説明

成膜装置

【課題】
特定のエネルギーを持ったイオンによるイオンビームを照射して膜を成膜する成膜装置を提供する。
【解決手段】
カソード11とアノード12との間に真空アーク放電を発生し、炭素イオンからなるプラズマを発生させる。そして、加速電極13により、入射スリット板21へ向かって加速される。入射スリット21のスリット穴から入射されたイオンビーム25は偏向電界26により偏向される。特定のエネルギーを持った炭素イオンから構成されるイオンビーム25は、出射スリット22のスリット穴に収束し、そして出射スリット22のスリット穴を通過する。そして、成膜室4の基板ステージ41に装着された基板42に照射される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンビームを照射して成膜対象物に膜を成膜する成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、膜質低下の原因となるカーボンパーティクルをプラズマビームから除去する成膜装置が知られている(特許文献1)。この成膜装置では、基板上にカーボン膜を成膜するためのプラズマビームを、磁気コイルが巻かれた屈曲したトロイダルダクトに通過させる。プラズマビームに含まれる電気的に中性なカーボンパーティクルは、磁気コイルによって磁場が発生しても、トロイダルダクトに沿って進行方向が曲がらず、直線に進む。このため、カーボンパーティクルはトロイダルダクトにトラップされる。
【特許文献1】特開2003−239062号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載されている成膜装置は、電気的に中性な粒子をプラズマビームから除去することができ、ある程度膜質の優れた膜を成膜することができる。しかしながら、さらに優れた膜を成膜することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
(1)請求項1の発明の成膜装置は、プラズマを発生させるプラズマ発生部と、プラズマに所定の電界をかけて加速させる加速部と、加速させたプラズマによるイオンビームが入射するスリット穴を備えた入射スリット板と、入射スリット板のスリット穴から入射したイオンビームの軌道を曲げる静電プリズムと、静電プリズムによって軌道が曲げられたイオンビームが通過するスリット穴を備えた出射スリット板と、出射スリット板のスリット穴から出射したイオンビームが成膜対象物に照射される成膜室とを備えたことを特徴とする。
(2)請求項2の発明は、請求項1に記載された成膜装置において、プラズマ発生部は、真空アーク放電を使用してプラズマを発生させるか、または固体材料を抵抗加熱により気化し、気化した前記材料に電子ビームを照射し、帯電させることによってプラズマを発生させることを特徴とする。
(3)請求項3の発明は、請求項1または2に記載の成膜装置において、特定のエネルギーを持つイオンのみによる膜を成膜するように構成したことを特徴とする。
(4)請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載された成膜装置において、プラズマ発生部より炭素イオンを発生させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、特定のエネルギーを持つイオン、すなわち質量、価数の揃ったイオンのみによるイオンビームを成膜対象物に照射して膜を成膜するようにしたので、従来より優れた膜質の膜を成膜することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
発明者の検討の結果、イオンビーム中のイオンのエネルギー、すなわち質量、価数の揃ったイオンのみによって膜質の優れた膜を成膜することができることがわかった。以下、成膜装置について説明する。
【0007】
本発明の実施形態による成膜装置の構成を図1に示す。図1の成膜装置は、プラズマ発生部1、イオン移送部2、スキャンニング装置3および成膜室4で構成される。なお、成膜室4は不図示の真空排気装置により真空排気される。
【0008】
プラズマ発生部1は、カソード11と、アノード12と、加速電極13とを備える。カソード11は、ディスク状の高純度グラファイトから成る。カソード11とアノード12との間に真空アーク放電を発生させ、炭素イオンのプラズマを生じさせる。そして、炭素イオンのプラズマは、加速電極13に印加された加速電圧により加速され、イオンビームが発生する。
【0009】
イオン移送部2は、入射スリット板21と、出射スリット板22と、内側電極23と、外側電極21とを備える。入射スリット板21および出射スリット板22は金属製の板であり、この入射スリット板21および出射スリット板22には、細長い矩形状のスリット穴が形成されている。そして、入射スリット板21と出射スリット板22の位置関係、つまり偏向角αは(180°/√2)、つまり約127°である。内側電極23と外側電極24とは、円筒面の形状に形成され、互いに対向している。そして、内側電極23と外側電極24とは同軸の位置関係にあり、イオンビーム25の軌道を曲げる静電プリズムを構成する。内側電極23は外側電極24に対して負になるような電圧が印加され、イオン移送部2には、イオンビーム25を曲げる偏向電界26が発生する。
【0010】
入射スリット板21のスリット穴からイオン移送部2に入射したイオンビーム25には、様々な質量および価数を持った炭素イオンが含まれている。そして、偏向電界26により、特定のエネルギーを持った炭素イオン、すなわち質量の揃った1価の炭素イオンのみ出射スリット板22のスリット穴に収束する。ここで、偏向電界26は、質量の揃った1価の炭素イオンのみ出射スリット22のスリット穴に収束するように、内側電極23と外側電極24との間に印加する電圧によって調整されている。
【0011】
スキャンニング装置3は、たとえば、一対のC字形状磁気コア(不図示)から成る。一方の磁気コアの磁極は出射スリット板22を挟んで図示上下に配置され、他方の磁気コアの磁極は出射スリット板22を挟んで紙面に直行する方向に配設される。この場合、イオンビーム25は図示上下方向および紙面に直交する方向に偏向走査される。
【0012】
成膜室4には、基板ステージ41が設けられており、この基板ステージ41に成膜対象物である基板42が装着される。そして、スキャンニング装置3によってイオンビーム25が偏向走査される領域より、さらに広い領域に成膜することができるようにするため、基板ステージ41は、図示上下方向および紙面に直交する方向に移動することができる。また、均一に成膜することができるようにするため、基板ステージ41は基板42をその平面内で回転する。
【0013】
次に、成膜動作について説明する。カソード11とアノード12との間に数10〜数100ボルトの電圧を印加することにより真空アーク放電を発生させる。そして、真空アーク放電が発生すると、様々な質量、価数を持つ炭素イオンが含まれているプラズマが生成される。また、炭素イオンのほかにマクロパーティクルと呼ばれる多数の炭素原子からなるクラスターも放出される。発生したプラズマは加速電極13により、入射スリット板21へ向かって加速される。このとき電気的に中性なカーボンパーティクルは加速されず、イオンビームから除去される。
【0014】
入射スリット板21のスリット穴から入射されたイオンビーム25は偏向電界26により軌道が曲げられ偏向される。図2は、様々な質量、価数を持つ炭素イオンから構成されるイオンビーム25のイオン移送部2における軌道を示した図である。特定のエネルギーを持つ炭素イオン、すなわち質量の揃った1価の炭素イオンから構成されるイオンビーム25を、図2の(a)のように出射スリット板22のスリット穴に収束させるように偏向電界26を調節しているものとする。このため、特定のエネルギーを持つ炭素イオン、すなわち質量の揃った1価の炭素イオンから構成されるイオンビーム25は、ほとんど出射スリット板22のスリット穴を通過する。一方、特定のエネルギーを持たない炭素イオン、たとえば2価の炭素イオンなどから構成されるイオンビーム25の軌道は、図2の(b)のように出射スリット板22に到達する前に収束して、再び発散するか、または図2の(c)のように収束する前に出射スリット板22に到達する。このため、特定のエネルギーを持たない炭素イオンから構成されるイオンビーム25は、出射スリット板22のスリット穴をほとんど通過しない。
【0015】
出射スリット板22のスリット穴を通過した、特定のエネルギーを持ったイオン、すなわち質量の揃った1価の炭素イオンから構成されるイオンビーム25は、成膜室4の基板ステージ41に装着された基板42に照射される。このとき、スキャンニング装置3を用いてイオンビーム25をその進行方向に直交する方向に偏向走査し、さらに基板ステージ41を直交する方向に移動することにより、基板42の広い領域に均一にイオンビーム25を照射することができる。
【0016】
以上の実施の形態による成膜装置は次のような作用効果を奏する。
(1)特定のエネルギーを持った炭素イオンを取り出し、その炭素イオンを主体として成膜することができるようにした。このため、従来のように様々な質量、価数の炭素イオンが混在して成る膜に比べて膜成長が均一となり、硬度、屈折率などの膜質制御が容易になる。そして、緻密で硬く靭性に優れた高品位な炭素膜を作製することができる。
(2)イオン移送部2の内側電極23および外側電極24の形状を同軸の円筒面によって構成し、所定の偏向角に調整することにより、特定のエネルギーを持った炭素イオンを取り出すことができる。このような簡単な構造の装置で膜質制御が容易になる。
【0017】
上述した成膜装置では、ディスク状の高純度グラファイトに真空アーク放電することによってプラズマを発生するようにしたが、炭素を加熱気化し、その気化した炭素に電子ビームを照射してプラズマを発生させてもよい。気化した炭素によってプラズマを発生させる場合の成膜装置を図3を参照して説明する。イオン移送部2、スキャンニング装置3および成膜室4の構成は図1の成膜装置と同じであるので、説明は省略する。
【0018】
プラズマ発生部5は、コイル55が巻かれたるつぼ51と、電荷供給部52と、加速電極53とを備える。るつぼ51の内部にはプラズマ源の固体材料である炭素54が収容される。また、電荷供給部52からカソード56に向けて電子ビームが放出されている。
【0019】
るつぼ51の内部にある炭素54は加熱コイル55によって抵抗加熱され、蒸発する。蒸発し、気化した炭素は、電荷供給部52から照射される電子ビームの衝撃によりイオン化され、つまり帯電され、炭素イオンになる。そして、炭素イオンは、加速電極53により、入射スリット板21へ向かって加速され、入射スリット板21のスリット穴からイオン移送部2へ入射される。
【0020】
以上の実施の形態では、イオン移送部2の内側電極23および外側電極24の電極形状は同軸の円筒面であったが、同心の球面でもよい。この場合の偏向角は180°となり、また、入射スリット板21のスリット穴の形状および出射スリット板22のスリット穴の形状はともに円形となる。
【0021】
以上の実施の形態では、質量の揃った1価の炭素イオンから構成されるイオンビームによって成膜を行ったが、特定のエネルギーを持った炭素イオンであれば実施の形態に限定されない。たとえば、質量の揃った2価の炭素から構成されるイオンビームが出射スリット板22のスリット穴に収束するように構成して、質量の揃った2価の炭素イオンから構成されるイオンビームによって成膜を行ってもよい。
【0022】
以上の実施の形態では、炭素の成膜装置として説明したが、本発明は、炭素の成膜装置に限定されない。たとえば、シリコンの成膜装置などにも適用することができる。
【0023】
特許請求の範囲の要素と実施の形態との対応関係を説明する。
本発明の加速部は、加速電極13に対応し、静電プリズムは内側電極23および外側電極24に対応する。成膜対象物は基板42に対応し、固体材料は炭素54に対応する。なお、以上の説明はあくまで一例であり、発明を解釈する上で、上記の実施形態の構成要素と本発明の構成要素の対応関係になんら限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の成膜装置の構成を示す図である。
【図2】(a)は、特定のエネルギーを持った炭素イオンから構成されるイオンビームの軌道を示す図であり、(b)および(c)は、特定のエネルギーを持たない炭素イオンから構成されるイオンビームの軌道を示す図である。
【図3】本発明の他の実施形態の成膜装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
1,5 プラズマ発生部
11,56 カソード
12 アノード
13,53 加速電極
2 イオン移送部
21 入射スリット板
22 出射スリット板
23 内側電極
24 外側電極
25 イオンビーム
26 偏向電界
3 スキャンニング装置
4 成膜室
41 基板ステージ
42 基板
51 るつぼ
52 電荷供給部
54 炭素
55 加熱コイル
α 偏向角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマを発生させるプラズマ発生部と、
前記プラズマに所定の電界をかけて加速させる加速部と、
前記加速させたプラズマによるイオンビームが入射するスリット穴を備えた入射スリット板と、
前記入射スリット板のスリット穴から入射したイオンビームの軌道を曲げる静電プリズムと、
前記静電プリズムによって軌道が曲げられたイオンビームが通過するスリット穴を備えた出射スリット板と、
前記出射スリット板のスリット穴から出射したイオンビームが成膜対象物に照射される成膜室とを備えたことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
請求項1に記載された成膜装置において、
前記プラズマ発生部は、真空アーク放電を使用してプラズマを発生させるか、または固体材料を抵抗加熱により気化し、気化した前記材料に電子ビームを照射し、帯電させることによってプラズマを発生させることを特徴とする成膜装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の成膜装置において、
特定のエネルギーを持つイオンのみによる膜を成膜するように構成したことを特徴とする成膜装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載された成膜装置において、
前記プラズマ発生部より炭素イオンを発生させることを特徴とする成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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