説明

懸濁液分注装置及び懸濁液分注方法

【課題】懸濁液の分注動作を間欠的に行うことができる懸濁液分注装置において、吐出懸濁液の濃度のばらつきを低減する。
【解決手段】前記懸濁液貯留部4に貯留された懸濁液4aを一端側から吸引して他端に設けられたノズル7から吐出する液体輸送管2と、液体輸送管2を押圧して閉塞部8を形成する加圧部材3と、加圧部材3を移動させて閉塞部8の位置を変更させる駆動部9を備え、加圧部材3をノズル7に近づくように移動させて、細胞懸濁液4aをノズル7から吐出させる分注動作を行う一方、分注動作を行わないときには、加圧部材3をノズル7から遠ざかるよう移動させて、液体輸送管2中に残存する懸濁液4aを懸濁液貯留部4側に移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性を有するチューブにしごき作用を付与することにより懸濁液を搬送し、容器に分注する懸濁液分注装置及び懸濁液分注方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、可撓性チューブをホルダの円弧状内周壁面に湾曲保持し、外周部に複数の押圧ローラを具備するロータを回転駆動させ、押圧ローラがチューブ上を所定の圧接力で転道走行することによりチューブにしごき作用を与え、チューブ内の液体をその先端より吐出させる液体搬送装置が知られている(たとえば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
この液体搬送装置は、円弧状の周壁を有する押圧体に沿って湾曲した状態で保持された可撓性を有するチューブに、回転駆動可能な回転体の周面に設けられたローラを押し当てて、押圧体とローラとでチューブを狭窄押潰させた変形部分を画定する。そして、この状態で、回転体を一定方向に回転させることにより、チューブの変形部分の位置を移動させ、このしごき作用によりチューブ内に存在する液体を搬送する装置である。
【0004】
ところで、この液体搬送装置は、種々の装置に用いられており、生物実験装置において、生物細胞などの培養を行うフラスコ、シャーレ、マイクロタイタープレートなどの培器の多数に液体培地や細胞懸濁液を搬送分注する装置としても使用されている。
【特許文献1】特開平5−44656号公報
【特許文献2】特開平5−49907号公報
【特許文献3】特開平9−96282号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、液体搬送装置を細胞懸濁液を搬送、分注する懸濁液分注装置として用いた場合、細胞縣濁液では細胞(粒子)の化学的(付着細胞・浮遊細胞)・物理的性質(比重・ゆらぎ)から、経時的に濃度分布に偏りが生じることが認められている。細胞懸濁液中の濃度を一定時間均一にするためには、懸濁液を貯留しておく容器を遥動したり、ピペッティング(繰り返し吸引吐出すること)などの方法により、懸濁液を攪拌する必要があるが、可撓性を有するチューブにしごき作用を付与することにより液体搬送を行う液体搬送装置においては、チューブ内の液体の攪拌をすることができないため、チューブ内に搬入された懸濁液に濃度のばらつきが生じる場合がある。
【0006】
この問題は、懸濁液を連続分注すれば低減することができるが、吐出間隔が数十秒程度あると濃度のばらつきが生じやすくなる。特に細胞懸濁液の分注操作においては、HTS(High Throughput Screening)など分注動作を必ず間欠的に行わなければならない場合もあり、濃度にばらつきが生じるのでは、実験精度に悪影響を及ぼす場合がある。
【0007】
したがって、本発明が解決しようとする技術的課題は、懸濁液の分注動作を間欠的に行うことができる懸濁液分注装置や懸濁液分注方法において、吐出懸濁液の濃度のばらつきを低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記技術的課題を解決するために、以下の構成の懸濁液分注装置を提供する。
【0009】
本発明にかかる懸濁液分注装置は、分注対象である懸濁液を貯留する懸濁液貯留部と、
可撓チューブを備え、前記懸濁液貯留部に貯留された懸濁液を一端側から吸引して他端に設けられたノズルから吐出する液体輸送管と、
前記液体輸送管の可撓チューブを押圧することにより変形させて、前記液体輸送管に閉塞部を形成する加圧部材を複数備えると共に、液体輸送管に沿って前記加圧部材を移動させて前記閉塞部の位置を変更可能に構成されている駆動部と、
前記駆動部の駆動制御を行う制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記加圧部材を前記ノズルに近づくように前記駆動部を駆動させて、前記閉塞部を前記液体輸送管の一端側からノズル側へ移動させ前記細胞懸濁液を前記ノズルから吐出させる分注動作を前記駆動部に行わせる分注処理部と、
前記加圧部材を前記ノズルから遠ざかるように前記駆動部を駆動させて、前記閉塞部を前記ノズル側から前記液体輸送管の一端側へ移動させて、前記液体輸送管中に残存する前記懸濁液を前記懸濁液貯留部側に移動させる液戻し動作を前記駆動部に行わせる液戻し処理部とを備える。
【0010】
上記構成において、懸濁液分注装置は、懸濁液貯留部に貯留された懸濁液を液体輸送管を通して搬送し、マイクロタイタープレートなどの分注容器に分注するものである。懸濁液分注装置は、懸濁液搬送の原理として、加圧部材により可撓チューブに閉塞部を形成させて、制御部により加圧部材を駆動させることによって閉塞部を移動させるものである。制御部の分注処理部は、分注量に応じた所定の移動幅で加圧部材を移動させ、分注操作を行わせる。一方、液戻し処理部は、液体輸送管中に残存する懸濁液を貯留部側に移動させ、懸濁液貯留部中へ戻すことによって、液体輸送管内において、懸濁物が浮力あるいは重力で溶媒と分離することを防止する。なお、このとき、液体輸送管内の懸濁液の全量を懸濁液貯留部に戻すと、例えば、懸濁液貯留部に気泡が混入するおそれがあるため、液体輸送管中には若干量の懸濁液が残るように液戻し処理部の動作制御をすることが好ましい。
【0011】
また、制御部は、さらに、前記加圧部材が進退移動するように前記駆動部を駆動させることによって、前記液体輸送管の一端から前記懸濁液を吸引、放出を繰り返して前記懸濁液貯留部内の懸濁液を攪拌する各般動作を前記駆動部に行わせる攪拌処理部を備えていてもよい。
【0012】
上記構成において、液体輸送管内の懸濁液を懸濁液貯留部に戻した後、懸濁液貯留部を攪拌するために、液位輸送管内への懸濁液の吸引と当該吸引した懸濁液の懸濁液貯留部への放出という動作を繰り返しおこなう。これにより懸濁液貯留部内の懸濁液が攪拌され濃度分布を少なくすることができる。
【0013】
また、制御部は、さらに、前記懸濁液貯留部に戻された前記懸濁液を前記ノズルまで導入する液導入動作を前記駆動部に行わせる液導入処理部と、前記分注処理部による分注動作を行わせる前に前記ノズルに導入された前記懸濁液を排出する液排出動作を前記駆動部に行わせる液排出処理部とを備えていてもよい。
【0014】
上記構成において、液体輸送管内の懸濁液を懸濁液貯留部に戻す動作中に、その全量を戻さない場合においては、液体輸送管内に若干量の懸濁液が残り、当該残った懸濁液に濃度分布が生じる場合がある。液導入処理部と液排出処理部はこの残った懸濁液を排出して、液導入処理部により新たに吸引された懸濁液を吐出分注させることにより、吐出された懸濁液に濃度分布が生じないようにすることができる。
【0015】
また、液戻し処理部は、前記分注処理部による前記駆動部の駆動速度よりも低速で前記駆動部を駆動させることが好ましい。
【0016】
また、前記駆動部材は、横軸を回転軸として前記回転軸を中心に回転可能に構成され、当該回転軸を中心として円周状に等間隔に加圧部材を少なくとも3つ配置した回転体と、前記液体輸送管は、中間部分に設けられた前記可撓チューブが引き伸ばされた状態で2つの前記加圧部材に巻き掛けられ、前記可撓チューブ内に当該加圧部材により形成された閉塞部により画定された閉塞空間が形成されるように配置されることが好ましい。
【0017】
上記構成において、好ましくは、前記液体輸送管が前記加圧部材に巻き掛けられている位置の前記加圧部材と接触している側の反対側は、液体輸送管脱着用空間として開放されている。
【0018】
また、本発明は、分注対象である懸濁液を貯留する懸濁液貯留部と、可撓チューブを備え前記懸濁液貯留部に貯留された懸濁液を一端側から吸引して他端に設けられたノズルから吐出する液体輸送管と、前記液体輸送管の可撓チューブを押圧することにより変形させて前記液体輸送管に閉塞部を形成する加圧部材を複数備えると共に液体輸送管に沿って前記加圧部材を移動させて前記閉塞部の位置を変更可能に構成されている駆動部とを備える懸濁液分注装置を用いて、前記ノズルの下側に位置する分注位置に連続的に供給される分注容器に連続的に前記懸濁液を分注する懸濁液分注方法であって、
前記加圧部材を前記液体輸送管の一端側からノズル側へ移動させるように前記駆動部を駆動させて前記細胞懸濁液を前記ノズルから分注位置に存在する1の分注容器へ分注させ、
前記1の分注容器への前記懸濁液の分注が終了した後前記1の分注容器を分注位置から取り出し、
前記他の分注容器が前記分注位置に配置されるまでの間に、前記加圧部材を前記ノズル側から前記液体輸送管の一端側へ移動させるように前記駆動部を駆動させて、前記液体輸送管中に残存する前記懸濁液を前記懸濁液貯留部側に移動させ、
前記他の分注容器が前記分注位置に配置された後、前記加圧部材を前記液体輸送管の一端側からノズル側へ移動させるように前記駆動部を駆動させて前記細胞懸濁液を前記ノズルから分注位置に存在する前記他の分注容器へ分注させることを特徴とする、懸濁液分注方法を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の懸濁液分注装置によれば、制御部によって駆動部を移動させて可撓チューブにしごき作用をあたえ懸濁液を搬送する場合に、加圧部材をノズルに近づくように駆動部を駆動させて懸濁液を分注することができる一方、加圧部材をノズルから遠ざかるように駆動部を駆動させて、液体輸送管内に存在する懸濁液を懸濁液貯留部に戻し、液体輸送管内における懸濁液の濃度のばらつきを軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る懸濁液分注装置について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は、本発明に係る懸濁液分注装置の原理を説明するための概略構成図である。本実施形態の懸濁液分注装置は、図1に示すように、懸濁液貯留部4内に貯留されている懸濁液4aを液体輸送管2の一端から内に吸引して、液体輸送管2内を搬送させ、最終的には液体輸送管2の他端に設けられているノズル7から吐出容器5へ吐出するものである。懸濁液貯留部4内に貯留されている懸濁液4aは、例えば、細胞懸濁液などが用いられ、攪拌することなく放置すると、懸濁物質が、沈殿あるいは浮遊して、懸濁液の溶媒と分離する性質を有している。
【0022】
懸濁液4aの液体輸送管2内への供給、液体輸送管2内の搬送、ノズルからの吐出には、いずれも液体輸送管2の可撓チューブに押しつけて配置された加圧部材3を用いる。加圧部材3は、可撓チューブを押し潰して閉塞部8を形成させ、この状態で加圧部材3を矢印70に示すように移動させることによってこれらの動作を行う。加圧部材3は単独で、あるいは可撓チューブを他の部材と挟持するなどによって閉塞空間を形成可能であり、かつ駆動部9によって液体輸送管2に沿って移動可能に構成されていればよい。加圧部材3がノズル7側に移動すると、閉塞部8がノズル7側に移動し、その中に封入されている懸濁液が移動する。一方、加圧部材が懸濁液貯留部4側に移動すると、閉塞部8が懸濁液貯留部4側に移動し、その中に封入されている懸濁液が移動する。すなわち、懸濁液の吐出量は、加圧部材3の移動量に応じて決定される。本実施形態の懸濁液分注装置は、加圧部材3の移動方向及び移動量を異ならせることによって種々の動作を行うことができ、当該加圧部材を移動させる駆動部9の駆動動作を制御する制御部10がこの制御を司る。
【0023】
図2は、制御部の概略構成を示すブロック図である。制御部10は、それぞれ後述する処理に応じて駆動部9の駆動方向、駆動量、駆動速度を異ならせて駆動部9の駆動制御を行うために、これらの演算処理を行う処理部11とこれらの制御に用いられるデータを格納する記憶部12とを備える。
【0024】
処理部11には、懸濁液貯留部4内の懸濁液を吸引し、ノズル7の直前まで搬送させる処理を行う液導入処理部11a、ノズル7の直前まで搬送された懸濁液を廃液容器に若干量吐出して廃棄する処理を行う液排出処理部11b、マイクロタイタープレートなどの分注容器に所定量の懸濁液を吐出する処理を行う分注処理部11c、分注容器の交換時など、液体輸送管2内の懸濁液を懸濁液貯留部側へ戻す処理を行う液戻し処理部11d、懸濁液貯留部4内の懸濁液の吸引と戻しを繰り返し行うことによって懸濁液貯留部4内の懸濁液を攪拌する処理を行う攪拌処理部11eとを備える。これらのそれぞれの処理動作についての詳細は後述する。
【0025】
また、記憶部12には、分注処理を行う場合の分注量V1を記憶する分注量記憶部12a、懸濁液を廃液する場合の排出量V2を記憶する排出量記憶部12b、懸濁液をノズルの直前まで搬送させる場合の液導入時間T1を記憶する液導入時間記憶部12c、液体輸送管中の懸濁液を懸濁液貯留部に戻す戻し時間T2を記憶する戻し時間記憶部12d、攪拌処理を行う場合の攪拌用データを記憶する攪拌用データ記憶部12eが格納されており、これらのデータに基づいて、処理部11の処理を行われる。これらのデータは、あらかじめ決定されていてもよいし、操作・入力部14からの入力により変更可能に構成されていてもよい。
【0026】
また、制御部による上記各種の処理を行う場合に各種情報の入出力手段として、分注容器や廃液容器などの位置を決定する位置決め部13、上記各種処理の操作条件などの入力に用いる操作・入力部14,処理動作の状態を表示するための表示部15などが設けられている。
【0027】
次に本発明の懸濁液分注装置の具体的構成について、図面を参照して説明する。図3は、本発明の実施形態にかかる懸濁液分注装置の外観構成斜視図である。この懸濁液分注装置20は、マイクロタイタープレート100に設けられた各ウェルに所定量の懸濁液を分注する装置である。
【0028】
懸濁液分注装置20は、図3に示すように、マイクロタイタープレートをX,Y,Zの各方向に独立して移動させる、固定台21に配置された位置決め部13、懸濁液を搬送するための液搬送機構22、液搬送機構の駆動源である駆動部9を備える。
【0029】
固定台21の内部には、制御部10が設けられ、側面には、操作・入力部14及び表示部15が設けられている。操作・入力部14は、例えば、分注容器であるマイクロタイタープレートの種類(ウェル数)や1つあたりのウェルに分注される懸濁液の分注量のなどの設定操作、処理動作の開始や停止などのトリガー操作、後述する回転体の単位回転量あたりの吐出量の調整操作などの各種操作に用いられる。また、表示部15は、懸濁液分注装置20の状態の表示、設定項目の入力確認、エラー表示などを表示する。
【0030】
位置決め部13は固定台21上に下から順にY方向移動テーブル13Y、X方向移動テーブル13Xを備え、これらが組み合わせて構成されている。また、X方向移動テーブル13Xの上面には、マイクロタイタープレート100及び廃液容器101が設けられている。Y方向移動テーブル13Yは、図示しないY軸モータによって固定台21の上をY軸方向に平行移動可能に構成されており、制御部10からの制御を受けてマイクロタイタープレート100のY軸方向の位置合わせを行う。X方向移動テーブル13Xは、図示しないX軸モータによってY方向移動テーブルの上をX軸方向に移動可能に構成され、制御部10からの制御を受けてマイクロタイタープレート100のX軸方向の位置合わせを行う。また、X方向移動テーブル13Xは、Y方向移動テーブル13Yの表面からの高さを調整可能に構成されており、マイクロタイタープレート100をZ軸方向に昇降させることができる。
【0031】
液搬送機構22は、図3に示すように、位置決め部13の上部に設けられている固定プレート23上に配置されており、回転体24と、排出側装着部25と導入側装着部26よりなるチューブカセット装着部、懸濁液貯留部4とを備える。回転体24は、Y軸方向に延在する回転軸を中心として回転可能に構成されており、駆動部9からの動力によって回転駆動する。回転体24の上方領域は、別の部材などを設けることなく開放されている。この領域は後述するようにチューブカセット40を脱着する場合に用いられるチューブカセット脱着用領域90として利用され、チューブカセット40の脱着を容易にする。
【0032】
回転体24は、図4に示すように、Y軸方向に延在する回転軸を中心として回転する部材であり、固定プレート23上に配置された保持部28に保持されている。回転体24は、2枚の円板60の間に回転軸に平行に延在して円板の回転軸を中心として円周状に等間隔で配置された6本の円柱状のローラ61を備える。ローラ61は、後述するチューブカセット40の可撓チューブに押しつけられ、可撓チューブとの接触部分を押し潰して可撓チューブ内に閉塞空間を作り出す加圧部材3として機能する。
【0033】
2枚の円板60の中心部分には、上述したように駆動部9からの動力をうけて回転体を回転させるための回転軸62が設けられている。
【0034】
駆動部9は、回転体24を駆動させるためのステップモータ27を備え、回転軸62に連結されている。ステップモータ27は、制御部10から送信された駆動パルス数により決定される回転角度だけ回転することができるように構成されており、単位パルス数あたりの吐出量の情報があらかじめ決定される。
【0035】
チューブカセット装着部は、後述するチューブカセット(図5参照)を懸濁液分注装置に搭載するための部材であり、導入側装着部26,排出側装着部25とから構成される。排出側装着部25は、固定プレート23の前方にY軸に平行になるように並べて配置され、それぞれ回転体24の回転軸を保持するとともに後述するチューブカセットの排出側保持部42を保持する。導入側装着部26は、2カ所にY軸に平行になるように固定されており、後述するチューブカセットの導入側保持部43を保持する。
【0036】
チューブカセット40は、液体輸送管2としてのチューブを複数並列に並べて構成された部材であり、懸濁液貯留部4に貯留された懸濁液4aに浸漬するように配置された供給管48から懸濁液を導入し、当該懸濁液を液体輸送管2としての導入チューブ46,中継管47,搬送チューブ45,ノズル7を通して搬送する。
【0037】
それぞれの液体輸送管2は、当該ノズル7を固定する排出側保持部42、中継管47を固定する導入側保持部43、供給管を固定する第3保持部44により等ピッチになるように互いに連結されて設けられている。隣り合う液体輸送管2のピッチはマイクロタイタープレート100のウェル列のピッチと等しく又はそのピッチの整数倍に設定されている。
【0038】
ノズル7に挿入される搬送チューブ45は、可撓性及び伸縮性を有する可撓チューブであり、本実施形態では、外径寸法が略2.7φ、内径寸法が略1.3〜1.7φ程度のものである。搬送チューブに求められる性能としては、可撓性、伸縮性のみならず、耐久性(ローラによるしごきに対する耐久性及び耐薬品性)が要求される。また、用途によっては、オートクレーブ処理(滅菌処理)が可能であることも要求される。上記の観点から本実施形態では、シリコン樹脂を用いているが、これに限定されるものではない。
【0039】
中継管47により搬送チューブ45と連通する導入チューブ46は、本実施形態では搬送チューブ45と同じものが用いられている。ただし、後述するように導入チューブ46は、張力がかからない状態で懸濁液分注装置20に装着されるため、必ずしも可撓性を有する必要はなく、任意の性質のチューブを使用することができる。
【0040】
排出側保持部42は、ノズル7を貫通して固定する。排出側保持部42は、排出側装着部25に係合することによって保持される。また、導入側保持部43は、中継管47を貫通して固定する。導入側保持部43は、導入側装着部26に係合することによって保持される。第3保持部44は、供給管48を貫通して固定する。第3保持部44は、懸濁液貯留装置の上蓋として機能する。
【0041】
次に、本実施形態にかかる懸濁液分注装置の動作について説明する。図6は、本実施形態にかかる懸濁液分注装置の動作フローである。懸濁液分注装置20は、操作・入力部14から操作信号を受け取るまで、ループ処理を行い(#1)、開始指令が出される(#2)ことにより、開始指令時に設定されている条件に基づいて以下の各種処理を開始する。
【0042】
開始指令が出されたのち、制御部10は位置決め部13を駆動させて液体排出位置への位置決め動作を行う(#3)。液体排出位置への位置決め動作においては、X方向移動テーブル13X上に設けられている廃液容器101がノズル7の下方位置に配置されるように位置あわせを行う。
【0043】
次いで、制御部10は、液導入動作を行う(#4)。図7は、液導入動作時における液体輸送管と加圧部材の動作状態を示す概略図である。液導入動作においては、図7に示すように回転体24が加圧部材3であるローラ61がノズル側へ向かうように矢印71に示す方向に回転(以下、ローラ61がノズル側に向かうように回転体が回転する向きを正回転方向という。)する。これにより液体輸送管2を構成する搬送チューブ45に形成された閉塞空間がノズル方向へ移動し、液体輸送管2内に懸濁液貯留部4内の懸濁液4aを吸引・搬送して、懸濁液4aをノズル7先端にまで到達させる。このときの回転体24の回転量は、制御部10により制御され、記憶部12に格納されている液導入時間T1に基づいて当該液導入時間T1が経過するまでステップモータ27を連続的に回転させる。なお、液導入動作においては、廃液容器101がノズル7の下方位置に存在しているので、ノズル7の先端から懸濁液4bが吐出されてもよい。
【0044】
次に制御部10は、液排出動作を行う(#5)。図8は、液排出動作時における液体輸送管と加圧部材の動作状態を示す概略図である。液排出動作においては、図8に示すように回転体24が矢印72に示す方向に連続的に正回転する。これによりノズル7内まで充填された懸濁液4aがノズルから吐出され、廃液容器101内に吐出される。このときの回転体24の回転量は、制御部10により制御され、記憶部12に格納されている排出量V2に基づいて当該排出量分の懸濁液を吐出可能なパルス数がステップモータ27に送信される。
【0045】
次に制御部10は、マイクロタイタープレートを移動させ、分注先のウェル列がノズルの下方位置に配置されるように位置決め動作を行い(#6)、引き続き分注動作を実行する(#7)。
【0046】
図9は、分注動作時における液体輸送管と加圧部材の動作状態を示す概略図である。分注操作においては、図9に示すように回転体24が矢印73に示す方向に正回転する。これによりノズル7内まで充填された懸濁液4aがノズルから吐出され、マイクロタイタープレート100のウェル内に吐出される。このときの回転体24の回転量は、記憶部12に格納されている分注量V1に基づいて制御部10により制御され、操作・入力部14により入力設定された分注量分の懸濁液を吐出可能なパルス数がステップモータ27に送信される。
【0047】
次いで、分注されるマイクロタイタープレート100に次のウェル列が存在するか否かを確認し(#8)、存在する場合は、次のウェル列への位置決めを実行し(#6)、当該ウェル列に分注動作を行う(#9)。
【0048】
図10Aから図10Dは、分注操作時におけるマイクロタイタープレートの動作を示す図である。分注動作においては、まず、図10Aに示すように、懸濁液を吐出するノズル7の下方位置にマイクロタイタープレート100のY軸方向に配列されたウェル列100aが位置するように位置決め部13を移動させる。
【0049】
次いで、マイクロタイタープレート100を矢印74に示すように上昇させ、ノズル7をマイクロタイタープレート100の最初のウェル列100aに近づけるとともに、上記のように回転体24を所定角度分回転駆動させてノズル7から所定量の懸濁液4cを吐出させる(図10B)。所定量の懸濁液がウェル列100aに吐出されると(図10C)、マイクロタイタープレート100をZ軸方向下側に降下させるとともに、X方向移動テーブル13Xを移動させて、次のウェル列100bがノズル7の下に位置するように移動させる(図10D)。このような作業を繰り返し行うことにより、マイクロタイタープレート100のすべてのウェルに所定量の懸濁液を吐出する。
【0050】
全てのウェル列に分注動作が終了すると、マイクロタイタープレートのためにマイクロタイタープレートを交換位置へ移動させる。マイクロタイタープレートの交換は、手動で行ってもよいし、図示しないアンローダーに分注動作が終了したマイクロタイタープレートを搭載して取り除き、図示しないローダーから新たなマイクロタイタープレートを供給するようにしてもよい。マイクロタイタープレートの交換が終了すると、新たに分注動作が行われることになるが、マイクロタイタープレートの交換の間、液体輸送管2中に残存している懸濁液は溶媒と懸濁物との分離により濃度に分布が生じるため、液戻し動作を行う。
【0051】
図11は、液戻し動作時における液体輸送管と加圧部材の動作状態を示す概略図である。液戻し動作としては、まず、液戻し動作においては、図11に示すように加圧部3であるローラ61が懸濁液貯留部側へ向かうように矢印77に示す方向(以下、ローラ61が懸濁液貯留部側に向かうように回転体が回転する向きを逆回転方向という。)に回転体24が回転する。これによりノズル7内まで充填された懸濁液4aが液体輸送管2から懸濁液貯留部4に戻される。このときの回転体24の回転量は、制御部10により制御され、記憶部12に格納されている液戻し時間T2に基づいて懸濁液の全量が懸濁液貯留部4に戻らないように決定されたパルス数がステップモータ27に送信される。懸濁液全量が懸濁液貯留部4に戻らないように制御されることにより懸濁液貯留部内の懸濁液に気泡が吹き込まれることがなく、懸濁液に含まれる細胞に影響を及ぼさないようにすることが好ましい。
【0052】
液戻し動作においては、回転体の回転速度は、正回転より逆回転の方が遅くなるように設定されており、懸濁液に含まれる細胞に極力ダメージを与えないようにしている。
【0053】
また、液戻し動作においては、懸濁液貯留部4内の懸濁液を攪拌するために、攪拌動作を行うこともできる。攪拌動作は、回転体の正回転と逆回転を交互に行い、懸濁液貯留部内の懸濁液を液体輸送管2中に吸い込む一方、当該液体輸送管2内の懸濁液を懸濁液貯留部に戻す動作を繰り返すことによって、懸濁液を攪拌する動作である。攪拌動作においては、回転体は正回転と逆回転とが交互に行われる。正回転時の回転数は液導入部における動作時間よりも短くノズル7の近傍まで懸濁液が搬送される程度であり、逆回転時の回転数は液体搬送装置内にわずかに懸濁液が残存する程度とすることが好ましい。これらの回転数は、攪拌用データとして記憶部12の攪拌用データ記憶部12eに記憶されている。
【0054】
マイクロタイタープレート交換作業中には、交換完了の開始指令がなされるまで上記液戻し動作を繰り返し行う。開始指令は、例えば、操作・入力部14の開始操作の入力であってもよいし、マイクロタイタープレートの自動交換作業が行われる場合であれば、交換終了の信号であってもよい。入力操作開始指令を制御部10が受け取ると、当該交換されたマイクロタイタープレートに上記と同様に分注動作を行う。
【0055】
以上説明したように、本実施形態にかかる懸濁液分注装置においては、マイクロタイタープレートの交換時において、液体輸送管2内の懸濁液を懸濁液貯留部4に戻す動作を行うため、液体輸送管内において懸濁液の濃度分布が生じることを防止することができる。また、懸濁液貯留部に貯留されている懸濁液についても、攪拌動作を行うことで懸濁液に液流を与えることによって攪拌を可能とし、濃度分布が生じることを防止することができる。
【0056】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施可能である。上記実施形態においては、回転体の速度パターンを正回転時と逆回転時に異ならせる一定としているが、各動作における回転速度や速度パターンに緩急をつけ、送液量や攪拌時間の効率化を図ることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の懸濁液分注装置は、例えば、生化学実験などにおいて実験サンプルとして用いられる細胞懸濁液を極少量ずつ均等分量に分注することができることから、生化学研究の分野などにおいて用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る懸濁液分注装置の原理を説明するための概略構成図である。
【図2】制御部の概略構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態にかかる懸濁液分注装置の外観構成斜視図である。
【図4】図3の懸濁液分注装置に搭載された回転体の構成を示す図である。
【図5】図3の懸濁液分注装置に用いられるチューブカセットの構成を示す図である。
【図6】本実施形態にかかる懸濁液分注装置の動作フローである。
【図7】液導入動作時における液体輸送管と加圧部材の動作状態を示す概略図である。
【図8】液排出動作時における液体輸送管と加圧部材の動作状態を示す概略図である。
【図9】分注動作時における液体輸送管と加圧部材の動作状態を示す概略図である。
【図10A】分注操作時におけるマイクロタイタープレートの動作を示す図である。
【図10B】分注操作時におけるマイクロタイタープレートの動作を示す図である。
【図10C】分注操作時におけるマイクロタイタープレートの動作を示す図である。
【図10D】分注操作時におけるマイクロタイタープレートの動作を示す図である。
【図11】液戻し動作時における液体輸送管と加圧部材の動作状態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0059】
2 液体輸送管
3 加圧部材
4 懸濁液貯留部
5 吐出容器
7 ノズル
8 閉塞部
9 駆動部
10 制御部
11 処理部
11a 液導入処理部
11b 液排出処理部
11c 分注処理部
11d 液戻し処理部
11e 攪拌処理部
12 記憶部
12a 分注量記憶部
12b 排出量記憶部
12c 液導入時間記憶部
12d 戻し時間記憶部
12e 攪拌用データ記憶部
13 位置決め部
14 操作・入力部
15 表示部
20 懸濁液分注装置
21 固定台
22 液搬送機構
23 固定プレート
24 回転体
40 チューブカセット
61 ローラ
100 マイクロタイタープレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分注対象である懸濁液を貯留する懸濁液貯留部と、
可撓チューブを備え、前記懸濁液貯留部に貯留された懸濁液を一端側から吸引して他端に設けられたノズルから吐出する液体輸送管と、
前記液体輸送管の可撓チューブを押圧することにより変形させて、前記液体輸送管に閉塞部を形成する加圧部材を複数備えると共に、液体輸送管に沿って前記加圧部材を移動させて前記閉塞部の位置を変更可能に構成されている駆動部と、
前記駆動部の駆動制御を行う制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記加圧部材を前記ノズルに近づくように前記駆動部を駆動させて、前記閉塞部を前記液体輸送管の一端側からノズル側へ移動させ前記細胞懸濁液を前記ノズルから吐出させる分注動作を前記駆動部に行わせる分注処理部と、
前記加圧部材を前記ノズルから遠ざかるように前記駆動部を駆動させて、前記閉塞部を前記ノズル側から前記液体輸送管の一端側へ移動させて、前記液体輸送管中に残存する前記懸濁液を前記懸濁液貯留部側に移動させる液戻し動作を前記駆動部に行わせる液戻し処理部と、を備えることを特徴とする、懸濁液分注装置。
【請求項2】
前記制御部は、さらに、前記加圧部材が進退移動するように前記駆動部を駆動させることによって、前記液体輸送管の一端から前記懸濁液を吸引、放出を繰り返して前記懸濁液貯留部内の懸濁液を攪拌する各般動作を前記駆動部に行わせる攪拌処理部を備えることを特徴とする、請求項1に記載の懸濁液分注装置。
【請求項3】
前記制御部は、さらに、
前記懸濁液貯留部に戻された前記懸濁液を前記ノズルまで導入する液導入動作を前記駆動部に行わせる液導入処理部と、
前記分注処理部による分注動作を行わせる前に前記ノズルに導入された前記懸濁液を排出する液排出動作を前記駆動部に行わせる液排出処理部と、を備えていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の懸濁液分注装置。
【請求項4】
前記液戻し処理部は、前記分注処理部による前記駆動部の駆動速度よりも低速で前記駆動部を駆動させることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1つに記載の懸濁液分注装置。
【請求項5】
前記駆動部材は、横軸を回転軸として前記回転軸を中心に回転可能に構成され、当該回転軸を中心として円周状に等間隔に加圧部材を少なくとも3つ配置した回転体と、
前記液体輸送管は、中間部分に設けられた前記可撓チューブが引き伸ばされた状態で2つの前記加圧部材に巻き掛けられ、前記可撓チューブ内に当該加圧部材により形成された閉塞部により画定された閉塞空間が形成されるように配置されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1つに記載の懸濁液分注装置。
【請求項6】
前記液体輸送管が前記加圧部材に巻き掛けられている位置の前記加圧部材と接触している側の反対側は、液体輸送管脱着用空間として開放されていることを特徴とする請求項5に記載の懸濁液分注装置。
【請求項7】
分注対象である懸濁液を貯留する懸濁液貯留部と、可撓チューブを備え前記懸濁液貯留部に貯留された懸濁液を一端側から吸引して他端に設けられたノズルから吐出する液体輸送管と、前記液体輸送管の可撓チューブを押圧することにより変形させて前記液体輸送管に閉塞部を形成する加圧部材を複数備えると共に液体輸送管に沿って前記加圧部材を移動させて前記閉塞部の位置を変更可能に構成されている駆動部とを備える懸濁液分注装置を用いて、前記ノズルの下側に位置する分注位置に連続的に供給される分注容器に連続的に前記懸濁液を分注する懸濁液分注方法であって、
前記加圧部材を前記液体輸送管の一端側からノズル側へ移動させるように前記駆動部を駆動させて前記細胞懸濁液を前記ノズルから分注位置に存在する1の分注容器へ分注させ、
前記1の分注容器への前記懸濁液の分注が終了した後前記1の分注容器を分注位置から取り出し、
前記他の分注容器が前記分注位置に配置されるまでの間に、前記加圧部材を前記ノズル側から前記液体輸送管の一端側へ移動させるように前記駆動部を駆動させて、前記液体輸送管中に残存する前記懸濁液を前記懸濁液貯留部側に移動させ、
前記他の分注容器が前記分注位置に配置された後、前記加圧部材を前記液体輸送管の一端側からノズル側へ移動させるように前記駆動部を駆動させて前記細胞懸濁液を前記ノズルから分注位置に存在する前記他の分注容器へ分注させることを特徴とする、懸濁液分注方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10A】
image rotate

【図10B】
image rotate

【図10C】
image rotate

【図10D】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2007−183174(P2007−183174A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−1585(P2006−1585)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】