説明

投影画像補正システム及び補正情報生成プログラム

【課題】本発明は、観測者に知覚されにくいような色成分と輝度成分の変動を積極的に利用して、よりコントラストの高い画像を表示することを可能にする。
【解決手段】本発明は、原画像が入力され(ステップS1)、原画像がYxy値に変換されると(ステップS2)、物理的な輝度範囲の設定(ステップS11)、色閾値による輝度範囲の拡張(ステップS12)、輝度閾値による輝度範囲の拡張を行う(ステップS13)。ステップS2で得られた原画像の輝度Yを、ステップS13で求めた拡張輝度範囲[L``、H``]に収めるように調整して輝度変換(輝度写像)を行った後に(ステップS3)、投影すべき補正画像の生成を行う(ステップS4)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、投影面に画像を投影するプロジェクタに適用して好適な投影画像補正システム及び補正情報生成プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プロジェクタを利用する際には照明を落とした部屋に設置した専用スクリーンが用いられることがほとんどであった。しかしながら、プロジェクタの小型化、低価格化、高輝度変化などが進んだ結果、オフィスや居間の壁など、暗室内の専用スクリーンのように必ずしも理想的な特性を持つとは言えない場所への画像投影を実現する技術に注目が集まっている(非特許文献1、7参照)。
【0003】
このような場合、投影される面(投影面)が専用スクリーンのような均一かつ高い反射率を持つことは稀であり、また、環境光の色や明るさなどの影響もあり、投影されるべき元の画像と投影された結果の画像とが大きくずれてしまうという問題が生じる。
【0004】
このような問題に対して、プロジェクタへの入力(入力画像)とカメラを用いて観測される投影面上の出力(観測画像)との関係を予め求めておき、その関係に基づいて入力画像を補正してズレを軽減するような手法が提案されている(非特許文献4、3参照)。非特許文献4、3では、観測画像のR,G,B値は、入力画像のR,G,B値を線形変換したものに環境光成分を足し合わせたものとして表現されている。
【0005】
そして、この関係をもとに、投影したい画像(以下、原画像)のR,G,B値と観測画像のR,G,B値が一致するように、プロジェクタへの入力画像を補正するという処理が用いられている。これにより、投影面の反射率のバラツキが比較的小さく、環境光の影響も少ない場合には良好な結果が得られることが示されている。
【0006】
しかしながら、基本的にこれらの手法では、原画像の内容を考慮することなしに、プロジェクタへの入力画像の色と明るさの範囲を投影面上で観測可能な色や輝度の範囲に対応付けるという考え方に基づいている。ここで、明るさの範囲とは、例えば合計24ビットのR,G,B画像であれば、R,G,Bに8ビットずつが割り当てられるので、各バンド(R,G,B)で0〜255の256階調となる。
【0007】
そのため、投影面の一部の反射率が大きく異なる場合や環境光の影響が大きい場合には、その影響を避けることは観測画像の明るさや色の範囲を必要以上に制限することとなる。その結果、観測画像のコントラストが非常に低くなってしまうという欠点があった。
【0008】
例えば、投影面上の一部が低い反射率を持つとすると、この部分では観測画像を明るくすることができない。そして、観測画像の一部だけが暗くなってしまうのを避けるためには、画像全体の明るさを制限しなければならない。しかし、この場合には、高い反射率を持つ部分では明るい画像を実現することが可能であるにもかかわらず、観測画像全体を必要以上に暗くし、コントラストを下げなければならない。
【0009】
これに対して、本発明では、不均一な反射率を持つ投影面や環境光の影響のみならず、原画像の内容も考慮した上で、良好な画質が得られるような補正を実現する手法を提案する。非特許文献4、3による補正では、原画像の内容が考慮されなかったのに対し、本発明では、原画像の内容に基づいて補正の仕方を調整するコンテント依存型の補正となっている点が大きく異なる。
【0010】
また、本発明では、人間の視覚特性に基づき、入力画像を補正する際に、観測者にとって違和感を生じないズレを積極的に認めることにより、投影される画像のコントラストを可能な限り拡大することができる点が大きな特長となっている。
【0011】
これにより、本発明では、先に述べたように投影面の一部の反射率が低いような場合においても、その部分に投影する画像の明るさがもともと低いのであれば、画像全体を必要以上に暗くしてしまうことなく、良好なコントラストを持った観測画像を投影面上に映し出すことができる。
【0012】
これまでにも、プロジェクタの光学補正に人間の視覚特性を考慮するという試みが、非特許文献6と10によってほぼ同時に報告されている。しかしながら、非特許文献6に記載の手法は、タイル型に組み合わせた背面投影型のプロジェクタシステムのムラの低減を目的としたものであり、この手法では、原画像の内容は考慮されておらず、かつ、視覚特性に関するモデルとしても非常に簡略化されたもののみが利用されている。
【0013】
また、非特許文献10に記載の手法では、原画像の内容と人間の視覚特性を考慮して計算された閾値マップ(非特許文献8参照)に基づき、観測者にとって知覚されにくい誤差を積極的に用いて画像のコントラストを上げるというアルゴリズムが提案された。
【0014】
しかしながら、この手法は、カラー画像ではなく白黒濃淡画像のみを扱うことができ、環境光は存在しないという仮定にもとづいていた。また、画像の補正に関しても、提案手法のように画像の各部分毎に補正の仕方を変えるのではなく、画像全体の明るさを等しく調整するという比較的簡単な処理のみが用いられていた。
【0015】
また、カラー画像を投射するプロジェクタにおいて、壁等の投射面に色がある場合、正しい色再現するために、本来の投射面に投射する原色の混合量を、投射面の色情報を含めて原画像の色と同等の色を再現するような原色の混合量に変換することにより、色再現を行うプロジェクタの投射面色補正方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0016】
また、投影されている画像を見易くし、かつ簡易で安価な構成で投影するためのプロジェクタとして、投影面における光量または色の少なくとも一方を制御するプロジェクタが提案されている(特許文献2参照)。
【0017】
このプロジェクタにおいては、撮像装置で検出される光量情報または色情報の少なくとも一方が入力され、この入力情報に基づいて、光源から射出される投影光の光量または色の少なくとも一方が調整される。すなわち、入力された光量情報または色情報の少なくとも一方に基づいて、投影光の光量または色の少なくとも一方が、投影面における光量または色の少なくとも一方に対応するように制御されるのである。
【0018】
なお、非特許文献2,5,9,11は、本願発明に最も近い先行技術文献ではないが、本願発明の構成要件の一部に関連する技術文献であり、関連文献で引用している。
【特許文献1】特開2003−333611号公報
【特許文献2】特開2004−128575号公報
【非特許文献1】Oliver Bimber, Andreas Emmerling,andThomas Klemmer: Embedded Entertainment with Smart Projectors,IEEE computer, 38(1),pp.48-55, 2005.
【非特許文献2】Peter J.Burt and Edward H.Adelson: The LaplacianPyramid as a Compact Image Code.IEEE Transactions on Communications, 31(4), pp.532-540, 1983.
【非特許文献3】Kensaku Fujii,Michasel D.Grossberg,and Shree K.Nayar.: A projector-camera System with Real-Time Photometric Adaptation for Dynamic Environments. Proceedings of CVPR2005, pp. 814-821, 2005.
【非特許文献4】Michasel D.Grossberg,Harish Peri,Shree K.Nayar,and Peter N.Belhumeur: Makig One Object Look Like Another:ControllingAppearance Using a Projector-Camera System, Proceedings of CVPR2004, pp. 452-459, 2004.
【非特許文献5】Adrian line and Greg Welch: Ensuring Color Consistancy across Multiple cameras. Proceedings of CVPR2005, pp. 1268-1275, 2005.
【非特許文献6】Adati Majumder and Rick Stevens: Perceptual Photometric Seamlessness in Projection-Based Titled Diplays. ACM Transactions on Graphics, 24(1), pp.118-139, 2005.
【非特許文献7】Claudio Pinhanez.: The Everywhere Displays Projector:A Device to Create Ubiquitous Graphical Interfaces. Proceedings of Ubiquitous Computing (UbiComp) 2001, pp. 315-331, 2001.
【非特許文献8】Mahesh Ramasubramanian,Sumanta N.Pattaniak,and Donald P.Greenberg.: A Perceptually Based Physical Error Metric for Realistic Images Synthesis. Proceedings of ACM SIGGRAPH99, pp.73-82, 1999.
【非特許文献9】Maureen C.Stone: Color and Brightness Appeasrance Issues in Tiles Displays. IEEE computer Graphics & Applications, 21(5), pp.58-66, 2001.
【非特許文献10】Dong Wang,Imari Sato,TakahiroOkabe,and Yoichi Sato: Radiomentric Compensation in a Projector-Camera System Based on the Properties of Human Vision System. Proceedings of IEEE International Workshop on Projector-Camera System2005, 2005.
【非特許文献11】W.D.Wright: The Sensitivity of the Eye to Small Colour Differences. Proceedings of the Physical Society, 53(2), pp.93-112, 1941.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
これら特許文献1、2に記載の技術は、プロジェクタの投影面であるスクリーン全体の色に画像の背景色を合わせることにより、スクリーンの黄ばみ補正やピントボケの補正を行うのみである。従って、特許文献1、2に記載の技術では、投影面がカーテンや壁などの場合において、カーテンや壁に地模様や地色が含まれている場合には、対応することができないという不都合があった。
【0020】
実世界内のさまざまな場所にプロジェクタで画像を投影するとき、不均一な反射特性を持つ被投影面や環境光などの影響により、正しい色で表示可能な画像のコントラストが制限されてしまうという問題がある。
【0021】
これに対して、本発明では、観測者に知覚されにくいような色成分と輝度成分の変動を積極的に利用して、よりコントラストの高い画像を表示することを可能にする手法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明では、画素毎に、原画像の色成分が厳密に表示されうる輝度の範囲を求めた後、人間の視覚特性に関するモデルに基づいて、色成分と輝度成分が許容しうる誤差を計算するようにしている。
【0023】
本発明者は、上述したような各画素の輝度範囲、及び色成分と輝度成分の許容誤差を考慮し、かつ、原画像から観測画像への変換が隣接画素間で過度に変化しないようにして、さまざまな被投影面を用いた実験を行った。
【0024】
本発明は、投影面に画像を投影するプロジェクタで投影すべき画像を補正する投影画像補正システムにおいて、プロジェクタの入力に対する投影面の輝度の応答に基づいてプロジェクタへの入力と投影面の輝度の応答との光学的な調整を行う調整手段と、プロジェクタの入力である原画像を輝度信号及び色信号で表される色空間へ色変換をする色変換手段と、この色信号に対して、人間の視覚特性に基づいて観測者が知覚できない許容範囲まで色信号の色と輝度信号の輝度の範囲を拡張させて補正処理を行い、上記補正処理により得られる補正画像を上記プロジェクタの入力とする補正手段と、を備えたことを特徴としている。
【0025】
本発明の好ましい形態として、上記調整手段は、上記プロジェクタの入力に対するキャリブレーション面における輝度の応答で表される応答関数及び逆関数をプロジェクタ毎に求める第1の演算部と、上記プロジェクタの入力に上記応答関数の逆関数をかけた画素により構成されるプロジェクタ入力画像と、カラーカメラを用いて撮像された上記投影面の観測画像との関係を上記プロジェクタの応答関数、上記投影面の特性、上記投影面での環境光のそれぞれに対応して求める第2の演算部と、を備えている。
【0026】
また、更なる本発明の好ましい形態として、上記補正手段は、カラーカメラを用いて撮像された投影面の観測画像の各画素において、原画像の色信号を満たす物理的な輝度の範囲を設定する物理的輝度範囲設定部と、色信号に対する誤差の許容範囲を示す色閾値に基づき輝度範囲を仮想的に広げる色閾値輝度範囲拡張部と、輝度信号の輝度に対応する誤差の許容範囲を示す輝度閾値に基づき上記色閾値に基づいて拡張された輝度範囲をさらに広げる輝度閾値輝度範囲拡張部と、を備えている。
【0027】
また、上記補正手段は、輝度信号の輝度を輝度閾値に基づき拡張された輝度範囲に収まるように写像する輝度写像部と、上記輝度閾値に基づき拡張された輝度範囲に収められた変換後の輝度信号と色信号からプロジェクタの入力画像となる補正画像を生成する補正画像生成部とを備えている。
【0028】
ここで、上記補正画像生成部は、上記色信号と上記変換後の輝度信号とから、上記投影面の観測画像の各画素の値を求める観測画像画素値演算部と、上記プロジェクタ入力画像と上記投影面の観測画像との関係と上記プロジェクタの応答関数にもとづき、上記投影面の観測画像の各画素の値から、上記プロジェクタ入力画像を求めるプロジェクタ入力画像演算部と、を備えている。
【0029】
また、本発明の投影画像補正方法は、プロジェクタの入力に対する投影面の輝度の応答に基づいて、プロジェクタへの入力と投影面の輝度の応答との光学的な調整を行う調整ステップと、プロジェクタの入力である原画像を輝度信号及び色信号で表される色空間へ色変換をする色変換ステップと、この色信号に対して、人間の視覚特性に基づいて観測者が知覚できない許容範囲まで色信号の色と輝度信号の輝度の範囲を拡張させて補正処理を行い、上記補正処理により得られる補正画像を上記プロジェクタの入力とする補正ステップと、を含むことを特徴としている。
【0030】
この投影画像補正方法の好ましい形態として、上記調整ステップは、上記プロジェクタの入力に対するキャリブレーション面における輝度の応答で表される応答関数及び逆関数をプロジェクタ毎に求める第1の演算ステップと、上記プロジェクタの入力に上記応答関数の逆関数をかけた画素により構成されるプロジェクタ入力画像と、カラーカメラを用いて撮像された上記投影面の観測画像との関係を上記プロジェクタの応答関数、上記投影面の特性、上記投影面での環境光のそれぞれに対応して求める第2の演算ステップと、を含んでいる。
【0031】
また、本発明の投影画像補正方法の更なる好ましい形態においては、上記補正ステップは、カラーカメラを用いて撮像された投影面の観測画像の各画素において、原画像の色信号を満たす物理的な輝度の範囲を設定する物理的輝度範囲設定ステップと、上記色信号に対する誤差の許容範囲を示す色閾値に基づき輝度範囲を仮想的に広げる色閾値輝度範囲拡張ステップと、輝度信号の輝度に対応する誤差の許容範囲を示す輝度閾値に基づき上記色閾値に基づいて拡張された輝度範囲をさらに広げる輝度閾値輝度範囲拡張ステップと、を含んでいる。
【0032】
また、上記補正ステップは、輝度信号の輝度を輝度閾値に基づき拡張された輝度範囲に収まるように写像する輝度写像ステップと、輝度閾値に基づき拡張された輝度範囲に収められた変換後の輝度信号と色信号からプロジェクタの入力画像となる補正画像を生成する補正画像生成ステップとを含んでいる。
【0033】
ここで、上記補正画像生成ステップは、上記色信号と上記変換後の輝度信号とから、上記投影面の観測画像の各画素の値を求める観測画像画素値演算ステップと、上記プロジェクタ入力画像と上記投影面の観測画像との関係と上記プロジェクタの応答関数にもとづき、上記投影面の観測画像の各画素の値から、上記プロジェクタ入力画像を求めるプロジェクタ入力画像演算ステップと、を含んでいる。
【0034】
また、本発明は、投影面に画像を投影するプロジェクタで投影すべき画像を補正する処理を実行するためにコンピュータに設けられた投影画像補正プログラムであって、このコンピュータに対して、プロジェクタの入力に対する投影面の輝度の応答に基づいてプロジェクタへの入力と投影面の輝度の応答との光学的な調整を行う調整機能と、プロジェクタの入力である原画像を輝度信号及び色信号で表される色空間へ色変換をする色変換機能と、この色信号に対して、人間の視覚特性に基づいて観測者が知覚できない許容範囲まで色信号の色と輝度信号の輝度の範囲を拡張させて補正処理を行い、上記補正処理により得られる補正画像を上記プロジェクタの入力とする補正機能と、を実現させることを特徴としている。
【0035】
本発明の投影画像補正プログラムの好ましい形態としては、上記調整機能は、上記プロジェクタの入力に対するキャリブレーション面における輝度の応答で表される応答関数及び逆関数をプロジェクタ毎に求める第1の演算機能と、上記プロジェクタの入力に上記応答関数の逆関数をかけた画素により構成されるプロジェクタ入力画像と、カラーカメラを用いて撮像された上記投影面の観測画像との関係を上記プロジェクタの応答関数、上記投影面の特性、上記投影面での環境光のそれぞれに対応して求める第2の演算機能と、を含んでいる。
【0036】
また、本発明の投影画像補正プログラムで実現する上記補正機能は、カラーカメラを用いて撮像された投影面の観測画像の各画素において、原画像の色信号を満たす物理的な輝度の範囲を設定する物理的輝度範囲設定機能と、色信号に対する誤差の許容範囲を示す色閾値に基づき投影面の観測画像の各画素について、輝度範囲を仮想的に広げる色閾値輝度範囲拡張機能と、輝度信号の輝度に対応する誤差の許容範囲を示す輝度閾値に基づき上記色閾値に基づいて拡張された輝度範囲をさらに広げる輝度閾値輝度範囲拡張機能と、を含んでいる。
【0037】
また、上記補正機能は、原画像の輝度信号の輝度を輝度閾値に基づき拡張された投影面の観測画像の輝度範囲に収まるように写像する輝度写像機能と、輝度閾値に基づき拡張された輝度範囲に収められた変換後の輝度信号と色信号からプロジェクタの入力画像となる補正画像を生成する補正画像生成機能とを含んでいる。
【0038】
ここで、上記補正画像生成機能は、上記色信号と上記変換後の輝度信号とから、上記投影面の観測画像の各画素の値を求める観測画像画素値演算機能と、上記プロジェクタ入力画像と上記投影面の観測画像との関係と上記プロジェクタの応答関数にもとづき、上記投影面の観測画像の各画素の値から、上記プロジェクタ入力画像を求めるプロジェクタ入力画像演算機能と、を含んでいる。
【発明の効果】
【0039】
本発明により、投影面の反射特性の不均一性,環境光の影響を軽減し、観測者に知覚されにくいような色成分と輝度成分の変動を積極的に利用することで、よりコントラストの高い画像を投影面に表示することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明の実施形態を、適宜図面を参照しながら説明する。
[提案するプロジェクタカメラシステム]
本発明の実施形態では、人間の視覚特性に基づき、投影面の模様などの反射特性の不均一性、室内の蛍光灯などの環境光の影響、あるいはプロジェクタ出力の不均一性を補正して、知覚的に原画像に近い観測画像を投影面に実現することを目指している。
【0041】
また、本発明の実施形態では、静的な環境を想定し(環境光は一定)、投影面は完全拡散面であり、視覚方向による見え方の変化はないと仮定している。また、投影面から観測者への距離は既知とする。本発明の実施形態で使用するプロジェクタは、赤、緑、青の3原色で構成され、その出力は各画素独立で投影面において加色混合されると考える。
【0042】
ここで、プロジェクタを用いて、任意の面上に所望の色と明るさで入力画像を歪なく投影するためには、光学的補正だけではなく幾何学的補正が必要となる。カメラプロジェクタシステムの幾何キャリブレーションに関する研究はこれまで多く報告されているため、本発明の実施形態では投影面として平面のみを対象としている。したがって、特別な幾何学補正は考慮していない。以下では、入力画像と投影面においてカメラで観察される観測画像との関係式を導き、提案する光学補正手法を説明する。
【0043】
図1に示すように、本発明の実施形態による投影画像補正システムは、投影面3に画像を投影するプロジェクタ1と、プロジェクタ1で投影すべき画像を補正するコンピュータ5とを有して構成される。
【0044】
[キャリブレーション]
まず、補正処理の前提となるプロジェクタのキャリブレーションについて説明する。
プロジェクタのキャリブレーションは、使用するプロジェクタが変わる毎に行う処理である。
図1は、第1のキャリブレーション処理を示す図であり、コンピュータ5がプロジェクタ1の応答関数とその逆関数を求める様子を示している。
【0045】
プロジェクタ1のキャリブレーションには、幾何学的側面と光学的側面がある。幾何学的キャリブレーションについては、投影面であるキャリブレーション面(白いスクリーン)3が平面であると仮定して、プロジェクタ1からの投影2による画像平面とキャリブレーション面3に投影された画像平面との幾何的な変換を示すホモグラフィーを求めることにより行っている。以後、プロジェクタ1の画像平面と投影面(図2に番号12で示すカメラの画像平面)の対応は既知として説明を進める。
【0046】
光学的キャリブレーションには、図1に示す輝度の応答関数の推定と、図2に示す色空間の変換式の推定という二つの調整がある。プロジェクタ1の輝度の応答関数については、空間的に一様であることが知られている(非特許文献6参照)。そこで、コンピュータ5がプロジェクタ1への入力RGB13(i)を変化させたときに、キャリブレーション面3上の一点の輝度を、4で示すように測光計で計測する。
【0047】
これにより、コンピュータ5は、プロジェクタ1への入力RGB6に対するキャリブレーション面3上の輝度の応答関数及び逆関数を演算により得る(図1(7)参照)。なお、入力RGB6は、0〜1の範囲に正規化されていて、測光計による投影面で計測される輝度(図1の(4)参照)も、0〜1の範囲に正規化されている。この応答関数は図10に示すような特性を有するものである。
【0048】
[画像と投影面で観察される明るさの関係]
図2は、第2のキャリブレーション処理を示す図であり、コンピュータ5が投影画像と観測画像との明るさの関係を求める様子を示すものである。第2のキャリブレーション処理は、プロジェクタ、カメラ、環境光、投影面が変化する毎に行う処理である。
【0049】
コンピュータ5がプロジェクタ1への入力RGB値13(i)を変化させたときに、投影面11の観測画像(RGB値)を番号12で示すようにカメラにより撮像した観測画像に対して、コンピュータ5が以下の色変換をする。
【0050】
このとき、17で示すように、予めカラーチャートを投影面11として利用して、プロジェクタ1から白色を投影した際の輝度を測光計を用いて計測し(図1の(4)参照)、同時に番号12で示すカメラにより観測画像(RGB値)を撮像することによって、コンピュータ5が観測画像の色変換(RGBからXYZ)を求めている。なお、一度、コンピュータ5が上述した色変換を求めてしまえば、カメラが変わらない限り測光計は利用する必要はない。
【0051】
本発明の実施形態では、入力画像をデバイス依存のR,G,B値からYxy値(Yは輝度値、xyは色信号(クロミナンス:ある色と同輝度の参照色との差異))に変換した後に後述する光学補正を行っていく。一般に、プロジェクタ1の出力は入力に対して線形な値を示さないため、コンピュータ5は、図1に示すようにプロジェクタ1の入出力を示す応答関数を投影面の輝度計測に基づき求めておき、入力R,G,B値13(i)に応答関数の逆関数をかけた後のR,G,B値(以下、#iとする。)をプロジェクタ1への入力とする(図2(14)参照)。
【0052】
このとき、コンピュータ5は、先に求めた色変換を用いて(図2(17)参照)、カメラRGB値を投影面において観察されるXYZ値(XYZ色空間で定義される色)へ変換する。変換されたXYZ値はカメラで観察される明るさcに対応する(図2の(15)参照)。
【0053】
これにより、コンピュータ5は、プロジェクタ1への入力であるR,G,B値#iと、変換されたXYZ値であるカメラで観察される画像の明るさcとから、プロジェクタ入力と観測画像との関係を演算により求める。そして、さらに、コンピュータ5は、プロジェクタ入力R,G,B値#iを観測画像に変換するための色変換行列Mと環境光tを周知の技術を用いて推定する(図2の(16)参照)。
【0054】
非特許文献9では、3×3の変換行列を用いて、プロジェクタ入力となるR,G,B値と投影面において観察されるXYZ値(XYZ色空間で定義される色)との関係を定義している。また、非特許文献4では、同様の変換を用いて、入力画像の画素と投影面をカメラを用いて撮影した観測画像の画素との関係を導いている。ここで、環境光tの影響は、オフセットとして表現することができるため、プロジェクタ入力であるR,G,B値#iとカメラにより観察される画像の明るさであるcの関係は、数1式のように求められる。
【0055】
【数1】

この式において、cは投影面11の対応する画素のXYZ値、Mは3×3の色変換行列、tは環境光の影響を示している。
【0056】
本発明の実施形態では、予め準備された画像パターンをプロジェクタ1を用いて投影面11に投影し、その明るさをカメラで観察することにより、変換行列Mの9つの要素とtの3つの要素の併せて12の要素を求めている。さらにカメラにより観察される画像の明るさであるcに対応するYxy値は、標準的な色変換を用いて求めることができる。Yxy空間におけるYはXYZ値のYに対応し、xyはx=X/(X+Y+Z)、y=Y/(X+Y+Z)のように求められる。また、その逆変換は、X=x Y/y、Y =Y 、Z=(1−x−y)Y/yとなる。
【0057】
数式1で記述される色空間の変換は、投影面11のテクスチャや環境光の影響を受けるため、投影面11の各点で定義される。そのため、プロジェクタ1へ入力した色(RGB)とカメラで計測したときに得られる色(XYZ)の関係から、色空間の変換式を求めた。具体的には、変換式が12個のパラメータを含むこと、及び、1回の計測で3つの拘束が得られることから、4よりも十分に多い回数の計測を行って、最小二乗法によりパラメータを推定した。
【0058】
なお、カメラの色信号のキャリブレーション(RGB色空間からXYZ色空間)には、測光計を利用した。また、カラーチャートの色をカメラと測光計の両方で計測して、RGBからXYZの二次の写像を求めた(非特許文献5参照)。
【0059】
[光学補正の手順]
図3は、補正処理を示す図である。補正処理は、入力画像毎に行う処理である。
提案手法では、原画像が入力されると(ステップS1)、コンピュータ5は、原画像をYxy値に変換し(ステップS2)、以下の手順に基づき光学補正を行っていく。以下、色空間に変換された原画像を輝度Y、色信号e=(ex,ey)と表現する。ここで、コンピュータ5は、プロジェクタ投影により投影面において実現可能な最大輝度と最小輝度の平均を求め、この範囲内に原画像が収まるようにスケール調整を行うことで原画像の輝度Yを物理量で表現している。
【0060】
まず、コンピュータ5は、第1の機能として、物理的な輝度範囲の設定を行う(ステップS11)。具体的には、コンピュータ5は、観測画像の各画素において、原画像の色信号eを満たす輝度の範囲[L、H]を求める(図4参照)。図4において、原画像41に対して、42は最小輝度Lの画像、43は最大輝度Hの画像を示す。
【0061】
次に、コンピュータ5は、第2の機能として、色閾値による輝度範囲の拡張を行う(ステップS12)。具体的には、コンピュータ5は、色信号eに対する誤差の許容範囲(色閾値)に基づき、輝度範囲を[L、H] から[L`、H`]へ仮想的に広げる。
【0062】
さらに、コンピュータ5は、第3の機能として、輝度閾値による輝度範囲の拡張を行う(ステップS13)。具体的には、コンピュータ5は、輝度に対する誤差の許容範囲(輝度閾値)に基づき、上記で求めた輝度範囲[L`、H`]をさらに仮想的に広げる。色閾値及び輝度閾値により拡張された輝度範囲を[L``、H``]とする。ステップS11〜ステップS13までの処理は、画素単位で行われる処理である。
【0063】
そして、コンピュータ5は、第4の機能として、輝度変換(輝度写像)を行う(ステップS3)。具体的には、コンピュータ5は、ステップS2で得られた原画像の輝度Yを、ステップS13で求めた拡張輝度範囲 [L``、H``]に収めるように調整する。この際、コンピュータ5は、観測者にとって違和感が生じない程度に空間的に非一様な非線形写像を認めることにより、原画像のコントラストを保ちつつ限られた輝度範囲に収めていく。
【0064】
さらに、コンピュータ5は、第5の機能として、投影すべき補正画像の生成を行う(ステップS4)。具体的には、コンピュータ5は、ステップS3で写像された輝度Y’と色信号eに基づき,観測画像のXYZ値(数式1のc)を求め、式1の逆変換により光学補正を施した入力画像(補正画像)を求める。
【0065】
ステップS4の補正画像の生成処理は、以下の手順により実行される。第1の手順として、コンピュータ5は、色信号eとステップS3で写像された輝度Y`から、カメラで観察される明るさc(XYZ値)を求める(ステップS21)。第2の手順として、コンピュータ5は、数式1に、カメラで観察される明るさc(XYZ値)、色変換マトリックスM、環境光tを代入してプロジェクタ入力であるR,G,B値#iを求める(ステップS22)。第3の手順として、コンピュータ5は、プロジェクタの応答関数の逆関数によりプロジェクタ入力であるR,G,B値#iからプロジェクタ1に入力すべきR,G,B値(i)を求める(ステップS23)。
【0066】
最後に、プロジェクタ1にステップS4で生成された補正画像入力を行うことにより、投影面11に補正画像の投影2が行われるようになる。
以下、特徴となる各手順を詳しく説明する。
【0067】
[人間の視覚特性に基づく輝度範囲の拡張]
[物理的な輝度範囲の設定]
この説明は、図3のステップS11に対応するものである。
実空間内のさまざまな場所にプロジェクタで画像を投影する場合、投影面の不均一な反射特性や環境光の影響により、プロジェクタ投影による投影面で観察可能な色信号の領域(色領域)も限られてしまう。ここで、コンピュータ5は、観測画像の各画素に対して色領域を求める。そして、原画像の色信号が求めた色領域外となる場合には、色領域へのクリッピング処理を行い、色信号eを満たす輝度の範囲を求めていく。
【0068】
図5は、色信号のクリッピング及び色信号誤差の閾値を示す図であり、図5Aは原画像の色信号が求めた色領域外に存在する場合のクリッピング処理を示し、図5Bは原画像の色信号から求めた色信号の誤差の閾値を示す。
【0069】
数式1及びXYZからYxyへの色変換により、あるRGB値である#iが入力として与えられれば、コンピュータ5は、対応するXYZ値とYxy値を求めることができる。そこで、コンピュータ5は、彩度が最大となる入力RGB値、#i=(1,0,0),(0,1,0)、(0,0,1)それぞれに対して(()tは行列を示す)、対応するYxy値を求めることにより、xy空間において色領域を定義する3頂点(r,g,b)が求められる(図5A)。同様な手順により、コンピュータ5は、輝度が最小又は最大となる入力RGB値、#i=(0,0,0),(1,1,1)に対応する色信号(l,h)も求めておく。
【0070】
ここで、コンピュータ5は、原画像の色信号e=(ex,ey)が求めた色領域内に存在する場合はeを用いて、色領域外となる場合には色領域を形成する3辺のうちeからの距離が最小の点をeとして、この色信号を満たす輝度の範囲を求めていく(図5A)。
【0071】
[色信号e に対する最大輝度[L、H]の算出]
色信号eは、XYZ色空間ではベクトルd=(ex,ey,1−ex−ey)に対応する。すなわち、このベクトル上の点sd(sはベクトルdのスケールを表し0以上の値をとる)は、全て同じ色信号eを持つことになる。数式1より以下の数2式を得る。
【0072】
【数2】

ここで、#d=M−1d、#t=M−1tとすると、以下の数3式となる。
【0073】
【数3】

【0074】
図6は、XYZ及びRGB空間における出力領域を示す図であり、図6AはXYZ空間、図6BはRGB空間である。
以下では、RGB色空間での説明を通して、最大、最小輝度に対応するベクトル#dのスケール(S、S)を求めていく。RGB色空間において、全ての#iを含む領域は単位立方体を形成し、色信号eに対応し最小輝度を持つ点は、#iR=0、#iG=0、#iB=0、の面とベクトル#dとの交点となることが分かる(図6B)。この交点に対応するスケールSは、SR=#iR/#dR、SG=#iG/#dG、SB=#iB/#dBのように求められる。これらの点のうち、−#tからの距離が最も遠い点が色信号eを満たしかつ最小輝度に対応する値へのスケールを示す。すなわち、以下の数4式となる。
【0075】
【数4】

同様に、ベクトル上の点であり、最大輝度を持つ点のスケールは以下の数5式により求められる。
【0076】
【数5】

従って、d=Sd、d=Sdの2点を求め、それぞれに対応する輝度L及びHを求めることができる。
【0077】
[色信号における誤差の考慮]
この説明は、図3のステップS12に対応するものである。
人間の視覚特性に基づき、色信号に対する誤差の許容範囲(色閾値)を考慮することにより、輝度範囲[L、H]を仮想的に広げていく。まず、図5Bに示すように、xy色空間において、色信号l(最大輝度を導く色信号)と色信号h(最小輝度を導く色信号)の方向に、色信号eから色閾値距離分離れた点(eL`,eH`)を求める。
【0078】
言い換えれば、色信号eからの距離が閾値距離にあるeL`,eH`と色信号eとの色信号差をユーザは知覚することができない。上述した色信号eに対する最大輝度[L、H]の算出に基づいて、eL`を満たす最低輝度L`と、eH`を満たす最大輝度H`を求めることができる。
【0079】
ここで、eL`,eH`は、それぞれ色信号l、色信号hに色信号eより近づいているため、その輝度範囲[L`、H`]は輝度範囲[L、H]よりも広くなる。本実施の形態では、周知の知覚可能な色誤差のデータに基づいた色閾値の決定を行っている(非特許文献11参照)。
【0080】
[輝度における誤差の考慮]
この説明は、図3のステップS13に対応するものである。
図7は、輝度差の許容範囲の推定を示す図である。
輝度における誤差の許容範囲を考慮することにより、上記で求めた[L`、H`]の輝度範囲をさらに広げていく。本実施の形態では、周知の輝度閾値(非特許文献8参照)に基づき、人間が知覚しない輝度差の閾値Tを求めている。この輝度閾値は、以下の3要素により構成される。TVI(Threshold-versus-intensity function)72は、原画像71に対して、人間が知覚する最小輝度差を示し、対象点を中心として視野1度内の周辺領域の平均輝度により決定される。対象点が80cd/m以上の輝度を持つ場合、誤差の閾値は輝度に比例することが知られている。本実施の形態では、室内などの一般的な環境光下における光学補正を考えているため、この場合に相当するとしてTVI72を求めている。
【0081】
CSF(Contrast sensitivity function)73は、画像の各領域における空間周波数に基づき求められる誤差の許容範囲を示すものである。空間周波数の高い領域は許容範囲も高く認められるなど、周波数の各レベルに対応した許容誤差が定義される。具体的な計算手順では、各周波数バンドに対応するコントラスト値を周知のコントラストピラミッド手法(非特許文献2参照)に基づき求め、その値の重み付け和によりCSF73を求めている。
【0082】
ビジュアルマスキング(Visual Masking)は、CSF73と関係して、各周波数レベル同士の打ち消し効果などを示すものである。
これらの3要素のうち、ビジュアルマスキングは計算コストが非常に高いため、本実施の形態では、TVI72とCSF73の2つの値を掛け合わせた閾値rを求め、さらに相対的な輝度閾値T=(Y+r)/Yを求めている。ここで、Tは輝度Yに対して相対的な閾値(74)を示し、T=1.1は与えられた輝度Yに対して10%の輝度誤差を人間が知覚することができないことを示す。
人間が知覚する輝度差は輝度の対数に比例することが知られているため、Tに基づき拡張された輝度範囲は、以下の数6式により求められる。
【0083】
【数6】

【0084】
[光学補正のための原画像の変換]
光学補正の実現のためにプロジェクタへの入力として用いる画像を、原画像に対して、補正画像と呼ぶことにする。ここでは、輝度の変換を中心に、原画像から補正画像への変換について述べる。
【0085】
[輝度の変換]
この説明は、図3のステップS3に対応するものである。
図8は、輝度の変換の概念図である。
各画素について、原画像の輝度Yを、数式6で計算した輝度の範囲[L``、H``]に写像することで、補正画像を投影したときに観測される物理的な輝度Y`を求める。これは、原画像の輝度を、空間的に非一様な非線形写像で変換することに対応している。
【0086】
一般に、人間の知覚する明るさは物理的な明るさの対数に比例することから、Llg=LogL``、Hlg=LogH``、及びYlg=LogYとして、対数ドメインで説明する。なお、Ylgは、[0,1]に正規化されているものとする。ここで、原画像の輝度Yを、Ylg`=Ylg(Ylg−Ylg)+Ylgのようにして、画素毎に定義された下限Ylgと上限Ylgの間に線形に写像するものとする。つまり、輝度の変換の問題を、二つの境界である下限Ylgと上限Ylgを求める問題として定義する。
【0087】
これらの境界は、補正画像を投影したときに観測される画像のコントラストをより高くすると同時に、以下の二つの拘束条件を満たさなくてはならない。
第1に、ダイナミックレンジによる拘束がある。輝度Ylg`は、プロジェクタのダイナミックレンジ内に収まる必要がある。すなわち、Llg≦Ylg(Ylg−Ylg)+Ylg≦Hlgを満たさなくてはならない。
【0088】
第2に、境界の一様性による拘束がある。境界の輝度があたかも一様であるかのように知覚されるためには、二つの境界YlgとYlgの勾配は、人間の視覚特性に基づいて決める閾値δよりも小さくなければならない。
【0089】
後述する実験では、上記の要求を満たす二つの境界YlgとYlgを、周知の反復法により決定した。具体的には、Ylg=0の初期値を与えた後、拘束条件を満たすように、二つの境界YlgとYlgを交互に更新した。詳細な更新ルールについては、後で述べる。
【0090】
なお、本発明者は、数回の更新で値が収束することを確認している。このようにして二つの境界YlgとYlgが決まると、補正画像を投影したときに観測される輝度Ylg`は、以下の数7式のように与えられる。
【0091】
【数7】

【0092】
[ダイナミックレンジによる拘束]
まず、第一の拘束条件について、H、Y及び下限Ylgの初期値が与えられたときに、上限Ylgを更新することを考える。プロジェクタのダイナミックレンジによる拘束条件を満たすためには、例えば、Hlg=Ylg(Ylg−Ylg)+Ylgを満たすようにYlgを決定することが考えられる。しかしながら、このような更新は、コントラストの低い原画像を、過度にコントラストの高い画像に変換してしまう可能性がある。そこで、原画像のコントラストを過度に高くしすぎないために、パラメータε(0<ε≦1)を用いて、Ylgを以下の数8式のように更新する。
【0093】
【数8】

同様にして、Ylgの更新ルールを、以下の数9式のように求める。
【0094】
【数9】

【0095】
図9に示すように、パラメータεが小さくなればなるほど、原画像のコントラストを反映した低コントラストの結果が得られることが分かる。次節の実験では、ε=0.9とした。
【0096】
[境界の一様性による拘束]
次に、第二の拘束条件について、境界の更新をする(非特許文献6参照)。具体的には、数式8で得られた上限Ylgの値を、それ以下の値に置き換える。このとき、Ylg(=LogY)の勾配が閾値よりも小さくなるように、以下の数10式の条件下でYlgを更新する。
【0097】
【数10】

【0098】
下限Ylgについても同様に、数式9で得られた値を、それ以上の値に置き換える。
人間の視覚特性は、5 cycle per degreeの周波数において最も感度が高く、1%程度の輝度の差を知覚することができることが知られている。そのため、例えば、幅2mの平面に投影された1024×768画素の画像を、投影面から3m離れて観測するときには、δ=(180×5×0.01×2)/(π×3×1024)≒1/540となる。
【0099】
[補正画像への変換]
この説明は、図3のステップS4に対応するものである。
変換後の輝度Y`がL≦Y`≦Hを満たすとき、プロジェクタのダイナミックレンジ内で、原画像の色信号をそのまま再現することができる。一方、L≦Y`≦Hを満たさない場合には、輝度や色信号を正確に表現するのは困難であるため、表1に示すように輝度と色信号を定める。
【0100】
【表1】

【0101】
最後に、このようにして得られたXYZ色空間の画像に対して、プロジェクタの応答関数と数式1で記述される色空間の変換を考慮して、プロジェクタへの入力となるRGB色空間で表現された補正画像を求める。
【0102】
[実験結果]
図11に、光学補正の結果を示す。原画像112をそのまま投影した場合に、観測画像(補正なし)113には投影面111のテクスチャが見えているのに対して、補正画像による投影画像114を投影した場合には、観測画像(補正あり)115にはコントラストを低下させることなくテクスチャの影響を著しく軽減できているのが分かる。
【0103】
図12には、異なる投影面に対する他の光学補正の結果を示した。この場合も、観測画像(補正なし)122、124、枠内拡大画像126に見られる投影面121のテクスチャなどの影響を、観測画像(補正あり)123,124、枠内拡大画像127では軽減できているのを確認することができる。
【0104】
ただし、本明細書を読む環境と実験環境では、画像の大きさやシーンの明るさなどが異なるために、一般に、知覚される画像は異なることに注意が必要である。
なお、コンピュータのCPUとしてpentium4,3.2GHzを用いたときの典型的な計算時間は、1024×768画素の画像に対して、表2のとおりであった。
【0105】
【表2】

【0106】
最後に、ユーザ評価の結果を報告する。この評価では、本実施の形態の主題であり、かつ、上記のように計算コストも要する、色信号と輝度の閾値を導入することの効果を調べた。具体的には、10名の被験者に対して、(a)提案手法により得られる補正画像、及び(b)色信号と輝度の閾値をゼロにしたときに上述の手順で計算される補正画像の二種類の画像を、プロジェクタによりランダムな順番で提示した。被験者に、どちらの画像を好むか、及び、どちらの画像のコントラストが高いかという質問をした。なお、提示した画像は10組であり、合計100の回答を得た。
【0107】
その結果、被験者の好む画像は(a)94、(b)4、どちらともいえない2、コントラストの高い画像は(a)96、(b)4、どちらともいえない0であった。また、多くの被験者から、色信号と輝度の閾値を考慮した画像が、より鮮明かつ自然に見えるという感想を得た。これらの実験結果からも、プロジェクタの光学補正に関して、人間の視覚特性を考慮することが重要であることがわかる。
【0108】
環境光下で不均一な反射率を持つ面に画像を投影する場合、正しい色で投影可能な画像のコントラストが低下してしまうという問題がある。この問題に対し、本実施の形態では、人間の視覚特性に基づき、観測者がほとんど知覚できない形で色と輝度の誤差を積極的に用いることによって、よりコントラストの高い画像を再現可能とする手法を提案した。
【0109】
これまで報告されているプロジェクタの光学補正手法とは異なり、提案手法ではプロジェクタや投影面の光学特性のみならず、投影しようとする画像の内容に応じて可能な限り投影面で観察される画像の画質を向上させる工夫が用いられている点が大きな特長となっている。
【0110】
本実施の形態では、提案手法の詳細を紹介した上で、さまざまなパターンを持つ投影面への画像の投影に提案手法を適用した結果を詳述した。これらの実験結果から、提案手法を用いることにより環境光下で不均一な反射率を持つ面に投影する場合においても、コントラストの高い良好な画質を得ることができることを確認した。
【0111】
なお、今後の研究課題として、提案手法をさらに拡張するためにいくつかの方向を検討している。特に、本実施の形態では、静止画の投影を取り扱ったが、動画を投影する場合の光学補正に関しても適用可能であると想定される。
【0112】
その場合、静止画に知覚のみならず、動画の知覚に関する人間の視覚特性を考慮することにより、より積極的に画質を向上させることができると考えられる。また、本実施の形態の提案手法では、投影面と観測者との位置関係が既知であると仮定していたが、この条件を緩和した場合も適用可能であると想定される。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】第1のキャリブレーション処理を示す図であり、コンピュータ5がプロジェクタ1の応答関数とその逆関数を求める様子を示す図である。
【図2】第2のキャリブレーション処理を示す図であり、コンピュータ5が投影画像と観測画像との明るさの関係を求める様子を示すものである。
【図3】補正処理を示す図である。
【図4】原画像に対して、最小輝度画像、最大輝度画像を示す図である。
【図5】色信号のクリッピング及び色信号誤差の閾値を示す図であり、図5Aは原画像の色信号が求めた色領域外に存在する場合のクリッピング処理を示し、図5Bは原画像の色信号から求めた色信号の誤差の閾値を示す。
【図6】XYZ及びRGB空間における出力領域を示す図であり、図6AはXYZ空間、図6BはRGB空間である。
【図7】輝度差の許容範囲の推定を示す図である。
【図8】輝度の変換の概念図である。
【図9】コントラストの変換に対するパラメータεの効果を示す図である。
【図10】プロジェクタの応答関数を示す図である。
【図11】光学的補正の結果を示した図である。
【図12】他の光学的補正の結果を示した図であり、122,124は観測画像(補正無し)、123,125は観測画像(補正あり)を示している。
【符号の説明】
【0114】
1・・・プロジェクタ、2・・・投影、3・・・キャリブレーション面、4・・・測光計による投影面の輝度計測、5・・コンピュータ、6・・・入力RGB、7・・・応答関数とその逆関数を求める、11・・・投影面、12・・・カメラRGB(観測画像)、13・・・入力RGB(i)、14・・・応答関数により#iを求める、15・・・カメラRGB値をXYZ値へ変換、16・・・プロジェクタ入力と観測画像の関係を求める

【特許請求の範囲】
【請求項1】
投影面に画像を投影するプロジェクタで投影すべき画像を補正する投影画像補正システムであって、
上記プロジェクタの入力に対する上記投影面の輝度の応答に基づいて上記プロジェクタへの入力と上記投影面の輝度の応答との光学的な調整を行う調整手段と、
上記プロジェクタの入力である原画像を輝度信号及び色信号で表される色空間へ色変換をする色変換手段と、
上記色信号に対して、人間の視覚特性に基づいて観測者が知覚できない許容範囲まで上記色信号の色と上記輝度信号の輝度の範囲を拡張させて補正処理を行い、上記補正処理により得られる補正画像を上記プロジェクタの入力とする補正手段と、
を備えたことを特徴とする投影画像補正システム。
【請求項2】
上記調整手段は、
上記プロジェクタの入力に対するキャリブレーション面における輝度の応答で表される応答関数及び逆関数を上記プロジェクタ毎に求める第1の演算部と、
上記プロジェクタの入力に上記応答関数の逆関数をかけた画素により構成されるプロジェクタ入力画像と、カラーカメラを用いて撮像された上記投影面の観測画像との関係を上記プロジェクタの応答関数、上記投影面の特性、上記投影面での環境光のそれぞれに対応して求める第2の演算部と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の投影画像補正システム。
【請求項3】
上記補正手段は、カラーカメラを用いて撮像された上記投影面の観測画像の各画素において、原画像の色信号を満たす物理的な輝度の範囲を設定する物理的輝度範囲設定部と、
上記色信号に対する誤差の許容範囲を示す色閾値に基づき輝度範囲を仮想的に広げる色閾値輝度範囲拡張部と、
上記輝度信号の輝度に対応する誤差の許容範囲を示す輝度閾値に基づき上記色閾値に基づいて拡張された輝度範囲をさらに広げる輝度閾値輝度範囲拡張部と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の投影画像補正システム。
【請求項4】
上記補正手段は、
上記輝度信号の輝度を上記輝度閾値に基づき拡張された輝度範囲に収まるように写像する輝度写像部と、
上記輝度閾値に基づき拡張された輝度範囲に収められた変換後の輝度信号と上記色信号から上記プロジェクタの入力画像となる補正画像を生成する補正画像生成部と
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の投影画像補正システム。
【請求項5】
上記補正画像生成部は、
上記色信号と上記変換後の輝度信号とから、上記投影面の観測画像の各画素の値を求める観測画像画素値演算部と、
上記プロジェクタ入力画像と上記投影面の観測画像との関係と上記プロジェクタの応答関数にもとづき、上記投影面の観測画像の各画素の値から、上記プロジェクタ入力画像を求めるプロジェクタ入力画像演算部と、
を備えたことを特徴とする請求項4に記載の投影画像補正システム。
【請求項6】
投影面に画像を投影するプロジェクタで投影すべき画像を補正する処理を実行するためにコンピュータに設けられた投影画像補正プログラムであって、
上記コンピュータに対して、
上記プロジェクタの入力に対する上記投影面の輝度の応答に基づいて上記プロジェクタへの入力と上記投影面の輝度の応答との光学的な調整を行う調整機能と、
上記プロジェクタの入力である原画像を輝度信号及び色信号で表される色空間へ色変換をする色変換機能と、
上記色信号に対して、人間の視覚特性に基づいて観測者が知覚できない許容範囲まで上記色信号の色と上記輝度信号の輝度の範囲を拡張させて補正処理を行い、上記補正処理により得られる補正画像を上記プロジェクタの入力とする補正機能と、
を実現させることを特徴とする投影画像補正プログラム。
【請求項7】
上記調整機能は、
上記プロジェクタの入力に対するキャリブレーション面における輝度の応答で表される応答関数及び逆関数を上記プロジェクタ毎に求める第1の演算機能と、
上記プロジェクタの入力に上記応答関数の逆関数をかけた画素により構成されるプロジェクタ入力画像と、カラーカメラを用いて撮像された上記投影面の観測画像との関係を上記プロジェクタの応答関数、上記投影面の特性、上記投影面での環境光のそれぞれに対応して求める第2の演算機能と、
を含むことを特徴とする請求項6に記載の投影画像補正プログラム。
【請求項8】
上記補正機能は、カラーカメラを用いて撮像された上記投影面の観測画像の各画素において、原画像の色信号を満たす物理的な輝度の範囲を設定する物理的輝度範囲設定機能と、
上記色信号に対する誤差の許容範囲を示す色閾値に基づき輝度範囲を仮想的に広げる色閾値輝度範囲拡張機能と、
上記輝度信号の輝度に対応する誤差の許容範囲を示す輝度閾値に基づき上記色閾値に基づいて拡張された輝度範囲をさらに広げる輝度閾値輝度範囲拡張と、
を含むことを特徴とする請求項6に記載の投影画像補正プログラム。
【請求項9】
上記補正機能は、
上記輝度信号の輝度を上記輝度閾値に基づき拡張された輝度範囲に収まるように写像する輝度写像機能と、
上記輝度閾値に基づき拡張された輝度範囲に収められた変換後の輝度信号と上記色信号から上記プロジェクタの入力画像となる補正画像を生成する補正画像生成機能と
を含むことを特徴とする請求項6に記載の投影画像補正プログラム。
【請求項10】
上記補正画像生成機能は、
上記色信号と上記変換後の輝度信号とから、上記投影面の観測画像の各画素の値を求める観測画像画素値演算機能と、
上記プロジェクタ入力画像と上記投影面の観測画像との関係と上記プロジェクタの応答関数にもとづき、上記投影面の観測画像の各画素の値から、上記プロジェクタ入力画像を求めるプロジェクタ入力画像演算機能と、
を含むことを特徴とする請求の範囲9に記載の投影画像補正プログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図4】
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【図7】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−322671(P2007−322671A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−152012(P2006−152012)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PENTIUM
【出願人】(504202472)大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 (119)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】