説明

成膜方法及びその成膜装置

【課題】成膜中のパーティクルを正確に検出することができ、そのパーティクル発生量の変動に合わせた適切なプロセス管理によって、膜中に含まれるパーティクルを管理することができるアークイオンプレーティングを用いた成膜方法及びその成膜装置を提供する。
【解決手段】真空炉1本体に通じる開口部51を一端部に備え、他端部を閉塞した筒体5と、筒体5の他端部に取り付けられたパーティクル検出手段6とを備え、筒体5は、その軸芯の延長線上にターゲット表面の一部が位置するように配置され、開口部51の最小開口径Dに対する基準点60と開口部51との間の距離Lの比率が12以上30以下となるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アークイオンプレーティング(AIP)を用いた成膜方法及び成膜装置において、膜中に含まれる粒子状のパーティクル(ドロップレット、マクロパーティクル)を管理するために、プラズマ中のパーティクルを測定しながら成膜する成膜方法及びその成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
AIPにより成膜する場合、ターゲット表面のアークスポットで生成されたドロップレット(マクロパーティクル)等のパーティクルが試料の表面に付着すると、表面の平面度を低下させ、膜の特性に影響を与える。そこで、プロセス管理のため、成膜中のパーティクルの発生量を正確に検出することが重要である。
【0003】
成膜中に、プラズマ中のパーティクルをグロー放電などの光に妨げられずに測定する方法として特許文献1に開示された方法がある。これは、レーザー光の偏光2成分を空間的にわずかに離して、平行に入射させて、偏光2成分の差分でパーティクルによる散乱光だけを捕らえる方法である。
また、この方法を用いて、特に半導体プロセスの微細なパーティクルを測定するには、真空炉と排気装置の間の排気配管につなぐことが有効であることが、特許文献2に開示されている。
そして、特許文献1で開示された方法は、例えば特許文献3に示された方法のように、真空炉内に光路を設定しても、プラズマの発光に妨げられずに測定することが可能である。
一方、特許文献4では、グロー放電などの光に妨げられることを防ぐために、真空炉から飛び出した閉塞管にパーティクル測定器を取り付け、外乱光が入らないように遮蔽板を取り付けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−49303号公報
【特許文献2】特開平8−43291号公報
【特許文献3】特開平10−213539号公報
【特許文献4】特開平11−160224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法は、アークプラズマの外乱光に左右されずに用いうる方法であるが、特許文献2で開示された方法ではアークスポットで高い運動エネルギーを付与されて真空炉内に飛び出すパーティクルだけを捉えることができず、他の場所で発生し、ガス流に沿って運動する程度に減速した粒子を全て捉えることになる。
また、特許文献3のように真空炉内に光路を設定して特許文献1の方法を用いれば、アークスポットだけでなく、炉内の他の場所で発生したパーティクルも捕らえてしまう。
特許文献4の方法のように遮蔽板を取り付けると、アークスポットで発生したパーティクルの運動を妨げ、測定に適さない。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、成膜中のパーティクルを正確に検出することができ、そのパーティクル発生量の変動に合わせた適切なプロセス管理によって、膜中に含まれるパーティクルを管理することができるアークイオンプレーティングを用いた成膜方法及びその成膜装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の成膜装置は、アークイオンプレーティングを用いた成膜装置であって、真空炉本体に通じる開口部を一端部に備え、他端部を閉塞した筒体と、前記筒体の他端部に取り付けられたパーティクル検出手段とを備え、前記筒体は、その軸芯の延長線上にターゲット表面の一部が位置するように配置され、前記パーティクル検出手段は、パーティクル検出領域を介して対峙するレーザー発振部と受光部とを備え、その対峙方向が前記筒体の軸芯に直交するように設けられ、前記レーザー発振部から発振されるレーザービームを、互いに直交する向きに偏光した第1及び第2のレーザービーム成分に分割して前記パーティクル検出領域を通過させた後に、前記第1及び第2のレーザービームの強度を受光部により検出して、その差分により前記パーティクルを検出する検出センサであり、前記筒体の軸芯と前記対峙方向との交点を基準点とし、前記開口部の最小開口径に対する前記基準点と前記開口部との間の距離の比率が12以上30以下となるように構成されていることを特徴とする。
【0008】
成膜装置に、上述のようにパーティクル検出手段を配置することにより、アークスポットで高い運動エネルギーを付与されて真空炉内に飛び出し、成膜に影響を及ぼすパーティクル成分を正確に検出することができる。これにより、成膜中のパーティクル発生量の変動に合わせた適切なプロセス管理を実施することができ、膜中に含まれるパーティクルを管理することができる。
この場合、開口部の最小開口径に対する基準点と筒体の開口部との間の距離の比率が12未満であると、アークスポットで生成されたパーティクルだけではなく、真空炉内の他の場所で発生し浮遊するパーティクル等も含めて捉えてしまう。また、比率が30を超えると、開口部が小さく、測定対象のパーティクルがパーティクル検出領域まで到達する距離が長くなるため、十分な測定量が得られない。
このように、12未満及び30を超える比率では、パーティクルの測定値と成膜の評価値とが一致せずに誤差が大きくなるため、12以上30以下に設定するのが効果的である。 また、真空炉内のプラズマの光は偏光成分をもたないため、上述のようなパーティクル検出手段を用いることにより、真空炉内のプラズマの影響を受けることなく、より確実にパーティクルを検出することができる。
【0009】
また、本発明の成膜装置において、前記パーティクル検出領域内では、分割した前記第1及び第2のレーザービームは接しないように構成するとよい。
第1及び第2のレーザービームを接しないように分離することにより、より確実にパーティクルを検出することができる。
【0010】
そして、本発明の成膜方法は、上述の成膜装置を用いて、パーティクル量を監視することにより、プロセス管理しながら成膜することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アークスポットで高い運動エネルギーを付与されて真空炉内に飛び出し、成膜に影響を及ぼすパーティクル成分を確実に検出することができるので、そのパーティクル発生量の変動に合わせた適切なプロセス管理によって、膜中に含まれるパーティクルを管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態の成膜装置を示す概略図である。
【図2】実施例の成膜装置を示す概略図である。
【図3】表面ラフネスの測定結果を示すグラフである。
【図4】開口部の最小開口径に対する基準点と開口部との間の距離の比率(比率Xとする)に対するパーティクル数の関係を示すグラフである。
【図5】表面ラフネス及びパーティクル数の重相関関係と比率Xとの関係を示すグラフである。
【図6】前後の成膜バッチからの異常検出例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態の成膜装置を、図面を参照しながら説明する。
本実施形態の成膜装置100は、アークイオンプレーティング(AIP)を用いた成膜装置であり、図1に示すように、成膜装置100を構成する真空炉1の内壁に、カソードとなるターゲット2と、アノード3とが設けられ、中央部に試料4が配置される構成となっている。なお、真空炉1には、雰囲気ガスのガス供給系11及びガス排出系12が備えられている。
【0014】
AIPによる成膜は、真空雰囲気中において、ターゲット2とアノード3との間で真空アーク放電を発生させ、ターゲット2の表面に形成されるアークスポットから金属材料を蒸発、イオン化させてプラズマを形成し、負のバイアス電圧を印加した試料4の表面に金属イオンを堆積させて行う。
【0015】
ターゲット2から放出されるパーティクルは、ターゲット2の表面のアークスポットで高い運動エネルギーを付与されて真空炉1内のあらゆる方向に放出されており、放出後は直進的に運動する。本実施形態の成膜装置100には、アークスポットから直進的に放出されるパーティクルを検出するパーティクル検出手段6を、真空炉1に筒体5を介して設けている。
【0016】
パーティクル検出手段6は、筒体5の他端部のパーティクル検出領域61を介して対峙するレーザー発振部62と受光部63とを備え、その対峙方向が筒体5の軸芯に直交するように設けられて構成されている。この対峙方向と筒体5の軸芯との交点を基準点60とする。
そして、パーティクル検出手段6は、レーザー発振部62から発振されるレーザービームを、互いに直交する向きに偏光した第1及び第2のレーザービーム成分に分割して、パーティクル検出領域61を通過させた後に、第1及び第2のレーザービームの強度を受光部63により検出して、その差分によりパーティクル検出領域61のパーティクルを検出する検出センサである。
【0017】
筒体5は、その軸芯の延長線上にターゲット2の表面の一部が配置されるように傾斜して設けられ、一端部に真空炉1本体に通じる開口部51を備え、他端部を閉塞し、その他端部にパーティクル検出手段6が取り付けられている。
また、筒体5は、開口部51の最小開口径Dに対する基準点60と開口部51との間の距離Lの比率(L/D)が12以上30以下となるように形成されている。
なお、ここでの最小開口径Dとは、筒体5を通しての最小開口径であり、図2に示すように、筒体5の途中にリング部材55を設置して、最小開口径Dの開口部51を構成してもよい。また、開口部が円形で無い場合の最小開口径Dは、開口部と同面積の円の直径として表す。
【0018】
最小開口径D対する距離Lの比率が12未満であると、アークスポットで生成されたパーティクルだけではなく、真空炉1内の他の場所で発生し、真空炉1内に浮遊するパーティクル等も含めて捉えてしまうため、適切でない。
また、比率が30を超えると、開口部51が小さく、その開口部51に対して距離Lが長くなり、パーティクル検出領域61において、十分な測定量が得られないため、適切でない。
したがって、アークスポットで発生したパーティクルを確実に検出するには、最小開口径Dに対する距離Lの比率を、12以上30以下に設定するのが効果的である。
【0019】
真空炉1から到来するパーティクルは、筒体5の開口部51を経由してパーティクル検出領域61まで到達し、第1及び第2のレーザービームのいずれかを横切るときにこれらのレーザービームに偏光を生じさせ、各レーザービームとの間に位相差を生じさせる。この位相差を受光部63で検出し、パーティクルをカウントする。
真空炉1内のプラズマの光は偏光成分を持たないため、上述のようなパーティクル検出手段6を用いることにより、真空炉1内のプラズマの影響を受けることなく、より確実にパーティクルを検出することができる。
【0020】
なお、偏光レーザービームを互いに直交する向きに偏光した第1及び第2のレーザービーム成分に分割するためには、例えば、特許文献1に記載されているように、ウォラストンプリズムに通過させる。
ウォラストンプリズムとは、複屈折を利用し、レーザービームを直交する偏光面を持つ二つのレーザービームに分離するプリズムであり、方解石や水晶等の一軸性結晶を結合したものからなる。
【0021】
また、パーティクル検出領域61において、分割した第1及び第2のレーザービームを平行にして接することが無いようにするには、所定の長さを有する概ね平行なレーザービームを形成するような焦点距離を備えたシリンドリカルレンズを通過させることで、レーザービームを平行にすることができる。
シリンドリカルレンズとは、一方向のみに曲率を持ち、直交する方向には曲率を持たず、円筒を半分に割ったような外観の角形または丸形のレンズであり、一軸方向のみに光を収束または拡散させることができる。
【0022】
次に、本発明の成膜装置に係る実施例について説明する。
実施例は、パーティクル検出手段6と開口部51との間の距離Lと、開口部51の最小開口径Dとを変更したパーティクル測定部(筒体5及びパーティクル測定手段6)をそれぞれ構成し、試料4の成膜中にぞれぞれのパーティクル測定部でパーティクルを測定した。また、AIPによって成膜した試料4の表面の表面ラフネスRa(表面粗さ)を測定し、その表面ラフネスRaの結果と、パーティクル測定値とを比較して評価した。
【0023】
各パーティクル測定部は、開口部51の最小開口径Dに対する基準点60と開口部51との間の距離Lの比率(L/D)が6,12,20,30,40となるように、最小開口径Dを34,17,10,6.8,5mmとして構成した。また、基準点60と開口部51との間の距離Lは、204mmとした。この場合、図2に示すように、筒体5の途中に、筒体5の内径よりも小さい開口径の開口部51を有するリング部材55を設けて、このリング部材55の内径を変えることで、開口部51の径を上記の寸法とした。また、比率(L/D)が2となるパーティクル測定部においては、最小開口径Dを30mm、距離Lを60mmとなる筒体を使用した。
【0024】
ターゲットには、TiAlターゲットを用い、4Paの窒素雰囲気中でアーク電流100Aに設定して成膜を実施し、試料にTiAlN膜を形成した。
試料には、WC−Co多結晶を用い、その表面を研磨して算術平均粗さRaを0.02μm以下とした。
そして、これらのサンプル1〜5に−70Vの負のバイアスを印加し、それぞれ40分間成膜して膜厚が約3μmとなる膜を表面に形成した。
【0025】
図3に、成膜後のサンプル1〜5の表面ラフネスRaの評価結果を示す。表面ラフネスRaの測定結果は、サンプル表面上の複数箇所を測定し、その平均値をポイントで示し、±3σの値をエラーバーで示した。
また、図4に、パーティクル測定結果を示す。この図4の「パーティクル数/sec.」は、5分間毎にパーティクル数を測定し、その5分間の測定結果を1秒当りのパーティクル数に換算した値であり、その換算結果の平均値をポイントで示し、±3σの値をエラーバーで示した。
また、図3の表面ラフネスRaの平均値と図4のパーティクル数の平均値との重相関係数を求め、各パーティクル計測装置の比率Xとの関係を図5に示した。
【0026】
図4に示すように、比率Xの値が大きくなるにつれパーティクル数の測定値が小さくなることがわかる。また、図5に示すように、比率Xが12以上30以下の範囲においては、重相関係数が0.8以上となり、表面ラフネスRaとパーティクル測定値との傾向が一致しており、パーティクル測定に適した装置構造であることがわかる。
これらの結果より、比率Xを12以上30以下とすることで、アークスポットで高い運動エネルギーを付与されて真空炉1内に飛び出し、成膜に影響を及ぼすパーティクル成分を正確に検出できることがわかる。そして、このパーティクル発生量の変動に合わせた適切なプロセス管理によって、膜中に含まれるパーティクルを一定の範囲内に管理した製品成膜が可能となる。
【0027】
なお、この実施例(比率X=12)の測定装置を用いて成膜を続けたところ、図6にAで示すように、前後の成膜バッチと比較してパーティクル測定値が異なる成膜バッチがあり、管理範囲を決めた上でプロセス管理のために用いうることがわかった。
【0028】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0029】
100,200 成膜装置
1 真空炉
2 ターゲット
3 アノード
4 試料
5 筒体
6 パーティクル検出手段
11 ガス供給系
12 ガス排出系
51 開口部
55 リング部材
60 基準点
61 パーティクル検出領域
62 レーザー発振部
63 受光部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アークイオンプレーティングを用いた成膜装置であって、真空炉本体に通じる開口部を一端部に備え、他端部を閉塞した筒体と、前記筒体の他端部に取り付けられたパーティクル検出手段とを備え、前記筒体は、その軸芯の延長線上にターゲット表面の一部が位置するように配置され、前記パーティクル検出手段は、パーティクル検出領域を介して対峙するレーザー発振部と受光部とを備え、その対峙方向が前記筒体の軸芯に直交するように設けられ、前記レーザー発振部から発振されるレーザービームを、互いに直交する向きに偏光した第1及び第2のレーザービーム成分に分割して前記パーティクル検出領域を通過させた後に、前記第1及び第2のレーザービームの強度を受光部により検出して、その差分により前記パーティクルを検出する検出センサであり、前記筒体の軸芯と前記対峙方向との交点を基準点とし、前記開口部の最小開口径に対する前記基準点と前記開口部との間の距離の比率が12以上30以下となるように構成されていることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記パーティクル検出領域内では、分割した前記第1及び第2のレーザービームは接しないように構成されていることを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項3】
請求項1記載の成膜装置を用いて、パーティクル量を監視することにより、プロセス管理しながら成膜することを特徴とする成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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