説明

感染を処置する方法

本発明は、エクスビボまたはインビボで使用するための、細菌の増殖を抑制する方法に関する。本発明はまた、エンペドペプチンを含む医薬組成物を投与することによって、抗生物質耐性細菌に感染している患者を治療する方法、表面および器具を衛生化する方法、ならびにエンペドペプチン耐性について細菌を検定する方法に関する。一局面において、この細菌は少なくとも1種のグラム陽性菌株であり、グリコペプチド類、アミノグリコシド類、オキサゾリジノン類、ペニシリン類、マクロライド類、リファマイシン類、ポリペプチド類、リポペプチド類、クロラムフェニコールまたはこれらの組み合わせに耐性がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
この出願は、2007年2月26日に出願された、米国仮出願第60/903,487号(これは、その全体が参考として本明細書に援用される)への優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、抗菌性化合物を患者に投与することによって、患者における細菌の増殖を抑制する方法に関する。本発明はまた、表面および/または物体を衛生化する方法などの、同抗菌性化合物のエクスビボでの使用方法、ならびにグラム陽性細菌を検定する方法も提供する。
【背景技術】
【0003】
細菌は、単細胞微生物である。それらは通常、数マイクロメートルの長さであり、球状、棒状およびらせん状のものを含む多くの形状を有する。細菌は、地球上のあらゆる生息場所に遍在し、土壌、酸性温泉、放射性廃棄物[非特許文献1]、海水中および地殻深くで成長する。細菌の中には、極寒中および外部空間の真空中でも生存することができるものもある。通常は、土壌1グラム中に4,000万個の細菌細胞が存在し、淡水1ミリリットル中に100万個の細菌細胞が存在し、世界中には、合計で約5ノニリオン(5×1030)個の細菌が存在する。非特許文献2。細菌は、栄養素を再利用する上で不可欠であり、大気から窒素を固定するなどの、養分循環における多くの重要な段階は、細菌に依存している。しかし、これらの細菌の大部分は特徴付けられておらず、細菌の門のうち約半分しか、実験室で培養することができる種を有していない。非特許文献3。
【0004】
これらの細菌の圧倒的多数は、哺乳動物の免疫系の保護作用によって無害または有益となるが、少数の病原体細菌は、コレラ、梅毒、炭疽、ハンセン病および腺ペストを含む感染症を引き起こす。最も多く見られる致死性細菌性疾患は呼吸器感染症であり、結核だけで年間約200万人が死亡しており、その多くはサハラ以南のアフリカの人々である。http://www.who.int/healthinfo/bodgbd2002revised/en/index.htmlを参照されたい。
【0005】
細菌感染症に罹患している患者を治療するのに有効である抗生物質が多数存在するが、最近の数世代の病原細菌は多剤耐性を有し、臨床上の重大な問題となっている。
【0006】
抗生物質耐性感染症の治療を受けた患者の数は、ここ数年で大幅に増加している。1980年代に、長期医療患者におけるEnterococcusによる院内感染に主に関連する問題として始まったことが、一般社会へと進みつつある問題となっており、よくある非常に重大な多くのヒト病原体を含むようになってきている。薬剤耐性のStreptococci菌株、Staphylococci菌株およびPseudomonas菌株は、ごく普通に見られる。実際に、現在では米国での院内感染の70%もの数が、少なくとも1種の抗生物質に耐性があり、S.aureus感染症の約40%が多剤耐性である。非特許文献4。
【0007】
バンコマイシンおよびテイコプラニンのような、何年もの間、抗生物質耐性感染症の治療に関して「最後の手段である薬剤」の代表であった非常に強力な薬物でさえ、細菌のある特定の菌株に対しては、もはや有効ではない。(例えば、非特許文献5、非特許文献6ならびに非特許文献7を参照)。よって、これらの化合物は、未来の感染症の治療にはあまり役に立たないと予測されている。この状況において、バンコマイシンおよび関連化合物が無効になると、多剤耐性感染症の患者に対する治療の選択肢がほとんど残されていないということを理解することが重要である。2004年に米国の病院において、細菌感染症に感染した200万人のうちの9万人もの人々がその結果として死亡したという事実によって、状況の深刻さは明らかに説明されている(非特許文献8)。新規な作用機序を有する新しい抗生物質が直ちに必要であることは明らかである。したがって、病原細菌の抗生物質耐性菌株に対して優れた抗菌活性を有する化合物への強い需要が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Fredrickson J、Zachara J、Balkwill Dら、「Geomicrobiology of high−level nuclear waste−contaminated vadose sediments at the hanford site, Washington state」、Appl Environ Microbiol(2004年)70巻(7号):4230〜41頁
【非特許文献2】Whitman W、Coleman D、Wiebe W、「Prokaryotes: the unseen majority」、Proc Natl Acad Sci USA(1998年)95巻(12号):6578〜83頁
【非特許文献3】Rappe M、Giovannoni S、「The uncultured microbial majority」、Annu Rev Microbiol、57巻:369〜94頁
【非特許文献4】Coates, A.、Hu, Y.、Bax, R.およびPage, C.、「The Future Challenges Facing the Development of New Antimicrobial Drugs」、Nat. Rev. Drug Discov.(2002年)1巻:895〜910頁
【非特許文献5】Smith, T.L.およびJarvis, W.R.Antimicrobial resistance in Staphylococcus aureus、Microb. Infect.(1999年)1巻、795〜805頁
【非特許文献6】Ge, M.、Chen, Z.、Onishi, H.R.、Kohler, J.、Silver, L.L.、Kerns, R.、Fuzukawa, S.、Thompson, C.およびKahne, D.、Vancomycin derivatives that inhibit peptidoglycan biosynthesis without binding D−Ala−D−Ala、Science(1999年)284巻:507〜511頁
【非特許文献7】Goldman, R.C.およびGange, D.、Inhibition of transglycosylation involved in bacterial peptidoglycan synthesis、Curr. Med. Chem.(2000年)7巻:801〜820頁
【非特許文献8】Leeb, M.、A shot in the arm、Nature(2004)431巻:892〜893頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、細菌の増殖を抑制する方法であって、エンペドペプチンまたはその薬学的に許容できる塩を含む医薬組成物を提供することを含み、細菌は少なくとも1種のグラム陽性菌株を含む方法を提供する。
【0010】
いくつかの実施形態では、グラム陽性菌株は、グリコペプチド類、アミノグリコシド類、オキサゾリジノン類、ペニシリン類、マクロライド類、リファマイシン類、ポリペプチド類、リポペプチド類、クロラムフェニコールまたはそれらの任意の組合せに耐性がある。例えば、グラム陽性菌株は、Enterococcus faecalis、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Streptococcus pneumoniae、Streptococcus pyogenesまたはそれらの任意の組合せをさらに含む。
【0011】
他の実施形態では、グラム陽性菌株は、リネゾリド、オキサシリン、バンコマイシン、ダプトマイシン、エリスロマイシン、メチシリン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール、フシジン酸、リファンピンのうちの少なくとも1つまたはそれらの組合せに耐性がある。例えば、グラム陽性菌株は、メチシリンに耐性がある。
【0012】
いくつかの実施形態では、グラム陽性菌株は本質的にEnterococcus faecalisからなり、グラム陽性菌株は本質的にStaphylococcus aureusからなり、グラム陽性菌株は本質的にStaphylococcus epidermidisからなり、グラム陽性菌株は本質的にStreptococcus pneumoniaeからなり、またはグラム陽性菌株は本質的にStreptococcus pyogenesからなる。
【0013】
ある実施形態では、本方法は、第2の抗生剤を提供することをさらに含む。例えば、ある方法は、第2の抗生剤を含む第2の医薬組成物を提供すること、またはエンペドペプチンおよび第2の抗生剤を含む単一医薬組成物を提供することをさらに含む。
【0014】
本発明の別の態様は、細菌に感染している患者を治療する方法であって、エンペドペプチンまたはその薬学的に許容できる塩を含む医薬組成物を提供することを含み、細菌は少なくとも1種のグラム陽性菌株を含む方法を提供する。
【0015】
いくつかの実施形態では、グラム陽性菌株は、グリコペプチド類、オキサゾリジノン類、ペニシリン類、マクロライド類、リファマイシン類、ポリペプチド類、リポペプチド類、クロラムフェニコールのうちの1つもしくは複数またはそれらの組合せに耐性がある。例えば、グラム陽性菌株は、Enterococcus faecalis、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Streptococcus pneumoniae、Streptococcus pyogenesまたはそれらの任意の組合せをさらに含む。例えば、グラム陽性菌株は、リネゾリド、オキサシリン、バンコマイシン、ダプトマイシン、メチシリン、ゲンタマイシン、エリスロマイシン、クロラムフェニコール、フシジン酸、リファンピンまたはそれらの任意の組合せに耐性がある。他の例では、グラム陽性菌株は、メチシリンに耐性がある。
【0016】
いくつかの実施形態では、グラム陽性菌株は本質的にEnterococcus faecalisからなり、グラム陽性菌株は本質的にStaphylococcus aureusからなり、グラム陽性菌株は本質的にStaphylococcus epidermidisからなり、グラム陽性菌株は本質的にStreptococcus pneumoniaeからなり、またはグラム陽性菌株は本質的にStreptococcus pyogenesからなる。
【0017】
ある実施形態では、本方法は、第2の抗生剤を提供することをさらに含む。例えば、ある方法は、第2の抗生剤を含む第2の医薬組成物を提供すること、またはエンペドペプチンおよび第2の抗生剤を含む単一医薬組成物を提供することをさらに含む。
【0018】
本発明の別の態様は、どちらかがグリコペプチド類、オキサゾリジノン類、ペニシリン類、マクロライド類、リファマイシン類、ポリペプチド類、リポペプチド類、クロラムフェニコールまたはそれらの組合せに耐性があるStaphylococcus aureusまたはStaphylococcus epidermidis感染している患者を治療する方法であって、エンペドペプチンまたはその薬学的に許容できる塩を含む医薬組成物の有効量を、患者に投与することを含む方法を提供する。
【0019】
いくつかの実施形態では、医薬組成物を患者に非経口または静脈内投与する。他の実施形態では、医薬組成物を患者に静脈内投与し、または医薬組成物を患者に局所投与する。
【0020】
本発明の別の態様は、表面または物体を衛生化する方法であって、表面または物体を、エンペドペプチンおよび担体を含む清浄組成物と接触させることを含む方法を提供する。
【0021】
いくつかの実施形態では、担体は、水またはアルコールを含む。
【0022】
他の実施形態では、表面は皮膚であり、または物体は農産物、医療器具、台所用品もしくは衣料品である。
【0023】
ある実施形態では、清浄組成物は、第2の抗生剤、例えば、エンペドバクチンの抗菌活性に実質的に影響を及ぼさないものをさらに含む。
【0024】
本発明の別の態様は、エンペドペプチン耐性について細菌を検定する方法であって、培地中で細菌のコロニーを形成させることと、培地をインキュベートすることとを含み、培地がエンペドペプチンを含む方法を提供する。
【0025】
本発明の別の態様は、配列番号1を含む、単離されたヌクレオチド配列を提供する。
【0026】
本発明の別の態様は、配列番号2を含む、単離されたタンパク質配列を提供する。
【0027】
本発明の別の態様は、配列番号3を含む、単離されたヌクレオチド配列を提供する。
【0028】
本発明の別の態様は、配列番号4を含む、単離されたタンパク質配列を提供する。
【0029】
本発明の別の態様は、配列番号5を含む、単離されたヌクレオチド配列を提供する。
【0030】
本発明の別の態様は、配列番号6を含む、単離されたタンパク質配列を提供する。
【0031】
本発明の別の態様は、配列番号7を含む、単離されたヌクレオチド配列を提供する。
【0032】
本発明の別の態様は、配列番号8を含む、単離されたタンパク質配列を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】E.haloabiumにおける、エンペドペプチンの生合成に関与している遺伝子クラスター配列を説明する図である。
【図2】エンペドペプチン生合成遺伝子の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、エンペドペプチンを含む医薬組成物を提供することによって、細菌の増殖を制限する方法であって、細菌は、アミノグリコシド類、カルバセフェム系、カルバペネム系、セファロスポリン系、(例えば、第1世代、第2世代、第3世代または第4世代)、グリコペプチド類、リポペプチド類、マクロライド類、モノバクタム系、ペニシリン類、ポリペプチド類、キノロン系、スルホンアミド系、テトラサイクリン系、オキサゾリジノン類、リファマイシン類、他の分類されていない抗生物質(例えば、クロラムフェニコール)のうちの1種もしくは複数またはそれらの組合せに耐性がある少なくとも1種のグラム陽性菌株を含む方法を提供する。この方法は、エクスビボまたはインビボでの目的に有用である。
【0035】
I.定義
本明細書において使用される場合、「エンペドペプチン」とは、構造
【0036】
【化1】

を有する環状ペプチドを指す。
【0037】
本明細書において使用される場合、「抗生物質」または「抗生剤」とは、ある特定の真菌、細菌および他の生物によって産生されるかまたはこれらに由来するか、あるいは合成的に製造される、ペニシリン、ストレプトマイシン、メチシリン、バンコマイシン、エリスロマイシン、ダプトマイシンおよび/またはバシトラシンなどの、他の微生物の成長を破壊または抑制することができる化合物を指す。抗生物質は、細菌感染症などの感染症の予防および治療に広く使用されている。頻用される抗生物質は、以下に論じられる。
【0038】
本明細書において使用される場合、「抗生物質耐性の」または「抗生物質耐性」とは、大量の抗生物質で治療されているにもかかわらず、細菌群の少なくともある一部分が、生存および増殖することができる、ある細菌の特性を指す。例えば、抗生物質耐性は、抗生物質によって細菌が溶解しないか、または他の様式で破壊されないことを意味するために使用される。抗生物質耐性はまた、細菌が、抗生物質の存在下で、活発に成長および増殖することを意味することができる。いくつかの例では、抗生物質耐性細菌は、1種または複数種の抗生物質で治療する場合に、1種もしくは複数種の抗生物質に感受性がある細菌または1種もしくは複数種の抗生物質に中等度耐性を有する細菌に関して認められる濃度よりも、約2倍から約100倍以上も高い(例えば、約3倍から約100倍高い、約4倍から約100倍高いなど)最小発育阻止濃度をもたらす細菌である。
【0039】
本明細書において使用される場合、「アルコール」とは、ヒドロキシ(−OH)官能基に結合されている炭素原子を含む、任意の物理的状態(例えば、固体、気体または液体)での有機化合物を指す。限定されることなく、例示的なアルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどを含む。
【0040】
本明細書において使用される場合、「細菌」とは、遍在する単細胞生物を意味し、球状、らせん状または棒状の形をしており、単独でまたは鎖状で発生し、モネラ界の門である分裂菌門(ある分類体系では、分裂菌綱植物)を構成し、これらの多様な種は、発酵、腐敗、感染症または窒素固定に関係している。
【0041】
本明細書において使用される場合、「細菌の増殖」とは、細菌の成長または複製を意味する。
【0042】
本明細書において使用される場合、「有効量」とは、治療されている患者に治療効果を与えるために必要な量と定義され、通常は、年齢、表面積、体重および患者の状態に基づいて決定される。動物およびヒトに対する投与量の相互関係(体表面1メートル四方当たりのミリグラム数に基づいている)が、Freireichらによって、Cancer Chemother. Rep.、50巻:219頁(1966年)に記載されている。体表面積は、患者の身長および体重から近似的に決定することができる。例えば、Scientific Tables、Geigy Pharmaceuticals、Ardsley、New York、537頁(1970年)を参照されたい。
【0043】
本明細書において使用される場合、「農産物」とは、果実、野菜、ナッツ類、花、ハチミツおよび牛肉、豚肉、鶏肉、魚、子羊肉などの畜産物を意味する。
【0044】
本明細書において使用される場合、「医療器具」とは、メス、止血鉗子、のこぎり、開創器、鉗子、外科用縫合針、カテーテル、ドリル、包帯、開胸器、舌圧子などの医療用途に関連する器具および一般に生体に挿入される他の任意の器具を意味する。
【0045】
本明細書において使用される場合、「台所用品」とは、ナイフ、フォーク、スプーン、トング、へらなどの、食品調製において一般に使用される器具、食品調製において一般に使用される他の任意の器具を意味する。
【0046】
本明細書において使用される場合、「グラム陽性」とは、グラム染色処理中にクリスタルバイオレットの色を保持する細菌を指す。グラム陽性細菌は、顕微鏡下で青色または紫色に見える。
【0047】
本明細書において使用される場合、「グラム陰性」とは、グラム染色処理中に赤色またはピンク色を保持する細菌を指す。グラム陰性細菌は、顕微鏡下で赤色またはピンク色に見える。グラム陽性細菌とグラム陰性細菌の分類上の相違は、主として、細菌の細胞壁の構造における相違に基づく。
【0048】
本明細書において使用される場合、「患者」とは、ヒトを含む哺乳動物を指す。
【0049】
特に明記しない限り、本明細書に描かれている構造はまた、その構造のすべての異性体(例えば、エナンチオマー、ジアステレオマーおよび幾何異性体(または配座異性体))の形;例えば、各不斉中心についてのRおよびS配置、(Z)および(E)二重結合異性体ならびに(Z)および(E)配座異性体を含むことを意味する。したがって、本発明の化合物の単一の立体化学異性体は、エナンチオマー、ジアステレオマーおよび幾何異性体(または配座異性体)の混合物と同様に、本発明の範囲内にある。
【0050】
特に明記しない限り、本発明の化合物のすべての互変異性形は、本発明の範囲内にある。加えて、特に明記しない限り、本明細書に描かれている構造はまた、1種または複数種の同位体濃縮原子の存在下でのみ異なる化合物を含むことを意味する。例えば、本構造を有する化合物は、水素を重水素または三重水素に置換する場合、または炭素を13C−または14C−濃縮炭素に置換する場合を除き、本発明の範囲内にある。かかる化合物は、例えば生物学的検定における分析ツールもしくはプローブとして、または治療薬として有用である。
【0051】
II.略語
本明細書において使用される略語は、以下の意味を有する。
【0052】
L−Arg:L−アルギニン
D−Ser:D−セリン
L−Pro:L−プロリン
D−Pro:D−プロリン
L−Ala:L−アラニン
L−Thr:L−トレオニン
D−aThr:D−allo−トレオニン
L−hyPro:L−trans−3−ヒドロキシプロリン
D−hyAsp:D−threo−β−ヒドロキシアスパラギン酸
L−hyAsp:L−threo−β−ヒドロキシアスパラギン酸 。
【0053】
III.方法
本発明は、細菌の増殖を抑制する方法であって、エンペドペプチンまたはその薬学的に許容できる塩を含む医薬組成物を提供することを含み、細菌は少なくとも1種のグラム陽性菌株を含み、グラム陽性菌株は、グリコペプチド類、リポペプチド類、アミノグリコシド類、オキサゾリジノン類、ペニシリン類、マクロライド類、リファマイシン類、ポリペプチド類、他の分類されていない抗生物質(例えば、クロラムフェニコール)のうちの1種もしくは複数種またはそれらの組合せに耐性がある方法を提供する。いくつかの方法では、グラム陽性菌株は、Enterococcus faecalis、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Streptococcus pneumoniae、Streptococcus pyogenesまたはそれらの任意の組合せをさらに含む。
【0054】
例えば、一群の方法では、グラム陽性菌株は、Enterococcus faecalis、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Streptococcus pneumoniae、Streptococcus pyogenesまたはそれらの任意の組合せを含み、グラム陽性菌株は、アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、パロモマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、バンコマイシン、テイコプラニンおよびアプラマイシンを含む1つまたは複数のグリコペプチド類にさらに耐性がある。他の方法では、グラム陽性菌株は、Enterococcus faecalis、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Streptococcus pneumoniae、Streptococcus pyogenesまたはそれらの任意の組合せを含み、グラム陽性菌株は、メチシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、オキサシリン、ナフシリン、アモキシシリン、アンピシリン、アズロシリン、カルベニシリン、クロキサシリン、メズロシリン、ペニシリン、ピペラシリン、チカルシリンまたはそれらの任意の組合せを含む1つまたは複数のペニシリン類にさらに耐性がある。別の方法では、グラム陽性菌株は、Enterococcus faecalis、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Streptococcus pneumoniae、Streptococcus pyogenesまたはそれらの任意の組合せを含み、グラム陽性菌株は、アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、パロモマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、アプラマイシンまたはそれらの組合せを含む1つまたは複数のアミノグリコシド類にさらに耐性がある。別の方法では、グラム陽性菌株は、Enterococcus faecalis、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Streptococcus pneumoniae、Streptococcus pyogenesまたはそれらの組合せを含み、グラム陽性菌株は、エリスロマイシン、アジスロマイシン、トロレアンドマイシン、クラリスロマイシン、ジリスロマイシン、ロキシスロマイシンまたはそれらの任意の組合せを含む1つまたは複数のマクロライド類にさらに耐性がある。別の方法では、グラム陽性菌株は、Enterococcus faecalis、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Streptococcus pneumoniae、Streptococcus pyogenesまたはそれらの任意の組合せを含み、グラム陽性菌株は、リファンピン、リファブチン、リファペンチンまたはそれらの任意の組合せを含む1つまたは複数のリファマイシン類にさらに耐性がある。別の方法では、グラム陽性菌株は、Enterococcus faecalis、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Streptococcus pneumoniae、Streptococcus pyogenesまたはそれらの任意の組合せを含み、グラム陽性菌株は、ダプトマイシン、バシトラシン、コリスチン、ポリミキシンBまたはそれらの任意の組合せを含む1つまたは複数のポリペプチド類またはリポペプチド類にさらに耐性がある。他の方法では、グラム陽性菌株は、Enterococcus faecalis、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Streptococcus pneumoniae、Streptococcus pyogenesまたはそれらの任意の組合せを含み、グラム陽性菌株は、リネゾリド、オキサシリン、バンコマイシン、ダプトマイシン、メチシリン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール、フシジン酸、リファンピンのうちの1つもしくは複数またはそれらの任意の組合せにさらに耐性がある。
【0055】
いくつかの代替方法では、グラム陽性菌株は本質的に、リネゾリド、オキサシリン、バンコマイシン、ダプトマイシン、メチシリン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール、フシジン酸、リファンピンのうちの1つもしくは複数またはそれらの組合せに耐性があるEnterococcus faecalisからなる。他の方法では、グラム陽性菌株は本質的に、リネゾリド、オキサシリン、バンコマイシン、ダプトマイシン、メチシリン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール、フシジン酸、リファンピンのうちの1つもしくは複数またはそれらの組合せに耐性があるStaphylococcus aureusからなる。いくつかの方法では、グラム陽性菌株は本質的に、リネゾリド、オキサシリン、バンコマイシン、ダプトマイシン、メチシリン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール、フシジン酸、リファンピンのうちの1つもしくは複数またはそれらの組合せに耐性があるStaphylococcus epidermidisからなる。他の方法では、グラム陽性菌株は本質的に、リネゾリド、オキサシリン、バンコマイシン、ダプトマイシン、メチシリン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール、フシジン酸、リファンピンのうちの1つもしくは複数またはそれらの組合せに耐性があるStreptococcus pneumoniaeからなる。他の方法では、グラム陽性菌株は本質的に、リネゾリド、オキサシリン、バンコマイシン、ダプトマイシン、メチシリン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール、フシジン酸、リファンピンのうちの1つもしくは複数またはそれらの組合せに耐性があるStreptococcus pyogenesからなる。
【0056】
細菌の増殖を抑制する方法はまた、細菌に感染している患者を治療するのに有用であり、細菌は、グリコペプチド類、リポペプチド類、アミノグリコシド類、オキサゾリジノン類、ペニシリン類、マクロライド類、リファマイシン類、ポリペプチド類、または他の分類されていない抗生物質(例えば、クロラムフェニコール)またはそれらの任意の組合せに耐性があるグラム陽性菌株である。
【0057】
かかる方法は、グリコペプチド類、リポペプチド類、アミノグリコシド類、オキサゾリジノン類、ペニシリン類、マクロライド類、リファマイシン類、ポリペプチド類、分類されていない抗生物質(例えば、クロラムフェニコール)またはそれらの組合せに耐性があるグラム陽性細菌の感染症を治療するための、エンペドペプチンまたはその薬学的に許容できる塩を含む医薬組成物を提供することを含む。
【0058】
いくつかの方法では、細菌に感染している患者は、エンペドペプチンまたはその薬学的に許容できる塩を含む医薬組成物で治療され、細菌は少なくとも1種のグラム陽性菌株を含み、グラム陽性菌株は、1つもしくは複数のグリコペプチド類、リポペプチド類、アミノグリコシド類、オキサゾリジノン類、ペニシリン類、マクロライド類、リファマイシン類、ポリペプチド類、分類されていない抗生物質(例えば、クロラムフェニコール)またはそれらの組合せに耐性がある。他の方法では、患者は、グリコペプチド類、アミノグリコシド類、オキサゾリジノン類、リポペプチド類、ペニシリン類、マクロライド類、リファマイシン類、ポリペプチド類、分類されていない抗生物質(例えば、クロラムフェニコール)またはそれらの組合せに耐性があるEnterococcus faecalisに感染している。いくつかの方法では、患者は、1つもしくは複数のグリコペプチド類、アミノグリコシド類、リポペプチド類、オキサゾリジノン類、ペニシリン類、マクロライド類、リファマイシン類、ポリペプチド類、分類されていない抗生物質(例えば、クロラムフェニコール)またはそれらの組合せに耐性があるStaphylococcus aureusに感染している。いくつかの方法では、患者は、1つもしくは複数のグリコペプチド類、リポペプチド類、アミノグリコシド類、オキサゾリジノン類、ペニシリン類、マクロライド類、リファマイシン類、ポリペプチド類、分類されていない抗生物質(例えば、クロラムフェニコール)またはそれらの組合せに耐性があるStaphylococcus epidermidisに感染している。他の方法では、患者は、1つもしくは複数のグリコペプチド類、リポペプチド類、アミノグリコシド類、オキサゾリジノン類、ペニシリン類、マクロライド類、リファマイシン類、ポリペプチド類または分類されていない抗生物質(例えば、クロラムフェニコール)またはそれらの組合せに耐性があるStreptococcus pneumoniaeに感染している。ある方法では、患者は、リネゾリド、オキサシリン、バンコマイシン、ダプトマイシン、メチシリン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール、フシジン酸、リファンピンのうちの1つもしくは複数またはそれらの組合せに耐性があるStreptococcus pyogenesに感染している。
【0059】
他の方法は、細菌に感染している患者を治療するために提供し、エンペドペプチンまたはその薬学的に許容できる塩を提供することを含み、細菌は、Enterococcus faecalis、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Streptococcus pneumoniae、Streptococcus pyogenesまたはそれらの組合せを含む。より具体的には、細菌は、メチシリン耐性Staphylococcus aureus、メチシリン耐性Streptococcus pneumoniae、メチシリン耐性Streptococcus pyogenesまたはそれらの組合せを含む。いくつかの方法では、細菌群は、リネゾリド、オキサシリン、バンコマイシン、ダプトマイシン、メチシリン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール、フシジン酸、リファンピンまたはそれらの組合せに耐性がある。他の実施形態では、細菌群は本質的にEnterococcus faecalisからなる。さらに多くの実施形態では、細菌群は本質的にStaphylococcus aureusからなる。あるいは、細菌群は本質的にStaphylococcus epidermidisからなる。または、細菌群は本質的にStreptococcus pneumoniaeからなる。ある実施形態では、細菌群は本質的にStreptococcus pyogenesからなる。
【0060】
本発明の他の実施形態は、どちらかがリネゾリド、オキサシリン、バンコマイシン、ダプトマイシン、メチシリン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール、フシジン酸、リファンピンまたはそれらの組合せに耐性があるStaphylococcus aureusまたはStaphylococcus epidermidis感染している患者を治療する方法であって、エンペドペプチンまたはその薬学的に許容できる塩の有効量を、患者に投与することを含む方法を提供する。
【0061】
さらに多くの実施形態は、表面または物体を衛生化する方法であって、表面または物体を、エンペドペプチンおよび有効な担体を含む清浄組成物と接触させることを含む方法を提供する。本発明のいくつかの清浄組成物は、水、アルコールまたはそれらの混合物を含む担体を含む。他の例では、溶媒は、エタノール、メタノール、イソプロパノール、水またはそれらの組合せを含む。この方法は、皮膚、調理台の上面、テーブルの上面などの表面および感染症細菌の宿主となる可能性がある他の表面を衛生化するのに十分適している。その上、この方法は、外科用器具(例えば、メス、口腔体温計、開創器、鋸歯、鉗子、止血鉗子、剪刀など)、台所用品などの物体を衛生化するのに十分適している。
【0062】
いくつかの実施形態では、感染症を治療すること、または細菌の増殖を制限することに有用な医薬組成物は、第2の抗生剤を場合によって含むことができる。例えば、医薬組成物は、エンペドペプチンと、グリコペプチド類、リポペプチド類、アミノグリコシド類、オキサゾリジノン類、ペニシリン類、マクロライド類、リファマイシン類、ポリペプチド類または分類されていない抗生物質(例えば、クロラムフェニコール)から独立に選択される1種または複数種の抗生剤とを含むことができる。
【0063】
本発明の別の態様は、エンペドペプチン耐性について細菌を検定する方法であって、エンペドペプチンを含む培地中で細菌のコロニーを形成させることと、細菌をインキュベートすることとを含む方法を提供する。この方法を使用して任意の細菌を検定することができる。
【0064】
IV.抗生物質
抗生物質は、それらの個々の生物活性の範囲によって分類されることが多い。抗生物質の生物活性の範囲は、狭域スペクトル、中域スペクトル、広域スペクトルであるとして、定性的に評価される。
【0065】
狭域スペクトルの抗生物質は、細菌の少数の菌株または細菌の小さいファミリーに活性を有し、一方、細菌の複数の菌株またはファミリーに活性を有する抗生物質は、中域スペクトルの抗生物質として分類され、細菌(例えば、グラム陰性細菌および/またはグラム陽性細菌)の多数の菌株またはファミリーに活性を有するそれらの抗生物質は、広域スペクトルの抗生物質として分類される。
【0066】
抗生物質はまた、それらが有効な生物によって、およびそれらが有用な感染症のタイプによって分類することができ、感染症を最も多く引き起こす生物の感受性および侵された組織中の入手可能な抗生物質の濃度によって決まる。
【0067】
最も一般的なレベルでは、抗生物質は殺菌性または静菌性のいずれかとして分類することができる。殺菌剤は細菌を直接死滅させるが、静菌剤は細菌の分裂を防ぐ。しかし、これらの分類は実験室での挙動に基づいており、実際にはこれらの両方が細菌感染症を終了させることができる。
【0068】
一般的な市販の抗生物質には、アミノグリコシド類、カルバセフェム系、カルバペネム系、セファロスポリン系、(例えば、第1世代、第2世代、第3世代または第4世代)、グリコペプチド類、リポペプチド類、マクロライド類、モノバクタム系、ペニシリン類、ポリペプチド類、キノロン系、スルホンアミド系、テトラサイクリン系、オキサゾリジノン類、リファマイシン類および分類されていない抗生物質(例えば、クロラムフェニコール)が含まれる。各種の抗生物質は、以下に手短かに論じられる。
【0069】
ペニシリン類は、アオカビから得られるかまたは合成的に製造される抗生物質を含み、グラム陽性細菌に対して最も活性を示し、種々の感染症および疾患の治療に使用されている。ペニシリンはβ−ラクタム系抗生物質の1つであり、β−ラクタム系抗生物質はすべて、5員チアゾリジン環と縮合した4環系β−ラクタム構造を有する。これらの抗生物質は、毒性がなく、感受性菌の成長段階中に、それらの細胞壁ムコペプチドの生合成を阻害することによって、感受性菌を死滅させる。ペニシリン類抗生物質は、狭域スペクトルの生物活性、中域または中間スペクトルの生物活性および広域スペクトルの生物活性をもたらす。限定されることなく、狭域スペクトルのペニシリン類には、メチシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、オキサシリン、ナフシリンなどが含まれる。限定されることなく、中域または中間スペクトルのペニシリン類には、アモキシシリン、アンピシリンなどが含まれる。限定されることなく、ペニシリン類には、アンピシリン、アズロシリン、カルベニシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、メズロシリン、ナフシリン、ペニシリン、ピペラシリンおよびチカルシリンが含まれる。
【0070】
アミノグリコシド類は、ある特定のタイプの細菌に対して有効な抗生物質の一群である。それらは、アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、パロモマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシンおよびアプラマイシンを含む。Streptomyces属由来のものは、接尾辞−マイシン(−mycin)を付けて命名され、一方、micromonospora由来のものは、接尾辞−マイシン(−micin)を付けて命名される。アミノグリコシド類は、Pseudomonas、AcinetobacterおよびEnterobacterなどの好気性グラム陰性細菌が関係している感染症に主に有用である。加えて、結核を引き起こす細菌を含むいくつかのmycobacteriaは、アミノグリコシド類に感受性がある。アミノグリコシド類が最も頻繁に使用されるのは、敗血症、複雑性腹腔内感染症、複雑性尿路感染症および院内呼吸器感染症などの、重篤な感染症に対する経験的治療である。通例は、病原生物の培養物を成長させ、それらの感受性が検査されると、毒性がより少ない抗生物質を選び、アミノグリコシド類は中止される。
【0071】
カルバセフェムは、抗生物質医薬品の一種であり、具体的にはセファロスポリンの改変形である。細胞壁の合成を阻害することによって、細菌の細胞分裂を防ぐ。限定されることなく、カルバセフェム系には、ロラカルベフなどが含まれる。
【0072】
カルバペネム系は、β−ラクタム系抗生物質の一種であり、この構造によって、それらはβ−ラクタマーゼに対して高度の耐性を有することになる。限定されることなく、カルバペネム系には、イミペネム(イミペネム/シラスタチンの一部とされることが多い)、メロペネム、エルタペネム、ファロペネム、ドリペネム、パニペネム/ベタミプロンなどが含まれる。
【0073】
セファロスポリン系は、β−ラクタム系抗生物質の一種である。セファマイシン系と一緒に、それらはセフェム系と呼ばれるサブグループに属する。第1世代セファロスポリン系は、大部分がグラム陽性細菌に対して活性を示す。第1世代セファロスポリン系は、中域スペクトルの薬剤であり、ペニシリナーゼ産生、メチシリン感受性のstaphylococciおよびstreptococciを含む活性スペクトルを有するが、それらはかような感染症に対する選択薬ではない。それらはまた、いくつかのEscherichia coli、Klebsiella pneumoniaeおよびProteus mirabilisに対して活性を有するが、Bacteroides fragilis、enterococci、メチシリン耐性staphylococci、Pseudomonas、Acinetobacter、Enterobacter、インドール陽性ProteusまたはSerratiaに対して活性を全く有さない。限定されることなく、第1世代セファロスポリン系には、セファドロキシル、セファゾリンおよびセファレキシンが含まれる。
【0074】
第2世代セファロスポリン系は、グラム陰性スペクトルが増強されるが、グラム陽性球菌に対する活性は一部保持している。それらはまた、β−ラクタマーゼに対して、より耐性がある。第2世代セファロスポリン系には、例えば、セフォニシド、セフプロジル、セフプロキシル、セフロキシム、セフゾナム、セファクロル、セファマンドール、セフォラニドおよびセフォチアムが含まれる。
【0075】
第3世代セファロスポリン系は、広域スペクトルの活性を有し、グラム陰性生物に対する活性がさらに増強されている。この群に属するいくつか(特に、経口製剤で利用可能なものおよび抗緑膿菌活性を有するもの)は、グラム陽性生物に対する活性が低下している。基質特異性拡張型β−ラクタマーゼのレベルが増加していることで、この種の抗生物質の臨床的有用性を低下させているが、それらは院内感染症を治療するのに特に有用でありうる。限定されることなく、第3世代セファロスポリン系には、セフカペン、セフダロキシム、セフジニル、セフジトレン、セフェタメット、セフィキシム、セフメノキシム、セフォジジム、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフピミゾール、セフポドキシム、セフテラム、セフチブテン、セフチオフル、セフチオレン、セフチゾキシムおよびセフトリアキソンが含まれる。抗緑膿菌活性を有する第3世代セファロスポリン系には、セフタジジム、セフピラミドおよびセフスロジンが含まれる。
【0076】
オキサセフェム系も、時には第3世代セファロスポリン系に分類され、これにはラタモキセフおよびフロモキセフが含まれる。
【0077】
第4世代セファロスポリン系は、グラム陽性生物に対して、第1世代セファロスポリン系と類似の活性を有する、基質特異性拡張型薬剤である。それらはまた、β−ラクタマーゼに対して、第3世代のセファロスポリン系よりも強い耐性を有する。多くは血液脳関門を越えることができ、髄膜炎に有効である。例示的な第4世代セファロスポリン系には、セフクリジン、セフェピム、セフルプレナム、セフォセリス、セフォゾプラン、セフピロムおよびセフキノムが含まれる。
【0078】
これらのセフェム系は、命名されるほど大いに進歩してきたが、特定の世代に割り当てられていない。すなわち、セフトビプロール、セファクロメジン(cefaclomezine)、セファロラム、セファパロール、セフカネル、セフェドロロール、セフェムピドン(cefempidone)、セフェトリゾール、セフィビトリル、セフマチレン、セフメピジウム、セフォベシン、セフォキサゾール(cefoxazole)、セフロチル、セフスミド、セフチオキシド、セフトビプロール、セフトビプロールおよびセフルアセチム(cefuracetime)である。
【0079】
グリコペプチド類抗生物質は、別の種類の抗生物質である。それらは、グリコシル化された環状または多環状の非リボソームペプチドからなる。例示的なグリコペプチド類抗生物質には、バンコマイシン、テイコプラニン、ラモプラニンおよびデカプラニンが含まれる。
【0080】
マクロライド類は、その活性がマクロライド環、すなわち大ラクトン環の存在から生じる薬物(通例は抗生物質)の一群であり、この環に1つまたは複数のデオキシ糖、通例はクラジノースおよびデソサミンが結合されている。このラクトン環は、14員、15員または16員のいずれかでありうる。マクロライド類は、天然物のポリケチド類に属する。頻用されるマクロライド類抗生物質には、エリスロマイシン、アジスロマイシン、トロレアンドマイシン、クラリスロマイシン、ジリスロマイシンおよびロキシスロマイシンが含まれる。
【0081】
モノバクタム系は、β−ラクタム環が単独であり、(少なくとも2つの環を有する他の大部分のβ−ラクタム系とは対照的に)別の環に縮合していないβ−ラクタム系抗生物質である。その例は、アズトレオナムである。
【0082】
ポリペプチド類抗生物質には、バシトラシン、コリスチンおよびポリミキシンBが含まれる。
【0083】
キノロン系は、別のファミリーの広域スペクトル抗生物質である。この群の親はナリジクス酸である。臨床で使用されるキノロン系の大多数は、中心環系に結合されたフルオロ基を有するフルオロキノロン系のサブセットに属する。例示的なキノロン系抗生物質には、シノキサシン、フルメキン、ナリジクス酸、オキソリン酸、ピロミド酸、ピペミド酸、シプロフロキサシン、エノキサシン、フレロキサシン、ロメフロキサシン、ナジフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、ペフロキサシン、ルフロキサシン、バロフロキサシン、グレパフロキサシン、レボフロキサシン、メシル酸パズフロキサシン、スパルフロキサシン、テマフロキサシン、トスフロキサシン、クリナフロキサシン、ゲミフロキサシン、モキシフロキサシン、ガチフロキサシン、シタフロキサシンおよびトロバフロキサシンが含まれる。
【0084】
抗菌性スルホンアミド系(時には単にサルファ薬と呼ばれる)は、スルホンアミド基を含む合成抗菌剤である。細菌において、抗菌性スルホンアミド系は、酵素ジヒドロプテロイン酸シンセターゼ、DHPSの拮抗阻害剤として作用する。いくつかの抗菌性スルホンアミド系には、マフェニド、プロントジル、スルファセタミド、スルファメチゾール、スルファニルアミド、スルファサラジン、スルフイソキサゾール、トリメトプリムおよびトリメトプリム−スルファメトキサゾールが含まれる。
【0085】
テトラサイクリン系は、4つの(「テトラ−」)炭化水素環(「サイクル−」)誘導体(「−イン」)の名を採って命名された、広域スペクトルの抗生物質の一群である。例示的なテトラサイクリン系には、テトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、デメクロサイクリン、ドキシサイクリン、リメサイクリン、メクロサイクリン、メタサイクリン、ミノサイクリン、ロリテトラサイクリンおよびチゲサイクリンが含まれる。
【0086】
オキサゾリジノン類は、その構造に2−オキサゾリドンを含む化合物の一種である。オキサゾリジノン類は、有用な抗生物質である。最も重要なオキサゾリジノン類のいくつかは、グラム陽性細菌株に対して使用されている最後の世代の抗生物質である。オキサゾリジノン類の一例は、リネゾリドである。
【0087】
リファマイシン類は、細菌のAmycolatopsis mediterraneiによって天然に合成されるか、または人工的に合成される抗生物質の一群である。リファマイシン類は、mycobacteriaに対して特に有効であり、したがって、結核、ハンセン病およびmycobacterium avium複合体(MAC)感染症を治療するために使用される。限定されることなく、リファマイシン抗生物質群には、リファンピン、rifLが含まれる。
【0088】
リポペプチド類抗生物質は、脂質または脂質およびペプチドの混合物を結合させたペプチドを含み、これには、環状リポペプチドであるダプトマイシンが挙げられる。
【0089】
他の分類されていない抗生物質には、クロラムフェニコール、クリンダマイシン、エタンブトール、ホスホマイシン、フラゾリドン、イソニアジド、メトロニダゾール、ムピロシン、ニトロフラントイン、プラテンシマイシン、ピラジナミド、キヌプリスチン/ダルホプリスチン、スペクチノマイシンおよびテリスロマイシンが含まれる。
【0090】
上述の抗生物質を含む医薬組成物は、抗生物質の組合せを含むことができる。
【0091】
さらに、上述の抗生物質は、任意の適した方法(例えば、経口、局所、静脈内、腹腔内注射、筋肉注射(IM)またはそれらの任意の組合せ)によって投与することができる。これらの抗生物質は、さらに、同時に、すなわち、ほぼ同時に、または、逐次、すなわち異なった時間に投与することができる。
【0092】
最近の世代の細菌は、上述の抗生剤のうちの1種または複数種に耐性を発現している。かかる細菌には、Enterococcus faecalis、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Streptococcus pneumoniae、Streptococcus pyogenesが含まれ、これらのそれぞれが哺乳動物、特にヒトに疾病を引き起こす可能性がある。
【0093】
V.エンペドペプチンの生成
環状ペプチドは、いくつかの生合成単位、通常はアミノ酸からなり、これが連続して結合され、閉環構造を形成している。産生生物は、これらの分子の合成に関与している、非リボソームペプチドシンセターゼ(NRPS)複合体と称される大きい酵素複合体を含む。NRPS複合体は、多数の生合成モジュールを含む組み立てラインのような組織を有し、各モジュールは、1つの特定のアミノ酸(生合成単位)の、環状ペプチドの配列への付加に関与している。
【0094】
NRPS複合体における各生合成モジュールは、ある特定のアミノ酸に対して特異的であり、複合体におけるモジュールの連続配列は、それ自体が、産生される環状ペプチドの配列および構造を決定する。このことから、モジュールの配列、つまり順序が変化する場合、ペプチドのアミノ酸配列も変化するということになる。すなわち、特定のアミノ酸に特異的な生合成モジュールが別のアミノ酸に特異的なモジュールに置換される場合、最終的な結果は、改変されたNRPS複合体によって産生されたペプチド中の、その位置において異なったアミノ酸である。その上、NRPS複合体におけるモジュールの配列は、相当するNRPS遺伝子における、モジュールをコードする遺伝子配列を直接反映しているため、NRPS複合体における生合成モジュールの欠失、挿入および/または置換は、相当するNRPS遺伝子における該当する配列断片の欠失、挿入および/または置換によって達成することができる。それ故に、これまでは、以上に論じた複雑で高価な合成化学法を使用することでのみ、導入可能であった特徴を有する分子を生成するために、(該当する環状ペプチドを産生する生物の)遺伝子工学が、今こそ使用されうる。
【0095】
とはいえ、エンペドペプチンの構造に改変を導入するために、以上に概説した遺伝子工学のアプローチを利用するには、エンペドペプチンシンセターゼをコードするNRPS遺伝子の配列および構造の知識を必要とする。この遺伝子は、今のところ、同定またはクローン化されていない。それ故に、この遺伝子をクローン化することを目指して、高度に保存されたコアアデニル化ドメイン配列モチーフA3(AUG1470:GGWTCYACWGGWACWCCWTTRCC;フォワード)およびA8(AUG1473:CCWARYTCWATACGRAAWCCACG;リバース;ここで、RはAまたはGであり、WはAまたはTであり、YはCまたはTである)のコード領域を標的とした、一連の縮重PCRプライマーを調製した。プライマーのデザインを、エンペドペプチン産生生物Empedobacter spp.ATCC31962のコドン利用に関して最適化した。続いて、製造業者のプロトコールに従って、これらのプライマー、標準反応条件およびExpand High−Fidelity PCR system(Roche)を使用して、PCR増幅を行った。この反応から806bpDNA断片を得、これをクローン化して、配列分析に供した。これによって、この断片はNRPSアデニル化ドメインの一部をコードすることが判明した。増幅された断片は、最も高いアミノ酸配列相同性(55%同一性、66%類似性)を、Pseudomonas syringae pv.syringae由来のシリンゴペプチンシンセターゼにおけるモジュール2の、プロリンを活性化するアデニル化ドメインと共有する。断片配列における、推定される基質結合性成分の決定および分析によって、Empedobacter spp.から増幅されたアデニル化ドメインは、おそらくプロリンを認識し活性化することが判明した。全体として、これらの観察結果は、クローン化PCR断片が、エンペドペプチンシンセターゼNRPS遺伝子の断片を表すことを示唆している。
【0096】
推定上のエンペドペプチンシンセターゼ断片の配列は、下記掲載の配列に提供されている。
【0097】
相当するタンパク質配列は、配列番号2であり、下記掲載の配列にも提供されている。
【0098】
エンペドペプチンシンセターゼNRPS遺伝子(epp)クラスターの残りの部分(1つまたは複数)のクローン化における第1段階には、Empedobacter haloabiumフォスミドライブラリーの構築が必要であった。これは、CopyControl Cloning System(Epicentre)を使用して行った。このシステムは、シングルコピークローン化によって与えられるクローンの安定性と、クローンを高コピー数(通例は、10〜200コピー/細胞)にオンデマンド式に誘導することによって得られるDNAの収率が高いという利点とを兼ね備えている。最初に、標準的な手法を使用して、高分子量のE.haloabiumのゲノムDNA(80kb超)を調製した。次いで、ゲノムDNAを約40kbの断片に剪断し、続いてこれらを末端修復し、平滑で5’−リン酸化された適切な末端を生成した。次いで、末端修復DNAを、フィールドインバージョンゲル電気泳動(FIGE)を使用して、低融点アガロースゲル上でサイズ分画した。適切なサイズ(約40kb)のDNA断片を切り出し、ゲルから抽出し、続いてCopyControl pCC1FOSクローニングベクター中にライゲーションした。ライゲーションしたDNAをラムダファージ粒子中にパッケージングした後、パッケージング反応混合物を、Escherichia coli EPI300−T1のトランスフェクションに使用し、ライブラリーのタイターを決定した。タイターを決定した後すぐに、ライブラリーをプレーティングし、スクリーニングした。
【0099】
フォスミドライブラリーのプレーティングから得られた個々のクローンを、NRPS遺伝子断片を増幅するためにデザインされたプライマーを使用して、PCRによってスクリーニングした。このプライマーは、E.haloabiumのゲノムDNA(上記を参照)から前もって増幅されたものである。E.haloabiumは、Flavobacteriaceaeのファミリー(例えば、Flavobacterium johnsoniae、Flavobacterium pschrophilumおよびFlavobacterium sp.MED217)に属し、約4.4Mbの平均的なゲノムサイズを有する。それ故に、(推定上の)エンペドペプチン生合成遺伝子クラスター(予測サイズ:約30kb)の(完全な)配列情報を含んだ少なくとも1つのクローンを見つける確率が99%であることを保証するために、約500クローンをスクリーニングした。
【0100】
12枚の48−ウェル−マイクロタイタープレートの調製は、クロラムフェニコール12.5μg/mlが補充されたLuria−Broth(LB)培地0.8mlを加え、各ウェル中の培地に、プレーティングしたフォスミドライブラリー(上記を参照)からの単一クローンを接種することによって行った。30℃/250rpmで一晩インキュベートした後、各培養物20μlを、以下に概説されるコピー数増幅手法のための接種材料として使用した。培養物の残りにグリセロール0.4mlを補充し、マスタープレートとして−80℃で保管した。コピー数増幅用に誘導したアリコートは、PCR分析およびフィンガープリンティングに必要な(高)収率のフォスミドDNAを生成した。新たな48−ウェル−マイクロタイタープレートの調製は、クロラムフェニコール12.5μg/mlおよびアラビノース0.1%が補充されたLB培地0.8mlを加え、各ウェル中の培地に、先に調製しておいた前培養物20μlを接種することによって行った。培養物を30℃/250rpmで一晩インキュベートした。フォスミドクローンのスクリーニングに関わる時間および努力を削減するために、個々の培養物の小アリコートを合わせて(各24クローンの)確定したプールにし、各プールに存在する(フォスミド)DNAを、標準的な手法を使用して単離した。プールされたフォスミドDNAを、PCR増幅における鋳型とし、縮重プライマーPCR(上記を参照)によって前もって単離されたNRPS遺伝子断片を増幅するためにデザインされたプライマーとともに使用した。ゲノムE.haloabiumDNAおよび/または前もってクローン化された推定上のエンペドペプチンNRPS遺伝子断片を、これらの実験用の陽性対照として使用した。続いて、(初回のPCRにおいて)期待したサイズのアンプリコンを産生したクローンプール中の、個々のクローン由来のフォスミドDNAを調製し、同じ方法で個々に分析した。この2回目のPCRは、2つの個々のフォスミドクローン(1つまたは複数)を同定し、配列決定時には、これらの両方に、(推定上の)エンペドペプチン生合成遺伝子クラスターの完全なNRPS部分を含むことが見出された。
【0101】
E.haloabiumゲノムDNAから調製された2つのフォスミドクローンにおいて、同定された遺伝子クラスター配列の説明図を、図1として提供する。推定上の「装飾酵素」をコードする配列の位置も、図1に示されている。
【0102】
図1において、以下の略語が用いられている。すなわち、A、アデニル化ドメイン;T、チオール化ドメイン;C、縮合ドメイン;Ox、モノオキシゲナーゼドメイン;およびTe、チオエステラーゼドメインである。
【0103】
エンペドペプチン生合成遺伝子クラスターを含む3つのNRPS遺伝子の、単離されたヌクレオチドおよびタンパク質の配列も、以下の通り提供される。
【0104】
配列番号3:eppAのヌクレオチド配列
配列番号4:eppAのタンパク質配列
配列番号5:eppBのヌクレオチド配列
配列番号6:eppBのタンパク質配列
配列番号5:eppCのヌクレオチド配列
配列番号6:eppCのタンパク質配列 。
【0105】
2つのクローンから得られた配列を整理した後、公表されているNRPS遺伝子クラスターとの比較分析を行い、推定されている(推定上の)エンペドペプチン生合成NRPS複合体のモジュールおよびドメイン構成ならびに任意の関連遺伝子配列を決定した。関連配列は、ペプチド中のプロリンおよびアスパラギン酸残基のヒドロキシル化などの「目的に合うような」反応に、またはペプチドの発現または輸送の調節に関係している酵素をコードすることが可能であった。
【0106】
同定された遺伝子の観察されたモジュールおよびドメイン構成を、図1に説明する。
【0107】
図1に説明されているように、エンペドペプチン生合成遺伝子クラスターのNRPS部分は、約31kbの領域に広がっており、3つのNRPS遺伝子であるeppA、eppBおよびeppCからなる。最初の2つのNRPS遺伝子であるeppAおよびeppBは、ホモセリン−O−スクシニル−トランスフェラーゼ様酵素(eppT)および推定上のZn依存性ヒドロラーゼ(eppH)のオープンリーディングフレームを含む、約2.4kbのインサートによって分離されている。
【0108】
また、図2に説明されているように、Epp生合成複合体は、8つのモジュールからなり、このうちのeppA、eppBおよびeppCは、それぞれ3つ、4つおよび1つ(のモジュール)をコードする。Epp生合成鋳型の特徴を挙げると、(i)Epp生合成鋳型は、伸長モジュール(C−A−PCP)よりもむしろ開始モジュール(ドメイン構成:A−PCP)で始まり;(ii)モジュール5のコード領域には、約1kbのインサート(縦棒が付いた区間として示されている)が含まれており、これが、相当するCおよびAドメインのコード領域を分離している。1kbのインサート部分は、完全に独自のNRPS触媒ドメインをコードする。それは、公的に利用可能なデータベース中に同定可能な相同物を有さない;(iii)EppCは、単一の(終結)モジュール(モジュール8)をコードする。その上、モジュール8におけるアデニル化(A)ドメインのコード領域は、モノオキシゲナーゼドメインをコードする約1.2kbのインサートによって(コアモチーフA8とA9との間で)分裂されている。
【0109】
図2において、以下のキーが用いられている。すなわち、
白色=アデニル化(A)ドメイン;
斜棒=チオール化(T)ドメイン(ペプチジル−担体タンパク質ドメインとも称される);
灰色=縮合(C)ドメイン;
縦棒=未知機能のドメイン;
横棒=モノオキシゲナーゼ(Ox)ドメイン;および
点=チオエステラーゼ(Te)ドメイン
である。
【0110】
VI.製剤、投与および用途
A.薬学的に許容できる組成物
本発明は、本発明の化合物の薬学的に許容できるプロドラッグを、その範囲内に含む。「薬学的に許容できるプロドラッグ」とは、レシピエントへの投与時に、本発明の化合物またはその活性な代謝物質または残留物を(直接的または間接的に)提供することができる、本発明の化合物の、任意の、薬学的に許容できる塩、エステル、エステルの塩または他の誘導体を意味する。好ましいプロドラッグは、かかる化合物が哺乳動物に投与される場合に、本発明の化合物のバイオアベイラビリティーを向上させるもの、または親種と比較して親化合物の生物学的コンパートメントへの送達を高めるものである。
【0111】
「薬学的に許容できる担体、補助剤または媒体」という用語は、それとともに調剤されているエンペドペプチンの薬理活性を損なわない、非毒性の担体、補助剤または媒体を指す。本発明の組成物中に使用されうる薬学的に許容できる担体、補助剤または媒体には、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質、例えばヒト血清アルブミンなど、緩衝物質、例えばリン酸塩など、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、植物性飽和脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩または電解質、例えば硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩など、コロイド状シリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロースベースの物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン−ポリオキシプロピレン−ブロックポリマー、ポリエチレングリコールおよび羊毛脂が含まれるが、これらに限定されない。
【0112】
本発明の化合物の薬学的に許容できる塩には、薬学的に許容できる無機および有機の酸および塩基から誘導されたものが含まれる。適した酸性塩の例には、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、樟脳酸塩、カンファースルホン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルコヘプタン酸塩、グリセロリン酸塩、グリコール酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、サリチル酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トシル酸塩およびウンデカン酸塩が含まれる。他の酸、例えばシュウ酸などは、それ自体薬学的に許容できないが、本発明の化合物およびそれらの薬学的に許容できる酸付加塩を得る際に、中間体として有用な塩の調製に用いることができる。
【0113】
適切な塩基から誘導された塩には、アルカリ金属(例えば、ナトリウムおよびカリウム)、アルカリ土類金属(例えば、マグネシウム)、アンモニウム塩およびN(C1−4アルキル)塩が含まれる。本発明はまた、本明細書に開示されている化合物の、任意の塩基性窒素含有基の四級化を想定している。水溶性もしくは油溶性または分散可能な生成物は、かかる四級化によって得ることができる。
【0114】
本発明の組成物は、経口で、非経口で、吸入スプレーによって、局所に、直腸に、経鼻で、頬側に、経膣で、または埋め込まれたレザバーを介して投与されうる。本明細書において使用される「非経口」という用語は、皮下、静脈内、筋肉内、関節内、滑液包内、胸骨内、クモ膜下腔内、肝臓内、病巣内および頭蓋内への注射または注入技術を含む。好ましくは、組成物は、経口で、腹膜内にまたは静脈内に投与される。本発明の組成物の無菌注射用剤形は、水性または油性の懸濁液であってよい。これらの懸濁液は、当技術分野において知られている技術に従って、適した分散剤または湿潤剤および懸濁化剤を使用して調剤することができる。無菌注射用製剤は、非経口で許容できる非毒性の希釈剤または溶媒中の、無菌注射用の溶液または懸濁液、例えば1,3−ブタンジオール中の溶液としてであってもよい。許容できる媒体および溶媒の中で使用可能なものは、水、リンガー溶液および等張食塩液である。加えて、無菌不揮発性油は、溶媒または懸濁媒質として従来通り用いられる。
【0115】
この目的のために、合成のモノ−またはジ−グリセリドを含む、任意の無刺激性の不揮発性油が用いられうる。オレイン酸などの脂肪酸およびそのグリセリド誘導体は、オリーブ油またはヒマシ油などの薬学的に許容できる天然油と同様に、注射可能物の調製に有用であり、特にそれらのポリオキシエチル化型の状態で有用である。これらの油液剤または懸濁液は、カルボキシメチルセルロースなどの長鎖アルコールの希釈剤もしくは分散剤、または薬学的に許容できる乳剤および懸濁液などの剤形の製剤に一般に使用されている類似の分散剤を含むこともできる。一般に使用されている他の界面活性剤、例えばTweens、Spansなど、および薬学的に許容できる固体、液体または他の剤形の製造に一般に使用されている、他の乳化剤またはバイオアベイラビリティー促進剤も、製剤を目的として使用することができる。
【0116】
本発明の薬学的に許容できる組成物は、経口的に許容できる任意の剤形で経口投与することができ、かかる剤形には、カプセル剤、錠剤、水性の懸濁液または溶液剤が含まれるが、これらに限定されない。経口用の錠剤の場合、一般に使用されている担体には、乳糖およびコーンスターチが含まれる。ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤も、通常加えられる。カプセル剤の形態での経口投与については、有用な希釈剤には乳糖および乾燥コーンスターチが含まれる。水性懸濁液が経口用に必要な場合には、活性成分は乳化剤および懸濁化剤と組み合わされる。必要に応じて、ある特定の甘味剤、着香剤または着色剤も加えることができる。
【0117】
あるいは、本発明の薬学的に許容できる組成物は、直腸投与用の坐剤形態で投与されうる。これらは、薬剤と適した非刺激性賦形剤とを混合することによって調製することができ、かかる賦形剤は、室温で固体であるが直腸温で液体であるため、直腸で融解して薬物を放出する。かかる材料には、カカオバター、蜜ろうおよびポリエチレングリコールが含まれる。
【0118】
本発明の薬学的に許容できる組成物はまた、特に、治療の標的が、局所適用によって容易に許容できる領域または器官を含む場合、例えば眼、皮膚または下部腸管の疾患などの場合には、局所投与してもよい。適した局所製剤は、これらの各領域または器官用に容易に調製される。
【0119】
下部腸管に対する局所適用は、直腸用坐剤製剤(上記を参照)または適した浣腸製剤でなされうる。局所経皮貼付剤を使用してもよい。
【0120】
局所適用については、薬学的に許容できる組成物は、1種または複数種の担体中に懸濁または溶解された活性成分を含む、適した軟膏に調剤されてよい。本発明の化合物の局所投与用の担体には、鉱油、流動パラフィン、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン化合物、乳化ろうおよび水が含まれるが、これらに限定されない。あるいは、薬学的に許容できる組成物は、1種または複数種の薬学的に許容できる担体中に懸濁または溶解された活性成分を含む、適したローションまたはクリームに調剤することができる。適した担体には、鉱油、モノステアリン酸ソルビタン、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリルアルコール、2−オクチルドデカノール、ベンジルアルコールおよび水が含まれるが、これらに限定されない。
【0121】
眼科用については、薬学的に許容できる組成物は、塩化ベンジルアルコニウムなどの保存剤を用いるかまたは用いることなく、等張性のpH調整された無菌食塩水中の微粒懸濁液として、または好ましくは等張性のpH調整された無菌食塩水中の溶液として調剤することができる。あるいは、眼科用については、薬学的に許容できる組成物は、ワセリンなどの軟膏に調剤されてよい。
【0122】
本発明の薬学的に許容できる組成物はまた、鼻エアロゾルまたは鼻吸入によって投与することができる。かかる組成物は、医薬製剤の技術分野においてよく知られている技術に従って調製され、ベンジルアルコールまたは他の適した保存剤、バイオアベイラビリティーを高めるための吸収促進剤、フルオロカーボンおよび/または他の従来の可溶化剤または分散剤を用いて、生理食塩水中の溶液として調製されうる。
【0123】
最も好ましくは、本発明の薬学的に許容できる組成物は、非経口投与用にまたは具体的には筋肉内注射用に調剤される。
【0124】
組成物を単回剤形で製造するために担体材料と組み合わせうる本発明の組成物の量は、治療される宿主、特定の投与形態に応じて変化する。好ましくは、組成物は、これらの組成物の投与を受けている患者に、0.01〜100mg/kg体重/日の投与量のモジュレータを投与することができるように調剤されるべきである。
【0125】
任意の特定の患者のための、具体的な投与量および治療計画は、用いられる具体的な化合物の活性、年齢、体重、全身の健康状態、性別、食事、投与時間、排泄率、薬物の組合せならびに治療を行う主治医の判断および治療される特定疾患の重症度を含む種々の因子によって決まることも理解されるべきである。組成物中の本発明の化合物の量はまた、組成物中の特定の化合物によって決まる。
【0126】
治療または予防される特定の状態または疾患によっては、その状態を治療または予防するために普通に投与されている追加の治療薬も、本発明の組成物中に存在することができる。本明細書において使用される場合、特定の疾患または状態を治療または予防するために普通に投与されている追加の治療薬は、「治療される疾患または状態に適切である」として知られている。
【0127】
エンペドペプチンを含むいくつかの医薬組成物において、担体は水または生理食塩水である。
【0128】
VII.生物活性
材料および方法
化合物:
研究中の薬剤であるエンペドペプチンを、Konishi, M.、Sugawara, K.、Hanada, M.、Tomita, K.、Tomatsu, K.、Miyaki, T.およびKawaguchi, H.(1984年)Empedopeptin (BMY−28117), a new depsipeptideantibiotic、1. Production, isolation and properties. J. Antibiot.、37巻:949〜957頁に提供されているように、Empedobacter haloabium菌株No.G393−B445(ATCC31962)の培養ブロスから精製した。エンペドペプチンを、MIC検定の日まで、−20℃で保管した。ダプトマイシン(Lot#CDCX01)をCubistから、リネゾリド(Lot#LZD05003)をPfizerから、バンコマイシン(Lot#016K1102)をSigma−Aldrichから、オキサシリン(Lot#1101952)をBioChemikaから入手した。
【0129】
すべての化合物用の溶媒は、脱イオン水(DIW)であり、すべての化合物は溶媒に溶解した。自己殺菌現象用の時間を与えるために、試験前に、ストック溶液をDIW中、室温で1時間静置させた。試験化合物のストック濃度は5120μg/mLであり、結果的に最終試験濃度は128〜0.12μg/mLの範囲であった。
【0130】
試験生物は本来、臨床源からまたはAmerican Type Culture Collectionから入手した。入手時、生物は、適切な寒天培地上に継代培養されていた。インキュベーション後、コロニーをこれらのプレートから集菌し、細胞懸濁液を調製し、−80℃で凍結させた。検定前日に、各培養物の凍結バイアルを解凍し、その内容物を、streptococci用に5%ヒツジ血液が補充されたTryptic Soy Agar(Becton Dickinson、Sparks、MD)またはTryptic Soy Agar(Enhanced Hemolysis;Becton Dickinson)上に、単離用に画線した。寒天プレートを35℃で一晩インキュベートした。Staphylococcus aureus ATCC29213およびEnterococcus faecalis ATCC29212を、検定における精度管理分離株として含めた。
【0131】
試験培地:
微量液体希釈試験のための試験培地は、Mueller Hinton IIブロス(MHB II;BBL#212322、Lot#6024003、Becton Dickinson)であった。最終試験プレート中の薬物溶液の体積5%分を補うために、ブロスは1.05×標準重量/体積に調製した。
【0132】
streptococciについては、ウマ溶血液(Lot#H88621;Cleveland Scientific、Bath、OH)をMHB IIに加え、2%の最終濃度にした。
【0133】
CLSIガイドラインは、Mueller−Hinton IIブロスが、ダプトマイシンの正確なMIC結果に合わせて、50mg/LのCa++イオンを含むように調節されることを勧告している。Mueller−Hinton IIブロスは、製造業者によって、約25mg/LのCa++イオンを含むように既に調節されているため、追加の25mg/LのCa++イオンは、10mg/mLのCaCl・2HO(Lot#084K0215;Sigma−Aldrich)を用い、それぞれ所望される1mg/Lの増分を得るために、ブロス1L当たり0.1mLの割合で加えて調節した。この補充されたMueller−Hinton IIブロスは、ダプトマイシンを含むウェル中にのみ使用された。
【0134】
MIC方法論:
MIC値は、Clinical and Laboratory Standards Institute(Clinical and Laboratory Standards Institute、Methods for Dilution Antimicrobial Susceptibility Tests for Bacteria That Grow Aerobically; Approved Standard−Seventh Edition、Clinical and Laboratory Standards Institute document M7−A7 [ISBN 1−56238−587−9]、Clinical and Laboratory Standards Institute, 940 West Valley Road, Suite 1400, Wayne, Pennsylvania 19087−1898 USA、2006年)によって勧告されているような微量液体希釈法を使用して決定した。自動リキッドハンドラー(Multidrop384、Labsystems、Helsinki、Finland;Biomek2000およびMultimek96、Beckman Coulter、Fullerton CA)を使用して、連続希釈を行い、液体の移動を行った。
【0135】
2枚の標準的な96−ウェル微量希釈プレート(Falcon3918;Becton Dickinson)のウェルを、Multidrop384を使用してDMSO150μLで満たした。これらのプレートを使用して、複製「ドータープレート」用に薬物連続希釈を行う薬物「マザープレート」を調製した。Biomek2000を使用して、各ストック溶液150μlを、ディープウェルプレートの1列目のウェルから、マザープレートの1列目の相当するウェルへ移動させ、マザープレート中に11種類の2倍連続希釈液を作製した。12列目のウェルは、薬物を含まず、生物成長対照ウェルであった。各マザープレートは、合計12枚のドータープレートを作り出す容量を有する。
【0136】
ドータープレートに、Multidrop384を使用して、上記培地の1種を180μL入れた。ドータープレートのウェルには、最終的に、180μLのMHB II、10μLの薬物溶液および試験生物に適切なブロス中に調製された10μLの細菌接種材料(1.05倍)が含まれた。ドータープレートをMultimek96機器上に準備し、10μLの薬物溶液を、マザープレートの各ウェルから各ドータープレートの相当する各ウェルに、単一段階で移動した。
【0137】
各生物の標準化接種材料を、Clinical and Laboratory Standards Institute(Clinical and Laboratory Standards Institute、Performance Standards for Antimicrobial Susceptibility Testing; Sixteenth Informational Supplement、CLSI document M100−S16 [ISBN 1−56238−588−7]、Clinical and Laboratory Standards Institute, 940 West Valley Road, Suite 1400, Wayne, Pennsylvania 19087−1898 USA、2006年)法に従って調製した。各生物用の接種材料を、長さによって分けられた無菌貯蔵器(Beckman Coulter)に分注し、Biomek2000を使用してプレートに接種した。ドータープレートを、Biomek2000の作業面上に、接種が低薬物濃度から高薬物濃度へ起こるように逆の位置に置いた。Biomek2000は、各ウェル中に10μLの標準化接種材料を供給した。これにより、ドータープレートにおいて、約5×105コロニー形成単位/mLの最終細胞濃度を得た。
【0138】
プレートを3つ積み重ね、最上段のプレート上を蓋で覆い、ビニール袋の中に収納し、35℃で約20時間インキュベートした。インキュベーション後、マイクロプレートをインキュベーターから取り出し、プレートビュアーを使用して底から観察した。未接種の溶解性対照プレートを、薬物の沈殿の徴候について観察した。MICを読み取り、生物の可視成長を阻止する薬物の最低濃度として記録した。
【0139】
結果:
化合物はすべて、ストック溶液および微生物学的試験培地に可溶性であった(データ非表示)。表1は、試験生物および表現型ならびに試験薬剤についてのMICデータを詳述している。
【0140】
表1:エンペドペプチン、ダプトマイシン、リネゾリド、オキサシリンおよびバンコマイシンの最小発育阻止濃度(MIC)値
【0141】
【表1】

VSE−バンコマイシン感受性Enterococcus
CLSI−Clinical Laboratory Standards Institute
QC−精度管理
LZD−リネゾリド
Van−バンコマイシン
DAP−ダプトマイシン
MSSA−メシチリン感受性Staphylococcus aureus
MRSA−メシチリン耐性Staphylococcus aureus
FA−フシジン酸
10VISA−バンコマイシン中等度耐性Staphylococcus aureus
11GM−ゲンタマイシン
12CHL−クロラムフェニコール
13RA−リファンピン
14MSSE−メシチリン感受性Staphylococcus epidermidis
15MRSE−メシチリン耐性Staphylococcus epidermidis
16mefA−流出物を介したマクロライド耐性
17ermB−リボソームエリスロマイシン耐性 。
【0142】
精度管理菌株のMICデータ(表2)は、ダプトマイシン、オキサシリンおよびバンコマイシンが、それぞれについて、CLSI精度管理範囲内のMIC結果を有することを証明しており、これによって、これらの薬剤に対する検定結果の妥当性を確認した。しかし、リネゾリドは、MIC値が、両方の精度管理生物について指定されたCLSI範囲よりも1希釈高い値であることを証明したため、リネゾリドのデータは容認できない。全体的に見て、リネゾリドは、これらの生物に対して通常見られるよりも高いMIC値を生じ、精度管理値の範囲外に一致した。リネゾリドのデータは表1に含まれている。しかし、その値は慎重に考察すべきである。
【0143】
表2:CLSI精度管理菌株についての最小発育阻止濃度(MIC)値
【0144】
【表2】

表現型の特性は、対象薬物が検定に含まれているすべての菌株について確認された(例えば、VREに対して明白なバンコマイシン耐性など)。エンペドペプチンは、他の抗菌剤に耐性がある菌株を含むグラム陽性細菌に対して、幅広い活性を示すことを証明した。Enterococciに対して、MIC値の範囲は4〜32μg/mLであり、ほとんどの菌株が8〜16μg/mLで阻止された。最も感受性の高いEnterococcal菌株は、E.faecalis101(MICは4μg/mLまで)であり、最も感受性の低いものは、ダプトマイシン耐性菌株E.faecium1721であった。エンペドペプチンは、VanAおよびVanBのEnterococciならびにリネゾリド耐性菌株に対して活性を示すことを証明した。
【0145】
staphylococciに対して、エンペドペプチンは、0.5〜8μg/mLの範囲のMIC値を証明し、大多数の菌株が4〜8μg/mLの範囲で阻止された。これには、バンコマイシンに中等度耐性がある分離株のみならず、オキサシリン、リネゾリド、フシジン酸、ゲンタマイシン、クロラムフェニコールおよびリファンピンに耐性がある分離株が含まれた。
【0146】
エンペドペプチンは、EnterococciまたはStaphylococciよりも、Streptococciに対して大きな効力を有することを証明し、S.pneumoniaeのすべての菌株を≦0.12〜2μg/mLの範囲で阻止した。これには、一般的なキノロン耐性の突然変異を有する菌株、ermB(リボソームエリスロマイシン耐性)およびmefA(流出物を介したマクロライド耐性)が含まれた。興味深いことに、mefA菌株は、エンペドペプチンに高感受性であった。エンペドペプチンはまた、S.pyogenesに対して高活性であり、両方の試験菌株(マクロライド耐性菌株を含む)を≦0.12μg/mLで阻止した。
【0147】
これらの結果から、エンペドペプチンは、いくつかのグラム陽性細菌に対する活性を証明し、より重要なことには、エンペドペプチンはまた、いくつかの異なる抗生物質耐性細菌株に対する幅広い活性を証明した。
【0148】
他の実施形態
本発明は、その詳細な説明と併せて記載されているが、上述の説明は、例証するためのものであり、添付の特許請求の範囲によって定義されている本発明の範囲を限定するものではないことが理解されるべきである。他の態様、利点および改変は、以下の特許請求の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌の増殖を抑制する方法であって、
エンペドペプチンまたはその薬学的に許容できる塩を含む医薬組成物を提供することを含み、
該細菌は少なくとも1種のグラム陽性菌株を含み、該グラム陽性菌株は、グリコペプチド類、アミノグリコシド類、オキサゾリジノン類、ペニシリン類、マクロライド類、リファマイシン類、ポリペプチド類、リポペプチド類、クロラムフェニコールまたはそれらの任意の組合せに耐性がある、方法。
【請求項2】
前記グラム陽性菌株が、Enterococcus faecalis、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Streptococcus pneumoniae、Streptococcus pyogenesまたはそれらの任意の組合せをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記グラム陽性菌株が、リネゾリド、オキサシリン、バンコマイシン、ダプトマイシン、エリスロマイシン、メチシリン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール、フシジン酸、リファンピンのうちの少なくとも1つまたはそれらの組合せにさらに耐性がある、請求項1または2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記グラム陽性菌株が、メチシリンに耐性がある、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記グラム陽性菌株が、本質的にEnterococcus faecalisからなる、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記グラム陽性菌株が、本質的にStaphylococcus aureusからなる、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記グラム陽性菌株が、本質的にStaphylococcus epidermidisからなる、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記グラム陽性菌株が、本質的にStreptococcus pneumoniaeからなる、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記グラム陽性菌株が、本質的にStreptococcus pyogenesからなる、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
第2の医薬組成物を提供することをさらに含み、該第2の医薬組成物は、第2の抗生剤を含む、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
細菌に感染している患者を治療する方法であって、
エンペドペプチンまたはその薬学的に許容できる塩を含む医薬組成物を提供することを含み、
該細菌は少なくとも1種のグラム陽性菌株を含み、該グラム陽性菌株は、グリコペプチド類、オキサゾリジノン類、ペニシリン類、マクロライド類、リファマイシン類、ポリペプチド類、リポペプチド類、クロラムフェニコールのうちの1つもしくは複数またはそれらの組合せに耐性がある方法。
【請求項12】
前記グラム陽性菌株が、Enterococcus faecalis、Staphylococcus aureus、Staphylococcus epidermidis、Streptococcus pneumoniae、Streptococcus pyogenesまたはそれらの任意の組合せをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記グラム陽性菌株が、リネゾリド、オキサシリン、バンコマイシン、ダプトマイシン、メチシリン、ゲンタマイシン、エリスロマイシン、クロラムフェニコール、フシジン酸、リファンピンまたはそれらの任意の組合せに耐性がある、請求項11または12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記グラム陽性菌株が、メチシリンに耐性がある、請求項11から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記グラム陽性菌株が、本質的にEnterococcus faecalisからなる、請求項11から14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記グラム陽性菌株が、本質的にStaphylococcus aureusからなる、請求項11から14のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記グラム陽性菌株が、本質的にStaphylococcus epidermidisからなる、請求項11から14のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記グラム陽性菌株が、本質的にStreptococcus pneumoniaeからなる、請求項11から14のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記グラム陽性菌株が、本質的にStreptococcus pyogenesからなる、請求項11から14のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記医薬組成物が、第2の抗生剤をさらに含む、請求項11から14のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
どちらかがグリコペプチド類、オキサゾリジノン類、ペニシリン類、マクロライド類、リファマイシン類、ポリペプチド類、リポペプチド類、クロラムフェニコールまたはそれらの任意の組合せに耐性があるStaphylococcus aureusまたはStaphylococcus epidermidisに感染している患者を治療する方法であって、
エンペドペプチンまたはその薬学的に許容できる塩を含む医薬組成物の有効量を、該患者に投与することを含む、方法。
【請求項22】
前記医薬組成物を前記患者に非経口または静脈内投与する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記医薬組成物を前記患者に静脈内投与する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記医薬組成物を前記患者に局所投与する、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
表面または物体を衛生化する方法であって、
該表面または物体を、エンペドペプチンおよび担体を含む清浄組成物と接触させることを含む方法。
【請求項26】
前記担体が、水またはアルコールを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記表面が皮膚である、請求項25または26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
前記物体が、農産物、医療器具、台所用品または衣料品である、請求項25から27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
前記清浄組成物が、第2の抗生剤をさらに含む、請求項25から28のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
エンペドペプチン耐性について細菌を検定する方法であって、
培地中で細菌のコロニーを形成させることと、
該培地をインキュベートすることと
を含み、該培地がエンペドペプチンを含む、方法。
【請求項31】
配列番号1を含む、単離されたヌクレオチド配列。
【請求項32】
配列番号2を含む、単離されたタンパク質配列。
【請求項33】
配列番号3を含む、単離されたヌクレオチド配列。
【請求項34】
配列番号4を含む、単離されたタンパク質配列。
【請求項35】
配列番号5を含む、単離されたヌクレオチド配列。
【請求項36】
配列番号6を含む、単離されたタンパク質配列。
【請求項37】
配列番号7を含む、単離されたヌクレオチド配列。
【請求項38】
配列番号8を含む、単離されたタンパク質配列。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−519301(P2010−519301A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−550938(P2009−550938)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【国際出願番号】PCT/US2008/002435
【国際公開番号】WO2008/106074
【国際公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(509239819)
【Fターム(参考)】