成膜装置及び成膜方法
【課題】 光学薄膜の膜厚測定精度を向上させることができる成膜装置及び成膜方法を提供すること。
【解決手段】制御部8は、受光部22Cから伝送された電圧データをデジタルデータに変換して出力するA/D変換回路(A/D変換部)23と、得られたデジタルデータを基板の回転周期に対応して平均化する平均化回路(演算部)25と、予めシミュレーションで求められた成膜を停止する条件値として入力される条件設定値と平均化回路25から出力されるデジタルデータとの比較を行い、予め設定した範囲で一致したときに一致信号を出力する比較演算器26と、比較演算器26から出力された一致信号によってシャッター18a、18bを動作させる成膜制御部27とを備えている。
【解決手段】制御部8は、受光部22Cから伝送された電圧データをデジタルデータに変換して出力するA/D変換回路(A/D変換部)23と、得られたデジタルデータを基板の回転周期に対応して平均化する平均化回路(演算部)25と、予めシミュレーションで求められた成膜を停止する条件値として入力される条件設定値と平均化回路25から出力されるデジタルデータとの比較を行い、予め設定した範囲で一致したときに一致信号を出力する比較演算器26と、比較演算器26から出力された一致信号によってシャッター18a、18bを動作させる成膜制御部27とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラ、顕微鏡等の光学機器には、反射防止膜や干渉フィルタ等の光学薄膜が多数用いられている。一般に波長λにおける透過率または反射率が、光学薄膜の膜厚がλ/4の整数倍のときに、極大値または極小値となる正弦関数となることが知られている。したがって、波長λの光をモニタに入射し、モニタを透過した光の透過率を成膜中に測定する。これにより、所望の膜厚に相当する透過率になったとき成膜を停止すれば、所望の膜厚の薄膜を成膜することができる。
【0003】
上記のような光学薄膜を、蒸着法やイオンプレーティング法等の成膜方法で、被成膜対象物を回転させながらその表面に薄膜を形成する成膜装置と、被成膜対象物上に成膜された薄膜の膜厚を光学的に測定する膜厚測定装置とを備える薄膜形成装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
この薄膜形成装置は、回転する被成膜対象物上に形成される薄膜に光を照射する光照射光学系と、この光照射光学系を通じて照射された光が薄膜を透過又は反射して生じた信号光を受光して外部に導く受光光学系とを備えており、受光光学系の焦点位置が光軸上において薄膜からずれた位置に配された受光光学系の受光レンズで受光した信号光を外部に導くことによって、被成膜対象物の回転に伴って発生した変動に起因する信号光のノイズ成分を少なくして測定し、膜厚測定精度を向上させている。
【特許文献1】特開2002−115055号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の成膜装置及び成膜方法では、被成膜対象物の回転に伴って発生する微小で高周波の変動に起因する信号光のノイズ成分(以下、信号ノイズ成分という。)は少なくできるが、被成膜対象物の回転の偏心に伴う、大きく低周波の信号ノイズ成分を少なくすることができず、正確な分光特性を有する光学薄膜を得ることが困難である。
本発明は上記事情に鑑みて成されたものであり、光学薄膜の膜厚測定精度を向上させることができる成膜装置及び成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
本発明に係る成膜装置は、成膜室内に配設された被成膜対象物と、該被成膜対象物を回転させて前記被成膜対象物上に薄膜を成膜する成膜手段と、前記被成膜対象物及び前記薄膜の光学特性値から前記薄膜の膜厚を検出する膜厚測定手段とを備える成膜装置であって、検出した前記光学特性値をデジタルデータに変換するA/D変換部と、前記デジタルデータを前記被成膜対象物の回転周期に対応して平均化する演算部とを備えていることを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る成膜方法は、成膜室内に配設された被成膜対象物を回転させて前記被成膜対象物上に薄膜を成膜し、膜厚測定手段によって前記被成膜対象物及び前記薄膜の光学特性値から前記膜厚を検出する成膜方法であって、前記光学特性値を電圧データとして検出する工程と、前記電圧データをデジタルデータに変換する工程と、前記被成膜対象物の整数倍の周期で平均化する工程と、平均化した前記デジタルデータが所定の値に達したときに成膜を停止する工程とを備えていることを特徴とする。
【0008】
この成膜装置及び成膜方法は、光学特性値をデジタル変換後に平均化するので、膜厚測定の際に、被成膜対象物が回転する際の回転の偏心に伴うような、大きく、低周波の信号ノイズ成分を少なくすることができる。
【0009】
また、本発明に係る成膜装置は、前記成膜装置であって、前記被成膜対象物の回転速度を検出する測定部を備えていることを特徴とする。
この成膜装置は、実際に回転している被成膜対象物の回転速度を検出するので、演算部での平均化の際に、より正確に平均化することができ、信号ノイズ成分をより低減することができる。
【0010】
本発明に係る成膜装置は、成膜室内に配設された被成膜対象物と、該被成膜対象物を回転させて前記被成膜対象物上に薄膜を成膜する成膜手段と、前記被成膜対象物及び前記薄膜の光学特性値から前記薄膜の膜厚を検出する膜厚測定手段とを備える成膜装置であって、前記光学特性値をデジタルデータに変換するA/D変換部と、前記デジタルデータを一時的に保持する記憶部と、該記憶部に保持された前記被成膜対象物のデジタルデータを用いて、その後に検出した前記デジタルデータを補正する補正演算部とを備えていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る成膜方法は、成膜室内に配設された被成膜対象物を回転させて前記被成膜対象物上に薄膜を成膜し、膜厚測定手段によって前記被成膜対象物及び前記薄膜の光学特性値から前記膜厚を検出する成膜方法であって、前記光学特性値を電圧データとして検出する工程と、前記電圧データをデジタルデータに変換する工程と、前記デジタルデータを成膜前の前記被成膜対象物のデジタルデータによって補正する工程と、補正した前記デジタルデータが所定の値に達したときに成膜を停止する工程とを備えていることを特徴とする。
【0012】
この成膜装置及び成膜方法は、成膜後の被成膜対象物の光学特性値を成膜前の被成膜対象物の光学特性値に基づき補正するので、膜厚に関して得られたデータから被成膜対象物の回転の偏心に基づく信号ノイズ成分のみを好適に取り除くことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、薄膜の膜厚測定精度を向上させ、所望の透過光量、或いは、反射光量等の分光特性を有するフィルタ等の光学薄膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係る第1の実施形態について、図1から図7を参照して説明する。
本実施形態に係る成膜装置1は、図1から図3に示すように、真空槽(成膜室)2内に同心円状に複数(図示例では8個)配設された光学ガラス平板からなる基板(被成膜対象物)3と、基板3の中心位置に配設されたモニタガラス(被成膜対象物)5と、基板3とモニタガラス5とに薄膜を形成する成膜手段6と、モニタガラス5及びモニタガラス5上に成膜される薄膜の光学特性値から成膜された薄膜の膜厚を検出する膜厚測定機構(膜厚測定手段)7と、この膜厚測定機構7によって得られた薄膜の膜厚に関するデータに基づいて成膜プロセス全体を制御する制御部8とを備えている。
【0015】
成膜手段6は、基板3とモニタガラス5とを保持し、真空槽2内の上方側で水平状態で回転操作される円盤状の保持部材10と、基板3に対向する同一平面上の同一円周上位置にそれぞれ配設された第1の成膜材料11及び第2の成膜材料12とを備えている。
保持部材10は、基板3及びモニタガラス5を固定するヤトイ13と、このヤトイ13を保持して各成膜材料11、12が配設されている平面と平行な位置に配設される回転板15とを備えている。
モニタガラス5は、基板3と同じ光学ガラス平板で構成され、基板3上にそれぞれ成膜される第1の成膜材料11と第2の成膜材料12とにより同様の条件で成膜されるようになっている。
【0016】
回転板15は、この回転板15に一体に取り付けられた中空の回転軸Rの外周に設けた外歯車(図示略)を介して、基板3が各成膜材料11、12の直上を通過できるように中心軸Cまわりに回転させる回転モータ16と連結した歯車16aに接続されている。各基板3は、図1に示すように、回転板15の中心軸Cから等距離離れた同一円周上にほぼ等間隔に配設されている。
【0017】
回転軸Rの一部には、切り欠き(図示略)が設けられ、回転軸Rの回転に伴い切り欠きが通過する毎に通過の信号を出力信号として出力するセンサ(図示略)を有して基板3の回転速度を検出するセンサ回路(測定部)17が、回転軸Rと対向する位置に配設されている。
回転モータ16は、真空槽2の上部に貫通した回転軸Rを回転させる歯車16aと、これと連結するモータロッド16bとを有しており、回転板15は回転軸Rの下端に水平状態に固定されている。
この回転モータ16によって、各基板3は各成膜材料11、12上を回転通過するようになっている。
【0018】
基板3と各成膜材料11、12との間には、加熱機構(図示略)を有する蒸発装置等の周知の手段によって加熱されてベーパ状態となって放出される各成膜材料11、12が基板3及びモニタガラス5への到達するのを制御するシャッター18a、18bが備えられている。
シャッター18a、18bは、シャッター用モータ20a、20bによって所定の速度で回転駆動される回転軸SCに接続されており、シャッター18a、18bがこの回転軸SCまわりに回転することによって、基板3と各成膜材料11、12との間及びモニタガラス5と各成膜材料11、12との間を開放・閉鎖するようになっている。
【0019】
膜厚測定機構7は、真空槽2の下方側からモニタガラス5へ光を照射する投光ユニット21と、モニタガラス5を透過した投光ユニット21からの光を受光する受光ユニット22とを備えている。
投光ユニット21は、ハロゲン光源で構成される光源21Aと、この光源21Aに接続された光ファイバ21Bを介して伝送された光をモニタガラス5に鉛直下方から照射するコリメートレンズ等の出射端光学系21Cとを備えている。
出射端光学系21Cは、直上にモニタガラス5が配置されるように真空槽2の底部に配されている。
【0020】
受光ユニット22は、回転板15を挟んで出射端光学系21Cに対向して設けられた集光レンズ等の入射端光学系22Aと、この入射端光学系22Aに接続された光ファイバ22Bを介して伝送された光の中から設定された波長の光のみを検出して光量を測定する受光部22Cとを備えている。
受光部22Cは、モノクロメータとフォトダイオード等の受光素子とを備えており、基板3及び基板3上に成膜された薄膜の透過光量に応じた電圧データを膜厚に相当するものとして制御部8に伝送するものとされている。
【0021】
入射端光学系22Aは、中空の回転軸Rの内部にその一部が挿入され、回転軸Rの回転に従属して回転しないように、その上部側で真空槽2の外壁に固定されている。
また、入射端光学系22Aは、出射端光学系21Cに対向する位置となる真空槽2の上部に固定されて配設されている。
なお、入射端光学系22Aと出射端光学系21Cとの各光軸は、回転板15の中心軸Cに略一致する位置が望ましい。
これらにより、受光ユニット22にて測定される投光ユニット21からの波長λの測定光による測定光量は、モニタガラス5に成膜される膜厚が波長の1/4の整数倍のときにピークを有する正弦関数となって測定される。
【0022】
制御部8は、受光部22Cから伝送された電圧データをデジタルデータに変換して出力するA/D変換回路(A/D変換部)23と、得られたデジタルデータを基板3の回転周期に対応して平均化する平均化回路(演算部)25と、予めシミュレーションで求められた成膜を停止する条件値として入力される条件設定値と平均化回路25から出力されるデジタルデータとの比較を行い、予め設定した範囲で一致したときに一致信号を出力する比較演算器26と、比較演算器26から出力された一致信号によってシャッター18a、18bを動作させる成膜制御部27とを備えている。
【0023】
平均化回路25は、入力されたデジタルデータを設定された時間で平均し、デジタルデータとして出力する回路である。この平均化回路25では、回転板15の回転周期としてセンサ回路17から出力される出力信号が入力されることによって時間設定を行っている。
条件設定値は、モニタガラス5に成膜される薄膜の膜厚が所望の膜厚に達したときに得られる透過率の値と、モニタガラス5上に成膜中の薄膜の透過率が増加状態か減少状態かの増減判断用デジタルデータと、透過率が経過したピーク数に相当するデジタルデータ等の値である。
【0024】
比較演算器26は、平均化回路25から出力されるところの現在測定している透過光量に相当するデジタルデータに基づいて透過率を演算し、この演算によって求められた透過率と条件設定値に入力されている透過率との比較を行う。また、現在測定している透過率のデータと前の透過率のデータとを比較し、透過率が減少状態であるか増加状態であるかの増減判断と、透過率が経過したピーク数の演算とを行い、条件設定値に入力されているデジタルデータとの比較を行う。そして、増減判断とピーク数とが予め設定された範囲で一致したときに一致信号を出力する。
【0025】
成膜制御部27は、シャッター用モータ20a、20bの回転制御を行い、シャッター18a、18bの開閉操作を制御して、基板3への成膜動作を開始又は終了させるようになっている。
真空槽2の外部には、真空槽2内を低圧にするための粗引きポンプ28と、高真空ポンプ30と、真空槽2内の真空度をモニタする真空計31とが配されている。
【0026】
次に、以上の構成からなる本実施形態に係る成膜装置1によって第1の成膜材料11と第2の成膜材料12とからなる薄膜を形成する方法について説明する。
なお、第1の成膜材料11と第2の成膜材料12との層を交互に成膜するので、以下、第1の成膜材料11からなる薄膜を形成する方法について説明する。
本実施形態に係る成膜装置1による成膜方法は、図4に示すように、モニタガラス5の透過率を電圧データとして検出する工程(S01)と、得られた電圧データをデジタルデータに変換する工程(S02)と、回転板15の回転周期で透過率を平均化する工程(S03)と、平均化した透過率のデジタルデータが所定の値に達したときに成膜を停止する工程(S04)とを備えている。
【0027】
まず、成膜装置1によって、基板3に薄膜を形成するのに先立ち、成膜を停止させる条件を条件設定値に設定する。停止させる条件としては、目標の透過率として図5に示すようにP3%を設定する。また、透過率の増減状態は、増加状態及び透過率のピーク経過数1(図5において、線図の最下点位置(Ts)の経過の数)を条件設定値に設定する。
【0028】
次に、電圧データとして検出する工程(S01)を行う。
回転モータ16を駆動してモニタガラス5のみが配された回転板15を、例えば、毎分100回転させ、成膜が開始される前の状態でモニタガラス5の透過光量を測定する。
この状態で光源21Aを作動して、光源21Aから発せられた測定光を光ファイバ21Bを介してモニタガラス5に照射する。モニタガラス5を通過した光は、受光ユニット22により受光されて透過光量に応じた電圧データとして出力される。
【0029】
そして、デジタルデータに変換する工程(S02)に移行して、電圧データをA/D変換回路23でデジタルデータに変換し、続いて平均化する工程(S03)として、平均化回路25にて、回転板15の1回転の回転時間である1/100分の周期に合わせて平均化した透過光量として出力する。
ここで、平均化された透過光量は、モニタガラス5の透過光量を電圧に変換して得た電圧データ(do)を、モニタガラス5を置かない状態で測定した透過光量を電圧に変換した電圧データ(ds)で除算(do/ds)した透過率として計算する。こうして得られた成膜前の時間T0からT1までの透過率はP1%となる。
【0030】
次に、薄膜を形成させるため、成膜準備として所定の屈折率(例えば1.52)を有する各基板3をヤトイ13にセットし、真空計31にて所定の圧力(例えば、7×10−5Pa)まで真空槽2内を粗引きポンプ28及び高真空ポンプ30で排気する。このとき、各シャッター18a、18bは閉じた状態とする。
そして、回転モータ16を駆動して、上述のようにモニタガラス5のみの透過光量を測定したときと同じ状態で回転板15を回転させ、加熱機構(図示略)によって第1の成膜材料11を加熱する。
【0031】
成膜準備がなされた後、常時は閉鎖状態とされたシャッター18a、18bのうち、まずシャッター18aを開けることによって、第1の成膜材料11を基板3とモニタガラス5とに成膜する。この間のモニタガラス5の透過率を膜厚測定機構7にて測定する。この開始時間が、図5に示す時間T1のときである。
そして、上述と同様に、電圧データとして検出する工程(S01)に移行して透過率を電圧データに変換する。
【0032】
電圧データに変換された透過率は、上述と同様に、さらに工程(S02)、(S03)とを経て平均化される。
この平均化されたデジタルデータと、予め設定された透過率に対応した電圧値である条件設定値とが比較演算器26において比較される。この状態が、図5に示す時間T1からT2まで繰り返される。
【0033】
さらに、成膜時間が経過すると成膜が進行し、モニタガラス5の透過率が変化して、図5に示すように、時間T2の時点で透過率が条件設定値に設定した条件である透過率P3%となる。
このとき、次の工程(S04)に移行して比較演算器26から成膜制御部27に一致信号が出力される。この一致信号を受信した成膜制御部27は、シャッター18aを閉じてシャッター18a、18bをともに閉鎖位置とし、基板3及びモニタガラス5への成膜を終了する。
【0034】
ここで、本実施形態に係る成膜装置1によって成膜した際の薄膜の透過率変化を図6に示す。成膜開始から終了に至る間、透過率の変動が抑えられているのがわかる。
一方、平均化回路25を動作させなかった場合を図7に示す。この場合、モニタガラス5の回転によって生じるノイズ成分の影響が除去されないために時間T2のときの透過率が変動し、測定精度が悪化しているのがわかる。
【0035】
この成膜装置1及び成膜方法によれば、モニタガラス5の透過率をデジタル変換後にさらに平均化するので、薄膜の透過率に対して、回転板15が回転する際の回転の偏心に伴うような、大きく、低周波の信号ノイズ成分を少なくすることができる。
この際、実際に回転している回転板15の回転速度を検出するので、平均化回路25での平均化の際に、より正確に平均化することができ、信号ノイズ成分をより低減することができる。
【0036】
次に、第2の実施形態について図8から図11を参照しながら説明する。
なお、上述した第1の実施形態と同様の構成要素には同一符号を付すとともに説明を省略する。
第2の実施形態と第1の実施形態との異なる点は、第1の実施形態では、成膜装置1が制御部8内に平均化回路25を備えていたが、本実施形態に係る成膜装置40は、図8に示すように、制御部41内に、デジタルデータを一時的に保持するメモリ回路(記憶部)42と、メモリ回路42に保持されたモニタガラス5のデジタルデータを用いて、検出した成膜中のデジタルデータを補正する演算回路(補正演算部)43とを備えているとした点である。
また、回転板15の回転毎に同期信号を出力する同期信号発生回路45が配されている。
【0037】
メモリ回路42は、A/D変換回路46のデジタルデータを記憶する動作と、記憶したデジタルデータを演算回路43に出力する動作を行う。この記憶する動作と記憶したデジタルデータを出力する動作の切替は、成膜制御部47の出力信号によって行われる。
演算回路43は、A/D変換回路46のデジタルデータをメモリ回路42から出力されるデジタルデータで補正演算して比較演算器26へ出力する。この演算回路43は、例えば、除算演算回路で構成される。
【0038】
A/D変換回路46のA/D変換で使用されるサンプリングパルスと、メモリ回路42の書き込み動作に使用される書き込みパルスと、演算回路43の演算動作に使用される同期パルスとは、同期信号発生回路45から入力される。
同期信号発生回路45には、モニタガラス5を保持する回転板15の回転毎に信号が出力されるセンサ回路17が接続されている。
【0039】
次に、以上の構成からなる本実施形態に係る成膜装置40による第1の成膜材料11と第2の成膜材料12とからなる薄膜を形成する方法について説明する。
なお、第1の成膜材料11と第2の成膜材料12との層を交互に成膜するので、以下、第1の成膜材料11からなる薄膜を形成する方法について説明する。
【0040】
本実施形態に係る成膜方法は、図9に示すように、モニタガラス5の透過率を電圧データとして検出する工程(S11)と、得られた電圧データをデジタルデータに変換する工程(S12)と、得られたデジタルデータを成膜前のモニタガラス5のデジタルデータによって補正する工程(S13)と、平均化した透過率のデジタルデータが所定の値に達したときに成膜を停止する工程(S14)とを備えている。
【0041】
本実施形態に係る成膜方法においても、第1の実施形態に係る工程(S01、S02)と同様に、モニタガラス5のみに対して工程(S11、S12)を行う。
このとき、メモリ回路42は成膜制御部47の出力信号によって記憶動作状態とされており、図10に示す時間Tm1からTm2までに相当するモニタガラス5の透過光量の回転板15の1回転分に相当するデジタルデータをメモリ回路42に保存する。
【0042】
次に、第1の実施形態と同様に成膜作業を行う。
この間、補正する工程(S13)として、メモリ回路42は成膜制御部47の出力信号によって記憶されたデータを出力する状態とされる。
このメモリ回路42の出力データを用いて、A/D変換回路46の出力データを演算回路43で補正演算処理し、回転板15の偏心等に伴う信号ノイズ成分が取り除かれた補正されたデータが出力される。
【0043】
このデータに対して第1の実施形態と同様に比較演算器26において時間T1からT2までの間繰り返し比較演算される。
そして、成膜時間が経過するとともに成膜が進行して、基板3及びモニタガラス5の透過率が変化し、図11に示すように、時間T2になったときに透過率P2となって条件設定値に設定した条件となる。
この状態のとき、比較演算器26から成膜制御部47に一致信号を出力し、シャッター18aを閉じてシャッター18a、18bを閉鎖位置として、成膜手段6によるモニタガラス5及び各基板3への成膜を終了する。
【0044】
この成膜装置40及び成膜方法によれば、成膜後のモニタガラス5の光学特性値を成膜前のモニタガラス5の光学特性値に基づき補正するので、膜厚に関して得られたデータからモニタガラス5及び基板3の回転の偏心に基づく信号ノイズ成分のみを好適に取り除くことができ、測定精度を向上することができる。
【0045】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、受光ユニット22の出力信号をA/D変換回路46へ出力し、デジタルデータに変換することによって、全てソフトウエア処理で実施することにしても構わない。
【0046】
また、被成膜対象物としてモニタガラス5を使用して透過率の測定を行っているが、基板3を直接測定しても構わない。
さらに、投光ユニット21と受光ユニット22との位置を調整して、透過率によって膜厚測定機構7の制御を行っているが、透過率、反射率、反射光量、及び、透過光量の少なくとも一つによって膜厚測定機構の制御を行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る成膜装置の基板及びモニタガラスの配置を示す平面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る成膜装置の制御部の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る成膜装置の成膜方法を示すフロー図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る成膜装置によって第1の成膜材料の1つの層の成膜開始から成膜終了までの時間と薄膜の透過率との関係をシミュレーションにより示すグラフである。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る成膜装置によって成膜したときの透過率の変化を示すグラフである。
【図7】本発明の第1の実施形態に係る成膜装置の比較例として、平均化回路を動作させない場合の透過率の変化を示すグラフである。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る成膜装置の制御部の構成を示すブロック図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る成膜装置の成膜方法を示すフロー図である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る成膜装置の成膜前におけるモニタガラスの透過率を示すグラフである。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る成膜装置において補正演算後の透過率の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0048】
1、40 成膜装置
2 真空槽(成膜室)
3 基板(被成膜対象物)
5 モニタガラス(被成膜対象物)
6 成膜手段
7 膜厚測定機構(膜厚測定手段)
17 センサ回路(測定部)
23、46 A/D変換回路(A/D変換部)
25 平均化回路(演算部)
42 メモリ回路(記憶部)
43 演算回路(補正演算部)
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラ、顕微鏡等の光学機器には、反射防止膜や干渉フィルタ等の光学薄膜が多数用いられている。一般に波長λにおける透過率または反射率が、光学薄膜の膜厚がλ/4の整数倍のときに、極大値または極小値となる正弦関数となることが知られている。したがって、波長λの光をモニタに入射し、モニタを透過した光の透過率を成膜中に測定する。これにより、所望の膜厚に相当する透過率になったとき成膜を停止すれば、所望の膜厚の薄膜を成膜することができる。
【0003】
上記のような光学薄膜を、蒸着法やイオンプレーティング法等の成膜方法で、被成膜対象物を回転させながらその表面に薄膜を形成する成膜装置と、被成膜対象物上に成膜された薄膜の膜厚を光学的に測定する膜厚測定装置とを備える薄膜形成装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
この薄膜形成装置は、回転する被成膜対象物上に形成される薄膜に光を照射する光照射光学系と、この光照射光学系を通じて照射された光が薄膜を透過又は反射して生じた信号光を受光して外部に導く受光光学系とを備えており、受光光学系の焦点位置が光軸上において薄膜からずれた位置に配された受光光学系の受光レンズで受光した信号光を外部に導くことによって、被成膜対象物の回転に伴って発生した変動に起因する信号光のノイズ成分を少なくして測定し、膜厚測定精度を向上させている。
【特許文献1】特開2002−115055号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の成膜装置及び成膜方法では、被成膜対象物の回転に伴って発生する微小で高周波の変動に起因する信号光のノイズ成分(以下、信号ノイズ成分という。)は少なくできるが、被成膜対象物の回転の偏心に伴う、大きく低周波の信号ノイズ成分を少なくすることができず、正確な分光特性を有する光学薄膜を得ることが困難である。
本発明は上記事情に鑑みて成されたものであり、光学薄膜の膜厚測定精度を向上させることができる成膜装置及び成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
本発明に係る成膜装置は、成膜室内に配設された被成膜対象物と、該被成膜対象物を回転させて前記被成膜対象物上に薄膜を成膜する成膜手段と、前記被成膜対象物及び前記薄膜の光学特性値から前記薄膜の膜厚を検出する膜厚測定手段とを備える成膜装置であって、検出した前記光学特性値をデジタルデータに変換するA/D変換部と、前記デジタルデータを前記被成膜対象物の回転周期に対応して平均化する演算部とを備えていることを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る成膜方法は、成膜室内に配設された被成膜対象物を回転させて前記被成膜対象物上に薄膜を成膜し、膜厚測定手段によって前記被成膜対象物及び前記薄膜の光学特性値から前記膜厚を検出する成膜方法であって、前記光学特性値を電圧データとして検出する工程と、前記電圧データをデジタルデータに変換する工程と、前記被成膜対象物の整数倍の周期で平均化する工程と、平均化した前記デジタルデータが所定の値に達したときに成膜を停止する工程とを備えていることを特徴とする。
【0008】
この成膜装置及び成膜方法は、光学特性値をデジタル変換後に平均化するので、膜厚測定の際に、被成膜対象物が回転する際の回転の偏心に伴うような、大きく、低周波の信号ノイズ成分を少なくすることができる。
【0009】
また、本発明に係る成膜装置は、前記成膜装置であって、前記被成膜対象物の回転速度を検出する測定部を備えていることを特徴とする。
この成膜装置は、実際に回転している被成膜対象物の回転速度を検出するので、演算部での平均化の際に、より正確に平均化することができ、信号ノイズ成分をより低減することができる。
【0010】
本発明に係る成膜装置は、成膜室内に配設された被成膜対象物と、該被成膜対象物を回転させて前記被成膜対象物上に薄膜を成膜する成膜手段と、前記被成膜対象物及び前記薄膜の光学特性値から前記薄膜の膜厚を検出する膜厚測定手段とを備える成膜装置であって、前記光学特性値をデジタルデータに変換するA/D変換部と、前記デジタルデータを一時的に保持する記憶部と、該記憶部に保持された前記被成膜対象物のデジタルデータを用いて、その後に検出した前記デジタルデータを補正する補正演算部とを備えていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る成膜方法は、成膜室内に配設された被成膜対象物を回転させて前記被成膜対象物上に薄膜を成膜し、膜厚測定手段によって前記被成膜対象物及び前記薄膜の光学特性値から前記膜厚を検出する成膜方法であって、前記光学特性値を電圧データとして検出する工程と、前記電圧データをデジタルデータに変換する工程と、前記デジタルデータを成膜前の前記被成膜対象物のデジタルデータによって補正する工程と、補正した前記デジタルデータが所定の値に達したときに成膜を停止する工程とを備えていることを特徴とする。
【0012】
この成膜装置及び成膜方法は、成膜後の被成膜対象物の光学特性値を成膜前の被成膜対象物の光学特性値に基づき補正するので、膜厚に関して得られたデータから被成膜対象物の回転の偏心に基づく信号ノイズ成分のみを好適に取り除くことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、薄膜の膜厚測定精度を向上させ、所望の透過光量、或いは、反射光量等の分光特性を有するフィルタ等の光学薄膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係る第1の実施形態について、図1から図7を参照して説明する。
本実施形態に係る成膜装置1は、図1から図3に示すように、真空槽(成膜室)2内に同心円状に複数(図示例では8個)配設された光学ガラス平板からなる基板(被成膜対象物)3と、基板3の中心位置に配設されたモニタガラス(被成膜対象物)5と、基板3とモニタガラス5とに薄膜を形成する成膜手段6と、モニタガラス5及びモニタガラス5上に成膜される薄膜の光学特性値から成膜された薄膜の膜厚を検出する膜厚測定機構(膜厚測定手段)7と、この膜厚測定機構7によって得られた薄膜の膜厚に関するデータに基づいて成膜プロセス全体を制御する制御部8とを備えている。
【0015】
成膜手段6は、基板3とモニタガラス5とを保持し、真空槽2内の上方側で水平状態で回転操作される円盤状の保持部材10と、基板3に対向する同一平面上の同一円周上位置にそれぞれ配設された第1の成膜材料11及び第2の成膜材料12とを備えている。
保持部材10は、基板3及びモニタガラス5を固定するヤトイ13と、このヤトイ13を保持して各成膜材料11、12が配設されている平面と平行な位置に配設される回転板15とを備えている。
モニタガラス5は、基板3と同じ光学ガラス平板で構成され、基板3上にそれぞれ成膜される第1の成膜材料11と第2の成膜材料12とにより同様の条件で成膜されるようになっている。
【0016】
回転板15は、この回転板15に一体に取り付けられた中空の回転軸Rの外周に設けた外歯車(図示略)を介して、基板3が各成膜材料11、12の直上を通過できるように中心軸Cまわりに回転させる回転モータ16と連結した歯車16aに接続されている。各基板3は、図1に示すように、回転板15の中心軸Cから等距離離れた同一円周上にほぼ等間隔に配設されている。
【0017】
回転軸Rの一部には、切り欠き(図示略)が設けられ、回転軸Rの回転に伴い切り欠きが通過する毎に通過の信号を出力信号として出力するセンサ(図示略)を有して基板3の回転速度を検出するセンサ回路(測定部)17が、回転軸Rと対向する位置に配設されている。
回転モータ16は、真空槽2の上部に貫通した回転軸Rを回転させる歯車16aと、これと連結するモータロッド16bとを有しており、回転板15は回転軸Rの下端に水平状態に固定されている。
この回転モータ16によって、各基板3は各成膜材料11、12上を回転通過するようになっている。
【0018】
基板3と各成膜材料11、12との間には、加熱機構(図示略)を有する蒸発装置等の周知の手段によって加熱されてベーパ状態となって放出される各成膜材料11、12が基板3及びモニタガラス5への到達するのを制御するシャッター18a、18bが備えられている。
シャッター18a、18bは、シャッター用モータ20a、20bによって所定の速度で回転駆動される回転軸SCに接続されており、シャッター18a、18bがこの回転軸SCまわりに回転することによって、基板3と各成膜材料11、12との間及びモニタガラス5と各成膜材料11、12との間を開放・閉鎖するようになっている。
【0019】
膜厚測定機構7は、真空槽2の下方側からモニタガラス5へ光を照射する投光ユニット21と、モニタガラス5を透過した投光ユニット21からの光を受光する受光ユニット22とを備えている。
投光ユニット21は、ハロゲン光源で構成される光源21Aと、この光源21Aに接続された光ファイバ21Bを介して伝送された光をモニタガラス5に鉛直下方から照射するコリメートレンズ等の出射端光学系21Cとを備えている。
出射端光学系21Cは、直上にモニタガラス5が配置されるように真空槽2の底部に配されている。
【0020】
受光ユニット22は、回転板15を挟んで出射端光学系21Cに対向して設けられた集光レンズ等の入射端光学系22Aと、この入射端光学系22Aに接続された光ファイバ22Bを介して伝送された光の中から設定された波長の光のみを検出して光量を測定する受光部22Cとを備えている。
受光部22Cは、モノクロメータとフォトダイオード等の受光素子とを備えており、基板3及び基板3上に成膜された薄膜の透過光量に応じた電圧データを膜厚に相当するものとして制御部8に伝送するものとされている。
【0021】
入射端光学系22Aは、中空の回転軸Rの内部にその一部が挿入され、回転軸Rの回転に従属して回転しないように、その上部側で真空槽2の外壁に固定されている。
また、入射端光学系22Aは、出射端光学系21Cに対向する位置となる真空槽2の上部に固定されて配設されている。
なお、入射端光学系22Aと出射端光学系21Cとの各光軸は、回転板15の中心軸Cに略一致する位置が望ましい。
これらにより、受光ユニット22にて測定される投光ユニット21からの波長λの測定光による測定光量は、モニタガラス5に成膜される膜厚が波長の1/4の整数倍のときにピークを有する正弦関数となって測定される。
【0022】
制御部8は、受光部22Cから伝送された電圧データをデジタルデータに変換して出力するA/D変換回路(A/D変換部)23と、得られたデジタルデータを基板3の回転周期に対応して平均化する平均化回路(演算部)25と、予めシミュレーションで求められた成膜を停止する条件値として入力される条件設定値と平均化回路25から出力されるデジタルデータとの比較を行い、予め設定した範囲で一致したときに一致信号を出力する比較演算器26と、比較演算器26から出力された一致信号によってシャッター18a、18bを動作させる成膜制御部27とを備えている。
【0023】
平均化回路25は、入力されたデジタルデータを設定された時間で平均し、デジタルデータとして出力する回路である。この平均化回路25では、回転板15の回転周期としてセンサ回路17から出力される出力信号が入力されることによって時間設定を行っている。
条件設定値は、モニタガラス5に成膜される薄膜の膜厚が所望の膜厚に達したときに得られる透過率の値と、モニタガラス5上に成膜中の薄膜の透過率が増加状態か減少状態かの増減判断用デジタルデータと、透過率が経過したピーク数に相当するデジタルデータ等の値である。
【0024】
比較演算器26は、平均化回路25から出力されるところの現在測定している透過光量に相当するデジタルデータに基づいて透過率を演算し、この演算によって求められた透過率と条件設定値に入力されている透過率との比較を行う。また、現在測定している透過率のデータと前の透過率のデータとを比較し、透過率が減少状態であるか増加状態であるかの増減判断と、透過率が経過したピーク数の演算とを行い、条件設定値に入力されているデジタルデータとの比較を行う。そして、増減判断とピーク数とが予め設定された範囲で一致したときに一致信号を出力する。
【0025】
成膜制御部27は、シャッター用モータ20a、20bの回転制御を行い、シャッター18a、18bの開閉操作を制御して、基板3への成膜動作を開始又は終了させるようになっている。
真空槽2の外部には、真空槽2内を低圧にするための粗引きポンプ28と、高真空ポンプ30と、真空槽2内の真空度をモニタする真空計31とが配されている。
【0026】
次に、以上の構成からなる本実施形態に係る成膜装置1によって第1の成膜材料11と第2の成膜材料12とからなる薄膜を形成する方法について説明する。
なお、第1の成膜材料11と第2の成膜材料12との層を交互に成膜するので、以下、第1の成膜材料11からなる薄膜を形成する方法について説明する。
本実施形態に係る成膜装置1による成膜方法は、図4に示すように、モニタガラス5の透過率を電圧データとして検出する工程(S01)と、得られた電圧データをデジタルデータに変換する工程(S02)と、回転板15の回転周期で透過率を平均化する工程(S03)と、平均化した透過率のデジタルデータが所定の値に達したときに成膜を停止する工程(S04)とを備えている。
【0027】
まず、成膜装置1によって、基板3に薄膜を形成するのに先立ち、成膜を停止させる条件を条件設定値に設定する。停止させる条件としては、目標の透過率として図5に示すようにP3%を設定する。また、透過率の増減状態は、増加状態及び透過率のピーク経過数1(図5において、線図の最下点位置(Ts)の経過の数)を条件設定値に設定する。
【0028】
次に、電圧データとして検出する工程(S01)を行う。
回転モータ16を駆動してモニタガラス5のみが配された回転板15を、例えば、毎分100回転させ、成膜が開始される前の状態でモニタガラス5の透過光量を測定する。
この状態で光源21Aを作動して、光源21Aから発せられた測定光を光ファイバ21Bを介してモニタガラス5に照射する。モニタガラス5を通過した光は、受光ユニット22により受光されて透過光量に応じた電圧データとして出力される。
【0029】
そして、デジタルデータに変換する工程(S02)に移行して、電圧データをA/D変換回路23でデジタルデータに変換し、続いて平均化する工程(S03)として、平均化回路25にて、回転板15の1回転の回転時間である1/100分の周期に合わせて平均化した透過光量として出力する。
ここで、平均化された透過光量は、モニタガラス5の透過光量を電圧に変換して得た電圧データ(do)を、モニタガラス5を置かない状態で測定した透過光量を電圧に変換した電圧データ(ds)で除算(do/ds)した透過率として計算する。こうして得られた成膜前の時間T0からT1までの透過率はP1%となる。
【0030】
次に、薄膜を形成させるため、成膜準備として所定の屈折率(例えば1.52)を有する各基板3をヤトイ13にセットし、真空計31にて所定の圧力(例えば、7×10−5Pa)まで真空槽2内を粗引きポンプ28及び高真空ポンプ30で排気する。このとき、各シャッター18a、18bは閉じた状態とする。
そして、回転モータ16を駆動して、上述のようにモニタガラス5のみの透過光量を測定したときと同じ状態で回転板15を回転させ、加熱機構(図示略)によって第1の成膜材料11を加熱する。
【0031】
成膜準備がなされた後、常時は閉鎖状態とされたシャッター18a、18bのうち、まずシャッター18aを開けることによって、第1の成膜材料11を基板3とモニタガラス5とに成膜する。この間のモニタガラス5の透過率を膜厚測定機構7にて測定する。この開始時間が、図5に示す時間T1のときである。
そして、上述と同様に、電圧データとして検出する工程(S01)に移行して透過率を電圧データに変換する。
【0032】
電圧データに変換された透過率は、上述と同様に、さらに工程(S02)、(S03)とを経て平均化される。
この平均化されたデジタルデータと、予め設定された透過率に対応した電圧値である条件設定値とが比較演算器26において比較される。この状態が、図5に示す時間T1からT2まで繰り返される。
【0033】
さらに、成膜時間が経過すると成膜が進行し、モニタガラス5の透過率が変化して、図5に示すように、時間T2の時点で透過率が条件設定値に設定した条件である透過率P3%となる。
このとき、次の工程(S04)に移行して比較演算器26から成膜制御部27に一致信号が出力される。この一致信号を受信した成膜制御部27は、シャッター18aを閉じてシャッター18a、18bをともに閉鎖位置とし、基板3及びモニタガラス5への成膜を終了する。
【0034】
ここで、本実施形態に係る成膜装置1によって成膜した際の薄膜の透過率変化を図6に示す。成膜開始から終了に至る間、透過率の変動が抑えられているのがわかる。
一方、平均化回路25を動作させなかった場合を図7に示す。この場合、モニタガラス5の回転によって生じるノイズ成分の影響が除去されないために時間T2のときの透過率が変動し、測定精度が悪化しているのがわかる。
【0035】
この成膜装置1及び成膜方法によれば、モニタガラス5の透過率をデジタル変換後にさらに平均化するので、薄膜の透過率に対して、回転板15が回転する際の回転の偏心に伴うような、大きく、低周波の信号ノイズ成分を少なくすることができる。
この際、実際に回転している回転板15の回転速度を検出するので、平均化回路25での平均化の際に、より正確に平均化することができ、信号ノイズ成分をより低減することができる。
【0036】
次に、第2の実施形態について図8から図11を参照しながら説明する。
なお、上述した第1の実施形態と同様の構成要素には同一符号を付すとともに説明を省略する。
第2の実施形態と第1の実施形態との異なる点は、第1の実施形態では、成膜装置1が制御部8内に平均化回路25を備えていたが、本実施形態に係る成膜装置40は、図8に示すように、制御部41内に、デジタルデータを一時的に保持するメモリ回路(記憶部)42と、メモリ回路42に保持されたモニタガラス5のデジタルデータを用いて、検出した成膜中のデジタルデータを補正する演算回路(補正演算部)43とを備えているとした点である。
また、回転板15の回転毎に同期信号を出力する同期信号発生回路45が配されている。
【0037】
メモリ回路42は、A/D変換回路46のデジタルデータを記憶する動作と、記憶したデジタルデータを演算回路43に出力する動作を行う。この記憶する動作と記憶したデジタルデータを出力する動作の切替は、成膜制御部47の出力信号によって行われる。
演算回路43は、A/D変換回路46のデジタルデータをメモリ回路42から出力されるデジタルデータで補正演算して比較演算器26へ出力する。この演算回路43は、例えば、除算演算回路で構成される。
【0038】
A/D変換回路46のA/D変換で使用されるサンプリングパルスと、メモリ回路42の書き込み動作に使用される書き込みパルスと、演算回路43の演算動作に使用される同期パルスとは、同期信号発生回路45から入力される。
同期信号発生回路45には、モニタガラス5を保持する回転板15の回転毎に信号が出力されるセンサ回路17が接続されている。
【0039】
次に、以上の構成からなる本実施形態に係る成膜装置40による第1の成膜材料11と第2の成膜材料12とからなる薄膜を形成する方法について説明する。
なお、第1の成膜材料11と第2の成膜材料12との層を交互に成膜するので、以下、第1の成膜材料11からなる薄膜を形成する方法について説明する。
【0040】
本実施形態に係る成膜方法は、図9に示すように、モニタガラス5の透過率を電圧データとして検出する工程(S11)と、得られた電圧データをデジタルデータに変換する工程(S12)と、得られたデジタルデータを成膜前のモニタガラス5のデジタルデータによって補正する工程(S13)と、平均化した透過率のデジタルデータが所定の値に達したときに成膜を停止する工程(S14)とを備えている。
【0041】
本実施形態に係る成膜方法においても、第1の実施形態に係る工程(S01、S02)と同様に、モニタガラス5のみに対して工程(S11、S12)を行う。
このとき、メモリ回路42は成膜制御部47の出力信号によって記憶動作状態とされており、図10に示す時間Tm1からTm2までに相当するモニタガラス5の透過光量の回転板15の1回転分に相当するデジタルデータをメモリ回路42に保存する。
【0042】
次に、第1の実施形態と同様に成膜作業を行う。
この間、補正する工程(S13)として、メモリ回路42は成膜制御部47の出力信号によって記憶されたデータを出力する状態とされる。
このメモリ回路42の出力データを用いて、A/D変換回路46の出力データを演算回路43で補正演算処理し、回転板15の偏心等に伴う信号ノイズ成分が取り除かれた補正されたデータが出力される。
【0043】
このデータに対して第1の実施形態と同様に比較演算器26において時間T1からT2までの間繰り返し比較演算される。
そして、成膜時間が経過するとともに成膜が進行して、基板3及びモニタガラス5の透過率が変化し、図11に示すように、時間T2になったときに透過率P2となって条件設定値に設定した条件となる。
この状態のとき、比較演算器26から成膜制御部47に一致信号を出力し、シャッター18aを閉じてシャッター18a、18bを閉鎖位置として、成膜手段6によるモニタガラス5及び各基板3への成膜を終了する。
【0044】
この成膜装置40及び成膜方法によれば、成膜後のモニタガラス5の光学特性値を成膜前のモニタガラス5の光学特性値に基づき補正するので、膜厚に関して得られたデータからモニタガラス5及び基板3の回転の偏心に基づく信号ノイズ成分のみを好適に取り除くことができ、測定精度を向上することができる。
【0045】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、受光ユニット22の出力信号をA/D変換回路46へ出力し、デジタルデータに変換することによって、全てソフトウエア処理で実施することにしても構わない。
【0046】
また、被成膜対象物としてモニタガラス5を使用して透過率の測定を行っているが、基板3を直接測定しても構わない。
さらに、投光ユニット21と受光ユニット22との位置を調整して、透過率によって膜厚測定機構7の制御を行っているが、透過率、反射率、反射光量、及び、透過光量の少なくとも一つによって膜厚測定機構の制御を行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る成膜装置の基板及びモニタガラスの配置を示す平面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る成膜装置の制御部の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る成膜装置の成膜方法を示すフロー図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る成膜装置によって第1の成膜材料の1つの層の成膜開始から成膜終了までの時間と薄膜の透過率との関係をシミュレーションにより示すグラフである。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る成膜装置によって成膜したときの透過率の変化を示すグラフである。
【図7】本発明の第1の実施形態に係る成膜装置の比較例として、平均化回路を動作させない場合の透過率の変化を示すグラフである。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る成膜装置の制御部の構成を示すブロック図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る成膜装置の成膜方法を示すフロー図である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る成膜装置の成膜前におけるモニタガラスの透過率を示すグラフである。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る成膜装置において補正演算後の透過率の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0048】
1、40 成膜装置
2 真空槽(成膜室)
3 基板(被成膜対象物)
5 モニタガラス(被成膜対象物)
6 成膜手段
7 膜厚測定機構(膜厚測定手段)
17 センサ回路(測定部)
23、46 A/D変換回路(A/D変換部)
25 平均化回路(演算部)
42 メモリ回路(記憶部)
43 演算回路(補正演算部)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜室内に配設された被成膜対象物と、
該被成膜対象物を回転させて前記被成膜対象物上に薄膜を成膜する成膜手段と、
前記被成膜対象物及び前記薄膜の光学特性値から前記薄膜の膜厚を検出する膜厚測定手段とを備える成膜装置であって、
検出した前記光学特性値をデジタルデータに変換するA/D変換部と、
前記デジタルデータを前記被成膜対象物の回転周期に対応して平均化する演算部とを備えていることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記被成膜対象物の回転速度を検出する測定部を備えていることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
成膜室内に配設された被成膜対象物と、
該被成膜対象物を回転させて前記被成膜対象物上に薄膜を成膜する成膜手段と、
前記被成膜対象物及び前記薄膜の光学特性値から前記薄膜の膜厚を検出する膜厚測定手段とを備える成膜装置であって、
前記光学特性値をデジタルデータに変換するA/D変換部と、
前記デジタルデータを一時的に保持する記憶部と、
該記憶部に保持された前記被成膜対象物のデジタルデータを用いて、その後に検出した前記デジタルデータを補正する補正演算部とを備えていることを特徴とする成膜装置。
【請求項4】
成膜室内に配設された被成膜対象物を回転させて前記被成膜対象物上に薄膜を成膜し、膜厚測定手段によって前記被成膜対象物及び前記薄膜の光学特性値から前記膜厚を検出する成膜方法であって、
前記光学特性値を電圧データとして検出する工程と、
前記電圧データをデジタルデータに変換する工程と、
前記被成膜対象物の整数倍の周期で平均化する工程と、
平均化した前記デジタルデータが所定の値に達したときに成膜を停止する工程とを備えていることを特徴とする成膜方法。
【請求項5】
成膜室内に配設された被成膜対象物を回転させて前記被成膜対象物上に薄膜を成膜し、膜厚測定手段によって前記被成膜対象物及び前記薄膜の光学特性値から前記膜厚を検出する成膜方法であって、
前記光学特性値を電圧データとして検出する工程と、
前記電圧データをデジタルデータに変換する工程と、
前記デジタルデータを成膜前の前記被成膜対象物のデジタルデータによって補正する工程と、
補正した前記デジタルデータが所定の値に達したときに成膜を停止する工程とを備えていることを特徴とする成膜方法。
【請求項1】
成膜室内に配設された被成膜対象物と、
該被成膜対象物を回転させて前記被成膜対象物上に薄膜を成膜する成膜手段と、
前記被成膜対象物及び前記薄膜の光学特性値から前記薄膜の膜厚を検出する膜厚測定手段とを備える成膜装置であって、
検出した前記光学特性値をデジタルデータに変換するA/D変換部と、
前記デジタルデータを前記被成膜対象物の回転周期に対応して平均化する演算部とを備えていることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記被成膜対象物の回転速度を検出する測定部を備えていることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
成膜室内に配設された被成膜対象物と、
該被成膜対象物を回転させて前記被成膜対象物上に薄膜を成膜する成膜手段と、
前記被成膜対象物及び前記薄膜の光学特性値から前記薄膜の膜厚を検出する膜厚測定手段とを備える成膜装置であって、
前記光学特性値をデジタルデータに変換するA/D変換部と、
前記デジタルデータを一時的に保持する記憶部と、
該記憶部に保持された前記被成膜対象物のデジタルデータを用いて、その後に検出した前記デジタルデータを補正する補正演算部とを備えていることを特徴とする成膜装置。
【請求項4】
成膜室内に配設された被成膜対象物を回転させて前記被成膜対象物上に薄膜を成膜し、膜厚測定手段によって前記被成膜対象物及び前記薄膜の光学特性値から前記膜厚を検出する成膜方法であって、
前記光学特性値を電圧データとして検出する工程と、
前記電圧データをデジタルデータに変換する工程と、
前記被成膜対象物の整数倍の周期で平均化する工程と、
平均化した前記デジタルデータが所定の値に達したときに成膜を停止する工程とを備えていることを特徴とする成膜方法。
【請求項5】
成膜室内に配設された被成膜対象物を回転させて前記被成膜対象物上に薄膜を成膜し、膜厚測定手段によって前記被成膜対象物及び前記薄膜の光学特性値から前記膜厚を検出する成膜方法であって、
前記光学特性値を電圧データとして検出する工程と、
前記電圧データをデジタルデータに変換する工程と、
前記デジタルデータを成膜前の前記被成膜対象物のデジタルデータによって補正する工程と、
補正した前記デジタルデータが所定の値に達したときに成膜を停止する工程とを備えていることを特徴とする成膜方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
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【図5】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−22347(P2006−22347A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−199319(P2004−199319)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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