説明

成形油塗布装置

【課題】作業現場の環境を改善することと、成形油の使用効率を向上させること。
【解決手段】成形油塗布部材を構成するハケ101は、ハケ付設管113の円筒軸周りを回動可能となる様に、固定金具109とボルト117などを用いて固定されており、各ハケ付設管(113〜116)は、自身の軸周りに回動自在となる様にプレートP3か板受け材209に支持されている。また、ハケ101は、ナイロン系の無数の繊維を束ねたものであり、固定金具109とこのハケ101との間には、支持板材105が固定されている。この支持板材105は、ハケ101の形状を良好に維持するためと、ハケ101の金属板Wに対する当接圧を良好に確保するためと、ハケ101の金属板Wに対する位置付け精度を良好に確保するために、y軸方向にわたって長く付設されている。油受給管121、122の最下点には、略円柱形の油滴下孔121a、122aが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス加工される金属板の表面にプレス加工前に成形油を塗布する装置に関する。
この発明は、成形油を必要とするプレス加工の環境改善と効率向上などに大いに有用なものである。
【背景技術】
【0002】
成形油とは、プレス加工を行う前にその加工対象となる金属板の表面に付着させる油のことであり、例えば下記の特許文献1中における従来技術(従来の成形装置)を使用する際などの様に、この油脂皮膜の成膜によってプレス加工の品質や歩留りが良好に確保できる場合がある。
また、プレス加工の生産ライン上においてこの油脂皮膜を金属板の表面上に自動的に成膜する手段としては、加圧に基づく噴霧処理によって成形油の微小な油滴を金属板の表面に吹き付ける噴霧装置が、従来より専ら用いられてきた。
【特許文献1】特開平10−134709(図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の従来の噴霧装置を用いた場合、成形油の微小な油滴やそれが揮発した気体が噴霧処理環境内に充満して、作業者の喉や目等を傷めるなどの恐れがあった。このため、それらの作業者においては、マスクやメガネ等を装着しなければならないなどの不便が有った。
また、その様な成形油の成膜方式に従う限り、成形油の使用効率が高くならないと言った問題も回避し難い。更に、その様な環境下では、空気中に拡散される成形油による周辺装置などの汚れの問題も顕著になり易い。
【0004】
また、金属板搬送用のスタック装置内に金属板を多層状に積載する前の段階で、成形油を各金属板にそれぞれ塗布しておき、その後、多層状に積載された金属板群の中から各金属板を1枚ずつ取り出して、プレス加工用の搬送ラインに侵入させる方法も考えられる。しかしながら、この方法では、多数の金属板を積載した時に、それらの金属板の自重と成形油の作用によって各金属板同士が強固に密着してしまうことがある。このため、それらの金属板群の中から順次金属板を1枚ずつ確実に取り出すことが困難になると言う問題が発生する。そして、この問題は必ずしも容易には解決することができない。
【0005】
また、搬送中の金属板上に直接成形油を滴下して、その後その成形油をヘラ等を用いて引き延ばす方法なども考えられるが、この方法では、金属板の搬送速度が大きい場合に、成形油の各金属板に対する均等な滴下量の制御や正確な滴下位置の制御などが非常に困難となる。したがって、この様な方法では、個々の金属板に対しても、また任意の1枚の金属板上の各部に対しても、ムラの無い均一な油脂皮膜を成膜することは難しい。また、この方法では、金属板の裏面(即ち、下側の面)に所望の油脂皮膜を成膜することはできない。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、その目的は、プレス加工用の成形油を用いる現場の環境を改善することと、その成形油の使用効率を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためには、以下の手段が有効である。
即ち、本発明の第1の手段は、プレス加工される金属板の表面にプレス加工前に成形油を塗布する成形油塗布装置において、成形油を一時的に吸着して保持し金属板の表面に直接触れることにより該表面に成形油を塗布する成形油塗布部材と、この成形油塗布部材に継続的に成形油を給油する給油手段とを設け、金属板をプレス加工装置に搬送する搬送装置が構成する搬送ライン上にその成形油塗布部材を配置することである。
ただし、上記の成形油塗布部材は、成形油を一時的に吸着して保持することができる材料ならば何でも良く、例えば、ハケ状又は布状等の繊維質材料、或いはスポンジ材等から構成することができる。
【0008】
また、本発明の第2の手段は、上記の第1の手段において、金属板の表側の表面に成形油を塗布する成形油塗布部材と、金属板の裏側の表面に成形油を塗布する成形油塗布部材とを備えることである。
【0009】
また、本発明の第3の手段は、上記の第1又は第2の手段において、成形油塗布部材を側方から支持する支持板材を備えることである。
【0010】
また、本発明の第4の手段は、上記の第1乃至第3の何れか1つの手段において、成形油塗布部材又は支持板材の上に成形油を滴下する滴下手段から、上記の給油手段を構成することである。
【0011】
また、特に、本発明の第3の手段と第4の手段とを組み合わせて成形油塗布装置を構成する場合、金属板の上側の表面上に成形油を塗布する成形油塗布部材を支持する支持板材に対して直接、上記の滴下手段から成形油を滴下すると良い場合がある。
【0012】
また、本発明の第5の手段は、上記の第1乃至第4の何れか1つの手段において、上記の成形油塗布部材によって金属板の表面に一旦塗布された成形油をより均一化またはより薄膜化させる様に、その表面に触れつつ成形油をその表面上で引き延ばす油引き延ばし手段を設けることである。
この油引き延ばし手段を構成する材料としては、少なくとも金属板との接触部位が金属板に傷を付けない程度に柔らかい材料であれば何でもよい。したがって、例えば、ワイパーブレードなどの材料が好適であり、入手も容易である。
【0013】
また、本発明の第6の手段は、上記の第1乃至第5の何れか1つの手段において、成形油の塗布時に余り出た成形油の余剰分を回収する余剰油回収手段を備えることである。
【0014】
また、本発明の第7の手段は、上記の第1乃至第6の何れか1つの手段において、上記の成形油塗布部材と給油手段とを、相異なる成形油の種類別にそれぞれ設けることである。
以上の本発明の手段により、前記の課題を効果的、或いは合理的に解決することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上の本発明の手段によって得られる効果は以下の通りである。
即ち、本発明の第1の手段によれば、金属板をプレス加工装置に搬送する搬送装置が構成する搬送ライン上に上記の成形油塗布部材が配置されるので、金属板のプレス加工装置への搬送処理の最中に、それに並行して金属板の表面上に所望の油脂皮膜を成膜することができる。また、この処理は、金属板の表面に直接触れる成形油塗布部材からの成形油の塗布によって実施されるので、成形油の微小な油滴やそれが揮発した気体が処理環境内に充満することはない。
【0016】
したがって、本発明の第1の手段によれば、金属板の搬送時にその搬送処理と並行して効率よく上記の油脂皮膜の成膜処理が実施できると共に、その成形油を用いる現場の環境を改善することと、その成形油の使用効率を向上させることが同時に可能となる。
また、上記の成形油塗布部材には、適量の成形油を常時保持させておくことができるので、金属板の表面上の少なくとも搬送方向に対して常時ムラなく油脂皮膜を成膜することができる。
【0017】
また、本発明の第2の手段によれば、上記の搬送ライン上において、プレス加工の対象となる金属板の表裏両面に対してそれぞれ所望の油脂皮膜を成膜することができる。
【0018】
また、金属板に直接触れることと、成形油を一時的に吸着して保持する必要性などから、上記の成形油塗布部材には顕著な柔軟性と正確な位置決め精度が要求されるが、本発明の第3の手段によれば、成形油塗布部材が支持板材によって側方から支持されるので、その柔軟性を良好に確保しつつ成形油塗布部材の位置決め精度も同時に高くすることが可能となる。このため、金属板に対する成形油塗布部材の当りが強くなり過ぎたり、金属板の当りに対して形成油塗布部材が過度に逃げてしまって、金属板に対する成形油塗布部材の接触圧が弱くなり過ぎたりすることがなくなる。このため、金属板に対する成形油塗布部材の当接具合を最適に制御できる。したがって、本発明の第3の手段によれば、形成油を金属板に適度に良好に塗布することができる。
【0019】
また、本発明の第4の手段によれば、給油手段の給油部を、例えば、パイプに適当数の穴(:油滴滴下口)を空けただけの簡単な部品等を用いても具現し得る。即ち、本発明の第4の手段によれば、そのような比較的簡単な形態で上記の給油手段を構成することも可能となる。
【0020】
また、特に、本発明の第3の手段と第4の手段とを組み合わせて成形油塗布装置を構成する場合、金属板の上側の表面上に成形油を塗布する成形油塗布部材を支持する支持板材に対して直接、上記の滴下手段から成形油を滴下すると良い場合がある。この実施形態は、金属板の搬送方向に対して垂直な方向につながった構造をその支持板材に与えた場合に特に有効であり、この構成に従えば、金属板の縦方向(搬送方向)にも横方向にも略一様にムラなく所望の油脂皮膜を成膜することができる。これは、上記の支持板材が、滴下される成形油を一旦保持するバッファの作用を奏すると共に、その成形油を上記の横方向(搬送方向に垂直な方向)に適度に分散させる作用をも同時に奏するためである。
また、成形油塗布部材の材質や厚さや長さなどを最適化することによっても、その様なバッファリング作用や分散作用を良好に得ることができる。
【0021】
また、本発明の第5の手段によれば、成形油塗布部材によって金属板の表面に一旦塗布された成形油を、上記の油引き延ばし手段によって、より均一化またはより薄膜化させることができるので、成形油塗布部材によって金属板の表面に成形油を塗布する際に、必ずしも十分均一または十分薄く成形油を塗布する必要がなくなる。
また、本発明の第5の手段によれば、成形油によって成膜される油脂皮膜の厚さや均一性を容易に最適に制御することができる。
【0022】
また、本発明の第6の手段によれば、成形油の塗布時に余り出た成形油の余剰分が回収されるので、成形油の再利用が可能となる。このため、成形油の使用効率を更に向上させることができる。
【0023】
また、本発明の第7の手段によれば、加工対象となる金属板の種類などによって、異種の成形油が混ざらないようにしつつ、使用すべき成形油の種類を随時簡単に差し替えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
なお、上記の成形油塗布部材は、多孔質のスポンジ状の材料や布材などから構成することもできるが、金属板の搬送速度が大きい場合には、成形油塗布部材と金属板との間における摩擦の問題が表面化し易くなることがある。そのため、上記の成形油塗布部材の材料としては、加工対象の金属板との摩擦係数の小さな、例えばシリコン系やナイロン系等の合成樹脂などから成る材料を用いることが望ましい。また、これらの合成樹脂などから成る材料は、適度な柔軟性を有しているので、金属板に対する接触圧を、その金属板の厚さなどに大きく影響されない様に常時最適化する上でも好適である。
【0025】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。
ただし、本発明の実施形態は、以下に示す個々の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
図1は、本実施例1の成形油塗布装置100のy軸方向に垂直な断面図である。本発明の成形油塗布部材を構成するハケ101は、ハケ付設管113の円筒軸周りを回動可能となる様に、ハケ付設管113の樹脂製のカバー113a上に、固定金具109とボルト117などを用いて固定されている。また、ハケ101は、ナイロン系の無数の繊維を束ねたものであり、固定金具109とこのハケ101との間には、支持板材105が固定されている。この支持板材105は、ハケ101の形状を良好に維持するためと、ハケ101の金属板Wに対する当接圧を良好に確保するためと、ハケ101の金属板Wに対する位置付け精度を良好に確保するために、y軸方向にわたって長く付設されている。
本図1に図示する様に、ハケ102〜104などについても、上記と略同様の構成が採られている。
【0027】
なお、上側のハケ付設管113とハケ付設管115は、自身の軸周りに回動自在となる様にプレートP3に支持されており、下側のハケ付設管114とハケ付設管116は、自身の軸周りに回動自在となる様に板受け材209に支持されている。ただし、それらの他端は、例えばハケ付設管113とハケ付設管114については、後述の図3や図5−BのプレートP1に支持されており、また、ハケ付設管115とハケ付設管116については、後述の図3や図5−AのプレートP2に支持されている。
【0028】
本発明の滴下手段を構成する油受給管121、122の最下点には、それぞれ、略円柱形の油滴下孔121a、122aが設けられている。また、油受給管121、122に給油するための給油枝管123、124は、変形可能な銅製の柔軟な管材から構成されている。そして、これらの給油枝管123、124や、それらへの各給油口125、126は、何れもそれぞれベース板127に固定されている。
【0029】
油受給管121、給油枝管123、給油口125やハケ101、ハケ102などは、金属板Wがアルミ材から成る場合に用い、油受給管122、給油枝管124、給油口126やハケ103、ハケ104などは、金属板Wが鉄材から成る場合に用いる。この様に、金属板Wの材質によって、成形油塗布部材(ハケ101〜104)や給油系統(油受給管、給油枝管、給油口など)を分けているのは、金属板Wの材質によって、用いるべき成形油の種類が異なるためである。
【0030】
例えば、ハケ101はアルミなどからなる金属板Wの上面にアルミ用の成形油を塗布するための成形油塗布部材であり、ハケ102はアルミなどからなる金属板Wの裏面(下面)にアルミ用の成形油を塗布するための成形油塗布部材であり、ハケ103は鉄などからなる金属板Wの上面に鉄用の成形油を塗布するための成形油塗布部材であり、ハケ104は鉄などからなる金属板Wの裏面(下面)に鉄用の成形油を塗布するための成形油塗布部材である。また、図1に例示する成形油塗布部材(ハケ101〜104)の各位置は、各ハケ101〜104を何れも使用していない場合の退避位置であり、使用時には、該当するハケ付設管113〜116を上記の様に回動させて、対応するハケ(成形油塗布部材)を目的の金属板Wに適度に当接させて使用する。
【0031】
例えば、ハケ付設管113,114を適当に回動させることにより、図2−Aに示す様に、ハケ101とハケ102とが接触する様にすると、この2つのハケの間を金属板Wがx軸方向に搬送される際に、金属板Wの表裏両面に成形油を塗布することができる。この時、下側に位置するハケ102の方が、若干前方(x座標が大きくなる側)に出ていることが望ましい。その長さδ(図2−B)の適正範囲は、0mm〜30mm程度である。この様な設定により、一旦、支持板材105の上に滴下された成形油を、ハケ101とハケ102の双方に、無駄やムラがない様に、随時適量分配することができる。
【0032】
また、その長さδの設定は、ハケ付設管113,114の配設位置によって調整しても良いし、ハケ101とハケ102の各長さによって調整しても良いし、ハケ付設管113,114を回動させる際の各回動角によって調整しても良い。
また、これらの事情は勿論、ハケ103、104やハケ付設管115,116などについても同様である。
【0033】
ハケ付設管114,116の下方には、成形油の内の塗布されなかった余剰分を回収するためのオイルパン128(余剰油回収手段:図1)が配設されている。これらの油は、支持板材106、108や固定金具110、112などをつたって、オイルパン128中に落下する。図3のコック129やホース130は、このオイルパン128中に溜まった成形油を回収するためのもの(余剰油回収手段)であり、それらの油は、ホース130の先に設けられた所定の回収容器の中に回収される。
【0034】
図3に、本実施例1の成形油塗布装置100を有する板材搬送装置200の正面図を示す。上記の略円柱形の油滴下孔121aは、上記の通り油受給管121の最下点に設けられるが、そのy軸方向のピッチ(配設密度)は、給油枝管123のy軸方向のピッチの2倍から3倍程度に設定される。図1の給油口125は、本図3では符号E′で示されている。これらの給油口は、A−A′,B−B′,C−C′,D−D′,E−E′の合計5組の給油系統に分割されている。
【0035】
図4に、それらの給油系統の論理的な構成を示す。アルミ用の成形油が保持されているオイルタンクTには、PL1〜PL5の5本のパイプラインが接続されており、給油を2等分する二股の各分岐器(a2,b2,c2,d2,e2)とオイルタンクTとの間における、これらの各パイプライン(PL1〜PL5)上には、制御弁(a1,b1,c1,d1,e1)が、それぞれ設けられている。これらの制御弁は電磁弁を用いて構成されており、給油経路の開閉及び太さ(即ち、単位時間当たりの給油量)を自在に制御することができる。
【0036】
したがって、例えば、金属板Wの幅、即ちy軸方向の長さが短い場合には、制御弁b1,c1,d1及びe1を閉じることによって、給油口A,A′だけから給油して、y軸方向の幅の狭い範囲だけに成形油を滴下することができる。
また、金属板Wの搬送速度が高い場合などには、必要十分な給油効率に応じ、制御弁の開閉制御に基づいて、対応する各給油経路をそれぞれ太く確保することができる。
また、これらの構成は、勿論、鉄用の成形油のための給油系統についても、同様に並列に設けるものとする。
【0037】
以下、図3と図5−Bを用いて、図1のハケ付設管113,114を回動させる回動制御手段について説明する。この回動制御手段は、プレートP1上に、動作可能に固定されたものであり、軸をy軸方向に向けて円盤132上の偏心した位置に固定された円柱形のピン137をシャフト139で上下に押し引きすることによって、円盤132は、軸が同一のハケ付設管114の周りで回動する。符号135は、この押し引き動作を駆動するエアーシリンダーを示している。また、円盤132と円盤131とは歯車機構を構成している。即ち、円盤132と円盤131の外周には、それぞれ歯車を形成する歯が設けられており、円盤132と円盤131とがそれらの歯を介して外接することにより、円盤132の回動に基づいて円盤131の回動が生成される。
【0038】
また、円盤131と円盤132とは、半径が同じなので、これらにそれぞれ固定された各ハケ付設管113と114は、常時同じ回動角だけ回動する。例えば、図1に示す位置まで、即ち、金属板Wに接しない位置までハケ101とハケ102を退避させる場合には、エアーシリンダー135の駆動力を用いて、シャフト139を上方に押し出せば良い。この動作によって、図1に図示する様に、ハケ101とハケ102を金属板Wに接しない位置まで退避させることができる。
【0039】
なお、プレートP1上に設けられた穴h1,h2は、図1及び図5−Aのハケ付設管115、116を貫通させるためのものであり、これらに付設されたハケ103とハケ104についても上記と略同様に、エアーシリンダー136の駆動力を用いて、回動制御される。ただし、図1に示す位置まで、即ち、金属板Wに接しない位置までハケ103とハケ104を退避させる場合には、エアーシリンダー136の駆動力を用いて、シャフト140を下方に引き寄せる。
【0040】
以上のような構成によれば、金属板Wをプレス加工装置に搬送する板材搬送装置200が構成する搬送ライン上に上記の成形油塗布部材(ハケ101〜104)が配置されるので、金属板Wのプレス加工装置への搬送処理の最中に、それに並行して金属板Wの表裏両面に同時に所望の油脂皮膜を成膜することができる。また、この処理は、金属板Wに直接触れる成形油塗布部材からの成形油の塗布によって実施されるので、成形油の微小な油滴やそれが揮発した気体が処理環境内に充満することはない。
【0041】
以下、板材搬送装置200が構成する上記の搬送ラインについて、更に具体的に説明する。図6−A,−Bは、ワーク(金属板)を挟持するための板材搬送装置200の開閉挟持機構の断面図である。特に、図6−A(開状態)は、図3の正面図の一部を拡大したものに相当しており、基柱201、202はそれぞれ不動に固定されている。
グリップ部材203、204は、金属板Wを面接触によって直接挟持する。ただし、より詳しくは、グリップ部材203は、金属板Wを挟持する際のグリップの圧力を最適化する弾性作用を奏するためのバネCC及び接触部材203bと、それらをz軸方向に弾性的に微動可能に支持するバックベース203aから構成されている。
【0042】
この板材搬送装置200の開閉挟持機構は、グリップ部材203、204以外の部位については、上下左右に関して略対称に構成されているので、以下、上側半分の構成について詳しく説明する。
x軸方向に長く延びた搬送レール205は、基柱201に固定されており、ホルダ207はこの搬送レール205と嵌合しつつこの搬送レール205によって、x軸方向に往復自在に案内されている。このホルダ207は、図7−Aにもその側面図を図示する様に、略板形状の台210上に固定されている。この台210の下面には、基体211が固定されており、基体211全体がx軸方向に並進往復することができる。また、この基体211の側面には垂直レール212が、そしてこの基体211の下面には、x軸方向に長く延びた水平レール218が固定されている。
【0043】
側面板214は、グリップ部材203とホルダ213とを連結している。上記の垂直レール212は、ホルダ213をz軸方向に往復自在に案内するもので、この案内に基づいて側面板214を上下に並進させることによって、グリップ部材203の金属板Wに対する上下方向の挟持動作が実現される。
また、ホルダ217は、水平レール218によって、x軸方向に往復自在に案内されている。ホルダ217が固定されている駆動プレート216は、図7−Aに示す様に、水平レール218に沿ってx軸方向に並進往復することができる。図7−A,−Bのエアーシリンダー220は、この並進運動を駆動するためのものであり、駆動プレート216は、このエアーシリンダー220に、シャフト221を介して接続されている。
【0044】
この駆動プレート216のx軸方向の並進運動は、上記の側面板214の上下運動を生成するためのものである。即ち、図7−A,−Bに示す様に、駆動プレート216にはカムフォロアー216aが設けられており、ガイドプレート215に斜めに設けられたガイドホール215aの中を、このカムフォロアー216aがこのガイドホール215aに沿って移動するために、このガイドプレート215に固定されている上記の側面板214の上下運動が生成される。例えば、図7−A,−Bのエアーシリンダー220によって、シャフト221を右に(x軸の正の向きに)押し出せば、カムフォロアー216aが右に押し出されて、グリップ部材203が持ち上げられる(図6−A,図7−A)。
【0045】
図6−A,−Bの各図の下半分も、上記と同様に構成されており、上記と略同様に動作する。ただし、図7−Aのエアーシリンダー220′によって、駆動プレート216′を右に(x軸の正の向きに)押し出せば、グリップ部材204が持ち上げられるので、この動作は、グリップ部材203,204の閉状態(図6−B)を得る際に実行する。
【0046】
そして、例えば以上の様にして構成される適当な搬送ライン上に、例えば図1、図3に例示する様に本実施例1の成形油塗布装置100を配設することによって、本発明を実施することができる。
【0047】
なお、上記の成形油塗布部材(ハケ101〜ハケ104)によっては、金属板Wの中央部分に成形油を直接塗布することができないが、その様な金属板W上の領域に対しては、必要に応じて、従来と同様にして、成形油を噴霧によって付着させても良い。その様な金属板W上の領域は、従来よりも格段に狭く限定されているので、本発明に基づくこれらの構成(従来技術との併用)によっても、前述の課題を解消または大幅に緩和することができる。
【実施例2】
【0048】
図8−A,−Bに本実施例2の油引き延ばし手段(ワイパーブレードWB1〜4)の平面図と断面図を示す。この油引き延ばし手段(WB1〜4)は、上記の実施例1の板材搬送装置200の最終段に配設したものである。図8−Aの右側の点PPは、プレス加工装置の中心点(加工位置)を示しており、搬送ラインの両側方から金属板Wの縁を表裏両面にて挟持するサイドグリッパーSGは、その金属板Wをx軸の方向に、x=x2の点からx=x3の点(:点PP)まで搬送する。
【0049】
また、板材搬送装置200のグリップ部材203,204は、前述の挟持動作によって金属板Wを表裏両面から挟持しつつ、その金属板Wをx軸の方向に、x=x1の点からx=x2の点まで搬送する。ワイパーブレードWB1〜4は、この板材搬送装置200の出口、即ち、サイドグリッパーSGに対する金属板Wの受渡し点付近に設けられており、その断面αを図示すれば、図8−Bの様になっている。
【0050】
図8−Bの断面図は、図8−Aの断面αをA方向視したものである。上記の板材搬送装置200には、実施例1の成形油塗布装置100が具備されており、図8−Bの成形油の油膜ρ1は、前述のハケ101によって塗布されたものである。この油膜ρ1は、ワイパーブレードWB1によって図中の油膜ρ2の様に平坦化され、更にワイパーブレードWB1は、ハケ101によって成形油を塗布することができなかった金属板Wの中央部分に、成形油を運ぶ作用をも同時に奏する。そして、次段のワイパーブレードWB2は、それらの作用に基づいて成膜された油膜ρ2を、更に平坦化及び薄膜化して、図示する様な更に薄い油膜ρ3を形成する。
例えばこの様にして、ワイパーブレードを利用すれば、成形油塗布部材によって成形油を塗布することができない部位が有る場合においても、その金属板Wの表裏両面に薄くムラなく所望の油脂皮膜を成膜することができる。
【0051】
また、図8−Aの領域Z付近に、若干量の成形油を従来と同様の手段(:設置位置が固定された成形油噴霧用のノズル)によって噴射する様にしても良い。これにより、ワイパーブレードWB1〜4と金属板Wとの間に生じる摩擦の発生を常に抑制することができるので、ワイパーブレードWB1〜4の寿命を長くすることができると同時に、上記の平坦化及び薄膜化をより確実に実施することができる。この様な成形油の噴霧については、噴霧範囲が従来よりも格段に狭く限定されるので、その噴霧量を従来よりも十分少なく抑えることができる。このため、この様な場合においても、実施例1と同様の本発明の作用・効果を得ることができる。
【0052】
〔その他の変形例〕
本発明の実施形態は、上記の形態に限定されるものではなく、その他にも以下に例示される様な変形を行っても良い。この様な変形や応用によっても、本発明の作用に基づいて本発明の効果を得ることができる。
(変形例1)
例えば、上記の実施例1では、支持板材105や支持板材107を平坦な平面形状にしたが、成形油が直接滴下される上側の支持板材(105、107)の表面には、凹凸を形成しても良い。
【0053】
図9に、支持板材105の変形例を例示する。本図9の支持板材105′には、突起105aが多数設けられている。この様な凹凸の形成によって、金属板の縦方向(搬送方向)にも横方向にも略一様にムラなく所望の油脂皮膜を成膜することができる。これは、上記の支持板材105′が、滴下される成形油を一旦保持するバッファ作用をより良好に奏すると共に、その成形油を横方向(搬送方向に垂直な方向)に適度に分散させる作用をも同時に奏するためである。
【0054】
(変形例2)
また、上記の実施例1では、ホース130(図3)を通して回収された成形油の余剰分を所定の回収容器の中に回収する形態を採用したが、本発明の成形油塗布装置においては、ポンプや集塵フィルタなどを使用する等して、一旦回収された余剰分の成形油を自動的に再利用する循環経路を構成する様にしても良い。
【0055】
(変形例3)
また、実施例1の油受給管121、122(成形油滴下手段)は、金属板の裏面に成形油を塗布する成形油塗布部材用(例:ハケ102用)にも別途個別に設けることができる。また、その様な場合には、別々の滴下経路によって、例えばハケ101とハケ102などにそれぞれ個別に給油することができるので、その様な場合には、図2−A,−Bの様な、ハケ101とハケ102との位置関係を必ずしも考慮する必要がない。
【0056】
(変形例4)
また、実施例1では、本発明の給油手段を、油滴下孔121a,122aを有する油受給管121、122(本発明の滴下手段)を用いて構成したが、本発明の給油手段は、必ずしも、本発明の滴下手段から構成する必要はない。
例えば、実施例1のハケ付設管113やハケ付設管115などの様なハケ付設管の管中に成形油を給油して、そこから各ハケに成形油を分配することも可能である。この場合には、油滴下孔121a,122aなどと略同様の形状の孔をそれらのハケ付設管に設け、その孔の直下にハケなどの成形油塗布部材を配置することにより、上記の実施例1の給油方式(図4)を用いて略同様に良好に給油することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
金属板のプレス加工を行う前に、該金属板に成形油の油脂皮膜を成膜する手段に関する。本発明は、プレス装置を用いて例えば車両のボディーなどを成形する際に非常に有効となるが、本発明はその他にも任意のプレス加工に対しても、その効果を大いに発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施例1の成形油塗布装置100のy軸方向に垂直な断面図
【図2−A】ハケ101とハケ102との位置関係を示す側面図
【図2−B】ハケ101とハケ102との位置関係を示す側面図
【図3】成形油塗布装置100を有する板材搬送装置200の正面図
【図4】給油系統の論理的な構成を示す構成図
【図5−A】ハケ付設管115,116を回動させる回動制御手段の正面図
【図5−B】ハケ付設管113,114を回動させる回動制御手段の正面図
【図6−A】板材搬送装置200の開閉挟持機構の断面図(開状態)
【図6−B】板材搬送装置200の開閉挟持機構の断面図(閉状態)
【図7−A】板材搬送装置200の開閉挟持機構の側面図(開状態)
【図7−B】開閉挟持機構の駆動プレート216の平面図
【図8−A】実施例2の油引き延ばし手段(WB1〜4)の平面図
【図8−B】実施例2の油引き延ばし手段(WB1〜2)の断面図
【図9】支持板材105の変形例(支持板材105′)を例示する斜視図
【符号の説明】
【0059】
100 : 成形油塗布装置
101、102 : ハケ(成形油塗布部材)
105、106 : 支持板材
121、122 : 油受給管(滴下手段)
121a、122a: 油滴下孔
123、124 : 給油枝管
125、126 : 給油口
128 : オイルパン(余剰油回収手段)
WBm : ワイパーブレード(油引き延ばし手段;1≦m≦4)
200 : 板材搬送装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス加工される金属板の表面にプレス加工前に成形油を塗布する装置であって、
前記成形油を一時的に吸着して保持し、前記金属板の表面に直接触れることにより、該表面に前記成形油を塗布する成形油塗布部材と、
前記成形油塗布部材に継続的に前記成形油を給油する給油手段と
を有し、
前記成形油塗布部材は、前記金属板をプレス加工装置に搬送する搬送装置が構成する搬送ライン上に配置されている
ことを特徴とする成形油塗布装置。
【請求項2】
前記金属板の表側の表面に前記成形油を塗布する前記成形油塗布部材と、
前記金属板の裏側の表面に前記成形油を塗布する前記成形油塗布部材と
を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の成形油塗布装置。
【請求項3】
前記成形油塗布部材を側方から支持する支持板材を有する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の成形油塗布装置。
【請求項4】
前記給油手段は、
前記成形油塗布部材又は前記支持板材の上に前記成形油を滴下する滴下手段から成る
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の成形油塗布装置。
【請求項5】
前記成形油塗布部材によって前記金属板の表面に一旦塗布された前記成形油をより均一化またはより薄膜化させる様に、前記表面に触れつつ前記成形油を前記表面上で引き延ばす油引き延ばし手段を有する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の成形油塗布装置。
【請求項6】
前記成形油の塗布時に余り出た前記成形油の余剰分を回収する余剰油回収手段を有する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の成形油塗布装置。
【請求項7】
前記成形油塗布部材と前記給油手段とを、相異なる前記成形油の種類別にそれぞれ有することを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の成形油塗布装置。

【図1】
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【図2−A】
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【図2−B】
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【図3】
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【図4】
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【図5−A】
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【図5−B】
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【図6−A】
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【図6−B】
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【図7−A】
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【図7−B】
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【図8−A】
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【図8−B】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−21575(P2007−21575A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−211932(P2005−211932)
【出願日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(391051599)株式会社ティ・アイ・イー (5)
【Fターム(参考)】