説明

手術用蒸散装置

【課題】深く狭い術野の底にも適用でき、機械的に安定であり、MRI装置内に患者を置いた状態でも使え、暴走などのリスクがない手術用蒸散装置を提供する。
【解決手段】レーザ光を生体組織に照射する手術用蒸散装置において、第1モジュールと第2モジュールとを有する。第1モジュールは、入射したレーザ光を標的点に集束させる集光手段を有する。第1モジュールは、第1モジュールとは独立して移動可能に構成され、レーザ光を集光手段に照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、レーザ光を生体組織に照射する手術用蒸散装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体への侵襲や患者への負担を軽減させる低侵襲治療は、実質組織の内部に発生した悪性新生物(たとえば脳腫瘍や乳がん)などを除去するとき、できるだけ、正常組織は温存したまま病的組織(がんなど)だけを除去するため、手術が術後の生体機能・形状に及ぼす影響を最低限に抑えるという意味で有用である。
【0003】
この低侵襲治療において、病的組織を肉眼で、あるいは手術顕微鏡で識別しながら除去手術を行うと、術野の底に多少の病的組織が残るときがある。この残存部分を、レーザ光等で焼灼・蒸散させて除去する手術法が研究されている。
【0004】
仮に、細いビーム状のレーザ光を生体組織に照射した場合にも蒸散効果が生じ、気化して取り除かれた生体組織には穴が生じ、さらにその穴の底にレーザ光が当たって蒸散効果が生じるために、深い穴があく。照射を止めればそれ以上穴が深くなることはない。従って、所定の深さの穴を開けるためには、穴の深さを常時測定しながら、レーザ光の照射をいつ停止させるかをリアルタイムで判断しなくてはならない。ところが、蒸散が生じている場所では、水分の沸騰や組織の炭化による煙が発生し、また高温になって空気が膨張するため、深さをリアルタイムで正確に測るのは難しい。
【0005】
レーザ光を処置対象物の被照射部位に集束させるレーザ処理装置がある(たとえば、特許文献1)。また、生体組織を蒸散させるときに光源として、レーザ光を1点に集束させる装置が存在する。中赤外マイクロチップレーザを用いたもので、ある角度範囲のコーン状の光を1点に集束させる。
【0006】
この集束作用がもたらす効能について図25を参照して説明する。図25は1点に集束させたコーン状の光、及び、その1点の近傍を拡大して示す図である。図25に示すように、ある角度範囲のコーン状の光を1点(焦点)に集束させる場合、焦点の近傍においてのみ、生体組織を蒸散させるに足るエネルギー密度が得られる(この範囲を「焦点深度」と呼ぶ)。
【0007】
このため、生体組織上の、蒸散させたい所望の点に焦点が位置するように装置を設定してから照射を行えば、その点において蒸散が生じ、しかも、照射を続けてもそれ以上蒸散が拡大することはない。そのため、蒸散によって生じる穴の深さは概ね焦点深度の大きさ程度となる。もし、より深い穴を開けたければ、既にできた穴の底に焦点が位置するように装置を設定し直して、再び照射を行えばよい。このようにして、生体組織の表面の所望の1点を、所望の深さで蒸散させることが可能である。
【0008】
図26Aは蒸散光源を1点に集中させたときの図、図26Bは点光源を示す図である。1点に光を集中する蒸散光源(図26Aに示す)は等価的に一個の点光源(図26Bに示す)であるとみなすことができ。そこで、以下、1点に光を集中する蒸散光源を点光源として説明する。
【0009】
次に、蒸散させたい所望の点にレーザ光の焦点を位置させるためのオートフォーカシング機構を有する従来の手術用蒸散装置について図27を参照して説明する。図27は焦点調節機構の詳細図である。
【0010】
図27に示すように、焦点調節機構1にはヘッダ2が取り付けられている。ヘッダ2にはレーザ光を集束させるための蒸散光集光光源3、レーザ光の焦点及びその近傍を観察するための撮像素子4、参照光(ガイドビーム)RLを照射する参照光発生手段(ガイドビーム投光器)5、及び参照光RLが生体組織に当たって散乱した光を捉えるための計測手段6が設けられている。焦点調節機構1は電動モータ7及びリードスクリュー8を有し、参照光RLが示す標的点Tにレーザ光の焦点を一致させるように、電動モータ7によりリードスクリュー8を回転させて、ヘッダ2をZ軸方向に制御する。なお、図示しないが、焦点調節機構1はXY駆動機構を介してスタンドに取り付けられている。
【0011】
さらに、標的点にレーザ光の焦点を一致させるときの制御について図28及び図29を参照して説明する。図28は集光点(図26Bに示す点光源)CPが標的点Tに一致しないときの照射装置1aの図、図29は集光点CPが標的点Tに一致するときの照射装置1aの図である。
【0012】
図28に示すように、レンズL1、L2の光軸上に標的点T及び撮像素子4の中央を位置させたとき、撮像素子4の中央に標的点Tの像を捉えている。また光軸上には蒸散光集光光源3の集光点CPが位置している。参照光RLが集光点CPを照射するように参照光発生手段5が設けられている。参照光RLが生体組織BTに当たって散乱した光SLの像を撮像素子4の中央に捉えたとき(撮像素子4の中央に捉えられた標的点Tの像と一致させたとき)、集光点CPが標的点Tと一致していることを示す。
【0013】
これに対し、図28では、散乱光SLの像を撮像素子4の中央から外れた位置に捉えていて、集光点CPが標的点Tに一致していないことを示している。生体組織BTを蒸散させるときには、図29に示すように、散乱光SLの像を標的点Tの像と一致させるように、照射装置1a全体を移動させ、集光点CPを標的点Tと一致させる。そして、蒸散光集光光源3から蒸散用光源照射を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2008−284293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、図27に示す従来の手術用蒸散装置は次の問題点がある。撮像素子4、参照光発生手段5及び計測手段6を含む観察・計測光学系と、蒸散光集光光源3である蒸散光学系とがなす角度が大きいため、ほぼ平らな表面が広く広がっている状態でないと使えない。深く狭い術野の底には従来の手術用蒸散装置を適用できない。
【0016】
また、スタンド上に焦点調節機構1及びヘッダ2等の重い装置が付いていて、それが動くため、重心の位置が変化する。また、振動をおこしやすい。機械的に不安定である。
【0017】
さらに、患者のごく近くに焦点調節機構1及びヘッダ2等の大きな装置があり、しかもそれが電動モータ7のような電動部分を持つので、MRI(Magmetic Resonance Imaging)装置内に患者を置いた状態では使えない。
【0018】
患者のごく近くで、ヘッダ2等の可動部分が自動で動くため、暴走などのリスクが重大となる。
【0019】
この実施形態は、上記の問題を解決するものであり、深く狭い術野の底にも適用でき、機械的に安定であり、MRI装置内に患者を置いた状態でも使え、暴走などのリスクがない手術用蒸散装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために、実施形態の手術用蒸散装置は、第1モジュールと第2モジュールとを有する。第1モジュールは、入射したレーザ光を標的点に集束させる集光手段を有する。第2モジュールは、第1モジュールとは独立して移動可能に構成され、レーザ光を集光手段に照射する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1実施形態に係る手術用蒸散装置の構成例を示す図である。
【図2】光学系の構造の一例を示す図である。
【図3】光学系の作用説明図である。
【図4】標的点の方向と、集光手段が作る標的点像の位置との関係を示す図である。
【図5】標的点像の位置と、標的点像が結像する撮像素子上の位置との関係を示す図である。
【図6】標的点像の位置と、照射光学系の回転角度との関係を示す図である。
【図7】第1モジュールの周辺の拡大図である。
【図8】第1モジュールを省略して、撮像光学系周辺を描いた図である。
【図9】第1モジュールを省略して、照射光学系周辺を描いた図である。
【図10】コンソールの構成の一部を示すブロック図である。
【図11】第2実施形態に係る手術用蒸散装置の構成例を示す図である。
【図12】撮像素子で得られた画像及び指定された位置が画面上に表示された一例を示す図である。
【図13】画面上に表示された画像及び輝点の一例を示す図である。
【図14】一点に集められた輝点の表示例を示す図である。
【図15】指定された位置に一致させるように操作された輝点の表示例を示す図である。
【図16】第3実施形態に係るリレー光学系を示す図である。
【図17】第4実施形態に係るリレー光学系を示す図である。
【図18】MRI装置中に患者を入れたまま蒸散を行うときの手術用蒸散装置の構成例を示す図である。
【図19】集光手段の比較例を示す図である。
【図20】第5実施形態に係る集光手段の構成例を示す図である。
【図21】第6実施形態に係る集光手段の構成例を示す図である。
【図22】第7実施形態に係る手術用蒸散装置の構成例を示す図である。
【図23】蛍光像の模式図である。
【図24】標的点を小円で示す図である。
【図25】1点に集束させたコーン状の光、及び、その1点の近傍を拡大して示す図である。
【図26A】蒸散光源を1点に集中させたときの図である。
【図26B】点光源を示す図である。
【図27】従来の手術用蒸散装置の焦点調節機構の詳細図である。
【図28】集光点(図26Bに示す点光源)Cが標的点Tに一致しないときの照射装置の図である。
【図29】集光点が標的点Tに一致するときの照射装置の図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第1の実施形態]
この手術用蒸散装置の第1実施形態について図1を参照して説明する。図1は手術用蒸散装置の構成例を示す図、図2は光学系の構造の一例を示す図である。手術用蒸散装置はたとえばモダリティと共に用いられる。ここでは、モダリティの一例として、撮影領域に高周波磁場を加えたとき検出される人体から放射される共鳴信号を基に、撮影領域の画像を取得するMRI装置(図示省略)内に患者を置いた状態で手術用蒸散装置を用いる場合について説明する。
【0023】
図1及び図2に示すように、手術用蒸散装置は患者身体組織(以下、生体組織BTという)の近傍に配置され、機械的可動部分及び電気的部品を含まずに構成される第1モジュール10と、生体組織の遠隔に配置され、第1モジュール10とは独立して移動可能に構成される第2モジュール20とを有する。なお、レーザ光を集光させることにより蒸散させる点としての標的点Tが生体組織BTの腫瘍領域の中に設定されている。なお、標的点Tを設定する方法については後述する。
【0024】
〔第1モジュール〕
第1モジュール10は入射したレーザ光を標的点Tに集束させる集光手段を有する。集光手段の一例としては、集光レンズ11と、及びこれを内部に収容する筒状体12とにより構成される。集光手段は湾曲状に形成されたアーム部材を一例とする支持手段13により支持されている。第1モジュール10を構成する集光レンズ11等の部品は非磁性の絶縁材料(たとえばガラス)で構成されている。
【0025】
筒状体12の一端側は口径を狭めた絞り14になっていて、生体組織に向けられている。筒状体12の他端側の開口15は第2モジュール20に向けられている。筒状体12内に収容された集光レンズ11、及び、筒状体12の両端に形成された絞り14、開口15により、生体組織の標的点近傍の光学像が第2モジュール20に導かれる。なお、図2の中では、筒状体12を絞り14のみで示す。
【0026】
以上の第1モジュール10の構成により、次の作用効果が生じる。i)第1モジュール10は、機械的可動部分及び電気的部品等を含まないため、滅菌が可能で、術野内に挿入でき、術野の深部に標的点を定めて照射することができる。さらに、第1モジュール10により標的点Tに集束されるレーザ光がなす角度が小さくなるため、深く狭い術野の底を蒸散することが可能となる。ii)また、第1モジュール10は動作しないから、誤った動作をして患部を傷付けるおそれがない。iii)さらに、第1モジュール10は非磁性の絶縁材料(たとえばガラス)で構成されているため、支持手段13を介して患者に取り付けたまま、患者と共にMRI装置内に入れてMRI撮影を行うことが可能となる。iv)さらに、第1モジュール10は機械的可動部分を有しないため振動等を発生せず、機械的に安定である。
【0027】
〔第2モジュール〕
(照射光学系、可変焦点レンズ)
第2モジュール20は、レーザ光を発生させるレーザ光源R、レーザ光源Rの近傍に配されたコリメータレンズ31、入射されたレーザ光を集光レンズ11を介して標的点に照射するための可変焦点レンズ40、集光レンズ11により導かれた標的点周辺の光学像を撮影する撮像光学系50、及び、これらの手段を外部から覆う箱状のカバー22を有している。カバー22は集光レンズ11に面する一方の壁部221を有している。なお、レーザ光源R及びコリメータレンズ31を照射光学系30という場合がある。
【0028】
第2モジュール20は、照射光学系30によって標的点に照射されるレーザ光と、集光レンズ11により導かれた標的点周辺の光学像とが共通の光路を通過するように構成される(光路の共通化)。
【0029】
カバー22の一方の壁部221には可変焦点レンズ40が設けられている。カバー22の一方の壁部221から離れた位置にはレーザ光源Rと共にコリメータレンズ31が設けられている。コリメータレンズ31の焦点の位置にはレーザ光源Rが置かれている。コリメータレンズ31は、レーザ光源Rからのレーザ光を平行光に変換して可変焦点レンズ40へ出射する。可変焦点レンズ40は入射したレーザ光を所定位置(可変焦点レンズ40と集光レンズ11との間の中心軸A1上の位置)に集束させる。なお、可変焦点レンズ40は集光レンズ11と同一の中心軸A1を有しているが、これに限らない。また、可変焦点レンズ40の公知の典型的な構成方法は、図1のように凸レンズと凹レンズを組み合わせて、両者の間隔をわずかに変化させることにより焦点距離を変えるものであるが、これに限らない。
【0030】
(撮像光学系)
撮像光学系50は、ハーフミラー、穴あきミラー、又はビームスプリッタを一例として含む光路変換部材51、撮像素子52、及び光路変換部材51からの光学像を撮像素子52に集束させる集光レンズ53を有している。光路の共通化する構成例として、光路変換部材51をレーザ光の光路である平行光の中に置く。
【0031】
光路の共通化により、可変焦点レンズ40によりレーザ光が集束される位置と、集光レンズ11により導かれた標的点周辺の光学像が結像する位置とが一致する。そして、両者の位置が一致すれば、結像した光学像が光路変換部材51及び集光レンズ53を介して撮像素子52に集光するようになる。すなわち、光路の共通化により、ディスプレイ装置画面に表示された標的点像T”を見て標的点Tに正確に焦点が合っているならば(標的点Tにピントが合っているならば)、レーザ光を照射を行った際に、レーザ光が標的点に集光する作用が必然的に生じることとなる。
【0032】
(コンソール)
次に、標的点Tにピントを合わせるように、照射光学系30の回転角度及び可変焦点レンズ40の焦点距離を調節する構成について図10を参照して説明する。図10は、コンソール60の機能の一部を示すブロック図である。
【0033】
コンソール60は、駆動制御手段61、入出力インターフェース62、操作手段63、画像処理手段65、及び位置算出手段66を有する。
【0034】
駆動制御手段61は、入出力インターフェース62から出力された移動情報、また位置算出手段66により算出された移動情報を基に駆動手段25(後述する)を制御する。
【0035】
入出力インターフェース62は表示手段64を有する。表示手段64は、ディスプレイ装置(図示省略)と、ディスプレイ装置画面に指定可能に移動情報を表示させ、操作手段63により指定された移動情報を駆動制御手段61に出力する表示制御手段とを有する。
【0036】
画像処理手段65は、撮像素子52により撮像された光学像を基にデジタル画像を作成し、デジタル画像を表示制御手段に出力する。表示制御手段は、デジタル画像を基にディスプレイ装置画面に光学像を表示させる。
【0037】
位置算出手段66は、画像処理手段65により作成されたデジタル画像を基に、照射光学系30の回転角度を調節するための移動情報、及び可変焦点レンズ40の焦点距離を調節するための移動情報を算出する。
【0038】
すなわち、操作手段63を用いることで、標的点Tにピントを合わせることが可能となる(手動調節)。また、位置算出手段66を用いることで、標的点Tにピントを合わせることが可能となる(自動調節)。第1の実施形態では、手動調節について説明し、自動調節については後述する。
【0039】
(駆動手段等)
さらに、第2モジュール20は、レーザ光源R及びコリメータレンズ31を一体的にアイソセンター(Iso−Center)Cまわりに回転させる駆動手段25を有している。
【0040】
駆動手段25は、駆動制御手段61による制御を受けて、カバー22を固定した状態で、集光レンズ11の中心軸A1に対する平行光の光路の角度を調節することにより、標的点を集光レンズ11の中心軸A1に対して直交する方向に移動させる。
【0041】
また、駆動手段25は、駆動制御手段61による制御を受けて、カバー22を固定した状態で、可変焦点レンズ40の焦点距離を変更することにより、標的点を集光レンズ11の中心軸A1に沿った方向に移動させる。
【0042】
以上の第2モジュールの構成により、以下の作用効果が生じる。v)駆動手段25が駆動制御手段61による制御を受けて、レーザ光源R及びコリメータレンズ31を一体的に回転させ、また可変焦点レンズ40の焦点距離を調節するだけで、観察できる視野内のどの点に対しても、蒸散光を集光して蒸散作用をおこさせることができる。
【0043】
vi)また、第1モジュール10と第2モジュール20は機械的には結合しておらず、単に光学的に結合のみしているので、第2モジュール20がたとえば異常な動作をしても、第1モジュール10は動かず、患者に衝突したり患者を感電させるなどの危険を及ぼすことがない。vii)また、機械的可動部分及び電気的部品等を滅菌するには、ガス滅菌を用いる必要があるが、しばしば滅菌が不完全であったり、繰り返し滅菌を行ううちに電気的接点の酸化による性能劣化、機械的部品のさび、潤滑不足等が生じて、故障の原因となるが、機械的可動部分及び電気的部品等を含む第2モジュール20は滅菌する必要がないため、故障の原因をなくすことができる。
【0044】
viii)さらに、第2モジュール20は照射光学系30と撮像光学系50とが同一の可変焦点レンズ40によって統合されているので、撮像光学系50で標的点を見て正確に焦点があっているならば、レーザ光の照射を行った際に標的点に集光する作用が必然的に生じる。この作用は、第1モジュール10の光軸と第2モジュール20の光軸とを厳密に位置合わせしなくても、生じるので、第2モジュール20の設置が容易である。このため、手術中、この装置を患者に取り付けたり取り外したりする作業にあまり時間が掛からない。
【0045】
(光学系の作用)
次に、光学系の作用について図3を参照して説明する。図3は光学系の作用説明図である。なお、図3では筒状体12として絞り14を示す。また、図3に対象(術野の底)をSで示し、蒸散させる標的点をTで示し、対象Sから散乱した光を受けて集光レンズ11が作る光学像をS’で示し、標的点Tから散乱した光を受けて集光レンズ11が作る光学像をT’で示す。なお、図4以下においても同様に示す。
【0046】
(レーザ光の照射)
対象S上の任意の場所に定めた標的点Tへ、レーザ光源Rから出射したレーザ光を集光させる。
【0047】
(対象の撮影)
レーザ光の照射により対象Sから散乱した光が集光レンズ11、可変焦点レンズ40、光路変換部材51を通り、集光レンズ53により撮像素子52に集光する。それにより、レーザ光の照射と同時に撮像素子52で対象Sの光学像S”を撮影する。
【0048】
次に、光学系の動作原理について説明する。
(レーザ光の照射)
レーザ光源Rから出射したレーザ光はコリメータレンズ31で平行光に変換される。変換されたレーザ光を可変焦点レンズ40が受けて、集光レンズ11が作る光学像S’上の標的点像T’に集光する。光学像S’に向けて集光されるレーザ光のうち、集光レンズ11が作る絞り14の像I’の範囲に入るレーザ光は実際の標的点Tに集光する。図3の実線は、絞り14を通過できる最大幅の光を示している。
【0049】
(対象の撮影)
集光レンズ11が作る光学像S’を可変焦点レンズ40で捉えて平行光に変換する。光路変換部材51で撮像光学系50に導き、集光レンズ53で撮像素子52上に結像する。なお、I’は集光レンズ11によって生じる絞り14の像である。遠方から光学像S’を見たとき、絞り14の像I’の開口部分と、光学像S’と重なっている部分だけが実際に撮像可能で、それ以外の部分の像は結失する。
【0050】
次に、対象S上の標的点Tの位置(集光レンズ11の中心軸A1に直交する方向の位置)と集光レンズ11が作る光学像S’上の標的点像T’との関係について図4を参照して説明する。図4は、集光レンズ11周辺の拡大図である。図4に標的点T1、T2、T3、の標的点像をT1’、T2’、T3’で示す。
【0051】
図4に示すように、対象S内に定めた標的点T1、T2、T3が同一平面上にあってその方向が違うと、集光レンズ11が作る光学像S’内の標的点像T1’、T2’、T3’は異なるが、同一平面上にある。
【0052】
次に、集光レンズ11が作る光学像S’上の標的点像T’の位置と、標的点像が結像する撮像素子52上の位置との関係について図5を参照して説明する。図5は、第1モジュール10を省略して撮像光学系50を描いた図である。図5に標的点像T1’、T2’、T3’が撮像素子52上に結像した像(標的点像)をT1”、T2”、T3”として示し、撮像光学系50の中心軸をA2で示す。
【0053】
図5に示すように、集光レンズ11が作る光学像S’上の標的点像T1’、T2’、T3’が同一平面上にあるとき、その位置の違いに応じて、標的点像T1”、T2”、T3”が撮像素子52上の異なる位置に結像する。図5では、標的点像T’が中心軸A1から離れる位置にあるほど、中心軸A2から離れた位置に標的点像T”が結像することを示す。表示手段64がディスプレイ装置画面に標的点像T”を表示させることより、標的点像T”が結像する位置を視認することができる。
【0054】
次に、集光レンズ11が作る光学像S’上の標的点像T’の位置と、照射光学系30の回転角度との関係について図6を参照して説明する。図6は、アイソセンターCまわりに3つの位置に回転させた照射光学系30を示す図である。なお、図6では第1モジュール10を省略して示す。
【0055】
図6では、標的点像T’にレーザ光を集光させるために、標的点像T’が中心軸A1から離れた位置にあるほど、照射光学系30(レーザ光源R及びコリメータレンズ31)をアイソセンターCまわりに反時計方向に回転させる必要があることを示す。図6に標的点像T1’、T2’、T3’にレーザ光を集光させるときレーザ光源の回転位置をR1、R2、R3で示す。
【0056】
可変焦点レンズ40によりレーザ光が集束される位置と、集光レンズ11により導かれた標的点周辺の光学像が結像する位置とを一致させるためには、図6に示すように、集光レンズ11が作る標的点像T1’、T2’、T3’の位置の違いに応じて、レーザ光源Rから照射したレーザ光を標的点像T1’、T2’、T3’上に集光するように手動調節する必要がある。手動調節は、操作手段63により指定された移動情報を受けて、駆動制御手段61が駆動手段25を制御することにより、照射光学系30をアイソセンターCまわりに回転させることで行う。なお、レーザ光源Rから出射されたレーザ光の一部分は、光路変換部材51によって遮られてしまうが、これは照射光量のうちわずかな量に過ぎず、蒸散効果を妨げない。
【0057】
次に、標的点Tの深さ(集光レンズ11の中心軸A1方向の距離)と、集光レンズ11が作る標的点像T’の位置との関係について図7を参照して説明する。図7は、集光レンズ11周辺の拡大図である。
【0058】
図7に示すように、標的点T1、T2、T3の深さが違うとき(集光レンズ11の中心軸A1方向で異なるとき)、集光レンズ11が作る光学像S’内の標的点像T1’、T2’、T3’の位置も中心軸A1方向で異なる。図7では、標的点Tが深くなるほど、標的点像T’の位置が中心軸A1に沿って可変焦点レンズ40に近づき、かつ、標的点像T’が大きくなることを示す。
【0059】
次に、標的点Tの深さが違うとき、集光レンズ11が作る標的点像T’の位置と、撮像素子52上に結像する標的点像T”の位置との関係について図8を参照して説明する。図8は、第1モジュール10を省略して、撮像光学系50を描いた図である。T1”、T2”は、標的点像T1’、T2’が撮像素子52上に結像したときの像(標的点像)を示す。図8では、標的点像T’の位置が中心軸A1に沿って可変焦点レンズ40に近づき、かつ、標的点像T’が大きくなるほど、中心軸A2から離れた位置に標的点像T”が結像することを示す。
【0060】
可変焦点レンズ40によりレーザ光が集束される位置と、集光レンズ11により導かれた標的点周辺の光学像が結像する位置とを一致させるためには、図8に示すように、集光レンズ11が作る標的点像T1’、T2’の位置の違いに応じて、レーザ光源Rから照射したレーザ光を標的点像T1’、T2’上に集光するように、手動調節する必要がある。手動調節は、操作手段63により指定された移動情報を受けて、駆動制御手段61が駆動手段25を制御することにより、可変焦点レンズ40の焦点距離を調節することで行う。標的点像T1’、T2’から来る光線が可変焦点レンズ40によって平行光に変換されるようにすると、撮像素子52上の異なる位置には標的点像T1”、T2”が結像する。表示手段64がディスプレイ装置画面に標的点像T”を表示させることより、標的点像T”が結像する位置を視認することができる。なお、このとき、集光レンズ53、コリメータレンズ31は焦点距離を固定したままでよい。
【0061】
次に、標的点Tの深さが違うとき、集光レンズ11が作る標的点像T’の位置と、照射光学系30の回転角度との関係について図9を参照して説明する。図9は、第1モジュール10を省略して、照射光学系30を描いた図である。
【0062】
図9では、標的点像T’の位置が中心軸A1に沿って可変焦点レンズ40に近づき、かつ、標的点像T’が大きくなるほど、照射光学系30をアイソセンターCまわりに反時計方向に回転させ、かつ、可変焦点レンズ40の焦点距離を短くさせる必要があることを示す。
【0063】
可変焦点レンズ40によりレーザ光が集束される位置と、集光レンズ11により導かれた標的点像T’が結像する位置とを一致させるためには、図9に示すように、標的点像T1’、T2’の位置の違いに応じて、レーザ光源Rからの照射したレーザ光を標的点像T1’、T2’に集光するように手動調節する必要がある。手動調節は、操作手段63により指定された移動情報を受けて、駆動制御手段61が駆動手段25を制御することにより、照射光学系30をアイソセンターCまわりに回転させ、かつ、可変焦点レンズ40の焦点距離を短くさせることで行う。
【0064】
ディスプレイ装置画面に表示された標的点像T”を見ながら、標的点Tにピント合わせるように、照射光学系30の回転角度及び/または可変焦点レンズ40の焦点距離を手動調節すれば、レーザ光を対象S上の標的点Tに照射させることが可能となる。
【0065】
[第2の実施形態]
次に、第2の実施形態に係る手術用蒸散装置について図11〜図15を参照して説明する。第2の実施形態では、第1の実施形態と同じ構成の説明を省略し、異なる構成の説明をする。
【0066】
第2の実施形態に係る手術用蒸散装置は、第1の実施形態に示す構成に、照射光学系30の一部として、蒸散効果のない参照光RLを発生する参照光発生手段70を追加したものである。
【0067】
図11は手術用蒸散装置に追加された参照光発生手段70を示す図である。図11に示すように、参照光発生手段70は、コリメータレンズ31の中心軸A3周りに略等間隔で複数カ所配置されている。なお、参照光発生手段70も照射光学系30と共にアイソセンターC周りに回転するように構成されている。
【0068】
参照光発生手段70は、中心軸A1と平行な参照光RLを可変焦点レンズ40に出射する。可変焦点レンズ40は、入射された参照光RLを集光レンズ11に照射する。照射光学系30の回転角度が合っていて、可変焦点レンズ40が正確に標的点Tにピントを合わせていれば、集光レンズ11は参照光RLを標的点Tに集束し、また、撮像素子52上に結像される標的点像T”の位置と同じ位置に輝点の像が結像する。
【0069】
照射光学系30の回転角度が合っていなければ、及び/または、可変焦点レンズ40が標的点Tにピントを合わせていなければ、標的点像T”の位置と同じ位置に輝点の像を結像させるように、可変焦点レンズ40の焦点距離及び/または照射光学系30の回転角度を調節する。
【0070】
次に、参照光発生手段70を用いた、可変焦点レンズ40の焦点距離及び照射光学系30の回転角度の調節について説明する。
【0071】
(ステップS101)
レーザ光源Rから蒸散のための照射を行う前に、参照光発生手段70から蒸散効果のない弱い参照光RLを複数本放射する。
【0072】
もし、可変焦点レンズ40が正確に標的点Tにピントを合わせていれば、撮像光学系50からは、標的点Tにこれらの参照光RLが集まった1個の輝点として観察される。すなわち、撮像素子52上に結像される標的点像T”の位置と同じ位置に1個の輝点の像が結像する。表示手段64がディスプレイ装置画面に撮像素子52上に結像された標的点像T”及び輝点の像を表示させることにより、術者は標的点T及び輝点の位置ずれを観察することが可能となる。
【0073】
またもし、ピントがずれていれば、複数本の参照光RLがそれぞれ標的点Tから少しずれた場所に当たるために、撮像光学系50からは複数個の輝点が観察される。
【0074】
(ステップS102)
複数個の輝点が観察された場合、術者がたとえば操作手段63を操作することにより、可変焦点レンズ40の焦点距離を調節して、輝点が1点に集まるようにする。
【0075】
(ステップS103)
また、撮像光学系50で見て、参照光RLで生じた輝点の位置が標的点Tからずれている場合、術者がたとえば操作手段63を操作することにより、参照光発生手段70のアイソセンターCまわりの回転角度を調節して、輝点が標的点Tに一致するようにする。
【0076】
第2の実施形態によれば、参照光RLの輝点を標的点Tに一致させるようにピント合わせをすることが、同時に、可変焦点レンズ40の焦点距離及び/または照射光学系30の回転角度を調節して、レーザ光を標的点Tに集光させることになるので、可変焦点レンズ40の焦点距離及び/または照射光学系30の回転角度の調節が容易となる。
【0077】
次に、位置算出手段66を用いることで、ピント合わせを自動的に行うことが可能となる自動調節について図12〜図15を参照して説明する。
【0078】
以上に説明した手動調節は、術者が操作手段63を用いてピント合わせを行うものであるが、位置算出手段66を用いて、可変焦点レンズ40の焦点距離及び/または照射光学系30の回転角度を自動調節することにより、焦点距離の調節等をさらに容易にすることができる。
【0079】
(ステップS201)
図12は、撮像素子52で得られた画像及び術者により指定された位置が画面上に表示された一例を示す図である。撮像素子52で得られた画像を基に画像処理手段65がデジタル画像を作成し、表示手段64に送る。表示手段64はデジタル画像をディスプレイ装置画面に表示する。図12において、画像中の病的組織及び指定された位置を、網掛けした範囲及び十字型の印でそれぞれ示す。術者が、その画像の中から標的点Tを選定して、ポインティングデバイス等の操作手段63を用いて、標的点Tの位置をディスプレイ装置画面上で指定する。
【0080】
(ステップS202)
位置算出手段66は、指定された位置に照射を行うための、照射光学系30の回転角度を計算する。このとき、コンピュータは、ディスプレイ装置画面に表示された画像が標的点Tにピントが合っていると仮定する。駆動制御手段61は、位置算出手段66により算出された移動情報(回転角度)を基に駆動手段25を制御する。駆動手段25は照射光学系30をアイソセンターCまわりに回転させる。
【0081】
(ステップS203)
図13は画面上に表示された画像及び輝点の一例を示す図である。コンピュータは、参照光発生手段70を点灯する。これによって、撮像素子52が捉えた画像上に参照光RLによる輝点が現れる。図13では、3個の参照光発生手段70を搭載してそれぞれを点灯した場合に、画像上に現れた3つの輝点を示す。このように輝点が一点に集まらないのは、照射光学系30の回転角度を計算するとき(ステップS202)の画像が標的点Tにピントが合っていなかったことを示している。
【0082】
(ステップS204)
図14は一点に集められた輝点の表示例を示す図である。位置算出手段66は、参照光RLの輝点が一点に集まるように、可変焦点レンズ40の焦点距離を計算する。図14に示すように、指定された位置とは一致しないが、一点に集められた輝点を示す。
【0083】
(ステップS205)
図15は指定された位置に一致させるように操作された輝点の表示例を示す図である。駆動制御手段61は、位置算出手段66により算出された移動情報を基に駆動手段25を制御する。それにより、照射光学系30をアイソセンターCの回りに回転させる。参照光RLの輝点が指定された位置(十字型の印)に一致する。この調節によって、3つの参照光RLの輝点が一点に集まらなくなる場合がある。図15では、3つの輝点が相互に近づいているが、一点に集まらない状態を示す。この状態が生じるのは生体組織表面に凹凸があることが原因する。
【0084】
3つの輝点が一点に集まらない場合は、必要に応じて、ステップS204及びS205の処理を適宜繰り返す。そして、この処理を所定回数繰り返した後に終了する。または、集まった3つの輝点が所定の大きさ以下になったとき繰り返しを終了する。
【0085】
このようにして、画像上で標的点Tの位置を指定すれば、あとは自動的にその標的点Tにレーザ光を集光できるように第2モジュール20を調節(照射光学系30の回転角度調節及び可変焦点レンズの焦点距離調節)する機能が実行される。
【0086】
[第3の実施形態]
上記実施形態に係る手術用蒸散装置は、集光レンズ11が作る光学像S’を介して、第1モジュール10と第2モジュール20とを光学的に接続する構成であった。この構成では、対象(患者)との干渉を防止するための距離としては、第1モジュール10と第2モジュール20との間の間隔が十分でない場合が生じるおそれがあった。対象との距離を十分にとるためにリレー光学系を用いればよい。
【0087】
次に、第3の実施形態に係る手術用蒸散装置について図16を参照して説明する。第3の実施形態では、第1の実施形態の変形例として公知のリレー光学系を追加したものであり、第1の実施形態と同じ構成についてその説明を省略し、主にリレー光学系80について説明する。
【0088】
図16は、変形例としてのリレー光学系80を示す図である。図16に示すように、リレー光学系80の左側及び右側にはそれぞれ第1モジュール10の集光レンズ11及び第2モジュールの可変焦点レンズ(図示省略)が配置される。集光レンズ11により作られる光学像S’が通過する光路上に、リレーレンズ81、82が配置される。それにより、集光レンズ11が作る光学像S’を、リレーレンズ81、82を用いて対象からより離れた場所に再度結像させた像S’Lを作ることができる。
【0089】
光学像S’と像S’Lとは、像が倒立していることを除けば同等である。従って、第1モジュール10と第2モジュールを光学像S’を介して光学的に接続する代わりに、像S’Lを介して光学的に接続してもよい。
【0090】
なお、この実施形態では、リレー光学系として2つのリレーレンズ81、82を設けたが、リレーレンズとしては1つ設けてもよく、また3つ以上設けてもよい。
【0091】
[第4の実施形態]
次に、第4の実施形態に係る手術用蒸散装置について図17を参照して説明する。第4の実施形態では、第1の実施形態の他の変形例として公知のリレー光学系80を追加したものである。以下、主にリレー光学系80について説明する。
【0092】
図17は他の変形例としてのリレー光学系80を示す図である。図17に示すように、集光レンズ11により作られる光学像S’が通過する光路上に、直角プリズム83が配置されている。
【0093】
リレーレンズ81、82の間に直角プリズム83を置くことで、集光レンズ11が作る光学像S’を、リレーレンズ81、82及び直角プリズム83を用いて対象からより離れた場所に再度結像させた像S’Lを作ることができる。
【0094】
また、直角プリズム83を含むリレー光学系80を設けることにより、中心軸A1を屈曲させることが可能となる。それにより、たとえば、MRI装置中に患者を入れたまま蒸散を行うことが可能となる。
【0095】
図18はMRI装置中に患者を入れたまま蒸散を行うときの手術用蒸散装置の構成例を示す図である。
【0096】
通常、術野を広く開くために、重力を利用して、術野周辺の組織を排除しやすくするため、術野は上方に向けられる。この状態で、たとえばMRI装置中に患者を入れたまま蒸散を行おうとする場合、第1モジュール10は患者上方に近接して設置するのに対し、第2モジュール20は側方に設置する必要がある。
【0097】
図18に示すように、第1モジュール10から略垂直に向いた中心軸A1を直角プリズム83により屈曲させて側方に向けることが可能となり、側方の先に第2モジュール20を設置可能となる。
【0098】
[第5の実施形態]
図19は集光レンズ11の比較例を示す図である。比較例としての集光レンズ11が1つの凸レンズ16であるとき、図19に示すように、レーザ光が照射可能な範囲(標的点Tが対象S上で移動可能な範囲)は絞り14の直径と同じ範囲となる。そのため、比較例に係る集光レンズ11の構成を変更することにより、絞り14の直径よりも広い範囲に渡って照射可能にする。
【0099】
次に、第5の実施形態に係る手術用蒸散装置について図20を参照して説明する。図20は、凸レンズ16と凹レンズ17とを組み合わせた集光レンズ11の変更例を示す図である。
【0100】
図20に示すように、凹レンズ17は絞り14の部分に嵌め込んだ構成になっている。凹レンズ17を設けた構成では、絞り14よりも広い範囲に渡ってレーザ光を照射可能である。凹レンズ17は対象Sの虚像S*を作り、凸レンズ16は、この虚像S*に対して集光することになる。
【0101】
ただし、図20に示す構成では、集光の角度aが、凹レンズ17のない図19に示す構成に比べて小さくなるため、蒸散作用を深さ方向(中心軸A1に沿った方向)に限定する効果が薄くなる。
【0102】
[第6の実施形態]
蒸散作用を深さ方向に限定する効果を強くするためには、集光の角度aを大きくするような構成にすればよい。
【0103】
次に、第6の実施形態に係る手術用蒸散装置について図21を参照して説明する。図21は、凹レンズ17の代わりに凸レンズ18を用いた集光レンズ11の変更例を示す図である。
【0104】
図21に示すように、凸レンズ18は絞り14の部分に嵌め込んだ構成になっている。凸レンズ18を設けた構成では、凸レンズ18は対象Sの虚像S*を作り、凸レンズ16は、この虚像S*に対して集光することになる。それにより、図21に示す構成では集光の角度aが図19に示す構成に比べて大きくなるため、蒸散作用を深さ方向に限定する効果が強くなる。ただし、この構成では、レーザ光を照射できる範囲が絞り14の直径よりも狭い範囲となる。
【0105】
[第7の実施形態]
侵襲の少ない治療方法として、光感受性物質(レザフィリン(NPe6)等の蛍光物質)とレーザ照射による光線力学治療(Photodynamic therapy:PDT)が知られている。光線力学治療においては、生体組織の病的組織に特異的に集積する蛍光物質を投入し、蛍光物質が血液や正常組織から流失(wash out)されるのを待って手術を行う。励起光を照射すると、蛍光物質が蛍光を発するので、標的点Tとして選ぶべき位置がわかる。
【0106】
次に、励起光を照射する手段を手術用蒸散装置に設けた第7の実施形態について、図22を参照して説明する。
【0107】
図22は手術用蒸散装置の構成例を示す図である。図22に示すように、第1モジュール10に設けられた励起光源91を一例とする励起光照射手段90が設けられている。生体組織に面する絞り14の壁面14aには励起光源91が取り付けられている。なお、たとえば、レザフィリンに対して664nmの赤色光を発するレーザダイオードを用いることが知られているように、蛍光物質に対応した励起光源91が用いられる。
【0108】
励起光源91は、レーザダイオードのような発光体でもよく、あるいは光ファイバや、レンズの組み合わせなどの光学系によって、他の場所で発生した励起光を導き、壁面14aを一例とする所定位置において放射するようにしてもよい。
【0109】
一般に、蛍光は暗いので、第2モジュール20の撮像光学系50の撮像素子52は、好感度CCD・蓄光型撮像管などの高感度撮影を用いるのが望ましい。たとえば数秒掛けて、S/N比が比較的良い蛍光像を撮影することができる(図23参照)。
【0110】
次に、撮影された蛍光像を基に病変組織を自動的蒸散させる方法について説明する。
【0111】
(ステップS301:蛍光像の抽出)
蛍光像をデジタル画像としてコンピュータに入力して公知の簡単な画像処理技術を応用する。特開2008−268027号公報には、蛍光画像からしきい値輝度値未満の蛍光を発現している領域を抽出する技術が開示されている。この技術を用いることにより、コンピュータは、蛍光を発している範囲(蛍光範囲)を自動的に抽出する。
【0112】
(ステップS302:標的点の設定)
コンピュータは、蛍光範囲を被覆するように複数の標的点Tを設定する。設定された標的点Tを図24に小円で示す。特開2005−338267号公報には、マスクパターンを単位領域に分割する技術が開示されている。この技術を用いることにより、蛍光範囲を小円に分割し、一つ一つの小円の位置として標的点Tを設定することが可能となる。
【0113】
(ステップS303:標的点の確定)
設定された標的点Tの承認は次のように行われる。外科医によるポインティングデバイス等の操作手段63による操作を受けて、設定された標的点Tがコンピュータに読み込まれる。それにより標的点T及びその位置が確定する。また、操作手段63による操作を受けて、コンピュータは標的点Tを削除し、また、標的点Tの位置を修正する。
【0114】
(ステップS304:ピント合わせ)
既に述べた自動調節手段を用いて、標的点Tにレーザ光を集光させる。
【0115】
(ステップS305:レーザ照射)
標的点Tにレーザ光を集光させた後に、レーザ光を標的点Tに照射する。それにより、標的点Tの病変組織を蒸散させることが可能となる。
次に、全ての標的点Tを蒸散するようにステップS303及びS304を繰り返す。
【0116】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、書き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるととともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0117】
A1 中心軸 C アイソセンター CP 集光点 R レーザ光源
S 対象(術野の底) S’ 光学像 S” 光学像
T 標的点 T’ 標的点像 T” 標的点像
10 第1モジュール 11 集光レンズ 12 筒状体
13 アーム部材 14 絞り 15 開口
16 凸レンズ 17 凹レンズ
20 第2モジュール 22 カバー 221 一方の壁部 25 駆動手段
30 照射光学系 31 コリメータレンズ
40 可変焦点レンズ
50 撮像光学系 51 光路変換部材 52 撮像素子 53 集光レンズ
60 コンソール 61 駆動制御手段 62 入出力インターフェース
63 操作手段 64 表示手段 65 画像処理手段 66 位置算出手段
70 参照光発生手段
80 リレー光学系 81 リレーレンズ 82 リレーレンズ
83 直角プリズム
90 励起光照射手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を生体組織に照射する手術用蒸散装置において、
入射したレーザ光を標的点に集束させる集光手段を有する第1モジュールと、
前記第1モジュールとは独立して移動可能に構成され、前記レーザ光を前記集光手段に照射する第2モジュールと、
を有することを特徴とする手術用蒸散装置。
【請求項2】
前記第2モジュールは、前記集光手段により導かれた前記標的点周辺の光学像を撮像する撮像光学系を有することを特徴とする請求項1に記載の手術用蒸散装置。
【請求項3】
前記第2モジュールは、前記標的点周辺の光学像と前記標的点に照射する前記レーザ光とが共通の光路を通過するように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の手術用蒸散装置。
【請求項4】
前記第2モジュールの照射光学系を駆動制御して、前記標的点の位置を前記集光手段の中心軸に対して直交する方向に移動する駆動制御手段を有する特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の手術用蒸散装置。
【請求項5】
前記第2モジュールの照射光学系を駆動して、前記標的点の位置を前記集光手段の中心軸に沿った方向に移動する駆動制御手段を有する特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の手術用蒸散装置。
【請求項6】
前記第2モジュールは、前記照射光学系を覆うカバーを供え、
前記駆動制御手段は、前記カバーを固定した状態で前記標的点の位置の移動を行うように構成されたものであることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の手術用蒸散装置。
【請求項7】
前記第1モジュールは、非磁性の絶縁材料で構成させることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の手術用蒸散装置。
【請求項8】
前記第2のモジュールは、前記標的点の位置を示すための蒸散効果のない参照光を前記第1のモジュールの前記集光手段に照射する参照光発生手段を有することを特徴とる請求項1から請求項7のいずれかに記載の手術用蒸散装置。
【請求項9】
蛍光物質を励起する励起光を生体組織に照射する励起光照射手段を有することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の手術用蒸散装置。
【請求項10】
前記撮像光学系により得られた蛍光像の情報に基づいて、前記標的点の位置を求める位置算出手段を有することを特徴とする請求項9に記載の手術用蒸散装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図25】
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【図26A】
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【図26B】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2012−183097(P2012−183097A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46464(P2011−46464)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】