説明

慢性閉塞性肺疾患及び喘息を治療するための組成物及び方法

本発明は、COPD及び喘息を含む肺疾患を治療又は予防するための化合物及び方法を提供する。特に、本発明は、タイプVコラーゲン又はその免疫寛容誘導性フラグメントを含む、COPD及び喘息を治療するための化合物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、合衆国法典第35巻米国特許法第119条(e)に基づく米国仮特許出願第61/171,705号(出願日:2009年4月22日)及び米国仮特許出願第61/266,048号(出願日:2009年12月2日)の利益を主張するものであり、参照によってその全体を本出願に援用する。
【0002】
[配列表に関する記載]
本出願に係る配列表はハードコピーに代えてテキストフォーマットで提供され、参照により本明細書に援用する。本配列表を含むテキストファイルの名称は「480266_404PC_SEQUENCE_LISTING.txt.」である。テキストファイルのサイズは67KBであって、2010年4月22日に作成され、本出願と同時にEFS−Webにより電子的に提出される。
【0003】
本発明は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)及び喘息の治療方法に関し、特に、タイプVコラーゲン(colV)又はその免疫寛容誘導性(tolerogenic)フラグメントを投与することによるCOPDの治療に関する。
【背景技術】
【0004】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は気道狭窄が起こる一群の肺疾患である。肺への空気の流入及び肺からの空気の流出が制限されるため、呼吸が短くなる。喘息とは対照的に、気流制限は難可逆性であり、通常は経時で悪化する。COPDは、COLD(chronic obstructive lung disease)、慢性閉塞性気道疾患(COAD)、慢性気流制限(CAL)、及び、慢性閉塞性呼吸系疾患としても知られている。用語「COPD」は、二つの主要な症状である気腫及び慢性閉塞性気管支炎を包含する。
【0005】
気腫では、多くの肺胞間の壁が損傷され、形が崩れてしなやかになる。さらに、肺胞壁が破壊され、微細な肺胞の代わりに少数の大型の肺胞が形成されうる。
【0006】
慢性閉塞性気管支炎では、気道内膜が絶え間なく刺激され炎症を起こしている。これにより気道内壁が厚くなり、気道内に多量の粘液が発生するため、呼吸が難しくなる。
【0007】
COPD患者の多くは気腫及び慢性閉塞性気管支炎の両方に罹っているため、包括的な用語である「COPD」がより正確である。
【0008】
慢性気管支炎及び気腫は、多くの場合、喫煙が原因であり、COPD患者の約90%が喫煙者又は喫煙経験者である。喫煙者の約50%が慢性気管支炎を発症するが、重症気流閉塞を発症する喫煙者は15%だけである。ある種の他の哺乳類、特にウマも、COPDに罹る。
【0009】
COPDに付随する気道閉塞は進行性であって、気道過敏性を伴いうり、また、部分的に可逆性でありうる。また、非特異的気道過敏性はCOPD発症の一因となりうり、また、喫煙者における急速な肺機能低下の前兆でありうる。
【0010】
COPDは死亡及び身体障害の重要な原因であり、欧米では死亡原因の第4位である。治療ガイドラインでは早期発見及び禁煙プログラムによる罹患率・死亡率の低減が提唱されているものの、多くの理由により早期発見・診断は困難であった。
【0011】
COPDは発症までに何年も掛かり、また、喫煙者は喫煙による悪影響を否定することが多く、息切れの増加の危険な初期兆候を老化の兆候と考える。同様に、気管支炎の急性発作は、一般医によってCOPDの初期兆候であると認識されないことが多い。患者の多くは2以上の症状(慢性気管支炎、喘息性気管支炎など)を示すため、特に早期診断では診断が困難となる。さらに、患者の多くは、肺機能の低下に伴う呼吸困難、持続性の咳、痰などのより深刻な症状がでるまで医師の診察を受けない。そのため、大多数の患者は病状が更に進行した段階になるまで診断・治療を受けない。
【0012】
喘息は、何百万人もの人々を苦しめているheterogeneousな気道疾患であり、気道の炎症、過敏性、閉塞により特徴付けられる。当該疾患は、多くの場合、気道平滑筋系の痙攣を引き起こし、呼吸管の上側及び下側の両方に影響を及ぼす。
【0013】
喘息は重症度に応じて数種類の態様がある。例えば、軽症喘息は、場合によって呼吸困難又は咳を伴う短い喘鳴と定義される。中等症喘息は、喘鳴及び呼吸困難と定義され、場合によっては咳及び痰を伴い、通常は日常活動及び/又は睡眠を妨げる。重症喘息は呼吸困難による行動不能により特徴付けられ、患者は通常食事や睡眠を普通に取ることができず、非常に不安であり、いつも疲れている。喘息持続状態として知られる状態は喘息の最重症例であり、通常病院での集中ケアを必要とし、命を落とす場合もある。喘息はアレルギー機序及び非アレルギー機序の両方の結果として起こりうる。
【0014】
喘息に伴う症状及び不快感を軽減するための治療法は幾つかあるものの、治癒法はない。さらに、現行の治療法は、不快感を悪化させ他の衰弱性疾患を促進する副作用を引き起こすことが多い。軽症喘息は通常、特に子供の場合、βアドレナリン作動薬及び抗ヒスタミンで治療して散発性発作を抑制又は中断させる。中等〜重症喘息は、通常、アドレナリン作動薬、気管支拡張薬の他にコルチコステロイドで治療する。抗喘息薬の普及を制限する他の作用としては、疲労、口渇、緊張が挙げられ、薬物依存や乱用が含まれることもある。喘息の発症機序及び治療についての近年の理解の進展は非特許文献1で詳しく議論されている。
【0015】
喘息は子供及び大人の両方に広範囲に蔓延しているため、副作用を起こさずに、喘息を治療可能な、又は少なくとも喘息に伴う症状を軽減することが可能な薬剤が望まれている。同様に、COPDを治療するための組成物及び方法も望まれている。本発明は、COPD及び喘息を治療するための組成物及び方法、並びに発明の詳細な説明に記載した他の利点を提供する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Am J Respir Crit Care Med. 2008 May 15;177(10):1068-73
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の一態様において、治療有効量のタイプVコラーゲン又はその免疫寛容誘導性フラグメントを慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者に投与するステップを含む、慢性閉塞性肺疾患の治療方法が提供される。本明細書に記載される当該治療方法の一実施形態において、COPD患者は気腫及び/又は慢性閉塞性気管支炎に罹患している。本発明の他の実施形態において、タイプVコラーゲン又はその免疫寛容誘導性フラグメントは経口投与され、0.1mg〜0.5mgの用量で投与されうる。更なる実施形態において、タイプVコラーゲン又はその免疫寛容誘導性フラグメントは、静脈内投与、肺内注入、吸入、又は、筋肉内投与される。所定の実施形態において、複数の経路を組み合わせて投与される。さらに他の実施形態において、本治療方法は、気管支拡張薬、コルチコステロイド、又は、他の公知のCOPD治療薬をCOPD患者に投与するステップを更に含みうる。
【0018】
本発明の他の態様において、治療有効量のタイプVコラーゲン又はその免疫寛容誘導性フラグメントを喘息患者に投与するステップを含む、喘息の治療方法が提供される。本治療方法の一実施形態において、タイプVコラーゲン又はその免疫寛容誘導性フラグメントは経口投与され、0.1mg〜0.5mgの用量で投与されうる。更なる実施形態において、タイプVコラーゲン又はその免疫寛容誘導性フラグメントは、静脈内投与、肺内注入、吸入、又は、筋肉内投与される。更なる実施形態において、本治療方法は、コルチコステロイド、気管支拡張薬、及び/又はロイコトリエン修飾薬(modifier)、又は、他の公知の喘息治療薬を喘息患者に投与するステップを更に含む。
【0019】
本発明の他の態様において、治療有効量のタイプVコラーゲン又はその免疫寛容誘導性フラグメントを、慢性閉塞性肺疾患を発症するリスクのある対象者に投与するステップを含む、慢性閉塞性肺疾患の発症予防方法が提供される。一実施形態において、タイプVコラーゲン又はその免疫寛容誘導性フラグメントは経口投与され、0.1mg〜0.5mgの用量で投与されうる。更なる実施形態において、タイプVコラーゲン又はその免疫寛容誘導性フラグメントは、静脈内投与、肺内注入、吸入、又は、筋肉内投与され、また、これらの経路を組み合わせて投与されうる。
【0020】
本発明の更なる態様において、治療有効量のタイプVコラーゲン又はその免疫寛容誘導性フラグメントを、喘息を発症するリスクのある対象者に投与するステップを含む、喘息の発症又は悪化を予防する方法が提供される。一実施形態において、タイプVコラーゲン又はその免疫寛容誘導性フラグメントは経口投与され、0.1mg〜0.5mgの用量で投与されうる。更なる実施形態において、タイプVコラーゲン又はその免疫寛容誘導性フラグメントは、静脈内投与、肺内注入、吸入、筋肉内投与、又は、一以上のこれらの経路を組み合わせて投与される。
【0021】
本発明の一態様において、タイプVコラーゲン免疫寛容療法の候補となるCOPD患者又は喘息患者を特定する方法であって、当該患者の血液サンプルの少なくとも一部にタイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントを接触させるステップと、当該タイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントに結合する抗体の量(すなわちタイプVコラーゲン特異的抗体の量)を測定するステップとを含み、タイプVコラーゲンに結合した抗体の存在がCOPD又は喘息を示す方法が提供される。その際、タイプVコラーゲン特異的抗体の量は、COPD又は喘息の診断に使用される本明細書に記載された他の臨床ファクターと組み合わせてもよい。一実施形態において、タイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントはビーズに結合されている。更なる実施形態において、前記測定ステップは、タイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントに結合する抗体を蛍光標識抗IgG抗体と接触させるステップと、フローサイトメトリーにより、タイプVコラーゲンに結合した抗体に結合した蛍光標識抗IgG抗体の量を検出するステップと、を含む。
【0022】
本発明の他の態様において、COPD又は喘息を発症するリスクのある個体を特定する方法であって、当該個体の血液サンプルの少なくとも一部をタイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントと接触させるステップと、当該タイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントに結合する抗体の量(すなわち、タイプVコラーゲン特異的抗体の量)を測定するステップとを含み、タイプVコラーゲンに結合する抗体の存在が、タイプVコラーゲンに結合する抗体を有さない個体よりも発症リスクが高いと予想する方法が提供される。一実施形態において、タイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントはビーズに結合されている。他の実施形態において、前記測定ステップは、タイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントに結合する抗体を蛍光標識抗IgG抗体と接触させるステップと、フローサイトメトリーにより、タイプVコラーゲンに結合した抗体に結合した蛍光標識抗IgG抗体の量を検出するステップと、を含む。
【0023】
COPD又は喘息を発症するリスクを診断又は測定する本方法の所定の実施形態において、本方法で使用される抗IgG抗体は全てのIgGサブタイプを検出する。更なる実施形態において、抗IgG抗体は、IgG1サブタイプ、IgG2サブタイプ、IgG3サブタイプ、又は、IgG4サブタイプを特異的に検出する。その際、罹患中に一のサブタイプから他のサブタイプへのクラススイッチが起こることがあり、これは病状の悪化を示しうる。したがって、ある一つのサブタイプの経時増加は病状の悪化を示しうる。
【0024】
本発明の更なる態様において、個体におけるCOPD又は喘息の進行をモニタリングする方法であって、当該個体の第一の血液サンプルの少なくとも一部をタイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントと接触させるステップと、第一の血液サンプル内におけるタイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントに結合する抗体の量を測定するステップと、後の時点において当該個体から採取した第二の血液サンプルの少なくとも一部にタイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントを接触させるステップと、第二の血液サンプル内におけるタイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントに結合する抗体の量を測定するステップと、第二の血液サンプル内におけるタイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントに結合する抗体の量と、第一の血液サンプル内におけるタイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントに結合する抗体の量とを比較するステップとを含み、第一の血液サンプル内のタイプVコラーゲンに結合した抗体の量と比較して第二の血液サンプル内のタイプVコラーゲンに結合した抗体の量が増加している場合、COPD又は喘息が悪化していると予想し;第一の血液サンプル内のタイプVコラーゲンに結合した抗体の量と比較して第二の血液サンプル内のタイプVコラーゲンに結合した抗体の量が減少している場合、COPD又は喘息が改善していると予想する方法が提供される。他のCOPD又は喘息の臨床指標を本明細書に記載した方法と共に使用してもよい。所定の実施形態において、特定のIgGサブタイプ(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、又は、IgG4)の抗タイプVコラーゲン抗体の増加はCOPD又は喘息の進行を示す。所定の実施形態において、タイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントはビーズに結合されている。他の実施形態において、前記測定ステップは、タイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントに結合する抗体を蛍光標識抗IgG抗体と接触させるステップと、フローサイトメトリーにより、タイプVコラーゲンに結合した抗体に結合した蛍光標識抗IgG抗体の量を検出するステップと、を含む。本進行モニタリング方法の所定の実施形態において、抗IgG抗体は全てのIgGサブタイプを検出する。他の実施形態において、抗IgG抗体は、IgG1サブタイプ、IgG2サブタイプ、IgG3サブタイプ、IgG4サブタイプを特異的に検出する。
【0025】
上記本発明の態様及び他の態様は、以下の詳細な説明及び添付図面を参照することにより明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】COPD患者における抗タイプVコラーゲン抗体の増加を示す棒グラフ
【図2】喘息患者における抗タイプVコラーゲン抗体の増加を示す棒グラフ
【図3】タイプVコラーゲンの静脈内投与によるマウスにおける卵白アルブミン誘発性気道過敏の抑制を示す図(各データポイントでn=2〜5としたタイプVコラーゲンのグループを除いた全てのグループでn=5である)
【図4A−4E】タイプVコラーゲンの静脈内投与による肺単核細胞内におけるIFN−γ転写産物の誘発を示す棒グラフ(定量PCRは図示したIL−4、IL−5、IL−13、IFN−γ、IL−10について行った。タイプVコラーゲンのみが肺単核細胞内においてIFN−γ転写産物を誘発した。データは各グループ5匹のマウスからプールした肺単核細胞のRNA量を表す)。
【発明を実施するための形態】
【0027】
タイプVコラーゲン
コラーゲンタンパク質は、ヒドロキシプロリン(Hyp)、グリシン(Gly)、及び、プロリン(Pro)から主に構成される繰り返しアミノ酸配列からなるポリペプチド鎖で構成されている。コラーゲンは人体で主も多いタンパク質の一つであり、正常(非損傷)皮膚の皮層における細胞外マトリックス(ECM)の80〜85%を構成している。
【0028】
コラーゲンは配列及び機能により数種類に分類される。タイプI、II,IIIコラーゲン分子は、多くの動物の細胞外構造の主繊維の約90%を占める。タイプ1コラーゲンは体のコラーゲンの約90%を形成しており、骨、皮膚、腱の主要素である。タイプIIコラーゲンは軟骨の主要繊維を構成する。コラーゲン繊維は骨の剛板内、腱の平行繊維束内、軟骨の緻密メッシュ構造内に存在する。タイプ1コラーゲン及び少量のタイプIIIコラーゲンが腱及び皮膚を構成する。タイプIVコラーゲン分子は、基底層内に存在する非常に微細な平滑筋繊維を構成する。タイプVコラーゲン(colV)は肺内の存在する少量コラーゲンであり(Madri and Furthmayr, Human Pathology, 11:353-366, 1980)、また、細気管支周囲の結合組織(Madri and Furthmayr, Am. J. Pathol., 94:323-332, 1979)、肺間質(Konomi et al., 1984)、毛細血管基底膜(Madri and Furthmayr、前出)に存在する。多くの他のコラーゲンタイプが知られているが、その性質はよく分かっていない。
【0029】
コラーゲンポリペプチド鎖は、グリシン−X−Yトリプレットの繰り返しからなるコアらせんドメインと、球状のN末端及びC末端ドメインとによって特徴付けられる。三本のこのような鎖が超らせん状に互いに巻き付いて、一本のロープ状のコラーゲン分子が形成される。
【0030】
従来の研究により、colVに対する自己免疫は、慢性同種移植片機能障害(閉塞性細気管支炎、閉塞性細気管支炎症候群(bronchiolitis obliterans syndrome)(BOS)を含む)、同種肺移植拒絶反応、及び、IPF発症リスクと関連していることが実証されている(例えば、米国特許第7,348,005号、及び、国際公開第2007/120947号)。さらに、colVの投与がアロ抗原及びcolVに対する免疫寛容を誘導することが示されている(例えば、国際公開第2007/120947号;図10)。しかしながら、本発明以前は、colVに対する自己免疫性との関連性は喘息及びCOPDの何れにも示されていない。実際、従前の知見により、COPD患者は、公知の肺疾患に罹患していない正常対象者と著しく異なる抗col(V)DTH反応を示さないことが示されている(国際公開第2007/120947号、実施例2、図3を参照)。よって本発明は、COPD患者では正常対照群と比較して抗col(V)DTH反応が増大していないという従来の観察結果にも係わらず、COPD患者では抗colV抗体が増大していることを示した点で驚くべきものである(実施例1、図1を参照)。
【0031】
したがって、本発明は、COPD患者及び喘息患者、又は、当該疾患を発症するリスクのある対象者におけるcolVに対する免疫寛容の誘導に関する。
【0032】
colVポリヌクレオチド配列及びcolVポリペプチド配列は当業者に知られており、公共のデータベースから入手可能である。本発明のcolVポリヌクレオチド及びcolVポリペプチドの例には、ヒトコラーゲン、タイプV、α1(COL5A1)、mRNA NCBI Reference Sequence:NM_000093.3 version GI:89276750(配列番号1);α1、タイプVコラーゲンプレプロタンパク質[ヒト]:Accession NP_000084, version GI:89276751(配列番号2);ヒトコラーゲン、タイプV、α2(COL5A2)、mRNA;accession NM_000393, version GI:89363016(配列番号3);α2、タイプVコラーゲンプレプロタンパク質[ヒト]:accession NP_000384, version GI:89363017(配列番号4);ヒトコラーゲン、タイプV、α3(COL5A3)、mRNA:accession NM_015719, NM_015719.3, GI:110735434(配列番号5);及び、コラーゲン、タイプV、α3プレプロタンパク質[ヒト]:accession NP_056534, version NP_056534.2, GI:110735435(配列番号6)が含まれるが、これらに限定されない。
【0033】
当業者に認識されるように、プレプロコラーゲンは細胞内でプロセッシングされてプロコラーゲンとなり、次いで細胞から運び出されて最終的にコラーゲン細繊維及びコラーゲン繊維とされる。したがって本発明では、特に、プロコラーゲン及び本明細書に記載のプロセッシングされた(つまり成熟した)他のコラーゲンタンパク質を意図している。これに関して、例えば、配列番号4の1〜26番のアミノ酸は、プロセッシング中に切断されるシグナルペプチドに対応し;27〜1229番のアミノ酸はコラーゲンα−2(V)鎖であり;1230〜1499番のアミノ酸はC末端プロペプチドに対応する。本明細書に記載の配列内における上記アミノ酸位置は当業者に認識されるものであり、配列のアノテーションがされた様々な公共データベースから入手可能である。なお、コラーゲンタンパク質のあるアミノ酸はプロセッシング中に修飾(プロリンがヒドロキシルプロリンとされるなど)される。本明細書では、成熟した修飾タイプVコラーゲン鎖(特にα−2鎖)を意図している。本明細書の他の箇所で述べるように、本発明で使用するタイプVコラーゲン及びそのα鎖は、種々のソースから精製しても、組み換え技術により作製してもよい。
【0034】
本明細書において、「ポリペプチド」は通常の意味として、すなわちアミノ酸配列として使用される。ポリペプチドは特定の長さに限定されず、したがって、ペプチド、オリゴペプチド、及び、タンパク質もポリペプチドの定義範囲内に属し、これら用語は特に断りのない限り本明細書内で交換可能に使用される。また、本用語は、自然発生的及び非自然発生的な、ポリペプチドの翻訳後修飾(グリコシル化、アセチル化、リン酸化など)並びに他の公知の修飾について言及しまたはこれを除外するものではない。ポリペプチドはタンパク質全体であっても、そのサブ配列であってもよい。本本発明における対象ポリペプチドは、免疫寛容誘導性フラグメントを有するアミノ酸サブ配列である。
【0035】
本発明は、他の態様において、本明細書に記載のコラーゲンポリペプチド組成物、例えば、配列番号2、4又は6に記載のコラーゲンポリペプチド組成物、又は、配列番号1、3又は5に記載のポリヌクレオチド配列によりコードされるコラーゲンポリペプチド組成物の、少なくとも約5個、約10個、約15個、約20個、約25個、約50個若しくは約100個(全ての間の長さを含む)、又はそれ以上の、連続したアミノ酸を有する、ポリペプチドフラグメントを提供する。
【0036】
他の態様において、本発明は本明細書に記載のポリペプチド組成物の改変体(variant)を提供する。本発明に通常含まれるポリペプチド改変体は、典型的には、本明細書に記載のポリペプチド配列に対して、長さ方向に沿って、少なくとも約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、又はそれ以上の同一性(下記方法により決定される)を示す。
【0037】
一実施形態において、本発明により提供されるポリペプチドフラグメント及び改変体は、本明細書に記載されるように免疫寛容誘導性である。
【0038】
本明細書において、ポリペプチドの「改変体」は、1以上のアミノ酸が置換、欠失、付加及び/又は挿入されることによって本明細書に具体的に開示されたポリペプチドと相違するポリペプチドである。このような改変体は天然のものであっても合成されたものであってもよく、例えば、1以上の上記本発明のポリペプチド配列の改変し、そして、本明細書に記載に従って及び/又は多数の周知方法のいずれかにより免疫寛容誘導活性を評価する。
【0039】
多くの場合、改変体は保存的置換を含む。「保存的置換」とは、ペプチド化学分野における当業者がポリペプチドの二次構造及び親水性/疎水性(hydropathic nature)が実質的に変化しないことを予想するように一のアミノ酸が同様の性質を有する他のアミノ酸と置換されることをいう。改変は本発明のポリヌクレオチド及びポリペプチドの構造に対して行われ、所望の特性(例えば免疫寛容誘導性)を有するポリペプチド改変体又は誘導体をコードする機能分子が得られる。ポリペプチドのアミノ酸配列を変えて、本発明のポリペプチドと等価な又は優れた免疫寛容誘導性改変体又は部分配列を創出したい場合、当業者は通常、表1に従ってコードDNA配列の1以上のコドンを変更する。
【0040】
例えば、タンパク質構造内において、あるアミノ酸は、抗体の抗原結合領域又は基質分子の結合部位などの構造に対する相互結合能を大幅に損失させずに、他のアミノ酸と置換されうる。タンパク質の生物的機能活性を決定するのは当該タンパク質の相互結合能及び性質であるため、あるアミノ酸配列の置換はタンパク質の配列に対しても、もちろん、それをコードするDNA配列に対しても行うことができ、同様の性質を有するタンパク質がそれでもなお得られる。したがって、本明細書に開示する組成のペプチド配列、又は、当該ペプチドをコードする対応DNA配列を、その免疫寛容誘導性を大幅に損失させずに様々に変化をさせうることが考えられる。
【表1】

【0041】
このような変更を行う際、アミノ酸のハイドロパシー・インデックス(hydropathic index)が考慮されうる。タンパク質に相互作用的な生物学的機能を付与する際のアミノ酸ハイドロパシー・インデックスの重要性は当該技術分野において一般的に理解されている(Kyte and Doolittle, 1982, 参照により本願に援用する)。アミノ酸の相対的ハイドロパシー特性が得られるタンパク質の二次構造決定に寄与し、この二次構造決定が他の分子、例えば、酵素、基質、受容体、DNA、抗体、抗原などに対する当該タンパク質の相互作用を決定すると考えられている。各アミノ酸はそれらの疎水性と荷電特性に基づいてハイドロパシー・インデックスが割り当てられ(Kyte and Doolittle, 1982)、それらは以下の通りである:イソロイシン(+4.5)、バリン(+4.2)、ロイシン(+3.8)、フェニルアラニン(+2.8)、システイン/シスチン(+2.5)、メチオニン(+1.9)、アラニン(+1.8)、グリシン(−0.4)、スレオニン(−0.7)、セリン(−0.8)、トリプトファン(−0.9)、チロシン(−1.3)、プロリン(−1.6)、ヒスチジン(−3.2)、グルタミン酸塩(−3.5)、グルタミン(−3.5)、アスパラギン酸塩(−3.5)、アスパラギン(−3.5)、リジン(−3.9)及び、アルギニン(−4.5)。
【0042】
あるアミノ酸が、類似のハイドロパシー・インデックスまたはスコアを有する他のアミノ酸により置換されることにより、類似の生物学的活性を有するタンパク質、つまり、生物学機能的に等価なタンパク質が得られることは当該分野において公知である。そのような変更を行う際に、ハイドロパシー・インデックスが±2以内であるアミノ酸同士の置換が好ましく、該指数が±1以内であるアミノ酸同士の置換が特に好ましく、該指数が±0.5以内であるアミノ酸同士の置換がさらに好ましい。同様なアミノ酸同士の置換が親水性に基づいて行えることも当該分野では理解されている。米国特許第4,554,101号(参照により全体を本明細書に援用する)では、隣接するアミノ酸の親水性により支配される、タンパク質の最大の局所的な平均親水性は当該タンパク質の生物学的性質と相関することが記載されている。
【0043】
米国特許第4,554,101号に詳細に記載されているように、下記の親水性値がアミノ酸残基に付与されている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アルパラギン酸塩(+3.0±1);グルタミン酸塩(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);トリプトファン(−3.4)。さらに、アミノ酸は類似の親水性値を有する別のものに置換することができ、生物学的に等価で免疫学的に等価なタンパク質を得ることが理解される。そのような変更において、親水性値が±2以内であるアミノ酸同士の置換が好ましく、該値が±1以内であるアミノ酸同士の置換が特に好ましく、該値が±0.5以内であるアミノ酸同士の置換がさらに好ましい。
【0044】
したがって、上述したように、アミノ酸置換は通常、アミノ酸側鎖置換基同士の疎水性、親水性、電荷、サイズなどの相対的類似性に基づいて行われる。上述の様々な特性を考慮した置換の例は当業者に周知であり、アルギニンとリジンとの置換;グルタミン酸塩とアスパラギン酸塩との置換;セリンとスレオニンとの置換;グルタミンとアスパラギンとの置換;及び、バリンと、ロイシンと、イソロイシンとの置換が含まれる。
【0045】
また、任意のポリヌクレオチドを更に改変してin vivoでの安定性を向上させてもよい。可能な改変としては、5’末端及び/又は3’末端へフランキング配列の付加すること;主鎖においてホスホジエステル結合の代わりにホスホチオエート又は2’O−メチルを使用すること;及び/又は、イノシン、キューオシン及びワイブドシン、並びに、アセチル化、メチル化、チオ−ル化などを施したアデニン、シチジン、グアニン、チミン及びウリジンを導入すること、が挙げられる。
【0046】
また、アミノ酸置換は残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性及び/または両親媒性に基づいて行っても良い。例えば、負荷電アミノ酸としては、アスパラギン酸及びグルタミン酸が挙げられ;正荷電アミノ酸としては、リジン及びアルギニンが挙げられ;親水性値が同程度の非荷電極性基を先頭に有するアミノ酸としては、ロイシン、イソロイシン、バリンのグループ;グリシン、アラニンのグループ;アスパラギン、グルタミンのグループ;及び、セリン、スレオニン、フェニルアラニン、チロシンのグループが挙げられる。保存的置換を示しうる他のアミノ酸としては、(1)ala、pro、gly、glu、asp、gln、ser、thrのグループ;(2)cys、ser、tyr、thrのグループ;(3)val、ile、leu、met、ala、pheのグループ;(4)lys、arg、hisのグループ;及び、(5)phe、tyr、trp、hisのグループが挙げられる。改変体は、更に又は代替的に、非保存的変化を含みうる。好適な実施形態において、改変体ポリペプチドは、5アミノ酸以下のアミノ酸が置換、欠失又は付加されることによりネイティブ配列と相違する。改変体は更に(又は代替的に)、例えば、ポリペプチドの免疫寛容誘導性、二次構造、及び、親水性/疎水性(hydropathic nature)への影響が最小限であるアミノ酸を欠失又は付加することにより改変されうる。
【0047】
上述のとおり、ポリペプチドは、翻訳時に又は翻訳後に当該のタンパク質の輸送先を指示するシグナル(又はリーダー)配列をN末端に有しうる。このポリペプチドはまた、このポリペプチドの合成、精製又は同定を容易にするために、あるいは固相支持体との結合を強化するためにリンカー又は他の配列(例えば、ポリ−His)と結合されうる。例えば、ポリペプチドは免疫グロブリンのFc領域と結合されうる。
【0048】
ポリペプチド配列の比較において、以下に記載するように、2配列を一致率が最大となるようにアライメントして両者のアミノ酸配列が同じである場合、当該2配列は「同一」であると言われる。2配列間の比較は、通常、配列を比較ウィンドウにわたって比較して配列が類似である部分領域を同定・比較することにより行われる。本明細書において「比較ウィンドウ」は、少なくとも20、通常は30〜約75、40〜約50の連続アミノ酸残基長のセグメントであって、ある1つの配列と、連続アミノ酸残基長が同じである参照配列とを、両者を最適にアライメントした後、比較するセグメントをいう。
【0049】
比較を行うための配列の最適アライメントは、Lasergene suite of bioinformatics software (DNASTAR, Inc., Madison, WI)のMegalign programを使用して、デフォルトパラメータを用いて行われうる。本プログラムには以下の参照文献に記載されているいくつかのアライメントスキームを実現する:Dayhoff, M.O., (1978) A model of evolutionary change in proteins - Matrices for detecting distant relationships. Dayhoff, M.O. (ed.) Atlas of Protein Sequence and Structure, National Biomedical Research Foundation, Washington DC Vol. 5, Suppl. 3, pp. 345-358; Hein J. (1990) Unified Approach to Alignment and Phylogenes, pp.626-645 Methods in Enzymology vol. 183, Academic Press, Inc., San Diego, CA; Higgins, D.G. and Sharp, P.M., CABIOS 5:151-153 (1989); Myers, E.W. and Muller W., CABIOS 4:11-17 (1988); Robinson, E.D., Comb. Theor 11:105 (1971); Saitou, N. Nei, M., Mol. Biol. Evol. 4:406-425 (1987); Sneath, P.H.A. and Sokal, R.R., Numerical Taxonomy - the Principles and Practice of Numerical Taxonomy, Freeman Press, San Francisco, CA (1973); Wilbur, W.J. and Lipman, D.J., Proc. Natl. Acad., Sci. USA 80:726-730 (1983)。
【0050】
また、比較のための配列の最適なアライメントは、Smith and Waterman(Add. APL. Math 2:482 (1981))の局所同一性アルゴリズムによって;Needleman and Wunsch (J. Mol. Biol. 48:443 (1970))の同一性アライメントアルゴリズムにより;Pearson and Lipman(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 2444 (1988))の類似性検索法によって;これらのアルゴリズムのコンピュータによる実施(Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group (GCG), 575 Science Dr., Madison, WIにおけるGAP、BESTFIT、BLAST、FASTA、及び、TFASTA)によって;又は検査によって、行われうる。
【0051】
配列同一性及び配列類似性百分率を決定するために適しうるアルゴリズムの一好適例は、BLAST及びBLAST 2.0アルゴリズムであり、これらはそれぞれAltschul et al., Nucl. Acids Res. 25:3389-3402 (1977)、及び、Altschul et al. J. Mol. Biol. 215:403-410 (1990)に記載されている。例えば本明細書に記載のパラメータを用いてBLAST及びBLAST 2.0を使用して、本発明のポリヌクレオチド及びポリペプチドの配列同一性百分率を決定することができる。BLAST解析を行うためのソフトウェアは、国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)で公的に入手可能である。アミノ酸配列の場合、スコア行列を用いて、累積スコアを計算することができる。各方向のワードヒットの延長は、累積アライメントスコアがその最大達成値から数量Xだけ低下したか;1又はそれ以上の、負のスコアの残基アライメントの蓄積のために、累積スコアがゼロ又はそれ未満になったか;あるいはどちらかの配列の末端に達したときに停止する。BLASTアルゴリズムパラメータW、T及びXはアライメントの感度及び速度を決定する。
【0052】
好適なアプローチでは、「配列同一性の百分率」は、少なくとも20の位置の比較ウィンドウにわたって、最適にアライメントした2配列を比較することにより決定される。ここで、これらの2配列を最適アライメントするために、比較ウィンドウ内のポリペプチド配列の一部は、参照配列(この参照配列は付加又は欠失を含まない)と比較して、20%以下、通常は5〜15%、又は10〜12%の付加又は欠失(すなわちギャップ)を含んでもよい。この百分率は、両方の配列中において同一のアミノ酸残基が出現した位置の数を決定して一致した位置の数を得たのち、この一致した位置の数を参照配列中の位置の総数(すなわち比較ウィンドウサイズ)で除算し、そしてこの結果に100を掛けて、配列同一性の百分率を得ることにより計算する。
【0053】
他の例示の実施形態において、ポリペプチドは、本明細書に記載のポリペプチドを複数含むか、又は、少なくとも1つの本明細書に記載のポリペプチドと、無関係の配列、例えば精製用Hisタグ、若しくは、標的化ペプチドとを含む、融合ポリペプチドでありうる。融合相手は、例えば、タンパク質を天然組換えタンパク質よりも高い収量で発現させる一助(発現エンハンサー)となりうる。他の融合パートナーを選択して、ポリペプチドの溶解度を高めたり、ポリペプチドが所望の細胞内コンパートメントに標的できるようにしてもよい。さらに、融合相手にはポリペプチドの精製を容易にするアフィニティータグが含まれる。所定の実施形態において、融合相手はポリペプチドの免疫寛容誘導性を向上させるか、又は、ポリペプチドの細胞へ取り込みを向上させる。更なる実施形態において、融合相手は免疫反応エンハンサーを有する。
【0054】
融合ポリペプチドは、一般に、化学結合(chemical conjugation)を含む標準的な技術を用いて調製されうる。融合ポリペプチドは、組換えポリペプチドとして発現させ、発現系において、非融合ポリペプチドよりも多量に生成可能であることが好ましい。簡潔には、ポリペプチド成分をコードするDNA配列が別々に構築され、適当な発現ベクターに連結されうる。1つのポリペプチド成分をコードするDNA配列の3’末端を、ペプチドリンカーを用いて又は用いずに、第2のポリペプチド成分をコードするDNA配列の5’末端に連結し、それらの配列のリーディングフレームが同相であるようにする。これにより、両方の成分ポリペプチドの生物活性を保持する単一の融合ポリペプチドへの翻訳が可能である。
【0055】
ペプチドリンカー配列を用いて、第1及び第2のポリペプチド成分を、各ポリペプチドが確実にその二次及び三次構造に折り畳まれるのに十分な距離離間させてもよい。そのようなペプチドリンカー配列は、当該技術分野で周知な標準的な技術を用いて融合ポリペプチドに組み込まれる。好適なペプチドリンカー配列は下記要素に基づいて選択されうる:(1)それらが柔軟な伸長型コンホメーションをとれること;(2)それらが第1及び第2のポリペプチド上の機能エピトープと相互作用することのできる二次構造をとれないこと;並びに(3)そのポリペプチド機能エピトープと反応しうる疎水性残基又は荷電残基がないこと。好ましいペプチドリンカー配列はGly残基、Asn残基及びSer残基を含む。他の中性に近いアミノ酸、例えばThr及びAlaもまたリンカー配列に用いてよい。リンカーとして通常用いられうるアミノ酸配列には、Maratea et al., Gene 40:39-46, 1985; Murphy et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83:8258-8262, 1986;米国特許第4,935,233号及び米国特許第4,751,180号に開示されているものが挙げられる。リンカー配列は、一般に、1〜約50アミノ酸長でありうる。リンカー配列は、第1及び第2のポリペプチドが、機能ドメインを分離し、かつ、立体障害を防止するために使用することが可能な非必須N末端アミノ酸領域を有する場合には、必要ではない。
【0056】
連結されたDNA配列は好適な転写又は翻訳調節エレメントに作動可能に連結される。DNAの発現を担う調節エレメントは、第1のポリペプチドをコードするDNA配列の5’にのみ位置している。同様に、翻訳を終わらせるために必要な停止コドン及び転写終結シグナルは、第2のポリペプチドをコードするDNA配列の3’にのみ存在している。
【0057】
本発明の一実施形態は、融合ポリペプチド、及びそれらをコードするポリヌクレオチドを含み、融合相手は、米国特許第5,633,234号に記載されるようにポリペプチドをエンドソーム/リソソーム画分へ指向させることが可能な標的化シグナルを含む。本発明の免疫寛容誘導性ポリペプチドは、本標的化シグナルと融合された場合、より効率的にMHCクラスII分子と結合するため、本ポリペプチドに特異的な適切なCD4T細胞のインビボでの刺激が増強される。
【0058】
本発明のポリペプチドは、様々な周知の合成技術及び/又は組換え技術のいずれかにより調製される。後者の技術を以下で更に述べる。一般的に約150アミノ酸未満のポリペプチド、部分及び他の改変体は、当業者に周知の技術を使用して、合成により作製可能である。例示的な1つの実施例において、このようなポリペプチドは、市販されている固相技術のいずれか(例えば、アミノ酸を成長アミノ酸鎖に順次付加するMerrifield固相合成方法)により合成される(Merrifield, J. Am. Chem. Soc. 85:2149-2146, 1963を参照)。ポリペプチド自動合成装置がPerkin Elmer/Applied BioSystems Division(Foster City,CA)などのメーカーから市販されており、メーカー指示書に従って操作されうる。
【0059】
一般に、本発明のポリペプチド組成物(融合ポリペプチドを含む)は単離される。「単離された」ポリペプチドは、その元来の環境から取り出されたものである。例えば、天然のタンパク質又はポリペプチドは、自然系において共存する物質の一部又は全てから分離されている場合、単離されている。また、このようなポリペプチド精製されていることが好ましく、例えば、少なくとも純度約90%、より好ましくは少なくとも純度約95%、最も好ましくは少なくとも純度約99%である。
【0060】
タイプVコラーゲンタンパク質は様々なソースから精製しても、市販品(Collaborative Biomedical Products/ Becton, Dickinson and Company, Franklin Lakes, NJ USA)を購入してもよい。実施形態のいくつかを実施するためには、純粋な又は部分的に純粋なコラーゲン又はその免疫寛容誘導性フラグメント、エピトープ若しくは抗原性部分を得る必要な場合がある。タイプVコラーゲン又はそのフラグメントなどのこれら物質は、動物、ヒト死体、又は組み換え技術などの様々な手法により容易にえることが可能であるが、これら手法に限定されない。他の方法としては、タイプVコラーゲンなどのコラーゲンの部分消化が挙げられる。この場合、ヒトタイプVコラーゲンをヒト胎盤などから抽出し、示差NaCl沈殿法(Seyer and Kang, 1989)により精製してもよい。例えば、胎盤組織を細かく切り、洗浄し、0.2M NaClを含有する0.5M酢酸に縣濁し、次いで4℃でペプシンにより消化する。遠心した試料から上清を吸引除去し、ペレットを回収し、抽出工程を繰り返した。2つの消化物から上清を合わせ、0.5M酢酸からの示差NaCl沈殿(Smith et al., 1985; Seyer and Kang, 1989)により、上清からcol(V)を精製した。このタイプVコラーゲンは通常0.7M NaClに溶解可能であり、1.2M NaClで沈殿する。
【0061】
α(V)鎖を精製する必要がある実施形態では、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(Smith et al., 1985)又は当業者に公知の他の適切な方法で測定したα鎖比「α1(V)/α2(V)」が約2であるタイプVコラーゲン物が得られるまで、酢酸可溶化/NaCl沈殿のサイクルを繰り返してもよい。α2(V)からのα1(V)の単離は、DEAE−セルロースを用いたクロマトグラフィー(Seyer and Kang, 1989)や、Protein Purification Protocols, Ed. Shawn Doonan, Humana Press, 1996に記載の方法など、当業者に公知の方法で達成されうる。α1(V)鎖及びα2(V)鎖をカラムから溶出し、既に報告されているSDS−SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(Smith, Jr. et al, 1985)により純度を確認してもよい。intactなcol(V)、又はα1(V)及びα2(V)は、使用するまでPBS(0.5mg/ml)又は他の適切なバッファーで希釈しておいてもよい。
【0062】
本発明は、所定の実施形態において、本発明のコラーゲンタンパク質をコードするポリヌクレオチドを提供する。例示的なポリヌクレオチドは、本明細書に記載したコラーゲンタンパク質の免疫寛容誘導性フラグメントをコードする配列番号1、3,5のポリヌクレオチド及びそのフラグメントである。
【0063】
「DNA」及び「ポリヌクレオチド」は、本明細書中において実質的に交換可能に使用され、特定の種の全ゲノムDNAを含まない単離されたDNA分子をいう。本明細書中において、「単離された」とは、ポリヌクレオチドが、他のコード配列から実質的に分離されており、そして当該DNA分子が、無関係のコードDNAの大部分(例えば、大きな染色体フラグメント又は他の機能的遺伝子若しくはポリペプチドコード領域)を含まないことを意味する。もちろん、これは、当初単離したDNA分子をいうが、後に人為的に当該セグメントに追加された遺伝子又はコード領域を除外するものではない。
【0064】
当業者に理解されるように、本発明のポリヌクレオチド組成物は、タンパク質、ポリペプチド、ペプチドなどを発現するか、あるいは発現するようにされうるゲノム配列、ゲノム外配列及びプラスミドにコードされる配列、並びにより小さな組み換え遺伝子セグメントを含みうる。これらセグメントは、自然単離しても、人為的に合成改変してもよい。
【0065】
本発明のポリヌクレオチド組成物は、確立されている様々な技術のいずれかを使用して、同定、調製及び/又は操作されうる(Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratories, Cold Spring Harbor, NY, 1989; Ausubel et al.(2001 Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publ. Assoc. Inc. & John Wiley & Sons, Inc., NY, NY、などの文献を参照)。
【0066】
多数のテンプレート依存性プロセスが、サンプルに存在する目的の標的配列の増幅に利用可能である。最もよく知られた増幅方法の1つは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCRTM)であり、これは、米国特許第4,683,195号、同第4,683,202号、同第4,800,159号に詳細に記載され、それぞれ、全体を本明細書中に参照により援用する。
【0067】
多数の任意の他のテンプレート依存性プロセス(多くはPCRTM増幅技術の変形である)が当該分野で公知かつ利用可能である。例示として、いくつかのこのような方法としては、リガーゼ連鎖反応(LCRともいわれる)(例えば、欧州特許出願公開番号320,308号、米国特許第4,883,750号に記載);Qβレプリカーゼ(PCT国際特許出願公開第PCT/US87/00880号に記載);鎖置換増幅(Strand Displacement Amplification)(SDA)及び修復鎖反応(Repair Chain Reaction)(RCR)が挙げられる。更に他の増幅法は、英国特許出願第2 202 328号及びPCT国際特許出願公開第PCT/US89/01025号に記載されている。他の核酸増幅手順には、転写に基づく増幅システム(TAS)(PCT国際特許出願公開第88/10315号)が挙げられ、これには、NASBA法及び3SRが含まれる。欧州特許出願公開第329,822号には、一本鎖RNA(「ssRNA」)、ssDNA、及び二本鎖DNA(dsDNA)をサイクル合成する工程を含む核酸増殖プロセスが記載されている。PCT国際特許出願公開第89/06700号には、標的一本鎖DNA(「ssDNA」)へのプロモーター/プライマー配列のハイブリダイゼーションに基づく核酸配列増幅スキームと、その後の当該配列からの多数のRNAの転写が記載されている。「RACE」(Frohman、1990)及び「片側(one−sided)PCR」(Ohara、1989)のような他の増幅方法もまた、当業者に周知である。
【0068】
本発明のポリヌクレオチドの増幅した部分を使用して、適切なライブラリー(例えば、腫瘍cDNAライブラリー)から、周知の技術により全長遺伝子が単離されうる。
【0069】
当業者にまた認識されるように、本発明のポリヌクレオチドは、一本鎖(コード鎖若しくはアンチセンス)又は二本鎖でありうり、また、DNA分子(ゲノム、cDNA若しくは合成)又はRNA分子でありうる。RNA分子は、HnRNA分子(イントロンを含み、DNA分子に1対1で対応する)、及び、mRNA分子(イントロンを含まない)を含みうる。更なるコード配列又は非コード配列は、本発明のポリヌクレオチド内に存在しうるがその必要はなく、また、ポリヌクレオチドは、他の分子及び/又は支持体材料に連結されうるがその必要はない。
【0070】
ポリヌクレオチドは、ネイティブ配列(すなわち、本発明のポリペプチド/タンパク質、又はその部分をコードする内因性配列)を含みうるか、或いはこのような配列の改変体又は誘導体、そして好ましくは免疫寛容誘導性改変体又は誘導体をコードする配列を含みうる。
【0071】
他の関連する実施形態において、本発明は、本明細書中において配列番号1、3、5に開示される配列に対して実質的な同一性を有するポリヌクレオチド改変体、例えば、本明細書中で記載の方法(例えば、以下に記載のような標準的なパラメータを使用するBLAST)を使用して、本発明のポリヌクレオチド配列に対して少なくとも70%の配列同一性、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上の高い配列同一性を有するポリヌクレオチド改変体を提供する。当業者は、これらの値が、コドンの縮重、アミノ酸類似性、リーディングフレームの位置付けなどを考慮することによって、2つのヌクレオチド配列によってコードされるタンパク質の対応する同一性を決定するために適切に調整され得ることを認識する。
【0072】
通常、ポリヌクレオチド改変体は、1つ以上の置換、付加、欠失及び/又は挿入を、好ましくは、改変体ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの免疫原性が、本明細書中に具体的に示されるポリヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドに対して実質的に減少されないように含む。「改変体」はまた、異種起源の相同遺伝子を包含することが理解されるべきである。
【0073】
更なる実施形態において、本発明は、本明細書中に開示された配列の1つ以上に同一であるか又は相補的な配列の、種々の長さの連続したストレッチを含むポリヌクレオチドフラグメントを提供する。例えば、本発明によって、本明細書中に開示される配列の1つ以上の少なくとも約10、約15、約20、約30、約40、約50、約75、約100、約150、約200、約300、約400、約500又は約1000以上連続したヌクレオチド、並びに、その間の中間の長さの連続したヌクレオチドを含むか或いはこれらからなるポリヌクレオチドが提供される。本文脈において「中間の長さ」が、示された値の間の任意の長さ(例えば、16、17、18、19など;21、22、23など;30、31、32など;50、51、52、53など;100、101、102、103など;150、151、152、153など;200〜500;500〜1,000などの間の全ての整数を含む)を意味することは容易に理解される。本明細書に記載されるポリヌクレオチドは、ネイティブ配列に見出されない追加のヌクレオチドによって一端又は両端が伸長されていてもよい。かかる追加配列は、本明細書に記載される配列の一端又は両端に付加される1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個又は20個のヌクレオチドからなりうる。
【0074】
本発明の他の実施形態において、本明細書で提供されるポリヌクレオチド配列若しくはそのフラグメント又はその相補的な配列に対して、中程度〜高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズしうるポリヌクレオチド組成物が提供される。ハイブリダイゼーション技術は、分子生物学の分野において周知である。例示として、他のポリヌクレオチドと本発明のポリヌクレオチドとのハイブリダイゼーション試験に適切な中程度なストリンジェントな条件は、5×SSC、0.5% SDS、1.0mM EDTA(pH8.0)の溶液中によるプレウォッシュ;ハイブリダイゼーション(50℃〜60℃、5×SSC、オーバーナイト);0.1% SDSを含有する2×、0.5×及び0.2×SSCによる洗浄(65℃、20分間、×2)を含む。当業者は、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーが、例えば、ハイブリダイゼーション溶液の塩含量及び/又はハイブリダイゼーションが実施される温度を変更することによって、容易に操作され得ることを理解する。例えば、他の実施形態において、好適な高ストリンジェントのハイブリダイゼーション条件としては、ハイブリダイゼーションの温度が、例えば60℃〜65℃又は65℃〜70℃に上昇される点が異なる上記条件が挙げられる。
【0075】
一実施形態において、このようなポリヌクレオチド改変体は、本明細書に具体的に記載されるポリペプチド配列の免疫寛容誘導活性の、少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約70%、より好ましくは少なくとも約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、又はそれ以上の免疫寛容誘導活性レベルを有するポリペプチドをコードする。
【0076】
本発明のポリヌクレオチド又はそのフラグメントは、そのコード配列自体の長さと関係なく、他のDNA配列(例えば、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、追加の制限酵素部位、マルチクローニングサイト、他のコードセグメントなど)と組み合わされてもよく、その結果、全体の長さは相当変化しうる。よって、ほぼ全ての長さの核酸フラグメントが使用されうることが考えられ、その全長は、好ましくは意図した組換えDNAプロトコルによる調製及び使用の容易さによって制限される。例えば、約10,000、約5000、約3000、約2,000、約1,000、約500、約200、約100、約50の塩基対長など(全ての間の長さを含む)の全長を有する例示的なポリヌクレオチドセグメントが本発明の多くの実施態様において有用であると考えられる。
【0077】
ポリペプチド配列の比較において、以下に記載するように、2配列を一致率が最大となるようにアライメントして両者のアミノ酸配列が同じである場合、当該2配列は「同一」であると言われる。2配列間の比較は、通常、配列を比較ウィンドウにわたって比較して配列が類似である部分領域を同定・比較することにより行われる。本明細書において「比較ウィンドウ」は、少なくとも20、通常は30〜約75、40〜約50の連続アミノ酸残基長のセグメントであって、ある1つの配列と、連続アミノ酸残基長が同じである参照配列とを、両者を最適にアライメントした後、比較するセグメントをいう。
【0078】
比較を行うための配列の最適アライメントは、Lasergene suite of bioinformatics software (DNASTAR, Inc., Madison, WI)のMegalign programを使用して、デフォルトパラメータを用いて行われうる。本プログラムには以下の参照文献に記載されているいくつかのアライメントスキームを実現する:Dayhoff, M.O., (1978) A model of evolutionary change in proteins - Matrices for detecting distant relationships. Dayhoff, M.O. (ed.) Atlas of Protein Sequence and Structure, National Biomedical Research Foundation, Washington DC Vol. 5, Suppl. 3, pp. 345-358; Hein J. (1990) Unified Approach to Alignment and Phylogenes, pp.626-645 Methods in Enzymology vol. 183, Academic Press, Inc., San Diego, CA; Higgins, D.G. and Sharp, P.M., CABIOS 5:151-153 (1989); Myers, E.W. and Muller W., CABIOS 4:11-17 (1988); Robinson, E.D., Comb. Theor 11:105 (1971); Saitou, N. Nei, M., Mol. Biol. Evol. 4:406-425 (1987); Sneath, P.H.A. and Sokal, R.R., Numerical Taxonomy - the Principles and Practice of Numerical Taxonomy, Freeman Press, San Francisco, CA (1973); Wilbur, W.J. and Lipman, D.J., Proc. Natl. Acad., Sci. USA 80:726-730 (1983)。
【0079】
あるいは、比較のための配列の最適アライメントは、Smith and Waterman(Add. APL. Math 2:482 (1981))の局所同一性アルゴリズムによって;Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol. 48:443 (1970)の同一性アライメントアルゴリズムによって;Pearson and Lipman(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 2444 (1988))の類似性検索方法によって;これらのアルゴリズムのコンピュータ化されたインプリメンテーション(Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group (GCG), 575 Science Dr., Madison, WIにおけるGAP、BESTFIT、BLAST、FASTA、及び、TFASTA)によって;又は検査によって、行われうる。
【0080】
配列同一性及び配列類似性の割合を決定するために適切なアルゴリズムの1つの好ましい例は、BLAST及びBLAST2.0アルゴリズムであり、これらはそれぞれ、Altschul et al., Nucl. Acids Res. 25:3389-3402 (1977)、及び、Altschul et al., J. Mol. Biol. 215:403-410 (1990)に記載されている。BLAST及びBLAST2.0は、本発明のポリヌクレオチドについての配列同一性の割合を決定するために、例えば、本明細書中に記載のパラメータを用いて使用されうる。BLAST分析を行うためのソフトウエアは、National Center for Biotechnology Informationを通して公に利用可能である。1つの例示的な例において、累積スコアは、ヌクレオチド配列について、パラメータM(一致する残基の対についての報酬スコア(reward score);常に>0)及びN(ミスマッチ残基についてのペナルティスコア;常に<0)を使用して算出され得る。各方向におけるワードヒットの拡大は、以下の場合に停止する:累積アライメントスコアが、その最大到達値から量Xだけ低下した場合;累積スコアが、1以上の負のスコアの残基アライメントの累積に起因してゼロ以下になった場合;又はいずれかの配列の末端に到達した場合。このBLASTアルゴリズムパラメータW、T及びXは、アライメントの感度及び速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列用)は、ワード長(W)11、及び期待値(E)10をデフォルトとして使用し、BLOSUM62スコアリングマトリックス(Henikoff and Henikoff, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915 (1989)を参照)アライメントは、(B)=50、期待値(E)=10、M=5、N=−4、比較=両方の鎖、である。
【0081】
「配列同一性のパーセンテージ」は、少なくとも20の位置の比較ウィンドウにわたって最適にアライメントした2配列を比較することによって決定されることが好ましく、ここで比較ウィンドウ中のポリヌクレオチド配列の一部は、参照配列(これは、付加又は欠失を含まない)と比較して、2配列の最適なアライメントについて20パーセント以下、通常は5〜15パーセント、又は10〜12パーセントの付加又は欠失(すなわち、ギャップ)を含み得る。このパーセンテージは、両方の配列で同一の核酸塩基が生じる位置の数を決定して一致する位置の数を得、この一致する位置の数を参照配列中の位置の総数(すなわち、ウィンドウサイズ)で除算し、そしてこの結果に100を掛けて配列同一性のパーセンテージを得ることによって算出される。
【0082】
遺伝コードの縮重により、本明細書中に記載されるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が多数存在することは当業者に理解される。これらのポリヌクレオチドのうちいくつかは、任意のネイティブ遺伝子のヌクレオチド配列に対する相同性が最小であるが、使用コドンの差異に起因して変化するポリヌクレオチドは、本発明において特に考慮されている。さらに、本明細書中に提供されるポリヌクレオチド配列を含む遺伝子の対立遺伝子も本発明の範囲内である。対立遺伝子は、1以上の変異(例えば、ヌクレオチドの欠失、付加及び/又は置換)の結果として変化する内因性遺伝子である。得られたmRNA及びタンパク質の構造又は機能は変化していてもよいが、変化している必要性はない。対立遺伝子は、標準技術(例えば、ハイブリダイゼーション、増幅及び/又はデータベースによる配列比較)を用いて、同定されうる。
【0083】
したがって、本発明の別の実施形態において、変異誘発アプローチ(例えば、部位特異的変異誘発)は、本明細書中に記載のポリペプチドの免疫寛容誘導性改変体及び/又は誘導体の調製に使用される。かかるアプローチによって、ポリペプチド配列における特定の改変が、これらをコードするポリヌクレオチドの変異誘発を介して可能である。これらの技術は、例えば、ポリヌクレオチド中に1つ以上のヌクレオチド配列変化を導入することによって先の考慮の1つ以上を具体化する、配列改変体を調製及び試験するための直接的なアプローチを提供する。
【0084】
部位特異的変異誘発は、所望の変異DNA配列をコードする特定のオリゴヌクレオチド配列並びに十分な数の隣接ヌクレオチドの使用によって変異体の生成を可能にし、十分なサイズのプライマー配列及び配列複雑性を提供して、相対する欠失連結部の両側に安定な二重鎖を形成する。変異は、ポリヌクレオチド自体の特性を改善するか、変更するか、減少させるか、改変するか、さもなければ変化させるため、かつ/又はコードされたポリペプチドの特性、活性、組成、安定性又は一次配列を変更するために、選択されたポリヌクレオチド配列において使用されうる。
【0085】
本発明の所定の実施形態において、本発明者らは、コードされたポリペプチドの1つ以上の特性(例えば、ポリペプチドの免疫寛容誘導性)を変更するために、開示されたポリヌクレオチド配列を変異誘発することを意図している。部位特異的変異誘発の技術は、当該分野で周知であり、ポリペプチド及びポリヌクレオチドの両方の改変体の作製に多用されている。例えば、部位特異的変異誘発は、しばしば、DNA分子の特定部分を変更するために使用される。このような実施形態において、約14ヌクレオチド長〜約25ヌクレオチド長程度のプライマーが使用され、配列の連結部の両側にある約5残基〜約10残基が変更される。
【0086】
当業者によって理解されるように、部位特異的変異誘発技術では、しばしば、一本鎖及び二本鎖の両方で存在するファージベクターが使用されてきた。部位特異的変異誘発において有用である代表的なベクターとしては、例えば、M13ファージのようなベクターが挙げられる。これらのファージは、容易に商業的に入手可能であり、その使用方法も一般的に当業者に周知である。二本鎖プラスミドもまた、目的の遺伝子をプラスミドからファージに転移する工程を省略する部位特異的変異誘発において慣用的に使用されている。
【0087】
一般的に、本明細書に係る部位特異的変異誘発は、まず、所望のペプチドをコードするDNA配列をその配列中に含む一本鎖ベクターを得る工程、又は当該配列を含む二本鎖ベクターの2本鎖を一本鎖に融解分離する工程によって行われる。所望の変異配列を保有するオリゴヌクレオチドプライマーは、一般的に、合成により調製される。次いで、このプライマーは、一本鎖ベクターとアニーリングされ、そして変異を保有する鎖の合成を完了するために、DNA重合酵素(例えば、E.coliポリメラーゼI Klenowフラグメント)に供される。このようにして、一方の鎖が変異を有さないもともとの鎖をコードし、そして他方の鎖が所望の変異を保有するヘテロ二重鎖が形成される。次いで、このヘテロ二重鎖ベクターは、適切な細胞(例えば、E.coli細胞)の形質転換に使用され、そして、変異された配列を保有する組換えベクターを含むクローンが選択される。
【0088】
部位特異的変異誘発を使用する、選択されたペプチドコードDNAセグメントの配列改変体の調製は、潜在的に有用な種を産生する手段を提供し、そしてこれは、限定を意味するものではない。ペプチドの配列改変体及びそれらをコードするDNA配列を入手し得る他の方法が存在するからである。例えば、所望のペプチド配列をコードする組換えベクターを変異誘発剤(例えば、ヒドロキシルアミン)で処理して、配列改変体を入手しうる。これらの方法及びプロトコルに関する具体的な詳細は、Maloy et al, 1994; Segal 1976; Prokop and Jajpai, 1991; Kuby 1994; Maniatis et al, 1982(それぞれ、その目的のために本明細書中に参照により援用する)の教示において見出される。
【0089】
本明細書中において「オリゴヌクレオチド特異的変異誘発手順」とは、その初期の濃度と比較して、特定の核酸分子の濃度の増加を生じるか、又は検出可能なシグナルの濃度の増加(例えば、増幅)を生じる、鋳型依存的プロセス及びベクター媒介性増殖をいう。本明細書中において「オリゴヌクレオチド特異的変異誘発手順」とは、プライマー分子の鋳型依存的な伸長を含むプロセスをいうことを意図している。「鋳型依存的プロセス」とは、新規に合成された核酸の鎖の配列が相補的塩基対形成の周知の規則によって決定される(例えば、Watson, 1987を参照)、RNA分子又はDNA分子の核酸合成をいう。通常、ベクター媒介性の方法は、DNA又はRNAベクターへの核酸フラグメントの導入、ベクターのクローン増幅、及び増幅した核酸フラグメントの回収を含む。これらの方法の例は、米国特許第4,237,224号によって提供されており、特に、その全体を参照により本明細書中に援用する。
【0090】
本発明のポリペプチド改変体の生成のための別のアプローチにおいて、米国特許第5,837,458号に記載のような、再帰的な配列組換えが使用されうる。かかるアプローチでは、組換え及びスクリーニング若しくは選択の反復性サイクルが実施され、本発明の個々のポリヌクレオチド改変体を、例えば、免疫寛容誘導活性が増強されたポリヌクレオチド改変体に「進化」させる。
【0091】
本発明の他の実施形態において、本発明のポリペプチド又はその融合タンパク質若しくは機能的等価物をコードするポリヌクレオチド配列又はそのフラグメントは、適切な宿主細胞内でポリペプチドの発現を指示するために組み換えDNA分子に使用されうる。遺伝コード固有の縮重に起因して、実質的に同一又は機能的に等価なアミノ酸配列をコードする他のDNA配列が産生されうり、これらの配列は所定のポリペプチドのクローン化及び発現に使用されうる。
【0092】
当業者によって理解されるように、天然に存在しないコドンを有するポリペプチドコードヌクレオチド配列を作製することが有利でありうることがある。例えば、特定の原核生物宿主又は真核生物宿主に好まれるコドンを選択して、タンパク質発現の速度を増加させたり、所望の特性(例えば、ネイティブ配列から得られる転写物よりも長い半減期)を有する組換えRNA転写物を産生することが可能である。
【0093】
さらに、本発明のポリヌクレオチド配列は、種々の理由(遺伝子産物のクローニング、プロセシング、及び/又は発現を変更する改変が挙げられるが、それらに限定されない)によりポリペプチドコード配列を変更するために、当該分野において一般的に公知の方法を使用して組み換えてもよい。例えば、無作為切断によるDNAシャッフリング並びに遺伝子フラグメント及び合成オリゴヌクレオチドのPCR再アセンブリを使用して、ヌクレオチド配列を組み換えてもよい。さらに、部位特異的変異誘発を使用して、例えば、新たな制限部位を挿入したり、グリコシル化パターンを改変したり、コドン優先(preference)を変化させたり、スプライス改変体を作製したり、変異を導入したりしてもよい。
【0094】
本発明の他の実施形態において、天然の核酸配列、改変された核酸配列又は組換え核酸配列は、異種配列に連結されて融合タンパク質をコードしうる。例えば、ペプチドライブラリーからポリペプチド活性のインヒビターをスクリーニングするために、市販の抗体により認識されうるキメラタンパク質をコードすることが有用でありうる。融合タンパク質はまた、ポリペプチドコード配列と異種タンパク質配列との間に位置する切断部位を含むように操作されうり、その結果そのポリペプチドは切断されて、そして異種部分から精製されうる。
【0095】
所望のポリペプチドをコードする配列が、当該分野において周知の化学的方法を使用して、全体又は部分的に合成されうる(Caruthers, M. H. et al. (1980) Nucl. Acids Res. Symp. Ser. 215-223, Horn, T. et al. (1980) Nucl. Acids Res. Symp. Ser. 225-232を参照)。あるいは、タンパク質自体は、ポリペプチド又はその一部のアミノ酸配列を合成するための化学的方法を使用して産生されうる。例えば、ペプチド合成は、種々の固相技術を使用して実施されうり(Roberge, J.Y. et al. (1995) Science 269:202-204)、自動化合成は、例えば、ABI 431A Peptide Synthesizer(Perkin Elmer,Palo Alto,CA)により達成され得る。
【0096】
新たに合成されたペプチドは、分取用高速液体クロマトグラフィー(例えば、Creighton, T. (1983) Proteins, Structures and Molecular Principles, WH Freeman and Co., New York, N.Y.)又は当該分野において利用可能な他の同等技術により実質的に精製されうる。合成ペプチドの組成は、アミノ酸分析又は配列決定(例えば、エドマン分解法)により確認されうる。さらに、ポリペプチド又はその任意の部分のアミノ酸配列は、直接合成の間改変されて、かつ/又は化学的方法を使用して、他のタンパク質もしくはその任意の部分に由来する配列と組み合わせられて、改変体ポリペプチドを産生しうる。
【0097】
所望のポリペプチドを発現させるために、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列又は機能的等価物は、適切な発現ベクター(すなわち、挿入されたコード配列の転写及び翻訳のために必要なエレメントを含むベクター)内に挿入されうる。当業者に周知である方法を使用して、目的のポリペプチドをコードする配列並びに適切な転写制御エレメント及び翻訳制御エレメントを含む発現ベクターを構築し得る。これらの方法としては、インビトロ組換えDNA技術、合成技術、及びインビボ遺伝子組換えが挙げられる。そのような技術は、例えば、Sambrook, J. et al. (1989) Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, Plainview, N.Y.、及び、Ausubel et al.(2001-2008 Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publ. Assoc. Inc. & John Wiley & Sons, Inc., NY, NY)に記載される。
【0098】
様々な発現ベクター/宿主系が、ポリヌクレオチド配列を含みかつ発現させるように利用されうる。発現ベクター/宿主系としては、微生物(例えば、組換えバクテリオファージ、プラスミド、又はコスミドDNA発現ベクターで形質転換した細菌);酵母発現ベクターで形質転換した酵母;ウイルス発現ベクター(例えば、バキュロウイルス)で感染させた昆虫細胞系;ウイルス発現ベクター(例えば、カリフラワーモザイクウイルス、CaMV;タバコモザイクウイルス、TMV)又は細菌発現ベクター(例えば、TiもしくはpBR322プラスミド)で形質転換した植物細胞系;或いは動物細胞系が挙げられるが、これらに限定されない。
【0099】
発現ベクター内に存在する「制御エレメント」又は「調節配列」は、転写及び翻訳を実行するように宿主細胞タンパク質と相互作用する、それらのベクターの非翻訳領域(エンハンサー、プロモーター、5’及び3’非翻訳領域)である。そのようなエレメントは、その強さ及び特異性を変更しうる。利用されるベクター系及び宿主に依存して、多数の適切な転写エレメント及び翻訳エレメント(構成的プロモーター及び誘導性プロモーターを含む)が使用されうる。例えば、細菌系においてクローニングする場合、誘導性プロモーター(例えば、pBLUESCRIPTファージミド(Stratagene,La Jolla,Calif.)又はpSPORT1プラスミド(Gibco BRL,Gaithersburg,MD)などのハイブリッドlacZプロモーターが使用されうる。哺乳動物細胞系において、哺乳動物遺伝子又は哺乳動物ウイルスに由来するプロモーターが、一般的に好ましい。ポリペプチドをコードする配列の複数のコピーを含む細胞株を生成することが必要とされる場合、SV40又はEBVベースのベクターが、適切な選択マーカーと共に有利に使用されうる。
【0100】
細菌系において、多数の発現ベクターのいずれかが、発現されるポリペプチドに対して意図される使用に依存して選択されうる。例えば、大量に必要とされる場合(例えば、抗体の誘導のために)、精製容易な融合タンパク質を多量に発現するベクターが使用されうる。そのようなベクターとしては、多機能性E.coliクローニングベクター及び発現ベクター(例えば、BLUESCRIPT(Stratagene)(目的のポリペプチドをコードする配列が、β−ガラクトシダーゼのアミノ末端Met及びそれに引続く7残基についての配列とインフレームでベクター内に連結されうり、その結果、ハイブリッドタンパク質が産生される);pINベクター(Van Heeke, G. and S. M. Schuster (1989) J. Biol. Chem. 264:5503-5509)などが挙げられるが、これらに限定されない。pGEXベクター(Promega,Madison,Wis.)もまた、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として外来ポリペプチドを発現させるために使用されうる。一般的に、そのような融合タンパク質は、可溶性であり、そしてグルタチオン−アガロースビーズに吸着させ、次に遊離のグルタチオンの存在下において溶出させることによって、溶解した細胞から容易に精製されうる。そのような系において作製されたタンパク質は、ヘパリン、トロンビン、又は第XA因子プロテアーゼ切断部位を含むように設計されうり、その結果、クローニングされた目的のポリペプチドが、任意にGST部分から放出されうる。
【0101】
酵母(Saccharomycescerevisiae)において、構成的プロモーター又は誘導性プロモーター(例えば、α因子、アルコールオキシダーゼ及びPGH)を含む多数のベクターが使用されうる。概説については、Ausubel et al.(前出)、及び、Grant et al. (1987) Methods Enzymol. 153:516-544を参照のこと。
【0102】
植物発現ベクターを使用する場合において、ポリペプチドをコードする配列の発現は、多数のプロモーターのいずれかにより駆動されうる。例えば、ウイルスプロモーター(例えば、CaMVの35Sプロモーター及び19Sプロモーター)は、単独でか、又はTMVに由来するωリーダー配列と組み合わせて使用されうる(Takamatsu, N. (1987) EMBO J. 6:307-311)。あるいは、植物プロモーター(例えば、RUBISCOの小サブユニット又は熱ショックプロモーター)を使用しうる(Coruzzi, G. et al. (1984) EMBO J. 3:1671-1680; Broglie, R. et al. (1984) Science 224:838-843; and Winter, J. et al. (1991) Results Probl. Cell Differ. 17:85-105)。これらの構築物は、直接的DNA形質転換又は病原体媒介性トランスフェクションによって植物細胞内に導入されうる。そのような技術は、多数の一般的に入手可能な概説に記載されている(例えば、 Hobbs, S. or Murry, L. E. in McGraw Hill Yearbook of Science and Technology (1992) McGraw Hill, New York, N.Y.; pp. 191-196を参照のこと)。
【0103】
昆虫系はまた、目的のポリペプチドを発現させるために使用されうる。例えば、そのような1つの系において、オートグラファカリフォルニア核発汗病ウイルス(Autographa californica nuclear polyhedrosis virus)(AcNPV)は、Spodoptera frugiperda細胞又はTrichoplusia larvaeにおいて外来遺伝子を発現させるベクターとして使用される。ポリペプチドをコードする配列は、ウイルスの非必須領域内(例えば、ポリへドリン遺伝子)にクローニングされうり、ポリへドリンプロモーターの制御下に置かれうる。ポリペプチドコード配列の首尾良い挿入は、ポリへドリン遺伝子を不活性化し、そしてコートタンパク質を欠損している組換えウイルスを産生する。次いで、この組換えウイルスを使用して、例えば、目的のポリペプチドが発現されうる、S.frugiperda細胞又はTrichoplusia larvaeに感染させうる(Engelhard, E. K. et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. 91: 3224-3227)。
【0104】
哺乳動物宿主細胞において、多数のウイルスベースの発現系が一般的に利用可能である。例えば、アデノウイルスが、発現ベクターとして使用される場合において、目的のポリペプチドをコードする配列は、後期プロモーター及び3連からなるリーダー配列から構成されるアデノウイルス転写/翻訳複合体内に連結されうる。ウイルスゲノムの非必須E1又はE3領域における挿入を使用して、感染した宿主細胞においてポリペプチドを発現しうる、生存可能ウイルスを入手しうる(Logan, J. and Shenk, T. (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. 81:3655-3659)。さらに、転写エンハンサー(例えば、ラウス肉腫ウイルス(RSV)エンハンサー)を使用して、哺乳動物宿主細胞における発現を増加させうる。
【0105】
特定の開始シグナルはまた、目的のポリペプチドをコードする配列のより効率的な翻訳を達成するために使用されうる。そのようなシグナルとしては、ATG開始コドン及び隣接配列が挙げられる。ポリペプチドをコードする配列、その開始コドン及び上流配列が適切な発現ベクター内に挿入される場合において、さらなる転写制御シグナル又は翻訳制御シグナルは必要とされなくともよい。しかし、コード配列のみ、又はその一部のみが挿入される場合、ATG開始コドンを含む外因性翻訳制御シグナルが提供されるべきである。さらに、開始コドンは、インサート全体の翻訳を確実にするために正確なリーディングフレーム内にあるべきである。外因性翻訳エレメント及び開始コドンは、種々の起源(天然及び合成の両方)に由来しうる。発現の効率は、使用される特定の細胞系に適切なエンハンサー(例えば、Scharf, D. et al. (1994) Results Probl. Cell Differ. 20:125-162に記載されるエンハンサー)の封入によって増大されうる。
【0106】
さらに、宿主細胞株は、挿入された配列の発現を調節するか、又は所望の様式において発現されたタンパク質をプロセシングするその能力に基づいて選択されうる。ポリペプチドのそのような修飾としては、アセチル化、カルボキシル化、グリコシル化、リン酸化、脂質化、及び、アシル化が挙げられるが、これらに限定されない。タンパク質の「プレプロ」形態を切断する翻訳後プロセシングはまた、正確な挿入、折り畳み及び/又は機能を促進させるために使用されうる。異なる宿主細胞(例えば、CHO、COS、HeLa、MDCK、HEK293及びWI38)(これらは、そのような翻訳後活性についての特定の細胞機構(machinery)及び特徴的機構(mechanisms)を有する)は、正確な改変及び外来タンパク質のプロセシングを確実にするように選択されうる。
【0107】
組み換えタンパク質を長期間かつ高収率産生させるために、安定な発現が一般的に好ましい。例えば、目的のポリヌクレオチドを安定に発現する細胞株が、ウイルス複製起点及び/又は内因性発現エレメントならびに同じかもしくは別個のベクター上の選択マーカー遺伝子を含みうる、発現ベクターを使用して形質転換されうる。そのベクターの導入後、細胞は、それらが選択培地に切換えられる前に、富化(enriched)培地において1〜2日間増殖されうる。選択マーカーの目的は、選択に対する耐性を与えることであり、そしてその存在は、導入された配列を首尾良く発現する細胞の増殖及び回収を可能とする。安定に形質転換された細胞の耐性クローンは、その細胞型に適切な組織培養技術を使用して増殖されうる。
【0108】
任意の数の選択系を使用して、形質転換細胞株を回収しうる。これらの選択系としては、それぞれ、tk−細胞又はaprt−細胞において使用されうる、単純疱疹ウイルスチミジンキナーゼ(Wigler, M. et al. (1977) Cell 11:223-32)及びアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Lowy, I. et al. (1990) Cell 22:817-23)遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。また、代謝拮抗剤耐性、抗生物質耐性又は除草剤耐性は、選択のための基礎として使用されうる;例えば、dhfr(これは、メトトレキセートに対する耐性を与える(Wigler, M. et al. (1980) Proc. Natl. Acad. Sci. 77:3567-70);npt(これは、アミノグリコシド、ネオマイシン及びG〜418に対する耐性を与える(Colbere-Garapin, F. et al (1981) J. Mol. Biol. 150:1-14);ならびにals又はpat(これらは、それぞれ、クロルスルフロン及びホスフィノスリシンアセチルトランスフェラーゼに対する耐性を与える(Murry、前出))。さらなる選択遺伝子が記載されている。例えば、trpB(これは、細胞がトリプトファンの代わりにインドールを利用することを可能にする)又はhisD(これは、細胞がヒスチジンの代わりにヒスチノールを利用することを可能にする)(Hartman, S. C. and R. C. Mulligan (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. 85:8047-51)。可視マーカーも多用されており、アントシアニン、β−グルクロニダーゼ及びその基質のGUS、並びにルシフェラーゼ及びその基質のルシフェリンのようなマーカーが、形質転換体の同定や特定のベクター系に起因しうる一過性のタンパク質発現又は安定なタンパク質発現量の定量に広範に使用されている(Rhodes, C. A. et al. (1995) Methods Mol. Biol. 55:121-131)。
【0109】
マーカー遺伝子発現の有無は、目的の遺伝子もまた存在するということを示唆しているが、その存在及び発現は確認を必要としうる。例えば、ポリペプチドをコードする配列がマーカー遺伝子配列内に挿入される場合、配列を含む組換え細胞は、マーカー遺伝子機能の非存在により同定されうる。あるいは、マーカー遺伝子は、1つのプロモーターの制御下でポリペプチドコード配列とタンデムに配置されうる。誘導又は選択に応じたマーカー遺伝子の発現は、通常、そのタンデム遺伝子の発現も同様に示す。
【0110】
あるいは、所望のポリヌクレオチド配列を含みかつこれを発現する宿主細胞は、当業者に公知の種々の手順によって同定されうる。これらの手順としては、核酸又はタンパク質の検出及び/又は定量のための、例えば、膜ベースの技術、溶液ベースの技術、又はチップベースの技術を含む、DNA−DNAハイブリダイゼーション若しくはDNA−RNAハイブリダイゼーション及びタンパク質バイオアッセイ技術又はイムノアッセイ技術が挙げられるが、これらに限定されない。
【0111】
ポリヌクレオチドにコードされた産物に特異的なポリクローナル抗体若しくはモノクローナル抗体のいずれかを使用して、その産物の発現を検出及び測定するための種々のプロトコルは、当該分野において公知である。例としては、酵素結合免疫測定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)及び蛍光活性化セルソーティング(FACS)が挙げられる。所定のポリペプチド上の2つの非干渉性エピトープに対して反応性であるモノクローナル抗体を利用する2つの部位の、モノクローナルベースのイムノアッセイが、ある用途では好まれうるが、競合的結合アッセイもまた、利用されうる。これらのアッセイ及び他のアッセイは、特に、Hampton, R. et al. (1990; Serological Methods, a Laboratory Manual, APS Press, St Paul. Minn.) and Maddox, D. E. et al. (1983; J. Exp. Med. 158:1211-1216)に記載される。
【0112】
様々な標識技術及び結合体化技術が当業者に公知であり、そして種々の核酸アッセイ及びアミノ酸アッセイにおいて使用されうる。ポリヌクレオチドに関連する配列を検出するための標識されたハイブリダイゼーションプローブ又はPCRプローブを作製するための手段としては、オリゴ標識、ニックトランスレーション、末端標識又は標識されたヌクレオチドを使用するPCR増幅が挙げられる。あるいは、mRNAプローブの産生のために、配列又はその任意の部分が、ベクター内にクローニングされうる。そのようなベクターは、当該分野において公知であり、市販されており、そして適切なRNAポリメラーゼ(例えば、T7、T3、又はSP6)及び標識されたヌクレオチドを添加することにより、RNAプローブをインビトロで合成するために使用されうる。これらの手順は、種々の市販キットを使用して実施されうる。使用されうる適切なレポーター分子又は標識としては、放射性核種、酵素、蛍光剤、化学発光剤、又は色素形成剤ならびに基質、コファクター(補因子)、インヒビター、磁気粒子などが挙げられる。
【0113】
目的のポリヌクレオチド配列で形質転換された宿主細胞は、発現及び細胞培養からタンパク質を回収するのに適した条件下で培養されうる。組換え細胞により産生されたタンパク質は、使用された配列及び/又はベクターに応じて細胞内に分泌又は含まれうる。当業者によって理解されるように、本発明のポリヌクレオチドを含む発現ベクターは、原核生物細胞膜又は真核生物細胞膜を介して、コードされたポリペプチドの分泌を指示するシグナル配列を含むように設計されうる。他の組換え構築物を使用して、目的のポリペプチドをコードする配列を、可溶性タンパク質の精製を促進するポリペプチドドメインをコードするヌクレオチド配列に結合させうる。そのような精製促進ドメインとしては、固定された金属上での精製を可能にする金属キレート化ペプチド(例えば、ヒスチジン−トリプトファンモジュール)、固定された免疫グロブリン上での精製を可能にするプロテインAドメイン、及びFLAGS伸長/アフィニティー精製システム(Immunex Corp.,Seattle,Wash.)において利用されるドメインが挙げられるが、これらに限定されない。精製ドメインとコードされるポリペプチドとの間に切断可能なリンカー配列(例えば、第XA因子又はエンテロキナーゼに対して特異的な配列(Invitrogen.San Diego,Calif.))を含めることを使用して、精製を促進させうる。そのような発現ベクターの1つは、目的のポリペプチド及びチオレドキシン又はエンテロキナーゼ切断部位の前に6つのヒスチジン残基をコードする核酸を含む融合タンパク質の発現を提供する。ヒスチジン残基は、Porath, J. et al. (1992, Prot. Exp. Purif. 3:263-281)に記載されるように、IMIAC(固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー)上での精製を促進し、一方エンテロキナーゼ切断部位は、融合タンパク質から所望のポリペプチドを精製するための手段を提供する。融合タンパク質を含むベクターの考察は、Kroll, D. J. et al. (1993; DNA Cell Biol. 12:441-453)に述べられている。
【0114】
組換え産生方法に加えて、本発明のポリペプチド及びそのフラグメントは、固相技術(Merrifield J. (1963) J. Am. Chem. Soc. 85:2149-2154)を使用する、直接的ペプチド合成によって産生されうる。タンパク質合成は、手動技術を使用してか、又は自動化によって実施されうる。自動化合成は、例えば、Applied Biosystems 431Aペプチド合成装置(Perkin Elmer)を使用して、達成されうる。あるいは、種々のフラグメントを別々に化学的に合成し、化学的に連結して全長分子が生成されうる。
【0115】
寛容性
免疫寛容は、抗原、通常は疾患発生に関与する抗原に対する免疫の無反応性として定義される。免疫寛容は様々な投与経路で抗原を投与することにより誘導されうるが、経口免疫寛容とは、実験的自己免疫性脳脊髄炎モデル(多発性硬化症の齧歯類モデル)、重症筋無力症モデル、ブドウ膜炎モデル、インスリン依存性糖尿病モデル、コラーゲン誘発関節炎モデルなどのいくつかの動物モデルにおいて疾患活動性を抑制した、抗原の経口投与をいう(Faria and Weiner 1999)。初期のヒト臨床トライアル結果は、経口免疫寛容が自己免疫性ブドウ膜炎、糖尿病、ニッケルアレルギーや、場合により多発性硬化症に有効であることが示唆されている(Faria and Weiner 1999; Duda et al. 2000)。臓器移植における経口免疫寛容誘導を報告している研究がいくつかある(Sayegh et al. 1996; Hancock et al. 1993; Ishido et al. 1999; Sayegh et al. 1992a; Sayegh et al. 1992b)。各報告では、移植前にドナーMHC由来のペプチド又は同種異系細胞を与えることにより免疫寛容が誘導されている(Sayegh et al. 1996; Hancock et al. 1993; Ishido et al. 1999; Sayegh et al. 1992a; Sayegh et al. 1992b)。これらの技術は心臓及び角膜の同種移植片の拒絶の防止有効である(Sayegh et al. 1996; Hancock et al. 1993; Ishido et al. 1999; Sayegh et al. 1992a; Sayegh et al. 1992b; Faria and Weiner 1999)。疾患活動性の低減に加え、上記研究における経口免疫寛容により誘導された免疫抑制はまた、標的抗原に対する遅延型過敏(DTH)のダウンレギュレーションのみならず、細胞性免疫及び液性免疫の低減によって定量化されている(Faria and Weiner 1999; Mayer 2000; Garside and Mowat 1997)。
【0116】
経口(及び他の投与による)免疫寛容が抗原特異的免疫反応をダウンレギュレーションするメカニズムは、1)抗原特異的細胞の能動抑制、2)抗原特異的細胞のクローンアネルギー、及び、3)抗原特異的細胞のクローン除去の三種類がある(Faria and Weiner 1999, Miller et al. 1991; Chen et al. 1994; Chen et al. 1995)。これら3種類のメカニズムは経口免疫寛容に反応して同時に作動しうるが、能動抑制及びクローンアネルギーが経口免疫寛容に誘導される免疫抑制の主要なメカニズムである(Faria and Weiner 1999)。
【0117】
能動抑制は、1のリンパ球サブセットの他のリンパ球サブセットによる抗原特異的な制御を説明する。抗原及び病状に応じて、サプレッサー細胞は、脾臓や末梢リンパ節などの末梢リンパ系組織から疾患活動部位に移動するCD4+及び/又はCD8+T細胞でありうる。これら細胞をナイーブレシピエントへ養子免疫伝達することにより、卵白アルブミン誘発性気道過敏及び多発性硬化症の齧歯類モデルにおける当該細胞の能動抑制への役割が確認された。インビトロでの能動抑制の証拠は、動物の寛容化リンパ球が、トランスウェル培養系を介した他の抗原特異的T細胞の増殖を抑制することができることを示すデータにより実証されている(Faria and Weiner 1999; Miller et al. 1991)。
【0118】
クローンアネルギーとは、抗原暴露後の増殖の低減に特徴付けられる抗原特異的T細胞の無反応性をいい、幾つかの動物モデルにおける経口免疫寛容に関与している。クローンアネルギーは、CD4+又はCD8+T細胞自身、他のT細胞又は周辺環境の細胞による可溶性抑制因子の産生、又は、適切な共刺激分子の発現の減少によって起こりうる(Faria and Weiner 1999)。クローン除去は、抗原特異的T細胞の除去をいうが、抗原に対する経口免疫寛容のメカニズムとしてはほとんど報告されていない(Chen et al. 1995)。
【0119】
経口免疫寛容中に免疫反応を抑制する可溶性メディエータは、主に調節性T細胞又はサプレッサーT細胞に由来する(Faria and Weiner 1999)。T細胞は、産生するサイトカインの種類により、インターロイキン−2(IL−2)及びγインターフェロン(γIFN)を産生するTh1;IL−4及びIL−10を賛成するTh2;多量の形質転換成長因子β(TGF−β)を単独か、或いは、微量のIL−4、IL−10又はγIFNと共に産生するTh3;多量のIL−10を少量のTGF−βと共に産生するTr1細胞(Faria and Weiner et al. 1999; Mayer 2000; Garside and Mowat 1997; Groux et al. 1997);及び、IL−17を産生するTh17細胞(Immunol Rev. 2008, 226:87-102; Nature. 2006 May 11;441(7090):235-8などを参照)の5種類が存在する。
【0120】
Th3、Th2、及びTr1細胞は経口免疫寛容により誘導される能動抑制の主要なメディエータであることが示されているため、TGF−β、IL−4、及び、IL−10が本プロセスの重要なサイトカインであると考えられている(Teng et al. 1998; Shi et al. 1999b)。これらサイトカインの非存在下で経口免疫寛容誘導が起こることを示したBerone et alなどのレポートは、他のメディエータ又は細胞が免疫反応を抑制しうることを示唆している(Barone et al. 1998; Shi et al. 1999a)。
【0121】
経口免疫寛容の研究は免疫反応を抑制するT細胞由来サイトカインに焦点を当ててきたが、T細胞が産生しない一酸化窒素が同種免疫反応の強力なサプレッサーであることが知られている(Garside and Mowat 1997)。拒絶反応に関与するアポトーシス(Meyer et al. 1998; Kallio et al. 1997; Shiraishi et al. 1997; Shiraishi et al. 1995; Medot-Pirenne et al. 1999)を、一酸化窒素がモジュレートすることを示すこれらのデータなどは、一酸化窒素が経口免疫寛容のメディエータであり拒絶反応を防止しうることを示唆している。TGF−βは、一酸化窒素合成の強力な誘発因子であり、経口免疫寛容における能動抑制の重要なメディエータである(Faria and Weiner 1999; Meyer et al. 1998; Vodovotz et al. 1998; Vodovitz et al. 1999)。したがって、免疫寛容した宿主においてTGF−βにより誘導された免疫抑制は、部分的に一酸化窒素によりメディエートされている可能性がある。しかしながら、免疫寛容に応じた一酸化窒素の産生は知られていない。
【0122】
APCにより誘導される抗原特異的T細胞の活性化は、T細胞とAPCとの間の双方向の相互作用を必要とする。まず、APCは、T細胞表面におけるCD40リガンド(CD40L)の発現のアップレギュレーションを刺激するT細胞受容体に結合するMHC分子を提示する。そして、CD40Lは、APC表面の受容体CD40に結合する。CD40を介したシグナル伝達はAPC表面においてCD80及びCD86の発現を誘導し、これらがT細胞表面の受容体CD28に結合すると、共刺激及びそれに続くT細胞活性化が起こる(Liu et al. 1999; Li et al. 1999; Lederman and Siciu-Foca 1999)。経口免疫寛容の誘導に関する研究はT細胞機能に焦点を当ててきたが、近年のTaams et al(1998)による研究では、免疫寛容の誘導によりAPCの機能が損なわれうることを報告しており、他の調査者も同様なデータを報告している(Wu et al. 1998; Finkelman et al. 1996; Viney et al. 1998)。例えば、経口免疫寛容をしたマウスのリンパ節及び脾臓のAPCにおいてCD80の発現が減少することを示したWu. et al (1998)は、免疫寛容レシピエントにおいてT細胞の活性化が低下する一因が機能不全なAPCでありうることを示唆している。さらに、サプレッサーT細胞がAPCにおけるCD86の発現を阻害することを示すインビトロでの研究は、免疫寛容がAPCの機能を損なう他のメカニズムを明らかにしている(Liu et al. 1999; Li et al. 1999; Lederman and Siciu-Foca 1999)。
【0123】
col(V)の投与はそれ自身に対する増殖反応を抑制するだけでなく、アロ抗原に対する増殖反応も抑制し、レシピエント肺の急性拒絶反応の発症を抑制する(米国特許第7,348,005号、国際公開第2007/120947号などを参照)。したがって、col(V)はドナーのアロ抗原及びそれ自身に対するクローンアネルギーを誘導しうるか;ドナー抗原及びcolVに対する増殖反応の欠如はアロ抗原特異的肺リンパ球のクローン除去によるものでありうるか;さらにあるいは、サプレッサー細胞活性によるものでありうる。
【0124】
理論に拘束されず、colVによる免疫寛容誘導は連鎖抑制(linked suppression)により誘導されうる(Hum Immunol. 2008 Nov;69(11):715-20などを参照)。また、特異な活性化シグナルを生じる、リンパ球表面のコラーゲン受容体へのcolVの特異な結合が関与しうると考えられる(Cell Signal. 2006 Aug;18(8):1108-16を参照)。例えば、タイプVコラーゲンのみがT細胞においてIL−7シグナル伝達を誘導した。
【0125】
抗原の経口投与は末梢T細胞免疫寛容の有効な誘導方法である。経口免疫寛容と言われることが多いこの現象は、脳脊髄炎、ブドウ膜炎、糖尿病、重症筋無力症、及び、喘息などの様々な動物自己免疫疾患モデルにおいてよく研究されている。免疫寛容の誘導メカニズムは完全に理解されていない。クローンアネルギー、クローン除去、IL−4、IL−10による制御、TGF−β介在型の能動抑制などの全ての既存の免疫寛容誘導メカニズムが経口免疫寛容に関与していると考えられる(Faria and Weiner, 1999)。一般的に、高用量の抗原投与がアネルギー又はクローン除去を誘発すると報告されている(Chen et al., 1995; Whitacre et al., 1991)が、低用量の抗原投与ではサイトカイン制御及び能動抑制を誘導する(Faria and Weiner, 1999; Chen et al., 1994)。心臓移植の動物モデルでは、同種異系の脾臓細胞の経口投与は、Th1活性化をバイパスし、かつ、IL−4などのTh−2由来の阻害性サイトカインの誘導を選択的に刺激することにより、免疫寛容の誘導に効果的であることが示されている(Hancock et al., 1993; Ishido et al., 1999)。
【0126】
よって、経口免疫寛容は、対象に抗原を経口投与(即ち、飲食させる)することにより当該対象の免疫反応をダウンレギュレーションする方法である。経口免疫寛容は、全身の抗体産生の低減だけでなく、遅延型過敏(DTH)、T細胞増殖、細胞障害反応、及び、移植片拒絶の低減により特徴付けられる(Alpan et al. 2001. J. Immunol. 166:4843-52; Chen et al. 1995. Nature 376:177-80; Weiner. 1997. Imm. Today. 7:335-44; Sayegh et al. 1992. Transplantation. 53:163-6)。
【0127】
本明細書では、他の投与経路、特に筋肉内注射、皮下注射、皮内注射、及び、静脈内投与注射も意図される。少用量で免疫寛容を誘導し、高用量で免疫反応を誘導する皮内注射が本明細書で意図される。
【0128】
免疫寛容の研究は、主に、免疫寛容抗原のT細胞機能に対する影響、及び、免疫活性抑制におけるT細胞の役割に注目してきた(Faria and Weiner 1999; Mayer 2000; Garside and Mowat 1997)。しかしながら、全ての抗原に対する免疫反応はAPCとT細胞との相互作用を必要とし、また、T細胞はAPCの機能を損ないうる(Liu et al. 1999; Li et al. 1999; Lederman and Siciu-Foca 1999)。よって、免疫寛容した宿主からのAPCの抗原提示のダウンレギュレーションは、サプレッサーT細胞との相互作用の結果として間接的に、又は場合によりAPC表面の寛容抗原の直接的効果により、免疫寛容の誘導に寄与しうる。
【0129】
よって、本発明のある態様において、本発明はCOPD患者及び喘息患者においてcolVに対する自己免疫寛容を回復又は強化する方法を提供する。本発明の一実施形態は、コラーゲン(colV、その抗原性部分及び改変体などが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されない)に対する免疫寛容が向上するよう設計した投薬計画で、colVを患者に経口療法(Yasufuku et al, 2001; Yasufuku, et al, 2002)、肺の間質内(interstitially)投与又は他の減感作療法によって投与する、COPD又は喘息の治療方法である。
【0130】
「免疫寛容フラグメント」とは、自身をフラグメントとして含む完全長タンパク質に対して免疫寛容を誘導することが可能なフラグメント(完全長タイプVコラーゲン及びその免疫寛容フラグメントなど)を意味する。所定の実施形態において、免疫寛容フラグメントは、完全長タイプVコラーゲンタンパク質と少なくとも同程度に完全長タイプVコラーゲンに対する免疫寛容を誘導することが可能であり、所定の実施形態においては、完全長コラーゲンタンパク質よりも高い免疫寛容誘導効率を示しうる。しかしながら、所定の実施形態において、免疫寛容フラグメントは完全長タイプVコラーゲンに対する免疫寛容を誘導するが、完全長タイプVコラーゲンタンパク質ほど効率よく免疫寛容を誘導しないこともある。このような免疫寛容フラグメントは、特に、完全長タンパク質と比較して調製又は精製が容易であるなど、他の有利な性質を有する場合は、依然として本発明において有用でありうる。当業者に理解されるように、様々な公知のアッセイを使用して免疫寛容の誘導を評価することが可能であり、これには、遅延型過敏(DTH)反応の測定、ELISAなどによるサイトカイン産生の測定、T細胞増殖又は細胞毒性アッセイ、B細胞増殖アッセイ、抗体産生などが含まれる。このようなアッセイは公知であり、例えば、Current Protocols in Immunology, John E. Coligan, Ada M. Kruisbeek, David H. Margulies, Ethan M. Shevach, Warren Strober編(2001 John Wiley & Sons, NY, NY);Ausubel et al. (2001 Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publ. Assoc. Inc. & John Wiley & Sons, Inc., NY, NY);米国特許第7,348,005号;などに記載されている。
【0131】
したがって、免疫寛容フラグメントは、特定のB細胞及び/又はT細胞に対してそれらの表面受容体(B細胞抗体受容体又はT細胞受容体など)を介してそれ自身が免疫寛容な(即ち、免疫寛容を誘導する)、タイプVコラーゲン又はその1以上の任意のα鎖などの免疫寛容ペプチドのフラグメントである。免疫寛容フラグメントは、通常、Paul, Fundamental Immunology, 3rd ed., (Raven Press, 1993)及び本文献で引用されている参考文献にまとめられた技術などの周知の技術により同定されうる。このような技術には、T細胞及び/又はB細胞の反応性を低減するペプチドのスクリーニングが含まれる。本明細書において、抗血清及び抗体は、抗原に対して特異的に結合する場合(即ち、ELISAや他のイムノアッセイにおいて当該タンパク質と特異的に反応し、無関係なタンパク質と検出可能に反応しない場合)、「抗原特異的」である。このような抗血清及び抗体は、本明細書に記載したように調製されうり、また、周知の技術により調製されうる。
【0132】
一実施形態において、本発明のポリペプチドの免疫寛容フラグメントは、完全長ポリペプチドの免疫寛容誘導活性よりも実質的に低くないレベルでB細胞及び/又はT細胞の免疫寛容を誘導する(例えば、ELISAで測定されうる抗体産生などの適切なアッセイ及び/又はT細胞反応性アッセイ(T細胞増殖又はサイトカイン産生アッセイ)による測定)部分である。免疫寛容誘導性部分の免疫寛容誘導活性レベルは完全長ポリペプチドの免疫寛容誘導活性の少なくとも約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%であることが好ましく、或いは、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%又は約99%よりも大きいことが好ましい。また、対応する完全長ポリペプチドよりも免疫寛容誘導活性レベルが大きい免疫寛容フラグメント(例えば、約100%超、約110%超、約120%超、約130%超、約140%超、約150%超又はそれ以上の免疫寛容誘導活性レベル)が同定されることがある。
【0133】
所定の実施形態において、免疫寛容誘導性部分は、Th応答を誘導しうるペプチドモチーフを検索するTsitesプログラム(Rothbard and Taylor, EMBO J. 7:93-100, 1988; Deavin et al., Mol. Immunol. 33:145-155, 1996を参照)などのコンピュータ分析を使用して同定されうる。マウス及びヒトのクラスIMHC又はクラスIIMHCへの結合に適切なモチーフを有するCTLペプチドは、BIMAS(Parker et al., J. Immunol. 152:163, 1994)及び他のHLAペプチド結合予測分析法に従って同定されうる。あるいは、特定のMHC分子に結合する部分は、Rammensee et al., Immunogenetics 41:178-228, 1995に記載されるような規定のペプチド結合モチーフを使用して同定することが可能である。マウス及びヒトのクラスIMHC分子又はクラスIIMHC分子に結合するペプチドの確認には公知のペプチド結合アッセイが使用されうる。免疫原性又は免疫寛容原性を確認するために、HLA A2若しくは他のトランスジェニックマウスモデル及び/又は樹状細胞、線維芽細胞若しくは末梢血細胞を使用するインビトロ刺激アッセイを使用して、ペプチドを試験してもよい。
【0134】
なお、所定の実施形態において、本発明の免疫寛容フラグメントは免疫原性フラグメントでもある。この点に関して、当業者に認識されるように、colVのようなタンパク質の免疫優勢エピトープなどの高免疫原性フラグメントは、正確に投与(例えば、通常低用量での長期間の投与)された場合、免疫寛容誘発性でありうる。したがって、本発明は、免疫寛容誘導に使用されうるcolVの免疫原性フラグメントの同定及び使用についても意図している。この点に関して、免疫原性部分の免疫原性活性レベルは完全長ポリペプチドの免疫原性活性の少なくとも約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%であるか、或いは、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%又は約99%よりも大きい。また、対応する完全長ポリペプチドよりも免疫原性活性レベルが大きい免疫原性フラグメント(例えば、約100%超、約110%超、約120%超、約130%超、約140%超、約150%超又はそれ以上の免疫原性活性レベル)が同定されることがある。
【0135】
Th応答を誘導しうるペプチドモチーフを検索するTsitesプログラム(Rothbard and Taylor, EMBO J. 7:93-100, 1988; Deavin et al., Mol. Immunol. 33:145-155, 1996を参照)など、免疫寛容誘導性フラグメントの同定に使用したものと同じ分析法が免疫原性フラグメントの同定に使用されうる。マウス及びヒトのクラスIMHC又はクラスIIMHCへの結合に適切なモチーフを有するCTLペプチドは、BIMAS(Parker et al., J. Immunol. 152:163, 1994)及び他のHLAペプチド結合予測分析法に従って同定されうる。あるいは、特定のMHC分子に結合する部分は、Rammensee et al., Immunogenetics 41:178-228, 1995に記載されるような規定のペプチド結合モチーフを使用して同定することが可能である。マウス及びヒトのクラスIMHC分子又はクラスIIMHC分子に結合するペプチドの確認には公知のペプチド結合アッセイが使用されうる。免疫原性又は免疫寛容原性を確認するために、HLA A2若しくは他のトランスジェニックマウスモデル及び/又は樹状細胞、線維芽細胞若しくは末梢血細胞を使用するインビトロ刺激アッセイを使用して、ペプチドを試験してもよい。
【0136】
本発明の方法では、intactなタイプVコラーゲン、又は、その構成要素である免疫寛容誘導性活性又は免疫原性活性を示す1以上の任意のα鎖を使用することが意図される。よって、タイプVコラーゲンの免疫寛容誘導性又は免疫原性フラグメントとは、intactなタイプVコラーゲンのフラグメント、又は、構成要素である1つの任意のα鎖の免疫寛容誘導性又は免疫原性フラグメントを指しうる。所定の実施形態において、本明細書で使用されるcolVは3本のα鎖から構成されるコラーゲン分子を有しうる。更なる実施形態において、colVは、配列番号1、3又は5に記載のポリヌクレオチドにコードされる配列番号2、4又は6に記載のものなど、1以上の任意のα鎖又はその免疫寛容誘導性又は免疫原性フラグメントを有しうる。
【0137】
所定の実施形態において、2以上の免疫寛容誘導性又は免疫原性フラグメントが、別個投与により、組成物に混合して、又は、融合タンパク質として、同時に使用されうる。この点に関して、任意の数の免疫寛容誘導性又は免疫原性フラグメントがcolVに対する免疫寛容誘導に使用されうり、例えば、組成物中に別個のフラグメントとして、又は、リンカーを介した又は介さない融合タンパク質として、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個又はそれ以上の免疫寛容誘導性又は免疫原性フラグメントが使用されうる。所定の実施形態において、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個又はそれ以上のフラグメントが本発明の方法に使用されうる。
【0138】
ある実施形態に係るコラーゲンに結合した抗体の検出は、ELISAなどの多数のイムノアッセイのいずれかにより達成されうる。標準的なテキストブックを参照すればわかるように、広範なイムノアッセイ技術が利用可能であり、これらには非競合型のシングルサイトアッセイ、及び、ツーサイトまたは「サンドイッチ」アッセイ、並びに、従来の競合型アッセイが含まれるが、これらに限定されない。
【0139】
サンドイッチアッセイは最も有効かつ頻繁に使用される抗体ベースアッセイ法であり、本発明の様々な実施形態の実施に使用されうる。サンドイッチアッセイのバリエーションは多数の存在し、その全てが本発明の様々な実施形態に包含される。簡単に説明すると、サンプル内の抗体を検出するための典型的なアッセイでは、未標識の抗原を固相基板上に固定し、固定された抗原分子に試験サンプルを接触させる。適切な時間(すなわち、抗原−抗体複合体が形成するのに十分な時間)インキュベートした後、検出可能なシグナルを生成可能なレポーター分子で標識した抗ヒトIgG抗体などの二次抗体を添加し、抗原−抗体−標識抗体の複合体が形成されるのに十分な時間インキュベートする。未反応物質を全て洗浄除去した後、レポーター分子から生じたシグナルを観察することにより、サンプル内の検出対象の抗体の存在を検出する。結果は、単に可視シグナルを観察するなど定性的であっても、対象サンプルから生じたシグナルと既知量の検出対象抗体を含むコントロールサンプルとを比較して定量してもよい。本アッセイのバリエーションには、固定された抗原にサンプル及び標識抗体を同時に添加する同時アッセイが含まれる。これらの技術は、当業者に自明であるマイナーなバリエーションを含めて、周知である。この典型的なサンドイッチアッセイにおいて、抗原は、例えば、固相表面に共有結合又は受動吸着のいずれかにより固定される。ある実施形態において、固相表面は典型的にはガラス又はポリマーであり、最も一般的に使用されるポリマーはセルロース、ポリアクリルアミド、ナイロン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、又は、ポリプロピレンである。固相支持体はチューブ、ビーズ、ディスク、マイクロプレート、又は、イムノアッセイに適した他の任意の表面でありうる。様々な結合プロセスが周知であり、通常は、所定の表面への抗原の架橋、共有結合又は物理吸着からなる。次いで、試験サンプルを添加するために固定した抗原を洗浄する。次いで、試験サンプルの一部を固定された抗原と接触させ、十分な時間(例えば2〜40分)好適な条件(例えば25℃)でインキュベートして、全ての抗原をサンプル内のコラーゲンと結合させる。実際の接触時間、バッファー条件、温度などは容易に調節できるパラメータであり、通常、所定の試験に応じて容易に設定可能である。インキュベート後、抗体が結合した固定抗原を洗浄・乾燥し、抗ヒトIgG抗体など、結合された抗体に特異的な二次抗体と共にインキュベートする。二次抗体は、二次抗体の抗体−固定抗原複合体への結合を示すために使用されるレポーター分子と連結されている。
【0140】
colVに結合した抗体の測定方法の1つが国際公開第2007/120947号に記載されている。具体的には、本ビーズアッセイは、タイプVコラーゲンに対して自己免疫反応を示す患者の血清及び/又は肺洗浄液に存在しうるタイプVコラーゲンに対する抗体を検出する。本アッセイのために、タイプVコラーゲン被覆ビーズが他の必要な試薬と共に提供される。簡単に述べると、典型的なアッセイは以下のとおりである。1)ストレプトアビジン被覆ビーズ(例えば、Polyscience社(Warrington,PA)製のもの)を滅菌PBS洗浄する。ヒトタイプVコラーゲンを含む適当な容量のPBSにビーズを縣濁する。2)ビオチン化ウサギ抗ヒトタイプVコラーゲン抗体(Abcam,Cambridge,MA)を使用して、前記1)の手順に従ってポジティブコントロールを作製する。3)各アッセイについて、コンジュゲート・ビーズをPBSで洗浄、PBS+肺洗浄液血清の溶液内でインキュベートする。10%FCSを含むPBSでビーズを洗浄する。4)ビーズを滅菌PBS+10%FBS溶液に縣濁し、二次抗体と共に室温でインキュベートする。通常、R−PEを結合した抗ヒトIgG抗体(Sigma,Saint Louis)を使用するが、当業者に理解されるように他の好適な抗体も利用可能である。この点に関して、所定の実施形態において、罹患期間中におけるクラススイッチを検出するためにIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4に特異的な抗体が使用されうる。10%FCSを含むPBSでビーズを洗浄し、PBS/FCS溶液に縣濁し、フローサイトメータで解析する。ポジティブコントロールについて、既知の量の抗colV抗血清又は抗体をビーズアッセイに追加してもよい。
【0141】
COPD患者及び喘息患者に見出されるcolVに対する抗体は通常IgGであるが、IgMなど他のクラスの抗体も存在しうる。さらに、本発明の所定の実施形態において、患者の血清及び/又は肺洗浄液に存在しうるタイプVコラーゲンに対するIgG抗体のサブタイプは罹患期間中に変化する。この点に関して、IgGサブタイプのクラススイッチは罹患期間中に起こりうり、ある種のサブタイプは病状の悪化を示しうる。したがって、1以上の任意のIgGサブタイプ(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4,又はその組み合わせ)が罹患期間中に存在しうる。本発明は、本明細書に記載したビーズアッセイを使用して、タイプVコラーゲン特異的なIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4サブタイプ抗体を検出する方法提供する。当業者に認識されるように、IgGサブタイプ特異的な抗体は市販されており、本発明の方法に使用されうる。所定の実施形態において、IgG1の増加は病状の悪化を示す。他の実施形態において、IgG2サブタイプへのクラススイッチは病状の悪化を示す。更なる実施形態において、IgG3サブタイプへのクラススイッチは病状の悪化を示す。更なる追加的な実施形態において、IgG4サブタイプへのクラススイッチは病状の悪化を示す。
【0142】
組成物、医薬組成物及び使用方法
本発明の免疫寛容誘導性化合物若しくは組成物又はその薬学的に許容可能な塩の純粋な形態での、又は適切な医薬組成物としての投与は、許容されている投与形態のいずれか又は同様の効用をもたらす薬剤により実施することが可能である。本明細書の他の箇所で述べたように、本発明で意図される投与経路は経口投与であるが、様々な他の投与経路のいずれか、特に静脈内投与、筋肉内投与、皮内投与、皮下投与なども使用可能である。本発明の医薬組成物は、本発明の化合物を薬学的に許容可能なキャリア、希釈剤又は賦形剤と組み合わせることで調製可能であり、また、タブレット、カプセル、パウダー、顆粒軟膏、溶液、座薬、注射液、吸入剤、ゲル、ミクロスフィア、及び、エアロゾルなどの固体、半固体、液体又は気体に製剤化されうる。さらに、他の薬学的に有効な成分(他の免疫抑制剤を含む)及び/又は塩、緩衝液及び安定化剤などの賦形剤を組成物に含有させてもよいが、必ずしも必要はない。
【0143】
投与は、経口投与、非経口投与、鼻腔内投与、静脈内投与、皮内投与、皮下投与又は局所投与などの様々な異なる経路で達成されうる。好ましい投与形態は治療又は予防する病状の性質に依存する。投与後に、抗colV免疫反応又はそのような反応の臨床的兆候の発現を低減、阻害、予防又は遅延させる用量が効果的であると考えられる。
【0144】
所定の実施形態において、投与量は本明細書の他の箇所で述べたように免疫活性(T細胞反応、B細胞反応、抗colV抗体の量など)を低減させるのに十分な量である。正確な用量及び治療期間は治療対象の病状に関する関数であり、公知の試験プロトコルを使用して経験的に決定したり、または、公知のモデル系で組成物を試験し、そこから外挿することで決定されうる。対照臨床試験を実施してもよい。用量はまた、改善対象の病状の重症度により変化する。医薬組成物は通常、好ましくない副作用を最小限に抑えつつ、治療上有効な効果が発揮されるように製剤化され、かつ、投与される。組成物は一回で投与しても、感覚を空けて少量を複数回に分けて投与してもよい。任意の特定の対象者に対して、個人のニーズに応じて長期間にわたって特定の投与計画を調節してもよい。
【0145】
本発明の組成物は、単独で又は免疫抑制療法、放射線療法、化学療法、臓器移植、経口コラーゲン療法、免疫療法、ホルモン療法、光線力学的療法などの他の公知の治療法と組み合わせて投与されうる。
【0146】
よって、これら及び関連した医薬組成物の典型的な投与経路は、経口、局所、経皮、吸入、肺内注入、非経口、舌下、口腔、直腸、経膣、及び、鼻腔内が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書において「非経口」とは、皮下投与、静脈内投与、筋肉内投与、胸骨内投与、又は、注入法が含まれる。本発明の組成物は、当該組成物を患者に投与した際に含まれる有効成分が生体利用可能となるように製剤化される。被験者又は患者に投与される組成物は1以上の投与単位とされ、例えば、タブレットは単一の投与単位でありうり、エアロゾル状の本発明に化合物を含む容器は複数回の投与単位を保持しうる。このような剤形の調製方法は公知であるか、当業者に自明である(例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th Edition (Philadelphia College of Pharmacy and Science, 2000を参照))。投与される組成物は、いずれにせよ、本発明の教示に従って対象の病気又は病状を治療するために、治療有効量の本発明の化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含む。
【0147】
本発明の組成物は固体又は液体でありうる。一態様において担体は粒状であるため、本組成物は例えばタブレット状又はパウダー状である。本組成物が、例えば、経口用オイル、注射液又は吸入投与において有用なエアロゾルであるならば、担体は液体でありうる。
【0148】
所定の実施形態において、本治療化合物は圧縮エアロゾル又は噴霧製剤として吸入により患者の肺内へ直接投与される。このような製剤は、肺内投与及び/又経鼻吸入投与に有用である、公知の様々な任意のエアロゾル噴射剤のいずれかを含みうる。また、様々な共溶媒、界面活性剤、安定化剤(酸化防止剤、キレート剤、不活性ガス、及び、バッファーなど)のいずれかを含むかまたは含まない水が含まれうる。多人数用バイアル容器から投与される組成物の場合、抗菌剤が通常添加される。このような組成物はまた、通常フィルター滅菌され、また、安定性を高めかつ溶解性を改善するために凍結乾燥されうる。
【0149】
経口投与を意図する場合、本医薬組成物は固体又は液体のいずれかの形態であることが好ましく、半固体、半液体、サスペンション、及び、ゲルの形態が本発明において固体又は液体として意図される形態に含まれる。経口投与用の固体組成物として、本医薬組成物はパウダー、顆粒、圧縮タブレット、ピル、カプセル、チューインガム、ウエハースなどの形状に製剤化されうる。このような固形組成物は、通常、1つ以上の不活性な希釈剤又は食用の担体を含有する。さらに、1つ以上の下記物質、すなわち、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、微結晶性セルロース、トラガカントガム又はゼラチンなどのバインダー;スターチ、ラクトース又はデキストランなどの賦形剤;アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、Primogel、コーンスターチなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムまたはSterotexなどの滑剤;コロイド状二酸化ケイ素などの光沢剤;スクロースまたはサッカリンなどの甘味剤;ペパーミント、サリチル酸メチルまたはオレンジ香味料などの香料;着色剤を含みうる。
【0150】
本医薬組成物がゼラチンカプセルなどのカプセルである場合、上記物質の他にポリエチレングリコール又はオイルなどの液体担体が含有されうる。
【0151】
本医薬組成物は、エリキシル、シロップ、溶液、エマルジョン又はサスペンションなどの液体でありうる。二つの例として、液体は経口投与用又は注射送達用でありうる。経口投与を意図する場合、好ましい組成物は、本発明の化合物の他に甘味剤、防腐剤、色素/着色剤及び香料向上剤の1つ以上を含有する。注射投与を意図する場合、界面活性剤、防腐剤、湿潤剤、分散剤、縣濁剤、バッファー、安定化剤、及び、等張剤の1つ以上を含有しうる。
【0152】
液体状の本発明の医薬組成物は、溶液やサスペンションであることを問わず、1つ以上の下記アジュバント、すなわち、注射用水、食塩溶液(好ましくは生理食塩水、リンガー溶液、等張塩化ナトリウム)、溶媒又は縣濁溶媒となりうる合成モノ(又はジ)グリセリドなどの不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールなどの溶媒などの滅菌希釈剤;ベンジルアルコール又はメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウムなどの酸化防止剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩などのバッファー;及び、塩化ナトリウム又はデキストロースなどの等張性調製剤を含みうる。非経口用製剤は、アンプル、使い捨て注射器、又は、ガラス又はプラスチック製の複数回投与用バイアル瓶に封入することが可能である。生理食塩水が好ましいアジュバントである。注射可能な医薬組成物は好ましくは無菌である。
【0153】
非経口投与用又は経口投与用の液体状の本発明の医薬組成物は、本発明の化合物を、好適な投与量が得られるような量で含むべきである。本発明の化合物の組成物中における当該量は、通常、少なくとも0.01%である。経口投与を意図する場合、当該量は組成物の約0.1重量%〜約70重量%の間で変動しうる。ある経口用医薬組成物は、本発明の化合物を約4%〜約75%の量で含有する。本発明に係る所定の医薬組成物及び製剤は、非経口的単位投与量が、希釈前の本発明の化合物を0.01重量%〜10重量%含むように調製される。
【0154】
本発明の医薬組成物は局所投与が意図されうり、かかる場合担体は溶液、エマルジョン、軟膏又はゲル基材を好適に含みうる。ゲルは、例えば、1つ以上の下記物質、すなわち、ワセリン、ラノリン、ポリエチレングリコール、蜜蝋、鉱油、水及びアルコールなどの希釈剤、乳化剤、及び、安定化剤を含みうる。局所投与用医薬組成物の場合、増粘剤が含有されうる。経皮投与を意図する場合、本組成物は経皮パッチ又はイオンフォトレーシス装置を含みうる。局所投与用製剤は本発明の化合物を約0.1〜約10%(w/v)(単位体積あたりの重量)含みうる。
【0155】
本発明の医薬組成物は、例えば、直腸内で溶けて薬物を放出する座薬としての直腸内投与が意図されうる。直腸内投与用の本組成物は、好適な非刺激性の賦形剤として油性基材を含みうる。このような基材としては、ラノリン、ココアバター、及び、ポリエチレングリコールが含まれるが、これらに限定されない。
【0156】
本発明の医薬組成物は、固体又は液体の投薬単位の物理的形状を改変する様々な物質を含みうる。例えば、本組成物は有効成分周辺に被覆殻を形成する物質を含みうる。被覆殻を形成する物質は通常不活性であり、例えば、糖、セラック、及び、他の腸溶性被覆剤から選択されうる。あるいは、有効成分はゼラチンカプセル内に入っていてもよい。
【0157】
固体又は液体状の本発明の医薬組成物は、本発明の化合物に結合して当該化合物の送達を助ける物質を含みうる。かかる機能を有する好適な物質には、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、タンパク質、又は、リポソームが含まれる。
【0158】
本発明の医薬組成物は、エアロゾルとして投与可能な投与単位から構成されうる。「エアロゾル」とは、コロイドの性質を有するものから、加圧パッケージ(pressurized package)からなる系までの範囲にわたる様々な系を示すのに使用される。送達は、液化または圧縮ガスによっても、有効成分を分配する適切なポンプ・システムによってもよい。本発明の化合物のエアロゾルは、有効成分を送達するために、単相、二相または三相の系で送達されうる。エアロゾルの送達には、必要な容器、アクチベーター、バルブ、副容器(subcontainer)などが含まれ、それらは共にキットを形成してもよい。当業者は、過度な実験をせずに、好ましいエアロゾルを決定しうる。
【0159】
本発明の医薬組成物は、医薬分野で周知の方法により製造されうる。例えば、注射による投与を意図する医薬組成物は、本発明の化合物を滅菌蒸留水と組み合わせて溶液とすることにより製造可能である。均一な溶液又はサスペンションの形成を容易とするために、界面活性剤が添加されうる。界面活性剤は、本発明の化合物と非共有結合的に相互作用して、水性送達系において本化合物の溶解又は均一な懸濁を助ける化合物である。
【0160】
本発明の化合物又はその医薬的に許容可能な塩は治療有効量で投与され、当該治療有効量は、用いる当該特定の化合物の活性;これら化合物の代謝安定性および作用期間;患者の年齢、体重、全身的健康状態、性別、食事;投与の様式および時間;排出速度;薬物の組合せ;特定の病状の重篤度;治療を受ける患者など、様々な要素に応じて変動しうる。一般的に、1日の治療有効用量は、(体重70kgの哺乳類について)約0.001mg/kg(即ち、0.07mg)〜約100mg/kg(即ち、7.0g)であり;好ましくは、治療有効用量は、(体重70kgの哺乳類について)約0.01mg/kg(即ち、0.7mg)〜約50mg/kg(即ち、3.5g)であり;より好ましくは、治療有効用量は、(体重70kgの哺乳類について)約1mg/kg(即ち、70mg)〜約25mg/kg(即ち、1.75g)である。
【0161】
所定の実施形態において、colVの経口投与量は1日あたり0.001mg〜500mgである。特定の実施形態において、本明細書に記載されるcolVの経口投与量は1日あたり0.01mg〜50mgである。更なる実施形態において、本明細書に記載されるcolVの経口投与量は1日あたり0.1mg〜0.5mgである。一実施形態において、colVの経口投与量は1日あたり0.01mg、0.02mg、0.03mg、0.04mg、0.05mg、0.06mg、0.07mg、0.08mg、0.09mg、又は、0.1mg、0.2mg、0.3mg、0.4mg、0.5mg、0.6mg、0.7mg、0.8mg、0.9mg、1.0mg、1.1mg、1.2mg、1.3mg、1.4mg、1.5mg、1.6mg、1.7mg、1.8mg、1.9mg、2.0mg、2.1mg、2.2mg、2.3mg、2.4mg、2.5mg、2.6mg、2.7mg、2.8mg、2.9mg、3.0mg、3.1mg、3.2mg、3.3mg、3.4mg、3.5mg、3.6mg、3.7mg、3.8mg、3.9mg、4.0mg、4.1mg、4.2mg、4.3mg、4.4mg、4.5mg、4.6mg、4.7mg、4.8mg、4.9mg又は5.0mgである。他の実施形態において、colVの経口投与量は1日あたり5.1mg、5.2mg、5.3mg、5.4mg、5.5mg、5.6mg、5.7mg、5.8mg、5.9mg、6.0mg、6.1mg、6.2mg、6.3mg、6.4mg、6.5mg、6.6mg、6.7mg、6.8mg、6.9mg、7.0mg、7.1mg、7.2mg、7.3mg、7.4mg、7.5mg、7.6mg、7.7mg、7.8mg、7.9mg又は8.0mgでありうる。所定の実施形態において、前記用量は1回で投与しても、或いは、例えば1日に2回、3回又は4回など、1日に複数回にわたって投与して合計で1日分の用量を投与してもよい。
【0162】
本明細書の他の箇所で説明したように、所定の実施形態において、本明細書に記載されるcolVの治療有効用量は、本明細書に記載される様々な方法のいずれかにより測定して、colVに対する免疫寛容を誘導するのに十分な用量である。所定の実施形態において、colVに対する免疫寛容性を誘導することにより、ELISAなど本明細書に記載される方法で測定した血清中の抗colV抗体の量が減少する。更なる実施形態において、本明細書におけるcolVの治療有効用量は、サイトカイン遊離アッセイ、細胞内サイトカイン染色、フローサイトメトリー、及び、ELISPOTなどの本明細書に記載される様々な方法のいずれかにより測定して、colVに対するT細胞免疫寛容を誘導するのに十分な用量である。細胞毒性・増殖アッセイなどの機能性T細胞アッセイも使用されうる。
【0163】
また、本発明の化合物又はその薬学的に許容可能な塩は、1以上の他の治療薬の投与と同時に、投与前に、又は、投与後に投与されうる。このような併用療法には、本発明の化合物と1以上の他の薬剤とを含有する単一の医薬製剤を投与することだけでなく、本発明の化合物と各薬剤とをそれぞれ別個の医薬製剤として投与することも含まれる。例えば、本発明の化合物と他の薬剤とを、タブレット又はカプセルなどの単一の経口剤形組成物として、或いは、これら各薬剤を別個の経口用製剤として、同時に患者に投与することが可能である。別個の製剤を投与する場合、本発明の化合物及び他の1以上の薬物をほぼ同時に(即ち、併用)投与することも、あるいは時間をずらして(即ち、連続的に)投与することも可能である。併用療法にはこのような投与計画が包含されることを理解されたい。
【0164】
本発明の化合物は、COPD並びに重症喘息及び持続性喘息など、本明細書に記載される病気又は病状に苦しむ個体に対して投与されうる。ヒトの病気の治療のためにインビボで使用する場合、本明細書に記載される化合物は、通常、投与前に医薬組成物に組み込まれる。医薬組成物は、1以上の本明細書に記載の化合物を本明細書の他の箇所に記載の薬学的に許容可能な担体又は賦形剤と組み合わせて含有する。医薬組成物を調製するために、1以上の有効量の本化合物を当業者に公知な任意の医薬担体又は賦形剤と混合して特定の投与形態に対して好適な医薬組成物とする。医薬担体は液体、半液体又は固体でありうる。非経口投与、経皮投与、皮下投与又は局所投与の用途に使用される溶液又はサスペンションには、例えば、滅菌希釈剤(水など)、食塩溶液、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又は他の合成溶媒;抗菌剤(ベンジルアルコール又はメチルパラベンなど);酸化防止剤(アスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウム)及びキレート剤(エチレンジアミン四酢酸(EDTA));及び、バッファー(酢酸塩、クエン酸塩及びリン酸塩)が含まれる。静脈内投与の場合、好適なキャリアには、生理食塩水又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、及び、グルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びその混合物などの増粘剤及び可溶化剤を含有する溶液がある。
【0165】
本明細書に記載の化合物は、時間放出製剤又はコーティングなど、体内からの当該化合物の急激な排除を防止する担体と共に調製されうる。このような担体には、インプラント;マイクロカプセル送達システム;生分解性・生物適合性ポリマー(エチレン酢酸ビニル、ポリグリコール酸、ポリオルトエステル、ポリ乳酸、及び、他の当業者に公知のものなど)などの除放製剤が含まれるがこれらに限定されない。
【0166】
所定の実施形態において、免疫寛容の誘導を助けるアジュバントにはデキサメタゾン(Y. Kang, et al., J. Immunol. 2008, 180: 5172-5176を参照)、リポポリサッカライド(LPS)、及び、コレラ毒のβサブニットが含まれ、製剤に添加されうる。他の所定の免疫寛容誘導性担体も、本発明のcolV組成物と共に使用されることが意図される。このような担体には、不完全フロイントアジュバント(IFA)又は完全フロイントアジュバント(CFA)が含まれる。IFAは鉱油のエマルジョンであり、CFAは死滅させたミコバクテリアを様々な量で含む鉱油の調合液である。しなしながら、IFA及びCFAはヒトに対して使用することは許されない。鉱油は代謝されず体内で分解できないからである。
【0167】
所定の実施形態において、ヒト患者の経静脈栄養摂取に長年使用されている脂肪エマルジョンも、本発明のポリペプチドによる免疫寛容誘導性ポリペプチド療法のビヒクルとなりうる。そのようなエマルジョンの2つの例は、Intralipid及びLipofundinとして市販されている周知の脂肪エマルジョンである。「Intralipid」は、Kabi Pharmacia(スウェーデン)の登録商標であり、米国特許第3,169,094号に開示されている点滴用脂肪乳剤である。「Lipofundin」は、B.Braun Melsugen(ドイツ)の登録商標である。両方とも、脂肪として大豆油を含有する(1,000mlの蒸留水に100g(10%)又は200g(20%))。乳化剤としてIntralipidは卵黄リン脂質を使用しており (蒸留水1リットル当たり12g)、Lipofundinは卵黄レシチンを使用している (蒸留水1リットル当たり12g)。IntralipidとLipofundinの両方で、グリセロール(25g/l)添加により等張性が得られる。これらのビヒクルは、疑わしい自己抗原と複合化して自己免疫T細胞のTH1タイプの応答からTH2タイプの応答へのシフトを促進する、実際に生物活性のある担体であると考えられている。所定の実施形態において、このようなビヒクルは、植物及び/又は動物由来のトリグリセリド10〜20%、植物及び/又は動物由来のリン脂質1.2〜2.4%、浸透圧調節剤2.25〜4.5%、酸化防止剤0〜0.05%、及び、滅菌水を100%まで含む。
【0168】
所定の実施形態において、colV又はその免疫寛容誘導性フラグメントは、GI取込みを向上させるためにジフテリア毒素受容体と連結されうる。
【0169】
本発明の免疫寛容誘導性組成物は、喘息、COPD、及び、colVに対する自己免疫に関連する他の肺疾患の治療に使用されうる。したがって、本発明は、一実施形態において、治療有効量のタイプVコラーゲン又はその免疫寛容誘導性フラグメント若しくは免疫原性フラグメントを、免疫寛容を誘導させるのに有効な用量でCOPD患者に投与するステップを含む、慢性閉塞性肺疾患の治療方法を提供する。この点に関して、COPD患者は気腫又は慢性閉塞性気管支炎でありうる。
【0170】
他の態様において、本発明は、治療有効量のタイプVコラーゲン又はその免疫寛容誘導性フラグメント若しくは免疫原性フラグメントを、免疫寛容を誘導させるのに有効な用量で喘息患者に投与するステップを含む、喘息の治療方法を提供する。この点に関して、喘息患者は重症の持続性喘息でありうる。他の実施形態において、本発明は喘息患者の喘息の重症度を低減する方法を提供する。
【0171】
さらに、本発明は、治療有効量のタイプVコラーゲン又はその免疫寛容誘導性フラグメントを、慢性閉塞性肺疾患を発症するリスクのある対象者に投与するステップを含む、慢性閉塞性肺疾患の発症予防方法が提供される。
【0172】
本明細書の他の箇所で述べたとおり、intactなタイプVコラーゲン又はその構成要素である1以上の任意のα鎖、若しくはこれらの分子の任意の免疫寛容誘導性フラグメントが投与されうる。さらに、本明細書の他の箇所で述べたとおり、intactなタイプVコラーゲン又はその構成要素である1以上の任意のα鎖の免疫寛容誘導性フラグメントが、本明細書に記載の方法のいずれかを用いて、colVに対する免疫寛容を誘導する用量で投与されうる。このような用量は、用いる当該特定のタンパク質又はフラグメントの活性;これら化合物の代謝安定性および作用期間;患者の年齢、体重、全身的健康状態、性別、食事;投与の様式および時間;排出速度;薬物の組合せ;特定の病状の重篤度;治療を受ける患者など、様々な要素に応じて変動する。したがって、このような免疫寛容誘導するための用量は、公知の試験プロトコルを使用して経験的に決定したり、または、公知のモデル系で組成物を試験し、そこから外挿することで決定されうる。対照臨床試験を実施してもよい。用量はまた、改善対象の病状の重症度により変化する。
【0173】
当業者に理解されるように、COPD又は喘息を治療、予防又はそれらの重症度を低減するための本発明の化合物及び方法の有効性を決定するために、様々な要素を評価することが可能である。このような要素には、当業者が評価可能な喘息又はCOPDの典型的な臨床症状が含まれる。このような症状には、喘息の場合では、喘鳴;胸部圧迫感又は痛み;頻脈;発汗;ピークフローメータで測定した最大呼気流量;特に夜間の頻繁な咳;呼吸の喪失しやすさ又は息切れ;運動時の大きい疲労感又は弱り;運動後の喘鳴又は咳;疲労感、動揺しやすい、怒りっぽい、不機嫌になりやすい;ピークフローメータで測定した肺機能の低下又は変化;風邪又はアレルギーの兆候(くしゃみ、鼻水、咳、鼻づまり、喉の痛み、及び、頭痛);及び、睡眠障害が含まれるが、これらに限定されない。このような要素には、痰の量;痰の濃さ又は粘性;痰の又は痰内の血の存在;息切れ、咳及び/又は喘鳴の重症度;かかとの腫れ;物忘れ;混乱、不明瞭な発語、及び、眠気;睡眠障害;枕をたくさん使用したり、息切れを避けるためにベッドの代わりに椅子で寝ること;原因不明の体重の増減;疲労及び持続性の無気力;精力の欠如;起床時の頭痛、目眩い、情動不安など、COPDの典型的な臨床症状が含まれるが、これらに限定されない。
【0174】
本発明の組成物及び方法は、他の公知のCOPD・喘息治療薬(コルチコステロイド(プレドニゾン、フルチカゾン、メチルプレドニゾンなど)、気管支拡張剤(短時間作用型又は長時間作用型β2アゴニスト、テオフィリン、ピルブテロール、エフェドリン、アルブテロール、サルメテロール、レバブテロール、クレンブテロール、臭化イプラトロピウムなど)、及び、ロイコトリエン修飾薬(モンテルカスト、ザフィルルカスト、ジレウトンなど)などが挙げられるが、これらに限定されない)と併用することが可能である。
【0175】
参考文献
本明細書に記載の事項を補完する例示的な手順及び他の詳細事項を提供する限りにおいて、下記参考文献を参照により本明細書に援用する。
Chen, Inobe, Marks, Gonnella, Kuchroo, Weiner, “Peripheral deletion of antigen-reactive T cells in oral tolerance,” Nature, 376:177-180, 1995. Chen, Kuchroo, Inobe, Hafler, Weiner, "Regulatory T-cell clones induced by oral tolerance: suppression of autoimmune encephalomyelitis," Science, 265:1237-1240, 1994. Chiang, Mainardi, Seyer, "Type V(A-B) collagen induces platelet aggregation," J. Lab. Clin. Med., 95:99-107, 1980. Cremer, Ye, Terato, Owens, Seyer, Kang, "Type XI collagen-induced arthritis in the Lewis rat: characterization of cellular and humoral immune responses to native types XI, V, and II collagen and constituent α-chains," J. Immunol. 153:824-832, 1994. Danzer, Kirchner, Rink, "Cytokine interactions in human mixed lymphocyte culture," Transplantation, 57(11):1638-1642, 1994. DeMeester, Rolfe, Kunkel, Swiderski, Lincoln, Deeb, Strieter, "The bimodal expression of tumor necrosis factor-α in association with rat lung reimplantation and allograft rejection," J. Immunol., 150(6):2494-2505, 1993. Faria and Weiner, "Oral tolerance: mechanisms and therapeutic applications," Adv. Immunol., 73:153-264, 1999. Fedoseyeva, Zhang, Orr, Levin, Buncke, Benichou, "De novo autoimmunity to cardiac myosin after heart transplantation and its contribution to the rejection process," J. Immunol., 162:6836-42, 1999. Garrovillo, Ali, Oluwole, "Indirect allorecognition in acquired thymic tolerance: induction of donor-specific tolerance to rat cardiac allografts by allopeptide-pulsed host dendritic cells," Transplantation, 68:1827-1834, 1999. Hancock, Sayegh, Kwok, Weiner, Carpenter, "Oral, but not intravenous, alloantigen prevents accelerated allograft rejection by selective intragraft Th2 cell activation," Transplantation, 55:1112-1118, 1993. Hanson, Gorman, Oui, Cheah, Solomon, Trowsdale, "The human α 2(XI) collagen gene (COL11A2) maps to the centromeric of the major histocompatibility complex on chromosome 6," Genomics, 5:925-931, 1989. Hirt, You, Moller, Boeke, Starke, Spranger, Wottge, "Development of obliterative bronchiolitis after allogeneic rat lung transplantation: Implication of acute rejection and the time point of treatment," J. Heart Lung Transplant., 18:542-548, 1999. Huang, Fuchimoto, Scheier-Dolberg, Murphy, Neville, Sachs, J. Clin. Invest., 105:173-181, 2000. Ishido, Matsuoka, Matsuno, Nakagawa, Tanaka, "Induction of donor-specific hyporesponsiveness and prolongation of cardiac allograft survival by jejunal administration of donor splenocytes," Transplantation, 68:1377-1382, 1999. Iyer, Woo, Cornejo, Gao, McCoubrey, Maines, Buelow, "Characterization and biologic significance of immunosuppressive peptide D2702.75-84(E α V) binding protein," J. Bio. Chem., 273(5):2692-2697, 1998. Joo, Pepose, Stuart, "T-cell mediated responses in a murine model of orthotopic corneal transplantation," Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 36:1530-1540, 1995. Konomi, Hayashi, Nakayasu, Arima, "Localization of type V collagen and type IV collagen in human cornea, lung, and skin," Am. J. Pathol., 116:417-426, 1984. Krensky and Clayberger, "HLA-derived peptides as novel immunosuppressives," Nephrol. Dial. Transplant., 12:865-878, 1997. Lowry, Marghesco, Blackburn, "Immune mechanisms in organ allograft rejection. VI. Delayed-type hypersensitivity and lymphotoxin in experimental renal allograft rejection," Transplantation., 40:183-188, 1985. Madri and Furthmayr, "Collagen polymorphism in the lung," Human Pathology, 11:353-366, 1980. Madri and Furthmayr, "Isolation and tissue localization of type AB2 collagen from normal lung parenchyma," Am. J. Pathol., 94:323-332, 1979. Marck, Prop, Widevuur, "Lung transplantation in the rat. III. Functional studies in iso- and allografts," J. Surgical Res., 35:149-158, 1983. Matsumura, Marchevsky, Zuo, Kass, Matloff, Jordan, "Assessment of pathological changes associated with chronic allograft rejection and tolerance in two experimental models of rat lung transplantation," Transplantation., 59:1509-1517, 1995. Morris and Bachinger, "Type XI collagen is a heterotrimer with the composition (1α,2α, 3α) retaining non-triple helical domains. J. Biological Chem., 262:11345-11350, 1987. Murphy, Magee, Alexander, Waaga, Snoeck, Vella, Carpenter, Sayagh, "Inhibition of allorecognition by a human class II MHC-derived peptide through the induction of apoptosis," J. Clin. Invest., 103:859-867, 1999. Nosner, Goldberg, Naftzger, Lyu, Clayberger, Krensky, "HLA-derived peptides which inhibit T cell function bind to members of the heat-shock protein 70 family," J. Exp. Med., 183:339-348, 1996. Oluwole, Chowdhury, Jin, Hardy, "Induction of transplantation intolerance to rat cardiac allografts by intrathymic inoculation of allogeneic soluble peptides," Transplantation, 56(6):1523-1527, 1993. Prop, Nieuwenhuis, Wildevuur, "Lung allograft rejection in the rat. I. Accelerated rejection caused by graft lymphocytes," Transplantation, 40:25-30, 1985. Prop, Wildevuur, Nieuwenhuis, "Lung allograft rejection in the rat. II. Specific immunological properties of lung grafts," Transplantation, 40:126-131, 1985. Sayagh, Watschinger, Carpenter, "Mechanisms of T cell recognition of alloantigen," Transplantation, 57:(9)1295-1302, 1994. Sayegh and Krensky, "Novel immunotherapeutic strategies using MHC derived peptides," Kidney Int. Suppl. 53:S13-20, 1996. Sayegh, Khoury, Hancock, Weiner, Carpenter, "Induction of immunity and oral tolerance with polymorphic class II major histocompatibility complex allopeptides in the rat," Proc. Natl. Acad. Sci., 89: 7762-7766, 1992. Sayegh, Zhang, Hancock, Kwok, Carpenter, Weiner, "Down-regulation of the immune response to histocompatibility antigens and prevention of sensitization by skin allografts by orally administered alloantigen," Transplantation, 53:163-166, 1992. Sekine, Nowen, Heidler, Van Rooijen, Brown, Cummings, Wilkes, "Role of passenger leukocytes in allograft rejection--Effect of depletion donor alveolar Macrophages on the local production of TNF-alpha, T helper 1/Thelper 2 cytokines, IgG subclasses, and pathology in a rat model of lung transplantation," J. Immunol, 159:4084-4093, 1997. Seyer and Kang, "Covalent structure of collagen: amino acid sequence of three cyanogen bromide-derived peptides from human alpha 1(V) collagen chain. Arch. Biochem. Biophys. 271(1): 120-129, 1989. SivaSai, Smith, Poindexter, Sundaresan, Trulock, Lynch, Cooper, Patterson, Mohanakumar, "Indirect recognition of donor HLA class I peptides in lung transplant recipients with bronchiolitis obliterans syndrome," Transplantation. 67(8):1094-1098, 1999. Smith Jr, Williams, Brandt, "Interaction of proteoglycans with pericellular (1 alpha, 2 alpha, 3 alpha) collagens of cartilage," J. Biol. Chem., 260:10761-10767, 1985. Stark and Ostrow, Training Manual Series, Laboratory Animal Technician, American Association for Laboratory Animal Science, 181-182, 1990. Strober and Coffman, "Tolerance and immunity in the mucosal immune system," Res. Immunol., 148:489-599, 1997. Trulock, "Lung transplantation," Am. J. Respir. Crit. Care Med., 155:789-818, 1997. VanBuskirk, Wakely, Sirak, Orosz, "Patterns of allosensitization in allograft recipients: long-term allograft acceptance is associated with active alloantibody production in conjunction with active inhibition of alloreactive delayed-type hypersensitivity," Transplantation., 65:1115-1123, 1998. Westra, Prop, Kuijpers, "A paradox in heart and lung rejection," Transplantation, 49:826-828, 1990. Whitacre, Gienapp, Orosz, Bitar, "Oral tolerance in experimental autoimmune encephalomyelitis. III. Evidence for clonal anergy," J. Immunol., 147:2155-2163, 1991. Wilkes, Bowman, Cummings, Heidler, "Allogeneic bronchoalveolar lavage cells induce the histology and immunology of lung allograft rejection in recipient murine lungs. Role of ICAM-1 on donor cells," Transplantation, 67(6):890-896, 1999. Wilkes, Heidler, Bowen, Quinlan, Doyle, Cummings, Doerschuk, "Allogeneic bronchoalveolar lavage cells induce the histology of acute lung allograft rejection, and deposition of IGg2a in recipient murine lungs," J. Immunol., 155:2775-2783, 1995. Wilkes, Thompson, Cummings, Bragg, Heidler, "Instillation of allogeneic lung macrophages and dendritic cells cause differential effects on local IFY-γproduction, lymphocytic bronchitis, and vasculitis in recipient murine lungs," J. Leukoc. Biol. 64:578-586, 1998. Wilson, Ebringer, Ahmadi, Wrigglesworth, Tiwana, Fielder, Binder, Ettelaie, Cunningham, Joannou, Bansal," "Shared amino acid sequences between major histocompatibility complex class II glycoproteins, type XI collagen and Proteus mirabilis in rheumatoid arthritis," Ann. Rheum. Dis.," 54:216-220, 1995. Woessner Jr., "The determination of hydroxyproline in tissue and protein samples containing small proportions of this immino acid," Arch. Biochem. Biophys. 93:440-447, 1961. Yagyu, Steinhoff, Schafers, Dammenhayn, Haverich, Borst, "Comparison of mononuclear cell populations in brochoalveolar lavage fluid in acute rejection after lung transplantation and Mycoplasma infection in rats," J. Heart Transplant., 9:516-525, 1990. Yamagami, Tsuru, Ohkawa, Endo, Isobe, "Suppression of allograft rejection with anti-alpha beta T cell receptor antibody in rat corneal transplantation," Transplantation, 67:600-604, 1999. Yoshino, Quattrocchi, Weiner, "Suppression of antigen-induced arthritis in Lewis rats by oral administration of type II collagen," Arthritis Rheum. 38: 1092-1096, 1995. Yousem, Berry, Cagle, Chamberlain, Husain, Hruban, Marchevsky, Ohori, Ritter, Stewart, Tazelaar," "Revision of the 1990 working formulation for the classification of pulmonary allograft rejection: Lung rejection study group," J. Heart Lung Transplant, 15:1-15, 1996. Zheng, M
arkees, Hancock, Li, Greine, Li, Mordes, Sayegh, Rossini, Strom, "CTLA4 signals are required to optimally induce allograft tolerance with combined donor-specific transfusion and anti-CD154 monoclonal antibody treatment," J. Immunol., 162:4983-4990, 1999.
【実施例】
【0176】
(実施例1)
COPD患者で増加した抗タイプVコラーゲン抗体
正常ボランティア(非喫煙者、成人、年齢18〜55歳)及び肺気腫が確認されたボランティアから血漿を採取した。COPD患者及びコントロールの健康な被験者における抗colV抗体量を、国際公開第2007/120947号に記載のフローサイトメトリービーズアッセイにより検出した。
【0177】
簡単に述べると、1)ストレプトアビジン被覆ビーズ(5μm、結合能:10〜20μg/1x10ビーズ(Polyscience,Warrington,PA)を滅菌PBSで2回洗浄した後、ヒトタイプVコラーゲン40μgを含むPBS100μlにビーズ(1x10個)を縣濁し、4℃で60分インキュベートした。2)20μmのビオチン化ウサギ抗ヒトタイプVコラーゲン抗体(Abcam,Cambridge,MA)を使用して、前記1)の手順に従ってポジティブコントロールを作製した。3)各アッセイについて、1x10個のコンジュゲート・ビーズをPBSで二回洗浄し、PBS(100μl)+血清(50μl)の溶液内でインキュベートした。室温で30分インキュベートした後、10%FCSを含むPBSでビーズを3回洗浄した。4)ビーズを滅菌PBS+10%FBS溶液100μlに縣濁し、二次抗体と共に室温で約30分インキュベートした。定法により、R−PEを結合した抗ヒトIgG抗体(Sigma,Saint Louis)を5μl用いた。10%FCSを含むPBSでビーズを3回洗浄し、PBS/FCS溶液300μlに縣濁し、フローサイトメータで解析した。
【0178】
図1に示すように、コントロール(N=42)と比較して、COPD患者(N=16)では抗タイプVコラーゲン抗体が著しく増加している。
【0179】
(実施例2)
喘息患者における抗タイプVコラーゲン抗体の増加
正常ボランティア(非喫煙者、成人、年齢18〜55歳)及び慢性喘息が確認されたボランティアから血漿を採取した。喘息患者及びコントロールのボランティア被験者における抗colV抗体量を実施例1に記載のビーズアッセイにより測定した。
【0180】
図2に示すように、喘息患者20人中8人において抗タイプVコラーゲン抗体の増加が観察された。
【0181】
(実施例3)
タイプVコラーゲンの静脈内投与によるマウスにおける卵白アルブミン誘発性気道過敏の抑制
本実施例は、確立されたマウス喘息モデルにおいて、卵白アルブミン誘発性気道過敏がタイプVコラーゲンの静脈内投与によって抑制されることを示す。
【0182】
Balb/cマウスに、colV(単独)、完全フロイントアジュバント(CFA)と混合したcol(V)、PBS(単独)、又は、CFA(単独)を100μg尾静脈内投与した。7日後、卵白アルブミン(OVA)のミョウバン(alum)溶液を腹腔内投与し、更に7日後にこれを繰り返した。最後のOVA/alum投与から7日後に、各グループのマウスにエアロゾル化卵白アルブミンを徐々に用量を増加させて投与し、各投与後に気道抵抗(PenH)を測定した。
【0183】
結果は、col(V)単独が卵白アルブミン誘発性気道過敏を抑制することを示している(図3)。更なる実験を行って、この結果を確認した。結果を下記表2にまとめる。
【表2】

【0184】
(実施例4)
タイプVコラーゲンの静脈内投与による肺単核細胞内におけるIFN−γ転写産物の誘発
本実施例は、col(V)単独の静脈内投与が、IFN−γ転写産物の誘発に特徴付けられる肺単核細胞内のTH1反応を誘発することを示す。Balb/cマウスに、colV(単独)、CFA(単独;尻尾基部から投与)、col(V)+CFA(尻尾基部から投与)、又は、PBS(単独;i.v.)を100μg尾静脈内投与した。7日後、卵白アルブミン(OVA)のミョウバン(alum)溶液を腹腔内投与し、更に7日後にこれを繰り返した。最後のOVA/alum投与から7日後に、各グループのマウスにエアロゾル化メタコリンを徐々に用量を増加させて投与し、各投与後にメタコラインチャレンジに対する気道抵抗(PenH)を測定した。各処置グループのマウスの肺実質からの単核細胞からRNAを抽出し、定量PCRを行って、IL−4、IL−5、IL−13、IFN−γ、IL−10の発現量を測定した(図4を参照;データは各グループ5匹のマウスからプールした肺単核細胞のRNA量を表す)。
【0185】
本実験の結果は、col(V)単独の静脈内投与が肺単核細胞においてIFN−γ転写産物を誘発したことを示している。IFN−γは、喘息発症に重要な役割を果たしていると考えられている2つサイトカインである、IL−13及びIL−4のアンタゴニストである。したがって、理論に拘束されず、IL−4/IL−13の効果に対抗するこのTH1反応の誘発は、卵白アルブミン誘発性喘息のcolVによる抑制効果に関与していると考えられる。
【0186】
本明細書において参照及び/又は出願データシートに列挙した上記米国特許、米国特許出願公開公報、米国特許出願、外国特許、外国特許出願、及び、非特許出願公報は、その全体を参照により本明細書に援用する。
【0187】
以上、本発明の特定の実施形態について例示を目的として説明したが、本発明の要旨及び範囲を逸脱しない範囲で様々な変形が考えられうることが上記記載より理解されるであろう。よって、本発明は、添付の特許請求の範囲に限定される場合を除いて限定的なものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量のタイプVコラーゲン又はその免疫寛容誘導性フラグメントを含む、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の慢性閉塞性肺疾患を治療するための組成物。
【請求項2】
前記慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者は気腫又は慢性閉塞性気管支炎に罹患している、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記タイプVコラーゲン又はその免疫寛容誘導性フラグメントは経口投与用に調製される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記タイプVコラーゲンを0.1mg〜0.5mg含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記タイプVコラーゲン又はその免疫寛容誘導性フラグメントは静脈内投与用、肺内注入用、吸入用、又は、筋肉内投与用に調製される、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
気管支拡張薬を更に含むか又は気管支拡張薬と共に投与されるための、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
コルチコステロイドを更に含むか又はコルチコステロイドと共に投与されるための、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
治療有効量のタイプVコラーゲン又はその免疫寛容誘導性フラグメントを含む、喘息を治療するための組成物。
【請求項9】
前記タイプVコラーゲン又はその免疫寛容誘導性フラグメントは静脈内投与用、肺内注入用、吸入用、又は、筋肉内投与用に調製される、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記タイプVコラーゲンは0.1mg〜0.5mgの用量で投与される、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
コルチコステロイドを更に含むか又はコルチコステロイドと共に投与されるための、請求項8に記載の組成物。
【請求項12】
気管支拡張薬を更に含むか又は気管支拡張薬と共に投与されるための、請求項8に記載の組成物。
【請求項13】
ロイコトリエン修飾薬を更に含むか又はロイコトリエン修飾薬と共に投与されるための、請求項8に記載の組成物。
【請求項14】
治療有効量のタイプVコラーゲン又はその免疫寛容誘導性フラグメントを含む、慢性閉塞性肺疾患を発症するリスクのある対象者の慢性閉塞性肺疾患の発症を予防するための組成物。
【請求項15】
前記タイプVコラーゲン又はその免疫寛容誘導性フラグメントは経口投与される、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記タイプVコラーゲンは0.1mg〜0.5mgの用量で投与される、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記タイプVコラーゲン又はその免疫寛容誘導性フラグメントは静脈内投与用、肺内注入用、吸入用、又は、筋肉内投与用に調製される、請求項14に記載の組成物。
【請求項18】
治療有効量のタイプVコラーゲン又はその免疫寛容誘導性フラグメントを含む、喘息を発症するリスクのある対象者の喘息の発症又は悪化を予防するための組成物。
【請求項19】
前記タイプVコラーゲン又はその免疫寛容誘導性フラグメントは経口投与される、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記タイプVコラーゲンは0.1mg〜0.5mgの用量で投与される、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記タイプVコラーゲン又はその免疫寛容誘導性フラグメントは静脈内投与用、肺内注入用、吸入用、又は、筋肉内投与用に調製される、請求項18に記載の組成物。
【請求項22】
タイプVコラーゲン免疫寛容療法の候補となるCOPD患者又は喘息患者を特定する方法であって、
前記患者の血液サンプルの少なくとも一部にタイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントを接触させるステップと、
前記タイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントに結合する抗体の量を測定するステップとを含み、
前記タイプVコラーゲンに特異的に結合した抗体の存在が、前記COPD患者又は前記喘息患者に対してタイプVコラーゲン免疫寛容療法が有効でありうることを判定する、方法。
【請求項23】
前記タイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントはビーズに結合されている、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記測定ステップは、
前記タイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントに特異的に結合する前記抗体を蛍光標識抗IgG抗体と接触させるステップと、
フローサイトメトリーにより、前記タイプVコラーゲンに結合した前記抗体に結合した前記蛍光標識抗IgG抗体の量を検出するステップと、を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
COPD又は喘息を発症するリスクのある個体を特定する方法であって、
前記個体の血液サンプルの少なくとも一部をタイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントと接触させるステップと、
前記タイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントに結合する抗体の量を測定するステップとを含み、
前記タイプVコラーゲンに特異的に結合する抗体の存在が、前記タイプVコラーゲンに結合する抗体を有さない個体よりも発症リスクが高いと予想する、方法。
【請求項26】
前記タイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントはビーズに結合されている、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記測定ステップは、
前記タイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントに結合する前記抗体を蛍光標識抗IgG抗体と接触させるステップと、
フローサイトメトリーにより、前記タイプVコラーゲンに結合した前記抗体に結合した前記蛍光標識抗IgG抗体の量を検出するステップと、を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記抗IgG抗体は全てのIgGサブタイプを検出する、請求項24又は27に記載の方法。
【請求項29】
前記抗IgG抗体はIgG1サブタイプを特異的に検出する、請求項24又は27に記載の方法。
【請求項30】
前記抗IgG抗体はIgG2サブタイプを特異的に検出する、請求項24又は27に記載の方法。
【請求項31】
前記抗IgG抗体はIgG3サブタイプを特異的に検出する、請求項24又は27に記載の方法。
【請求項32】
前記抗IgG抗体はIgG4サブタイプを特異的に検出する、請求項24又は27に記載の方法。
【請求項33】
個体におけるCOPDの進行をモニタリングする方法であって、
前記個体の第一の血液サンプルの少なくとも一部をタイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントと接触させるステップと、
前記第一の血液サンプル内における前記タイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントに特異的に結合する抗体の量を測定するステップと、
後の時点において前記個体から採取した第二の血液サンプルの少なくとも一部にタイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントを接触させるステップと、
前記第二の血液サンプル内における前記タイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントに特異的に結合する抗体の量を測定するステップと、
前記第二の血液サンプル内における前記タイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントに特異的に結合する抗体の量と、前記第一の血液サンプル内における前記タイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントに特異的に結合する抗体の量とを比較するステップとを含み、
前記第一の血液サンプル内の前記タイプVコラーゲンに結合した抗体の量と比較して前記第二の血液サンプル内の前記タイプVコラーゲンに結合した抗体の量が増加している場合、COPDが悪化していることを予想し、前記第一の血液サンプル内の前記タイプVコラーゲンに結合した抗体の量と比較して前記第二の血液サンプル内のタイプVコラーゲンに結合した抗体の量が減少している場合、COPDが改善していると予想する、方法。
【請求項34】
前記タイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントはビーズに結合されている、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記測定ステップは、
前記タイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントに結合する前記抗体を蛍光標識抗IgG抗体と接触させるステップと、
フローサイトメトリーにより、前記タイプVコラーゲンに結合した前記抗体に結合した前記蛍光標識抗IgG抗体の量を検出するステップと、を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
個体における喘息の進行をモニタリングする方法であって、
前記個体の第一の血液サンプルの少なくとも一部をタイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントと接触させるステップと、
前記第一の血液サンプル内における前記タイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントに結合する抗体の量を測定するステップと、
後の時点において前記個体から採取した第二の血液サンプルの少なくとも一部にタイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントを接触させるステップと、
前記第二の血液サンプル内における前記タイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントに結合する抗体の量を測定するステップと、
前記第二の血液サンプル内における前記タイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントに結合する抗体の量と、前記第一の血液サンプル内における前記タイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントに結合する抗体の量とを比較するステップとを含み、
前記第一の血液サンプル内の前記タイプVコラーゲンに結合した抗体の量と比較して前記第二の血液サンプル内の前記タイプVコラーゲンに結合した抗体の量が増加している場合、喘息が悪化していると予想し、前記第一の血液サンプル内の前記タイプVコラーゲンに結合した抗体の量と比較して前記第二の血液サンプル内のタイプVコラーゲンに結合した抗体の量が減少している場合、喘息が改善していると予想する、方法。
【請求項37】
前記タイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントはビーズに結合されている、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記測定ステップは、
前記タイプVコラーゲン又はその抗原性フラグメントに結合する前記抗体を蛍光標識抗IgG抗体と接触させるステップと、
フローサイトメトリーにより、前記タイプVコラーゲンに結合した前記抗体に結合した前記蛍光標識抗IgG抗体の量を検出するステップと、を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記抗IgG抗体は全てのIgGサブタイプを検出する、請求項35又は38に記載の方法。
【請求項40】
前記抗IgG抗体はIgG1サブタイプを特異的に検出する、請求項35又は38に記載の方法。
【請求項41】
前記抗IgG抗体はIgG2サブタイプを特異的に検出する、請求項35又は38に記載の方法。
【請求項42】
前記抗IgG抗体はIgG3サブタイプを特異的に検出する、請求項35又は38に記載の方法。
【請求項43】
前記抗IgG抗体はIgG4サブタイプを特異的に検出する、請求項35又は38に記載の方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図4C】
image rotate

【図4D】
image rotate

【図4E】
image rotate


【公表番号】特表2012−524799(P2012−524799A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507372(P2012−507372)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際出願番号】PCT/US2010/032007
【国際公開番号】WO2010/124058
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(506265705)インディアナ ユニバーシティ リサーチ アンド テクノロジー コーポレイション (4)
【Fターム(参考)】