説明

抗アポトーシスタンパク質の阻害剤

構造Aを有する化合物、ならびに少なくとも1つのBCL-2タンパク質ファミリーメンバーを阻害するためのこのような化合物の使用を記載する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の分野
本開示は全体として、種々の障害、疾患および病理学的状態を治療するために、より具体的には、癌または自己免疫疾患を治療するために使用されるヘテロ環式化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
背景情報
細胞におけるアポトーシスカスケードが細胞死をもたらすことは公知である。BCL-2ファミリータンパク質などの抗アポトーシスタンパク質が細胞によって過剰に産生される場合、制御不能の細胞増殖が結果として起こり得、種々の重篤な疾患、障害、および病状、特に癌の発症につながる可能性がある。
【0003】
従って、BCL-2ファミリータンパク質などの、抗アポトーシスタンパク質を阻害する必要性が存在する。種々の可能性のあるBCL-2アンタゴニストが、以前に同定されている。しかし、これらの化合物はいずれも、BCL-2ファミリー内の全ての6つのタンパク質、即ち、以下のタンパク質の全てを阻害しない:BCL-XL、BCL-2、BCL-W、BCL-B、BFL-1、およびMCL-1。例えば、以前同定された合成BCL-2アンタゴニストのいずれも、タンパク質BFL-1を阻害するという点では有効でなかった。従って、このようなアンタゴニストの効率は、望まれるほど高くはない。さらに、既存のアンタゴニストは、不十分または安全性の問題などの他の欠点を特徴とする。
【0004】
既存のBCL-2阻害剤の上記の欠点および欠陥を考慮して、BCL-2ファミリータンパク質などの抗アポトーシスタンパク質の新規のアンタゴニストが望まれる。このような新規のアンタゴニストは、既存の化合物よりも安全かつ有効であることが、望ましい。
【発明の概要】
【0005】
概要
本開示の一態様により、構造Aを有する化合物、(Z)-2-(5-(ビフェニル-4-イルメチレン)-2,4-ジオキソチアゾリジン-3-イル)酢酸、またはその薬学的に許容される塩、水和物、N-オキシドもしくは溶媒和物が提供される。

【0006】
本開示の別の態様により、癌または自己免疫疾患を治療するための方法であって、その必要がある被験体に、構造Aを有する化合物またはその薬学的に許容される塩、水和物、N-オキシドもしくは溶媒和物の治療有効量を投与する工程を含む方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】BCL-2ファミリーのタンパク質への本開示の化合物Aの予想される結合様式を示す。
【図2】細胞生存率データについてのグラフ表示である。
【図3】B6Bcl2脾臓の収縮に対する本開示の化合物Aの効果のグラフ表示である。
【図4】投与経路に依存する本開示の化合物Aの有効性のグラフ表示である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
詳細な説明
下記の用語、定義および略語が適用される。
【0009】
「患者」という用語は、本開示の方法によって治療される生物を指す。このような生物としては、ヒトが挙げられるが、これに限定されない。本開示の文脈において、「被験体」という用語は、下記に記載の治療(例えば、本開示の化合物、および任意で1つまたは複数のさらなる治療剤の投与)を受けるまたは受けた個体を一般的に指す。
【0010】
「BCL-2ファミリーのタンパク質」という用語は、少なくとも以下の6個のタンパク質:BCL-XL、BCL-2、BCL-W、BCL-B、BFL-1、およびMCL-1が現在含まれるタンパク質のファミリーを指す。
【0011】
本開示の一態様により、構造Aを有する化合物(化学名(Z)-2-(5-(ビフェニル-4-イルメチレン)-2,4-ジオキソチアゾリジン-3-イル)酢酸を有する)、またはその薬学的に許容される塩、水和物、N-オキシドもしくは溶媒和物が、種々の疾患、障害、および病状の治療について提供される。

【0012】
本開示の化合物は、本明細書に記載の有用な特性を有する、化合物Aの任意のラセミ、光学活性、多形もしくは立体異性形態、またはそれらの混合物を含む。必要に応じて、光学活性形態は、一般的に知られている技術を使用して、例えば、再結晶技術によるラセミ形態の分割によって、光学活性出発材料からの合成によって、キラル合成によって、またはキラル固定相を使用するクロマトグラフィー分離によって、作製され得る。
【0013】
一態様において、抗アポトーシスファミリーのタンパク質BCL-2の阻害のための方法が提供される。前記方法は、BCL-2タンパク質および本開示の化合物を接触させるに好都合である条件下で、BCL-2タンパク質と化合物Aとを接触させる工程を含む。特定の機構に拘束されることを望まないが、化合物Aは、BCL-2ファミリーの6つのタンパク質を阻害することができると考えられ、例えば、BCL-XL、BCL-2、BCL-W、BCL-B、BFL-1、およびMCL-1などのタンパク質の全てを阻害することができる。
【0014】
BCL-2タンパク質への本開示の化合物Aの予想される結合様式が図1によって示され、これは、結合が起こったという結論を支持しており、BCL-XLタンパク質中の結合部位を示している。
【0015】
ある関連化合物1、2、および3と比較して、化合物Aについての解離定数(Kd)値を測定することによって、阻害も評価した。このような阻害を表1に示す。化合物Aならびに化合物1、2、および3についての安定性データもまた、参考のために表1に提供する。
【0016】
(表1)化合物Aの選択された特性

【0017】
表1に示されるデータから分かるように、本開示の化合物Aは、関連化合物1、2、および3のいずれのそれよりも良好である阻害活性を有し、化合物1または化合物2のいずれかのそれよりも遥かに優れている。表1に提供される安定性データはまた、化合物Aが、化合物1、2、および3のそれに少なくとも匹敵する安定性を有するか、またはさらにより良好な安定性を有することも示している。
【0018】
細胞H460およびPC3MLについての阻害情報もまた図2によって示す。明らかに分かるように、化合物Aは、H460とPC3MLとの生存率の両方について、他の関連化合物1〜4と比較して、細胞生存率に対して最も大きな影響を有する。化合物1〜3の構造は上記の表1に示され、化合物4の構造は以下の通りである。

【0019】
他の態様により、疾患または障害を治療するための方法が提供される。前記方法は、このような治療の必要がある被験体に、上記の化合物またはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは溶媒和物の有効量を投与する工程を含み得る。治療され得る疾患または障害の非限定的な例は、癌および自己免疫疾患である。
【0020】
別の態様により、癌を治療するための方法が提供される。前記方法は、その必要がある被験体に、上記の化合物Aまたはその薬学的に許容される塩、水和物、N-オキシドもしくは溶媒和物の治療有効量を投与する工程を含む。化合物Aは、任意の種類の癌を治療するために使用され得る。ある局面において、治療され得る癌の種類としては、肺癌、乳癌、前立腺癌、ならびに種々のリンパ腫が挙げられる。
【0021】
化合物Aは、B6BCL-2トランスジェニックマウスにおいてインビボで試験され、公知の化合物であるゴシポールおよびアポゴシポールに等しいかまたはこれらよりも良好なインビボ活性を示した。同一のモデルにおいて、別の公知の化合物アポゴシポロンは有効ではなかった。ゴシポールは、例えば、米国特許第7,186,708号に記載されている。アポゴシポールは、例えば、Meyers A.I.; Willemsen J.J., Tetrahedron Letters, vol. 37, No.6, February, 51996, pp.791-792に記載されている。このマウスモデルにおけるインビボ効率に関しての化合物のインビボの効力は、以下の順序であった:化合物A>アポゴシポール=ゴシポール。
【0022】
別の態様により、化合物Aは、ヒトなどの哺乳動物における病理学的状態または症状の治療のための医薬の製造に使用され得る。医薬は、上記の限定内の、癌の治療に関し得る。
【0023】
別の態様により、薬学的組成物が提供され、薬学的組成物は、化合物A、またはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは溶媒和物、ならびに薬学的に許容される希釈剤または担体を含む。薬学的組成物は、癌を治療するために使用され得る。薬学的組成物は、以下のような剤を含むがこれらに限定されない、1つまたは複数のさらなる抗癌治療剤を任意でさらに含み得る:(1)アルカロイド、例えば、微小管阻害剤(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、およびビンデシンなど)、微小管安定剤(例えば、パクリタキセル[タキソール]、およびドセタキセル、タキソテールなど)、およびクロマチン機能阻害剤、例えば、トポイソメラーゼ阻害剤、例えば、エピポドフィロトキシン(例えば、エトポシド[VP-16]、およびテニポシド[VM-26]など)、およびトポイソメラーゼIを標的化する剤(例えば、カンプトテシンおよびイシリノテカン(Isirinotecan)[CPT-11]など);(2)共有結合性DNA結合剤[アルキル化剤]、例えば、ナイトロジェンマスタード(例えば、メクロレタミン、クロラムブシル、シクロホスファミド、イホスファミド、およびブスルファン[ミレラン]など)、ニトロソ尿素(例えば、カルムスチン、ロムスチン、およびセムスチンなど)、および他のアルキル化剤(例えば、ダカルバジン、ヒドロキシメチルメラミン、チオテパ、およびマイトシシン(Mitocycin)など);(3)非共有結合性DNA結合剤[抗腫瘍抗生物質]、例えば、核酸阻害剤(例えば、ダクチノマイシン[アクチノマイシンD]など)、アントラサイクリン(例えば、ダウノルビシン[ダウノマイシン、およびセルビジン(Cerubidine)]、ドキソルビシン[アドリアマイシン]、およびイダルビシン[イダマイシン]など)、アントラセンジオン(例えば、アントラサイクリンアナログ、例えば、[ミトザントロン]など)、ブレオマイシン(ブレノキサン)など、およびプリカマイシン(ミトラマイシン)など;(4)代謝拮抗物質、例えば、葉酸代謝拮抗物質(例えば、メトトレキサート、ホレックス(Folex)、およびメキセート(Mexate)など)、プリン代謝拮抗物質(例えば、6-メルカプトプリン[6-MP、プリントール]、6-チオグアニン[6-TG]、アザチオプリン、アシクロビル、ガンシクロビル、クロロデオキシアデノシン、2-クロロデオキシアデノシン[CdA]、および2'-デオキシコホルマイシン[ペントスタチン]など)、ピリミジンアンタゴニスト(例えば、フルオロピリミジン[例えば、5-フルオロウラシル(アドルシル)、5-フルオロデオキシウリジン(FdUrd)(フロクスウリジン)]など)、およびシトシンアラビノシド(例えば、シトサール[ara-C]およびフルダラビンなど);(5)酵素、例えば、L-アスパラギナーゼ、およびヒドロキシ尿素など;(6)ホルモン、例えば、グルココルチコイド、例えば、抗エストロゲン(例えば、タモキシフェンなど)、非ステロイド性抗アンドロゲン(例えば、フルタミドなど)、およびアロマターゼ阻害剤(例えば、アナストロゾール[アリミデックス]など);(7)白金化合物(例えば、シスプラチンおよびカルボプラチンなど);(8)抗癌剤、毒素、および/または放射性核種などと結合されたモノクローナル抗体;(9)生物学的応答調節物質(例えば、インターフェロン[例えば、IFN-αなど]およびインターロイキン[例えば、IL-2など]など);(10)養子免疫療法;(11)造血成長因子;(12)腫瘍細胞分化を誘導する剤(例えば、オールトランスレチノイン酸など);(13)遺伝子治療剤;(14)アンチセンス治療剤;(15)腫瘍ワクチン;(16)腫瘍転移に対する剤(例えば、バチミスタット(Batimistat)など);(17)血管新生の阻害剤、ならびに(18)選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)。
【0024】
使用され得る好適なSSRIの代表的であるが、非限定的な例としては、以下が挙げられる:セルトラリン(例えば、商標「ゾロフト(登録商標)」でPfizer, Inc.によって販売される、塩酸セルトラリン)またはセルトラリン代謝産物、フルボキサミン(例えば、商標「ルボックス(登録商標)」でSolvay Pharmaceuticals, Inc.によって販売される、マレイン酸フルボキサミン、パロキセチン(例えば、商標「パキシル(登録商標)」でSmithKline Beecham Pharmaceuticals, Inc.によって販売される、塩酸パロキセチン)、フルオキセチン(例えば、商標「プロザック(登録商標)」または「サラフェム(登録商標)」でEli Lilly and Companyによって販売される、塩酸フルオキセチン)およびシタロプラム(例えば、商標「セレクサ(登録商標)」でForest Laboratories, Parke-Davis, Inc.によって販売される、臭化水素酸シタロプラム)、およびそれらの代謝産物。さらなる例としては、以下が挙げられる:ベンラファキシン(例えば、商標「エフェクサー(登録商標)」でWyeth-Ayerst Laboratoriesによって販売される、塩酸ベンラファキシン)、ミルタザピン(例えば、商標「レメロン(登録商標)」でOrganon, Inc.によって販売される)、ブスピロン(例えば、商標「ブスパル(登録商標)」でBristol-Myers Squibbによって販売される、塩酸ブスピロン)、トラゾドン(例えば、商標「デシレル(登録商標)」でBristol-Myers SquibbおよびApotheconによって販売される、塩酸トラゾドン)、ネファザドン(nefazadone)(例えば、商標「セルゾン(登録商標)」でBristol-Myers Squibbによって販売される、塩酸ネファゾドン)、クロミプラミン(例えば、商標「アナフラニル(登録商標)」でNovopharm, LTD、Ciba、およびTaro Pharmaceuticalsによって販売される、塩酸クロミプラミン)、イミプラミン(例えば、商標「トフラニル(登録商標)」でGlaxo-Welcome, Inc.によって販売される、塩酸イミプラミン)、ノルトリプチリン(例えば、商標「ノルトリネル(Nortrinel)(登録商標)」でLundbeckによって販売される、塩酸ノルトリプチリン)、ミアンセリン(例えば、商標「トルボン(Tolvon)(登録商標)」でOrganon, Inc.によって販売される)、デュロキセチン(例えば、Eli Lilly and Companyによって販売される塩酸デュロキセチン)、ダポキセチン(例えば、ALZA Corporationによって販売される塩酸ダポキセチン)、リトキセチン(例えば、Synthelabo Recherche (L.E.R.S.), Bagneux, Franceによって販売される塩酸リトキセチン)、フェモキセチン、ロフェプラミン(例えば、商標「ガモニル(登録商標)」でMERCK & Co., Inc.によって販売される)、トモキセチン(例えば、Eli Lilly and Companyによって販売される)。本開示は、現在使用されているSSRI、または後で開発もしくは処方されるものを包含する。上記に列挙されるものを含む、SSRIは、一日当たり約2 mg〜約2,500 mgの量で経口投与され得る。
【0025】
広義では、任意の癌または腫瘍(例えば、血液学的腫瘍および固形腫瘍)が、本開示の態様により治療され得る。本開示の態様により治療され得る例示的な癌としては、頭頸部癌、脳腫瘍(例えば、多形性膠芽腫) 乳癌、結腸直腸癌、食道癌、胃癌、肝臓癌、膀胱癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、肺癌(非小細胞)、卵巣癌および他の婦人科癌(例えば、子宮および子宮頸部の腫瘍)、膵臓癌、前立腺癌、腎臓癌、絨毛癌(肺癌)、皮膚癌(例えば、メラノーマ、基底細胞癌)、ヘアリー細胞白血病、慢性リンパ性白血病、急性リンパ性白血病(胸部および膀胱)、急性骨髄性白血病、髄膜白血病、慢性骨髄性白血病、および赤白血病が挙げられるが、これらに限定されない。より一般的には、治療される癌としては、白血病およびB細胞癌(例えば、リンパ腫、多発性骨髄腫、およびMDS)が挙げられる。
【0026】
本明細書に提供される化合物の生物学的活性は、例えば、Alley, M.C., et. al. Feasibility of Drug Screening with Panels of Human Tumor Cell Lines Using a Microculture Tetrazolium Assay. Cancer Research 48: 589-601, 1988;Grever, M.R., et. al. The National Cancer Institute: Cancer Drug Discovery and Development Program. Seminars in Oncology, Vol. 19, No. 6, pp 622-638, 1992;Boyd, M.R., and Paull, K.D. Some Practical Considerations and Applications of the National Cancer Institute In Vitro Anticancer Drug Discovery Screen. Drug Development Research 34: 91-109, 1995;Shoemaker, R. H. The NCI60 Human Tumour Cell line Anticancer Drug Screen. Nature Reviews, 6: 813-823, 2006に記載されるものを含む、当技術分野において公知のインビトロおよびインビボアッセイおよび手順によって評価され得、これらの各々は、参照によりその全体が組み入れられる。
【0027】
上記の化合物Aおよび本開示の方法を使用して治療され得る自己免疫疾患の非限定的な例としては、関節リウマチ、乾癬性関節炎、若年性特発性関節炎、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、重症筋無力症、若年発症糖尿病、糸球体腎炎、自己免疫性甲状腺炎、ベーチェット病、クローン病、潰瘍性大腸炎、水疱性類天疱瘡、サルコイドーシス、乾癬、魚鱗癬、グレーブス眼症、乾癬、乾癬 炎症性腸疾患、および喘息が挙げられる。
【0028】
ある場合には、塩として本開示の化合物Aを投与することが、好適であり得る。薬学的に許容される塩の例としては、生理学的に許容されるアニオンを形成する酸と形成された有機酸付加塩、例えば、トシラート、メタンスルホン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、マロン酸塩、タルトレート、コハク酸塩、安息香酸塩、アスコビル酸塩、ケトグルタル酸塩、およびグリセロリン酸塩が挙げられる。塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、重炭酸塩、および炭酸塩を含む、好適な無機塩もまた形成され得る。薬学的に許容される塩は、当技術分野において周知の標準的な手順を使用して、例えば、生理学的に許容されるアニオンを与える好適な塩基と化合物Aとの反応によって、得られ得る。カルボン酸のアルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウムもしくはリチウム)またはアルカリ土類金属(例えば、カルシウム)塩もまた、作製され得る。
【0029】
化合物Aを含む任意の錠剤、トローチ剤、丸剤、カプセル剤などはまた、以下を含有し得る:結合剤、例えば、トラガカントゴム、アカシア、コーンスターチまたはゼラチン;賦形剤、例えば、リン酸二カルシウム;崩壊剤、例えば、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、アルギン酸など;滑沢剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム;および甘味剤、例えば、スクロース、フルクトース、ラクトースもしくはアスパルテーム、または矯味矯臭剤、例えば、ペパーミント、ウインターグリーン油、もしくはチェリー香味料が添加され得る。化合物Aの単位剤形がある場合、それは、上記のタイプの材料に加えて、液体担体、例えば、植物油またはポリエチレングリコールを含有し得る。種々の他の材料が、コーティングとして、またはそうでなければ固体単位剤形の物理的形態を改変するために、存在し得る。例えば、錠剤、丸剤、またはカプセル剤は、ゼラチン、ろう、セラックまたは糖などでコーティングされ得る。シロップ剤またはエリキシル剤は、活性化合物、甘味剤としてのスクロースまたはフルクトース、防腐剤としてのメチルおよびプロピルパラベン、色素およびチェリーまたはオレンジフレーバーのような香味料を含有し得る。単位剤形の作製において使用される材料は、薬学的に許容されるべきであり、使用される量においては実質的に非毒性であるべきである。さらに、化合物Aは、徐放性調製物およびデバイス中に組み入れられ得る。
【0030】
化合物Aはまた、注入または注射によって静脈内または腹腔内投与され得る。化合物Aの溶液は、水中において調製され得、任意で非毒性界面活性剤と混合され得る。分散液もまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、トリアセチンおよびそれらの混合物中においてならびに油中において調製され得る。保管および使用の通常の条件下で、これらの調製物は、微生物の増殖を防止するために防腐剤を含有し得る。
【0031】
滅菌注射溶液は、上記に列挙した種々の他の成分と共に、好適な溶媒に十分な治療量で化合物Aを混合し、必要に応じて、続いて濾過滅菌を行うことによって調製され得る。滅菌注射溶液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい作製方法は、真空乾燥法および凍結乾燥法であり、これらにより、前もって滅菌濾過された溶液中に存在する有効成分および任意のさらなる所望の成分の粉末が得られる。
【0032】
局所投与のために、化合物Aは、純粋な形態で、即ち、それが液体である場合に、適用され得る。しかし、固体または液体であり得る皮膚科学的に許容される担体と組み合わせられた、組成物または製剤として、それを皮膚に投与することが一般的に望ましい。有用な固体担体としては、微粉化固体、例えば、タルク、クレイ、微結晶性セルロース、シリカ、アルミナなどが挙げられる。有用な液体担体としては、水、アルコールもしくはグリコールまたは水−アルコール/グリコールブレンドが挙げられ、本化合物は、任意で非毒性界面活性剤の助けを借りて、有効なレベルで溶解または分散され得る。アジュバントおよびさらなる抗菌剤が、所定の用途のために特性を最適化するために添加され得る。
【0033】
得られた液体組成物は、吸収性パッドから適用され得るか、包帯および他の手当て用品を含浸するために使用され得るか、または、ポンプ型スプレーまたはエアロゾルスプレーを使用して患部上にスプレーされ得る。当業者に公知であるように、使用者の皮膚への直接適用のための、展延可能なペースト剤、ゲル、軟膏剤、石鹸などを形成するために、合成ポリマー、脂肪酸、脂肪酸塩およびエステル、脂肪アルコール、変性セルロースまたは変性鉱物材料のような増粘剤もまた、液体担体と共に使用され得る。
【実施例】
【0034】
本開示のいくつかの局面は、下記の非限定的な例によってさらに説明され得る。
【0035】
実施例1.タンパク質の発現および精製
N末端ポリHisタグに融合されたBIDのための全ヌクレオチド配列を含有するpET-19b(Novagen)プラスミド構築物から、組換え全長BCL-XLを作製した。1 mM IPTGを用いた3〜4時間の誘導時間で、37℃にてLB培地中の大腸菌BL21中において、非標識タンパク質を発現させた。0.5 g/L 15NH4Clが補われたM9培地において増殖させて、15N標識タンパク質を同様に作製した。細胞溶解後、可溶性タンパク質を、Hi-Trapキレートカラム(Amersham, Pharmacia)で精製し、続いて、MonoQ(Amersham, Pharmacia)カラムでイオン交換精製した。最終BID試料を、その後の実験に好適である緩衝液中へ透析した。
【0036】
実施例2.分子モデリング
分子モデリング研究を、ソフトウェアパッケージSybylバージョン6.9(TRIPOS)を用いていくつかのR12000 SGI Octaneワークステーションにおいて行った。化合物のドッキング構造がGoldによって最初に得えられた。化合物の分子モデルがMAXIMN2(Sybyl)でエネルギー最小化された。各分子について、20個の解が作製され、Goldscoreに従ってランク付けされた。BCL-xLの表面の深い疎水性の溝における連結された化合物の目視検査によって、解を最終的にランク付けした。表面表現はMOLCADによって作製した。
【0037】
実施例3.NMR分光法
全てのNMR実験のために、BCL-xLをpH 7.5の50 mMリン酸緩衝液へ交換し、30℃で測定を行った。BCL-xLについての2D [15N,1H]-HSQCスペクトルを、15N標識タンパク質の0.5 mM試料で測定した。TXIプローブまたはTCIクライオプローブもともに備えられた600 MHz Bruker Avance分光計を用いて、全ての実験を行った。全ての実験において、残留水シグナルのデフェージングを、WATERGATE配列により得た。Bcl-xLに結合する試験化合物の能力を試験するために、タンパク質の25μM試料を調製し、試験化合物の非存在下および存在下において1D 1H NMRスペクトルを収集した。スペクトルの脂肪族領域を観察することによって、Ile、Leu、Thr、ValまたはAlaの活性部位メチル基の化学シフト変化に起因して(0.8〜0.3 ppmの領域)、これらの簡単な実験において、結合が容易に検出され得る。
【0038】
実施例4.合成手順
化合物Aを以下の合成スキームに従って合成した。

【0039】
2-(2,4-ジオキソチアゾリジン-3-イル)酢酸(1)を、ジメチルホルムアミド(1 ml)中のビフェニル-4-カルボアルデヒド(2)(1:1 mmol比)の溶液に添加し、均一になるまで混合物を撹拌した。次いで、混合物を電子レンジ中に置き、それは、10分加熱(140℃、1,000 W)および25℃での5分冷却の4サイクルを受けた。次いで、水を溶液に添加し、沈殿物を形成させた。次いで、沈殿物を濾過によって回収し、アセトン/水から再結晶し、乾燥し、所望の化合物Aが得られた。
【0040】
収率58%;白色固体;1H NMR (600 MHz, DMSO-d6): δ 4.3 (s, 2H); 7.42 (m, 1H); 7.5 (d, 2H, J= 7.2 Hz); 7.76 (m, 4H); 7.87 (d, 2H, J= 7.8 Hz); 8.02 (s, 1H)。C18H13NO4Sについての計算値:C, 63.71; H, 3.86; N, 4.13; S, 9.45; 実測値:C, 62.54; H, 4.31; N, 4.12; S, 8.47。
【0041】
実施例5.インビボでの化合物Aの有効性
化合物Aを、経口胃管栄養によって3日間12 mmol/kgの一日用量でB6Bcl2マウスに与えた。ネガティブ対照として、ロダニン酢酸(これはBcl-xLに結合しない)を、同一の様式にて3日間12 mmol/kgの一日用量で与えた。化合物Aおよびネガティブ対照の両方を、前もってPBSに溶解した。3日後、動物の脾臓を除去し、計量した。
【0042】
並列実験において、化合物Aもまた60 mmol/kgで腹腔内投与し、同様に、上記の表1に示される化合物1および2のようなある関連化合物も腹腔内投与した。これらの実験において、24時間後、動物の脾臓を除去し、計量した。化合物Aは、化合物1または化合物2のいずれかよりも優れた効率を示し、図3から分かるように、化合物1または2によって誘導された収縮よりも約40%高い脾臓の収縮率を誘導した。
【0043】
腹腔内投与された化合物Aの効率の結果もまた、化合物Aが経口投与された場合に得られた結果と比較した。結果は、化合物Aは、いずれの投与タイプを用いた実験においても脾臓の収縮を誘発したことを示している。従って、化合物Aは、両方の方法で、経口的にまたは腹腔内に投与され得る。しかし、図4によって示されるように、腹腔内注射は、経口投与よりも約100%高い収縮率を誘導した。化合物Aが安全に投与され得ることも示された。選択した投与経路にかかわらず、身体検査によって体重減少または毒性徴候は存在しなかった。
【0044】
化合物Aの有効性もまた、IC50平均値を決定することによって、表1に示される化合物1と比較して評価し、これらは、化合物1およびAについて3つの独立した実験(各々、三通りで)のために測定した。全てのポイントを、細胞生存率のパーセンテージとして対照に対して標準化し、統計をGraphpad Prismソフトウエアで完成させた。標準偏差データも提供する表2において示される結果は、化合物Aの優れた有効性を示している。
【0045】
(表2)化合物Aについての阻害データ

【0046】
本発明を上記の実施例を参照して説明したが、改変および変形が、本発明の精神および範囲内に包含されることが理解される。従って、本発明は、下記の特許請求の範囲によってのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式A:

を有する化合物、またはその薬学的に許容される塩、水和物、N-オキシドもしくは溶媒和物。
【請求項2】
(Z)-2-(5-(ビフェニル-4-イルメチレン)-2,4-ジオキソチアゾリジン-3-イル)酢酸、またはその薬学的に許容される塩、水和物、N-オキシドもしくは溶媒和物。
【請求項3】
疾患または障害を治療するための方法であって、
治療を必要とする被験体に、請求項1もしくは2記載の化合物またはその薬学的に許容される塩、水和物、N-オキシドもしくは溶媒和物の治療有効量を投与し、それによって該疾患または障害を治療する工程
を含む、方法。
【請求項4】
前記疾患または障害が癌である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
癌が、肺癌、乳癌、前立腺癌、およびリンパ腫からなる群より選択される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記治療が、少なくとも1つのBCL-2ファミリータンパク質の活性の阻害を含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
抗癌剤と組み合わせて前記化合物を投与する工程を含む、請求項3記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つのBCL-2ファミリータンパク質発現レベルの上昇を有する被験体において癌または自己免疫疾患を治療する方法であって、
該被験体に、構造A:

を有する化合物またはその薬学的に許容される塩、水和物、N-オキシドもしくは溶媒和物の治療有効量を投与する工程
を含む、方法。
【請求項9】
構造Aを有する前記化合物、またはその薬学的に許容される塩、水和物、N-オキシドもしくは溶媒和物を用いる療法に対して前記被験体が応答性であるかどうかを判定する工程をさらに含む、方法であって、
該工程が、該被験体中の少なくとも1つのBCL-2ファミリータンパク質の前記レベルを測定すること、および正常対照試料と比較することを含み、
レベルの上昇が、構造Aを有する化合物、またはその薬学的に許容される塩、水和物、N-オキシドもしくは溶媒和物を用いる該療法に対して応答性である被験体の指標となる、
請求項8記載の方法。
【請求項10】
構造A:

を有する化合物、またはその薬学的に許容される塩、水和物、N-オキシドもしくは溶媒和物を用いる療法に対して被験体が応答性であるかどうかを判定する方法であって、
該方法が、該被験体中の少なくとも1つのBCL-2ファミリータンパク質のレベルを測定する工程、および正常対照試料と比較する工程を含み、
レベルの上昇が、構造Aを有する該化合物、またはその薬学的に許容される塩、水和物、N-オキシドもしくは溶媒和物を用いる該療法に対して応答性である被験体の指標となる、
方法。
【請求項11】
前記判定が、前記被験体由来の試料に基づいて行われる、請求項9または10記載の方法。
【請求項12】
前記試料が、体液試料または腫瘍試料である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
BCL-2ファミリーのポリヌクレオチドまたはポリペプチドが、BCL-2、BCL-XL、BCL-W、MCL-1、およびBCL-A1より選択される、請求項9または10記載の方法。
【請求項14】
少なくとも1つのBCL-2ファミリータンパク質メンバーのレベルが対照細胞におけるレベルよりも大きい細胞において、アポトーシスを誘導する方法であって、
Bcl-2ファミリータンパク質の該レベルを低下させ、かつ該細胞においてアポトーシスを誘導するために、構造A:

を有する化合物またはその薬学的に許容される塩、水和物、N-オキシドもしくは溶媒和物の有効量を該細胞に投与する工程
を含む、方法。
【請求項15】
前記細胞が癌細胞である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
癌が、肺癌、乳癌、前立腺癌、およびリンパ腫からなる群より選択される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記細胞が免疫系の細胞である、請求項14記載の方法。
【請求項18】
構造A:

を有する化合物、またはその薬学的に許容される塩、水和物、N-オキシドもしくは溶媒和物の被験体における投与を含む治療レジメンの有効性を判定する方法であって、
該方法が、構造Aを有する該化合物、またはその薬学的に許容される塩、水和物、N-オキシドもしくは溶媒和物による治療の前および最中に、該被験体の細胞におけるBCL-2ファミリータンパク質のレベルを比較する工程を含み、
BCL-2ファミリータンパク質のレベルの低下が、構造Aを有する該化合物、またはその薬学的に許容される塩、水和物、N-オキシドもしくは溶媒和物を用いる療法の有効性の指標となる、
方法。
【請求項19】
前記被験体が癌を有する、請求項18記載の方法。
【請求項20】
癌が、肺癌、乳癌、前立腺癌、およびリンパ腫からなる群より選択される、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記被験体が自己免疫障害を有する、請求項18記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−517698(P2011−517698A)
【公表日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−505171(P2011−505171)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【国際出願番号】PCT/US2009/040682
【国際公開番号】WO2009/129317
【国際公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(510027043)バーンハム インスティテュート フォー メディカル リサーチ (6)
【Fターム(参考)】