説明

抗アレルギー素材およびその製造方法

【課題】アレルギー疾患の改善に有効な作用を備えた豆類由来の抗アレルギー素材およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】豆類に麹菌を接種して製麹し、この製麹処理による生成物に加水することにより当該生成物中の組成要素を加水分解した固体組成物を生成し、この固体組成物から水抽出によって生成した水抽出物であって、抗アレルギー作用を有する水抽出物であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗アレルギー素材およびその製造方法に係り、特に豆類を原料とした生成物を利用して得られる抗アレルギー素材およびその製造方法に関する。
【0002】
本発明において、豆類とは、大豆等の豆科の穀類やこれらの粕等を意味し、本発明はこれらの豆類の少なくとも1種を原料基質として使用する。
【背景技術】
【0003】
本出願人は、すでに穀類の1種である大豆由来のイソフラボンアグリコンについて、その製造方法を特許第3014145号公報において、豆類を原料として麹菌によって発酵させて蛋白質を分解し、その後に加水分解することによって得られた生成物には大豆イソフラボングリコシドが麹菌の酵素(β−グリコシダーゼ)でイソフラボンアグリコンに変化されるため、イソフラボンアグリコンがリッチに含有されており、この生成物が人間や哺乳類に対して薬効等の生体活性を促進する作用をなすことを提案している。
【0004】
【特許文献1】特許第3014145号掲載公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、自己免疫疾患やアレルギー疾患などの免疫疾患が増加傾向にあり、これらを改善することのできる効果を発揮できるものが望まれている。
【0006】
本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、アレルギー疾患の改善に有効な作用を備えた豆類由来の抗アレルギー素材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意研究し、本出願人が特許第3014145号において既に提案している生成物について、当該生成物中の水溶性成分を水抽出物として抽出し、その水抽出物の作用を究明し、抗アレルギー作用があることを確認して本発明を完成させたものである。
【0008】
このようにしてなされた本発明の抗アレルギー素材は、豆類に麹菌を接種して製麹し、この製麹処理による生成物に加水することにより当該生成物中の組成要素を加水分解した固体組成物を生成し、この固体組成物から水抽出によって生成した水抽出物であって、抗アレルギー作用を有する水抽出物であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の抗アレルギー素材の製造方法は、豆類に麹菌を接種して製麹し、この製麹処理による生成物に加水することにより当該生成物中の組成要素を加水分解して固体組成物を生成し、この固体組成物に水抽出を施して抗アレルギー作用を有する水抽出物を生成することを特徴とする。
【0010】
このようにして本発明の抗アレルギー素材の製造方法によって生成され本発明の抗アレルギー素材は、抗アレルギー作用を有する水抽出物であり、アレルギー疾患の治療に用いることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の抗アレルギー素材およびその製造方法によれば、アレルギー疾患の改善に有効な作用を備えた豆類由来の抗アレルギー素材を得ることができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図1から図3を用いて本発明の抗アレルギー素材およびその製造方法の実施形態について説明する。
【0013】
本実施形態においては、本出願人が特許第3014145号において既に提案している生成物について、当該生成物中の水溶性成分を水抽出物として抽出して、抗アレルギー作用がある素材を生成したものである。
【0014】
図1は前記特許第3014145号において提案している生成物であって、豆類の1種である大豆粕のイソフラボン化合物の配糖体を分解して、アグリコンを多量に含むイソフラボン化合物を生成した生成物の製造方法の1実施形態および同時に大豆粕中のフィチン酸を除去した生成物の製造方法の1実施形態を示す工程図である。本発明においては、図1の工程の後、更に、図2に示すようにして水抽出を施すものである。
【0015】
本発明の抗アレルギー素材の製造方法を図1および図2の順に工程に沿って説明する
先ず、図1に示すように、原料となる豆類としての脱脂大豆を蒸煮と麹菌の発酵とを連続して行なうことのできる発酵装置に投入する。この脱脂大豆としては、例えば、醤油の製造に用いられている醸造用GMOフリーの脱脂大豆を用いるとよい。その後、散水しながら攪拌して水分を均等に整える。
【0016】
その後、100℃の蒸気によって蒸煮および殺菌を行なう。この蒸煮を施すことにより、麹菌の増殖が容易となる。また、この脱脂大豆の蒸煮は製造目的等に応じてバッチ式や連続式で行うとよい。
【0017】
そして、この蒸煮が終了した脱脂大豆を通風により一旦冷却して、脱脂大豆中の水分量を麹菌が増殖可能な量(例えば、37重量%)とさせる。
【0018】
このようにして水分量を整えられた脱脂大豆に対して、本発明方法が以下のようにして行なわれる。
【0019】
即ち、蒸煮が終了した脱脂大豆を殺菌し、冷却した後、脱脂大豆と麹菌との配合割合を、例えば脱脂大豆を400kgに対して麹菌胞子を8×107 個/gに調整した種麹(精白米にて調整)を200gを混合した。更に、製麹のスタート時には32℃に冷却した後、品温が40℃になるまで通風しないで40℃になった時点で通風しながら、温度上昇を抑えた。スタートから約17時間後の最初の撹拌(盛工程)を行った。脱脂大豆の熱を冷まし、撹拌後品温が35℃前後になるように通風しながら、温度をコントロールをした。次いで、約8時間後に2回目の撹拌(仲工程)を行い、熱を冷ました。再び品温を通風で35℃前後にコントロールし、更に約16時間後に3回目の撹拌(仕舞工程)を前回同様に行った。その後は品温が約38℃になるように通風しながら、温度コントロールし、スタートから48時間後に製麹を終了させた。
【0020】
製麹終了後、水分含量が50%になるように撹拌しながら、水分調整を行い、品温が約50℃になるように加温後、48時間以上麹菌の酵素で脱脂大豆中のイソフラボン化合物の大部分がアグリコン体になるまで加水分解した。表1に示す通り本発明による処理により脱脂大豆のイソフラボン化合物はアグリコン体のダイゼインが主体となるように多量に得られた。
【0021】
【表1】

【0022】
この製麹に用いる麹菌としては、古くからの日本独特の発酵食品やテンペに用いられている麹菌であり、食品として安全なアスペルギルス・ウサミ、アスペルギルス・カワチ、アスペルギルス・アワモリ、アスペルギルス・サイトイ、アスペルギルス・オリゼー、アスペルギルス・ニガー等アスペルギルス属およびリゾープス属等からなる麹菌を用いるとよい。
【0023】
この発酵時間については、使用する麹菌の種類に応じて、少なくとも24時間以上であり、脱脂大豆中のイソフラボン化合物の配糖体を十分に分解させるに十分な発酵時間とするとよい。
【0024】
この蛋白質の加水分解については、使用する麹菌の種類に応じて、脱脂大豆中のイソフラボン化合物の配糖体を十分に低減させるに十分な加水分解時間ならびに加水分解温度とするとよい。
【0025】
このようにすれば、発酵の初期において有機酸を生成して脱脂大豆中の雑菌の増殖を抑制し、次汚染の心配がなくなり、脱脂大豆を原料とした固形生成物を大量生産することができる。また、低水分としなくともイソフラボン化合物の配糖体を十分に低減させる処理を施すことができる。
【0026】
加水分解の終了後には、組成物を温風乾燥機に移送し、水分含有率が13%以下になるように乾燥温度、風量を調整して乾燥させことにより固体組成物を得る。
【0027】
乾燥後に、固体組成物に対して、蒸気殺菌(例えば、120℃で10〜20秒)を施し、必要に応じて粉砕する。
【0028】
このようにして得た固体組成物に対して、図2に示すようにして水抽出を施すことにより抗アレルギー素材を得る。
【0029】
具体的には、固体組成物粉末200gを蒸留水800ml中に入れ、攪拌後、4℃に12時間以上放置する。
【0030】
その後、3000rpm、15分の遠心分離を施し、第1上澄液を取出す。
【0031】
残部を沈殿させ、蒸留水200mlを加える。
【0032】
その後、3000rpm、15分の遠心分離を施し、第2上澄液を取出す。
【0033】
残部を沈殿させる。
【0034】
第1上澄液と第2上澄液とを合わせて水抽出による抗アレルギー素材を得る。
【0035】
本発明者は、このようにして形成されている本発明の抗アレルギー素材には、抗アレルギー作用があることをD10.G4.1(D10)細胞を利用して確認した。
【0036】
このD10細胞は、AKRマウス由来のコンアルブミン(CA:卵白アレルゲン)特異的Th2細胞クローンであり、花粉症、喘息、アトピー性皮膚炎、アナフィラキシーショック等のIgE誘導性アレルギーにおけるメカニズム検討に利用されているものである。
【0037】
細胞株・微生物株・遺伝子バンク(ATCC:米国)よりD10細胞(TIB224)を得て、AKRマウスB細胞(脾臓の細胞)と混合培養することによりD10細胞の継体を得た。
【0038】
50万D10細胞を3組用意し、本発明の抗アレルギー素材の最終濃度を1組:0%、2組:50ng/ml、3組:200ng/mlを投与し、各組とも100μg/mlのCA(卵白アレルゲン)を1回与えて刺激し、気温37℃、5%CO雰囲気72時間培養後、上澄を採取して、各種のサイトカイン(IL−4、IL−5、IL−13)をELISA法によって測定した。
【0039】
その測定結果は図3に示す通りとなり、本発明の抗アレルギー素材を投与した2組および3組が、投与しない1組に比較して、投与量が多くなるに従ってTh2細胞サイトカイン(IL−4、IL−5、IL−13)をより大きく抑制することができ、抗アレルギー作用があることが確認された。
【0040】
この本発明の抗アレルギー素材は、例えば飲料に含有させて摂取されることにより、アレルギー疾患の改善に有効な作用を発揮することが判る。
【0041】
なお、本発明は、前述した実施の形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の抗アレルギー素材を生成する製造方法の前半を示す1実施形態を示す工程図
【図2】本発明の抗アレルギー素材を生成する製造方法の後半を示す1実施形態を示す工程図
【図3】本発明の抗アレルギー素材のD10細胞に対する抗アレルギー作用を示す測定図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
豆類に麹菌を接種して製麹し、この製麹処理による生成物に加水することにより当該生成物中の組成要素を加水分解した固体組成物を生成し、この固体組成物から水抽出によって生成した水抽出物であって、抗アレルギー作用を有する水抽出物であることを特徴とする抗アレルギー素材。
【請求項2】
豆類に麹菌を接種して製麹し、この製麹処理による生成物に加水することにより当該生成物中の組成要素を加水分解して固体組成物を生成し、この固体組成物に水抽出を施して抗アレルギー作用を有する水抽出物を生成することを特徴とする抗アレルギー素材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−189590(P2008−189590A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−25385(P2007−25385)
【出願日】平成19年2月5日(2007.2.5)
【出願人】(000110882)ニチモウ株式会社 (52)
【Fターム(参考)】