導である、請求項1に記載の構造。
【請求項15】
前記第一と第二の結合要素が各々、約1である無次元インダクタンスを有する、請求項1に記載の構造。
【請求項16】
前記第一と第二の結合要素が各々、0.5〜1.5の範囲に無次元インダクタンスを有する、請求項1に記載の構造。
【請求項17】
前記第一の磁束素子および前記第二の磁束素子を含む複数の磁束素子と、
前記第一の結合素子を含む複数の結合素子であって、前記複数の結合素子内の1個以上の結合素子が複数の結合要素を含む複数の結合素子とを更に含む、請求項1に記載の構造。
【請求項18】
前記複数の結合素子が、第三の結合要素および第四の結合要素を含む第二の結合素子を含んでいて、前記構造が更に、
第一のローブおよび第二のローブを含む第三の磁束素子を含み、
前記第三の結合要素が前記第一の磁束素子の第一のローブを前記第三の磁束素子の第一のローブに結合し、
前記第四の結合要素が前記第一の磁束素子の第二のローブを前記第三の磁束素子の第一のローブに結合する、請求項17に記載の構造。
【請求項19】
前記複数の磁束素子内の1個以上の磁束素子の各々が、前記複数の結合素子内の異なる結合素子を介して、前記複数の磁束素子内の2個、3個、または4個の磁束素子に結合している、請求項17に記載の構造。
【請求項20】
解くべき問題のハミルトニアンが前記複数の磁束素子にマッピングできるように前記構造が構成されている、請求項17に記載の構造。
【請求項21】
前記複数の磁束素子が、唯一つのハミルトニアンだけを解くように設計されている、請求項20に記載の構造。
【請求項22】
第一の情報素子と、
第二の情報素子と、
結合素子とを含み、
前記結合素子が前記第一の情報素子および第二の情報素子を互いに誘導結合すべく構成されていて、
前記結合素子が更に、前記第一の情報素子と第二の情報素子の間の結合を、制御可能な仕方で強磁性結合と反強磁性結合の間で切替えるべく構成されていて、
前記結合素子が0.5より大きく2より小さい無次元インダクタンスを有する装置。
【請求項23】
前記結合素子が、互いに電気的に導通していない1個以上の結合要素を含む、請求項22に記載の装置。
【請求項24】
前記結合素子が、互いに電気的に導通していない2個の結合要素を含む、請求項22に記載の装置。
【請求項25】
前記結合素子が、前記第一の情報素子と第二の情報素子との間の結合を制御可能な仕方で、強磁性結合と反強磁性結合の間で切替えるスイッチを更に含み、前記スイッチが同時に、
(A)前記1個以上の結合要素内の第一の結合要素に、(i)前記第一の結合要素が結合強度を有していない第一の状態から、(ii)前記第一の結合要素が結合強度を有する第二の状態へ遷移させ、
(B)前記1個以上の結合要素内の第二の結合要素に、(i)前記第二の結合要素が結合強度を有する第一の状態から、(ii)前記第二の結合要素が結合強度を有していない第二の状態へ遷移させる手段を含む、請求項23に記載の装置。
【請求項26】
前記1個以上の結合要素における結合要素の全部または一部の結合要素の各々がdc−SQUIDを含む、請求項23に記載の装置。
【請求項27】
前記1個以上の結合要素における結合要素の全部または一部の結合要素の各々がrf−SQUIDを含む、請求項23に記載の装置。
【請求項28】
前記第一の情報素子がグラジオメトリック磁束素子であり、
前記第二の情報素子がグラジオメトリック磁束素子である、請求項22に記載の装置。
【請求項29】
前記結合素子が、前記第一の情報素子と第二の情報素子との間の誘導結合を、前記結合素子が前記第一の情報素子と第二の情報素子との間に誘導結合を生成するオン状態と、前記結合素子が前記第一の情報素子と第二の情報素子との間に誘導結合を生成しないオフ状態との間で切替えるスイッチを含む、請求項22に記載の装置。
【請求項30】
前記結合素子が、前記第一の情報素子と第二の情報素子との間の誘導結合の結合強度を調整するスイッチを含む、請求項22に記載の装置。
【請求項31】
第一の情報素子と第二の情報素子の結合を切替える方法であって、
前記第一の情報素子の第一のローブを前記第二の情報素子の第一のローブに結合する第一の結合要素をオフにするステップと、
前記第一の情報素子の前記第一のローブを前記第二の情報素子の第二のローブに結合する第二の結合要素をオンにするステップとを含み、
前記第一の結合要素が初期状態ではオン、前記第二の結合要素が初期状態ではオフであり、
前記第一と第二の結合要素が互いに電気的に導通しておらず、
前記第一と第二の結合要素が各々0.5より大きく2より小さい無次元インダクタンスを有する方法。
【請求項32】
前記第一の結合要素をオフにするステップが、前記第一の情報素子および前記第二の情報素子から第一の結合を解除し、
前記第二の結合要素をオンにするステップが、前記第一の情報素子と前記第二の情報素子との間に第二の結合を生成する、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記第一の結合が強磁性であり、前記第二の結合が反強磁性である、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記第一の結合が反強磁性であり、前記第二の結合が強磁性である、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
第一の情報素子と第二の情報素子の間の結合を解除する方法であって、
前記第一の情報素子の第一のローブを前記第二の情報素子の第一のローブに結合する第一の結合要素を調整するステップと、
前記第一の情報素子の前記第一のローブを前記第二の情報素子の第二のローブに結合する第二の結合要素を調整するステップとを含み、
前記第二の結合要素の前記調整により生成された前記第一の情報素子と第二の情報素子との間の結合が、前記第一の結合要素の前記調整により生成された前記第一の情報素子と第二の情報素子との間の結合をキャンセルし、
前記第一と第二の結合要素が互いに電気的に導通しておらず、
前記第一と第二の結合要素が各々0.5より大きく2より小さい無次元インダクタンスを有する方法。
【請求項36】
前記第一の結合要素がdc−SQUIDを含み、
前記第一の結合要素の前記調整が電流バイアスまたは磁束バイアスの調整を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記第一の結合要素がrf−SQUIDを含み、
前記第一の結合要素の前記調整が磁束バイアスの調整を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記第二の結合要素がdc−SQUIDを含み、
前記第二の結合要素の前記調整が電流バイアスまたは磁束バイアスの調整を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
前記第二の結合要素がrf−SQUIDを含み、
前記第二の結合要素の前記調整が磁束バイアスの調整を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項40】
前記第一の結合要素が、前記第一の情報素子と前記第二の情報素子を互いに強磁性的に結合し、
前記第二の結合要素が、前記第一の情報素子と前記第二の情報素子を互いに反強磁性的に結合する、請求項35に記載の方法。
【請求項41】
第一の磁束素子と、
第二の磁束素子と、
前記第一の磁束素子および前記第二の磁束素子に誘導結合された第一のSQUIDカプラとを含み、
前記第一のSQUIDカプラが、前記第一の磁束素子と第二の磁束素子との間に強磁性または反強磁性誘導結合を生成すべく調整されるように構成されていて、
前記第一のSQUIDカプラが磁場によりバイアスを掛けられていて、
前記SQUIDカプラは、0.5より大きく2より小さい無次元インダクタンスを有する構造。
【請求項42】
前記第一のSQUIDカプラがrf−SQUIDカプラである、請求項41に記載の構造。
【請求項43】
前記rf−SQUIDカプラが0.7〜1.1の範囲に無次元インダクタンスを有する、請求項42に記載の構造。
【請求項44】
前記rf−SQUIDカプラに前記磁場を掛けるべく構成された磁気スイッチを更に含んでいて、前記磁場の強度により、前記第一の磁束素子と前記第二の磁束素子との間の誘導結合が強磁性または反強磁性のいずれであるかを決定する、請求項42に記載の構造。
【請求項45】
前記磁場が、約±0.1Φ以下の精度で約ゼロの磁束を有し、前記第一の磁束素子と第二の磁束素子との間の誘導結合が反強磁性である、請求項44に記載の構造。
【請求項46】
前記磁場が、約±0.01Φ以下の精度で約ゼロの磁束を有し、前記第一の磁束素子と第二の磁束素子との間の誘導結合が反強磁性である、請求項44に記載の構造。
【請求項47】
前記磁場が、約±0.2Φ以下の精度で約Φ/2の磁束を有し、前記第一の磁束素子と第二の磁束素子との間の誘導結合が強磁性である、請求項44に記載の構造。
【請求項48】
前記rf−SQUIDカプラが単安定である、請求項42に記載の構造。
【請求項49】
整数個の量子に近い磁束でrf−SQUIDにバイアスを掛けるべく構成された磁束バイアス発生源を更に含む、請求項42に記載の構造。
【請求項50】
前記第一と第二の磁束素子が双安定である、請求項41に記載の構造。
【請求項51】
前記第一の磁束素子が、第一のジョセフソン接合により遮断された超伝導材料の第一のループを含み、
前記第二の磁束素子が、第二のジョセフソン接合により遮断された超伝導材料の第二のループを含む、請求項41に記載の構造。
【請求項52】
前記第一のSQUIDカプラがdc−SQUIDカプラである、請求項41に記載の構造。
【請求項53】
前記dc−SQUIDカプラが対称形である、請求項52に記載の構造。
【請求項54】
前記dc−SQUIDカプラが、磁場バイアス素子および電流バイアス素子により調整される、請求項52に記載の構造。
【請求項55】
前記dc−SQUIDカプラが非対称形である、請求項52に記載の構造。
【請求項56】
前記dc−SQUIDカプラが、磁場バイアス素子により調整される、請求項52に記載の構造。
【請求項57】
前記第一の磁束素子および前記第二の磁束素子を含む複数の磁束素子と、
複数のSQUIDカプラであって、前記複数のSQUIDカプラの各々のSQUIDカプラが、前記複数の磁束素子において異なる対の磁束素子を誘導結合すべく構成されていて、前記複数のSQUIDカプラが前記第一のSQUIDカプラを含んでいる、複数のSQUIDカプラとを更に含む、請求項41に記載の構造。
【請求項58】
前記複数のSQUIDカプラの各々のSQUIDカプラが、前記複数の磁束素子の対応する磁束素子対の間に強磁性または反強磁性結合を生成すべく調整されるように構成されている、請求項57に記載の構造。
【請求項59】
前記第一の磁束素子および前記第二の磁束素子が磁束キュービットである、請求項41に記載の構造。
【請求項60】
第一の磁束素子と、
第二の磁束素子と、
前記第一の磁束素子および前記第二の磁束素子とガルバニック結合している第一のカプラとを含んでいて、
前記第一のカプラが複数のジョセフソン接合を含み、
前記第一のカプラが、前記第一の磁束素子と第二の磁束素子との間に強磁性または反強磁性の誘導結合を提供すべく構成されている構造。
【請求項61】
前記第一の磁束素子および前記第二の磁束素子が各々、3個のジョセフソン接合により遮断された超伝導ループを含む、請求項60に記載の構造。
【請求項62】
前記第一のカプラが、
第一のジョセフソン接合、第二のジョセフソン接合、および第三のジョセフソン接合により遮断された超伝導ループと、
前記超伝導ループを介して前記磁束を調整すべく構成された外部磁束バイアスとを含む、請求項60に記載の構造。
【請求項63】
前記第一の磁束素子が前記第一のジョセフソン接合に跨ってガルバニック接続されていて、前記第二の磁束素子が前記第二のジョセフソン接合に跨ってガルバニック接続されている、請求項62に記載の構造。
【請求項64】
前記外部磁束バイアスが、前記第一および前記第二の磁束素子の間にゼロ誘導結合を生成すべく構成されている、請求項62に記載の構造。
【請求項65】
前記外部磁束バイアスが、前記第一の磁束素子と前記第二の磁束素子との間の誘導結合を強磁性から反強磁性へまたはその逆に調整すべく構成されている、請求項62に記載の構造。
【請求項66】
前記第一のカプラが、
第一の導線と、
第二の導線と、
第三の導線と、
第四の導線とを含んでいて、
前記第一の導線と前記第二の導線との間に第一の交差と、
前記第一の導線と前記第三の導線との間に第二の交差と、
前記第二の導線と前記第四の導線との間に第三の交差と、
前記第三の導線と前記第四の導線との間に第四の交差とが存在し、
前記第一の導線が、前記第一と第二の交差の間にある前記第一の導線の位置でジョセフソン接合により遮断されていて、
前記第二の導線が、前記第一と第三の交差の間にある前記第二の導線の位置でジョセフソン接合により遮断されていて、
前記第三の導線が、前記第二と第四の交差の間にある前記第三の導線の位置でジョセフソン接合により遮断されていて、
前記第四の導線が、前記第三と第四の交差の間にある前記第四の導線の位置でジョセフソン接合により遮断されていて、
前記第二の導線と前記第三の導線が電気的接点を形成することなく交差する、請求項60に記載の構造。
【請求項67】
前記第一の交差が第一の電流バイアスと電気的に導通していて、
前記第二の交差が第二の電流バイアスと電気的に導通していて、
前記第三の交差が第三の電流バイアスと電気的に導通していて、
前記第四の交差が第四の電流バイアスと電気的に導通している、請求項66に記載の構造。
【請求項68】
前記第二と第三の電流バイアスが各々、前記第一と第四の電流バイアスが生成する電流とは逆向きの超伝導電流を提供すべく調整されていて、
前記第一と第二の磁束素子間の誘導結合が強磁性である、請求項67に記載の構造。
【請求項69】
前記第一、第二、第三、および第四の電流バイアスの各々が生成する電流の強さが等しい、請求項68に記載の構造。
【請求項70】
前記第三および第四の電流バイアスが、前記第一と第二の電流バイアスにより生成される電流とは逆向きの超伝導電流を生成すべく調整されていて、前記第一と第二の磁束素子間の誘導結合が反強磁性である、請求項67に記載の構造。
【請求項71】
前記第一、第二、第三、および第四の電流バイアスの各々が生成する電流の強さが等しい、請求項69に記載の構造。
【請求項72】
前記第一の磁束素子および前記第二の磁束素子を含む複数の磁束素子と、
複数のカプラであって、各々のカプラが前記複数の磁束素子の異なる磁束素子の対にガルバニック結合していて、前記第一のカプラを含んでいる、複数のカプラとを更に含む、請求項60に記載の構造。
【請求項73】
前記複数のカプラの各々のカプラが、前記複数の磁束素子の対応磁束素子対の間に強磁性または反強磁性結合を生成すべく調整されるように構成されている、請求項72に記載の構造。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2008−527684(P2008−527684A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−548651(P2007−548651)
【出願日】平成17年12月30日(2005.12.30)
【国際出願番号】PCT/CA2005/001987
【国際公開番号】WO2006/069450
【国際公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(507209207)ディー−ウェイブ システムズ,インコーポレイテッド (16)
【Fターム(参考)】