説明

成膜装置及び成膜方法

【課題】アークをプラズマ源とし、マクロパーティクルを含まない良質の薄膜を高い成膜レートで形成できる成膜装置及び成膜方法を提供する。
【解決手段】プラズマ発生部10で発生しプラズマ分離部20に進入したプラズマは、斜め磁場発生コイル23の磁場により進行方向が曲げられ、プラズマ輸送部40を介して成膜チャンバ50内に入る。一方、アーク放電にともなって発生したマクロパーティクルは、磁場の影響を殆ど受けないためプラズマ分離部20を直進してパーティクルトラップ部30で捕捉される。プラズマ分離部20とパーティクルトラップ部30との境界部分には逆磁場発生コイル32が設けられており、この逆磁場発生コイル32の磁場によりパーティクルトラップ部30に入ろうとするイオンを押し戻される。これにより、成膜チャンバ50に入るイオンの量が増加し、成膜レートが向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録装置に使用される磁気記録媒体の表面や磁気ヘッドの先端を保護する保護膜の形成に好適な成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録装置(ハードディスクドライブ)は、コンピュータだけでなく、ハードディスクビデオレコーダ等の映像記録機器や携帯型音楽再生装置等にも使用されるようになった。それにともない、磁気記録装置のより一層の小型化及び大容量化が要求されている。
【0003】
磁気記録装置では、高速で回転する円盤状の磁気記録媒体(磁気ディスク)の記録層を磁気ヘッドで磁化することによりデータを記録する。記録層の上には、記録層を物理的及び化学的な損傷から保護するために保護膜が設けられている。通常、磁気記録媒体の保護膜としては、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により形成したダイヤモンドライクカーボン膜(Diamond-Like-Carbon;以下、「DLC膜」という)が用いられている。
【0004】
近年、磁気記録媒体の記録密度のより一層の向上が望まれている。そのためには、磁気記録媒体の記録層と磁気ヘッドとの距離(磁気スペーシング)を縮めることが必須であり、保護膜のより一層の薄膜化が要求されている。
【0005】
現状、磁気記録媒体の表面の保護膜として形成されるDLC膜の厚さは4nm程度であり、前述したようにCVD法により形成されている。しかしながら、CVD法では、膜厚が4nm以下のDLC膜を形成しようとすると、膜厚のばらつきが大きくなって保護膜の信頼性が低下する。そこで、近年、アークをプラズマ源としたFCA(Filtered Cathodic Arc)法を用いて磁気記録媒体の表面にDLC膜を形成することが提案されている。FCA法により形成されたDLC膜では、sp2結合成分に対するsp3結合成分の比率が高いため、CVD法により形成されたDLC膜に比べて硬度が高くなる。また、FCA法では、CVD法に比べてDLC膜の被覆性が優れており、DLC膜の厚さを3.5nm又はそれ以下にしても保護膜としての信頼性を損なうことはない。以下、FCA法により成膜する装置をFCA成膜装置という。
【0006】
ところで、FCA法では、アークをプラズマ源としているため、マクロパーティクル(直径が0.01〜数百μmの微粒子)の発生を抑えることが困難である。このため、保護膜形成時にマクロパーティクルが磁気記録媒体の表面に付着してしまう。このようにしてマクロパーティクルが付着した磁気記録媒体を磁気記録装置に使用すると、データの記録時又は再生時に磁気ヘッドがマクロパーティクルに接触し、磁気ヘッドが破損するおそれがある。
【0007】
保護膜(DLC膜)を形成した後、研磨等によりマクロパーティクルを除去することも考えられる。しかし、保護膜に付着したマクロパーティクルを研磨により除去すると、研摩中に保護膜から離脱したマクロパーティクルが保護膜をこすって疵を付けたり、マクロパーティクルが離脱した跡にくぼみが発生するため、保護膜としての信頼性が著しく低下する。
【0008】
特許文献1〜5には、プラズマとマクロパーティクルとを分離する機構を備えたFCA成膜装置が記載されている。例えば特許文献1には、成膜チャンバとパーティクルトラップとの分岐部にプラズマの流路を電磁的に曲げる斜め磁場発生用コイルを設けたFCA成膜装置が記載されている。このFCA成膜装置においては、アーク放電により発生したプラズマは分岐部まで進行し、斜め磁場発生用コイルで発生した斜め方向の磁場により進行方向がほぼ90°曲げられて、成膜チャンバへ向かう。一方、アーク放電により発生したマクロパーティクルは、電荷をもたない又は重量に対して極めて小さい電荷しかもたないため、斜め磁場発生コイルで発生する斜め方向の磁場の影響を殆ど受けずにパーティクルトラップ側に移動する。このようにして、プラズマとマクロパーティクルとが分離される。
【特許文献1】特開2005−216575号公報
【特許文献2】特開2002−8893号公報
【特許文献3】特開2005−158092号公報
【特許文献4】特開2003−160858号公報
【特許文献5】特許第3860954号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、磁場によりプラズマの進行方向を曲げてマクロパーティクルと分離する従来のFCA成膜装置では、マクロパーティクルを除去する効果は大きいものの、分岐部でプラズマが拡散してしまうためプラズマ輸送効率が低下し、高い成膜レートを得ることができない。
【0010】
以上から、本発明の目的は、アークをプラズマ源とし、マクロパーティクルを含まない良質の薄膜を高い成膜レートで形成できる成膜装置及び成膜方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一観点によれば、ターゲットとアノードとの間にアーク放電を発生させてプラズマを生成するプラズマ発生部と、前記プラズマ発生部から進入したプラズマの流路を磁場により曲げてプラズマとマクロパーティクルとを分離するプラズマ分離部と、前記プラズマ分離部で分離された前記マクロパーティクルを捕捉するパーティクルトラップ部と、基体が配置され、前記プラズマ分離部で分離されたプラズマ中に含まれるイオンを前記基体上に付着させて膜を形成する成膜チャンバと、前記プラズマ分離部で分離されたプラズマを前記成膜チャンバに輸送するプラズマ輸送部と、前記プラズマ分離部と前記パーティクルトラップ部との境界部分に配置され、前記パーティクルトラップ部に進入しようとするイオンを前記プラズマ分離部側に押し戻す磁場を発生する逆磁場発生部とを有する成膜装置が提供される。
【0012】
また、本発明の他の観点によれば、プラズマ発生部においてターゲットとアノードとの間にアーク放電を発生させてプラズマを生成する工程と、前記プラズマ発生部で発生したプラズマが流入するプラズマ分離部において前記プラズマの流路に磁場を印加してプラズマの進行方向を曲げ、パーティクルトラップ部に向かうマクロパーティクルと成膜チャンバに向かうプラズマとに分離する工程と、前記プラズマ分離部と前記パーティクルトラップ部との境界部分において前記パーティクルトラップ部に移動しようとするイオンに対し前記プラズマ分離部に押し戻す磁場を印加する工程と、前記プラズマ分離部で分離された前記プラズマを成膜チャンバまで輸送する工程と、前記成膜チャンバ内においてプラズマ中に含まれるイオンを基体上に付着させて膜を形成する工程とを有する成膜方法が提供される。
【0013】
プラズマ発生部で発生するプラズマ中にはエネルギーが異なるイオンが混在しており、プラズマ分離部で磁場を印加しても、高エネルギーのイオンは進行方向が十分に曲がらず、パーティクルトラップ部に進入してしまう。そこで、本発明においては、プラズマ分離部とパーティクルトラップ部との境界部分に逆磁場発生部を設け、この逆磁場発生部によりパーティクルトラップ部に進入しようとするイオンをプラズマ分離部側に押し戻す磁場を発生する。これにより、パーティクルトラップ部に進入しようとするイオンの少なくとも一部が押し戻されて成膜チャンバに向かうプラズマと合流し、成膜チャンバにより多くのイオンが進入して成膜レートが向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、添付の図面を参照して説明する。
【0015】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る成膜装置(FCA成膜装置)の構成を示す模式図である。この図1に示すように、本実施形態に係る成膜装置は、プラズマ発生部10と、プラズマ分離部20と、パーティクルトラップ部30と、プラズマ輸送部40と、成膜チャンバ50とにより構成されている。プラズマ発生部10、プラズマ分離部20及びパーティクルトラップ部30はいずれも筒状に形成され、プラズマ発生部10、プラズマ分離部20及びパーティクルトラップ部30の順で直線上に配置されて連結されている。
【0016】
プラズマ輸送部40も筒状に形成されており、その一端側がプラズマ分離部20にほぼ垂直に接続され、他端側が成膜チャンバ50に接続されている。成膜チャンバ50内には、成膜すべき基板(基体)51が載置されるステージ(図示せず)が設けられている。
【0017】
以下、成膜装置の各部についてより詳細に説明する。プラズマ発生部10の筐体端部には絶縁板11が配置されており、この絶縁板11の上にはターゲット(カソード)12が配置されている。また、プラズマ発生部10の筐体端部の外側にはカソードコイル14が設けられており、筐体の内壁面にはアノード13が設けられている。成膜時には、電源(図示せず)からターゲット(カソード)12とアノード13との間に所定の電圧が印加されてアーク放電が発生し、ターゲット12の表面上方にプラズマが生成される。また、電源からカソードコイル14に所定の電流が供給され、カソードコイル14からアーク放電を安定化させる磁場が発生する。
【0018】
ターゲット12は、その構成分子が蒸発してプラズマ中に成膜材料を供給するので、成膜材料を含むもので形成されていることが必要である。本実施形態では、基板51上にDLC膜を形成するので、ターゲット12としてカーボングラファイトを使用する。なお、プラズマ発生部10には、アーク放電のトリガとなる電圧を印加するためのトリガ電極等が存在するが、図1ではそれらの図示を省略している。また、プラズマ発生部10には、必要に応じてプラズマ発生部10内に反応性ガス又は不活性ガスを供給するガス供給口(図示せず)が設けられている。
【0019】
プラズマ分離部20は、図1に示すようにプラズマ発生部10よりも細径に形成されている。また、プラズマ発生部10とプラズマ分離部20との境界部分には、筐体壁面から内側に突出する制御板21が設けられている。この制御板21により、プラズマ発生部10においてアーク放電に伴って発生したマクロパーティクルのプラズマ分離部20への進入が制限される。
【0020】
プラズマ分離部20の筐体の外周には、プラズマ発生部10で発生したプラズマを筐体中心部に収束させつつ所定の方向に移動させるための磁場を発生するガイドコイル22a,22bが設けられている。また、パーティクルトラップ部30とプラズマ輸送部40との分岐部には、プラズマの進行方向をほぼ90°曲げる磁場(以下、「斜め磁場」という)を発生する斜め磁場発生コイル23が設けられている。
【0021】
パーティクルトラップ部30には、プラズマ発生部10で発生したマクロパーティクルがプラズマ分離部20の磁場の影響を殆ど受けることなく直進して進入する。パーティクルトラップ部30の終端部には、マクロパーティクルを捕捉する複数の傾斜板からなるパーティクル捕捉部材31が配置されている。また、プラズマ分離部20とパーティクルトラップ部30との境界部分の外周には、パーティクルトラップ部30に進入しようとするプラズマ(イオン)を逆方向に押し戻す磁場(以下、「逆磁場」という)を発生する逆磁場発生コイル32が設けられている。
【0022】
プラズマ輸送部40の外周には、プラズマ分離部20で分離されたプラズマを筐体中心部に収束させつつ成膜チャンバ50側に移動させる磁場を発生するガイドコイル41が設けられている。また、プラズマ輸送部40の内壁面には、プラズマ輸送部40内に侵入したマクロパーティクルを捕捉するための複数の傾斜板からなるパーティクル捕捉部材42が設けられている。
【0023】
成膜チャンバ50には、前述したように基板51が載置されるステージ(図示せず)が設けられている。基板51は、その表面(成膜面)をプラズマが流入する方向に向けて配置される。なお、ステージには基板51をプラズマ流入方向に対し傾斜させる機構や基板51を回転させる機構が設けられていてもよい。また、成膜チャンバ50には真空装置(図示せず)が接続されており、この真空装置により成膜装置の内部空間を所定の圧力に維持することができる。基板51としては、予め記録層(磁性層)が形成された磁気記録媒体用基板や、記録素子及び再生素子(MR素子等)が形成された磁気ヘッド用基板等を用いることができる。
【0024】
以下、上述の構造を有する本実施形態に係る成膜装置を使用したDLC膜の成膜方法について説明する。
【0025】
基板51上にDLC膜を形成する場合、カソードとしてカーボングラファイトターゲットを使用する。そして、真空装置を稼働させて成膜装置内の圧力を10-5Pa〜10-3Paに維持する。また、例えばアーク電流が60A、アーク電圧が30V、カソードコイル電流が10Aの条件でプラズマを発生させる。
【0026】
プラズマ発生部10で発生したプラズマは、プラズマ分離部20に進入し、ガイドコイル20a,20bが発生する磁場により分岐部に移動する。そして、斜め磁場発生コイル23が発生する斜め磁場により急激に進行方向が曲げられ、プラズマ輸送部40に進入する。図1中の矢印Aは、斜め磁場発生コイル23が発生する斜め磁場により成膜チャンバ50側に進行方向が曲げられたプラズマの移動方向を示している。
【0027】
但し、プラズマ中のカーボンイオンの運動エネルギーのばらつきは大きく、プラズマ中に含まれる高エネルギーのカーボンイオンは斜め磁場で十分に曲げられずにパーティクルトラップ部30に進入しようとする。しかし、本実施形態の成膜装置では、逆磁場発生コイル32が発生する磁場によりそのカーボンイオンの一部がプラズマ分岐部20に押し戻され、プラズマ輸送部40の方向に進行するプラズマに合流する。図1中の矢印Bは、逆磁場発生コイル32が発生する逆磁場により押し戻されてプラズマ輸送部40の方向に進行するプラズマに合流するカーボンイオンの移動方向を示している。
【0028】
プラズマ輸送部40に進入したプラズマは、ガイドコイル41により成膜チャンバ50に輸送される。そして、プラズマ中のカーボンイオンが基板51の表面上に付着(堆積)して、DLC膜が形成される。磁気記録装置に使用する磁気記録媒体又は磁気ヘッドの保護膜としてDLC膜を形成する場合は、磁気スペーシングを小さくするために、DLC膜の膜厚を3.5nm以下とすることが好ましい。
【0029】
一方、プラズマ発生部10においてアーク放電により発生したマクロパーティクルは、電荷をもたない又は重量に対して極めて小さい電荷しかもたないため、ガイドコイル22a,22bや斜め磁場発生コイル23及び逆磁場発生コイル32が発生する磁場の影響を殆ど受けずに直進する。そして、パーティクルトラップ部30において、パーティクル捕捉部材31に捕捉される。図1中の矢印Cは、マクロパーティクルの移動方向を示している。
【0030】
なお、マクロパーティクルのうち電荷を有するものの一部は、斜め磁場発生コイル23で発生する斜め磁場により進行方向が曲げられてプラズマ輸送部40に進入する。しかし、斜め磁場により進行方向がほぼ90°に曲げられて成膜チャンバ50に届くマクロパーティクルの数は極めて少なく、プラズマ輸送部40に進入したマクロパーティクルの大部分はプラズマ輸送部40の内面に設けられたパーティクル捕捉部材41に捕捉される。このため、成膜チャンバ50に進入するプラズマ中にはマクロパーティクルが殆ど含まれず、基板51上にはマクロパーティクルを殆んど含まない高品質のDLC膜が形成される。
【0031】
また、本実施形態においては、パーティクルトラップ部30側に移動しようとするプラズマ(カーボンイオン)を逆方向磁場発生コイル32が発生する逆磁場により押し戻すので、プラズマ分離部20で成膜チャンバン50方向に曲げられるカーボンイオンの運動エネルギー範囲が広く、従来のFCA成膜装置に比べてより多くのカーボンイオンが成膜チャンバ50に進入する。これにより、従来のFCA成膜装置に比べてDLCの成膜レートが向上し、所望の膜厚のDLC膜を従来よりも短時間で成膜することができる。
【0032】
(第2の実施形態)
図2は、本発明の第2の実施形態に係る成膜装置の構成を示す模式図である。本実施形態に係る成膜装置が第1の実施形態に係る成膜装置と異なる点は、逆磁場発生コイル32に替えて複数のフェライト磁石(永久磁石)35が配置されていることにあり、その他の構成は基本的に第1の実施形態と同様であるので、図2において図1と同一物には同一符号を付してその詳しい説明は省略する。
【0033】
本実施形態においては、プラズマ分離部20とパーティクルトラップ部30との境界部分の周囲に複数個(図2では1個のみ図示)のフェライト磁石35が斜めに配置されており、これらのフェライト磁石35によりパーティクルトラップ部30に進入しようとするプラズマ(カーボンイオン)をプラズマ分離部20に押し戻す方向の磁場(逆磁場)を発生する。
【0034】
本実施形態においても、パーティクルトラップ部30に進入しようとするカーボンイオンをフェライト磁石35が発生する逆磁場により押し戻すので、成膜チャンバ50に進入するカーボンイオンの量が従来に比べて増加する。これにより、DLC膜の成膜レートが向上し、所望の厚さのDLC膜を短時間で形成することができる。
【0035】
なお、フェライト磁石に替えて、磁力が更に強いサマリウム−コバルト系磁石やネオジム系磁石を使用してもよい。
【0036】
(実施例)
以下、上述した第1及び第2の実施形態の成膜装置を使用して実際にDLC膜を形成し、DLC膜の成膜レートとマクロパーティクル数とを調べた結果について説明する。
【0037】
まず、直径が2.5インチ(65mm)のアルミニウム合金からなる複数の基板を用意した。そして、これらの基板の上に、スパッタリング法によりCr合金からなる厚さが20nmの下地膜と、厚さが3nmのCoCrPtTa合金(Co:67%、Cr:20%、Pt:10%、Ta:3%)と厚さが10nmのCoCrPtB合金膜(Co:60%、Cr:25%、Pt:14%、B:6%)を含む多層膜とを順次形成した。
【0038】
次に、実施例1として、図1に示す成膜装置を使用し、ターゲットとしてカーボングラファイトを用いて、基板上(Co金属膜上)にDLC膜を約3.5nmの厚さに形成した。このときのアーク電流は60A、アーク電圧は30V、カソードコイル電流は10Aである。また、逆磁場発生コイル32には、筐体中心部における逆磁場強度が3mTとなるように定電流電源から電流を供給した。
【0039】
一方、比較例1として、図1に示す成膜装置を使用し、実施例1と同様の条件で基板上(Co金属膜上)にDLC膜を約3.5nmの厚さに形成した。但し、比較例1では、従来のFCA法と同様の条件でDLC膜を形成するために、逆磁場発生コイル32に電流を供給しなかった。
【0040】
更に、実施例2として、図2に示す成膜装置を使用し、アーク電流が60A、アーク電圧が30V、カソードコイル電流が10Aの条件で基板上(Co金属膜上)にDLC膜を形成した。実施例2では、プラズマ分離部20とパーティクルトラップ部30との境界部分の筐体の周囲に複数のフェライト磁石35を斜めに配置することで、筐体中心部における逆磁場強度が2.4mTとなった。
【0041】
これらの実施例1,2及び比較例1について、成膜時間と平均膜厚との関係を調べ、成膜レートを計算した。また、DLC膜の厚さを3.5nmとした場合のマクロパーティクル数を光学表面分析装置(Optical Surface Analyzer;OSA)を用いて計測した。図3には実施例1と比較例1との成膜レートの比較を示し、図4には実施例2と比較例1との成膜レートの比較を示す。なお、平均膜厚は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)による断面観察による。また、図5に、実施例1,2及び比較例1の成膜レート及びマクロパーティクル数の測定結果をまとめて示す。
【0042】
図5から、実施例1,2及び比較例1のマクロパーティクル数の差は誤差範囲内であり、これらの実施例1,2及び比較例1におけるマクロパーティクル数はほぼ同じであることがわかる。一方、図5から、実施例1,2は、比較例1に比べて成膜レートが高いことがわかる。このような実験結果から、本願発明の有用性が確認できた。
【0043】
なお、上述した第1及び第2の実施形態では基板51上にDLC膜を形成する場合について説明したが、これにより本発明に係る成膜装置の用途がDLC膜の形成に限定されるものではなく、本発明に係る成膜装置は種々の材料からなる膜の形成に使用できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態に係る成膜装置の構成を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の第2の実施形態に係る成膜装置の構成を示す模式図である。
【図3】図3は、実施例1と比較例1との成膜レートの比較を示す図である。
【図4】図4は、実施例2と比較例1との成膜レートの比較を示す図である。
【図5】図5は、実施例1,2及び比較例1の成膜レート及びマクロパーティクル数の測定結果をまとめて示す図である。
【符号の説明】
【0045】
10…プラズマ発生部、
11…絶縁板、
12…ターゲット(カソード)、
13…アノード、
14…カソードコイル、
20…プラズマ分離部、
21…制御板、
22a,22b,41…ガイドコイル、
23…斜め磁場発生コイル、
30…パーティクルトラップ部、
31,42…パーティクル捕捉部材、
32…逆磁場発生コイル、
35…フェライト磁石、
40…プラズマ輸送部、
50…成膜チャンバ、
51…基板。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットとアノードとの間にアーク放電を発生させてプラズマを生成するプラズマ発生部と、
前記プラズマ発生部から進入したプラズマの流路を磁場により曲げてプラズマとマクロパーティクルとを分離するプラズマ分離部と、
前記プラズマ分離部で分離された前記マクロパーティクルを捕捉するパーティクルトラップ部と、
基体が配置され、前記プラズマ分離部で分離されたプラズマ中に含まれるイオンを前記基体上に付着させて膜を形成する成膜チャンバと、
前記プラズマ分離部で分離されたプラズマを前記成膜チャンバに輸送するプラズマ輸送部と、
前記プラズマ分離部と前記パーティクルトラップ部との境界部分に配置され、前記パーティクルトラップ部に進入しようとするイオンを前記プラズマ分離部側に押し戻す磁場を発生する逆磁場発生部と
を有することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記逆磁場発生部が、電磁コイル又は永久磁石により構成されることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記プラズマ輸送部の内壁に、前記プラズマ輸送部に進入したマクロパーティクルを捕捉するパーティクル捕捉部材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項4】
プラズマ発生部においてターゲットとアノードとの間にアーク放電を発生させてプラズマを生成する工程と、
前記プラズマ発生部で発生したプラズマが流入するプラズマ分離部において前記プラズマの流路に磁場を印加してプラズマの進行方向を曲げ、パーティクルトラップ部に向かうマクロパーティクルと成膜チャンバに向かうプラズマとに分離する工程と、
前記プラズマ分離部と前記パーティクルトラップ部との境界部分において前記パーティクルトラップ部に移動しようとするイオンに対し前記プラズマ分離部に押し戻す磁場を印加する工程と、
前記プラズマ分離部で分離された前記プラズマを成膜チャンバまで輸送する工程と、
前記成膜チャンバ内においてプラズマ中に含まれるイオンを基体上に付着させて膜を形成する工程と
を有することを特徴とする成膜方法。
【請求項5】
前記基体上にダイヤモンドライクカーボン膜を成膜することを特徴とする請求項4に記載の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−120895(P2009−120895A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−295006(P2007−295006)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】