成形品の製造方法
【課題】 樹脂射出成形によって成形される成形品は、金型から取り出す瞬間の金型温度に依存し、それに応じた形状変化を生じることになる。前記、金型温度は室温等の雰囲気温度の対流によって、ショット間にバラツキをもたらす。その結果、成形品においても、その温度バラツキに応じ、形状のバラツキを発生させてしまう不具合があった。特に、光学素子のような高精度な成形品において、そのバラツキ量が許容できない場合があった。
【解決手段】 型開きした後、成形品が保持された第一の型部材のキャビティの温度を計測し、前記キャビティの温度が所定の温度に達した時に、前記キャビティから前記成形品を取り出すことを特徴とする。
【解決手段】 型開きした後、成形品が保持された第一の型部材のキャビティの温度を計測し、前記キャビティの温度が所定の温度に達した時に、前記キャビティから前記成形品を取り出すことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックを材料として、成形用金型により成形されるプラスチック成形品の成形方法に関わるものである。特にプリンターや複写機の画像記録装置の走査光学系に用いられる要求精度が高いfθレンズ等の長尺な角レンズを高精度化させる上で好適なものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、プリンターや複写機の走査光学系に搭載されるfθレンズは高精度が要求されている。
【0003】
しかし、成形プロセスに潜む諸要因の影響によって、ショット間における成形品はその形状にバラツキをもつことになる。図12は、量産成形中における成形品の形状のバラツキしたもので、量産成形における任意の連続30ショット中3ショットおきにfθレンズの、光軸中心を通る長手方向の形状を測定し、目標とする形状に対する形状誤差をグラフに表したものである。このように、成形プロセスに潜む諸要因の影響によって、ショット間における成形品の形状バラツキをもつことになる。
【0004】
昨今の高解像度化される製品へ搭載するfθレンズは高精度化が要求され、これまでにも、ショット間の形状バラツキ量を低減する成形方法が考案されている。
【0005】
特許文献1では成形品の取り出し温度に着眼したものであり、金型パーティングラインに設けられた熱電対センサーの温度を検知し、その温度が予め設定した値に達した時金型を開き成形品を取りだす成形方法が開示されている。
【0006】
特許文献2では連続的に成形することによって、金型温度が上昇することに対応したものである。金型温度をモニタリングすることで、たとえ金型温度が上昇した場合でもサイクルを可変的に調整し、冷却不足によるヒケやソリが生じない様にする成形方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−192977号報
【特許文献2】特開平6−254929号報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1および特許文献2に開示される技術は、成形品が金型内で付与される温度履歴を一定化することを目的としたものであるが、型開きまでの温度履歴しか考慮していない。
【0009】
通常、2プレート金型の場合、成形品は金型可動側に密着した状態で型開きされる。
【0010】
成形品は金型からエジェクターで突き出しされる瞬間まで、金型の可動側金型部材に成形品は断続的に密着し続けることになる。そのため、型開きし成形品を取りだすまでの間も、成形品は金型の可動面から室温より高い金型の温度を付与され続けることになる。その結果、成形品はその温度の付与程度によって収縮の具合が変化し、成形品の形状にも影響を及ぼすので、金型を開くまでの温度履歴を一定化させる特許文献1および特許文献2は成形品の形状バラツキを抑え込むには不十分であった。よって、成形されたレンズひとつひとつに対し性能評価を行い、性能を満たすレンズを選別してなければならない場合もあり、その検査に多大な労力を消費していた。
【0011】
本発明は、このような背景技術に鑑みてなされたものであり、成形品の形状のバラツキを低減させることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の成形品の製造方法は、第一の型部材及び第二の型部材で構成されたキャビティ内に樹脂を射出し、前記樹脂を冷却した後、前記第一の型部材及び前記第二の型部材を型開きし、前記第一の型部材のキャビティに成形品を保持し、その後、前記第一の型部材のキャビティから前記成形品を取り出す成形品の製造方法において、前記型開きした後、前記成形品が保持された前記第一の型部材のキャビティの温度を計測し、前記キャビティの温度が所定の温度に達した時に、前記キャビティから前記成形品を取り出すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、成形品を可動側金型からエジェクトする瞬間までの温度を一定化させることによって、成形品の形状のバラツキを大幅に低減させることが可能となる。
【0014】
また、本発明の適用により、量産成形において、レンズの性能評価等を低減できるため、生産コストを大幅に削減することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】fθレンズの概略図である。
【図2】本発明の成形品を製造するための射出成形用金型の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の成形品の製造方法の一例を示す概略図である。
【図4】第一の型部材のキャビティ温度の変化を示す図である。
【図5】エジェクト時の第一の型部材のキャビティ温度と形状誤差の関係を示す図である。
【図6】温度センサーを成形機に取り込みエジェクトするまでのフロー図である。
【図7】エジェクト時の第一の型部材のキャビティ温度と形状誤差の関係を示す図である。
【図8】第二の実施形態を示す図である。
【図9】第三の実施形態を示す図である。
【図10】第三の実施形態を示す図である。
【図11】第四の実施形態を示す図である。
【図12】成形バラツキの状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0017】
(第一の実施形態)
第一の実施形態を図1、図2、図3を用いて説明する。まず、本発明の成形品の製造方法で成形される成形品の一例であるレーザープリンター用のfθレンズ形状を図1に示す。図1(a)はfθレンズを側面方向から見た図である。図1(b)は、図1(a)のfθレンズを紙面上から下の方向に見た図である。
【0018】
図1において、Lは長手方向の長さ、Wは短手方向の長さである幅、Hは高さを示し、R1面、R2面の2つの光学面を有している。また、本発明において長手方向とは、8で示す矢印の方向を示す。fθレンズは、光学特性の敏感度が高く、樹脂射出成形加工において極めて厳しい精度が要求される。
【0019】
次に本発明の成形品の製造方法の一実施形態であるfθレンズの製造方法について、図2、図3を用いて説明する。
【0020】
図2は、本発明の成形品を製造するための射出成形用金型の一例を示す概略図である。図2において、22は成形機可動側プラテン、23は成形機固定側プラテン、9は可塑化ユニット、10はスプール、11はランナー、12はゲートである。161は第一の型部材である可動側鏡面駒部材、162は第二の型部材である固定側鏡面駒部材、261は可動側鏡面駒部材を固定する可動側ダイセット、262は固定側鏡面駒部材を固定する固定側ダイセットである。13は第一の型部材161及び第二の型部材162によって構成されるキャビティである。14は金型温調水管、15は金型パーティングラインである。17は可動側鏡面駒部材の温度を測定するために配置された熱電対等の温度センサー、18は温度センサーの値を成形機に入力するための導線である。19はエジェクターピン、20はエジェクタープレート、21は成形機エジェクターロッド、24は成形品取り出し自動機である。
【0021】
金型は金型温調水管14に接続された温調機(不図示)により所定の設定温度で温調されている。可塑化シリンダー9により可塑化された樹脂は、金型内に射出され、スプール10、ランナー11、ゲート12を介して、キャビティ13に充填され、可塑化シリンダー9からの所定の圧力をもってレンズ形状を有するキャビティ13の形状が成形される。その後、キャビティ内の成形品は、樹脂が固化するまで金型内で冷却される。
【0022】
図3は、本発明の成形品の製造方法の一例を示す概略図である。図3(a)は、冷却完了時の金型および成形品の状態を示した図である。図3(b)は、型開き後の金型および成形品の状況を示した図である。図3(c)は、成形品を金型可動側からエジェクトしたときの金型および成形品の状況を示した図である。図3(d)は、成形品を取り出し機でチャックしたときの金型および成形品の状況を示した図である。
【0023】
図3(a)に示すように、樹脂が固化するまで金型内で冷却される。その後、図3(b)に示すように、パーティング15が開き、金型は固定側と可動側に分割され、可動側鏡面駒部材(第一の型部材)161と固定側鏡面駒部材(第二の型部材)162が離れる。成形品は、可動側鏡面駒部材(第一の型部材)161のキャビティ形成部に保持される。型開き後、一定の時間、成形品は可動側鏡面駒部材(第一の型部材)161のキャビティに密着した状態で維持される。その後、図3(c)に示すように、成形機側のエジェクター駆動モーターと連動したエジェクターロッド21が摺動することで、エジェクタープレート20を押し出す。そのプレートに取りつけられたエジェクターピン19が相対運動することで成形品が第一の型部材のキャビティから突き出される。そして、図3(d)に示すように、取り出し機24によって把持され、その後成形品保管庫に収納される。前記、型開きしてから成形品を第一の型部材のキャビティから離型させる時間は、取り出し機のタイミングにもよるが、5秒から15秒程度を必要とする。
【0024】
図4は、第一の型部材のキャビティ温度の変化の一例を示したもので、横軸に成形時間、縦軸に温度を示した図である。図4(a)は、射出から、型開き、成形品が取りだされる過程の温度の変化を示したものである。本実施形態では、第一の型部材のキャビティの温度とは、第一の型部材である可動側鏡面駒部材161に配置された熱電対によって計測された値とする。第一の金型部材温度より高温で溶融した樹脂をキャビティ内に射出するため、金型部材の温度は一時的に上昇する。やがて金型温調水管14に接続された温調水によって金型部材は冷却され、おおよそ温調機の設定温度に達した時に型開される。図4(b)は、図4(a)における破線枠内を拡大した図であり、型開きしてからの熱電対17で計測された温度波形の一例を示す。型開きの前、すなわち冷却中における第一の型部材の第二の型部材との接触面であるパーティング面は、室温にさらされていないため、大きな温度変化を生じることはない。しかし、型開きをすることによって第一の型部材の第二の型部材との接触面であるパーティング面は室温にさらされ、大きな温度変化を生じることになる。前述したとおり、第一の型部材からの成形品のエジェクト時までの待機時間は5秒から10秒程度要する。成形品は、その待機時間分の温度変化を生じることになり、必然的に大きな温度変化が生じている状態下で成形品を突き出すことになる。
【0025】
この温度の低下挙動が毎ショット安定していれば、本発明で課題としている成形バラツキは発生することはない。しかしながら、大気温度の揺らぎ等の不確定要因によって低下する温度の挙動がショット毎に異なり、その影響を受けることにより、成形品をエジェクトする時の温度にもバラツキが発生することがわかった。つまり第一の型部材のキャビティから成形品を突き出すエジェクト時の温度を一定化することによって成形品の形状バラツキが抑えられることがわかった。この結果を踏まえ、本発明の成形品の製造方法は、前記型開きした後、前記成形品が保持された前記第一の型部材のキャビティの温度を計測し、前記キャビティの温度が所定の温度に達した時に、前記キャビティから前記成形品を取り出すことを特徴とするものである。
【0026】
その実施形態の一例として、具体的には、第一の型部材に配置した熱電対17における温度モニタリング値を成形機に取り入れる。そして、エジェクター駆動モーターの駆動タイミングを、任意に設定した所定温度に達した時とすることで、エジェクト時の温度を一定化し、成形品の形状誤差を低減するものである。これを実現するために、図6に示すシーケンスを成形機に組み込むことにより成形を行なう。型開き後、熱電対17の温度モニタリング値を成形機に取り込み、所定の温度T℃に達した時に成形機のエジェクター駆動モーターを駆動させる。
【0027】
所定の温度T℃は、型開き温度をK℃とすると、K℃未満であれば何度に設定しても成形品の形状バラツキが抑えられる。エジェクト時の温度のバラツキは、型開きしてからエジェクトまでの時間を十分に長くとることでも低減させることが可能である。これは、型と室温の温度均衡が図られ、型温度が定常化してくるからである。しかし、型開きしてからエジェクトまでの時間を長くとるほど、成形サイクルが長くなり、コストアップとなるため、できるだけ型開温度に近い温度に設定することが好ましい。また、エジェクト前の成形品は、第一の型部材のキャビティ面に完全に密着した状態で保持され、第一の型部材のキャビティ形成面が、成形品に転写された状態で冷却されることが望まれる。しかし、第二の型部材のキャビティで成形された面は室温にさらされている時間が長くなると成形品は収縮し、第一の型部材から剥離を生じてしまう。エジェクト前に剥離してしまうと、光学面に、中心部より外側に向けて面割れといわれる不連続な形状36が形成されてしまうため、この面割れが生じない範囲でエジェクトを行う必要がある。検討した結果、型開き温度T℃から1.5℃までは、面割れの発生が少ないことがわかった。
【0028】
すなわち、エジェクターピンを突出すタイミング、つまりエジェクター駆動モーターの駆動タイミングは、型開き温度をK℃とした時、K℃未満であって、かつK−1.5℃とすることが低コスト、高精度化を達成するために必要である。つまり、任意に設定した所定の温度をT℃は、第一の型部材のキャビティの型開き時の温度をK℃とした時、K>T≧(K−1.5)が好ましい。
【0029】
また、所定温度の温度範囲(温度バラツキ)を小さくするほど高精度な成形再現性を得ることができる。所定温度の温度範囲(温度バラツキ)は、±0.3℃程度が好ましい。これにより、従来の通常成形に対し、成形品の形状バラツキは三分の一程度に抑え込むことが可能となり、面割れ等の外観不良も生じることもなく、高精細が要求される製品へもプラスチック成形レンズの搭載が可能となる。
【0030】
(第二の実施形態)
図8は、可動側鏡面駒部材(第一の型部材)161に熱電対を配備できない場合の実施形態を示したものである。
【0031】
本実施形態において、第一の型部材のキャビティの温度とは、前記第一の型部材と隣接する部材に配置された熱電対により計測された値とする。成形品を形成する一番大きな型部材、すなわちfθレンズ等の光学素子の場合、可動側鏡面駒部材161がそれに相当するが、その型部材の温度をモニタリングし、モニタリングした値を第一の型部材のキャビティの温度とすることが好ましい。しかし、その型部材の大きさが小さかったり、複雑形状となっている場合、必ずしも熱電対を配置することができない場合がある。その場合、第一の型部材と隣接する部材である金型ダイセット261に熱電対を配置し、この計測値を第一の型部材のキャビティの温度とすることで同様の効果を得ることができる。
【0032】
第一の実施形態と同様に、溶融した樹脂を金型キャビティ内に射出しその後冷却し型開する。その後、成形機に取り込んだ金型ダイセットに配置した熱電対25における温度モニタリング値が所定の温度に達した時、成形機のエジェクター駆動モーターを駆動させ、成形品のエジェクトを行う。熱電対25の配置は極力キャビティに近い方が好ましいことは言うまでもない。
【0033】
(第三の実施形態)
図9は多数個取り成形での実施形態を示したものである。
【0034】
図9では、第一の型部材161と第二の型部材162をそれぞれ2つ有し、キャビティ27、キャビティ28を構成する。そして、第一の型部材にはそれぞれ、熱電対29、熱電対30が配置されている。
【0035】
図10は型開き前後における熱電対29で測定したキャビティ27の温度と熱電対30で測定したキャビティ28の温度の波形を示したものである。
【0036】
図10に示すように、それぞれのキャビティの温度が異なる場合がある。これは、対流等の具合によって、金型を取り囲む雰囲気温度が異なる場合があるためであると考えられる。
【0037】
このような場合は、第一の型部材161に配置した、熱電対27の温度モニタリング値31と熱電対28の温度モニタリング値32の双方を成形機に取り込む。そして、時間毎のそれぞれの温度モニタリング値の平均を算出し、その平均値33が所定の温度に達した時に成形機のエジェクター駆動モーターを駆動させ、成形品をエジェクトする。
【0038】
これによって、双方のキャビティともに成形品形状のショットバラツキが少ない成形を実現することができる。また、合わせてキャビティ間のバラツキも最小化することが可能となる。
【0039】
第三の実施形態には2個取り成形の場合を示したが、2個以上の複数のキャビティを有する多数個取り成形においても同様である。
【0040】
(第四の実施形態)
第一、二、三の実施形態において説明した温度センサーは部材との接触によって温度を感知する熱電対センサーであったが、第四の実施形態では、赤外線による非接触温度センサーによって金型可動側の温度をモニタリングする手段を示す。本実施形態において、第一の型部材のキャビティの温度とは、非接触温度センサーにより前記第一の型部材および成形品を計測した値とする。図11にその実施形態を示す。
【0041】
成形機固定側プラテン23の上面に赤外線温度センサー34を配置し、型開きした時に金型可動面をパーティング方向から可動側金型部材の温度もしくは成形品そのもの温度を計測できるようにしている。その温度モニタリング値35を成形機に取り込み、所定の温度に達した時に成形機のエジェクター駆動モーターを駆動させ、成形品をエジェクトする。
【0042】
可動側の金型部材に熱電対を配置しなくてもよくなり、既存の金型への適用を容易としている。
【0043】
(第五の実施形態)
レンズの様な肉厚変化が大きい成形品は収縮率に分布があるため、成形品のソリの絶対量が大きくなることがある。その大きなソリを矯正するために、図2に示す金型において固定側金型262の金型温調経路と可動側金型261の金型温調経路とに、金型温調機による金型の設定温度に温度差をもうけることがある。
【0044】
例えば、固定側金型261を温調する媒体の温度を125℃、可動側金型261を温調する媒体の温度を135℃に設定した場合の、固定側金型に配置した熱電対と可動側金型に配置した熱電対によってそれぞれの金型温度を計測する。すると、型開後、可動側金型の温度は急激に上昇し、固定側金型の温度は急激に下降する現象が生じる。この現象は射出から型開までは固定側金型、可動側金型が接触することにより熱量の授受が定常化していたが、型開によりその熱量の授受のバランスが崩れ、固定側金型温度は温調機より設定した金型温度125℃に向けて下降し、可動側金型の温度は同じく温調機により設定した金型温度135℃に向けて上昇をするからであると考えられる。
【0045】
上記に示すよう、エジェクト時の可動側金型の温度勾配は固定側金型と可動側金型の温度差を設けない一定温度による成形にくらべ大きく、前述した成形雰囲気中の大気温度の揺らぎ等の不確定要因を受け、成形品突き出し時の温度はより大きなバラツキを生じることになる。このような状態で突き出された成形品のショット間の形状バラツキは固定側可動側金型を一定温度にした成形によるものよりも大きなものとなる。
本発明によって、成形品の突き出し温度を一定化することで、成形品の形状バラツキは大幅に低減することが可能であり、固定側金型と可動側金型に温度差を設ける成形におけるショット間の形状バラツキを低減することにおいても、極めて有効な手段となる。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0047】
(実施例1)
第一の実施形態で説明した成形方法を用いてfθレンズを連続成形を行なった。金型温度は、固定側金型23、可動側金型22ともに120℃、成形機の設定保圧110Mpaとした。熱電対17の温度モニタリング値が、121.3℃に達した時に成形機のエジェクター駆動モーターを駆動させてfθレンズの成形を連続して行なった。連続成形時、無作為に3ショット毎に10個の成形品について、エジェクトした時の第一の型部材のキャビティ温度と、その成形品の形状誤差を測定した。形状誤差は、fθレンズの、光軸中心を通る長手方向の形状を測定し、目標とする形状に対する誤差を測定した。そして、その値を、図7(a)に示した。横軸に、第一の型部材のキャビティの温度、縦軸に形状誤差をプロットした。このグラフから、エジェクトの瞬間、つまりエジェクトピンを突出す瞬間の温度のバラツキは、±0.3℃以下に収まっていることが確認できた。また、形状誤差のバラツキが、10μm程度であり、非常に小さいことがわかった。
【0048】
図7(b)は、エジェクト時(エジェクトピンを突出す時)の温度のバラツキ量と形状誤差のバラツキ量(成形バラツキ量)を表にしたものである。エジェクト時の温度のバラツキが小さいほど成形品の形状誤差のバラツキも小さいことがわかった。fθレンズの性能を満たすためには±0.3℃の温度バラツキの範囲に収められるようなエジェクトタイミングが好ましいことがわかった。
【0049】
(比較例1)
エジェクトのタイミングを、実施例1では、熱電対17の温度モニタリング値が121.3℃に達した時に成形機のエジェクター駆動モーターを駆動させた例を示したが、ここでは温度ではなく、型開から12秒後にエジェクター駆動モーターを駆動させた。その他は、実施例1と同様に連続成形を行なった。連続成形時、無作為に3ショット毎に10個の成形品について、エジェクトした時の第一の型部材のキャビティ温度と、その成形品の形状誤差を測定した。形状誤差は、fθレンズの、光軸中心を通る長手方向の形状を測定し、目標とする形状に対する誤差を測定した。そして、その値を、図5に示した。横軸に、第一の型部材のキャビティの温度、縦軸に形状誤差をプロットした。成形品の形状誤差のバラツキが、28μmぐらいあることがわかった。また、エジェクト時の第一の型部材のキャビティの温度と成形品の形状誤差の関係は高い相関傾向を示すことがわかった。
【符号の説明】
【0050】
8 fθレンズ長手方向
9 可塑化ユニット
10 スプル
11 ランナー
12 ゲート
13 キャビティ
14 金型温調経路
15 金型パーティングライン
161 第一の型部材
162 第二の型部材
17 温度センサー(熱電対)
19 エジェクター
20 エジェクタープレート
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックを材料として、成形用金型により成形されるプラスチック成形品の成形方法に関わるものである。特にプリンターや複写機の画像記録装置の走査光学系に用いられる要求精度が高いfθレンズ等の長尺な角レンズを高精度化させる上で好適なものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、プリンターや複写機の走査光学系に搭載されるfθレンズは高精度が要求されている。
【0003】
しかし、成形プロセスに潜む諸要因の影響によって、ショット間における成形品はその形状にバラツキをもつことになる。図12は、量産成形中における成形品の形状のバラツキしたもので、量産成形における任意の連続30ショット中3ショットおきにfθレンズの、光軸中心を通る長手方向の形状を測定し、目標とする形状に対する形状誤差をグラフに表したものである。このように、成形プロセスに潜む諸要因の影響によって、ショット間における成形品の形状バラツキをもつことになる。
【0004】
昨今の高解像度化される製品へ搭載するfθレンズは高精度化が要求され、これまでにも、ショット間の形状バラツキ量を低減する成形方法が考案されている。
【0005】
特許文献1では成形品の取り出し温度に着眼したものであり、金型パーティングラインに設けられた熱電対センサーの温度を検知し、その温度が予め設定した値に達した時金型を開き成形品を取りだす成形方法が開示されている。
【0006】
特許文献2では連続的に成形することによって、金型温度が上昇することに対応したものである。金型温度をモニタリングすることで、たとえ金型温度が上昇した場合でもサイクルを可変的に調整し、冷却不足によるヒケやソリが生じない様にする成形方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−192977号報
【特許文献2】特開平6−254929号報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1および特許文献2に開示される技術は、成形品が金型内で付与される温度履歴を一定化することを目的としたものであるが、型開きまでの温度履歴しか考慮していない。
【0009】
通常、2プレート金型の場合、成形品は金型可動側に密着した状態で型開きされる。
【0010】
成形品は金型からエジェクターで突き出しされる瞬間まで、金型の可動側金型部材に成形品は断続的に密着し続けることになる。そのため、型開きし成形品を取りだすまでの間も、成形品は金型の可動面から室温より高い金型の温度を付与され続けることになる。その結果、成形品はその温度の付与程度によって収縮の具合が変化し、成形品の形状にも影響を及ぼすので、金型を開くまでの温度履歴を一定化させる特許文献1および特許文献2は成形品の形状バラツキを抑え込むには不十分であった。よって、成形されたレンズひとつひとつに対し性能評価を行い、性能を満たすレンズを選別してなければならない場合もあり、その検査に多大な労力を消費していた。
【0011】
本発明は、このような背景技術に鑑みてなされたものであり、成形品の形状のバラツキを低減させることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の成形品の製造方法は、第一の型部材及び第二の型部材で構成されたキャビティ内に樹脂を射出し、前記樹脂を冷却した後、前記第一の型部材及び前記第二の型部材を型開きし、前記第一の型部材のキャビティに成形品を保持し、その後、前記第一の型部材のキャビティから前記成形品を取り出す成形品の製造方法において、前記型開きした後、前記成形品が保持された前記第一の型部材のキャビティの温度を計測し、前記キャビティの温度が所定の温度に達した時に、前記キャビティから前記成形品を取り出すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、成形品を可動側金型からエジェクトする瞬間までの温度を一定化させることによって、成形品の形状のバラツキを大幅に低減させることが可能となる。
【0014】
また、本発明の適用により、量産成形において、レンズの性能評価等を低減できるため、生産コストを大幅に削減することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】fθレンズの概略図である。
【図2】本発明の成形品を製造するための射出成形用金型の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の成形品の製造方法の一例を示す概略図である。
【図4】第一の型部材のキャビティ温度の変化を示す図である。
【図5】エジェクト時の第一の型部材のキャビティ温度と形状誤差の関係を示す図である。
【図6】温度センサーを成形機に取り込みエジェクトするまでのフロー図である。
【図7】エジェクト時の第一の型部材のキャビティ温度と形状誤差の関係を示す図である。
【図8】第二の実施形態を示す図である。
【図9】第三の実施形態を示す図である。
【図10】第三の実施形態を示す図である。
【図11】第四の実施形態を示す図である。
【図12】成形バラツキの状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0017】
(第一の実施形態)
第一の実施形態を図1、図2、図3を用いて説明する。まず、本発明の成形品の製造方法で成形される成形品の一例であるレーザープリンター用のfθレンズ形状を図1に示す。図1(a)はfθレンズを側面方向から見た図である。図1(b)は、図1(a)のfθレンズを紙面上から下の方向に見た図である。
【0018】
図1において、Lは長手方向の長さ、Wは短手方向の長さである幅、Hは高さを示し、R1面、R2面の2つの光学面を有している。また、本発明において長手方向とは、8で示す矢印の方向を示す。fθレンズは、光学特性の敏感度が高く、樹脂射出成形加工において極めて厳しい精度が要求される。
【0019】
次に本発明の成形品の製造方法の一実施形態であるfθレンズの製造方法について、図2、図3を用いて説明する。
【0020】
図2は、本発明の成形品を製造するための射出成形用金型の一例を示す概略図である。図2において、22は成形機可動側プラテン、23は成形機固定側プラテン、9は可塑化ユニット、10はスプール、11はランナー、12はゲートである。161は第一の型部材である可動側鏡面駒部材、162は第二の型部材である固定側鏡面駒部材、261は可動側鏡面駒部材を固定する可動側ダイセット、262は固定側鏡面駒部材を固定する固定側ダイセットである。13は第一の型部材161及び第二の型部材162によって構成されるキャビティである。14は金型温調水管、15は金型パーティングラインである。17は可動側鏡面駒部材の温度を測定するために配置された熱電対等の温度センサー、18は温度センサーの値を成形機に入力するための導線である。19はエジェクターピン、20はエジェクタープレート、21は成形機エジェクターロッド、24は成形品取り出し自動機である。
【0021】
金型は金型温調水管14に接続された温調機(不図示)により所定の設定温度で温調されている。可塑化シリンダー9により可塑化された樹脂は、金型内に射出され、スプール10、ランナー11、ゲート12を介して、キャビティ13に充填され、可塑化シリンダー9からの所定の圧力をもってレンズ形状を有するキャビティ13の形状が成形される。その後、キャビティ内の成形品は、樹脂が固化するまで金型内で冷却される。
【0022】
図3は、本発明の成形品の製造方法の一例を示す概略図である。図3(a)は、冷却完了時の金型および成形品の状態を示した図である。図3(b)は、型開き後の金型および成形品の状況を示した図である。図3(c)は、成形品を金型可動側からエジェクトしたときの金型および成形品の状況を示した図である。図3(d)は、成形品を取り出し機でチャックしたときの金型および成形品の状況を示した図である。
【0023】
図3(a)に示すように、樹脂が固化するまで金型内で冷却される。その後、図3(b)に示すように、パーティング15が開き、金型は固定側と可動側に分割され、可動側鏡面駒部材(第一の型部材)161と固定側鏡面駒部材(第二の型部材)162が離れる。成形品は、可動側鏡面駒部材(第一の型部材)161のキャビティ形成部に保持される。型開き後、一定の時間、成形品は可動側鏡面駒部材(第一の型部材)161のキャビティに密着した状態で維持される。その後、図3(c)に示すように、成形機側のエジェクター駆動モーターと連動したエジェクターロッド21が摺動することで、エジェクタープレート20を押し出す。そのプレートに取りつけられたエジェクターピン19が相対運動することで成形品が第一の型部材のキャビティから突き出される。そして、図3(d)に示すように、取り出し機24によって把持され、その後成形品保管庫に収納される。前記、型開きしてから成形品を第一の型部材のキャビティから離型させる時間は、取り出し機のタイミングにもよるが、5秒から15秒程度を必要とする。
【0024】
図4は、第一の型部材のキャビティ温度の変化の一例を示したもので、横軸に成形時間、縦軸に温度を示した図である。図4(a)は、射出から、型開き、成形品が取りだされる過程の温度の変化を示したものである。本実施形態では、第一の型部材のキャビティの温度とは、第一の型部材である可動側鏡面駒部材161に配置された熱電対によって計測された値とする。第一の金型部材温度より高温で溶融した樹脂をキャビティ内に射出するため、金型部材の温度は一時的に上昇する。やがて金型温調水管14に接続された温調水によって金型部材は冷却され、おおよそ温調機の設定温度に達した時に型開される。図4(b)は、図4(a)における破線枠内を拡大した図であり、型開きしてからの熱電対17で計測された温度波形の一例を示す。型開きの前、すなわち冷却中における第一の型部材の第二の型部材との接触面であるパーティング面は、室温にさらされていないため、大きな温度変化を生じることはない。しかし、型開きをすることによって第一の型部材の第二の型部材との接触面であるパーティング面は室温にさらされ、大きな温度変化を生じることになる。前述したとおり、第一の型部材からの成形品のエジェクト時までの待機時間は5秒から10秒程度要する。成形品は、その待機時間分の温度変化を生じることになり、必然的に大きな温度変化が生じている状態下で成形品を突き出すことになる。
【0025】
この温度の低下挙動が毎ショット安定していれば、本発明で課題としている成形バラツキは発生することはない。しかしながら、大気温度の揺らぎ等の不確定要因によって低下する温度の挙動がショット毎に異なり、その影響を受けることにより、成形品をエジェクトする時の温度にもバラツキが発生することがわかった。つまり第一の型部材のキャビティから成形品を突き出すエジェクト時の温度を一定化することによって成形品の形状バラツキが抑えられることがわかった。この結果を踏まえ、本発明の成形品の製造方法は、前記型開きした後、前記成形品が保持された前記第一の型部材のキャビティの温度を計測し、前記キャビティの温度が所定の温度に達した時に、前記キャビティから前記成形品を取り出すことを特徴とするものである。
【0026】
その実施形態の一例として、具体的には、第一の型部材に配置した熱電対17における温度モニタリング値を成形機に取り入れる。そして、エジェクター駆動モーターの駆動タイミングを、任意に設定した所定温度に達した時とすることで、エジェクト時の温度を一定化し、成形品の形状誤差を低減するものである。これを実現するために、図6に示すシーケンスを成形機に組み込むことにより成形を行なう。型開き後、熱電対17の温度モニタリング値を成形機に取り込み、所定の温度T℃に達した時に成形機のエジェクター駆動モーターを駆動させる。
【0027】
所定の温度T℃は、型開き温度をK℃とすると、K℃未満であれば何度に設定しても成形品の形状バラツキが抑えられる。エジェクト時の温度のバラツキは、型開きしてからエジェクトまでの時間を十分に長くとることでも低減させることが可能である。これは、型と室温の温度均衡が図られ、型温度が定常化してくるからである。しかし、型開きしてからエジェクトまでの時間を長くとるほど、成形サイクルが長くなり、コストアップとなるため、できるだけ型開温度に近い温度に設定することが好ましい。また、エジェクト前の成形品は、第一の型部材のキャビティ面に完全に密着した状態で保持され、第一の型部材のキャビティ形成面が、成形品に転写された状態で冷却されることが望まれる。しかし、第二の型部材のキャビティで成形された面は室温にさらされている時間が長くなると成形品は収縮し、第一の型部材から剥離を生じてしまう。エジェクト前に剥離してしまうと、光学面に、中心部より外側に向けて面割れといわれる不連続な形状36が形成されてしまうため、この面割れが生じない範囲でエジェクトを行う必要がある。検討した結果、型開き温度T℃から1.5℃までは、面割れの発生が少ないことがわかった。
【0028】
すなわち、エジェクターピンを突出すタイミング、つまりエジェクター駆動モーターの駆動タイミングは、型開き温度をK℃とした時、K℃未満であって、かつK−1.5℃とすることが低コスト、高精度化を達成するために必要である。つまり、任意に設定した所定の温度をT℃は、第一の型部材のキャビティの型開き時の温度をK℃とした時、K>T≧(K−1.5)が好ましい。
【0029】
また、所定温度の温度範囲(温度バラツキ)を小さくするほど高精度な成形再現性を得ることができる。所定温度の温度範囲(温度バラツキ)は、±0.3℃程度が好ましい。これにより、従来の通常成形に対し、成形品の形状バラツキは三分の一程度に抑え込むことが可能となり、面割れ等の外観不良も生じることもなく、高精細が要求される製品へもプラスチック成形レンズの搭載が可能となる。
【0030】
(第二の実施形態)
図8は、可動側鏡面駒部材(第一の型部材)161に熱電対を配備できない場合の実施形態を示したものである。
【0031】
本実施形態において、第一の型部材のキャビティの温度とは、前記第一の型部材と隣接する部材に配置された熱電対により計測された値とする。成形品を形成する一番大きな型部材、すなわちfθレンズ等の光学素子の場合、可動側鏡面駒部材161がそれに相当するが、その型部材の温度をモニタリングし、モニタリングした値を第一の型部材のキャビティの温度とすることが好ましい。しかし、その型部材の大きさが小さかったり、複雑形状となっている場合、必ずしも熱電対を配置することができない場合がある。その場合、第一の型部材と隣接する部材である金型ダイセット261に熱電対を配置し、この計測値を第一の型部材のキャビティの温度とすることで同様の効果を得ることができる。
【0032】
第一の実施形態と同様に、溶融した樹脂を金型キャビティ内に射出しその後冷却し型開する。その後、成形機に取り込んだ金型ダイセットに配置した熱電対25における温度モニタリング値が所定の温度に達した時、成形機のエジェクター駆動モーターを駆動させ、成形品のエジェクトを行う。熱電対25の配置は極力キャビティに近い方が好ましいことは言うまでもない。
【0033】
(第三の実施形態)
図9は多数個取り成形での実施形態を示したものである。
【0034】
図9では、第一の型部材161と第二の型部材162をそれぞれ2つ有し、キャビティ27、キャビティ28を構成する。そして、第一の型部材にはそれぞれ、熱電対29、熱電対30が配置されている。
【0035】
図10は型開き前後における熱電対29で測定したキャビティ27の温度と熱電対30で測定したキャビティ28の温度の波形を示したものである。
【0036】
図10に示すように、それぞれのキャビティの温度が異なる場合がある。これは、対流等の具合によって、金型を取り囲む雰囲気温度が異なる場合があるためであると考えられる。
【0037】
このような場合は、第一の型部材161に配置した、熱電対27の温度モニタリング値31と熱電対28の温度モニタリング値32の双方を成形機に取り込む。そして、時間毎のそれぞれの温度モニタリング値の平均を算出し、その平均値33が所定の温度に達した時に成形機のエジェクター駆動モーターを駆動させ、成形品をエジェクトする。
【0038】
これによって、双方のキャビティともに成形品形状のショットバラツキが少ない成形を実現することができる。また、合わせてキャビティ間のバラツキも最小化することが可能となる。
【0039】
第三の実施形態には2個取り成形の場合を示したが、2個以上の複数のキャビティを有する多数個取り成形においても同様である。
【0040】
(第四の実施形態)
第一、二、三の実施形態において説明した温度センサーは部材との接触によって温度を感知する熱電対センサーであったが、第四の実施形態では、赤外線による非接触温度センサーによって金型可動側の温度をモニタリングする手段を示す。本実施形態において、第一の型部材のキャビティの温度とは、非接触温度センサーにより前記第一の型部材および成形品を計測した値とする。図11にその実施形態を示す。
【0041】
成形機固定側プラテン23の上面に赤外線温度センサー34を配置し、型開きした時に金型可動面をパーティング方向から可動側金型部材の温度もしくは成形品そのもの温度を計測できるようにしている。その温度モニタリング値35を成形機に取り込み、所定の温度に達した時に成形機のエジェクター駆動モーターを駆動させ、成形品をエジェクトする。
【0042】
可動側の金型部材に熱電対を配置しなくてもよくなり、既存の金型への適用を容易としている。
【0043】
(第五の実施形態)
レンズの様な肉厚変化が大きい成形品は収縮率に分布があるため、成形品のソリの絶対量が大きくなることがある。その大きなソリを矯正するために、図2に示す金型において固定側金型262の金型温調経路と可動側金型261の金型温調経路とに、金型温調機による金型の設定温度に温度差をもうけることがある。
【0044】
例えば、固定側金型261を温調する媒体の温度を125℃、可動側金型261を温調する媒体の温度を135℃に設定した場合の、固定側金型に配置した熱電対と可動側金型に配置した熱電対によってそれぞれの金型温度を計測する。すると、型開後、可動側金型の温度は急激に上昇し、固定側金型の温度は急激に下降する現象が生じる。この現象は射出から型開までは固定側金型、可動側金型が接触することにより熱量の授受が定常化していたが、型開によりその熱量の授受のバランスが崩れ、固定側金型温度は温調機より設定した金型温度125℃に向けて下降し、可動側金型の温度は同じく温調機により設定した金型温度135℃に向けて上昇をするからであると考えられる。
【0045】
上記に示すよう、エジェクト時の可動側金型の温度勾配は固定側金型と可動側金型の温度差を設けない一定温度による成形にくらべ大きく、前述した成形雰囲気中の大気温度の揺らぎ等の不確定要因を受け、成形品突き出し時の温度はより大きなバラツキを生じることになる。このような状態で突き出された成形品のショット間の形状バラツキは固定側可動側金型を一定温度にした成形によるものよりも大きなものとなる。
本発明によって、成形品の突き出し温度を一定化することで、成形品の形状バラツキは大幅に低減することが可能であり、固定側金型と可動側金型に温度差を設ける成形におけるショット間の形状バラツキを低減することにおいても、極めて有効な手段となる。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0047】
(実施例1)
第一の実施形態で説明した成形方法を用いてfθレンズを連続成形を行なった。金型温度は、固定側金型23、可動側金型22ともに120℃、成形機の設定保圧110Mpaとした。熱電対17の温度モニタリング値が、121.3℃に達した時に成形機のエジェクター駆動モーターを駆動させてfθレンズの成形を連続して行なった。連続成形時、無作為に3ショット毎に10個の成形品について、エジェクトした時の第一の型部材のキャビティ温度と、その成形品の形状誤差を測定した。形状誤差は、fθレンズの、光軸中心を通る長手方向の形状を測定し、目標とする形状に対する誤差を測定した。そして、その値を、図7(a)に示した。横軸に、第一の型部材のキャビティの温度、縦軸に形状誤差をプロットした。このグラフから、エジェクトの瞬間、つまりエジェクトピンを突出す瞬間の温度のバラツキは、±0.3℃以下に収まっていることが確認できた。また、形状誤差のバラツキが、10μm程度であり、非常に小さいことがわかった。
【0048】
図7(b)は、エジェクト時(エジェクトピンを突出す時)の温度のバラツキ量と形状誤差のバラツキ量(成形バラツキ量)を表にしたものである。エジェクト時の温度のバラツキが小さいほど成形品の形状誤差のバラツキも小さいことがわかった。fθレンズの性能を満たすためには±0.3℃の温度バラツキの範囲に収められるようなエジェクトタイミングが好ましいことがわかった。
【0049】
(比較例1)
エジェクトのタイミングを、実施例1では、熱電対17の温度モニタリング値が121.3℃に達した時に成形機のエジェクター駆動モーターを駆動させた例を示したが、ここでは温度ではなく、型開から12秒後にエジェクター駆動モーターを駆動させた。その他は、実施例1と同様に連続成形を行なった。連続成形時、無作為に3ショット毎に10個の成形品について、エジェクトした時の第一の型部材のキャビティ温度と、その成形品の形状誤差を測定した。形状誤差は、fθレンズの、光軸中心を通る長手方向の形状を測定し、目標とする形状に対する誤差を測定した。そして、その値を、図5に示した。横軸に、第一の型部材のキャビティの温度、縦軸に形状誤差をプロットした。成形品の形状誤差のバラツキが、28μmぐらいあることがわかった。また、エジェクト時の第一の型部材のキャビティの温度と成形品の形状誤差の関係は高い相関傾向を示すことがわかった。
【符号の説明】
【0050】
8 fθレンズ長手方向
9 可塑化ユニット
10 スプル
11 ランナー
12 ゲート
13 キャビティ
14 金型温調経路
15 金型パーティングライン
161 第一の型部材
162 第二の型部材
17 温度センサー(熱電対)
19 エジェクター
20 エジェクタープレート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の型部材及び第二の型部材で構成されたキャビティ内に樹脂を射出し、前記樹脂を冷却した後、前記第一の型部材及び前記第二の型部材を型開きし、前記第一の型部材のキャビティに成形品を保持し、その後、前記第一の型部材のキャビティから前記成形品を取り出す成形品の製造方法において、
前記型開きした後、前記成形品が保持された前記第一の型部材のキャビティの温度を計測し、前記キャビティの温度が所定の温度に達した時に、前記キャビティから前記成形品を取り出すことを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項2】
前記成形品はfθレンズであることを特徴とする請求項1記載の成形品の製造方法。
【請求項3】
前記所定の温度T℃は、前記第一の型部材のキャビティの型開き時の温度をK℃とした時、K>T≧(K−1.5)であることを特徴とする請求項1または2に記載の成形品の製造方法。
【請求項4】
前記第一の型部材のキャビティの温度は、前記第一の型部材に配置された温度センサーにより計測されることを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項記載の成形品の製造方法。
【請求項5】
前記第一の型部材のキャビティの温度は、前記第一の型部材と隣接する部材に配置された温度センサーにより計測されることを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項記載の成形品の製造方法。
【請求項6】
前記第一の型部材のキャビティの温度は、非接触温度センサーにより前記第一の型部材および成形品を計測した値を用いる特徴とする請求項1乃至3いずれか1項記載の成形品の製造方法。
【請求項7】
複数の前記キャビティを有し、前記第一の型部材のキャビティの温度は、前記複数のキャビティのそれぞれの温度の平均値であることを特徴とする請求項1乃至6いずれか1項記載の成形品の製造方法。
【請求項1】
第一の型部材及び第二の型部材で構成されたキャビティ内に樹脂を射出し、前記樹脂を冷却した後、前記第一の型部材及び前記第二の型部材を型開きし、前記第一の型部材のキャビティに成形品を保持し、その後、前記第一の型部材のキャビティから前記成形品を取り出す成形品の製造方法において、
前記型開きした後、前記成形品が保持された前記第一の型部材のキャビティの温度を計測し、前記キャビティの温度が所定の温度に達した時に、前記キャビティから前記成形品を取り出すことを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項2】
前記成形品はfθレンズであることを特徴とする請求項1記載の成形品の製造方法。
【請求項3】
前記所定の温度T℃は、前記第一の型部材のキャビティの型開き時の温度をK℃とした時、K>T≧(K−1.5)であることを特徴とする請求項1または2に記載の成形品の製造方法。
【請求項4】
前記第一の型部材のキャビティの温度は、前記第一の型部材に配置された温度センサーにより計測されることを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項記載の成形品の製造方法。
【請求項5】
前記第一の型部材のキャビティの温度は、前記第一の型部材と隣接する部材に配置された温度センサーにより計測されることを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項記載の成形品の製造方法。
【請求項6】
前記第一の型部材のキャビティの温度は、非接触温度センサーにより前記第一の型部材および成形品を計測した値を用いる特徴とする請求項1乃至3いずれか1項記載の成形品の製造方法。
【請求項7】
複数の前記キャビティを有し、前記第一の型部材のキャビティの温度は、前記複数のキャビティのそれぞれの温度の平均値であることを特徴とする請求項1乃至6いずれか1項記載の成形品の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−14022(P2013−14022A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146511(P2011−146511)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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