説明

抗コリン作用薬を含むHFC溶液製剤

本発明は、噴霧投薬に好適な式1の抗コリン作用薬を含む安定な医薬溶液製剤に関する。
【化1】


(式中、X-は、医薬的に許容されるアニオンである。)。さらに詳細には、本発明は、式(I)の抗コリン作用薬、推進剤としての環境保護上安全なヒドロフルオロカーボン(HFC)及び共溶媒としての有機化合物を含む、噴霧投薬に好適で安定な医薬溶液製剤であって、無機酸又は有機酸のいずれかが添加されている当該噴霧溶液製剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、噴霧投薬に好適な式1の抗コリン作用薬を含む安定な医薬溶液製剤に関する。
【化1】

(式中、X-は、医薬的に許容されるアニオンである。)。さらに詳細には、本発明は、式1の抗コリン作用薬を、推進剤としての環境保護上安全なヒドロフルオロカーボン(HFC)及び共溶媒としての有機化合物と共に含む、噴霧投薬に好適で安定な医薬溶液製剤であって、無機酸又は有機酸のいずれかが添加されている当該噴霧溶液製剤に関する。
【0002】
1の化合物は、WO 02/32899から既知である。それらは、長時間の活性を有する高い有効な抗コリン作用性を示し、呼吸器疾患、特にCOPD(慢性閉塞性肺疾患)及び喘息を治療するのに用いることができる。
上記疾患を治療するには、有効成分を吸入によって投薬するのが有用である。気管支活性化合物を、有効成分を含む吸入可能粉末の形態で投薬するのとは別に、有効成分の投薬はさらに、噴霧溶液製剤を含むヒドロフルオロカーボンの形態で行うことができる。
加圧型計量式吸入器(MDIs)による薬剤の噴霧製剤の投薬は、閉塞性気道疾患及び喘息などの治療に広く用いられている。経口投薬と比べ、吸入は、より速い効果の発生を提供し、全身性副作用を最小化する。噴霧製剤は、口による吸入、又は局所的な鼻粘膜への塗布によって投薬することができる。
MDIsによる噴霧投薬のための製剤は、溶液又は懸濁液でよい。溶液製剤は、噴霧媒体に完全に溶解されている薬剤又は賦形剤と、本質的に均一になるという利点を提供する。溶液製剤はさらに、懸濁液製剤に伴う物理的安定性の問題を除去するため、より一貫した均一な投薬量の投薬を保証し、さらに界面活性剤の必要性を除去する。
【0003】
MDIsによる噴霧溶液製剤の投薬は、その製品に用いられる噴霧系の推進力に依存する。従来は、推進剤はクロロフルオロカーボン(CFCs)の混合物を含み、所望の製剤の溶解性、蒸気圧、及び安定性を提供していた。しかし、近年、CFCsが地球のオゾン層消耗の一因になるという理由で環境保護上有害であることが確立されたため、噴霧吸入製剤において、環境保護上安全なヒドロフルオロカーボン(HFC)推進剤又は他の非塩素化推進剤で、環境保護上有害なCFC推進剤の代用をするのが望ましい。例えば、米国特許第4,174,295号明細書は、HFCsの組み合せからなる噴霧系の使用を開示しており、これはさらに、ヘアースプレー、抗発汗製品、香水、脱臭剤、塗料、殺虫剤などの家庭製品の分野における用途に好適な飽和炭化水素成分を含んでいてもよい。当技術分野では、いくつかのHFCsが、薬剤の噴霧投薬のための推進剤としての使用に好適な特性を有することが知られている。例えば、公開された欧州特許出願第0,372,777号明細書(EPO89312270.5)は、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134(a))と、少なくとも1種の“補助薬”(HFC-134(a)よりも高い極性を有する化合物)及び界面活性剤との組み合せ使用による、噴霧経路による投薬に好適な薬剤の懸濁液及び溶液製剤の調製を開示している。さらに、公開されたPCT出願第WO91/11496号明細書(PCT/EP91/00178)は、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(HFC-227)の使用を開示しており、他の推進剤成分と任意に混合して、薬剤の懸濁液噴霧製剤を調製するのに用いる。米国特許第2,868,641及び3,282,781号明細書は、薬剤(エピネフリン又はイソプロテレノールHCl)、共溶媒、推進剤及び抗酸化剤としてのアスコルビン酸を含む噴霧組成物を開示している。欧州特許第EP673,240B1号明細書は、医薬噴霧製剤に酸を加えることによる薬剤の安定化の提供を提案している。
【0004】
“噴霧溶液製剤”という用語は、噴霧投薬に好適な薬剤の医薬製剤を意味し、薬剤及び賦形剤が完全に溶解している。
“安定化された噴霧溶液製剤”という用語は、長時間にわたって実質的な化学安定性を示す噴霧溶液製剤を意味する。
本発明は、式1の塩
【化2】

(式中、X-は、アニオン、好ましくは塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、硝酸イオン、マレイン酸イオン、酢酸イオン、クエン酸イオン、フマル酸イオン、酒石酸イオン、シュウ酸イオン、コハク酸イオン、安息香酸イオン及びp-トルエンスルホン酸イオンからなる群から選択されるアニオンを意味する。)、HFC推進剤、共溶媒、及び無機又は有機酸を含む安定化された噴霧溶液製剤を提供し、前記酸の濃度が、水溶液中2.5〜5.5のpH範囲に対応する範囲であることを特徴とする。
【0005】
本発明の好ましい実施態様では、噴霧溶液製剤が、式1(式中、X-は、塩素イオン、臭素イオン、4-トルエンスルホン酸イオン及びメタンスルホン酸イオンの中から選択される1価のアニオン、好ましくは臭素イオンを意味する。)の塩を含む。
本発明の別の好ましい実施態様では、噴霧溶液製剤が、式1(式中、X-は、塩素イオン、臭素イオン及びメタンスルホン酸イオンの中から選択される1負電価のアニオン、好ましくは臭素イオンを意味する。)の塩を含む。
本発明のさらに別の好ましい実施態様では、噴霧溶液製剤が、式1(式中、X-は、臭素イオンを意味する。)の塩を含む。
【0006】
1は場合によって、それらの溶媒和物又は水和物の形態で存在してもよい。
本発明の好ましい噴霧溶液製剤では、酸の濃度が、水溶液中3.0〜5.0、さらに好ましくは3.5〜4.5のpH範囲に対応する範囲である。
さらに、少量の水(約5質量%以下、好ましくは約3質量%以下)が、推進剤/共溶媒系に存在していてもよい。
本発明の噴霧溶液製剤に特に好ましいのは、唯一の有効成分として、1種以上、好ましくは式1の1種の塩を含む。
本発明の範囲内では、化合物1'に対する全ての参照は、塩1に含まれる以下の式1'の薬理学的に活性なカチオンに対する参照として考えるべきである。
【化3】

本発明の噴霧溶液製剤は好ましくは、0.00008〜4%、好ましくは0.0004〜1.6%、さらに好ましくは0.0008〜0.8%の薬理学的に活性なカチオン1'を含む。
特に好ましい塩1(臭化物)が用いられる場合、カチオン1の上記量は、0.000097〜4.8%(臭化物の形態)、好ましくは0.00048〜1.94%、さらに好ましくは0.00097〜0.97%(臭化物の形態)に対応する。
【0007】
好適なHFC推進剤は、共溶媒と共に混合されると治療上有効量の薬剤を溶解することのできる均一な推進剤系を形成するものである。HFC推進剤は、毒物学的に安全でなければならず、且つ薬剤を加圧型MDIによって投薬するのが可能となるのに好適な蒸気圧を有していなければならない。さらに、HFC推進剤は、薬剤を投薬するのに用いられるMDI装置の部品(例えば容器、バルブ、及び密閉ガスケットなど)と適合しなければならない。好ましいHFC推進剤は、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134(a))及び1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(HFC-227)である。HFC-134(a)が、特に好ましい。HFC推進剤の他の例は、HFC-32(ジフルオロメタン)、HFC-143(a)(1,1,1-トリフルオロエタン)、HFC-134(1,1,2,2-テトラフルオロエタン)、及びHFC-152a(1,1-ジフルオロエタン)である。
ハロゲン化されていない炭化水素推進剤を、本発明においてHFC推進剤の代わりに用いてもよいことは、当業者にとって明らかである。ハロゲン化されていない炭化水素の例は、プロパン、n-ブタン、及びイソブタンを含む飽和炭化水素、及びジエチルエーテルを含むエーテルである。
さらに、1種の推進剤の使用が好ましいが、2種以上のHFC推進剤の混合物、又は少なくとも1種のHFC推進剤と1種以上の非CFC推進剤との混合物を、本発明の噴霧溶液製剤に用いてもよいことは、当業者にとって明らかである。
【0008】
本発明の製剤における酸は、任意の無機又は鉱物酸、例えば塩酸、硫酸、硝酸、又はリン酸などでよい。上記酸では、塩酸及びリン酸が特に有益である。さらに、酸は、有機酸として当業者にとって既知の酸の群から選択されてもよく、これらはほとんどの場合、無機酸と比べて弱酸であると考えられている。この群の代表例であり、本発明で好ましいものは、アスコルビン酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、安息香酸及び酒石酸である。本発明では、クエン酸及びアスコルビン酸が、最も好ましい有機酸である。
本発明の製剤は、当技術分野で既知の方法と同様に調製することができる。
【0009】
必要に応じて、医薬的に許容される賦形剤を、本発明の噴霧溶液製剤に含ませることができる。例えば、可溶性界面活性剤を加えることにより、製剤の噴霧投薬に使用されるMDI装置に用いられるバルブ系の性能を向上させることができる。好ましい界面活性剤の例は、ソルビタントリオレート、レシチン、イソプロピルミリステート、エトキシル化グリセロールトリオレート及びアルキルポリグリコシドである。他の好適な潤滑剤は、当技術分野でよく知られている(例えば、公開された欧州特許出願第0,372,777号明細書(EPO 893122705)参照)。他の賦形剤は、(a)抗酸化剤、例えばアスコルビン酸及びトコフェロール、(b)味覚遮蔽剤、例えばメントール、甘味料、及び人工又は天然香味料、及び(c)圧力調整剤、例えばn-ペンタン、イソ-ペンタン、ネオ-ペンタン、及びn-ヘキサンである。
【0010】
本発明の製剤に適用可能な共溶媒の例は、アルコール、例えばエチルアルコール、イソプロピルアルコール、及びベンジルアルコール;グリコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリコールエーテル、及びオキシエチレンとオキシプロピレンとのブロックコポリマー;及び他の物質、例えばグリセロール、ポリオキシエチレンアルコール、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、及びグリコフロール(例えばグリコフロール75)である。
薬剤との相互作用に不活性な共溶媒の例は、炭化水素、例えばn-プロパン、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソ-ペンタン、ネオ-ペンタン、及びn-ヘキサン、及びエーテル、例えばジエチルエーテルである。
本発明の好ましい共溶媒は、エチルアルコール(エタノール)である。
【0011】
共溶媒の量は、好ましくは全組成の5〜50%(w/w)の範囲である。さらに好ましくは、本発明の製剤における共溶媒の量は、10〜40%(w/w)の範囲、好ましくは15〜30%(w/w)の範囲である。
【0012】
上記のように、本発明の製剤は、水を含んでいてもよい。本発明の一つの好ましい実施態様は、5%(w/w)以下、好ましくは3%(w/w)以下の量の水を含む製剤に関する。本発明の別の好ましい実施態様は、水を全く含まない製剤を指す。これら水のない製剤において、共溶媒の量は、好ましくは約20〜50%(w/w)の範囲、さらに好ましくは約30〜40%(w/w)の範囲である。
本発明の製剤は、当技術分野で既知の吸入器(計量式吸入器=MDIs)によって投薬することができる。
別の特徴では、本発明は、上記のような噴霧溶液製剤を、呼吸器疾患、特にCOPD(慢性閉塞性肺疾患)及び喘息の治療のための薬剤の製造に用いることを指す。
さらに別の特徴では、本発明は、呼吸器疾患、例えば特にCOPD(慢性閉塞性肺疾患)又は喘息の治療方法を指し、上記の噴霧溶液製剤の投薬によって特徴づけられる。
以下の例を用い、その範囲を例として下記に提供される実施態様に制限すること無く、本発明をさらに説明する。
【0013】
I 製剤例
A)






B)

C)

D)

E)

上記製剤は、当技術分野で既知である従来の方法によって調製することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1の塩
【化1】

(式中、X-は、アニオン、好ましくは塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、硝酸イオン、マレイン酸イオン、酢酸イオン、クエン酸イオン、フマル酸イオン、酒石酸イオン、シュウ酸イオン、コハク酸イオン、安息香酸イオン及びp-トルエンスルホン酸イオンからなる群から選択されるアニオンを意味する。)、HFC推進剤、共溶媒、及び無機又は有機酸を含み、前記酸の濃度が、水溶液中2.5〜5.5のpH範囲に対応する範囲であることを特徴とする、噴霧溶液製剤。
【請求項2】
1'
【化2】

の薬理学的に活性なカチオンを0.00008〜4%含む、請求項1記載の噴霧溶液製剤。
【請求項3】
HFC推進剤が、HFC-134(a)、HFC-227、HFC-32、HFC-143(a)、HFC-134、HFC-152a及びそれらの混合物から選択される、請求項1又は2記載の噴霧溶液製剤。
【請求項4】
酸が、無機酸である塩酸、硫酸、硝酸及びリン酸から選択される、請求項1、2又は3記載の噴霧溶液製剤。
【請求項5】
酸が、有機酸であるアスコルビン酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、安息香酸、及び酒石酸から選択される、請求項1、2又は3記載の噴霧溶液製剤。
【請求項6】
約5%以下の量の水を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の噴霧溶液製剤。
【請求項7】
共溶媒として、アルコール、グリコール、グリコールエーテル、オキシエチレンとオキシプロピレンとのブロックコポリマー、グリセロール、ポリオキシエチレンアルコール、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル又はグリコフロールを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の噴霧溶液製剤。
【請求項8】
共溶媒が、5〜50%(w/w)の範囲の量で存在する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の噴霧溶液製剤。
【請求項9】
水を全く含まない、請求項1〜5、7又は8のいずれか1項に記載の噴霧溶液製剤。
【請求項10】
呼吸器疾患の治療のための薬剤を製造するための、請求項1〜9のいずれか1項に記載の噴霧溶液製剤の、使用。

【公表番号】特表2009−513516(P2009−513516A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518119(P2006−518119)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007355
【国際公開番号】WO2005/004844
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(503385923)ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (976)
【Fターム(参考)】