説明

慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法及び慣性駆動アクチュエータ装置

【課題】静電容量の大きさに拘わらず、精度の高い位置検出を行うことのできる慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法及び慣性駆動アクチュエータ装置を提供する。
【解決手段】静電容量にて移動体の位置検出を行う慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法であって、移動体の駆動を行う駆動ステップと、移動体に設けられた移動体電極と、移動体電極と対向して設けられた検出電極と、が対向する部分の静電容量を検出するための第1信号を出力する出力ステップと、出力ステップにて出力された第1信号が移動体電極と検出電極を通過して得られる第2信号を受信する受信ステップと、受信ステップで得られた受信信号に基づいて最適第1信号を演算する演算ステップと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法及び慣性駆動アクチュエータ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図16は、従来のアクチュエータ920の構成を示す側面図である。図16に示すように、アクチュエータ920は、電気機械変換素子の1つである圧電素子911、駆動軸912、駆動軸912に摩擦結合した移動体913、及び、アクチュエータ920のフレーム914を備える。圧電素子911の一端はフレーム914に固定され、圧電素子911の他端には駆動軸912が固定されている。
【0003】
また、検出部材921は、移動体913の位置を静電容量に基づいて検出するための固定電極を構成するもので、移動体913の移動方向に沿って平行に、非接触の状態で配置され、フレーム914に固定されている。駆動軸912、移動体913、及び検出部材(固定電極)921は、導電性の材料で構成されている。検出部材921は、移動体913に対向する面に、検出部材921を構成しており、検出部材921と移動体913とは間隔Dを隔てて対向して静電容量Cのコンデンサを形成している。
【0004】
図17は、検出部材921の構成及び移動体913との関係を示す平面図である。図17に示すように、検出部材921は、絶縁体921pの上に、直角三角形の第1電極921aと第2電極921bとが、斜辺を対向させて形成されている。駆動回路918(図16)から出力された駆動信号は、圧電素子911に印加されると共に、駆動軸912を経て移動体913にも供給される。
【0005】
図17に示す状態例のように、移動体913と第1電極921aとが互いに対向するとともに、移動体913と第2電極921bとが互いに対向しており、それぞれ静電容量結合している。このため、移動体913に印加された駆動信号は、第1電極921a及び第2電極921bに向けてそれぞれ流れる。第1電極921a及び第2電極921bに向けて流れる電流iは検出回路919で検出され、制御回路917に入力される。
【0006】
ここで、一例として、移動体913が、第1電極921a側から第2電極921b側に向けて矢印a方向(図17)に移動する場合について説明する。移動体913の移動により、移動体913と第1電極921aとの間の対向電極面積は次第に減少して両者間の静電容量Caは次第に減少する一方、移動体913と第2電極921bとの間の対向電極面積は次第に増加して両者間の静電容量Cbは次第に増加する。従って、移動体913の移動にともなって、移動体913から第1電極921aに流れる電流iaは次第に減少し、移動体913から第2電極921bに流れる電流ibは次第に増加する。
【0007】
これに対して、移動体913が第2電極921b側から第1電極921a側に向けて、矢印aと反対方向に移動する場合は、移動体913と第1電極921aとの間の対向電極面積は次第に増加して両者間の静電容量Caは次第に増加するとともに、移動体913と第2電極921bとの間の対向電極面積は次第に減少して両者間の静電容量Cbは次第に減少する。したがって、移動体913から第1電極921aに流れる電流iaは次第に増大し、移動体913から第2電極921bに流れる電流ibは次第に減少する。
【0008】
以上のように、移動体913の移動にともなって増減する、電流iaの大きさと電流ibの大きさとを互いに比較することで、移動体913の検出部材921に対する位置を求めることができるほか、電流ia及び電流ibの大きさが変化する方向により移動体913の移動方向を求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−185406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述のアクチュエータ920では、湿度、温度、重力、経年変化などの影響により、組み立て時より静電容量が変化しまうことがある。ここでは、移動体913と検出部材921との静電容量測定している。静電容量が大きい場合は、抵抗値が下がり、受信する検出信号の電圧や電流が大きくなり、A/D変換器にてエラー、誤判定、又は故障が発生するおそれがある。逆に、静電容量が小さい場合は、抵抗値が上がり、受信検出信号の電圧や電流が小さくなり、A/D変換を効率よく使用できず、位置検出精度を悪化させてしまう。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、静電容量の大きさに拘わらず、精度の高い位置検出を行うことのできる慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法及び慣性駆動アクチュエータ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法は、静電容量にて移動体の位置検出を行う慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法であって、移動体の駆動を行う駆動ステップと、移動体に設けられた移動体電極と、移動体電極と対向して設けられた検出電極と、が対向する部分の静電容量を検出するための第1信号を出力する出力ステップと、出力ステップにて出力された第1信号が移動体電極と検出電極を通過して得られる第2信号を受信する受信ステップと、受信ステップで得られた受信信号に基づいて最適第1信号を演算する演算ステップと、を備えることを特徴としている。
【0013】
本発明に係る慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法は、演算ステップにおける最適第1信号の演算後に、最適第1信号の値が最適か否か確認する確認ステップを備えることが好ましい。
【0014】
本発明に係る慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法において、確認ステップは、第2信号が、最適第1信号に対応する最適第2信号と等しいか否かを判定する判定ステップを有することが好ましい。
【0015】
本発明に係る慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法は、判定ステップにおいて、第2信号が最適第2信号に等しくないと判定された場合に、演算ステップにて演算された最適第1信号を補正演算することが好ましい。
【0016】
本発明に係る慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法は、移動体に対して、同一場所にて、2回以上第1信号を出力する場合、異なる信号を出力することが好ましい。
【0017】
本発明に係る慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法において、移動体は一方の移動限界位置及び他方の移動限界位置間を移動し、演算ステップは、一方の移動限界位置と他方の移動限界位置のそれぞれについて最適第1信号を演算することが好ましい。
【0018】
本発明に係る慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法は、第1信号の出力をA/D変換の範囲内に入る信号から開始することが好ましい。
【0019】
本発明に係る慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法は、一方の移動限界位置から、他方の移動限界位置までの距離に対して静電容量が比例関係であることが好ましい。
【0020】
本発明に係る慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法は、移動体が複数ある場合、個別に最適第1信号をもつことが好ましい。
【0021】
本発明に係る慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法は、移動体が複数ある場合、それぞれについての最適第1信号が統一されていることが好ましい。
【0022】
本発明に係る慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法は、一方の移動限界位置と他方の移動限界位置の最適第1信号が互いに異なる場合、そのどちらが最適かを比較する比較ステップを有することが好ましい。
【0023】
本発明に係る慣性駆動アクチュエータ装置は、移動体の駆動を行う駆動部と、移動体に設けられた移動体電極と、移動体電極と対向して設けられた検出電極とが対向する部分の静電容量を検出するための第1信号を出力する出力部と、第1信号出力部にて出力された第1信号が移動体電極と検出電極を通過して得られる第2信号を受信する受信部と、第1信号受信部により受信した受信信号に基づいて最適第1信号を演算する演算部と、を具備することを特徴としている。
【0024】
本発明に係る慣性駆動アクチュエータ装置において、移動体は、往復移動される振動基板に対して慣性により移動し、検出電極が、移動体と振動部材の間に配置されることが好ましい。
【0025】
本発明に係る慣性駆動アクチュエータ装置では、移動体電極との間に静電引力を発生させる検出電極と、振動部材と移動体との摩擦力を制御する駆動電極と、を併用することが好ましい。
【0026】
本発明に係る慣性駆動アクチュエータ装置は、検出電極が複数配置されていることが好ましい。
【0027】
本発明に係る慣性駆動アクチュエータ装置は、移動体が複数配置することもできる。
【0028】
本発明に係る慣性駆動アクチュエータ装置において、移動体は導電材料にて形成されることが好ましい。
【0029】
本発明に係る慣性駆動アクチュエータ装置において、振動基板の移動体とは反対側に永久磁石が配置され、移動体が磁性材料を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る、慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法及び慣性駆動アクチュエータ装置は、静電容量の大きさに拘わらず、精度の高い位置検出を行うことができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1実施形態に係る慣性駆動アクチュエータ装置の構成を示す平面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る慣性駆動アクチュエータの構成を示す側面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る慣性駆動アクチュエータのキャリブレーションの流れを示すフローチャートである。
【図4】本発明の第1実施形態に係る、第1信号、第2信号、A/D変換器への最大許容値、及び、最適第1信号の関係を示すグラフである。
【図5】本発明の第1実施形態に係る、確認ステップを含んだキャリブレーションの流れを示すフローチャートである。
【図6】本発明の第2実施形態に係る慣性駆動アクチュエータ装置の構成を示す平面図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る慣性駆動アクチュエータの構成を示す側面図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係る慣性駆動アクチュエータのキャリブレーションの流れを示すフローチャートである。
【図9】(a)は、移動体が一方の移動限界位置にあるときの慣性駆動アクチュエータの構成を示す側面図、(b)は、移動体が他方の移動限界位置にあるときの慣性駆動アクチュエータの構成を示す側面図である。
【図10】(a)は、移動体が一方の移動限界位置にあるときの第1信号、第2信号、A/D変換器への最大許容値、及び、最適第1信号の関係を示すグラフ、(b)は、移動体が他方の移動限界位置にあるときの第1信号、第2信号、A/D変換器への最大許容値、及び、最適第1信号の関係を示すグラフである。
【図11】本発明の第2実施形態に係る、第1信号、第2信号、A/D変換器への最大許容値、及び、最適第1信号の関係を示すグラフである。
【図12】(a)は、移動体が一方の移動限界位置にあるときの比較例に係る慣性駆動アクチュエータの構成を示す側面図、(b)は、移動体が他方の移動限界位置にあるときの比較例に係る慣性駆動アクチュエータの構成を示す側面図である。
【図13】(a)は、移動体が一方の移動限界位置にあるときの第1信号、第2信号、A/D変換器への最大許容値、及び、最適第1信号の関係を示すグラフ、(b)は、移動体が他方の移動限界位置にあるときの第1信号、第2信号、A/D変換器への最大許容値、及び、最適第1信号の関係を示すグラフである。
【図14】本発明の第3実施形態に係る慣性駆動アクチュエータ装置の構成を示す平面図である。
【図15】本発明の第3実施形態に係る慣性駆動アクチュエータの構成を示す側面図である。
【図16】従来のアクチュエータの構成を示す側面図である。
【図17】従来の検出部材の構成及び移動体との関係を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、本発明に係る慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法及び慣性駆動アクチュエータ装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0033】
(第1実施形態)
図1、図2を参照しつつ、第1実施形態に係る慣性駆動アクチュエータ装置の構成について説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る慣性駆動アクチュエータ装置の構成を示す平面図である。図2は、慣性駆動アクチュエータ装置の慣性駆動アクチュエータ100の構成を示す側面図である。なお、図1においては、突き当て部105、106の図示を省略している。
【0034】
第1実施形態の慣性駆動アクチュエータ装置は、慣性駆動アクチュエータ100と、慣性駆動アクチュエータ100に接続された、駆動部133、演算部141、出力部142、及び受信部143と、を備える。
【0035】
慣性駆動アクチュエータ100は、固定部材101と、圧電素子102と、固定部材101上に変位可能に載置された振動基板103と、バネ104と、固定部材101上に形成された突き当て部105、106と、振動基板103上に配置された検出電極111(振動基板電極)と、移動体121と、を備える。また、固定部材101の下側には永久磁石107が配置されている。
【0036】
固定部材101の内側面101aには、圧電素子102の一端が隣接している。この圧電素子102の他端は、振動基板103の右側面103aに隣接している。
【0037】
バネ104は、振動基板103を介して圧電素子102と対向するように配置されている。すなわち、バネ104は、一端が固定部材101の内側面101dに隣接するとともに、他端が振動基板103の左側面103dに隣接している。
【0038】
慣性駆動アクチュエータ100においては、圧電素子102が伸張して振動基板103が変位したときにバネ104が振動基板103を支持し、圧電素子102が収縮すると、振動基板103はバネ104の弾性力によってもとの位置へ変位する。すなわち、バネ104は、圧電素子102の伸縮を振動基板103へ伝達する補助を行っている。なお、圧電素子102の両端及びバネ104の両端は、固定部材101及び/又は振動基板103に固定されていてもよい。
【0039】
振動基板103の上面には検出電極111が形成され、検出電極111の上面には絶縁層115が形成されている。検出電極111上には、絶縁層115を介して、移動体121が載置されている。移動体121の下面、すなわち検出電極111に対向する面には、移動体電極121aが形成されている。
【0040】
検出電極111は、振動基板103の長手方向において、バネ104側から圧電素子102側へ向かうにつれて振動基板電極幅が狭くなる三角形状の平面形状を備える。このように振動基板103の長手方向において検出電極111の幅が変化することにより、移動体121が一方の移動限界位置(突き当て部105に突き当たった位置)から他方の移動限界位置(突き当て部106に突き当たった位置)に移動するにつれて、移動体121の移動体電極121aとの間の静電容量が変化する。さらに、検出電極111の平面形状を三角形状としているため、一方の移動限界位置から他方の移動限界位置までの移動範囲内において、移動体の位置と静電容量とが比例関係となる。
【0041】
移動体121は、振動基板103の変位にともなって、長板状の振動基板103の長手方向(図1、図2の左右方向)において、絶縁層115と摺動しつつ移動可能である。なお、移動体121は、磁性材料又は導電材料で形成することが好ましい。
【0042】
固定部材101のバネ104側の端部上面には、バネ104、及び、絶縁層115のバネ104側の端部を上から覆うように突き当て部105が形成されている。また、固定部材101の圧電素子102側の端部上面には、圧電素子102、及び、絶縁層115の圧電素子102側の端部を上から覆うように突き当て部106が形成されている。
【0043】
突き当て部105、106により、移動体121の移動範囲が規制される。すなわち、移動体121が突き当て部105、106とそれぞれ接触する位置が両端の移動限界位置であり、これらの移動限界位置間の距離が移動体121の移動できる最大距離(移動限界距離)となる。
【0044】
圧電素子102、検出電極111、移動体121の移動体電極121aには、これらを駆動させるための駆動電圧を印加するための駆動部133が接続されている。
【0045】
なお、詳細な説明は省略するが、第1実施形態の慣性駆動アクチュエータ装置は、移動体121の移動体電極121aと検出電極111との間の静電容量を検出するための静電容量検出回路を検出電極111に接続するとともに、静電容量検出回路からの出力信号を入力する制御回路を備えることが好ましい。制御回路は、静電容量検出回路からの出力信号に基づいて駆動信号を生成し、駆動部133に出力する。
【0046】
さらに、移動体電極121aには出力部142が接続され、検出電極111には、受信部143が接続されている。出力部142及び受信部143は、演算部141に接続されている。
【0047】
出力部142は、移動体121に設けられた移動体電極121aと、移動体電極121aと対向して設けられた検出電極111と、が対向する部分の静電容量を検出するための第1信号を出力する。
【0048】
受信部143は、出力部142から移動体電極121aへ出力された第1信号が移動体電極121aと検出電極111を通過した結果得られる第2信号を受信する。受信部143は、内蔵するA/D変換器によって、受信した第2信号をデジタル信号に変換して、演算部141へ出力する。
【0049】
演算部141は、受信部143がA/D変換した第2信号に基づいて最適第1信号及び最適第2信号を演算する。演算された最適第1信号は、出力部142によって移動体電極121aに出力され、受信部143は、最適第1信号が移動体電極121aと検出電極111を通過した結果得られる第2信号を受信する。演算部141は、この第2信号と最適第2信号とが等しいか否かを判定し、判定結果によって、最適第1信号が最適か否かを確認する。第2信号と最適第2信号が等しくないという判定結果であった場合、演算部141は、最適第1信号の出力によって得られた第2信号と最適第2信号とが等しくなるように、最適第1信号を補正演算する。演算部141は、移動体121が一方の移動限界位置と他方の移動限界位置のそれぞれにあったときについて、最適第1信号を算出する。
【0050】
ここで、移動体121の検出方式について説明する。
移動体121の位置検出も慣性駆動アクチュエータ100の駆動と同様に、移動体121に設けられた移動体電極121aと振動基板103に設けられた検出電極111を用いて行う。移動体電極121aと検出電極111が対向する部分はコンデンサとしてみることができる。
【0051】
移動体電極121aと検出電極111との対向する部分の面積に相当する静電容量の変化を検出することによって、移動体121の振動基板103に対する相対的な位置を検出することができる。
【0052】
第1実施形態では移動体121が一方の移動限界位置から他方の移動限界位置に移動するにつれて、移動体121と検出電極111との間の静電容量が減少するように構成されている。
【0053】
なお、移動限界位置は、突き当て部105、106のいずれを一方の移動限界位置に設定することもできる。また、移動体の位置と静電容量との関係は、位置の変化に伴って静電容量が変化すれば比例関係でなくてもよい。
【0054】
以上の構成により、圧電素子102に駆動電圧を印加し、圧電素子102の変位方向に振動基板103を変位させる。このように振動基板103が変位すると、振動基板103上の移動体121は、突き当て部105、106によって定まる移動限界位置間の移動範囲内において、慣性により移動可能で、移動体電極121aと検出電極111との対向する部分の面積に相当する静電容量変化を検出し、振動基板103に対する相対的な位置を検出することが可能である。
【0055】
つづいて、移動体121が右方向(突き当て部106側へ向かう方向)に移動する場合を例にとって、慣性駆動アクチュエータ100の駆動原理をより具体的に説明する。
【0056】
まず、駆動部133から急峻な立ち上がりの電圧を圧電素子102へ印加すると、圧電素子102は、急激に伸張して左方向(バネ104側へ向かう方向)へ変位する。圧電素子102のこの動きに伴って、振動基板103も急激に左方向へ変位する。
【0057】
このとき、振動基板103に形成された検出電極111の電圧と、移動体121の移動体電極121aの電圧と、を同電位にしてあると、検出電極111と移動体電極121aとの間に静電引力が発生しないため、移動体121の慣性により、移動体121はその位置に留まる。
【0058】
次に、圧電素子102への印加電圧を急峻に立ち下げると、圧電素子102は急激に縮む。その際、圧電素子102と振動基板103とを押圧するバネ104の弾性復元力とともに、圧電素子102が急激に右方向へ変位する。圧電素子102のこの動きに伴い、振動基板103も急激に右方向へ変位する。
【0059】
このとき、振動基板103の検出電極111の電圧と、移動体121の移動体電極121aの電圧と、の間に電位差を与えて静電引力(静電吸着力)を発生させると、検出電極111と移動体121の移動体電極121aとの間の摩擦力が増大する。従って、振動基板103の変位とともに移動体121も右方向へ移動する。
【0060】
つまりは、振動基板103の検出電極111と移動体121の移動体電極121aは、移動体121と振動基板103との摩擦力を制御する駆動電極を兼用する構成であって、以上の操作を繰り返すことにより、移動体121を振動基板103に対して右方向へ移動させることができる。
【0061】
次に、図3から図5を参照して、慣性駆動アクチュエータ100のキャリブレーション方法について説明する。
なお、以下の説明では、移動体121を一方の移動限界位置へ駆動して最適第1信号を演算する場合を取り上げるが、移動体121を他方の移動限界位置へ駆動して最適第1信号を演算する場合も同様に行うことができる。
【0062】
図3は、慣性駆動アクチュエータ100のキャリブレーションの流れを示すフローチャートである。図3に示すキャリブレーションでは、まず、移動体121を一方の移動限界位置へ移動するのに十分な数の駆動パルスを駆動部133より出力する。これにより、移動体121は、移動体電極121aと検出電極111との間の静電容量が大きなバネ104側に移動し、突き当て部105に当接する(ステップS101、駆動ステップ)。
【0063】
次に、出力部142は、移動体電極121aに対して、移動体電極121aと検出電極111との間の静電容量を検出するための第1信号を出力する(ステップS102、出力ステップ)。ここで、第1信号は、どのような波形であっても構わないが、正弦波が望ましい。また、第1信号を出力するのは、移動体電極121aでも、検出電極111でも構わないが、移動体電極121aが望ましい。
【0064】
出力部142が出力した第1信号は移動体電極121aと検出電極111との間に形成されるコンデンサを通過し、第2信号として受信部143に受信される(ステップS103、受信ステップ)。受信部143が受信する第2信号は、電圧又は電流である。
【0065】
つづいて、受信ステップ(ステップS103)で得られた第2信号に基づいて、演算部141は、最適第1信号を演算(算出)する(ステップS104、演算ステップ)。算出された最適第1信号は、l41が有する記憶部に保存される。また、演算ステップにおいて、演算部141は、最適第1信号に対応する最適第2信号を算出し、記憶部に保存する。最適第2信号は、最適第1信号が移動体電極121aと検出電極111との間に形成されるコンデンサを通過したことにより得られると見込んだ信号である。
【0066】
出力部142から出力された第1信号と、受信部143が受信した第2信号と、の間には電位差が発生する。その電位差を用いて、移動体電極121aと検出電極111との間のうち通過した部分で形成されるコンデンサのインピーダンスが測定でき、現在の静電容量を知ることができる。
なお、静電容量は、電位差からではなく、第1信号の出力電圧と電流値に基づいて計算してもよい。
【0067】
このように測定された静電容量に基づいて、最適第1信号を計算することができる。最適第1信号とは、出力部142から出力する信号であって、移動体電極121aと検出電極111との間を通過して受信部143が受信する信号が、A/D変換器に入力可能な最大電圧値に近い電圧となる信号を言う。
【0068】
図4は、第1信号、第2信号、A/D変換器への最大許容値、及び、最適第1信号の関係を示すグラフである。
図4に示す例では、黒丸で示す、第1信号及び第2信号が測定されたのに対し、A/D変換器に入力可能な最大電圧値(破線)により近い、最適第1信号及び最適第2信号の組合せ(白丸)を演算部141が算出する。
【0069】
最適第1信号を算出する方法としては、出力部142からの出力電圧を変化させる方法、出力部142から出力する信号の周波数を変化させる方法、又は、その両方を変化させる方法がある。
【0070】
最適第1信号は、その演算後に最適であったか否かの確認を行うことが好ましい。以下に、最適第1信号の確認を含んだキャリブレーションの流れについて、図5を参照しつつ説明する。ここで、図5は、確認ステップを含んだキャリブレーションの流れを示すフローチャートである。
【0071】
図5に示すキャリブレーションは、図3のキャリブレーションに、確認ステップとしてのステップS155〜S157、及び、補正演算ステップとしてのステップS158を加えたものである。したがって、図5のステップS151〜S154は、図3のステップS101〜S104にそれぞれ対応するため、その詳細な説明は省略する。
【0072】
演算ステップ(ステップS154)で算出された最適第1信号は、出力部142によって、移動体電極121aに対して出力される(ステップS155)。出力部142が出力した最適第1信号は移動体電極121aと検出電極111との間に形成されるコンデンサを通過し、第2信号として受信部143に受信される(ステップS156)。受信された信号は、受信部143内のA/D変換器でデジタル信号に変換されて演算部141へ出力される。
【0073】
受信部143からデジタル信号を受けた演算部141は、その信号に基づいて、最適第1信号が、正しいか否かを判定する(ステップS157、判定ステップ)。この判定ステップでは、最適第2信号と、最適第1信号を出力したことにより受信部143で受信された第2信号と、が等しいか否かを判定する。さらに、演算部141は、判定対象として受信部143が受信してA/D変換器に入力する第2信号が、A/D変換器の変換許容範囲を超えていたか否かも判定する。
【0074】
判定の結果、受信された第2信号が、最適第2信号と等しく、かつ、A/D変換器の変換許容範囲内に収まっていた場合、最適第1信号が最適であったと判断してキャリブレーションを終了する。
【0075】
これに対して、判定の結果、受信された第2信号が最適第2信号と等しくない場合は、第2信号が最適第2信号と等しくなるように、最適第1信号を補正演算する(ステップS158、補正演算ステップ)。また、受信された第2信号が、A/D変換器の変換許容範囲を超えていた場合、第2信号がA/D変換器の変換許容範囲内に収まるように、最適第1信号を補正演算する。
【0076】
つづいて、補正演算ステップで補正された最適第1信号を用いて再度確認ステップ(ステップS155〜S157)を実行して、最適第1信号が最適か否かを確認する。
すなわち、補正された最適第1信号は、移動体電極121aに対して出力され(ステップS155)、移動体電極121aと検出電極111との間に形成されるコンデンサを通過して得られる第2信号(ステップS156)に基づいて、判定が行われる(ステップS157)。判定は、最適第1信号を補正する前の上述の確認ステップと同様に行い、最適第1信号が最適であったときはキャリブレーションを終了し、最適でなかったときは再び補正演算(ステップS158)を実行して、最適第1信号が最適となるまで確認ステップを繰り返す。
【0077】
ここで、補正演算ステップ(ステップS158)では、補正演算した、最適第1信号及び最適第2信号を演算部141内の記憶部に保存し、補正前の最適第1信号及び最初の第1信号と、補正後の最適第1信号と、が異なる信号とすることが好ましい。すなわち、移動体121に対して、同一場所にて、2回以上第1信号(最適第1信号)を出力する場合、異なる信号を出力することが好ましい。
【0078】
また、最初に出力する第1信号は、受信部143のA/D変換の変換許容範囲内に入る信号とすることが好ましい。別言すると、第1信号の出力をA/D変換の範囲内に入る信号から開始する。
【0079】
(第2実施形態)
図6は、本発明の第2実施形態に係る慣性駆動アクチュエータ装置の構成を示す平面図である。図7は、慣性駆動アクチュエータ装置の慣性駆動アクチュエータ200の構成を示す側面図である。なお、図6においては、突き当て部205、206の図示を省略している。
【0080】
第2実施形態に係る慣性駆動アクチュエータ装置(図6、図7)においては、2枚の検出電極211、212を備える点が第1実施形態に係る慣性駆動アクチュエータ装置と異なる。その他の構成は第1実施形態に係る慣性駆動アクチュエータ装置と同様である。
【0081】
第2実施形態の慣性駆動アクチュエータ装置は、慣性駆動アクチュエータ200と、慣性駆動アクチュエータ200に接続された、駆動部233、演算部241、出力部242、及び受信部243と、を備える。ここで、第2実施形態の固定部材201(内側面201a、201d)、圧電素子202、振動基板203(側面203a、203d)、バネ204、永久磁石207、移動体221、移動体電極221a、駆動部233、演算部241、出力部242、受信部243は、第1実施形態の固定部材101(内側面101a、101d)、圧電素子102、振動基板103(側面103a、103d)、バネ104、永久磁石107、移動体121、移動体電極121a、駆動部133、演算部141、出力部142、受信部143にそれぞれ対応するため、これらについての詳細な説明は省略する。
【0082】
検出電極211、212は、振動基板203の上面に形成され、検出電極211、212の上面には絶縁層215が形成されている。検出電極211、212上には、絶縁層215を介して、移動体221が載置され、これにより、検出電極211、212は、移動体電極221aと対向する。
【0083】
圧電素子202、検出電極211、212、移動体221の移動体電極221aには、これらを駆動させるための駆動電圧を印加するための駆動部233が接続されている。
【0084】
第2実施形態の慣性駆動アクチュエータ装置では、移動体電極221aと検出電極211との対向する部分の面積に相当する静電容量と、移動体電極221aと検出電極212との対向する部分の面積に相当する静電容量と、を比較または差分を検出することによって、移動体221の振動基板203に対する相対的な位置を検出することができる。
【0085】
例えば、移動体221を、図6又は図7において紙面右側に移動させると移動体電極221aと検出電極212との対向面積が大きくなるため、検出電極212と移動体電極221aとの間の静電容量は大きくなる。一方で、移動体電極221aと検出電極211との対向面積は次第に小さくなるため、検出電極211と移動体電極221aとの間の静電容量も小さくなる。これら静電容量の差分を取れば、静電容量の大小関係から移動体の位置を高精度に把握することが可能である。
【0086】
第2実施形態の慣性駆動アクチュエータでは、移動体221が一方の移動限界位置(突き当て部205に突き当たった位置)から他方の移動限界位置(突き当て部206に突き当たった位置)に移動するにつれて、移動体221と振動基板電極との間の静電容量が増加するように構成するとよい。さらに、一方の移動限界位置から他方の移動限界位置までの移動範囲内において、移動体の位置と静電容量とが比例関係にあることが好ましい。
【0087】
なお、移動限界位置は、突き当て部205、206のいずれかを一方の移動限界位置に設定することもできる。また、移動体の位置と静電容量との関係は、位置の変化に伴って静電容量が変化すれば比例関係でなくてもよい。
【0088】
以上の構成により、圧電素子202に駆動電圧を印加し、圧電素子202の変位方向に振動基板203を変位させる。このように振動基板203が変位すると、振動基板203上の移動体221は、突き当て部205、206によって定まる移動限界位置間の移動範囲内において、慣性により移動可能で、移動体電極221aと検出電極211、212との対向する部分の面積に相当する静電容量変化を検出し、振動基板203に対する相対的な位置を検出することが可能である。
【0089】
ここで、移動体221が右方向(突き当て部206側へ向かう方向)に移動する場合を例にとって、慣性駆動アクチュエータ200の駆動原理をより具体的に説明する。
まず、駆動部233から急峻な立ち上がりの電圧を圧電素子202へ印加すると、圧電素子202は、急激に膨張して左方向(バネ204側へ向かう方向)へ変位する。圧電素子202のこの動きに伴って、振動基板203も急激に左方向へ変位する。
【0090】
このとき、振動基板203に形成された検出電極211、212の電圧と、移動体221の移動体電極221aの電圧と、を同電位にしてあると、検出電極211、212と移動体電極221aとの間に静電吸着力が発生しないため、移動体221の慣性により、移動体221はその位置に留まる。
【0091】
次に、圧電素子202への印加電圧を急峻に立ち下げると、圧電素子202は急激に縮む。その際、圧電素子202と振動基板203とを押圧するバネ204の弾性復元力とともに、圧電素子202が急激に右方向へ変位する。圧電素子202のこの動きに伴い、振動基板203も急激に右方向へ変位する。このとき、振動基板203の検出電極211、212の電圧と、移動体221の移動体電極221aの電圧と、の間に電位差を与えて静電吸着力を発生させると、検出電極211、212と移動体221の移動体電極221aとの間の摩擦力が増大する。従って、振動基板203の変位とともに移動体221も右方向へ移動する。
【0092】
以上の操作を繰り返すことにより、移動体221を振動基板203に対して右方向へ移動させることができる。
【0093】
次に、図8を参照して、慣性駆動アクチュエータ200のキャリブレーション方法について説明する。図8は、慣性駆動アクチュエータ200のキャリブレーションの流れを示すフローチャートである。
第2実施形態の慣性駆動アクチュエータ装置では、2つの検出電極211、212を用いて位置制御を行うことで、一方の移動限界位置と他方の移動限界位置とで最適第1信号が異なる可能性があることを考慮して、移動体221と検出電極211との間の静電容量に基づく最適第1信号V1と、移動体221と検出電極212との間の静電容量に基づく最適第1信号V2と、を比較し、どちらか一方を最適第1信号とする。すなわち、第2実施形態に係る慣性駆動アクチュエータ200のキャリブレーション方法は、一方の移動限界位置と他方の移動限界位置の最適第1信号が互いに異なる場合、そのどちらが最適かを比較する比較ステップ(図8のステップS217)を有する。
なお、比較ステップは、一方の移動限界位置と他方の移動限界位置の最適第1信号が同一か否かに拘わらずに行うことが好ましく、異なる場合はより最適な信号を選択し、同一の場合はその信号を最適第1信号とする。
【0094】
図8のステップS201からS208は、一方の移動限界位置における最適第1信号V1を演算(ステップS204)した後に、その信号が最適か否かを確認(ステップS205からS207)し、最適でなければ補正(ステップS208)を行うものであって、各ステップは図5のステップS151からS158にそれぞれ対応する。
【0095】
さらに、ステップS209からS216は、他方の移動限界位置における最適第1信号V2を演算(ステップS212)した後に、その信号が最適か否かを確認(ステップS213からS215)し、最適でなければ補正(ステップS216)を行うものであって、各ステップは図5のステップS151からS158にそれぞれ対応する。
【0096】
第2実施形態のキャリブレーション方法では、上述のステップS210からステップS216の後に、最適第1信号V1、V2の比較を行い、最適第1信号を決定する(ステップS217)。
【0097】
ここで、一方の移動限界位置と他方の移動限界位置における最適第1信号の取り扱いについて、図9から図11を参照して説明する。ここで、図9(a)は、移動体221が一方の移動限界位置にあるときの慣性駆動アクチュエータ200の構成を示す側面図、(b)は、移動体221が他方の移動限界位置にあるときの慣性駆動アクチュエータ200の構成を示す側面図である。図10(a)は、移動体221が一方の移動限界位置にあるときの第1信号、第2信号、A/D変換器への最大許容値、及び、最適第1信号の関係を示すグラフ、(b)は、移動体221が他方の移動限界位置にあるときの第1信号、第2信号、A/D変換器への最大許容値、及び、最適第1信号の関係を示すグラフである。図10において、破線はA/D変換器に入力可能な最大電圧値を、白丸は最適第1信号及び最適第2信号の組合せを、実線は第1信号と第2信号の関係を、それぞれ示す。
【0098】
まず、理想状態として、移動体221が一方の移動限界位置にあるとき(図9(a))の移動体電極221aと検出電極211との間の静電容量が、移動体221が他方の移動限界位置にあるとき(図9(b))の移動体電極221aと検出電極212との間の静電容量に等しい場合について説明する。この場合を示す、図10では、一方の移動限界位置と他方の移動限界位置における第1信号と第2信号との関係は互いに同一になる。
【0099】
最適第1信号の選択方法には、周波数を固定し電圧を変化させる方法と、電圧を固定し周波数を振る方法、及び、電圧と周波数の両方を振る方法がある。ここでは、周波数を固定し電圧を変化させる方法により最適第1信号を選択する方法を例に挙げて説明する。
【0100】
図10に示す理想状態では、一方の移動限界位置での静電容量値と他方の移動限界位置での静電容量値が互いに等しく、かつ、一方の移動限界位置と他方の移動限界位置での第1信号と第2信号との関係は互いに同じになる。したがって、一方の移動限界位置での最適第1信号V1と他方の移動限界位置での最適第1信号V2が同じとなるため、一方の移動限界位置と他方の移動限界位置のどちらの最適第1信号を選択しても良い。
【0101】
これに対して、各部材の製造精度、移動体221の規制範囲の設定その他の条件により、一方の移動限界位置と他方の移動限界位置での静電容量値が互いに異なる場合がある。
【0102】
図11は、第1信号、第2信号、A/D変換器への最大許容値、及び、最適第1信号の関係を示すグラフである。図11の実線L1は、設計上の第1信号と第2信号の関係を示し、破線L2は、第2信号に基づいて算出した静電容量が実線L1の場合よりも小さくなったときの第1信号と第2信号の関係を示し、破線L3は、第2信号に基づいて算出した静電容量が実線L1の場合よりも大きくなったときの第1信号と第2信号の関係を示している。
また、図11の第2信号S2における破線は、A/D変換器への最大許容値を示す。
【0103】
一方の移動限界位置での静電容量値と他方の移動限界位置での静電容量値とが互いに異なっていた場合、一方の移動限界位置での第1信号と第2信号との関係と、他方の移動限界位置での第1信号と第2信号との関係と、が互いに異なる。例えば、一方の移動限界位置での第1信号と第2信号との関係が図11の実線L1、破線L2、L3のいずれかであるときに、残りの直線が他方の移動限界位置での第1信号と第2信号との関係となるような場合である。
【0104】
このとき、一方の移動限界位置での最適第1信号V1と、他方の移動限界位置での最適第1信号V2と、が互いに異なることから、2つの最適第1信号V1、V2を比較し、どちらか一方を最適第1信号(最適電圧)とする選択処理が必要となる。
【0105】
最適第1信号V1と最適第1信号V2とが互いに異なった場合の最適第1信号の選択について、以下に説明する。
【0106】
図12は、一方の移動限界位置での静電容量がC1、他方の移動限界位置での静電容量がC2、となるように構成した、比較例に係る慣性駆動アクチュエータの側面図である。図12(a)は、移動体221が一方の移動限界位置にあるときの比較例に係る慣性駆動アクチュエータの構成を示す側面図、(b)は、移動体221が他方の移動限界位置にあるときの比較例に係る慣性駆動アクチュエータの構成を示す側面図である。図13(a)は、移動体221が一方の移動限界位置にあるときの第1信号、第2信号、A/D変換器への最大許容値、及び、最適第1信号の関係を示すグラフ、(b)は、移動体221が他方の移動限界位置にあるときの第1信号、第2信号、A/D変換器への最大許容値、及び、最適第1信号の関係を示すグラフである。図13において、第2信号S3に対応する破線はA/D変換器に入力可能な最大電圧値を、白丸は最適第1信号及び最適第2信号の組合せを、実線は第1信号と第2信号の関係を、それぞれ示す。
【0107】
図12に示す慣性駆動アクチュエータでは、振動基板203の長手方向において、バネ204側の検出電極211よりも圧電素子202側の検出電極262の長さを短くし、検出電極262を短くしたのに対応して圧電素子202側の突き当て部256をバネ204側まで延ばしている。また、検出電極211と検出電極262の幅及び厚みは互いに同一としている。これにより、移動体221が突き当て部205に当接する一方の移動限界位置における移動体電極221aと検出電極211との間の静電容量C1の方が、移動体221が突き当て部256に当接する他方の移動限界位置における移動体電極221aと検出電極262との間の静電容量C2よりも大きくなる。これ以外の構成及び作用は慣性駆動アクチュエータ200と同様であるため、その詳細な説明は省略し、同様の部材については同じ符号を付すものとする。
【0108】
比較例に係る慣性駆動アクチュエータでは、図13に示すように、一方の移動限界位置での第1信号と第2信号との関係(図13(a)の実線)と、他方の移動限界位置での第1信号と第2信号との関係(図13(b)の実線)と、が互いに異なっている。このため、一方の移動限界位置での最適第1信号V1と他方の移動限界位置での最適第1信号V2とが互いに異なる(V1<V2、図13(a)、(b)の白丸)。
【0109】
ここで、仮に、最適第1信号V1、V2のうち、他方の移動限界位置での最適第1信号V2を選択した場合について検討する。この場合、一方の移動限界位置での第1信号と第2信号の関係(図13(a)の実線)において、最適第1信号V1よりも大きな最適第1信号V2に対応する第2信号はS3よりも大きくなることは明らかである。すなわち、この場合の第2信号は、A/D変換器の最大許容量を超えてしまうため、最適信号として選択することは最適とは言えない。
【0110】
これに対して、一方の移動限界位置での最適第1信号V1を選択すると、他方の移動限界位置において対応する第2信号はA/D変換器の最大許容値に対応する第2信号S3を超えないことが分かる。このため、一方の移動限界位置での最適第1信号V1を最適な信号として選択することができる。
【0111】
したがって、一方の移動限界位置及び他方の移動限界位置での静電容量が互いに異なっていた場合、静電容量が大きくなる方の移動限界位置について第1信号と第2信号の関係から決定した最適第1信号を、最適な信号として選択を行う。
なお、その他の構成、作用、効果については、第1実施形態と同様である。
【0112】
(第3実施形態)
図14は、本発明の第3実施形態に係る慣性駆動アクチュエータ装置の構成を示す平面図である。図15は、慣性駆動アクチュエータ装置の慣性駆動アクチュエータ300の構成を示す側面図である。なお、図14においては、突き当て部205、206の図示を省略している。
【0113】
第3実施形態に係る慣性駆動アクチュエータ装置においては、2つの移動体321、322、2枚の検出電極311、312を備える点が第1実施形態に係る慣性駆動アクチュエータ装置と異なる。その他の構成は第1実施形態に係る慣性駆動アクチュエータ装置と同様である。
【0114】
第3実施形態の慣性駆動アクチュエータ装置は、慣性駆動アクチュエータ300と、慣性駆動アクチュエータ300に接続された、駆動部333、演算部341、出力部342、及び受信部343と、を備える。ここで、第3実施形態の固定部材301(内側面301a、301d)、圧電素子302、振動基板303(側面303a、303d)、バネ304、永久磁石307、駆動部333、演算部341、出力部342、受信部343は、第1実施形態の固定部材101(内側面101a、101d)、圧電素子102、振動基板103(側面103a、103d)、バネ104、永久磁石107、駆動部133、演算部141、出力部142、受信部143にそれぞれ対応するため、これらについての詳細な説明は省略する。
【0115】
振動基板303の上面には検出電極311、312が形成され、検出電極311、312の上面には絶縁層315が形成されている。
検出電極311、312は、斜辺が互いに対向する直角三角形の平面形状を有している。具体的には、検出電極311は、振動基板303の長手方向(図14、図15の左右方向)において、バネ304側から圧電素子302側へ向かうにつれて幅が狭くなり、検出電極312は、圧電素子302側からバネ304側へ向かうにつれて幅が狭くなっている。
【0116】
検出電極311、312は、その平面形状により、移動体321が一方の移動限界位置から他方の移動限界位置に移動するにつれて、移動体321の移動体電極321aとの間の静電容量が移動量に比例してそれぞれ変化するように構成されることが好ましい。
【0117】
検出電極311、312上には、絶縁層315を介して、二つの移動体321、322が載置されている。移動体321、322の下面、すなわち検出電極311、312に対向する面には、移動体電極321a、322aがそれぞれ形成されている。
【0118】
移動体321、322は、振動基板303の変位にともなって、長板状の振動基板303の長手方向において、絶縁層315と摺動しつつ移動可能である。
【0119】
圧電素子302、検出電極311、312、移動体321、322の移動体電極321a、322aには、これらを駆動させるための駆動電圧を印加するための駆動部333が接続されている。
第3実施形態に係る慣性駆動アクチュエータ装置では、移動体電極321a、322aと検出電極311との対向する部分の面積に相当する静電容量と、移動体電極321a、322aと検出電極312との対向する部分の面積に相当する静電容量と、を比較または差分を検出することによって、移動体321、322の振動基板303に対する相対的な位置を検出することができる。
【0120】
例えば、移動体321、322を図14又は図15において、紙面右側に移動させると移動体電極321a、322aと検出電極312との対向面積が大きくなるため、検出電極312と移動体電極321a、322aとの間の静電容量は大きくなる。一方で、移動体電極321a、322aと検出電極311との対向面積は次第に小さくなるため、検出電極311と移動体電極321a、322aとの間の静電容量も小さくなる。これら静電容量の差分を取れば、静電容量の大小関係から移動体の位置を高精度に把握することが可能である。
【0121】
ここで、一方の移動限界位置から他方の移動限界位置までの移動範囲内において、移動体の位置と静電容量とが比例関係にあることが好ましい。
また、移動限界位置は、突き当て部305、306、及び接触する移動体のいずれかを一方の移動限界位置に設定することもできる。また、移動体の位置と静電容量との関係は、位置の変化に伴って静電容量が変化すれば比例関係でなくてもよい。
【0122】
以上の構成により、検出電極311、312、及び圧電素子302に駆動電圧を印加すると、振動基板303は、圧電素子302の変位の方向に変位する。このように振動基板303が変位すると、振動基板303上の移動体321、322は、突き当て部305、306によって定まる移動限界位置間の移動範囲内において、慣性により移動可能である。具体的な駆動原理及びキャリブレーション方法については、第2実施形態の慣性駆動アクチュエータ200と同様な部分の詳細な説明は省略する。
【0123】
第3実施形態の慣性駆動アクチュエータ装置では、移動体321、322のそれぞれについて、一方の移動限界位置と他方の移動限界位置での最適第1信号を演算する。移動体321、322がそれぞれ持つ最適第1信号は、個別に算出されるが、演算後にどちらかの最適第1信号に統一してもよい。統一は、上述の最適第1信号の選択(図10)と同様に行うことができ、移動体321、322のいずれについても第2信号がA/D変換器への最大許容値を超えないように、静電容量が大きくなる方の最適第1信号を選択して、この信号に統一する。
なお、その他の構成、作用、効果については、第1実施形態又は第2実施形態と同様である。
【0124】
(第4実施形態)
第4実施形態に係る慣性駆動アクチュエータについて説明する。第4実施形態に係る慣性駆動アクチュエータは、固定部材上に圧電素子、振動部材の順に結合される振動部材と、振動部材に摩擦結合した移動体と、振動部材の結合方向と略平行且つ一定距離の間隔を保ちながら延設された固定基板上に設けられた検出電極とを備える。振動部材は、検出電極と略平行に配置され、移動体は検出電極との距離を保ちながら振動部材と摺動しつつ移動する。
【0125】
圧電素子には、駆動電圧を印加するための駆動部が接続されている。また、移動体には出力部が接続され、検出電極には、受信部が接続されている。出力部及び受信部は、演算部に接続されている。
【0126】
第4実施形態の、圧電素子、振動部材、検出電極、移動体、演算部、出力部、受信部は、第1実施形態の固定部材101、圧電素子102、振動基板103、検出電極111、移動体121、演算部141、出力部142、受信部143にそれぞれ対応する。慣性駆動アクチュエータの駆動原理及びキャリブレーション方法は、第1実施形態と同様であるためその詳細な説明は省略する。
なお、その他の構成、作用、効果については、第1実施形態と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0127】
以上のように、本発明に係る慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法及び慣性駆動アクチュエータ装置は、精度の高い位置検出が求められる慣性駆動アクチュエータ装置に適している。
【符号の説明】
【0128】
100 慣性駆動アクチュエータ
101 固定部材
102 圧電素子
103 振動基板
104 バネ
105、106 突き当て部
107 永久磁石
111 検出電極
115 絶縁層
121 移動体
121a 移動体電極
133 駆動部
141 演算部
142 出力部
143 受信部
200 慣性駆動アクチュエータ
201 固定部材
202 圧電素子
203 振動基板
204 バネ
205、206 突き当て部
207 永久磁石
211、212 検出電極
215 絶縁層
221 移動体
221a 移動体電極
233 駆動部
241 演算部
242 出力部
243 受信部
256 突き当て部
262 検出電極
300 慣性駆動アクチュエータ
301 固定部材
302 圧電素子
303 振動基板
304 バネ
305、306 突き当て部
307 永久磁石
311、312 検出電極
315 絶縁層
321、322 移動体
321a、322a 移動体電極
333 駆動部
341 演算部
342 出力部
343 受信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電容量にて移動体の位置検出を行う慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法であって、
前記移動体の駆動を行う駆動ステップと、
前記移動体に設けられた移動体電極と、前記移動体電極と対向して設けられた検出電極と、が対向する部分の静電容量を検出するための第1信号を出力する出力ステップと、
前記出力ステップにて出力された前記第1信号が前記移動体電極と前記検出電極を通過して得られる第2信号を受信する受信ステップと、
前記受信ステップで得られた前記受信信号に基づいて最適第1信号を演算する演算ステップと、
を備えることを特徴とする慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法。
【請求項2】
前記演算ステップにおける前記最適第1信号の演算後に、前記最適第1信号の値が最適か否か確認する確認ステップを備えることを特徴とする請求項1に記載の慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法。
【請求項3】
前記確認ステップは、前記第2信号が、前記最適第1信号に対応する最適第2信号と等しいか否かを判定する判定ステップを有することを特徴とする請求項2に記載の慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法。
【請求項4】
前記判定ステップにおいて、前記第2信号が前記最適第2信号に等しくないと判定された場合に、前記演算ステップにて演算された前記最適第1信号を補正演算することを特徴とする請求項3に記載の慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法。
【請求項5】
前記移動体に対して、同一場所にて、2回以上前記第1信号を出力する場合、異なる信号を出力することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法。
【請求項6】
前記移動体は一方の移動限界位置及び他方の移動限界位置間を移動し、
前記演算ステップは、前記一方の移動限界位置と前記他方の移動限界位置のそれぞれについて前記最適第1信号を演算することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法。
【請求項7】
前記第1信号の出力をA/D変換の範囲内に入る信号から開始することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法。
【請求項8】
前記一方の移動限界位置から、前記他方の移動限界位置までの距離に対して静電容量が比例関係であることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法。
【請求項9】
前記移動体が複数ある場合、個別に前記最適第1信号をもつことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法。
【請求項10】
前記移動体が複数ある場合、それぞれについての前記最適第1信号が統一されていることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法。
【請求項11】
前記一方の移動限界位置と前記他方の移動限界位置の前記最適第1信号が互いに異なる場合、そのどちらが最適かを比較する比較ステップを有することを特徴とする請求項6に記載の慣性駆動アクチュエータのキャリブレーション方法。
【請求項12】
移動体の駆動を行う駆動部と、
前記移動体に設けられた移動体電極と、前記移動体電極と対向して設けられた検出電極とが対向する部分の静電容量を検出するための第1信号を出力する出力部と、
前記第1信号出力部にて出力された前記第1信号が前記移動体電極と前記検出電極を通過して得られる第2信号を受信する受信部と、
前記第1信号受信部により受信した前記受信信号に基づいて最適第1信号を演算する演算部と、
を具備することを特徴とする慣性駆動アクチュエータ装置。
【請求項13】
前記移動体は、往復移動される振動基板に対して慣性により移動し、
前記検出電極が、前記移動体と前記振動部材の間に配置されることを特徴とする請求項12に記載の慣性駆動アクチュエータ装置。
【請求項14】
前記検出電極は、前記移動体電極との間に静電引力を発生させ、前記振動部材と前記移動体との間の摩擦力を制御する駆動電極を兼用してなることを特徴とする請求項12または請求項13に記載の慣性駆動アクチュエータ装置。
【請求項15】
前記検出電極が複数配置されたことを特徴とする請求項12から請求項14のいずれか1項に記載の慣性駆動アクチュエータ装置。
【請求項16】
前記移動体が複数配置されたことを特徴とする請求項記12から請求項15のいずれか1項に記載の慣性駆動アクチュエータ装置。
【請求項17】
前記移動体は導電材料にて形成されたことを特徴とする請求項12から請求項16のいずれか1項に記載の慣性駆動アクチュエータ装置。
【請求項18】
前記振動基板の前記移動体とは反対側に永久磁石が配置され、前記移動体が磁性材料を含むことを特徴とする請求項12から請求項17のいずれか1項に記載の慣性駆動アクチュエータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−80792(P2011−80792A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231474(P2009−231474)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】