説明

打錠用基材

【課題】打錠する際に打錠性を損なうことなく、錠剤の硬度および保存性などを向上させる打錠用基材の提供。
【解決手段】打錠用基材としてモモ樹脂を有効成分としてなる組成物を用い、医薬品、菓子、化粧品、栄養補助食品などの粉体を打錠により固めて成型する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打錠する際に打錠性を損なうことなく、錠剤の硬度および保存性などを向上させることを目的とした打錠用基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、錠剤とは粉末原料を打錠することによって製造を行うが、打錠の際には錠剤の成型性、杵離れ、などが問題となる。
【0003】
そこで、打錠を行う際の量の調整、成型性の向上などのために、必要に応じて賦形剤、結合剤、滑沢剤などが加えられている。賦形剤とは増量や希釈目的の他、硬度の向上の為に加えられる。また、結合剤とは、粉末混合物に結合力を与え、打錠しやすくするために用いる。滑沢剤は流動性の向上や打錠機の臼や杵に付着するのを防ぐために添加するものである。
【0004】
これらの賦形剤、結合剤としての効果を有する打錠用基材としては、通常、乳糖やでんぷん、結晶セルロースなどが用いられている。乳糖やでんぷんは主に量の調節、かさ増し目的で用いられているのに対して、結晶セルロースは結合性に優れ、打錠性の悪い主剤を用いる場合でも硬度の高い錠剤が得られることから、現在非常に多く用いられている。しかしながら、結晶セルロースは原料のパルプから化学的処理により製造されるため、消費者から安全性についての不安を指摘する声が日増しに高まっている。特に、食品向け錠剤の分野では、近年サプリメントや口内清涼剤などが大きな市場を得ているが、これらに用いる場合においても、結晶セルロースの表示が嫌われる傾向にある。そこで、同等の機能を維持しながら安心な素材を用いた錠剤打錠用基材の開発が求められている。
【0005】
このような現状に鑑み、本発明者らは、錠剤に十分な硬度と保存性を与え、なおかつ安心、安全な素材を用いた打錠用基材の開発を指向し、その中でもモモ樹脂に着目して研究したところ、モモ樹脂が従来の打錠基材と比して優れた性質を有することを見出し、本発明に至った。
【0006】
従来、モモ樹脂に関する研究として、特許文献1には、桃樹脂の精製方法、すなわち、未精製の桃樹脂を水に溶解し、酸を加えて酸性とし、活性炭と接触させて精製する方法が記載されている。しかし、特許文献1には、桃樹脂を打錠用基材として用いることは全く開示されていない。
【0007】
また、特許文献2には、ピ−チゴムを可塑剤として選択して水と混合し、50℃で保持・脱気し、膠液を形成させ、薬剤などのカプセル殻を作ることが開示されているが、打錠用基材として用いることは全く開示されていない。
【0008】
さらに、特許文献3には、ピーチ樹脂及びピーチ樹脂漿を活性炭などと共に組成に組み入れた経口製剤について開示されている。しかし、特許文献3に記載される製剤は、甲状腺機能亢進症を治療するための活性炭製剤であり、ピーチ樹脂およびピーチ樹脂漿は、製薬上必要である補助材料の一つとして例示されているにすぎず、ピーチ樹脂あるいはピーチ樹脂漿を打錠用基材として使用することを示唆するものではない。

【特許文献1】特開平10−150930号公報
【特許文献2】特表2004−513182号公報
【特許文献3】特表2005−524604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、天然由来の素材を用い、従来の技術の課題を解決する打錠用基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題に対して鋭意研究した結果、打錠用基材にモモ樹脂を有効成分としてなる組成物が、すぐれた打錠性、結合性を有し、錠剤に求められる硬度と崩壊性を錠剤に与えることを見出した。
【発明の効果】
【0011】
本発明の打錠用基材は、優れた結合性を持ち、硬度の高い錠剤を得ることができる。
また、本発明の打錠用基材は、従来打錠が困難であった素材においても、この優れた結合性により錠剤化することを可能にするため、工業的価値は非常に大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明における錠剤用基材とは、打錠時における賦形性、結合性を与えるものであり、それに加えて、錠剤に硬度、保存性、崩壊性を与える錠剤用基材のことである。
【0013】
本発明における錠剤とは、粉体を打錠により固めて成型するものであり、医薬品、菓子、化粧品、栄養補助食品など分野は問わない。
【0014】
本発明におけるモモ樹脂(別名ピーチガム)とは桃の木(Prunus persica)の樹液から得られる多糖類を主成分とするガム類であり、旧厚生省令第50号「既存添加物名簿に関する省令」リストの第415番に記載されている食品添加物である。
【0015】
製造工程では、通常の打錠方法としては、打錠用組成物をそのまま打錠する直接錠剤製造法と、打錠用組成物を造粒したのちに打錠する湿式錠剤製造法とがあるが、本発明はどちらにも用いることが出来る。
【0016】
本発明における錠剤用基材は、錠剤の原料中にモモ樹脂を0.2〜4.0重量%未満含ませればその優れた結合性により硬度の高い錠剤を得ることができるが、この範囲に限定されるものではない。また、本発明に係る錠剤には、上記錠剤用基材の他に、例えば、糖類、果汁末、ビタミン、食物繊維、モモ樹脂以外の水溶性高分子、安定剤、香料などを添加して差し支えない。その他の水溶性高分子としては、特に限定するものではないが、例としてペクチン、タラガム、グアガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、アラビアガム、大豆多糖類などが挙げられる。
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
モモ樹脂20g(ユニテックフーズ(株)製)、クレアチン160g (クレアピュア、デグサ社製)、乳糖10g(LEPRINO社製)をポリ袋中で混合し、さらにショ糖脂肪酸エステル10g(シュガーエステル、三菱化学フーズ社製)を加えた後、さらによく混合した後、打錠機(RIVA社製 MINIPRESS)を用いて、直径8mm、厚み7.5mmの条件で直打法により打錠を行い、錠剤aを得た。打錠時の性状は良好であった。
【0018】
[比較例1]
結晶セルロース20g(旭化成ケミカルズ(株)製)、クレアチン160g (クレアピュア、デグサ社製)、乳糖10g(LEPRINO社製)をポリ袋中で混合し、さらにショ糖脂肪酸エステル10g(シュガーエステル、三菱化学フーズ社製)を加えた後、さらによく混合した後、打錠機(RIVA社製 MINIPRESS)を用いて、直径8mm、厚み7.5mmの条件で打錠を行い、錠剤bを得た。打錠時の性状は良好であった。
【0019】
[比較例2]
アラビアガム20g(コロイドナチュレル社製)、クレアチン160g (クレアピュア、デグサ社製)、乳糖10g(LEPRINO社製)をポリ袋中で混合し、さらにショ糖脂肪酸エステル10g(シュガーエステル、三菱化学フーズ(株)製)を加えた後、さらによく混合した後、打錠機(RIVA社製 MINIPRESS)を用いて、直径8mm、厚み7.5mmの条件で打錠を行い、錠剤cを得た。打錠時の性状は、非常にもろく、錠剤が欠けたり、表面が帽子のように欠け落ちてしまうキャッピングの現象などが見られた。
【0020】
[比較例3]
キサンタンガム20g(デグサ社製)、クレアチン160g (クレアピュア、デグサ社製)、乳糖10g(LEPRINO社製)をポリ袋中で混合し、さらにショ糖脂肪酸エステル10g(シュガーエステル、三菱化学フーズ(株)製)を加えた後、さらによく混合した後、打錠機(RIVA社製 MINIPRESS)を用いて、直径8mm、厚み7.5mmの条件で打錠を行い、錠剤dを得た。打錠時の性状は良好であった。
【0021】
[比較例4]
グアガム20g(デグサ社製)、クレアチン160g (クレアピュア、デグサ社製)、乳糖10g(LEPRINO社製)をポリ袋中で混合し、さらにショ糖脂肪酸エステル10g(シュガーエステル、三菱化学フーズ(株)製)を加えた後、さらによく混合した後、打錠機(RIVA社製 MINIPRESS)を用いて、直径8mm、厚み7.5mmの条件で打錠を行い、錠剤eを得た。打錠時の性状は良好であった。
【0022】
[評価試験]
得られた錠剤は、硬度、崩壊性、摩損度で評価した。
[錠剤硬度試験]
錠剤硬度は、木屋式デジタル硬度計(藤原製作所(株)製)を用い、直径側の硬度を測定した。10個測定した平均値を表1に示す。
[崩壊性試験]
崩壊性は、崩壊試験機(宮本理研工業(株)製)を用い、日局一般試験法、錠剤の項により試験を行った。各錠剤につき、それぞれ6個測定した場合の結果を表1に示す。30分以内にほぼ完全に崩壊が見られたものは○、それ以上かかったものについては×で評価した。
[摩損度試験]
錠剤摩損度試験器(富山産業(株)製)を用い、錠剤10個を25rpm、100秒間ドラム内で回転させた後の重量の変化を測定した。摩損度は摩損度(%)=100×「回転前の重量(g)-回転後の重量(g)」/「回転前の重量(g)」で計算した。その結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1の結果から、モモ樹脂を配合することで、硬度の高い錠剤用基材が得られ、またそれによって製造される錠剤は崩壊性、保存性にも優れることが明らかである。
【実施例2】
【0025】
モモ樹脂20g(ユニテックフーズ(株)製)、ミルクカルシウム160g (S-10、BBA社製)、乳糖10g(LEPRINO社製)をポリ袋中で混合し、さらにショ糖脂肪酸エステル10g(シュガーエステル、三菱化学フーズ社製)を加えた後、さらによく混合した後、打錠機(RIVA社製 MINIPRESS)を用いて打錠を行い、錠剤fを得た。打錠時の性状は極めて良好であり、杵離れが悪く、表面に傷がついてしまうスティッキングの現象や、前述したキャッピングの現象は観察されなかった。
【0026】
[比較例5]
結晶セルロース20g(旭化成ケミカルズ(株)製)、ミルクカルシウム160g (S-10、BBA社製)、乳糖10g(LEPRINO社製)をポリ袋中で混合し、さらにショ糖脂肪酸エステル10g(シュガーエステル、三菱化学フーズ社製)を加えた後、さらによく混合した後、打錠機(RIVA社製 MINIPRESS)を用いて打錠を行い、錠剤gを得た。打錠時の性状は、スティッキングが激しく、表面に荒れが観察された。また、得られた錠剤は非常にもろく、キャッピングの現象が観察された。
【0027】
錠剤f、およびgの性状を表2に示す。錠剤gは得られた錠剤のうち、形状に問題が無いものを選んで試験を行った。
【0028】
【表2】

【0029】
表2から、モモ樹脂を配合することで、打錠が困難である素材であっても、十分な硬度を錠剤に与え、高含有の錠剤を製造できることが明らかである。
【実施例3】
【0030】
(錠菓 チュアブルタイプ)
モモ樹脂9g(ユニテックフーズ(株)製)、クレアチン100g (クレアピュア、デグサ社製)、アミノ酸(BCAA)20g、乳糖70g、麦芽糖175g、ブドウ糖50g、バナナ果汁末40g、クエン酸8g、甘味料1g、をポリ袋中で混合し、さらにショ糖脂肪酸エステル15gを加えた後、さらによく混合した後、打錠機(RIVA社製 MINIPRESS)を用いて打錠を行い、直径14mm、厚み5mmの錠剤を得た。打錠時の性状は、良好であり、スティッキングなどの現象は観察されなかった。硬度は7.0kgfであり、噛んで食べるのに適度な状態であった。また、非常にくちどけがよく、フレーバーの阻害なども起こらなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モモ樹脂を含有することを特徴とする打錠用基材。
【請求項2】
請求項1に記載の打錠用基材を0.2重量%以上4.0重量%未満含むことを特徴とする錠剤

【公開番号】特開2008−100917(P2008−100917A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−282079(P2006−282079)
【出願日】平成18年10月17日(2006.10.17)
【出願人】(306007864)ユニテックフーズ株式会社 (23)
【Fターム(参考)】