説明

懸濁液の固形分分離方法

【課題】従来よりも低い温度で懸濁液の固形分を凝集させることができる固形分の分離方法の提供。
【解決手段】転移温度を境に親水性から疎水性に変化するカチオン性感温性ポリマー及びアニオン性感温性ポリマーを、懸濁液に添加及び混合して、固形分を凝集させて分離する懸濁液の固形分分離方法であって、全構成単位に占める疎水性基を有する構成単位の比率が、カチオン性感温性ポリマーよりも、アニオン性感温性ポリマーの方が高く、且つカチオン性感温性ポリマーにおいて、全構成単位に占める疎水性基を有する構成単位の比率が3モル%以下であり、カチオン性感温性ポリマー及びアニオン性感温性ポリマーを、これらの混合前の転移温度よりも低い親水性温度域で懸濁液に添加及び混合した後、懸濁液の温度を、カチオン性感温性ポリマー及びアニオン性感温性ポリマーの混合後の転移温度以上の疎水性温度域として、固形分を分離する固形分分離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来よりも低い温度で行うことができる懸濁液の固形分分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上水処理、下水処理、又はそこから排出される汚泥処理などにおいては、懸濁液中の微細粒子の分離(固形分の分離)が主要課題となっている。そして、通常は、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、塩化第二鉄、ポリ鉄などの無機凝集剤や、ポリアクリルアミド、そのアニオンもしくはカチオン誘導体などの有機高分子凝集剤が、単独で使用又は併用されて、微細粒子の凝集及び粗大化が計られ、その後、沈降による分離、あるいは濾過及び圧搾などの圧力による凝集体からの水の分離が行われている。
【0003】
しかし、無機凝集剤を使用した場合には、アルミニウムイオンや鉄イオンが水酸化物となって凝集体を生成するため、脆弱で極めて水分量が多い凝集体しか得られないという問題点があった。また、高分子凝集剤を使用した場合には、親水性高分子が微細粒子間に架橋的に吸着して凝集体を形成するが、その際に多量の水を抱き込むため、その後の固形分の分離が困難になるという問題点があった。そこで、固形分分離工程に先立って、強固で且つ水分量が少ない固形分の凝集体を形成させる方法が望まれていた。
【0004】
このような方法としては、転移温度を境にして、親水性から疎水性に変化する性質を有するカチオン性感温性ポリマー及びアニオン性感温性ポリマーを、転移温度より低い親水性温度域で懸濁液に添加及び混合した後、加熱により懸濁液の温度を転移温度以上の疎水性温度域として、固形分を凝集させて分離する懸濁液の固形分分離方法が開示されている(特許文献1参照)。この方法は、圧搾脱液し易い凝集体が得られる点で優れた方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−232104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の感温性ポリマーを使用する方法では、転移温度が最も低いものでも40℃近い温度であり、固形分を凝集させるためには、懸濁液の相応の加熱が必要であり、工程に長時間を要すると共にコストの低減が困難であるという問題点があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、従来よりも低い温度で懸濁液の固形分を凝集させることができる固形分の分離方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、
本発明は、転移温度を境に親水性から疎水性に変化するカチオン性感温性ポリマー及びアニオン性感温性ポリマーを、懸濁液に添加及び混合して、固形分を凝集させて分離する懸濁液の固形分分離方法であって、全構成単位に占める疎水性基を有する構成単位の比率が、前記カチオン性感温性ポリマーよりも、前記アニオン性感温性ポリマーの方が高く、且つ前記カチオン性感温性ポリマーにおいて、全構成単位に占める疎水性基を有する構成単位の比率が3モル%以下であり、前記カチオン性感温性ポリマー及びアニオン性感温性ポリマーを、これらの混合前の転移温度よりも低い親水性温度域で前記懸濁液に添加及び混合した後、前記懸濁液の温度を、前記カチオン性感温性ポリマー及びアニオン性感温性ポリマーの混合後の転移温度以上の疎水性温度域として、固形分を分離することを特徴とする懸濁液の固形分分離方法を提供する。
本発明の懸濁液の固形分分離方法においては、前記カチオン性感温性ポリマーが疎水性基を有しないことが好ましい。
本発明の懸濁液の固形分分離方法においては、前記懸濁液の疎水性温度域での温度を15℃以上とすることが好ましい。
本発明の懸濁液の固形分分離方法においては、前記アニオン性感温性ポリマーが、N−イソプロピルアクリルアミド、アクリル酸、及びN−tert−ブチルアクリルアミドから誘導される構成単位からなり、全構成単位に占める、アクリル酸から誘導される構成単位の比率が、5〜15モル%であることが好ましい。
本発明の懸濁液の固形分分離方法においては、前記カチオン性感温性ポリマーが、N−イソプロピルアクリルアミド、及びN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドから誘導される構成単位からなり、全構成単位に占める、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドから誘導される構成単位の比率が、5〜15モル%であることが好ましい。
本発明の懸濁液の固形分分離方法においては、前記アニオン性感温性ポリマーにおいて、全構成単位に占める、疎水性基を有する構成単位の比率が18モル%以下であることが好ましい。
本発明の懸濁液の固形分分離方法においては、前記懸濁液に、前記カチオン性感温性ポリマーを添加及び混合した後、前記アニオン性感温性ポリマーを添加及び混合することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来よりも低い温度で懸濁液の固形分を凝集させることができる固形分の分離方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1〜2及び比較例1〜2における、恒温槽の温度と固形分の沈降体積との関係を示すグラフである。
【図2】比較例1、3及び4における、恒温槽の温度と固形分の沈降体積との関係を示すグラフである。
【図3】実施例3及び比較例5における、ろ過中のろ液量と時間との関係をグラフである。
【図4】実施例4及び比較例5における、ろ過中のろ液量と時間との関係をグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の懸濁液の固形分分離方法は、転移温度を境に親水性から疎水性に変化するカチオン性感温性ポリマー及びアニオン性感温性ポリマーを、懸濁液に添加及び混合して、固形分を凝集させて分離する懸濁液の固形分分離方法であって、全構成単位に占める疎水性基を有する構成単位の比率が、前記カチオン性感温性ポリマーよりも、前記アニオン性感温性ポリマーの方が高く、且つ前記カチオン性感温性ポリマーにおいて、全構成単位に占める疎水性基を有する構成単位の比率が3モル%以下であり、前記カチオン性感温性ポリマー及びアニオン性感温性ポリマーを、これらの混合前の転移温度よりも低い親水性温度域で前記懸濁液に添加及び混合した後、前記懸濁液の温度を、前記カチオン性感温性ポリマー及びアニオン性感温性ポリマーの混合後の転移温度以上の疎水性温度域として、固形分を分離することを特徴とする。
このような、特定のカチオン性感温性ポリマーと、アニオン性感温性ポリマーとを組み合わせて使用することで、従来よりも低い温度で固形分が凝集するので、懸濁液の過度の加熱が不要となる。その結果、工程時間を短縮できると共に、コストの低減が可能となる。
【0012】
前記アニオン性感温性ポリマーは、前記転移温度を有するものであり、主たるポリマー構造(ベースポリマー)の構成単位と、アニオン性基を有する構成単位と、疎水性基を有する構成単位とを含む。そして、全構成単位に占める、これら三種の構成単位の総量の比率が95モル%以上であることが好ましく、100モル%であること、すなわち、これら三種の構成単位からなることがより好ましい。
【0013】
アニオン性感温性ポリマーにおける前記ベースポリマーの構成単位は、(メタ)アクリルアミド誘導体から誘導される構成単位が好ましい。なお、本発明において、「(メタ)アクリルアミド」とは、アクリルアミド及びメタクリルアミドの両方を包含する概念である。そして、前記(メタ)アクリルアミド誘導体としては、アミド基(−C(=O)−NH)の窒素原子に結合している一つ又は二つの水素原子が、水素原子以外の基(置換基)で置換されたものが例示でき、前記置換基としては、アルキル基が好ましい。すなわち、好ましい前記(メタ)アクリルアミド誘導体としては、N−アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミドが例示できる。
【0014】
前記置換基としてのアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよい。そして、二つの水素原子がいずれもアルキル基で置換されている場合には、これらアルキル基が相互に結合して、これらアルキル基が結合している窒素原子とともに環構造を形成していてもよい。二つのアルキル基が相互に結合する炭素原子の位置は特に限定されないが、共に末端の炭素原子であることが好ましい。
【0015】
前記ベースポリマーの好ましい構成単位としては、下記式(A1)−1〜(A1)−10で表される、N−アルキルアクリルアミド又はN,N−ジアルキルアクリルアミドから誘導される構成単位、下記式(A2)−1〜(A2)−4で表される、N−アルキルメタクリルアミドから誘導される構成単位が例示できる。
【0016】
【化1】

【0017】
前記ベースポリマーの構成単位は、一種でもよいし、二種以上でもよい。二種以上である場合、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に調節できる。
【0018】
ここで、一種の構成単位のみからなるベースポリマーの転移温度を以下に例示する。
ポリ(N−エチルアクリルアミド)(すなわち、前記式(A1)−1で表される構成単位からなるポリマー):72℃
ポリ(N−メチル−N−エチルアクリルアミド)(すなわち、前記式(A1)−2で表される構成単位からなるポリマー):56℃
ポリ(N−アクリロイルピロリジン)(すなわち、前記式(A1)−3で表される構成単位からなるポリマー):56℃
ポリ(N−シクロプロピルアクリルアミド)(すなわち、前記式(A1)−4で表される構成単位からなるポリマー):46℃
ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(すなわち、前記式(A1)−5で表される構成単位からなるポリマー):32℃
ポリ(N,N−ジエチルアクリルアミド)(すなわち、前記式(A1)−6で表される構成単位からなるポリマー):29℃
ポリ(N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド)(すなわち、前記式(A1)−7で表される構成単位からなるポリマー):22℃
ポリ(N−n−プロピルアクリルアミド)(すなわち、前記式(A1)−8で表される構成単位からなるポリマー):21℃
ポリ(N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド)(すなわち、前記式(A1)−9で表される構成単位からなるポリマー):20℃
ポリ(N−アクリロイルピペリジン)(すなわち、前記式(A1)−10で表される構成単位からなるポリマー):6℃
ポリ(N−シクロプロピルメタクリルアミド)(すなわち、前記式(A2)−1で表される構成単位からなるポリマー):59℃
ポリ(N−エチルメタクリルアミド)(すなわち、前記式(A2)−2で表される構成単位からなるポリマー):50℃
ポリ(N−イソプロピルメタクリルアミド)(すなわち、前記式(A2)−3で表される構成単位からなるポリマー):44℃
ポリ(N−n−プロピルメタクリルアミド)(すなわち、前記式(A2)−4で表される構成単位からなるポリマー):13℃
【0019】
前記アニオン性基を有する構成単位は、アニオン又はアニオンを生成し得る基を有するものであれば特に限定されないが、カルボキシル基(−C(=O)−OH)等の酸基を有するものが好ましく、(メタ)アクリル酸から誘導される構成単位がより好ましい。なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸の両方を包含する概念である。
【0020】
アニオン性基を有する構成単位は、一種でもよいし、二種以上でもよい。二種以上である場合、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に調節できる。
【0021】
アニオン性感温性ポリマーにおいて、全構成単位に占める、アニオン性基を有する構成単位の比率は、5〜15モル%であることが好ましく、8〜12モル%であることがより好ましい。下限値以上とすることで、より少ないアニオン性感温性ポリマーの使用量でも、十分な固形分の分離能が得られる。また、上限値以下とすることで、同程度の温度で比較した時に、より高い固形分の分離能が得られる。
【0022】
前記疎水性基を有する構成単位は特に限定されないが、例えば、疎水性が高いアルキル基を有するものが好ましく、炭素数が4以上の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有するものがより好ましく、N−n−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−イソブチル(メタ)アクリルアミド、N−sec−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−tert−ブチル(メタ)アクリルアミド、n−ペンチル(メタ)アクリルアミド、イソペンチル(メタ)アクリルアミド、ネオペンチル(メタ)アクリルアミド、tert−ペンチル(メタ)アクリルアミド又は1−メチルブチル(メタ)アクリルアミド等から誘導される構成単位が例示できる。
【0023】
疎水性基を有する構成単位は、一種でもよいし、二種以上でもよい。二種以上である場合、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に調節できる。
【0024】
アニオン性感温性ポリマーにおいて、全構成単位に占める、疎水性基を有する構成単位の比率は、18モル%以下であることが好ましく、5〜18モル%であることがより好ましく、7〜16モル%であることが特に好ましい。下限値以上とすることで、より低い温度で十分な固形分の分離能が得られる。また、上限値以下とすることで、同程度の温度で比較した時に、より高い固形分の分離能が得られる。
【0025】
アニオン性感温性ポリマーにおいて、全構成単位に占める、アニオン性基を有する構成単位と疎水性基を有する構成単位との総量の比率は、10〜33モル%であることが好ましく、15〜28モル%であることがより好ましい。そしてこの時、アニオン性基を有する構成単位と疎水性基を有する構成単位とが、それぞれ上記の好ましい数値範囲の比率であることが好ましい。
【0026】
好ましいアニオン性感温性ポリマーとしては、N−イソプロピルアクリルアミド、アクリル酸、及びN−tert−ブチルアクリルアミドから誘導される構成単位を含むものが例示できる。
【0027】
アニオン性感温性ポリマーは、通常、質量平均分子量が大きい方が好ましく、10万〜2000万であることが好ましく、400万〜1500万であることがより好ましい。
【0028】
アニオン性感温性ポリマーは、ベースポリマーを構成するモノマー、アニオン性基を有するモノマー、及び疎水性基を有するモノマーを必須成分とし、これらモノマーを所望の比率で共重合させることで得られる。また、ベースポリマーを構成するモノマーに代えて、該モノマーが複数重合したオリゴマー又はポリマーを使用してもよい。共重合は公知の方法で行えばよく、不活性ガス雰囲気下、重合促進剤や重合開始剤を使用して、溶媒中で反応させる方法が例示できる。
アニオン性感温性ポリマーの転移温度は、重合させるモノマーの種類及び比率を調節することで、適宜調節できる。また、アニオン性感温性ポリマーの分子量(重合度)は、重合促進剤や重合開始剤の使用量で適宜調節できる。
【0029】
前記カチオン性感温性ポリマーは、前記転移温度を有するものであり、主たるポリマー構造(ベースポリマー)の構成単位と、カチオン性基を有する構成単位とを含む。そして、全構成単位に占める、これら二種の構成単位の総量の比率が95モル%以上であることが好ましく、100モル%であること、すなわち、これら二種の構成単位からなることがより好ましい。
【0030】
カチオン性感温性ポリマーのベースポリマーの構成単位は、アニオン性感温性ポリマーの場合と同様である。
【0031】
前記カチオン性基を有する構成単位は、カチオン又はカチオンを生成し得る基を有するものであれば特に限定されないが、アミノ基(−NH)の一つ又は二つの水素原子が水素原子以外の基(置換基)で置換された構造、すなわち置換アミノ基を有するものが例示でき、前記置換基としては、アルキル基が好ましい。また、カチオンを有する構成単位としては、前記置換アミノ基の窒素原子にさらにアルキル基等が結合したアンモニウム塩の構造を有するものが例示できる。
【0032】
前記アルキル基は、アニオン性感温性ポリマーにおける置換基としてのアルキル基と同様であり、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよく、二つの水素原子がいずれもアルキル基で置換されている場合には、これらアルキル基が相互に結合して環構造を形成していてもよい。
【0033】
好ましいカチオン性基を有する構成単位としては、N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドが例示でき、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド((CHN−(CH−NH−C(=O)−CH=CH、DMAPAA)がより好ましい。
【0034】
カチオン性感温性ポリマーにおいて、全構成単位に占める、カチオン性基を有する構成単位の比率は、5〜15モル%であることが好ましく、8〜12モル%であることがより好ましい。このような範囲とすることで、より少ないカチオン性感温性ポリマーの使用量でも、十分な固形分の分離能が得られる。
【0035】
カチオン性感温性ポリマーにおいては、全構成単位に占める、疎水性基を有する構成単位の比率が、アニオン性感温性ポリマーよりも低く、且つ3モル%以下であることが必要であり、0モル%であることが好ましい。すなわち、カチオン性感温性ポリマーは、疎水性基を有しないことが好ましい。
【0036】
好ましいカチオン性感温性ポリマーとしては、N−イソプロピルアクリルアミド、及びN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドから誘導される構成単位を含むものが例示できる。
【0037】
カチオン性感温性ポリマーの質量平均分子量は、アニオン性感温性ポリマーの場合と同様である。
【0038】
カチオン性感温性ポリマーは、ベースポリマーを構成するモノマー、及びカチオン性基を有するモノマーを必須成分とし、これらモノマーを所望の比率で共重合させることで得られる。また、ベースポリマーを構成するモノマーに代えて、該モノマーが複数重合したオリゴマー又はポリマーを使用してもよい。共重合は、アニオン性感温性ポリマーの場合と同様に、公知の方法で行えばよい。
そして、カチオン性感温性ポリマーの転移温度は、重合させるモノマーの種類及び比率を調節することで、適宜調節できる。また、カチオン性感温性ポリマーの分子量(重合度)は、重合促進剤や重合開始剤の使用量で適宜調節できる。
【0039】
まず、本発明においては、カチオン性感温性ポリマーを、その転移温度よりも低い親水性温度域で、アニオン性感温性ポリマーを、その転移温度よりも低い親水性温度域で、それぞれ懸濁液に添加して混合する。なお、ここでの「転移温度」とは、カチオン性感温性ポリマー及びアニオン性感温性ポリマーを混合する前の、これらポリマーに固有の転移温度を指す。後述するように、感温性ポリマーは、混合後に混合前よりも転移温度が低下することがある。
【0040】
それぞれのポリマーの添加方法は特に限定されず、一括添加してもよいし、分割添加してもよく、少量ずつ連続的に添加してもよい。また、それぞれのポリマーは、すべて又は一部を添加してから混合してもよいし、ポリマーを添加しながら混合してもよい。そして、カチオン性感温性ポリマー及びアニオン性感温性ポリマーの添加順序は特に限定されず、いずれか一方を添加してから他方を添加してもよいし、両方を同時に添加してもよい。なかでも、本発明においては、カチオン性感温性ポリマーを添加及び混合した後、アニオン性感温性ポリマーを添加及び混合することが好ましく、カチオン性感温性ポリマーを全量添加及び混合した後、アニオン性感温性ポリマーを全量添加及び混合することがより好ましい。
【0041】
カチオン性感温性ポリマー及びアニオン性感温性ポリマーの総添加量は、懸濁液中の固形分の量に対して0.1〜5質量%であることが好ましく、0.5〜3.5質量%であることがより好ましい。下限値以上とすることで、固形分の分離能がより向上する。また、上限値以下とすることで、過剰なポリマーの使用が回避でき、より効率的に固形分を分離できる。
【0042】
カチオン性感温性ポリマーとアニオン性感温性ポリマーとの使用量の比率(質量比)は、これらポリマーの種類にもよるが、10:1〜1:10であることが好ましく、6:4〜4:6であることがより好ましい。
【0043】
親水性温度域での混合時間は、カチオン性感温性ポリマーとアニオン性感温性ポリマーのいずれについても、ポリマーの添加後から3分間以上であることが好ましい。
また、親水性温度域での混合時の温度は、それぞれのポリマーの転移温度を考慮して設定すればよく、特に限定されない。
【0044】
ポリマー添加後の懸濁液は、公知の方法で混合すればよく、例えば、撹拌子又は撹拌翼等を回転させて混合する方法、ミキサーを使用して混合する方法、超音波を加えて混合する方法等から適宜選択すれば良い。
【0045】
次いで、本発明においては、カチオン性感温性ポリマー及びアニオン性感温性ポリマーの混合後の懸濁液の温度を、これらポリマーの混合後の転移温度(見かけ上の転移温度)以上の疎水性温度域として、固形分を凝集させる。疎水性温度域への昇温時には、親水性温度域での場合と同様に、懸濁液を混合してもよいし、しなくてもよい。
【0046】
上記のように、感温性ポリマーは、混合後に混合前よりも転移温度が低下することがある。この場合、カチオン性感温性ポリマー及びアニオン性感温性ポリマーの混合後の転移温度(見かけ上の転移温度)とは、混合前のこれらポリマーについては親水性温度域にあるが、混合後に固形分の凝集効果を示す温度である。
混合後の転移温度(見かけ上の転移温度)は、例えば10℃以下等の十分に低い温度で、懸濁液、カチオン性感温性ポリマー及びアニオン性感温性ポリマーを混合した後、昇温し、生じた固形分の沈降体積の変化を確認することにより確認できる(例えば、実施例1参照)。
混合後の転移温度(見かけ上の転移温度)は、それぞれのポリマーの成分及び混合比率、並びに固形分の性質等により異なる。
【0047】
したがって、例えば、カチオン性感温性ポリマー及びアニオン性感温性ポリマーの混合時における懸濁液の温度が、これらポリマーの混合前の転移温度より低く、且つ混合後の転移温度(見かけ上の転移温度)以上である場合には、懸濁液の昇温は必ずしも必要ではなく、例えば、温度を一定に維持したままでも、固形分を凝集させることができる。この場合には特に、カチオン性感温性ポリマーを添加及び混合した後、アニオン性感温性ポリマーを添加及び混合することが好ましく、カチオン性感温性ポリマーを全量添加及び混合した後、アニオン性感温性ポリマーを全量添加及び混合することが好ましい。
【0048】
疎水性温度域での温度は、それぞれのポリマーの転移温度を考慮して設定すればよく、特に限定されない。ただし、本発明においては、従来よりも低い温度で懸濁液の固形分を凝集させることができ、30℃以下という従来に無い低い温度でも、十分に固形分を凝集させることができる。また、疎水性温度域での温度の下限値は、実用性の観点から、15℃であることが好ましい。
懸濁液は、疎水性温度域の温度を3分間以上保持することが好ましい。
【0049】
凝集させた固形分は、その量等を考慮して公知の方法で分離すればよく、例えば、重力沈降、遠心沈降等の沈降法や、ベルトプレス機、フィルタプレス機、遠心脱水機、スクリュープレス機、多重回転円盤型脱水機等の各種圧搾脱液手段を使用した脱液法から、適宜選択すればよい。
【0050】
本発明において固形分の凝集は、以下のように起こると推測される。すなわち、親水性温度域でのカチオン性感温性ポリマーとアニオン性感温性ポリマーは、いずれも親水性なので、通常の高分子凝集剤と同様に、懸濁液中の固形分粒子間に架橋的に吸着してフロックを形成する。そして、ポリマーの量が十分であれば、固形分粒子表面がこれらポリマーで被覆され、分散安定化する。この状態で懸濁液を転移温度以上の疎水性温度域に昇温すると、固形分粒子表面のポリマーが疎水性に変化して、粒子表面が疎水化され、固形分粒子が疎水性相互作用によってフロックを形成して、凝集する。この時に適当な外力をフロックに加えれば、粒子が容易に再配列すると共に、フロック間隙の水は疎水化された固形分粒子の作用により自発的に外部へ排出され、圧密体が容易に得られる。
【0051】
通常は、イオン性感温性ポリマーを使用することで、固形分粒子への吸着は、非イオン性感温性ポリマーの場合よりも強固になる。しかし、イオン性感温性ポリマーが疎水性に変化しても、イオン性基の周りには強固な水和層が存在するため、疎水性相互作用によるイオン性感温性ポリマー同士の付着が妨げられ、疎水性相互作用によるフロックの形成及びその圧密作用が生じ難くなる。
これに対して、本発明においては、相互に反対の電荷を有する、カチオン性感温性ポリマーとアニオン性感温性ポリマーとを併用することで、電荷が中和されて水和層の影響を受け難くなり、疎水性相互作用によってフロックが容易に形成され、圧密体が容易に得られる。さらに、電荷の中和によってカチオン性感温性ポリマーとアニオン性感温性ポリマーとの複合体が形成され、非イオン性感温性ポリマーの場合よりも、より優れた圧密作用が得られる。
さらに、本発明においては、上記の特定のカチオン性感温性ポリマーとアニオン性感温性ポリマーとを併用することで、見かけ上の転移温度がより低下し、フロックが従来よりも低い温度で形成され、固形分が凝集する。
【0052】
イオン性感温性ポリマーとして疎水性基を有するものを使用することは、これまでにも知られているが、ポリマーの組成とこれを使用した場合の固形分分離能について、具体的に開示しているものは全く無い。これに対して、本発明は、疎水性基を有するイオン性感温性ポリマーを使用し、限られた範囲のポリマーの組み合わせを選択することで、従来よりも低い温度での固形分の凝集及び分離を実現したものである。
本発明によれば、例えば、15〜30℃という室温程度の温度でも十分に固形分を凝集させることができるので、懸濁液の過度の加熱が不要であり、工程時間を短縮できると共に、コストの低減が可能である。したがって、実用性に極めて優れた固形分分離方法を提供できる。
【実施例】
【0053】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0054】
<ポリマーの製造>
(カチオン性感温性ポリマーの製造)
[製造例1]
窒素ガス雰囲気下、水(100)mlに、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)(0.09モル)、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMAPAA)(0.01モル)、重合促進剤としてN,N,N’N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)(0.0012モル)を溶解させ、窒素ガスで3時間パージした。また、別途、水(20ml)に重合開始剤としてペルオキソ二硫酸アンモニウム(APS)(0.00024モル)を溶解させ、窒素ガスで3時間パージした。次いで、これらを混合して、10℃で3時間ラジカル重合させることにより、疎水性基を有しないカチオン性感温性ポリマーとして、N−イソプロピルアクリルアミド及びN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドの共重合体([N−イソプロピルアクリルアミドから誘導される構成単位]/[N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドから誘導される構成単位]=9/1(モル比))を得た。モノマーの種類と使用比率を表1に示す。なお、表1中、「ベースモノマー」は、ベースポリマーを構成するモノマーを、「カチオン性モノマー」はカチオン性基を有するモノマーを、「アニオン性モノマー」アニオン性基を有するモノマーを、「疎水性モノマー」は疎水性基を有するモノマーを、それぞれ意味する。
【0055】
(アニオン性感温性ポリマーの製造)
[製造例2]
窒素ガス雰囲気下、水及びアセトニトリルの混合溶媒(水/アセトニトリル=5/1、体積比)(100)mlに、N−イソプロピルアクリルアミド(0.06モル)、アクリル酸(AAC)(0.007モル)、疎水性基を有するモノマーとしてN−tert−ブチルアクリルアミド(BAAM)(0.0035モル)、重合促進剤としてN,N,N’N’−テトラメチルエチレンジアミン(0.0012モル)を溶解させ、窒素ガスで3時間パージした。また、別途、前記と同様の水及びアセトニトリルの混合溶媒(20ml)に重合開始剤としてペルオキソ二硫酸アンモニウム(0.00024モル)を溶解させ、窒素ガスで3時間パージした。次いで、これらを混合して、10℃で3時間ラジカル重合させることにより、疎水性基を有するアニオン性感温性ポリマーとして、N−イソプロピルアクリルアミド、アクリル酸、及びN−tert−ブチルアクリルアミドの共重合体([N−イソプロピルアクリルアミドから誘導される構成単位]/[アクリル酸から誘導される構成単位]/[N−tert−ブチルアクリルアミドから誘導される構成単位]=8.5/1/0.5(モル比))を得た。モノマーの種類と使用比率を表1に示す。
【0056】
[製造例3]
アクリル酸の使用量を0.0075モル、N−tert−ブチルアクリルアミドの使用量を0.0075モルとしたこと以外は、製造例2と同様の方法で、疎水性基を有するアニオン性感温性ポリマーとして、N−イソプロピルアクリルアミド、アクリル酸、及びN−tert−ブチルアクリルアミドの共重合体([N−イソプロピルアクリルアミドから誘導される構成単位]/[アクリル酸から誘導される構成単位]/[N−tert−ブチルアクリルアミドから誘導される構成単位]=8/1/1(モル比))を得た。モノマーの種類と使用比率を表1に示す。
【0057】
[製造例4]
N−イソプロピルアクリルアミドの使用量を0.0225モル、アクリル酸の使用量を0.003モル、N−tert−ブチルアクリルアミドの使用量を0.0045モルとしたこと以外は、製造例2と同様の方法で、疎水性基を有するアニオン性感温性ポリマーとして、N−イソプロピルアクリルアミド、アクリル酸、及びN−tert−ブチルアクリルアミドの共重合体([N−イソプロピルアクリルアミドから誘導される構成単位]/[アクリル酸から誘導される構成単位]/[N−tert−ブチルアクリルアミドから誘導される構成単位]=7.5/1/1.5(モル比))を得た。モノマーの種類と使用比率を表1に示す。
【0058】
(比較用のカチオン性感温性ポリマーの製造)
[製造例5]
アクリル酸(AAC)(0.007モル)に代えてN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(0.007モル)を使用し、さらに疎水性基を有するモノマーとしてN−tert−ブチルアクリルアミド(0.0028モル)を使用したこと以外は、製造例2と同様な方法で、疎水性基を有するカチオン性感温性ポリマーとして、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、及びN−tert−ブチルアクリルアミドの共重合体([N−イソプロピルアクリルアミドから誘導される構成単位]/[N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドから誘導される構成単位]/[N−tert−ブチルアクリルアミドから誘導される構成単位]=8.6/1/0.4(モル比))を得た。モノマーの種類と使用比率を表1に示す。
【0059】
[製造例6]
N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドの使用量を0.0075モル、N−tert−ブチルアクリルアミドの使用量を0.0075モルとしたこと以外は、製造例5と同様の方法で、疎水性基を有するカチオン性感温性ポリマーとして、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、及びN−tert−ブチルアクリルアミドの共重合体([N−イソプロピルアクリルアミドから誘導される構成単位]/[N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドから誘導される構成単位]/[N−tert−ブチルアクリルアミドから誘導される構成単位]=8/1/1(モル比))を得た。モノマーの種類と使用比率を表1に示す。
【0060】
[製造例7]
N−イソプロピルアクリルアミドの使用量を0.027モル、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドの使用量を0.0036モル、N−tert−ブチルアクリルアミドの使用量を0.0054モルとしたこと以外は、製造例5と同様の方法で、疎水性基を有するカチオン性感温性ポリマーとして、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、及びN−tert−ブチルアクリルアミドの共重合体([N−イソプロピルアクリルアミドから誘導される構成単位]/[N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドから誘導される構成単位]/[N−tert−ブチルアクリルアミドから誘導される構成単位]=7.5/1/1.5(モル比))を得た。モノマーの種類と使用比率を表1に示す。
【0061】
(比較用のアニオン性感温性ポリマーの製造)
[製造例8]
N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(0.01モル)に代えてアクリル酸(AAC)(0.0067モル)を使用し、N−イソプロピルアクリルアミドの使用量を0.006モルとしたこと以外は、製造例1と同様の方法で、疎水性基を有しないアニオン性感温性ポリマーとして、N−イソプロピルアクリルアミド、及びアクリル酸の共重合体([N−イソプロピルアクリルアミドから誘導される構成単位]/[アクリル酸から誘導される構成単位]=9/1(モル比))を得た。モノマーの種類と使用比率を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
<圧密試験による固形分分離能の評価>
[実施例1]
分散剤として1×10−3モル/lの水酸化ナトリウムを含み、固形物濃度が25g/60mlであるカオリンの懸濁液を調製した。
次いで、前記懸濁液(60ml)を、カチオン性感温性ポリマーとアニオン性感温性ポリマーを混合する前の、これらの転移温度よりも低い温度(親水性温度域の温度)においてマグネティックスターラで激しく撹拌しながら、ここに製造例1で得られた疎水性基を有しないカチオン性感温性ポリマーの溶液(20ml)を、カチオン性感温性ポリマーの量がカオリンに対して1質量%となるように添加して5分間混合した。その後さらに、製造例3で得られた疎水性基を有するアニオン性感温性ポリマーの溶液(20ml)を、アニオン性感温性ポリマーの量がカオリンに対して1質量%となるように添加して5分間混合した。感温性ポリマーの組み合わせを表2に示す。
次いで、得られた液体を100mlのメスシリンダー(内径37mm)に入れ、このメスシリンダーを所定温度の水が満たされた恒温槽に入れて昇温した。そして、懸濁液が所定温度に到達したことを確認し、5分後に上部より直径10mmのアクリル樹脂製の棒を、1分間に20ストロークの割合でメスシリンダー内に入れて、生じた固形分を押し込む押し込み操作を3分間に渡り行い、さらに同様の押し込み操作を10分後及び15分後にそれぞれ3分間行い、さらに同様の押し込み操作を20分後及び25分後にそれぞれ1分間行い、30分間静置した。そして、生じた固形分の沈降体積を確認した。転移温度を境に感温性ポリマーが親水性から疎水性に変化すると、前記棒の押し込み操作により、固形分は圧密作用を受け、体積が減少する。そして、圧搾され易い固形分ほど、圧密作用が大きく、沈降体積が小さくなる。そこで、恒温槽の温度を変化させて、それぞれの場合の固形分の沈降体積を確認した。結果を図1に示す。
【0064】
[実施例2]
表2に示すように、製造例3で得られた疎水性基を有するアニオン性感温性ポリマーに代えて、製造例4で得られた疎水性基を有するアニオン性感温性ポリマーを使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で、固形分の沈降体積を確認した。結果を図1に示す。
【0065】
[比較例1]
表2に示すように、製造例3で得られた疎水性基を有するアニオン性感温性ポリマーに代えて、製造例8で得られた疎水性基を有しないアニオン性感温性ポリマーを使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で、固形分の沈降体積を確認した。結果を図1に示す。
【0066】
[比較例2]
表2に示すように、製造例1で得られた疎水性基を有しないカチオン性感温性ポリマーに代えて、製造例7で得られた疎水性基を有するカチオン性感温性ポリマーを使用し、製造例3で得られた疎水性基を有するアニオン性感温性ポリマーに代えて、製造例4で得られた疎水性基を有するアニオン性感温性ポリマーを使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で、固形分の沈降体積を確認した。結果を図1に示す。
【0067】
[比較例3]
表2に示すように、製造例1で得られた疎水性基を有しないカチオン性感温性ポリマーに代えて、製造例5で得られた疎水性基を有するカチオン性感温性ポリマーを使用し、製造例3で得られた疎水性基を有するアニオン性感温性ポリマーに代えて、製造例8で得られた疎水性基を有しないアニオン性感温性ポリマーを使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で、固形分の沈降体積を確認した。結果を図2に示す。なお、図2には、比較対象のため、比較例1の結果もあわせて示す。
【0068】
[比較例4]
表2に示すように、製造例1で得られた疎水性基を有しないカチオン性感温性ポリマーに代えて、製造例6で得られた疎水性基を有するカチオン性感温性ポリマーを使用し、製造例3で得られた疎水性基を有するアニオン性感温性ポリマーに代えて、製造例8で得られた疎水性基を有しないアニオン性感温性ポリマーを使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で、固形分の沈降体積を確認した。結果を図2に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
図1から明らかなように、沈降体積は、実施例1及び2ではいずれも約30℃、比較例1では約35℃でそれぞれ最小になっており、実施例1及び2では、比較例1よりも低い温度で固形分の沈降体積が大きく減少し、十分な固形分分離能を示した。すなわち、疎水性基を有しないカチオン性感温性ポリマーと、疎水性基を有するアニオン性感温性ポリマーとを併用することで、従来よりも低い温度で高い固形分分離能が得られ、ポリマーの混合後の転移温度(見かけ上の転移温度)が低下したことが示唆された。比較例2は圧密作用が最も小さかった。
また、図2から明らかなように、疎水性基を有するカチオン性感温性ポリマーと、疎水性基を有しないアニオン性感温性ポリマーとを併用した比較例3及び4では、疎水性基を有しないカチオン性及びアニオン性感温性ポリマーを併用した比較例1に対して、温度と沈降体積との関係にほとんど差が見られなかった。
【0071】
<ろ過試験による固形分分離能の評価>
[実施例3]
固形分濃度が2.8質量%である浄水場汚泥(200ml)をビーカーに入れ、メカニカルスターラーにより十分に撹拌しながら、所定温度(15℃、20℃、25℃)に調節した。これらの温度はいずれも、カチオン性感温性ポリマー及びアニオン性感温性ポリマーの混合前の転移温度よりも低く、且つ混合後の転移温度よりも高い。
次いで、それぞれの温度を維持しながら、ビーカーに製造例1で得られた疎水性基を有しないカチオン性感温性ポリマーの溶液を、カチオン性感温性ポリマーの量が前記汚泥の固形分に対して1.0質量%となるように添加して3分間混合した。その後、それぞれの汚泥の温度を変えることなく、さらに、製造例2で得られた疎水性基を有するアニオン性感温性ポリマーの溶液を、アニオン性感温性ポリマーの量が前記汚泥の固形分に対して1.0質量%となるように添加して3分間混合した。感温性ポリマーの種類と組み合わせを表3に示す。
次いで、ナイロン製のろ布をセットしたヌッチェ型漏斗に得られた液体を移し、真空度−800mmAq(−7.8kPa)で減圧ろ過し、ろ過中のろ液量と時間との関係を調べた。結果を図3に示す。
【0072】
[実施例4]
表3に示すように、製造例2で得られた疎水性基を有するアニオン性感温性ポリマーに代えて、製造例3で得られた疎水性基を有するアニオン性感温性ポリマーを使用したこと以外は、実施例3と同様の方法で、ろ過中のろ液量と時間との関係を調べた。結果を図4に示す。
【0073】
[比較例5]
表3に示すように、カチオン性感温性ポリマー及びアニオン性感温性ポリマーを使用しなかったこと以外は、実施例3と同様の方法で、ろ過中のろ液量と時間との関係を調べた。結果を図3及び4に示す。
【0074】
【表3】

【0075】
図3及び4から明らかなように、実施例3及び4では、一定に保持したいずれの温度でも比較例5よりもろ液量が格段に多く、脱液性が大幅に向上していた。そして、実施例3及び4のいずれにおいても、同じろ過時間で比較した場合、15℃、20℃、25℃の順にろ液量が多くなっていた。これに対して、比較例5では、いずれの温度でもろ液量にほとんど差が見られなかった。
このように、本発明により、15℃以上の温度で優れた固形分分離能が得られ、その結果、脱液性が大きく向上することを確認できた。また、ポリマーの混合後の転移温度が混合前より低下したことにより、ポリマーを混合した後、前記汚泥の温度を昇温しなくても、固形分を分離できた。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、上水処理、下水処理、汚泥処理等における固形分の分離工程に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転移温度を境に親水性から疎水性に変化するカチオン性感温性ポリマー及びアニオン性感温性ポリマーを、懸濁液に添加及び混合して、固形分を凝集させて分離する懸濁液の固形分分離方法であって、
全構成単位に占める疎水性基を有する構成単位の比率が、前記カチオン性感温性ポリマーよりも、前記アニオン性感温性ポリマーの方が高く、且つ前記カチオン性感温性ポリマーにおいて、全構成単位に占める疎水性基を有する構成単位の比率が3モル%以下であり、
前記カチオン性感温性ポリマー及びアニオン性感温性ポリマーを、これらの混合前の転移温度よりも低い親水性温度域で前記懸濁液に添加及び混合した後、前記懸濁液の温度を、前記カチオン性感温性ポリマー及びアニオン性感温性ポリマーの混合後の転移温度以上の疎水性温度域として、固形分を分離することを特徴とする懸濁液の固形分分離方法。
【請求項2】
前記カチオン性感温性ポリマーが疎水性基を有しないことを特徴とする請求項1に記載の懸濁液の固形分分離方法。
【請求項3】
前記懸濁液の疎水性温度域での温度を15℃以上とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の懸濁液の固形分分離方法。
【請求項4】
前記アニオン性感温性ポリマーが、N−イソプロピルアクリルアミド、アクリル酸、及びN−tert−ブチルアクリルアミドから誘導される構成単位からなり、全構成単位に占める、アクリル酸から誘導される構成単位の比率が、5〜15モル%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の懸濁液の固形分分離方法。
【請求項5】
前記カチオン性感温性ポリマーが、N−イソプロピルアクリルアミド、及びN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドから誘導される構成単位からなり、全構成単位に占める、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドから誘導される構成単位の比率が、5〜15モル%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の懸濁液の固形分分離方法。
【請求項6】
前記アニオン性感温性ポリマーにおいて、全構成単位に占める、疎水性基を有する構成単位の比率が18モル%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の懸濁液の固形分分離方法。
【請求項7】
前記懸濁液に、前記カチオン性感温性ポリマーを添加及び混合した後、前記アニオン性感温性ポリマーを添加及び混合することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の懸濁液の固形分分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−170871(P2012−170871A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34538(P2011−34538)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(000165273)月島機械株式会社 (253)
【Fターム(参考)】