説明

所定のキラリティーを有する生分解性ポリマー

キラルな予備重合されたモノマーに由来するモノマー残基から構成される光学活性なポリマーであって、予備重合されたモノマーのキラリティーを重合時に維持するポリマーが開示される。これらのポリマーは、容易に入手可能なキラルなモノマーに由来するモノマー残基から構成されることが可能であり、かつ、所定の特徴(例えば、キラリティー、生分解性および機能性など)を有するように設計されることができる。これらのポリマーの治療効果のある薬剤として、および/または、活性な薬剤を標的化された身体部位に送達するために、および/または、活性な薬剤の持続した放出のための、治療効果のある薬剤の担体としての使用がさらに開示される。これらのポリマー、ポリマーを含有する組成物および医療用デバイス、およびこれらのポリマーと様々な薬剤とのコンジュゲートを調製するプロセスもまた開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリマー、より具体的には、所定のキラリティーを有する生分解性ポリマー、かかる生分解性ポリマーを調製するプロセス、生分解性ポリマーを含有するヘテロ立体選択的複合体、コンジュゲートおよび組成物、ならびに、それらの使用に関連する。
【背景技術】
【0002】
生分解性ポリマーは、生物学的環境(例えば、生物の体内、微生物の存在下、および/または、生体媒質)において、化学的分解、代謝的分解(加水分解または酵素消化などの生物学的プロセスによる代謝的分解)および/または機械的分解を受けるポリマー物質である。かかるポリマー物質の生分解性によって、ポリマー物質は、環境に優しい製造物を組み立て、および、多くの医学的な適用において使用するのに非常に好適なものとされている。
【0003】
従って、様々な生分解性ポリマー物質が、例えば、農業、漁業材料、衛生品および日常生活品(例えば、マスク、濡れティッシュ(ワイプ)、肌着、タオル、ハンカチ、キッチンタオルおよびおむつ)を含む多様な分野において長年にわたって使用されている。生分解性ポリマーを利用する医学的適用には、例えば、整形外科手術、これには、骨折の固定、骨置換、軟骨修復、半月板修復および靱帯固定が含まれる;吸収性デバイス、例えば、整形外科手術、口腔外科手術および頭蓋顔面外科手術のためのネジ、ピン、プラグおよびプレート、ならびに、吸収性縫合糸など;組織工学のための足場;および薬物担体が挙げられる。生分解性薬物担体の使用は、薬物の持続した全身的放出を可能にし、一方で、担体の望ましくない残留影響を回避するので、薬物を送達するための最も効果的な経路である。
【0004】
非毒性は、医学的適用のために設計される生分解性ポリマーのための実質的な必須条件であるので、かかる生分解性ポリマーの出発物質、最終製造物、および、場合により生じる分解生成物は非毒性かつ有益でなければならない。分解生成物はまた、好ましくは、小さく、水溶性分子でなければならない。
【0005】
生分解性ポリマーの完全分解時間は、主にポリマー鎖の化学的構造およびポリマーの物理的特性(例えば、密度、表面積およびサイズなど)によって、数日から数年に及ぶことがある。
【0006】
医学的適用で使用されるとき、意図された使用のために、生分解性ポリマーはその性質に従って選択される。従って、例えば、半結晶性ポリマー(例えば、ポリ(L−乳酸))が、典型的には、良好な機械的特性を必要とする医療用デバイス(例えば、縫合糸など)、整形外科手術および心臓血管手術のためのデバイス、ならびに、ステントにおいて使用される。他方で、非晶質ポリマー(例えば、ポリ(DL−乳酸−co−グリコール酸))が、ポリマーマトリックス内における活性種の均一な分散を有することが重要である薬物送達適用において注目される。
【0007】
生分解ポリマーの分解速度は様々な要因によって決定され、例えば、初期分子量、露出表面積、および、ポリマーの結晶化度、コポリマーの場合におけるモノマーの量的比率、ポリマーのキラリティー(純粋なエナンチオマー形態またはジアステレオマー形態に対するラセミ混合物)、添加剤または不純物の存在、分解機構(例えば、酵素的切断対加水分解)、埋め込み部位(例えば、皮下組織対骨)、ポリマーが受ける真応力などによって、また、受容者の年齢によってさえも決定される。
【0008】
生分解性は、典型的には、加水分解に不安定な連結を骨格に有するポリマーを合成または使用することによって達成される。加水分解に不安定な骨格の化学的な加水分解が、ポリマーの分解についての有力な機能である。生分解性ポリマーは天然または合成のいずれでも可能である。医学的適用において一般に使用される合成ポリマーには、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールおよびポリ(ヒドロキシプロピルメタクリルアミド)が挙げられる。加えて、天然ポリマーもまた、医学的適用において使用される。例えば、デキストラン、ヒドロキシエチルデンプン、アルブミン、および、部分的に加水分解されたタンパク質が、代用血漿から、放射性医薬品、非経口栄養法にわたる様々な適用において使用される。
【0009】
一般に、合成ポリマーは、天然の供給源に由来する物質が可能であるよりも広範囲の様々な特性、および、より予測可能なロット毎の均一性を与えるために細かく調節することができるという点で、天然物よりも大きな利点をもたらすことができる。合成ポリマーはまた、原料のより信頼できる供給源、すなわち、感染または免疫原性の心配がない供給源である。
【0010】
ポリマー物質を調製する様々な方法が当該技術分野では周知である。しかしながら、医学的使用のための十分な生分解性、生体適合性、親水性および最小限の毒性を示すポリマー物質の調製を問題なくもたらす合成法は少ない。現時点で利用可能なバイオポリマーの制限された数および種類がこれを証明している。
【0011】
医学的適用のための現在使用されている生分解性ポリマーはそれらの化学的構造によって下記のように分類することができる:
多糖類、例えば、デンプン、セルロース、キチン、キトサンおよびアルギン酸;
天然起源のポリペプチド、例えば、ゼラチンなど;
炭素骨格を有するポリマー、例えば、ポリビニルアルコールおよびポリ酢酸ビニルなど;および
加水分解可能な骨格を有するポリマー、例えば、ポリエステル、ポリカプロラクトン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリ無水物およびポリ(アミド−エナミン)など。
【0012】
いくつかの一般に使用されている生分解性ポリマーは、加水分解可能なポリマーの様々な組合せおよび変化体から構成されるコポリマーである。
【0013】
生分解性ポリマーの最も注目されている群の1つが、水性媒体に置かれたとき、そのエステル結合がヒドロキシカルボン酸モノマーに容易に加水分解される−O−R−C(=O)−の反復ユニットによって特徴づけられるポリエステルのファミリーである。
【0014】
様々なポリエステルを、ジオールおよびジカルボン酸の重縮合によって、または、ヒドロキシカルボン酸の自己重縮合によって、または、環状エステル(ラクトン)の開環重合(ROP)によって塊状または溶液で合成することができる。
【0015】
重縮合は、モノマーの様々な組合せについて適用可能であり得るが、一般に、高分子量のポリマーを得るためには高い温度および長い反応時間を必要とする。加えて、得られたポリマーの鎖長を制御することができない。より大きい分子量のポリマーが必要であるならば、最初に得られたポリマーを、例えば、ジイソシアネート、ビス(アミノ−エーテル)、ホスゲン、ホスファートおよび無水物を使用することによってさらに架橋することができる。重縮合のための最も有用なモノマーは、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸およびヒドロキシカプロン酸であり、これらのポリマーは、それらの安全性における長い歴史において知られている。
【0016】
開環重合は、限られた数のモノマーに関してだけ行うことができるが、重縮合による重合と比較して、より穏和な反応条件のもとで実施することができ、また、高分子量のポリマーを短い時間でもたらす。さらに、リビング重合のための触媒および開始剤における近年の進歩は、制御された鎖長のポリエステルを得ることを可能にしている。
【0017】
ポリエステルの特に好都合なサブファミリーには、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)が含まれる。PHAは、必須栄養素(例えば、窒素またはリンなど)が限界濃度でしか利用できないときに、過剰な炭素源の存在下でエネルギー保存物質として数多くの微生物によって自然に製造される。PHAはまた、アミド結合およびエステル結合によって結合されたヒドロキシ酸およびアミノ酸から構成されるデプシペプチド(自然界において至る所に存在するバイオオリゴマー)の一部を形成する。デプシペプチドは近年、抗ガン剤、抗ウイルス剤、抗菌剤、抗真菌剤、抗凝固剤、アテローム産生抑制剤および抗炎症剤としての大きい治療的可能性を示すことが示されている[Villar−GareaおよびEsteller、Int.J.Cancer、2004、112:171〜178;Sparidans他、Biomed.Chromatogr.、2004:18:16〜20;MayerおよびGustafson、Int.J.Cancer、2003:105:291〜299]。デプシペプチドは、アミノ酸とともに、天然のキラルプールにおける構成成分であると見なされる。
【0018】
PHAは、様々な土壌微生物、海洋微生物、湖水微生物および下水微生物によって、好気的条件のもとでは水および二酸化炭素に、また、嫌気性条件のもとではメタンに完全に分解する。PHAは、モノマーユニットの性質によって、硬い結晶性〜弾性の広範囲の様々な機械的特性を示す。例えば、MCL−PHA(中程度の鎖長;6〜10)は、低い融点、低い引張り強度、および、大きい破断点伸びを有する半結晶性エラストマーであり、架橋後、生分解性ゴムとして使用することができる。一部のPHAは熱可塑性プラスチックの特性を有する。
【0019】
ポリ(3−ヒドロキシブチレート)(PHB)は、最も研究されているPHAであり、野生型微生物から産生されたとき、多分散度が約2である、10kDa〜3000kDaの範囲の分子量を有する。そのガラス転移温度は180℃近くであり、結晶性PHBおよび非晶質PHBの密度はそれぞれ1.26g/cmおよび1.18g/cmである。その機械的特性(例えば、ヤング率および引張り強度)はポリプロピレンの機械的特性に近いが、その破断点伸びはポリプロピレンの破断点伸びよりも著しく低い。
【0020】
従って、PHAは、一般に使用されている合成された生分解性ポリマーに対する魅力的な代替物を提供する。
【0021】
PHAの一般的な構造が下記の式Iに示され、この場合、式において、星印はキラル中心(不斉炭素、Rが水素と異なるとき)を示す:

例示的なPHAには、ポリ(3−ヒドロキシプロピオネート)(R=メチル)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)(R=エチル)、ポリ(3−ヒドロキシバレレート)(R=プロピル)、ポリ(3−ヒドロキシヘキサノエート)(R=ブチル)、ポリ(3−ヒドロキシオクタノエート)(R=ペンチル)およびポリ(3−ヒドロキシドデカノエート)(R=ノニル)が含まれる。
【0022】
PHAの特徴づけおよび生分解のさらなる一般的な特徴が、例えば、VertおよびGarreau[Clin Mater、1992;10:3〜8]、SeebachおよびFritz[International Journal of Biological Macromolecules、1999:25:217〜236]、Brandl他[Adv Biochem Eng Biotechnol、1990;41:77〜93]、Bonthrone他[FEMS Microbiol Rev、1992;10:269〜78]、Mergaert他[FEMS Microbiol Rev、1992;10:317〜22]に記載される。
【0023】
1つ以上の立体中心を有する生分解性ポリマー(すなわち、光学活性なポリマー)は、薬物送達のための担体として使用されたとき、好都合な特徴をもたらす。多くの生物学的に活性な分子は光学活性(キラル)であり、また、通常、生物学的活性は、分子の光学純度によって大きく変化し得る。多くの研究活動が、純粋なエナンチオマーを得ることを可能にする技術の開発に集中している。キラル(光学活性)な薬物の担体として役立つとき、所定のキラリティーを有する生分解性ポリマーは、キラルな薬物とのヘテロステレオ複合体を形成するために役立つことができ、従って、光学活性な送達システムとして役立つ。
【0024】
ヘテロステレオ複合体化は、例えば、ペプチド、タンパク質および他の光学活性な高分子を送達するために利用することができる、相補的な光学活性ポリマー鎖の間での相互作用における新しい概念である。薬物粉末がポリマーマトリックスに物理的に閉じ込められ、ペプチドがマトリックスを介して拡散によって放出される一般的な送達システムとは異なり、ステレオ複合体は、光学活性な薬物と、その相補的なポリマー鎖との間での立体特異的な相互作用を形成する。生理学的条件下での薬物放出は、薬物との相互作用を低下させるポリマー鎖の切断によるものである。
【0025】
近年、光学活性なポリ乳酸(PLA)型ポリマーが様々なペプチドとの安定なヘテロステレオ複合体を形成することが示されている。SlangerおよびDombは、ヘテロ複合体化を、D−PLAと、L型ペプチド(例えば、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)[Eur.J.Pharma.Biopharm.(2004)、58 461〜469;Macromolecules(2003)、36、2999〜3000]、ロイプロイド(LHRHのノナペプチド類似体)[Biomacromolecules(2003)、4、1308〜1315]、バプレオチド(環状のオクタペプチドのソマトスタチン類似体)[Advanced Drug Delivery Reviews、55(2003)、549〜583]、インスリン[Biomaterials、23(2002)、4389〜4396]、リゾチームおよびソマトスタチン[Journal of Controlled Release(2005)、107(3)、474〜483]など)との間で報告した。
【0026】
さらに、所定のキラリティーを有する生分解性ポリマーは、様々な膜を介する薬物送達システムの浸透を強化するために使用することができる。従って、例えば、エナンチオ選択的な経皮浸透がいくつかのキラルな賦形剤により観測されたことが報告されている。このことは、キラルなポリマーを薬物担体として使用することにより、活性な薬物のみが皮膚を浸透することが推定され得ることを示している[Reddy他、Crit Rev Ther Drug Carrier Syst、2000、17(4):285〜325]。
【0027】
加えて、生分解性ポリマーが、酵素的切断により生分解するように設計されるとき、ポリマーまたはその一部分のキラリティー(すなわち、LまたはD)が非常に重要な役割を分解プロセスにおいて果たす。従って、D型キラリティーを有する生分解性ポリマーの部分は酵素的分解に対して安定であると考えられ、それにより、L型キラリティーを有するポリマーの部分が酵素的分解を容易に受けやすいと考えられる。
【0028】
キラルな生分解性ポリマーの有益な効果、および、一般にはポリエステル、具体的にはPHAに関連するその他の利点は、多くの研究者に、α−ヒドロキシカルボン酸(これらのポリマーのビルディングブロック)の特性および合成を研究することを促している。
【0029】
α位のヒドロキシル基が内部の制御要素を提供し、これにより、プロキラルな官能基の立体選択的な転換を容易にする数多くの例が存在する。キラルなα−ヒドロキシカルボン酸エステル、α−ヒドロキシカルボン酸およびその塩が、さらなるキラル中心を含有するポリエステルを合成するための多彩な合成中間体をもたらすことが見出されている。
【0030】
α−アミノカルボン酸(アミノ酸、AA)は比較的安価な試薬であると見なされるが、α−ヒドロキシカルボン酸またはその塩をα−アミノカルボン酸またはその塩から直接に製造する従来的な化学的方法の例はほんのわずかである。そのような転換の大きな障害は一般には、比較的非反応性で、かつ、立体化学的に影響を受けやすい中心における極めて大きい極性の化合物に対する、水に敏感な試薬および低温度の使用から生じている。
【0031】
従って、例えば、α−ヒドロキシカルボン酸を、α−ケトカルボン酸またはα−ケトエステルを出発物質として使用して調製することができる。しかしながら、この方法論は、出発物質の非キラリティー、高コストおよび入手の限定のために制限される。最終生成物のキラリティーが、多くの場合、化学量論的な量のキラルな補助物によって誘導され、これは数工程の合成段階および/または嵩張った高価なキラルな還元剤を必要とする。
【0032】
エノンのエナンチオ選択的還元を、触媒量のキラルなオキサザボロリジン化合物を使用して達成することができる[Coney他、Tet.Lett.、1990、31、611]。しかしながら、連続する4回の化学的変換が、最初に形成されたキラルなアルコールをα−ヒドロキシエステルに転換するために要求され、このことはコストおよび収率に明らかに関わる。
【0033】
キラルなα−ヒドロキシカルボン酸を製造する様々な酵素的方法もまた提案されている。これらの方法では、α−ケトカルボン酸エステルまたはα−ケトカルボン酸が前駆体として利用され、精製または単離されたレダクターゼによる触媒反応が伴う[例えば、米国特許第5098841号、同第4326031号および同第5686275号を参照のこと]。
【0034】
国際特許出願公開WO02/33110は、α−アミノカルボン酸またはその塩を、α−ヒドロキシ酸を効率的かつ安価に製造するための出発物質として利用するプロセスを開示する。このプロセスは、乳酸デヒドロゲナーゼ(LAD)とともにアミノ酸デアミナーゼ(AAD)の2つの酵素の使用を伴う。しかしながら、この特許出願は、生分解性ポリエステルを調製するためのヒドロキシカルボン酸の使用を教示しておらず、従って、アミノ酸を出発物質として使用する一方で、生分解性ポリエステルを提供することはさらに教示していない。
【0035】
生分解性ポリマーの製造におけるタンパク性物質の使用が近年、国際特許出願公開WO04/50732に開示される。国際特許出願公開WO04/50732の教示によれば、タンパク性基質の第一級アミン基および/またはアミド基がヒドロキシル基および/またはカルボキシル基によってそれぞれ置換され、得られた基質が重合に供される。ヒドロキシル基およびカルボキシル基は、亜硝酸または亜酸化窒素との反応によって基質に導入される。ヒドロキシル基およびカルボキシル基は、アミンおよびアミドを基質のN末端またはその側鎖のいずれかで置換することによって基質に導入される。その後、重合がヒドロキシル基およびカルボキシル基の間でのエステル結合の形成によって行われる。この特許出願の好ましい実施形態において、ペプチドの側鎖におけるアミン基またはアミド基がヒドロキシル基またはカルボキシル基によって置換され、重縮合が、2つのポリマーにおける2つの適合し得る側鎖の間で行われ、それにより、ポリエステル結合によりそれらの間で相互に連結されるポリアミドを生じさせる。タンパク性物質の修飾およびその重合が行われる条件は比較的過酷であり、また、タンパク性物質のキラリティーを維持することには向けられていない。
【0036】
さらに、タンパク性物質の機能性が、その側鎖を重合のために利用することによって影響を受ける。従って、国際特許出願公開WO04/50732は、予備重合物の元のキラリティーおよび機能性を重合時に維持しながら、タンパク性物質を重合するプロセスを教示していない。
【0037】
従って、ポリマーを形成する予備重合されたモノマーのキラリティーおよび機能性(例えば、側鎖構造)が維持される、ポリマー(具体的には、ポリヒドロキシアルカノエート)を製造する新規なプロセスが求められていることが広く認識されており、また、そのようなプロセスを有することは非常に好都合である。
【発明の開示】
【0038】
本発明の1つの態様によれば、互いに連結されかつポリマー骨格を形成する複数のモノマー残基を含み、モノマー残基の少なくとも一部分が少なくとも1つのキラルな予備重合されたモノマーの残基を含むポリマーが提供され、この場合、キラルな予備重合されたモノマーのキラリティーがポリマー内のモノマー残基において維持され、さらに、キラルな予備重合されたモノマーにおける不斉原子が骨格の一部を形成し、ただし、ポリマーはポリペプチドでない。
【0039】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、キラルな予備重合されたモノマーはキラルなアミノ酸の誘導体である。
【0040】
本発明の好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、キラルなアミノ酸は、D−α−アミノ酸、L−α−アミノ酸、D−β−アミノ酸およびL−β−アミノ酸からなる群から選択される。
【0041】
本発明の好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、キラルなアミノ酸の誘導体は、α−ヒドロキシアミノ酸、アミノ酸の2−アルキル−1,2−ジオール誘導体、および、アミノ酸のアミノアルコール誘導体からなる群から選択される。
【0042】
本発明の好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、少なくとも1つのキラルな予備重合されたモノマーのそれぞれが独立して下記の一般式IIaまたは一般式IIbを有する:

式中、
それぞれのは独立してR型立体配置またはS型立体配置を示す;RおよびR’のそれぞれは独立して、水素、正荷電部分、負荷電部分、疎水性部分、および親水性部分からなる群から選択され、ただし、RおよびR’の少なくとも1つは水素ではない;Zは、OH、SHおよびNHからなる群から選択される;Wは、=OおよびRaRb(式中、RaおよびRbのそれぞれは独立して、水素またはアルキルである)からなる群から選択される);
ただし、予備重合されたモノマーはアミノ酸ではない。
【0043】
本発明の好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、RおよびR’の少なくとも1つがアミノ酸の側鎖である。
【0044】
本発明の好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、ポリマーはさらに、アミノ酸残基、ヒドロキシカルボン酸残基、ジアルキレングリコール残基、およびジカルボン酸残基からなる群から選択される少なくとも1つのモノマー残基を含む。
【0045】
本発明の好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、モノマー残基は、エステル結合およびアミド結合からなる群から選択される結合によって互いに連結される。
【0046】
本発明の好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、ポリマーは生分解性ポリマーである。
【0047】
本発明の好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、ポリマーは約1000Da〜約50000Daの範囲の分子量を有する。
【0048】
本発明の別の態様によれば、少なくとも1つのキラルな予備重合されたモノマーを重合し、それにより、互いに連結されかつポリマー骨格を形成する複数のモノマー残基を含み、複数のモノマー残基の少なくとも一部分が少なくとも1つのキラルな予備重合されたモノマーの残基であるポリマーを形成することを含む、ポリマーを調製するプロセスが提供され、この場合、キラルな予備重合されたモノマーのキラリティーがポリマー内のモノマー残基において維持され、さらに、キラルな予備重合されたモノマーにおける不斉原子が骨格の一部を形成し、ただし、ポリマーはポリペプチドでない。
【0049】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、重合は、キラルな予備重合されたモノマーの少なくとも2つを縮合することを含む。
【0050】
本発明の好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、このプロセスはさらに、重合する前に、少なくとも1つのキラルな予備重合されたモノマーを環化し、それにより、少なくとも1つのキラルな予備重合されたモノマーの少なくとも1つの残基を含む環状化合物を提供することを含む。
【0051】
本発明の好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、重合は開環重合を含む。
【0052】
本発明の好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、環化はケトンの存在下で行われ、環状化合物はさらにこのケトンの残基を含む。
【0053】
本発明の好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、重合は酵素触媒による重合を含む。
【0054】
本発明の好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、ポリマーは、実質的に、少なくとも1つのキラルな予備重合されたモノマーのモノマー残基からなり、重合は、少なくとも1つのキラルな予備重合されたモノマーの少なくとも2つを互いに結合し、それにより、互いに連続して連結されている少なくとも1つのキラルな予備重合されたモノマーの少なくとも2つの残基を含む少なくとも1つのオリゴマーを形成すること、および、そのような少なくとも1つのオリゴマーを重合することを含む。
【0055】
本発明の好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、ポリマーはさらに、ヒドロキシカルボン酸の少なくとも1つの残基を含み、重合は、少なくとも1つのキラルな予備重合されたモノマーおよび少なくとも1つヒドロキシカルボン酸を結合し、それにより、ヒドロキシカルボン酸の残基に連結されている少なくとも1つのキラルな予備重合されたモノマーの残基の少なくとも1つのコンジュゲートを形成すること、および、そのような少なくとも1つのコンジュゲートを重合することを含む。
【0056】
本発明の好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、ポリマーはさらに、ジカルボン酸の少なくとも1つの残基を含み、重合は、少なくとも1つのキラルな予備重合されたモノマーおよび少なくとも1つのジカルボン酸を結合し、それにより、ジカルボン酸の残基に連結されている少なくとも1つのキラルな予備重合されたモノマーの残基の少なくとも1つのコンジュゲートを形成すること、および、そのような少なくとも1つのコンジュゲートを重合することを含む。
【0057】
本発明の好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、少なくとも1つのキラルな予備重合されたモノマーはキラルなアミノ酸の誘導体である。
【0058】
本発明の好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、キラルなアミノ酸の誘導体は、α−ヒドロキシアミノ酸、アミノ酸の2−アルキル−1,2−ジオール誘導体、および、アミノ酸のアミノアルコール誘導体からなる群から選択される。
【0059】
本発明の好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、キラルなアミノ酸の誘導体はα−ヒドロキシアミノ酸であり、プロセスはさらに、重合する前に、キラルなアミノ酸をα−ヒドロキシアミノ酸に変換することを含み、ただし、α−ヒドロキシアミノ酸はキラルなアミノ酸のキラリティーを維持する。
【0060】
本発明の好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、変換は、キラルなアミノ酸と亜硝酸塩との反応を含む。
【0061】
本発明の好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、変換は、キラルなアミノ酸を、アミノデアミナーゼおよび乳酸デヒドロゲナーゼによって行われる酵素触媒反応に供することを含む。
【0062】
本発明の好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、キラルなアミノ酸の誘導体はアミノ酸の2−アルキル−1,2−ジオール誘導体であり、プロセスはさらに、重合する前に、キラルなアミノ酸をα−ヒドロキシアミノ酸に変換すること(ただし、α−ヒドロキシアミノ酸はキラルなアミノ酸のキラリティーを維持する)、および、α−ヒドロキシアミノ酸をアミノ酸の2−アルキル−1,2−ジオール誘導体に変換すること(ただし、アミノ酸の2−アルキル−1,2−ジオール誘導体はキラルなアミノ酸のキラリティーを維持する)を含む。
【0063】
本発明の好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、キラルなアミノ酸の誘導体はアミノ酸のアミノアルコール誘導体であり、プロセスはさらに、重合する前に、キラルなアミノ酸をアミノ酸のアミノアルコール誘導体に変換すること(ただし、アミノ酸のアミノアルコール誘導体はキラルなアミノ酸のキラリティーを維持する)を含む。
【0064】
本発明のさらに別の態様によれば、活性な薬剤が結合している本明細書中に記載されるポリマーを含むコンジュゲートが提供される。
【0065】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、活性な薬剤は、治療効果のある薬剤、標識化剤、架橋剤およびさらなるポリマーからなる群から選択される。
【0066】
本発明の好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、活性な薬剤は治療効果のある薬剤である。
【0067】
本発明の好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、活性な薬剤はキラルな活性な薬剤である。好ましい実施形態において、そのような薬剤は、本発明のポリマーとのヘテロステレオ複合体を形成する。
【0068】
従って、本発明のさらに別の態様によれば、キラルな薬剤が複合体化されている本明細書中に記載されるポリマーを含むヘテロステレオ複合体が提供され、この場合、キラルな薬剤は、ポリマーとの立体相互作用を形成するために好適な立体配置を有する。好ましくは、キラルな薬剤はキラルな治療効果のある薬剤であり、例えば、ペプチド、タンパク質およびキラルな高分子などであるが、これらに限定されない。
【0069】
本発明のさらなる態様によれば、本明細書中に記載されるポリマーと、医薬的に許容され得る担体とを含む医薬組成物が提供される。
【0070】
本発明のなおさらなる態様によれば、医薬品を調製するための、本明細書中に記載されるポリマーの使用が提供される。
【0071】
本発明のさらにさらなる態様によれば、その必要性のある対象において病状を治療する方法であって、本明細書中に記載されるポリマーを対象に投与することを含む方法が提供される。
【0072】
本発明のさらなる態様によれば、本明細書中に記載されるコンジュゲートと、医薬的に許容され得る担体とを含む医薬組成物が提供される。
【0073】
本発明のなおさらなる態様によれば、医薬品を調製するための、本明細書中に記載されるコンジュゲートの使用が提供される。医薬品は、本発明のポリマーに結合した治療効果のある薬剤が有益である病状を治療するためのものであり得るか、または、そのような治療効果のある薬剤を標的化された身体部位に送達するためのものであり得る。
【0074】
本発明のさらにさらなる態様によれば、薬剤を環境(例えば、生物の身体)にゆるやかに放出する方法が提供され、この場合、この方法は、薬剤を結合している本明細書中に記載されるポリマーを含むコンジュゲートを環境と接触させることを含む。あるいは、この方法は、キラルな薬剤を複合体化している本明細書中に記載されるポリマーを含むヘテロステレオ複合体(この場合、キラルな薬剤は、ポリマーとの立体相互作用を形成するために好適な立体配置を有する)を環境と接触させることを含む。
【0075】
本発明のさらなる態様によれば、治療効果のある薬剤をその必要性のある対象の身体器官に送達する方法であって、本明細書中に記載されるコンジュゲートの治療効果的な量を対象に投与することを含む方法が提供される。
【0076】
本発明のなおさらなる態様によれば、その必要性のある対象において病状を治療する方法が提供され、この場合、この方法は、病状の治療において有益である治療効果のある薬剤が結合しているか、または複合体化されている本明細書中に記載されるコンジュゲートまたはヘテロステレオ複合体の治療効果的な量を対象に投与することを含む。
【0077】
本発明のさらなる態様によれば、本明細書中に記載されるポリマーおよびコンジュゲートのいずれかを含む医療用デバイスが提供される。
【0078】
本発明は、所定のキラリティーおよび他の機能的な特性を有し、費用効果的かつ入手可能な出発物質を利用することによって調製される新規な光学活性ポリマーであって、それ自体が治療効果のある高分子として、また、薬物(特に、光学活性な薬物)を、同様にまた、他の医学的適用または非医学的適用において使用される物質を送達するための新規な担体として役立ち得る光学活性ポリマーを提供することによって、現在知られている形態の欠点に対処することに成功している。
【0079】
別途定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中に記載される方法および材料と類似または同等である方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、好適な方法および材料が下記に記載される。矛盾する場合には、定義を含めて、本特許明細書が優先する。加えて、材料、方法および実施例は例示にすぎず、限定であることは意図されない。
【0080】
本明細書中で使用される場合、用語「含む(comprising)」は、最終結果に影響しない他の工程および成分が加えられ得ることを意味する。この用語は、用語「からなる(consisting of)」および用語「から本質的になる(consisting essentially of)」を包含する。
【0081】
表現「から本質的になる(consisting essentially of)」は、さらなる成分および/または工程が、特許請求される組成物または方法の基本的かつ新規な特徴を実質的に変化させない場合にだけ、組成物または方法がさらなる成分および/または工程を含み得ることを意味する。
【0082】
本明細書中で使用される場合、用語「約(about)」は±10%を示す。
【0083】
本明細書中で使用される場合、単数形態(「a」、「an」および「the」)は、文脈がそうでないことを明確に示さない限り、複数の参照物を包含する。例えば、用語「化合物(a compound)」または用語「少なくとも1つの化合物」は、その混合物を含めて、複数の化合物を包含し得る。
【0084】
本開示を通して、本発明の様々な態様が範囲形式で提示され得る。範囲形式での記載は単に便宜上および簡潔化のためであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない限定として解釈すべきでないことを理解しなければならない。従って、範囲の記載は、具体的に開示された可能なすべての部分範囲、ならびに、その範囲に含まれる個々の数値を有すると見なさなければならない。例えば、1〜6などの範囲の記載は、具体的に開示された部分範囲(例えば、1〜3、1〜4、1〜5、2〜4、2〜6、3〜6など)、ならびに、その範囲に含まれる個々の数値(例えば、1、2、3、4、5および6)を有すると見なさなければならない。このことは、範囲の広さにかかわらず、適用される。
【0085】
数値範囲が本明細書中で示される場合には常に、示された範囲に含まれる任意の言及された数字(分数または整数)を含むことが意味される。第1の示された数字および第2の示された数字「の範囲である/の間の範囲(ranging/ranges between)」という表現、および、第1の示された数字「から」第2の示された数「まで及ぶ/までの範囲」という表現は、交換可能に使用され、第1の示された数字と、第2の示された数字と、その間のすべての分数および整数とを含むことが意味される。
【0086】
図面の簡単な記述
本明細書では本発明を単に例示し図面を参照して説明する。特に詳細に図面を参照して、示されている詳細が例示として本発明の好ましい実施形態を例示考察することだけを目的としており、本発明の原理や概念の側面の最も有用でかつ容易に理解される説明であると考えられるものを提供するために提示していることを強調するものである。この点について、本発明を基本的に理解するのに必要である以上に詳細に本発明の構造の詳細は示さないが、図面について行う説明によって本発明のいくつもの形態を実施する方法は当業者には明らかになるであろう。
図1は、本発明の好ましい実施形態による例示的なポリマーの概略図を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0087】
本発明は、光学活性(キラル)な予備重合されたモノマーに由来するモノマー残基から構成されるポリマーに関し、この場合、モノマー残基は、予備重合されたモノマーのキラリティーを重合時に維持しており、従って、光学活性なポリマーを形成する。本発明のポリマーは、容易に入手可能なキラルなモノマーに由来するモノマー残基から構成されることが可能であり、また、所定の特徴(例えば、キラリティー、生分解性および機能性など)を有するように設計することができる。本発明はさらに、このようなポリマーを含有する組成物、および、このようなポリマーを利用する方法に関する。本発明によるポリマーは、それ自体で治療効果のある薬剤として、あるいは、例えば、活性な薬剤を標的化された身体部位に送達するために、および/または、活性な薬剤の持続した放出のために使用することができる、治療効果のある薬剤の担体として、あるいは、医療用デバイスおよび他の製造物を組み立てることにおいて使用することができる。本発明はさらに、そのようなポリマーを調製するプロセスに関する。本発明はさらに、このようなポリマーと、様々な薬剤とのコンジュゲートに関し、具体的には、このようなポリマーと、立体相補的な高分子(例えば、ペプチドおよびタンパク質など)とのヘテロステレオ複合体に関する。
【0088】
本発明の原理および作用が、図面および付随する説明を参照してより十分に理解することができる。
【0089】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳しく説明する前に、本発明は、その適用において、下記の説明において示される細部、または、実施例によって例示される細部に限定されないことを理解しなければならない。本発明は他の実施形態が可能であり、または、様々な方法で実施または実行されることができる。また、本明細書中で用いられる表現法および用語法は記述のためであって、限定であると見なしてはならないことを理解しなければならない
【0090】
1つ以上の立体中心を有し、かつ、従って、例えば、光学活性な薬物を送達するための効率的な担体として役立ち得る新規な生分解性ポリマーについての広がりつつある必要性を考慮して、本発明者らは、そのようなポリマーを提供するための効率的かつ費用効果的な経路を探求している。従って、本発明を着想する一方で、本発明者らは、アミノ酸を、そのようなポリマーの多彩なビルディングブロックを形成するための入手可能な多様かつ安価な供給源として利用することにより、所望される特性を示す新しく設計されたポリマーを得るための道が開拓され得ることを想像している。
【0091】
本発明を実施に移しているとき、本発明者らは、様々な所定の特性(例えば、キラリティー、生分解性、疎水性/親水性および電荷分布など)を有する光学活性なポリマーを調製するための新規な方法論を考案し、首尾よく実施している。より具体的には、本発明者らは、それぞれが所定のプロフィルを有する数千個のポリマー(具体的には、加水分解により切断可能なポリマー)からなるコンビナトリアルライブラリーを調製するための新規な方法論を考案している。この方法論では、そのキラリティーおよび機能性の両方を維持しながら様々な修飾に供され、その結果、多数のキラルで、機能的なビルディングブロックをもたらす容易に入手可能な出発物質(例えば、アミノ酸など)が利用される。これらのビルディングブロックは、その後、様々な重合プロセスに供することができ、一方で、これらのビルディングブロックはまた、ビルディングブロックのキラリティーを重合期間中に維持し、それにより、様々な側鎖機能性(例えば、電荷プロフィル、疎水性/親水性および反応性など)を示す光学活性なホモポリマー、コポリマー、分枝ポリマーおよび架橋ポリマーを提供するように設計される。
【0092】
従って、本発明の1つの態様によれば、互いに連結されかつポリマー骨格を形成する複数のモノマー残基を含み、それにより、これらのモノマー残基の少なくとも一部分が1つ以上のキラルな予備重合されたモノマーの残基を含むポリマーが提供され、この場合、これらのキラルな予備重合されたモノマーのキラリティーがポリマー内のモノマー残基において維持される。キラルな予備重合されたモノマーは、キラルな予備重合されたモノマーにおける不斉原子が骨格の一部を形成するように選択される。
【0093】
本明細書中を通して使用される用語「モノマー」は、重合プロセスを受けて、それにより、ポリマーを形成することができる化合物を表す。従って、用語「モノマー」は、本明細書中では、ポリマーのビルディングブロックを表すために使用される。従って、用語「ビルディングブロック」および用語「モノマー」は本明細書中では交換可能に使用される。
【0094】
表現「予備重合されたモノマー」は、本明細書中では、重合される前のモノマー状化合物を表すために使用される。この表現は、本明細書中では、予備重合されたモノマーを、予備重合されたモノマーが重合プロセスによってポリマーに取り込まれたとき、モノマーから形成されるモノマー残基と区別するために使用される。
【0095】
本明細書中を通して使用される用語「残基」は、その機能性を維持しながら、別の分子に連結される分子の主要部分を表す。
【0096】
従って、表現「モノマー残基」は、重合したとき、ポリマー内に存在するモノマー状化合物の主要部分を表す。言い換えれば、この表現は、ポリマービルディングブロックまたはポリマー組み立てユニットの残基を表す。この表現は、実際には、予備重合されたモノマーに由来するポリマービルディングブロックを表す。
【0097】
従って、例えば、表現「予備重合されたモノマー」は、本明細書中では、重合可能であるモノマー状化合物、すなわち、他の同じ基または異なる基との共有結合性の結合を一般的な重合プロセスによって形成するために利用することができる1つ以上の反応基を有するモノマー状化合物を表す。そのような反応基には、例えば、カルボン酸基(これは、ヒドロキシル基とのエステル結合、チオールとのチオエステル結合、および、アミン基またはラクタム基とのアミド結合を形成することができる)、不飽和基(例えば、オレフィン類、ジエン類またはアクリロニトリル類の不飽和基)(これはそれらの間で−C−C−結合を形成することができる)などが含まれる。
【0098】
従って、表現「モノマー残基」は、本明細書中では、モノマーが重合したとき、モノマーに由来するポリマーにおけるそのような部分を表すために使用される。
【0099】
表現「モノマー残基」、表現「モノマーユニット」、表現「組み立てユニット」および表現「ビルディングブロックユニット」は本明細書中では交換可能に使用される。
【0100】
本明細書中で使用される用語「ポリマー」は、本明細書中では、反復ユニットから構成される大きい分子を表す。反復ユニットはすべてが同じであり得るか(ポリマー)、または、異なり得る(コポリマー)。反復ユニットはポリマー組み立てユニットに相当し、これはまた、本明細書中では、本明細書中上記で記載されたように、モノマー残基と呼ばれる。
【0101】
ポリマーはその反復ユニットの構造によって分類することができ、線状、分枝状、または、あまり一般的ではないが、環状であり得る。コポリマーは、ポリマー構造においてランダムに配置され得るか、または、反復する配列ブロックで配置され得る2つ以上の異なるモノマーを含有する。溶液中では、絡まったポリマー鎖は、複雑な粘度挙動を与える網状組織をもたらすことができる。一般に、用語「ポリマー」は、様々な分子量を有するホモポリマー、コポリマー(例えば、ブロックコポリマー、グラフトコポリマー、ランダムコポリマーおよび交互ポリマーなど)、ターポリマー、ならびに、それらの混合物および修飾物を包含するが、これらに限定されない。さらに、別途具体的に限定されない限り、用語「ポリマー」には、分子のすべての可能な立体化学的な立体配置および立体配座が含まれる。これらの立体配置および立体配座には、アイソタクチック、シンジオタクチックおよびアタクチック、シスおよびトランス、ならびに、R型立体配座およびS型立体配座の任意の組合せが含まれるが、これらに限定されない。
【0102】
本明細書中で使用される用語「キラル」は、化合物をその鏡像に重ね合わせることをできなくする化合物の特性を表す。
【0103】
用語「キラル」はまた、本明細書中および当該技術分野では、「光学活性」(これは、キラルな物質と、偏光した光との相互作用を表す表現である)と呼ばれる。従って、キラルな物質では、偏光した光ビームの偏光面の回転が生じる。
【0104】
キラルな有機化合物は、典型的には、1つ以上の不斉中心(すなわち、4つの異なる基が結合している四面体型炭素)を有する。不斉原子の周りにおけるこれらの異なる基の配置により、その光学活性が決定される。この配置は、当該技術分野では、S/R;D/L;(−)/(+)などの用語によって決定される。
【0105】
従って、表現「キラルな予備重合されたモノマー」は、本明細書中で定義されるように、1つ以上の不斉原子を有するキラルな化合物を表す。不斉原子は、炭素原子、ケイ素原子、テルル原子、セレン原子および任意の他の四面体型原子が可能である。好ましくは、不斉原子は炭素原子である。
【0106】
従って、キラルな予備重合されたモノマーに由来するポリマー中のモノマー残基のそれぞれが1つ以上の不斉原子(例えば、不斉炭素原子など)を含む。これらのモノマー残基は、これらの不斉原子の少なくとも1つがポリマー骨格の一部を形成するようにポリマー内に構築される。
【0107】
本明細書中および当該技術分野で使用される表現「ポリマー骨格」は、重合をもたらす、モノマー中の反応基の間での反応によって形成される鎖を表す。重合反応に関係しないモノマーユニットの基はポリマー骨格からぶら下がり、「ポリマー側鎖」と呼ばれる。
【0108】
従って、キラルな予備重合されたモノマーに由来するモノマー残基は、キラルなモノマーの不斉原子がポリマー骨格の一部を形成するようにポリマー中に存在する。
【0109】
当該技術分野では周知の用語「キラリティー」は、この表現が本明細書中で定義されるように、化合物の光学活性を表す。従って、表現「キラリティーを維持する」によって、ポリマー内のモノマー残基が、予備重合されたモノマーのキラリティーと同じキラリティーを有することが意味される。例えば、予備重合されたモノマーがS型立体配置の不斉原子を有するならば、モノマー残基におけるその対応する不斉原子は同じ立体配置(すなわち、不斉原子に結合し、重合に関係しない基の同じ立体配置)を有する。
【0110】
本明細書中で使用される用語「部分」は、ポリマーを構築するモノマー残基の実質的な部分を(数百個の残基のうちの1個の残基、または、例えば、数個の残基(例えば、2個、3個、4個または5個)と区別して)表す。従って、用語「部分」は、例えば、ポリマーを構成するモノマー残基の約10%、約20%、約30%、約40%、および、約50%さえも表す。
【0111】
従って、表現「少なくとも一部分」は、多数のモノマー残基に関しては、例えば、ポリマーを構成するモノマー残基の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、および、100%さえも示す。
【0112】
表現「多数のモノマー残基」は3つ以上のモノマー残基を表す。
【0113】
従って、本明細書中に記載されるポリマーは、その意図された使用によって、3個のモノマー残基から、数十個までのモノマー残基、数百個までのモノマー残基、および、数千個までのモノマー残基さえも含むことができる。
【0114】
しかしながら、本明細書中に記載されるポリマーはポリペプチドではない。
【0115】
本明細書中で使用される用語「ポリペプチド」は、ペプチド結合(すなわち、アミド結合、−NH−C(=O)−結合)を介して互いに連結されるアミノ酸残基から実質的には構成される任意のペプチドを表す。この用語は、天然のペプチド(分解生成物、合成的に合成されたペプチド、または、組換えペプチドのいずれかであっても)、および、合成的に合成されたペプチドを包含する。
【0116】
本明細書中で使用される用語「アミノ酸」は、20個の天然に存在するアミノ酸;インビボで翻訳後修飾されることが多いそのようなアミノ酸(これには、例えば、ヒドロキシプロリン、ホスホセリンおよびホスホトレオニンが含まれる);および他の非通常型アミノ酸(これには、2−アミノアジピン酸、ヒドロキシリシン、イソデスモシン、ノルバリン、ノルロイシンおよびオルニチンなどの修飾アミノ酸が含まれるが、これらに限定されない)を包含することが理解される。さらに、用語「アミノ酸」は、D−アミノ酸およびL−アミノ酸の両方を包含する。
【0117】
下記の表1および表2は、天然に存在するアミノ酸(表1)および非通常型/修飾アミノ酸(表2)を列挙し、それらは本発明の種々の実施形態による例示的なアミノ酸を示す。




【0118】
本発明の範囲からさらに除外されるものは、キラルな予備重合されたモノマーに由来するモノマー残基の所定の一部分によって特徴づけられる一般的な非ペプチド系ポリマーである(例えば、D−ポリ乳酸およびL−ポリ乳酸など)。しかしながら、そのようなポリマーのビルディングブロックが、本明細書中に記載されるキラルなモノマーに加えて、本発明の実施形態によるポリマーを構築するために利用され得ることには留意しなければならない。そのようなポリマーを、本明細書中下記において詳しく記載されるように、本明細書中に記載されるポリマーの一部分に加えて、コポリマーまたはブロックポリマーとしてポリマー内にさらに含むことができる。
【0119】
従って、本明細書中に記載されるポリマーは、本明細書中に記載されるように多数のモノマー残基から構成され、従って、これらのモノマー残基の少なくとも一部分がキラルなモノマーに由来し、かつ、予備重合されたモノマーのキラリティーと同じキラリティーを維持する。従って、本明細書中に記載されるポリマーは、多数の立体中心をその骨格に有する光学活性なポリマーである。
【0120】
本明細書中で使用される表現「立体中心」は、ポリマーを構築するために利用される予備重合されたキラルなモノマーの不斉原子に由来する本明細書中で定義されるようなポリマー骨格内の原子を表す。
【0121】
ポリマーが、キラルなモノマーに由来する残基とは異なる1つ以上の残基を含む場合、これらの他の残基は、キラルなモノマーまたは非キラルなモノマーのいずれにも由来し得る。
【0122】
本明細書中に記載されるポリマーの一部分を形成するために利用されるキラルなモノマーは、キラルなモノマーにける不斉原子がポリマー骨格の一部を形成するように、モノマーのキラリティーを維持しながら重合を受けることができる任意の化合物が可能である。
【0123】
本明細書中上記で議論された、生分解性である光学活性なポリマーの利点を考慮して、一方で、本明細書中に記載される新規な方法論を考案しながら、本発明者らは、生分解性であるそのようなポリマーに集中している。
【0124】
従って、本発明の好ましい実施形態によれば、本明細書中に記載されるポリマーは生分解性ポリマーである。
【0125】
本発明の関連で使用される用語「生分解性(の)」は、生理学的条件のもとで分解生成物に分解することができる物質を表す。そのような生理学的条件には、例えば、加水分解(加水分解的切断による分解)、酵素的触媒反応(酵素的分解)および機械的相互作用が含まれる。
【0126】
本発明の関連で使用される用語「生分解性(の)」はまた、生理学的条件のもとで分解して、宿主生物内への生体再吸収を受ける生成物に分解する物質、すなわち、宿主生物の生化学的システムの代謝物になる物質を表す用語「生体再吸収性(の)」を包含する。
【0127】
本明細書中で使用される用語「生分解性ポリマー」は、その少なくとも一部分(これは本明細書中上記で定義される通りである)が生理学的条件のもとで分解するポリマーを示す。従って、ポリマーは生理学的条件のもとで部分的に分解され得るか、または、完全に分解され得る。
【0128】
ポリマーの生分解性は、多くの場合、ポリマーの組み立てユニット(モノマー残基)を連結する連結(結合)のタイプによって決定される。加水分解または酵素的切断を容易に受ける連結は、生分解性(すなわち、分解生成物へのポリマー破壊)が大きいことおよび/または比較的速いことの一因であり、従って、これらの反応に対してより安定である連結は、その生分解性に関して、生分解性が低いことおよび/または遅いことの一因であり、ポリマーの完全な安定性の一因でさえある。連結のタイプをポリマー全体にわたって制御することによって、ポリマーの分解度および分解生成物を決定することができる。
【0129】
従って、本発明の好ましい実施形態によれば、ポリマーを構成するモノマー残基の少なくとも一部分が生分解性の結合によって互いに連結される。
【0130】
表現「生分解性の結合」は、本明細書中では、生理学的条件のもとで切断され得る結合を表すために使用される。切断は、化学的反応(例えば、加水分解)または酵素触媒反応によることが可能である。
【0131】
代表的な例には、エステル結合およびアミド結合が含まれる(これらの用語は本明細書中下記で定義される通りである)。
【0132】
本明細書中で使用される表現「エステル結合」は、カルボン酸エステル結合(−O−C(=O)−)、チオカルボン酸エステル結合(−O−C(=S)−)およびチオカルボン酸チオエステル結合(−S−C(=S)−)を包含する。
【0133】
本明細書中で使用される表現「アミド結合」は、カルボン酸アミド結合(−NRx−C(=O)−)およびチオカルボン酸アミド結合(−NRx−C(=S)−)(式中、Rxは、本明細書中で定義されるように、水素、アルキル、シクロアルキルまたはアリールが可能である)の両方を包含する。
【0134】
本発明の好ましい実施形態において、本明細書中に記載されるポリマーを構成するモノマー残基の少なくとも一部分がカルボン酸エステル結合を介して他のモノマーに連結される。1つの好ましい実施形態において、本明細書中に記載されるポリマーを構成するモノマー残基のすべてがカルボン酸エステル結合を介して互いに連結され、従って、ポリエステルを形成する。他の好ましい実施形態において、本明細書中に記載されるポリマーを構成するモノマー残基がカルボン酸エステル結合およびカルボン酸アミド結合の組合せを介して他のモノマー残基に連結され、従って、アミド結合がその中に分散するポリエステルを形成する。
【0135】
本明細書中上記で議論されたように、本発明者らが、安価で、容易に入手可能な出発物質に由来するポリマーを探求している一方で、本発明の好ましい実施形態において、キラルな予備重合されたモノマーはキラルなアミノ酸の誘導体である。
【0136】
本明細書中上記で定義されたように、本明細書中で使用される表現「アミノ酸」は、天然に存在するアミノ酸および修飾されたアミノ酸の両方を表し、それらの代表的な例が上記の表1および表2にそれぞれ示される。従って、この表現は、例えば、D−α−アミノ酸、L−α−アミノ酸、D−β−アミノ酸およびL−β−アミノ酸を包含する。
【0137】
アミノ酸は、容易に入手可能で、比較的安価で、それにもかかわらず、非毒性の物質であり、従って、本明細書中に記載されるポリマーを構築するための出発物質として使用するために非常に有益である。
【0138】
アミノ酸はさらに、ポリマー特性に属し得ると考えられる広範囲の様々な機能性を提供する。利用可能なアミノ酸の側鎖の多様性および多彩さにより、広範囲の様々な機能性がもたらされ、これらには、例えば、疎水性、親水性、正荷電、負荷電、キラリティー、および、様々な薬剤を結合するための反応性の基が含まれる。従って、アミノ酸に由来するモノマーを選択することによって、これらのモノマーから生じるポリマーの無数の特性を事前に決定することができ、そのような特性には、例えば、ポリマーの疎水性/親水性/両親媒性、および、結果として、その立体的な配置;ポリマーの正味の正荷電、および、結果として、その細胞透過性および/または他の標的化特性;ポリマーのキラリティー、すなわち、D型立体配置、L型立体配置またはそれらの組合せ、および、結果として、酵素的切断に対するその感受性、また、薬剤(例えば、治療効果のある薬剤、標識化部分および架橋剤など)と相互作用するその能力が含まれる(このことは本明細書中下記において詳しく記載される)。
【0139】
さらに、アミノ酸誘導体をポリマーの組み立てユニットとして利用することによって、所望される非毒性の水溶性分解生成物(例えば、アミノ酸または短いペプチド)が、ポリマーが生分解されたときに形成される。
【0140】
本明細書中で使用される用語「誘導体」は、好ましくは、その機能性および構造的特徴の大部分を維持しながら、1つ以上の化学的修飾を受けている化合物を表す。そのような化学的修飾には、例えば、置換、酸化および還元などが含まれる。
【0141】
好ましくは、本明細書中に記載されるポリマーを形成するために利用されるキラルなアミノ酸誘導体は、キラルなアミノ酸誘導体が由来するアミノ酸のキラリティーと同じキラリティーを有する。
【0142】
当該技術分野では周知であるように、アミノ酸のキラリティーはCα−炭素の非対称性に由来する。β−アミノ酸では、キラリティーはCα−炭素および/またはCβ−炭素の少なくとも一方または両方の非対称性に由来し得る。
【0143】
ポリマーを構築するために利用されるモノマーがキラルなアミノ酸誘導体であるとき、非対称なCα−炭素および/またはCβ−炭素により、ポリマー骨格が形成される。
【0144】
下記の実施例の節において明らかにされるように、また、本明細書中下記においてさらに詳しく記載されるように、本発明者らは、キラルなアミノ酸の誘導体を、アミノ酸出発物質のキラリティーを維持しながら製造するための様々な方法論を利用することに成功している。これらの方法論を使用して、キラルなアミノ酸の様々な誘導体(例えば、α−ヒドロキシアミノ酸、このアミノ酸の2−アルキル−1,2−ジオール誘導体、および、アミノ酸のアミノアルコール誘導体など)を、本明細書中に記載されるポリマーを構築するためのキラルなモノマーとして調製し、首尾よく利用している。
【0145】
本明細書中で使用される表現「α−ヒドロキシアミノ酸」は、α−アミノ酸におけるα−アミン基およびβ−アミノ酸におけるβ−アミン基がヒドロキシル基によって置換される本明細書中で定義されるようなアミノ酸を表す。この表現はさらに、α−アミン基またはβ−アミン基がチオヒドロキシ(チオール)基によって置換される本明細書中で定義されるようなアミノ酸を表す。α−ヒドロキシアミノ酸はまた、本明細書中および当該技術分野ではグリコール酸とも呼ばれる。
【0146】
表現「アミノ酸の2−アルキル−1,2−ジオール誘導体」は、α−カルボキシレート基が−CHOH基によって置換される本明細書中上記で定義されるようなα−ヒドロキシアミノ酸を表す。
【0147】
表現「アミノ酸のアミノアルコール誘導体」は、α−カルボキシレート基が−CHOH基によって置換される本明細書中で定義されるようなアミノ酸を表す。
【0148】
従って、本発明の関連で使用される好ましいキラルな予備重合されたモノマーは下記の一般式IIaまたは一般式IIbによって表すことができる:

式中、
それぞれのは独立して、R型立体配置またはS型立体配置を示す;
RおよびR’のそれぞれは独立して、水素、正荷電部分、負荷電部分、疎水性部分および親水性部分からなる群から選択され、ただし、RおよびR’の少なくとも一方は水素ではない;
Zは、OH、SHおよびNHからなる群から選択される;および
Wは、=OおよびRaRb(式中、RaおよびRbのそれぞれは独立して、水素またはアルキルである)からなる群から選択される;
ただし、予備重合されたモノマーはアミノ酸ではない。
乳酸は、ポリマーを構築するために使用される唯一のキラルなモノマーでない限り、本発明のこの実施形態の範囲に含まれる。
【0149】
ZがOHまたはSHであるとき、モノマーはα−ヒドロキシアミノ酸またはそのチオール誘導体である。
【0150】
Wが=Oであるとき、モノマーはα−ヒドロキシアミノ酸またはそのチオール誘導体である。WがRaRbであるとき、モノマーは、アミノ酸の2−アルキル−1,2−ジオール誘導体またはアミノ酸のアルコール誘導体のいずれかである。
【0151】
本明細書中で使用される用語「部分」は、化合物の一部を形成する化学的部分または基を表す。
【0152】
表現「疎水性部分」は、水に対する親和性がわずかであるかまたは全くない化学的部分または基、すなわち、水における溶解性、多くの場合には、他の極性溶媒における溶解性が低いかまたは全くない化学的部分または基を表す。本発明の関連で使用される例示的な好適な疎水性部分は、限定されないが、1つ以上の炭化水素鎖および/または芳香族環から主になる疎水性部分と、非疎水性であってもよいが、疎水性部分の全体的な疎水性を変化させない1つ以上の官能基とを含む。代表的な例には、限定されないが、アルカン、アルケンおよびアリールなど(これらの用語は本明細書中で定義される通りである)、ならびに、それらの任意の組合せが含まれる。
【0153】
表現「親水性部分」は、水に対する大きい親和性を有する化学的部分または基、すなわち、水における溶解性、多くの場合には、他の極性溶媒における溶解性が比較的大きい化学的部分または基を表す。本発明の関連で使用される例示的な好適な親水性部分は、限定されないが、水分子に対する大きい親和性を有する1つ以上の原子または基(これらには、例えば、アミン、ヒドロキシル、チオール、カルボキシレート、ホスファート、スルファート、ホスホネート、スルホネートおよびジオールなど(これらは本明細書中で定義される通りである)が含まれる)を含む親水性部分を含み、ただし、親水性部分は、そのような基の親水性を遮蔽する大きい疎水性基を含まない。
【0154】
本明細書中で使用される表現「負荷電部分」および表現「正荷電部分」は、典型的には水性媒体においてイオン化したとき、少なくとも1つの負荷電または正荷電を有するイオン化可能な基または部分をそれぞれ示す。荷電基は、本明細書中に記載されるモノマー、モノマー残基またはポリマーにおいて、そのイオン化した形態で、または、イオン化する前の形態として、そのいずれでも存在させることができる。代表的な例には、限定されないが、正荷電基については、アミン、グアニジンおよびイミダゾールが含まれ、負荷電基については、カルボキシレート、アミドおよびヒドロキシルが含まれる。
【0155】
本明細書中上記で議論されたように、これらの多彩な部分は、好ましくは、アミノ酸の多彩な側鎖に由来する。従って、好ましくは、上記の式IIaおよび式IIbにおけるRはアミノ酸の側鎖であり、従って、例えば、−(CH−NH−C(NH)(=NH)(アルギニン側鎖)、−(CHNH(リシン側鎖)、−CHOH(セリン側鎖)、−CHOHCH(トレオニン側鎖)、−CH−Cp−OH(チロシン側鎖)、−CHCONH(アスパラギン側鎖)、−CHCOOH(アスパラギン酸側鎖)、−(CHCONH(グルタミン側鎖)、−(CHCOOH(グルタミン酸側鎖)、−CHSH(システイン側鎖)、−H(グリシン側鎖)、−CH(アラニン側鎖)、−CHC(C=CH−N=CH−NH−)(ヒスチジン側鎖)、−CH(CH)CHCH(イソロイシン側鎖)、−CHCH(CH(ロイシン側鎖)、−(CHSCH(メチオニン側鎖)、−CH(フェニルアラニン側鎖)、−CH−C(C=CH−NH−Ph−)(トリプトファン側鎖)および−CH(CH(バリン側鎖)が可能である。
【0156】
従って、例えば、疎水性部分は、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファンおよびそれらの修飾体に由来し得る。
【0157】
正荷電部分は、例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジンおよびそれらの修飾体(例えば、オルニチン、2,3−ジアミノプロピオン酸、2,4−ジアミノ酪酸、2,5,6−トリアミノヘキサン酸、2−アミノ−4−グアニジノブタン酸およびホモアルギニンなど)に由来し得る。
【0158】
負荷電部分は、例えば、アスパラギン酸およびグルタミン酸およびそれらの修飾体に由来し得る。
【0159】
予備重合されたモノマーの側鎖に起因すると考えられる上記特性(例えば、疎水性および電荷など)の程度はさらに、例えば、アミノ酸を選択することによって、例えば、ある程度の疎水性または電荷を有するアミノ酸を選択することによって制御することができる。従って、例えば、トリプトファンの疎水性はフェニルアラニンよりも大きく、フェニルアラニンはロイシンの疎水性よりも大きい。リシンの正荷電はヒスチジンよりも大きい。アスパラギン酸塩の負荷電はグルタミン酸塩よりも大きい。
【0160】
加えて、選択された側鎖は、反応基を含有することによって、機能的な反応性をポリマーの属性にすることができる。
【0161】
本明細書中で使用される表現「反応基」は、何らかの結合の形成をもたらす化学反応を受けることができる化学的な基を表す。結合は、水素結合、静電的結合および共有結合などが可能である。ポリマー内の反応基は、本明細書中下記において詳しく記載されるように、例えば、治療効果のある薬剤、標識化剤、架橋剤および別のポリマーなどとの結合を形成させるために利用することができる。
【0162】
本明細書中上記において詳しく記載されるように、また、本明細書中下記でさらに議論されるように、キラルな予備重合されたモノマーが由来するアミノ酸、および、ポリマー骨格内におけるその配列を選択することによって、ポリマーまたはその一部分の多彩な特性を、容易に入手可能な出発物質を単に利用することによって事前に決定することができる。
【0163】
本明細書中に記載されるキラルな予備重合されたモノマーに由来するモノマー残基に加えて、ポリマーはさらに、他のキラルまたは非キラルなモノマー残基を含むことができる。これらのモノマー残基は、本明細書中上記で概説されるように、生分解性の結合を形成することができる予備重合されたポリマーに由来し得る。あるいは、これらのモノマー残基は、比較的安定な結合を生理学的条件のもとで形成することができ、従って、非分解性の一部分をポリマー内において形成することができる予備重合されたモノマーに由来し得る。従って、ポリマーおよび/またはその一部分の生分解性をさらに、事前に決定することができる。
【0164】
本明細書中に記載される、本発明の実施形態による好ましい予備重合されたモノマーを考慮して、ポリマー内におけるそれ以外のモノマーは、存在する場合には、そのような予備重合されたモノマーとの連結を、好ましくは、ポリマーの光学活性に影響を及ぼさない条件のもとで形成することができるように選択される。
【0165】
そのようなさらなる予備重合されたモノマーの例には、限定されないが、アミノ酸、ヒドロキシカルボン酸、ジカルボン酸およびジアルキレングリコールが含まれる。
【0166】
本明細書中で使用される表現「ヒドロキシカルボン酸」はHO−A−C(=O)OH(式中、Aは、アルキル、シクロアルキルまたはアリール(これらは本明細書中で定義される通りである)である)を表す。
【0167】
表現「ジカルボン酸」はHOC(=O)−A−C(=O)OH(式中、Aは、アルキル、シクロアルキルまたはアリール(これらは本明細書中で定義される通りである)である)を表す。1つの実施形態において、Aはアルキルであり、好ましくは、置換されたアルキルであり、より好ましくは、アミンによって置換されるアルキルである。この実施形態によれば、ジカルボン酸はアミノ酸(例えば、アスパラギン酸など)であり得る。
【0168】
表現「ジアルキレングリコール」はOH−A−OH(式中、Aは本明細書中で定義される通りである)を表す。
【0169】
従って、下記の実施例の節においてさらに例示されるように、本発明の好ましい実施形態によれば、本明細書中に記載されるポリマーは実質的には、本明細書中に記載されるようなキラルなアミノ酸の誘導体のモノマー残基を含む。そのようなポリマーは、例えば、1つ以上の組み立てユニットの反復ユニットを含むことができ、従って、組み立てユニットはキラルなアミノ酸の誘導体の1つ以上のモノマー残基から構成され得る。好ましくは、そのような組み立てユニットはブロックは1個〜10個のモノマー残基を含み、より好ましくは1個〜6個の残基を含み、より好ましくは1個〜4個の残基を含む。
【0170】
さらに、本発明の好ましい実施形態によれば、本明細書中に記載されるポリマーは、キラルなアミノ酸の誘導体のモノマー残基と、ヒドロキシカルボン酸のモノマー残基とを含む。ヒドロキシカルボン酸は、キラルまたは非キラルな脂肪族、脂環族または芳香族が可能であり、さらに、様々な側鎖によって置換することができ、従って、これらの特徴のすべてにより、ポリマーの一部分の特性がさらに決定される場合がある。1つ以上のヒドロキシカルボン酸側鎖は、キラルなアミノ酸の誘導体の1つ以上のモノマー残基と一緒になって、ポリマーにおける反復した組み立てユニットを形成することができる。あるいは、ポリマーは、それぞれが異なるタイプの残基を含むブロックコポリマーを含むことができる。
【0171】
さらに、本発明の好ましい実施形態によれば、本明細書中に記載されるポリマーは、キラルなアミノ酸の誘導体のモノマー残基と、ジカルボン酸のモノマー残基とを含む。ジカルボン酸は、キラルまたは非キラルな脂肪族、脂環族または芳香族が可能であり、さらに、様々な側鎖によって置換することができ、従って、これらの特徴のすべてにより、ポリマーの一部分の特性がさらに決定される場合がある。1つ以上のジカルボン酸側鎖は、キラルなアミノ酸の誘導体の1つ以上のモノマー残基と一緒になって、ポリマーにおける反復した組み立てユニットを形成することができる。
【0172】
さらに、本発明の好ましい実施形態によれば、本明細書中に記載されるポリマーは、キラルなアミノ酸の誘導体のモノマー残基と、アルキレングリコールのモノマー残基とを含む。アルキレングリコールは、キラルまたは非キラルな脂肪族、脂環族または芳香族が可能であり、さらに、様々な側鎖によって置換することができ、従って、これらの特徴のすべてにより、ポリマーの一部分の特性がさらに決定される場合がある。1つ以上のアルキレングリコール側鎖は、キラルなアミノ酸の誘導体の1つ以上のモノマー残基と一緒になって、ポリマーにおける反復した組み立てユニットを形成することができる。あるいは、ポリマーは、それぞれが異なるタイプの残基を含むブロックコポリマーを含むことができる。
【0173】
さらに、本発明の好ましい実施形態によれば、本明細書中に記載されるポリマーは、本明細書中上記で概略された特徴に従って、キラルなアミノ酸の誘導体のモノマー残基と、アミノ酸、ヒドロキシカルボン酸、ジカルボン酸およびアルキレングリコールのモノマー残基の2つ以上とを含む。
【0174】
本明細書を通して使用される用語「アルキル」は、直鎖基および/または分枝鎖基を含む飽和した脂肪族炭化水素を示す。好ましくは、アルキル基は、1個〜10個の炭素原子を有する中程度のサイズのアルキルである。より好ましくは、アルキル基は、1個〜6個の炭素原子を有する低級アルキルである。最も好ましくは、アルキル基は、1個〜4個の炭素原子を有するアルキルである。アルキル基の代表的な例には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、tert−ブチル、ペンチルおよびヘキシルがある。
【0175】
本明細書中で使用される用語「シクロアルキル」は、環の1つまたは複数が完全共役のπ電子系を有しない、すべてが炭素の単環基または縮合環(すなわち、隣接炭素原子対を共有する環)基を示す。シクロアルキル基の非限定な例には、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロペンテン、シクロヘキサン、シクロヘキサジエン、シクロヘプタン、シクロヘプタトリエンおよびアダマンタンがある。
【0176】
用語「アリール」は、完全共役のπ電子系を有する、すべてが炭素の単環基または縮合多環(すなわち、隣接炭素原子対を共有する環)基を示す。アリール基の非限定的な例には、フェニル、ナフタレニルおよびアントラセニルがある。
【0177】
用語「ヘテロアリール」には、例えば、窒素、酸素およびイオウなどの1個または複数個の原子を環(1つまたは複数)に有し、さらには完全共役のπ電子系を有する単環基または縮合環(すなわち、隣接炭素原子対を共有する環)基が含まれる。ヘテロアリール基の非限定的な例には、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール、ピリジン、ピリミジン、キノリン、イソキノリンおよびプリンが含まれる。
【0178】
用語「ヘテロシクロアルキル」は、窒素、酸素およびイオウなどの1つ以上の原子を環に有する単環式環基または縮合環基を示す。これらの環はまた、1つ以上の二重結合を有することができる。しかしながら、環は、完全に共役したπ電子系を有しない。
【0179】
本明細書中に記載されるアルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリールおよびヘテロシクロアルキルのそれぞれはさらに置換され得る。置換されるとき、置換基は、例えば、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクロアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、チオアルコキシ、チオアリールオキシ、ニトロ、シアノ、トリハロメチル、アルキルアミノ、スルファート、スルホネート、ホスファート、ホスホネート、スルフィニル、ホスフィニル、アミン、アミド、カルバミル、チオアミド、チオカルバミル、カルボキシレートおよびチオカルボキシレートであり得る。
【0180】
本明細書中で使用される用語「アルケニル」は、本明細書中に定義されるように、少なくとも2つの炭素原子と少なくとも1つの二重結合を有するアルキル基を示す。
【0181】
本明細書中で使用される用語「アルキニル」は、本明細書中に定義されるように、少なくとも2つの炭素原子と少なくとも1つの三重結合からなるアルキル基を示す。
【0182】
本明細書中で使用される用語「ヒドロキシ」および「ヒドロキシル」は、−OH基を示す。
【0183】
用語「チオヒドロキシ」、「チオヒドロキシル」および「チオール」は、−SH基を示す。
【0184】
用語「アルコキシ」は、本明細書中以下で定義されるように、−O−アルキル基および−O−シクロアルキル基の両方を示す。アルコキシ基の非限定的な例には、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、およびtert−ブトキシが含まれる。
【0185】
用語「チオアルコキシ」は、本明細書中以下で定義されるように、−S−アルキル基および−S−シクロアルキル基の両方を示す。
【0186】
用語「アリールオキシ」は、本明細書中で定義されるように、−O−アリール基および−O−ヘテロアリール基の両方を示す。
【0187】
「チオアリールオキシ」基は、本明細書中で定義されるように、−S−アリール基および−S−ヘテロアリール基の両方を示す。
【0188】
本明細書中で使用される用語「ハロ」は、フッ素、塩素、臭素、または沃素原子を示す。
【0189】
用語「トリハロメチル」は、−CX基(式中、Xは本明細書中で定義されるようなハロである)を示す。トリハロメチル基の代表的な例は−CF基である。
【0190】
用語「アミノ」または「アミン」は、−NR′R″基(式中、R′およびR″は各々独立して、本明細書中で定義されるように、水素、アルキル、またはシクロアルキルである)を示す。
【0191】
用語「環状アルキルアミノ」は、−NR′R″基(式中、R′およびR″はシクロアルキルを形成する)を示す。
【0192】
用語「ニトロ」は、−NO基を示す。
【0193】
用語「シアノ」または「ニトリル」は、−C≡N基を示す。
【0194】
用語「アミド」は、−C(=O)−NR′R″基または−NR′−C(=O)−R″基(式中、R′およびR″は本明細書中上記に記載される通りである)を示す。
【0195】
用語「カルボキシレート」は、−C(=O)−OR′基(式中、R′は本明細書中で定義される通りである)を示す。
【0196】
用語「スルファート」は−S(=O)−OR′基(式中、R′は本明細書中で定義される通りである)を示す。
【0197】
用語「スルホニル」および「スルホネート」は、−S(=O)−R′基(式中、R′は本明細書中で定義される通りである)を示す。
【0198】
用語「スルフィニル」は、−S(=O)−R′基(式中、R′は本明細書中で定義される通りである)を示す。
【0199】
用語「ホスホネート」は、−P(=O)(OH)基を示す。
【0200】
用語「ホスフェート」は、−O−P(=O)(OR′)(OR″)基(式中、R′およびR″は本明細書中で定義される通りである)を示す。
【0201】
用語「ホスフィニル」は、−PR′R″R′″基(式中、R′およびR″は本明細書中で定義される通りであり、R′″はR′について定義される通りである)を示す。
【0202】
用語「グアニジン」は、−R′NC(=NR″″)−NR″R″′基(式中、R′、R″およびR″′は本明細書中で定義される通りであり、R″″はR′、R″またはR″′のいずれかについて定義される通りである)を示す。
【0203】
本明細書中に記載されるポリマーは、予備重合されたモノマーを選択しながらさらに事前に決定することができる広範囲の様々な分子量を有するように設計される。従って、本明細書中に記載されるポリマーのそれぞれが、約1000Da〜約50000Daの範囲にある分子量を有することができる。
【0204】
いくつかの特性(例えば、キラリティー、生分解性および機能性(電荷、疎水性/親水性および反応性に関して)など)のほかに、ポリマーの他の特性を、ポリマーの組成を選択することによって事前に決定することができる。これらには、例えば、融点、結晶化度、機械的強度および弾性率が含まれる。
【0205】
従って、例えば、本明細書中に記載されるポリマーは、側鎖の性質に基づいて、約50℃〜約200℃の範囲にある融点を有するように事前に決定することができる。フェニル基を含有する側鎖基は高い融点を有し、一方、非線状の脂肪族側鎖基(例えば、イソプロピルまたはイソブチルなど)は低融点のポリマーをもたらすことができる。
【0206】
さらに、ポリマーの結晶化度を、例えば、使用されたキラルなビルディングブロックによって決定することができる。一方のエナンチオマーから構成されるホモポリマーは、大きい結晶化度および機械的強度を示す立体規則性のポリマーである。コポリマーは、立体規則性ポリマーと比較して、結晶性が低い。
【0207】
本明細書中上記で述べられたように、これまでにない方法論が、本明細書中に記載されるポリマーを調製するために開発されている。従って、本発明の別の態様によれば、本明細書中に記載されるようなポリマーを調製するプロセスが提供される。このプロセスは、少なくとも1つのキラルな予備重合されたモノマーを重合し、それにより、互いに連結されかつポリマー骨格を形成する複数のモノマー残基を含み、それにより、複数のモノマー残基の少なくとも一部分が少なくとも1つのキラルな予備重合されたモノマーのモノマー残基であるポリマーを形成することを含む。重合は、キラルな予備重合されたモノマーのキラリティーがポリマー内のモノマー残基において維持されるように、また、さらには、キラルな予備重合されたモノマーにおける不斉原子が骨格の一部を形成するように行われる。
【0208】
従って、本明細書中に記載されるプロセスは、1つ以上のキラルなモノマーを、これらのモノマーのキラリティーを重合時に維持しながら重合することによって行われる。
【0209】
重合は化学的または酵素的のいずれでも行うことができる。
【0210】
キラルなモノマーの化学的重合を、例えば、重縮合によって行うことができる。従って、知られている重縮合手法を使用して、ホモポリマーおよび/またはバルクコポリマーが製造される。縮合は塊状または溶液中で行うことができ、あるいは、モノマーをその反応性誘導体に変換することを伴う。
【0211】
本明細書中上記で述べられたように、本発明の実施形態による好ましいモノマーはアミノ酸に由来する。従って、アミノ酸の反応性誘導体は、例えば、アシルハリドおよび無水物などが可能であり、好ましくは、アシルクロリドである。
【0212】
重縮合はさらに、下記の実施例の節において詳しく記載されるように、マイクロ波によって行うことができる。
【0213】
あるいは、化学的重合は、モノマー間で環化し、それにより、開環重合(ROP)にその後で供することができる環状中間体を形成することによって行われる。モノマーの環化を、同じモノマーの2つの分子を好適な触媒の存在下で反応することによって、または、異なるモノマーの分子を反応することによって行うことができる。使用されたモノマーの構造によって、中間体の環状化合物は、例えば、2つのα−ヒドロキシアミノ酸を環化することによって形成されるラクチドであり得るか、または、α−ヒドロキシアミノ酸およびアミノ酸を環化することによって形成される環状化合物であり得る。
【0214】
形成された環状化合物の構造によって、続くROPを好適な触媒の存在下で行うことができる。好適な触媒の例が下記の実施例の節に示される。ラクチドが環状化合物として形成されるとき、ROPは場合により、触媒の非存在下で行うことができる。
【0215】
さらに代替として、環化は、本明細書中に記載されるようなキラルな予備重合されたモノマーと、ケトンとの間で行われる。この環化では、モノマーの二官能性が利用され、それにより、ケトンがモノマーの2つの機能的部分と反応するアセタール様構造がもたらされる。そのような環状中間体の重合を、例えば、求核性触媒、親電子性触媒または錯体化触媒を使用して、例えば、カチオン触媒反応、アニオン触媒反応または配位触媒反応によってそれぞれ行うことができる。好ましい実施形態において、そのような環状中間体の重合が、下記の実施例の節に示されるように、求核性触媒の存在下で行われる。
【0216】
酵素触媒による重合を、例えば、リパーゼによって行うことができる。そのような重合は、好ましくは、非水性媒体において行われる。
【0217】
上記の重合技術は、様々なビルディングブロックを重合し、それにより、所望のポリマーを得るように適用することができる。本明細書中上記で議論されたように、本明細書中に記載される方法論に従って調製されるポリマーは、ポリマーの意図された使用に基づいて選択することができる事前に決定された特性によって特徴づけられる。本明細書中上記でさらに議論されるように、ポリマーを構築するために利用することができるさらなるモノマーには、例えば、アミノ酸、ヒドロキシカルボン酸、ジカルボン酸、ジアルキレングリコール、および、それらの組合せが含まれる。
【0218】
1つの実施形態において、ポリマーは実質的には、キラルな予備重合されたモノマーのモノマー残基からなり、重合が、キラルな予備重合されたモノマーの少なくとも2つを互いに結合し、それにより、互いに連続して連結されているキラルな予備重合されたモノマーのこれらの残基を含む1つ以上のオリゴマーを形成すること、および、このオリゴマーを、本明細書中上記に記載される方法論を使用して重合することによって行われる。従って、この実施形態によれば、それぞれが同じまたは異なる予備重合されたモノマーから構成され、かつ、それぞれが1つ以上のタイプの予備重合されたモノマーを含む様々なビルディングブロックが最初に調製される。
【0219】
好ましくは、オリゴマーにおけるモノマー残基の配列が事前に決定される。オリゴマーは、例えば、一般的な技術を使用して固相合成によって調製することができ、または、溶液中で調製することができる。それぞれのオリゴマーが、好ましくは1個〜10個のモノマー残基を含み、より好ましくは1個〜6個のモノマー残基を含み、より好ましくは1個〜4個のモノマー残基を含む。
【0220】
別の実施形態において、ポリマーはさらに、ヒドロキシカルボン酸の残基を含み、重合が、キラルな予備重合されたモノマーと、ヒドロキシカルボン酸とを結合すること、および、得られたコンジュゲートを、本明細書中上記に記載される方法論を使用して重合することによって行われる。
【0221】
さらに別の実施形態において、ポリマーはさらに、ジカルボン酸の残基を含み、重合が、キラルな予備重合されたモノマーと、ジカルボン酸とを結合すること、および、得られたコンジュゲートを、本明細書中上記に記載される方法論を使用して重合することによって行われる。
【0222】
本発明のこの態様の他の実施形態によれば、ポリマーを構築するために利用される様々なモノマーのそれぞれのブロックコポリマーが、本明細書中上記に記載される方法論を使用して調製され、その後、所定の様式で連結される。
【0223】
利用された重合技術により、得られたポリマーのいくつかの特徴が影響をさらに受け得る。従って、例えば、モノマーまたはビルディングブロックの重縮合は、典型的には、より低い分子量を有するポリマーをもたらし、従って、開環重合による重合は、典型的には、制御可能な比較的大きい分子量のポリマーをもたらす。
【0224】
本明細書中上記でさらに議論されるように、ポリマーを構築するために好都合に利用することができる好ましいキラルな予備重合されたモノマーは、キラルなアミノ酸の誘導体であり、例えば、α−ヒドロキシアミノ酸、アミノ酸の2−アルキル−1,2−ジオール誘導体、および、アミノ酸のアミノアルコールなどである。
【0225】
本発明者らは、アミノ酸のキラリティーを維持しながらキラルなアミノ酸の様々な誘導体を調製するために、様々な知られている方法論を利用している。しかしながら、これらの知られている方法論とは異なり、本発明者らは、本明細書中下記において詳しく記載されるように、所定の特性を有し、従って、様々な適用において使用することができる光学活性なポリマーを構築するために、キラルなアミノ酸の得られた誘導体を利用している。
【0226】
1つの実施形態において、キラルなアミノ酸の誘導体がα−ヒドロキシアミノ酸である場合、本発明のプロセスはさらに、重合する前に、キラルなアミノ酸をそのα−ヒドロキシアミノ酸誘導体に変換することを含み、それにより、α−ヒドロキシアミノ酸はキラルなアミノ酸のキラリティーを維持する。
【0227】
キラルなアミノ酸をそのα−ヒドロキシアミノ酸誘導体に変換することを、この実施形態によれば、キラルなアミノ酸を亜硝酸塩(例えば、亜硝酸ナトリウム)と反応することによって達成することができる。この反応は、好ましくは、アミノ酸のキラリティーを変換時および生成物単離時において維持する条件のもとで行われる。さらなる詳細が下記の実施例の節において提供される。
【0228】
あるいは、キラルなアミノ酸をそのα−ヒドロキシアミノ酸誘導体に転換することを、この実施形態によれば、キラルなアミノ酸を酵素触媒反応に供することによって行うことができる。そのような酵素触媒反応を、典型的には、L−アミノ酸について使用することができる。好ましくは、そのような酵素触媒反応では、エナンチオマー的に高純度なR−異性体またはS−異性体をもたらす酵素的転換が伴う。この転換は、アミノ酸デアミナーゼ(AAD)(これはまた、アミノ酸オキシダーゼ(AAO)とも呼ばれる)と、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)またはサッカロミセス・セレビジアエ(Sacchamyces cerevsiae)と、電子供与体と、電子供与体を再循環させるための酵素/基質システムとのコンジュゲート酵素系によって触媒される。さらなる詳細を国際特許出願公開WO02/33110に見出すことができる。
【0229】
別の実施形態において、キラルなアミノ酸の誘導体がアミノ酸の2−アルキル−1,2−ジオール誘導体である場合、プロセスはさらに、重合する前に、キラルなアミノ酸を、本明細書中上記で記載されるように、対応するα−ヒドロキシアミノ酸に変換すること、および、そのα−ヒドロキシアミノ酸をアミノ酸の対応する2−アルキル−1,2−ジオール誘導体に変換することを含む。これらの変換は、2−アルキル−1,2−ジオール誘導体が、その出発物質として利用されたキラルなアミノ酸のキラリティーを維持するように行われる。
【0230】
好ましくは、2−アルキル−1,2−ジオール誘導体は、α−ヒドロキシアミノ酸を、ホウ水素化ナトリウムおよびヨウ素を含有する還元系による還元に供することによって得られる。
【0231】
別の実施形態において、キラルなアミノ酸の誘導体がアミノ酸のアミノアルコール誘導体である場合、プロセスはさらに、重合する前に、キラルなアミノ酸をアミノ酸の対応するアミノアルコール誘導体に変換することを含む。この変換は、アミノアルコール誘導体が、その出発物質として利用されたキラルなアミノ酸のキラリティーを維持するように行われる。
【0232】
好ましくは、アミノアルコールは、キラルなアミノ酸を、ホウ水素化ナトリウムおよびヨウ素を含有する還元系による還元に供することによって得られる。
【0233】
本明細書中上記で述べられたように、ポリマー内のモノマー残基の配列およびキラリティーを事前に決定することによって、また、キラルなアミノ酸の誘導体に由来するモノマー残基を利用することによって、様々な薬理学的活性を示すポリマーを調製することができる。従って、例えば、デプシペプチドの構造および組成を有するポリマーを、抗ガン剤、抗ウイルス剤、抗菌剤、抗真菌剤および/または抗炎症剤として利用することができる。同様に、他の治療効果のあるペプチドの配列およびキラリティーの後に調製されたポリマーを調製することができる。
【0234】
従って、本明細書中に示されるポリマーを構築するために利用されるキラルな予備重合されたモノマーの組成および配列は、治療的効果をそれ自体で発揮するように選択することができ、すなわち、本明細書中に示されるポリマーは、単独で治療効果のある薬剤として作用することができる。
【0235】
従って、本発明のさらなる態様によれば、本明細書中に示されるポリマーを対象に投与することによって行われる、その必要性のある対象において病状を治療する方法が提供される。
【0236】
本明細書中で使用される用語「治療(処置)すること」には、病状の進行を停止させること、実質に阻害すること、遅くすること、または、逆戻りさせること、あるいは、病状の臨床的症状または審美的症状を実質的に改善すること、あるいは、病状の臨床的症状または審美的症状の出現を実質的に妨げることが含まれる。
【0237】
本明細書中で使用される用語「妨げること」には、生物が何らかの病状を最初に被ることを阻むことが含まれる。
【0238】
この方法はさらに、本発明のこの態様によれば、このことは本明細書中上記で定義および議論されるように、本明細書中に示されるポリマーとの組合せで、病状の治療において有益であるさらなる治療効果のある薬剤を対象に同時に投与することによって行うことができる。
【0239】
例えば、本発明のポリマーは、単独または任意の他の治療効果のある薬剤との組合せであっても、病理学的微生物を殺すために設計および利用することができる。病原性微生物の破壊は、病原性微生物の細胞の一部分を選択的に破壊することによって達成される。ほとんどの知られている抗生物質は、細胞膜、タンパク質または核酸の分子的構成成分の1つ以上の生合成を選択的に妨害することによって作用するが、本明細書中に記載されるポリマーは、病原性微生物の細胞の外膜と結合し、これを破壊することによって作用するように設計することができる。細胞の外膜を乱すことにより、その死が、膜の脱分極、代謝産物の漏出、および/または、細胞の一体性の全体的な喪失のために引き起こされる。従って、本発明のポリマーはまた、病原性微生物の代謝プロセスおよび/または増殖プロセスを乱すことによって、効果的な抗菌剤として直接的に作用するように設計することができる。
【0240】
本明細書中に記載されるポリマーはまた、病原性微生物の細胞を透過することによって別の抗生物質または他の治療効果のある薬剤と相乗的に作用するように設計することができ、従って、間接的な抗菌活性をさらに示すことができる。ポリマーの透過作用は他の治療効果のある薬剤の取り込みを増大させることができ、従って、他の薬物および抗生物質の見かけの抗菌活性を増強することができるはずである。
【0241】
病原性微生物に関連する病状には、例えば、病原性微生物によるか、または、病原微生物の感染、外寄生、汚染および伝染が含まれる。一般に、疾患を引き起こす感染は、病原性微生物による植物または動物の組織の中への侵襲である。寄生虫および他の高等病原性生物による身体組織への侵襲は、一般には外寄生と呼ばれる。
【0242】
従って、本発明の実施形態のポリマーは、ポリマーを構成するモノマー残基の事前に決定された配列および組成からほとんどが生じる上記機能の1つによって病原性微生物に加えられるその抗菌性効果による、病原性微生物により引き起こされる病状の治療において使用することができる。
【0243】
本明細書中に記載されるポリマーはさらに、デプシペプチドと同様に、例えば、炎症および/または増殖に関連する病状(すなわち、炎症性の疾患もしくは障害および/または増殖性の疾患もしくは障害)の治療において使用することができる。
【0244】
例示的な増殖性疾患はガンであり、これには、例えば、脳、卵巣、結腸、前立腺、腎臓、膀胱、乳房、肺、口腔および皮膚のガン、より具体的には、多形性神経膠芽細胞腫、未分化星状細胞腫、星状細胞腫、上衣腫、乏突起神経膠腫、髄芽細胞種、髄膜腫、肉腫、血管芽細胞腫、松果体実質腫瘍、腺ガン、メラノーマおよびカポジ肉腫が含まれる。
【0245】
例示的な炎症性疾患または炎症性障害には、限定されないが、虚血器官の灌流傷害(例えば、虚血心筋の再灌流傷害)、心筋梗塞、炎症性腸疾患、リウマチ様関節炎、変形性関節症、高血圧、乾癬、臓器移植片の拒絶、臓器保存、インポテンス、放射線誘導による傷害、喘息、アテローム性動脈硬化、血栓症、血小板凝集、転移、インフルエンザ、脳卒中、火傷、外傷、急性膵炎、腎盂腎炎、肝炎、自己免疫疾患、インスリン依存性糖尿病、II型糖尿病、播種性血管内凝固、脂肪塞栓症、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、新生児の呼吸器疾患、乳幼児の呼吸器疾患、成人の呼吸器疾患、発ガン、新生児における出血、脳血管障害および他の病理学的状態が含まれる。
【0246】
本明細書中上記で述べられたように、治療的活性をそれ自体で示すことに加えて、本明細書中に記載されるポリマーは、様々な薬剤をポリマーに結合するために設計および利用することができる。
【0247】
ポリマーに結合される薬剤によって、ポリマーの特性を、薬剤およびポリマーの間での所望される相互作用の形成を可能にするように事前に決定することができる。これらの特性は、ポリマーの側鎖によって、または、ポリマー骨格(すなわち、そのキラリティー)によって決定され得る。従って、例えば、荷電した化学種を結合するために、反対の電荷を有する側鎖によって特徴づけられるポリマーが調製される。薬剤を共有結合により結合するために、適切な反応基を有するポリマーが調製される。薬剤を疎水性相互作用によって結合するために、疎水性の側鎖を有するポリマーが調製される。キラルな薬剤を結合するために、相補的な立体選択性を有する光学活性なポリマーが、本明細書中下記において詳しく記載されるように調製される。
【0248】
従って、本発明のなおさらなる態様によれば、活性な薬剤が結合している本発明に記載されるようなポリマーを含むコンジュゲートが提供される。
【0249】
活性な薬剤は、例えば、治療効果のある薬剤、標識化剤、架橋剤または別のポリマーが可能である。
【0250】
本明細書中で使用される表現「治療効果のある薬剤」は、対象に投与されたとき、治療的活性を示す物質を表す。代表的な例には、限定されないが、化学療法剤、抗増殖剤、抗炎症剤、抗菌剤、抗高血圧剤、スタチン類、向精神剤、抗凝固剤、抗糖尿病剤、血管拡張剤、鎮痛剤、ホルモン、ビタミン、代謝産物、炭水化物、ペプチド、タンパク質、アミノ酸、補酵素、増殖因子、プロスタグランジン類、オリゴヌクレオチド、核酸、アンチセンス、抗体、抗原、免疫グロブリン、サイトカイン、心臓血管剤、リン脂質、脂肪酸、β−カロテン類、ニコチン、ニコチンアミド、抗ヒスタミン剤および抗酸化剤が含まれる。
【0251】
本明細書中で使用される表現「標識化剤」は検出可能な部分またはプローブを表し、これには、例えば、発色団、蛍光性化合物、リン光性化合物、重金属クラスターおよび放射性標識化合物、ならびに、任意の他の知られている検出可能な部分が含まれる。本明細書中に記載されるポリマーへの標識化剤の結合を診断目的のために利用することができる。
【0252】
表現「架橋剤」は、2つ以上の反応基との本明細書中に記載されるような化学的な相互作用を形成し、従って、2つのポリマーの反応基の間での相互作用を形成することができ、それにより、架橋をもたらす多官能性(好ましくは、二官能性)物質を表す。代表的な例には、限定されないが、負に荷電した2つの反応基との間での架橋を行うことができる二価金属カチオン(例えば、Ca+2、Mg+2およびZn+2など);シリケート(例えば、ジオルトシリケート、トリオルトシリケートおよびテトラオルトシリケートなど)、および、任意の他の知られている架橋剤が含まれる。
【0253】
架橋剤を結合することを、別のポリマーを本明細書中に記載されるポリマーに結合するために利用することができる。しかしながら、そのようなさらなるポリマーは、ポリマーの側鎖基によってだけ達成される架橋を介して、本明細書中に記載されるポリマーに結合され得ることに留意しなければならない。従って、例えば、架橋を、ポリマーにおける遊離アミン基と、他のポリマーにおける遊離カルボキシレート基との間で、また、同様に、適合し得る反応基の任意の他の対の間で達成することができる。
【0254】
活性な薬剤の性質、ポリマーの事前に決定された特性、および、コンジュゲートの意図された使用によって、活性な薬剤は化学的相互作用および/または物理的相互作用によってポリマーに結合させることができる。
【0255】
化学的相互作用には、例えば、共有結合による結合、静電的相互作用、水素結合、疎水性相互作用、芳香族相互作用および立体相互作用が含まれる。後者は、本明細書中下記において詳しく記載されるように、キラルな治療効果のある薬剤をポリマーに結合し、それにより、ヘテロステレオ複合体を形成するために都合よく利用することができる。
【0256】
物理的相互作用には、例えば、カプセル化、すなわち、ポリマー内部もしくはポリマー表面での物理的な吸収もしくは膨潤によるカプセル化、または、ポリマー内部での閉じ込めが含まれる。
【0257】
本明細書中で使用される用語「立体相互作用」は、2つのキラルな分子の間で生じる非共有結合性の化学的相互作用(例えば、ファンデルワールス相互作用、疎水性相互作用、芳香族相互作用、クーロン力および静電的相互作用、水素結合、塩架橋など)の組合せを示し、これは、相互作用している化学種の特定のキラルな構造によって強化および増強される。
【0258】
キラルな分子(例えば、ペプチド、タンパク質、他の高分子および小分子、ならびに、本明細書中に示されるポリマーなど)は、そのキラル性および構造的「左右像」のためにぴったり合う相互作用を達成することができる。そのような立体相互作用は、2つの整合する立体異性体(すなわち、エナンチオマー)に典型的であるが、これに限定されない。例えば、活性な薬剤が天然のペプチドである場合、反復する骨格構造は、ペプチドを構成するL−アミノ酸に起因する特定の左右像を有するので、本明細書中下記において詳しく記載されるように、特定の整合する左右像を有する本発明のキラルなポリマーと絡み合うか、または、ねじれ、コラーゲン繊維と同様なハイブリッドスレッドを形成することができる。
【0259】
従って、本発明のこの態様の実施形態によれば、活性な薬剤は、本明細書中に記載される光学活性なポリマーに立体特異的な相互作用によって結合し、それにより、ポリマーとのヘテロステレオ複合体を形成するキラルな薬剤である。
【0260】
他の形態の化学的修飾とは異なり、キラルな薬剤と、本発明によるポリマーとの間での複合体形成では、キラルな薬剤自身の何らかの化学的な変化をもたらすことなく、キラルな薬剤の分子修飾が伴う。それは、薬剤の化学的一体性および/または生物学的一体性が実質的に損なわないままである修飾方法である。本明細書中に示されるポリマーと、キラルな薬剤との間での上記の立体相互作用は、キラリティーによりもたらされる構造特異的な適合性を呈することができ、そのような適合性により、ヘテロステレオ複合体がもたらされる。
【0261】
従って、本発明の別の態様によれば、キラルな薬剤が複合体化している本明細書中に示される光学活性なポリマーを含むヘテロステレオ複合体が提供され、この場合、キラルな薬剤は、ポリマーとの立体相互作用を形成することができるために好適である立体構成を有する。
【0262】
本明細書中で使用される表現「ヘテロステレオ複合体」(これはまた、交換可能に「ヘテロ立体選択的複合体」とも呼ばれる)は、それらの間でのぴったり合う立体相互作用(従って、選択的)を可能にするように空間に特異的に配置されるその様々な化学的成分に関して相互に適合し合う2つの同一でない(従って、ヘテロな)キラルな分子(従って、ステレオ)の間での化学的複合体を示す。
【0263】
本明細書中で使用される用語「立体構成」は、キラルな薬剤の内部における化学的部分の上記の空間的構成または三次元配置を示す。
【0264】
本発明のこの態様によれば、本明細書中に示されるポリマーは、キラルな薬剤の立体構成と特異的に整合し、従って、そのような特異的な立体構成を示さない他の化合物に関して選択的である非共有結合性の相互作用に基づく化学的複合体を形成するように設計することができる。
【0265】
好ましくは、キラルな薬剤はキラルな治療効果のある薬剤であり、例えば、キラリティーおよび/または左右像(例えば、分子らせんに存在するキラリティーおよび/または左右像など)を示すペプチド、タンパク質、オリゴヌクレオチド、多糖、キラルな高分子および他の小分子(これらに限定されない)などである。
【0266】
例示的なキラルな治療効果のある薬剤には、限定されないが、内因性オピオイドアゴニスト(例えば、エンケファリン類およびエンドルフィン類など)、視床下部ホルモン(例えば、ゴナドリベリン、メラノスタチン、メラノリベリン、ソマトスタチン、チロリベリン、サブスタンスPおよびニューロテンシンなど)、腺下垂体ホルモン(例えば、コルチコトロピン、リポトロピン、メラノトロピン、ルトロピン、チロトロピン、プロラクチンおよびソマトトロピンなど)、神経下垂体ホルモン、カルシウム動員(甲状腺)ホルモン(例えば、パラチリンおよびカルシトニンなど)、胸腺因子(例えば、チモシン、チモポイエチン、循環性胸腺因子および胸腺液性因子など)、膵臓ホルモン(例えば、インスリン、グルカゴンおよびソマトスタチンなど)、胃腸ホルモン(例えば、ガストリン、コレシストキニン、セクレチン、胃抑制性ポリペプチド、血管作動性腸管ペプチドおよびモチリンなど)、絨毛(胎盤)ホルモン(例えば、絨毛性ゴナドトロピンおよびコリオマンモトロピンのキラルな治療活性薬剤など)、卵巣ホルモン(例えば、リラキシンなど)、血管作用性組織ホルモン(例えば、アンギオテンシンおよびブラジキニンなど)、増殖因子(例えば、ソマトメジン類、上皮増殖因子、ウロガストロンおよび神経成長因子など)、血友病因子(例えば、血液凝固因子(第VIII因子および第IX因子)など)、酵素(例えば、ストレプトキナーゼ、フィブリノリシン、デオキシリボヌクレアーゼおよびアスパラギナーゼなど)、および、人工ペプチドまたは擬ペプチド(例えば、デフェロキサミンなど)が含まれる。
【0267】
分子らせんは多くの場合、自然の状態で生じ、その特定の左右像のらせん構造により、特定の生化学的属性が達成される。最も有名ならせんがDNAの二重らせんである。ある種のアミノ酸配列のペプチドは、αらせんを形成する傾向がある。別の一例が、「ロイシン/バリンジッパー」タンパク質に存在する構造モチーフである。この構造モチーフは、2つのタンパク質のα−らせんにおけるロイシン/バリン残基がジッパー様式で互いかみ合って、タンパク質を安定化させる一群のDNA結合タンパク質の立体配置のための土台である。この相互かみ合わせが、ゆるい二重らせんを安定させるために一方の鎖をもう一方の鎖の周りにそれに沿って巻きつける、両方のポリペプチド鎖に沿って特定の間隔で配置されたロイシン/バリン残基の間での疎水性相互作用によってもたらされる。このゆるいらせんが、DNA二重鎖に関して適合し得る左右像を有する。コラーゲンの三重らせん複合体はポリペプチド鎖の左右像の影響の別の一例である。コラーゲンは、ほぼ3残基毎に見出されるグリシンが多く、また、プロリン、ならびに、2つのアミノ酸誘導体、すなわち、グリシンに対して特定の位置にあるプロリンおよびリシンの酵素的翻訳後修飾によって形成されるヒドロキシプロリンおよびヒドロキシリシンが多い特異的なアミノ酸組成およびアミノ酸配列を有する。ポリペプチド(ポリマー)に基づくすべてのらせんに共通することは、その左右像が、ポリペプチド鎖を構成するアミノ酸のキラリティーによって事前に決定されるという事実である。
【0268】
ポリマーに基づき、キラリティーに依存する上記の天然に存在する複合体と同様に、本発明のポリマーは、類似する複合体を形成させるために使用することができる。このような複合体は同一組成のポリマーを含むことができ(すなわち、ホモ複合体)、または、本発明に示されるポリマーと、他のポリマー(例えば、治療効果のある薬剤など)とのハイブリッド、すなわち、ペプチドと、タンパク質とのハイブリッドを含むことができる。
【0269】
アミノ酸のキラリティーから生じるポリペプチド鎖の左右像のほかに、アミノ酸配列もまた、これらの複合体の形成および立体配置における重要な要素であることが、天然に存在するポリペプチド複合体について本明細書中上記で示された例から明らかである。従って、本発明のポリマーを構築するために利用されたキラルな予備重合されたモノマーの側鎖は、上記のヘテロステレオ複合体の形成および立体配置において非常に重要な役割を果たす。そのうえ、キラルな予備重合されたモノマーの側鎖はそのような複合体の立体選択性のための土台である。
【0270】
例えば、疎水性残基が多いペプチド(例えば、キラルな薬剤)とのヘテロ立体選択的複合体を形成するために、本発明によるキラルなポリマーは、ペプチドの疎水性残基と相互作用し、かつ、適合し得る左右像と一緒になって、ぴったり合うヘテロ立体選択的複合体をそれらの間で形成する、整合する疎水性側鎖を提供しなければならない。類似した例において、ペプチドのキラルな薬剤は様々な水素ドナー/アクセプター側鎖残基を提供することができ、また、本発明によるキラルなポリマーは、一連の水素結合でそれらと相互作用する整合するアクセプター/ドナー側鎖残基を提供することができる。
【0271】
本明細書中に記載されるヘテロステレオ複合体は、治療効果のある薬剤としてのキラルな物質(例えば、ペプチドおよびタンパク質など)の使用に関連する制限を克服するための新規で、非常に好都合な方法論を提供する。
【0272】
生化学、分子遺伝子工学および医学の分野における急速な進歩の結果として、多くの生物学的に活性なペプチドおよびタンパク質が、医薬品としての大きな臨床的可能性を有するとして特定されている。しかしながら、治療効果のある薬剤としてのペプチドおよびタンパク質の使用は、主として、低い生物学的利用能、大きい化学的感受性および不安定性のために制限されている。すなわち、ペプチドおよびタンパク質は、経腸的に、具体的には、経口的に投与することが困難であり、また、短い貯蔵寿命を有する。今日まで、これらの化合物を経口投与する方法はそれらの特定および合成と歩調が合っていない。ペプチドおよびタンパク質の低い生物学的利用能は、ペプチドおよびタンパク質が経口投与されるとき、下記のような様々な要因の組合せにより、成体動物(ヒトを含む)がペプチドおよびタンパク質を良好に吸収しないという事実から生じている:酸加水分解による胃におけるこれらの分子の破壊、ならびに、ペプチドおよびタンパク質が吸収され得る前にペプチド結合を切断することができる酵素による胃腸管におけるこれらの分子の破壊、ならびに、親油性が低いことのためによる無傷なこれらの分子の遅い腸壁通過。結果として、ペプチドおよびタンパク質の治療的使用が、ペプチドおよびタンパク質を、非経口投与により、具体的には、静脈内注射または筋肉内注射によって投与しなければならないことによって制限される。
【0273】
いくつかの非タンパク性の治療効果のある薬剤は、本明細書中上記で議論されたような大きい化学的不安定性および低い生物学的利用能のために、その調製、取り扱い、貯蔵および投与において類似した制限を欠点として有する。
【0274】
生物学的に活性なペプチドおよびタンパク質ならびに他の非タンパク性の治療効果のある薬剤を経口摂取または他のタイプの経腸投与のために調製することに関連するこれらの制限は、本発明のポリマーの使用によって回避することができる。これらの薬剤とのヘテロステレオ複合体を形成することによって、また、ポリマーの様々な特性をさらに制御することによって、本明細書中下記において詳しく記載されるように、ポリマーに対して複合体化したキラルな活性な薬剤の送達および放出が可能なる。従って、本明細書中下記で議論されるように達成することができるポリマーの制御可能な生分解性および親和性、ならびに、2つのキラルな実体(すなわち、治療効果のある薬剤および本発明のポリマー)との間でのぴったり合う立体相互作用は、製薬における多くの障害に対する実行可能な解決策をもたらす。
【0275】
本明細書中に記載されるヘテロステレオ複合体を含む本明細書中に記載されるコンジュゲートの内部で使用されるとき、本明細書中に記載されるポリマーは、治療効果のある薬剤および/または標識化剤の非常に効率的な担体として役立つように設計することができる。
【0276】
ポリマーの様々な特徴の本明細書中上記で議論された制御可能性は、標的化された身体部位への治療効果のある薬剤のゆるやかな放出および/または送達のための細かく制御された担体として役立ち得るそのようなポリマーの設計を可能にする。そのような担体として作用することにより、本明細書中に記載されるポリマーは、治療効果のある薬剤(例えば、タンパク質)を投与および/または取り扱いすることが他の場合には困難である対象に、その治療効果のある薬剤(例えば、タンパク質)を投与することを可能にする保護効果をさらに提供する。
【0277】
本発明のポリマーによって発揮される保護活性はポリマーの物理化学的特性(例えば、その密度、結晶化度および化学的組成など)から生じ得る。ポリマーの保護能力を改善する他の特性が、本明細書中下記において詳しく記載されるように、例えば、天然に存在する酵素に対する適合性がなく、従って、より低い速度の分解および減損を示すD−アミノ酸およびD−アミノ酸誘導体から構成されるポリマーの場合などでは、そのキラリティーから生じ得る。
【0278】
従って、例えば、治療効果のある薬剤の保護が、薬剤をポリマーにカプセル化することにより、本明細書中に記載されるポリマーによって提供され得る。このタイプの保護は、非常に敏感な治療効果のある薬剤が、消化されることなく、または、そうでない場合には不活性化されることなく、胃腸管の胃および他の部分を通過することを可能にする。
【0279】
この結果を達成するために、ポリマー/治療効果のある薬剤のコンジュゲートは下記の基準を満たさなければならない:(a)コンジュゲートは胃における酸性環境に対して抵抗性でなければならない;(b)コンジュゲートは胃および膵臓の酵素による酵素的分解に対して抵抗性でなければならない;(c)コンジュゲートは腸壁の固有的バリアを通過するために十分に親油性でなければならない;最後に、(c)複合体化から生じる治療効果のある薬剤の生理学的特性および生物学的特性における変化が、その治療的活性が維持されるように皆無又は最小限でなければならない。基準(c)および基準(d)は、(例えば、直腸経路、口内経路または局所経路などによる)すべての経腸投与される治療効果のある薬剤のための基本的な構造的要件である一方で、基準(a)および基準(b)は、治療効果のある薬剤が経口的に効果的であるために、(c)および(d)に加えて満たされなければならない。
【0280】
上記の基準(a)および基準(b)は、治療効果のある薬剤を本発明のポリマーに結合することによって満たすことができる。
【0281】
治療効果のある薬剤の化学的保護が、本明細書中に示されるポリマーによってもたらされる2つの基本的な寄与によって達成される:(i)例えば、治療効果のある薬剤を、本明細書中に示されるポリマーから構成される厚いおよび/または密な層によりカプセル化することによって、治療効果のある薬剤を消化環境(すなわち、胃における酸性環境、ならびに、胃および膵臓の酵素)から隔離する物理的バリア、および/または(ii)酸性環境に対する感受性がなく、および/または、消化酵素に関して非適合性(その非基質)である骨格結合と、消化酵素に関して非適合性のキラリティー、そしてまた、消化酵素に関して非適合性の側鎖を有する骨格構造とを含むことができるポリマーの化学的組成。これら2つの基本的な寄与のそれぞれが、本明細書中に示されるポリマーを胃腸管における消化に対して非常に抵抗性にすることができ、従って、このことは、本明細書中に示されるポリマーに結合した治療効果のある薬剤もまた抵抗性にする。
【0282】
上記の基準(c)および基準(d)もまた、本明細書中上記で記載されるように、ヘテロステレオ複合体を形成するように、治療効果のある薬剤を本発明のポリマーと複合体化することによって満たすことができる。治療効果のある薬剤と、ポリマーとの間で形成される複合体は、ポリマーの側鎖の化学的組成によって、腸壁の固有的バリアを通過するために十分に親油性にすることができ、ポリマーの側鎖は、このような親油性を提供するように選択することができる。例えば、治療効果のある薬剤が十分に親油性でない場合には、キラルな予備重合されたモノマーの側鎖の少なくとも一部は、疎水性であるように選択することができる。
【0283】
さらに、本明細書中に示されるポリマーを構成するキラルな予備重合されたモノマーの組成および配列は、特定の生物学的標的(例えば、体性の器官、組織または細胞タイプ、あるいは、外因性の実体(例えば、病原性微生物など)など)に対する親和性を達成するように選択することができる。例えば、治療効果のある薬剤が、中枢神経系(CNS)における治療的効果を発揮することを目的とする場合には、キラルな予備重合されたモノマーの側鎖の少なくとも一部は、血液脳関門を介する浸透を容易にするように疎水性であるように選択することができる。あるいは、治療効果のある薬剤が、病原性微生物に対する治療的効果を発揮することを目的とする場合には、キラルな予備重合されたモノマーの側鎖の少なくとも一部は、両親媒性および/または正荷電であるように選択することができる。
【0284】
同様に、治療効果のある薬剤が細胞または器官膜を通り抜けることが所望される場合には、ポリマーを構築するキラルな予備重合されたモノマーの側鎖の少なくとも一部は、正荷電であるように選択される。加えて、予備重合されたモノマーは、いくつかの知られている標的化されたタンパク質に類似する配列を有するポリマーを形成し、それにより、対応する標的に対するポリマーの親和性を達成するように選択することができる。
【0285】
従って、ポリマーを、所望される保護効果および/または標的化効果を示すように設計することによって、本明細書中に記載されるコンジュゲートおよび複合体は、治療効果のある薬剤を身体部位に送達するために効率的に利用することができる。
【0286】
従って、本発明のさらなる態様によれば、治療効果のある薬剤をその必要性のある対象の身体部位に送達する方法が提供される。この方法は、本明細書中に記載されるように、治療効果のある薬剤が結合している本明細書中に示されるポリマーの治療効果的な量を対象に投与することによって行われる。
【0287】
表現「治療効果的な量」または表現「医薬的に効果的な量」は、有効成分が適応される治療的効果をもたらす、有効成分または有効成分を含む組成物のそのような用量を示す。
【0288】
本発明の関連で使用される用語「送達する」または用語「送達」は、特定の場所(より具体的には、所望される身体標的)への物質の輸送を可能にする行為を示し、従って、標的は、例えば、器官、組織、細胞および細胞区画(例えば、核、ミトコンドリア、細胞質など)が可能である。
【0289】
同様に、本明細書中に記載されるポリマーの所定の親和性は、診断目的のために、標識化部分を標的化される部位に送達するために使用することができる。これは、本明細書中に記載されるように、標識化部分が結合している本明細書中に記載されるようなポリマーの診断効果的な量をその必要性のある対象に投与することによって達成される。
【0290】
本明細書中で使用される表現「診断効果的な量」は、適用される診断技術を利用することによって所望のデータを集めることを可能にする標識化部分または標識化部分を含む組成物のそのような用量を示す。
【0291】
本明細書中に記載されるポリマーはさらに、生物学的(生分解)、あるいは、そうでない場合には化学的または機械的のいずれかで、特定の環境において選択的に分解するように設計することができる。この特徴は、本明細書中に記載されるように、ポリマーに結合する薬剤を、ゆるやかに、または、そうでない場合には制御可能に放出するために使用することができる。
【0292】
従って、本発明の別の態様によれば、薬剤を環境にゆるやかに放出する方法が提供され、この場合、この方法は、本明細書中に詳しく記載されるように、薬剤が結合している本明細書中に示されるポリマーを含むコンジュゲートまたはヘテロ立体選択的複合体を環境と接触させることによって行われる。
【0293】
環境は、本発明のこの態様によれば、比較的単純な系、例えば、ガス状環境、1つ以上の溶媒を含む系(例えば、反応混合物における系など)など、あるいは、複雑な系、例えば、生物の身体、天然または人工的なエコシステム、天然または人工的な生育環境、工場地帯、施設またはデバイスなどが可能である。
【0294】
好ましい実施形態において、環境は生物の身体であり、薬剤は治療効果のある薬剤である。本明細書中に記載されるポリマーは、治療効果のある薬剤を体内において、ゆるやかに、または、そうでない場合には制御可能に放出するために設計される。
【0295】
治療効果のある薬剤のゆるやかな放出により、体内における治療効果のある薬剤の比較的一定したレベルを維持することが可能になり、また、服用間隔内での治療効果のある薬剤の濃度の変動が回避される。このことは、治療的濃度を長期間にわたって維持しながら、より大きい用量をより少ない頻度で与えることを可能にする。さらに、徐放性調製物は、一時的に高いピーク濃度が投与直後に到来することに起因する治療効果のある薬剤の起こり得る副作用を軽減することにおいて有益である。
【0296】
本明細書中に記載されるコンジュゲートからの活性な薬剤の制御可能な放出は、ポリマーの生分解性を制御することによって達成される。従って、例えば、ポリマーにカプセル化されるか、または、ポリマーに対してステレオ複合体化される薬剤が、ポリマーの分解の結果として放出される。ポリマーが好適な環境(例えば、水性、酸性、塩基性など)のもとでゆるやかに分解/溶解し、従って、体液に分解/溶解するにつれて、ポリマーと、活性な薬剤との間での相互作用が低下し、治療効果のある薬剤の放出がもたらされる。
【0297】
治療効果のある薬剤が放出される速度は、一般には、ポリマーが崩壊または溶解する速度に依存する。崩壊は、GI液と接触している治療効果のある薬剤の表面積を大きく増大させ、それにより、薬剤の溶解および吸収を促進させる。
【0298】
ポリマーの分解速度および溶解速度により、吸収のための、治療効果のある薬剤の利用能が決定される。分解および溶解が吸収よりも遅いとき、分解および溶解が律速段階になる。従って、全体的な吸収を、本明細書中に示されるポリマーの化学的組成を操作することによって制御することができる。例えば、比較的消化されにくいポリマーを使用することにより、その吸収を遅くすることができる。これは、モノマー残基間の連結が切断(例えば、酵素的または加水分解的)をあまり受けないポリマーを利用することによって達成することができる。そのようなポリマーは、本明細書中上記において詳しく記載されるように、例えば、安定な連結(例えば、アミド結合)を含むことができ、あるいは、酵素的切断に対して安定であるD−アミノ酸の誘導体に由来するモノマー残基から構成され得る。
【0299】
本明細書中に記載される方法のそれぞれにおいて、ポリマー、コンジュゲートまたはヘテロステレオ複合体はそのまま利用することができ、または、好ましくは、医薬組成物の一部を形成することができる。
【0300】
従って、本発明の別の態様によれば、本明細書中に示されるポリマー、コンジュゲートまたは複合体のいずれかと、医薬的に許容され得る担体とを含む医薬組成物が提供される。
【0301】
医薬品の調製における、本明細書中に示されるポリマー、コンジュゲートおよび複合体のいずれかの使用もまた提供される。
【0302】
医薬組成物および/または医薬品は、好ましくは、本明細書中上記で記載された方法のいずれかにおける使用のために特定される。
【0303】
本明細書中で使用される「医薬組成物」は、本明細書中に記載される樹状化合物の1つまたは複数と、他の化学的成分(例えば、医薬的に好適な担体および賦形剤)との調製物を示す。医薬組成物の目的は、生物に対する化合物の投与を容易にすることである。
【0304】
以降、用語「医薬的に許容され得る担体」は、生物に対する著しい刺激を生じさせず、かつ、投与された化合物の生物学的活性および生物学的性質を阻害しない担体または希釈剤を示す。担体の非限定的な例は、プロピレングリコール、生理食塩水、乳化剤、および水と有機溶媒との混合物である。
【0305】
本明細書中において、用語「賦形剤」は、化合物の投与をさらに容易にするために医薬組成物に添加される不活性な物質を示す。賦形剤の非限定的な例には、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖およびタイプのデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油およびポリエチレングリコールが含まれる。
【0306】
薬物の配合および投与のための様々な技術が“Remington’s Pharmaceutical Sciences”(Mack Publishing Co.、Easton、PA、最新版)(これは参考として本明細書中に組み込まれる)に見出され得る。
【0307】
本明細書中に記載される医薬組成物は、様々な投与経路のために配合されることができる。好適な投与経路には、例えば、経口送達、舌下送達、吸入送達、直腸送達、経粘膜送達、経皮送達、陰茎内送達、局所送達、腸管送達、または非経口送達(これには、筋肉内注射、皮下注射および髄内注射、ならびに、クモ膜下注射、直接的な脳室内注射、静脈内注射、腹腔内注射、鼻内注射または眼内注射が含まれる)が含まれ得る。
【0308】
局所投与用の処方物としては、ローション、軟膏、ゲル、クリーム、座剤、ドロップ、液体、スプレー、および粉末を挙げることができるが、これらに限定されない。従来の担体、水溶液、粉末、または油性基剤、および増粘剤などが必要である場合があり、またそれらが望ましい場合もある。
【0309】
経口投与用の組成物としては、粉末、顆粒、懸濁液、または水溶液または非水性媒体の溶液、サシェ、カプセル、または錠剤が挙げられる。増粘剤、希釈剤、香料、分散助剤、乳化剤、または結合剤が望ましい場合もある。
【0310】
非経口投与用の処方物としては、滅菌溶液を挙げることができるが、これらに限定されない。これには、緩衝液、希釈剤、および他の適切な添加物を含めることもできる。徐放組成物は、治療のために考えられる。
【0311】
本発明の組成物は、所望される場合には、樹状化合物を含有し得る、FDA(米国食品医薬品局)承認キットなどのパックまたはディスペンサーデバイスで提供され得る。パックは、例えば、金属またはプラスチック箔を含むことができ、例えば、ブリスターパックまたは(吸入のための)加圧容器などであるが、これらに限定されない。パックまたはディスペンサーデバイスには、投与のための説明書が添付され得る。パックまたはディスペンサーにはまた、医薬品の製造、使用または販売を規制する政府当局により定められた形式で容器に付けられた通知が伴い得る。この場合、そのような通知は、組成物の形態またはヒトもしくは動物への投与の当局による承認を反映する。そのような通知は、例えば、処方薬物についての米国食品医薬品局により承認されたラベル書きであり得るか、または承認された製品添付文書であり得る。
【0312】
本発明のポリマーはさらに、様々な物体および構造体を形成するために使用することができる。本発明のキラルなポリマーを含む構造体は、多くの医学的手技および医療用デバイスにおける構造的エレメントおよび/または薬物送達システムとしての使用のために好適であるように設計することができる。ポリマー構造が多彩であることにより、その意図された使用のための所望される機械的特性、物理的特性、生物学的特性および/または化学的特性を示すそのようなポリマーを設計することが可能になる。
【0313】
従って、本発明のさらなる態様によれば、本明細書中に記載されるようなポリマーを含む医療用デバイスが提供される。場合により、医療用デバイスは、治療効果のある薬剤がポリマーに結合または複合体化する本明細書中に記載されるようなコンジュゲートまたは複合体を含む。
【0314】
本発明の好ましい実施形態において、医療用デバイスは生分解性デバイスである。
【0315】
一般に、生分解性の医療用デバイスを有するための大きな動機は、インプラントとして使用することができ、かつ、除去のための別の手術的介入を必要としないデバイスを有することである。別の手術の必要性を除くことのほかに、生分解性は、局所的な、機能的に集中した薬物送達の利点をもたらす場合がある。例えば、堅い非生分解性のステンレス製インプラントにより固定されている折れた骨は、インプラントを除くとき、再骨折の傾向がある。ストレスが堅いステンレススチールによって担われるので、骨は、治癒プロセス期間中、十分な負荷を支えることができないでいる。しかしながら、本明細書中に記載されるような生分解性のキラルなポリマーから調製されたインプラントは、骨再生促進因子を骨折の場所に絶えず送達しながら、負荷を治癒しつつある骨にゆるやかに伝える速度で分解するように操作することができる。
【0316】
その最も単純な形態において、治療効果のある薬剤を送達する能力を有する生分解性デバイスは、キラルなポリマー被覆マトリックスにおける治療効果のある薬剤(キラルまたは非キラルのいずれであっても)の分散物からなる。治療効果のある薬剤は典型的には、生分解性のキラルなポリマー被覆が、ポリマーと、デバイスの物理的大きさとに依存する期間にわたって、吸収および/または代謝され、最終的には身体から排出され得る可溶性産物にインビボで生分解するにつれて放出される。
【0317】
特に好ましい実施形態において、本明細書中に記載されるポリマーを含む医療用デバイスは、埋め込み、注入のために使用されるか、あるいは、そうでない場合には、全体または一部が体内に置かれる。
【0318】
本発明の好ましい実施形態において、医療用デバイスは、対象における経皮的適用および/または局所的適用のために適合化される。そのような医療用デバイスは、所与の組織を治療するために使用されたとき、組織刺激を最小限に抑えることが特に重要である。
【0319】
経皮的適用のために使用することができる例示的なデバイスには、限定されないが、縫合糸、絆創膏および皮膚パッチが含まれる。
【0320】
局所的適用のために使用することができる例示的なデバイスには、限定されないが、縫合糸、接着ストリップ、包帯、絆創膏、創傷被覆材および皮膚パッチが含まれる。
【0321】
より好ましい実施形態において、本発明の医療用デバイスは、医療用デバイスを対象の身体器官に埋め込むために適合化される。そのような医療用デバイスは、その意図された目的を果たすことの他に、有害で、致命的でさえあり得る拒絶時の全身的な機能不全をもたらす免疫応答を誘発しないことが特に重要である。
【0322】
対象の身体器官に埋め込むために使用することができる例示的なデバイスには、限定されないが、プレート、メッシュ、ネジ、ピン、鋲、ロッド、縫合アンカー、吻合用のクリップまたはプラグ、歯科用のインプラントまたはデバイス、大動脈瘤グラフトデバイス、房室シャント、カテーテル、心臓弁、血液透析カテーテル、骨折治癒用デバイス、骨置換デバイス、関節置換デバイス、組織再生デバイス、血液透析グラフト、留置用動脈カテーテル、留置用静脈カテーテル、ニードル、ペースメーカー、ペースメーカーリード線、卵円孔開存中隔閉鎖デバイス、血管ステント、気管ステント、食道ステント、子宮ステント、直腸ステント、ステントグラフト、縫合糸、合成血管グラフト、糸、チューブ、血管瘤オクルダー、血管クリップ、人工血管フィルター、血管鞘および薬物送達口、静脈弁およびワイヤが含まれる。
【0323】
本発明の医療用デバイスを使用することができる身体部位の例には、限定されないが、皮膚、頭皮、皮層、眼、耳、小腸組織、大腸組織、腎臓、膵臓、肝臓、消化管の組織または腔、気道の組織または腔、骨、関節、骨髄組織、脳の組織または腔、粘膜、鼻腔粘膜、血液系、血管、筋肉、肺の組織または腔、腹部の組織または腔、動脈、静脈、毛細管、心臓、心臓腔、雄性生殖器官、雌性生殖器官および内臓器官が含まれる。
【0324】
本発明による好ましい医療用デバイスには、ステント、創傷被覆材、縫合糸および縫合アンカー、干渉ネジおよび汎用ネジ、血管形成術用のプラグ、ピンおよびロッド、鋲、プレート、メッシュ、吻合用のクリップおよびリング、歯科用インプラント、ならびに、誘導型組織マトリクスが含まれる。
【0325】
環境保全が重要になる世界では、医療目的および医学的使用のためには必ずしも必要でない生分解性製造物が非常に有用かつ必要である。多くの使い捨て製造物が、生分解性化合物をそれらの製造において使用することによって環境に優しくなる。当該技術分野では知られているように、多くのそのような製造物および原料が利用可能であり、それにもかかわらず、本発明のポリマーを、使い捨て型の品物および製造物を製造するために使用することは、他の有益な薬剤(好ましくは、キラルな薬剤)がその中に存在することから生じるそれ以上の利益を有する。
【0326】
従って、本発明の好ましい実施形態によれば、本明細書中に示されるポリマー、コンジュゲートおよび複合体は、様々な製造物を組み立てる際に使用することができる。そのような製造物には、限定されないが、釣り糸および漁網、捕虫網およびバードネット、植物ネット、織布、不織布、編み繊維および不織繊維、使い捨ての生理用品、使い捨ての顔マスク(外科医によって使用されるようなもの)、濡れ「ペーパー」ティッシュ(ワイプ)、使い捨ての肌着類、使い捨てのハンカチ、タオルおよびおむつ、使い捨ての医療用供給品、使い捨ての食品容器または食品皿、使い捨ての衣料品、使い捨ての食卓食器用品、ならびに、他の使い捨ての消費者用製品および産業用製品が含まれる。
【0327】
本発明のさらなる目的、利点および新規な特徴が、限定であることが意図されない下記の実施例を検討したとき、当業者には明らかになる。加えて、本明細書中上記に描かれるような、また、下記の請求項の節において特許請求されるような本発明の様々な実施形態および態様のそれぞれは、実験的裏付けが下記の実施例において見出される。
【実施例】
【0328】
次に下記の実施例が参照されるが、下記の実施例は、上記の説明と一緒に、本発明を非限定様式で例示する。
【0329】
(材料および方法)
すべての試薬、溶媒および出発物質を、別途示されていない限り、知られている供給元(例えば、Sigma−Aldrich、FlukaおよびMerck、Acros、Novabiochem、Calbiochem、GeneScript、Iris BiotechならびにGL Biochem(Shanghai))から購入した。
【0330】
アミノ酸をSigma−AldrichおよびShijiazhuang shixing amino acid Co.,Ltd.(中国)から購入した。
【0331】
ポリマーの物理的特性の特徴づけを、円二色性分光法、示差走査熱量測定法(DSC)、NMR測定、高分解能走査電子顕微鏡観察(HR−SEM)、極低温透過電子顕微鏡観察(Cryo−TEM)、小角X線回折(SAX)および分子量測定によって行う。
【0332】
円二色性分光法:円二色性分光法(CD)での測定をJASCO J−720分光計で20℃において行う。楕円率は(+)−10−ショウノウスルホン酸により校正される。スペクトルを0.2nmの分解能により50nm/分の速度で180nm〜340nmの範囲で記録する。平均残基モル楕円率[θ]MRWを、下記の式を使用して計算する:
[θ]MRW=θ/10CrxL
式中、
Crは平均残基モル濃度であり、nxCpに等しく、
nはペプチド結合の数であり、Cpは1リットルあたりのモル数でのモル濃度である;
Lはセンチメートル単位での光路長であり、θはミリ度の単位での楕円率である。
【0333】
二次構造の定量的分析が、CDデータをCDFasmanアルゴリズムにより近似することによって達成される。測定を水(可溶性ポリマーの場合)および様々な濃度のテトラフルオロエチレン(TFE)において行う。
【0334】
示差走査熱量測定法(DSC):熱分析を、インジウムにより校正されたTA装置MDSC2910tを使用して行う。サンプル(約9mg)をDSCに負荷した後、温度を0℃にし、その温度で1分間維持する。サーモグラムを10℃/分の加熱速度で記録する。融解温度(Tm)を融解時の吸熱における極大値から求める。融解熱(H)を融解時の吸熱のピーク面積から求める。
【0335】
NMR測定:H−NMR分析をVarian社の300MHz分光計で行った。
【0336】
質量分析:質量分析(MS)を、Finigan LCQ質量分光光度計を使用して行った。
【0337】
赤外分光法:赤外分光法(IR)での測定を、CHCl装置において溶液からNaClプレートに流し込まれたサンプルに対して、Anelect Instruments FT−IRモデルfx−6160を使用して行った。IRスペクトルを1000cm−1〜4000cm−1の間で記録した。
【0338】
高分解能走査電子顕微鏡観察(HR−SEM):ポリマーの表面幾何構造を、30kVの加速電圧でのShottky型電界放射源を備えるsirion走査電子顕微鏡(FEI Company、オランダ)を使用して高分解能走査電子顕微鏡観察(HR−SEM)によって調べる。粒子をカーボンフィルム上に堆積させ、その後、20mAで1分間、真空中で金コーティングする。
【0339】
極低温透過電子顕微鏡観察(Cryo−TEM):直接的な画像化cryo−TEMのためのガラス化した試料を制御された環境ガラス化システム(CEVS)において調製する。溶液中の試料を、試料支持体として使用される穴あきカーボンフィルム(直径が1ミクロンの穴を有する)に加える。試料を、120kVで操作される顕微鏡で調べる。画像をCCDカメラによって最小電子量でデジタル記録する。
【0340】
小角X線回折(SAX):SAX測定を、スリットにより平行化された入射ビーム(Kratkyカメラ、A.Paar Co.)、Niフィルターに通したCuK放射線を使用して行う。入射ビームのスリット長さ方向に対して垂直な方向での散乱を、マルチチャネル分析計(Nucleus)につながれた線形位置検知型検出器(Raytech)により記録する。サンプルから検出器までの距離は260mmである。
【0341】
分子量測定:分子量(MnおよびMw)および多分散度(PD)を、410示差屈折計(RI検出器)を備えるWaters液体クロマトグラフを使用して、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって求める。0.1%の臭化リチウムを含有するN,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)を1.0ml/分の流速で溶出液として使用する。細孔サイズが103±106Åのstyragelカラムを使用する。分子量校正を、2.9x10グラム/mol〜1.7x10グラム/molの範囲に分子量を有するポリスチレン標準物を使用して行う。
【0342】
(実施例1)
ジアゾ化によるα−アミノ酸からのα−ヒドロキシ酸の調製
α−アミノ酸を、下記のスキーム1に示されるように、亜硝酸ナトリウムを(BauerおよびGajewiak[Tetrahedron、60(2004)、9163〜170]に記載される手順に従って)硫酸中で、または、(Songpon Deechongkit他[Org.Lett.、6、p.497〜500、2004]によって記載される手順に従って)AcOH/HO溶液中で使用して、対応するヒドロキシルカルボン酸に変換した:

(式中、R=CH、(CHCH、(CHCHCH、CHCH(CH)CH、CHSCHCH、CCH、HOCH、CHCH(OH)、HSCH、HNCOCH、HNCOCHCH、HOOCCH、HOOCCHCH、NH(CH、HNCNHNH(CH、CCH(ヒスチジン側鎖))
【0343】
α−アミノ酸を、0.5M硫酸の存在下、過剰な亜硝酸ナトリウム水溶液により0℃で処理した。反応混合物を室温で一晩撹拌し、後処理の後、得られたα−ヒドロキシ酸を有機溶媒から結晶化した。
【0344】
典型的な合成において、アミノ酸(10mmol)をHSO(40mlの0.5M溶液、20mmol)または40%酢酸(AcOH、40ml、20mmol)に溶解した。溶液を0℃に冷却し、NaNO(4.14グラム、60mmol)をHO(13.5ml)に溶解した溶液を、撹拌しながら、かつ、温度を5℃未満で維持しながらゆっくり加えた。得られた混合物をこの温度でさらに3時間撹拌した。その後、混合物を室温に加温し、24時間放置した。その後、混合物を塩化ナトリウムにより飽和にし、エチルエーテルで3回抽出し(それぞれ50ml)、有機層を一緒にして、ブライン(50ml)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムまたは無水硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥剤をろ過して除き、エーテルを減圧下で蒸発させた。残渣をヘキサン:エーテル溶液から再結晶して、それぞれのα−ヒドロキシ酸を得た。
【0345】
上記手順を使用して、α−ヒドロキシカルボン酸を、下記のD−アミノ酸またはL−アミノ酸から、一般には0.1molのスケールで調製した:ロイシン、イソロイシン、バリン、フェニルアラニン、セリンおよびトレオニン。セリンおよびトレオニンのα−ヒドロキシカルボン酸を、下記に示されるように、そのO−ベンジルエーテルに転換した(化合物11および化合物12を参照のこと)。α−ヒドロキシカルボン酸を調製するための大規模手順が下記の実施例2に記載される。チロシンおよびトリプトファンからのα−ヒドロキシカルボン酸の調製が本明細書中下記の実施例3に記載される。
(S)−2−ヒドロキシ−3−フェニルプロピオン酸(化合物1):特徴的な好ましい匂いを有する無色の針状物;収率65%(1.08グラム、6.2mmol)。
融点(Mp):123−123℃(文献値123−124℃と比較して)。
[α]20=−21.3,c=2.35,HO(文献値[α]=−20.0,c=2,HOと比較して)。
(S)−2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸(化合物2):強烈な好ましくない匂いを有する無色の針状物;収率65%。
Mp:61−62℃(文献値62−63℃と比較して)。
[α]20=+17.3,c=1.06,CHCl;(文献値[α]=+17.3,c=1,CHClと比較して);
[α](c=1.58,MeOH):+4.4。
H−NMR:3.71(1H,d),1.88(1H,m),0.86(3H,d),0.78(3H,d)。
分析値:C−50.68,H−8.67
(S)−2−ヒドロキシ−4−メチル吉草酸(化合物3):無色の針状物;収率65%。
Mp:78℃(文献値78−80℃と比較して)。
[α]20=−26.6,c=1.2,1M NaOH(文献値[α]=−25.9,c=1、1M,NaOHと比較して)。
[α](c=1.67,MeOH):−9.6。
H−NMR:3.91(1H,dt),1.73(1H,m),1.40(2H,m),0.86(6H,dd);分析値:C−54.55,H−9.30。
(2S,3S)−2−ヒドロキシ−3−メチル吉草酸(化合物4):無色の針状物;収率60%。
Mp:51℃(文献値52−54℃と比較して)。
[α]20=+21.9,c=1,CHCl(文献値[α]22=+22,c=1,CHClと比較して);
[α](c=1.31,MeOH):+8.2。
H−NMR:3.75(1H,d),1.65(1H,m),1.38(1H,m),1.12(1H,m),0.84(3H,d),0.81(3H,t)
(S)−2−ヒドロキシヘキサン酸(化合物5):白色の結晶;収率30%(0.40グラム、3.0mmol)。
Mp:59−60℃(文献値60−61℃と比較して)。
[α]20=−16.3,c=3.92,1M NaOH(文献値[α]25=−15.3,c=1.1,1M NaOHと比較して)。
(S)−2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸(化合物6):小さな無色の結晶;収率47%(0.62グラム、4.7mmol)。
Mp:47−48℃(文献値49−51℃と比較して)。
[α]22=+4.1,c=1.83,HO(文献値[α]25=+4.5,c=1,HOと比較して)。
(S)−2−ヒドロキシ−3−フェニルプロピオン酸(化合物7):収率65%
Mp:123℃。
H−NMR:7.23(5H,m),4.14(1H,dt),2.87(2H,dq)。
[α](c=1.50,MeOH):−16.1。
分析値:実測値,C−64.79,H−6.20;計算値,C,65.05;H,6.07。
(R)−2−ヒドロキシ−3−フェニルプロピオン酸(化合物8):収率65%
Mp:123℃。
H−NMR:7.23(5H,m),4.12(1H,dt),2.85(2H,dq)。
EA:C−64.80,H−6.25;
[α](c=l.66,MeOH):+17.8。
(R)−2−ヒドロキシ−4−メチル吉草酸(化合物9):収率65%。
H−NMR:3.89(1H,dt),3.33(OH,bp),1.70(1H,m),1.38(2H,m),0.84(6H,dd);
Mp:78℃。
[α](c=1.61,MeOH):+11.8。
(R)−2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸(化合物10):収率55%。
H−NMR:3.71(1H,d),1.89(1H,m),0.87(3H,d),0.80(3H,d);
Mp:61℃。
[α](c=1.68,MeOH):−2.7;
分析値:実測値:C−50.60,H−8.49;計算値:C−50.84,H−8.53。
(S)−3−ベンジルオキシ−2−ヒドロキシ−酪酸(化合物11):
H−NMR:6.92(5H,m),4.34(2H,s)3.99(1H,dq),3.74(1H,d),1.18(3H,d);
分析値:C−62.85,H−6.71(計算値:62.32,H−6.41)。
(S)−3−ベンジルオキシ−2−ヒドロキシ−プロピオン酸(化合物12):
H−NMR:7.31(5H,m),4.62(2H,d)4.12(1H,m),3.82(2H, dd);
分析値:C−60.72,H−5.85(計算値:61.22,H−6.16)。
【0346】
(実施例2)
ジアゾ化によるα−アミノ酸からのα−ヒドロキシ酸の大規模調製
上記のスキーム1に示された同じ一般的概略が、わずかな改変とともに、より多量のα−ヒドロキシ酸を調製するために使用される。
【0347】
例示的な実験において、(S)−ヒドロキシイソ吉草酸を、1リットルの三口丸底フラスコに、頭上攪拌機、均圧滴下漏斗および温度計を備えることによって調製した。フラスコにL−(+)−イソバリン(71.0グラム、0.61mol)を仕込み、水(0.3リットル)を加えた。これにより、白色の懸濁物が得られた。濃硫酸(31.4グラム、0.32mol)を、撹拌しながらゆっくり加え、これにより、透明な溶液を得た。その後、氷(0.2kg)を加え、反応混合物を5℃未満に冷却した。亜硝酸ナトリウム(53.0グラム、0.62mol)を水(0.2リットル)に溶解した溶液を、その後、反応温度を、氷水浴を使用して5℃未満で維持しながらゆっくり加えた。亜硝酸ナトリウムの添加が完了すると、撹拌されている混合物をゆっくり周囲温度に加温した(一晩)。反応混合物のpHを、固体の重炭酸ナトリウムをゆっくり加えることによって3〜4に調節し、得られた混合物を酢酸エチルで抽出した(200mlで3回)。有機抽出液を一緒にし、硫酸マグネシウムで乾燥し、清澄化し、濃縮した。残渣を酢酸エチル:ヘキサン(hexanes)の3:1混合物から再結晶して、対応するヒドロキシル酸を白色固体として得た(化合物13、60%の収率)。

【0348】
(実施例3)
ジアゾ化によるL−TrpおよびL−Tyrのα−ヒドロキシカルボン酸の調製
(+)型のL−トリプトファン(L−Trp)およびL−チロシン(L−Tyr)のヒドロキシ酸を、アミノ酸を適切な保護基により最初に保護することによって調製した。
【0349】
(S)−2−ヒドロキシ−3−(1H−インドール−3−イル)プロピオン酸(化合物14)の調製:
Boc−Trp(For)−OHを、80%トリフルオロ酢酸(TFA)をジクロロメタン(DCM)に溶解した溶液に溶解し、混合物を2時間撹拌した。その後、溶媒を減圧下で蒸発させ、Trp(For)−OHのTFA塩をエーテル中で沈殿させた。沈殿物をろ過し、乾燥し、処理して、本明細書中上記の実施例1に記載されるようなそれぞれのヒドロキシ酸を得た。得られた油状の赤色がかった生成物を、その後、調製用HPLCで精製して、(S)−2−ヒドロキシ−3−(1H−インドール−3−イル)プロピオン酸(化合物14)を得た。
1H−NMR:8.71(1H、lq)、7.59(2H、t)、7.32(3H、q)、4.26(1H、t)、2.98(2H、dq)。
【0350】
L−Tyrのヒドロキシ酸(化合物15)の調製:
最初に、チロシン(Tyr)のフェノール残基をベンジル(Bzl)基によって保護した。従って、L−Tyr(0.1mol)を2N NaOH(2当量)に溶解し、CuSO(0.5当量)を水(50ml)に溶解した溶液を加えた。混合物を60℃に加熱し、冷却した後、メタノール(350ml)および2N NaOH(15ml)を加えた。得られた混合物に臭化ベンジルを加え(1当量)、混合物を25℃〜30℃で一晩撹拌した。その後、紫色の沈殿物をろ過し、メタノール−水の混合物で洗浄し、次いで、メタノールで洗浄し、乾燥した。この銅錯体を粉砕し、焼結ガラス上において、1H HCl(50mlで5回)、水(25mlで2回)、1.5N NHOH(25mlで5回)、最後に、水(25mlで2回)で洗浄した。
【0351】
このようにして得られた保護L−Tyrを、その後、Deechongkit他[Organic Letters、6、4、497〜500、2004]によって記載される手順に従って、20%酢酸中で亜硝酸ナトリウムにより処理して、L−Tyrのヒドロキシ酸(化合物15)を得た。
収率:63%;
Mp:260℃;
ESI−MS:実測値:272.52,計算値MH:272.3。
【0352】
(実施例4)
コンジュゲート酵素系を使用するα−ヒドロキシカルボン酸の調製
デアミナーゼ反応を、下記のスキーム2に示されるように、全細胞による生物転換によって行う:

【0353】
L−アミノ酸デアミナーゼに対する遺伝子の多コピークローンを有する大腸菌(100グラム、湿った細胞ペレット)を、L−フェニルアラニン(100mmol)を含有する脱イオン水(500ml)に加えた。反応液を、1v.v.mの速度で系内に吹き込まれる酸素と、32℃、pH7.5〜8で、2リットルの閉じた発酵槽において素早く混合した。脱アミノ化を、溶存酸素が上昇し始めるまで(およそ1時間後)続けることができ、その時点で酸素の流れを停止した。脱水素反応を、ギ酸ナトリウム(50ml、100mmol)、メルカプトエタノール(1mmol)、ジチオスレイトール(1mmol)、Tris−HCl(25mmol)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(1mmol)、D−乳酸デヒドロゲナーゼ(S.epidernzidis由来、3800ユニット)およびギ酸デヒドロゲナーゼ(C.boidinii由来、380ユニット)を含有する溶液(500ml)を加えることによって開始させた。反応を、0.05v.v.mで吹き込まれる窒素とともに、また、反応液のpHを1H HClにより7.5で維持しながら室温で行った。32時間後、D−PLA(D−フェニル乳酸)の力価量が9.24グラム/リットルであり、これはL−フェニルアラニンに関して58.1%の収率に対応した。
【0354】
(実施例5)
キラルなエチレングリコール型ビルディングブロックおよびアミノエタノール型ビルディングブロックの調製
上記の実施例1〜実施例4のいずれかに従って調製されたヒドロキシアミノ酸のキラルなα−エチレングリコール(hAAh)誘導体を、下記のスキーム3に示されるように、NaBH/I系を使用して、カルボキシル基を対応するアルコールに還元することによって調製した:

【0355】
キラルな2−アルキル−1,2−ジオールアミノ酸誘導体の調製:
α−ヒドロキシ基の保護:α−ヒドロキシ酸を、CHCl中で室温において1時間、ジヒドロピラン(1.4当量)およびp−トルエンスルホン酸(PTSA、0.02当量)と反応し、これにより、対応するTHP保護された酸を80%の収率で得る。
【0356】
キラルな2−アルキル−1,2−ジオールの調製:100mlの丸底フラスコにホウ水素化ナトリウム(40mmol)およびTHF(40m)を仕込む。THP保護されたヒドロキシ酸(20mmol)を一度に加え、フラスコにアルゴンを流し、混合物を氷浴で0℃に冷却する。ヨウ素(16mmol)をTHF(10ml)に溶解した溶液を、30分間、ゆっくり滴下して加えた。水素の激しい発生が認められる。ヨウ素の添加が完了し、ガスの発生が止むと、混合物を18時間にわたって加熱還流する。室温に冷却した後、メタノールを、混合物が透明になるまで注意深く加える。30分間撹拌した後、溶媒を蒸発させ、残留する白色ペーストをKOHの20%水溶液(50ml)に溶解する。溶液を4時間撹拌し、その後、塩化メチレンで抽出する(50mlで3回)。有機抽出液を一緒にして、硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で蒸発させて、白色の半固体物を得て、これをシリカカラムでのクロマトグラフィーによって精製する。生成物が80%の収率で得られる。
【0357】
キラルなアミノエタノール誘導体の調製:
アミノ酸のキラルなアミノエタノール誘導体(nAAh)を、下記のスキーム4に示されるように、上記の手順に従って、NaBHおよびIを使用する還元によって、対応するアミノ酸から調製した:

【0358】
(実施例6)
α−ヒドロキシ酸の直接の縮合によるポリエステルの合成
上記の実施例1〜実施例4に記載されるように調製されたα−ヒドロキシ酸の重合を、下記のスキーム5に示されるように、3つの代替経路(a、b、c)を使用して、直接の縮合によって行った:

【0359】
例示的な縮合反応を、(S)−2−ヒドロキシ−3−メチルブタン酸(化合物2、L−バリンに由来する)を用いて行った。
【0360】
方法A(バルク重合):α−ヒドロキシ酸(300mg)およびPTSA(3mg)を、(ディーン・スターク装置での還流による)6mlのトルエンにおける共沸蒸留によって一晩乾燥した。その後、溶媒を減圧下で除き、反応混合物を真空下において110℃でさらに3時間加熱して、4000Daを超える分子量を有するポリエステルを得た。
【0361】
方法B(溶液重合、水除外):α−ヒドロキシ酸(300mg)およびPTSA(3mg)を、本明細書中上記に記載されたように、ディーン・スターク装置で一晩乾燥した。18時間後、トルエンを部分的に除いた。1ml〜2mlのトルエンを含有する残留反応混合物をさらに、減圧下(15mmHg)でさらに8時間、約140℃で加熱して、5000Daを超える分子量を有するポリエステルを得た。
【0362】
方法C(アシルクロリド):α−ヒドロキシ酸を、知られている手順を使用してそのアシルクロリドに変換した。乾燥した熱トルエンにおける得られたアシルクロリドを、その後、エステル結合を形成するようにα−ヒドロキシ酸と反応させ、これにより、塩酸が反応期間中に遊離した。
【0363】
反応D(マイクロ波技術):α−ヒドロキシ酸(300mg)およびPTSA(3mg)を乾燥トルエンに溶解し、混合物を、生成した水を共沸蒸留により除きながら、高温でマイクロ波区画において反応させる。
【0364】
(実施例7)
ラクトン中間体を介する開環によるポリエステルの合成
本明細書中に記載されるα−ヒドロキシ酸の開環重合を、下記のスキーム6に示されるように行った:

【0365】
ラクトン中間体の調製:
一般に、ラクトン誘導体は、本明細書中上記の実施例1〜実施例4に記載されるように調製されたα−ヒドロキシ酸のいずれか1つを、触媒としてのジブチルスズ、および、開始剤としての2−[2−メトキシエチルオキシ]エタノールまたは2−[2−メトキシエチルオキシ]デカノール(1重量パーセント〜3重量パーセント)と140℃で反応することによって最初に調製される。ラクトン形成は、場合により、触媒を添加することなく調製することができる。
【0366】
例示的な手順において、2−ヒドロキシ−3−メチルブタン酸(化合物2)を、ディーン・スターク装置を使用してトルエン中で12時間加熱することによって乾燥した。触媒としてのジブチルスズを加え、その後、トルエンを蒸発させた。反応バイアルを、下記のスキーム7に示されるように、高真空下(オイルポンプ)で70℃に10時間〜12時間加熱して、3,6−ジイソプロピル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオンラクトン(化合物16)を得た:


【0367】
同じプロセスを繰り返し、乳酸から開始して、白色の結晶を得た。結晶を昇華し、NMR、IRおよびMpによって特徴づけした(データは示されず)。
【0368】
ラクトン中間体の開環重合(ROP):
その後、得られたラクトンを、下記のように、溶液中またはバルクでのいずれかで、触媒の存在下で重合する。例示的な触媒には、Sn(Oct)、イットリウムイソプロポキシドおよび(2,4−ジ−tert−ブチル−6−{[(2’−ジメチルアミノエチル)メチルアミノ]メチル}フェノール)ZnEtが含まれる。
【0369】
溶液ROP重合:典型的な実験において、ディーン・スターク装置、還流冷却器およびCaCl管を備えた50mlの丸底フラスコに、上記のように調製されたイソプロピル−ヒドロキシ酢酸ラクトン(化合物16、600mg)と、10mlのトルエンとを加える。ラクトンを、約9mlのトルエンを4時間の期間中に徐々にエバポレーションすることによって乾燥し、その後、Sn(Oct)(10mg)を加え、混合物を135℃で加熱する。反応の進行の追跡を、取り出されたサンプルの分子量測定によって行う。24時間後、混合物を冷却し、生成物の最終的な分子量を測定する。
【0370】
バルクROP重合:上記のように調製されたラクトン中間体(600mg)を乾燥窒素により150℃で2時間脱気し、Sn(Oct)(10mg)を加え、混合物を135℃で加熱する。
【0371】
代替として、重合を、80℃で10時間、(密閉されたガラスアンプルにおいて)標準的な高真空技術を使用して行う。
【0372】
さらに代替として、ラクトン中間体(2000mg)をトルエンとの共沸蒸留によって乾燥する。イットリウムイソプロポキシド(100mg)を乾燥ラクトンに加え、混合物を120℃で24時間加熱する。
【0373】
上記手順のそれぞれにおいて、10000Daを超える分子量を有するポリマーが得られる。ラクトン中間体は、1つのα−ヒドロキシ酸(例えば、化合物12または乳酸)から、または、その混合物から、そのいずれでも調製することができる。
【0374】
(実施例8)
ケトンとの反応によるポリエステルの合成
α−ポリエステルを形成するための有望な方法では、容易に保護および/または活性化することができるヒドロキシ酸の二座性が活用される。
【0375】
この方法は、ケトンまたはアルデヒドとの反応のときのヒドロキシ酸のα−官能性(カルボキシル基)の複素環化を伴う1工程の合成に基づいている。得られるラクトンは、活性化されたカルボキシル基を含み、このカルボキシル基は、アルコキシドによる求核攻撃を受けたとき、対応する1−カルボキシエステルに変換される。同時に、α−ヒドロキシ機能が脱保護される。反応経過が下記のスキーム8に示される:

Rは本明細書中上記に記載される通りであり、RおよびRはそれぞれが、CF、CHであるか、または、一緒になって、シクロヘキシルを形成する。
【0376】
活性化ラクトンの調製:
α−ヒドロキシ酸は、下記のスキーム9に示されるように、ケトンと反応して、活性化されたラクトンをもたらす:

Rは本明細書中上記に記載される通りであり、RおよびRはそれぞれが、CF、CHであるか、または、一緒になってシクロヘキシルを形成する。
【0377】
従って、1,3−オキサゾリジン−5−オン系化合物を、Bottcher他[Monatshefte fur Chemie、135、1225〜1242(2004)]に従って調製した。
【0378】
2,2−[ビス−(トリフルオロメチル)]−1,3−オキサゾリジン−5−オンの調製:α−ヒドロキシエステル(300mg〜400mg)をトルエン(5ml)に加え、その後、ヘキサフルオロアセトン(6当量)を加え、混合物を3時間撹拌した。その後、混合物を減圧下で濃縮し、残渣を、さらに精製することなく、重合に供した。
【0379】
2,2−[シクロヘキシル]−1,3−オキサゾリジン−5−オンの調製:α−ヒドロキシエステル(300mg〜400mg)をトルエン(10ml)に加え、その後、シクロヘキサノン(1ml)を加え、混合物を、ディーン・スターク装置を用いて16時間還流した。その後、混合物を減圧下で濃縮し、残渣を、さらに精製することなく、重合に供した。
【0380】
2,2−ジメチル−1,3−オキサゾリジン−5−オンの調製:α−ヒドロキシ酸およびp−トルエンスルホン酸(PTSA、1%)を、反応の進行をTLCによって追跡しながら、1週間、アセトン中で還流した。その後、アセトンを減圧下で除き、得られた生成物をNMRによって特徴づけ、重合に供した。
【0381】
活性化ラクトンの重合:
本明細書中上記に記載されるように調製された置換1,3−オキサゾリジン−5−オンをトルエンに溶解し、その後、ナトリウムプロポキシド(クラウンエーテルにおいて、1重量パーセント)を加え、混合物を24時間還流した。その後、溶媒を減圧下で除いて、対応するポリエステル(5000Daを超えるMW)を得た。
【0382】
(実施例9)
ポリエステルの酵素的合成
本明細書中上記の実施例1〜実施例4に記載されるように調製されたα−ヒドロキシ酸を、下記のスキーム10に示されるように、対応するエステルに変換し、その後、非水溶液(例えば、ヘキサン)中でリパーゼと反応させる:

【0383】
(実施例10)
α−ヒドロキシ酸のビルディングブロックを含有するキラルなポリエステル
本明細書中上記に記載される様々なビルディングブロック、および、様々な重合経路を使用して、様々なキラルなポリエステルが調製される。これらのポリマーは、図1に示されるように、使用されたそれらのビルディングブロックの化学的特徴に従って4つのカテゴリーに分類することができる。
【0384】
カテゴリーAは、1つのα−ヒドロキシ酸(hAA)ユニットに由来するポリエステル(均一ポリマー、これは図1において1Aとして示される)、あるいは、様々な側鎖を有する、2つ、3つまたは4つのコンジュゲート化されたヒドロキシ酸から構成されるビルディングブロックに由来するポリエステル(これらは、図1において、2A、3Aおよび4Aとして示される)を示す。
【0385】
カテゴリーBは、α−ヒドロキシ酸ユニットと、任意の脂肪族ヒドロキシ酸または芳香族ヒドロキシ酸との混合物に由来するポリエステルを示す。このカテゴリーにおける例示的なポリエステルがHO−Peg−COOHである。
【0386】
カテゴリーCは、任意のジカルボン酸(DA)に連結された置換されているキラルなエチレングリコール(またはグリセロール)ユニットの混合物に由来するポリエステルを示す。
【0387】
カテゴリーDは、キラルなエチレングリコール(hAAh)ユニットと、アスパラギン酸またはグルタミン酸に由来するキラルなジカルボン酸ユニットとから構成される、カテゴリーCに関連する本来的な化合物を示す。
【0388】
上記カテゴリーのそれぞれにおけるポリエステルを調製するために利用されるビルディングブロックユニットが下記のように調製される:
カテゴリーAのビルディングブロックの調製:
カテゴリーAのビルディングブロック(1A、2A、3A、4A、図1)はKuisle他[Tetrahedron Letters、40(1999)、1203〜1206]に従って調製される。簡単に記載すると、ヒドロキシ酸(hAA)のα−ヒドロキシル基をテトラヒドロピラニル(THP)エーテル基によって保護し、Wang樹脂またはトリチル樹脂(100マイクロモル)のいずれかを使用する固体支持体合成に供する。ヒドロキシ酸残基のカップリングを、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)(3当量)、ジメチルアミノピリジン(DMAP)(1当量)およびTHP保護されたヒドロキシ酸(3当量)を使用して2時間行う。それぞれの工程におけるTHP保護基の除去を、形成されたコンジュゲートを、室温で2時間、CHCl:MeOH(97:3)混合物においてPTSA(5mg/ml)と反応することによって行う。得られたビルディングブロックを、その後、1:1のTFA:CHCl溶液を(室温で1時間)使用して樹脂から切断する。
【0389】
カテゴリーBのビルディングブロックの調製:
カテゴリーBの代表的なビルディングブロック(1B、図1)の調製が下記のスキーム11に示される。

【0390】
最初に、利用されたヒドロキシ酸のいずれかのカルボキシル基を、ヒドロキシ酸(1当量)をDMF中において炭酸セシウム(1.2当量)の存在下で臭化ベンジル(1当量)と反応することによって保護して、化合物Aを得る(スキーム11)。その後、化合物AをDCCおよびDMAPの存在下においてTHP保護のα−ヒドロキシル酸にカップリングする。有機相をNaHCOで洗浄し、MgSOで乾燥し、蒸発させて、化合物Bを得る(スキーム11)。その後、THPをDCM:MeOH混合物においてp−トルエンスルホン酸(PTSA)によって除く。ベンジル基をPd/Cでの水素による還元によって除く。
【0391】
カテゴリーCのビルディングブロックの調製:
方法A:カテゴリーCの代表的なビルディングブロック(1C、図1)の調製が下記のスキーム12に示される。

【0392】
環状無水物(5mmol、例えば、コハク酸無水物、グルタル酸無水物など)を乾燥DCM(10ml)に溶解する。2−THP保護の2−アルキル−1,2−ジオール(5mmol)およびDIEA(10mmol)を加え、反応混合物を16時間撹拌する。その後、有機相を重炭酸ナトリウムの飽和溶液によって抽出する(50mlで2回)。水相を2〜3のpHに酸性化し、DCMによって抽出する(30mlで3回)。抽出液を一緒にして、MgSOで乾燥し、ろ過し、蒸発させて、黄色のオイルを得て、これを調製用HPLCで精製する。
【0393】
方法B:ジカルボン酸のモノエステルを、下記のスキーム13に示されるように、上記のカテゴリーBについて示された合成経路に従って、DCCおよびDMAPの存在下においてTHP保護のα−ヒドロキシル酸にカップリングする。

【0394】
カテゴリーDのビルディングブロックの調製:
カテゴリーDの代表的なビルディングブロック(例えば、1D、図1)を、下記のスキーム14に示されるように、保護されたアスパラギン酸またはグルタミン酸をジカルボン酸として使用して、1Cについて上記で記載されたように調製する。

【0395】
(実施例11)
光学活性なポリエステルを含有するヘテロ立体選択的複合体の調製
本明細書中に記載されるように調製された光学活性なポリエステルと、選ばれたキラルな高分子とを(1:1のモル比で)、ポリエステルおよび高分子を溶解することができる有機溶媒(例えば、塩化メチレン、N−メチルピロリドンまたは1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール)に溶解する。溶液をペトリ皿に流し込み、溶媒を約1週間にわたって室温でゆっくり蒸発させて、準平衡の乾燥状態に到達しないようにする。得られたフィルムを減圧下で1週間乾燥し、室温で1ヶ月以上貯蔵して、平衡状態に近づけるようにし、その後、物理的測定を行う。
【0396】
得られた複合体の特徴づけを、Hatada他[Polym.J.、1981、13、811]に従って、コンゴレッド結合アッセイを使用して行う。複合体の懸濁物の10マイクロリットルを、150mMのNaClを伴う100mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)における25mMのコンゴレッドの240マイクロリットルに加える。30分のインキュベーション期間の後、紫外吸収スペクトルを記録する。コンゴレッドの吸光度極大(486nm)における20nm〜30nmのレッドシフト、および、深色性により、コンゴレッドの結合が示される。
【0397】
得られた複合体の特徴づけを、本明細書中上記の方法の節で記載されたように、円二色性分光法、示差走査熱量測定法、原子間力顕微鏡観察、共焦点顕微鏡観察・結合研究、SAXおよび分子量測定によってさらに行う。
【0398】
明確にするため別個の実施態様で説明されている本発明の特定の特徴は単一の実施態様に組み合わせて提供することもできることは分かるであろう。逆に、簡潔にするため単一の実施態様で説明されている本発明の各種の特徴は別個にまたは適切なサブコンビネーションで提供することもできる。
【0399】
本発明はその特定の実施態様によって説明してきたが、多くの別法、変更及び変形があることは当業者には明らかであることは明白である。従って、本発明は、本願の請求項の精神と広い範囲の中に入るこのような別法、変更及び変形すべてを包含するものである。本願で挙げた刊行物、特許及び特許願はすべて、個々の刊行物、特許及び特許願が各々あたかも具体的にかつ個々に引用提示されているのと同程度に、全体を本明細書に援用するものである。さらに、本願で引用又は確認したことは本発明の先行技術として利用できるという自白とみなすべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0400】
【図1】本発明の好ましい実施形態による例示的なポリマーの概略図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに連結されかつポリマー骨格を形成する複数のモノマー残基を含み、前記モノマー残基の少なくとも一部分が少なくとも1つのキラルな予備重合されたモノマーの残基を含むポリマーであって、前記キラルな予備重合されたモノマーのキラリティーが前記ポリマー内のモノマー残基において維持され、さらに、前記キラルな予備重合されたモノマーにおける不斉原子が前記骨格の一部を形成し、ただし、ポリマーはポリペプチドでない、ポリマー。
【請求項2】
前記キラルな予備重合されたモノマーはキラルなアミノ酸の誘導体である、請求項1に記載のポリマー。
【請求項3】
前記キラルなアミノ酸は、D−α−アミノ酸、L−α−アミノ酸、D−β−アミノ酸およびL−β−アミノ酸からなる群から選択される、請求項2に記載のポリマー。
【請求項4】
前記キラルなアミノ酸の前記誘導体は、α−ヒドロキシアミノ酸、前記アミノ酸の2−アルキル−1,2−ジオール誘導体、および、前記アミノ酸のアミノアルコール誘導体からなる群から選択される、請求項3に記載のポリマー。
【請求項5】
前記少なくとも1つのキラルな予備重合されたモノマーのそれぞれが独立して下記の一般式IIaまたは一般式IIbを有する請求項1に記載のポリマー:

式中、それぞれのは独立してR型立体配置またはS型立体配置を示す;
RおよびR’のそれぞれは独立して、水素、正荷電部分、負荷電部分、疎水性部分、および親水性部分からなる群から選択され、ただし、RおよびR’の少なくとも1つは水素ではない;
Zは、OH、SHおよびNHからなる群から選択される;
Wは、=OおよびRaRbからなる群から選択され、RaおよびRbのそれぞれは独立して、水素またはアルキルである;
ただし、前記予備重合されたモノマーはアミノ酸ではない。
【請求項6】
RおよびR’の少なくとも1つがアミノ酸の側鎖である、請求項5に記載のポリマー。
【請求項7】
アミノ酸残基、ヒドロキシカルボン酸残基、ジアルキレングリコール残基、およびジカルボン酸残基からなる群から選択される少なくとも1つのモノマー残基をさらに含む、請求項1〜6のいずれかに記載のポリマー。
【請求項8】
前記モノマー残基は、エステル結合およびアミド結合からなる群から選択される結合によって互いに連結される、請求項1〜7のいずれかに記載のポリマー。
【請求項9】
生分解性ポリマーである、請求項1〜7のいずれかに記載のポリマー。
【請求項10】
約1000Da〜約50000Daの範囲の分子量を有する、請求項1〜7のいずれかに記載のポリマー。
【請求項11】
少なくとも1つのキラルな予備重合されたモノマーを重合し、それにより、互いに連結されかつポリマー骨格を形成する複数のモノマー残基を含み、前記複数のモノマー残基の少なくとも一部分が前記少なくとも1つのキラルな予備重合されたモノマーの残基であるポリマーを形成することを含む、ポリマーを調製するプロセスであって、前記キラルな予備重合されたモノマーのキラリティーがポリマー内の前記モノマー残基において維持され、さらに、前記キラルな予備重合されたモノマーにおける不斉原子が前記骨格の一部を形成し、ただし、ポリマーはポリペプチドでない、プロセス。
【請求項12】
前記重合は、前記キラルな予備重合されたモノマーの少なくとも2つを縮合することを含む、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
前記重合の前に、前記少なくとも1つのキラルな予備重合されたモノマーを環化し、それにより、前記少なくとも1つのキラルな予備重合されたモノマーの少なくとも1つの残基を含む環状化合物を提供することをさらに含む、請求項11に記載のプロセス。
【請求項14】
前記重合は開環重合を含む、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
前記環化はケトンの存在下で行われ、前記環状化合物は前記ケトンの残基をさらに含む、請求項13に記載のプロセス。
【請求項16】
前記重合は酵素触媒による重合を含む、請求項11に記載のプロセス。
【請求項17】
前記ポリマーは実質的に、前記少なくとも1つのキラルな予備重合されたモノマーの前記モノマー残基からなり、前記重合は、
前記少なくとも1つのキラルな予備重合されたモノマーの少なくとも2つを互いに結合し、それにより、互いに連続して連結されている前記少なくとも1つのキラルな予備重合されたモノマーの前記少なくとも2つの残基を含む少なくとも1つのオリゴマーを形成すること、および
前記少なくとも1つのオリゴマーを重合すること
を含む、請求項11に記載のプロセス。
【請求項18】
前記ポリマーは、ヒドロキシカルボン酸の少なくとも1つの残基をさらに含み、前記重合は、
前記少なくとも1つのキラルな予備重合されたモノマーおよび前記少なくとも1つのヒドロキシカルボン酸を結合し、それにより、前記ヒドロキシカルボン酸の残基に連結されている前記少なくとも1つのキラルな予備重合されたモノマーの残基の少なくとも1つのコンジュゲートを形成すること、および
前記少なくとも1つのコンジュゲートを重合すること
を含む、請求項11に記載のプロセス。
【請求項19】
前記ポリマーは、ジカルボン酸の少なくとも1つの残基をさらに含み、前記重合は、
前記少なくとも1つのキラルな予備重合されたモノマーおよび前記少なくとも1つのジカルボン酸を結合し、それにより、前記ジカルボン酸の残基に連結されている前記少なくとも1つのキラルな予備重合されたモノマーの残基の少なくとも1つのコンジュゲートを形成すること、および
前記少なくとも1つのコンジュゲートを重合すること
を含む、請求項11に記載のプロセス。
【請求項20】
前記少なくとも1つのキラルな予備重合されたモノマーはキラルなアミノ酸の誘導体である、請求項11に記載のプロセス。
【請求項21】
前記キラルなアミノ酸の前記誘導体は、α−ヒドロキシアミノ酸、前記アミノ酸の2−アルキル−1,2−ジオール誘導体、および、前記アミノ酸のアミノアルコール誘導体からなる群から選択される、請求項20に記載のプロセス。
【請求項22】
前記キラルなアミノ酸の前記誘導体はα−ヒドロキシアミノ酸であり、プロセスはさらに、前記重合の前に、前記キラルなアミノ酸を前記α−ヒドロキシアミノ酸に変換することを含み、ただし、前記α−ヒドロキシアミノ酸は前記キラルなアミノ酸のキラリティーを維持する、請求項21に記載のプロセス。
【請求項23】
前記変換は、前記キラルなアミノ酸と亜硝酸塩との反応を含む、請求項14に記載のプロセス。
【請求項24】
前記変換は、前記キラルなアミノ酸を、アミノデアミナーゼおよび乳酸デヒドロゲナーゼによって行われる酵素触媒反応に供することを含む、請求項14に記載のプロセス。
【請求項25】
前記キラルなアミノ酸の前記誘導体は前記アミノ酸の2−アルキル−1,2−ジオール誘導体であり、プロセスはさらに、前記重合の前に、
前記キラルなアミノ酸をα−ヒドロキシアミノ酸に変換すること、ただし、前記α−ヒドロキシアミノ酸は前記キラルなアミノ酸のキラリティーを維持すること、および、
前記α−ヒドロキシアミノ酸を前記アミノ酸の前記2−アルキル−1,2−ジオール誘導体に変換すること、ただし、前記アミノ酸の前記2−アルキル−1,2−ジオール誘導体は前記キラルなアミノ酸のキラリティーを維持すること
を含む、請求項21に記載のプロセス。
【請求項26】
前記キラルなアミノ酸の前記誘導体は前記アミノ酸のアミノアルコール誘導体であり、プロセスはさらに、前記重合の前に、前記キラルなアミノ酸を前記アミノ酸の前記アミノアルコール誘導体に変換すること、ただし、前記アミノ酸の前記アミノアルコール誘導体は前記キラルなアミノ酸のキラリティーを維持することを含む、請求項21に記載のプロセス。
【請求項27】
活性な薬剤が結合している請求項1〜10のいずれかに記載のポリマーを含むコンジュゲート。
【請求項28】
前記活性な薬剤は、治療効果のある薬剤、標識化剤、架橋剤、およびさらなるポリマーからなる群から選択される、請求項27に記載のコンジュゲート。
【請求項29】
前記活性な薬剤は治療効果のある薬剤である、請求項27に記載のコンジュゲート。
【請求項30】
前記活性な薬剤はキラルな活性な薬剤である、請求項27に記載のコンジュゲート。
【請求項31】
前記活性な薬剤は前記ポリマーとのヘテロステレオ複合体を形成する、請求項30に記載のコンジュゲート。
【請求項32】
請求項1〜10のいずれかに記載のポリマーと、医薬的に許容され得る担体とを含む、医薬組成物。
【請求項33】
医薬品を調製するための、請求項1〜10のいずれかに記載のポリマーの使用。
【請求項34】
必要性のある対象において病状を治療する方法であって、請求項1〜10のいずれかに記載のポリマーを対象に投与することを含む、方法。
【請求項35】
請求項29に記載のコンジュゲートと、医薬的に許容され得る担体とを含む、医薬組成物。
【請求項36】
医薬品を調製するための、請求項29に記載のコンジュゲートの使用。
【請求項37】
前記医薬品は、前記治療効果のある薬剤が有益である病状を治療するためのものである、請求項36に記載の使用。
【請求項38】
前記医薬品は、前記治療効果のある薬剤を標的化された身体部位に送達するためのものである、請求項36に記載の使用。
【請求項39】
キラルな薬剤を複合体化している請求項1〜10のいずれかに記載のポリマーを含むヘテロステレオ複合体であって、前記キラルな薬剤は、前記ポリマーとの立体相互作用を形成するために好適な立体配置を有する、ヘテロステレオ複合体。
【請求項40】
前記キラルな薬剤は、キラルな治療効果のある薬剤である、請求項39に記載のヘテロステレオ複合体。
【請求項41】
前記キラルな薬剤は、ペプチド、タンパク質、およびキラルな高分子からなる群から選択される、請求項39および40のいずれかに記載のヘテロステレオ複合体。
【請求項42】
薬剤を環境にゆるやかに放出する方法であって、薬剤を結合している請求項1〜10のいずれかに記載のポリマーを含むコンジュゲートを環境と接触させることを含む、方法。
【請求項43】
キラルな薬剤を環境にゆるやかに放出する方法であって、この方法は、前記キラルな薬剤を複合体化している請求項1〜10のいずれかに記載のポリマーを含むヘテロステレオ複合体を環境と接触させることを含み、前記キラルな薬剤は、前記ポリマーとの立体相互作用を形成するために好適な立体配置を有する、方法。
【請求項44】
前記環境は生物の身体である、請求項42および43のいずれかに記載の方法。
【請求項45】
治療効果のある薬剤をその必要性のある対象の身体器官に送達する方法であって、請求項29に記載のコンジュゲートの治療効果的な量を対象に投与することを含む、方法。
【請求項46】
必要性のある対象において病状を治療する方法であって、この方法は、請求項29に記載のコンジュゲートの治療効果的な量を対象に投与することを含み、前記療効果のある薬剤は病状の治療において有益である、方法。
【請求項47】
必要性のある対象において病状を治療する方法であって、この方法は、請求項40に記載のヘテロステレオ複合体の治療効果的な量を対象に投与することを含み、前記療効果のある薬剤は病状の治療において有益である、方法。
【請求項48】
請求項1〜10のいずれかに記載のポリマーを含む医療用デバイス。
【請求項49】
請求項27〜31のいずれかに記載のコンジュゲートを含む医療用デバイス。
【請求項50】
請求項39〜41のいずれかに記載の複合体を含む医療用デバイス。

【図1】
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【公表番号】特表2008−542494(P2008−542494A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−514303(P2008−514303)
【出願日】平成18年6月4日(2006.6.4)
【国際出願番号】PCT/IL2006/000643
【国際公開番号】WO2006/129320
【国際公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(502275425)イッサム リサーチ ディベロップメント カンパニー オブ ザ ヘブリュー ユニバーシティー オブ エルサレム (10)
【Fターム(参考)】