説明

手動変速機の変速操作装置

【課題】手動変速機の変速操作装置において、手動操作用のシフトレバーを前進変速段のシフト位置から後進変速段のシフト位置に誤って直接変速操作する、という「ミスシフト」を防止するためのミスシフト防止装置の構成を簡単にできるようにする。
【解決手段】変速機ケース2側に対し弾性体44により浮動状態に支持されて、他の所定位置Kに配置される移動規制体45を設ける。連動部材41が一方向Gに移動して所定位置Hを通り一側方Iに移動するとき、連動部材41に押されて移動規制体45が他の所定位置Kから一旦偏位した後、この他の所定位置Kに戻るようにする。連動部材41が一側方Iを逆移動して所定位置Hに達したとき、この連動部材41に押された移動規制体45が他の所定位置Kから偏位して変速機ケース2側に当接し、連動部材41のそれ以上の逆移動を阻止するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シフトレバーに対する手動操作により、前進変速段のシフト位置から他の前進変速段に変速操作しようとする際に、誤って、直接後進変速段のシフト位置に向かうシフト方向に変速操作する、ということを防止するようにした手動変速機の変速操作装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記手動変速機の変速操作装置には、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、シフトレバーのセレクト方向の所定セレクト位置から、このセレクト方向に直交する方向の一方のシフト方向に上記シフトレバーを移動させれば、前進変速段が得られるようになっている。また、上記所定セレクト位置から、他方のセレクト方向に上記シフトレバーを移動させれば、後進変速段が得られるようになっている。
【0003】
ここで、上記した一方のシフト方向にシフトレバーを移動させることにより前進変速段のシフト位置に位置させている状態から、他の前進変速段のシフト位置に位置させようとする場合には、一旦、上記シフトレバーを上記所定セレクト位置に移動させる。しかし、この際、このシフトレバーを上記所定セレクト位置から、後進変速段のシフト位置に向かう他方のシフト方向に向け、誤って、直接上記シフトレバーを移動させる、という「ミスシフト」をするおそれがある。そこで、この「ミスシフト」を防止するためのミスシフト防止装置が設けられている。
【特許文献1】特開2000−249228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来の技術におけるミスシフト防止装置は、構成部品が極めて多いために、手動変速機の変速操作装置の構成が複雑になっている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、手動変速機の変速操作装置において、手動操作用のシフトレバーを前進変速段のシフト位置から後進変速段のシフト位置に誤って直接変速操作する、という「ミスシフト」を防止するためのミスシフト防止装置の構成を簡単にできるようにすることである。
【0006】
請求項1の発明は、変速機本体14側とシフトレバー16との間に介設されてこれらに連動する連動部材41を設け、上記シフトレバー16をセレクト方向SEでの所定セレクト位置Fにまで移動させたとき、上記連動部材41が一方向Gに移動して所定位置Hに達するようにし、上記シフトレバー16を上記所定セレクト位置Fから一方のシフト方向SHに移動させたとき、これに連動する上記連動部材41が上記所定位置Hから一側方Iに移動すると共に前進変速段が得られるようにする一方、上記シフトレバー16を上記所定セレクト位置Fから他方のシフト方向SH´に移動させたとき、このシフトレバー16に連動する上記連動部材41が上記所定位置Hから他側方Jに移動すると共に後進変速段が得られるようにした手動変速機の変速操作装置において、
変速機ケース2側に対し弾性体44により浮動状態に支持されて、他の所定位置Kに配置される移動規制体45を設け、上記連動部材41が上記一方向Gに移動して上記所定位置Hを通り上記一側方Iに移動するとき、この連動部材41に押されて上記移動規制体45が上記他の所定位置Kから一旦偏位した後、この他の所定位置Kに戻るようにし、上記連動部材41が上記一側方Iを逆移動して上記所定位置Hに達したとき、この連動部材41に押された上記移動規制体45が上記他の所定位置Kから偏位して上記変速機ケース2側に当接し、上記連動部材41のそれ以上の逆移動を阻止するようにしたことを特徴とする手動変速機の変速操作装置である。
【0007】
請求項2の発明は、上記変速機ケース2に支持されるシフトセレクト軸27と、このシフトセレクト軸27に支持され、このシフトセレクト軸27を介し上記シフトレバー16に連結される一方、上記変速機本体14側と係合するインナレバー29とを設け、このインナレバー29が、上記シフトレバー16に連動して上記シフトセレクト軸27の軸方向に移動Aすると共に、上記シフトセレクト軸27の軸心26回りに回動Bして、上記前、後進変速段が得られるようにし、上記インナレバー29を上記連動部材41とし、上記移動Aの方向に上記一方向Gを合致させ、上記回動Bの方向に上記所定位置Hからの一側方Iと他側方Jとの各移動の方向を合致させたことを特徴とする請求項1に記載の手動変速機の変速操作装置である。
【0008】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0009】
本発明による効果は、次の如くである。
【0010】
請求項1の発明は、変速機本体側とシフトレバーとの間に介設されてこれらに連動する連動部材を設け、上記シフトレバーをセレクト方向での所定セレクト位置にまで移動させたとき、上記連動部材が一方向に移動して所定位置に達するようにし、上記シフトレバーを上記所定セレクト位置から一方のシフト方向に移動させたとき、これに連動する上記連動部材が上記所定位置から一側方に移動すると共に前進変速段が得られるようにする一方、上記シフトレバーを上記所定セレクト位置から他方のシフト方向に移動させたとき、このシフトレバーに連動する上記連動部材が上記所定位置から他側方に移動すると共に後進変速段が得られるようにした手動変速機の変速操作装置において、
変速機ケース側に対し弾性体により浮動状態に支持されて、他の所定位置に配置される移動規制体を設け、上記連動部材が上記一方向に移動して上記所定位置を通り上記一側方に移動するとき、この連動部材に押されて上記移動規制体が上記他の所定位置から一旦偏位した後、この他の所定位置に戻るようにし、上記連動部材が上記一側方を逆移動して上記所定位置に達したとき、この連動部材に押された上記移動規制体が上記他の所定位置から偏位して上記変速機ケース側に当接し、上記連動部材のそれ以上の逆移動を阻止するようにしている。
【0011】
このため、手動操作用のシフトレバーを前進変速段のシフト位置から後進変速段のシフト位置に誤って直接変速操作する、という「ミスシフト」を防止するためのミスシフト防止装置は、構成が簡単な弾性体と、この弾性体に浮動状態に支持される移動規制体とで構成されると共に、上記変速機の構成部品である変速機ケースや連動部材が利用されて部品点数の増加が抑制され、かつ、変速操作時のこの連動部材の動作が利用されている。よって、上記変速操作装置におけるミスシフト防止装置の構成を簡単にすることができる。
【0012】
請求項2の発明は、上記変速機ケースに支持されるシフトセレクト軸と、このシフトセレクト軸に支持され、このシフトセレクト軸を介し上記シフトレバーに連結される一方、上記変速機本体側と係合するインナレバーとを設け、このインナレバーが、上記シフトレバーに連動して上記シフトセレクト軸の軸方向に移動すると共に、上記シフトセレクト軸の軸心回りに回動して、上記前、後進変速段が得られるようにし、上記インナレバーを上記連動部材とし、上記移動の方向に上記一方向を合致させ、上記回動の方向に上記所定位置からの一側方と他側方との各移動の方向を合致させている。
【0013】
このため、上記各変速段を得る上で主要部材であるインナレバーと、このインナレバーの上記移動、回動という各変速段を得るための各動作が、上記ミスシフト防止装置の構成に合理的に利用されている。よって、このミスシフト防止装置の構成を、より確実に簡単にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の手動変速機の変速操作装置に関し、手動変速機の変速操作装置において、手動操作用のシフトレバーを前進変速段のシフト位置から後進変速段のシフト位置に誤って直接変速操作する、という「ミスシフト」を防止するためのミスシフト防止装置の構成を簡単にできるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための最良の形態は、次の如くである。
【0015】
即ち、変速機本体側とシフトレバーとの間に介設されてこれらに連動する連動部材が設けられる。上記シフトレバーをセレクト方向での所定セレクト位置にまで移動させたとき、上記連動部材が一方向に移動して所定位置に達するようにする。上記シフトレバーを上記所定セレクト位置から一方のシフト方向に移動させたとき、これに連動する上記連動部材が上記所定位置から一側方に移動すると共に前進変速段が得られるようにする。一方、上記シフトレバーを上記所定セレクト位置から他方のシフト方向に移動させたとき、このシフトレバーに連動する上記連動部材が上記所定位置から他側方に移動すると共に後進変速段が得られるようにする。
【0016】
変速機ケース側に対し弾性体により浮動状態に支持されて、他の所定位置に配置される移動規制体が設けられる。上記連動部材が上記一方向に移動して上記所定位置を通り上記一側方に移動するとき、この連動部材に押されて上記移動規制体が上記他の所定位置から一旦偏位した後、この他の所定位置に戻るようにする。上記連動部材が上記一側方を逆移動して上記所定位置に達したとき、この連動部材に押された上記移動規制体が上記他の所定位置から偏位して上記変速機ケース側に当接し、上記連動部材のそれ以上の逆移動を阻止することとされる。
【実施例1】
【0017】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例1を添付の図1−6に従って説明する。
【0018】
図1−4において、符号1は、車両に搭載される変速機であり、これはエンジンの駆動力を変速して、駆動車輪に伝達可能する。また、矢印Frは、この自動車の進行方向の前方を示している。なお、下記する左右とは、上記前方に向かっての自動車の幅方向をいうものとする。
【0019】
上記変速機1は、その外殻を構成して車体に支持される変速機ケース2を備えている。また、この変速機ケース2は、ケース本体3と、このケース本体3の天井板4に締結具により着脱可能に固定されるブラケット5とを備えている。
【0020】
上記ブラケット5は、上記天井板4に形成された開口7を閉じるよう上記天井板4に固定されるカバー板8と、このカバー板8の外面に突設される外部ブラケット9と、上記カバー板8の内面から上記開口7を通り上記変速機ケース2内に向かうよう突設され、左右方向で互いに対向する左右一対の対向板10と、これら対向板10の後縁部同士およびカバー板8を互いに一体的に結合する結合板11と、上記両対向板10および結合板11の各下縁部同士を互いに一体的に結合する底板12とを備えている。
【0021】
上記変速機ケース2内には、変速用歯車組等で構成され、5段の前進変速段と、後進変速段とを得ることができる公知の変速機本体14が収容されている。運転者の手動による外部からの変速操作力の入力により、上記各変速段のうち、所望の変速段が得られるようにする変速操作装置15が設けられている。以下、この変速操作装置15につき説明する。
【0022】
上記変速操作装置15は、運転者が把持して変速操作するシフトレバー16を備えている。このシフトレバー16は、変速パターン17に従って変速操作可能となるよう上記変速機ケース2側に枢支されている。即ち、上記シフトレバー16は、上記変速パターン17の左右のセレクト方向SEに移動可能とされている。また、このセレクト方向SEにおける各端部と中央部とから上記セレクト方向SEに直交する一方(前方)と他方(後方)のシフト方向SH,SH´にそれぞれ往復移動可能とされている。
【0023】
そして、上記シフトレバー16の移動により、上記変速パターン17の図示表示「1st・・・R」に相当する前進変速段の第1−第5変速段と後進変速段との各シフト位置のうち、所望のシフト位置にシフトレバー16を位置させれば、これに相応する所望の変速段が得られるようになっている。
【0024】
軸心19が左右に延びるフォークシャフト20が設けられ、このフォークシャフト20はその軸方向に往復移動可能となるよう上記変速機ケース2に支持されている。上記フォークシャフト20には上記した全ての変速段に対応する不図示のシフトフォークが支持されている。これら各シフトフォークにおいて、上記変速操作力の入力部である第1、2速ヘッド部21、第3、4速ヘッド部22、および第5、R速ヘッド部23は、一カ所に集中配置されている。これら各ヘッド部は、上記変速機本体14側の一部を構成している。
【0025】
縦方向に延びる軸心26を有するシフトセレクト軸27が上記ブラケット5に支持されている。上記シフトセレクト軸27はその軸方向で移動A可能、かつ、上記軸心26回りに回動B可能となるよう上記ブラケット5の外部ブラケット9と底板12とに跨って支持されている。上記シフトセレクト軸27に固定ピン28により固定されて支持されるインナレバー29が設けられている。このインナレバー29は、上記シフトセレクト軸27と共に移動A可能、かつ、回動B可能とされている。
【0026】
上記変速操作力による上記シフトセレクト軸27とインナレバー29との上記移動Aと回動Bとにより、このインナレバー29の自由端部である係合部30が上記各ヘッド部21−23に択一選択的に係合可能とされ、かつ、このように係合されたシフトフォークが作動させられる。
【0027】
各図中、実線で示すように、上記インナレバー29をシフトセレクト軸27の軸心26回りでの基準となる中立回動位置Cに位置させたとき、上記変速機本体14は動力を伝達しない中立状態とされる。
【0028】
上記インナレバー29が上記中立回動位置Cから回動Bすることを弾性的に規制すると共に、上記インナレバー29が上記中立回動位置Cから一方と他方とへそれぞれ所定角回動Bした後、その所定回動位置D,E(図3中一点、二点鎖線)から更に回動Bすることを弾性的に規制して、上記インナレバー29を位置決めするディテント装置33が設けられている。このディテント装置33は、上記ブラケット5の結合板11に締結具34により固定される弾性体35を備えている。この弾性体35は上記インナレバー29に弾性力を与えることにより、上記のように位置決めを可能とする。
【0029】
上記インナレバー29が中立回動位置Cにあるときのみ、このインナレバー29の係合部30が上記各ヘッド部21−23の各凹部内を通り、上記シフトセレクト軸27の軸方向で移動A可能とされる。そして、この移動Aにより、上記ヘッド部21−23に択一選択的に上記インナレバー29の係合部30が係合させられる。また、この際、上記インナレバー29が係合していない他のヘッド部の全てに係合して、これら他のヘッド部を有するフォークレバーが作動することを阻止する移動阻止体38が設けられている。
【0030】
上記移動阻止体38は、上記インナレバー29に外嵌して、このインナレバー29と共に、上記シフトセレクト軸27の軸方向に移動A可能とされている。また、上記移動阻止体38は、上記シフトセレクト軸27の軸心26回りでこのシフトセレクト軸27およびインナレバー29と相対回動B可能となるようこのシフトセレクト軸27に支持されている。
【0031】
しかし、上記移動阻止体38は上記各ヘッド部21−23に対し、上記シフトセレクト軸27の軸心26回りで相対回動不能とされている。具体的には、上記移動阻止体38には、上記シフトセレクト軸27の軸方向に長く延びる長孔39が形成されている。この長孔39を上記締結具34の一部が貫通している。上記長孔39は、上記締結具34の一部にかかわらず、上記移動阻止体38がインナレバー29と共にシフトセレクト軸27の軸方向に移動Aすることを許容する。しかし、上記移動阻止体38が上記各ヘッド部21−23に対し、上記シフトセレクト軸27の軸心26回りで相対回動しようとするとき、上記締結具34の一部と長孔39の内面とが上記シフトセレクト軸27の周方向で互いに当接して、上記相対回動が阻止される。
【0032】
上記シフトセレクト軸27の上端部は連動機構40を介し前記シフトレバー16に連動連結されている。
【0033】
そして、運転者が変速機1に対し、所望の変速段を得ようとして上記シフトレバー16を変速操作すれば、その変速操作力が上記連動機構40を介しシフトセレクト軸27に伝達される。
【0034】
上記シフトレバー16をセレクト方向SEに移動させると、上記中立回動位置Cのインナレバー29が上記シフトセレクト軸27と共に、その軸方向に移動Aさせられて、上記インナレバー29の係合部30が上記各ヘッド部21−23のうち、所望のヘッド部に係合させられる。図1−4によれば、上記シフトレバー16は上記セレクト方向SEの中央部に位置しており、これに連動する上記インナレバー29は第3、4速ヘッド部22に係合している。
【0035】
上記シフトセレクト軸27、インナレバー29、ディテント装置33、移動阻止体38、および連動機構40は、上記変速機本体14側である各ヘッド部21−23と上記シフトレバー16との間に介設されてこれらに連動する連動部材41とされている。
【0036】
図1−6において、上記シフトレバー16をセレクト方向SEでの所定セレクト位置Fである5th、R側の端部にまで移動させたとき(図1中一点鎖線)、このシフトレバー16に連動する上記連動部材41であるインナレバー29と移動阻止体38とが一方向Gであるシフトセレクト軸27の軸方向下方に移動して所定位置Hに達し、上記インナレバー29の係合部30が第5、R速ヘッド部23に係合することとされる(図4−6中一点鎖線)。
【0037】
次に、上記シフトレバー16を変速パターン17の上記所定セレクト位置Fから「5th」に向かうよう一方のシフト方向SHに移動させたとき、このシフトレバー16に連動する上記連動部材41であるインナレバー29の一部分である後部が上記シフトセレクト軸27の軸心26回りに回動Bして、上記所定位置Hから一側方Iに移動すると共に、上記インナレバー29に上記第5、R速ヘッド部23が連動して、前進変速段のうちの第5変速段が得られる(図3中一点鎖線、図6中実線)。
【0038】
一方、上記シフトレバー16を変速パターン17の上記所定セレクト位置Fから「R」に向かわせるよう他方のシフト方向SH´に移動させたとき、このシフトレバー16に連動する上記インナレバー29の後部が上記シフトセレクト軸27の軸心26回りに回動Bして、上記所定位置Hから他側方Jに移動すると共に、上記インナレバー29に上記第5、R速ヘッド部23が連動して、後進変速段が得られる(図3中二点鎖線)。
【0039】
上記した一方のシフト方向SHにシフトレバー16を移動させることにより前進変速段(第5変速段)のシフト位置である「5th」に位置させている状態から、上記シフトレバー16を上記所定セレクト位置Fに移動させる際に、この所定セレクト位置Fから、後進変速段のシフト位置である「R」に向かう他方のシフト方向SH´に、誤って、直接上記シフトレバー16を移動させる、という「ミスシフト」を防止するためのミスシフト防止装置43が設けられている。
【0040】
上記ミスシフト防止装置43は、上記変速機ケース2側であるブラケット5の底板12に対し弾性体44により浮動状態に支持されて、他の所定位置Kに配置される移動規制体45を備えている。この移動規制体45は、軸心47が上記シフトセレクト軸27と平行に延びる円板体48と、この円板体48から下方に向かって突出し、その突出端部が、上記底板12に形成された貫通孔49を遊嵌状に貫通する支持バー50と、この支持バー50の突出端部に形成されて、上記支持バー50が上記貫通孔49の上方に抜け出ることを阻止するストッパ51とを備え、上記弾性体44は、コイルスプリングとされ、上記円板体48を上方に向かって付勢している。
【0041】
図5において、前記したように、シフトレバー16をセレクト方向SEでの所定セレクト位置Fにまで移動させたとき、このシフトレバー16に連動する上記インナレバー29が一方向Gに移動して所定位置Hに達する(図5中一点鎖線)。この際、上記移動規制体45は上記弾性体44の弾性力で対抗しながら上記インナレバー29に押されて上記他の所定位置Kから一旦偏位することとされる(図5中一点鎖線)。
【0042】
次に、この状態から上記シフトレバー16を上記所定セレクト位置Fから一方のシフト方向SHに移動させると、このシフトレバー16に連動する上記インナレバー29の後部が上記所定位置Hから一側方Iに移動して前進変速段が得られる。そして、このインナレバー29の一側方Iへの移動により、このインナレバー29は上記移動規制体45から離脱する。このため、この移動規制体45は上記弾性体44の弾性力により元の状態に戻る(図5中実線)。
【0043】
図3,6において、次に、上記したように、一方のセレクト方向SEに移動させたシフトレバー16を所定セレクト位置Fに戻すよう移動させると、このシフトレバー16に連動する上記インナレバー29の後部は、上記一側方Iに移動した状態から、この一側方Iを逆移動して上記所定位置Hに達する。この際、このインナレバー29に押された上記移動規制体45は上記他の所定位置Kから偏位して上記変速機ケース2側であるブラケット5の対向板10に当接し(図3、6中二点鎖線)、上記インナレバー29のそれ以上の逆移動が阻止されるようになっている。このため、上記シフトレバー16は所定セレクト位置Fに戻されているが、この所定セレクト位置Fから直接他方のシフト方向SH´にシフトレバー16を移動させる、ということは阻止される。つまり、上記「ミスシフト」が防止される。
【0044】
そこで、上記シフトレバー16を上記所定セレクト位置Fからセレクト方向SEで変速パターン17の「3rd,4th」側に向かって一旦移動させる。すると、このシフトレバー16に連動する上記インナレバー29は上記一方向Gを逆移動して、上記移動規制体45から離反する。このため、この移動規制体45は上記弾性体44の弾性力により元の状態に戻る(図5中実線)。
【0045】
上記状態から、上記シフトレバー16をセレクト方向SEで、再び上記所定セレクト位置Fまで移動させれば、これに連動する上記インナレバー29が一方向Gに移動して所定位置Hに達する。この際、上記移動規制体45は上記弾性体44の弾性力で対抗しながら上記インナレバー29に押されて他の所定位置Kから偏位する(図5中一点鎖線)。次に、上記シフトレバー16を上記所定セレクト位置Fから「R」に向かって往復移動させる場合、上記移動規制体45は上記インナレバー29に押されて偏位したままに保たれる(図5中一点鎖線)。
【0046】
このため、上記構成によれば、手動操作用のシフトレバー16を前進変速段のシフト位置から後進変速段のシフト位置に誤って直接変速操作する、という「ミスシフト」を防止するためのミスシフト防止装置43は、構成が簡単な弾性体44と、この弾性体44に浮動状態に支持される移動規制体45とで構成されると共に、上記変速機1の構成部品である変速機ケース2や連動部材41が利用されて部品点数の増加が抑制され、かつ、変速操作時のこの連動部材41の動作が利用されている。よって、上記変速操作装置15におけるミスシフト防止装置43の構成を簡単にすることができる。
【0047】
また、前記したように、上記変速機ケース2に支持されるシフトセレクト軸27と、このシフトセレクト軸27に支持され、このシフトセレクト軸27を介し上記シフトレバー16に連結される一方、上記変速機本体14側と係合するインナレバー29とを設け、このインナレバー29が、上記シフトレバー16に連動して上記シフトセレクト軸27の軸方向に移動Aすると共に、上記シフトセレクト軸27の軸心26回りに回動Bして、上記前、後進変速段が得られるようにし、上記インナレバー29を上記連動部材41とし、上記移動Aの方向に上記一方向Gを合致させ、上記回動Bの方向に上記所定位置Hからの一側方Iと他側方Jとの各移動の方向を合致させている。
【0048】
このため、上記各変速段を得る上で主要部材であるインナレバー29と、このインナレバー29の上記移動A、回動Bという各変速段を得るための各動作が、上記ミスシフト防止装置43の構成に合理的に利用されている。よって、このミスシフト防止装置43の構成を、より確実に簡単にすることができる。
【0049】
なお、以上は図示の例によるが、連動部材41は、シフトセレクト軸27など他の部材であってもよい。また、連動部材41は変速機本体14側をシフトレバー16に連動させるための必須のものでなくてもよい。
【0050】
以下の図7は、実施例2を示している。この実施例2は、前記実施例1と構成、作用効果において多くの点で共通している。そこで、これら共通するものについては、図面に共通の符号を付してその重複した説明を省略し、異なる点につき主に説明する。また、これら実施例における各部分の構成を、本発明の目的、作用効果に照らして種々組み合せてもよい。
【実施例2】
【0051】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例2を添付の図7に従って説明する。
【0052】
図7において、上記シフトセレクト軸27に連動部材41が突設されている。そして、上記シフトセレクト軸27を、上記連動部材41と共に回動Bの所定中立位置Cから一方向Gに回動Bさせて、所定位置Hに位置させ(図7中一点鎖線)、次に、上記シフトセレクト軸27の軸方向における一側方Iに向けて移動Aさせれば、前進変速段のうちの第5変速段が得られることとされる。また、上記と同様に、シフトセレクト軸27と連動部材41との中立位置Cから一方向Gに回動Bさせて、所定位置Hに位置させ(図7中一点鎖線)、次に、上記シフトセレクト軸27の軸方向における他側方Jに向けて移動Aさせれば、後進変速段が得られることとされている。そして、上記連動部材41と係合して、前記「ミスシフト」を防止するようにミスシフト防止装置43が設けられている。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施例1を示し、変速機の部分展開斜視図である。
【図2】実施例1を示し、変速機の部分平面部分断面図である。
【図3】実施例1を示し、図2の部分拡大図である。
【図4】実施例1を示し、図3のIV−IV線矢視断面図である。
【図5】実施例1を示し、図3のV−V線矢視断面図である。
【図6】実施例1を示し、図5に相当する図で作用説明図である。
【図7】実施例2を示し、図1に相当する図である。
【符号の説明】
【0054】
1 変速機
2 変速機ケース
3 ケース本体
5 ブラケット
14 変速機本体
15 変速操作装置
16 シフトレバー
17 変速パターン
26 軸心
27 シフトセレクト軸
29 インナレバー
40 連動機構
41 連動部材
43 ミスシフト防止装置
44 弾性体
45 移動規制体
A 移動
B 回動
C 中立位置
D 所定回動位置
E 所定回動位置
F 所定セレクト位置
G 一方向
H 所定位置
I 一側方
J 他側方
K 他の所定位置
SE セレクト方向
SH シフト方向
SH´ シフト方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機本体側とシフトレバーとの間に介設されてこれらに連動する連動部材を設け、上記シフトレバーをセレクト方向での所定セレクト位置にまで移動させたとき、上記連動部材が一方向に移動して所定位置に達するようにし、上記シフトレバーを上記所定セレクト位置から一方のシフト方向に移動させたとき、これに連動する上記連動部材が上記所定位置から一側方に移動すると共に前進変速段が得られるようにする一方、上記シフトレバーを上記所定セレクト位置から他方のシフト方向に移動させたとき、このシフトレバーに連動する上記連動部材が上記所定位置から他側方に移動すると共に後進変速段が得られるようにした手動変速機の変速操作装置において、
変速機ケース側に対し弾性体により浮動状態に支持されて、他の所定位置に配置される移動規制体を設け、上記連動部材が上記一方向に移動して上記所定位置を通り上記一側方に移動するとき、この連動部材に押されて上記移動規制体が上記他の所定位置から一旦偏位した後、この他の所定位置に戻るようにし、上記連動部材が上記一側方を逆移動して上記所定位置に達したとき、この連動部材に押された上記移動規制体が上記他の所定位置から偏位して上記変速機ケース側に当接し、上記連動部材のそれ以上の逆移動を阻止するようにしたことを特徴とする手動変速機の変速操作装置。
【請求項2】
上記変速機ケースに支持されるシフトセレクト軸と、このシフトセレクト軸に支持され、このシフトセレクト軸を介し上記シフトレバーに連結される一方、上記変速機本体側と係合するインナレバーとを設け、このインナレバーが、上記シフトレバーに連動して上記シフトセレクト軸の軸方向に移動すると共に、上記シフトセレクト軸の軸心回りに回動して、上記前、後進変速段が得られるようにし、上記インナレバーを上記連動部材とし、上記移動の方向に上記一方向を合致させ、上記回動の方向に上記所定位置からの一側方と他側方との各移動方向を合致させたことを特徴とする請求項1に記載の手動変速機の変速操作装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−232263(P2008−232263A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−72578(P2007−72578)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【出願人】(591043260)明石機械工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】