説明

成膜装置及び成膜方法

【課題】 低温での成膜を効率よく行うことができる成膜装置及び成膜方法を提供する。
【解決手段】 成膜装置1は、真空容器10と、被処理物11をX軸方向に搬送する搬送機構3と、被処理物11を冷却する冷却機構2と、成膜材料Maを保持する主陽極4とを有する。冷却機構2は、成膜室10b上に配置された成膜室上冷却部21と、成膜室上冷却部21の上流側に配置された上流側冷却部22と、成膜室上冷却部21の下流側に配置された下流側冷却部23とを含んで構成されている。成膜室上冷却部21は、成膜中の被処理物11を冷却する。上流側冷却部22は、被処理物11を成膜前に予め冷却する。下流側冷却部23は、成膜により温度が上昇した被処理物11を急速に冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置及び成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL(エレクトロルミネッセンス)を利用した有機ELディスプレイなどの光学デバイスを製造する際に、基板表面に透明導電膜を成膜する技術、或いは基板上に形成された有機EL層を湿気から保護する防湿膜を成膜する技術が盛んに研究されている。透明導電膜に用いる材料としては、抵抗率が小さいことなどからITOが注目されているが、他方で、ITOよりも材料を安価に入手できる酸化亜鉛(ZnO)を用いた透明導電膜の実用化が期待されている。また、防湿膜としては、例えば窒化酸化シリコン(SiON)が好適に用いられる。
【0003】
SiON膜やZnO膜は、例えばイオンプレーティング法といった物理蒸着法によって成膜可能である。しかし、有機EL層の耐熱温度上限が低い(通常は100℃以下)ため、有機EL層上にSiON膜を成膜する際に成膜温度が過度に上昇すると、有機EL層が破壊されてしまうおそれがある。また、ZnO膜の温度が高温になるとZnOが結晶化するため、ZnO膜を非晶質で成膜したい場合には成膜による温度上昇を結晶化温度以下に抑える必要がある。
【0004】
なお、成膜による温度上昇を抑える工夫として、例えば冷却板を備える成膜装置が特許文献1に開示されている。この成膜装置では、プラスチック基板の搬送域に冷却板を設置して、この冷却板によってプラスチック基板を冷却することによりプラスチック基板の温度を150℃以下に抑えつつ、プラスチック基板上にITO膜を成膜している。
【0005】
【特許文献1】特開2002−60929
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、有機ELを利用した光学デバイスを製造する際には、SiON膜やZnO膜を低温で成膜することが求められる。このため、SiON膜を成膜する際には、基板を高速で搬送しながら該基板の有機EL層上に成膜することにより基板の温度上昇を低く抑え、且つ、必要に応じてこのような工程を複数回繰り返すことによって所望の厚さのSiON膜を得ていた。また、ZnO膜を成膜する際には、成膜時のエネルギ(例えばプラズマエネルギ)を低く抑えることにより基板の温度上昇を低く抑えつつ、長時間を掛けて成膜していた。従って、これらの成膜工程に長時間を要することとなり、製造効率を抑制する一因となっていた。
【0007】
本発明は、上記した問題点を鑑みてなされたものであり、低温での成膜を効率よく行うことができる成膜装置及び成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明による成膜装置は、成膜材料を飛散させて被処理物に付着させることにより成膜を行う成膜装置であって、成膜材料を飛散させるための成膜室、及び該成膜室上に配置され所定の搬送方向に延びる搬送室を含む真空容器と、搬送室内に設けられ、被処理物を搬送方向に搬送する搬送機構と、搬送室内において搬送機構に沿って設けられ、被処理物を冷却する冷却機構とを備え、冷却機構は、成膜室上に配置された成膜室上冷却部、及び搬送方向における成膜室上冷却部の上流側に配置された上流側冷却部を含んで構成されていることを特徴とする。
【0009】
上記した成膜装置では、冷却機構が、成膜室上に配置された成膜室上冷却部に加え、更に成膜室上冷却部の上流側に配置された上流側冷却部を含んでいる。従って、被処理物の表面に成膜が開始される前に被処理物を予め冷却しておくことができるので、成膜室上にのみ冷却部が設けられる場合と比較して成膜時の温度上昇(最高到達温度)を低く抑えることができる。従って、上記した成膜装置によれば、従来のように被処理物の温度上昇を低く抑えるために成膜に長時間を掛ける必要がなくなり、低温での成膜を効率よく行うことができる。
【0010】
また、成膜装置は、上流側冷却部と成膜室上冷却部とが一体に構成されていることを特徴としてもよい。或いは、成膜装置は、上流側冷却部と成膜室上冷却部とが互いに間隔をあけて配置されていることを特徴としてもよい。
【0011】
また、成膜装置は、冷却機構が、内部を流れる冷却液によって被処理物を冷却する配管を有し、成膜室上冷却部及び上流側冷却部のうち少なくとも一つの冷却部における配管が、搬送機構に沿って二次元状に配置されるとともに、所定方向における当該冷却部の両端に偏って配置されていることを特徴としてもよい。冷却部において配管が一様に配置されると、冷却部の中央付近における冷却能力が端部付近における冷却能力よりも高くなる傾向がある。これに対して、上記した成膜装置のように配管が冷却部の両端に偏って配置されることにより、被処理物に対する冷却部の冷却能力の分布を一様にできる。
【0012】
また、成膜装置は、冷却機構が、搬送機構を挟んで上流側冷却部と対向するように配置された上流側対向冷却部を更に有することを特徴としてもよい。これにより、被処理物の表面に成膜が開始される前に被処理物をより低温まで冷却できる。
【0013】
また、成膜装置は、冷却機構が、内部を流れる冷却液によって被処理物を冷却する配管を有し、上流側冷却部の配管が、第1の方向における上流側冷却部の両端に偏って配置されており、上流側対向冷却部の配管が、第1の方向と交差する第2の方向における上流側対向冷却部の両端に偏って配置されていることを特徴としてもよい。これにより、被処理物に対する冷却能力の分布を更に一様にできる。
【0014】
また、成膜装置は、冷却機構が、搬送方向における成膜室上冷却部の下流側に配置された下流側冷却部を更に含むことを特徴としてもよい。これにより、成膜後の被処理物の温度をより早く下げることができるので、成膜後の膜や被処理物に対する温度上昇による影響を更に抑制できる。
【0015】
また、本発明による成膜方法は、被処理物を所定の搬送方向に搬送しつつ、成膜材料を飛散させて被処理物に成膜材料を付着させることにより成膜を行う成膜方法であって、被処理物に対して成膜が開始される前に、被処理物を搬送方向に搬送しつつ被処理物を冷却する予備冷却工程と、被処理物を冷却しつつ被処理物に対して成膜を行う成膜工程とを備えることを特徴とする。
【0016】
上記した成膜方法では、成膜工程における成膜中の冷却に加え、更に予備冷却工程において成膜開始前に被処理物を予め冷却しているので、成膜中にのみ被処理物を冷却する場合と比較して成膜時の温度上昇(最高到達温度)を低く抑えることができる。従って、上記した成膜方法によれば、従来のように被処理物の温度上昇を低く抑えるために成膜に長時間を掛ける必要がなくなり、低温での成膜を効率よく行うことができる。
【0017】
また、成膜方法は、予備冷却工程の際に、零度よりも低い凝固点を有する冷却液を用い、被処理物の温度が零度以下となるように被処理物を冷却することを特徴としてもよい。これにより、冷却液として例えば水を用いる場合と比較して、成膜開始前に被処理物をより低温に冷却できるので、成膜時の温度上昇を更に低く抑えることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明による成膜装置及び成膜方法によれば、低温での成膜を効率よく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら本発明による成膜装置及び成膜方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
図1は、本発明による成膜装置の一実施形態の構成を示す側面断面図である。本実施形態の成膜装置1は、いわゆるイオンプレーティング法に用いられるイオンプレーティング装置である。なお、図1には、説明を容易にする為にXYZ直交座標系も示されている。
【0021】
本実施形態の成膜装置1は、冷却機構2、搬送機構3、主陽極4、プラズマ源5、補助陽極6、及び真空容器10を備える。
【0022】
真空容器10は、成膜対象である被処理物11を搬送するための搬送室10aと、成膜材料Maを飛散させる成膜室10bと、プラズマ源5から照射されるプラズマPを真空容器10内へ受け入れるプラズマ口10cと、酸素等の雰囲気ガスを真空容器10内部へ導入するためのガス供給口10d、10eと、成膜室10b内の残余ガスを排気する排気口10fとを有する。搬送室10aは、所定の搬送方向(図中の矢印A)に延びており、成膜室10b上に配置されている。本実施形態においては、搬送方向(矢印A)はX軸に沿って設定されている。また、真空容器10は、導電性の材料からなり接地電位に接続されている。
【0023】
搬送機構3は、被処理物11を保持する被処理物保持部材32を移動させるための機構である。搬送機構3は、搬送室10a内に設置された複数の搬送ローラ31によって構成されている。搬送ローラ31は、搬送方向(矢印A)に沿って等間隔で並んでおり、被処理物保持部材32を支持しつつ搬送方向に搬送することができる。なお、被処理物11としては、例えばガラス基板やプラスチック基板などの板状部材が例示される。或いは、該板状部材の上に有機EL層などの機能素子層が形成された基板生産物を被処理物11としてもよい。
【0024】
プラズマ源5は、圧力勾配型であり、その本体部分が成膜室10bの側壁(プラズマ口10c)に設けられている。プラズマ源5において生成されたプラズマPは、プラズマ口10cから成膜室10b内へ出射される。プラズマPは、プラズマ口10cに設けられた図示しないステアリングコイルによって出射方向が制御される。
【0025】
主陽極4は、成膜材料Maを保持するための材料保持部である。主陽極4は、真空容器10の成膜室10b内に設けられ、搬送機構3に対し、Z軸方向の負方向に配置されている。主陽極4は、プラズマ源5から出射されたプラズマPを成膜材料Maへ導くハース41を有する。ハース41は、接地電位である真空容器10に対して正電位に保たれており、プラズマPを吸引する。このプラズマPが入射するハース41の中央部には、成膜材料Maを装填するための貫通孔が形成されている。そして、成膜材料Maの先端部分が、この貫通孔から突出している。
【0026】
成膜材料Maとしては、ZnOなどの透明導電材料や、SiONなどの絶縁封止材料が例示される。成膜材料Maが絶縁性物質からなる場合、ハース41にプラズマPが照射されると、プラズマPからの電流によってハース41が加熱され、成膜材料Maの先端部分が蒸発して成膜材料粒子Mbが成膜室10b内に飛散する。また、成膜材料Maが導電性物質からなる場合、ハース41にプラズマPが照射されると、プラズマPが成膜材料Maに直接入射し、成膜材料Maの先端部分が加熱されて蒸発し、成膜材料粒子Mbが成膜室10b内に飛散する。成膜室10b内に飛散した成膜材料粒子Mbは、プラズマPによりイオン化され、成膜室10bの上方(Z軸正方向)へ移動し、搬送室10a内において被処理物11の表面に付着する。なお、成膜材料Maは、常に先端部分がハース41から突出するように、主陽極4の下方から押し出される。
【0027】
補助陽極6は、プラズマPを誘導するための電磁石である。補助陽極6は、成膜材料Maを保持するハース41の周囲に配置されており、環状の容器、並びに該容器内に収容されたコイル6a及び永久磁石6bを有する。コイル6a及び永久磁石6bは、コイル6aに流れる電流量に応じて、ハース41に入射するプラズマPの向きを制御する。
【0028】
冷却機構2は、配管内を流れる冷却液によって被処理物11を冷却するための機構であり、搬送室10a内において搬送機構3に沿って設けられる。冷却機構2は、成膜室上冷却部21、上流側冷却部22、下流側冷却部23、上流側対向冷却部24、及び下流側対向冷却部25を含んで構成されている。
【0029】
成膜室上冷却部21は、搬送室10a内における成膜室10bの上方に配置されている。図1に示す成膜室上冷却部21は搬送室10aの内壁(天井壁)に接して固定されているが、成膜室上冷却部21は、搬送室10aの壁面から間隔をあけて固定されてもよい。成膜室上冷却部21は、配管21aを有する。配管21aは、搬送機構3に沿って二次元状に配置されている。具体的には、配管21aは、搬送ローラ31上を搬送される被処理物11における成膜面とは反対側の表面に沿って配置されている。成膜室上冷却部21は、配管21aの内部を流れる冷却液によって成膜中の被処理物11を冷却することにより、成膜過程における被処理物11の温度上昇を抑える。
【0030】
上流側冷却部22は、搬送室10a内において、搬送方向(矢印A)における成膜室上冷却部21の上流側、すなわち成膜前の被処理物11が通過する位置に配置されている。上流側冷却部22は、搬送室10aの内壁(天井壁)に、成膜室上冷却部21との間に所定の間隔をあけて固定されている。上流側冷却部22は、成膜室上冷却部21と同様に、搬送機構3に沿って(具体的には、被処理物11における成膜面とは反対側の表面に沿って)二次元状に配置された配管22aを有する。上流側冷却部22は、配管22aの内部を流れる冷却液によって、被処理物11を成膜前に予め冷却する。
【0031】
下流側冷却部23は、搬送室10a内において、搬送方向(矢印A)における成膜室上冷却部21の下流側、すなわち成膜後の被処理物11が通過する位置に配置されている。下流側冷却部23は、搬送室10aの内壁(天井壁)に、成膜室上冷却部21との間所定の間隔をあけて固定されている。下流側冷却部23は、成膜室上冷却部21と同様に、搬送機構3に沿って(具体的には、被処理物11における成膜面とは反対側の表面に沿って)二次元状に配置された配管23aを有する。下流側冷却部23は、配管23aの内部を流れる冷却液によって、成膜により温度が上昇した被処理物11を急速に冷却する。
【0032】
上流側対向冷却部24は、搬送室10a内において、搬送機構3を挟んで上流側冷却部22と対向するように配置されている。上流側対向冷却部24は、搬送室10aの内壁(底壁)に固定されている。上流側対向冷却部24は、搬送機構3に沿って(具体的には、被処理物11における成膜面に沿って)二次元状に配置された配管24aを有する。上流側対向冷却部24は、配管24aの内部を流れる冷却液によって、上流側冷却部22と共に被処理物11を成膜前に予め冷却しておく。
【0033】
下流側対向冷却部25は、搬送室10a内において、搬送機構3を挟んで下流側冷却部23と対向するように配置されている。下流側対向冷却部25は、搬送室10aの内壁(底壁)に固定されている。下流側対向冷却部25は、搬送機構3に沿って(具体的には、被処理物11における成膜面に沿って)二次元状に配置された配管25aを有する。下流側対向冷却部25は、配管25aの内部を流れる冷却液によって、成膜により温度が上昇した被処理物11を下流側冷却部23と共に急速に冷却する。
【0034】
上述した各冷却部21〜25(特に上流側冷却部22、上流側対向冷却部24)に用いられる冷却液としては、水よりも凝固点が低い液体(例えばフロリナートやガルデンなど)が好ましい。
【0035】
ここで、図2(a)は、本実施形態における上流側冷却部22の構成を示す切欠き平面図である。この図2(a)は、図1における上流側冷却部22をZ軸上方から見た平面図を示している。また、図2(b)は、図1に示した上流側冷却部22のI−I線に沿った側面断面図である。なお、本実施形態における成膜室上冷却部21、下流側冷却部23、上流側対向冷却部24、及び下流側対向冷却部25は、図2(a)及び図2(b)に示す上流側冷却部22と同様の構成を有している。
【0036】
図2(a)及び図2(b)を参照すると、上流側冷却部22は、配管22aと、2枚の固定板22b及び22cとを含んで構成されている。配管22aは、板状の被処理物11の表面に沿った平面(XY平面)内に二次元状に配設されている。また、配管22aは、上流側冷却部22の内部でなるべく長く配設されるように幾重にも折れ曲がって配設されている。本実施形態では、配管22aは、配管22aの内部を流れる冷却液Cの流れの向きが搬送方向(矢印A)と交差(好ましくは直交)するように配設されている。なお、上流側冷却部22における配管22aの両端は、冷却液Cを冷却するための図示しない冷却装置(チラーユニット)に接続されている。また、配管22aは、例えば銅やアルミニウムといった熱伝導性に優れた金属材料からなることが好ましい。
【0037】
固定板22b及び22cは、それぞれ略矩形状の平面形状を有する板状部材である。固定板22b及び22cは、XY平面内に二次元状に配設された配管22aを、Z軸方向の両側から挟んで固定する。固定板22b及び22cは、ボルト等によって互いに締結されており、また、図示しない支柱等により搬送室10a(図1参照)の内壁面に固定されている。固定板22b及び22cは、例えば銅やアルミニウムといった熱伝導性に優れた金属材料からなることが好ましい。また、固定板22b及び22cがアルミニウムからなる場合には、その表面にアルマイト処理がなされていればより好適である。
【0038】
次に、図1を参照しながら、成膜装置1を用いた本実施形態による成膜方法について説明する。まず、主陽極4に配置されたハース41へ成膜材料Maを装着するとともに、被処理物11を保持した被処理物保持部材32を搬送機構3にセットする。そして、真空容器10内を真空に保持した後、冷却機構2の各配管21a〜25aに冷却液を導入する。
【0039】
続いて、接地電位にある真空容器10を挟んで、負電圧をプラズマ源5に、正電圧を主陽極4に印加して放電を生じさせ、プラズマPを生成する。プラズマPは、補助陽極6に案内されて主陽極4へ照射される。本方法では、被処理物保持部材32を搬送方向(矢印A)に搬送しつつ、このようにプラズマPを主陽極4へ照射する。プラズマPに曝された主陽極4内の成膜材料Maは、徐々に加熱される。成膜材料Maが十分に加熱されると、成膜材料Maが昇華し、成膜材料粒子Mbとなって成膜室10b内に飛散する。成膜室10b内に飛散した成膜材料粒子Mbは、成膜室10b内をZ軸方向の正方向に上昇する際、プラズマPによって活性化されてイオン化し、被処理物11に向けて飛翔する。
【0040】
他方、被処理物11は、搬送機構3によって搬送方向(矢印A)に搬送される。そして、被処理物11が上流側冷却部22と上流側対向冷却部24との間を通過する際、配管22a及び24aを流れる冷却液により被処理物11が冷却される(予備冷却工程)。このとき、被処理物11が零度以下に冷却されるように、冷却液の温度及び被処理物11の搬送速度が設定されていることが好ましい。
【0041】
続いて、被処理物11は、搬送機構3によって搬送されて成膜室10bの上方に達し、成膜室10b内を飛散している成膜材料粒子Mbに曝される。そして、主陽極4と対向する被処理物11の成膜面に、成膜室10b内に飛散した成膜材料粒子Mbのイオン化粒子が膜状に付着する。このとき、成膜材料粒子Mbのイオン化粒子の付着により被処理物11が加熱される一方、成膜室上冷却部21の配管21aを流れる冷却液により被処理物11の温度上昇が抑えられる。
【0042】
被処理物11が一定速度で搬送されながら成膜材料粒子Mbに所定時間曝されることにより、被処理物11の表面に所定の厚さの膜が形成される(成膜工程)。その後、被処理物11は、搬送機構3によって搬送されて下流側冷却部23と下流側対向冷却部25との間を通過する。このとき、成膜により温度が上昇した被処理物11は、配管23a及び25aを流れる冷却液によって急速に冷却される(成膜後冷却工程)。こうして、被処理物11の表面に所望の膜が形成される。
【0043】
以上に説明した本実施形態の成膜装置1及び成膜方法により得られる効果は次のとおりである。本実施形態の成膜装置1及び成膜方法においては、上述したように、冷却機構2が、成膜室10b上に配置された成膜室上冷却部21に加え、更に成膜室上冷却部21の上流側に配置された上流側冷却部22を含んで構成されている。そして、被処理物11の表面に成膜が開始される前に被処理物11を予め冷却し、且つ成膜中においても被処理物11を冷却している。
【0044】
ここで、図3に示すグラフG1は、本実施形態のように被処理物11の表面に成膜が開始される前に被処理物11を予め冷却しておき、且つ成膜中においても被処理物11を冷却する場合の被処理物11の温度変化の一例を示すグラフである。なお、図3においては、縦軸が被処理物11の温度を、横軸が搬送開始後の経過時間をそれぞれ示している。また、図3には、比較のため、成膜中にのみ冷却を行う従来の成膜方法における被処理物11の温度変化の一例を示すグラフG2も併せて示している。
【0045】
図3を参照すると、本実施形態の成膜装置1及び成膜方法(グラフG1)では、まず、上流側冷却部22及び上流側対向冷却部24によって被処理物11の温度が初期温度Tから温度T(≦0℃)まで低下する。そして、成膜室10b上において、被処理物11の温度が温度TからΔT上昇し、温度T(>0℃)となる。なお、このときの温度上昇幅ΔTは、成膜材料粒子Mbの付着により被処理物11に与えられる熱量と、成膜室上冷却部21により吸収される熱量との差によって定まる。その後、下流側冷却部23及び下流側対向冷却部25によって被処理物11が温度Tから初期温度T付近まで急速に冷却される。
【0046】
他方、成膜中にのみ冷却する従来の方法(グラフG2)では、初期温度Tの状態から成膜が開始され、被処理物の温度が初期温度TからΔT上昇して温度T(>T)となる。そして、成膜後、被処理物は自然放熱により徐々に冷却される。
【0047】
このように、被処理物11の表面に成膜が開始される前に被処理物11を予め冷却しておくことにより、成膜室10b上にのみ冷却部が設けられる(成膜中にのみ冷却する)場合と比較して、成膜時の温度上昇(最高到達温度)をより低く抑えることができる。従って、上記した成膜装置1及び成膜方法によれば、従来のように被処理物の温度上昇を低く抑えるために成膜に長時間を掛ける必要がなくなり、低温での成膜を効率よく行うことができる。
【0048】
また、本実施形態のように、冷却機構2は、搬送機構3を挟んで上流側冷却部22と対向するように配置された上流側対向冷却部24を有することが好ましい。上流側冷却部22に加え、上流側対向冷却部24によって被処理物11を更に冷却することにより、被処理物11の表面に成膜が開始される前に被処理物11をより低温まで冷却できる。
【0049】
また、本実施形態のように、冷却機構2は、搬送方向(矢印A)における成膜室上冷却部21の下流側に配置された下流側冷却部23を有することが好ましい。これにより、成膜後の被処理物11の温度をより早く下げることができるので、成膜後の膜や被処理物11に対する温度上昇による影響(例えば、ZnO膜の結晶化や有機EL層の破壊など)を更に抑制できる。
【0050】
また、本実施形態のように、零度よりも低い凝固点を有するフロリナートやガルデンといった液体を冷却液として用いるとともに、被処理物11に対して成膜が開始される前に、被処理物11の表面温度が零度以下となるように上流側冷却部22によって被処理物11を冷却することが好ましい。これにより、冷却液として例えば水を用いる場合と比較して、成膜開始前に被処理物11をより低温まで冷却できるので、成膜時の温度上昇(最高到達温度)を更に低く抑えることができる。
【0051】
(第1の変形例)
図4(a)及び図4(b)は、上記実施形態による成膜装置1の第1変形例として、それぞれ冷却部26及び27の構成を示す平面図である。なお、冷却部26や冷却部27の形態は、上記実施形態の各冷却部21〜25のうちいずれの冷却部に適用されてもよく、また、各冷却部21〜25のうち任意の複数の冷却部に適用されてもよい。
【0052】
図4(a)を参照すると、冷却部26は、配管26a〜26cを含んで構成されている。配管26a〜26cは、板状の被処理物11の表面に沿った平面(XY平面)内に二次元状に配設されている。このうち、配管26aは、被処理物11の表面に沿ったY軸方向における冷却部26の一端に高密度に配設されている。また、配管26bは、Y軸方向における冷却部26の他端に高密度に配設されている。そして、配管26cは、Y軸方向における冷却部26の中央付近に低密度に配設されている。すなわち、冷却部26においては、Y軸方向における両端部付近に配管が偏って配設されることにより、冷却部26の両端付近における冷却能力が、中心付近における冷却能力に対して相対的に高められている。
【0053】
また、図4(b)を参照すると、冷却部27は、配管27a〜27cを含んで構成されている。配管27a〜27cは、板状の被処理物11の表面に沿った平面(XY平面)内に二次元状に配設されている。このうち、配管27aは、被処理物11の表面に沿ったX軸方向(搬送方向A)における冷却部27の一端に高密度に配設されている。また、配管27bは、X軸方向における冷却部27の他端に高密度に配設されている。そして、配管27cは、X軸方向における冷却部27の中央付近に低密度に配設されている。すなわち、冷却部27においては、X軸方向における両端部付近に配管が偏って配設されることにより、冷却部27の両端付近における冷却能力が、中心付近における冷却能力に対して相対的に高められている。
【0054】
一般的に、冷却部において配管が一様に配設されると、冷却部の中心付近の冷却能力が端部付近の冷却能力よりも高まる傾向がある。これに対して、本変形例の冷却部26または27のように配管が冷却部の両端に偏って配設されることにより、冷却部の冷却能力を中心付近と端部付近とで一様にできるので、被処理物11を一様な温度分布で冷却できる。
【0055】
また、この作用は、冷却部26及び27を組み合わせて用いることにより一層効果的となる。すなわち、冷却部26及び27のうちいずれか一方の形態が上流側冷却部22(または下流側冷却部23)に適用された場合には、上流側対向冷却部24(または下流側対向冷却部25)に冷却部26及び27のうち他方の形態が適用されることが好ましい。ここで、図5は、冷却部26及び27が互いに対向配置された場合における、被処理物11に対する冷却領域を示す平面図である。図5において、領域Dは冷却部26の配管26aによる強冷却領域を示しており、領域Dは冷却部26の配管26bによる強冷却領域を示しており、領域Dは冷却部26の配管26cによる弱冷却領域を示している。また、領域Dは冷却部27の配管27aによる強冷却領域を示しており、領域Dは冷却部27の配管27bによる強冷却領域を示しており、領域Dは冷却部27の配管27cによる弱冷却領域を示している。なお、図5は、各冷却領域D〜Dが被処理物11内に収まった瞬間の状態を示しており、被処理物11は各冷却領域D〜Dに対して相対的に搬送方向(矢印A)に移動しているものとする。
【0056】
図5に示すように、冷却部26及び27を組み合わせて用いることにより、強冷却領域D、D、D、及びDを組み合わせて環状の強冷却領域を構成できるので、冷却部26及び27それぞれの端部における冷却能力を互いに補うことができる。更に、冷却部26及び27において最も冷却能力が低い四隅付近では、互いの強冷却領域が重なっており、被処理物11を強く冷却できる。従って、被処理物11を更に一様な温度分布で冷却できる。
【0057】
(第2の変形例)
図6は、上記実施形態による成膜装置1の第2変形例として、成膜装置1aの構成を示す側面断面図である。本変形例における成膜装置1aと上記実施形態における成膜装置1との相違点は、冷却機構の構成である。すなわち、本変形例における冷却機構28の成膜室上冷却部28a、上流側冷却部28b、及び下流側冷却部28cは、互いに一体に構成されている。
【0058】
成膜室上冷却部28aは、搬送室10a内における成膜室10b上に配置され、配管28fの内部を流れる冷却液によって成膜中の被処理物11を冷却する。上流側冷却部28bは、搬送方向(矢印A)における成膜室上冷却部28aの上流側に配置され、配管28gの内部を流れる冷却液によって、被処理物11を成膜前に予め冷却する。下流側冷却部28cは、搬送方向(矢印A)における成膜室上冷却部28aの下流側に配置され、配管28hの内部を流れる冷却液によって、成膜により温度が上昇した被処理物11を急速に冷却する。
【0059】
成膜室上冷却部28aの配管28f、上流側冷却部28bの配管28g、及び下流側冷却部28cの配管28hは、それぞれ独立して配設されてもよく、或いは互いに接続された状態で一本の配管として配設されてもよい。また、本変形例では各冷却部28a〜28cが互いに一体に構成されているが、これらの冷却部28a〜28cのうち上流側冷却部28bまたは下流側冷却部28cが他の冷却部との間に間隔をあけて配置されてもよい。
【0060】
本変形例における上流側対向冷却部28d及び下流側対向冷却部28eは、それぞれ上記実施形態における上流側対向冷却部24及び下流側対向冷却部25と同様の構成を有する。すなわち、上流側対向冷却部28dは、搬送機構3を挟んで上流側冷却部28bと対向するように配置されており、配管28iの内部を流れる冷却液によって、上流側冷却部28bと共に被処理物11を成膜前に予め冷却する。また、下流側対向冷却部28eは、搬送機構3を挟んで下流側冷却部28cと対向するように配置されており、配管28jの内部を流れる冷却液によって、成膜により温度が上昇した被処理物11を下流側冷却部28cと共に急速に冷却する。
【0061】
本発明に係る冷却機構では、本変形例のように成膜室上冷却部28aと上流側冷却部28bとが互いに一体に構成されていてもよい。このような構成によっても、被処理物11の表面に成膜が開始される前に被処理物11を予め冷却しておくことができるので、成膜時の温度上昇(最高到達温度)を低く抑えることができる。
【0062】
本発明による成膜装置及び成膜方法は、上記した実施形態及び変形例に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態及び変形例では本発明の構成をイオンプレーティング装置に適用しているが、本発明の構成はこれ以外にも例えば真空蒸着装置やスパッタ装置などの様々な物理蒸着装置に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明による成膜装置の一実施形態の構成を示す側面断面図である。
【図2】(a)実施形態における上流側冷却部の構成を示す切欠き平面図である。(b)図1に示した上流側冷却部のI−I線に沿った側面断面図である。
【図3】本実施形態における被処理物の温度変化の一例を示すグラフ、及び、従来の方法における被処理物の温度変化の一例を示すグラフである。
【図4】(a)(b)成膜装置の第1変形例による冷却部の構成を示す平面図である。
【図5】第1変形例の冷却部が互いに対向配置された場合における、被処理物に対する冷却領域を示す平面図である。
【図6】成膜装置の第2変形例の構成を示す側面断面図である。
【符号の説明】
【0064】
1…成膜装置、2…冷却機構、3…搬送機構、4…主陽極、5…プラズマ源、6…補助陽極、6a…コイル、6b…永久磁石、10…真空容器、10a…搬送室、10b…成膜室、10c…プラズマ口、10d,10e…ガス供給口、10f…排気口、11…被処理物、21…成膜室上冷却部、21a〜25a,26a,26b,27a,27b…配管、22…上流側冷却部、22b…固定板、23…下流側冷却部、24…上流側対向冷却部、25…下流側対向冷却部、26,27…冷却部、31…搬送ローラ、32…被処理物保持部材、41…ハース、A…搬送方向、C…冷却液、Ma…成膜材料、Mb…成膜材料粒子、P…プラズマ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜材料を飛散させて被処理物に付着させることにより成膜を行う成膜装置であって、
前記成膜材料を飛散させるための成膜室、及び該成膜室上に配置され所定の搬送方向に延びる搬送室を含む真空容器と、
前記搬送室内に設けられ、前記被処理物を前記搬送方向に搬送する搬送機構と、
前記搬送室内において前記搬送機構に沿って設けられ、前記被処理物を冷却する冷却機構と
を備え、
前記冷却機構は、前記成膜室上に配置された成膜室上冷却部、及び前記搬送方向における前記成膜室上冷却部の上流側に配置された上流側冷却部を含んで構成されていることを特徴とする、成膜装置。
【請求項2】
前記上流側冷却部と前記成膜室上冷却部とが一体に構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記上流側冷却部と前記成膜室上冷却部とが互いに間隔をあけて配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記冷却機構が、内部を流れる冷却液によって前記被処理物を冷却する配管を有し、
前記成膜室上冷却部及び前記上流側冷却部のうち少なくとも一つの前記冷却部における前記配管が、前記搬送機構に沿って二次元状に配置されるとともに、所定方向における当該冷却部の両端に偏って配置されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記冷却機構は、前記搬送機構を挟んで前記上流側冷却部と対向するように配置された上流側対向冷却部を更に有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記冷却機構が、内部を流れる冷却液によって前記被処理物を冷却する配管を有し、
前記上流側冷却部の前記配管が、第1の方向における前記上流側冷却部の両端に偏って配置されており、前記上流側対向冷却部の前記配管が、前記第1の方向と交差する第2の方向における前記上流側対向冷却部の両端に偏って配置されていることを特徴とする、請求項5に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記冷却機構は、前記搬送方向における前記成膜室上冷却部の下流側に配置された下流側冷却部を更に含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項8】
被処理物を所定の搬送方向に搬送しつつ、成膜材料を飛散させて前記被処理物に前記成膜材料を付着させることにより成膜を行う成膜方法であって、
前記被処理物に対して成膜が開始される前に、前記被処理物を前記搬送方向に搬送しつつ前記被処理物を冷却する予備冷却工程と、
前記被処理物を冷却しつつ前記被処理物に対して成膜を行う成膜工程と
を備えることを特徴とする、成膜方法。
【請求項9】
前記予備冷却工程の際に、零度よりも低い凝固点を有する冷却液を用い、前記被処理物の温度が零度以下となるように前記被処理物を冷却することを特徴とする、請求項8に記載の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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