成膜方法及び液滴吐出ヘッドの製造方法
【課題】リードタイムの短縮化を図りつつ耐久性の高い薄膜を形成することが可能な成膜方法及び液滴吐出ヘッドの製造方法を提供すること。
【解決手段】基板を加熱しつつ撥液材料を急加熱によって蒸発させ、前記基板に前記撥液材料の粒子が結合するように、前記基板に前記撥液材料の薄膜を形成する薄膜形成工程と、前記薄膜形成工程と連続して行われ、前記基板に形成された前記薄膜を洗浄する洗浄工程とを含む。
【解決手段】基板を加熱しつつ撥液材料を急加熱によって蒸発させ、前記基板に前記撥液材料の粒子が結合するように、前記基板に前記撥液材料の薄膜を形成する薄膜形成工程と、前記薄膜形成工程と連続して行われ、前記基板に形成された前記薄膜を洗浄する洗浄工程とを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜方法及び液滴吐出ヘッドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、媒体にパターンや画像などを形成する液滴吐出ヘッドが知られている。液滴吐出ヘッドは、液滴を吐出する複数のノズルが形成されたノズル基板を有している(例えば、特許文献1参照)。液滴吐出ヘッドは、複数のノズルから水性又は油性のインクを液滴として吐出する。ノズル基板の撥液性が不十分な場合、液滴が付着しやすくなり、吐出不良などの不具合が生じることがある。このため、ノズル基板を撥液化する技術が提案されている。
【0003】
ノズル基板を撥液化する場合、ノズル基板の表面に蒸着法などの成膜方法によって撥液膜を形成する技術が知られている。このような技術の一例として、蒸着法によって撥液膜を形成し、形成された撥液膜に対して一定時間硬化処理を行った後、撥液膜を洗浄する手法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−250084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記手法においては、蒸着法によって撥液膜を形成した後に硬化処理を行うことにより、リードタイムが長くなってしまう。一方、硬化処理を行わずに洗浄した場合、形成された撥液膜の耐久性が低いため、洗浄により剥がれてしまう。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明は、リードタイムの短縮化を図りつつ耐久性の高い薄膜を形成することが可能な成膜方法及び液滴吐出ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る成膜方法は、基板を加熱しつつ撥液材料を急加熱によって蒸発させ、前記基板に前記撥液材料の粒子が結合するように、前記基板に前記撥液材料の薄膜を形成する薄膜形成工程と、前記薄膜形成工程と連続して行われ、前記基板に形成された前記薄膜を洗浄する洗浄工程とを含む。
【0008】
本発明によれば、基板を加熱しつつ撥液材料を急加熱によって蒸発させ、基板に撥液材料の粒子が結合するように、当該基板に撥液材料の薄膜を形成するため、薄膜の密着性が高くなる。したがって、薄膜形成後、硬化処理などを行わずに、基板に形成された薄膜を洗浄する場合であっても、薄膜が剥がれにくくなる。これにより、リードタイムの短縮化を図りつつ耐久性の高い薄膜を形成することが可能となる。
【0009】
上記の成膜方法は、前記薄膜形成工程に先立って行われ、前記基板に下地膜を形成する下地膜形成工程を更に含むことが好ましい。
本発明によれば、基板に下地膜を形成することにより、基板を保護することができる。これにより、基板の耐久性を高めることができる。
【0010】
上記の成膜方法は、前記薄膜形成工程に先立って行われ、前記基板に形成された前記下地膜の表面を改質する改質工程を更に含むことが好ましい。
本発明によれば、基板に形成された下地膜の表面を改質することとしたので、撥液膜が結合しやすい状態とすることができる。
【0011】
上記の成膜方法において、前記薄膜形成工程は、前記撥液材料を複数の加熱位置に分散させて急加熱することを含むことが好ましい。
本発明によれば、撥液材料を複数の加熱位置に分散させて急過熱することとしたので、一箇所あたりの加熱速度を高めることができる。
【0012】
本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、液滴を吐出する複数のノズルが形成されたノズル基板を有する液滴吐出ヘッドの製造方法であって、前記ノズル基板は、前記液滴に対する撥液性を有する薄膜を有し、前記薄膜は、上記の成膜方法を用いて形成されている。
本発明によれば、耐久性の高い薄膜を短いリードタイムで形成することが可能なため、吐出特性の高い液滴吐出ヘッドを高いスループットで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係る液滴吐出ヘッドの構成を示す図。
【図2】本実施形態に係る蒸着装置の構成を示す図。
【図3】(a)〜(d)本実施形態に係る成膜工程を示す図。
【図4】本発明の実施例に係るグラフ。
【図5】本発明の実施例に係るグラフ。
【図6】本発明の実施例に係るグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
[液滴吐出ヘッド]
図1は、液滴吐出ヘッドの構成を示す図である。
【0015】
図1に示すように、液滴吐出ヘッド20は、ヘッド本体90と、ヘッド本体90の一方面に装着されたノズルプレート(ノズル基板)92と、ヘッド本体90の多方面に装着されたピエゾ素子98とを主として構成されている。
【0016】
インク吐出面を構成するノズルプレート92には、液滴を吐出するための複数のノズル91が整列配置されている。ノズルプレート92は、例えばSUSなどの材料を用いて形成されている。ノズルプレート92の表面には、例えばインク21に対して撥液性を有する材料によって撥液膜が形成されている。ヘッド本体90には、各ノズル91と連通する複数の圧力室93が形成されている。各圧力室93はリザーバ95に接続され、リザーバ95はインク導入口96に接続されている。
【0017】
インク21は、インク導入口96からリザーバ95を通って各圧力室93に供給されるようになっている。一方、ヘッド本体90の上端面には、可撓性を有する振動板94が装着されている。その振動板94を挟んで各圧力室93の反対側には、それぞれピエゾ素子98が設けられている。ピエゾ素子98は、PZT等の圧電材料を電極で挟持したものである。
【0018】
ピエゾ素子98に駆動電圧を印加すると、ピエゾ素子98が膨張変形または収縮変形する。ピエゾ素子98が収縮変形すると、圧力室93内の圧力が低下して、リザーバ95から圧力室93にインク21が流入する。またピエゾ素子98が膨張変形すると、圧力室93内の圧力が増加して、ノズル91からインク21の液滴が吐出される。なお、ピエゾ素子98に印加する駆動電圧を制御することにより、液滴の吐出条件を制御しうるようになっている。
【0019】
なお液滴吐出方式として、ピエゾ素子の変形により圧力室内の圧力を変化させる上記ピエゾ方式の他に、インクを加熱して気泡(バブル)を発生させることにより圧力室内の圧力を変化させる方式など、公知の種々の技術を適用することができる。このうちピエゾ方式は、インクを加熱しないので材料の組成に悪影響を与えないなどの点で優れている。
【0020】
[蒸着装置]
次に、本実施形態に係る蒸着装置の構成を説明する。
蒸着装置50は、チャンバーCB、基板保持部51及び蒸着材料保持部52を有する。チャンバーCBは、不図示の減圧装置を有しており、内部が減圧可能となっている。基板保持部51及び蒸着材料保持部52は、チャンバーCBの内部に配置されている。
【0021】
基板保持部51は、ノズルプレート92のマザー基板53を複数枚(図2では4枚)保持可能である。基板保持部51は、加熱装置54を有している。加熱装置54は、マザー基板53を180℃〜200℃程度に加熱する。
【0022】
蒸着材料保持部52は、マザー基板53に形成する薄膜の材料を保持する。本実施形態では、蒸着材料保持部52は、蒸着材料として、インク21に対して撥液性を有する撥液材料を保持する。このような材料としては、例えばフッ素を含むシランカップリング剤などの材料が挙げられる。
【0023】
蒸着材料保持部52は、加熱装置55を有している。加熱装置55は、蒸着材料保持部52に保持された蒸着材料を600℃〜700℃程度に加熱する。蒸着材料保持部52は、例えば2箇所に配置されている。このため、1箇所に配置する場合に比べて、蒸着材料保持部52の加熱速度を高めることができる。
【0024】
次に、本実施形態に係るノズルプレート92の製造過程を説明する。
図3(a)〜図3(d)は、ノズルプレート92の製造過程を示す図である。
図3(a)に示すように、まず、マザー基板53をアルコールなどによって洗浄し、その後マザー基板53に下地膜57を形成する(下地膜形成工程)。当該下地膜57の材料としては、例えばSiO2などが挙げられる。なお、マザー基板53は、例えばノズルプレート92を形成する部分において、上記ノズル91に対応する開口部を形成しておく。下地膜57を形成した後、当該マザー基板53をアルコールなどによって再度洗浄する。
【0025】
マザー基板53の洗浄後、図3(b)に示すように、当該下地膜57の表面を改質する(表面改質工程)。表面改質工程においては、下地膜57の表面上に撥液材料が結合しやすくなるように当該下地膜57上を改質する。例えば、下地膜57の表面上に紫外線などの光を照射するようにしても構わない。
【0026】
下地膜57の表面を改質した後、蒸着装置50のチャンバーCBの内部に複数のマザー基板53を収容し、基板保持部51によって保持させる。また、2つの蒸着材料保持部52に撥液材料を分散させて保持させる。この状態で、加熱装置54及び55を作動させ、マザー基板53及び蒸着材料を加熱する。マザー基板53は、例えば180℃〜200℃程度に加熱する。また、蒸着材料については、600℃〜700℃に加熱する。なお、蒸着材料を加熱する際には、例えば加熱開始から30秒経過後には500℃を超えるように急加熱する。
【0027】
この動作により、図3(c)に示すように、下地膜57上に撥液膜58が形成される(薄膜形成工程)。加熱装置54及び55の加熱により、撥液膜58は、撥液材料の粒子が下地膜57の表面に結合した状態となっている。したがって、この状態において、撥液膜58は下地膜57(マザー基板53)に対して高い密着性を有する状態となる。
【0028】
撥液膜58を形成した後、例えばマザー基板53の裏面やノズル91の内部に形成された撥液膜58を除去する。この工程により、図3(d)に示すように、マザー基板53の必要な箇所に撥液膜58が形成された状態となる。この後、マザー基板53に形成された撥液膜58を洗浄する(洗浄工程)。この場合、撥液膜58が高い密着性をもって下地膜57に密着しているため、薄膜形成工程の後、洗浄工程を連続して行っても、撥液膜58はほとんど剥がれることが無い。
【0029】
洗浄工程の後、マザー基板53を切断して、個々のノズルプレート92を取り出すことにより、ノズルプレート92が完成する。
【0030】
以上のように、本実施形態によれば、マザー基板53を加熱しつつ撥液材料を急加熱によって蒸発させ、マザー基板53に撥液材料の粒子が結合するように、当該マザー基板53に撥液膜58を形成するため、撥液膜58の密着性が高くなる。したがって、撥液膜58を形成した後、硬化処理などを行わずに、マザー基板53に形成された撥液膜58を洗浄する場合であっても、撥液膜58が剥がれにくくなる。これにより、リードタイムの短縮化を図りつつ耐久性の高い撥液膜58を形成することが可能となる。
【0031】
また、本実施形態によれば、耐久性の高い撥液膜58を短いリードタイムで形成することが可能なため、吐出特性の高い液滴吐出ヘッド20を高いスループットで製造することができる。
【実施例】
【0032】
次に、本発明の実施例を説明する。
図4〜図6は、本発明の実施例を説明するためのグラフである。
図4は、蒸着材料の加熱温度及び時間と、チャンバーCBの内部の圧力との関係を示すグラフである。グラフの縦軸(左側)が加熱温度であり、グラフの縦軸(右側)がチャンバーCBの内部の圧力である。また、グラフの横軸は加熱開始からの時間である。
【0033】
図4に示すように、加熱開始から30秒後に蒸着材料の温度は500℃程度になっている。このように蒸着材料を急加熱することで、加熱開始から60秒経過後にチャンバーCBの内部の圧力が急激に高くなる。すなわち、蒸発材料が急激に蒸発していることを示している。この結果から、蒸着材料を急加熱することにより、蒸発材料が急激に蒸発し、結果として下地膜57に対して結合を発生しやすくなることがわかる。
【0034】
図5は、蒸着材料を低温低速加熱(加熱開始から45秒程度で300℃)した場合と、本実施例に係る成膜方法に示したように蒸着材料を加熱した場合とで、撥液膜を高温環境下に置いたときの耐久性を比較したグラフである。図5の縦軸は、撥液膜の特性が失われ、濡れた状態にノズルの発生率(%)を示している。
【0035】
低温低速加熱の場合には、3日間放置した場合には、95%程度まで濡れノズルの発生率が高まっている。これに対して、本発明に係る成膜方法を行った場合、高温環境下に3日放置しても、濡れノズルの発生は認められなかった。この結果から、高温環境に対する耐久性が格段に向上したことがわかる。
【0036】
図6は、低温低速加熱を行った場合と、本実施例に係る成膜方法を行った場合とで、薄膜形成工程後、及び、洗浄工程後、におけるフッ素を含むシランカップリング剤材料の存在比率を示すグラフである。グラフの縦軸が存在比率(%)である。図6に示すように、本実施例に係る成膜方法を行った場合、低温低速加熱を行った場合に比べて、洗浄工程後の存在比率が高くなっていることがわかる。この結果から、外部からの力に対する耐久性が向上したことがわかる。
【符号の説明】
【0037】
CB…チャンバー 20…液滴吐出ヘッド 21…インク 50…蒸着装置 51…基板保持部 52…蒸着材料保持部 53…マザー基板 54、55…加熱装置 57…下地膜 58…撥液膜 90…ヘッド本体 91…ノズル 92…ノズルプレート
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜方法及び液滴吐出ヘッドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、媒体にパターンや画像などを形成する液滴吐出ヘッドが知られている。液滴吐出ヘッドは、液滴を吐出する複数のノズルが形成されたノズル基板を有している(例えば、特許文献1参照)。液滴吐出ヘッドは、複数のノズルから水性又は油性のインクを液滴として吐出する。ノズル基板の撥液性が不十分な場合、液滴が付着しやすくなり、吐出不良などの不具合が生じることがある。このため、ノズル基板を撥液化する技術が提案されている。
【0003】
ノズル基板を撥液化する場合、ノズル基板の表面に蒸着法などの成膜方法によって撥液膜を形成する技術が知られている。このような技術の一例として、蒸着法によって撥液膜を形成し、形成された撥液膜に対して一定時間硬化処理を行った後、撥液膜を洗浄する手法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−250084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記手法においては、蒸着法によって撥液膜を形成した後に硬化処理を行うことにより、リードタイムが長くなってしまう。一方、硬化処理を行わずに洗浄した場合、形成された撥液膜の耐久性が低いため、洗浄により剥がれてしまう。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明は、リードタイムの短縮化を図りつつ耐久性の高い薄膜を形成することが可能な成膜方法及び液滴吐出ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る成膜方法は、基板を加熱しつつ撥液材料を急加熱によって蒸発させ、前記基板に前記撥液材料の粒子が結合するように、前記基板に前記撥液材料の薄膜を形成する薄膜形成工程と、前記薄膜形成工程と連続して行われ、前記基板に形成された前記薄膜を洗浄する洗浄工程とを含む。
【0008】
本発明によれば、基板を加熱しつつ撥液材料を急加熱によって蒸発させ、基板に撥液材料の粒子が結合するように、当該基板に撥液材料の薄膜を形成するため、薄膜の密着性が高くなる。したがって、薄膜形成後、硬化処理などを行わずに、基板に形成された薄膜を洗浄する場合であっても、薄膜が剥がれにくくなる。これにより、リードタイムの短縮化を図りつつ耐久性の高い薄膜を形成することが可能となる。
【0009】
上記の成膜方法は、前記薄膜形成工程に先立って行われ、前記基板に下地膜を形成する下地膜形成工程を更に含むことが好ましい。
本発明によれば、基板に下地膜を形成することにより、基板を保護することができる。これにより、基板の耐久性を高めることができる。
【0010】
上記の成膜方法は、前記薄膜形成工程に先立って行われ、前記基板に形成された前記下地膜の表面を改質する改質工程を更に含むことが好ましい。
本発明によれば、基板に形成された下地膜の表面を改質することとしたので、撥液膜が結合しやすい状態とすることができる。
【0011】
上記の成膜方法において、前記薄膜形成工程は、前記撥液材料を複数の加熱位置に分散させて急加熱することを含むことが好ましい。
本発明によれば、撥液材料を複数の加熱位置に分散させて急過熱することとしたので、一箇所あたりの加熱速度を高めることができる。
【0012】
本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、液滴を吐出する複数のノズルが形成されたノズル基板を有する液滴吐出ヘッドの製造方法であって、前記ノズル基板は、前記液滴に対する撥液性を有する薄膜を有し、前記薄膜は、上記の成膜方法を用いて形成されている。
本発明によれば、耐久性の高い薄膜を短いリードタイムで形成することが可能なため、吐出特性の高い液滴吐出ヘッドを高いスループットで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係る液滴吐出ヘッドの構成を示す図。
【図2】本実施形態に係る蒸着装置の構成を示す図。
【図3】(a)〜(d)本実施形態に係る成膜工程を示す図。
【図4】本発明の実施例に係るグラフ。
【図5】本発明の実施例に係るグラフ。
【図6】本発明の実施例に係るグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
[液滴吐出ヘッド]
図1は、液滴吐出ヘッドの構成を示す図である。
【0015】
図1に示すように、液滴吐出ヘッド20は、ヘッド本体90と、ヘッド本体90の一方面に装着されたノズルプレート(ノズル基板)92と、ヘッド本体90の多方面に装着されたピエゾ素子98とを主として構成されている。
【0016】
インク吐出面を構成するノズルプレート92には、液滴を吐出するための複数のノズル91が整列配置されている。ノズルプレート92は、例えばSUSなどの材料を用いて形成されている。ノズルプレート92の表面には、例えばインク21に対して撥液性を有する材料によって撥液膜が形成されている。ヘッド本体90には、各ノズル91と連通する複数の圧力室93が形成されている。各圧力室93はリザーバ95に接続され、リザーバ95はインク導入口96に接続されている。
【0017】
インク21は、インク導入口96からリザーバ95を通って各圧力室93に供給されるようになっている。一方、ヘッド本体90の上端面には、可撓性を有する振動板94が装着されている。その振動板94を挟んで各圧力室93の反対側には、それぞれピエゾ素子98が設けられている。ピエゾ素子98は、PZT等の圧電材料を電極で挟持したものである。
【0018】
ピエゾ素子98に駆動電圧を印加すると、ピエゾ素子98が膨張変形または収縮変形する。ピエゾ素子98が収縮変形すると、圧力室93内の圧力が低下して、リザーバ95から圧力室93にインク21が流入する。またピエゾ素子98が膨張変形すると、圧力室93内の圧力が増加して、ノズル91からインク21の液滴が吐出される。なお、ピエゾ素子98に印加する駆動電圧を制御することにより、液滴の吐出条件を制御しうるようになっている。
【0019】
なお液滴吐出方式として、ピエゾ素子の変形により圧力室内の圧力を変化させる上記ピエゾ方式の他に、インクを加熱して気泡(バブル)を発生させることにより圧力室内の圧力を変化させる方式など、公知の種々の技術を適用することができる。このうちピエゾ方式は、インクを加熱しないので材料の組成に悪影響を与えないなどの点で優れている。
【0020】
[蒸着装置]
次に、本実施形態に係る蒸着装置の構成を説明する。
蒸着装置50は、チャンバーCB、基板保持部51及び蒸着材料保持部52を有する。チャンバーCBは、不図示の減圧装置を有しており、内部が減圧可能となっている。基板保持部51及び蒸着材料保持部52は、チャンバーCBの内部に配置されている。
【0021】
基板保持部51は、ノズルプレート92のマザー基板53を複数枚(図2では4枚)保持可能である。基板保持部51は、加熱装置54を有している。加熱装置54は、マザー基板53を180℃〜200℃程度に加熱する。
【0022】
蒸着材料保持部52は、マザー基板53に形成する薄膜の材料を保持する。本実施形態では、蒸着材料保持部52は、蒸着材料として、インク21に対して撥液性を有する撥液材料を保持する。このような材料としては、例えばフッ素を含むシランカップリング剤などの材料が挙げられる。
【0023】
蒸着材料保持部52は、加熱装置55を有している。加熱装置55は、蒸着材料保持部52に保持された蒸着材料を600℃〜700℃程度に加熱する。蒸着材料保持部52は、例えば2箇所に配置されている。このため、1箇所に配置する場合に比べて、蒸着材料保持部52の加熱速度を高めることができる。
【0024】
次に、本実施形態に係るノズルプレート92の製造過程を説明する。
図3(a)〜図3(d)は、ノズルプレート92の製造過程を示す図である。
図3(a)に示すように、まず、マザー基板53をアルコールなどによって洗浄し、その後マザー基板53に下地膜57を形成する(下地膜形成工程)。当該下地膜57の材料としては、例えばSiO2などが挙げられる。なお、マザー基板53は、例えばノズルプレート92を形成する部分において、上記ノズル91に対応する開口部を形成しておく。下地膜57を形成した後、当該マザー基板53をアルコールなどによって再度洗浄する。
【0025】
マザー基板53の洗浄後、図3(b)に示すように、当該下地膜57の表面を改質する(表面改質工程)。表面改質工程においては、下地膜57の表面上に撥液材料が結合しやすくなるように当該下地膜57上を改質する。例えば、下地膜57の表面上に紫外線などの光を照射するようにしても構わない。
【0026】
下地膜57の表面を改質した後、蒸着装置50のチャンバーCBの内部に複数のマザー基板53を収容し、基板保持部51によって保持させる。また、2つの蒸着材料保持部52に撥液材料を分散させて保持させる。この状態で、加熱装置54及び55を作動させ、マザー基板53及び蒸着材料を加熱する。マザー基板53は、例えば180℃〜200℃程度に加熱する。また、蒸着材料については、600℃〜700℃に加熱する。なお、蒸着材料を加熱する際には、例えば加熱開始から30秒経過後には500℃を超えるように急加熱する。
【0027】
この動作により、図3(c)に示すように、下地膜57上に撥液膜58が形成される(薄膜形成工程)。加熱装置54及び55の加熱により、撥液膜58は、撥液材料の粒子が下地膜57の表面に結合した状態となっている。したがって、この状態において、撥液膜58は下地膜57(マザー基板53)に対して高い密着性を有する状態となる。
【0028】
撥液膜58を形成した後、例えばマザー基板53の裏面やノズル91の内部に形成された撥液膜58を除去する。この工程により、図3(d)に示すように、マザー基板53の必要な箇所に撥液膜58が形成された状態となる。この後、マザー基板53に形成された撥液膜58を洗浄する(洗浄工程)。この場合、撥液膜58が高い密着性をもって下地膜57に密着しているため、薄膜形成工程の後、洗浄工程を連続して行っても、撥液膜58はほとんど剥がれることが無い。
【0029】
洗浄工程の後、マザー基板53を切断して、個々のノズルプレート92を取り出すことにより、ノズルプレート92が完成する。
【0030】
以上のように、本実施形態によれば、マザー基板53を加熱しつつ撥液材料を急加熱によって蒸発させ、マザー基板53に撥液材料の粒子が結合するように、当該マザー基板53に撥液膜58を形成するため、撥液膜58の密着性が高くなる。したがって、撥液膜58を形成した後、硬化処理などを行わずに、マザー基板53に形成された撥液膜58を洗浄する場合であっても、撥液膜58が剥がれにくくなる。これにより、リードタイムの短縮化を図りつつ耐久性の高い撥液膜58を形成することが可能となる。
【0031】
また、本実施形態によれば、耐久性の高い撥液膜58を短いリードタイムで形成することが可能なため、吐出特性の高い液滴吐出ヘッド20を高いスループットで製造することができる。
【実施例】
【0032】
次に、本発明の実施例を説明する。
図4〜図6は、本発明の実施例を説明するためのグラフである。
図4は、蒸着材料の加熱温度及び時間と、チャンバーCBの内部の圧力との関係を示すグラフである。グラフの縦軸(左側)が加熱温度であり、グラフの縦軸(右側)がチャンバーCBの内部の圧力である。また、グラフの横軸は加熱開始からの時間である。
【0033】
図4に示すように、加熱開始から30秒後に蒸着材料の温度は500℃程度になっている。このように蒸着材料を急加熱することで、加熱開始から60秒経過後にチャンバーCBの内部の圧力が急激に高くなる。すなわち、蒸発材料が急激に蒸発していることを示している。この結果から、蒸着材料を急加熱することにより、蒸発材料が急激に蒸発し、結果として下地膜57に対して結合を発生しやすくなることがわかる。
【0034】
図5は、蒸着材料を低温低速加熱(加熱開始から45秒程度で300℃)した場合と、本実施例に係る成膜方法に示したように蒸着材料を加熱した場合とで、撥液膜を高温環境下に置いたときの耐久性を比較したグラフである。図5の縦軸は、撥液膜の特性が失われ、濡れた状態にノズルの発生率(%)を示している。
【0035】
低温低速加熱の場合には、3日間放置した場合には、95%程度まで濡れノズルの発生率が高まっている。これに対して、本発明に係る成膜方法を行った場合、高温環境下に3日放置しても、濡れノズルの発生は認められなかった。この結果から、高温環境に対する耐久性が格段に向上したことがわかる。
【0036】
図6は、低温低速加熱を行った場合と、本実施例に係る成膜方法を行った場合とで、薄膜形成工程後、及び、洗浄工程後、におけるフッ素を含むシランカップリング剤材料の存在比率を示すグラフである。グラフの縦軸が存在比率(%)である。図6に示すように、本実施例に係る成膜方法を行った場合、低温低速加熱を行った場合に比べて、洗浄工程後の存在比率が高くなっていることがわかる。この結果から、外部からの力に対する耐久性が向上したことがわかる。
【符号の説明】
【0037】
CB…チャンバー 20…液滴吐出ヘッド 21…インク 50…蒸着装置 51…基板保持部 52…蒸着材料保持部 53…マザー基板 54、55…加熱装置 57…下地膜 58…撥液膜 90…ヘッド本体 91…ノズル 92…ノズルプレート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を加熱しつつ撥液材料を急加熱によって蒸発させ、前記基板に前記撥液材料の粒子が結合するように、前記基板に前記撥液材料の薄膜を形成する薄膜形成工程と、
前記薄膜形成工程と連続して行われ、前記基板に形成された前記薄膜を洗浄する洗浄工程と
を含む成膜方法。
【請求項2】
前記薄膜形成工程に先立って行われ、前記基板に下地膜を形成する下地膜形成工程を更に含む
請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記薄膜形成工程に先立って行われ、前記基板に形成された前記下地膜の表面を改質する改質工程を更に含む
請求項2に記載の成膜方法。
【請求項4】
前記薄膜形成工程は、前記撥液材料を複数の加熱位置に分散させて急加熱することを含む
請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の成膜方法。
【請求項5】
液滴を吐出する複数のノズルが形成されたノズル基板を有する液滴吐出ヘッドの製造方法であって、
前記ノズル基板は、前記液滴に対する撥液性を有する薄膜を有し、
前記薄膜は、請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の成膜方法を用いて形成されている
液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項1】
基板を加熱しつつ撥液材料を急加熱によって蒸発させ、前記基板に前記撥液材料の粒子が結合するように、前記基板に前記撥液材料の薄膜を形成する薄膜形成工程と、
前記薄膜形成工程と連続して行われ、前記基板に形成された前記薄膜を洗浄する洗浄工程と
を含む成膜方法。
【請求項2】
前記薄膜形成工程に先立って行われ、前記基板に下地膜を形成する下地膜形成工程を更に含む
請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記薄膜形成工程に先立って行われ、前記基板に形成された前記下地膜の表面を改質する改質工程を更に含む
請求項2に記載の成膜方法。
【請求項4】
前記薄膜形成工程は、前記撥液材料を複数の加熱位置に分散させて急加熱することを含む
請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の成膜方法。
【請求項5】
液滴を吐出する複数のノズルが形成されたノズル基板を有する液滴吐出ヘッドの製造方法であって、
前記ノズル基板は、前記液滴に対する撥液性を有する薄膜を有し、
前記薄膜は、請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の成膜方法を用いて形成されている
液滴吐出ヘッドの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2012−223892(P2012−223892A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90749(P2011−90749)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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