説明

抗アレルギー体質強化剤

【課題】医療や食品などに応用可能な安全な素材でかつ簡便容易な投与方法で用いられる新規抗アレルギー体質強化剤及び抗アレルギー体質強化飲食品を提供すること。
【解決手段】大豆、小麦あるいはこれらの加工品や副産物を糸状菌または糸状菌の産生する酵素により処理した発酵物から得られる水溶性高分子画分を有効成分とする抗アレルギー体質強化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗アレルギー体質強化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のアレルギー症状の増加は大きな社会的問題となっている。すなわち、現在、日本では国民の20-30%が何らかのアレルギー症状を有していると考えられ、身近な花粉症やアトピー性皮膚炎の増加はその一例といえる。一般に言うアレルギーとは、免疫学上4つに分類されるアレルギー反応においてI型に分類される即時性のものである。すなわち、花粉・ダニ・卵・牛乳などに含まれるアレルゲンと呼ばれる物質に、個体が何らかの要因により免疫応答を誘導しアレルギー原因抗体であるIgEが産生される。各アレルゲンに結合するIgEは体中に運搬された後、肥満細胞や好塩基球上に発現しているFc受容体を介して結合し、いつでもアレルギー症状を呈することができる状況となる。そして、再び体内に取り込まれたアレルゲンが、肥満細胞や好塩基球上に結合したIgEと架橋することにより、肥満細胞あるいは好塩基球に蓄えられていたヒスタミンの遊離とロイコトリエンの産生が促され、即時性のアレルギー症状が惹起される。
【0003】
更に、アレルギーとは上記の様な即時性のものに限らない。すなわち、アトピー性皮膚炎・喘息・潰瘍性大腸炎などに代表される諸疾患は、同様のIgE・ヒスタミン・ロイコトリエンを介する反応に引き続き、IL-5(インターロイキン-5)による好酸球のアレルギー局所への浸潤が起こるなど様々な遅発性の症状が惹起される。
【0004】
これまでに、アレルギー症状の緩和・抑制・治療を目的として、様々な薬剤や食品素材が使用されてきた。すなわち、ヒスタミンがヒスタミン受容体に結合することを阻害する抗ヒスタミン剤、ヒスタミンやロイコトリエンが肥満細胞や抗塩基球から放出されることを防ぐこと目的とした膜安定化剤、IgEがFc受容体に結合することを阻害する抗Fc受容体抗体、そして重篤な症状が発症した後に免疫応答を抑制する免疫抑制剤などがあげられる。しかしながら、これらの薬剤はアレルギーをいつでも発症できる状況にある個体、すなわちアレルギー体質の人がいかに最終的なアレルギーを発症しないようにするか、あるいはアレルギー症状を緩和させるかに対して効果が期待できるものであり、アレルギー体質そのものを改善するものではない。それゆえ、アレルギー体質そのものを抗アレルギー体質へと強化することが可能な全く新しい予防・治療方法やそのための有効物質の発見が待ち望まれている。
【0005】
近年、アレルギー体質を強化する手段として、アレルギー体質を形成するII型免疫応答の調節をターゲットとした研究が進められている。免疫応答は、ヘルパーT細胞I型(Th1)による細胞性免疫(I型)とアレルギーに関連するヘルパーT細胞II型(Th2)による液性免疫(II型)に大別され、現在では、アレルギーをはじめとする様々な疾患・病態がTh1とTh2のバランスの崩壊により引き起こされることが明らかにされている(非特許文献1〜3)。非特許文献1では、ヒト臨床における抗アレルギー効果の検証として、TMC0356菌ヨーグルト摂取により末梢血中のTh1/Th2比が有意に増加することを報告し、非特許文献2では、Th1細胞とTh2細胞のバランスが均衡し免疫系が正常に保たれるが、このバランスがTh2優位細胞になるとI型アレルギーが発症しやすくなることを記載し、非特許文献3では、Th1細胞はIFN-γ(インターフェロンガンマ)などの細胞性免疫を刺激するサイトカイニンを産生し、Th2細胞はIL-4などのB細胞の抗体産生を刺激するサイトカイニンを産生すること、したがって、Th1とTh2細胞のバランスは、アレルギーをはじめとする様々な免疫疾患の発症に関与していると考えられること、マウス脾臓リンパ球のIFN-γおよびIL-4産生に及ぼす菊抽出液の効果について検討している。これらから、アレルギーは、全般にTh2の過剰であり、Th1の減弱化によると説明することができる。Th1とTh2は、共にその前駆細胞であるTh0よりサイトカイン等による刺激を受け分化してくる。マクロファージや樹状細胞などの抗原提示細胞が産生するIL-12とTh1 自体が産生するIFN-γはTh1細胞の分化を促進しTh2を抑制する。一方、Th2細胞自体が産生するIL-4は逆にTh2の分化を促進しTh1を抑制する。このように、Th1とTh2は共存しない仕組みができていることから、一度Th2が増強されアレルギー体質にバランスが傾くと、更にアレルギー体質へ移行しやすくなると考えられる。
【0006】
このようなTh1とTh2のバランスを調節しTh1を増強する試み、すなわち、アレルギー体質を抗アレルギー体質に強化する試みとして、Th1の増強因子であるIL-12の利用が報告されている(非特許文献4)。動物実験レベルではその有効性が確認できたものの、強い副作用のため臨床応用は大変困難と結論できる。また、結核菌や大腸菌などの病原性バクテリアに多く認められる非メチル化CpG-DNAのTh1増強効果が報告されているが(非特許文献5)、安全性の問題や投与方法の危険性など多くの課題があり、実用化されるに至っていない。一方、高齢化が進む現代社会において、アレルギー疾患による医療費の増大は深刻な医療保険等の社会構造上の問題を引き起こしており、これらの予防、治療を医療のみに頼るのではなく普段の食生活から改善することが強く期待されている。
【0007】
一方、本発明者らは、これまで醤油等の発酵生産物の高分子成分が、ヒアルロニダーゼ阻害活性や腸管免疫賦活などの作用を持つことを明らかにした(特許文献1)。さらに、これらの高分子成分がマクロファージ活性化による免疫強化作用を持つことも明らかにした(特許文献2)。しかし、これらは、いずれもTh1とTh2のバランスの崩壊により引き起こされるアレルギー体質を強化するためのものではない。
【特許文献1】特開2003-327540号公報
【特許文献2】特開2005-179315号公報
【特許文献3】特開2003-73293号公報
【特許文献4】特開平07-308171 号公報
【非特許文献1】何方著「菌株特異的な抗アレルギー効能を持つプロバイオティクス乳酸菌の選抜およびその機能性の解析」食品工業, Vol. 48, No.18, p.40-51( 2005.)
【非特許文献2】上野川修一編「食品とからだ、免疫・アレルギーのしくみ」 p.177, 朝倉書店( 2003)
【非特許文献3】荒巻文香他著「マウス脾臓リンパ球における抗体およびサイトカイニン産生に及ぼす菊抽出液の影響」日本食品科学工学会誌, 51, 304-308( 2004)
【非特許文献4】Am. J. Respir. Crit. Care. Med. 153: 535 (1996)
【非特許文献5】:Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 93: 2879 (1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであって、経済的、安全性に優れた抗アレルギー体質強化剤を有する物質およびその製造法を提供することを目的とする。
さらに本発明は、このような物質を用いた抗アレルギー体質強化剤食品および医薬品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題解決のために鋭意研究を重ね、抗アレルギー体質への強化となる指標をTh1とTh2バランス調節機能(Th1/Th2)、すなわちIFN-γとIL-4の産生調節活性とし、種々の物質について新規な抗アレルギー体質強化機能の探索を行った。 その結果、大豆、小麦あるいはこれらの加工品や副産物を糸状菌または糸状菌の産生する酵素により処理した発酵物から得られる水溶性高分子画分、特に、醤油あるいは醤油麹等に含まれる水溶性高分子画分に強い調節活性、すなわち抗アレルギー体質強化機能があることを発見し、本発明をなすに至った。
【0010】
本発明のTh1とTh2バランス調節機能(Th1/Th2)、すなわち抗アレルギー体質強化機能を有する物質は、大豆、小麦あるいはこれらの加工品を原料とし、糸状菌(麹菌)を利用して得た発酵物全般から得られる水可溶性高分子物質であり、特に、透析膜で分画されたものが好ましく、さらに分画分子量が12,000の透析膜の内液に残存する物質が特に好ましい。
【0011】
従来、醤油中に高分子物質が含まれていることは知られていたが、これに本発明のような生理活性作用があることは一切知られていなかった。
これまでに、大豆由来の免疫強化剤として大豆発酵抽出物が提案されているが(特許文献3)、この有効成分は有機溶媒を含む溶剤で抽出された低分子物質であり本発明の高分子物質とは全く異なるものである。また、大豆サポニンを配合した抗アレルギー食品が提案されているが(特許文献4)、これも低分子物質であり本発明の物質とは全く異なるものである。
本発明は、さらにこれらの高分子成分が、Th1とTh2バランス調節機能(Th1/Th2)、すなわち抗アレルギー体質強化機能を持つことを見いだし完成したものである。
【0012】
すなわち、本発明は、次のとおりである。
(1)大豆、小麦あるいはこれらの加工品や副産物を糸状菌または糸状菌の産生する酵素により処理した発酵物から得られる水溶性高分子画分を有効成分とする抗アレルギー体質強化剤。
(2)大豆、小麦あるいはこれらの加工品や副産物を糸状菌または糸状菌の産生する酵素により処理した発酵物が醤油あるいは醤油麹である上記(1)記載の抗アレルギー体質強化剤。
(3)大豆、小麦あるいはこれらの加工品や副産物を糸状菌または糸状菌の産生する酵素により処理した発酵物を水性溶液で抽出した抽出物にエタノールを加えて沈殿させ、沈殿物を採取することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の抗アレルギー体質強化剤の製造方法。
(4)大豆、小麦あるいはこれらの加工品や副産物を糸状菌または糸状菌の産生する酵素により処理した発酵物の高分子成分を濃縮することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の抗アレルギー体質強化剤の製造方法。
(5)高分子成分の濃縮を透析によって行なう上記(4)に記載の抗アレルギー体質強化剤の製造方法。
(6)透析を分画分子量12,000以上の透析膜を用いて行うことを特徴とする上記(5)に記載の抗アレルギー体質強化剤の製造方法。
(7)上記(1)または(2)に記載される物質を有効成分とする抗アレルギー体質強化剤を有する食品。
(8)上記(1)または(2)に記載される物質を有効成分とする抗アレルギー体質強化剤を有する医薬品。
【0013】
以下、本発明について説明する。
(抗アレルギー体質強化機能を有する高分子物質の生成、回収)
本発明の前記生理活性を有する高分子物質を得る方法の一例を以下に示す。しかし、本発明はこのような方法に限定されるものではない。
醤油原料である大豆、小麦を蒸煮あるいは焙煎するなどの加熱処理を施し、これに麹菌などを生育させることによって本発明にかかわる活性成分を生成させる。
醤油原料以外にも、小麦粉、大豆粉などの穀粉やおからなどの加工品、大豆皮などの副産物を有効利用することもできる。また、麹菌以外の糸状菌、例えば、インドネシアの伝統発酵食品「テンペ」製造に用いられるクモノスカビRhizopus属、中国伝統の発酵食品を製造するのに用いられる紅麹菌Monascus属やケカビMucor属、を接種して生育させること、あるいは糸状菌の産生する酵素を加えて反応させることによって本発明にかかわる活性成分を生成させることも可能である。
このようにして生成した活性成分は、食塩水あるいは30%程度以下のエタノール中で長期間発酵させても残存するものであり、従って、醤油のように長期間発酵、熟成させても得ることができる。また、水性溶液、例えば、水、食塩水(0〜飽和)あるいは30%程度以下の低濃度のアルコールもしくは、これらの混合液等によって抽出回収することも可能である。
【0014】
本発明において、原料に麹菌を作用させる方法は、通常の醤油麹を製造する方法が適用できる。例えば、原料を水分35〜50%程度に調整し、20〜35℃程度で2〜5日間程度培養する。
本発明において抗アレルギー体質強化機能は、発酵分解中に発現し、これをそのまま利用することも可能である。さらに利用しやすくするために、以下に示すような手段でその高分子画分を濃縮することによって本強化機能をさらに高めることもできる。
【0015】
(抗アレルギー体質強化機能を有する高分子物質の回収、精製)
本発明の生理活性を有する物質を得るには、上記分解物を抽出して、必要に応じてさらにろ過あるいは遠心分離をして固形分を除去した液体(抽出ろ液)に高分子物質沈殿剤、例えばエタノールを添加して生成する不溶性物質をろ過あるいは遠心分離で回収する方法、あるいは、抽出ろ液等の液体を濃縮膜、例えば限外ろ過膜や透析膜で処理することによって高分子物質を含有する画分である非透過液を回収する方法、さらには、この非透過液に高分子物質沈殿剤、例えばエタノールを加えて不溶物を生成させ、それを回収する方法等が利用できる。
醤油などの食塩を含むものにおいては、先に透析してもよく、エタノール沈殿や限外ろ過によって回収した後に透析するなどして脱塩することにより用途を広げることが可能である。ゲルろ過などの操作を利用するとさらに純度の高い物質を得ることが可能である。
【0016】
本発明にかかわる高分子物質を採取するために加える高分子物質沈殿剤の量は、高分子物質が不溶性となる濃度であればよく、例えば高分子物質沈殿剤がエタノールの場合は最終エタノール濃度が30%以上、望ましくは50%以上になればよい。エタノールに代えてメタノールやプロパノール等によっても本発明の高分子物質は回収できるが、安全性の面でエタノールが好ましい。
【0017】
これらのことから見て、本発明の抗アレルギー体質強化機能を有する高分子物質は次の性質を有していると考えられる。
1.醤油原料である大豆、小麦、あるいはこれらの加工品や副産物を含有する原料を糸状 菌または糸状菌の産生する酵素を作用させることによって生成される。
2.水、食塩水、または低濃度のアルコール等の水性溶液に可溶である。
3.高濃度エタノールにより沈殿する。
4.抗アレルギー体質強化機能を有する。
5.本発明の抗アレルギー体質強化機能を有する高分子物質は、さらに透析するこ とによって濃縮することもできる。そのとき、分画分子量12,000の透析膜を用いて透析したとき透析されずに溜まる成分であることがさらに好ましい。
【0018】
(抗アレルギー体質強化機能を有する高分子物質の利用、製剤)
得られた抗アレルギー体質強化機能を有する生理活性高分子物質は、水などに溶解した形態、粉末化した形態、あるいはそのまま利用することが可能であり、製剤としてもよく、また飲食品、化粧品、医薬(医薬部外品も含む)などに適宜配合することができる。
例えば、水などの適当な液体に溶解するか、もしくは分散させ、または、適当な粉末担体、例えば、デキストリン、デンプン、セルロースなどと混合するか、もしくはこれに吸着させ、場合によっては、さらにこれらに乳化剤、分散剤、懸濁剤、安定化剤を添加し、乳化液、粉末、懸濁液、水溶液、錠剤、カプセル剤等の製剤として使用する。
製剤として使用する場合、高分子物質の使用量は製剤の形態によっても異なるが、0.001重量%以上が好ましく、安全性に問題がないので特に上限は規定しない。
【0019】
(飲食物)
飲食物としては、チューインガム、キャンディ、錠菓、グミゼリー、チョコレート、ビスケットまたはスナック等の菓子、アイスクリーム、シャーベットまたは氷菓等の冷菓、飲料、プリン、ジャム、乳製品等が挙げられ、これらの飲食物を日常的に摂取することにより抗アレルギー体質強化機能を付与することが可能となる。抗アレルギー体質強化機能を有する飲食物を得るにあたって、その高分子物質を添加する方法としては、通常一般的に行われている方法を用いるとよい。
これらの飲食物に対する本発明の高分子物質の添加量としては、精製の程度や飲食物の形態によっても異なるが、0.001重量%以上の添加が望ましく、嗜好性の面からは20重量%以下が望ましい。また、カプセルや錠剤型の健康食品、機能性食品の場合、その濃度に上限を設ける必要はない。
【0020】
(医薬)
本発明の抗アレルギー体質強化剤は、医薬として免疫力の低い老人や幼児あるいは体力の低下した人に、抗アレルギー体質強化により体質を改善するために用いられる。本発明における高分子物質の使用量は精製の程度にもよるが成人1日あたり10〜1000mg程度が望ましく、これを飲食品として用いたときもあるいは体質強化剤として用いたときも同様である。これらは、本発明の高分子物質を含有し、所望により、製剤学的に許容することのできる担体を含有することができる。投与形態としては、特に限定がなく、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、もしくは丸剤などの経口剤、または注射剤、外用液剤、軟膏剤、坐剤などの非経口剤を挙げることができる。
これらの製剤は、賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、安定化剤、保湿剤、防腐剤、または酸化防止剤等を用いて、常法に従って製造することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の体質強化剤は、Th1とTh2バランス調節機能(Th1/Th2)、すなわちIFN-γとIL-4の産生調節活性を有しており、種々のアレルギー疾患の予防、治療に有効である。また、医薬品のみならず、健康食品、飲食品等には抗アレルギー体質強化機能を目的として使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、試験例及び実施例により、本発明を更に具体的に説明する。本発明の技術的範囲は、これらの例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
<Th1/Th2のバランス調節能の評価法>
下記の方法でIFN-γとIL-4を測定することによりTh1/Th2のバランス調節能を評価した。
[In Vitro でのTh1/Th2のバランス調節能]
Th0細胞源としてBALB/cマウス(8週齢、雄、日本クレア社より入手)から脾臓細胞を常法により調製し、RPMI-1640培地 (Gibco BRL社)に、10% FBS(Gibco BRL社), 100unit/ml penicillin (Sigma社), および100μg/ml streptomycin(Sigma社)を加えた培地にて、細胞濃度が5 x 106 cells/mlになるよう調整した。その後、5μg/mlのConcanavaline A (Con A)を添加して37℃で共培養した。この時、本発明の試験品を加え、48時間後に培養上清中のIFN-γおよびIL-4をBio Source International社製のELISAキットにて測定した。
試験品としては、下記の方法で火入れ醤油から調製した高分子物質(SPSと略称する。SPS:醤油多糖類、Shoyu polysaccharides)を1.5,15,150μg/ml使用した。対照として、試験品を添加しないもので同様に測定した。
試験品の調製は以下のように行なった。脱脂加工大豆、丸大豆および小麦を主原料とした火入れ醤油100mlを分画分子量12,000以上の透析チューブに充填し、4℃の流水中で一夜透析した。その後、透析内液を凍結乾燥して得られたSPSを試験品とした。
結果を表1に示す。
【表1】

図1には、表1の結果を図示した。図1横軸の数字はSPS濃度を、縦軸には、培養上清中のIFN-γおよびIL-4の濃度(pg/ml)を示した。また、図1の結果からTh1/Th2(IFN-γ/IL-4)を図2として示した。
コントロール(対照)に対して試験品投与の値に「有意差」があるかどうかをIFN-γおよびIL-4の濃度、Th1/Th2バランスについて判定した。本実験では、t−検定で危険率5%未満および1%未満の場合を「有意差あり」と評価した。この結果から、SPS1.5μg/mlでIFN-γ濃度の有意な増加とIL-4濃度の有意な減少、およびTh1/Th2バランスの有意な増加が見られた。
【実施例2】
【0024】
火入れ醤油に代えて生揚醤油から調製した高分子物質を用いた以外は、全て実施例1と同様の試験をして、Th1/Th2のバランス調節能の評価をした。 結果を表2に示す。
【表2】

表2の結果を図3に示す。また、図3の結果からTh1/Th2(IFN-γ/IL-4)を図4として示した。
この結果から、生揚醤油から調製した高分子物質を用いた場合にも、SPS1.5μg/mlでIFN-γ濃度の有意な増加とIL-4濃度の有意な減少、およびTh1/Th2バランスの有意な増加が見られた。
【実施例3】
【0025】
[In vivoでのTh1/Th2のバランス調節能]
標準餌(CE-2, 日本クレア製)にて4日間予備飼育したBALB/cマウス(6週齢、雄)に、本発明の実施例1で得た試験品をCE-2に配合した「実験餌」を2週間自由摂食させた(実験食投与群)。CE-2を2週間自由摂食させた群を対照群とした。2週間の摂食後、マウスから脾臓細胞を常法により調製し、RPMI-1640培地 (Gibco BRL社)に、10% FBS(Gibco BRL社), 100unit/ml penicillin (Sigma社), および100μg/ml streptomycin(Sigma社)を加えた培地にて、細胞濃度が5 x 106 cells/mlになるよう調整した。その後、5μg/mlのConcanavaline A (Con A)を添加して37℃で共培養した。48時間後に培養上清中のIFN-γおよびIL-4をBio Source International社製のELISAキットにて測定した。
結果を表3に示す。
【表3】

ここで、投与量は、マウス1匹あたりのSPSの投与量で、例えば、SPS-1.5は、マウス1匹あたりの投与量として1.5mgSPS/日を示している。
表3の結果を図5に示す。また、図5の結果からTh1/Th2(IFN-γ/IL-4)を図6として示した。
この結果から、In vivo においても、3.0mgSPS/日、2週間の投与でIFN−γ濃度の有意な増加とIL-4濃度の有意な減少、およびTh1/Th2バランスの有意な増加があることが分かった。
【0026】
<応用例>
(機能性食品)
(1) 実施例1で得られた凍結乾燥品SPSの粉末を10重量%、馬鈴薯澱粉20重量%、乳糖70重量%を混合し、粉末食品を得た。
(2) 上記の凍結乾燥粉末1重量%、オレンジ果汁5重量%、異性化糖15重量%、クエン酸0.1重量%、香料0.1重量%、水78.8重量%を混合してオレンジ果汁飲料を得た。
これらの粉末食品及び飲料はアレルギー体質強化のために食用に供される。
【0027】
(医薬品)
実施例1で得られた凍結乾燥品SPSの粉末50重量%、デキストリン50重量%を混合し、その0.1重量gをゼラチンカプセルに充填する。これを、アレルギー体質強化のため1日3回1カプセルずつ服用する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】In vitroでの火入れ醤油の高分子物質のIFN-γおよびIL-4産生に及ぼす影響
【図2】In vitroでの火入れ醤油の高分子物質のTh1/Th2(IFN-γ/IL-4産生)比に及ぼす影響
【図3】In vitroでの生揚醤油の高分子物質のIFN-γおよびIL-4産生に及ぼす影響
【図4】In vitroでの生揚醤油の高分子物質のTh1/Th2(IFN-γ/IL-4産生)比に及ぼす影響
【図5】In vivoでの火入れ醤油の高分子物質のIFN-γおよびIL-4産生に及ぼす影響
【図6】In vivoでの火入れ醤油の高分子物質のTh1/Th2(IFN-γ/IL-4産生)比に及ぼす影響

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆、小麦あるいはこれらの加工品や副産物を糸状菌または糸状菌の産生する酵素により処理した発酵物から得られる水溶性高分子画分を有効成分とする抗アレルギー体質強化剤。
【請求項2】
大豆、小麦あるいはこれらの加工品や副産物を糸状菌または糸状菌の産生する酵素により処理した発酵物が醤油あるいは醤油麹である請求項1記載の抗アレルギー体質強化剤。
【請求項3】
大豆、小麦あるいはこれらの加工品や副産物を糸状菌または糸状菌の産生する酵素により処理した発酵物を水性溶液で抽出した抽出物にエタノールを加えて沈殿させ、沈殿物を採取することを特徴とする請求項1または2に記載の抗アレルギー体質強化剤の製造方法。
【請求項4】
大豆、小麦あるいはこれらの加工品や副産物を糸状菌または糸状菌の産生する酵素により処理した発酵物の高分子成分を濃縮することを特徴とする請求項1または2に記載の抗アレルギー体質強化剤の製造方法。
【請求項5】
高分子成分の濃縮を透析によって行なう請求項4に記載の抗アレルギー体質強化剤の製造方法。
【請求項6】
透析を分画分子量12,000以上の透析膜を用いて行うことを特徴とする請求項5に記載の抗アレルギー体質強化剤の製造方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載される物質を有効成分とする抗アレルギー体質強化剤を有する食品。
【請求項8】
請求項1または2に記載される物質を有効成分とする抗アレルギー体質強化剤を有する医薬品。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−84486(P2007−84486A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−276186(P2005−276186)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000112048)ヒガシマル醤油株式会社 (10)
【Fターム(参考)】