説明

情報記録媒体用基板、情報記録媒体およびその製造方法

【課題】 赤外線照射加熱効率の高い情報記録媒体用基板、この基板上に情報記録層を含む多層膜を設けてなる情報記録媒体、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 ガラスまたは結晶化ガラスからなり、(1)2750〜3700nmの波長域に分光透過率が50%以下となる領域が存在する、(2)波長2750〜3700nmにわたり、分光透過率が70%以下となる、(3)特定の金属酸化物からなる赤外線吸収剤を含み、垂直磁気記録媒体用に供される、(4)赤外線照射加熱用に供され、200ppm超の水分を含む、あるいは(5)特定の金属酸化物からなる赤外線吸収剤を含み、赤外線照射加熱後にスパッタリングによって形成される情報記録層を含む多層膜の支持用に供されることを特徴とする情報記録媒体用基板、および前記基板上に情報記録層を含む多層膜を設けてなる情報記録媒体、並びに情報記録媒体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報記録媒体用基板、情報記録媒体およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、赤外線照射加熱効率の高い情報記録媒体用基板、この基板上に情報記録層を含む多層膜を設けてなる情報記録媒体、および前記基板を多層膜の成膜に適した温度状態に保つことで、良好な情報記録媒体を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気ディスクなどの情報記録媒体用の基板としては、例えば高ヤング率のリチウム含有アルミノシリケート系ガラスまたはそれに化学強化処理を施したもの(例えば、特許文献1参照)、あるいは特定の組成を有するガラスを熱処理して結晶層を析出させた結晶化ガラス(例えば、特許文献2参照)からなる基板が使用されている。
【0003】
情報記録媒体は、これらの基板上に情報記録層を含む多層膜を成膜して行う。上記基板に多層膜を形成する際、例えばまず基板を成膜装置の基板加熱領域に導入しスパッタリングリングによる成膜が可能な温度にまで基板を加熱昇温する。基板の温度が十分昇温した後、基板を第1の成膜領域に移送し、基板上に多層膜の最下層に相当する膜を成膜する。次に基板を第2の成膜領域に移送し、最下層の上に成膜を行う。このように基板を後段の成膜領域に順次移送して成膜することにより、情報記録層を含む多層膜を基板上に形成する。上記加熱と成膜は真空ポンプにより排気された低圧下で行うため、前記加熱は非接触方式を取らざるを得ない。そのため、基板の加熱には輻射による加熱が適している。
【0004】
この成膜は基板が成膜に好適な温度を下回らないうちに行う必要がある。各層の成膜に要する時間が長すぎると加熱した基板の温度が低下し、後段の成膜領域では十分な基板温度を得ることができないという問題が生じる。基板を長時間にわたって成膜可能な温度を保つためには、基板をより高温に加熱することが考えられるが、基板の加熱速度が小さいと加熱時間をより長くしなければならず、加熱領域に基板が滞在する時間も長くしなければならない。そのため各成膜領域における基板の滞在時間も長くなり、後段の成膜領域では十分な基板温度を保てなくなってしまう。さらにスループットも向上できない。
【0005】
加熱速度を大きくするにはハイパワーの光を基板に照射することが考えられる。しかし、ガラス製の基板あるいは結晶化ガラス製の基板の光吸収は弱く、十分な加熱効率を得ることが難しいという問題があった。
【特許文献1】特開2001−180969号公報
【特許文献2】特開2000−119042号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情のもとで、赤外線照射加熱効率の高い情報記録媒体用基板、この基板上に情報記録層を含む多層膜を設けてなる情報記録媒体、および前記基板を多層膜の成膜に適した温度状態に保つことあるいは基板の加熱を短時間で十分行うことで、良好な情報記録媒体を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、(1)特定の波長域に、ある値以下の分光透過率となる領域が存在するガラスまたは結晶化ガラスからなる基板、(2)特定の波長範囲にわたって分光透過率がある値以下となるガラスまたは結晶化ガラスからなる基板、(3)特定の金属酸化物からなる赤外線吸収剤を含むガラスまたは
結晶化ガラスからなる基板、あるいは(4)ある含有量の水分を含むガラスまたは結晶化ガラスからなる基板が、情報記録媒体用基板として、その目的に適合し得ること、そして、これらの基板に赤外線を照射して加熱し、情報記録層を含む多層膜を形成することにより、あるいは加熱領域である値以上の平均加熱速度で加熱した基板に情報記録層を含む多層膜を形成することにより、良好な情報記録媒体を製造し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)ガラスまたは結晶化ガラスからなり、2750〜3700nmの波長域に、厚さ2mmに換算した分光透過率が50%以下となる領域が存在することを特徴とする情報記録媒体用基板(以下、基板1という。)、
(2)ガラスまたは結晶化ガラスからなり、波長2750〜3700nmにわたり、厚さ2mmに換算した分光透過率が70%以下となることを特徴とする情報記録媒体用基板(以下、基板2という。)、
(3)鉄、銅、コバルト、イッテルビウム、マンガン、ネオジム、プラセオジム、ニオブ、セリウム、バナジウム、クロム、ニッケル、モリブデン、ホルミウムおよびエルビウムの中から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物からなる赤外線吸収剤を含むガラスまたは結晶化ガラスからなり、垂直磁気記録媒体用に供されることを特徴とする情報記録媒体用基板(以下、基板3という。)、
(4)赤外線照射加熱用である上記(1)、(2)または(3)項に記載の情報記録媒体用基板、
(5)ガラスまたは結晶化ガラスからなり、200ppm超の水分を含み、赤外線照射加熱用に供されることを特徴とする情報記録媒体用基板(以下、基板4という。)、
(6)鉄、銅、コバルト、イッテルビウム、マンガン、ネオジム、プラセオジム、ニオブ、セリウム、バナジウム、クロム、ニッケル、モリブデン、ホルミウムおよびエルビウムの中から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物からなる赤外線吸収剤を含むガラスまたは結晶化ガラスからなり、赤外線照射加熱後にスパッタリングによって形成される情報記録層を含む多層膜の支持用に供されることを特徴とする情報記録媒体用基板(以下、基板5という。)、
(7)上記(1)ないし(6)項のいずれか1項に記載の情報記録媒体用基板上に情報記録層を含む多層膜を設けたことを特徴とする情報記録媒体、
(8)情報記録媒体用基板上に情報記録層を含む多層膜を形成する情報記録媒体の製造方法において、加熱領域で10℃/秒以上の平均加熱速度で加熱した前記基板を、複数の成膜領域に順次移送し、各成膜領域で前記多層膜を構成する各層を順次成膜して多層膜を形成することを特徴とする情報記録媒体の製造方法(以下、製法1という。)、
(9)加熱領域および各成膜領域における情報記録媒体用基板の滞在時間を等しくする上記(8)項に記載の情報記録媒体の製造方法、
(10)加熱領域および各成膜領域への情報記録媒体用基板の搬入、搬出を同期して行う上記(8)または(9)項に記載の情報記録媒体の製造方法、
(11)情報記録媒体用基板に赤外線を照射して加熱する上記(8)、(9)または(10)項に記載の情報記録媒体の製造方法、
(12)上記(1)ないし(6)項のいずれか1項に記載の情報記録媒体用基板に赤外線を照射して加熱し、情報記録層を含む多層膜を該基板上に形成することを特徴とする情報記録媒体の製造方法(以下、製法2という。)、
(13)上記(1)ないし(5)項のいずれか1項に記載の情報記録媒体用基板上に情報記録層を形成した後、赤外線を照射して加熱することを特徴とする情報記録媒体の製造方法(以下、製法3という。)、および
(14)鉄、銅、コバルト、イッテルビウム、マンガン、ネオジム、プラセオジム、ニオブ、セリウム、バナジウム、クロム、ニッケル、モリブデン、ホルミウムおよびエルビウムの中から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物からなる赤外線吸収剤を含むガラスま
たは結晶化ガラスからなる情報記録媒体用基板上に情報記録層を形成した後、赤外線を照射して加熱することを特徴とする情報記録媒体の製造方法(以下、製法4という。)
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、赤外線照射加熱効率の高い情報記録媒体用基板および前記基板を備えた情報記録媒体を提供することができる。また、前記基板を多層膜の成膜に適した温度状態に保つことにより、あるいは情報記録層が形成された基板を効率よく加熱できるので、良好な情報記録媒体を製造する方法を提供することができる。さらにスループットが飛躍的に向上するので高品質の情報記録媒体を安価に市場に提供することも可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
発明の実施の形態を、情報記録媒体用基板、情報記録媒体、情報記録媒体の製造方法の順に説明する。
〈情報記録媒体用基板〉
本発明の情報記録媒体用基板は、以下に示す知見に基づいて完成したものである。
【0011】
ガラス、特に情報記録媒体用基板として好適なSiO、AlあるいはSiO、Bを含むガラスには波長2750〜3700nmを含む領域に吸収ピークが存在する。結晶化ガラスにも上記特徴が存在する。
【0012】
ガラス製基板あるいは結晶化ガラス製基板を赤外線照射により効率よく加熱するには、上記波長域にスペクトルの極大が存在する赤外線を用いることが望まれる。
【0013】
赤外線照射による基板加熱では、成膜された基板では膜によって赤外線の一部が反射され、基板に吸収される赤外線のパワーが低下するため、成膜開始前に加熱することが望ましい。情報記録層を形成した後、基板を赤外線照射加熱する場合でも、赤外線の吸収が大きい基板を用いれば十分な加熱効果を得ることができる。
【0014】
加熱速度を上げるには、赤外線のスペクトル極大波長と基板の吸収ピーク波長をマッチさせるとともに赤外線パワーを増やすことが考えられる。赤外線源として高温状態のカーボンヒータを例にとると、赤外線のパワーを増加するにはカーボンヒータの入力を増加すればよい。しかし、カーボンヒータからの輻射を黒体
輻射と考えると、入力増加によってヒータ温度が上昇するため、赤外線のスペクトルの極大波長が短波長側にシフトし、ガラスの上記吸収波長域から外れてしまう。そのため、基板の加熱速度を上げるためにはヒータの消費電力を過大にしなければならず、ヒータの寿命が短くなってしまうなどの問題が発生する。
【0015】
このような点に鑑み、上記波長領域におけるガラスの吸収をより大きくすることにより、赤外線のスペクトル極大波長と基板の吸収ピーク波長を近づけた状態で赤外線の照射を行い、ヒータ入力を過剰にしないことが望ましい。
【0016】
基板形状がディスク状などの薄板状のため、加熱効率を上げるには、以下の各情報記録媒体用基板が望まれる。
【0017】
上記知見に基づき、情報記録層を含む多層膜(ただし、情報記録層を形成する前に成膜される層で加熱なしでも形成可能な層を前記多層膜より除いてもよい)の形成前あるいは情報記録層を形成した後に赤外線照射による効率のよい加熱が可能な情報記録媒体用基板は次の基板1〜基板5であることが判明した。
(基板1)
基板1は、ガラスまたは結晶化ガラスからなり、2750〜3700nmの波長域に、厚さ2mmに換算した分光透過率が50%以下となる領域が存在する情報記録媒体用基板である。
【0018】
この基板1には、化学強化が施されたものも、化学強化されていないものも含まれる。化学強化された場合には、表面近傍にイオン交換された層が存在するが、この部分を除き、基板は均質なガラスにより構成され、化学強化されていない場合には基板全体が均質なガラスまたは結晶化ガラスにより構成される。均質な部分では吸収係数や散乱係数が一定となるから厚みが異なる基板においても周知の換算方法により上記分光透過率の換算が可能である。なお、化学強化によるイオン交換層が存在しても基板全体で吸収係数は一定とみなすことができる。なお、分光透過率の測定は基板の情報記録層が形成される面(主表面という。)に垂直に測定光を入射して行う。分光透過率は基板内部における光の吸収や散乱に加え、基板表面における反射、散乱の影響も含む。情報記録媒体用基板の主表面には高い平坦性と平滑性が求められる。
【0019】
基板1は上記分光透過率特性を有することにより、赤外線照射による加熱効率を上げることができるとともに、情報記録層を含む多層膜成膜時の基板加熱を大きな加熱速度で行うことができる。また情報記録層が形成された基板を赤外線照射により十分加熱することができる。
(基板2)
基板2は、ガラスまたは結晶化ガラスからなり、波長2750〜3700nmにわたり、厚さ2mmに換算した分光透過率が70%以下となる情報記録媒体用基板である。
【0020】
上記波長域にわたり高い吸収が得られる基板2によっても基板1と同様の効果が得られる。なお、基板2の均質性、分光透過率の測定、換算の方法は基板1の場合と同様である。基板2としては基板1の特性を兼備していることが好ましい。つまり、赤外線源より放射される赤外線のスペクトルは広がりをもつため、その光を効率的に吸収するには吸収が大きい波長域が赤外線のスペクトル極大波長領域を含む範囲にわたって存在することがより好ましい。
【0021】
基板2は上記分光透過率特性を有することにより、赤外線照射による加熱効率を上げることができるとともに、情報記録層を含む多層膜成膜時の基板加熱を大きな加熱速度で行うことができる。また情報記録層が形成された基板を赤外線照射により十分加熱することもできる。
【0022】
基板1あるいは基板2が結晶化ガラスからなる場合、上記分光透過率は結晶化ガラス中の結晶粒子の大きさ、密度に依存する。結晶粒子の大きさが大きいと分光透過率の低下において、結晶粒子による散乱の占める割合が多くなり、吸収が小さくても分光透過率が上記所定の値よりも小さくなることがある。本発明の基板が結晶化ガラスからなる場合、結晶粒子の大きさは100nm以下であることが好ましいが、この範囲の大きさであれば結晶粒子による赤外線の散乱は小さく、また、結晶粒子の密度にも影響を受けないと考えられる。したがって、上記分光透過率を決める主要因は結晶化ガラスによる赤外線吸収となる。そのため、基板1、基板2において基板が結晶化ガラスからなる場合、結晶粒子の好ましい大きさは上記のようになる。より好ましい範囲は50nm以下であり、特に好適な範囲は1〜50nmである。
(基板3)
基板3は、鉄、銅、コバルト、イッテルビウム、マンガン、ネオジム、プラセオジム、ニオブ、セリウム、バナジウム、クロム、ニッケル、モリブデン、ホルミウムおよびエルビウムの中から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物からなる赤外線吸収剤を含むガラスまたは結晶化ガラスからなり、垂直磁気記録媒体用に供される情報記録媒体用基板であ
る。
【0023】
上記赤外線吸収剤は、ガラスまたは結晶化ガラス中で、赤外域において強い光吸収を示す。基板3は垂直磁気記録媒体に使用される。垂直磁気記録媒体の製造では、磁気記録層を含む多層膜を高温アニール処理する。したがって、長手方向の磁気記録方式の媒体よりも高温で熱処理されることになり、基板をより高温に加熱する必要がある。また基板上にシード層、軟磁性層を設けた後、基板を赤外線照射加熱する場合も短時間に基板を所望の温度にまで加熱しなければならない。さらに磁気記録層を形成した後に赤外線照射加熱する場合も、基板に達した赤外線が十分吸収され、基板の温度を十分高くしなければならない。そのため赤外線照射による基板の加熱効率を上げなければならない。基板3によれば赤外線吸収剤の添加により赤外域における光吸収が増加するため、垂直磁気記録媒体の製造に適した加熱を効率的に行うことができる。
【0024】
なお、上記加熱を行う垂直磁気記録媒体の製造には、200℃以上の基板温度が必要であるため、基板を200℃以上かつ基板を構成する材料のガラス転移温度未満に加熱する。好ましい基板加熱温度は250℃以上かつ基板を構成する材料のガラス転移温度未満、さらに好ましい範囲は300℃以上かつ基板を構成する材料のガラス転移温度未満、一層好ましい範囲は450℃以上かつ基板を構成する材料のガラス転移温度未満である。特に好ましい範囲は上記範囲のうち550℃以下の範囲である。
【0025】
上記赤外線吸収剤のうち、鉄の酸化物を単独で含有させる場合には、その含有量は、Feとして重量基準で500ppm〜5%であることが好ましく、2000ppm〜5%であることがより好ましく、2000ppm〜2%であることがさらに好ましく、4000ppm〜2%の範囲がより一層好ましい。鉄の酸化物の導入により、波長1000nm付近の吸収を増加できる。波長1000nmにおける好ましい分光透過率は2mm厚に換算して90%以下である。
【0026】
この基板3は、基板1の特性を兼備していること、基板2の特性を兼備していること、基板1と基板2の特性を兼備していることがそれぞれ好ましい。
【0027】
前記基板1、基板2および基板3は、赤外線照射加熱用として好適である。なお赤外線照射加熱については、後で詳述する。
(基板4)
基板4は、ガラスまたは結晶化ガラスからなり、200ppm超の水分を含み、赤外線照射加熱用に供される情報記録媒体用基板である。
【0028】
ここで水分とはOH基を含むが、その含有量はHOに換算して表示する。水分あるいはOH基は3μm帯に強い吸収をもつ。そのため、重量基準で水分を200ppm超含むガラスまたは結晶化ガラスからなる基板は、3μm帯つまり波長2750〜3700nm周辺における光吸収が大きくなり、赤外線照射加熱時の加熱効率の上昇や基板の加熱速度の向上を図ることができる。好ましい水分量は220ppm以上である。
【0029】
なお、基板4としては基板1の特性を兼備したものや、基板2の特性を兼備したもの、さらには基板1および基板2の特性を兼備したものが好ましい。また、垂直磁気記録媒体用基板としても好適である。
(基板5)
基板5は、鉄、銅、コバルト、イッテルビウム、マンガン、ネオジム、プラセオジム、ニオブ、セリウム、バナジウム、クロム、ニッケル、モリブデン、ホルミウムおよびエルビウムの中から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物からなる赤外線吸収剤を含むガラスまたは結晶化ガラスからなり、赤外線照射加熱後にスパッタリングによって形成される
情報記録層を含む多層膜の支持用に供される情報記録媒体用基板である。
【0030】
ここで赤外線照射加熱後にスパッタリングによって形成される情報記録層を含む多層膜とは、(1)加熱領域で加熱した情報記録媒体用基板を複数の成膜領域に順次移送し、各成膜領域でスパッタリング成膜を行って形成された多層膜、(2)上記(1)の多層膜であって、前記加熱領域および各成膜領域における該基板の滞在時間を等しくして形成された多層膜、(3)上記(1)の多層膜であって、前記加熱領域および各成膜領域への該基板の搬入、搬出を同期して行うことにより形成される多層膜を意味する。上記(1)〜(3)のいずれの多層膜の形成も、基板の加熱とスパッタリング成膜は真空中あるいは低圧下で行う。真空中あるいは低圧下で効率のよい加熱を可能とする赤外線照射による加熱が好ましい。また、基板5は静止対向型スパッタリング用基板としてもインライン型スパッタリング用基板としても好適であるが、静止対向型スパッタリング用基板としての使用がより好ましく、特に枚葉静止対向型スパッタリング用基板として好適である。
【0031】
加熱領域における基板の滞在時間、各成膜領域における基板の滞在時間はともに2〜10秒が好ましい。また基板の平均加熱速度は10℃/秒以上であることが望ましく、15℃/秒以上であることがより望ましく、20℃/秒以上であることがさらに望ましく、30℃/秒以上であることが一層望ましい。平均加熱速度は、加熱前の基板温度と加熱終了時の基板温度の差を加熱時間で除したものである。なお急加熱による基板の損傷を防止する上からは平均加熱速度を200℃/秒以下にすることが好ましい。
【0032】
前記赤外線吸収剤は基板3の場合と同様、赤外線吸収を上げる添加剤である。なお、赤外線吸収剤の導入量については基板3と同様である。
【0033】
基板5は、基板1の特徴を兼備していること、基板2の特徴を兼備していること、基板1と基板2の特徴を兼備していること、基板4の特徴を兼備していることがそれぞれ好ましい。また、垂直磁気記録媒体用としても好適である。
【0034】
前記基板1〜基板5における赤外線照射加熱は、情報記録層を含む多層膜を基板上に成膜する際、あるいは前記成膜の直前に行う。赤外線照射加熱には2750〜3700nmの波長域に放射スペクトルの極大波長が存在する赤外線源が好適である。このような赤外線源としては加熱体が適している。この加熱体が黒体とみなせる場合、放射スペクトルの極大波長を基板の吸収ピーク付近にマッチさせるため、加熱体の温度を600K〜1000Kとすることが好ましく、700K〜900Kにすることがより好ましい。
【0035】
加熱体としてはカーボンヒータが好適である。加熱体を加熱チャンバ内に配置することにより加熱雰囲気中の酸素分圧が小さくなるので、カーボンヒータの酸化による劣化も低減することができる。
【0036】
基板の主表面の中心線平均粗さRaは、情報記録媒体用基板に求められる平滑性と赤外線の表面散乱を低減するという理由から0.05〜1nmであることが好ましい。
基板の平坦度、平行度は各情報記録媒体での要求に応じて定めればよい。
【0037】
なお、各基板とも中心穴を有するディスク形状をしており、外径は10〜95mm程度であり、均一な厚みを有するとともに該厚みを0.1〜2mmの範囲とするのがよい。
【0038】
また基板加熱は、前記基板の情報記録層を含む多層膜が形成される面(主表面)に赤外線を照射することが望ましい。
【0039】
赤外線は前記多層膜によってある程度反射されるため、赤外線照射加熱は成膜前に行う
か又は加熱しなくても成膜可能な層を形成した後(例えば垂直磁気記録媒体ではシード層、軟磁性層を形成した後)に行うことが望ましい。しかし、情報記録層が形成された基板を赤外線照射加熱する場合であっても、基板の赤外線吸収が高められているので、情報記録層表面での反射によって基板に達する赤外線のパワーが低下しても十分な加熱効果を得ることができる。
【0040】
前記各基板は赤外線吸収が大きいため、赤外線吸収が小さい基板と比べると赤外線放射による温度低下の速度が遅くなる。したがって、比較的長時間にわたり成膜に適した基板温度が維持される。前記基板を構成するガラスや前記基板を構成する結晶化ガラスの母材ガラスの冷却速度が遅いことは次の点からも有利である。前記基板は、塑性変形可能な高温状態のガラスを成形することにより、あるいは前記成形の後に機械加工を施すことにより所望の形状に加工される。上記ガラスによれば高温状態における冷却速度が遅いので成形時間に余裕ができ、成形が容易になる。このような理由により、上記成形にはプレス成形、フロート成形が適しており、特にプレス成形が好適である。
【0041】
次に前記基板1〜5に好適なガラス、結晶化ガラスまたはその母材ガラス(熱処理により結晶化ガラスにするためのガラス)の組成について説明する。
【0042】
各基板において好適な組成は、以下の基本組成に水分や赤外線吸収剤を添加することにより、赤外線の吸収を高めたものである。基本組成について共通する点は、SiOとAlを含むことである。SiOとAlを含む組成は元々、波長3μm周辺に比較的明瞭な吸収ピークを備えており、基本組成として好ましい。なお、赤外線吸収剤の添加方法は、各添加剤を酸化物として調合原料に添加することが好ましい。また、水分の添加は、原料として水酸化物を用いるか、水蒸気を含むガスを溶融ガラス中にバブリングする、あるいは水酸化物原料の使用と前記バブリングの併用によって行うが、水酸化物原料を使用することが好ましい。特にSiOとAlを含むものでは、水酸化アルミニウムを用いて所望の水分量が得られるようにすることが好ましい。
【0043】
また、SiOとBを含むガラスまたは結晶化ガラスも好ましい。その際、ガラスは原料としてHBOを用いることが好ましい。
【0044】
好ましい基本組成は次のとおりである。
(組成1)
組成1は、重量%で、SiO 62〜75%、Al 5〜15%、LiO 4〜10%、NaO 4〜12%、ZrO 5.5〜15%を含み、NaO/ZrOの重量比が0.5〜2.0、Al/ZrOの重量比が0.4〜2.5である組成である。この組成のガラスは非晶質ガラスとして基板に適用することが好ましい。
【0045】
組成1は化学強化により深い圧縮応力層、高い抗折強度、高いヌープ硬さが実現でき、またヌープ硬さやビッカース硬さも大きいので化学強化された基板として優れた特質を備えている。この化学強化は、Naイオンおよび/またはKイオンを含む処理浴でイオン交換処理することが好ましい。Naイオンおよび/またはKイオンを含む処理浴としては、硝酸ナトリウムおよび/または硝酸カリウムを含む処理浴を用いるのが好ましいが、硝酸塩に限定されるものではなく、硫酸塩、硫酸水素塩、炭酸塩、炭酸水素塩、ハロゲン化物を用いてもよい。処理浴がNaイオンを含む場合には、このNaイオンがガラス中のLiイオンとイオン交換し、また処理浴がKイオンを含む場合には、このKイオンがガラス中のNaイオンとイオン交換し、さらに処理浴がNaイオンおよびKイオンを含む場合には、これらNaイオンおよびKイオンが、ガラス中のLiイオンおよびNaイオンとそれぞれイオン交換する。このイオン交換により、ガラス表層部のアルカリ金属イオンが、より大きなイオン半径のアルカリ金属イオンに置き換わり、ガラス表層部に圧縮応力層が形成
されてガラスが化学強化される。
【0046】
組成1のより好ましい範囲は、重量%で、SiO 63〜71%、Al 7〜14%、LiO 4〜7%、NaO 6〜11%、ZrO 6〜12%、NaO/ZrOの重量比 0.7〜1.8、Al/ZrOの重量比 0.6〜2.0である。
組成1には通常使用される清澄剤、例えばSb等を含有させることができる。
【0047】
上記基本組成によれば、ガラス中で水酸基と結合し、水分をガラス中にとどめる作用が強いので、所望量の水分添加によって好適な赤外線吸収特性が得られる。また、赤外線吸収剤の添加によっても好適な赤外線吸収特性が得られやすい。
【0048】
このようなガラスは次のようにして製造することができる。まず、所望の組成が得られるように調合したガラス原料を1500〜1600℃程度で5〜8時間程度加熱溶融し、所望の形状とする。組成1はプレス成形に好適である。
(組成2)
組成2は、モル%で、SiO 40〜65%、Al 1〜10%、LiO 5〜25%、NaO 0〜15%、CaO 0〜30%、MgO 0〜20%(ただし、CaOとMgOの合計量が2〜30%)、TiO 0〜10%およびZrO 0〜10%(ただし、TiOとZrOの合計量2〜20%)を含み、上記成分の合計含有量が95%以上の組成である。この組成のガラスは非晶質ガラスとして基板に適用することが好ましい。また化学強化により基板強度を効率的に上げることができるので化学強化用基板として、また化学強化された基板として優れた特質を備えている。
【0049】
組成2の第1の好ましい範囲は、モル%で、SiO 40〜65%、Al 1〜10%、LiO 5〜25%、NaO 1〜15%、CaO 1〜30%、MgO
0〜10%(ただし、CaOとMgOの合計量が2〜30%)、TiO 0.1〜10%およびZrO 1〜10%(ただし、TiOとZrOの合計量2〜15%)であり、かつ前記成分の合計含有量が95%以上である。ただし、より好ましくは、TiOよりもZrOの量を多くする。
【0050】
組成2の第2の好ましい範囲は、SiO 45〜65%、Al 2〜8%、LiO 8〜20%、NaO 1〜10%、CaO 5〜25%、MgO 0〜8%(ただし、CaOとMgOの合計量が5〜25%)、TiO 0.1〜8%およびZrO 3〜8%(ただし、TiOとZrOの合計量3.1〜12%)であり、かつ前記成分の合計含有量が95%以上である。ただし、より好ましくは、TiOよりもZrOの量を多くする。
【0051】
前記好ましい範囲において、さらにLiOとNaOの合計含有量を10〜25%とすることが好ましく、SiOの含有量を50%より多く65%未満とすることが好ましい。また、Alの含有量を2%以上6%未満にすることが好ましく、CaOの含有量を9%より多く25%以下とすることが好ましい。また、LiOの含有量を10%以上とすることが好ましく、TiOの含有量を0.2%以上5%未満とすることが好ましい。
【0052】
これらの組成において特に好ましいものは、SiO、Al、LiO、NaO、ZrO、TiO、CaO、MgOの合計含有量が100%であるもの、又は、前記各成分に外割りで1重量%未満までのSbを添加したものである。
【0053】
上記基本組成によれば、ガラス中で水酸基と結合し、水分をガラス中にとどめる作用が
強いので、所望量の水分添加によって好適な赤外線吸収特性が得られる。また、赤外線吸収剤の添加によっても好適な赤外線吸収特性が得られやすい。
【0054】
組成2は、優れた耐水性を有しており、その耐水性は、組成2の基本組成を有するガラス基板を温度80℃の水中に24時間保持した際の表面の中心線平均粗さをRaf、前記保持前の表面の中心線平均粗さをRabとした場合、Rab/Rafで表わすことができる。組成2のガラス基板では、Rab/Rafの値が、通常0.8〜1である。Rab/Rafの値が1に近づくほど耐水性がよく、表面粗さの劣化が小さいガラス基板となる。好ましいRab/Rafの値は0.84〜1である。また、水中に保持前の表面の中心線平均粗さRabとしては、0.1〜0.5nmの範囲が好ましい。なお、前記RabおよびRafは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定することができる。
【0055】
ヤング率は90〜120GPaとすることが好ましく、95〜120GPaとなるようにするのがさらに好ましい。
【0056】
このようにして高速回転時の安定性に優れた情報記録媒体に適用可能であり、表面平滑性が極めて高い情報記録媒体用基板が提供される。
【0057】
情報記録媒体の固定具との熱膨張特性をマッチングさせる理由から、100〜300℃における平均線熱膨張係数が80×10−7/℃以上であることが好ましい。
【0058】
さらに、上記耐水性、ヤング率、膨張係数を満たした上で、比重を3.1以下とすることが好ましく、2.9以下とすることがより好ましい。例えば、比重2.3〜2.9を目安にガラス組成を決定すればよい。また比重を低くすることは、基板の熱容量を小さくする上でも好ましい。
組成2のガラス基板の化学強化も組成1のガラス基板の化学強化と同様である。
【0059】
このような化学強化工程および/または情報記録層の形成工程などの面から、ガラス基板材料のガラス転移温度Tgを500℃以上にすることが望ましい。ガラス転移温度が低すぎると、前記温度条件では化学強化に使用する硝酸ナトリウムや硝酸カリウムなどの塩を溶融できなかったり、ガラス基板上の情報記録層等を形成する際の加熱によって基板が変形してしまう問題がおこる。このような点に配慮してガラス転移温度Tg500〜600℃を目安にガラス組成を決定すればよい。
【0060】
なお、化学強化の前後でガラス基板のヤング率、前記膨張係数、ガラス転移温度、比重等はほとんど変化せず、Rab/Rafについては同等または増加する(上限は1である)。
上記組成は耐水性が優れており、洗浄を行っても基板表面が荒れることがない。
【0061】
なお組成2はプレス成形に好適である。
(組成3)
組成3は、モル%で、SiO 35〜70%、Al 1〜15%、CaO 1〜45%、MgOとCaOを合計量で3〜45%、LiOとNaOを合計量で3〜30%、TiO 0.1〜10%を含むものである。前記組成は非晶質ガラス基板の基本組成として好適であり、高いヤング率と良好なプレス成形性を有する。また化学強化ガラス基板にも好適である。
【0062】
上記基本組成によれば、ガラス中で水酸基と結合し、水分をガラス中にとどめる作用が強いので、所望量の水分添加によって好適な赤外線吸収特性が得られる。また、赤外線吸収剤の添加によっても好適な赤外線吸収特性が得られやすい。
(組成4)
組成4は、モル%で、SiO 45〜70%、Al 1〜15%(ただし、SiOとAlの合計量が57〜85%)、CaO 2〜25%、BaO 0〜15%、MgO 0〜15%、SrO 0〜15%、ZnO 0〜10%(ただし、MgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOの合計量が2〜30%)、KO 2〜15%、LiO 0〜8%、NaO 0〜8%(ただし、KO、LiOおよびNaOの合計量が2〜15%)、ZrO 0〜12%およびTiO 0〜10%を含み、かつ上記成分の合計含有量が95%以上の組成である。この組成ガラスは非晶質ガラスとして基板に適用することが好ましい。さらにこの組成範囲において、ガラス転移温度が比較的高いガラスを安定して得ることができるので、高温熱処理を行っても熱変形しない基板に好適である。そのため、垂直磁気記録媒体用基板に好適な基本組成である。
【0063】
さらに好ましい組成範囲は、モル%で、SiO 50〜67%、Al 2〜12%(ただし、SiOとAlの合計量が57〜79%)、CaO 3〜20%、BaO 0〜14%、MgO 0〜10%、SrO 0〜10%、ZnO 0〜8%(ただし、MgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOの合計量が3〜30%)、Li
0〜5%、NaO 0〜5%、KO 4〜12%(ただし、KO、LiOおよびNaOの合計量が4〜12%)、ZrO 0〜10%およびTiO 0〜8%を含む組成である。
【0064】
この中で特に好ましい組成は、SiO、Al、MgO、CaO、BaO、KO、ZrOの合計含有量が98%以上のものであり、前記合計量が99%以上のものがさらに好ましく、100%のものが一層好ましい。なお、この組成に胞泡剤としてSb、フッ化物、塩化物、SO、Asを適量添加することができるが、その合計含有量は外割で2重量%以下を目安にすることが好ましく、1重量%以下にすることがさらに好ましい。なお、環境への配慮から、Asなどのヒ素化合物を使用しないことが望ましい。
TiOを含まないものが、基板表面の荒れを低減する上から特に優れている。
【0065】
この組成の優れている点は、ガラス転移温度が、通常620℃以上、好ましくは650℃以上、より好ましくは680℃以上、さらに好ましくは700℃以上と高耐熱性を有していることである。上記ガラスの転移温度の上限については特に制限はないが、通常900℃程度である。このような高耐熱性により、垂直磁気記録媒体の製造過程で高温熱処理を行っても基板の変形を防止することができる。
【0066】
上記基本組成によれば、ガラス中で水酸基と結合し、水分をガラス中にとどめる作用が強いので、所望量の水分添加によって好適な赤外線吸収特性が得られる。また、赤外線吸収剤の添加によっても好適な赤外線吸収特性が得られやすい。
【0067】
また上記組成は化学強化が可能である。その際、Kイオンを含む溶融塩に基板を浸漬してイオン交換することが好ましい。
【0068】
また、ケイフッ酸などの酸に対する耐性や耐水性も優れており、酸処理や洗浄を行っても基板表面が荒れることがない。
【0069】
なお組成4はプレス成形、フロート成形に好適であり、特にプレス成形に好適である。ただし、フロート成形の場合、Sb、Asの添加は避けるべきである。
(組成5)
組成5は、モル%で、SiO 55〜70%、Al 1〜12.5%、LiO 5〜20%、NaO 0〜12%、KO 0〜2%、MgO 0〜8%、CaO
0〜10%、SrO 0〜6%、BaO 0〜2%、TiO 0〜8%、ZrO 0〜4%を含む組成である。この組成のガラスは非晶質ガラスとして基板に適用することが好ましい。また化学強化により基板強度を効率的に上げることができるので化学強化用基板として、また化学強化された基板として優れた特質を備えている。
【0070】
上記基本組成によれば、ガラス中で水酸基と結合し、水分をガラス中にとどめる作用が強いので、所望量の水分添加によって好適な赤外線吸収特性が得られる。また、赤外線吸収剤の添加によっても好適な赤外線吸収特性が得られやすい。
【0071】
なお組成4はプレス成形、フロート成形に好適である。ただし、フロート成形の場合、Sb、Asの添加は避けるべきである。
(組成6)
組成6は、重量%で、SiO 58〜66%、Al 13〜19%、Li
3〜4.5%、NaO 6〜13%、KO 0〜5%、RO 10〜18%(ただし、RO=LiO+NaO+KO)、MgO 0〜3.5%、CaO 1〜7%、SrO 0〜2%、BaO 0〜2%、R'O 2〜10%(ただし、R'O=MgO+CaO+SrO+BaO)、TiO 0〜2%を含む組成である。この組成のガラスは非晶質ガラスとして基板に適用することが好ましい。また化学強化により基板強度を効率的に上げることができるので化学強化用基板の組成としても優れているので、適宜、化学強化して使用してもよい。
【0072】
上記基本組成によれば、ガラス中で水酸基と結合し、水分をガラス中にとどめる作用が強いので、所望量の水分添加によって好適な赤外線吸収特性が得られる。また、赤外線吸収剤の添加によっても好適な赤外線吸収特性が得られやすい。
【0073】
なお組成6はプレス成形、フロート成形に好適である。ただし、フロート成形の場合、Sb、Asの添加は避けるべきである。
(組成7)
組成7は、重量%で、SiO 40〜80%、Al 1〜10%、B 0〜20%、RO 0〜20%(ただし、RO=LiO+NaO+K2O)、R'O 0〜20%(ただし、R'O=MgO+CaO+SrO+BaO)を含む組成である。この組成のガラスは非晶質ガラスとして基板に適用することが好ましい。また化学強化により基板強度を効率的に上げることができるので化学強化用基板として、また化学強化された基板として優れた特質を備えている。
(組成8)
組成8は、母材ガラスを熱処理して結晶化したもの(結晶化ガラス)として基板に適用するものである。この結晶化ガラスは、母材ガラスを熱処理してエンスタタイトおよび/またはエンスタタイト固溶体を含む結晶相を析出させたものである。エンスタタイトは、Si、Mg、Oによって構成される結晶種であり、母材ガラスは必須成分としてSiO、MgOを含み、さらにAlを含む。
【0074】
組成8は、LiO、ZnOを含まないものが好ましい。また、結晶相としてスピネル型結晶相、二珪酸リチウム結晶を含まないものが好ましい。
【0075】
エンスタタイトおよびその固溶体は、強固に結合したSiとOが鎖状に繋がったものがMgを介して面状に連なった構造を有している。そのため、結晶粒子が非晶質相に強固に束縛されている。これに対し、二珪酸リチウム結晶は球状もしくは長径と短径の差が小さい形状をもち、非晶質相への束縛が比較的弱い。結晶粒子と非晶質相の結合の強弱は、基板表面に存在する結晶粒子の離脱のしやすさに影響する。基板の加熱を急速に行うと結晶相と非晶質相の間の熱膨張係数の差によって基板表面に存在する結晶粒子が離脱しやすく
なる。しかし、上記結晶化ガラスによれば、結晶粒子の離脱を防ぎ、基板表面に凹状欠陥の発生を防止することができる。また、エンスタタイトおよび/またはその固溶体の結晶相を含む結晶化ガラスでは、結晶相と非晶質相の熱膨張係数が近いため、結晶粒子を離脱させようとする力も働きにくい。これに対し、二珪酸リチウム結晶相を含む結晶化ガラスは、結晶相と非晶質相の熱膨張係数が2〜3倍異なるので、結晶粒子を離脱させようとする力も大きくなる。
【0076】
なお、組成8の母材ガラスの成形にはプレス成形が好適である。結晶化のための熱処理はプレス成形後に行うのがよい。
(組成9)
組成9は、母材ガラスを熱処理して結晶化したもの(結晶化ガラス)として基板に適用するものである。母材ガラスの組成は、モル%で、SiO 35〜65%、Al
5%超かつ20%以下、MgO 10〜40%、TiO 5〜15%を含み、上記成分の合計含有量が92%以上の組成である。
【0077】
組成9は、LiO、ZnOを含まないものが好ましい。また、結晶相としてスピネル型結晶相、二珪酸リチウム結晶を含まないものが好ましい。
【0078】
上記母材ガラスを熱処理することにより、エンスタタイトおよび/またはエンスタタイト固溶体によって構成される結晶相を含む結晶化ガラスが得られる。したがって、組成7の場合と同様、上記結晶化ガラスによれば、結晶粒子の離脱を防ぎ、基板表面に凹状欠陥の発生を防止することができる。
【0079】
なお、組成9の母材ガラスの成形にはプレス成形が好適である。結晶化のための熱処理はプレス成形後に行うのがよい。
【0080】
組成8あるいは組成9の場合、結晶粒子の大きさは100nm以下とするのが好ましく、50nm以下とするのがより好ましい。より好適な範囲は1〜50nmである。
〈情報記録媒体およびその製造方法〉
次に本発明の情報記録媒体について説明する。本発明の情報記録媒体は、上記の情報記録媒体用基板上に情報記録層を含む多層膜を有するものである。情報記録媒体は記録方式から磁気記録媒体、光磁気記録媒体、光ディスクなどに大別されるが、磁気記録媒体に特に好適である。以下、磁気記録媒体を例にとり情報記録媒体について詳述する。
【0081】
前記基板の主表面上に形成される情報記録層(磁気記録層)を含む多層膜の構造としては、例えば、磁気記録層のほか下地層、保護層、潤滑層などがある。各層は目的とする仕様に応じた組成、膜構成をとる。磁気記録層は磁性層あるいは磁性層と非磁性層によって構成される。磁性層としてはCoを主成分とする合金が好適である。下地層は磁性層に応じて選択されるが、Co合金の磁性層の場合にはCrを含む合金(例えば、CrWを含む合金、CrMoを含む合金、CrVを含む合金など)が好ましい。保護層としては炭素保護膜を、潤滑層としてはパーフルオロポリエーテルをフレオン系溶媒などで希釈したものを塗布して形成したものを例示することができる。上記下地層、磁性層、非磁性層、保護層の成膜はスパッタリング成膜が好ましい。上記構成は、長手方向磁気記録媒体に好適である。
【0082】
長手方向の磁気記録媒体では、基板の加熱を成膜工程の前に行うことが好ましい。垂直磁気記録媒体では、例えば基板上にシード層、軟磁性層、非磁性層、磁性層(磁気記録層)、保護層、潤滑層を設ける。赤外線照射加熱は、軟磁性層成膜後、非磁性層成膜前の時点、あるいは、磁性層成膜後、保護層成膜前の時点で行うことが好ましい。このような加熱により磁気記録の特性が向上し、軟磁性層の磁化異方性を揃えることができる。なお、
加熱時に磁場を印加してもよい。
【0083】
シード層としては、Ti合金、Cr合金を、軟磁層としてはFeTaC、FeCoB、CoTaZr、CoNbZr、NiFe、FeAlSiを、非磁性層としてはTi系合金、NiTaZrを、磁性層としては、Co系合金、保護層としてはカーボン、潤滑層としては上記と同じ潤滑層を例示できる。
【0084】
近年、磁気特性や電磁変換特性などの諸特性を向上させる上から、磁気記録層を含む多層膜構造はますます多層化の傾向にあり、8層以上のスパッタリング膜を有する磁気記録媒体もある。静止対向型スパッタリング法では、複数のチャンバを直列につなぎ、チャンバ全体を真空引き可能な構造にしたスパッタリング装置を用いる。各チャンバには必要に応じてアルゴンガスなどのスパッタリングガスを適量導入することができる。このような装置に基板を導入し、初段のチャンバ内で基板の加熱を行う。次に後段のチャンバに基板を移送しながら、各チャンバにおいてスパッタリング膜を順次積層しながら多層膜構造を形成する。温度が低下した基板を再度昇温するための加熱を後段のチャンバのいずれかに設けてもよいが、生産性の向上と装置のさらなる大型化を避けるためには、初段のチャンバのみで基板を加熱し、基板の温度が成膜に適した範囲にあるうちに全てのスパッタリング成膜を終了させることが望まれる。しかし、多層化が進むと基板温度を最後まで適正範囲に維持することが難しくなる。基板温度が十分でないと十分な保磁力を備えた情報記録層を形成することができない。なお加熱しなくても成膜可能な層を成膜し、その基板を加熱後、情報記録層を成膜する場合は、上記の順序で基板を成膜チャンバ、加熱チャンバ、成膜チャンバに移して情報記録媒体を製造してもよい。
【0085】
またインライン型スパッタリング法でも、基板を加熱領域から成膜領域に移送しながらスパッタリング膜を順次積層して多層膜構造(加熱しなくても成膜可能な層は加熱領域に移送する前に成膜してもよい。)を形成する。そのため、静止対向型スパッタリング法と同様の問題が存在する。
【0086】
本発明の情報記録媒体の製造方法によれば、上記問題を解消することができる。本発明の情報記録媒体の製造方法には4つの態様、すなわち製法1〜4がある。
【0087】
前記製法1は、情報記録媒体用基板上に情報記録層を含む多層膜を形成する情報記録媒体の製造方法において、加熱領域で10℃/秒以上、好ましくは15℃/秒以上、より好ましくは20℃/秒以上、さらに好ましくは30℃/秒以上の平均加熱速度で加熱した基板を、複数の成膜領域に順次移送し、各成膜領域で前記多層膜を構成する各層を順次成膜して多層膜を形成する方法である。なお、上記多層膜は情報記録層からなるものであってもよいし、情報記録層とそれ以外の層からなるものであってもよい。さらに、加熱時間を短縮できるので、情報記録媒体のスループットを向上させることができる。上記方法では、1つの生産ラインで極めて多量の情報記録媒体を量産することができるが、基板の加熱速度を上げることにより、より短時間で多量の情報記録媒体を生産することができ、結果として生産コストが大幅に下がり、より高性能な製品を安価に提供することができる。
【0088】
この製法1において、加熱領域および各成膜領域における該基板の滞在時間を等しくするものが好ましい。また、加熱領域および各成膜領域への該基板の搬入、搬出を同期して行うものが好ましい。上記の製造方法では、加熱領域(加熱チャンバ)における基板滞在時間と各成膜領域(各スパッタリングチャンバ)における基板滞在時間とは互いに連動して増加、減少する。各成膜領域における滞在時間の合計、すなわち各成膜領域の滞在時間にスパッタリングにより形成される層の数を乗じた時間がスパッタリング成膜に必要な累積時間になる。前記累積時間が長くなるほど基板温度の低下が進むため、基板温度がスパッタリング成膜の適正温度を下回るおそれが大きくなる。スパッタリング膜を構成する層
の数を減らさずに前記累積時間を短縮するには各成膜領域における滞在時間を短縮化する必要がある。そのため、加熱領域における滞在時間も短縮されるが、上記製法によれば、加熱領域における基板の平均加熱速度が10℃/秒以上なので、短時間に基板を所望の温度に加熱でき、適正な基板温度範囲でスパッタリング成膜を行うことができる。なお、多層化がさらに進んだ磁気記録媒体の製造やより高温での成膜が必要な磁気記録媒体の製造では初段のチャンバに加え、途中のチャンバにも加熱領域を設けてもよい。基板の加熱方法としては赤外線照射加熱が好適であるが、赤外線照射加熱の場合は、成膜工程の間に赤外線照射加熱を行うと膜によって赤外線が反射されるため、基板に吸収される赤外線のパワーが低下する。そのため、赤外線照射加熱は成膜開始前に行うことが好ましく、成膜開始直前に行うことがより好ましい。特にこのような方法は長手方向磁気記録媒体の製造に好適である。一方、加熱なしで成膜可能な膜を基板上に成膜してから、加熱領域で基板を加熱し、次に情報記録層を含む多層膜を成膜してもよい。この場合、赤外線照射加熱を行うと、加熱前に形成された膜によって赤外線の一部が反射されるが、基板に基板1〜基板5を使用することにより十分な加熱効果を得ることができる。この方法は垂直磁気記録媒体の製造に好適である。
【0089】
このように、基板の加熱速度を向上させることにより、成膜時間も短縮されるので基板が十分高温になる間に成膜を行うことができる。またトータルの製造時間も大幅に短縮できるので、生産量が向上し、製造コストを低減できることから、高性能な製品を安定して市場に供給することができる。なお、上記傾向は多層膜を構成する層の数が多くなるほど顕著になる。この製法1において、該基板に赤外線を照射して加熱することが好ましい。
【0090】
一方、製法2は、前述の本発明の情報記録媒体用基板(基板1〜基板5)に赤外線を照射して加熱し、情報記録層を含む多層膜を該基板上に形成する方法である。
【0091】
この製法2においては、赤外線吸収効率の高い基板を使用するとともに、この基板を赤外線照射加熱することにより高い基板加熱速度を得ることができる。上記赤外線照射加熱には2750〜3700nmの波長域に放射スペクトルの極大波長が存在する赤外線源が好適である。このような赤外線源としては加熱体が適している。前記加熱体が黒体とみなせる場合、放射スペクトルの極大波長を基板の吸収ピーク付近にマッチさせるため、加熱体の温度を600K〜1000Kとすることが好ましく、700K〜900Kにすることがより好ましい。
【0092】
加熱体としてはカーボンヒータが好適である。加熱体を加熱チャンバ内に配置することにより加熱雰囲気中の酸素分圧が小さくなるので、カーボンヒータの酸化による劣化も低減することができる。
【0093】
なお、赤外線照射加熱を成膜開始前(加熱が必要な層の成膜開始前)に行うことが好ましく、成膜開始直前に行うことがより好ましいことは製法1と同じである。上記各製法は互いに組合せることができる。
【0094】
一方、製法3は、本発明の情報記録媒体用基板(基板1〜基板5)上に情報記録層を形成した後、赤外線を照射し、加熱して情報記録媒体を製造する方法である。情報記録層が形成された基板に赤外線を照射すると、赤外線の一部が情報記録層によって反射され、基板に達する赤外線のパワーが減少する。しかし、上記基板を使用しているので、基板に達した赤外線の吸収により基板加熱の効果を十分得ることができる。
【0095】
一方、製法4は、鉄、銅、コバルト、イッテルビウム、マンガン、ネオジム、プラセオジム、ニオブ、セリウム、バナジウム、クロム、ニッケル、モリブデン、ホルミウムおよびエルビウムの中から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物からなる赤外線吸収剤を含
むガラスまたは結晶化ガラスからなる情報記録媒体用基板上に情報記録層を形成した後、赤外線を照射し、加熱して情報記録媒体を製造する方法である。
【0096】
製法3、製法4はともに、垂直磁気記録媒体の製造に好適である。上記赤外線照射加熱によって磁気記録特性の向上、軟磁性層の磁化異方性を揃えることができる。なお、加熱後に、例えば保護層などをスパッタ成膜してもよい。
【0097】
製法3および製法4においても、情報記録層を含む多層膜を構成する各層を成膜する複数の成膜領域と、基板を加熱する加熱領域を設け、各領域に基板を順次移送して多層膜を形成することが好ましい。その際、加熱領域は情報記録層を設ける成膜領域の後に配置する。このような方法においても、加熱領域と各成膜領域における滞在時間を等しくすることが好ましい。このような方法では加熱効率をよくすることにより、短時間の加熱で十分な加熱効率を得ることができるので、加熱時間を短縮でき、工程全体の所要時間を大幅に短縮することができる。その結果、スループットが向上して高品質の情報記録媒体を大量に、低コストで提供することができる。製法3および製法4においても製法2と同様の加熱源を使用することが好ましい。
【0098】
また、製法1〜4のいずれの方法においても、急速な加熱による基板損傷を考慮すると、平均加熱速度を200℃/秒以下にすることが望ましい。また、各製法において、加熱領域および各成膜領域の滞在時間は2〜10秒が好ましい。
【0099】
加熱時間、成膜時間の短縮化は、基板表面への異物の付着を低減し、磁性層の結晶粒を粗大化しない上からも望ましい。
【0100】
さらに、製法1〜4のいずれの方法でも静止対向型のスパッタ装置の使用が好ましく、枚葉静止対向型のスパッタ装置の使用がより好ましい。
いずれの製法においても基板のチャンバ間の移動は2秒以内に行うことが好ましい。
【0101】
本発明の情報記録媒体の製造方法は、成膜時間のトータルが24〜300秒の場合に好適である。
【0102】
上記の各製造方法によれば、十分な保磁力、例えば3600エールステッド以上、好ましくは4500エールステッド以上の保磁力を情報記録層に付与することができる。
【実施例】
【0103】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0104】
なお、各ガラスのガラス転移温度および分光透過率の測定、結晶化ガラスの結晶種の同定は、下記の方法に従って行った。
(1)ガラス転移温度
5φ×20mmの試料について、リガク社製の熱機械分析装置(TMA8140)を用いて+4℃/分の昇温速度で測定した。なお、標準試料としてはSiOを用いた。
(2)分光透過率
平面状に加工されたサンプルについて、分光光度計[波長2200nm〜6000nmの波長域を島津製作所製 FTIR−8400を使用、波長200〜2500nmの波長域を日本分光製 V−570を使用]を用いて測定した。なお、この分光透過率は、表面反射による損失を含む。
(3)結晶化ガラスの結晶種の同定
CuのKα線を用いて結晶化後のガラスを粉末にしたものについてX線回折を測定した
(装置:マックサイエンス製X線回折装置MXP18A、管電圧:50kV、管電流:300mA、走査角度10〜90°)。得られたX線回折のピークから、析出している結晶の同定を行った。
また、化学強化処理は、以下に示す方法により行った。
【0105】
実施例1〜12
モル%表示で表1および表2に示す組成を有するようにSiO、Al、Al(OH)などのガラス原料を調合し、十分混合した後、加熱溶融容器に入れ空気中にて1000℃以上の高温でガラスの溶融を行った。溶融ガラスの脱泡、攪拌を十分行い、泡を含まない均質な状態にした後、金型に流し込んでガラス転移温度付近まで放冷してから直ちにアニール炉に入れ、一時間保持した後、炉内で室温まで放冷した。得られたガラスは均質性が良く、泡や未溶解物は認められなかった。
【0106】
実施例1〜9のガラスについては厚さ2mmの平板に加工し、両面に光学研磨を施した。
【0107】
実施例10〜12のガラスは、800℃付近で熱処理しガラス中に結晶核を析出させた後、1000℃付近に昇温し、結晶化処理を行ってエンスタタイトを含む結晶相を析出させて結晶化ガラスとした。実施例10〜12の結晶化ガラス中の結晶粒子の大きさは透過型電子顕微鏡で観察したところ50nm以下であった。これらの結晶化ガラスも厚さ2mmの平板に加工し、両面に光学研磨を施した。
【0108】
平板状に加工された各サンプルの分光透過率を測定し、波長2750〜3700nmにおける分光透過率の最大値と最小値、波長1000nmにおける分光透過率を求めた。これらの値をガラス転移温度とともに表1および表2に示す。なお、実施例1、2、4、5、7、8、10、11は表1および表2に示す量(Feとして)の鉄の酸化物を含有させた。また、各ガラスの水分量は、仕込原料のOH量から計算した値である。
【0109】
【表1】

【0110】
【表2】

各サンプルとも波長2750〜3700nmにおける分光透過率の最小値は51%以下、最大値は70%以下であった。また鉄を導入した実施例1、2、4、5、7、8、10、11については波長1000nmにおける分光透過率が90%未満であった。
【0111】
次に、上記各種の溶融ガラスを各々フィーダーから流出して切断し、所定重量の溶融ガラスゴブを溶融ガラスが融着しない温度範囲に保たれたプレス成形用下型上に供給した。次に下型と下型に対向する上型によって前記ゴブをプレスし円盤状の薄板状に成形した。この際、各ガラスは赤外域に大きな吸収をもつため、放射による冷却スピードが比較的遅い。したがって、溶融ガラスが軟化状態にある間にプレス成形するダイレクトプレスでは
ガラスが冷めにくいので成形条件の設定が容易にできた。
【0112】
プレス成形したガラスをアニール処理した後、中心部に貫通孔を設け、内外周加工、両面研削加工、両面研磨加工などを施し、外径65.0mm、板厚0.635mm、中心穴径20.0mmの磁気ディスク基板形状にした。なお、実施例10〜12の場合は上記加工工程にさらに結晶化のための処理を行った。
【0113】
実施例1〜9のガラスからなる基板には溶融塩に浸漬することにより、化学強化処理を施した。実施例1〜6では硝酸ナトリウムと硝酸カリウムの混合塩を溶融したもの(380℃)に4時間浸漬し、実施例7〜9では硝酸カリウムの溶融塩(420℃)に4時間浸漬した。
【0114】
実施例13
上記で得られた実施例1〜6のガラス、実施例10〜12の結晶化ガラスからなる多数枚の磁気ディスク用基板に対し、枚葉静止対向型スパッタリング装置で磁性層を含む多層膜を成膜した。枚葉静止対向型スパッタリング装置は複数のチャンバが直列に連なり、前段チャンバにある基板を後段のチャンバに移送する機能を備えている。全チャンバ間での基板の受け渡しは1枚ずつ同期して行われる。基板の受け渡しが終わると基板はチャンバ内に一定時間滞在する。この滞在時間中に最前段のチャンバ内では基板の加熱が行われ、2段目のチャンバ内では第1層が、3段目のチャンバ内では第2層が、さらに後段のチャンバ内ではさらに上層がスパッタリング成膜される。
【0115】
最前段のチャンバ内にカーボンヒータを配置して通電することにより800K以上の高温にし赤外線源とする。ヒータの入力は1kWとにした。基板の加熱はヒータに対向する位置に基板を停止することにより行う。上記各基板は波長3μm付近で大きな光吸収を示すので、赤外線源から放射される赤外線を効率よく吸収して急速に加熱される。加熱領域である最前段のチャンバにおいて基板は概ね30℃/秒以上の平均加熱速度で加熱され、短時間のうちに200℃以上の高温になる。なおチャンバ内における基板の滞在時間は6.4秒とした。
【0116】
次いで、加熱された基板は2段目のチャンバに移動し、スパッタリングターゲットに対向する位置で停止する。それから基板上にCr合金の下地層をスパッタリング成膜する。なお基板のチャンバ間の移動時間は1秒とした。
【0117】
3段目以降のチャンバでは非磁性層、Co合金からなる磁性層を交互にスパッタリング成膜する。そして保護層として水素化炭素膜をスパッタリング成膜して8層以上の多層膜を有する磁気ディスクを順次作製した。なおスパッタリング装置から取り出したディスク表面にはパーフルオロポリエーテルをフレオン系溶媒などで希釈したものを塗布、乾燥して潤滑層を形成した。各磁気ディスクともの基板温度は全スパッタリング成膜が終了するまで十分高温状態にあったので、スパッタリング装置より取り出された磁気ディスクの磁気特性、電磁変換特性は良好なものであった。例えば、3600エールステッド以上と十分な保磁力が得られている。
【0118】
上記製造工程のタクトタイムはチャンバ滞在時間6.4秒に移動時間1秒を加えた7.4秒である。これに比べ赤外線吸収剤を含まず、水分の含有量も所定量に達しないガラス基板では同様の温度に加熱するまで概ね1.5倍程度の加熱時間が必要になる。チャンバ間の移動を1秒にするにしてもタクトタイムが概ね1.5倍長くなり、量産の際には莫大な生産量の差が生じる。なお、実施例1および3のガラスは、水分及び鉄を添加しない場合に比べ、実施例1のガラスでは12%以上、実施例3のガラスでは20%以上の平均加熱速度の向上をはかることができる。その他の実施例に示した基板についても同様に平均
加熱速度の向上をはかることができる。
【0119】
次に実施例7〜9のガラスからなる磁気ディスク用基板上に枚葉静止対向型スパッタリング装置を用いて多層膜を形成した。各チャンバ間で基板上に、シード層、軟磁性層を成膜し、加熱チャンバ間でカーボンヒーターを用いて加熱した後、非磁性層、磁性層を順次形成する垂直磁気記録方式の膜構成とした。この場合も各チャンバにおける基板滞在時間は互いに等しく、チャンバ間の基板の移動も同期して行う。実施例7〜9のガラスからなる基板を使用した場合も、赤外線照射加熱効率が高いのでチャンバ内における滞在時間を長くしなくても基板を十分高温に加熱できる。そのため、作製された垂直記録型磁気ディスクの磁気特性、電磁変換特性は良好なものであった。なお、実施例7〜9のガラスからなる基板を用い、シード層、軟磁性層、非磁性層、磁性層をスパッタ成膜した後、加熱チャンバ内でカーボンヒーターを用い加熱して、加熱処理を行い、保護層を形成してもよい。
【0120】
なお、上記実施例では枚葉静止対向型スパッタリング装置を用いたが、インライン型スパッタリング装置でも良好な成膜が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスまたは結晶化ガラスからなり、2750〜3700nmの波長域に、厚さ2mmに換算した分光透過率が50%以下となる領域が存在することを特徴とする情報記録媒体用基板。
【請求項2】
ガラスまたは結晶化ガラスからなり、波長2750〜3700nmにわたり、厚さ2mmに換算した分光透過率が70%以下となることを特徴とする情報記録媒体用基板。
【請求項3】
鉄、銅、コバルト、イッテルビウム、マンガン、ネオジム、プラセオジム、ニオブ、セリウム、バナジウム、クロム、ニッケル、モリブデン、ホルミウムおよびエルビウムの中から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物からなる赤外線吸収剤を含むガラスまたは結晶化ガラスからなり、垂直磁気記録媒体用に供されることを特徴とする情報記録媒体用基板。
【請求項4】
赤外線照射加熱用である請求項1、2または3に記載の情報記録媒体用基板。
【請求項5】
ガラスまたは結晶化ガラスからなり、200ppm超の水分を含み、赤外線照射加熱用に供されることを特徴とする情報記録媒体用基板。
【請求項6】
鉄、銅、コバルト、イッテルビウム、マンガン、ネオジム、プラセオジム、ニオブ、セリウム、バナジウム、クロム、ニッケル、モリブデン、ホルミウムおよびエルビウムの中から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物からなる赤外線吸収剤を含むガラスまたは結晶化ガラスからなり、赤外線照射加熱後にスパッタリングによって形成される情報記録層を含む多層膜の支持用に供されることを特徴とする情報記録媒体用基板。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の情報記録媒体用基板上に情報記録層を含む多層膜を設けたことを特徴とする情報記録媒体。
【請求項8】
情報記録媒体用基板上に情報記録層を含む多層膜を形成する情報記録媒体の製造方法において、加熱領域で10℃/秒以上の平均加熱速度で加熱した前記基板を、複数の成膜領域に順次移送し、各成膜領域で前記多層膜を構成する各層を順次成膜して多層膜を形成することを特徴とする情報記録媒体の製造方法。
【請求項9】
加熱領域および各成膜領域における情報記録媒体用基板の滞在時間を等しくする請求項8に記載の情報記録媒体の製造方法。
【請求項10】
加熱領域および各成膜領域への情報記録媒体用基板の搬入、搬出を同期して行う請求項8または9に記載の情報記録媒体の製造方法。
【請求項11】
情報記録媒体用基板に赤外線を照射して加熱する請求項8、9または10に記載の情報記録媒体の製造方法。
【請求項12】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の情報記録媒体用基板に赤外線を照射して加熱し、情報記録層を含む多層膜を該基板上に形成することを特徴とする情報記録媒体の製造方法。
【請求項13】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の情報記録媒体用基板上に情報記録層を形成した後、赤外線を照射して加熱することを特徴とする情報記録媒体の製造方法。
【請求項14】
鉄、銅、コバルト、イッテルビウム、マンガン、ネオジム、プラセオジム、ニオブ、セリウム、バナジウム、クロム、ニッケル、モリブデン、ホルミウムおよびエルビウムの中から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物からなる赤外線吸収剤を含むガラスまたは結晶化ガラスからなる情報記録媒体用基板上に情報記録層を形成した後、赤外線を照射して加熱することを特徴とする情報記録媒体の製造方法。

【公開番号】特開2007−164985(P2007−164985A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61285(P2007−61285)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【分割の表示】特願2003−43613(P2003−43613)の分割
【原出願日】平成15年2月21日(2003.2.21)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】