説明

投射装置および投射制御装置

【課題】外部からの紫外光による悪影響を回避可能な投射装置を提供する。
【解決手段】投射装置20は、コヒーレント光を拡散し得る光学素子と、コヒーレント光が光学素子上を走査するように、光学素子50にコヒーレント光を照射する照射装置40と、照射装置40から光学素子50の各位置に入射されて拡散されたコヒーレント光によって照明される光変調器30と、光変調器30で生成される変調画像を拡散させる拡散面を有する拡散部材15と、拡散面で拡散された変調画像の虚像を形成するとともに、該虚像を観察者が視認可能とする拡大投射光学系80と、を備える。光学素子から拡散部材までの間に、拡大投射光学系を透過してコヒーレント光の光路を逆方向に進む紫外線光を吸収する部材を設ける。光学素子の各位置に入射されて拡散されたコヒーレント光は、光変調器を重ねて照明する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コヒーレント光を照射する光源を用いた投射装置および投射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光源を用いて車両用ヘッドアップディスプレイ装置を構成する技術が提案されている(特許文献1参照)。この公報に記載されたヘッドマウントディスプレイ装置は、発散角変換素子と偏向光学素子とを含む投影光学系によりスクリーン上に投影した投影画像のボケを防止する技術を提案している。
【0003】
しかしながら、レーザを光源とした場合、コヒーレンスの高さに起因するスペックルが発生してしまう。スペックル(speckle)は、レーザ光などのコヒーレント光を散乱面に照射したときに現れる斑点状の模様であり、スクリーン上に発生すると斑点状の輝度ムラ(明るさのムラ)として観察され、観察者に対して生理的な悪影響を及ぼす要因になる。コヒーレント光を用いた場合にスペックルが発生する理由は、スクリーンなどの散乱反射面の各部で反射したコヒーレント光が、その極めて高い可干渉性ゆえに、互いに干渉し合うことによって生じるものとされている。例えば、下記の非特許文献1には、スペックルの発生についての詳細な理論的考察がなされている。
【0004】
上述した特許文献1は、レーザ光源により発生するスペックルに対する対策を何ら行なっていない。したがって、投影画像のボケは防止できても、投影画像自体がスペックルを含んだものになり、画質の向上は図れない。
【0005】
このように、レーザ光源等のコヒーレント光源を用いる方式では、スペックルの発生という固有の問題が生じるため、スペックルの発生を抑制するための技術が提案されている。例えば、下記の特許文献2には、レーザ光を散乱板に照射し、そこから得られる散乱光を光変調器に導くとともに、散乱板をモータによって回転駆動することにより、スペックルを低減する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−282083号公報
【特許文献2】特開平6−208089号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Speckle Phenomena in Optics, Joseph W. Goodman, Roberts & Co., 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
スペックルは、上述した車両用ヘッドアップディスプレイ装置に限らず、被照明領域にコヒーレント光を照明する照明装置を組み込んだ種々の装置において問題となっている。コヒーレント光は、レーザ光に代表されるように、優れた直進性を有するとともに、非常にエネルギー密度の高い光として照射され得る。したがって、実際に開発される照明装置としては、このようなコヒーレント光の特性に対応して、コヒーレント光の光路が設計されていることが好ましい。
【0009】
本件発明者らは、以上の点を踏まえて鋭意研究を重ね、その結果として、コヒーレント光で被照明領域を照明して、この照明光を拡散させて外部に取り出す際に、スペックルを目立たなくさせることができる投射装置を発明するにいたった。また、本件発明者らは、さらに研究を進め、コヒーレント光を照明される被照明領域内に明るさが突出して明るくなる領域が生じることを安定して防止し得るように、当該投射装置を改善することができた。
【0010】
ところで、車両用ヘッドアップディスプレイ装置は、フロントガラスをハーフミラーとして利用して、種々の情報の虚像を形成している。観察者は、虚像を外光ととともに視認することになる。このため、車両用ヘッドアップディスプレイ装置の内部にも、フロントガラスを透過した外光が入射される。外光には、紫外線光も含まれており、紫外線光が車両用ヘッドアップディスプレイ装置の一部の部材に入射されると、その部材にダメージを与えるおそれがある。
【0011】
本発明は、上述した問題点を解決すべくなされたものであり、その目的は、スペックルが目立たないようにすることができ、且つ被照明領域内の明るさのムラの発生を効果的に抑制でき、かつ外部からの紫外光による悪影響を回避可能な投射装置および投射制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様では、コヒーレント光を拡散し得る光学素子と、
コヒーレント光が前記光学素子上を走査するように、前記光学素子に前記コヒーレント光を照射する照射装置と、
前記照射装置から前記光学素子の各位置に入射されて拡散されたコヒーレント光によって照明される光変調器と、
前記光変調器で生成される変調画像を拡散させる拡散面を有する拡散部材と、
前記拡散面で拡散された変調画像の虚像を形成するとともに、該虚像を観察者が視認可能とする拡大投射光学系と、を備え、
前記光学素子から前記拡散部材までの間に、前記拡大投射光学系を透過して前記コヒーレント光の光路を逆方向に進む紫外線光を吸収する部材を設け、
前記光学素子の各位置に入射されて拡散されたコヒーレント光は、前記光変調器を重ねて照明することを特徴とする投射装置が提供される。
また、本発明の一態様では、コヒーレント光を拡散し得る光学素子と、
前記コヒーレント光の進行方向を変化させて、該コヒーレント光を前記光学素子上で走査させる走査デバイスと、
前記コヒーレント光の光路を逆方向に進む紫外線光を吸収する部材とを備え、
前記光学素子の各位置に入射されて拡散されたコヒーレント光は、被照明領域を重ねて照明することを特徴とする投射制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、拡大投射光学系を透過して拡散部材の方向に紫外線光が入り込んだとしても、その紫外線光を確実に吸収でき、投射装置内の各部材を紫外線光から保護できるとともに、各部材の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】一実施形態に係る投射装置の概略構成を示すブロック図。
【図2】ホログラム記録媒体55に散乱板の像を干渉縞として形成する様子を説明する図。
【図3】図2の露光工程を経て得られたホログラム記録媒体55に形成された干渉縞を用いて散乱板の像を再生する様子を説明する図。
【図4】走査デバイス65の走査経路を説明する図。
【図5】ミラーデバイス66を二軸方向に回動させる例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから適宜変更したり、誇張してある。
【0016】
本発明の一実施形態に係る投射装置は、例えば、車両用ヘッドアップディスプレイ装置に適用可能であるが、車両用ヘッドアップディスプレイ装置以外の種々の投射装置、例えばプロジェクタ等への適用も可能である。
【0017】
図1は一実施形態に係る投射装置20の概略構成を示すブロック図である。図1の投射装置20は、光学素子50と、照射装置60と、光変調器30と、リレー光学系70と、拡散スクリーン15と、拡大投射光学系80とを備えている。本明細書では、光学素子50と照射装置60とを合わせたものを照明装置40と呼ぶ。
【0018】
照射装置60は、コヒーレント光が光学素子50の表面を走査するように、光学素子50にコヒーレント光を照射する。照射装置60は、コヒーレント光を放射するレーザ光源61と、レーザ光源61から放射されたコヒーレント光を光学素子50の表面上で走査させる走査デバイス65とを有する。
【0019】
光学素子50は、被照明領域LZに散乱板の像を再生し得るホログラム記録媒体55を有する。ホログラム記録媒体55の詳細については後述する。ホログラム記録媒体55には、走査デバイス65にて反射されたコヒーレント光が入射される。ホログラム記録媒体55には干渉縞が形成されており、コヒーレント光が入射されると、干渉縞で回折されたコヒーレント光が発散光(拡散光)となって放射される。
【0020】
走査デバイス65は、入射されたコヒーレント光の反射角度を一定周期で可変させて、反射されたコヒーレント光がホログラム記録媒体55上を走査するようにしている。
【0021】
ホログラム記録媒体55上の各点に入射されたコヒーレント光は、拡散光となって、被照明領域LZに散乱板像を形成する。光変調器30は、被照明領域と重なる位置に配置されている。これにより、光変調器30は、照射装置60により照明される。
【0022】
光変調器30としては、例えば、透過型の液晶マイクロディスプレイ、例えば、LCOS(Liquid Crystal on Silicon)を用いることができる。この場合、照明装置40によって面状に照明される液晶マイクロディスプレイが、画素毎にコヒーレント光を選択して透過させることにより、液晶マイクロディスプレイ上に変調画像が形成される。こうして得られた変調画像(映像光)は、リレー光学系70によって、必要に応じて変倍されて拡散スクリーン15へ投射される。拡散スクリーン15に投射される変調画像のスペックルパターンは時間的に変化するため、スペックルは不可視化される。
【0023】
光変調器30としては、反射型のマイクロディスプレイを用いることも可能である。この場合、光変調器30での反射光によって変調画像が形成され、光変調器30へ照明装置40からコヒーレント光が照射される面と、光変調器30で生成された変調画像の映像光(反射光)の出射面が同一の面となる。このような反射光を利用する場合、光変調器30としてDMD(Digital Micromirror Device)などのMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子を用いることも可能である。上述した特許文献2に開示された装置では、DMDが光変調器として利用されている。この他、光変調器30としては、透過型の液晶パネルを用いることも可能である。この場合、液晶パネルの画面サイズを大きくすれば、拡大投射光学系80を省略することもできる。
【0024】
また、光変調器30の入射面は、照明装置40がコヒーレント光を照射する被照明領域LZと同一の形状および大きさであることが好ましい。この場合、照明装置40からのコヒーレント光を、拡散スクリーン15への映像の表示に高い利用効率で利用することができるからである。
【0025】
光変調器30で生成された変調画像を拡散スクリーン15に投射するリレー光学系70は、例えば凸レンズを有し、光変調器30で生成された変調画像は、凸レンズで屈折されて拡散スクリーン15上に変調画像71を投射する。凸レンズの径や、凸レンズと光変調器30との距離や、凸レンズと拡散スクリーン15との距離によって、拡散スクリーン15に投影される変調画像71のサイズを調整することができる。図1の拡散スクリーン15は、透過型であり、投射された変調画像光を拡散する。なお、拡散スクリーン15は、反射型でもよい。
【0026】
拡散スクリーン15で拡散された変調画像は、拡大投射光学系80に入射される。拡大投射光学系80は、例えばハーフミラー81を有する。このハーフミラー81は、拡散スクリーン15で拡散された変調画像光の一部を反射させて変調画像の虚像82を形成するとともに、外光も一部透過させるため、観察者は、外光とともに虚像82を視認することになる。
【0027】
ハーフミラー81として、例えば、車両のフロントガラスを用いることができ、観察者は運転席に座って前方を向くことで、フロントガラスを通して車外の景色を見ながら、虚像82を視認できる。あるいは、ハーフミラー81の代わりに、ホログラム記録媒体やプリズムを用いてもよい。
【0028】
また、拡大投射光学系80に凹面鏡を設けて、変調画像のサイズをより大きく拡大してもよい。凹面鏡は、拡散スクリーン15とハーフミラー81の間に設けるのが望ましい。
【0029】
光変調器30では、種々の変調画像を生成可能であり、光変調器30で変調画像を生成して、それを被照明領域LZで照明することで、リレー光学系70と拡大投射光学系80とにより、変調画像に対応する任意の虚像82を形成することができる。
【0030】
ところで、ハーフミラー81は、外光の一部を観察者の方向に透過させるだけでなく、拡散スクリーン15の方向にも透過させる。外光には、紫外線光(UV:UltraViolet光)が含まれており、紫外線光が投射装置20内の各部材に直接照射されると、部材が変質したりして、部材の寿命が短くなるおそれがある。特に、リレー光学系70に外部からの紫外線光が入射すると、リレー光学系70よりも前側の光変調器30などの予期せぬ場所で紫外線光が結像して、光変調器30、ホログラム記録媒体55、およびレーザ光源61などが紫外線光によるダメージを受けるおそれがある。
【0031】
そこで、本実施形態は、仮に外部からの紫外線光がハーフミラー81を介して入射して、本来の投射光路を逆方向に進んだとしても、ホログラム記録媒体55から拡散スクリーン15の間で紫外線光を確実に吸収するようにしている。
【0032】
紫外線光を吸収する具体的な手法には、種々のものが考えられる。例えば、拡散スクリーン15を、紫外線光を吸収可能な樹脂で形成することが考えられる。あるいは、拡散スクリーン15を、紫外線光を吸収可能な膜でコーティングしてもよい。
【0033】
あるいは、ホログラム記録媒体55を、紫外線光を吸収可能な材料で形成してもよい。より具体的には、ホログラム記録媒体55の保護膜、保護基材および粘着材などの構成部材の少なくとも一部を、紫外線光を吸収可能な材料で形成してもよい。
【0034】
あるいは、リレー光学系70を構成する少なくとも一部のレンズを、紫外線光を吸収可能な材料、例えば、ガラスで形成されたレンズにしてもよい。あるいは、リレー光学系70を構成する少なくとも一部のレンズの表面に、紫外線光を吸収可能な膜をコーティングしてもよい。コーティングの具体的な手法としては、例えば塗布、乾燥または蒸着が考えられる。
【0035】
あるいは、光変調器30を構成する一部の部材、例えば、偏光板、基板または透明電極などを、紫外線を吸収可能な材料で形成してもよい。
【0036】
この他、ホログラム記録媒体55から拡散スクリーン15までの間に、ハーフミラー81を透過して本来の投射光路を逆方向に進む紫外線光を吸収可能な何らかの部材を配置してもよい。
【0037】
このように、本実施形態では、ホログラム記録媒体55から拡散スクリーン15の間に、何らかの紫外線吸収剤を配置している。紫外線吸収剤の具体的な材料の一例は以下の通りである。
(1)比較的近紫外光(約300nm以上の波長)の吸収を行なう材料の例:
Ethyl hexyl methoxycinnamate(メトキシケイヒ酸オクチル)、2-Hydroxy-4-methoxybenzophenone(2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン)、
Butyl Methoxydibenzoylmethane (t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン)、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、または酸化セレン(CeO2)などが対象となる。紫外線吸収剤を薄膜で蒸着させる場合は、金属であれば、種類を問わず近紫外光の吸収を行えるため、金属全般が対象となる。
(2)深紫外光(約300nm以下の波長)の吸収を行なう材料の例:
かなりの材料が深紫外光を吸収できるが、偏光を乱さない材料としては、青板ガラス(ソーダライムガラス)、アルカリガラス、ポリカーボネートまたはトリアセチルセルロースなどのポリマーフィルムが対象となる。偏光を乱してもよい場合は、PET(ポリエチレン・テレフタレート)などが対象となる。
【0038】
紫外線吸収剤は、ホログラム記録媒体55から拡散スクリーン15の間の任意の場所に配置されるが、光変調器30に液晶が用いられる場合は、液晶は紫外線光により劣化しやすいため、少なくとも光変調器30か、あるいはその前方に配置されるリレー光学系70の構成部材に紫外線吸収剤を用いるのが望ましい。
【0039】
本実施形態では、被照明領域LZを照明するために、ホログラム記録媒体55を含む光学素子50を用いている。ホログラム記録媒体55は、例えばフォトポリマーを用いた反射型の体積型ホログラムである。図2はホログラム記録媒体55に散乱板の像を干渉縞として形成する様子を説明する図である。
【0040】
図2に示すように、ホログラム記録媒体55は、実物の散乱板6からの散乱光を物体光Loとして用いて作製されている。図2には、ホログラム記録媒体55をなすようになる感光性を有したホログラム感光材料58に、互いに干渉性を有するコヒーレント光からなる参照光Lrと物体光Loとが露光されている状態が示されている。
【0041】
参照光Lrとしては、例えば、特定波長域のレーザ光を発振するレーザ光源61からのレーザ光が用いられる。参照光Lrは、レンズからなる集光素子7を透過してホログラム感光材料58に入射する。図2に示す例では、参照光Lrを形成するためのレーザ光が、集光素子7の光軸と平行な平行光束として、集光素子7へ入射する。参照光Lrは、集光素子7を透過することによって、それまでの平行光束から収束光束に整形(変換)され、ホログラム感光材料58へ入射する。この際、収束光束Lrの焦点位置FPは、ホログラム感光材料58を通り過ぎた位置にある。すなわち、ホログラム感光材料58は、集光素子7と、集光素子7によって集光された収束光束Lrの焦点位置FPと、の間に配置される。
【0042】
一方、物体光Loは、例えばオパールガラスからなる散乱板6からの散乱光として、ホログラム感光材料58に入射する。図2の例では、作製されるべきホログラム記録媒体55が反射型であり、物体光Loは、参照光Lrと反対側の面からホログラム感光材料58へ入射する。物体光Loは、参照光Lrと干渉性を有することが前提である。したがって、例えば、同一のレーザ光源61から発振されたレーザ光を分割させて、分割された一方を上述の参照光Lrとして利用し、他方を物体光Loとして使用することができる。
【0043】
図2に示す例では、散乱板6の板面への法線方向と平行な平行光束が、散乱板6へ入射して散乱され、そして、散乱板6を透過した散乱光が物体光Loとしてホログラム感光材料58へ入射している。この方法によれば、通常安価に入手可能な等方散乱板を散乱板6として用いた場合に、散乱板6からの物体光Loを、ホログラム感光材料58に概ね均一な光量分布で入射させることができる。またこの方法によれば、散乱板6による散乱の度合いにも依存するが、ホログラム感光材料58の各位置に、散乱板6の出射面6aの全域から概ね均一な光量で物体光Loが入射しやすくなる。このような場合には、得られたホログラム記録媒体55の各位置に入射した光が、それぞれ、散乱板6の像5を同様の明るさで再生し、かつ、再生された散乱板6の像5を概ね均一な明るさで観察することが実現され得る。
【0044】
以上のようにして、参照光Lrおよび物体光Loがホログラム記録材料58に露光されると、参照光Lrおよび物体光Loが干渉してなる干渉縞が生成され、この光の干渉縞が、何らかのパターン例えば、体積型ホログラムでは、一例として、屈折率変調パターンとして、ホログラム記録材料58に記録される。その後、ホログラム記録材料58の種類に対応した適切な後処理が施され、ホログラム記録材料55が得られる。
【0045】
図3は図2の露光工程を経て得られたホログラム記録媒体55に形成された干渉縞を用いて散乱板の像を再生する様子を説明する図である。図3に示すように、図2のホログラム感光材料58にて形成されたホログラム記録媒体55は、露光工程で用いられたレーザ光と同一波長の光であって、露光工程における参照光Lrの光路を逆向きに進む光によって、そのブラッグ条件が満たされるようになる。すなわち、図3に示すように、露光工程時におけるホログラム感光材料58に対する焦点FPの相対位置(図2参照)と同一の位置関係をなすようにしてホログラム記録媒体55に対して位置する基準点SPから発散し、露光工程時における参照光Lrと同一の波長を有する発散光束は、再生照明光Laとして、ホログラム記録媒体55にて回折され、露光工程時におけるホログラム感光材料58に対する散乱板6の相対位置(図2参照)と同一の位置関係をなすようになるホログラム記録媒体55に対する特定の位置に、散乱板6の再生像5を生成する。
【0046】
この際、散乱板6の再生像5を生成する再生光、すなわち再生照明光Laをホログラム記録媒体55で回折してなる光Lbは、露光工程時に散乱板6からホログラム感光材料58へ向かって進んでいた物体光Loの光路を逆向きに進む光として散乱板6の像5の各点を再生する。ここで、図2に示したように、露光工程時に散乱板6の出射面6aの各位置から出射する物体光Loが、それぞれ、ホログラム感光材料58の概ね全領域に入射するように拡散している。すなわち、ホログラム感光材料58上の各位置には、散乱板6の出射面6aの全領域からの物体光Loが入射し、結果として、出射面6a全体の情報がホログラム記録媒体55の各位置にそれぞれ記録されている。このため、図3に示された、再生照明光Laとして機能する基準点SPからの発散光束をなす各光は、それぞれ単独で、ホログラム記録媒体55の各位置に入射して互いに同一の輪郭を有した散乱板6の像5を、互いに同一の位置(被照明領域LZ)に再生することができる。
【0047】
ホログラム記録媒体55に入射した光は、被照明領域LZの方向に回折されるため、無駄な散乱光を効果的に抑制できる。したがって、ホログラム記録媒体55に入射される再生照明光Laをすべて、散乱板6の像を形成するために有効利用できる。
【0048】
次に、このようなホログラム記録媒体55からなる光学素子50にコヒーレント光を照射する照射装置60の構成について説明する。図1〜図3に示された例において、照射装置60は、それぞれがコヒーレント光を生成するレーザ光源61と、このレーザ光源61からのコヒーレント光の進行方向を変化させる走査デバイス65と、を有する。
【0049】
レーザ光源61は、例えばそれぞれ異なる波長帯域のレーザ光を放射する複数のレーザ光源61を用いてもよい。複数のレーザ光源61を用いる場合は、各レーザ光源61からのレーザ光が走査デバイス65上の同一点を照射するようにする。これにより、ホログラム記録媒体55は、各レーザ光源61の照明色が混ざり合った再生照明光で照明されることになる。
【0050】
レーザ光源61は、単色のレーザ光源でもよいし、発光色の異なる複数のレーザ光源でもよい。例えば、赤、緑、青の複数のレーザ光源を用いて構成してもよい。複数のレーザ光源を用いる場合は、各レーザ光源からのコヒーレント光が走査デバイス65上の一点に照射されるように各レーザ光源を配置すれば、各レーザ光源からのコヒーレント光の入射角度に応じた反射角度で反射されて、ホログラム記録媒体55上に入射され、ホログラム記録媒体55から別個に回折されて、被照明領域LZ上で重ね合わされて合成色になる。例えば、赤、緑、青の複数のレーザ光源を用いて構成して場合には白色になる。あるいは、各レーザ光源ごとに、別個の走査デバイス65を設けてもよい。
【0051】
なお、例えば白色で照明する場合は、赤緑青以外の色で発光するレーザ光源、例えば、黄色で発光するレーザ光源を別個に設けた方が、より白色に近い色を再現できる場合もある。したがって、照射装置60内に設けるレーザ光源の種類は、特に限定されるものではない。
【0052】
カラーの虚像82を形成する場合には、種々の実現手法が考えられる。光変調器30がLCOSなどで構成されていて、各画素ごとにカラーフィルタを有する場合には、被照明領域LZを白色光とすることで、光変調器30で生成される変調画像をカラー化することができる。
【0053】
あるいは、例えば、赤色の変調画像を生成する光変調器30と、緑色の変調画像を生成する光変調器30と、青色の変調画像を生成する光変調器30とを近接配置し、これら3つの光変調器30のそれぞれを照明する3つの被照明領域を、順次にホログラム記録媒体55からの拡散光で照明するようにしてもよい。これにより、3つの光変調器30で生成された3色の変調画像が合成されて、カラーの変調画像を生成可能となる。このような時分割駆動の代わりに、3つの光変調器30で同時に生成した3色の変調画像をプリズム等を用いて合成して、カラーの変調画像を生成してもよい。
【0054】
上述したリレー光学系70は、主には、光変調器30の変調画像を拡散スクリーン15に投影するために設けられている。また、拡大投射光学系80は観察者が虚像82を視認したときに、その虚像82が人間の目で無理なく視認できるようなサイズに変調画像の大きさを調整するために、設けられている。
【0055】
拡大投射光学系80だけで十分な大きさの虚像82を形成できる場合には、リレー光学系70を省略してもよい。この場合、光変調器30にできるだけ近づけて拡散スクリーン15を配置するのが望ましい。リレー光学系70がない場合に、光変調器30と拡散スクリーン15との距離が離れていると、拡散スクリーン15に投射される変調画像がぼやけるためである。
【0056】
ところで、リレー光学系70を設けるにしても、省略するにしても、拡散スクリーン15は必須である。拡散スクリーン15を設けることで、スペックルが重ねられて平均化される結果、スペックルが目立たなくなる。
【0057】
走査デバイス65は、コヒーレント光の進行方向を経時的に変化させ、コヒーレント光の進行方向が一定とはならないよう種々の方向へ向ける。この結果、走査デバイス65で進行方向を変化させられるコヒーレント光が、光学素子50のホログラム記録媒体55の入射面上を走査するようになる。
【0058】
図4は走査デバイス65の走査経路を説明する図である。本実施形態に係る走査デバイス65は、一つの軸線RA1を中心として回動可能な反射面66aを有する反射デバイス66を含んでいる。反射デバイス66は、一つの軸線RA1を中心として回動可能な反射面66aとしてのミラーを有したミラーデバイスを有する。このミラーデバイス66は、ミラー66aの配向を変化させることによって、レーザ光源61からのコヒーレント光の進行方向を変化させるようになっている。この際、図3に示すように、ミラーデバイス66は、概ね、基準点SPにおいてレーザ光源61からコヒーレント光を受けるようになっている。
【0059】
ミラーデバイス66で進行方向を最終調整されたコヒーレント光は、基準点SPからの発散光束の一光線をなし得る再生照明光La(図3参照)として、光学素子50のホログラム記録媒体55へ入射し得る。結果として、照射装置60からのコヒーレント光がホログラム記録媒体55上を走査するようになり、且つ、ホログラム記録媒体55上の各位置に入射したコヒーレント光が同一の輪郭を有した散乱板6の像5を同一の位置(被照明領域LZ)に再生するようになる。
【0060】
図4に示すように、反射デバイス66は、一つの軸線RA1に沿ってミラー66aを回動させるように構成されている。図4に示された例では、ミラー66aの回動軸線RA1は、ホログラム記録媒体55の板面上に定義されたXY座標系(つまり、XY平面がホログラム記録媒体55の板面と平行となるXY座標系)のY軸と、平行に延びている。そして、ミラー66aが、ホログラム記録媒体55の板面上に定義されたXY座標系のY軸と平行な軸線RA1を中心として回動するため、照射装置60からのコヒーレント光の光学素子50への入射点IPは、ホログラム記録媒体55の板面上に定義されたXY座標系のX軸と平行な方向に往復動するようになる。すなわち、図4に示された例では、照射装置60は、コヒーレント光がホログラム記録媒体55上を直線経路に沿って走査するように、光学素子50にコヒーレント光を照射する。
【0061】
ミラーデバイス66等で構成される走査デバイス65は、上述したように、少なくとも軸線RA1回りに回動可能な部材であり、例えば、MEMSなどを用いて構成される。走査デバイス65は、周期的に回動運動を行うが、人間が直接観察する液晶表示装置などの用途では、1周期1/30秒程度、表示したい画面の種類に応じてそれ以上に高速にコヒーレント光で走査できれば、その回動周波数には特に制限はない。
【0062】
なお、実際上の問題として、ホログラム記録媒体55を作成する際、ホログラム記録材料58が収縮する場合がある。このような場合、ホログラム記録材料58の収縮を考慮して、照射装置60から光学素子50に照射されるコヒーレント光の入出射角度が調整されることが好ましい。したがって、コヒーレント光源61で生成するコヒーレント光の波長は、図2の露光工程で用いた光の波長と厳密に一致させる必要はなく、ほぼ同一となっていてもよい。
【0063】
また、同様の理由から、光学素子50のホログラム記録媒体55へ入射する光の進行方向も、基準点SPからの発散光束に含まれる一光線と厳密に同一の経路を取っていなくとも、被照明領域LZに像5を再生することができる。実際に、図3および図4に示す例では、走査デバイス65をなすミラーデバイス66のミラー(反射面)66aは、必然的に、その回動軸線RA1からずれる。したがって、基準点SPを通過しない回動軸線RA1を中心としてミラー66aを回動させた場合、ホログラム記録媒体55へ入射する光は、基準点SPからの発散光束をなす一光線とはならないことがある。しかしながら、実際には、図示された構成の照射装置60からのコヒーレント光によって、被照明領域LZに重ねて像5を実質的に再生することができる。
【0064】
ところで、走査デバイス65は、必ずしもコヒーレント光を反射させる部材である必要はなく、反射ではなく、コヒーレント光を屈折や回折等を行わせて、コヒーレント光を光学素子50上で走査させてもよい。
【0065】
(本実施形態の作用効果)
次に、以上の構成からなる投射装置20の作用および効果について説明する。
【0066】
本実施形態に係る投射装置20は、走査デバイス65により、ホログラム記録媒体55上をコヒーレント光で走査して、ホログラム記録媒体55で回折されたコヒーレント光で被照明領域LZを照明する。この照明を利用して光変調器30で生成された変調画像をリレー光学系70にてサイズ調整して、拡散スクリーン15に投射する。さらに、拡大投射光学系80を利用して、変調画像の虚像82を形成して、観察者が視認可能にする。
【0067】
拡大投射光学系80内のハーフミラー81は、外光の一部を透過させるため、外光に含まれる紫外線光がハーフミラー81を透過して、本来の投射光路を逆方向に進行するおそれがある。このため、本実施形態では、光学素子50から拡散スクリーン15までの間に、紫外線光を吸収可能な部材を配置する。これにより、外部からの紫外線光は、光学素子50に到達するまでに確実に吸収され、投射装置20内の各部材が紫外線光によってダメージを受けるおそれがなくなる。
【0068】
また、本実施形態では、走査デバイス65、ホログラム記録媒体55を含む光学素子50、および光変調器30を用いて変調画像を生成するため、例えば通常の液晶表示装置を用いて変調画像を生成する場合と比べて、変調画像を生成するまでのハードウェア構成を大幅に小型化できる。また、本実施形態では、走査デバイス65でホログラム記録媒体55上をコヒーレント光で走査させ、かつ拡散スクリーン15に変調画像を投射するため、コヒーレント光を用いながらも、スペックルを目立たせなくすることができ、高品質の画像表示が可能な投射装置20を実現できる。また、拡散スクリーン15を設けることで、視野角を広げることも可能となる。
【0069】
走査デバイス65は、ホログラム記録媒体55上の各位置に、当該位置でのブラッグ条件を満たす入射角度で、対応する特定波長のコヒーレント光を入射させる。この結果、各位置に入射したコヒーレント光は、それぞれ、ホログラム記録媒体55に記録された干渉縞による回折により、被照明領域LZの全域に重ねて散乱板6の像5を再生する。すなわち、照射装置60からホログラム記録媒体55の各位置に入射したコヒーレント光はそれぞれ、光学素子50で拡散されて(拡げられて)、被照明領域LZの全域に入射するようになる。
【0070】
このようにして、照射装置60は、被照明領域LZをコヒーレント光で照明する。例えば、レーザ光源61がそれぞれ異なる色で発光する複数のレーザ光源61を有する場合は、被照明領域LZは、各色で散乱板6の像5が再生される。したがって、これらレーザ光源61が同時に発光する場合は、被照明領域LZは3色が混ざり合った白色で照明されることになる。
【0071】
本実施形態では、以下に説明するように、スペックルを目立たせずに被照明領域LZ上に光像を形成することができる。
【0072】
前掲の非特許文献1によれば、スペックルを目立たなくさせるには、偏光・位相・角度・時間といったパラメータを多重化し、モードを増やすことが有効であるとされている。ここでいうモードとは、互いに無相関なスペックルパターンのことである。例えば、複数のレーザ光源61から同一のスクリーンに異なる方向からコヒーレント光を投射した場合、レーザ光源61の数だけ、モードが存在することになる。また、同一のレーザ光源61からのコヒーレント光を、単位時間毎に異なる方向からスクリーンに投射した場合、人間の目で分解不可能な時間の間にコヒーレント光の入射方向が変化した回数だけ、モードが存在することになる。そして、このモードが多数存在する場合には、光の干渉パターンが無相関に重ねられて平均化され、結果として、観察者の目によって観察されるスペックルが目立たなくなるものと考えられている。
【0073】
上述した照射装置60は、コヒーレント光がホログラム記録媒体55上を走査するように、光学素子50にコヒーレント光を照射する。また、照射装置60からホログラム記録媒体55内の任意の位置に入射したコヒーレント光は、被照明領域LZの全域を照明するが、当該被照明領域LZを照明するコヒーレント光の照明方向は互いに異なる。そして、コヒーレント光が入射するホログラム記録媒体55上の位置が経時的に変化するため、被照明領域LZへのコヒーレント光の入射方向も経時的に変化する。
【0074】
上述したように、本実施形態では、コヒーレント光は、ホログラム記録媒体55上を連続的に走査する。これに伴って、照射装置60から光学素子50を介して被照明領域LZに入射されるコヒーレント光の入射方向も連続的に変化する。ここで、光学素子50から被照明領域LZへのコヒーレント光の入射方向が僅か(例えば0.数°)だけ変化すれば、被照明領域LZ上に生じるスペックルのパターンも大きく変化し、無相関なスペックルパターンが重畳されることになる。加えて、実際に市販されているMEMSミラーやポリゴンミラー等の走査デバイス65の周波数は通常数百Hz以上であり、数万Hzにも達する走査デバイス65も珍しくない。
【0075】
以上のことから、本実施形態によれば、被照明領域LZの各位置において時間的にコヒーレント光の入射方向が変化していき、且つ、この変化は、人間の目で分解不可能な速さである。したがって、仮に被照明領域LZにスクリーンを配置したとすると、各入射角度に対応して生成されたスペックルが重ねられ平均化されて観察者に観察されることから、スクリーンに表示されている映像を観察する観察者に対して、スペックルを極めて効果的に目立たなくさせることができる。本実施形態の場合は、被照明領域LZの位置に重ねて光変調器30を配置し、この光変調器30からリレー光学系70を介して拡散スクリーン15に投射しているが、この場合も同様であり、拡散スクリーン15上で発生するスペックルが重ねられて平均化されるため、拡散スクリーン15上で発生するスペックルは目立たなくなる。
【0076】
上述したように、本発明の実施形態では、走査デバイス65を用いて、コヒーレント光をホログラム記録媒体55上で走査させ、ホログラム記録媒体55で回折されたコヒーレント光を被照明領域LZの全域に入射させるという、きわめて簡易な構成で、照明装置40を実現できる。
【0077】
(本実施形態のその他の特徴)
前掲の非特許文献1には、スクリーン上に生じたスペックルの程度を示すパラメータとして、スペックルコントラスト(単位%)という数値を用いる方法が提案されている。このスペックルコントラストは、本来は均一の輝度分布をとるべきテストパターン映像を表示した際に、スクリーン上に実際に生じる輝度のばらつきの標準偏差を、輝度の平均値で除した値として定義される量である。このスペックルコントラストの値が大きければ大きいほど、スクリーン上のスペックル発生程度が大きいことを意味し、観察者に対して、斑点状の輝度ムラ模様がより顕著に提示されていることを示す。
【0078】
加えて、上述してきた本実施形態によれば、次の利点を享受することもできる。
【0079】
上述してきた本実施形態によれば、スペックルを目立たなくさせるための光学素子50が、照射装置60から照射されるコヒーレント光のビーム形態を整形および調整するための光学部材としても機能し得る。したがって、光学系を小型且つ簡易化することができる。
【0080】
また、上述してきた本実施形態によれば、ホログラム記録媒体55の特定位置に入射するコヒーレント光が、被照明領域LZ内の全域に各色で散乱板6の像5を生成する。このため、ホログラム記録媒体55で回折された光をすべて照明用に利用することが可能となり、レーザ光源61からの光の利用効率の面においても優れる。
【0081】
(0次光の回避)
照射装置60からのコヒーレント光の一部は、ホログラム記録媒体55で回折されることなく当該ホログラム記録媒体55を透過する。このような光は0次光と呼ばれる。0次光が被照明領域LZに入射してしまうと、周囲と比較して明るさ(輝度)が急激に上昇する点状領域、線状領域、面状領域等の異常領域が被照明領域LZ内に発生してしまう。
【0082】
反射型のホログラム記録媒体55(以下、反射型ホロ)を用いる場合は、0次光が進行する方向には被照明領域LZは配置されないため、0次光を比較的容易に回避できるが、透過型のホログラム記録媒体55(以下、透過型ホロ)を用いる場合は、0次光を回避する構成は取りづらい。したがって、透過型ホロの場合は、回折効率を極力高くし、0次光の影響をできるだけ抑えるようにするのが望まれる。
【0083】
また、0次光を回避するだけでなく、走査デバイス65からホログラム記録媒体55に入射されて、ホログラム記録媒体55にて正反射されるコヒーレント光が進行する方向には、被照明領域LZを配置しないのが望ましい。すなわち、正反射光も回避するのが望ましい。
【0084】
以上をまとめると、ホログラム記録媒体55の各位置に入射されたコヒーレント光のうち0次光の光路と、ホログラム記録媒体55の各位置に入射されて正反射されたコヒーレント光の光路とが、被照明領域LZからずれるように、走査デバイス65とホログラム記録媒体55を配置するのが望ましい。このような配置を取る場合は、仮に外部からの紫外線光がハーフミラー81を透過して、本来の投射光路とは逆方向に進行したとしても、この紫外線光はホログラム記録媒体55と走査デバイス65には照射されなくなるため、上述したように、投射装置20内に紫外線光を吸収可能な部材等を設ける必要がなくなる。
【0085】
(反射型と透過型のホログラム記録媒体55)
反射型ホロは、透過型ホロに比べて、波長選択性が高い。すなわち、反射型ホロは、異なる波長に対応した干渉縞を積層させても、所望の層のみで所望の波長のコヒーレント光を回折させることができる。また、0次光の影響を除去しやすい点でも、反射型ホロは優れている。
【0086】
一方、透過型ホロは、回折可能なスペクトルが広く、レーザ光源61の許容度が広いが、異なる波長に対応した干渉縞を積層させると、所望の層以外の層でも所望の波長のコヒーレント光が回折されてしまう。よって、一般には、透過型ホロは、積層構造にするのが困難である。
【0087】
(照射装置60)
上述した形態では、照射装置60が、レーザ光源61と走査デバイス65とを有する例を説明した。走査デバイス65は、コヒーレント光の進行方向を反射によって変化させる一軸回動型のミラーデバイス66からなる例を示したが、これに限られない。走査デバイス65は、図5に示すように、ミラーデバイス66のミラー(反射面66a)が、第1の回動軸線RA1だけでなく、第1の回動軸線RA1と交差する第2の回動軸線RA2を中心としても回動可能となっていてもよい。図5に示された例では、ミラー66aの第2の回動軸線RA2は、ホログラム記録媒体55の板面上に定義されたXY座標系のY軸と平行に延びる第1回動軸線RA1と、直交している。そして、ミラー66aが、第1軸線RA1および第2軸線RA2の両方を中心として回動可能なため、照射装置60からのコヒーレント光の光学素子50への入射点IPは、ホログラム記録媒体55の板面上で二次元方向に移動可能となる。このため、一例として図5に示されているように、コヒーレント光の光学素子50への入射点IPが円周上を移動するようにすることもできる。
【0088】
また、走査デバイス65が、二以上のミラーデバイス66を含んでいてもよい。この場合、ミラーデバイス66のミラー66aが、単一の軸線を中心としてのみ回動可能であっても、照射装置60からのコヒーレント光の光学素子50への入射点IPを、ホログラム記録媒体55の板面上で二次元方向に移動させることができる。
【0089】
なお、走査デバイス65に含まれるミラーデバイス66aの具体例としては、MEMSミラー、ポリゴンミラー、ガルバノスキャナ等を挙げることができる。
【0090】
また、走査デバイス65は、反射によってコヒーレント光の進行方向を変化させる反射デバイス、すなわち、本実施形態において、一例として、上述してきたミラーデバイス66以外のデバイスを含んで構成されていてもよい。例えば、走査デバイス65が、屈折プリズムやレンズ等を含んでいていてもよい。
【0091】
そもそも、走査デバイス65は必須ではなく、照射装置60の光源61が、光学素子50に対して移動、揺動、回転等により変位可能に構成され、光源61の光学素子50に対する変位によって、光源61から照射されたコヒーレント光がホログラム記録媒体55上を走査するようにしてもよい。
【0092】
さらに、照射装置60の光源61が、線状光線として整形されたレーザ光を発振する前提で説明してきたが、これに限られない。とりわけ、上述した形態では、光学素子50の各位置に照射されたコヒーレント光は、光学素子50によって、被照明領域LZの全域に入射するようになる光束に整形される。したがって、照射装置60の光源61から光学素子50に照射されるコヒーレント光は精確に整形されていなくとも不都合は生じない。このため、光源61から発生されるコヒーレント光は、発散光であってもよい。また、光源61から発生されるコヒーレント光の断面形状は、円でなく、楕円等であってもよい。さらには、光源61から発生されるコヒーレント光の横モードがマルチモードであってもよい。
【0093】
なお、光源61が発散光束を発生させる場合、コヒーレント光は、光学素子50のホログラム記録媒体55に入射する際に、点ではなくある程度の面積を持った領域に入射することになる。この場合、ホログラム記録媒体55で回折されて被照明領域LZの各位置に入射する光は、角度を多重化されることになる。言い換えると、各瞬間において、被照明領域LZの各位置には、或る程度の角度範囲の方向からコヒーレント光が入射する。このような角度の多重化によって、スペックルをさらに効果的に目立たなくさせることができる。
【0094】
さらに、図1では、走査デバイス65で反射されたコヒーレント光を直接に光学素子50に入射させる例を示したが、走査デバイス65と光学素子50の間に集光レンズを設けて、この集光レンズでコヒーレント光を平行光束にして光学素子50に入射するようにしてもよい。このような例では、ホログラム記録媒体55を作製する際の露光工程において、参照光Lrとして、上述した収束光束に代えて、平行光束を用いることになる。このようなホログラム記録媒体55は、より簡単に作製および複製することができる。
【0095】
(光学素子50)
上述した形態において、光学素子50が、フォトポリマーを用いた反射型の体積型ホログラム55からなる例を示したが、これに限られない。また、光学素子50は、銀塩材料を含む感光媒体を利用して記録するタイプの体積型ホログラムを含んでもよい。さらに、光学素子50は、透過型の体積型ホログラム記録媒体55を含んでいてもよいし、レリーフ型(エンボス型)のホログラム記録媒体55を含んでいてもよい。
【0096】
ただし、レリーフ(エンボス)型ホログラムは、表面の凹凸構造によってホログラム干渉縞の記録が行われる。しかしながら、このレリーフ型ホログラムの場合、表面の凹凸構造による散乱が、光量ロスの原因となるほか、意図しない新たなスペックル生成要因となる可能性があり、この点において体積型ホログラムの方が好ましい。体積型ホログラムでは、媒体内部の屈折率変調パターン(屈折率分布)としてホログラム干渉縞の記録が行われるため、表面の凹凸構造による散乱による影響を受けることはない。
【0097】
もっとも、体積型ホログラムでも、銀塩材料を含む感光媒体を利用して記録するタイプのものは、銀塩粒子による散乱が光量ロスの原因となるほか、意図しない新たなスペックル生成要因となる可能性がある。この点において、ホログラム記録媒体55としては、フォトポリマーを用いた体積型ホログラムの方が好ましい。
【0098】
また、図2に示す記録工程では、いわゆるフレネルタイプのホログラム記録媒体55が作成されることになるが、レンズを用いた記録を行うことにより得られるフーリエ変換タイプのホログラム記録媒体55を作成してもかまわない。ただ、フーリエ変換タイプのホログラム記録媒体55を用いる場合には、像再生時にもレンズを使用してもよい。
【0099】
また、ホログラム記録媒体55に形成されるべき縞状パターン、例えば屈折率変調パターンや凹凸パターンは、現実の物体光Loおよび参照光Lrを用いることなく、予定した再生照明光Laの波長や入射方向、並びに、再生されるべき像の形状や位置等に基づき計算機を用いて設計されてもよい。このようにして得られたホログラム記録媒体55は、計算機合成ホログラムとも呼ばれる。また上述した変形例のように波長域の互いに異なる複数のコヒーレント光が照射装置60から照射される場合には、計算機合成ホログラムとしてのホログラム記録媒体55は、各波長域のコヒーレント光にそれぞれ対応して設けられた複数の領域に平面的に区分けされ、各波長域のコヒーレント光は対応する領域で回折されて像を再生するようにしてもよい。
【0100】
さらに、上述した形態において、光学素子50が、各位置に照射されたコヒーレント光を拡げて、当該拡げたコヒーレント光を用いて被照明領域LZの全域を照明するホログラム記録媒体55を有する例を示したが、これに限られない。光学素子50は、ホログラム記録媒体55に代えて、或いはホログラム記録媒体55に加えて、各位置に照射されたコヒーレント光の進行方向を変化させるとともに拡散させて、被照明領域LZの全域をコヒーレント光で照明する光学要素としてのレンズアレイを有するようにしてもよい。このような具体例として、拡散機能を付与された全反射型または屈折型フレネルレンズや、フライアイレンズ等を挙げることができる。このような照明装置40においても、照射装置60が、レンズアレイ上をコヒーレント光が走査するようにして、光学素子50にコヒーレント光を照射するようにし、且つ、照射装置60から光学素子50の各位置に入射したコヒーレント光が、レンズアレイによって進行方向を変化させられて被照明領域LZを照明するよう、照射装置60および光学素子50を構成しておくことにより、スペックルを効果的に目立たなくさせることができる。
【0101】
光学素子50は、ホログラム記録媒体55やレンズアレイの他に、拡散板で構成することも可能である。拡散板としては、オパールガラスやすりガラス等のガラス部材、あるいは樹脂拡散板などが考えられる。拡散板は、走査デバイス65で反射されたコヒーレント光を拡散させるため、ホログラム記録媒体55やレンズアレイを用いた場合と同様に、種々の方向から被照明領域LZを照明することができる。なお、本発明における光学素子における「拡散」とは、入射光を所定の方向に角度的に拡げて出射することを指し、回折光学素子やレンズアレイ等による拡散角が十分に制御された場合のみならず、オパールガラス等の散乱粒子により出射角を拡げる場合も含まれるものとする。
【0102】
(照明方法)
上述した形態において、照射装置60が光学素子50上でコヒーレント光を一次元方向に走査可能とするように構成され、且つ、光学素子50のホログラム記録媒体55またはレンズアレイが各位置に照射されたコヒーレント光を二次元方向に拡散するように構成され、これにより、照明装置40が二次元的な被照明領域LZを照明する例を示した。ただし、既に説明してきたように、このような例に限定されることはなく、例えば、照射装置60が光学素子50上でコヒーレント光を二次元方向に走査可能とするように構成され、且つ、光学素子50のホログラム記録媒体55またはレンズアレイが各位置に照射されたコヒーレント光を二次元方向に拡散するように構成され、これにより、図5に示したように、照明装置40が二次元的な被照明領域LZを照明してもよい。
【0103】
また、既に言及しているように、照射装置60が光学素子50上でコヒーレント光を一次元方向に走査可能とするように構成され、且つ、光学素子50のホログラム記録媒体55またはレンズアレイが各位置に照射されたコヒーレント光を一次元方向に拡散するように構成され、これにより、照明装置40が一次元的な被照明領域LZを照明するようにしてもよい。この態様において、照射装置60によるコヒーレント光の走査方向と、光学素子50のホログラム記録媒体55またはレンズアレイの拡散方向(拡げる方向)と、が平行となるようにしてもよい。
【0104】
さらに、照射装置60が光学素子50上でコヒーレント光を一次元方向または二次元方向に走査可能とするように構成され、且つ、光学素子50のホログラム記録媒体55またはレンズアレイが各位置に照射されたコヒーレント光を一次元方向に拡散するように構成されていてもよい。この態様において、光学素子50が複数のホログラム記録媒体55またはレンズアレイを有し、各ホログラム記録媒体55またはレンズアレイに対応した被照明領域LZを順に照明していくことによって、照明装置40が二次元的な領域を照明するようにしてもよい。この際、各被照明領域LZが、人間の目では同時に照明されているかのような速度で、順に照明されていってもよいし、あるいは、人間の目でも順番に照明していると認識できるような遅い速度で、順に照明されていってもよい。
【0105】
なお、本明細書では、光学素子50と、照射装置60内の走査デバイス65と、紫外線吸収部材とを合わせたものを投射制御装置90と呼ぶ。
【0106】
本発明の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本発明の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0107】
15 拡散スクリーン、20 投射装置、30 空間光変調器、40 照明装置、50 光学素子、55 ホログラム記録媒体、58 ホログラム感光材料、60 照射装置、61 光源、65 走査デバイス、66 ミラーデバイス(反射デバイス)、66a ミラー(反射面)、67 集光レンズ、70 リレー光学系、80 拡大投射光学系、LZ 被照明領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コヒーレント光を拡散し得る光学素子と、
コヒーレント光が前記光学素子上を走査するように、前記光学素子に前記コヒーレント光を照射する照射装置と、
前記照射装置から前記光学素子の各位置に入射されて拡散されたコヒーレント光によって照明される光変調器と、
前記光変調器で生成される変調画像を拡散させる拡散面を有する拡散部材と、
前記拡散面で拡散された変調画像の虚像を形成するとともに、該虚像を観察者が視認可能とする拡大投射光学系と、を備え、
前記光学素子から前記拡散部材までの間に、前記拡大投射光学系を透過して前記コヒーレント光の光路を逆方向に進む紫外線光を吸収する部材を設け、
前記光学素子の各位置に入射されて拡散されたコヒーレント光は、前記光変調器を重ねて照明することを特徴とする投射装置。
【請求項2】
前記光変調器と前記拡散部材との間に配置され、前記光変調器で生成される変調画像を前記拡散面上に投射するリレー光学系を備え、
前記光学素子、前記光変調器、前記リレー光学系および前記拡散部材の少なくとも一つは、紫外線光を吸収することを特徴とする請求項1に記載の投射装置。
【請求項3】
前記リレー光学系は、紫外線光を吸収する材料で形成されたレンズを有することを特徴とする請求項2に記載の投射装置。
【請求項4】
前記リレー光学系は、紫外線光を吸収する膜でコーティングされたレンズを有することを特徴とする請求項2に記載の投射装置。
【請求項5】
前記リレー光学系は、前記光変調器で生成された変調画像のサイズを調整して前記拡散面上に投射することを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載の投射装置。
【請求項6】
前記拡散部材は、紫外線光を吸収する材料を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の投射装置。
【請求項7】
前記光学素子は、紫外線光を吸収するホログラム記録媒体であることを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載の投射装置。
【請求項8】
前記ホログラム記録媒体は、紫外線光を吸収する保護膜または粘着材を有することを特徴とする請求項7に記載の投射装置。
【請求項9】
前記ホログラム記録媒体の各位置に入射されたコヒーレント光のうちの0次光の光路と、前記ホログラム記録媒体の各位置に入射されて正反射されたコヒーレント光の光路とが、前記拡散面からずれるように、前記照射装置と前記光学素子とが配置されることを特徴とする請求項7または8に記載の投射装置。
【請求項10】
前記光学素子は、紫外線光を吸収する材料で形成された複数のレンズ、あるいは紫外線光を吸収する材料でコーティングされた複数のレンズを有するマイクロレンズアレイであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の投射装置。
【請求項11】
前記光学素子は、紫外線光を吸収する材料で形成された拡散板であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の投射装置。
【請求項12】
前記拡散板は、紫外線光を吸収するガラス部材または樹脂部材であることを特徴とする請求項11に記載の投射装置。
【請求項13】
前記拡大投射光学系は、前記拡散面で拡散された変調画像光の一部を反射させて変調画像の虚像を形成し、外光とともに観察者の方向に導光するハーフミラーを有することを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の投射装置。
【請求項14】
前記ハーフミラーは、車両のフロントガラスであることを特徴とする請求項13に記載の投射装置。
【請求項15】
前記拡大投射光学系は、凹面鏡、ホログラム記録媒体またはプリズムを有することを特徴とする請求項1乃至14のいずれかに記載の投射装置。
【請求項16】
前記光変調器は、紫外線光を吸収する紫外線吸収部材を有することを特徴とする請求項1乃至15のいずれかに記載の投射装置。
【請求項17】
前記紫外線吸収部材は、ガラスまたは樹脂からなる透明部材か、または偏光板であることを特徴とする請求項16に記載の投射装置。
【請求項18】
前記光変調器は、前記照射装置からのコヒーレント光を透過または反射させて変調画像を生成することを特徴とする請求項1乃至17のいずれかに記載の投射装置。
【請求項19】
前記光変調器は、マイクロミラーデバイス、または反射型あるいは透過型LCOS、または透過型の液晶パネルであることを特徴とする請求項1乃至18のいずれかに記載の投射装置。
【請求項20】
前記照射装置は、
コヒーレント光を放射する光源と、
前記光源から放射された前記コヒーレント光の進行方向を変化させて、該コヒーレント光を前記光学素子上で走査させる走査デバイスと、を有することを特徴とする請求項1乃至19のいずれかに記載の投射装置。
【請求項21】
(図1、リレー光学系70は構成要件に含めず)
コヒーレント光を拡散し得る光学素子と、
前記コヒーレント光の進行方向を変化させて、該コヒーレント光を前記光学素子上で走査させる走査デバイスと、
前記コヒーレント光の光路を逆方向に進む紫外線光を吸収する部材とを備え、
前記光学素子の各位置に入射されて拡散されたコヒーレント光は、被照明領域を重ねて照明することを特徴とする投射制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−233986(P2012−233986A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101339(P2011−101339)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】