説明

手動変速機のシフト機構

【課題】シフト操作速度が遅いとき、シフト操作を軽くすることが可能で、シフト操作速度が速いとき、シフトフィーリングを効果的に向上させることが可能なシフト機構を提供する。
【解決手段】当該シフト機構では、シフト操作によりシフトアウターレバー11がシフトアンドセレクトシャフト12の軸を中心として揺動することによりシフト位置がコントロールされる。シフトアウターレバー11には、アーム21と慣性マス22と弾性体23が設けられている。アーム21は、シフトアンドセレクトシャフト11の軸中心O1に対して径外方に向けて延出しシフトアウターレバー11と一体で揺動する。慣性マス22は、アーム21の延出方向に沿って移動可能に組付けられている。弾性体23は、慣性マス22を径内方に向けて付勢し、同慣性マス22がシフトアンドセレクトシャフト11の軸中心O1から離れる方向に移動するとき同慣性マス22の移動を弾性的に規制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手動変速機のシフト機構、特に、シフト操作によりシフトアウターレバーがシフトアンドセレクトシャフトの軸を中心として揺動することによりシフト位置がコントロールされる手動変速機のシフト機構に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のシフト機構は、例えば、下記特許文献1の図5に記載されていて、前記シフトアンドセレクトシャフトの軸中心に対して径方向に延出し前記シフトアウターレバーとともに揺動するアームと、このアームの先端に一体的に組付けられて同アームと一体で揺動する慣性マス(前記シフトアウターレバーの慣性(動き難さ、止まり難さ)を増大させるもの)を備えている。上記した慣性マスは、主として、シフト操作時の変速機への入力力積(シフトアウターレバーからシフトフォークに伝達されるシフト力)の増大と、シフト操作時の変速機からの反力(主に、シフトフォークからシフトレバーに伝達される変速時の2段入り荷重)の伝達低減を目的としていて、シフトフィーリングの向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4467993号公報
【発明の概要】
【0004】
ところで、上記特許文献1の図5に記載されているシフト機構では、慣性マスが、アームの先端に一体的に組付けられていて、シフト操作時に、アームに対して移動しないように構成されている。このため、上記した慣性マスによる慣性量(慣性マスの質量mと、この中心までの回転中心からの距離rによって定まる慣性モーメントI=m・r)は、シフト操作時に変化することはない。
【0005】
したがって、上記シフト機構にて質量m、距離rの少なくとも一方を大きくして、上記した慣性マスによる慣性量を大きくし、上記した慣性マスによる効果(上記した変速機への入力力積の増大効果と、変速機からの反力の伝達低減効果)を高めた場合には、同効果によるシフトフィーリングの更なる向上が図られるものの、上記した慣性量の増大に比例してシフト操作時の操作力が増大し、シフト操作が重くなる(シフト操作性が悪くなる)。
【0006】
そこで、本発明は、シフト操作速度(これは、シフトアウターレバーの角速度ωでもあり、一般的には、シフト操作完了直前に最大となる)が遅いとき(角速度ωが小さいとき)には、慣性マスによる慣性量(慣性モーメントI)を小さくすることができて、シフト操作を軽くすること(シフト操作力を小さくすること)が可能であり、また、シフト操作速度が速いとき(角速度ωが大きいとき)には、慣性マスによる慣性量を大きくすることができて、上記したシフトフィーリングを効果的に向上させることが可能であるシフト機構を提供することを目的としている。
【0007】
かかる目的を達成するために、本発明では、シフト操作によりシフトアウターレバーがシフトアンドセレクトシャフトの軸を中心として揺動することによりシフト位置がコントロールされる手動変速機のシフト機構において、前記シフトアンドセレクトシャフトの軸中心(回転中心)に対して径方向に延出し前記シフトアウターレバーと一体で揺動するアームと、このアームにその延出方向に沿って移動可能に組付けられた慣性マスと、この慣性マスを径内方に向けて付勢し同慣性マスが前記シフトアンドセレクトシャフトの軸中心から離れる方向に移動するときに同慣性マスの移動を弾性的に規制する弾性体とが、設けられている。
【0008】
本発明による手動変速機のシフト機構では、シフト停止時に、慣性マスが弾性体により径内方に向けて付勢されてアームの所定部位(例えば、中間部位)に保持されている。また、シフト操作速度が遅いシフト操作時には、シフト操作速度が速いシフト操作時に比して、慣性マスに作用する遠心力(m・r・ω)が小さいため、アームに対する慣性マスの弾性体の付勢力に抗した径外方への移動量(シフト停止時の位置からの径外方への移動量)を小さくすることができる。
【0009】
このため、シフト操作速度が遅いシフト操作時には、シフト操作速度が速いシフト操作時に比して、シフト操作時の最大慣性量(シフト操作完了直前の慣性モーメントI)を小さくすることができて、シフト操作を軽くすること(シフト操作力を小さくすること)が可能であり、また、シフト操作速度が速いシフト操作時には、シフト操作速度が遅いシフト操作時に比して、シフト操作時の最大慣性量を大きくすることができて、上記したシフトフィーリングを効果的に向上させることが可能である。
【0010】
上記した本発明の実施に際して、前記アームの径外方端に、前記慣性マスの径外方への移動量を規定するストッパが設けられていることも可能である。この場合には、慣性マスの径外方への移動量(最大移動量)をストッパにより規定することができて、弾性体の最大弾性変形量を所定量に規定することができ、弾性体の耐久性を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による手動変速機のシフト機構の一実施形態を概略的に示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明による手動変速機のシフト機構を概略的に示したものであり、このシフト機構では、シフトレバー(図示省略)と連係するシフトアウターレバー11がシフトアンドセレクトシャフト12に一体的に組付けられている。また、シフトインナーレバー13がシフトアンドセレクトシャフト12に一体的に組付けられている。このため、シフトレバー(図示省略)によるシフト操作により、シフトアウターレバー11がシフトアンドセレクトシャフト12の軸を中心として矢印A,B方向に揺動すると、シフトインナーレバー13が同方向に揺動する。
【0013】
したがって、シフトシャフト14およびシフトヘッド15が一体で矢印C,D方向に移動するとともに、シフトヘッド16、シフトシャフト17、およびシフトフォーク18が一体で矢印C,D方向に移動して、シフトフォーク18等のシフト位置がコントロールされるように構成されている。なお、図1では、シフトフォーク18等が1個のみ示されているが、当該手動変速機では、変速段に応じた個数のシフトフォーク等が設けられている。また、当該手動変速機では、シフトレバー(図示省略)によるセレクト操作により、シフトアウターレバー11等がシフトアンドセレクトシャフト12の軸方向に移動して、セレクト位置がコントロールされるように構成されている。
【0014】
ところで、この実施形態においては、シフトアウターレバー11にアーム21と慣性マス22と弾性体23が設けられている。アーム21は、円柱状に形成されていて、シフトアンドセレクトシャフト12の軸中心(回転中心)O1に対して径外方に向けて延出しており、シフトアウターレバー11と一体で揺動するように構成されている。慣性マス22は、所定の質量があり、円筒状に形成されていて、アーム21の延出方向に沿って移動可能(摺動可能)に組付けられている。
【0015】
弾性体23は、一端(内方端)がシフトアウターレバー11(アーム21でも実施可能)に固定され、他端(外方端)が慣性マス22に固定されている引っ張りコイルスプリングである。この弾性体23は、慣性マス22を径内方に向けて付勢するものであり、慣性マス22がシフトアンドセレクトシャフト12の軸中心O1から離れる方向に移動するときに慣性マス22の移動を弾性的に規制するように構成されている。なお、シフト停止時では、弾性体23の径内方への付勢力と、アーム21に対する慣性マス22の摩擦係合力がバランスしていて、慣性マス22がアーム21の中間部位(図1に示した位置、すなわち、軸中心O1からの距離がroの位置)に保持されている。
【0016】
上記のように構成したこの実施形態においては、シフトレバー(図示省略)によるシフト操作時に、シフト操作速度(これは、シフトアウターレバー11の角速度ωでもあり、一般的には、シフト操作完了直前に最大となる)に応じた遠心力(m・r・ω)が慣性マス22に作用する。mは慣性マス22の質量であり、rは慣性マス22の中心(重心)までの回転中心(O1)からの距離である。このため、シフト操作時には、上記遠心力が弾性体23の径内方への付勢力とアーム21に対する慣性マス22の摩擦係合力との和とバランスする位置まで、慣性マス22がアーム21に対して径外方に移動する。
【0017】
この場合において、シフト操作速度が遅いシフト操作時には、シフト操作速度が速いシフト操作時に比して、慣性マス22に作用する遠心力(m・r・ω)が小さいため、アーム21に対する慣性マス22の弾性体23の付勢力等に抗した径外方への移動量(シフト停止時の位置roからの径外方への移動量Δr)を小さくすることができる。
【0018】
このため、シフト操作速度が遅いシフト操作時には、シフト操作速度が速いシフト操作時に比して、シフト操作時の最大慣性量(シフト操作完了直前の慣性モーメントI=m・r=m・(ro+Δr))を小さくすることができて、シフト操作を軽くすること(シフト操作力を小さくすること)が可能であり、また、シフト操作速度が速いシフト操作時には、シフト操作速度が遅いシフト操作時に比して、シフト操作時の最大慣性量を大きくすることができて、上記したシフトフィーリングを効果的に向上させることが可能である。
【0019】
また、この実施形態においては、アーム21の径外方端に、慣性マス22の径外方への移動量を規定するストッパ24が設けられている。このため、慣性マス22の径外方への移動量(最大移動量)をストッパ24により規定することができて、弾性体23の最大弾性変形量を所定量に規定することができ、弾性体23の耐久性を向上させることが可能である。
【0020】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、シフトアウターレバー11とアーム21を別体で構成して一体的に連結して実施したが、シフトアウターレバー(11)とアーム(21)を一体に形成して実施することも可能である。また、上記実施形態では、弾性体23として引っ張りコイルスプリングを採用して実施したが、弾性体(23)として圧縮コイルスプリングを採用し、これを慣性マス(22)とストッパ(24)間に介装するように構成して実施することも可能である。この場合において、慣性マス(22)のストッパ(24)側に圧縮コイルスプリングの少なくとも一部を収容可能な環状凹部を設けて、慣性マス(22)の径外方への移動量に応じて、環状凹部内に圧縮コイルスプリングが順次収容されるように構成して実施することも可能である。
【符号の説明】
【0021】
11…シフトアウターレバー、12…シフトアンドセレクトシャフト、13…シフトインナーレバー、14…シフトシャフト、15…シフトヘッド、16…シフトヘッド、17…シフトシャフト、18…シフトフォーク、21…アーム、22…慣性マス、23…弾性体、24…ストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シフト操作によりシフトアウターレバーがシフトアンドセレクトシャフトの軸を中心として揺動することによりシフト位置がコントロールされる手動変速機のシフト機構において、
前記シフトアンドセレクトシャフトの軸中心に対して径外方に向けて延出し前記シフトアウターレバーと一体で揺動するアームと、このアームにその延出方向に沿って移動可能に組付けられた慣性マスと、この慣性マスを径内方に向けて付勢し同慣性マスが前記シフトアンドセレクトシャフトの軸中心から離れる方向に移動するときに同慣性マスの移動を弾性的に規制する弾性体とが、設けられている、ことを特徴とする手動変速機のシフト機構。
【請求項2】
請求項1に記載の手動変速機のシフト機構において、
前記アームの径外方端に、前記慣性マスの径外方への移動量を規定するストッパが設けられていることを特徴とする手動変速機のシフト機構。

【図1】
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【公開番号】特開2013−36491(P2013−36491A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170863(P2011−170863)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】