説明

投影像特定方法及び放射線撮像装置

【課題】 被写体が球形状である透視画像において、残像が発生しても被写体の投影像を正確に特定できる投影像特定方法、及びそれを実現する放射線撮像装置を提供する。
【解決手段】 画像生成部3が生成する透視画像から、所定の閾値以上の輝度を有する高輝度領域を領域抽出部13が抽出する。この所定の閾値は、抽出される高輝度領域の径が計算領域の径と等しくなるように、閾値設定部15が設定する。高輝度領域の径と計算領域の径が等しいときは、高輝度領域は計算領域と一致するので被写体の投影像と特定することができる。よって、画像の輝度がバラつき、残像が発生する場合であっても、この影響を受けることなく球形状の被写体の投影像を特定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被写体が球形状である透視画像から被写体の投影像を特定する投影像特定方法及び放射線撮像装置に係り、特に、平面検出器により放射線を検出し、これに基づいて得られる透視画像に発生する残像の影響を回避する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の装置として、X線を用いたX線撮像装置がある。X線撮像装置は、平面検出器を備え、被写体に照射するX線を検出信号に変換する。この検出信号を取り出して透視画像を生成する。
【0003】
被写体としては人、物等のほかに、生成される透視画像を校正するため、または、透視画像に基づいて再構成処理を行う時に補正するデータを得るために、校正ファントムを撮影することがある。この校正ファントム内には高X線吸収材からなる球形状のマーカが配置されており、このマーカの投影像に基づいてX線管や平面検出器の位置情報等の校正データが得られる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような構成を有する従来例の場合には、次のような問題がある。
【0005】
すなわち、従来の装置により連続して(例えば、1秒間に30回、または60回)撮影を行うと、ある時点の撮影において照射されたX線の検出信号が、その後の時点の撮影において読み出されてしまうことがある。これは、平面検出器におけるX線から検出信号への変換特性や、平面検出器からの検出信号の読出し特性等によるものと考えられる。この結果、生成される画像上の輝度はバラつき、残像が発生する。このような画像から、被写体の投影像の幾何学的位置を正確に特定することは困難である。被写体が球形状の場合であっても、同様に画像から被写体の投影像を特定することが困難となる。
【0006】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、被写体が球形状である透視画像において、残像が発生しても被写体の投影像を正確に特定できる投影像特定方法、及びそれを実現する放射線撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
【0008】
すなわち、請求項1に記載の発明は、放射線照射手段から球形状の被写体に放射線を照射して、被写体を透過する放射線を放射線面検出手段により検出して得られた画像から、被写体の投影像を特定する投影像特定方法において、所定の閾値以上の輝度を有する画像の高輝度領域の径が、放射線照射手段と放射線面検出手段と被写体とに基づいて算出される、放射線面検出手段の検出面上に被写体が投影される計算領域の径と等しくなるように、前記所定の閾値を設定し、この設定される所定の閾値に応じた高輝度領域を被写体の投影像と特定することを特徴とするものである。
【0009】
[作用・効果]請求項1に記載の発明によれば、生成される画像において所定の閾値以上の輝度を有する画像の高輝度領域の径が、計算領域の径と比較し等しくなるように、閾値を設定する。被写体は球形状であるので、径が一致するときは高輝度領域と計算領域とが一致する。計算領域は放射線面検出手段の検出面上に被写体が投影される領域であるので、計算領域と一致する高輝度領域は被写体の投影像と特定することができる。したがって、輝度がバラついて残像が発生する画像であっても、残像の影響を受けることなく正確に被写体の投影像を特定できる。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、球形状の被写体に放射線を照射する放射線照射手段と、被写体を透過する放射線を検出信号として検出する放射線面検出手段と、を備え、検出信号に基づいて画像を生成する放射線撮像装置において、放射線照射手段と放射線面検出手段と被写体とに基づいて算出される、放射線面検出手段の検出面上に被写体が投影される計算領域の径と、生成される画像の輝度分布とに基づいて、画像から被写体の投影像を特定する投影像特定手段を備えることを特徴とするものである。
【0011】
[作用・効果]被写体が球形状であるので、その被写体の投影像も径によって規定される領域となる。請求項2に記載の発明によれば、投影像特定手段が、計算領域の径を用いて、画像の輝度分布に応じた種々の領域から、計算領域と一致する領域を決定することができる。計算領域は、放射線面検出手段の検出面上に被写体が投影される領域であるので、この計算領域と一致する、画像の輝度分布に応じた領域は、被写体の投影像であると特定できる。よって、画像の輝度がバラつき、残像が発生する場合であっても、この影響を受けることなく球形状の被写体の投影像を特定することができる。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の放射線撮影装置において、前記投影像特定手段は、画像から所定の閾値以上の輝度を有する高輝度領域を抽出する抽出手段と、抽出される高輝度領域の径が前記計算領域の径と等しくなるように、前記所定の閾値を設定する閾値設定手段と、を備え、設定された所定の閾値に応じた高輝度領域を被写体の投影像と特定することを特徴とするものである。
【0013】
[作用・効果]請求項3に記載の発明によれば、抽出される高輝度領域の径が計算領域の径と等しくなるように閾値設定手段が閾値を設定するので、この閾値によって抽出手段が抽出する高輝度領域を被写体の投影像と特定することができる。
【0014】
また、請求項4に記載の発明は、請求項2または請求項3に記載の放射線撮影装置において、前記検出信号に含まれる時間遅れ分を前記検出信号から除去して補正検出信号に補正する補正手段を備え、補正検出信号から画像を生成することを特徴とするものである。
【0015】
[作用・効果]請求項4に記載の発明によれば、補正手段によって検出信号に含まれる時間遅れ分を除去した補正検出信号から画像を生成するので、輝度のバラつきを抑え、画像に残像が発生することを防止することができる。よって、より正確かつ容易に球形状の被写体の投影像を画像から特定することができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明に係る投影像特定方法によれば、生成される画像において所定の閾値以上の輝度を有する画像の高輝度領域の径が、計算領域の径と比較し等しくなるように、閾値を設定する。被写体は球形状であるので、径が一致するときは高輝度領域と計算領域とが一致する。計算領域は放射線面検出手段の検出面上に被写体が投影される領域であるので、計算領域と一致する高輝度領域は被写体の投影像と特定することができる。したがって、輝度がバラついて残像が発生する画像であっても、残像の影響を受けることなく正確に被写体の投影像を特定できる。
【実施例1】
【0017】
この発明の第1実施例について図面を参照して説明する。図1は第1実施例に係るX線撮像装置の全体的な構成を示すブロック図である。なお、X線撮像装置は、本発明の放射線撮像装置に相当する。
【0018】
実施例のX線撮像装置は、図1に示すように、大きく撮像部1と画像生成部3と領域径算出部4と投影像特定部5とに分けられる。
【0019】
撮像部1は、被写体Mを載置する天板6を挟んで、X線を末広がり状に被写体Mに照射するX線管7と、被写体Mを透過したX線をその検出面8sで検出する平面(フラットパネル型)検出器8(以下において、便宜上「FPD8」と記載する)とがC字状アーム9に保持されて構成されている。X線管7とFPD8は、それぞれこの発明における放射線照射手段、放射線面検出手段に相当する。
【0020】
C字状アーム9は、天板6の長手方向を向いた水平方向の軸RAを中心に回転可能に保持部10に支持される。保持部10には図示省略の駆動制御部に接続され、駆動制御部に基づいて保持部10がC字状アーム9を回転させる。C字状アーム9の回転に伴い、X線管7及びFPD8もC字状アーム9と一体的に回転する。
【0021】
また、X線管7には図示省略のX線管制御部が接続され、X線管7はこのX線管制御部に基づいてX線を照射する。図1では、照射されるX線を符号XAを付した点線で示す。
【0022】
画像生成部3には、X線の照射によりFPD8が検出する検出信号が送られる。画像生成部3ではこの検出信号に基づいて透視画像を生成する。
【0023】
領域径算出部4には、撮影時のX線管7とFPD8の位置情報が駆動制御部から送られる。また、天板6上に載置される被写体Mの位置情報及び被写体Mの大きさは予めわかっており、図示省略の入力部等から領域径算出部4に与えられる。領域径算出部4では、これらX線管7とFPD8と被写体Mとに関する情報に基づいて、検出面8s上に被写体Mが投影される領域(以下、「計算領域」と区別して呼ぶ)の径を演算処理により算出する。なお、検出面8s上に被写体Mが投影される領域を、図1に符号Apを付して模式的に示す。
【0024】
投影像特定部5は、画像生成部3で生成された透視画像の輝度分布と領域径算出部4で算出された計算領域の径とに基づいて、透視画像から被写体Mの投影像を特定する。投影像特定部5は、この発明における投影像特定手段に相当する。
【0025】
投影像特定部5は、領域抽出部13と閾値設定部15とに分けられる。領域抽出部13には、画像生成部3で生成された透視画像から、所定の閾値以上の輝度を有する高輝度領域を抽出する。本実施例では、所定の閾値により画像を二値化処理した画像(以下では、これを「二値化画像」と区別して呼ぶ)を生成することにより行う。なお、所定の閾値は閾値設定部15によって与えられる。領域抽出部13は、この発明における抽出手段に相当する。
【0026】
閾値設定部15には、領域抽出部13により抽出される高輝度領域の径が、領域径算出部4で算出される計算領域の径と等しくなるように所定の閾値を設定する。閾値設定部15は、この発明における閾値設定手段に相当する。
【0027】
実施例に係るX線撮像装置による撮影の動作を説明する。まず、図示省略の駆動制御部に基づいて保持部10がC字状アーム9を軸RAを中心に回転させる。これにより、X線管7及びFPD8はC字状アーム9と一体となって軸RAを中心に回転する。よって、X線管7とFPD8は、互いに対向した状態で、かつ、それらの間に被写体Mを挟んで回転する。
【0028】
X線管7は、X線制御部に基づき被写体Mに向けて末広がり状にX線を照射する。被写体Mを透過したX線は、FPD8の検出面8sに到達し、検出信号に変換される。X線管7の照射のタイミングごとに、変換された検出信号がFPD8から読み出され、画像生成部3に与えられる。画像生成部3は、この検出信号に基づき透視画像を生成する。
【0029】
なお、この透視画像を構成する画素は、FPD8の検出面8sにマトリクス状に配列される検出素子(図示省略)と対応関係にある。そして、画像上には、検出素子に検出されたX線に応じた輝度が画素単位で分布する。
【0030】
図2に示す透視画像は、球形状の被写体Mを複数回にわたり連続して撮影したときの透視画像の模式図である。図2(a)がある時点の撮影の透視画像とすると、図2(b)はその前の時点に撮影されたものであり、図2(c)はさらにその前の時点に撮影されたものである。各図には、透視画像に現れる被写体Mの投影像を実線で囲まれる領域として示している。さらに、図2(a)、図2(b)には、透視画像に発生した残像を点線と一点鎖線で囲まれる領域として示している。
【0031】
ここで、球形状の被写体Mとは、構成ファントム内に配置されるマーカ(鋼球)等が例示されが、これに限らず球形状であれば含まれる。そして、以下では、被写体Mが球形状の場合であって、その透視画像において被写体Mの投影される領域の方が背景に比べて輝度が高いものとして説明する。これは本実施例の特徴を説明するためであり、本実施例に示すX線撮像装置は球形状以外の被検体Mを撮影する用途にも当然用いられる。
【0032】
図3(a)は、図2(a)に示すような残像が発生している透視画像の輝度分布を模式的に示す図である。図3(a)において、被写体Mの投影像を実線で囲まれる領域Arで示している。また、透視画像に表れる残像を点線で囲まれる領域Aaと一点鎖線で囲まれる領域Abとで示している。図3(b)は図3(a)に示す透視画像において、点p1−点p8間の輝度値を模式的に示す図である。
【0033】
図3(a)を参照すると、図3(b)における点p1−点p8間で被写体Mが投影されている区間は、点p2から点p5までの間である。しかし、この区間に領域Aa、Abで示す残像が重畳されているので、点p2−点p3間と点p3−点p4間と点p4−点p5間とではそれぞれ輝度値が異なり、点P2−点P5間において輝度がバラついている。一方、区間p5−p7間も残像の影響を受けて一定の輝度を有している。よって、図3(a)に示す透視画像のみからでは、被写体Mの投影像の領域Arとそれ以外の領域(背景)との二つの領域に分けることができず、被写体Mの投影像の幾何学的位置を誤って認識するおそれがある。
【0034】
しかし、本願の特徴部分である投影像特定部5によれば、図3(a)に示すような画像から被写体Mの投影像を特定できる。かかる投影像特定部5の動作を図4のフローチャートに沿って説明する。
【0035】
なお、領域径算出部4は、X線管7とFPD8との位置情報、及び、天板6に載置される球形状の被写体Mの位置情報とその大きさとに基づいて、FPD8の検出面8s上に投影される計算領域の径を撮影ごとに求めているものとする。
【0036】
<ステップS1> 閾値を設定する
閾値設定部15は、領域抽出部13が透視画像の輝度に基づいて二値化するための閾値を設定する。このとき、高輝度領域の径が計算領域の径と等しくなるように前記所定の閾値を設定する。なお、高輝度領域の径は、後述するステップS3で求める。よって、最初に閾値を与えるときは高輝度領域の径が未知であるので、本実施例では所定の初期値を閾値として設定する。
【0037】
<ステップS2> 画像を二値化する
領域抽出部13が設定された閾値に基づいて透視画像を二値化する。すなわち、透視画像を構成する各画素の輝度が閾値以上であればその画素の輝度を最高輝度に変換され、また閾値未満であればその画素を最低輝度に変換する。
【0038】
<ステップS3> 高輝度領域の径を求める
閾値設定部15は、閾値以上の輝度を有する高輝度領域の径を求める。径は、高輝度領域を構成する画素単位で求める。
【0039】
ここで、高輝度領域の径は、高輝度領域の中心を特定してから求めてもよい。例えば、高輝度領域の周縁から複数の法線を延ばして、これらが交わる点(画素)を高輝度領域の中心と特定する。そして、この中心から領域の周縁までの径を求めるようにしてもよい。
【0040】
また、高輝度領域内の全点(画素)について、各点から領域の周縁までの水平及び垂直方向の距離をそれぞれ求め、得られた距離の大きさを比較して径を選択してもよい。
【0041】
<ステップS4> 高輝度領域の径が計算領域の径と等しいか?
さらに、閾値設定部15は、高輝度領域の径を計算領域の径と比較し、等しいか否かを判断する。
【0042】
等しくないと判断したときは、さらに高輝度領域の径が計算領域の径より大きいか、小さいかを判断する。そして、ステップS1に戻って同じ手順を繰り返す。
【0043】
他方、等しいと判断したときは、被写体Mの投影像は高輝度領域であると特定する。これにより、投影像特定部5の動作が終了する。ここで、「等しい」とは、完全に一致する必要はなく、投影像の幾何学的位置を特定するときに求められる精度に応じて、実質的に問題のない範囲にある場合であればよい。
【0044】
ここで、ステップS4において等しくないと判断したあとに、再びステップS1に戻って、高輝度領域の径が計算領域の径と等しくなるように前記所定の閾値を改めて設定する流れを、図3(b)を参照して具体的に説明する。
【0045】
まず、ステップS1において閾値をL3と設定した場合を考える。閾値L3に応じた高輝度領域は、領域Arと領域Aaとが重なっている部分となる。よって、高輝度領域は、領域Arの一部であり計算領域よりも小さい。したがって、ステップS4において、この高輝度領域の径は計算領域の径と等しくないと判断され、さらに高輝度領域の径は計算領域の径に比べて小さいと判断される。このとき、再びステップS1に戻り、L3に比べて小さい値に閾値を置き換えて設定する(例えば、L2等)。この値のとり方は、ステップ状に増減させてもよい。また、輝度のヒストグラムをもとに置き換える閾値を選択するようにしてもよい。このような手順を繰り返して、高輝度領域の径が計算領域の径と等しくなるようにすることができる。
【0046】
反対に、ステップS1において閾値をL1と設定した場合は、ステップS4において、高輝度領域の径は計算領域の径と等しくないと判断され、さらに高輝度領域の径は計算領域の径に比べて大きいと判断される。このときは、再びステップS1に戻って閾値をL1に比べて高い値に置き換えて設定すればよい。
【0047】
以上のように、被検体Mが球形状であるので、その投影像の領域は径によって規定することができる。したがって、高輝度領域の径が計算領域の径と一致することによって、高輝度領域は計算領域と一致すると判断できる。ここで、計算領域は、FPD8の検出面8s上に被写体Mが投影される領域であるので、高輝度領域は被写体Mの投影像と特定できる。したがって、画像生成部3により生成される画像の輝度がバラついて、画像に残像が発生していても、この影響を受けることなく正確に被写体Mの投影像を特定することができる。
【実施例2】
【0048】
この発明の第2実施例について図面を参照して説明する。図5は第2実施例に係るX線撮像装置の全体的な構成を示すブロック図である。なお、第1実施例と同じ構成については同符号をふすことで詳細な説明を省略する。
【0049】
図5に示すように、第2実施例のX線撮像装置は、第1実施例の構成に、新たに補正部21を備えている。
【0050】
補正部21には、X線の照射によりFPD8が検出する検出信号が送られる。補正部21ではこの検出信号に含まれる時間遅れ分を除去して補正検出信号に補正する。そして、補正した補正検出信号Xkを画像生成部3に送る。画像生成部3はこの補正検出信号Xkに基づいて透視画像を生成する。補正部21は、この発明における補正手段に相当する。
【0051】
図6は、FPD8の検出面8s上に配置される1個の検出素子に注目して、入射されるX線と変換される検出信号との関係を模式的に表した図である。図6(a)は検出素子に入射するX線の強度を示し、図6(b)は検出素子から読み出される検出信号を示している。また、図6(c)は図6(b)に示される検出信号から補正部21により補正された補正検出信号を示している。なお、図6(a)から図6(c)の横軸は時刻である。
【0052】
図6(a)は、連続撮影時に3回続けて被検体Mを透過したX線が検出素子に入射し、その後は被検体Mを透過したX線が検出素子に入射していないことを示している。なお、X線入射強度は、3回とも同じである。この検出素子は、ちょうど図3(a)の点p10における画素に対応するものと考えることができる。
【0053】
図6(b)は、3回分の撮影において、読み出される検出信号が徐々に大きくなっていることを表している。これは、検出信号に含まれる時間遅れ分によるものである。また、3回分の撮影のあとにも、検出信号が読み出されている。これも、検出信号に含まれる時間遅れ分によるものである。
【0054】
補正部21は、この時間遅れ分を除去するため次のような構成となっている。すなわち、各検出信号から時間遅れ分を除去する再帰的演算処理を式(1)から式(3)を利用して行う。
【0055】
k =Yk −Σn=1 N [αn ・〔1−exp(Tn ) 〕・exp(Tn )・Snk] …(1)
n =−Δt/τn …(2)
nk=Xk-1 +exp(Tn )・Sn(k-1) …(3)
但し, ΔtはFPD8から検出信号を読み出すサンプリング時間間隔、kはサンプリングした時系列内のk番目の時点を示す添字、Yk はk番目のサンプリング時点で取り出された検出信号、Xk はYk から時間遅れ分を除去した補正検出信号、Xk-1 は一時点前のXk 、Sn(k-1)は一時点前のSn 、exp は指数関数、Nはインパルス応答を構成する時定数が異なる指数関数の個数、nはインパルス応答を構成する指数関数の中の一つを示す添字、αn は指数関数nの強度、τn は指数関数nの減衰時定数である。
【0056】
つまり、式(1)の2項の『Σn=1 N [αn ・〔1−exp(Tn ) 〕・exp(Tn )・Snk]』が時間遅れ分に該当するので、時間遅れ分を除去した補正検出信号Xk が式(1)から式(3)という簡潔な漸化式によって速やかに求められる。
【0057】
図7は、補正部21が検出信号Ykから補正検出信号Xkに補正する流れを示すフローチャートである。
【0058】
<ステップQ1> k、X0、Sn0を全て初期値「0」にセットする
k=0とセットされて,式(1)のX0 =0,式(3)のSn0=0がX線照射前の初期値として全てセットされる。指数関数の数が3個(N=3)の場合は、S10,S20,S30が全て0にセットされることになる。
【0059】
<ステップQ2> kを「1」とセットし、検出信号Y1を与えて補正検出信号X1 を求める
式(1)、式(3)でk=1とセットされる。式(3)、つまりSn1=X0 +exp(Tn )・Sn0にしたがってS11,S21,S31が求められ、さらに求められたS11,S21,S31と検出信号Y1 が式(1)に代入されることで補正検出信号X1 が求められる。
【0060】
<ステップQ3> kを「k+1」に置き換えた上で、検出信号Ykを与えて補正検出信号Xkを求める
式(1)、式(3)でkを1だけ増加(k=k+1)した後、続いて式(3)に1時点前のXk-1 が代入されてS1k,S2k,S3kが求められ、さらに求められたS1k,S2k,S3kと検出信号Yk が式(1)に代入されることで補正検出信号Xk が求められる。
【0061】
<ステップQ4> 未処理の検出信号Ykがあるか?
未処理の検出信号Yk があれば、ステップQ3に戻り、未処理の検出信号Yk がなければ、次のステップQ5に進む。
【0062】
<ステップQ5> 撮影1回分の補正を終了
再帰的演算処理が終了し、撮影1回分(透視画像1枚分)の補正検出信号Xk が求められる。
【0063】
以上のように、補正部21は、FPD8からサンプリング時間間隔で取り出される各検出信号に含まれる時間遅れ分を単数または減衰時定数が異なる複数個の指数関数で構成されるインパルス応答によるものとして再帰的演算処理により検出信号から除去した補正検出信号を求める。よって、単独の指数関数で構成されるインパルス応答によるものとする場合に比べて、求められた補正検出信号Xkは時間遅れ分が十分に除去されたものとなる。
【0064】
この結果、画像生成部3は、輝度のバラツキが少なく、残像の少ない透視画像を生成することができる。よって、投影像特定部5は、より正確かつ容易に被写体Mの投影像を特定することができる。
【0065】
図6(c)は、このようにして求められた補正検出信号Xkを模式的に示している。
【0066】
この発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0067】
(1)上述した各実施例では、領域抽出部13は高輝度領域を抽出する構成であるが、画像生成部3において生成される画像において被写体Mの投影像が背景に比べて輝度が低くなる場合は、所定の閾値未満の低輝度領域を抽出する構成となる。
【0068】
(2)上述した各実施例の領域抽出部13は、いわゆる二値化処理を行うよう構成されているが、輝度分布に応じた領域の径を画像から求められれば、これに限られるものではない。たとえば、画像の輝度の変化により領域の周縁のみを抽出して、この周縁に囲まれる領域の径を求めるようにしてもよい。
【0069】
(3)上述した各実施例では、撮影の度に領域径算出部4が計算領域の径を求めるように構成していたが、投影像特定部5に計算領域の径を与えることができればかかる構成に限られない。たとえば、計算領域の径が予め確定できる場合はこれを記憶する記憶部を備えて、投影像特定部5が計算領域の径を読み出すように構成してもよい。
【0070】
(4)上述した各実施例において、FPD8で読み出される検出信号や、画像生成部3で生成される透視画像を記憶する手段を備える構成としてもよい。これにより、投影像を撮影時(リアルタイム)に特定するほか、撮影終了後にも特定できる。
【0071】
(5)上述した各実施例において、上記第1,第2実施例はX線撮影装置であったが、本発明はX線CT装置や、3次元再構成画像を作成する断層撮影装置のようにX線透視撮影装置以外のものにも適用できる。
【0072】
(6)上述した各実施例は、医用に限らず、非破壊検査機器などの工業用装置にも適用することができる。
【0073】
(7)上記第1、第2実施例は、放射線としてX線を用いる装置であったが、本発明はX線に限らずX線以外の放射線を用いる装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】第1実施例のX線撮像装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】球形状の被写体Mを撮影したときの透視画像を模式的に示す図である。
【図3】図3(a)は球形状の被写体Mを撮影したときの透視画像の輝度分布を模式的に示す図であり、図3(b)は図3(a)に示す透視画像において、点p1−点p8間の輝度値を模式的に示す図である。
【図4】被検体Mの投影像を画像から特定する処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】第2実施例のX線撮像装置の全体構成を示すブロック図である。
【図6】FPD8の検出面8s上にある検出素子について、入射するX線と読み出される検出信号と補正された補正検出信号との関係を模式的に示す図である。
【図7】検出信号から補正検出信号に補正する処理の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0075】
1 … 撮像部
3 … 画像生成部
4 … 領域径算出部
5 … 投影像特定部
7 … X線管
8 … 平面検出器(FPD)
8s … 検出面
13 … 領域抽出部
15 … 閾値設定部
M … 被検体



【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線照射手段から球形状の被写体に放射線を照射して、被写体を透過する放射線を放射線面検出手段により検出して得られた画像から、被写体の投影像を特定する投影像特定方法において、所定の閾値以上の輝度を有する画像の高輝度領域の径が、放射線照射手段と放射線面検出手段と被写体とに基づいて算出される、放射線面検出手段の検出面上に被写体が投影される計算領域の径と等しくなるように、前記所定の閾値を設定し、この設定される所定の閾値に応じた高輝度領域を被写体の投影像と特定することを特徴とする投影像特定方法。
【請求項2】
球形状の被写体に放射線を照射する放射線照射手段と、被写体を透過する放射線を検出信号として検出する放射線面検出手段と、を備え、検出信号に基づいて画像を生成する放射線撮像装置において、放射線照射手段と放射線面検出手段と被写体とに基づいて算出される、放射線面検出手段の検出面上に被写体が投影される計算領域の径と、生成される画像の輝度分布とに基づいて、画像から被写体の投影像を特定する投影像特定手段を備えることを特徴とする放射線撮像装置。
【請求項3】
請求項2に記載の放射線撮影装置において、前記投影像特定手段は、画像から所定の閾値以上の輝度を有する高輝度領域を抽出する抽出手段と、抽出される高輝度領域の径が前記計算領域の径と等しくなるように、前記所定の閾値を設定する閾値設定手段と、を備え、設定された所定の閾値に応じた高輝度領域を被写体の投影像と特定することを特徴とする放射線撮像装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の放射線撮影装置において、前記検出信号に含まれる時間遅れ分を前記検出信号から除去して補正検出信号に補正する補正手段を備え、補正検出信号から画像を生成することを特徴とする放射線撮像装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−442(P2006−442A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−180673(P2004−180673)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】