説明

愛玩動物においてヒスタミン関連経路を阻害する際に使用するための、抗酸化剤を含有する食物組成物

本発明は、愛玩動物、たとえばネコ類においてヒスタミン関連経路を阻害する方法、および特発性膀胱炎または間質性膀胱炎を治療または予防する方法を包含する。本発明の組成物および方法は、愛玩動物、たとえばネコ類においてヒスタミン関連経路を阻害するのに有効な、および特発性膀胱炎または間質性膀胱炎を治療または予防するのに有効な量のリポ酸を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001] 本発明は、愛玩動物、たとえばネコ類においてヒスタミン関連経路を阻害する方法、および特発性膀胱炎または間質性膀胱炎を治療または予防する方法を包含する。本発明の方法は、愛玩動物、たとえばネコ類においてヒスタミン関連経路を阻害するのに有効な、および特発性膀胱炎または間質性膀胱炎を治療または予防するのに有効な量のリポ酸を含む。
【背景技術】
【0002】
[0002] ヒスタミンおよびヒスタミン放出はヒトの女性の間質性膀胱炎の病因において役割を果たすと考えられる。ネコ特発性膀胱炎(feline idiopathic cystitis)(FIC)を伴うネコの最近の遺伝子転写体プロファイリングは、正常なネコまたは尿路感染症を伴うネコのプロファイルと比較して、FICを伴うネコにおいてヒスタミン放出およびシグナル伝達経路に関与する遺伝子の発現が増大することを指摘している。ヒスタミンはネコ特発性膀胱炎にも関与する可能性があると考えられる。リポ酸で処理したネコ細胞系または処理しない細胞系のパネルの同様な遺伝子転写体プロファイリングは、FICにおいてアップレギュレートされる同じヒスタミンの放出/シグナル伝達経路における重要な遺伝子の発現をリポ酸が低下させることを指摘する。ネコにリポ酸を給餌することにより、FICの症状を軽減し、または発症を予防することもできる。
【発明の概要】
【0003】
[0003] 本発明は、愛玩動物、たとえばネコ類またはイヌ類において特発性膀胱炎を治療または予防する方法であって、その必要がある愛玩動物に有効量の1種類以上の抗酸化剤、たとえばリポ酸を含む食物組成物を投与することを含む方法を包含する。
【0004】
[0004] 他の態様は、愛玩動物、たとえばネコ類またはイヌ類において間質性膀胱炎を治療または予防する方法であって、その必要がある愛玩動物に有効量の1種類以上の抗酸化剤、たとえばリポ酸を含む食物組成物を投与することを含む方法を包含する。
【0005】
[0005] これらのすべての方法において、抗酸化剤またはその混合物を動物の食事に投与することが望ましい。
【発明を実施するための形態】
【0006】
全般的記載
[0006] 本発明は、愛玩動物においてヒスタミン関連経路を阻害する方法であって、愛玩動物に愛玩動物においてヒスタミン関連経路を阻害するのに有効な量のリポ酸を含む食物組成物を投与することを含み、その際、愛玩動物においてヒスタミン関連経路を阻害するリポ酸の有効量が少なくとも約25ppmである方法を包含する。
【0007】
[0007] 特定の態様において、有効量は少なくとも約50ppmである。
[0008] 特定の態様において、有効量は少なくとも約100ppmである。
[0009] 特定の態様において、有効量は約100ppm〜約600ppmである。
【0008】
[0010] 特定の態様において、有効量は約100ppm〜約200ppmである。
[0011] 特定の態様において、愛玩動物はイヌである。
[0012] 特定の態様において、愛玩動物はネコである。
【0009】
[0013] 特定の態様において、有効量は愛玩動物において特発性膀胱炎または間質性膀胱炎を治療または予防するのに有効である。
[0014] 特定の態様において、リポ酸を含むペットフード組成物を少なくとも15日間投与する。
【0010】
[0015] 特定の態様において、リポ酸を含むペットフード組成物を少なくとも30日間投与する。
[0016] 特定の態様において、リポ酸を含むペットフード組成物を少なくとも45日間投与する。
【0011】
[0017] 特定の態様において、リポ酸を含むペットフード組成物を1日1回投与する。
[00018] 他の態様において、本発明は、愛玩動物において特発性膀胱炎または間質性膀胱炎を処置する方法であって、その必要がある愛玩動物に有効量のリポ酸を含む食物組成物を投与することを含み、その際、リポ酸の有効量が少なくとも約25ppmである方法を包含する。
【0012】
[0019] 特定の態様において、有効量は少なくとも約50ppmである。
[0020] 特定の態様において、有効量は少なくとも約100ppmである。
[0021] 特定の態様において、有効量は約100ppm〜約600ppmである。
【0013】
[0022] 特定の態様において、有効量は約100ppm〜約200ppmである。
[0023] 特定の態様において、愛玩動物はイヌである。
[0024] 特定の態様において、愛玩動物はネコである。
【0014】
[0025] 特定の態様において、リポ酸を含むペットフード組成物を少なくとも15日間投与する。
[0026] 特定の態様において、リポ酸を含むペットフード組成物を少なくとも30日間投与する。
【0015】
[0027] 特定の態様において、リポ酸を含むペットフード組成物を少なくとも45日間投与する。
[0028] 特定の態様において、リポ酸を含むペットフード組成物を1日1回投与する。
【0016】
[0029] 成体の愛玩用ペット、たとえばイヌ類およびネコ類に与える食事は、その年齢の動物に与える標準的な普通食である。下記は1〜6歳のイヌ類のための典型的な食事である:
【0017】
【表1】

【0018】
[0030] 本発明者らは意外にも、1種類以上の抗酸化剤、たとえばリポ酸を動物の食物に添加することが、愛玩動物、たとえばイヌおよびネコにおいて、ヒスタミン関連経路を阻害するのに有用であることも見出した。本明細書中で用いる用語“ヒスタミン関連経路を阻害する”は、愛玩動物が放出するヒスタミンが減少し、これによってヒスタミン放出に関連する障害を治療または予防する能力を表わす。したがって、抗酸化剤、たとえばリポ酸を含有するペットフードを食べている愛玩動物、たとえばイヌは、ヒスタミン関連経路(たとえば遺伝子ネットワーク)が阻害され、このため抗酸化剤を摂取していない動物よりヒスタミン放出に関連する疾患および障害、たとえば特発性膀胱炎または間質性膀胱炎に対する感受性がより低下し、ヒスタミン放出に関連する疾患または障害をより速やかに克服するであろう。
【0019】
[0031] これを達成する食事の成分は、抗酸化剤またはその混合物である。抗酸化剤は、フリーラジカルを消滅させる物質である。そのような物質の例には、イチョウ(ginkgo biloba)、柑橘類果肉、ブドウ搾りかす、トマト搾りかす、ニンジンおよびホウレンソウなどの食物(すべて、好ましくは乾燥したもの)、ならびに他の多様な物質、たとえばベータ−カロテン、セレン、コエンザイムQ10(ユビキノン)、ルテイン、トコトリエノール類、ダイズイソフラボン類、S−アデノシルメチオニン、グルタチオン、タウリン、N−アセチルシステイン、ビタミンE、ビタミンC、アルファ−リポ酸、L−カルニチンなどが含まれる。ビタミンEはトコフェロールまたはトコフェロール混合物、およびその多様な誘導体、たとえばエステル、たとえばビタミンE酢酸、コハク酸、パルミチン酸などとして投与できる。アルファ形が好ましいが、ベータ、ガンマおよびデルタ形が含有されていてもよい。D形が好ましいが、ラセミ混合物も許容される。これらの形態および誘導体は、ペットが摂取した後、ビタミンE様の活性で機能するであろう。ビタミンCはこの食事にアスコルビン酸およびその多様な誘導体、たとえばリン酸カルシウム塩、コレステリル塩、2−モノホスフェートなどとして投与でき、これらはペットが摂取した後にビタミンC様の活性で機能するであろう。それらは、液体、半固体、固体および熱安定形態など、いかなる形態であってもよい。アルファ−リポ酸は、この食事にアルファ−リポ酸として、またはそのリポエート誘導体(U.S.Pat.No.5,621,117の場合のような)、ラセミ混合物、塩類、エステルもしくはアミドとして投与できる。L−カルニチンを食事に投与でき、カルニチンの多様な誘導体、たとえば塩類、たとえば塩酸塩、フマル酸塩およびコハク酸塩、ならびにアセチル化カルニチンなどを使用できる。
【0020】
[0032] 食事に投与する量−すべて食事に対するwt%(乾燥物質基準)として−は、遊離物質として測定される有効物質自体として計算される。最大使用量は毒性をもたらすべきでない。
【0021】
[0033] 少なくとも約100ppmまたは少なくとも約150ppmのビタミンEを使用できる。特定の態様においては、約500〜約1,000ppmの範囲を使用できる。必ずしもそうではないが、約2,000ppmまたは約1,500ppmの最大量を一般に超えない。
【0022】
[0034] ビタミンCに関しては、少なくとも約50ppm、望ましくは少なくとも約75ppm、より望ましくは少なくとも約100ppmを使用する。無毒性である最大量を使用できる。
【0023】
[0035] アルファ-リポ酸の量は、少なくとも約25ppm、望ましくは少なくとも約50ppm、より望ましくは約100ppmから変更できる。種々の態様において、イヌに投与できるリポ酸の範囲は約150ppm〜約4500ppmである。種々の態様において、ネコに投与できるリポ酸の範囲は約65ppm〜約2600ppmである。最大量は約100ppmからペットに対して無毒性のままである量まで変更できる。特定の態様において、範囲は約100ppmから約200ppmまでである。
【0024】
[0036] L−カルニチンについては、イヌ類には約50ppm、望ましくは約200ppm、より望ましくは約300ppmが有用な最小量である。ネコ類には、これよりわずかに高い最小量のL−カルニチン、たとえば約100ppm、200ppm、および500ppmを使用できる。無毒性最大量、たとえば約5,000ppm未満を使用できる。イヌ類には、これより低い量、たとえば約5,000ppm未満を使用できる。イヌ類には、好ましい範囲は約200ppm〜約400ppmである。ネコ類には、好ましい範囲は約400ppm〜約600ppmである。
【0025】
[0037] ベータ-カロテンは約1〜15ppmで使用できる。
[0038] セレンは約0.1から約5ppmまでで使用できる。
[0039] ルテイン:少なくとも約5ppmを使用できる。
【0026】
[0040] トコトリエノール類:少なくとも約25ppmを使用できる。
[0041] コエンザイムQ10:少なくとも約25ppmを使用できる。
[0042] S−アデノシルメチオニン:少なくとも約50ppmを使用できる。
【0027】
[0043] タウリン:少なくとも約1000ppmを使用できる。
[0044] ダイズイソフラボン類:少なくとも約25ppmを使用できる。
[0045] N−アセチルシステイン:少なくとも約50ppmを使用できる。
【0028】
[0046] グルタチオン:少なくとも約50ppmを使用できる。
[0047] イチョウ:少なくとも50ppmの抽出物を使用できる。
[0048] 以下は、ORAC(Oxygen radical absorbing capacity、酸素ラジカル吸収能)含量の高い原料成分である:ホウレンソウ搾りかす、トマト搾りかす、柑橘類果肉、ブドウ搾りかす、ニンジン顆粒、ブロッコリ、緑茶、イチョウ、およびトウモロコシグルテンミール。食事に1%の含有率(トウモロコシのように低ORAC成分については合計5%の置換)として添加した場合、それらは食事全体のORAC含量を増大させ、これらの成分を含有する食事を食べた動物の血漿のORAC含量を増大させた。好ましくは、乾燥物質のグラム当たりORAC含量>25.mu.moleをもついずれかのTrolox均等成分を、1%で他の4種類の1%成分と組み合わせて合計5%を食事に添加すれば使用できる。
【実施例】
【0029】
実施例1
[0049] リポ酸がネコ特発性膀胱炎においてアップレギュレートされる同じヒスタミン放出およびシグナル伝達経路(遺伝子ネットワーク)をダウンレギュレートすることは予想外の所見であった。ネコの食事へのリポ酸の添加は、FICを治療および/または予防することができる。
【0030】
[0050] ネコ特発性膀胱炎を伴うネコ(x)、尿路感染症を伴うネコ、または正常なネコから、全血試料をPAXgeneチューブに採集した。全血試料からPAXgene RNA単離キットを用いて全RNAを単離した。すべての測定をHillのfeline−2 Affymetrix遺伝子チップにより行なった。統計分析のために、すべての測定値をRMAで正規化した。すべての分析をPartekにより実施した。正常なネコとネコ特発性膀胱炎または尿路感染症のいずれかを伴うネコとの間で差次発現する遺伝子についてANOVA t−検定を実施した。
【0031】
[0051] 正常なネコとネコ特発性膀胱炎を伴うネコとの間、および正常なネコと尿路感染症(urinary tract infection)(UTI)を伴うネコとの間で差次発現する遺伝子を分析した。グループ間でp値<0.05の数値を伴う少なくとも20%の平均変化を示した遺伝子を選択した。この遺伝子リストをGeneGo分析プログラムにアップロードし、その際FICにより変化した529がこのプログラムにより認識され、UTIにより変化した608が認識された。
【0032】
[0052] 各遺伝子セットを、特定の経路または遺伝子ネットワークの強化について分析した。このプログラムの薬物標的ネットワーク関数下で、多数のヒスタミン放出およびシグナル伝達経路がFICにより影響されるが、UTIによっては影響されないことが確認された。
【0033】
[0053] ヒスタミンシグナル伝達経路がFICにおいてアップレギュレートされた。
【0034】
【表2】

【0035】
[0054] ヒスタミン放出の引き金を引くIgEシグナル伝達経路がFICにおいてアップレギュレートされる。
【0036】
【表3】

【0037】
実施例2
[0055] リポ酸で処理した4つのネコ細胞系からの遺伝子発現データを分析した。リポ酸で処理した4つの細胞系または処理しないものをすべて対t−検定により分析し、0.05未満の統計的有意性を示したすべての遺伝子を強化度分析のためにGeneGoにアップロードした。前記に挙げたネットワークにおける重要な遺伝子が、リポ酸によりダウンレギュレートされた。
【0038】
【表4】

【0039】
【表5−1】

【0040】
【表5−2】

【0041】
[0056] 本発明の具体的態様に基づいて、意外にもリポ酸はヒスタミンの放出および生物学的機能を導く経路の下流活性化を遮断しうることが見出された。したがって、リポ酸はネコ特発性膀胱炎の治療および/または予防に有用となる可能性がある。
【0042】
[0057] 本発明の範囲は実施例に開示した特定の態様により限定されるべきでない;実施例は本発明の幾つかの観点の説明のためのものであり、機能的に均等ないずれの態様も本発明の範囲に含まれる。実際に、本明細書に提示および記載したもののほか本発明の多様な改変が当業者に明らかであろう;それらは特許請求の範囲に含まれるものとする。
【0043】
[0058] 引用したいずれの文献についてもその開示内容全体を本明細書に援用する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
愛玩動物においてヒスタミン関連経路を阻害する方法であって、その必要がある愛玩動物に愛玩動物においてヒスタミン関連経路を阻害するのに有効な量のリポ酸を含む食物組成物を投与することを含み、その際、愛玩動物においてヒスタミン関連経路を阻害するリポ酸の有効量が少なくとも約25ppmである方法。
【請求項2】
有効量が少なくとも約50ppmである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有効量が少なくとも約100ppmである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
有効量が約100ppm〜約600ppmである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
有効量が約100ppm〜約200ppmである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
愛玩動物がイヌである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
愛玩動物がネコである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
有効量が愛玩動物において特発性膀胱炎または間質性膀胱炎を治療または予防するのに有効である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
リポ酸を含むペットフード組成物を少なくとも15日間投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
リポ酸を含むペットフード組成物を少なくとも30日間投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
リポ酸を含むペットフード組成物を少なくとも45日間投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
リポ酸を含むペットフード組成物を1日1回投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
愛玩動物において特発性膀胱炎または間質性膀胱炎を処置する方法であって、その必要がある愛玩動物に有効量のリポ酸を含む食物組成物を投与することを含み、その際、リポ酸の有効量が少なくとも約25ppmである方法。
【請求項14】
有効量が少なくとも約50ppmである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
有効量が少なくとも約100ppmである、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
有効量が約100ppm〜約600ppmである、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
有効量が約100ppm〜約200ppmである、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
愛玩動物がイヌである、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
愛玩動物がネコである、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
リポ酸を含むペットフード組成物を少なくとも15日間投与する、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
リポ酸を含むペットフード組成物を少なくとも30日間投与する、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
リポ酸を含むペットフード組成物を少なくとも45日間投与する、請求項13に記載の方法。
【請求項23】
リポ酸を含むペットフード組成物を1日1回投与する、請求項13に記載の方法。

【公表番号】特表2012−511934(P2012−511934A)
【公表日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542374(P2011−542374)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【国際出願番号】PCT/US2009/068236
【国際公開番号】WO2010/077935
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(502329223)ヒルズ・ペット・ニュートリシャン・インコーポレーテッド (138)
【Fターム(参考)】