説明

把持ハンド、及び搬送装置

【課題】粘着性を有する物質の付着が低減された把持ハンド、及びその把持ハンドを用いた搬送装置を提供することを目的とする。
【解決手段】被把持部材を挟んで把持するハンド部において、ハンド部の少なくとも被把持部材に接触する部分が、基材21と、多孔質層22と、非粘着層23とで構成される。基材21は、粗面処理され、表面に凹凸形状が形成されている。多孔質層22は、基材21の粗面側に形成された複数の微細孔を有する。非粘着層23は、多孔質層22の表面に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズなどに用いられる基板の製造時において、その基板を搬送する際に用いる把持ハンドに関し、また、その把持ハンドを備える搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡などに用いられる光学レンズには、遮光性、調光性、耐擦傷性、撥水性等様々な機能を付与するため、レンズ表面にその目的に応じた材質のコーティング被膜を形成することが行われている。このようなコーティング被膜を形成する場合には例えば特許文献1にしめされた塗布装置が用いられる。
【0003】
一般的な塗布装置では、ベルトコンベアによって搬送されてきたレンズを、レンズの周縁を把持することのできる把持ハンドで把持し、所定の位置に配置された塗布容器に配置する。その後、塗布容器内でレンズにコーティング液を塗布した後、再び把持ハンドでレンズの周縁を把持して、レンズを搬送するためのベルトコンベアに配置する。これにより、コーティング液が塗布されたレンズは、次の工程に搬送される。
【0004】
ところで、レンズにコーティング液を塗布して熱硬化又はUV硬化などの処理を行う場合、コーティング液の塗布する工程から硬化する工程までの間に搬送作業が行われることがある。搬送時、把持ハンドはレンズのコーティング液が塗布されたコート面に直接接触しないように、レンズの周縁を把持する。
【0005】
しかしながら、コーティング液が塗布された後のレンズ周縁には液状、又は半硬化状態のコーティング液が付着しており、この状態でレンズを把持ハンドで再度把持すると、把持ハンドにコーティング液が付着する問題が発生する。そうすると、把持ハンドにコーティング液が付着し、把持ハンドのレンズに接触する部分に粘着性が生じてしまう。
【0006】
把持ハンドに粘着性の物質が付着した状態で、次に搬送されてきたレンズを把持すると、把持ハンドに発生した粘着性のため、レンズの把持を解除する際にレンズが把持ハンドから速やかに離れず、所望の位置にレンズを配置できない。そうすると、結果的に次工程でレンズを所定の位置にうまく設置できないため、歩留まりが悪くなる。さらに、把持ハンドに付着したコーティング成分がはがれた場合、その剥がれた破片が別のレンズに付着し、異物不良になるなどの問題も発生する。
【0007】
また、このような問題は、塗布装置に限られるものではなく、周縁に粘着性の物質が付着した状態のレンズを搬送するような搬送装置に用いられる把持ハンド全般に起こり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−202140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の点に鑑み、本発明は、粘着性を有する物質の付着が低減された把持ハンド、及びその把持ハンドを用いた搬送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の把持ハンドは、被把持部材を挟んで把持するハンド部において、ハンド部の少なくとも被把持部材に接触する部分が非粘着部材で構成されている。そして、非粘着部材は、粗面処理され表面に凹凸形状が形成された基材と、基材の粗面側に形成された複数の微細孔を有する多孔質層と、多孔質層の表面に形成された非粘着層から構成されている。
【0011】
本発明の把持ハンドは、ハンド部の少なくとも被把持部材に接触する部分が、非粘着部材で構成されていることにより、粘着物が付着した被把持部材を把持する場合においても、把持ハンドに粘着物が付着することがない。
【0012】
そして、本発明の把持ハンドは、ハンド部を構成する非粘着部材の表面に多孔質層と非粘着層の両方が露出された構成であることが好ましい。ハンド部において、特性の異なる2つの部材が露出されることにより、本発明の把持ハンドでは、被把持部材に付着した粘着物の把持ハンドへの付着をより確実に防止することができる。
【0013】
本発明の搬送装置は、把持ハンドと、把持ハンドを移動可能な移動部とを備える。把持ハンドは、被把持部材を挟んで把持するハンド部において、ハンド部の少なくとも被把持部材に接触する部分が非粘着部材で構成されている。そして、非粘着部材は、粗面処理され表面に凹凸形状が形成された基材と、基材の粗面側に形成された複数の微細孔を有する多孔質層と、多孔質層の表面に形成された非粘着層から構成されている。
【0014】
本発明の搬送装置では、把持ハンドを構成するハンド部の少なくとも被把持部材に接触する部分が非粘着部材で形成されることにより、被把持部材に付着した粘着物が把持ハンドに付着することを防ぐことができるので、搬送をより効率よく行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、把持ハンドへの粘着性の物質の付着が低減されるので、把持ハンドによって被把持部材を把持し、搬送する動作を効率よく行うことができる。また、この把持ハンドを搬送装置に用いることにより、製品の歩留まりを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】A、B 本発明の一実施の形態に係る塗布装置の一方の側面及び他方の側面からみた構成図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る塗布装置の把持ハンドの構成を示す斜視図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る塗布装置の把持ハンドの構成を示す平面図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る把持ハンドのハンド部本体の構成を示す分解斜視図である。
【図5】A、B 本発明の一実施の形態に係る把持ハンドのハンド部本体を構成する非粘着材料の断面を示す図と、その領域aにおける拡大図である。
【図6】実施例と比較例1,2におけるハンド部本体を用いた場合の、コーティング液付着量を示す図である。
【図7】実施例と比較例1,2におけるハンド部本体を用いた場合の動作安定率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態に係る把持ハンド、及び搬送装置の一例を、図1〜図7を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではない。
図1〜図7を用いて、本発明の一実施形態に係る搬送装置について説明する。
【0018】
本実施形態例では、把持ハンドに把持される被把持部材として、レンズを把持する例を示し、また、搬送装置として、レンズを搬送してレンズの表面に所望のコーティング液を塗布する塗布装置を例に説明する。以下、本発明の「被把持部材」を「レンズ」とし、「搬送装置」を「塗布装置」として説明する。
【0019】
[塗布装置]
図1Aは、本実施形態例に係る塗布装置1の一方の側面からみた概略構成図であり、図1Bは、塗布装置1の他方の側面からみた概略構成図である。図1A及び図1Bに示すように、本実施形態例の塗布装置1は、載置台2、載置台2上部に構成される第1〜第3移動部3、4、6、回転支持部9、アーム部5及び把持ハンド10を備える。以下の説明では、第1移動部3により移動する把持ハンド10の移動方向をx方向とする。また、第2移動部4により移動する把持ハンド10の移動方向をz方向とする。また、第3移動部6により移動する把持ハンド10の移動方向をy方向とする。
【0020】
本実施形態例の塗布装置1では、載置台2は、床面に設置された直方体状の部材で構成されており、上面に、第1移動部3を載置台2に対して相対的に移動可能とするレール(図示せず)が形成されている。図示を省略するが、載置台2の内部には、第1移動部3をx方向(矢印a方向)に移動させるための駆動機構が構成されている。
【0021】
第1移動部3は、例えば直方体状の部材で構成され、載置台2の内部に構成された駆動機構により、x方向に移動可能に取り付けられている。第1移動部3の一方の側面には、第2移動部4を第1移動部3に対して相対的に移動可能とするレール(図示せず)が形成されており、第2移動部4が取り付けられている。そして、第1移動部3の内部には、第2移動部4を図示しないレールに沿ってz方向(矢印b方向)に移動させるための駆動機構が構成されている。
【0022】
第2移動部4は、例えば直方体状の部材で構成され、第1移動部3の内部に構成された駆動機構により、第1移動部3に対してz方向に移動可能に取り付けられている。そして、第2移動部4の載置台2に面する側とは反対側の上面には回転支持部9が第2移動部4に対して回転可能に取り付けられている。回転支持部9は、第2移動部4に対して矢印dで示すように回転する。
【0023】
アーム部5は、回転支持部9の上端に固定されて取り付けられた長方形の板状の部材で構成されたアーム支持部5aと、そのアーム支持部5aの両端からy方向に伸びる長方形の板状の部材で構成された2本のアーム本体5bとで構成されている。アーム支持部5aとアーム本体5bとで構成されるアーム部5は、回転支持部9に対して固定されて取り付けられているため、回転支持部9が回転すると共に回転する。
【0024】
第3移動部6は、直方体状の部材で構成され、アーム部5を構成する2本のアーム本体5bのそれぞれの端部に取り付けられている。それぞれのアーム本体5bには、図示しないが、第3移動部6をアーム本体5bの先端からy方向に移動させるレールと、駆動機構が構成されている。これにより、第3移動部6は、アーム本体5bに対し矢印cで示すようにy方向に移動する。
【0025】
把持ハンド10は、アーム本体5bの先端に取り付けられたそれぞれの第3移動部6の、床面に対向する面側に取り付けられている。
以下に、把持ハンド10の構成について詳述する。
【0026】
[把持ハンド]
図2は、第3移動部6に取り付けられた把持ハンド10を拡大して示した斜視図である。また、図3は、把持ハンド10を床面側からみたときの平面構成を示す図である。図2に示すように、本実施形態例の把持ハンド10は、第3移動部6に取り付けられたハンド支持部7と、ハンド支持部7に取り付けられたハンド部8とで構成されている。
【0027】
ハンド支持部7は、第3移動部6の床面に面する側の面上の、長軸方向の一方の端部と他方の端部に1つずつ取り付けられており、2つの把持ハンド10は、図の破線で示すように、第3移動部6の床面に面する側の面上を、長軸方向に移動可能に取り付けられている。すなわち、ハンド支持部7が第3移動部6の面上を長軸方向に移動することにより、2つのハンド支持部7間の距離が調節可能となっている。そして、ハンド支持部7の床面に面する側の面上には、離間して2つの孔部11が形成されている。
【0028】
図4にハンド部8の分解斜視図を示す。図4に示すように、ハンド部8は、ハンド支持部7の孔部11に一端が差し込まれて、ハンド支持部7に立設される棒状の固定部12と、その固定部12を被覆して取り付けられるハンド部本体13とで構成される。
【0029】
固定部12は、固定部本体14と、差し込み部15と、張出部17と、突出部16とで構成されている。固定部本体14は、円柱状の部材で構成されている。また、差し込み部15は、直方体状の部材で構成され、固定部本体14の一端に形成されている。この差し込み部15の軸心方向における長さは、ハンド支持部7に形成された孔部11の深さとほぼ同じ長さとされている。張出部17は、固定部本体14と差し込み部15との間において、半径外方向に張り出した鍔状に形成され、固定部本体14の外径、及び差し込み部15の外径よりも大きな径で形成されている。突出部16は、固定部本体14側面の張出部17に近い位置に形成され、固定部本体14の半径外方向に突出して形成されている。この突出部16は、固定部12の軸心に対して対称に2カ所に設けられている。
【0030】
そして、本実施形態例では、固定部12を構成する固定部本体14、差し込み部15、張出部17、及び突出部16は一体に形成されている。固定部12は、図2に示すように、差し込み部15がハンド支持部7の孔部11に差し込まれて、図示しないネジにより固定される。これにより、固定部12は、第3移動部6の床面に面する側の面に対して固定部12の軸心が垂直方向をなすようにハンド支持部7に固定されている。
【0031】
ハンド部本体13は、一端に底部を有し、他端が開口された有底筒状の部材で構成されており、その内径は固定部12を構成する固定部本体14の外径よりも少し大きな径とされている。また、ハンド部本体13の内周における端部から底部までの軸心方向の深さは、固定部本体14の軸心方向の長さとほぼ同じ長さにされている。さらに、ハンド部本体13の開口された側の端部には、軸心に対して対称な2カ所に、開口端から軸心方向に所望の深さまで側面が切り抜かれて形成された挿入部18と、挿入部18に連続して円周方向に所望の幅で切り抜かれた係止部19が形成されている。
【0032】
以上の構成を有するハンド部本体13は、把持ハンド10の組み立てにおいて、ハンド支持部7に固定された固定部12の固定部本体14上部側から固定部12に被せるように移動させる。そして、ハンド部本体13の端部に形成された挿入部18に固定部12に形成された突出部16が挿入するように位置を調整しながら移動させる。突出部16が挿入部18に挿入されると共にハンド部本体13の開口端が張出部17に接するまで移動させた後は、ハンド部本体13を回転させることにより固定部12の突出部16をハンド部本体13の係止部19に係止する。これにより、ハンド部本体13は、固定部12に固定される。ハンド部本体13を固定部12から取り外すときは、ハンド部本体13を取り付け時とは反対側に回転し、係止部19の係止を解除すればよい。
【0033】
本実施形態例では、図2及び図3に示すように、1つの第3移動部6の床面に面する側に面上には、2つのハンド支持部7が形成され、それぞれのハンド支持部7に2本ずつのハンド部8が設けられているため、1つの第3移動部6には、計4本のハンド部8が立設されている。そしてこれらのハンド部8は、第3移動部6側から塗布装置1が設置された床面方向に向かって伸びるように設けられている。
【0034】
そして、図3に示すように、把持ハンド10は塗布装置1においてレンズ20の周縁を把持する。本実施形態例の把持ハンド10は、第3移動部6に対してハンド支持部7が、破線で示すように移動する構成とされる。このため、図3の破線で示すようなレンズ20を把持する場合には、レンズ20の周縁に4つのハンド部8が接触するようにハンド支持部7を移動調整し、レンズ20を把持する。レンズ20の把持を解除する場合には、把持ハンド10を破線の位置から実線で示す位置まで戻す。
【0035】
[ハンド部本体の材料]
ここで、ハンド部本体13を構成する材料について説明する。図5Aは、本実施形態例のハンド部本体13を構成する材料の断面構成図であり、図5Bは、図5Aの領域aを拡大して示した図である。
【0036】
本実施形態例のハンド部本体13は、粗面処理され、表面に凹凸形状が形成された基材21と、基材21の粗面側に形成された複数の微細孔を有する多孔質層22と、多孔質層22の表面に形成された非粘着層23からなる非粘着部材24で形成されている。
【0037】
基材21としては、例えば、アルミニウム、ステンレス等の金属や、ガラスを用いることができる。基材21の表面には、算術平均粗さ(Ra)が2〜11μmの凹凸形状が形成されている。基材21の表面粗さを2〜11μm(算術平均粗さ)とすることで、耐久性を保ちつつ、レンズ20などの被把持部材との接触面積を低くすることができる。具体的には、表面粗さが11μmを超える場合、塗布されたコート液は半凝固であるか、または粘性を有する液体に変化していることから、前記表面粗さの範囲であれば、粗さの細部にコート液が浸潤することが抑制される。表面粗さ平均が2μm以下の場合、被把持部材に接触する接点幅が近接しすぎるため、粘着力が維持されてしまい被把持部材に付着しているコーティング物質が付着しやすくなる。表面粗さ平均が11μm以上になると、液状のコート液が粗さの細部に浸潤してしまい、コーティング物質が付着しやすくなる。
【0038】
多孔質層22の材料としては、例えば、セラミックス、ニッケル、クロム、アルミニウム及びステンレス等の金属、及び、撥水性を有さない樹脂を用いることができる。多孔質層22は、例えば0.1μm〜10μmの厚みとされ、基材21表面の凹凸形状を維持しながら、全面を被覆するように形成されている。多孔質層22の厚さが0.5μ以下であると孔部の形成が困難になり、10μm以上であると基材の表面粗さの効果が得られにくくなる。多孔質層の厚さとしては、0.2μm〜3μmの範囲が好ましい。そして多孔質層22は、0.01μm〜0.1μmの径の微細孔を複数有する。多孔質層の細孔径としては、特に、0.02〜0.3μmの径が好ましい。孔部の径が0.01μm以下になると、細孔部に非粘着物質24が定着しにくくなり、0.1μmを超えると多孔質層の膜厚に対して大きすぎる
【0039】
非粘着層23の材料としては、例えば、フッ素系樹脂などの撥水性を有する材料を用いることができるほか、ポリウレアシラザン樹脂などがあげられる。非粘着層23は、多孔質層22の表面、及び複数の孔内に形成され、表面に、多孔質層22と非粘着層23との両方が露出する程度に形成されている。
そして、このような構成を有する非粘着部材24の、非粘着層23側の表面は、液体や、粘度を有する液体等に対して非粘着とされる。
【0040】
次に、本実施形態例のハンド部本体13に用いられる非粘着部材24の製造方法の一例を説明する。
脱脂、空焼きをした基材21の表面にブラスト処理(粗面処理)を施す。これにより、基材21表面に、算術平均粗さが2〜11μmの凹凸形状を形成する。
次に、必要に応じて基材21の凹凸形状が形成された面に、鉄、又はボロンなどの容射を施す。容射を行うことにより、粗面処理された基材21の表面に耐久性を付加することができる。
次に、多孔質層22の材料と、非粘着層23の材料とを含むコーティング液を塗布し、その後、焼成する。
【0041】
これにより、基材21の表面に凹凸形状を有すると共に、その凹凸面に多孔質層22が形成され、多孔質層22の表面及び孔内には非粘着層23が形成され、表面に多孔質層22と非粘着層23の両方が露出した非粘着部材24が完成される。そして、非粘着部材24では、非粘着層23が形成された面が、非粘着面とされる。
そして、ハンド部本体13では、非粘着面が表面となるように有底筒状に形成され、ハンド支持部7に固定された固定部12に固定されるように取り付けられている。
【0042】
以上の構成を有する塗布装置1では、第1移動部3、第2移動部4、及び第3移動部6によって、把持ハンド10がx方向、y方向、及びz方向に移動可能とされ、また、回転支持部9に対して回転可能とされている。これにより把持ハンド10は、3方向と回転方向に移動可能とされている。
【0043】
そして、塗布装置1では、図示しないベルトコンベアで搬送されてきた2枚のレンズを把持できる位置まで把持ハンド10を移動する。その後、2つの把持ハンド10をそれぞれのレンズの上部から下降させ、レンズを把持できる位置まで下降した後、ハンド支持部7を移動させることにより、4本のハンド部8をレンズの周縁に接触させる。これにより、各レンズが把持ハンド10に把持される。
【0044】
レンズが把持ハンド10に把持された後、把持ハンド10を図示しない塗布容器の位置まで運ぶ。そして、各レンズが塗布容器に載置されるように位置あわせしたあと、ハンド支持部7を移動させることにより、レンズの把持を解除する。これにより、2枚のレンズが塗布容器に載置される。
【0045】
塗布容器にレンズが載置された後、所望のコーティング液がレンズ表面に塗布される。コーティング液の塗布が終了した後、再度、把持ハンド10を塗布容器の位置まで運び、前述と同様にしてレンズを把持ハンド10で把持し、所定の位置まで運ぶ。その後、次の工程にレンズを運ぶためのベルトコンベア上にレンズが載置されるように、レンズの把持を解除する。
【0046】
本実施形態例の塗布装置1では、ハンド部本体13が、非粘着部材24で構成され、被把持部材であるレンズとの接触面が非粘着面とされる。これにより、塗布工程が終了し、液体や粘度を有する液体が塗布されたレンズを把持する場合において、ハンド部本体13にレンズに塗布された液体が接触してしまったとしても、ハンド部本体13側にそれらの塗布液が粘着しない。このため、ハンド部本体13の表面に被把持部材(レンズ)が粘着することがない。
【0047】
このように、本実施形態例のハンド部本体13の表面に粘着性を有するコート液が粘着せず、かつ、レンズを安定的に把持できる理由は、表面に多孔質層22と非粘着層23とからなる複合的な面が露出しており、基材21の表面が粗面処理されることで凹凸形状とされていることにあると考えられる。
【0048】
まず、ハンド部本体13のレンズ周縁に接触する面が、多孔質層22と非粘着層23とからなる複合的な面が露出することにより、両方の特性を得ることができる。例えば、多孔質層22が露出することにより、把持ハンド10でレンズを把持したときの保持性能を高めることができる。また、非粘着層23が露出することにより、粘着性を有するコート液成分のハンド部本体13への粘着を阻害することができる。
【0049】
また、多孔質層22と非粘着層23は、対コート液において、接触角が異なることが推察される。多孔質層22の対コート液の接触角をθとし、多孔質層22が露出している面積をγとし、非粘着層23の対コート液の接触角をθとし、非粘着層が露出している面積をγとすると、コート液とハンド部本体13の表面との接触角θcは、以下のカッシーの式で表すことができる。
cosθc=γcosθ+γcosθ
【0050】
カッシーの式により、多孔質層22のみで構成されている場合と比較して、多孔質層22と非粘着層で構成された場合の方が、コート液との接触角を広い角度に維持することができるので、コート液とハンド部本体13とが親和しにくくなる。これにより、非粘着性が向上すると考えられる。
【0051】
また、基材21の表面が粗面処理され、凹凸形状とされていることにより、ロータス効果がさらに加わり、コート液がハンド部本体13に付着することを好ましく阻害することができる。
【0052】
本実施形態例では、ハンド部本体13を非粘着部材24で構成する例としたが、少なくともレンズなどの被把持部材と接触する部分が前述した非粘着部材24で構成され、非粘着部材24の非粘着面が被把持部材との接触面となるような構成とすればよい。
【0053】
[実施例と比較例]
次に、把持ハンド10を本実施形態例の構成とした実施例と、従来の構成とした比較例1、及び2を示し、実施例と比較例1、2との実験結果について説明する。
実施例では、ハンド部本体13として、日建塗装工業社製のNONSTICKコーティング処理品(本実施形態例の非粘着部材24に相当)を用いた。
比較例1では、ハンド部本体13として、ポリアセタール(POM)からなる、表面が平滑面とされた材料を用いた。
比較例2では、ハンド部本体13として、ステンレス(SUS)からなる、表面が平滑面とされた材料を用いた。
【0054】
[実施例と比較例の実験結果]
以下に、実施例と比較例1及び2との比較実験の結果を示す。この実験では、図1に示した塗布装置1を用いて、ポリカーボネートポリオール系ポリウレタンエマルジョンからなり、粘度100cps、固形分濃度38%の水系ポリウレタン樹脂液をレンズに塗布した。そして、水系ポリウレタン樹脂液がコーティングされたレンズの側面(コバ面)を把持して搬送する動作を、実施例、比較例1、及び比較例2の把持ハンドを用いて、それぞれ、32回繰り返した。
なお、これらの実施例、及び比較例1、2の比較実験では、実際には、プレート状(平板状)とされ、レンズに接触する位置に形成された凸状の部材を有するハンド部本体13を有するテスト機を用いた。図1に示した塗布装置1とはハンド部本体13の形状が異なるが概要は同じである。
【0055】
図6は、搬送の回数に対して、把持ハンド10のハンド部本体13に付着したコーティング液の付着量を調べたものである。図6の横軸は、搬送の回数であり、縦軸は、コーティング液の付着量である。コーティング液の付着量は、使用前のハンド部本体13の重量と使用後の重量から割り出したものである。
【0056】
図6に示すように、比較例1及び2の把持ハンド10を用いた場合には、レンズの搬送の回数を重ねる毎にコーティング液の付着量が増し、32回のレンズの搬送後には、10mg以上のコーティング液が付着する結果となった。一方、実施例の把持ハンド10を用いた場合には、32回の搬送によっても、ハンド部本体13へのコーティング液の付着はほぼ0に近い値となった
【0057】
次に、ハンド部本体13に付着したコーティング液による動作安定性を確認した。ここでは、実施例、比較例1、及び比較例2の把持ハンドを用いてコーティング液を塗布した後のレンズを搬送した場合、搬送したレンズを適切な場所に設置できるか、また、設置時にレンズの把持の解除が速やかに進行するかを目視によって確認した。そして、速やかに設置できた場合を合格とし、設置時に何らかの不具合(保持解除不良、設置位置ずれ)が生じた場合を不合格とした。
【0058】
図7は、搬送の回数に対する動作安定性を示した図である。図7の横軸に、ハンド部本体13の材料を示し、縦軸に動作安定率を示す。図7からわかるように、比較例1の材料を用いた場合の動作安定率は、65.4%で、比較例2の材料を用いた場合の動作安定率は、9.4%であった。一方、実施例1の材料を用いた場合の動作安定率は100%となった。すなわち、実施例の材料を用いることにより、複数回の搬送動作を繰り返した場合にも、レンズの搬送を安定的に行うことができることがわかった。
【0059】
以上のように、本実施形態例の塗布装置1では、把持ハンド10において、コーティング液の付着を無くす、又は大幅に低減することができる。従来は、把持ハンドへのコーティング液の付着量が増えた場合、ハンド部本体をハンド支持部から取り外して、きれいなハンド部本体に取り替える作業が行われていた。しかしながら、本実施形態例の塗布装置では、把持ハンド10にコーティング液が付着しないため、ハンド部本体13の取り替えの回数を極端に減らすことが可能となる。
【0060】
また、本実施形態例の塗布装置1では、把持ハンド10にコーティング液が付着しないため、コーティング液の剥がれ片が他のレンズに付着するような異物不良も低減することができる。そして、本実施形態例の塗布装置1では、レンズを所定の位置に搬送した後、速やかにレンズの保持を解除でき、所定の位置に設置することができるため、歩留まりが向上する。
【0061】
本実施形態例では、搬送装置の一例として塗布装置を用いて説明したが、本発明は、塗布装置に限らず、種々の搬送装置に適用することができ、レンズ(被塗布物)の受け台、コンベア、コンベアガイドなどの部品にも適用できる。上述の実験では、コーティング液としてポリカーボネートポリオール系ポリウレタンエマルジョンを用いたが、本発明の把持ハンドは、その他、アクリル系等、粘着性を有するコーティング液に対しても非粘着とすることができる。
【符号の説明】
【0062】
1・・・塗布装置、2・・・載置台、3・・・第1移動部、4・・・第2移動部、5・・・アーム部、5a・・・アーム支持部、5b・・・アーム本体、6・・・第3移動部、7・・・ハンド支持部、8・・・ハンド部、9・・・回転支持部、10・・・把持ハンド、11・・・孔部、12・・・固定部、13・・・ハンド部本体、14・・・固定部本体、15・・・差し込み部、16・・・突出部、17・・・張出部、18・・・挿入部、19・・・係止部、20・・・レンズ、21・・・基材、22・・・多孔質層、23・・・非粘着層、24・・・非粘着部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被把持部材を挟んで把持するハンド部であって、
前記ハンド部の少なくとも前記被把持部材に接触する部分が、粗面処理され表面に凹凸形状が形成された基材と、前記基材の粗面側に形成された複数の微細孔を有する多孔質層と、前記多孔質層の表面に形成された非粘着層からなる非粘着部材により形成されているハンド部を備える
把持ハンド。
【請求項2】
前記ハンド部を構成する非粘着部材の表面には、前記多孔質層と前記非粘着層が露出している
請求項1に記載の把持ハンド。
【請求項3】
前記基材の表面は、算術平均表面粗さが2μm〜11μmの粗さとされている
請求項1又は2に記載の把持ハンド。
【請求項4】
前記基材は、アルミニウム、ステンレス、ガラスのいずれかで構成され、前記多孔質層は、セラミックス、ニッケル、クロム、アルミニウム、ステンレス、及び、撥水性を有さない樹脂のいずれかで構成され、前記非粘着層は、フッ素系樹脂からなる撥水性を有する材料、又はポリウレアシラザン樹脂で構成されている
請求項1〜3のいずれか一項に記載の把持ハンド。
【請求項5】
被把持部材を挟んで把持するハンド部であって、
前記ハンド部の少なくとも前記被把持部材に接触する部分が、粗面処理され、表面に凹凸形状が形成された基材と、前記基材の粗面側に形成された複数の微細孔を有する多孔質層と、前記多孔質層の表面に形成された非粘着層からなる非粘着部材により形成されているハンド部を備える把持ハンドと、
前記把持ハンドを移動可能な移動部と、
を備えた
搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−76161(P2012−76161A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221401(P2010−221401)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】